説明

発光素子、発光装置、表示装置および電子機器

【課題】発光効率を優れたものとするとともに、高電流密度の電流で駆動する場合においても、長寿命化を図ることができる発光素子、かかる発光素子を備えた発光装置、表示装置および電子機器を提供すること。
【解決手段】発光素子1は、陽極3と、陰極9と、陽極3と陰極9との間に設けられ、陽極3と陰極9との間に通電することにより発光する発光層6と、陽極3と発光層6との間にこれらに接して設けられ、正孔を輸送する機能を有する有機層(正孔注入層4および正孔輸送層5)とを有し、正孔注入層4および正孔輸送層5は、それぞれ、電子輸送性を有する電子輸送性材料を含んで構成されている。また、正孔注入層4と正孔輸送層5に含まれる電子輸送材料の含有量が異なっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子、この発光素子を用いた発光装置、表示装置、および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(いわゆる有機EL素子)は、陽極と陰極との間に発光層として少なくとも1層の発光性有機層を介挿した構造を有する発光素子である。このような発光素子では、陰極と陽極との間に電界を印加することにより、発光層に陰極側から電子が注入されるとともに陽極側から正孔が注入され、発光層中で電子と正孔が再結合することにより励起子が生成し、この励起子が基底状態に戻る際に、励起子の持つエネルギー分が光として放出される。
このような発光素子では、一般に、正孔の注入性や輸送性を向上させるために、陽極と発光層との間に、正孔注入層および正孔輸送層が設けられている(例えば、特許文献1参照)。
また、このような発光素子では、正孔輸送層のHOMO(最高被占軌道)およびLUMO(最低空軌道)の大きさを調整することにより、正孔輸送層で陰極側(発光層側)からの電子をブロックし、発光層内に電子および正孔を閉じ込め、発光効率の向上を図ることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3654909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の発光素子においては、正孔輸送層が陰極側からの電子を十分にブロックすることができず、長期間の使用に伴い、正孔輸送層に侵入し、通過した電子により正孔輸送層や正孔注入層が劣化するという問題があった。かかる問題は、駆動電圧が高くなる(電流密度が大きくなる)ほど、正孔輸送層の電子をブロックする機能がバンドベンディング効果により低下するため、顕著となる。そのため、高密度電流を要する高輝度の発光素子において、長寿命化を図ることが困難であった。
また、電子ブロック効果を高めるには、HOMOとLUMOとのエネルギーギャップが大きい材料を正孔輸送層に用いることが考えられるが、正孔輸送層として使用できる材料の種類が限られているため、そのようなことは現実には難しいという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例の発光素子は、陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設けられた発光層と、前記陽極と前記発光層との間に設けられた正孔を輸送する機能を有する有機層と、を有し、前記有機層は、前記陽極に接して設けられ、正孔注入性材料を含む正孔注入層と、前記正孔注入層と前記発光層に接して設けられ、正孔輸送性材料を含むた正孔輸送層と、を有し、前記正孔注入層および前記正孔輸送層は、それぞれ、電子輸送性を有する電子輸送性材料を含んで構成され、前記電子輸送性材料の含有量が前記正孔注入層と前記正孔輸送層とで異なることを特徴とする。
【0007】
本適用例の発光素子によれば、正孔を輸送する機能を有する有機層が陽極から発光層へ効率的に正孔を輸送することができる。そのため、発光素子の発光効率を向上させることができる。
特に、本適用例の発光素子では、有機層が電子輸送性材料を含むとともに陽極および発光層にそれぞれ接しているので、発光層から有機層内へ電子が侵入しても(注入されても)、その電子を有機層が陽極側へ速やかに輸送して通過させることができる。これにより、有機層中に電子が留まるのを防止し、その結果、有機層が電子により劣化するのを防止することができる。そのため、高電流密度での電流で駆動する場合においても、発光素子の長寿命化を図ることができる。また、電子輸送性材料の混合比が正孔注入層と正孔輸送層で異ならせることにより、発光特性、寿命特性に対して好適なバランスを取ることができる。
【0008】
[適用例2]上記適用例の発光素子において、前記有機層は、電子をブロックする機能を有することを特徴とする。
【0009】
これにより、有機層が陽極から発光層へ正孔を輸送しつつ発光層からの電子をブロックすることができる。そのため、発光層に効率的に電子および正孔を閉じ込め、発光効率を向上させることができる。
このように有機層が電子をブロックする機能を有していても、高電流密度での駆動においては、有機層が電子をブロックしきれず、その結果、有機層に電子が侵入する(注入される)場合がある。このような場合においても、本適用例の発光素子では、有機層が電子輸送性材料を含んでいるので、有機層でブロックしきれずに有機層内へ侵入した電子を有機層が陽極側へ速やかに輸送して通過させることができる。
【0010】
[適用例3]上記適用例の発光素子において、前記電子輸送性材料の含有量が前記正孔注入層よりも前記正孔輸送層の方が低いことを特徴とする。
【0011】
これにより、発光層から正孔輸送層への電子の輸送を効率的に行うことができるため、長寿命化を図りながら、駆動電圧の上昇を抑制することができる。
【0012】
[適用例4]上記適用例の発光素子において、前記正孔輸送層の膜厚が前記正孔注入層の膜厚よりも厚いことを特徴とする。
【0013】
正孔注入層は正孔輸送層と比べて電子輸送性材料の含有量が高いため、正孔移動度が低くなり駆動電圧の上昇が生じやすい。そのため、正孔輸送層の膜厚を正孔注入層の膜厚よりも厚くすることで、正孔注入層が正孔輸送層と同等以上の膜厚を有するときと比べての駆動電圧の上昇を抑制することができる。
【0014】
[適用例5]上記適用例の発光素子において、前記電子輸送性材料は、アセン系材料であることを特徴とする。
【0015】
アセン系材料は、電子輸送性に優れる。そのため、アセン系材料を含む有機層は、発光層からの電子を陽極へ速やかに輸送することができる。また、アセン系材料は、電子に対する耐性に優れる。そのため、電子による有機層の劣化を防止または抑制することができる。
【0016】
[適用例6]上記適用例の発光素子において、前記有機層は、アミン系材料を含むことを特徴とする。
【0017】
アミン系材料は、正孔輸送性に優れる。そのため、アミン系材料を含む有機層は、陽極からの正孔を発光層へ速やかに輸送することができる。
【0018】
[適用例7]上記適用例の発光素子において、前記有機層は、アセン系材料およびアミン系材料を混合した混合材料で構成されていることを特徴とする。
【0019】
これにより、有機層の正孔輸送性および電子輸送性のバランスを好適な範囲に比較的簡単に調整することができる。
【0020】
[適用例8]上記適用例の発光素子において、前記アセン系材料は、アントラセン系材料およびナフタセン系材料のうちの少なくとも一方で構成されていることを特徴とする。
【0021】
このようなアセン系材料は、優れた電子輸送性と電子耐久性を有するとともに、比較的簡単に高品位な膜質で成膜することができる。
【0022】
[適用例9]上記適用例の発光素子において、前記正孔注入層と前記正孔輸送層に含有される正孔輸送性材料が同一であることを特徴とする。
【0023】
これにより、陽極からの正孔注入性および正孔輸送性を良好なものとしつつ、電子による正孔注入層および正孔輸送層の劣化を防止することができる。
【0024】
[適用例10]上記適用例の発光素子において、前記正孔注入層における前記電子輸送性材料の含有量、前記正孔輸送層における前記電子輸送性材料の含有量は、それぞれ30wt%以上70wt%以下であることを特徴とする。
【0025】
これにより、有機層の電子輸送性と正孔輸送性とのバランスを好適なものとすることができる。また、有機層が電子ブロック性を有する場合、有機層の電子ブロック性と電子輸送性とのバランスを好適なものとすることができる。
【0026】
[適用例11]上記適用例の発光素子において、前記有機層の平均厚さは、20nm以上100nm以下であることを特徴とする。
【0027】
これにより、陽極からの正孔注入性および正孔輸送性を良好なものとしつつ、電子による正孔注入層および正孔輸送層の劣化を防止することができる。
【0028】
[適用例12]上記適用例の発光素子を備えることを特徴とする発光装置。
【0029】
このような発光装置は、長寿命な発光素子を備えるので、信頼性に優れる。
【0030】
[適用例13]上記適用例の発光装置を備えることを特徴とする表示装置。
【0031】
このような表示装置は、長期に亘り高品位な画像を表示し得るとともに、信頼性に優れる。
【0032】
[適用例14]上記適用例の表示装置を備えることを特徴とする電子機器。
【0033】
このような電子機器は、信頼性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1実施形態に係る発光素子を模式的に示す断面図。
【図2】本発明の表示装置を適用したディスプレイ装置の実施形態を示す縦断面図。
【図3】本発明の電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピューターの構成を示す斜視図。
【図4】本発明の電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図。
【図5】本発明の電子機器を適用したディジタルスチールカメラの構成を示す斜視図。
【図6】実施例と変形例の発光素子における正孔注入層および正孔輸送層の構成と、発光特性の評価結果を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の発光素子、表示装置、表示装置および電子機器を添付図面に示す好適な実施形態について説明する。以下の各図においては、各層や各部材を認識可能な程度の大きさにするため、各層や各部材の尺度を実際とは異ならせしめている。
【0036】
(実施形態1)
図1は、本発明の第1実施形態に係る発光素子を模式的に示す断面図である。なお、以下では、説明の都合上、図1中の上側を「上」、下側を「下」として説明を行う。
図1に示す発光素子(エレクトロルミネッセンス素子)1は、陽極3と正孔注入層4と正孔輸送層5と発光層6と電子輸送層7と電子注入層8と陰極9とがこの順に積層されてなるものである。すなわち、発光素子1では、陽極3と陰極9との間に、陽極3側から陰極9側へ正孔注入層4と正孔輸送層5と発光層6と電子輸送層7と電子注入層8とがこの順で積層された積層体14が介挿されている。なお、本実施形態では、正孔注入層4および正孔輸送層5からなる機能層45、陽極3から発光層6へ正孔を輸送する機能を有する有機層を構成する。
そして、発光素子1は、その全体が基板2上に設けられるとともに、封止部材10で封止されている。
このような発光素子1にあっては、陽極3および陰極9に駆動電圧が印加されることにより、発光層6に対し、それぞれ、陰極9側から電子が供給(注入)されるとともに、陽極3側から正孔が供給(注入)される。そして、発光層6では、正孔と電子とが再結合し、この再結合に際して放出されたエネルギーによりエキシトン(励起子)が生成し、エキシトンが基底状態に戻る際にエネルギー(蛍光やりん光)を放出(発光)する。これにより、発光素子1は、発光する。
その際、発光素子1では、正孔注入層4および正孔輸送層5からなる機能層(有機層)が陽極3から発光層6へ効率的に正孔を輸送することができる。そのため、発光素子1の発光効率を向上させることができる。
特に、発光素子1では、正孔注入層4および正孔輸送層5からなる機能層が後に詳述するように電子輸送性材料を含むとともに陽極3および発光層6にそれぞれ接しているので、発光層6から正孔輸送層5内へ電子が侵入しても(注入されても)、その電子を正孔注入層4および正孔輸送層5が陽極3側へ速やかに輸送して通過させることができる。これにより、正孔注入層4および正孔輸送層5に電子が留まるのを防止し、その結果、正孔注入層4および正孔輸送層5が電子により劣化するのを防止することができる。そのため、高電流密度での電流で駆動する場合においても、発光素子1の長寿命化を図ることができる。また、また、電子輸送性材料の混合比が正孔注入層4と正孔輸送層5で異ならせることにより、発光特性、寿命特性に対して好適なバランスを取ることができる。
【0037】
基板2は、陽極3を支持するものである。本実施形態の発光素子1は、基板2側から光を取り出す構成(ボトムエミッション型)であるため、基板2および陽極3は、それぞれ、実質的に透明(無色透明、着色透明または半透明)とされている。
基板2の構成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレートのような樹脂材料や、石英ガラス、ソーダガラスのようなガラス材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
このような基板2の平均厚さは、特に限定されないが、0.1mm〜30mm程度であるのが好ましく、0.1mm〜10mm程度であるのがより好ましい。
なお、発光素子1が基板2と反対側から光を取り出す構成(トップエミッション型)の場合、基板2には、透明基板および不透明基板のいずれも用いることができる。
不透明基板としては、例えば、アルミナのようなセラミックス材料で構成された基板、ステンレス鋼のような金属基板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成したもの、樹脂材料で構成された基板等が挙げられる。
【0038】
また、このような発光素子1では、陽極3と陰極9との間の距離(すなわち積層体14の平均厚さ)は、100nm〜300nmであるのが好ましく、100nm〜250nmであるのがより好ましく、100nm〜200nmであるのがさらに好ましい。これにより、簡単かつ確実に、発光素子1の低駆動電圧化を図ることができる。
【0039】
以下、発光素子1を構成する各部を順次説明する。
【0040】
[陽極]
陽極3は、後述する正孔注入層4を介して発光層6に正孔を注入する電極である。この陽極3の構成材料としては、仕事関数が大きく、導電性に優れる材料を用いるのが好ましい。
陽極3の構成材料としては、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、In33、SnO2、Sb含有SnO2、Al含有ZnO等の酸化物、Au、Pt、Ag、Cuまたはこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
特に、陽極3は、ITOで構成されているのが好ましい。ITOは、透明性を有するとともに、仕事関数が大きく、導電性に優れる材料である。これにより、陽極3から正孔注入層4へ効率的に正孔を注入することができる。
また、陽極3の正孔注入層4側の面(図1にて上面)は、プラズマ処理が施されているのが好ましい。これにより、陽極3と正孔注入層4との接合面の化学的および機械的な安定性を高めることができる。その結果、陽極3から正孔注入層4への正孔注入性を向上させることができる。なお、かかるプラズマ処理については、後述する発光素子1の製造方法の説明において詳述する。
このような陽極3の平均厚さは、特に限定されないが、10nm〜200nm程度であるのが好ましく、50nm〜150nm程度であるのがより好ましい。
【0041】
[陰極]
一方、陰極9は、後述する電子注入層8を介して電子輸送層7に電子を注入する電極である。この陰極9の構成材料としては、仕事関数の小さい材料を用いるのが好ましい。
陰極9の構成材料としては、例えば、Li、Mg、Ca、Sr、La、Ce、Er、Eu、Sc、Y、Yb、Ag、Cu、Al、Cs、Rbまたはこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて(例えば、複数層の積層体、複数種の混合層等として)用いることができる。
特に、陰極9の構成材料として合金を用いる場合には、Ag、Al、Cu等の安定な金属元素を含む合金、具体的には、MgAg、AlLi、CuLi等の合金を用いるのが好ましい。かかる合金を陰極9の構成材料として用いることにより、陰極9の電子注入効率および安定性の向上を図ることができる。
このような陰極9の平均厚さは、特に限定されないが、50nm〜1000nm程度であるのが好ましく、100nm〜500nm程度であるのがより好ましい。
なお、本実施形態の発光素子1は、ボトムエミッション型であるため、陰極9に、光透過性は、特に要求されない。
【0042】
[正孔注入層]
正孔注入層4は、陽極3からの正孔注入効率を向上させる機能を有する(すなわち正孔注入性を有する)ものである。また、後に詳述するように、正孔注入層4は、電子を輸送する機能をも有する。
この正孔注入層4は、正孔注入性を有する材料(すなわち正孔注入性材料)と、電子輸送性を有する材料(すなわち電子輸送性材料)とを含んでいる。なお、正孔注入層4に含まれる電子輸送性材料については、正孔輸送層5に含まれる電子輸送性材料の説明とともに、後に詳述する。
この正孔注入層4に含まれる正孔注入材料としては、特に限定されないが、例えば、銅フタロシアニンや、4,4’,4’’−トリス(N,N−フェニル−3−メチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)、下記式(1)で表わされるN,N’−ビス−(4−ジフェニルアミノ−フェニル)−N,N’−ジフェニル−ビフェニル−4−4’−ジアミン等が挙げられる。
【0043】
【化1】

【0044】
中でも、正孔注入層4に含まれる正孔注入性材料としては、正孔注入性および正孔輸送性に優れるという観点から、アミン系材料を用いるのが好ましく、ジアミノベンゼン誘導体、ベンジジン誘導体(ベンジジン骨格を有する材料)、分子内に「ジアミノベンゼン」ユニットと「ベンジジン」ユニットとの両方を有するトリアミン系化合物、テトラアミン系化合物を用いるのがより好ましい。
このような正孔注入層4の平均厚さは、特に限定されないが、5nm〜90nm程度であるのが好ましく、10nm〜70nm程度であるのがより好ましい。
【0045】
[正孔輸送層]
正孔輸送層5は、陽極3から正孔注入層4を介して注入された正孔を発光層6まで輸送する機能を有する(すなわち正孔輸送性を有する)ものである。また、後に詳述するように、正孔輸送層5は、電子を輸送する機能をも有する。
この正孔輸送層5は、正孔輸送性を有する材料(すなわち正孔輸送性材料)と、電子輸送性を有する材料(すなわち電子輸送性材料)とを含んで構成されている。なお、正孔輸送層5に含まれる電子輸送性材料については、正孔注入層4に含まれる電子輸送層性材料の説明とともに、後に詳述する。
この正孔輸送層5に含まれる正孔輸送性材料には、各種p型の高分子材料や、各種p型の低分子材料を単独または組み合わせて用いることができ、例えば、下記式(2)で表わされるN,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ジフェニル−4,4’−ジアミン(NPD)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ジフェニル−4,4’−ジアミン(TPD)等のテトラアリールベンジジン誘導体、テトラアリールジアミノフルオレン化合物またはその誘導体(アミン系化合物)等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
【化2】

【0047】
中でも、正孔輸送層5に含まれる正孔輸送性材料としては、正孔注入性および正孔輸送性に優れるという観点から、アミン系材料であるのが好ましく、ベンジジン誘導体(ベンジジン骨格を有する材料)であるのがより好ましい。
【0048】
また、正孔輸送層5に含まれる正孔輸送性材料としては、発光層6からの電子をブロックし得るバンドギャップ(HOMO準位とLUMO準位とのエネルギー差)を有するものを用いるのが好ましい。すなわち、正孔注入層4および正孔輸送層5からなる機能層45は、電子をブロックする機能を有するのが好ましい。
これにより、正孔注入層4および正孔輸送層5が陽極3から発光層6へ正孔を輸送しつつ発光層6からの電子をブロックすることができる。そのため、発光層6に効率的に電子および正孔を閉じ込め、発光効率を向上させることができる。
このように正孔輸送層5が電子をブロックする機能を有していても、高電流密度での駆動においては、正孔輸送層5が電子をブロックしきれず、その結果、正孔輸送層5に電子が侵入する(注入される)場合がある。このような場合においても、発光素子1では、正孔注入層4および正孔輸送層5がそれぞれ電子輸送性材料を含んでいるので、正孔輸送層5でブロックしきれずに正孔輸送層5内へ侵入した電子を正孔注入層4および正孔輸送層5が陽極3側へ速やかに輸送して通過させることができる。
このような正孔輸送層5の平均厚さは、特に限定されないが、10nm〜90nm程度であるのが好ましく、30nm〜70nm程度であるのがより好ましい。
【0049】
(正孔注入層および正孔輸送層の電子輸送性)
ここで、正孔注入層4および正孔輸送層5に含まれる電子輸送性材料について詳述する。
本実施形態の発光素子1では、正孔注入層4および正孔輸送層5からなる機能層45が、陽極3と発光層6との間にこれらに接して設けられ、正孔を輸送する機能を有する有機層である。
そして、正孔注入層4および正孔輸送層5が、それぞれ、電子輸送性材料を含んでいる。すなわち、正孔注入層4および正孔輸送層5からなる機能層45で構成された有機層は、電子輸送性を有する電子輸送性材料を含んで構成されている。
これにより、陽極3からの正孔注入性および正孔輸送性を良好なものとしつつ、電子による正孔注入層4および正孔輸送層5の劣化を防止することができる。
【0050】
より具体的に説明すると、このような発光素子1では、正孔注入層4および正孔輸送層5からなる機能層(有機層)45が陽極3から発光層6へ効率的に正孔を輸送することができる。そのため、発光素子1の発光効率を向上させることができる。
特に、発光素子1では、正孔注入層4および正孔輸送層5からなる機能層45が電子輸送性材料を含むとともに陽極3および発光層6にそれぞれ接しているので、発光層6から正孔輸送層5内へ電子が侵入しても(注入されても)、その電子を正孔注入層4および正孔輸送層5が陽極3側へ速やかに輸送して通過させることができる。これにより、正孔注入層4および正孔輸送層5に電子が留まるのを防止し、その結果、正孔注入層4および正孔輸送層5が電子により劣化するのを防止することができる。そのため、高電流密度での電流で駆動する場合においても、発光素子1の長寿命化を図ることができる。
前述したように正孔注入層4中や正孔輸送層5中を電子が通過する際、電子輸送性材料は電子に対する耐性が高いので、正孔注入層4中および正孔輸送層5中の電子輸送性材料が電子により劣化することはほとんどない。また、正孔注入層4中および正孔輸送層5中の電子は正孔輸送性材料や正孔注入性材料よりも主に電子輸送性材料を伝って輸送されるので、正孔注入層4中の正孔輸送性材料やおよび正孔輸送層5中の正孔注入性材料が電子により劣化するのを防止することができる。
【0051】
正孔注入層4および正孔輸送層5に含まれる電子輸送性材料としては、それぞれ、電子輸送性を有する材料であればよく、特に限定されず、公知の電子輸送性材料を用いることができるが、例えば、アセン系材料、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)等の8−キノリノールなしいその誘導体を配位子とする有機金属錯体などのキノリン誘導体、アザインドリジン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ペリレン誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、キノキサリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
中でも、正孔注入層4および正孔輸送層5に含まれる電子輸送性材料は、それぞれ、アセン系材料であるのが好ましい。
アセン系材料は、電子輸送性に優れ、更に正孔輸送性も有している。そのため、アセン系材料を含む正孔注入層4や正孔輸送層5は、発光層6からの電子を陽極3へ速やかに輸送することができる。また、アセン系材料は、電子および正孔に対する耐性に優れる。そのため、電子および正孔による正孔注入層4や正孔輸送層5の劣化を防止または抑制することができる。
このようなアセン系材料は、アセン骨格を有し、かつ、前述したような効果を発揮するものであれば、特に限定されず、例えば、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、ナフタセン誘導体(テトラセン誘導体)、ペンタセン誘導体、ヘキサセン誘導体、ヘプタセン誘導体等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、アントラセン誘導体、ナフタセン誘導体を用いるのが好ましく、アントラセン誘導体(特に、モノ−アントラセンまたはビス−アントラセンを主骨格として有するもの)を用いるのがより好ましい。
アントラセン誘導体は、優れた電子輸送性を有しながらも、気相成膜法により簡単に成膜することができる。したがって、アセン系材料としてアントラセン誘導体を用いることにより、正孔注入層4や正孔輸送層5の電子輸送性を優れたものとしつつ、均質な正孔注入層4や正孔輸送層5の形成を容易なものとすることができる。
【0053】
また、正孔注入層4および正孔輸送層5は、それぞれ、アミン系材料を含むのが好ましい。アミン系材料は、正孔輸送性に優れる。そのため、アミン系材料を含む正孔注入層4および正孔輸送層5からなる機能層(有機層)45は、陽極3からの正孔を発光層6へ速やかに輸送することができる。
【0054】
この場合、正孔注入層4および正孔輸送層5は、それぞれ、アセン系材料およびアミン系材料を混合した混合材料で構成されているのが好ましい。これにより、正孔注入層4および正孔輸送層5からなる機能層(有機層)45の正孔輸送性および電子輸送性のバランスを好適な範囲に比較的簡単に調整することができる。
また、正孔注入層4および正孔輸送層5に含まれる電子輸送性材料としては、炭素元素および水素元素のみから構成されている炭化水素化合物(誘電体)を用いるのが好ましい。このような化合物は、誘電率および誘電正接がそれぞれ比較的低く、誘電特性に優れる。また、このような化合物は、水酸基、カルボキシル基等の極性基を有しないため、一般に、反応性に乏しく、化学的に比較的安定であり、また、正孔注入性材料や正孔輸送性材料との相互作用も少ない。このようなことから、発光素子1の特性を長期に亘り優れたものとすることができる。
【0055】
また、正孔注入層4に含まれる電子輸送性材料と正孔輸送層5に含まれる電子輸送性材料とは、同じであっても異なっていてもよい。
【0056】
また、正孔注入層4および正孔輸送層5に含まれる電子輸送性材料のガラス転移温度(Tg)は、できる限り高いのが好ましく、具体的には、120℃以上であるのが好ましく、150℃以上であるのがより好ましい。これにより、高電流密度での電流で駆動した場合において、発光素子1が高温になっても、発光素子1の熱による性能低下を防止することができる。
【0057】
また、正孔注入層4中および正孔輸送層5中における電子輸送性材料の含有量は、それぞれ、30wt%以上70wt%以下であるのが好ましく、40wt%以上60wt%以下であるのがより好ましい。これにより、正孔注入層4および正孔輸送層5からなる機能層(有機層)45の電子輸送性と正孔輸送性とのバランスを好適なものとすることができる。また、かかる有機層が電子ブロック性を有する場合、かかる有機層の電子ブロック性と電子輸送性とのバランスを好適なものとすることができる。
これに対し、かかる含有量が前記下限値未満であると、正孔注入層4中および正孔輸送層5中の電子輸送性材料が励起されやすくなり、電子輸送性材料自体が発光してしまい、発光素子1全体の発光スペクトルに悪影響を及ぼす場合がある。一方、かかる含有量が前記上限値を超えると、発光素子1を構成する層の全体の厚さが厚くなりすぎて、発光素子1の駆動電圧が上昇する傾向を示す。
なお、正孔注入層4中における電子輸送性材料の含有量と、正孔輸送層5中における電子輸送性材料の含有量とは、異なっていることが好ましい。
【0058】
また、正孔輸送層5中における電子輸送性材料の含有量は、正孔注入層4中の電子輸送性材料の含有量よりも少ないことが好ましい。これにより、正孔輸送層5と発光層6との界面での電子の輸送・注入性を高めながらも、正孔輸送性の低下による発光素子1の駆動電圧の上昇を抑制することができる。
【0059】
正孔注入層4および正孔輸送層5からなる機能層(有機層)45の平均厚さ(正孔注入層4および正孔輸送層5の合計厚さ)は、20nm以上100nm以下であるのが好ましく、30nm以上80nm以下であるのがより好ましく、30nm以上70nm以下であるのがさらに好ましい。これにより、駆動電圧を抑えつつ、電子による正孔注入層4および正孔輸送層5の劣化を防止することができる。また、発光素子1内に光の取出しを良好に行える光学的なギャップを容易に形成することができる。
これに対し、かかる平均厚さが前記下限値未満であると、正孔注入層4や正孔輸送層5の厚さや構成材料等によっては、正孔注入層4の正孔注入性や正孔輸送層の正孔輸送性が低下する傾向を示す。一方、かかる平均厚さが前記上限値を超えると、上記光学的なギャップの形成が難しくなり、また、発光素子1の駆動電圧が上昇する傾向を示す。
【0060】
また、正孔輸送層5の平均厚さは、正孔注入層4中の平均厚さよりも厚いことが好ましい。これにより、正孔注入層4と正孔輸送層5の正孔輸送性の低下を抑制でき、発光素子1の駆動電圧の上昇を抑制することができる。
【0061】
(発光層)
この発光層6は、前述した陽極3と陰極9との間に通電することにより、発光するものである。
このような発光層6は、発光材料を含んで構成されている。
このような発光材料としては、特に限定されず、各種蛍光材料、各種燐光材料を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
赤色の蛍光を発する蛍光材料としては、特に限定されず、例えば、下記式(3)で表わされるテトラアリールジインデノペリレン誘導体等のペリレン誘導体、ユーロピウム錯体、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、ポルフィリン誘導体、ナイルレッド、2−(1,1−ジメチルエチル)−6−(2−(2,3,6,7−テトラヒドロ−1,1,7,7−テトラメチル−1H,5H−ベンゾ(ij)キノリジン−9−イル)エテニル)−4H−ピラン−4H−イリデン)プロパンジニトリル(DCJTB)、4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)等を挙げられる。
【0062】
【化3】

【0063】
赤色の燐光を発する燐光材料としては、特に限定されず、例えば、イリジウム、ルテニウム、白金、オスミウム、レニウム、パラジウム等の金属錯体が挙げられ、これら金属錯体の配位子の内の少なくとも1つがフェニルピリジン骨格、ビピリジル骨格、ポルフィリン骨格等を持つものも挙げられる。より具体的には、トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム、ビス[2−(2’−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジネート−N,C3’]イリジウム(アセチルアセトネート)(btp2Ir(acac))、2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−12H,23H−ポルフィリン−白金(II)、ビス[2−(2’−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジネート−N,C3’]イリジウム、ビス(2−フェニルピリジン)イリジウム(アセチルアセトネート)が挙げられる。
【0064】
青色の蛍光を発する蛍光材料としては、特に限定されず、例えば、下記式(4)で表わされるジスチリルジアミン系化合物等のジスチリルアミン誘導体、フルオランテン誘導体、ピレン誘導体、ペリレンおよびペリレン誘導体、アントラセン誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、クリセン誘導体、フェナントレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、テトラフェニルブタジエン、4,4’−ビス(9−エチル−3−カルバゾビニレン)−1,1’−ビフェニル(BCzVBi)、ポリ[(9.9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジイル)−コ−(2,5−ジメトキシベンゼン−1,4−ジイル)]、ポリ[(9,9−ジヘキシルオキシフルオレン−2,7−ジイル)−オルト−コ−(2−メトキシ−5−{2−エトキシヘキシルオキシ}フェニレン−1,4−ジイル)]、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジイル)−コ−(エチルニルベンゼン)]等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0065】
【化4】

【0066】
青色の燐光を発する燐光材料としては、特に限定されず、例えば、イリジウム、ルテニウム、白金、オスミウム、レニウム、パラジウム等の金属錯体が挙げられる。より具体的には、ビス[4,6−ジフルオロフェニルピリジネート−N,C2’]−ピコリネート−イリジウム、トリス[2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジネート−N,C2’]イリジウム、ビス[2−(3,5−トリフルオロメチル)ピリジネート−N,C2’]−ピコリネート−イリジウム、ビス(4,6−ジフルオロフェニルピリジネート−N,C2’)イリジウム(アセチルアセトネート)が挙げられる。
【0067】
緑色の蛍光を発する蛍光材料としては、特に限定されず、例えば、クマリン誘導体、下記式(5)で表わされるキナクリドン誘導体等のキナクリドンおよびその誘導体、9,10−ビス[(9−エチル−3−カルバゾール)−ビニレニル]−アントラセン、ポリ(9,9−ジヘキシル−2,7−ビニレンフルオレニレン)、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジイル)−コ−(1,4−ジフェニレン−ビニレン−2−メトキシ−5−{2−エチルヘキシルオキシ}ベンゼン)]、ポリ[(9,9−ジオクチル−2,7−ジビニレンフルオレニレン)−オルト−コ−(2−メトキシ−5−(2−エトキシルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレン)]等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0068】
【化5】

【0069】
緑色の燐光を発する燐光材料としては、特に限定されず、例えば、イリジウム、ルテニウム、白金、オスミウム、レニウム、パラジウム等の金属錯体が挙げられる。中でも、これら金属錯体の配位子の内の少なくとも1つが、フェニルピリジン骨格、ビピリジル骨格、ポルフィリン骨格等を持つものが好ましい。より具体的には、ファク−トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy)3)、ビス(2−フェニルピリジネート−N,C2’)イリジウム(アセチルアセトネート)、ファク−トリス[5−フルオロ−2−(5−トリフルオロメチル−2−ピリジン)フェニル−C,N]イリジウムが挙げられる。
【0070】
黄色の蛍光を発する蛍光材料としては、例えば、ルブレン系材料等のナフタセン骨格を有する化合物であって、ナフタセンにアリール基(好ましくはフェニル基)が任意の位置で任意の数(好ましくは2〜6)置換された化合物、モノインデノペリレン誘導体等を用いることができる。
【0071】
このような発光材料(蛍光材料や燐光材料)は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上の発光材料を組み合わせて用いる場合、発光層6は、含まれる発光材料が互い異なる複数の層(発光層)を積層した積層体の形態としてもよいし、複数種の発光材料を混合した混合材料で構成された層の形態としてもよい。なお、発光層6が複数の発光層で構成されている場合、発光層同士の間に発光に寄与しない層(中間層)が介在していてもよい。
【0072】
また、発光層6の構成材料としては、前述したような発光材料に加えて、この発光材料がゲスト材料(ドーパント)として添加(担持)されるホスト材料を用いてもよい。このホスト材料は、正孔と電子とを再結合して励起子を生成するとともに、その励起子のエネルギーを発光材料に移動(フェルスター移動またはデクスター移動)させて、発光材料を励起する機能を有する。このようなホスト材料は、例えば、ゲスト材料である発光材料をドーパントとしてホスト材料にドープして用いることができる。
【0073】
このようなホスト材料としては、用いる発光材料に対して前述したような機能を発揮するものであれば、特に限定されないが、発光材料が蛍光材料を含む場合、例えば、ジスチリルアリーレン誘導体、ナフタセン誘導体、下記式(6)で表わされる化合物、2−t−ブチル−9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン(TBADN)等のアントラセン誘導体、ペリレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアミン誘導体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq3)等のキノリノラト系金属錯体、トリフェニルアミンの4量体等のトリアリールアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、下記式(7)で表わされる化合物等のルブレンおよびその誘導体、シロール誘導体、ジカルバゾール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ベンゾピラン誘導体、トリアゾール誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、キノリン誘導体、4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0074】
【化6】

【0075】
【化7】

【0076】
また、発光材料が燐光材料を含む場合、第1のホスト材料としては、例えば、3−フェニル−4−(1’−ナフチル)−5−フェニルカルバゾール、4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル(CBP)等のカルバゾール誘導体等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0077】
発光層6がホスト材料を含む場合、発光層6中における発光材料の含有量(ドープ量)は、0.01wt%〜20wt%であるのが好ましく、0.1wt%〜10wt%であるのがより好ましい。発光材料の含有量をこのような範囲内とすることで、発光効率を最適化することができる。
【0078】
また、発光層6の平均厚さは、特に限定されないが、1nm〜60nm程度であるのが好ましく、3nm〜50nm程度であるのがより好ましい。
【0079】
(電子輸送層)
電子輸送層7は、陰極9から電子注入層8を介して注入された電子を発光層6に輸送する機能を有するものである。
電子輸送層7の構成材料(電子輸送材料)としては、例えば、下記式(8)で表わされるトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)等の8−キノリノールなしいその誘導体を配位子とする有機金属錯体などのキノリン誘導体、下記式(9)で表わされる化合物等のアザインドリジン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ペリレン誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、キノキサリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0080】
【化8】

【0081】
【化9】

【0082】
また、電子輸送層7は、前述したような電子輸送性材料のうち2種以上を組み合わせて用いる場合、2種以上の電子輸送性材料を混合した混合材料で構成されていてもよいし、異なる電子輸送性材料で構成された複数の層を積層して構成されていてもよい。
電子輸送層7を異なる電子輸送性材料で構成された複数の層を積層して構成する場合、陽極側の層(第1の電子輸送層)の構成材料としては、発光層6に電子を注入することができるものであればよいが、例えば、アントラセン誘導体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)等の8−キノリノールなしいその誘導体を配位子とする有機金属錯体などのキノリン誘導体等を用いるのが好ましく、また、陰極側の層(第2の電子輸送層)の構成材料としては、電子注入層8が電子を受け取るとともに第1の電子輸送層へ電子を注入することができるものであればよいが、例えば、上記式(9)で表わされる化合物等のアザインドリジン誘導体、ピリジン誘導体、フェナントリン誘導体等を用いるのが好ましい。
【0083】
また、前記第1の電子輸送層の平均厚さは、前記第2の電子輸送層の平均厚さよりも薄いのが好ましく、前記第2の電子輸送層の平均厚さに対して0.1倍以上0.4倍以下であるのがより好ましい。これにより、電子輸送層7の電子輸送性および電子注入性を優れたものとすることができる。
電子輸送層7の平均厚さは、特に限定されないが、0.5nm〜100nm程度であるのが好ましく、1nm〜50nm程度であるのがより好ましい。
【0084】
(電子注入層)
電子注入層8は、陰極9からの電子注入効率を向上させる機能を有するものである。
この電子注入層8の構成材料(電子注入材料)としては、例えば、各種の無機絶縁材料、各種の無機半導体材料が挙げられる。
【0085】
このような無機絶縁材料としては、例えば、アルカリ金属カルコゲナイド(酸化物、硫化物、セレン化物、テルル化物)、アルカリ土類金属カルコゲナイド、アルカリ金属のハロゲン化物およびアルカリ土類金属のハロゲン化物等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらを主材料として電子注入層8を構成することにより、電子注入性をより向上させることができる。特にアルカリ金属化合物(アルカリ金属カルコゲナイド、アルカリ金属のハロゲン化物等)は仕事関数が非常に小さく、これを用いて電子注入層8を構成することにより、発光素子1は、高い輝度が得られるものとなる。
【0086】
アルカリ金属カルコゲナイドとしては、例えば、Li2O、LiO、Na2S、Na2Se、NaO等が挙げられる。
アルカリ土類金属カルコゲナイドとしては、例えば、CaO、BaO、SrO、BeO、BaS、MgO、CaSe等が挙げられる。
アルカリ金属のハロゲン化物としては、例えば、CsF、LiF、NaF、KF、LiCl、KCl、NaCl等が挙げられる。
アルカリ土類金属のハロゲン化物としては、例えば、CaF2、BaF2、SrF2、MgF2、BeF2等が挙げられる。
また、無機半導体材料としては、例えば、Li、Na、Ba、Ca、Sr、Yb、Al、Ga、In、Cd、Mg、Si、Ta、SbおよびZnのうちの少なくとも1つの元素を含む酸化物、窒化物または酸化窒化物等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0087】
電子注入層8の平均厚さは、特に限定されないが、0.1nm〜500nm程度であるのが好ましく、0.2〜100nm程度であるのがより好ましく、0.2nm〜10nm程度であるのがさらに好ましい。
【0088】
(封止部材)
封止部材10は、陽極3、積層体14、および陰極9を覆うように設けられ、これらを気密的に封止し、酸素や水分を遮断する機能を有する。封止部材10を設けることにより、発光素子1の信頼性の向上や、変質・劣化の防止(耐久性向上)等の効果が得られる。
【0089】
封止部材10の構成材料としては、例えば、Al、Au、Cr、Nb、Ta、Tiまたはこれらを含む合金、酸化シリコン、各種樹脂材料等を挙げることができる。なお、封止部材10の構成材料として導電性を有する材料を用いる場合には、短絡を防止するために、封止部材10と陽極3、積層体14および陰極9との間には、必要に応じて、絶縁膜を設けるのが好ましい。
また、封止部材10は、平板状として、基板2と対向させ、これらの間を、例えば熱硬化性樹脂等のシール材で封止するようにしてもよい。
【0090】
以上のように構成された発光素子1によれば、正孔注入層4および正孔輸送層5からなる機能層(有機層)45が陽極3から発光層6へ効率的に正孔を輸送することができる。そのため、発光素子1の発光効率を向上させることができる。
【0091】
特に、発光素子1では、正孔注入層4および正孔輸送層5からなる機能層45が電子輸送性材料を含むとともに陽極3および発光層6にそれぞれ接しているので、発光層6から正孔輸送層5内へ電子が侵入しても(注入されても)、その電子を正孔注入層4および正孔輸送層5が陽極3側へ速やかに輸送して通過させることができる。これにより、正孔注入層4および正孔輸送層5に電子が留まるのを防止し、その結果、正孔注入層4および正孔輸送層5が電子により劣化するのを防止することができる。また、正孔輸送層5中における電子輸送性材料の含有量を正孔注入層4中の電子輸送性材料の含有量よりも少なくすることで、正孔輸送性の低下による発光素子1の駆動電圧の上昇を抑制しながら、正孔輸送層5の電子による劣化を効果的に抑制することができる。そのため、高電流密度での電流で駆動する場合においても、発光素子1の長寿命化を図ることができる。
【0092】
以上のような発光素子1は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0093】
[1]
まず、基板2を用意し、この基板2上に陽極3を形成する。
陽極3は、例えば、プラズマCVD、熱CVDのような化学蒸着法(CVD)、真空蒸着等の乾式メッキ法、電解メッキ等の湿式メッキ法、スパッタリング法、溶射法、ゾル・ゲル法、MOD法、金属箔の接合等を用いて形成することができる。
【0094】
[2]
次に、陽極3上に正孔注入層4を形成する。
正孔注入層4は、例えば、CVD法や、真空蒸着、スパッタリング等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセスにより形成することができる。
また、正孔注入層4は、例えば、正孔注入材料を溶媒に溶解または分散媒に分散してなる正孔注入層形成用材料を、陽極3上に供給した後、乾燥(脱溶媒または脱分散媒)することによっても形成することができる。
正孔注入層形成用材料の供給方法としては、例えば、スピンコート法、ロールコート法、インクジェット印刷法等の各種塗布法を用いることもできる。かかる塗布法を用いることにより、正孔注入層4を比較的容易に形成することができる。
正孔注入層形成用材料の調製に用いる溶媒または分散媒としては、例えば、各種無機溶媒や、各種有機溶媒、または、これらを含む混合溶媒等が挙げられる。
なお、乾燥は、例えば、大気圧または減圧雰囲気中での放置、加熱処理、不活性ガスの吹付け等により行うことができる。
また、本工程に先立って、陽極3の上面には、酸素プラズマ処理を施すようにしてもよい。これにより、陽極3の上面を親液性を付与すること、陽極3の上面に付着する有機物を除去(洗浄)すること、陽極3の上面付近の仕事関数を調整すること等を行うことができる。
ここで、酸素プラズマ処理の条件としては、例えば、プラズマパワー100W〜800W程度、酸素ガス流量50mL/min〜100mL/min程度、被処理部材(陽極3)の搬送速度0.5mm/sec〜10mm/sec程度、基板2の温度70℃〜90℃程度とするのが好ましい。
【0095】
[3]
次に、正孔注入層4上に正孔輸送層5を形成する。
正孔輸送層5は、例えば、CVD法や、真空蒸着、スパッタリング等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセスにより形成することができる。
また、正孔輸送材料を溶媒に溶解または分散媒に分散してなる正孔輸送層形成用材料を、正孔注入層4上に供給した後、乾燥(脱溶媒または脱分散媒)することによっても形成することができる。
【0096】
[4]
次に、正孔輸送層5上に、発光層6を形成する。
発光層6は、例えば、真空蒸着等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセスにより形成することができる。
【0097】
[5]
次に、発光層6上に、電子輸送層7を形成する。
電子輸送層7は、例えば、真空蒸着等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセスにより形成することができる。
【0098】
[6]
次に、電子輸送層7上に、電子注入層8を形成する。
電子注入層8の構成材料として無機材料を用いる場合、電子注入層8は、例えば、CVD法や、真空蒸着、スパッタリング等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセス、無機微粒子インクの塗布および焼成等を用いて形成することができる。
【0099】
[7]
次に、電子注入層8上に、陰極9を形成する。
陰極9は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、金属箔の接合、金属微粒子インクの塗布および焼成等を用いて形成することができる。
【0100】
[8]
次に、上記の工程を経て得られた陽極3、および積層体14を覆うように封止部材10を被せ、基板2に接合して発光素子1が得られる。
【0101】
以上説明したような発光素子1は、それぞれ、例えば、電子写真方式を採用するプリンター、複写機、ファクシミリ装置等の露光用ヘッドの光源、センサー用の光源、照明、ピコプロジェクター(ハンディプロジェクター)用の光源、スキャナー用の光源、反射型液晶表示装置のフロントライト用の光源等の発光装置として使用することができる。このような発光装置は、長寿命な発光素子を備えるので、信頼性に優れる。
【0102】
また、上述した発光素子1をマトリックス状に配置することにより、例えば、ディスプレイ装置(本発明の表示装置)を構成することができる。このような表示装置は、長期に亘り高品位な画像を表示し得るとともに、信頼性に優れる。
なお、ディスプレイ装置の駆動方式としては、特に限定されず、アクティブマトリックス方式、パッシブマトリックス方式のいずれであってもよい。
【0103】
また、本発明の発光素子、または表示装置を備える電子機器は、信頼性に優れる。
次に、本発明の表示装置を適用したディスプレイ装置の一例について説明する。
図2は、本発明の表示装置を適用したディスプレイ装置の実施形態を示す縦断面図である。
図2に示すディスプレイ装置100は、基板21と、サブ画素100R、100G、100Bに対応して設けられた複数の発光素子1R、1G、1Bおよびカラーフィルター19R、19G、19Bと、各発光素子1R、1G、1Bをそれぞれ駆動するための複数の駆動用トランジスター24とを有している。ここで、ディスプレイ装置100は、トップエミッション構造のディスプレイパネルである。
【0104】
基板21上には、複数の駆動用トランジスター24が設けられ、これらの駆動用トランジスター24を覆うように、絶縁材料で構成された平坦化層22が形成されている。
各駆動用トランジスター24は、シリコンからなる半導体層241と、半導体層241上に形成されたゲート絶縁層242と、ゲート絶縁層242上に形成されたゲート電極243と、ソース電極244と、ドレイン電極245とを有している。
平坦化層上には、各駆動用トランジスター24に対応して発光素子1R、1G、1Bが設けられている。
【0105】
発光素子1Rは、平坦化層22上に、反射膜32、腐食防止膜33、陽極3、積層体(有機EL発光部)14、陰極13、陰極カバー34がこの順に積層されている。本実施形態では、各発光素子1R、1G、1Bの陽極3は、画素電極を構成し、各駆動用トランジスター24のドレイン電極245に導電部(配線)27により電気的に接続されている。また、各発光素子1R、1G、1Bの陰極13は、共通電極とされている。
図2における発光素子1Rは、白色発光するものである。例えば、発光素子1Rの発光層は、赤色に発光する発光層と青色に発光する発光層と緑色に発光する発光層とが積層された積層体、あるいは、青色に発光する発光層と黄色に発光する発光層とが積層された積層体で構成されている。
【0106】
なお、発光素子1G、1Bの構成は、発光素子1Rの構成と同様である。また、図2では、図1と同様の構成に関しては、同一符号を付してある。また、反射膜32の構成(特性)は、光の波長に応じて、発光素子1R、1G、1B間で異なっていてもよい。
隣接する発光素子1R、1G、1B同士の間には、隔壁31が設けられている。また、これらの発光素子1R、1G、1B上には、これらを覆うように、エポキシ樹脂で構成されたエポキシ層35が形成されている。
カラーフィルター19R、19G、19Bは、前述したエポキシ層35上に、発光素子1R、1G、1Bに対応して設けられている。
【0107】
カラーフィルター19Rは、発光素子1Rからの白色光Wを赤色に変換するものである。また、カラーフィルター19Gは、発光素子1Gからの白色光Wを緑色に変換するものである。また、カラーフィルター19Bは、発光素子1Bからの白色光Wを青色に変換するものである。このようなカラーフィルター19R、19G、19Bを発光素子1R、1G、1Bと組み合わせて用いることで、フルカラー画像を表示することができる。
また、隣接するカラーフィルター19R、19G、19B同士の間には、遮光層36が形成されている。これにより、意図しないサブ画素100R、100G、100Bが発光するのを防止することができる。
そして、カラーフィルター19R、19G、19Bおよび遮光層36上には、これらを覆うように封止基板20が設けられている。
【0108】
以上説明したようなディスプレイ装置100は、単色表示であってもよく、各発光素子1R、1G、1Bに用いる発光材料を選択することにより、カラー表示も可能である。
このようなディスプレイ装置100(本発明の表示装置)は、各種の電子機器に組み込むことができる。
【0109】
図3は、本発明の電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピューターの構成を示す斜視図である。
図3において、パーソナルコンピューター1100は、キーボード1102を備えた本体部1104と、表示部を備える表示ユニット1106とにより構成され、表示ユニット1106は、本体部1104に対しヒンジ構造部を介して回動可能に支持されている。
このパーソナルコンピューター1100において、表示ユニット1106が備える表示部が前述のディスプレイ装置100で構成されている。
【0110】
図4は、本発明の電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
図4において、携帯電話機1200は、複数の操作ボタン1202、受話口1204および送話口1206とともに、表示部を備えている。
携帯電話機1200において、この表示部が前述のディスプレイ装置100で構成されている。
【0111】
図5は、本発明のディスプレイ装置を適用した電子機器としてのディジタルスチールカメラの構成を示す斜視図である。なお、この図には、外部機器との接続についても簡易的に示されている。
ここで、通常のカメラは、被写体の光像により銀塩写真フィルムを感光するのに対し、ディジタルスチールカメラ1300は、被写体の光像をCCD(Charge Coupled Device)などの撮像素子により光電変換して撮像信号(画像信号)を生成する。
ディジタルスチールカメラ1300におけるケース(ボディー)1302の背面には、表示部が設けられ、CCDによる撮像信号に基づいて表示を行う構成になっており、被写体を電子画像として表示するファインダーとして機能する。
ディジタルスチールカメラ1300において、この表示部が前述のディスプレイ装置100で構成されている。
【0112】
ケースの内部には、回路基板1308が設置されている。この回路基板1308は、撮像信号を格納(記憶)し得るメモリーが設置されている。
また、ケース1302の正面側(図示の構成では裏面側)には、光学レンズ(撮像光学系)やCCDなどを含む受光ユニット1304が設けられている。
撮影者が表示部に表示された被写体像を確認し、シャッターボタン1306を押下すると、その時点におけるCCDの撮像信号が、回路基板1308のメモリーに転送・格納される。
また、このディジタルスチールカメラ1300においては、ケース1302の側面に、ビデオ信号出力端子1312と、データ通信用の入出力端子1314とが設けられている。そして、図示のように、ビデオ信号出力端子1312にはテレビモニター1430が、データ通信用の入出力端子1314にはパーソナルコンピューター1440が、それぞれ必要に応じて接続される。さらに、所定の操作により、回路基板1308のメモリーに格納された撮像信号が、テレビモニター1430や、パーソナルコンピューター1440に出力される構成になっている。
【0113】
なお、本発明の電子機器は、図3のパーソナルコンピューター(モバイル型パーソナルコンピューター)、図4の携帯電話機、図5のディジタルスチールカメラの他にも、例えば、テレビや、ビデオカメラ、ビューファインダー型、モニター直視型のビデオテープレコーダー、ラップトップ型パーソナルコンピューター、カーナビゲーション装置、ページャー、電子手帳(通信機能付も含む)、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニター、電子双眼鏡、POS端末、タッチパネルを備えた機器(例えば金融機関のキャッシュディスペンサー、自動券売機)、医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電表示装置、超音波診断装置、内視鏡用表示装置)、魚群探知機、各種測定機器、計器類(例えば、車両、航空機、船舶の計器類)、フライトシュミレーター、その他各種モニター類、プロジェクター等の投射型表示装置等に適用することができる。
【0114】
以上、本発明の発光素子、発光装置、表示装置および電子機器を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものでない。
【実施例】
【0115】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
【0116】
(実施例1)
<1>
まず、平均厚さ0.5mmの透明なガラス基板を用意した。次に、この基板上に、スパッタ法により、平均厚さ150nmのITO電極(陽極)を形成した。
そして、基板をアセトン、2−プロパノールの順に浸漬し、超音波洗浄した後、酸素プラズマ処理およびアルゴンプラズマ処理を施した。これらのプラズマ処理は、それぞれ、基板を70℃〜90℃に加温した状態で、プラズマパワー100W、ガス流量20sccm、処理時間5secで行った。
【0117】
<2>
次に、ITO電極上に、前記式(1)で表わされるベンジジン誘導体(正孔注入性材料)と、下記式(10)で表わされるアントラセン誘導体(電子輸送性材料)とを真空蒸着法により共蒸着させ、平均厚さ20nmの正孔注入層を形成した。
ここで、正孔注入層は、前記式(1)で表わされるベンジジン誘導体(正孔輸送性材料)と、前記式(10)で表わされるアントラセン誘導体(電子輸送性材料)との混合材料で構成されていた。その混合比(重量比)は、(ベンジジン誘導体):(アントラセン誘導体)=40:60であった。
【0118】
【化10】

【0119】
<3>
次に、正孔注入層上に、前記式(2)で表わされるベンジジン誘導体(正孔輸送性材料)と、前記式(10)で表わされるアントラセン誘導体(電子輸送性材料)とを真空蒸着法により共蒸着させ、平均厚さ50nmの正孔輸送層を形成した。
ここで、正孔輸送層は、前記式(2)で表わされるベンジジン誘導体(正孔輸送性材料)と、前記式(10)で表わされるアントラセン誘導体(電子輸送性材料)との混合材料で構成されていた。その混合比(重量比)は、(ベンジジン誘導体):(アントラセン誘導体)=60:40であった。
【0120】
<4>
次に、正孔輸送層上に、赤色発光層の構成材料を真空蒸着法により蒸着させ、平均厚さ40nmの赤色発光層(発光層)を形成した。赤色発光層の構成材料としては、赤色発光材料(ゲスト材料)として前記式(3)で表わされるテトラアリールジインデノペリレン誘導体を用い、ホスト材料として前記式(7)で表わされるナフタセン誘導体を用いた。また、赤色発光層中の発光材料(ドーパント)の含有量(ドープ濃度)を1.0wt%とした。
【0121】
<5>
次に、赤色発光層上に、前記式(8)で表わされるトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)を真空蒸着法により成膜し、平均厚さ5nmの第1の電子輸送層を形成した。
【0122】
<6>
次に、第1の電子輸送層上に、前記式(9)で表わされるアザインドリジン誘導体を真空蒸着法により成膜し、平均厚さ25nmの第2の電子輸送層を形成した。
これにより、第1の電子輸送層および第2の電子輸送層が積層されてなる電子輸送層を得た。
【0123】
<7>
次に、電子輸送層の第2の電子輸送層上に、フッ化リチウム(LiF)を真空蒸着法により成膜し、平均厚さ1nmの電子注入層を形成した。
【0124】
<8>
次に、電子注入層上に、Alを真空蒸着法により成膜した。これにより、Alで構成される平均厚さ150nmの陰極を形成した。
【0125】
<9>
次に、形成した各層を覆うように、ガラス製の保護カバー(封止部材)を被せ、エポキシ樹脂により固定、封止した。
以上の工程により、発光素子を製造した。
【0126】
(実施例2)
正孔注入層におけるベンジジン誘導体およびアントラセン誘導体の混合比(重量比)を、それぞれ、(ベンジジン誘導体):(アントラセン誘導体)=30:70とした以外は、前述した実施例1と同様にして発光素子を製造した。
【0127】
(実施例3)
正孔注入層におけるベンジジン誘導体およびアントラセン誘導体の混合比(重量比)を、それぞれ、(ベンジジン誘導体):(アントラセン誘導体)=50:50とした以外は、前述した実施例1と同様にして発光素子を製造した。
【0128】
(実施例4)
正孔輸送層におけるベンジジン誘導体およびアントラセン誘導体の混合比(重量比)を、それぞれ、(ベンジジン誘導体):(アントラセン誘導体)=70:30とした以外は、前述した実施例1と同様にして発光素子を製造した。
【0129】
(実施例5)
正孔注入層の平均厚みを50nmとし、正孔輸送層の平均厚さを20nmとした以外は前述した実施例1と同様にして発光素子を製造した。
【0130】
(実施例6)
正孔注入層を前記化学式(2)で表わされるベンジジン誘導体(正孔輸送性材料)と、前記化学式(10)で表わされるアントラセン誘導体(電子輸送性材料)とを(ベンジジン誘導体):(アントラセン誘導体)=40:60で真空蒸着法により共蒸着させ、平均厚さ20nmの正孔注入層を形成した以外は、前述した実施例1と同様にして発光素子を製造した。
【0131】
(比較例)
正孔注入層および正孔輸送層へのアントラセン誘導体(電子輸送性材料)の配合を省略した以外は、前述した実施例1と同様にして発光素子を製造した。
【0132】
2.評価
2−1.発光寿命の評価
各実施例および各比較例について、輝度計を用いて輝度を測定しながら、初期の輝度が60000cd/m2となるような電流密度で直流電源を用いて発光素子に定電流を流しつづけ、その間、輝度計を用いて輝度を測定し、その輝度が初期の輝度の90%となる時間(LT90)を測定した。そして、比較例におけるLT90の時間を1.00として規格化し、各比較例および各実施例のLT90の時間を相対的に評価した。
【0133】
2−2.発光効率の評価
各実施例および各比較例について、輝度計を用いて輝度を測定しながら、輝度が60000cd/m2となるように、直流電源を用いて発光素子に電流を流し、そのときの電流を測定した。また、このときの発光素子に印加された駆動電圧も同様にして測定した。
【0134】
2−3.発光バランスの評価
各実施例および各比較例について、輝度計を用いて輝度を測定しながら、輝度が60000cd/m2となるように、直流電源を用いて発光素子に電流を流し、そのときの色度を色度計を用いて測定した。
【0135】
図6は実施例と比較例の発光素子における正孔注入層および正孔輸送層の構成と、発光特性の評価結果を示す表である。上記の評価結果を図6の表1に示す。
【0136】
表1から明らかなように、各実施例の発光素子は、比較例の発光素子に比し、極めて長い寿命を有することが分かる。さらに、各実施例の発光素子は、比較例の発光素子と同等の駆動電圧、電流密度で発光させることができ、優れた発光効率を有する。また、実施例1〜5の各発光素子は、比較例と同等の色度で発光させることができ、所望の発光色が得られた。加えて実施例6のように、正孔注入層と正孔輸送層を同一の材料で構成した場合にも実施例1〜5と同様の効果が見られた。
【符号の説明】
【0137】
1、1R、1B、1G…発光素子 2…基板 3…陽極 4…正孔注入層 5…正孔注入層 6…発光層 7……電子輸送層 8…電子注入層 9…陰極 10…封止部材 14…積層体 19B、19G、19R…カラーフィルター 45…機能層 100…ディスプレイ装置 101…発光装置 100R、100G、100B…サブ画素 20…封止基板 21…基板 22…平坦化層 24…駆動用トランジスター 241…半導体層 242…ゲート絶縁層 243…ゲート電極 244…ソース電極 245…ドレイン電極 27…配線 31…隔壁 32…反射膜 33…腐食防止膜 34…陰極カバー 35…エポキシ層 36…遮光層 1100…パーソナルコンピューター 1102…キーボード 1104…本体部 1106…表示ユニット 1200…携帯電話機 1202…操作ボタン 1204…受話口 1206…送話口 1300…ディジタルスチールカメラ 1302…ケース(ボディー) 1304…受光ユニット 1306…シャッターボタン 1308…回路基板 1312…ビデオ信号出力端子 1314…データ通信用の入出力端子 1430…テレビモニター 1440…パーソナルコンピューター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、
陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に設けられた発光層と、
前記陽極と前記発光層との間に設けられた正孔を輸送する機能を有する有機層と、を有し、
前記有機層は、前記陽極に接して設けられ、正孔注入性材料を含む正孔注入層と、前記正孔注入層と前記発光層に接して設けられ、正孔輸送性材料を含む正孔輸送層と、を有し、
前記正孔注入層および前記正孔輸送層は、それぞれ、電子輸送性を有する電子輸送性材料を含んで構成され、
前記電子輸送性材料の含有量が前記正孔注入層と前記正孔輸送層とで異なることを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記有機層は、電子をブロックする機能を有することを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記電子輸送性材料の含有量が前記正孔注入層よりも前記正孔輸送層の方が低いことを特徴とする請求項2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記正孔輸送層の平均厚さが前記正孔注入層の平均厚さよりも厚いことを特徴とする請求項3に記載の発光素子。
【請求項5】
前記電子輸送性材料は、アセン系材料であることを特徴とする請求項4に記載の発光素子。
【請求項6】
前記有機層は、アミン系材料を含むことを特徴とする請求項5に記載の発光素子。
【請求項7】
前記有機層は、アセン系材料およびアミン系材料を混合した混合材料で構成されていることを特徴とする請求項6に記載の発光素子。
【請求項8】
前記アセン系材料は、アントラセン系材料およびナフタセン系材料のうちの少なくとも一方で構成されていることを特徴とする請求項5ないし7のいずれか一項に記載の発光素子。
【請求項9】
前記正孔注入層と前記正孔輸送層に含有される正孔輸送性材料が同一であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか一項に記載の発光素子。
【請求項10】
前記正孔注入層における前記電子輸送性材料の含有量、前記正孔輸送層における前記電子輸送性材料の含有量は、それぞれ30wt%以上70wt%以下であることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか一項に記載の発光素子。
【請求項11】
前記有機層の平均厚さは、20nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか一項に記載の発光素子。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか一項に記載の発光素子を備えることを特徴とする発光装置。
【請求項13】
請求項12に記載の発光装置を備えることを特徴とする表示装置。
【請求項14】
請求項13に記載の表示装置を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−186258(P2012−186258A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47273(P2011−47273)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】