説明

発光素子、露光ヘッドおよび画像形成装置

【課題】高輝度で赤色発光し得るとともに、長寿命化を図ることができる発光素子、この発光素子を備えた信頼性の高い露光ヘッドおよび画像形成装置を提供すること。
【解決手段】発光素子74は、陰極749と、陽極741と、陰極749と陽極741との間に設けられ、ホスト材料と、赤色発光材料であるゲスト材料とを含んで構成された第1の発光層744と、第1の発光層744と陰極749との間に設けられ、ホスト材料と、赤色発光材料であるゲスト材料とを含んで構成された第2の発光層746と、第1の発光層744と第2の発光層746との間にこれらの接するように設けられ、前記第1の発光層の前記ホスト材料および前記第2の発光層の前記ホスト材料のうちの少なくとも一方のホスト材料と同種の材料を含み、かつ、発光性を有する材料を実質的に含まずに構成されたキャリア調整層745とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子、露光ヘッドおよび画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を用いる複写機、プリンター等の画像形成装置には、回転する感光体の外表面を露光処理して静電潜像を形成する露光装置が備えられている。かかる露光装置としては、複数の発光素子を感光体の回転軸線方向に配列した構造を有する露光ヘッドが知られている(例えば、特許文献1参照)。
例えば、特許文献1では、複数のLED(発光素子)を備えるLEDアレイチップを一方向に複数配列した構成を有する。
【0003】
しかし、LED(無機LED)は単位面積当たりに配置することができる数が比較的少ないため、特許文献1にかかる露光ヘッドを用いた画像形成装置では、高解像度化が難しいと言う問題がある。
そこで、露光ヘッドに用いる発光素子として有機エレクトロルミネセンス素子(いわゆる有機EL素子)を用いることが提案されている。
【0004】
有機EL素子は、陽極と陰極との間に少なくとも1層の発光層を介挿した構造を有する発光素子である。このような発光素子では、陰極と陽極との間に電界を印加することにより、発光層に陰極側から電子が注入されるとともに陽極側から正孔が注入され、発光層中で電子と正孔が再結合することにより励起子が生成し、この励起子が基底状態に戻る際に、そのエネルギー分が光として放出される。
【0005】
ところで、露光ヘッド用の発光素子としては、例えば発光のピークが600nmの波長の光を用いる場合、20000cd/m以上の発光強度が望ましく、寿命(輝度が10%減衰するまでの時間)が1000時間以上であることが要求されている。
従来、高効率および長寿命で赤色発光する有機EL素子としては、ナフタセン誘導体およびジインデノペリレン誘導体を用いて発光層を形成したものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
しかし、特許文献2にかかる有機EL素子は、前述したような露光ヘッド用の発光素子に要求される寿命特性を得るには不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−4546号公報
【特許文献2】特許第4024009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、高輝度で赤色発光し得るとともに、長寿命化を図ることができる発光素子、この発光素子を備えた信頼性の高い露光ヘッドおよび画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の発光素子は、陰極と、
陽極と、
前記陰極と前記陽極との間に設けられ、ホスト材料と、該ホスト材料に添加され、赤色に発光する赤色発光材料であるゲスト材料とを含んで構成された第1の発光層と、
前記第1の発光層と前記陰極との間に設けられ、ホスト材料と、該ホスト材料に添加され、赤色に発光する赤色発光材料であるゲスト材料とを含んで構成された第2の発光層と、
前記第1の発光層と前記第2の発光層との間にこれらに接するように設けられ、前記第1の発光層の前記ホスト材料および前記第2の発光層の前記ホスト材料のうちの少なくとも一方のホスト材料と同種の材料を含み、かつ、発光性を有する材料を実質的に含まずに構成され、前記第1の発光層と前記第2の発光層との間での正孔および電子の移動を調整するキャリア調整層とを有することを特徴とする。
これにより、第1の発光層および第2の発光層をそれぞれ発光(赤色発光)させることができる。そのため、発光素子全体の輝度を高いものとしながら、各発光層とその隣接する層との界面付近に蓄積する電子の量を抑えることができる。その結果、各発光層の劣化を抑え、発光素子の長寿命化を図ることができる。
【0009】
本発明の発光素子では、前記第1の発光層の前記ゲスト材料および前記第2の発光層の前記ゲスト材料が、それぞれ、ジインデノペリレン誘導体を含むことが好ましい。
これにより、第1の発光層および第2の発光層をそれぞれより高輝度で赤色発光させることができる。
本発明の発光素子では、前記第1の発光層の前記ホスト材料および前記第2の発光層の前記ホスト材料が、それぞれ、ナフタセン誘導体を含むことが好ましい。
これにより、第1の発光層および第2の発光層をそれぞれより高輝度かつ高効率で赤色発光させることができる。
【0010】
本発明の発光素子では、前記キャリア調整層は、ナフタセン誘導体およびアミン誘導体を含んで構成されていることが好ましい。
これにより、キャリア調整層は、第2の発光層から第1の発光層への電子の移動を適度に制限しながら、第1の発光層と第2の発光層との間で電子および正孔の受け渡しを円滑に行うことができる。
【0011】
本発明の発光素子では、前記キャリア調整層は、ナフタセン誘導体およびアミン誘導体からなる混合材料を主材料として構成されていることが好ましい。
これにより、ナフタセン誘導体およびアミン誘導体の混合比を調整するだけで比較的簡単に、第1の発光層と第2の発光層との間の電子および正孔の移動量を調整することができる。
【0012】
本発明の発光素子では、前記第1の発光層および前記第2の発光層のそれぞれに含まれるナフタセン誘導体と、前記キャリア調整層に含まれるナフタセン誘導体とが同種であることが好ましい。
これにより、キャリア調整層と第1の発光層および第2の発光層との間の電子の移動を円滑なものとすることができる。
【0013】
本発明の発光素子では、前記キャリア調整層の厚さは、5nm以上20nm以下であることが好ましい。
これにより、駆動電圧を抑えながら、第1の発光層と第2の発光層との発光バランスを良好なものとすることができる。
本発明の発光素子では、前記キャリア調整層中におけるナフタセン誘導体の含有量は、20質量%以上80質量%以下であることが好ましい。
これにより、キャリア調整層の電子ブロック性を適度なものとしつつ、キャリア調整層の電子輸送性および正孔輸送性を有するものとすることができる。
【0014】
本発明の発光素子では、前記第1の発光層に含まれるナフタセン誘導体と、前記第2の発光層に含まれるナフタセン誘導体とが同種であることが好ましい。
これにより、第1の発光層と第2の発光層との色バランスを良好なものとすることができる。
本発明の発光素子では、前記第1の発光層に含まれるジインデノペリレン誘導体と、前記第2の発光層に含まれるジインデノペリレン誘導体とが同種であることが好ましい。
これにより、第1の発光層と第2の発光層との発光バランス(輝度のバランス)を良好なものとすることができる。
【0015】
本発明の発光素子では、前記第1の発光層の厚さと前記第2の発光層の厚さとが等しいことが好ましい。
これにより、第1の発光層と第2の発光層との発光バランス(輝度のバランス)を良好なものとすることができる。
本発明の露光ヘッドは、本発明の発光素子を備えることを特徴とする。
これにより、発光素子として有機EL素子を用いた長寿命な露光ヘッドを提供することができる。
【0016】
本発明の露光ヘッドでは、前記発光素子は一方向に沿って複数配列され、前記各発光素子の光の出射側には、前記各発光素子からの光を結像する結像光学系が設けられていることが好ましい。
これにより、高解像度で露光処理を行うことができる。
本発明の画像形成装置は、本発明の露光ヘッドを備えることを特徴とする。
これにより、高品位な画像を得ることができ、信頼性の高い画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態にかかる画像形成装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】図1に示す画像形成装置に備えられた露光ヘッドの部分断面斜視図である。
【図3】図2中のA−A線断面図である。
【図4】図2に示す露光ヘッドを平面視したときのレンズと発光素子との位置関係を示す図である。
【図5】図2に示す露光ヘッドに備えられた発光素子の縦断面を模式的に示す図である。
【図6】図5に示す発光素子の作用を説明するための図である。
【図7】図5に示す発光素子の作用(電子の分布)を従来の発光素子と比較して説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の発光素子、露光ヘッドおよび画像形成装置を添付図面に示す好適な実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態にかかる画像形成装置の全体構成を示す概略図、図2は、図1に示す画像形成装置に備えられた露光ヘッドの部分断面斜視図、図3は、図2中のA−A線断面図、図4は、図2に示す露光ヘッドを平面視したときのレンズと発光素子との位置関係を示す図、図5は、図2に示す露光ヘッドに備えられた発光素子の縦断面を模式的に示す図、図6は、図5に示す発光素子の作用を説明するための図、図7は、図5に示す発光素子の作用(電子の分布)を従来の発光素子と比較して説明するための図である。なお、以下では、説明の便宜上、図1〜図3および図5中の上側を「上」、下側を「下」とも言う。
【0019】
(画像形成装置)
図1に示す画像形成装置1は、帯電工程・露光工程・現像工程・転写工程・定着工程を含む一連の画像形成プロセスによって画像を記録媒体Pに記録する電子写真方式のプリンターである。本実施形態では、画像形成装置1は、いわゆるタンデム方式を採用するカラープリンターである。
【0020】
このような画像形成装置1は、図1に示すように、帯電工程・露光工程・現像工程のための画像形成ユニット10と、転写工程のための転写ユニット20と、定着工程のための定着ユニット30と、紙などの記録媒体Pを搬送するための搬送機構40と、この搬送機構40に記録媒体Pを供給する給紙ユニット50とを有している。
画像形成ユニット10は、イエローのトナー像を形成する画像形成ステーション10Yと、マゼンタのトナー像を形成する画像形成ステーション10Mと、シアンのトナー像を形成する画像形成ステーション10Cと、ブラックのトナー像を形成する画像形成ステーション10Kとの4つの画像形成ステーションを備えている。
【0021】
4つの画像形成ステーション10Y、10C、10M、10Kは、それぞれ、静電的な潜像を担持する潜像担持体である感光ドラム(感光体)11を有している。そして、各感光ドラム11の周囲(外周側)には、その回転方向に沿って、帯電ユニット12、露光ヘッド(露光ユニット)13、現像装置14、クリーニングユニット15が配設されている。なお、各画像形成ステーション10Y、10C、10M、10Kは、用いるトナーの色が異なる以外は、ほぼ同じ構成である。
【0022】
感光ドラム11は、全体形状が円筒状をなし、その軸線まわりに図1中矢印方向に回転可能となっている。そして、感光ドラム11の外周面(円筒面)付近には、有機感光体(OPC)、アモルファスシリコン(α−Si)等で構成された感光層(図示せず)が設けられている。このような感光ドラム11の外周面は、露光ヘッド13からの光L(出射光)を受光する受光面111を有している(図2参照)。
【0023】
帯電ユニット12は、コロナ帯電などにより感光ドラム11の受光面111を一様に帯電させるものである。
露光ヘッド13は、図示しないパーソナルコンピューターなどのホストコンピューターから画像情報を受け、これに応じて、感光ドラム11の受光面111に向けて光Lを照射するものである。一様に帯電された感光ドラム11の受光面111に光Lが照射されると、その光Lの照射パターンに対応した潜像(静電潜像)が受光面111上に形成される。なお、露光ヘッド13の構成については、後に詳述する。
【0024】
現像装置14は、トナーを貯留する貯留部(図示せず)を有しており、当該貯留部から、静電的な潜像を担持する感光ドラム11の受光面111にトナーを供給し、付与する。これにより、感光ドラム11上の潜像がトナー像として可視化(現像)される。
クリーニングユニット15は、感光ドラム11の受光面111に当接するゴム製のクリーニングブレード151を有し、後述する1次転写後の感光ドラム11上に残存するトナーをクリーニングブレード151により掻き落として除去するようになっている。
【0025】
転写ユニット20は、前述したような各画像形成ステーション10Y、10M、10C、10Kの感光ドラム11上に形成された各色のトナー像を一括して記録媒体Pに転写するようになっている。
このような4つの画像形成ステーション10Y、10C、10M、10Kでは、それぞれ、感光ドラム11が1回転する間に、帯電ユニット12による感光ドラム11の受光面111の帯電と、露光ヘッド13による受光面111の露光と、現像装置14による受光面111へのトナーの供給と、後述する1次転写ローラ22との圧着による中間転写ベルト21への1次転写と、クリーニングユニット15による受光面111のクリーニングとが順次行なわれる。
【0026】
転写ユニット20は、エンドレスベルト状の中間転写ベルト21を有し、この中間転写ベルト21は、複数(図1に示す構成では4つ)の1次転写ローラ22と駆動ローラ23と従動ローラ24とで張架されており、駆動ローラ23の回転により、図1に示す矢印方向に、感光ドラム11の周速度とほぼ同じ周速度で回転駆動される。
複数の1次転写ローラ22は、それぞれ、対応する感光ドラム11に中間転写ベルト21を介して対向配設されており、感光ドラム11上の単色のトナー像を中間転写ベルト21に転写(1次転写)するようになっている。この1次転写ローラ22は、1次転写時に、トナーの帯電極性とは逆の極性の1次転写電圧(1次転写バイアス)が印加される。
【0027】
中間転写ベルト21上には、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックのうちの少なくとも1色のトナー像が担持される。例えば、フルカラー画像の形成時には、中間転写ベルト21上に、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のトナー像が順次重ねて転写されて、フルカラーのトナー像が中間転写像として形成される。
また、転写ユニット20は、中間転写ベルト21を介して駆動ローラ23に対向配設される2次転写ローラ25と、中間転写ベルト21を介して従動ローラ24に対向配設されるクリーニングユニット26とを有している。
【0028】
2次転写ローラ25は、中間転写ベルト21上に形成された単色あるいはフルカラーなどのトナー像(中間転写像)を、給紙ユニット50から供給される紙、フィルム、布等の記録媒体Pに転写(2次転写)するようになっている。2次転写ローラ25は、2次転写時に、中間転写ベルト21に押圧されるとともに2次転写電圧(2次転写バイアス)が印加される。このような2次転写時には、駆動ローラ23は、2次転写ローラ25のバックアップローラとしても機能する。
【0029】
クリーニングユニット26は、中間転写ベルト21の表面に当接するゴム製のクリーニングブレード261を有し、2次転写後の中間転写ベルト21上に残存するトナーをクリーニングブレード261により掻き落として除去するようになっている。
定着ユニット30は、定着ローラ301と、定着ローラ301に圧接される加圧ローラ302とを有しており、定着ローラ301と加圧ローラ302との間を記録媒体Pが通過するよう構成されている。また、定着ローラ301は、その内側に当該定着ローラの外周面を加熱するヒータが内蔵されており、通過する記録媒体Pを加熱および加圧することができる。このような構成の定着ユニット30より、トナー像の2次転写を受けた記録媒体Pを加熱および加圧して、トナー像を記録媒体Pに融着させて永久像として定着する。
【0030】
搬送機構40は、前述した2次転写ローラ25と中間転写ベルト21との間の2次転写部へ給紙タイミングを計りつつ記録媒体Pを搬送するレジストローラ対41と、定着ユニット30での定着処理済みの記録媒体Pを挟持搬送する搬送ローラ対42、43、44とを有している。
このような搬送機構40は、記録媒体Pの一方の面のみに画像形成を行う場合には、定着ユニット30によって一方の面に定着処理された記録媒体Pを搬送ローラ対42により挟持搬送して、画像形成装置1の外部へ排出する。また、記録媒体Pの両面に画像形成する場合には、定着ユニット30によって一方の面に定着処理された記録媒体Pを一旦搬送ローラ対42により挟持した後に、搬送ローラ対42を反転駆動するとともに、搬送ローラ対43、44を駆動して、当該記録媒体Pを表裏反転してレジストローラ対41へ帰還させ、前述と同様の動作により、記録媒体Pの他方の面に画像を形成する。
給紙ユニット50は、未使用の記録媒体Pを収容する給紙カセット51と、給紙カセット51から記録媒体Pを1枚ずつレジストローラ対41へ向け給送するピックアップローラ52とを備えている。
【0031】
(露光ヘッド)
ここで、露光ヘッド13について詳述する。なお、以下では、説明の都合上、前述した感光ドラム11の軸線方向(第1の方向)を「主走査方向」、感光ドラム11の受光面111の露光ヘッド13との対向部付近の移動方向に平行な方向(第2の方向)を「副走査方向」と言う。
露光ヘッド13は、感光ドラム11の下方に、その受光面111に対向して配置されている。
【0032】
この露光ヘッド13は、レンズアレイ(第1のレンズアレイ)6’と、スペーサ84、レンズアレイ(第2のレンズアレイ)6と、遮光部材(第1の遮光部材)82と、絞り部材(開口絞り)83と、遮光部材(第2の遮光部材)81と、発光素子アレイ7とを有し、これらの部材がケーシング9内に収納されている。
この露光ヘッド13では、発光素子アレイ7から出射した光Lが、絞り部材83で絞られた後に、レンズアレイ6’およびレンズアレイ6をこの順で通過し、感光ドラム11の受光面111に照射される。
【0033】
図2に示すように、レンズアレイ6およびレンズアレイ6’は、それぞれ、外形が長尺状をなす板状体で構成されている。
図3に示すように、レンズアレイ6の光Lが入射する下面(入射面)には、複数のレンズ面(凸曲面)62が形成されている。一方、レンズアレイ6の光Lが出射する上面(出射面)は、平坦面となっている。
【0034】
すなわち、レンズアレイ6では、光Lの入射側の面を凸曲面とし、光Lの出射側の面を平面とする平凸レンズであるレンズ64が複数配置されている。ここで、レンズアレイ6の各レンズ64以外の部分は、各レンズ64を支持する支持部65を構成する。
同様に、レンズアレイ6’の光Lが入射する下面(入射面)には、前述した複数のレンズ面62に対応して、複数のレンズ面(凸曲面)62’が形成されている。一方、レンズアレイ6’の光Lが出射する上面(出射面)は、平坦面となっている。
【0035】
すなわち、レンズアレイ6’では、光Lの入射側の面を凸曲面とし、光Lの出射側の面を平面とする平凸レンズであるレンズ64’が複数配置されている。ここで、レンズアレイ6’の各レンズ64’以外の部分は、各レンズ64’を支持する支持部65’を構成する。
そして、対応する1対のレンズ64およびレンズ64’は、対応する発光素子群71の各発光素子74から放射された光を結像する結像光学系60を構成する。
【0036】
以下、レンズ64の配置について説明する。なお、レンズ64’の配置(平面視での配置)については、レンズ64の配置と同様であるので、その説明を省略する。
図4に示すように、レンズ64は、主走査方向(第1の方向)に複数列配置されるとともに、主走査方向およびレンズ64の光軸方向のそれぞれに直交する副走査方向(第2の方向)に複数行配置されている。
【0037】
より具体的には、複数のレンズ64は、3行n列(nは2以上の整数)の行列状に配置されている。なお、以下、1つの列(レンズ列)に属する3つのレンズ64のうち、中央に位置するレンズ64を「レンズ64b」と言い、それに対して図3中左側(図4中上側)に位置するレンズ64を「レンズ64a」と言い、図3中右側(図4中下側)に位置するレンズ64を「レンズ64c」と言う。また、レンズ64と対をなすレンズ64’について、レンズ64aに対応するレンズ64’を「レンズ64a’」と言い、レンズ64bに対応するレンズ64’を「レンズ64b’」と言い、レンズ64cに対応するレンズ64’を「レンズ64c’」と言う。
【0038】
本実施形態では、1つの列に属する複数のレンズ64(64a〜64c)のうち、副走査方向の中心側に最も近い位置のレンズ64bが、感光ドラム11の受光面111に対し、最も近い位置になるように露光ヘッド13が画像形成装置1に設置される。これにより、複数のレンズ64の光学的特性の設定が容易となる。
また、図3および図4に示すように、各レンズ列では、それぞれ、レンズ64a〜64cが順に主走査方向(図4中右方向)に等距離ずつずれて配置されている。すなわち、各レンズ列では、それぞれ、レンズ64a〜64cの各レンズ中心同士を結ぶ線が主走査方向および副走査方向に対して所定角度傾斜している。
【0039】
図3に示す断面でみたときに、1つのレンズ列に属する3つのレンズ64、すなわちレンズ64a〜64cでは、レンズ64aとレンズ64cとは、それらの光軸601同士がレンズ64bの光軸601を介して対称的に配置さている。また、レンズ64a〜64cは、互いの光軸601が平行となるように配置されている。
このようなレンズアレイ6、6’の構成材料としては、前述したような光学特性を発揮することができるものであれば、特に限定されないが、例えば、樹脂材料および/またはガラス材料が好適に用いられる。
【0040】
図2、図3に示すように、レンズアレイ6とレンズアレイ6’との間には、スペーサ84が設置されている。そして、レンズアレイ6とレンズアレイ6’とは、スペーサ84を介して接合されている。
スペーサ84は、レンズアレイ6とレンズアレイ6’との間の距離であるギャップ長を規制する機能を有している。
スペーサ84の厚さを調整することで、レンズ64とレンズ64’との離間距離を所望の値に調整することができる。
【0041】
このスペーサ84は、レンズアレイ6の外周部とレンズアレイ6’の外周部とにそれぞれ対応するように枠状をなし、これらの外周部のそれぞれに接合されている。なお、スペーサ84は、前述した機能を発揮することができるものであれば、前述した枠状のものに限定されず、例えば、レンズアレイ6、6’の外周部のうちの互いに対向する1つの辺に対応する部分のみに対応するように1対の部材で構成されていてもよいし、後述する遮光部材81、83のように板状部材に光路に対応した貫通孔を形成した構成であってもよい。
このようなスペーサ84の構成材料としては、前述したような機能を発揮することができるものであれば、特に限定されず、樹脂材料、金属材料、ガラス材料、セラミックス材料などを用いることができる。
【0042】
図3に示すように、レンズアレイ6の光Lの入射側には、遮光部材82、絞り部材83および遮光部材81を介して、発光素子アレイ7が設置されている。発光素子アレイ7は、複数の発光素子群(発光素子グループ)71と、支持板(ヘッド基板)72とを有している。
支持板72は、各発光素子群71をそれぞれ支持するものであり、外形が長尺状をなす板状体で構成されている。この支持板72は、レンズアレイ6と平行に配置されている。
【0043】
支持板72の構成材料としては、特に限定されないが、本実施形態のように、支持板72の裏面側に発光素子群71を設ける場合(すなわち発光素子74としてボトムエミッション型の発光素子を用いる場合)、各種ガラス材料や各種プラスチック等の透明性を有する材料が好適に用いられる。なお、発光素子74としてトップエミッション型の発光素子を用いる場合、支持板72の構成材料としては、透明性を有する材料に限定されず、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼のような各種金属材料、各種ガラス材料や各種プラスチック等を単独または組み合わせて用いることができる。支持板72を各種金属材料や各種ガラス材料で構成した場合には、各発光素子74の発光により生じる熱を支持板72を介して効率良く放熱することができる。また、支持板72を各種プラスチックで構成した場合には、支持板72の軽量化に寄与する。
【0044】
また、支持板72の裏面側には、支持板72側に開放する箱状の収納部73が設置されている。この収納部73には、複数の発光素子群71やこれらの発光素子群71(各発光素子74)に電気的に接続された導線類(図示せず)、または、各発光素子74を駆動させるための回路(図示せず)が収納されている。
複数の発光素子群71は、前述した複数のレンズ64に対応して、互いに離間して、3行n列(nは2以上の整数)の行列状に配置されている(例えば、図4参照)。また、各発光素子群71は、それぞれ、複数(本実施形態では8つ)の発光素子74で構成されている。
【0045】
各発光素子群71を構成する8つの発光素子74は、図3に示す支持板72の下面721に沿って配置されている。この8つの発光素子74から発せられた光Lは、それぞれ、対応するレンズ64を経て、感光ドラム11の受光面111上で集光(結像)する。
また、図4に示すように、8つの発光素子74は、互いに離間して、主走査方向に4列配置され、副走査方向に2行配置されている。このように、8つの発光素子74は、2行4列の行列状をなしている。1つの列(発光素子列)に属する互いに隣接した2つの発光素子74同士は、主走査方向にずれて配置されている。
【0046】
そして、このように2行4列の行列状をなす8つの発光素子74では、主走査方向に隣接する発光素子74同士の間を、次の行の1つの発光素子74で補完している。
8つの発光素子74を例えばできる限り密に1つの行に配置するのには限界が生じるが、8つの発光素子74を前述したようにずらして配置することにより、これらの発光素子74の配置密度をより高いものとすることができる。これにより、画像を記録媒体Pに記録した際、その記録媒体Pに対する記録密度をより高めることができる。よって、解像度が高く、多階調で、かつ鮮明な画像が担持された記録媒体Pが得られる。
【0047】
なお、1つの発光素子群71に属する8つの発光素子74は、本実施形態では2行4列の行列状に配置されているが、これに限定されず、例えば、4行2列の行列状に配置されていてもよい。
前述したように、複数の発光素子群71は、互いに離間して、3行n列の行列状に配置されている。図4に示すように、1つの列(発光素子群列)に属する3つの発光素子群71は、主走査方向(図4中右方向)に等間隔にずれて配置されている。
【0048】
そして、このように3行n列の行列状をなす発光素子群71では、隣接する発光素子群71同士の間隔を、次の行の発光素子群71およびその次の行の発光素子群71で順次補完している。
複数の発光素子群71を例えばできる限り密に1つの行に配置するのには限界が生じるが、複数の発光素子群71を前述したようにずらして配置することにより、これらの発光素子群71の配置密度をより高いものとすることができる。これにより、1つの発光素子群71内の8つの発光素子74がずれて配置されていることと相まって、画像を記録媒体Pに記録した際、その記録媒体Pに対する記録密度を高めることができる。よって、解像度がより高く、多階調で色再現性が良く、より鮮明な画像が担持された記録媒体Pが得られる。
【0049】
また、各発光素子74は、ボトムエミッション構造の有機EL素子(有機エレクトロルミネッセンス素子)である。なお、発光素子74は、ボトムエミッション構造の素子に限定されず、トップエミッション構造の素子であってもよい。この場合、前述したように、支持板72には、光透過性は要求されない。
各発光素子74が有機EL素子であると、発光素子74同士の間隔(ピッチ)を比較的小さく設定することができる。これにより、画像を記録媒体Pに記録した際、その記録媒体Pに対する記録密度が比較的高くなる。また、各種成膜法を用いて高精度な寸法および位置で各発光素子74を形成することができる。よって、より鮮明な画像が担持された記録媒体Pが得られる。
【0050】
本実施形態では、各発光素子74がいずれも赤色光を発光するように構成されている。なお、発光素子74の構成については後に詳述する。
図3に示すように、レンズアレイ6と発光素子アレイ7との間には、遮光部材82、絞り部材83および遮光部材81が設置されている。
遮光部材81、82は、それぞれ、隣接する発光素子群71同士間の光Lのクロストークを防止するものである。
【0051】
このような遮光部材81には、当該遮光部材81を図3中上下方向(厚さ方向)に貫通する複数の貫通孔(開口部)811が形成されている。これらの貫通孔811は、それぞれ、各レンズ64に対応した位置に配置されている。
同様に、遮光部材82には、当該遮光部材82を図3中上下方向(厚さ方向)に貫通する複数の貫通孔821が形成されている。これらの貫通孔821は、それぞれ、前述した各レンズ64に対応した位置に配置されている。
【0052】
貫通孔811、821は、それぞれ、発光素子群71からそれに対応するレンズ64までの光路を形成する。また、各貫通孔811、821は、それぞれ、平面視で円形をなしており、その内側に、当該貫通孔811、821に対応する発光素子群71の8つの発光素子74を包含している。
なお、各貫通孔811、821は、図3に示す構成では円筒状をなしているが、これに限定されず、例えば、上方に向かって拡がった円錐台状をなしていてもよい。
【0053】
このような遮光部材81、82の間には、絞り部材83が設置されている。
絞り部材83は、発光素子群71からレンズ64に入射する光Lを所定量に制限する開口絞りである。
特に、この絞り部材83は、結像光学系60の前側焦点面付近に設けられている。これにより、結像光学系60が像側テレセントリックとなり、受光面111と露光ヘッド13との距離に取付誤差等による誤差があっても、発光素子74a、74d、74b、74c(第1の発光素子および第2の発光素子)のそれぞれの像の位置ずれを防止することができる。
【0054】
絞り部材83は、板状または層状をなし、当該絞り部材83を図3中上下方向(厚さ方向)に貫通する複数の貫通孔(開口部)831が形成されている。これらの貫通孔831は、それぞれ、各レンズ64に対応した位置(すなわち前述した貫通孔811、821)に配置されている。
また、絞り部材83の貫通孔831は、平面視で円形をなし、その直径は、前述した遮光部材81の貫通孔811の直径よりも小さくなっている。
【0055】
このような遮光部材81、82および絞り部材83は、レンズアレイ6と支持板72との間の距離、位置関係および姿勢を高精度に規定する機能をも有する。
各レンズ64のレンズ面62とそれに対応する発光素子群71との距離は、後述する結像光学系60の結像位置の図3中の上下方向の位置を定める上で重要な条件(要素)である。したがって、前述したように、遮光部材81、82および絞り部材83がレンズアレイ6と発光素子アレイ7との間の距離であるギャップ長を規制するスペーサとしても機能していると、高精度で、信頼性の高い画像形成装置1が得られる。
【0056】
また、遮光部材81、82および絞り部材83は、それぞれ、少なくとも内周面が黒色、茶褐色、紺色等の暗色となっているのが好ましい。
このような遮光部材81、82および絞り部材83の構成材料としては、それぞれ、光を透過しない材料であれば特に限定されず、例えば、各種着色剤や、クロム、酸化クロム等の金属系材料、カーボンブラックや着色剤を混練した樹脂等が挙げられる。
【0057】
図2、図3に示すように、前述したレンズアレイ6と発光素子アレイ7とスペーサ84と遮光部材81、82と絞り部材83とは、一括してケーシング9に収納さている。このケーシング9は、枠部材(ケーシング本体)91と、蓋部材(裏蓋)92と、蓋部材92を枠部材91に固定する複数のクランプ部材93とを有している(図3参照)。
図2に示すように、枠部材91は、全体形状が長尺なものである。
【0058】
また、枠部材91は、枠状をなしていて、図3に示すように、枠部材91には、その上側および下側に開口する内腔部911が形成されている。この内腔部911の幅は、図3中下方から上方に向かって、段階的に減少している。
内腔部911には、レンズアレイ6’とスペーサ84とレンズアレイ6と遮光部材82と絞り部材83と遮光部材81と発光素子アレイ7とがそれぞれはめ込まれており、これらが例えば接着剤で固定されている。これにより、レンズアレイ6’とスペーサ84とレンズアレイ6と遮光部材82と絞り部材83と遮光部材81と発光素子アレイ7とが枠部材91に一括して保持され、レンズアレイ6’とスペーサ84とレンズアレイ6と遮光部材82と絞り部材83と遮光部材81と発光素子アレイ7との主走査方向および副走査方向の位置決めがなされる。
【0059】
ここで、発光素子アレイ7の支持板72の上面722は、内腔部911の壁面に形成された段差部915と、第2の遮光部材81の下面とにそれぞれ当て付いて(当接して)いる。そして、内腔部911には、下方から蓋部材92がはめ込まれている。
蓋部材92は、その上部に収納部73が挿入される凹部922を有する長尺部材で構成されている。この蓋部材92の上端面は、枠部材91の境界部915との間で、発光素子アレイ7の支持板72の縁部を挟持している。
【0060】
さらに、各クランプ部材93によって、蓋部材92が上方に押し付けられている。これにより、蓋部材92が枠部材91に固定される。また、押し付けられた蓋部材92によって、発光素子アレイ7と遮光部材81、82と絞り部材83とレンズアレイ6との主走査方向、副走査方向および図3中上下方向のそれぞれの位置関係が固定される。
クランプ部材93は、主走査方向に沿って等間隔に複数配置されているのが好ましい。これにより、枠部材91と蓋部材92とを主走査方向に沿って均一に挟持することができる。
【0061】
クランプ部材93は、金属板を折り曲げ加工することで形成されたものである。このクランプ部材93の両端部(図3にて左右の端部)には、それぞれ、爪部931が形成され、各爪部931は、それぞれ、枠部材91の肩部916に係合している。
また、クランプ部材93の中間部には、上向きにアーチ状に湾曲した湾曲部932が形成されている。この湾曲部932の頂部は、前述したように各爪部931が肩部916に係合した状態で、蓋部材92の下面に圧接している。これにより、湾曲部932が弾性変形した状態で、蓋部材92を上方に付勢する。
【0062】
なお、枠部材91と蓋部材92とを挟持している各クランプ部材93をそれぞれ取り外した場合には、枠部材91から蓋部材92を取り外すことができる。これにより、発光素子アレイ7の交換、修理等のメンテナンスを施すことができる。
また、枠部材91および蓋部材92の構成材料としては、特に限定されず、例えば、支持板72と同様の構成材料を用いることができる。クランプ部材93の構成材料としては、特に限定されず、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼が挙げられる。また、クランプ部材93は、硬質樹脂材料で構成されていてもよい。
さらに、図示しないが、枠部材91の長手方向での両端部には、それぞれ、上方に突出するスペーサが設けられている。このスペーサは、受光面111とレンズアレイ6との距離を規制するものである。
【0063】
(発光素子)
次に、発光素子74について詳述する。
図5に示す発光素子(エレクトロルミネッセンス素子)74は、赤色発光するものである。
このような発光素子74は、陽極741と正孔注入層742と正孔輸送層743と第1の発光層(赤色発光層)744とキャリア調整層745と第2の発光層(赤色発光層)746と電子輸送層747と電子注入層748と陰極749とがこの順に積層されてなるものである。
【0064】
言い換えすれば、発光素子74は、2つの電極間(陽極741と陰極749との間)に、陽極741側から陰極749側へ、正孔注入層742と正孔輸送層743と第1の発光層744とキャリア調整層745と第2の発光層746と電子輸送層747と電子注入層748とがこの順に積層で積層された積層体750が介挿されて構成されている。
そして、発光素子74は、その全体が支持板(基板)72上に設けられるとともに、封止部材75で封止されている。
【0065】
このような発光素子74にあっては、第1の発光層744および第2の発光層746に対し、それぞれ、陰極749側から電子が供給(注入)されるとともに、陽極741側から正孔が供給(注入)される。そして、第1の発光層744および第2の発光層746では、それぞれ、正孔と電子とが再結合し、この再結合に際して放出されたエネルギーによりエキシトン(励起子)が生成し、エキシトンが基底状態に戻る際にエネルギー(蛍光やりん光)を放出(発光)する。これにより、発光素子74は、赤色発光する。
【0066】
以下、発光素子74を構成する各部を順次説明する。
(陽極)
陽極741は、後述する正孔注入層742を介して正孔輸送層743に正孔を注入する電極である。この陽極741の構成材料としては、仕事関数が大きく、導電性に優れる材料を用いるのが好ましい。
【0067】
陽極741の構成材料としては、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、In、SnO、Sb含有SnO、Al含有ZnO等の酸化物、Au、Pt、Ag、Cuまたはこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
このような陽極741の平均厚さは、特に限定されないが、10〜200nm程度であるのが好ましく、50〜150nm程度であるのがより好ましい。
【0068】
(陰極)
一方、陰極749は、後述する電子注入層748を介して電子輸送層747に電子を注入する電極である。この陰極749の構成材料としては、仕事関数の小さい材料を用いるのが好ましい。
陰極749の構成材料としては、例えば、Li、Mg、Ca、Sr、La、Ce、Er、Eu、Sc、Y、Yb、Ag、Cu、Al、Cs、Rbまたはこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて(例えば、複数層の積層体等)用いることができる。
【0069】
特に、陰極749の構成材料として合金を用いる場合には、Ag、Al、Cu等の安定な金属元素を含む合金、具体的には、MgAg、AlLi、CuLi等の合金を用いるのが好ましい。かかる合金を陰極749の構成材料として用いることにより、陰極749の電子注入効率および安定性の向上を図ることができる。
このような陰極749の平均厚さは、特に限定されないが、100〜10000nm程度であるのが好ましく、100〜500nm程度であるのがより好ましい。
なお、本実施形態の発光素子74は、ボトムエミッション型であるため、陰極749に、光透過性は、特に要求されない。
【0070】
(正孔注入層)
正孔注入層742は、陽極741からの正孔注入効率を向上させる機能を有するものである。
この正孔注入層742の構成材料(正孔注入材料)としては、特に限定されないが、例えば、銅フタロシアニンや、下記化1で表わされる化合物、4,4’,4’’−トリス(N,N−フェニル−3−メチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)等のアミン系化合物が挙げられる。
【0071】
【化1】

【0072】
このような正孔注入層742の平均厚さは、特に限定されないが、5〜150nm程度であるのが好ましく、10〜100nm程度であるのがより好ましい。
なお、この正孔注入層742は、省略することができる。
【0073】
(正孔輸送層)
正孔輸送層743は、陽極741から正孔注入層742を介して注入された正孔を第1の発光層744まで輸送する機能を有するものである。
この正孔輸送層743の構成材料には、各種p型の高分子材料や、各種p型の低分子材料を単独または組み合わせて用いることができる。
このような正孔輸送層743の平均厚さは、特に限定されないが、10〜150nm程度であるのが好ましく、10〜100nm程度であるのがより好ましい。
なお、この正孔輸送層743は、省略することができる。
【0074】
(第1の発光層)
この第1の発光層744は、ホスト材料と、該ホスト材料に添加され、赤色に発光する赤色発光材料であるゲスト材料とを含んで構成されている。
ここで、赤色発光材料は、赤色に発光する(600nm以上の波長域にピークを有する光を発する)ものである。
このような赤色発光材料(ゲスト材料)としては、特に限定されず、各種赤色蛍光材料、赤色燐光材料を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0075】
赤色蛍光材料としては、赤色の蛍光を発するものであれば特に限定されず、例えば、下記化2で表わされる化合物等のペリレン誘導体、ユーロピウム錯体、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、ポルフィリン誘導体、ナイルレッド、2−(1,1−ジメチルエチル)−6−(2−(2,3,6,7−テトラヒドロ−1,1,7,7−テトラメチル−1H,5H−ベンゾ(ij)キノリジン−9−イル)エテニル)−4H−ピラン−4H−イリデン)プロパンジニトリル(DCJTB)、4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)等を挙げられる。
【0076】
【化2】

【0077】
中でも、赤色発光材料としては、ジインデノペリレン誘導体を用いるのが好ましい。これにより、第1の発光層744をより高輝度で赤色発光させることができる。
赤色燐光材料としては、赤色の燐光を発するものであれば特に限定されず、例えば、イリジウム、ルテニウム、白金、オスミウム、レニウム、パラジウム等の金属錯体が挙げられ、これら金属錯体の配位子の内の少なくとも1つがフェニルピリジン骨格、ビピリジル骨格、ポルフィリン骨格等を持つものも挙げられる。より具体的には、トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム、ビス[2−(2’−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジネート−N,C’]イリジウム(アセチルアセトネート)(btp2Ir(acac))、2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−12H,23H−ポルフィリン−白金(II)、ビス[2−(2’−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジネート−N,C’]イリジウム、ビス(2−フェニルピリジン)イリジウム(アセチルアセトネート)が挙げられる。
【0078】
一方、ホスト材料は、正孔と電子とを再結合して励起子を生成するとともに、その励起子のエネルギーを赤色発光材料に移動(フェルスター移動またはデクスター移動)させて、赤色発光材料を励起する機能を有する。このようなホスト材料を用いる場合、例えば、ゲスト材料である赤色発光材料をドーパントとしてホスト材料にドープして用いることができる。
【0079】
このようなホスト材料としては、用いる赤色発光材料に対して前述したような機能を発揮するものであれば、特に限定されないが、赤色発光材料が赤色蛍光材料を含む場合、例えば、下記化3〜6で表わされる化合物等のナフタセン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ペリレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアミン誘導体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq)等のキノリノラト系金属錯体、トリフェニルアミンの4量体等のトリアリールアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、シロール誘導体、ジカルバゾール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ベンゾピラン誘導体、トリアゾール誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、キノリン誘導体、4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0080】
【化3】

【0081】
【化4】

【0082】
【化5】

【0083】
【化6】

【0084】
中でも、第1の発光層744のホスト材料としては、ナフタセン誘導体(ナフタセン骨格を有する材料)を用いるのが好ましく、上記化3〜6のいずれかのナフタセン誘導体を用いるのがより好ましい。特に、赤色発光材料としてジインデノペリレン誘導体を用いる場合、第1の発光層744がナフタセン誘導体を含んで構成されていると、第1の発光層744をより高輝度かつ高効率で赤色発光させることができる。
【0085】
また、赤色発光材料が赤色燐光材料を含む場合、ホスト材料としては、例えば、3−フェニル−4−(1’−ナフチル)−5−フェニルカルバゾール、4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル(CBP)等のカルバゾール誘導体等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
前述したような赤色発光材料(ゲスト材料)およびホスト材料を用いる場合、第1の発光層744中における赤色発光材料の含有量(ドープ量)は、0.01〜10wt%であるのが好ましく、0.1〜5wt%であるのがより好ましい。赤色発光材料の含有量をこのような範囲内とすることで、発光効率を最適化することができる。
このような第1の発光層744の平均厚さは、特に限定されないが、10〜150nm程度であるのが好ましく、10〜100nm程度であるのがより好ましい。
【0086】
(キャリア調整層)
このキャリア調整層745は、前述した第1の発光層744と後述する第2の発光層746との層間にこれらに接するように設けられている。そして、キャリア調整層745は、第1の発光層744のホスト材料および第2の発光層746のホスト材料のうちの少なくとも一方のホスト材料と同種の材料を含み、かつ、発光性を有する材料を実質的に含まずに構成され、第1の発光層744と第2の発光層746との間でキャリア(正孔および電子)の移動を調整する機能を有する。これにより、第1の発光層744および第2の発光層746をそれぞれ効率よく発光させることができる。
【0087】
このようなキャリア調整層745の構成材料としては、キャリア調整層745が、第1の発光層744のホスト材料および第2の発光層746のホスト材料のうちの少なくとも一方のホスト材料と同種の材料を含み、かつ、発光性を有する材料を実質的に含まずに構成され、前述したようなキャリア調整機能を発揮することができるものであれば、特に限定されないが、アミン系材料(アミン誘導体)およびナフタセン誘導体の双方を含むものが好適に用いられる。
【0088】
特に、第1の発光層744および第2の発光層746がそれぞれホスト材料としてナフタセン誘導体を含む場合、ナフタセン誘導体およびアミン誘導体を含んで構成されたキャリア調整層745は、第2の発光層746から第1の発光層744への電子の移動を適度に制限しながら、第1の発光層と第2の発光層との間で電子および正孔の受け渡しを円滑に行うことができる。
【0089】
また、この場合、キャリア調整層745は、ナフタセン誘導体およびアミン誘導体からなる混合材料を主材料として構成されていると、ナフタセン誘導体およびアミン誘導体の混合比を調整するだけで比較的簡単に、第1の発光層744と第2の発光層746との間の電子および正孔の移動量を調整することができる。
キャリア調整層745に用いられるアミン系材料としては、アミン骨格を有し、かつ、キャリア調整層745が前述したようなキャリア調整機能を発揮するものであれば、特に限定されず、例えば、ベンジジン系アミン誘導体を用いるのが好ましい。
【0090】
特に、ベンジジン系アミン誘導体のなかでも、キャリア調整層745に用いられるアミン系材料としては、2つ以上のナフチル基を導入したものが好ましい。このようなベンジジン系アミン誘導体としては、例えば、下記化7で表されるようなN,N’−ビス(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル〔1,1’−ビフェニル〕−4,4’−ジアミン(α−NPD)や、N,N,N’,N’−テトラナフチル−ベンジジン(TNB)などが挙げられる。
【0091】
【化7】

【0092】
このようなアミン系材料は、正孔輸送性に優れている。したがって、このような正孔輸送性材料を含むキャリア調整層745は、第1の発光層744から第2の発光層746へ正孔を円滑に受け渡すことができる。また、このようなキャリア調整層745は、第2の発光層746から第1の発光層744への電子の輸送量を制限する機能(電子ブロック性)をも有する。
一方、キャリア調整層745に用いられるナフタセン誘導体(テトラセン誘導体)としては、特に限定されず、前述した第1の発光層744のナフタセン誘導体と同様のものを用いることができる。
【0093】
このようなナフタセン誘導体は、バイポーラ性を有する。したがって、キャリア調整層745は、第1の発光層744から第2の発光層746へ正孔を円滑に輸送するとともに、第2の発光層746から第1の発光層744へ電子を円滑に輸送することができる。また、キャリア調整層745は、電子および正孔に対して優れた耐性を有する。そのため、キャリア調整層745の劣化を防止し、その結果、発光素子74の耐久性を向上させることができる。
【0094】
また、第1の発光層744および第2の発光層746がそれぞれホスト材料としてナフタセン誘導体を含む場合、キャリア調整層745は、第1の発光層744および第2の発光層746のそれぞれに含まれるナフタセン誘導体と同種のナフタセン誘導体を含んでいるのが好ましい。すなわち、第1の発光層744および第2の発光層746のそれぞれに含まれるナフタセン誘導体と、キャリア調整層745に含まれるナフタセン誘導体とが同種であるのが好ましい。これにより、キャリア調整層745と第1の発光層744との間、および、キャリア調整層745と第2の発光層746との間に、ナフタセン誘導体同士によるエネルギー的な障壁が形成されるのを防止することができる。その結果、キャリア調整層745と第1の発光層744および第2の発光層746との間の電子の移動を円滑なものとすることができる。
【0095】
また、キャリア調整層745中におけるアミン系の含有量をA[質量%]とし、キャリア調整層745中におけるナフタセン誘導体の含有量をB[質量%]としたときに、A:Bは、20:80〜80:20であるのが好ましく、30:70〜70:30であるのがより好ましく、40:60〜60:40であるのがさらに好ましい。これにより、キャリア調整層745の電子ブロック性を適度なものとしつつ、キャリア調整層745の電子輸送性および正孔輸送性を有するものとすることができる。
これに対し、AおよびBが前記範囲から外れると、発光素子74の発光バランスが低下したり、発光素子74の駆動電圧が著しく上昇したりする傾向を示す。
【0096】
また、キャリア調整層745の厚さは、特に限定されないが、5nm以上30nm以下であるのが好ましく、6nm以上25nm以下であるのがより好ましく、6nm以上20nm以下であるのがさらに好ましい。これにより、駆動電圧を抑えつつ、キャリア調整層745が第1の発光層744と第2の発光層746との間で正孔および電子の移動を調整することができる。すなわち、駆動電圧を抑えながら、第1の発光層744と第2の発光層746との発光バランスを良好なものとすることができる。
【0097】
これに対し、キャリア調整層745の平均厚さが前記上限値を超えると、キャリア調整層745の構成材料等によっては、駆動電圧が著しく高くなったり、第1の発光層744と第2の発光層746との発光バランスが崩れたりする場合がある。一方、キャリア調整層745の平均厚さが前記下限値未満であると、キャリア調整層745の構成材料や駆動電圧等によっては、キャリア調整層745が第1の発光層744と第2の発光層746との間での電子および正孔の移動を調整するのが難しく、また、キャリアや励起子に対するキャリア調整層745の耐久性が低下する傾向を示す。
【0098】
(第2の発光層)
この第2の発光層746は、前述した第1の発光層744と同様、ホスト材料と、該ホスト材料に添加され、赤色に発光する赤色発光材料であるゲスト材料とを含んで構成されている。
この第2の発光層746中のゲスト材料(赤色発光材料)としては、前述した第1の発光層744中のゲスト材料(赤色発光材料)と同様のものを用いることができる。
【0099】
一方、第2の発光層746中のホスト材料としては、前述した第1の発光層744中のホスト材料と同様のものを用いることができる。
第2の発光層746中のホスト材料は、前述した第1の発光層744中のホスト材料と同種であっても異種であってもよいが、第1の発光層744および第2の発光層746がそれぞれナフタセン誘導体を含む場合、第1の発光層744に含まれるナフタセン誘導体と、第2の発光層746に含まれるナフタセン誘導体とが同種であるのが好ましい。これにより、第1の発光層744と第2の発光層746との色バランスを良好なものとすることができる。
【0100】
また、第2の発光層746中のゲスト材料は、前述した第1の発光層744中のゲスト材料と同種であっても異種であってもよいが、第1の発光層744および第2の発光層746がそれぞれジインデノペリレン誘導体を含む場合、第1の発光層744に含まれるジインデノペリレン誘導体と、第2の発光層746に含まれるジインデノペリレン誘導体とが同種であるのが好ましい。これにより、第1の発光層744と第2の発光層746との発光バランス(輝度のバランス)を良好なものとすることができる。
【0101】
前述したような赤色発光材料(ゲスト材料)およびホスト材料を用いる場合、第2の発光層746中における赤色発光材料の含有量(ドープ量)は、0.01〜10wt%であるのが好ましく、0.1〜5wt%であるのがより好ましい。赤色発光材料の含有量をこのような範囲内とすることで、発光効率を最適化することができる。
このような第2の発光層746の平均厚さは、特に限定されないが、10〜150nm程度であるのが好ましく、10〜100nm程度であるのがより好ましい。
また、第1の発光層744の厚さと第2の発光層746の厚さとが等しいのが好ましい。これにより、第1の発光層744と第2の発光層746との発光バランス(輝度のバランス)を良好なものとすることができる。
【0102】
(電子輸送層)
電子輸送層747は、陰極749から電子注入層748を介して注入された電子を第2の発光層746に輸送する機能を有するものである。
電子輸送層747の構成材料(電子輸送材料)としては、例えば、下記化8で表わされる化合物(B−phen)等のアミン系材料、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)等の8−キノリノールなしいその誘導体を配位子とする有機金属錯体などのキノリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ペリレン誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、キノキサリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0103】
【化8】

【0104】
電子輸送層747の平均厚さは、特に限定されないが、0.5〜100nm程度であるのが好ましく、1〜50nm程度であるのがより好ましい。
【0105】
(電子注入層)
電子注入層748は、陰極749からの電子注入効率を向上させる機能を有するものである。
この電子注入層748の構成材料(電子注入材料)としては、例えば、各種の無機絶縁材料、各種の無機半導体材料が挙げられる。
【0106】
このような無機絶縁材料としては、例えば、アルカリ金属カルコゲナイド(酸化物、硫化物、セレン化物、テルル化物)、アルカリ土類金属カルコゲナイド、アルカリ金属のハロゲン化物およびアルカリ土類金属のハロゲン化物等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらを主材料として電子注入層を構成することにより、電子注入性をより向上させることができる。特にアルカリ金属化合物(アルカリ金属カルコゲナイド、アルカリ金属のハロゲン化物等)は仕事関数が非常に小さく、これを用いて電子注入層748を構成することにより、発光素子74は、高い輝度が得られるものとなる。
【0107】
アルカリ金属カルコゲナイドとしては、例えば、LiO、LiO、NaS、NaSe、NaO等が挙げられる。
アルカリ土類金属カルコゲナイドとしては、例えば、CaO、BaO、SrO、BeO、BaS、MgO、CaSe等が挙げられる。
アルカリ金属のハロゲン化物としては、例えば、CsF、LiF、NaF、KF、LiCl、KCl、NaCl等が挙げられる。
アルカリ土類金属のハロゲン化物としては、例えば、CaF、BaF、SrF、MgF、BeF等が挙げられる。
【0108】
また、無機半導体材料としては、例えば、Li、Na、Ba、Ca、Sr、Yb、Al、Ga、In、Cd、Mg、Si、Ta、SbおよびZnのうちの少なくとも1つの元素を含む酸化物、窒化物または酸化窒化物等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
電子注入層748の平均厚さは、特に限定されないが、0.1〜1000nm程度であるのが好ましく、0.2〜100nm程度であるのがより好ましく、0.2〜50nm程度であるのがさらに好ましい。
【0109】
(封止部材)
封止部材75は、陽極741、積層体750、および陰極749を覆うように設けられ、これらを気密的に封止し、酸素や水分を遮断する機能を有する。封止部材75を設けることにより、発光素子74の信頼性の向上や、変質・劣化の防止(耐久性向上)等の効果が得られる。
【0110】
封止部材75の構成材料としては、例えば、Al、Au、Cr、Nb、Ta、Tiまたはこれらを含む合金、酸化シリコン、各種樹脂材料等を挙げることができる。なお、封止部材75の構成材料として導電性を有する材料を用いる場合には、短絡を防止するために、封止部材75と陽極741、積層体750、および陰極749との間には、必要に応じて、絶縁膜を設けるのが好ましい。
【0111】
また、封止部材75は、平板状として、支持板72と対向させ、これらの間を、例えば熱硬化性樹脂等のシール材で封止するようにしてもよい。
以上のように構成された発光素子74によれば、陽極741と陰極749間に電圧を印加すると、図6に示すように、陰極749側から注入された電子は、正孔輸送層743と第1の発光層744との界面付近、および、キャリア調整層745と第2の発光層746との界面付近にそれぞれ電子を滞留させることができる。
【0112】
これにより、各界面付近で電子と正孔との再結合を生じさせ、第1の発光層744および第2の発光層746をそれぞれ発光(赤色発光)させることができる。
このとき、本発明にかかる発光素子74では、図7(a)に示すように、発光に関わる電子の滞留が生じる箇所が2箇所に分散されるため、発光素子74全体の輝度を高いものとしながら、各発光層744、746の劣化を抑え、発光素子74の長寿命化を図ることができる。
【0113】
これに対し、発光層が1層で構成された従来の発光素子では、図7(b)に示すように、発光に関わる電子の滞留が1箇所(正孔輸送層743と発光層744Aとの界面付近)に集中するため、発光素子の輝度を高めると、発光層744Aの劣化が著しく、耐久性に劣るものとなる。
また、このような発光素子74を備える露光ヘッド13は、長寿命であり、高解像度で露光処理を行うことができる。
また、このような露光ヘッド13を備える画像形成装置1は、高品位な画像を得ることができ、信頼性に優れる。
以上のような発光素子74は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0114】
[1] まず、支持板72を用意し、この支持板72上に陽極741を形成する。
陽極741は、例えば、プラズマCVD、熱CVDのような化学蒸着法(CVD)、真空蒸着等の乾式メッキ法、電解メッキ等の湿式メッキ法、溶射法、ゾル・ゲル法、MOD法、金属箔の接合等を用いて形成することができる。
【0115】
[2] 次に、陽極741上に正孔注入層742を形成する。
正孔注入層742は、例えば、CVD法や、真空蒸着、スパッタリング等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセスにより形成することができる。
また、正孔注入層742は、例えば、正孔注入材料を溶媒に溶解または分散媒に分散してなる正孔注入層形成用材料を、陽極741上に供給した後、乾燥(脱溶媒または脱分散媒)することによっても形成することができる。
【0116】
正孔注入層形成用材料の供給方法としては、例えば、スピンコート法、ロールコート法、インクジェット印刷法等の各種塗布法を用いることもできる。かかる塗布法を用いることにより、正孔注入層742を比較的容易に形成することができる。
正孔注入層形成用材料の調製に用いる溶媒または分散媒としては、例えば、各種無機溶媒や、各種有機溶媒、または、これらを含む混合溶媒等が挙げられる。
【0117】
なお、乾燥は、例えば、大気圧または減圧雰囲気中での放置、加熱処理、不活性ガスの吹付け等により行うことができる。
また、本工程に先立って、陽極741の上面には、酸素プラズマ処理を施すようにしてもよい。これにより、陽極741の上面を親液性を付与すること、陽極741の上面に付着する有機物を除去(洗浄)すること、陽極741の上面付近の仕事関数を調整すること等を行うことができる。
ここで、酸素プラズマ処理の条件としては、例えば、プラズマパワー100〜800W程度、酸素ガス流量50〜100mL/min程度、被処理部材(陽極741)の搬送速度0.5〜10mm/sec程度、支持板72の温度70〜90℃程度とするのが好ましい。
【0118】
[3] 次に、正孔注入層742上に正孔輸送層743を形成する。
正孔輸送層743は、例えば、CVD法や、真空蒸着、スパッタリング等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセスにより形成することができる。
また、正孔輸送材料を溶媒に溶解または分散媒に分散してなる正孔輸送層形成用材料を、正孔注入層742上に供給した後、乾燥(脱溶媒または脱分散媒)することによっても形成することができる。
【0119】
[4] 次に、正孔輸送層743上に、第1の発光層744を形成する。
第1の発光層744は、例えば、CVD法や、真空蒸着、スパッタリング等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセスにより形成することができる。
[5] 次に、第1の発光層744上に、キャリア調整層745を形成する。
キャリア調整層745は、例えば、CVD法や、真空蒸着、スパッタリング等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセスにより形成することができる。
【0120】
[6] 次に、キャリア調整層745上に、第2の発光層746を形成する。
第2の発光層746は、例えば、CVD法や、真空蒸着、スパッタリング等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセスにより形成することができる。
[7] 次に、第2の発光層746上に電子輸送層747を形成する。
電子輸送層747は、例えば、CVD法や、真空蒸着、スパッタリング等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセスにより形成することができる。
また、電子輸送層747は、例えば、電子輸送材料を溶媒に溶解または分散媒に分散してなる電子輸送層形成用材料を、第2の発光層746上に供給した後、乾燥(脱溶媒または脱分散媒)することによっても形成することができる。
【0121】
[8] 次に、電子輸送層747上に、電子注入層748を形成する。
電子注入層748の構成材料として無機材料を用いる場合、電子注入層748は、例えば、CVD法や、真空蒸着、スパッタリング等の乾式メッキ法等を用いた気相プロセス、無機微粒子インクの塗布および焼成等を用いて形成することができる。
[9] 次に、電子注入層748上に、陰極749を形成する。
陰極749は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、金属箔の接合、金属微粒子インクの塗布および焼成等を用いて形成することができる。
以上のような工程を経て、発光素子74が得られる。
【0122】
最後に、得られた発光素子74を覆うように封止部材75を被せ、支持板72に接合する。
以上、本発明の発光素子、露光ヘッドおよび画像形成装置を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものでない。
例えば、前述した実施形態では、発光素子が2層の発光層を有するものについて説明したが、発光層が3層以上であってもよい。この場合、各発光層間にキャリア調整層を設けるのが好ましい。
【実施例】
【0123】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.発光素子の製造
(実施例)
<1> まず、平均厚さ0.5mmの透明なガラス基板を用意した。次に、この基板上に、スパッタ法により、平均厚さ100nmのITO電極(陽極)を形成した。
そして、基板をアセトン、2−プロパノールの順に浸漬し、超音波洗浄した後、酸素プラズマ処理を施した。
【0124】
<2> 次に、ITO電極上に、前述した化1で表わされる化合物を真空蒸着法により蒸着させ、平均厚さ50nmの正孔注入層を形成した。
<3> 次に、正孔注入層上に、前述した化7で表わされるα−NPDを真空蒸着法により蒸着させ、平均厚さ20nmの正孔輸送層を形成した。
<4> 次に、正孔輸送層上に、第1の発光層の構成材料を真空蒸着法により蒸着させ、平均厚さ20nmの第1の発光層(赤色発光層)を形成した。第1の発光層の構成材料としては、赤色発光材料(ゲスト材料)として前述した化2で表わされるジインデノペリレン誘導体を用い、ホスト材料として前述した化3で表わされるナフタセン誘導体を用いた。また、赤色発光層中の発光材料(ドーパント)の含有量(ドープ濃度)は、1.0wt%とした。
【0125】
<5> 次に、第1の発光層上に、キャリア調整層の構成材料をそれぞれ真空蒸着法により蒸着させ、平均厚さ10nmのキャリア調整層を形成した。
ここで、キャリア調整層の構成材料としては、ナフタセン誘導体として前述した化3で表される化合物を用い、アミン誘導体として前述した化7で表されるα−NPDを用いた(これらの混合材料を用いた)。また、キャリア調整層中におけるナフタセン誘導体の含有量は、50wt%とし、キャリア調整層中におけるアミン誘導体の含有量は、50wt%とした。
【0126】
<6> 次に、キャリア調整層上に、第2の発光層の構成材料を真空蒸着法により蒸着させ、平均厚さ20nmの第2の発光層(赤色発光層)を形成した。第2の発光層の構成材料としては、赤色発光材料(ゲスト材料)として前述した化2で表わされるジインデノペリレン誘導体を用い、ホスト材料として前述した化3で表わされるナフタセン誘導体を用いた。また、赤色発光層中の発光材料(ドーパント)の含有量(ドープ濃度)は、1.0wt%とした。
【0127】
<7> 次に、第2の発光層上に、前述した化8で表される化合物を真空蒸着法により成膜し、平均厚さ30nmの電子輸送層を形成した。
<8> 次に、電子輸送層上に、フッ化リチウム(LiF)を真空蒸着法により成膜し、平均厚さ1nmの電子注入層を形成した。
<9> 次に、電子注入層上に、Alを真空蒸着法により成膜した。これにより、Alで構成される平均厚さ150nmの陰極を形成した。
<10> 次に、形成した各層を覆うように、ガラス製の保護カバー(封止部材)を被せ、エポキシ樹脂により固定、封止した。
以上の工程により、図1に示すような発光素子を製造した。
【0128】
(比較例)
第1の発光層の厚さを40nmとするとともに、キャリア調整層および第2の発光層の形成を省略した以外は、前述した実施例と同様にして、発光素子を製造した。
【0129】
2.評価
実施例および比較例について、それぞれ、発光素子に200mA/cmの定電流を流し、そのときの電圧、輝度および色度を測定した。
また、実施例および比較例について、それぞれ、輝度が20000cd/mとなるように発光素子に電流を流し、そのときの電圧、電流効率、色度および寿命(LT90)を測定した。
その結果を表1に示す。なお、寿命については、初期の輝度の90%となるまでの時間(LT90)を測定し、比較例の発光素子の寿命を基準(1)とした相対的な値で示している。
【0130】
【表1】

【0131】
表1からわかるように、実施例の発光素子は、感光体を露光するのに適した赤色の発光が得られるとともに、電流効率に優れ(電圧に対する輝度が高く)、長寿命化を図ることができた(比較例の発光素子の寿命の1.5倍)。
これに対し、比較例の発光素子は、色度および電流効率は良好であるものの、耐久性(寿命特性)が低いものとなった。
【符号の説明】
【0132】
1…画像形成装置 6…レンズアレイ 6’…レンズアレイ 60、60a、60b、60c…結像光学系 601…光軸 62、62’…レンズ面 64、64’、64a、64a’、64b、64b’、64c、64c’…レンズ 65、65’…レンズ支持部 7…発光素子アレイ 71…発光素子群(発光素子グループ) 72…支持板(ヘッド基板) 721…下面 722…上面 73…収納部 74…発光素子 82…遮光部材 81…遮光部材 83…絞り部材 811、821、831…貫通孔 84…スペーサ 9…ケーシング 91…枠部材(ケーシング本体) 911…内腔部 915…境界部(段差部) 916…肩部 92…蓋部材(裏蓋) 922…凹部 93…クランプ部材 931…爪部 932…湾曲部 10…画像形成ユニット 10C、10K、10M、10Y…画像形成ステーション 11…感光ドラム(感光体) 111…受光面 12…帯電ユニット 13…露光ヘッド 14…現像装置 15…クリーニングユニット 151…クリーニングブレード 20…転写ユニット 21…中間転写ベルト 22…1次転写ローラ 23…駆動ローラ 24…従動ローラ 25…2次転写ローラ 26…クリーニングユニット 261…クリーニングブレード 30…定着ユニット 301…定着ローラ 302…加圧ローラ 40…搬送機構 41…レジストローラ対 42、43、44…搬送ローラ対 50…給紙ユニット 51…給紙カセット 52…ピックアップローラ P…記録媒体 741……陽極 742……正孔注入層 743……正孔輸送層 744……第1の発光層 744A……発光層 745……キャリア調整層 746……第2の発光層 747……電子輸送層 748……電子注入層 749……陰極 75……封止部材 750……積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極と、
陽極と、
前記陰極と前記陽極との間に設けられ、ホスト材料と、該ホスト材料に添加され、赤色に発光する赤色発光材料であるゲスト材料とを含んで構成された第1の発光層と、
前記第1の発光層と前記陰極との間に設けられ、ホスト材料と、該ホスト材料に添加され、赤色に発光する赤色発光材料であるゲスト材料とを含んで構成された第2の発光層と、
前記第1の発光層と前記第2の発光層との間にこれらに接するように設けられ、前記第1の発光層の前記ホスト材料および前記第2の発光層の前記ホスト材料のうちの少なくとも一方のホスト材料と同種の材料を含み、かつ、発光性を有する材料を実質的に含まずに構成され、前記第1の発光層と前記第2の発光層との間での正孔および電子の移動を調整するキャリア調整層とを有することを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記第1の発光層の前記ゲスト材料および前記第2の発光層の前記ゲスト材料が、それぞれ、ジインデノペリレン誘導体を含む請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記第1の発光層の前記ホスト材料および前記第2の発光層の前記ホスト材料が、それぞれ、ナフタセン誘導体を含む請求項2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記キャリア調整層は、ナフタセン誘導体およびアミン誘導体を含んで構成されている請求項3に記載の発光素子。
【請求項5】
前記キャリア調整層は、ナフタセン誘導体およびアミン誘導体からなる混合材料を主材料として構成されている請求項4に記載の発光素子。
【請求項6】
前記第1の発光層および前記第2の発光層のそれぞれに含まれるナフタセン誘導体と、前記キャリア調整層に含まれるナフタセン誘導体とが同種である請求項4または5に記載の発光素子。
【請求項7】
前記キャリア調整層の厚さは、5nm以上20nm以下である請求項4ないし6のいずれかに記載の発光素子。
【請求項8】
前記キャリア調整層中におけるナフタセン誘導体の含有量は、20質量%以上80質量%以下である請求項4ないし7のいずれかに記載の発光素子。
【請求項9】
前記第1の発光層に含まれるナフタセン誘導体と、前記第2の発光層に含まれるナフタセン誘導体とが同種である請求項3ないし8のいずれかに記載の発光素子。
【請求項10】
前記第1の発光層に含まれるジインデノペリレン誘導体と、前記第2の発光層に含まれるジインデノペリレン誘導体とが同種である請求項9に記載の発光素子。
【請求項11】
前記第1の発光層の厚さと前記第2の発光層の厚さとが等しい請求項1ないし10のいずれかに記載の発光素子。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに記載の発光素子を備えることを特徴とする露光ヘッド。
【請求項13】
前記発光素子は一方向に沿って複数配列され、前記各発光素子の光の出射側には、前記各発光素子からの光を結像する結像光学系が設けられている請求項12に記載の露光ヘッド。
【請求項14】
請求項12または13に記載の露光ヘッドを備えることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−257784(P2010−257784A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106972(P2009−106972)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】