説明

発光素子、発光装置、表示装置および電子機器

【課題】定電流での連続駆動においても、駆動電圧の上昇を抑えることができる発光素子、この発光素子を備える発光装置、表示装置および電子機器を提供すること。
【解決手段】発光素子1は、陽極3と、陰極7と、陽極3と陰極7との間に設けられ、陽極3と陰極7との間に通電することにより発光する第1の発光層42と、陰極7と第1の発光層42との間に設けられ、陽極3と陰極7との間に通電することにより発光する第2の発光層62と、第1の発光層42と第2の発光層62との間に設けられ、電子および正孔を発生させるキャリア発生層5とを有し、キャリア発生層5は互いに接触する、第1の発光層42側に設けられ、電子輸送性を有するn型電子輸送層51と、第2の発光層62側に設けられ、電子吸引性を有する電子吸引層52とを備えており、n型電子輸送層51と、電子吸引層52とは、ともに電子ドナー性材料を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子、発光装置、表示装置および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(いわゆる有機EL素子)は、陽極と陰極との間に少なくとも1層の発光性有機層を介挿した構造を有する発光素子である。このような発光素子では、陰極と陽極との間に電界が印加されることにより、発光層に対して陰極側から電子が注入されるとともに陽極側から正孔が注入され、発光層中で電子と正孔が再結合することにより励起子が生成し、この励起子が基底状態に戻る際に、そのエネルギー分が光として放出される。
このような発光素子としては、例えば、陰極と陽極との間に、2層以上の発光層を有し、これらの発光層同士の間に電荷発生層(キャリア発生層)を設けたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
かかる発光素子では、陽極と陰極との間に電界が印加されることにより、電荷発生層から電子および正孔が発生して、各発光層に供給される。したがって、陽極および陰極から供給される正孔および電子に加えて、電荷発生層から供給される正孔および電子を各発光層の発光に用いることができる。このような発光素子は、発光層が一層の発光素子と比較して、高輝度で発光することができ、発光効率に優れる。また、発光層が一層の発光素子と比較して、低い電流で用いても、比較的高輝度で発光することができるため、発光素子が劣化しにくく、その結果、発光寿命が長いものとなる。
しかし、従来の発光素子においては、定電流で連続して駆動を行うと、時間の経過に伴い、発光素子が発熱することに起因して、発光素子の高抵抗化が生じ、その結果、駆動電圧が大きく上昇してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−598448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、定電流での連続駆動においても、駆動電圧の上昇を抑えることができる発光素子、この発光素子を備える発光装置、表示装置および電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の発光素子は、陽極と、
陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に設けられ、前記陽極と前記陰極との間に通電することにより発光する第1の発光層と、
前記陰極と前記第1の発光層との間に設けられ、前記陽極と前記陰極との間に通電することにより発光する第2の発光層と、
前記第1の発光層と前記第2の発光層との間に設けられ、電子および正孔を発生させるキャリア発生層とを有し、
前記キャリア発生層は、互いに接触する、前記第1の発光層側に設けられ、電子輸送性を有するn型電子輸送層と、前記第2の発光層側に設けられ、電子吸引性を有する電子吸引層とを備えており、
前記n型電子輸送層と、前記電子吸引層とは、ともに電子ドナー性材料を含有することを特徴とする。
このような本発明の発光素子によれば、長時間の使用に伴う発光素子の発熱によっても、発光素子の高抵抗化に起因する、駆動電圧の上昇を的確に抑制または防止することができる。
【0007】
本発明の発光素子では、前記n型電子輸送層は、前記電子ドナー性材料の他に、電子輸送性材料を含有する混合材料で構成されていることが好ましい。
このように構成されたn型電子輸送層は、優れた電子輸送性および電子注入性を有する。そのため、キャリア発生層で生じた電子を第1の発光層へ効率的に輸送・注入することができる。
【0008】
本発明の発光素子では、前記電子吸引層は、前記電子ドナー性材料の他に、芳香環を有する有機シアン化合物を含有する混合材料で構成されていることが好ましい。
芳香環含有有機シアン化合物は、優れた電子吸引性を有している。そのため、芳香環を有する有機シアン化合物を含んで電子吸引層を構成することにより、キャリア発生層の正孔および電子の発生量を多くすることができる。
【0009】
本発明の発光素子では、前記有機シアン化合物は、ヘキサアザトリフェニレン誘導体であることが好ましい。
このような化合物は、電子吸引性に優れている。そのため、このような化合物を用いて構成された電子吸引層は、隣接する層から十分に電子を引き抜くことができるとともに、好適に引き抜いた電子を陽極側に輸送することができる。
【0010】
本発明の発光素子では、前記電子ドナー性材料は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物のうちの少なくとも1種であることが好ましい。
このような電子ドナー性材料は、優れた電子注入性を有する。そのため、キャリア発生層で生じた電子を第1の発光層へ効率的に注入することができる。
【0011】
本発明の発光素子では、前記n型電子輸送層に含まれる前記電子ドナー性材料と、前記電子吸引層に含まれる前記電子ドナー性材料とは、同一のものであることが好ましい。
これにより、低電圧でのキャリア発生層における電荷の発生が可能となるため、発光素子の定電流での連続駆動によっても、発光素子の発熱を比較的低い温度範囲に抑制することができる。
【0012】
本発明の発光素子では、前記電子吸引層における前記電子ドナー性材料の含有量は、0.5wt%以上、10wt%以下であることが好ましい。
電子注入性材料の含有量をこのような範囲内とすることで、第1の発光層および第2の発光層への電子注入性材料の拡散を的確に抑制することができるようになる。
本発明の発光素子では、前記n型電子輸送層における前記電子ドナー性材料の含有量は、1.0wt%以上、5.0wt%以下であることが好ましい。
電子注入性材料の含有量をこのような範囲内とすることで、n型電子輸送層の電子輸送性および電子注入性の双方をバランスよく優れたものとすることができる。また、第1の発光層および第2の発光層への電子注入性材料の拡散を的確に抑制することができるようになる。
【0013】
本発明の発光素子では、前記電子吸引層における前記電子ドナー性材料の含有量は、前記n型電子輸送層における前記電子ドナー性材料の含有量よりも多いことが好ましい。
これにより、キャリア発生層中における電荷(特に、電子)の移動をより円滑に行うことができるようになる。
本発明の発光素子では、前記第2の発光層と前記陰極との間に設けられ、前記陽極と前記陰極との間に通電することにより発光する第3の発光層を有することが好ましい。
これにより、第1の発光層、第2の発光層および第3の発光層をバランスよく発光させることができる。また、例えば、これらの発光層の発光色を赤色、緑色および青色とすることにより、白色発光の発光素子を実現することができる。
【0014】
本発明の発光装置は、本発明の発光素子を備えることを特徴とする。
これにより、一定電流での長時間駆動においても、駆動電圧の上昇を抑えることができる発光装置を提供することができる。
本発明の表示装置は、本発明の発光装置を備えることを特徴とする。
これにより、安定した駆動が可能で、信頼性に優れた表示装置を提供することができる。
本発明の電子機器は、本発明の表示装置を備えることを特徴とする。
これにより、信頼性に優れた電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の好適な実施形態にかかる発光素子の縦断面を模式的に示す図である。
【図2】本発明の表示装置を適用したディスプレイ装置の実施形態を示す縦断面図である。
【図3】本発明の電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
【図4】本発明の電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
【図5】本発明の電子機器を適用したディジタルスチルカメラの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の発光素子、発光装置、表示装置および電子機器を添付図面に示す好適な実施形態について説明する。
(発光素子)
図1は、本発明の好適な実施形態にかかる発光素子の縦断面を模式的に示す図である。なお、以下では、説明の便宜上、図1中の上側を「上」、下側を「下」として説明を行う。
【0017】
発光素子(エレクトロルミネッセンス素子)1は、陽極3と、第1の発光部(第1の発光ユニット)4と、キャリア発生層5と、第2の発光部(第2の発光ユニット)6と、陰極7とがこの順に積層されてなるものである。
言い換えすれば、発光素子1は、第1の発光部4とキャリア発生層5と第2の発光部6とがこの順に積層で積層された積層体15が2つの電極間(陽極3と陰極7との間)に介挿されて構成されている。
【0018】
また、第1の発光部4は、陽極3側から陰極7側に、正孔輸送層41と第1の発光層42とがこの順で積層された積層体であり、第2の発光部6は、陽極3側から陰極7側に、正孔輸送層61と第2の発光層62と第3の発光層63と正孔ブロック層64と電子輸送層65とがこの順で積層された積層体である。
そして、発光素子1は、その全体が基板2上に設けられるとともに、封止部材8で封止されている。
【0019】
このような発光素子1にあっては、陽極3と陰極7との間に駆動電圧が印加されることにより、キャリア発生層5においてキャリア(電子および正孔)が発生する。そして、第1の発光層42に対し、陽極3側から正孔が供給(注入)されるとともに、キャリア発生層5から電子が供給される。また、第2の発光層62および第3の発光層63に対し、陰極7側から電子が供給(注入)されるとともに、キャリア発生層5から正孔が供給(注入)される。これにより、各発光層では、正孔と電子とが再結合し、この再結合に際して放出されたエネルギーによりエキシトン(励起子)が生成し、エキシトンが基底状態に戻る際にエネルギー(蛍光やりん光)を放出(発光)する。
【0020】
このようにして、第1の発光層42、第2の発光層62および第3の発光層63をそれぞれ発光させることができる。そのため、このような発光素子1は、発光層が1層のみの発光素子に比較して、発光効率を向上させるとともに、駆動電圧を低減することができる。
特に、発光素子1では、さらに、キャリア発生層5において、正孔および電子が発生し、これらのうち、第1の発光部4には電子が注入され、第2の発光部6には正孔が注入されるため、発光素子1をより高輝度で発光させることができるため、発光効率に優れた発光素子1とすることができる。
また、このような発光素子1では、例えば、これらの発光層42、62、63の発光色を、それぞれ、赤色、緑色および青色とすることにより、白色発光の発光素子1を実現することができる。
【0021】
基板2は、陽極3を支持するものである。本実施形態の発光素子1は、基板2側から光を取り出す構成(ボトムエミッション型)であるため、基板2および陽極3は、それぞれ、実質的に透明(無色透明、着色透明または半透明)とされている。
基板2の構成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレートのような樹脂材料や、石英ガラス、ソーダガラスのようなガラス材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
このような基板2の平均厚さは、特に限定されないが、0.1mm以上、30mm以下であるのが好ましく、0.1mm以上、10mm以下であるのがより好ましい。
【0022】
なお、発光素子1が基板2と反対側から光を取り出す構成(トップエミッション型)の場合、基板2には、透明基板および不透明基板のいずれも用いることができる。
不透明基板としては、例えば、アルミナのようなセラミックス材料で構成された基板、ステンレス鋼のような金属基板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成したもの、樹脂材料で構成された基板等が挙げられる。
この基板2上に、発光素子1が形成されている。以下、発光素子1を構成する各部を順次説明する。
【0023】
[陽極3]
陽極3は、後述する第1の発光部4に正孔を注入する電極である。この陽極3の構成材料としては、仕事関数が大きく、導電性に優れる材料を用いるのが好ましい。
陽極3の構成材料としては、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、In、SnO、Sb含有SnO、Al含有ZnO等の酸化物、Au、Pt、Ag、Cuまたはこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
このような陽極3の平均厚さは、特に限定されないが、10nm以上、200nm以下であるのが好ましく、50nm以上、150nm以下であるのがより好ましい。
【0024】
[第1の発光部]
第1の発光部4は、上述したように、正孔輸送層41と第1の発光層42とを有している。
かかる構成の第1の発光部4において、第1の発光層42に対して、正孔輸送層41側から正孔がn型電子輸送層51側から電子が、それぞれ供給(注入)されると、第1の発光層42では、正孔と電子とが再結合し、この再結合に際して放出されたエネルギーによりエキシトン(励起子)が生成し、エキシトンが基底状態に戻る際にエネルギー(蛍光やりん光)を放出するため、第1の発光層42が発光する。
【0025】
以下、かかる第1の発光部4を構成する各層について、順次、説明する。
正孔輸送層41は、陽極3から注入された正孔を第1の発光層42まで輸送する機能を有するものである。
この正孔輸送層41の構成材料には、各種p型の高分子材料や、各種p型の低分子材料を単独または組み合わせて用いることができ、例えば、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ジフェニル−4,4’−ジアミン(NPD)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ジフェニル−4,4’−ジアミン(TPD)等のテトラアリールベンジジン誘導体、テトラアリールジアミノフルオレン化合物またはその誘導体(アミン系化合物)等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
上述した中でも、正孔輸送材料は、ベンジジン構造を有するものであることが好ましく、テトラアリールベンジジンまたはその誘導体であることがより好ましい。これにより、陽極から正孔輸送層41に効率よく正孔が注入されるとともに、正孔を第1の発光層42に効率よく輸送することができる。
このような正孔輸送層41の平均厚さは、特に限定されないが、10nm以上、150nm以下であるのが好ましく、10nm以上、100nm以下であるのがより好ましい。
【0027】
(第1の発光層)
この第1の発光層42は、発光材料を含んで構成されている。
発光材料は、陰極7側から電子が供給(注入)されるとともに、陽極3側から正孔が供給(注入)されることにより、正孔と電子とが再結合し、この再結合に際して放出されたエネルギーによりエキシトン(励起子)が生成し、エキシトンが基底状態に戻る際にエネルギー(蛍光やりん光)を放出(発光)するものである。
このような発光材料としては、特に限定されず、第1の発光層42に発光させるべき発光色に応じて適宜選択され、各種蛍光材料、各種燐光材料を1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
具体的には、赤色の蛍光材料としては、例えば、テトラアリールジインデノペリレン誘導体等のペリレン誘導体、ユーロピウム錯体、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、ポルフィリン誘導体、ナイルレッド、2−(1,1−ジメチルエチル)−6−(2−(2,3,6,7−テトラヒドロ−1,1,7,7−テトラメチル−1H,5H−ベンゾ(ij)キノリジン−9−イル)エテニル)−4H−ピラン−4H−イリデン)プロパンジニトリル(DCJTB)、4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)等を挙げられる。
【0029】
青色の蛍光材料としては、例えば、ジスチリルジアミン誘導体、ジスチリル誘導体、フルオランテン誘導体、ピレン誘導体、ペリレンおよびペリレン誘導体、アントラセン誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、クリセン誘導体、フェナントレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、テトラフェニルブタジエン、4,4’−ビス(9−エチル−3−カルバゾビニレン)−1,1’−ビフェニル(BCzVBi)、ポリ[(9.9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジイル)−コ−(2,5−ジメトキシベンゼン−1,4−ジイル)]、ポリ[(9,9−ジヘキシルオキシフルオレン−2,7−ジイル)−オルト−コ−(2−メトキシ−5−{2−エトキシヘキシルオキシ}フェニレン−1,4−ジイル)]、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジイル)−コ−(エチルニルベンゼン)]、BD102(製品名、出光興産社製)等が挙げられる。
【0030】
緑色の蛍光材料としては、例えば、クマリン誘導体、キナクリドン誘導体、9,10−ビス[(9−エチル−3−カルバゾール)−ビニレニル]−アントラセン、ポリ(9,9−ジヘキシル−2,7−ビニレンフルオレニレン)、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジイル)−コ−(1,4−ジフェニレン−ビニレン−2−メトキシ−5−{2−エチルヘキシルオキシ}ベンゼン)]、ポリ[(9,9−ジオクチル−2,7−ジビニレンフルオレニレン)−オルト−コ−(2−メトキシ−5−(2−エトキシルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレン)]等が挙げられる。
黄色の蛍光材料としては、例えば、ルブレン系材料等のナフタセン骨格を有する化合物であって、ナフタセンにアリール基(好ましくはフェニル基)が任意の位置で任意の数(好ましくは2〜6)置換された化合物、モノインデノペリレン誘導体等を用いることができる。
【0031】
赤色の燐光材料としては、例えば、イリジウム、ルテニウム、白金、オスミウム、レニウム、パラジウム等の金属錯体が挙げられ、これら金属錯体の配位子の内の少なくとも1つがフェニルピリジン骨格、ビピリジル骨格、ポルフィリン骨格等を持つものも挙げられる。より具体的には、トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム(Ir(piq)3)、下記式(1)で表わされるビス[2−(2’−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジネート−N,C’]イリジウム(アセチルアセトネート)(btp2Ir(acac))、2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−12H,23H−ポルフィリン−白金(II)、ビス[2−(2’−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジネート−N,C’]イリジウム、ビス(2−フェニルピリジン)イリジウム(アセチルアセトネート)が挙げられる。
【0032】
【化1】

【0033】
青色の燐光材料としては、例えば、イリジウム、ルテニウム、白金、オスミウム、レニウム、パラジウム等の金属錯体が挙げられる。より具体的には、ビス[4,6−ジフルオロフェニルピリジネート−N,C’]−ピコリネート−イリジウム、トリス[2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジネート−N,C’]イリジウム、ビス[2−(3,5−トリフルオロメチル)ピリジネート−N,C’]−ピコリネート−イリジウム、ビス(4,6−ジフルオロフェニルピリジネート−N,C’)イリジウム(アセチルアセトネート)が挙げられる。
【0034】
緑色の燐光材料としては、例えば、イリジウム、ルテニウム、白金、オスミウム、レニウム、パラジウム等の金属錯体が挙げられる。中でも、これら金属錯体の配位子の内の少なくとも1つが、フェニルピリジン骨格、ビピリジル骨格、ポルフィリン骨格等を持つものが好ましい。より具体的には、下記式(2)で表わされるファク−トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy)3)、ビス(2−フェニルピリジネート−N,C2’)イリジウム(アセチルアセトネート)、ファク−トリス[5−フルオロ−2−(5−トリフルオロメチル−2−ピリジン)フェニル−C,N]イリジウムが挙げられる。
【0035】
【化2】

【0036】
また、第1の発光層42は、上述した発光材料に加え、この発光材料がゲスト材料として添加されるホスト材料を含んで構成されていてもよい。このような第1の発光層42は、例えば、ゲスト材料である発光材料をドーパントとしてホスト材料にドープすることにより形成することができる。
このホスト材料は、正孔と電子とを再結合して励起子を生成するとともに、その励起子のエネルギーを発光材料に移動(フェルスター移動またはデクスター移動)させて、発光材料を励起する機能を有する。
【0037】
このようなホスト材料としては、特に限定されないが、発光材料が蛍光材料を含む場合、例えば、ルブレンおよびその誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ビスp−ビフェニルナフタセン等のナフタセン系材料、3−tert−ブチル−9,10−ジ(ナフト−2−イル)アントラセン(TBADN)等のアントラセン系材料、ビス−オルトビフェニリルペリレン等のペリレン誘導体、テトラフェニルピレンなどのピレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、スチルベン誘導体、ジスチリルアミン誘導体、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(p−フェニルフェノラト)アルミニウム(BAlq)、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq)等のキノリノラト系金属錯体、トリフェニルアミンの4量体等のトリアリールアミン誘導体、アリールアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、シロール誘導体、カルバゾール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ベンゾピラン誘導体、トリアゾール誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、キノリン誘導体、コロネン誘導体、アミン化合物、4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)、IDE120(製品名、出光興産社製)等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる。好ましくは、発光材料が青色または緑色の場合にはIDE120(出光興産社製)、アントラセン系材料、ジアントラセン系材料が好ましく、発光材料が赤色の場合には、ルブレンまたはルブレン誘導体、ナフタセン系材料、ペリレン誘導体が好ましい。
【0038】
また、ホスト材料としては、発光材料が燐光材料を含む場合、例えば、3−フェニル−4−(1’−ナフチル)−5−フェニルカルバゾール、下記式(3)で表わされる4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル(CBP)等のカルバゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、トリアゾール誘導体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)、ビス−(2−メチル−8−キノリノラト)−4−(フェニルフェノラト)アルミニウム等のキノリノラト系金属錯体、N−ジカルバゾリル−3,5−ベンゼン、ポリ(9−ビニルカルバゾール)、4,4’,4’’−トリス(9−カルバゾリル)トリフェニルアミン、4,4’−ビス(9−カルバゾリル)−2,2’−ジメチルビフェニル等のカルバリゾル基含有化合物、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0039】
【化3】

【0040】
前述したような発光材料(ゲスト材料)およびホスト材料を用いる場合、第1の発光層42中における発光材料の含有量(ドープ量)は、0.1〜30wt%であるのが好ましく、0.5〜20wt%であるのがより好ましい。発光材料の含有量をこのような範囲内とすることで、発光効率を最適化することができる。
また、第1の発光層42の発光材料としては、蛍光材料を用いるのが好ましい。すなわち、第1の発光層42は、陽極3と陰極7との間に通電することにより蛍光を発する発光材料を含むのが好ましい。
【0041】
燐光を発する発光材料(燐光材料)は、蛍光を発光する発光材料(蛍光材料)に比し優れた発光効率を有する。しかし、燐光材料は、不純物に対して発光特性の変化が敏感であり、発光素子の連続駆動に伴って不純物の含有量が変化すると、発光特性が変動してしまうという。そこで、第1の発光層42の発光材料として、燐光材料よりも不純物に対する発光特性の変化が鈍感な蛍光材料を用いることにより、発光素子1の連続駆動に伴って第1の発光層42へn型電子輸送層51の構成材料が拡散しても、第1の発光層42の発光特性の変化を抑えることができる。
【0042】
また、第1の発光層42の発光のピーク波長は、後述する第2の発光層62の発光のピーク波長よりも短いのが好ましい。言い換えると、第2の発光層62の発光のピーク波長は、第1の発光層42の発光のピーク波長よりも長いのが好ましい。これにより、第1の発光層42および第2の発光層62をバランスよく発光させることができる。
また、第1の発光層42の発光のピーク波長は、500nm以下であるのが好ましく、400nm以上490nm以下であるのがより好ましく、430nm以上480nm以下であるのがさらに好ましい。言い換えると、第1の発光層42の発光色は、青色であるのが好ましい。
【0043】
発光のピーク波長が短い発光材料は、発光のピーク波長が長い発光材料に比べて発光し難いが、他の発光層と隣接しない第1の発光層42では、発光のピーク波長が短い発光材料を用いても、他の発光層へエネルギーが逃げにくく、効率的に発光させることができる。
また、第1の発光層42の平均厚さは、30nm以上100nm以下であるのが好ましく、30nm以上70nm以下であるのがより好ましく、30nm以上50nm以下であるのがさらに好ましい。これにより、後述するキャリア発生層5のn型電子輸送層51の構成材料(特に、電子ドナー性材料)が第1の発光層42へ拡散しても、第1の発光層42の発光特性を良好な状態に維持することができる。また、第1の発光層42の厚さが厚くなりすぎるのを防止し、その結果、発光素子1の初期の駆動電圧が大きくなるのを防止することができる。すなわち、発光素子1の低駆動電圧化を図ることができる。
【0044】
なお、本実施形態では、第1の発光層42が1層の発光層を備えるものを例に説明しているが、第1の発光層42は、複数の発光層が積層されてなる積層体であってもよい。この場合、複数の発光層の発光色が互いに同じであっても異なっていてもよい。また、第1の発光層42が複数の発光層を有する場合、発光層同士の間に中間層が設けられていてもよい。
また、本実施形態では、第1の発光層42が、キャリア発生層5が有するn型電子輸送層51と接触する場合について説明したが、かかる構成に限らず、これらの間には、電子輸送層が設けられていてよい。電子輸送層を設ける構成とする場合、この電子輸送層としては、後述する電子輸送層65と同様のものとすることができる。
【0045】
[キャリア発生層]
キャリア発生層5は、キャリア(正孔および電子)を発生させる機能を有するものである。
このキャリア発生層5は、陽極3側から陰極7側へ、n型電子輸送層51と電子吸引層52とがこの順で積層されてなるものである。
【0046】
すなわち、キャリア発生層5は、互いに接触する、第1の発光層42側に設けられたn型電子輸送層51と、第2の発光層62側に設けられた電子吸引層52とで構成されるものである。
また、キャリア発生層5の平均厚さは、5nm以上、80nm以下であることが好ましく、20nm以上、70nm以下であることがより好ましい。これにより、発光素子1の駆動電圧が高くなるのを防止しつつ、キャリア発生層5の機能(キャリア発生機能)を十分に発揮させることができる。
【0047】
以下、キャリア発生層5を構成する各層を順次詳細に説明する。
(n型電子輸送層)
n型電子輸送層51は、前述した第1の発光層42と電子吸引層52との間に設けられ、電子吸引層52側から第1の発光層42側へ電子を輸送する機能を有する。
このようなn型電子輸送層51は、本発明では、電子輸送性を有する電子輸送性材料を主材料として構成され、かつ、かかる電子輸送性材料の他、電子注入性を有する電子注入性材料(電子ドナー性材料)を含む混合材料で構成されるものである。
【0048】
かかる構成のn型電子輸送層51を備えることで、すなわち、電子輸送性材料および電子ドナー性材料の双方を含有する構成とすることで、n型電子輸送層51は、特に優れた電子輸送性および電子注入性を発揮するため、低電圧による駆動であっても、電子吸引層52によって吸引された電子をn型電子輸送層51に効率的に注入するとともにn型電子輸送層51を介して陽極3側に効率的に輸送することができる。その結果、発光素子1の発熱を比較的低い温度範囲に抑制することができる。
また、n型電子輸送層51が電子輸送性材料に電子ドナー性材料を添加(ドープ)して構成されているため、n型電子輸送層51では、電子輸送性材料が電子ドナー性材料から電子を受け取って、ラジカルアニオン状態となる。その結果、キャリア発生層5のキャリア発生量が増大することになる。
【0049】
n型電子輸送層51に用いる電子輸送性材料としては、例えば、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)等の8−キノリノールなしいその誘導体を配位子とする有機金属錯体などのキノリン誘導体、1,3−ビス(N,N−t−ブチル−フェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(OXD−7)のようなオキサジアゾール誘導体、ペリレン誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、キノキサリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
また、n型電子輸送層51に用いる電子注入性材料(電子ドナー性材料)としては、例えば、各種の無機絶縁材料、各種の無機半導体材料が挙げられる。
このような無機絶縁材料としては、例えば、アルカリ金属カルコゲナイド(酸化物、硫化物、セレン化物、テルル化物)、アルカリ土類金属カルコゲナイド、アルカリ金属のハロゲン化物およびアルカリ土類金属のハロゲン化物等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。このような無機絶縁材料は、優れた電子注入性を有するため、キャリア発生層5で生じた電子を第1の発光層42へ効率的に注入することができる。その結果、低電圧での電子の注入が可能となるため、発光素子1の定電流での連続駆動によっても、発光素子1の発熱を比較的低い温度範囲に抑制することができる。
【0051】
アルカリ金属カルコゲナイドとしては、例えば、LiO、LiO、NaS、NaSe、NaO等が挙げられる。
アルカリ土類金属カルコゲナイドとしては、例えば、CaO、BaO、SrO、BeO、BaS、MgO、CaSe等が挙げられる。
アルカリ金属のハロゲン化物としては、例えば、CsF、LiF、NaF、KF、LiCl、KCl、NaCl等が挙げられる。
アルカリ土類金属のハロゲン化物としては、例えば、CaF、BaF、SrF、MgF、BeF等が挙げられる。
【0052】
また、無機半導体材料としては、例えば、Li、Na、Ba、Ca、Sr、Yb、Al、Ga、In、Cd、Mg、Si、Ta、SbおよびZnのうちの少なくとも1つの元素を含む酸化物、窒化物または酸化窒化物等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
さらに、n型電子輸送層51に用いる電子注入性材料(電子ドナー性材料)としては、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物のうちの1種または2種以上を組み合わせて用いるのが好ましく、特に、LiOを用いるのがより好ましい。これにより、n型電子輸送層51の電子輸送性を優れたものとしつつ、n型電子輸送層51の電子注入性をより向上させることができる。さらに、アルカリ金属化合物(アルカリ金属カルコゲナイド、アルカリ金属のハロゲン化物等)は仕事関数が非常に小さく、これを用いてn型電子輸送層51を構成することにより、発光素子1は、高い輝度が得られるものとなる。特に、LiOは、低電圧での電子の注入がより容易に行われるため、発光素子1の定電流での連続駆動によっても、発光素子1の発熱をさらに低い温度範囲に抑制することができる。
【0053】
また、かかる構成のn型電子輸送層51は、正孔をブロックする機能をも有する。
なお、電子輸送性材料および電子注入性材料を含むn型電子輸送層51は、例えば、電子輸送性材料をホスト材料とし、電子注入性材料をゲスト材料として、共蒸着等により電子輸送性材料に電子注入性材料をドープすることにより形成することができる。
また、n型電子輸送層51中における電子注入性材料の含有量(ドープ量)は、1.0wt%以上、5.0wt%以下であるのが好ましく、1.5wt%以上、3.0wt%以下であるのがより好ましい。電子注入性材料の含有量をこのような範囲内とすることで、n型電子輸送層51の電子輸送性および電子注入性の双方をバランスよく優れたものとすることができる。また、第1の発光層42および第2の発光層62への電子注入性材料の拡散を的確に抑制することができるようになる。
【0054】
さらに、n型電子輸送層51中における電子ドナー性材料(電子注入性材料)の濃度は、陰極7側から陽極3側に向けて漸減していると、キャリア発生層5で生じた電子を第1の発光層42へ効率的に輸送・注入するとともに、n型電子輸送層51中の電子ドナー性材料が第1の発光層42へ拡散する量を抑えて発光素子1の長寿命化を図ることができる。この場合、電子ドナー性材料の濃度は、段階的に変化していてもよいし、連続的に変化していてもよい。
また、n型電子輸送層51の平均厚さは、特に限定されないが、10nm以上、100nm以下であるのが好ましく、10nm以上、50nm以下であるのがより好ましい。これにより、電子吸引層52によって吸引された電子を効率的に陽極3側へ輸送することができるとともに、第1の発光部4を通過した正孔をブロックすることができる。
【0055】
(電子吸引層)
電子吸引層(電子引き抜き層)52は、第1の発光層42と第2の発光層62との間に設けられ、陰極7側に隣接する層(本実施形態では、第2の発光部6の正孔輸送層61)から電子を吸引する(引き抜く)機能を有する。電子吸引層52によって吸引された電子は、陽極3側に隣接する層(n型電子輸送層51)に注入される。
このような電子吸引層52は、本発明では、電子吸引性を有する有機化合物(電子吸引性材料)を主材料として構成され、かつ、かかる有機化合物の他、電子注入性を有する電子注入性材料を含む混合材料で構成されるものである。
【0056】
電子吸引層52に用いる電子吸引性を有する有機化合物としては、芳香環を有する有機シアン化合物(以下、「芳香環含有有機シアン化合物」とも言う)が好適に用いられる。
芳香環含有有機シアン化合物は、優れた電子吸引性を有している。そのため、芳香環を有する有機シアン化合物を含んで電子吸引層52を構成することにより、キャリア発生層5の正孔および電子の発生量を多くすることができる。
【0057】
芳香環含有有機シアン化合物を主材料とする電子吸引層52は、隣接する層(正孔輸送層61)と接触することにより、正孔輸送層61を構成する正孔輸送材料から電子を引き抜くことができる。これにより、電子吸引層52と正孔輸送層61とが接触すると、印加されていなくても、電子吸引層52と正孔輸送層61との界面付近において、電子吸引層52側には電子が発生し、正孔輸送層61側には正孔が発生する。このような状態で、陽極3と陰極7との間に駆動電圧を印加すると、電子吸引層52と正孔輸送層61との界面付近で発生した正孔は、その駆動電圧により陰極7側に輸送されて、第2の発光部6(具体的には、第2の発光層62および第3の発光層63)の発光に寄与する。また、電子吸引層52と正孔輸送層61との界面付近で発生した電子は、その駆動電圧により陽極3側に輸送されて、第1の発光部4(具体的には、第1の発光層42)の発光に寄与する。また、上述したような電子吸引層52による正孔および電子の発生は、駆動電圧が印加されている最中には継続的に行われ、これらの正孔および電子は、第1の発光層42、第2の発光層62および第3の発光層63の発光に寄与する。
【0058】
また、芳香環含有有機シアン化合物は、比較的安定な化合物であるとともに、蒸着等の気相成膜法で容易に電子吸引層52を形成できる化合物である。このため、好適に発光素子1の製造に用いることができ、製造される発光素子1の品質が安定しやすくなるとともに、発光素子1の歩留まりが高いものとなる。さらに、低電圧での電子吸引層52における電荷の発生が可能となるため、発光素子1の定電流での連続駆動によっても、発光素子1の発熱を比較的低い温度範囲に抑制することができる。
このような芳香環含有有機シアン化合物としては、前述したような機能を発揮し得るものであれば、特に限定されないが、例えば、シアノ基が導入されたヘキサアザトリフェニレン誘導体であるのが好ましく、下記式(4)で表わされるようなヘキサアザトリフェニレン誘導体を用いるのがより好ましい。
【0059】
【化4】

【0060】
上記式(4)中、R1〜R6は、それぞれ独立して、シアノ基(−CN)、スルホン基(−SOR’)、スルホキシド基(−SOR’)、スルホンアミド基(−SONR’)、スルホネート基(−SOR’)、ニトロ基(−NO)、またはトリフルオロメタン(−CF)基であり、R1〜R6のうち少なくとも一つの置換基はシアノ基を有する。また、R’は、アミン基、アミド基、エーテル基、もしくはエステル基で置換されているかまたは非置換である炭素数1〜60のアルキル基、アリール基、または複素環基である。
このような化合物は、電子吸引性に優れている。そのため、このような化合物を用いて構成された電子吸引層52は、隣接する層(正孔輸送層61)から十分に電子を引き抜くことができるとともに、好適に引き抜いた電子を陽極3側に輸送することができる。
【0061】
特に、芳香環含有有機シアン化合物としては、前述したような式(4)に示す化合物において、R1〜R6はすべてシアノ基であるのが好ましい。すなわち、芳香環含有有機シアン化合物としては、下記式(5)で表わされるようなヘキサシアノヘキサアザトリフェニレンを用いるのが好ましい。このような化合物は、電子吸引性の高いシアノ基を複数有する。そのため、このような化合物を用いて構成された電子吸引層52は、隣接する層の構成材料(正孔輸送層61の正孔輸送材料等)からより効率よく電子を引き抜くことができ、キャリア(電子および正孔)の発生量を多くすることができる。
【0062】
【化5】

【0063】
また、芳香環含有有機シアン化合物は、電子吸引層52において、非晶質の状態で存在していることが好ましい。これにより、上述したような芳香環含有有機シアン化合物を用いることにより得られる効果をより顕著に発揮させることができる。
また、電子吸引層52に用いる電子注入性材料(電子ドナー性材料)としては、上述したn型電子輸送層51に用いる電子注入性材料と同様の各種の無機絶縁材料および各種の無機半導体材料を用いることができる。
【0064】
さらに、電子吸引層52中における電子注入性材料の含有量(ドープ量)は、0.5wt%以上、10wt%以下であるのが好ましく、2.0wt%以上、7.0wt%以下であるのがより好ましい。電子注入性材料の含有量をこのような範囲内とすることで、第1の発光層42および第2の発光層62への電子注入性材料の拡散を的確に抑制することができるようになる。
なお、電子吸引層52の平均厚さは、5〜40nmであることが好ましく、10〜30nmであることがより好ましい。これにより、発光素子1の駆動電圧が高くなるのを防止しつつ、前述したような電子吸引層52の機能(電子吸引性)を十分に発揮させることができる。
【0065】
さて、かかる構成のキャリア発生層5において、本発明では、上述したように、n型電子輸送層51と、電子吸引層52との双方に、電子注入性材料(電子ドナー性材料)が含まれている。本発明者の検討により、キャリア発生層5を、n型電子輸送層51と電子吸引層52との双方に、電子注入性材料を含有する構成とすること、すなわち、n型電子輸送層51と電子吸引層52との双方を、これら層中に電子注入性材料が拡散している構成とすることで、長時間の使用に伴う発光素子1の発熱によっても、発光素子1の高抵抗化に起因する、駆動電圧の上昇を的確に抑制または防止し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
また、本実施形態では、n型電子輸送層51が第1の発光層42に接する構成となっており、かかる構成とすることに起因して、n型電子輸送層51中の電子注入性材料が第1の発光層42に拡散するのを防止または抑制することができる。そのため、前記効果をより顕著に発揮させることができる。
【0066】
さらに、n型電子輸送層51に含まれる電子注入性材料と、電子吸引層52に含まれる電子注入性材料とは、異なるものであってもよいが、同種のものであるのが好ましく、同一のものであるのがより好ましい。これにより、低電圧でのキャリア発生層5における電荷の発生が可能となるため、発光素子1の定電流での連続駆動によっても、発光素子1の発熱を比較的低い温度範囲に抑制することができる。
【0067】
また、電子吸引層52における電子注入性材料の含有量は、n型電子輸送層51における電子注入性材料の含有量よりも多くなっているのが好ましい。かかる関係を満足することにより、キャリア発生層5中における電荷(特に、電子)の移動をより円滑に行うことができるようになる。さらに、n型電子輸送層51から第1の発光層42への電子注入性材料の拡散が抑制されると推察される。
【0068】
[第2の発光部]
第2の発光部6は、上述したように、正孔輸送層61と第2の発光層62と第3の発光層63と正孔ブロック層(中間層)64と電子輸送層65とを有している。
かかる構成の第2の発光部6において、第2の発光層62および第3の発光層63に対して、正孔輸送層61側から正孔が正孔ブロック層64側から電子が、それぞれ供給(注入)されると、第2の発光層62および第3の発光層63では、正孔と電子とが再結合し、この再結合に際して放出されたエネルギーによりエキシトン(励起子)が生成し、エキシトンが基底状態に戻る際にエネルギー(蛍光やりん光)を放出するため、第2の発光層62および第3の発光層63がそれぞれ発光する。
【0069】
以下、かかる第2の発光部6を構成する各層について、順次、説明する。
(正孔輸送層)
正孔輸送層61は、キャリア発生層5(電子吸引層52)から注入された正孔を第2の発光層62まで輸送する機能を有する。また、正孔輸送層61は、第2の発光層62を通過した電子をブロックすることにより、電子がキャリア発生層5に届いてキャリア発生層5が劣化するのを防止する機能をも有している。
【0070】
特に、正孔輸送層61は、第2の発光層62と前述したキャリア発生層5との間に、キャリア発生層5に接するように設けられている。
これにより、前述したように、電子吸引層52が、正孔輸送層61から効率的に電子を吸引することができる。その結果、キャリア発生層5の正孔および電子の発生量を多くすることができる。
【0071】
この正孔輸送層61の構成材料には、上述した、正孔輸送層41と同様の構成材料を用いることができる。
特に、上述した中でも、正孔輸送層61を構成する正孔輸送材料としては、アミン系化合物が好ましく、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ジフェニル−4,4’−ジアミン(NPD)であることがより好ましい。このような化合物は、キャリア発生層5(電子吸引層52)と接触することにより、電子が素早く引き抜かれ、正孔が発生して注入される。
このような正孔輸送層61の平均厚さは、特に限定されないが、10nm以上、150nm以下であるのが好ましく、10nm以上、100nm以下であるのがより好ましい。これにより、第2の発光層62に正孔を好適に輸送することができるとともに、第2の発光層62を通過した電子を好適にブロックすることができる。
【0072】
(第2の発光層)
この第2の発光層62は、発光材料を含んで構成されている。
このような発光材料としては、特に限定されず、上述した第1の発光層42と同様の発光材料を用いることができる。なお、第2の発光層62に用いる発光材料は、第1の発光層42の発光材料と同一であってもよいし、異なるものであってもよい。また、第2の発光層62の発光色は、前述した第1の発光層42の発光色と同じであっても異なっていてもよい。
【0073】
また、第2の発光層62は、発光材料に加え、この発光材料がゲスト材料として添加されるホスト材料とを含んで構成されていてもよい。
前述したような発光材料(ゲスト材料)およびホスト材料を用いる場合、第2の発光層62中における発光材料の含有量(ドープ量)は、0.1wt%以上、10wt%以下であるのが好ましく、0.5wt%以上、5wt%以下であるのがより好ましい。発光材料の含有量をこのような範囲内とすることで、発光効率を最適化することができる。
また、第2の発光層62の発光材料としては、燐光材料を用いるのが好ましい。すなわち、第2の発光層62は、陽極3と陰極7との間に通電することにより燐光を発する発光材料を含むのが好ましい。
【0074】
発光素子1の連続駆動に伴う不純物の拡散がないあるいは少ない第2の発光層62の発光材料として、燐光材料を用いることにより、第2の発光層62を効率的に発光させ、その結果、発光素子1の発光効率を向上させることができる。
また、第2の発光層62の発光のピーク波長は、前述した第1の発光層42の発光のピーク波長よりも長いのが好ましい。これにより、第1の発光層42および第2の発光層62をバランスよく発光させることができる。
【0075】
また、第2の発光層62の平均厚さは、特に限定されないが、5nm以上、50nm以下であるのが好ましく、5nm以上、40nm以下であるのがより好ましく、5nm以上、30nm以下であるのがさらに好ましい。これにより、発光素子1の駆動電圧を抑えるとともに、第2の発光層62を効率的に発光させることができる。特に、本実施形態のように第2の発光層62と第3の発光層63とが積層されている場合において、第2の発光層62の厚さを比較的薄くすることにより、正孔および電子の再結合を生じる再結合領域内に、第2の発光層62および第3の発光層63の双方を存在させ、これらをバランスよく発光させることができる。
【0076】
(第3の発光層)
この第3の発光層63は、発光材料を含んで構成されている。
本実施形態では、第3の発光層63は、前述した第2の発光層62に接している。これにより、第2の発光部6における正孔および電子の再結合領域内に第2の発光層62および第3の発光層63の双方を簡単に存在させることができる。そのため、第2の発光層62および第3の発光層63の双方を簡単に発光させることができる。
【0077】
このような発光材料としては、特に限定されず、上述した第1の発光層42と同様の発光材料を用いることができる。なお、第3の発光層63に用いる発光材料は、第1の発光層42の発光材料と同一であってもよいし、異なるものであってもよい。また、第3の発光層63に用いる発光材料は、第2の発光層62の発光材料と同一であってもよいし、異なるものであってもよい。また、第3の発光層63の発光色は、前述した第1の発光層42の発光色と同じであっても異なっていてもよい。また、第3の発光層63の発光色は、前述した第2の発光層62の発光色と同じであっても異なっていてもよい。
【0078】
また、第3の発光層63は、発光材料に加え、この発光材料がゲスト材料として添加されるホスト材料とを含んで構成されていてもよい。
前述したような発光材料(ゲスト材料)およびホスト材料を用いる場合、第3の発光層63中における発光材料の含有量(ドープ量)は、0.1wt%以上、30wt%以下であるのが好ましく、0.5wt%以上、20wt%以下であるのがより好ましい。発光材料の含有量をこのような範囲内とすることで、発光効率を最適化することができる。
【0079】
また、第3の発光層63の発光材料としては、燐光材料を用いるのが好ましい。すなわち、第3の発光層63は、陽極3と陰極7との間に通電することにより燐光を発する発光材料を含むのが好ましい。
このように、発光素子1の連続駆動に伴う不純物の拡散がないあるいは少ない第3の発光層63の発光材料として、燐光材料を用いることにより、第3の発光層63を効率的に発光させ、その結果、発光素子1の発光効率を向上させることができる。
【0080】
また、第3の発光層63の発光のピーク波長は、前述した第1の発光層42の発光のピーク波長よりも長いのが好ましい。これにより、第1の発光層42、第2の発光層62および第3の発光層63をバランスよく発光させることができる。
さらに、第3の発光層63の発光のピーク波長は、第2の発光層62の発光のピーク波長よりも短いのが好ましい。これにより、第1の発光層42、第2の発光層62および第3の発光層63をよりバランスよく発光させることができる。
かかる観点から、第1の発光層42の発光色が青色である場合、第2の発光層62の発光色および第3の発光層63の発光色は、それぞれ、赤色および緑色であるのが好ましい。
【0081】
また、第3の発光層63の平均厚さは、特に限定されないが、5nm以上、50nm以下であるのが好ましく、5nm以上、40nm以下であるのがより好ましく、5nm以上、30nm以下であるのがさらに好ましい。これにより、発光素子1の駆動電圧を抑えるとともに、第3の発光層63を効率的に発光させることができる。特に、本実施形態のように第2の発光層62と第3の発光層63とが積層されている場合において、第3の発光層63の厚さを比較的薄くすることにより、正孔および電子の再結合を生じる再結合領域内に、第2の発光層62および第3の発光層63の双方を存在させ、これらをバランスよく発光させることができる。
【0082】
なお、本実施形態では、第2の発光部6が2層の発光層(すなわち第2の発光層62および第3の発光層63)を備える場合を例に説明しているが、第2の発光部6は、1層の発光層を有するものであってもよい。すなわち、第2の発光部6において、第2の発光層62および第3の発光層63のうちのいずれか一方の発光層を省略してもよい。また、第2の発光部6は、3層以上の発光層を有するものであってもよい。すなわち、第2の発光部6において、前述した第2の発光層62および第3の発光層63に加えて、他の1層以上の発光層を有していてもよい。また、第2の発光部6が複数の発光層を有する場合、複数の発光層の発光色が互いに同じであっても異なっていてもよい。また、第2の発光部6が複数の発光層を有する場合、発光層同士の間には、中間層が設けられていてもよい。
【0083】
(正孔ブロック層)
正孔ブロック層64は、正孔をブロックする機能を有する。これにより、前述した第3の発光層63から電子輸送層65へ正孔が輸送されるのを防止することができる。そのため、電子輸送層65が正孔により劣化するのを防止することができる。また、正孔ブロック層64は、電子を輸送する機能を有する。これにより、後述する電子輸送層65から受け取った電子を第3の発光層63へ輸送することができる。
【0084】
このような正孔ブロック層64の構成材料としては、例えば、3−フェニル−4−(1’−ナフチル)−5−フェニルカルバゾール、4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル(CBP)等のカルバゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、トリアゾール誘導体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)、ビス−(2−メチル−8−キノリノラト)−4−(フェニルフェノラト)アルミニウム等のキノリノラト系金属錯体、N−ジカルバゾリル−3,5−ベンゼン、ポリ(9−ビニルカルバゾール)、4,4’,4’’−トリス(9−カルバゾリル)トリフェニルアミン、4,4’−ビス(9−カルバゾリル)−2,2’−ジメチルビフェニル等のカルバリゾル基含有化合物、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0085】
また、正孔ブロック層64の平均厚さは、特に限定されないが、1nm以上、50nm以下であるのが好ましく、3nm以上、30nm以下であるのがより好ましく、5nm以上、20nm以下であるのがさらに好ましい。
なお、この正孔ブロック層64は、第2の発光層62、第3の発光層63および電子輸送層65の構成によっては、省略してもよい。
【0086】
(電子輸送層)
電子輸送層65は、陰極7から注入された電子を正孔ブロック層64第2の発光層62に輸送する機能を有するものである。
電子輸送層65の構成材料(電子輸送性材料)としては、例えば、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)等の8−キノリノールなしいその誘導体を配位子とする有機金属錯体などのキノリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ペリレン誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、キノキサリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
電子輸送層65の平均厚さは、特に限定されないが、10nm以上、100nm以下であるのが好ましく、10nm以上、50nm以下であるのがより好ましい。
【0087】
[陰極]
陰極7は、前述した第2の発光部6に電子を注入する電極である。この陰極7の構成材料としては、仕事関数の小さい材料を用いるのが好ましい。
陰極7の構成材料としては、例えば、Li、Mg、Ca、Sr、La、Ce、Er、Eu、Sc、Y、Yb、Ag、Cu、Al、Cs、Rbまたはこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて(例えば、複数層の積層体等)用いることができる。
【0088】
特に、陰極7の構成材料として合金を用いる場合には、Ag、Al、Cu等の安定な金属元素を含む合金、具体的には、MgAg、AlLi、CuLi等の合金を用いるのが好ましい。かかる合金を陰極7の構成材料として用いることにより、陰極7の電子注入効率および安定性の向上を図ることができる。
このような陰極7の平均厚さは、特に限定されないが、100nm以上、400nm以下であるのが好ましく、100nm以上、200nm以下であるのがより好ましい。
なお、本実施形態の発光素子1は、ボトムエミッション型であるため、陰極7に、光透過性は、特に要求されない。
【0089】
[電子注入層]
なお、電子輸送層65と陰極7との間には、電子注入層が設けられていてもよい。
電子注入層を備える構成とすることにより、陰極7から電子輸送層65への電子注入効率を向上させることができる。
この電子注入層の構成材料(電子注入性材料)としては、例えば、各種の無機絶縁材料、各種の無機半導体材料が挙げられる。
【0090】
このような無機絶縁材料としては、例えば、アルカリ金属カルコゲナイド(酸化物、硫化物、セレン化物、テルル化物)、アルカリ土類金属カルコゲナイド、アルカリ金属のハロゲン化物およびアルカリ土類金属のハロゲン化物等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらを主材料として電子注入層を構成することにより、電子注入性をより向上させることができる。特にアルカリ金属化合物(アルカリ金属カルコゲナイド、アルカリ金属のハロゲン化物等)は仕事関数が非常に小さく、これを用いて電子注入層を構成することにより、発光素子1は、高い輝度が得られるものとなる。
【0091】
アルカリ金属カルコゲナイドとしては、例えば、LiO、LiO、NaS、NaSe、NaO等が挙げられる。
アルカリ土類金属カルコゲナイドとしては、例えば、CaO、BaO、SrO、BeO、BaS、MgO、CaSe等が挙げられる。
アルカリ金属のハロゲン化物としては、例えば、CsF、LiF、NaF、KF、LiCl、KCl、NaCl等が挙げられる。
アルカリ土類金属のハロゲン化物としては、例えば、CaF、BaF、SrF、MgF、BeF等が挙げられる。
【0092】
また、無機半導体材料としては、例えば、Li、Na、Ba、Ca、Sr、Yb、Al、Ga、In、Cd、Mg、Si、Ta、SbおよびZnのうちの少なくとも1つの元素を含む酸化物、窒化物または酸化窒化物等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
電子注入層の平均厚さは、特に限定されないが、0.1nm以上、1000nm以下であるのが好ましく、0.2nm以上、100nm以下であるのがより好ましく、0.2以上、50nm以下であるのがさらに好ましい。
【0093】
[封止部材]
封止部材8は、陽極3、積層体15、および陰極7を覆うように設けられ、これらを気密的に封止し、酸素や水分を遮断する機能を有する。封止部材8を設けることにより、発光素子1の信頼性の向上や、変質・劣化の防止(耐久性向上)等の効果が得られる。
封止部材8の構成材料としては、例えば、Al、Au、Cr、Nb、Ta、Tiまたはこれらを含む合金、酸化シリコン、各種樹脂材料等を挙げることができる。なお、封止部材8の構成材料として導電性を有する材料を用いる場合には、短絡を防止するために、封止部材8と陽極3、積層体15、および陰極7との間には、必要に応じて、絶縁膜を設けるのが好ましい。
また、封止部材8は、平板状として、基板2と対向させ、これらの間を、例えば熱硬化性樹脂等のシール材で封止するようにしてもよい。
【0094】
以上のように構成された発光素子1によれば、陽極3と陰極7との間で電圧を印加することにより、キャリア発生層5で正孔および電子が発生する。発生した電子は、第1の発光層42に輸送され、陽極3から注入された正孔と再結合することにより、発光に寄与する。また、発生した正孔は、第2の発光層62および第3の発光層63に輸送され、陰極7から注入された電子と再結合することにより、発光に寄与する。
【0095】
これにより、発光素子1は、第1の発光層42、第2の発光層62および第3の発光層63をそれぞれ発光させることができるので、発光層が1層のみの発光素子に比較して、発光効率を向上させるとともに、駆動電圧を低減することができる。
特に、発光素子1では、キャリア発生層5が備えるn型電子輸送層51と電子吸引層52との双方が電子注入性材料を含有する構成となっているので、長時間の使用に伴う発光素子1の発熱によっても、発光素子1の高抵抗化に起因する、駆動電圧の上昇を的確に抑制または防止することができる。
【0096】
(発光素子の製造方法)
以上のように構成された発光素子1は、例えば、次のようにして製造することができる。
[1] まず、基板2を用意し、この基板2上に陽極3を形成する。
陽極3は、例えば、プラズマCVD、熱CVDのような化学蒸着法(CVD)、真空蒸着等の乾式メッキ法、電解メッキ等の湿式メッキ法、溶射法、ゾル・ゲル法、MOD法、金属箔の接合等を用いて形成することができる。
【0097】
[2] 次に、陽極3上に第1の発光部4を形成する。
第1の発光部4は、正孔輸送層41および第1の発光層42を順次陽極3上に形成することにより設けることができる。
上述したような各層は、例えば、CVD法や、真空蒸着、スパッタリング等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセスにより形成することができる。
【0098】
また、各層の構成材料を溶媒に溶解または分散媒に分散してなる液体材料を、陽極3(またはその上の層)上に供給した後、乾燥(脱溶媒または脱分散媒)することによっても形成することができる。
液状材料の供給方法としては、例えば、スピンコート法、ロールコート法、インクジェット印刷法等の各種塗布法を用いることもできる。かかる塗布法を用いることにより、第1の発光部4を構成する各層を比較的容易に形成することができる。
【0099】
液状材料の調製に用いる溶媒または分散媒としては、例えば、各種無機溶媒や、各種有機溶媒、または、これらを含む混合溶媒等が挙げられる。
なお、乾燥は、例えば、大気圧または減圧雰囲気中での放置、加熱処理、不活性ガスの吹付け等により行うことができる。
また、本工程に先立って、陽極3の上面には、酸素プラズマ処理を施すようにしてもよい。これにより、陽極3の上面に親液性を付与すること、陽極3の上面に付着する有機物を除去(洗浄)すること、陽極3の上面付近の仕事関数を調整すること等を行うことができる。
ここで、酸素プラズマ処理の条件としては、例えば、プラズマパワー100〜800W程度、酸素ガス流量50〜100mL/min程度、被処理部材(陽極3)の搬送速度0.5〜10mm/sec程度、基板2の温度70〜90℃程度とするのが好ましい。
【0100】
[3] 次に、第1の発光部4上にキャリア発生層5を形成する。
キャリア発生層5は、第1の発光部4上にn型電子輸送層51および電子吸引層52を順次積層することにより形成することができる。
キャリア発生層5を構成する各層は、例えば、CVD法や、真空蒸着、スパッタリング等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセスにより形成することができる。
また、キャリア発生層5を構成する層の材料を溶媒に溶解または分散媒に分散してなる材料を、第1の発光部4上に供給した後、乾燥(脱溶媒または脱分散媒)することによっても形成することができる。
【0101】
[4] 次にキャリア発生層5上に第2の発光部6を形成する。
第2の発光部6は、第1の発光部4と同様にして形成することができる。
[5] 次に、第2の発光部6上に、陰極7を形成する。
陰極7は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、金属箔の接合、金属微粒子インクの塗布および焼成等を用いて形成することができる。
以上のような工程を経て、発光素子1が得られる。
最後に、得られた発光素子1を覆うように封止部材8を被せ、基板2に接合する。
【0102】
以上説明したような発光素子1は、例えば光源等として使用することができる。また、複数の発光素子1をマトリックス状に配置することにより、ディスプレイ装置(本発明の表示装置)を構成することができる。
なお、ディスプレイ装置の駆動方式としては、特に限定されず、アクティブマトリックス方式、パッシブマトリックス方式のいずれであってもよい。
【0103】
(表示装置)
次に、本発明の表示装置を適用したディスプレイ装置の一例について説明する。
図2は、本発明の表示装置を適用したディスプレイ装置の実施形態を示す縦断面図である。
図2に示すディスプレイ装置100は、基板21と、サブ画素100R、100G、100Bに対応して設けられた複数の発光素子1R、1G、1Bおよびカラーフィルタ19R、19G、10Bと、各発光素子1R、1G、1Bをそれぞれ駆動するための複数の駆動用トランジスタ24とを有している。ここで、ディスプレイ装置100は、トップエミッション構造のディスプレイパネルである。
【0104】
基板21上には、複数の駆動用トランジスタ24が設けられ、これらの駆動用トランジスタ24を覆うように、絶縁材料で構成された平坦化層22が形成されている。
各駆動用トランジスタ24は、シリコンからなる半導体層241と、半導体層241上に形成されたゲート絶縁層242と、ゲート絶縁層242上に形成されたゲート電極243と、ソース電極244と、ドレイン電極245とを有している。
平坦化層上には、各駆動用トランジスタ24に対応して発光素子1R、1G、1Bが設けられている。
【0105】
発光素子1Rは、平坦化層22上に、反射膜32、腐食防止膜33、陽極3、積層体(有機EL発光部)15、陰極7、陰極カバー34がこの順に積層されている。本実施形態では、各発光素子1R、1G、1Bの陽極3は、画素電極を構成し、各駆動用トランジスタ24のドレイン電極245に導電部(配線)27により電気的に接続されている。また、各発光素子1R、1G、1Bの陰極7は、共通電極とされている。
なお、発光素子1G、1Bの構成は、発光素子1Rの構成と同様である。また、図2では、図1と同様の構成に関しては、同一符号を付してある。また、反射膜32の構成(特性)は、光の波長に応じて、発光素子1R、1G、1B間で異なっていてもよい。
【0106】
隣接する発光素子1R、1G、1B同士の間には、隔壁31が設けられている。また、これらの発光素子1R、1G、1B上には、これらを覆うように、エポキシ樹脂で構成されたエポキシ層35が形成されている。
カラーフィルタ19R、19G、19Bは、前述したエポキシ層35上に、発光素子1R、1G、1Bに対応して設けられている。
【0107】
カラーフィルタ19Rは、発光素子1Rからの白色光Wを赤色に変換するものである。また、カラーフィルタ19Gは、発光素子1Gからの白色光Wを緑色に変換するものである。また、カラーフィルタ19Bは、発光素子1Bからの白色光Wを青色に変換するものである。このようなカラーフィルタ19R、19G、19Bを発光素子1R、1G、1Bと組み合わせて用いることで、フルカラー画像を表示することができる。
【0108】
また、隣接するカラーフィルタ19R、19G、19B同士の間には、遮光層36が形成されている。これにより、意図しないサブ画素100R、100G、100Bが発光するのを防止することができる。
そして、カラーフィルタ19R、19G、19Bおよび遮光層36上には、これらを覆うように封止基板20が設けられている。
以上説明したようなディスプレイ装置100は、単色表示であってもよく、各発光素子1R、1G、1Bに用いる発光材料を選択することにより、カラー表示も可能である。
【0109】
このようなディスプレイ装置100(本発明の表示装置)は、各種の電子機器に組み込むことができる。
図3は、本発明の電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
この図において、パーソナルコンピュータ1100は、キーボード1102を備えた本体部1104と、表示部を備える表示ユニット1106とにより構成され、表示ユニット1106は、本体部1104に対しヒンジ構造部を介して回動可能に支持されている。
このパーソナルコンピュータ1100において、表示ユニット1106が備える表示部が前述のディスプレイ装置100で構成されている。
【0110】
図4は、本発明の電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
この図において、携帯電話機1200は、複数の操作ボタン1202、受話口1204および送話口1206とともに、表示部を備えている。
携帯電話機1200において、この表示部が前述のディスプレイ装置100で構成されている。
【0111】
図5は、本発明の電子機器を適用したディジタルスチルカメラの構成を示す斜視図である。なお、この図には、外部機器との接続についても簡易的に示されている。
ここで、通常のカメラは、被写体の光像により銀塩写真フィルムを感光するのに対し、ディジタルスチルカメラ1300は、被写体の光像をCCD(Charge Coupled Device)などの撮像素子により光電変換して撮像信号(画像信号)を生成する。
【0112】
ディジタルスチルカメラ1300におけるケース(ボディー)1302の背面には、表示部が設けられ、CCDによる撮像信号に基づいて表示を行う構成になっており、被写体を電子画像として表示するファインダとして機能する。
ディジタルスチルカメラ1300において、この表示部が前述のディスプレイ装置100で構成されている。
【0113】
ケースの内部には、回路基板1308が設置されている。この回路基板1308は、撮像信号を格納(記憶)し得るメモリが設置されている。
また、ケース1302の正面側(図示の構成では裏面側)には、光学レンズ(撮像光学系)やCCDなどを含む受光ユニット1304が設けられている。
撮影者が表示部に表示された被写体像を確認し、シャッタボタン1306を押下すると、その時点におけるCCDの撮像信号が、回路基板1308のメモリに転送・格納される。
【0114】
また、このディジタルスチルカメラ1300においては、ケース1302の側面に、ビデオ信号出力端子1312と、データ通信用の入出力端子1314とが設けられている。そして、図示のように、ビデオ信号出力端子1312にはテレビモニタ1430が、デ−タ通信用の入出力端子1314にはパーソナルコンピュータ1440が、それぞれ必要に応じて接続される。さらに、所定の操作により、回路基板1308のメモリに格納された撮像信号が、テレビモニタ1430や、パーソナルコンピュータ1440に出力される構成になっている。
【0115】
なお、本発明の電子機器は、図3のパーソナルコンピュータ(モバイル型パーソナルコンピュータ)、図4の携帯電話機、図5のディジタルスチルカメラの他にも、例えば、テレビや、ビデオカメラ、ビューファインダ型、モニタ直視型のビデオテープレコーダ、ラップトップ型パーソナルコンピュータ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳(通信機能付も含む)、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニタ、電子双眼鏡、POS端末、タッチパネルを備えた機器(例えば金融機関のキャッシュディスペンサー、自動券売機)、医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電表示装置、超音波診断装置、内視鏡用表示装置)、魚群探知機、各種測定機器、計器類(例えば、車両、航空機、船舶の計器類)、フライトシュミレータ、その他各種モニタ類、プロジェクター等の投射型表示装置等に適用することができる。
【0116】
以上、本発明の発光素子、発光装置、表示装置および電子機器を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものでない。
例えば、前述した発光素子は、3層の発光層を有するものとして説明したが、これに限定されず、例えば、発光素子は、2層の発光層を有するものであってもよいし4層以上の発光層を有するものであってもよい。この場合、キャリア発生層の一方の面側と他方の面側にそれぞれ少なくとも1層の発光層が設けられていればよい。
また、前述した発光素子では、発光部(発光ユニット)は、発光層以外の層(例えば、正孔輸送層、電子輸送層等)を有するものとして説明したが、これに限定されず、少なくとも1層の発光層を有していればよく、例えば、発光層のみで構成されていてもよい。
【実施例】
【0117】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.発光素子の製造
(実施例1)
<1> まず、平均厚さ0.5mmの透明なガラス基板を用意した。次に、この基板上に、スパッタ法により、平均厚さ50nmのITO電極(陽極)を形成した。
そして、基板をアセトン、2−プロパノールの順に浸漬し、超音波洗浄した後、酸素プラズマ処理を施した。
【0118】
<2> 次に、ITO電極上に、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ジフェニル−4,4’−ジアミン(α−NPD)を真空蒸着法により蒸着させ、平均厚さ50nmの正孔輸送層(第1の発光部の正孔輸送層)を形成した。
<3> 次に、正孔輸送層上に、真空蒸着法を用いて、平均厚さ30nmの第1の発光層を形成した。
ここで、第1の発光層を構成する構成材料としては、青色発光材料(ゲスト材料)であるBDAVBiとホスト材料であるTBADNとの混合材料を用いた。また、第1の発光層中における青色発光材料の含有量(ドープ濃度)は、6.0wt%とした。
【0119】
<4> 次に、第1の発光層上に、電子輸送性材料としての1,3−ビス(N,N−t−ブチル−フェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(OXD−7)と、電子注入性材料としてのLiOとを真空蒸着法により蒸着させ、平均厚さ30nmのn型電子輸送層(キャリア発生層のn型電子輸送層)を形成した。なお、このn型電子輸送層中のOXD−7と、LiOとの含有量は、重量比で98.5:1.5となるようにした。
【0120】
<5> 次に、電子輸送層上に、電子吸引性材料としてのヘキサシアノヘキサアザトリフェニレン(LGケミカル社製、「LG101」)と、電子注入性材料としてのLiOとを真空蒸着法により蒸着させ、平均厚さ30nmの電子吸引層を形成した。なお、この電子吸引層中のヘキサシアノヘキサアザトリフェニレンと、LiOとの含有量は、重量比で98:2となるようにした。
これら工程<4>、<5>により、n型電子輸送層および電子吸引層からなるキャリア発生層を得た。
【0121】
<6> 次に、キャリア発生層上(電子吸引層上)に、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ジフェニル−4,4’−ジアミン(α−NPD)を真空蒸着法により蒸着させ、平均厚さ20nmの正孔輸送層を形成した。
<7> 次に、正孔輸送層上に、真空蒸着法を用いて、平均厚さ5nmの第2の発光層を形成した。
【0122】
ここで、第2の発光層を構成する構成材料としては、赤色発光材料(ゲスト材料)である上記式(1)で表わされるbtp2Ir(acac)とホスト材料である上記式(3)で表わされる4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル(CBP)との混合材料を用いた。また、第2の発光層中における赤色発光材料の含有量(ドープ濃度)は、9.0wt%とした。
【0123】
<8> 次に、第2の発光層上に、真空蒸着法を用いて、平均厚さ5nmの第3の発光層を形成した。
ここで、第3の発光層を構成する構成材料としては、緑色発光材料(ゲスト材料)である上記式(2)で表わされるIr(ppy)3とホスト材料であるCBPとの混合材料を用いた。また、第3の発光層中における緑色発光材料の含有量(ドープ濃度)は、12.0wt%とした。
【0124】
<9> 次に、第3の発光層上に、カルバゾール誘導体である2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)を真空蒸着法により成膜し、平均厚さ10nmの正孔ブロック層を形成した。
<10> 次に、正孔ブロック層上に、1,3−ビス(N,N−t−ブチル−フェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(OXD−7)を真空蒸着法により蒸着させ、平均厚さ40nmの電子輸送層(第2の発光部の電子輸送層)を形成した。
【0125】
<11> 次に、電子輸送層上に、フッ化リチウム(LiF)を真空蒸着法により成膜し、平均厚さ1.0nmの電子注入層を形成した。
<12> 次に、電子注入層上に、Alを真空蒸着法により成膜した。これにより、Alで構成される平均厚さ100nmの陰極を形成した。
<13> 次に、形成した各層を覆うように、ガラス製の保護カバー(封止部材)を被せ、エポキシ樹脂により固定、封止した。
以上の工程により、基板上に、陽極、正孔輸送層、第1の発光層、キャリア発生層(n型電子輸送層、電子吸引層)、正孔輸送層、第2の発光層、第3の発光層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層、陰極がこの順に積層された発光素子(タンデム型の発光素子)を製造した。
【0126】
(実施例2)
前記工程<5>において、電子吸引層中のヘキサシアノヘキサアザトリフェニレンと、LiOとの含有量が、重量比で95:5となるようにして、真空蒸着法を用いて電子吸引層を形成したこと以外は、前述した実施例1と同様にして発光素子を製造した。
(実施例3)
前記工程<5>において、電子吸引層中のヘキサシアノヘキサアザトリフェニレンと、LiOとの含有量が、重量比で90:10となるようにして、真空蒸着法を用いて電子吸引層を形成したこと以外は、前述した実施例1と同様にして発光素子を製造した。
【0127】
(実施例4)
前記工程<5>において、電子吸引層中のヘキサシアノヘキサアザトリフェニレンと、LiOとの含有量が、重量比で93:7となるようにして、真空蒸着法を用いて電子吸引層を形成したこと以外は、前述した実施例1と同様にして発光素子を製造した。
(実施例5)
前記工程<5>において、電子吸引層中のヘキサシアノヘキサアザトリフェニレンと、LiOとの含有量が、重量比で99.5:0.5となるようにして、真空蒸着法を用いて電子吸引層を形成したこと以外は、前述した実施例1と同様にして発光素子を製造した。
【0128】
(比較例1)
前記工程<4>、<5>による、キャリア発生層の形成を、以下のように変更したこと以外は、前述した実施例1と同様にして発光素子を製造した。
<4A> 次に、第1の発光層上に、1,3−ビス(N,N−t−ブチル−フェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(OXD−7)を真空蒸着法により蒸着させ、平均厚さ30nmのn型電子輸送層(キャリア発生層の電子輸送層)を形成した。
また、電子輸送層上に、LiOを真空蒸着法により蒸着させ、平均厚さ1nmの中間層を形成した。
<5A> 次に、中間層上に、ヘキサシアノヘキサアザトリフェニレンを真空蒸着法により蒸着させ、平均厚さ30nmの電子吸引層を形成した。
以上のような工程<4A>、<5A>により、電子輸送層、中間層および電子吸引層からなるキャリア発生層を得た。
【0129】
(比較例2)
前記工程<4>、<5>による、キャリア発生層の形成を、以下のように変更したこと以外は、前述した実施例1と同様にして発光素子を製造した。
<4B> 次に、第1の発光層上に、OXD−7と、LiOとを真空蒸着法により蒸着させ、平均厚さ30nmのn型電子輸送層(キャリア発生層のn型電子輸送層)を形成した。なお、このn型電子輸送層中のOXD−7と、LiOとの含有量は、重量比で98.5:1.5となるようにした。
<5B> 次に、n型電子輸送層上に、ヘキサシアノヘキサアザトリフェニレンを真空蒸着法により蒸着させ、平均厚さ30nmの電子吸引層を形成した。
以上のような工程<4B>、<5B>により、n型電子輸送層および電子吸引層からなるキャリア発生層を得た。
【0130】
2.評価
各実施例および各比較例の発光素子に対して、直流電源を用いて5mA/cmの一定電流を流し、初期状態の駆動電圧[A]を測定した。そして、これら発光素子を100℃の条件で20時間高温保存した後、高温保存後の駆動電圧[B]を、前記と同様の条件で測定した。
これらの結果を表1に示す。また、高温保存後の駆動電圧[B]と初期状態の駆動電圧[A]との差についても、表1に示す。
【0131】
【表1】

【0132】
表1から明らかなように、各実施例の発光素子では、比較例1の発光素子と比較して、すなわち、LiOで構成される中間層を備える場合と比較して、n型電子輸送層と電子吸引層との双方に電子注入性材料が含まれていることに起因して、高温保存後の駆動電圧[B]および[B]−[A]を低く抑えることができた。
また、n型電子輸送層と電子吸引層との双方に電子注入性材料が含まれていることによる、[B]−[A]を低く抑えることができる効果は、各実施例から明らかなように、電子吸引層におけるLiOの含有量が、0.5wt%以上、10.0wt%以下であるとき、特に、2.0wt%以上、7.0wt%以下であるときに認められることが判った。
【符号の説明】
【0133】
1、1G、1R、1B……発光素子 2……基板 3……陽極 4……第1の発光部 41……正孔輸送層 42……第1の発光層 5……キャリア発生層 51……n型電子輸送層 52……電子吸引層 6……第2の発光部 61……正孔輸送層 62……第2の発光層 63……第3の発光層 64……正孔ブロック層 65……電子輸送層 7……陰極 8……封止部材 15……積層体 19B、19G、19R……カラーフィルタ 100……ディスプレイ装置 100R、100G、100B……サブ画素 20……封止基板 21……基板 22……平坦化層 24……駆動用トランジスタ 241……半導体層 242……ゲート絶縁層 243……ゲート電極 244……ソース電極 245……ドレイン電極 27……配線 31……隔壁 32……反射膜 33……腐食防止膜 34……陰極カバー 35……エポキシ層 36……遮光層 1100……パーソナルコンピュータ 1102……キーボード 1104……本体部 1106……表示ユニット 1200……携帯電話機 1202……操作ボタン 1204……受話口 1206……送話口 1300……ディジタルスチルカメラ 1302……ケース(ボディー) 1304……受光ユニット 1306……シャッタボタン 1308……回路基板 1312……ビデオ信号出力端子 1314……データ通信用の入出力端子 1430……テレビモニタ 1440……パーソナルコンピュータ W……白色光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、
陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に設けられ、前記陽極と前記陰極との間に通電することにより発光する第1の発光層と、
前記陰極と前記第1の発光層との間に設けられ、前記陽極と前記陰極との間に通電することにより発光する第2の発光層と、
前記第1の発光層と前記第2の発光層との間に設けられ、電子および正孔を発生させるキャリア発生層とを有し、
前記キャリア発生層は、互いに接触する、前記第1の発光層側に設けられ、電子輸送性を有するn型電子輸送層と、前記第2の発光層側に設けられ、電子吸引性を有する電子吸引層とを備えており、
前記n型電子輸送層と、前記電子吸引層とは、ともに電子ドナー性材料を含有することを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記n型電子輸送層は、前記電子ドナー性材料の他に、電子輸送性材料を含有する混合材料で構成されている請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記電子吸引層は、前記電子ドナー性材料の他に、芳香環を有する有機シアン化合物を含有する混合材料で構成されている請求項1または2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記有機シアン化合物は、ヘキサアザトリフェニレン誘導体である請求項3に記載の発光素子。
【請求項5】
前記電子ドナー性材料は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物のうちの少なくとも1種である請求項1ないし4のいずれかに記載の発光素子。
【請求項6】
前記n型電子輸送層に含まれる前記電子ドナー性材料と、前記電子吸引層に含まれる前記電子ドナー性材料とは、同一のものである請求項1ないし5のいずれかに記載の発光素子。
【請求項7】
前記電子吸引層における前記電子ドナー性材料の含有量は、0.5wt%以上、10wt%以下である請求項1ないし6のいずれかに記載の発光素子。
【請求項8】
前記n型電子輸送層における前記電子ドナー性材料の含有量は、1.0wt%以上、5.0wt%以下である請求項1ないし7のいずれかに記載の発光素子。
【請求項9】
前記電子吸引層における前記電子ドナー性材料の含有量は、前記n型電子輸送層における前記電子ドナー性材料の含有量よりも多い請求項1ないし8のいずれかに記載の発光素子。
【請求項10】
前記第2の発光層と前記陰極との間に設けられ、前記陽極と前記陰極との間に通電することにより発光する第3の発光層を有する請求項1ないし9のいずれかに記載の発光素子。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載の発光素子を備えることを特徴とする発光装置。
【請求項12】
請求項11に記載の発光装置を備えることを特徴とする表示装置。
【請求項13】
請求項12に記載の表示装置を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−186091(P2012−186091A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49641(P2011−49641)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】