説明

発光素子、発光素子の製造方法、発光装置および電子機器

【課題】陽極側からの発光層の発光を取り出し可能であり、かつ、発光効率等の特性に優れる発光素子、かかる発光素子を製造することができる発光素子の製造方法、この発光素子を備えた信頼性の高い発光装置および電子機器を提供すること。
【解決手段】発光素子1は、陽極8と、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの少なくとも1種の金属を含む陰極3と、陽極8と陰極3との間に設けられた有機半導体層7とを有し、陰極3と陽極8との間に通電することにより、有機半導体層7が発光し、この発光を陽極8側から取り出すように構成した発光素子1であり、陰極3と有機半導体層7との間に設けられた、ガスバリア性を有する保護層4を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子、発光素子の製造方法、発光装置および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機半導体材料を使用したエレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)は、固体発光型の安価な大面積フルカラー表示装置が備える発光素子としての用途が有望視され、多くの開発が行われている(例えば、特許文献1参照)。
一般に、有機EL素子は、陰極と陽極との間に発光層(有機半導体層)を有する構成であり、陰極と陽極との間に電界を印加すると、発光層に陰極側から電子が注入され、陽極側から正孔が注入される。
【0003】
そして、注入された電子と正孔とが発光層において再結合し、エネルギー準位が伝導帯から価電子帯に戻る際の失活エネルギーの少なくとも一部を光エネルギーとして放出することにより、発光層が発光する。
例えば、特許文献2には、基板上に陽極、発光層および透明な陰極をこの順で設け、基板と反対側(陰極側)から、発光層の発光を取り出すトップエミッション構造の有機EL素子が提案されている。
【0004】
通常、かかる構成の有機EL素子では、陰極から発光層への電子の注入効率を向上させることを目的に、陰極と発光層との間に、リチウムのようなアルカリ金属やカルシウムのようなアルカリ土類金属を主材料として構成される中間層が設けられることが多い。
ところが、中間層は透明性が低いため、この中間層の存在により、陰極側からの光の取り出し効率が低下するという問題がある。
かかる問題を解決し得るものとして、例えば、基板上に陰極、発光層および透明な陽極をこの順で設け、陰極自体を上述したようなアルカリ金属またはアルカリ土類金属を主材料として構成する構成の有機EL素子が考えられる。
【0005】
かかる構成の有機EL素子を製造する場合、発光層を形成するのに先立って、陰極を設けておく必要があるが、アルカリ金属またはアルカリ土類金属は極めて反応性が高いため、これらの金属(陰極)は、発光層を形成する際に、その雰囲気中に存在する水分や酸素のような酸素含有物質と接触することにより容易に変質・劣化する。そして、アルカリ金属またはアルカリ土類金属に変質・劣化が生じると、すなわち陰極に変質・劣化が生じると、陰極から発光層への電子の注入が円滑に行われず、有機EL素子の発光効率等の特性が十分に得られないという問題がある。
【0006】
【特許文献1】特開平10−153967号公報
【特許文献2】特開平8−185984号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、陽極側からの有機半導体層の発光を取り出し可能であり、かつ、発光効率等の特性に優れる発光素子、かかる発光素子を製造することができる発光素子の製造方法、この発光素子を備えた信頼性の高い発光装置および電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の発光素子は、陽極と、
アルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの少なくとも1種の金属を含む陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に設けられた有機半導体層と、
前記陰極と前記有機半導体層との間に設けられたガスバリア性を有する保護層と、を備えることを特徴とする。
これにより、陽極側から有機半導体層の発光を取り出し可能であり、かつ、発光効率等の特性に優れる発光素子となる。
【0009】
本発明の発光素子では、前記保護層は、前記陰極に接触していることが好ましい。
本発明の発光素子では、前記保護層は、その水蒸気透過度(JIS K 7129に規定)が0.01g/m・day・40℃・90%RH以下であることが好ましい。
これにより、有機半導体層を形成する際に、雰囲気中に含まれる水蒸気が陰極に接触するのを防止または抑制することができる。ところで、陰極に含まれるアルカリ金属およびアルカリ土類金属は、極めて反応性が高いものであるが、保護層の存在により水蒸気に接触することが防止または抑制されるため、その変質・劣化がないか、極めて少ない。これにより、陰極は、発光素子の完成後においても、発光層に対する高い電子注入効率を維持する。
【0010】
本発明の発光素子では、前記保護層は、その酸素透過度(JIS K 7126に規定)が0.05ml/m・day・MPa・20℃・100%RH以下であることが好ましい。
これにより、有機半導体層を形成する際に、雰囲気中に含まれる酸素が陰極に接触するのを防止または抑制することができる。ところで、陰極に含まれるアルカリ金属およびアルカリ土類金属は、極めて反応性が高いものであるが、保護層の存在により酸素に接触することが防止または抑制されるため、その変質・劣化がないか、極めて少ない。これにより、陰極は、発光素子の完成後においても、発光層に対する高い電子注入効率を維持する。
【0011】
本発明の発光素子では、前記保護層は、絶縁性を有する材料を主材料として構成されていることが好ましい。
絶縁性を有する材料を主材料として構成される膜は、一般的に、優れたガスバリア性を発揮することから、保護層の構成材料として好適に用いることができる。
本発明の発光素子では、前記絶縁性を有する材料は、無機窒化物であることが好ましい。
かかる材料を主材料として構成される保護層を、ガスバリア性を有し、かつ、陰極から発光層への電子の注入を阻害しないものとすることができる。
【0012】
本発明の発光素子では、前記絶縁性を有する材料は、プラズマ重合で得られた炭素系物質であることが好ましい。
かかる材料を主材料として構成される保護層を、ガスバリア性を有し、かつ、陰極から発光層への電子の注入を阻害しないものとすることができる。
本発明の発光素子では、前記絶縁性を有する材料は、ポリパラキシリレンであることが好ましい。
かかる材料を主材料として構成される保護層を、ガスバリア性を有し、かつ、陰極から発光層への電子の注入を阻害しないものとすることができる。
【0013】
本発明の発光素子では、前記保護層は、その平均厚さが1〜20nmであることが好ましい。
これにより、保護層を、ガスバリア性を有し、かつ、陰極から発光層への電子の注入を阻害しないものとすることができる。
本発明の発光素子では、前記有機半導体層は、発光層を含む複数層の積層体で構成されていることが好ましい。
本発明の発光素子の製造方法では、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの少なくとも1種の金属を含む陰極を覆うように、非酸化性雰囲気中で、ガスバリア性を有する保護層を形成する第1の工程と、
該保護層の前記陰極と反対側に、前記有機半導体層を形成する第2の工程と、
該有機半導体層の前記陰極と反対側に、陽極を形成する第3の工程とを有し、
前記第2の工程において、前記有機半導体層を形成する際に、前記保護層の存在により、雰囲気中に含まれる酸素含有物質の前記陰極への接触を防止または抑制することを特徴とする。
これにより、陽極側から有機半導体層の発光を取り出し可能であり、かつ、発光効率等の特性に優れる発光素子を製造することができる。
【0014】
本発明の発光素子の製造方法では、前記第2の工程において、前記有機半導体層の少なくとも前記保護層に接触する部分を液相プロセスにより形成することが好ましい。
これにより、液相プロセスに用いられる液状材料中に含まれる溶媒または分散媒が陰極に接触するのを好適に防止または抑制することができる。その結果、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの少なくとも1種の金属の酸素含有物質と接触することによる変質・劣化を好適に防止または抑制することができる。
本発明の発光装置は、本発明の発光素子を備えることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い発光装置が得られる。
本発明の電子機器は、本発明の発光装置を備えることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い電子機器が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の発光素子、発光素子の製造方法、発光装置および電子機器を添付図面に示す好適な実施形態について説明する。
なお、以下では、本発明の発光装置を、アクティブマトリックス型表示装置に適用した場合を一例に説明する。
<アクティブマトリックス型表示装置>
図1は、本発明の発光装置を適用したアクティブマトリックス型表示装置の一例を示す縦断面図、図2は、図1に示すアクティブマトリックス型表示装置の製造方法を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図1〜図2中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0016】
図1に示すアクティブマトリックス型表示装置(以下、単に「表示装置」と言う。)10は、TFT回路基板(対向基板)20と、この基体20上に設けられた有機EL素子(本発明の発光素子)1と、TFT回路基板20に対向する上基板9とを有している。
TFT回路基板20は、基板21と、この基板21上に形成された回路部22とを有している。
【0017】
基板21は、表示装置10を構成する各部の支持体となるものであり、上基板9は、例えば、有機EL素子1を保護する保護膜等として機能するものである。
また、本実施形態の表示装置10は、上基板9(後述する陽極8)側から光を取り出す構成(トップエミッション型)であるため、上基板9は、実質的に透明(無色透明、着色透明、半透明)とされ、一方、基板21は、特に、透明性は要求されない。
このような基板21には、各種ガラス材料基板および各種樹脂基板のうち比較的硬度の高いものが好適に用いられる。
【0018】
一方、上基板9には、各種ガラス材料基板および各種樹脂基板のうち透明なものが選択され、例えば、石英ガラス、ソーダガラスのようなガラス材料や、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレートのような樹脂材料等を主材料として構成される基板を用いることができる。
【0019】
基板21の平均厚さは、特に限定されないが、1〜30mm程度であるのが好ましく、5〜20mm程度であるのがより好ましい。一方、上基板9の平均厚さも、特に限定されないが、0.1〜30mm程度であるのが好ましく、0.1〜10mm程度であるのがより好ましい。
回路部22は、基板21上に形成された下地保護層23と、下地保護層23上に形成された駆動用TFT(スイッチング素子)24と、第1層間絶縁層25と、第2層間絶縁層26とを有している。
【0020】
駆動用TFT24は、半導体層241と、半導体層241上に形成されたゲート絶縁層242と、ゲート絶縁層242上に形成されたゲート電極243と、ソース電極244と、ドレイン電極245とを有している。
このような回路部22上に、各駆動用TFT24に対応して、それぞれ、有機EL素子1が設けられている。また、隣接する有機EL素子1同士は、第1隔壁部31および第2隔壁部32により構成される隔壁部(バンク)35により区画されている。
【0021】
本実施形態では、各有機EL素子1の陰極3は、画素電極を構成し、各駆動用TFT24のドレイン電極245に配線27により電気的に接続されている。また、保護層4と、発光層5および正孔輸送層6を備える有機半導体層7とは、各有機EL素子1に対して個別に形成されており、陽極8は、共通電極とされている。
表示装置10は、単色表示であってもよく、各有機EL素子1に用いる発光材料を選択することにより、カラー表示も可能である。
【0022】
以下、この有機EL素子(本発明の発光素子)1について詳述する。
図1に示すように、有機EL素子1は、陰極3と、陽極8と、陰極3と陽極8との間に、陰極3側から順に、ガスバリア性を有する保護層4と、有機半導体層7とを有している。なお、本実施形態では、有機半導体層7は、陰極3側から発光層5と正孔輸送層6とがこの順で積層された積層体となっている。
【0023】
陰極3は、保護層4を介して、発光層5に電子を注入する電極である。
本発明の発光素子(有機EL素子1)では、この陰極3がLi、Na、K、Rb、CsおよびFrからなるアルカリ金属、および、Be、Mg、Ca、Sr、BaおよびRaからなるアルカリ土類金属のうちの少なくとも1種の金属を含む構成となっている。
これらの金属は、仕事関数の小さい材料であることから、陰極3をかかる金属を含む構成とすることにより、保護層4を介した陰極3から発光層5への電子の注入を円滑に行うことができる。
【0024】
また、陰極3の構成材料として、上述したような金属を含む合金を用いる場合には、Ag、Al、Cu等の安定な金属を含む合金、具体的には、MgAg、AlLi、CuLi等の合金を用いるようにすればよい。かかる合金を陰極3の構成材料として用いることにより、電子の発光層5への注入効率および陰極3の安定性の向上を図ることができる。
陰極3の平均厚さは、特に限定されないが、10〜500nm程度であるのが好ましく、50〜200nm程度であるのがより好ましい。陰極3の厚さが薄すぎると、陰極3の機能が充分に発揮されなくなるおそれがあり、一方、陰極3が厚過ぎると、有機EL素子1の発光効率等の特性が低下するおそれがある。
【0025】
一方、陽極8は、正孔輸送層6に正孔を注入する電極である。
この陽極8の構成材料(陽極材料)としては、表示装置10が陽極8側から光を取り出すトップエミッション構造であるため透光性を有する導電性材料が選択され、特に、仕事関数が大きく、優れた導電性を有するものが好適に用いられる。
このような陽極8の構成材料としては、インジウムティンオキサイド(ITO)、フッ素含有インジウムティンオキサイド(FITO)、アンチモンティンオキサイド(ATO)、インジウムジンクオキサイド(IZO)、アルミニウムジンクオキサイド(AZO)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、フッ素含有酸化スズ(FTO)、フッ素含有インジウムオキサイド(FIO)、インジウムオキサイド(IO)、等の透明導電性材料が挙げられ、これらのうちの少なくとも1種を用いることができる。
【0026】
陽極8の平均厚さは、特に限定されないが、10〜2000nm程度であるのが好ましく、100〜1000nm程度であるのがより好ましい。陽極8の厚さが薄すぎると、陽極8としての機能が充分に発揮されなくなるおそれがあり、一方、陽極8が厚過ぎると、陽極材料の種類等によっては、光の透過率が低下して、トップエミッション型の構造を有する有機EL素子1として、実用に適さなくなるおそれがある。
【0027】
このような陽極8は、その光(可視光領域)の透過率が好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上となっている。これにより、光を効率よく陽極8側から取り出すことができる。
陰極3と陽極8との間には、前述したように、保護層4と、発光層5および正孔輸送層6を備える有機半導体層7とが設けられている。
【0028】
保護層4は、陰極3と有機半導体層7(発光層5)との双方に接触するように設けられ、発光層5側から陰極3側への水分(水蒸気)や酸素のような酸素含有物質の移動を防止または抑制するガスバリア性を有するものであり、陰極3から発光層5への電子の注入を阻害しないようにその厚さが設定されている。この保護層4の構成については、有機EL素子1の製造方法において詳述する。
【0029】
また、正孔輸送層6は、陽極8から注入された正孔を発光層5まで輸送する機能を有するものである。
この正孔輸送層6の構成材料(正孔輸送材料)としては、例えば、ポリアリールアミン、フルオレン−アリールアミン共重合体、フルオレン−ビチオフェン共重合体、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリチオフェン、ポリアルキルチオフェン、ポリヘキシルチオフェン、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリチニレンビニレン、ピレンホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾールホルムアルデヒド樹脂またはその誘導体等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
また、前記化合物は、他の化合物との混合物として用いることもできる。一例として、ポリチオフェンを含有する混合物としては、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン/スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)等が挙げられる。
なお、正孔輸送材料としては、上述したような高分子材料や低分子材料のような有機系材料の他、例えば、MoO、V、TiO、Cu(II)O、Cu(I)O、NiO、CoOのような金属酸化物を用いることもできる。
【0031】
このような正孔輸送層6の平均厚さは、特に限定されないが、5〜150nm程度であるのが好ましく、50〜100nm程度であるのがより好ましい。
なお、陽極8と正孔輸送層6との間には、例えば、陽極8からの正孔注入効率を向上させる正孔注入層を設けるようにしてもよい。
この正孔注入層の構成材料(正孔注入材料)としては、例えば、銅フタロシアニンや、4,4’,4’’−トリス(N,N−フェニル−3−メチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)等が挙げられる。
【0032】
ここで、陰極3と陽極8との間に通電(電圧を印加)すると、正孔輸送層6中を移動した正孔が発光層5に注入され、また、陰極3から保護層4を介して電子が発光層5に注入され、この発光層5において正孔と電子とが再結合する。そして、発光層5ではエキシトン(励起子)が生成し、このエキシトンが基底状態に戻る際にエネルギー(蛍光やりん光)を放出(発光)する。
【0033】
発光層5の構成材料(発光材料)としては、例えば、1,3,5−トリス[(3−フェニル−6−トリ−フルオロメチル)キノキサリン−2−イル]ベンゼン(TPQ1)、1,3,5−トリス[{3−(4−t−ブチルフェニル)−6−トリスフルオロメチル}キノキサリン−2−イル]ベンゼン(TPQ2)のようなベンゼン系化合物、フタロシアニン、銅フタロシアニン(CuPc)、鉄フタロシアニンのような金属または無金属のフタロシアニン系化合物、トリス(8−ヒドロキシキノリノレート)アルミニウム(Alq)、ファクトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy))のような低分子系のものや、オキサジアゾール系高分子、トリアゾール系高分子、カルバゾール系高分子、フルオレン系高分子のような高分子系のものが挙げられ、これらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。各種の高分子材料や、各種の低分子材料を単独または組み合わせて用いることができる。
【0034】
発光層5の平均厚さは、特に限定されないが、10〜150nm程度であるのが好ましく、50〜100nm程度であるのがより好ましい。
なお、陰極3と発光層5との間には、例えば、陰極3から注入された電子を発光層5まで輸送する機能を有する電子輸送層を設けるようにしてもよい。さらには、この電子輸送層と陰極3との間に、陰極3から電子輸送層への電子の注入効率を向上させる電子注入層を設けるようにしてもよい。
【0035】
電子輸送層の構成材料(電子輸送材料)としては、例えば、1,3,5−トリス[(3−フェニル−6−トリ−フルオロメチル)キノキサリン−2−イル]ベンゼン(TPQ1)、1,3,5−トリス[{3−(4−t−ブチルフェニル)−6−トリスフルオロメチル}キノキサリン−2−イル]ベンゼン(TPQ2)のようなベンゼン系化合物、ナフタレン系化合物、フェナントレン系化合物、クリセン系化合物、ペリレン系化合物、アントラセン系化合物、ピレン系化合物、アクリジン系化合物、スチルベン系化合物、BBOTのようなチオフェン系化合物、ブタジエン系化合物、クマリン系化合物、キノリン系化合物、ビスチリル系化合物、ジスチリルピラジンのようなピラジン系化合物、キノキサリン系化合物、2,5−ジフェニル−パラ−ベンゾキノンのようなベンゾキノン系化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)のようなオキサジアゾール系化合物、3,4,5−トリフェニル−1,2,4−トリアゾールのようなトリアゾール系化合物、オキサゾール系化合物、アントロン系化合物、1,3,8−トリニトロ−フルオレノン(TNF)のようなフルオレノン系化合物、MBDQのようなジフェノキノン系化合物、MBSQのようなスチルベンキノン系化合物、アントラキノジメタン系化合物、チオピランジオキシド系化合物、フルオレニリデンメタン系化合物、ジフェニルジシアノエチレン系化合物、フローレン系化合物、8−ヒドロキシキノリン アルミニウム(Alq)、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾールを配位子とする錯体のような各種金属錯体等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせてもちいることができる。
【0036】
電子輸送層の平均厚さは、特に限定されないが、1〜100nm程度であるのが好ましく、20〜50nm程度であるのがより好ましい。
また、電子注入層の構成材料(電子注入材料)としては、例えば、8−ヒドロキシキノリン、オキサジアゾール、または、これらの誘導体(例えば、8−ヒドロキシキノリンを含む金属キレートオキシノイド化合物)等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0037】
なお、有機半導体層7は、本実施形態のように、発光層5と正孔輸送層6とにより構成される積層体すなわち発光層5を含む複数層の積層体である場合の他、例えば、発光層5で構成される単層体であってもよい。
また、本実施形態では、保護層4が陰極3と有機半導体層7との双方に接触するように設けられている場合について説明したが、このような場合に限定されず、保護層4と陰極3との間および保護層4と有機半導体層7との間の一方または双方に、例えば、陰極3側から有機半導体層7側への電子の注入効率を向上させる中間層を設けるようにしてもよい。
このような表示装置10は、例えば、次のような製造方法により製造することができる。
【0038】
[1]まず、TFT回路基板20を用意する。
[1−A]まず、基板21を用意し、基板21上に、例えば、TEOS(テトラエトキシシラン)や酸素ガスなどを原料ガスとして、プラズマCVD法等により、平均厚さが約200〜500nmの酸化シリコンを主材料として構成される下地保護層23を形成する。
【0039】
[1−B]次に、下地保護層23上に、駆動用TFT24を形成する。
[1−Ba]まず、基板21を約350℃に加熱した状態で、下地保護層23上に、例えばプラズマCVD法等により、平均厚さが約30〜70nmのアモルファスシリコンを主材料として構成される半導体膜を形成する。
[1−Bb]次いで、半導体膜に対して、レーザアニールまたは固相成長法等により結晶化処理を行い、アモルファスシリコンをポリシリコンに変化させる。
ここで、レーザアニール法では、例えば、エキシマレーザでビームの長寸が400mmのラインビームを用い、その出力強度は、例えば200mJ/cm程度に設定される。また、ラインビームについては、その短寸方向におけるレーザー強度のピーク値の90%に相当する部分が各領域毎に重なるようにラインビームを走査する。
【0040】
[1−Bc]次いで、半導体膜をパターニングして島状とし、各島状の半導体膜241を覆うように、例えば、TEOS(テトラエトキシシラン)や酸素ガスなどを原料ガスとして、プラズマCVD法等により、平均厚さが約60〜150nmの酸化シリコンまたは窒化シリコン等を主材料として構成されるゲート絶縁層242を形成する。
[1−Bd]次いで、ゲート絶縁層242上に、例えば、スパッタ法等により、アルミニウム、タンタル、モリブデン、チタン、タングステンなどの金属を主材料として構成される導電膜を形成した後、パターニングし、ゲート電極243を形成する。
[1−Be]次いで、この状態で、高濃度のリンイオンを打ち込んで、ゲート電極243に対して自己整合的にソース・ドレイン領域を形成する。なお、不純物が導入されなかった部分がチャネル領域となる。
【0041】
[1−C]次に、駆動用TFT24に電気的に接続されるソース電極244およびドレイン電極245を形成する。
[1−Ca]まず、ゲート電極243を覆うように、第1層間絶縁層25を形成した後、コンタクトホールを形成する。
[1−Cb]次いで、コンタクトホール内にソース電極244およびドレイン電極245を形成する。
【0042】
[1−D]次に、ドレイン電極245と陽極8とを電気的に接続する配線(中継電極)27を形成する。
[1−Da]まず、第1層間絶縁層25上に、第2層間絶縁層26を形成した後、コンタクトホールを形成する。
[1−Db]次いで、コンタクトホール内に配線27を形成する。
以上のようにして、TFT回路基板20が得られる。
【0043】
[2]次に、TFT回路基板20上に有機EL素子1を形成する。この有機EL素子1の形成に、本発明の発光素子の製造方法が適用される。
[2−A]まず、図2(a)に示すように、TFT回路基板20が備える第2層間絶縁層26上に、配線27に接触するように、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの少なくとも1種の金属を含む陰極(画素電極)3を形成する。
この陰極3は、第2層間絶縁層26上に、例えば、真空蒸着法やスパッタ法のような気相成膜法等により、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの少なくとも1種の金属を主材料として構成される導電膜を形成した後、パターニングすることにより得ることができる。
【0044】
[2−B]次に、図2(b)に示すように、第2層間絶縁層26上に、各陰極3を区画するように、隔壁部(バンク)35を形成する。
隔壁部35は、第2層間絶縁膜26上に第1隔壁部31を形成した後、この第1隔壁部31上に、第2隔壁部32を形成することにより得ることができる。
なお、第1隔壁部31は、陰極3および第2層間絶縁膜26を覆うように絶縁膜を形成した後、フォトリソグラフィー法等を用いてパターニングすること等により形成することができる。
【0045】
また、第2隔壁部32は、陰極3および第1隔壁部31を覆うように絶縁膜を形成した後、第1隔壁部31を得たのと同様にして形成することができる。
ここで、第1隔壁部31および第2隔壁部32の構成材料は、耐熱性、撥液性、インク溶剤耐性、下地層との密着性等を考慮して選択される。
具体的には、第1隔壁部31の構成材料としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂のような有機材料や、SiOのような無機材料が挙げられる。
【0046】
また、第2隔壁部32の構成材料としては、第1の隔壁部31で挙げたものの他、例えば、フッ素系樹脂等を用いることができる。フッ素系樹脂を用いることにより、第2隔壁部32の耐吸湿性の向上を図ることができる。
また、隔壁部35の開口の形状は、例えば、円形、楕円形、四角形、六角形等の多角形等、いかなるものであってもよい。
【0047】
なお、隔壁部35の開口の形状を多角形とする場合には、角部は丸みを帯びているのが好ましい。これにより、正孔輸送層6および発光層5を、後述するような液状材料を用いて形成する際に、これらの液状材料を、隔壁部35の内側の空間の隅々にまで確実に供給することができる。
このような隔壁部35の高さは、陰極3、発光層5および正孔輸送層6の合計の厚さに応じて適宜設定され、特に限定されないが、30〜500nm程度とするのが好ましい。かかる高さとすることにより、十分に隔壁(バンク)としての機能が発揮される。
【0048】
[2−C]次に、図2(c)に示すように、各陰極3上に、すなわち、各陰極3を覆うように、それぞれ、非酸化性雰囲気中で、ガスバリア性を有する保護層4を形成する(第1の工程)。
なお、本明細書中において、「ガスバリア性」とは、水蒸気透過度が、好ましくは0.01g/m2・day・40℃・90%RH以下、より好ましくは0.001g/m2・day・40℃・90%RH以下であり、さらに、酸素透過度が、好ましくは0.05ml/m2・day・MPa・20℃・100%RH以下、より好ましくは0.005ml/m2・day・MPa・20℃・100%RH以下であることを言う。この水蒸気透過度および酸素透過度は、それぞれ、JIS K 7129およびJIS K 7126に規定の方法により測定される。
【0049】
このように、本発明の発光素子の製造方法では、陰極3上にガスバリア性を有する保護層4を設けるため、次工程[2−D]において、有機半導体層7を形成する際に、雰囲気中に含まれる水蒸気や酸素のような酸素含有物質が陰極3に接触するのを防止または抑制することができる。ところで、前記金属は、極めて反応性が高いものであるが、保護層4の存在により酸素含有物質に接触することが防止または抑制されるため、その変質・劣化がないか、極めて少ない。これにより、陰極3は、有機EL素子(発光素子)1の完成後においても、発光層5に対する高い電子注入効率を維持する。
【0050】
なお、保護層4は、陰極3の形成後、非酸化性雰囲気すなわち実質的に酸素含有物質が存在しない雰囲気中で形成される。そのため、陰極3上に、陰極3に含まれる前記金属を変質・劣化させることなく、保護層4を形成することができる。
また、非酸化性雰囲気は、窒素、ヘリウムおよびアルゴン等の不活性ガスの雰囲気下であってもよく、減圧雰囲気下であってもよい。
このような保護層4は、絶縁性を有する材料、半導体性を有する材料および導電性を有する材料のうちのいずれを含むものであってもよいが、特に、絶縁性を有する材料を主材料として構成されているのが好ましい。
【0051】
絶縁性を有する材料を主材料として構成される膜は、一般的に、優れたガスバリア性を発揮することから、保護層4の構成材料として好適に用いることができる。また、かかる構成の保護層4とすることにより、発光層5における電流のリークを有効に防止して、陰極3から発光層5への電子の注入効率を向上させることや、発光層5の耐久性の向上を図ることができるという利点も得られる。
【0052】
絶縁性を有する材料としては、かかる材料を主材料として構成される保護層4がガスバリア性を有し、かつ、陰極3から発光層5への電子の注入を阻害しないものであればよく、各種のものを用いることができるが、例えば、I:無機窒化物、II:プラズマ重合で得られた炭素系物質、および、III:ポリパラキシリレン等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
以下、各絶縁性を有する材料について、それぞれ説明する。
I:無機窒化物
無機窒化物としては、特に限定されないが、例えば、窒化チタン(TiN)、窒化アルミニウム(AlN)および窒化ホウ素(BN)等が挙げられ、これらの中でも、特に、窒化チタンを用いるのが好ましい。窒化チタンは、特に優れたガスバリア性を有することから、比較的薄い膜厚の保護層4を形成した場合においても、得られる保護層4にガスバリア層としての機能を確実に発揮させることができる。さらに、膜厚の薄い保護層4を形成し得ることから、保護層4により、陰極3から発光層5への電子の注入が阻害されるようになるのを好適に防止することができる。
無機窒化物を主材料として構成される保護層4は、例えば、真空蒸着法やスパッタ法のような気相成膜法等により、陰極3および隔壁部35上に、無機窒化物を主材料として構成される絶縁膜を形成した後、パターニングすることにより得ることができる。
【0054】
II:プラズマ重合で得られた炭素系物質
プラズマ重合で得られた炭素系物質を主材料として構成される保護層4は、例えば、TFT回路基板20の陰極3および隔壁部35側に、キャリアガスとともに供給されたガス状の低分子物質(モノマー)をプラズマ重合させて絶縁膜を形成した後、この絶縁膜をパターニングすることにより形成することができる。
【0055】
プラズマ重合法によれば、実質的に炭素原子および水素原子以外の原子が含まれない保護層4を形成することができることから、この保護層4は、ピンホールの形成が好適に防止された緻密質なものとなる。その結果、保護層4は、優れたガスバリア性を有するものとなる。
ここで、プラズマ重合に用いられる低分子物質としては、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン、アセチレンおよびメチルアセチレン等の炭化水素系低分子物質、テトラメトキシシランおよびオキサメチルトリシロキサン等のケイ素系低分子物質、テトラフルオロエチレン等のフッ化水素系低分子物質等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0056】
キャリアガス(添加ガス)としては、例えば、アルゴン、ヘリウム、窒素等の不活性ガスが挙げられる。
なお、プラズマ重合の条件(成膜条件)は、例えば、次のようにすることができる。
高周波の出力は、100〜1000W程度であるのが好ましい。
成膜時のチャンバ内の圧力は、1×10−2〜1×10Pa程度であるのが好ましい。
【0057】
原料ガス流量は、1〜100sccm程度であるのが好ましい。一方、キャリアガス流量は、10〜500sccm程度であるのが好ましい。
処理時間は、1〜10分程度であるのが好ましく、4〜7分程度であるのがより好ましい。
各種条件を上述したような範囲内に設定することにより、目的とする平均厚さの保護層4を形成することができる。
【0058】
III:ポリパラキシリレン
ポリパラキシリレンとしては、特に限定されないが、例えば、ポリ−p−キシリレン、ポリ−モノクロロ−p−キシリレンおよびポリ−ジクロロ−p−キシリレン等が挙げられ、これらの中でも、特に、ポリ−モノクロロ−p−キシリレンを用いるのが好ましい。ポリ−モノクロロ−p−キシリレンは、特に優れたガスバリア性を有することから、比較的薄い膜厚の保護層4を形成した場合においても、得られる保護層4にガスバリア層としての機能を確実に発揮させることができる。さらに、膜厚の薄い保護層4を形成し得ることから、保護層4により、陰極3から発光層5への電子の注入が阻害されるようになるのを好適に防止することができる。
【0059】
ポリパラキシリレンを主材料として構成される保護層4は、例えば、ガス状のパラキシリレンの2量体(ダイマー)を減圧下で熱分解することにより、TFT回路基板20の陰極3および隔壁部35側に絶縁膜を形成した後、この絶縁膜をパターニングすることにより形成することができる。
保護層4は、上述したような絶縁性を有する材料を主材料として構成されている場合、陰極3側から有機半導体層7側への電子の通過が許容されるように、その厚さが比較的薄く設定されている。
【0060】
具体的には、保護層4は、その平均厚さが1〜20nm程度であるのが好ましく、5〜10nm程度であるのがより好ましい。保護層4の厚さが前記下限よりも薄過ぎると、保護層4の構成材料の種類によっても若干異なるが、保護層4のガスバリア層としての機能が充分に発揮されなくなるおそれがある。一方、保護層4の厚さが前記上限を超えて厚くなると、保護層4において電子を発光層5側に移動させるトンネル効果が十分に得られず、陰極3から発光層5への電子の注入が阻害されるおそれがある。
【0061】
なお、本実施形態では、保護層4が各陰極3に対応して個別に設けられている場合について説明したが、このような場合に限定されず、保護層4は、各陰極3および各隔壁部35を覆うように一体的に形成されているものであってもよい。この場合、隔壁部35に残存する酸素含有物質の有機半導体層7側への拡散を防止するガスバリア層としての機能を保護層4に発揮させることができるという利点も得られる。
【0062】
[2−D]次に、図2(d)に示すように、各保護層4上に、すなわち、各保護層4の陰極3と反対側に、それぞれ、発光層5および正孔輸送層6をこの順で積層して有機半導体層7を形成する(第2の工程)。
ここで、本発明の発光素子の製造方法では、前述したように、前記工程[2−C]において各陰極3上に、対応して保護層4を設けることから、雰囲気中に含まれる酸素含有物質の陰極3への接触を防止または抑制することができる。
【0063】
以下、発光層5および正孔輸送層6の形成方法について説明する。
[2−Da]まず、各保護層4上に、それぞれ、発光層5を形成する。
この発光層5は、前述したような気相プロセスや液相プロセスにより形成することができるが、中でも、インクジェット法(液滴吐出法)を用いた液相プロセスにより形成するのが好ましい。インクジェット法を用いることにより、発光層5の薄膜化、画素サイズの微小化を図ることができる。また、発光層形成用の液状材料を、隔壁部35の内側に選択的に供給することができるため、液状材料のムダを省くことができる。また、インクジェット法を用いることにより、複数色の発光層5を設ける場合には、各色毎にパターンの塗り分けを容易に行うことができるという利点もある。
【0064】
具体的には、発光層形成用の液状材料を、インクジェットプリント装置のヘッドから吐出し、各保護層4上に供給し、脱溶媒または脱分散媒した後、必要に応じて、150℃程度で短時間の加熱処理を施す。
この脱溶媒または脱分散媒は、減圧雰囲気に放置する方法、熱処理(例えば50〜60℃程度)による方法、窒素ガスのような不活性ガスのフローによる方法等が挙げられる。さらに、追加の熱処理(150℃程度で短時間)で行うことにより、残存溶媒を除去する。
【0065】
なお、本実施形態のように、発光層5すなわち有機半導体層7の保護層4に接触する部分を液相プロセスにより形成する場合に、本発明の発光素子の製造方法を適用することにより得られる効果がより顕著に発揮される。
すなわち、本発明の発光素子の製造方法では、陰極3上に保護層4を設けるので、この保護層4により、前記液状材料中に含まれる溶媒または分散媒が陰極3に接触するのを好適に防止または抑制することができる。その結果、前記金属の前記酸素含有物質と接触することによる変質・劣化を好適に防止または抑制することができる。
用いる液状材料は、前述したような発光材料を溶媒または分散媒に溶解または分散することにより調製される。
【0066】
また、液状材料の調製に用いる溶媒または分散媒としては、例えば、硝酸、硫酸、アンモニア、過酸化水素、水、二硫化炭素、四塩化炭素、エチレンカーボネイト等の各種無機溶媒や、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール(DEG)、グリセリン等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、ジエチレングリコールエチルエーテル(カルビトール)等のエーテル系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、フェニルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化合物系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル、ギ酸エチル等のエステル系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の硫黄化合物系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル等のニトリル系溶媒、ギ酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸系溶媒のような各種有機溶媒、または、これらを含む混合溶媒等が挙げられる。
なお、保護層4上に供給された液状材料は、流動性が高く(粘性が低く)、水平方向(面方向)に広がろうとするが、保護層4が隔壁部35により囲まれているため、所定の領域以外に広がることが阻止され、発光層5(有機EL素子1)の輪郭形状が正確に規定される。
【0067】
[2−Db]次に、各発光層5上(陰極3のTFT回路基板20と反対側)に、正孔輸送層6を形成する。
この正孔輸送層6も、気相プロセスや液相プロセスにより形成することができるが、前述したのと同様の理由から、インクジェット法(液滴吐出法)を用いた液相プロセスにより形成するのが好ましい。
【0068】
[2−E]次に、図2(e)に示すように、各正孔輸送層6(有機半導体層7)上および各隔壁部35上に、すなわち、有機半導体層7の陰極3と反対側に、各共通の陽極8を形成する(第3の工程)。
この陽極8は、例えば、スパッタ法、真空蒸着法、CVD法等を用いた気相プロセスや、スピンコート法(パイロゾル法)、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法等を用いた液相プロセス等で形成することができる。
【0069】
なお、これらの方法は、陽極8の構成材料の熱安定性や、溶媒への溶解性等の物理的特性および/または化学的特性を考慮して選択される。
なお、本実施形態では、正孔輸送層6および隔壁部35の全面に、陽極8を形成することから、マスクを用いる必要がないため、これらの形成には、スパッタ法、真空蒸着法を用いた気相プロセス等が好適に用いられる。
【0070】
また、陽極8の形成にスパッタ法等を用いる場合、陽極8の構成材料を発光層5の陰極3と反対側に供給する際に、本実施形態では、発光層5上に正孔輸送層6が設けられていることから、前記構成材料が接触(衝突)することによる発光層5の変質・劣化を確実に防止することができる。
このような工程を経て、有機EL素子1を製造することができる。
【0071】
以上のように、本発明の発光素子の製造方法によれば、前述したように、陰極3の変質・劣化を好適に防止または抑制しつつ、陰極3を形成した後に有機半導体層7および陽極8を形成することができる。すなわち、陰極3の優れた電子注入効率を維持した状態で、有機半導体層7および陽極8を形成することができる。これにより、優れた発光効率等の特性を有するトップエミッション構造の有機EL素子(発光素子)1が得られる。
【0072】
[3] 次に、図2(f)に示すように、上基板9を用意し、この上基板9により陽極8を覆うようにして、陽極8と上基板9とを接合する。
この陽極8と上基板9との接合は、陽極8と上基板9との間に、エポキシ系の接着剤を介在させた状態で、この接着剤を乾燥させること等により行うことができる。
この上基板9は、有機EL素子1を保護する保護基板としての機能を有する。このような上基板9を、陽極8上に設けることにより、有機EL素子1が酸素や水分に接触するのをより好適に防止または低減できることから、有機EL素子1の信頼性の向上や、変質・劣化の防止等の効果をより確実に得ることができる。
以上のような工程を経て、表示装置10を製造することができる。
【0073】
<電子機器>
このような表示装置(本発明の発光装置)10は、各種の電子機器に組み込むことができる。
図3は、本発明の電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
【0074】
この図において、パーソナルコンピュータ1100は、キーボード1102を備えた本体部1104と、表示部を備える表示ユニット1106とにより構成され、表示ユニット1106は、本体部1104に対しヒンジ構造部を介して回動可能に支持されている。
このパーソナルコンピュータ1100において、表示ユニット1106が備える表示部が前述の表示装置10で構成されている。
【0075】
図4は、本発明の電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
この図において、携帯電話機1200は、複数の操作ボタン1202、受話口1204および送話口1206とともに、表示部を備えている。
携帯電話機1200において、この表示部が前述の表示装置10で構成されている。
【0076】
図5は、本発明の電子機器を適用したディジタルスチルカメラの構成を示す斜視図である。なお、この図には、外部機器との接続についても簡易的に示されている。
ここで、通常のカメラは、被写体の光像により銀塩写真フィルムを感光するのに対し、ディジタルスチルカメラ1300は、被写体の光像をCCD(Charge Coupled Device)などの撮像素子により光電変換して撮像信号(画像信号)を生成する。
【0077】
ディジタルスチルカメラ1300におけるケース(ボディー)1302の背面には、表示部が設けられ、CCDによる撮像信号に基づいて表示を行う構成になっており、被写体を電子画像として表示するファインダとして機能する。
ディジタルスチルカメラ1300において、この表示部が前述の表示装置10で構成されている。
【0078】
ケースの内部には、回路基板1308が設置されている。この回路基板1308は、撮像信号を格納(記憶)し得るメモリが設置されている。
また、ケース1302の正面側(図示の構成では裏面側)には、光学レンズ(撮像光学系)やCCDなどを含む受光ユニット1304が設けられている。
撮影者が表示部に表示された被写体像を確認し、シャッタボタン1306を押下すると、その時点におけるCCDの撮像信号が、回路基板1308のメモリに転送・格納される。
【0079】
また、このディジタルスチルカメラ1300においては、ケース1302の側面に、ビデオ信号出力端子1312と、データ通信用の入出力端子1314とが設けられている。そして、図示のように、ビデオ信号出力端子1312にはテレビモニタ1430が、デ−タ通信用の入出力端子1314にはパーソナルコンピュータ1440が、それぞれ必要に応じて接続される。さらに、所定の操作により、回路基板1308のメモリに格納された撮像信号が、テレビモニタ1430や、パーソナルコンピュータ1440に出力される構成になっている。
【0080】
なお、本発明の電子機器は、図3のパーソナルコンピュータ(モバイル型パーソナルコンピュータ)、図4の携帯電話機、図5のディジタルスチルカメラの他にも、例えば、テレビや、ビデオカメラ、ビューファインダ型、モニタ直視型のビデオテープレコーダ、ラップトップ型パーソナルコンピュータ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳(通信機能付も含む)、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニタ、電子双眼鏡、POS端末、タッチパネルを備えた機器(例えば金融機関のキャッシュディスペンサー、自動券売機)、医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電表示装置、超音波診断装置、内視鏡用表示装置)、魚群探知機、各種測定機器、計器類(例えば、車両、航空機、船舶の計器類)、フライトシュミレータ、その他各種モニタ類、プロジェクター等の投射型表示装置等に適用することができる。また、本発明の電子機器は、表示機能を有しない発光機能のみを有するものであってもよい。
【0081】
以上、本発明の発光素子、発光素子の製造方法、発光装置および電子機器を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものでない。
なお、本発明の発光素子は、基板上に陽極、有機半導体層、保護層および陰極がこの順で積層され、基板(陽極)側から有機半導体層の発光を取り出すボトムエミッション構造を有する有機EL素子に適用するようにしてもよい。
また、本発明の発光素子の製造方法は、任意の目的の工程が1または2以上追加されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の発光装置を適用したアクティブマトリックス型表示装置の一例を示す縦断面図である。
【図2】図1に示すアクティブマトリックス型表示装置の製造方法を説明するための図(縦断面図)である。
【図3】本発明の電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
【図4】本発明の電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
【図5】本発明の電子機器を適用したディジタルスチルカメラの構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0083】
1……有機EL素子 3……陰極 4……保護層 5……発光層 6……正孔輸送層 7……有機半導体層 8……陽極 9……上基板 10……表示装置 20……TFT回路基板 21……基板 22……回路部 23……下地保護層 24……駆動用TFT 241……半導体層 242……ゲート絶縁層 243……ゲート電極 244……ソース電極 245……ドレイン電極 25……第1層間絶縁層 26……第2層間絶縁層 27……配線 31……第1隔壁部 32……第2隔壁部 35……隔壁部 1100……パーソナルコンピュータ 1102……キーボード 1104……本体部 1106……表示ユニット 1200……携帯電話機 1202……操作ボタン 1204……受話口 1206……送話口 1300……ディジタルスチルカメラ 1302……ケース(ボディー) 1304……受光ユニット 1306…………シャッタボタン 1308……回路基板 1312……ビデオ信号出力端子 1314……データ通信用の入出力端子 1430……テレビモニタ 1440……パーソナルコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、
アルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの少なくとも1種の金属を含む陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に設けられた有機半導体層と、
前記陰極と前記有機半導体層との間に設けられたガスバリア性を有する保護層と、を備えることを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記保護層は、前記陰極に接触している請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記保護層は、その水蒸気透過度(JIS K 7129に規定)が0.01g/m・day・40℃・90%RH以下である請求項1または2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記保護層は、その酸素透過度(JIS K 7126に規定)が0.05ml/m・day・MPa・20℃・100%RH以下である請求項1ないし3のいずれかに記載の発光素子。
【請求項5】
前記保護層は、絶縁性を有する材料を主材料として構成されている請求項1ないし4のいずれかに記載の発光素子。
【請求項6】
前記絶縁性を有する材料は、無機窒化物である請求項5に記載の発光素子。
【請求項7】
前記絶縁性を有する材料は、プラズマ重合で得られた炭素系物質である請求項5に記載の発光素子。
【請求項8】
前記絶縁性を有する材料は、ポリパラキシリレンである請求項5に記載の発光素子。
【請求項9】
前記保護層は、その平均厚さが1〜20nmである請求項5ないし8のいずれかに記載の発光素子。
【請求項10】
前記有機半導体層は、発光層を含む複数層の積層体で構成されている請求項1ないし9のいずれかに記載の発光素子。
【請求項11】
アルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの少なくとも1種の金属を含む陰極を覆うように、非酸化性雰囲気中で、ガスバリア性を有する保護層を形成する第1の工程と、
該保護層の前記陰極と反対側に、前記有機半導体層を形成する第2の工程と、
該有機半導体層の前記陰極と反対側に、陽極を形成する第3の工程とを有し、
前記第2の工程において、前記有機半導体層を形成する際に、前記保護層の存在により、雰囲気中に含まれる酸素含有物質の前記陰極への接触を防止または抑制することを特徴とする発光素子の製造方法。
【請求項12】
前記第2の工程において、前記有機半導体層の少なくとも前記保護層に接触する部分を液相プロセスにより形成する請求項11に記載の発光素子の製造方法。
【請求項13】
請求項1ないし10のいずれかに記載の発光素子を備えることを特徴とする発光装置。
【請求項14】
請求項13に記載の発光装置を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−123540(P2007−123540A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−313498(P2005−313498)
【出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】