説明

発光測定用容器

【課題】容器内面での反射によるシグナル増強、容器を構成する熱可塑性樹脂本体が出す自己発光によるバックグランドの低減、そして不定のノイズを排除するための遮光性の全てを同時に達成し得るように光反射性成分と光吸収性成分を配合した熱可塑性樹脂製の発光測定用容器を提供する。
【解決手段】0.5から10重量%の光反射性成分及び0.01から0.5重量%の光吸収性成分を配合し、灰色又は有彩色に着色成形した、熱可塑性樹脂製の発光測定用容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光測定に用いられる発光測定用容器に関するものである。更に詳しくは、本発明は、優れたシグナル増強効果と、自己発光等のノイズ低減効果と、更には優れた遮光効果を同時に達成し得る、化学発光測定用などの測定用容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日の臨床検査等の分野では、蛍光測定、化学発光測定、生物発光測定等の種々の発光測定を利用して、例えば特定の疾病に関連するマーカー物質の血中濃度を測定することで、当該疾病の早期発見・治療に利用している。かかる分野で使用される発光測定用容器は、量産の容易さ、安価性、形状・寸法等の融通性等から、一般に熱可塑性樹脂製であるが、その内外壁の色等は、目的や用途に応じて概ね無着色のもの、黒色のもの、そして白色のものが使い分けられている。
【0003】
まず、容器内面の反射によって発光を反射することでシグナルを増強した方が測定感度の向上等のために有利な場合には、光反射性成分である白色顔料を配合した(練り込んだ)熱可塑性樹脂製の白色容器が使用される。次に、容器を構成する熱可塑性樹脂本体が出す自己発光によるバックグランドを低減する必要がある場合、励起光を反射し又は吸収するため光反射性成分である白色顔料か、又は、光吸収性成分である黒色顔料を配合した(練り込んだ)、白色又は黒色の熱可塑性樹脂製容器が使用される。そして、外部からくる不定のノイズ(例えば外乱光、隣接する容器からこぼれる発光等)を排除すること(いわゆるクロストークの回避)によってS/N比を向上し、高感度化を図る場合には、外乱光の遮光性に富む、黒色の熱可塑性樹脂製容器が使用される。
【0004】
例えば特許文献1は、試料に励起光を照射する発光(蛍光)測定において、容器を構成する熱可塑性樹脂が励起光によって励起され蛍光を出すことでバックグランドが上昇するのを防止するために、白色又は黒色の顔料を配合することを開示している。また例えば特許文献2は、発光測定用容器において、バックグランドを低減するためにその内壁の一部を白色以外の色に着色することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平3−40818号公報
【特許文献2】特開2006−119011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発光測定の測定感度を高感度化するためには、前記した容器内面での反射によるシグナル増強や容器を構成する熱可塑性樹脂本体が出す自己発光によるバックグランドの低減に加えて、N(ノイズ)成分を低減して測定系のS/N比を向上することが重要であるが、N成分の中でも測定系の外部からくる不定のノイズを排除するうえで、発光測定用容器の遮光性を向上することが大切である。不定のノイズには、前記したものの他に、例えば、発光測定用容器がマイクロプレートであって、隣接するウェルからの発光が強大であるのに対して測定対象ウェルの発光が微細である場合に、側壁を通して当該強大な発光が対象ウェルに漏れ出るようなものも含まれる。
【0007】
しかしながら、特許文献1は黒色又は白色顔料を配合することしか開示しておらず、バックグランドの低減、容器内面での反射によるシグナル増強そして遮光性の全てを期待することはできない。黒色顔料を練り込んだ場合、容器内面での反射によるシグナル増強が課題として残り、逆に白色顔料を配合した場合、黒色顔料を配合した場合と比較すると十分な遮光性が得られないからである。特許文献2は、容器内壁を白色以外の色、好ましくは黒色に着色しているため、バックグランドの低減を期待することはできるものの、容器内面での反射によるシグナル増強が不十分になるという課題がある。
【0008】
光吸収性成分である黒色顔料と光反射性成分である白色顔料の両者を配合することにより、黒色顔料の配合によって達成されるバックグランドの低減と遮光性、そして白色顔料の配合によって達成されるバックグランドの低減と容器内面での反射によるシグナル増強の全てを同時に達成し得るのか、更には両者をどのような割合で配合すれば容器内面での反射によるシグナル増強、容器を構成する熱可塑性樹脂本体が出す自己発光によるバックグランドの低減、そして不定のノイズを排除するための遮光性を同時かつ効率的に達成できるかについては知られていない。
【0009】
そこで本発明の目的は、容器内面での反射によるシグナル増強、容器を構成する熱可塑性樹脂本体が出す自己発光によるバックグランドの低減、そして不定のノイズを排除するための遮光性の全てを同時に達成し得るように光反射性成分と光吸収性成分を配合した熱可塑性樹脂製の発光測定用容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためになされた本発明は、0.5から10重量%の光反射性成分及び0.01から0.5重量%の光吸収性成分を配合し、灰色又は有彩色に着色成形した、熱可塑性樹脂製の発光測定用容器である。また、発光測定用容器が複数の開口部を有している場合、光学特性からみた本発明の発光測定用容器は、
発光測定用容器が有する開口部の一つに発光溶液を入れたときに前記開口部から検出される前記発光溶液からの光量(A)[cps]、及び
前記容器が有する開口部の一つに前記発光溶液を入れたときに前記開口部に隣接した開口部から検出される前記発光溶液からの光量(B)[cps]から、式(1)
[{(A)−(B)}÷(A)]×100 式(1)
により計算される遮光率が99.99%以上であり、
前記光量(A)[cps]が、1.0重量%の黒色顔料を配合した容器が有する開口部に前記発光溶液を入れたときに前記開口部から検出される前記発光溶液からの光量[cps]よりも大きい、発光測定用容器である。以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明における発光は、化学発光や生物発光等の化学反応により基底状態にあった分子がエネルギーを吸収して高エネルギー状態の励起状態に遷移し、元の基底状態に戻る際に生じる可視光であって、蛍光発光又は燐光発光以外のものである。また発光は、測定対象物から直接的に放出される可視光に限定されず、例えば、反応場に共存する蛍光物質などにエネルギーを一旦受け渡すことで、その蛍光物質が励起状態となり、そこから基底状態に戻る際に放出される可視光であっても良い。ここで蛍光発光とは、紫外光や可視光を励起光として照射することで、励起光を吸収した発光体が電子励起されて中間励起状態におち、そこから基底状態に戻るときに発する励起光より長波長の発光をいい、燐光発光とは、電子励起三重項に遷移した電子が基底状態にもどるときに発する発光をいう。
【0012】
容器は、発光反応によって生じる発光を測定するための開口部を有する熱可塑性樹脂製のものであれば寸法は特に限定されないが、一般に容器の肉厚が薄いと遮光性が低下し、後述する光吸収性成分を配合しても十分な遮光性が得られなくなる可能性があるため、1mm程度(0.5mmから1.5mm)の肉厚を確保したものであることが好ましい。容器の形状としては、例えばチューブ、カップ、キュベット等の、個別独立した凹状のもの(開口部を一つ有したもの)、マイクロプレートのように、凹状のものが複数個連結されたもの(開口部を複数有したもの)が例示できる。容器を構成する熱可塑性樹脂は、後述する光反射性成分や光吸収性成分である顔料又は染料が配合できるものであれば特に制限はなく、例えば、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ビニル系樹脂、カーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂又はポリアミド系樹脂等を例示することができるがこれらに限定されない。例示した熱可塑性樹脂の中でも、既に発光測定用容器を構成するものとしての実績に富むオレフィン系ホモポリマーやコポリマーは特に好ましい熱可塑性樹脂である。より具体的には、例えば、低密度、中密度又は高密度のポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ4−メチルペンテン−1、プロピレン−エチレン共重合体、アイオノマー、エチレン−アクリル共重合体又はエチレン−酢酸ビニル共重合体等を例示することができる。
【0013】
容器を構成する熱可塑性樹脂に配合する光反射性成分は、容器内面での反射によるシグナル増強と当該反射による熱可塑性樹脂本体の励起を防止することによる自己発光に由来するバックグランドの低減のためのものである。従って、全波長にわたって光を反射する白色系の顔料又は染料や、測定しようとする発光の特定の波長を反射する色の顔料又は染料が光反射性成分として例示できる。中でも顔料は、特に好ましい光反射性成分である。より具体的には、白色顔料である二酸化チタン、亜鉛華、鉛白、炭酸カルシウム、タルク、マイカ等を例示することができる。中でも二酸化チタンは、熱可塑性樹脂を容器形状に成形する際の分散性や隠蔽性が良好で、安全性も高く、特に好ましい顔料である。なお二酸化チタンの中でも、通常、光触媒作用の小さい結晶型を選択するか、光触媒作用を抑制するために水酸化アルミニウムやアルミナ等で被覆処理されたものが特に好ましい。測定しようとする発光の特定の波長を反射する色の顔料としては、例えば、当該特定の波長が450nm付近であれば、ウルトラマリン青、プロシア青、フタロシアニン青又はアントラキノン等の青色の顔料を、当該特定の波長が550nm付近であれば、フタロシアニン緑、ぺリレン又はニトロソ化合物等の緑色の顔料を、当該特定の波長が650nm付近であれば、ニッケルチタン黄、ストロンチウム黄、黄鉛、クロム黄、亜鉛黄、ベンジジン黄、キノフタロン、イソインドリノン又はイミダゾロン等の黄色の顔料を例示することができる。以上に説明した光反射性成分は、一種類のものを単独で配合しても良いし、二種以上のものを組み合わせて配合しても良い。二種以上のものを組み合わせる場合には、同一色の顔料を二種以上組み合わせること以外に、異なる色の顔料を二種以上組み合わせることも含む。
【0014】
容器を構成する熱可塑性樹脂に配合する光吸収性成分は、容器を構成する熱可塑性樹脂本体が出す自己発光によるバックグランドの低減、そして不定のノイズを排除するための遮光性のためのものである。従って、全波長にわたって光を吸収する黒色の顔料又は染料が例示できる。中でも顔料は、特に好ましい光吸収性成分である。より具体的には、黒色料である、カーボンブラック、チタンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、アニリンブラック、酸化鉄(Fe)又は還元鉄等を例示することができる。これらは単独で配合することもできるし、二種以上を組み合わせて配合することができる。
【0015】
光反射性成分は、容器内面での反射によるシグナル増強と当該反射による熱可塑性樹脂
本体の励起を防止することによる自己発光に由来するバックグランドの低減のため、熱可
塑性樹脂製の容器に対し、0.5から10重量%、好ましくは1から6重量%配合する。一方、光吸収性成分は、容器を構成する熱可塑性樹脂本体が出す自己発光によるバックグランドの低減、そして不定のノイズを排除するための遮光性のため、熱可塑性樹脂製の容器に対し、0.01から0.5重量%、好ましくは0.02から0.1重量%配合する。光反射性成分及び光吸収性成分として、先に例示したもののうち、白色顔料及び黒色顔料を採用した場合には、灰色を呈する本発明の発光測定用容器が提供されるが、その明度は、配合する白色及び黒色顔料の比率等により変化する。これに対し、光反射性成分として白色以外の顔料又は白色と白色以外の顔料を採用した場合には、例えば青色容器(450nm付近の光を反射する)、緑色容器(550nm付近の光を反射する)、黄色容器(650nm付近の光を反射する)等、有彩色に着色された発光測定用容器が提供される。熱可塑性樹脂への光反射性成分及び光吸収性成分の配合量は、例えば、白色顔料を配合した白色のものをベースとして、これに黒色顔料を種々の割合で配合し、実際に容器の使用を意図している測定系で評価することにより決定することができる。本発明者の知見では、遮光性は少量の光吸収性成分を配合することによって達成可能である。そこで、まず、白色、青色、緑色又は黄色等の顔料により十分な容器内面での反射によるシグナル増強効果を達成できる配合量を検討した後、少量の黒色顔料を配合し、熱可塑性樹脂の自己発光によるバックグランドの低減と遮光性について検討し、黒色顔料の配合を調整することが例示できる。
【0016】
本発明の容器が図1の容器やマイクロプレートのように、凹状のものが複数個連結された(開口部を複数有した)容器の場合、光学特性から見た本発明の容器は、
容器が有する開口部の一つに発光溶液を入れたときに前記開口部から検出される前記発光溶液からの光量(A)[cps]、及び
前記容器が有する開口部の一つに前記発光溶液を入れたときに前記開口部に隣接した開口部から検出される前記発光溶液からの光量(B)[cps]から、式(1)
[{(A)−(B)}÷(A)]×100 式(1)
により計算される遮光率が99.99%以上であり、
前記光量(A)[cps]が、1.0重量%の黒色顔料を配合した容器が有する開口部に前記発光溶液を入れたときに前記開口部から検出される前記発光溶液からの光量[cps]よりも大きい、容器である。遮光率の測定方法の具体的態様としては、
一つの開口部に発光溶液を入れ他の開口部を遮光性材料で覆った後、前記発光溶液を入れた開口部から検出される発光溶液からの光量(A)[cps]を測定し、
一つの開口部に前記発光溶液を入れ遮光性材料で前記開口部を覆った後、前記開口部に隣接した開口部(マイクロプレートのように隣接した開口部が複数ある場合は隣接する開口部のうちの一つ)から検出される発光溶液からの光量(B)[cps]を測定後、
前記式(1)により遮光率を計算する方法があげられる。遮光率を測定する際に用いる開口部を覆う遮光性材料としては、アルミ箔など当業者が通常用いる材料を用いれば良い。
【0017】
本発明の容器は、発光測定用のものである。しかし、容器を構成する熱可塑性樹脂は従来から免疫反応や生化学反応といった各種反応のための反応容器としても用いられている。このことは、本発明の容器を単に発光測定の段階に限らず、その前段階である各種反応を生じさせる容器として使用することが可能であることを意味するものである。例えば、血液や血清中の微量成分を、生物学的特異反応を利用して複合体として固相に捕捉し、固相に捕捉された成分(Bound)と捕捉されなかった成分(Free)を分けるB/F分離を行ったのち、複合体中の標識成分を発光反応に導いて発光測定する一連の操作において、当該生物学的特異反応を生じさせるための容器としても、本発明の容器は使用可能である。更に、当該生物学的特異反応のための試薬を予めアルミシール等で封入しておけば、本発明の容器は、生物学的特異反応試薬の保存容器として、そして、測定のための試料を添加するだけで当該生物学的特異反応をスタートさせ、結果として生じる発光を測定するという試薬キットの一部とすることができる。ここで、生物学的特異反応とは、抗原抗体反応、ビオチン−ストレプトアビジン反応、ビオチン−アビジン反応、核酸−核酸相互反応、リガンド−リセプター反応等である。
【0018】
生物学的特異反応として抗原抗体反応を用いる2ステップサンドイッチ反応の試薬を例に具体的に説明すると、本発明の発光測定用容器に、一回の反応を生じさせるのに必要な量の、抗体を固定化した担体を含む溶液を分注して凍結乾燥したものが該当する。この容器とは別の容器に一回の測定を実施するのに必要な量の、アルカリ性ホスファターゼ等の酵素で標識した抗体又はアクリジニウム等の発光物質で標識した抗体の溶液を分注して凍結乾燥しておく。血液や血清等の検体を、担体を含む容器に分注し、凍結乾燥成分の溶解と第一の抗原抗体反応を行い、第一のB/F分離を行う。別の容器にも溶解液を分注して標識抗体を溶解し、溶解した標識抗体をB/F分離を完了した容器に分注して第二の抗原抗体反応を行う。第二の抗原抗体反応終了後に第二のB/F分離を行い、続いて必要により酵素基質を分注し、発光量を測定して抗原抗体反応の対象物の濃度に換算する。この例では、本発明の発光測定用容器は、免疫反応試薬の保存のための容器、抗原抗体反応用容器、発光測定用容器として共通に使用することになる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の発光測定用容器は、光吸収性成分である黒色顔料と光反射性成分である白色顔料等の両者を一定の配合率で配合することにより、黒色顔料の配合によって達成されるバックグランドの低減と遮光性、そして白色顔料の配合によって達成されるバックグランドの低減と容器内面での反射によるシグナル増強の全てを同時かつ効果的に達成するものである。本発明の発光測定用容器は、その高い遮光性により、
(ア)発光検出器内にコンタミ成分由来の発光があっても、これを取り込まないようにすることができる、
(イ)測定対象物質が超低濃度から高濃度まで含まれる種々の未知試料である場合でも、これをマイクロプレート形状とした本発明の発光測定用容器等を用いて測定すれば、ウェル間のクロストークを回避したうえで測定できる、
(ウ)発光測定用容器を多連式のチューブ形状とし、一の容器中に保持された発光物質と反応する試薬を隣接する他のチューブに分注して測定を行う場合でも、発光物質分注時の飛沫混入により発生するノイズ光の漏れを回避できる、
(エ)低いバックグランドを実現する既存の黒色の容器に比べて、容器内面での反射によるシグナル増強を期待できる、
という効果を有するものである。特に上記(ア)から(ウ)は、発光測定において低濃度の測定対象物を高感度に測定する場合に、測定値の信頼性を高めるのに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、発光測定用容器に関する遮光率を説明するための図である。図中1は蛍光検出器を、2は発光測定用容器を、3は酵素反応液を、4はアルミ箔シールをそれぞれ示す。
【図2】図2は、表1における黒色容器を用いて測定したTSHのレスポンスカーブを示した図である。
【図3】図3は、表1における#2容器を用いて測定したTSHのレスポンスカーブを示した図である。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、これら実施例は本発明を限定するものではない。
【0022】
実施例1
光反射性成分として白色顔料(二酸化チタン)、光吸収性成分として黒色顔料(カーボンブラック)を選択し、表1のようにポリプロピレンに対する配合率を#1から#4の4つのパターンで変化させて、それぞれ容量が同一である2槽タイプの発光測定用容器(図1参照)を作製した。対照として無着色、黒色、白色容器も作製した。
【0023】
図1の(a)に示すように空容器の一方の開口部をアルミ箔4でシールした後、もう一方の槽に10ng/mLのアルカリ性ホスファターゼ(ALP)10μLと0.4mMのALP用化学発光基質溶液(特開2005−77142号参照)100μLとからなる酵素反応液3を分注して発光検出器1にセットし、37℃、5分間反応後の発光量(A)を、反応溶液の入った槽の開口部上方から検出した。
【0024】
次に図1の(b)に示すように新たな空容器を用意し、一方の槽に酵素反応液3を分注して開口部をアルミ箔4でシールした後、37℃、5分間反応させた。反応後、空の槽の開口部の上方に受光面が位置するように発光検出器1に容器をセットし、酵素反応液3が入った槽から最短箇所で約1mmの隔壁を透過して空の槽へ漏れ出た光量(B)を測定した。遮光率は以下のように計算し表1にまとめた。
【0025】
遮光率[%]=
{(サンプル側の光量(A)[cps]−空の槽に漏れ出た光量(B)[cps])
÷サンプル側の光量(A)[cps]}×100
光反射性成分に遮蔽性の良好な二酸化チタンを用い、顔料の練り込み率を成形濃度限界近くの6%に上げた白色容器を用いても、漏れ光量は944,105cpsと高く、遮光率は93.6774%しか得られない。これに対して、黒色、#1、#2、#3(光吸収性成分であるカーボンブラックの配合率は、それぞれ、1.00、0.09、0.048、0.024%)では、いずれも空槽への漏れ光量が30から41cpsと、検出器1のダークカウントと同レベルと低く、遮光率はいずれも99.997%以上の良好な値を示した。光吸収性成分であるカーボンブラックの配合率を0.012%まで落とした#4は1,611cpsの漏れ光量を示し、遮光率は99.9662%となった。
【0026】
以上の結果から、黒色容器と同レベルの遮光率(すなわち99.99%以上)を確保するためには、白色顔料にごく少量のカーボンブラックを練り込めば良く、その配合率は0.024%以上であることが分かる。その一方で、ALPの酵素反応による発光量の増強効果においては、#1、#2、#3はいずれも黒色容器に比べて高いシグナルが得られ、その中でも必要最低量のカーボンブラックを配合した#3が最も高値であった。#4、白色1及び白色2(特に白色容器)は高いシグナル増強効果が得られたが、遮光性が悪く、発光が漏れ、容器外からのノイズ光の漏れ込みによって測定値が偽高値化するという虞のあることが分かる。
【0027】
【表1】

実施例2
実施例1において観察された容器外からのノイズ光の漏れ込みが、実際の発光測定においてどの程度の偽高値に相当するのかを評価するために、無着色、黒色、#2、#4、白色2のそれぞれの容器を用いて実際に甲状腺刺激ホルモン(TSH)の発光測定を行った。
【0028】
1.抗TSH抗体固定化粒子の調製
1.5mLのチューブにカルボキシル化微粒子(粒子表面にカルボキシ基を有する、直径約2.5μmの微粒子)を10mg取り、1mLの10mM MES緩衝液(pH6.0)で洗浄後、10%N−エチル−N’−(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)を含む10mM MES緩衝液(pH6.0)を1mL添加して室温で振盪攪拌した。上清を除去後、1mLの10mM MES緩衝液(pH6.0)にて洗浄し、超音波処理後、1mg/mLの抗体溶液を100μL添加し、室温にて振盪攪拌した。0.1%アジ化ナトリウムを含む1mLの0.1M Tris塩酸緩衝液(pH8.0)にて洗浄後、0.1%BSA及び0.1%アジ化ナトリウムを含む0.1M Tris塩酸緩衝液(pH8.0)にてブロッキングし、同緩衝液中に保存した。
【0029】
2.TSHの測定
0.4%抗TSH抗体固定化粒子10μLと、TSH試料10μLと、界面活性剤入り精製水40μLとを発光測定用容器に取り、攪拌後、37℃にて5分間、2ステップサンドイッチ法の第1反応を行った。反応液を吸引除去した後、10mMのTris塩酸緩衝液(150mM NaCl、0.05%Tween−20、1mM MgCl、0.1%アジ化ナトリウムを含む)(pH8.0)を用いて第1洗浄を行った。2.8μg/mLのALP標識抗TSH抗体を50μL添加し、攪拌後、37℃で第2反応を行った。第2洗浄後、0.4mMのALP用化学発光基質溶液を100μL添加して攪拌し、37℃で5分間反応させ、エンドポイント測光した。
【0030】
TSH濃度とカウント値の比較を表2に示す。黒色容器及び#2容器を用いたTSHのレスポンスカーブを図2および図3にそれぞれ示す。本実施例では、試料に測定下限界濃度付近の低濃度TSH試料を用いた。実施例1の結果における漏れ光量において、遮光率99.99%未満の容器である#4の1,611cpsはTSH濃度で約0.004μIU/mL以上のプラス誤差(0.0021μIU/mL×1,611/(1,323−523)=0.0042μIU/mL)、同じく遮光率99.99%未満の容器である白色容器2の944,105cpsは1.37μIU/mL以上のプラス誤差(0.0021μIU/mL×944,105/(2,284−839)=1.372μIU/mL)となることが分かる。当然のことながら、容器の外で光るノイズ光には上限がなく、光量が多ければ測定値のプラス誤差となる程度も高くなる。このように制御できないノイズ光が突発的に漏れ込み測定値が変動すると、特に低濃度域の測定の信頼性が低下し、大きな問題となる。
【0031】
また、TSHの検出下限界濃度(MDC)を、2SD法、すなわちゼロ濃度試料を複数回測定して計算した標準偏差(SD)および検量線の傾きから算出する方法により実施例1で作製した黒色容器および#2の容器を用いて求めた結果、#2の容器を用いたレスポンスカーブの傾きの方が約2倍大きくなり、MDCにおいては黒色容器を用いた場合が0.00017μIU/mL、#2の容器を用いた場合が0.000089μIU/mLとなる。この結果から、#2の容器の方が約2倍高感度に測定できることが分かる。
【0032】
【表2】

【符号の説明】
【0033】
1 発光検出器
2 発光測定用容器
3 酵素反応液
4 アルミ箔(のシール)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.5から10重量%の光反射性成分及び0.01から0.5重量%の光吸収性成分を配合し、灰色又は有彩色に着色成形した、熱可塑性樹脂製の発光測定用容器。
【請求項2】
前記光反射性成分が白色顔料である、請求項1の発光測定用容器。
【請求項3】
前記白色顔料が二酸化チタンである、請求項2の発光測定用容器。
【請求項4】
前記光吸収性成分が黒色顔料である、請求項1の発光測定用容器。
【請求項5】
前記黒色顔料がカーボンブラックである、請求項4の発光測定用容器。
【請求項6】
1から6重量%の二酸化チタン及び0.02から0.1重量%のカーボンブラックを配合した、熱可塑性樹脂製の発光測定用容器。
【請求項7】
開口部を複数有した、請求項1から6のいずれかの発光測定用容器。
【請求項8】
開口部を複数有した発光測定用容器であって、
発光測定用容器が有する開口部の一つに発光溶液を入れたときに前記開口部から検出される前記発光溶液からの光量(A)[cps]、及び
前記容器が有する開口部の一つに前記発光溶液を入れたときに前記開口部に隣接した開口部から検出される前記発光溶液からの光量(B)[cps]から、式(1)
[{(A)−(B)}÷(A)]×100 式(1)
により計算される遮光率が99.99%以上であり、
前記光量(A)[cps]が、1.0重量%の黒色顔料を配合した容器が有する開口部に前記発光溶液を入れたときに前記開口部から検出される前記発光溶液からの光量[cps]よりも大きい、発光測定用容器。
【請求項9】
請求項7または8の発光測定用容器が有する開口部の一つに発光溶液を入れ、前記発光溶液からの発光を前記開口部上方から検出する、発光測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−169672(P2010−169672A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288189(P2009−288189)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】