発光素子の製造方法
【課題】発光層への水分等の侵入を抑制できる発光素子の製造方法を提供する。
【解決手段】発光領域20と、発光領域20とX軸方向に隣接する配線領域30とをそれぞれ含む複数の素子領域10が、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ配列された基板Wに作製される。Y軸方向に延在しX軸方向に配列された複数のバー42と、複数のバー42間に形成された複数の開口部43とを有するマスク40が、バー42が配線領域30を被覆し、開口部43から発光領域20が露出するように、基板W上に配置される。マスク40を介して、基板W上に無機膜8と有機膜9とが交互に成膜される。基板Wが、素子領域10毎に分離される。このように製造された発光素子1は、無機膜8と有機膜9からなる保護膜Pを有し、保護膜Pによって発光層5への水分等の侵入が抑制される。
【解決手段】発光領域20と、発光領域20とX軸方向に隣接する配線領域30とをそれぞれ含む複数の素子領域10が、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ配列された基板Wに作製される。Y軸方向に延在しX軸方向に配列された複数のバー42と、複数のバー42間に形成された複数の開口部43とを有するマスク40が、バー42が配線領域30を被覆し、開口部43から発光領域20が露出するように、基板W上に配置される。マスク40を介して、基板W上に無機膜8と有機膜9とが交互に成膜される。基板Wが、素子領域10毎に分離される。このように製造された発光素子1は、無機膜8と有機膜9からなる保護膜Pを有し、保護膜Pによって発光層5への水分等の侵入が抑制される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子等の発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL(Electro Luminescence)素子を用いた有機ELディスプレイの開発が進められ、一部の分野では既に実用化されている。有機EL素子は、主として、基板上に発光層と電極等とが積層された構造を有する。発光層を形成する有機化合物は、一般に、水分あるいは酸素により極めて劣化しやすい性質を有する。このことから、個々の素子領域に対応するように形成された複数の矩形の開口を有するマスクを用いて、発光層への水分等の侵入を抑制する保護膜を形成する方法が知られている。
【0003】
しかしながら、上記マスクは、素子の形成領域がマスクの開口によって決められるため、1枚の基板から効率よく素子を形成することができない。さらに、成膜時の高温条件下における熱変形等によって開口が変形しやすいことから、所望の保護膜の形成が困難になるとともに、高い頻度でマスク全体を交換する必要が生じる。
【0004】
そこで、特許文献1には、一端が枠体に固定され、そこから一方向のみに延在するテープ状のシャドーマスクを有するマスク装置について開示されている。このマスク装置は、テープ状のシャドーマスク間が開口となるため、広い開口面積を有する。このため、1枚の基板から効率よく素子を形成することができるとともに、熱変形等による歪みの影響も受けにくい。さらに、シャドーマスクの枠体に固定された一端とは異なる他端に張力を印加することによって、熱伸び等による開口の変形を抑制することができ、緩まず基板の表面と密着することができる。このことから、均一な成膜が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−168654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1には、発光層を水分等から保護するための保護膜の具体的な構造及びその形成方法については記載されていない。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、熱変形等による歪みの影響を受けにくいマスクを用いて、発光層への水分等の侵入を抑制できる発光素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る発光素子の製造方法は、発光領域と、上記発光領域と第1の軸方向に隣接する配線領域とをそれぞれ含む複数の素子領域が、上記第1の軸方向と上記第1の軸方向に直交する第2の軸方向とにそれぞれ配列された基板を作製する工程を含む。
上記第2の軸方向に延在し上記第1の軸方向に配列された直線的な複数の遮蔽部と、上記複数の遮蔽部間に形成された複数の開口部とを有するマスクが、上記複数の遮蔽部が上記複数の素子領域各々の上記配線領域を被覆し、上記複数の開口部から上記複数の素子領域各々の上記発光領域が露出するように、上記基板に対向して配置される。
上記マスクを介して、上記基板上に異種材料の積層構造を有する保護膜が成膜される。
上記基板が、上記素子領域毎に分離される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る発光素子の構成の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る基板の構造を示す概略上面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るマスクの構造を示す概略上面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る基板上にマスクが配置された態様を示す概略上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に係る発光素子の製造方法は、発光領域と、上記発光領域と第1の軸方向に隣接する配線領域とをそれぞれ含む複数の素子領域が、上記第1の軸方向と上記第1の軸方向に直交する第2の軸方向とにそれぞれ配列された基板を作製する工程を含む。
上記第2の軸方向に延在し上記第1の軸方向に配列された直線的な複数の遮蔽部と、上記複数の遮蔽部間に形成された複数の開口部とを有するマスクが、上記複数の遮蔽部が上記複数の素子領域各々の上記配線領域を被覆し、上記複数の開口部から上記複数の素子領域各々の上記発光領域が露出するように、上記基板に対向して配置される。
上記マスクを介して、上記基板上に異種材料の積層構造を有する保護膜が成膜される。
上記基板が、上記素子領域毎に分離される。
【0011】
上記マスクは、第2の軸方向に沿って形成された大きな開口部を有するため、熱変形等による歪みが少ない。このようなマスクを介して異種材料の積層構造を有する保護膜を形成することで、各層の成膜領域の位置及び形状がほぼ一定に保持された積層構造を形成することが可能となる。このことから、上記保護膜は、発光領域への水分等の侵入を抑制する機能を十分に発揮することができる。したがって、上記製造方法によって、不具合が少なく、寿命が長い発光素子を製造することが可能となる。
【0012】
上記保護膜の成膜工程は、無機膜と有機膜とを交互に成膜することを含んでもよい。
このような保護膜によって、発光層への水分等の侵入をより抑制することが可能となる。
【0013】
上記無機膜は、例えばシリコン化合物で形成されてもよく、さらに具体的には、シリコン窒化物,シリコン酸窒化物,シリコン酸化物の少なくとも一つを含んでもよい。
このような材料からなる無機膜は、透湿性が非常に低いため、より効果的に発光素子を水分から保護し、劣化を抑制することができる。
【0014】
上記有機膜は、アクリル樹脂またはポリウレア樹脂から形成されてもよい。さらに具体的には、上記アクリル樹脂は、紫外線硬化性を有してもよい。
このような材料からなる有機膜は、無機膜と積層させることによって透湿性が非常に低い積層構造を構成し、より効果的に発光素子を水分から保護し、劣化を抑制することができる。
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0016】
[発光素子の構成]
図1は、発光素子の構成の一例を示す概略断面図である。図示する発光素子1は、基板2と、下部電極層3と、正孔注入層4と、発光層5と、電子注入層6と、上部電極層7と、複数の無機膜8と、有機膜9とを有する。発光素子1は、全体として、厚みが約5μmの積層構造を有する。なお、図においてX軸方向は「第1の軸方向」に対応し、Y軸方向は「第2の軸方向」に対応し、本実施形態においてX軸方向及びY軸方向は水平方向を示す。Z軸方向はX軸方向とY軸方向とに垂直な方向を示し、本実施形態において鉛直方向を示す。
【0017】
基板2は、例えばガラス基板、プラスチック基板等で構成される。下部電極層3は、陽極として、例えばインジウム錫酸化物(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)等の透明電極からなる。上部電極層7は、陰極として、例えばアルミニウム等からなる。正孔注入層4は、正孔輸送層を含み、下部電極層3から発光層5へ正孔を注入する。電子注入層6は、電子輸送層を含み、上部電極層7から発光層5へ電子を注入する。発光層5は、所望の色に発光する有機発光材料で形成され、注入された正孔及び電子の再結合により発光する。
【0018】
発光素子1は、内部に複数の発光層5を含有することが可能である。複数の発光層は、ストライプ状に形成されてもよいし、グリッド状に形成されてもよい。複数の発光層は、例えばR(赤)、G(緑)、B(青)の3種類の発光層を含んでいてもよく、これによりディスプレイ用途の発光素子を構成することが可能である。
【0019】
発光層5の形状は特に制限されず、例えばY軸方向に沿って延びるように構成することも可能である。下部電極層3は、発光層5に正孔を注入することができるよう、発光層5に対応して形成される。上部電極層7は、電子注入層6を介して発光層5に電子を注入することができるように、一部が発光層5上に配置される。上部電極層7は、本実施形態において、X軸方向に沿って延びる電極からなる。また、必要に応じて複数の上部電極層7を設けてもよく、その場合はY軸方向に周期的に配置することも可能である。
【0020】
上部電極層7上には、さらに、無機膜8と、有機膜9とが交互に積層された3層構造からなる保護膜Pが形成されている。発光層5は、水分、酸素等により劣化しやすい性質を有するが、保護膜Pを積層することによって、発光層5への水分、酸素等の侵入が抑制される。
【0021】
保護膜PのX軸方向の幅は、上部電極層7等のX軸方向の幅よりも狭く形成される。これは、上部電極層7上の一部を保護膜Pに被覆されないように構成することによって、例えば上部電極層7と図示しない回路等との接続を容易にするためである。なお、基板2から上部電極層7までの積層構造において、保護膜Pが被覆されない領域は、後述する配線領域30に対応し、保護膜Pが被覆される領域は、後述する発光領域20に対応する。
【0022】
無機膜8は、本実施形態において、窒化ケイ素(SiNx)で形成される。SiNxは、水分を透過させにくい特性を有する。ここで、SiNxで形成された無機膜8について、水蒸気の透過量を示すパラメータである透湿度を測定すると、例えば10−3〜10−4g/m2/day程度である。なお、無機膜8の材料はSiNxに限られず、例えば他のシリコン窒化物や,シリコン酸窒化物,シリコン酸化物等のシリコン化合物等を採用することができる。
【0023】
有機膜9は、本実施形態において、例えば紫外線硬化性を有するアクリル樹脂で形成される。なお、材料はアクリル樹脂に限られず、ポリウレア樹脂等を採用することも可能である。
【0024】
以上のように本実施形態の保護膜Pは、SiNx等からなる無機膜8と、アクリル樹脂等からなる有機膜9との積層膜で構成される。このことによって、保護膜Pの透湿度は、無機膜8のみの透湿度よりも大幅に減少する。具体的には、本実施形態による保護膜Pによって、透湿度は10−6g/m2/dayとなり、無機膜8のみの場合と比較すると100分の1〜1000分の1程度の値になる。すなわち、無機膜8と有機膜9との積層膜である保護膜Pを用いることで、発光層5への水分等の侵入を抑制することが可能となる。また有機膜9は、平坦化層としての機能をも有し、これにより無機膜8のカバレッジ性を高め、透湿度の低下に寄与する。
【0025】
保護膜Pは、本実施形態の構造に限られない。例えば、SiNxとシリコン酸窒化物等との積層構造、SiNxとシリコン酸化物等との積層構造や、アクリル樹脂とポリウレア樹脂との積層構造等でも可能である。また、無機膜8及び有機膜9の層数を増加し、保護膜Pを5層以上の積層膜とすることも可能である。さらに、最上層が無機膜8でなく、有機膜9とする構成でも可能である。
【0026】
なお後述するように、保護膜Pの成膜後に基板2は、所定の素子サイズに切断されることで発光素子1が作製される。したがって保護膜Pの切断面は、図1に示すように無機膜8と有機膜9との端面が揃った形態を有することになるが、このような形態であっても保護膜Pの水蒸気バリア性が劣化しないことが本発明者らの実験により確認されている。
【0027】
次に、以上のような構成の発光素子1の製造方法について説明する。
【0028】
[発光素子の製造方法]
発光素子1の製造方法は、以下の4工程を有する。すなわち、(1)基板の作製工程、(2)マスクの配置工程、(3)無機膜および有機膜の成膜工程、(4)分離工程、を有する。これらを順に説明する。
【0029】
(基板の作製工程)
基板の作製工程では、基板2上に、下部電極層3と、正孔注入層4と、発光層5と、電子注入層6と、上部電極層7とを形成する。これによって、複数の素子領域を含む構造体である「基板」が作製される。なお、以下の説明において、基板2上に上部電極層7まで形成され、複数の素子領域を含む構造体を、以下基板Wとする。
【0030】
基板Wの作製工程としては、まず、基板2を図示しないチャンバ等に搬送し、基板2上に下部電極層3を形成する。下部電極層3は、例えばスパッタ法、蒸着法等により成膜することができ、成膜後、所定形状にパターン加工される。次に、下部電極層3上に、例えば蒸着法等により正孔注入層4を形成する。発光層5は、正孔注入層4上に、例えば蒸着法等により成膜することができ、成膜後、所定形状にパターン加工される。電子注入層6は、発光層5上に、例えば蒸着法等により成膜することができる。さらに、上部電極層7は、例えばスパッタ法、蒸着法等により成膜することができ、成膜後、所定形状にパターン加工される。上記各層の形成は、同一のチャンバ内で行うことも可能であるし、別のチャンバ内で行うことも可能である。
【0031】
以上のように、複数の素子領域を含む積層構造を有する基板Wを作製する。以下、基板Wの構造について説明する。
【0032】
図2は、基板Wの構造を示す概略上面図である。基板Wは、本実施形態において、全体としてZ軸方向と直交するXY平面を含む矩形状の板状構造を有し、例えば一辺が730mm〜920mmである。基板Wは、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ配列され、スクライブラインLによって区画される複数の素子領域10が形成されている。本実施形態では、図2に示すように、スクライブラインLはX軸方向及びY軸方向に直線的に素子領域10を区画し、各素子領域10はほぼ同一の構成及び大きさを有する。
【0033】
各素子領域10は、発光領域20と配線領域30とを有する。発光領域20と配線領域30とはX軸方向に隣接して形成され、全体としてX軸方向に交互に周期的に配列される。また、発光領域20及び配線領域30は、それぞれ各素子領域10を横切るようにY軸方向に沿って連続的に延びる。
【0034】
各々の素子領域10は、後述するように後の分離工程においてスクライブラインLで分離され、発光素子1の一部となる。また、基板W上に形成される素子領域10の数は図示の例に限られない。
【0035】
発光領域20には、発光層5が含まれる。また、上部電極層7は、発光領域20と配線領域30とを含む各素子領域10を横切るようにX軸方向に沿って連続的に形成される。
【0036】
次に、以上のような構造の基板Wは図示しないチャンバ内に搬送され、基板W上にマスクが配置される。
【0037】
(マスクの配置工程)
マスクは、典型的には、図示しないチャンバ内部に設置されたマスク載置装置等に、基板Wの搬送前から配置されている。マスク載置装置は、基板Wが配置されるステージの上部に設置されており、基板Wがステージ上に搬送されると、マスク載置装置によってマスクと基板Wとの位置合わせが行われ、以下のようにマスクが基板W上に配置される。なお、マスクの配置工程およびその後の成膜工程に用いられるチャンバは、基板Wの作製に用いたチャンバと別のチャンバでも、同じチャンバでも特に制限されない。
【0038】
図3は、本実施形態に係るマスクの概略上面図であり、図4は、基板W上に当該マスクが配置された態様を示す概略上面図である。マスク40は、枠体41と、複数のバー(遮蔽部)42と、複数のバー42間に形成された開口部43とを有する。枠体41は、矩形環状に形成され、X軸方向に対向する2辺と、Y軸方向に対向する2辺とを有する。このうち、Y軸方向に対向する2辺を、それぞれ第1の辺部411と、第2の辺部412とする。
【0039】
複数のバー42は、Y軸方向に延在し、X軸方向に配列されている。本実施形態において、各バー42の両端は、第1の辺部411及び第2の辺部412上に配置された複数の固定部材44によって固定される。また、各バー42間の間隔、すなわち開口部43の幅は、本実施形態において約3mmとすることができる。バー42の厚みは、例えば0.05〜2.0mmに形成される。
【0040】
枠体41は、図4のように基板Wの周縁に配置される。複数のバー42は、それぞれ上述のように固定部材44によって固定されて配線領域30を被覆し、各バー42間の開口部43は、発光領域20を露出させる。本実施形態では図4のように、配線領域30のX軸方向の幅をバー42とほぼ同じ幅としており、Y軸方向に延びるスクライブラインLはバー42と重複して存在する。なお、配線領域30のX軸方向の幅がバー42の幅以下で、配線領域30の全面がバー42によって被覆されればこれに限られない。
【0041】
マスク40の枠体41及びバー42は、本実施形態において、アルミナ(Al2O3)によって形成されているが、材料は特に制限されない。例えば、他の材料として金属または耐熱性樹脂等を用いることができる。
【0042】
本実施形態のマスク40は、個々の発光領域20に対応して形成された複数の矩形の開口を有するマスクと比較して、高温下における開口部43の形状変化を抑制することができる。なお必要に応じて、マスク40をバー42の延在方向であるY軸方向に引っ張る張力付加機構を備えてもよい。このことによって、開口部43の形状変化をさらに抑制することが可能となる。
【0043】
マスク40に対する基板Wの位置合わせ方法については、特に限られない。例えば、CCDカメラ等によってステージに配置されたアライメントマークを観察しながら行うことも可能である。また、ステージに配置され、基板Wの位置を規定するピン構造等を用いて機械的に行うことも可能である。
【0044】
次に、以上のように配置されたマスク40を介して、基板Wの成膜を行う。
【0045】
(保護膜の成膜工程例)
基板Wの成膜工程では、マスク40を介して、開口部43から露出した発光領域20上に、無機膜8と有機膜9とを交互に成膜する。まず、上部電極層7上に、無機膜8が形成される。無機膜8は、例えばCVD法により成膜される。なお、無機膜8の成膜に用いるマスク40と有機膜9の成膜に用いるマスク40とは、それぞれ同一のマスクでもよいし別のマスクでもよい。
【0046】
次に、無機膜8上に、有機膜9が形成される。有機膜9は、紫外線硬化性を有するアクリル樹脂で形成される。有機膜9の形成方法は特に限定されない。例えば、スピンコート法や吹き付け法等で無機膜8上にアクリル樹脂を塗布し、塗布されたアクリル樹脂への紫外線照射によって当該樹脂を硬化させることで、有機膜9が形成される。
【0047】
続いて、有機膜9上に、再び無機膜8がCVD法、スパッタ法等により形成される。これにより、基板Wの発光領域20上に、無機膜8と有機膜9とが交互に積層された3層構造の保護膜Pが形成される。有機膜9は、平坦化層としての機能を有し、これにより無機膜8のカバレッジ性を高めることが可能となる。
【0048】
なお、無機膜8と有機膜9とが別個のチャンバ内で成膜される際は、それぞれのチャンバ内に配置されたマスク載置装置等に、同一の形状のマスク40を配置することで、保護膜Pを形成することができる。
【0049】
最後に、保護膜Pが積層された基板Wを、複数の素子領域10に分離し、発光素子1を作製する。
【0050】
(分離工程例)
成膜工程を行ったチャンバから基板Wを取り出し、スクライブラインLに沿ってX軸方向及びY軸方向に素子領域10を分離する。分離の方法としては、ダイシングソー、レーザを用いた加工技術、ドライエッチング等が挙げられるが、これに限られない。この工程によって、発光素子1が製造される。
【0051】
以上のような構成の発光素子1は、端面の揃った無機膜8と有機膜9とからなる保護膜Pを有する。これは、マスク40がY軸方向に沿って延びる広い開口部43を有することによって、熱変形等による開口部43の歪みが少ないため、無機膜8と有機膜9との成膜領域の形状をほぼ一定に保持することができるためである。このような保護膜Pによって、発光層5への水分、酸素等の侵入を抑制することができ、不具合が少なく、寿命が長い発光素子1を製造することが可能となる。
【0052】
一方、個々の素子領域に対応する複数の矩形の開口を有するマスクでは、熱変形等による開口の歪みが生じやすく、所望の領域に成膜することができなかった。特に、基板が大型化した際は1枚の基板に含まれる素子領域の数も多くなるため、上記マスクでは開口部が多く必要となる。また、大型化による熱変形の影響をより受けやすくなる。このため、上記マスクでは基板の大型化に対応することができなかった。さらに、上記マスクに開口の歪みが生じた場合や、CVDプロセスを実施した後のクリーニングガスとして用いられる NF3ガスによってマスクに腐食が生じた場合は、マスク全体を交換しなければならず、費用の負担も大きかった。
【0053】
本実施形態に係るマスク40を用いた場合は、開口部43が複数の素子領域10に対応し、かつ熱変形等による開口部43の歪みが少ないため、基板の大型化にも十分対応することが可能である。また、枠体41とバー42とが別部材で構成されているため、必要なバー42のみ交換することができ、費用の負担を抑えることができる。
【0054】
また、マスク40は、広い開口部43を有するため、個々の素子領域10を基板W上に効率よく配置することができる。このため、複数の矩形の開口を有するマスクと比較して、1枚の基板Wから多くの発光素子1を分離することが可能となり、各々の発光素子1を低コストに作製することが可能となる。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0056】
以上の実施形態では、平坦な基板2上に発光層5等を積層したが、これに限られない。例えば、基板2上に複数の凹部を形成し、その凹部に発光層5等が形成される構造とすることもできる。また、基板2には、必要に応じて図示しない駆動回路等を形成することも可能である。
【0057】
また、以上の実施形態において説明した発光素子1は、保護膜Pの上にさらにガラス層、透明フィルム等を形成することができる。この構造によって、発光素子1を、例えばタッチパネル等に使用される表示装置として用いることができる。
【符号の説明】
【0058】
1・・・発光素子
3・・・下部電極層
5・・・発光層
7・・・上部電極層
8・・・無機膜
9・・・有機膜
10・・・素子領域
20・・・発光領域
30・・・配線領域
40・・・マスク
42・・・バー(遮蔽部)
43・・・開口部
W・・・基板
P・・・保護膜
L・・・スクライブライン
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子等の発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL(Electro Luminescence)素子を用いた有機ELディスプレイの開発が進められ、一部の分野では既に実用化されている。有機EL素子は、主として、基板上に発光層と電極等とが積層された構造を有する。発光層を形成する有機化合物は、一般に、水分あるいは酸素により極めて劣化しやすい性質を有する。このことから、個々の素子領域に対応するように形成された複数の矩形の開口を有するマスクを用いて、発光層への水分等の侵入を抑制する保護膜を形成する方法が知られている。
【0003】
しかしながら、上記マスクは、素子の形成領域がマスクの開口によって決められるため、1枚の基板から効率よく素子を形成することができない。さらに、成膜時の高温条件下における熱変形等によって開口が変形しやすいことから、所望の保護膜の形成が困難になるとともに、高い頻度でマスク全体を交換する必要が生じる。
【0004】
そこで、特許文献1には、一端が枠体に固定され、そこから一方向のみに延在するテープ状のシャドーマスクを有するマスク装置について開示されている。このマスク装置は、テープ状のシャドーマスク間が開口となるため、広い開口面積を有する。このため、1枚の基板から効率よく素子を形成することができるとともに、熱変形等による歪みの影響も受けにくい。さらに、シャドーマスクの枠体に固定された一端とは異なる他端に張力を印加することによって、熱伸び等による開口の変形を抑制することができ、緩まず基板の表面と密着することができる。このことから、均一な成膜が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−168654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1には、発光層を水分等から保護するための保護膜の具体的な構造及びその形成方法については記載されていない。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、熱変形等による歪みの影響を受けにくいマスクを用いて、発光層への水分等の侵入を抑制できる発光素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る発光素子の製造方法は、発光領域と、上記発光領域と第1の軸方向に隣接する配線領域とをそれぞれ含む複数の素子領域が、上記第1の軸方向と上記第1の軸方向に直交する第2の軸方向とにそれぞれ配列された基板を作製する工程を含む。
上記第2の軸方向に延在し上記第1の軸方向に配列された直線的な複数の遮蔽部と、上記複数の遮蔽部間に形成された複数の開口部とを有するマスクが、上記複数の遮蔽部が上記複数の素子領域各々の上記配線領域を被覆し、上記複数の開口部から上記複数の素子領域各々の上記発光領域が露出するように、上記基板に対向して配置される。
上記マスクを介して、上記基板上に異種材料の積層構造を有する保護膜が成膜される。
上記基板が、上記素子領域毎に分離される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る発光素子の構成の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る基板の構造を示す概略上面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るマスクの構造を示す概略上面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る基板上にマスクが配置された態様を示す概略上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に係る発光素子の製造方法は、発光領域と、上記発光領域と第1の軸方向に隣接する配線領域とをそれぞれ含む複数の素子領域が、上記第1の軸方向と上記第1の軸方向に直交する第2の軸方向とにそれぞれ配列された基板を作製する工程を含む。
上記第2の軸方向に延在し上記第1の軸方向に配列された直線的な複数の遮蔽部と、上記複数の遮蔽部間に形成された複数の開口部とを有するマスクが、上記複数の遮蔽部が上記複数の素子領域各々の上記配線領域を被覆し、上記複数の開口部から上記複数の素子領域各々の上記発光領域が露出するように、上記基板に対向して配置される。
上記マスクを介して、上記基板上に異種材料の積層構造を有する保護膜が成膜される。
上記基板が、上記素子領域毎に分離される。
【0011】
上記マスクは、第2の軸方向に沿って形成された大きな開口部を有するため、熱変形等による歪みが少ない。このようなマスクを介して異種材料の積層構造を有する保護膜を形成することで、各層の成膜領域の位置及び形状がほぼ一定に保持された積層構造を形成することが可能となる。このことから、上記保護膜は、発光領域への水分等の侵入を抑制する機能を十分に発揮することができる。したがって、上記製造方法によって、不具合が少なく、寿命が長い発光素子を製造することが可能となる。
【0012】
上記保護膜の成膜工程は、無機膜と有機膜とを交互に成膜することを含んでもよい。
このような保護膜によって、発光層への水分等の侵入をより抑制することが可能となる。
【0013】
上記無機膜は、例えばシリコン化合物で形成されてもよく、さらに具体的には、シリコン窒化物,シリコン酸窒化物,シリコン酸化物の少なくとも一つを含んでもよい。
このような材料からなる無機膜は、透湿性が非常に低いため、より効果的に発光素子を水分から保護し、劣化を抑制することができる。
【0014】
上記有機膜は、アクリル樹脂またはポリウレア樹脂から形成されてもよい。さらに具体的には、上記アクリル樹脂は、紫外線硬化性を有してもよい。
このような材料からなる有機膜は、無機膜と積層させることによって透湿性が非常に低い積層構造を構成し、より効果的に発光素子を水分から保護し、劣化を抑制することができる。
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0016】
[発光素子の構成]
図1は、発光素子の構成の一例を示す概略断面図である。図示する発光素子1は、基板2と、下部電極層3と、正孔注入層4と、発光層5と、電子注入層6と、上部電極層7と、複数の無機膜8と、有機膜9とを有する。発光素子1は、全体として、厚みが約5μmの積層構造を有する。なお、図においてX軸方向は「第1の軸方向」に対応し、Y軸方向は「第2の軸方向」に対応し、本実施形態においてX軸方向及びY軸方向は水平方向を示す。Z軸方向はX軸方向とY軸方向とに垂直な方向を示し、本実施形態において鉛直方向を示す。
【0017】
基板2は、例えばガラス基板、プラスチック基板等で構成される。下部電極層3は、陽極として、例えばインジウム錫酸化物(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)等の透明電極からなる。上部電極層7は、陰極として、例えばアルミニウム等からなる。正孔注入層4は、正孔輸送層を含み、下部電極層3から発光層5へ正孔を注入する。電子注入層6は、電子輸送層を含み、上部電極層7から発光層5へ電子を注入する。発光層5は、所望の色に発光する有機発光材料で形成され、注入された正孔及び電子の再結合により発光する。
【0018】
発光素子1は、内部に複数の発光層5を含有することが可能である。複数の発光層は、ストライプ状に形成されてもよいし、グリッド状に形成されてもよい。複数の発光層は、例えばR(赤)、G(緑)、B(青)の3種類の発光層を含んでいてもよく、これによりディスプレイ用途の発光素子を構成することが可能である。
【0019】
発光層5の形状は特に制限されず、例えばY軸方向に沿って延びるように構成することも可能である。下部電極層3は、発光層5に正孔を注入することができるよう、発光層5に対応して形成される。上部電極層7は、電子注入層6を介して発光層5に電子を注入することができるように、一部が発光層5上に配置される。上部電極層7は、本実施形態において、X軸方向に沿って延びる電極からなる。また、必要に応じて複数の上部電極層7を設けてもよく、その場合はY軸方向に周期的に配置することも可能である。
【0020】
上部電極層7上には、さらに、無機膜8と、有機膜9とが交互に積層された3層構造からなる保護膜Pが形成されている。発光層5は、水分、酸素等により劣化しやすい性質を有するが、保護膜Pを積層することによって、発光層5への水分、酸素等の侵入が抑制される。
【0021】
保護膜PのX軸方向の幅は、上部電極層7等のX軸方向の幅よりも狭く形成される。これは、上部電極層7上の一部を保護膜Pに被覆されないように構成することによって、例えば上部電極層7と図示しない回路等との接続を容易にするためである。なお、基板2から上部電極層7までの積層構造において、保護膜Pが被覆されない領域は、後述する配線領域30に対応し、保護膜Pが被覆される領域は、後述する発光領域20に対応する。
【0022】
無機膜8は、本実施形態において、窒化ケイ素(SiNx)で形成される。SiNxは、水分を透過させにくい特性を有する。ここで、SiNxで形成された無機膜8について、水蒸気の透過量を示すパラメータである透湿度を測定すると、例えば10−3〜10−4g/m2/day程度である。なお、無機膜8の材料はSiNxに限られず、例えば他のシリコン窒化物や,シリコン酸窒化物,シリコン酸化物等のシリコン化合物等を採用することができる。
【0023】
有機膜9は、本実施形態において、例えば紫外線硬化性を有するアクリル樹脂で形成される。なお、材料はアクリル樹脂に限られず、ポリウレア樹脂等を採用することも可能である。
【0024】
以上のように本実施形態の保護膜Pは、SiNx等からなる無機膜8と、アクリル樹脂等からなる有機膜9との積層膜で構成される。このことによって、保護膜Pの透湿度は、無機膜8のみの透湿度よりも大幅に減少する。具体的には、本実施形態による保護膜Pによって、透湿度は10−6g/m2/dayとなり、無機膜8のみの場合と比較すると100分の1〜1000分の1程度の値になる。すなわち、無機膜8と有機膜9との積層膜である保護膜Pを用いることで、発光層5への水分等の侵入を抑制することが可能となる。また有機膜9は、平坦化層としての機能をも有し、これにより無機膜8のカバレッジ性を高め、透湿度の低下に寄与する。
【0025】
保護膜Pは、本実施形態の構造に限られない。例えば、SiNxとシリコン酸窒化物等との積層構造、SiNxとシリコン酸化物等との積層構造や、アクリル樹脂とポリウレア樹脂との積層構造等でも可能である。また、無機膜8及び有機膜9の層数を増加し、保護膜Pを5層以上の積層膜とすることも可能である。さらに、最上層が無機膜8でなく、有機膜9とする構成でも可能である。
【0026】
なお後述するように、保護膜Pの成膜後に基板2は、所定の素子サイズに切断されることで発光素子1が作製される。したがって保護膜Pの切断面は、図1に示すように無機膜8と有機膜9との端面が揃った形態を有することになるが、このような形態であっても保護膜Pの水蒸気バリア性が劣化しないことが本発明者らの実験により確認されている。
【0027】
次に、以上のような構成の発光素子1の製造方法について説明する。
【0028】
[発光素子の製造方法]
発光素子1の製造方法は、以下の4工程を有する。すなわち、(1)基板の作製工程、(2)マスクの配置工程、(3)無機膜および有機膜の成膜工程、(4)分離工程、を有する。これらを順に説明する。
【0029】
(基板の作製工程)
基板の作製工程では、基板2上に、下部電極層3と、正孔注入層4と、発光層5と、電子注入層6と、上部電極層7とを形成する。これによって、複数の素子領域を含む構造体である「基板」が作製される。なお、以下の説明において、基板2上に上部電極層7まで形成され、複数の素子領域を含む構造体を、以下基板Wとする。
【0030】
基板Wの作製工程としては、まず、基板2を図示しないチャンバ等に搬送し、基板2上に下部電極層3を形成する。下部電極層3は、例えばスパッタ法、蒸着法等により成膜することができ、成膜後、所定形状にパターン加工される。次に、下部電極層3上に、例えば蒸着法等により正孔注入層4を形成する。発光層5は、正孔注入層4上に、例えば蒸着法等により成膜することができ、成膜後、所定形状にパターン加工される。電子注入層6は、発光層5上に、例えば蒸着法等により成膜することができる。さらに、上部電極層7は、例えばスパッタ法、蒸着法等により成膜することができ、成膜後、所定形状にパターン加工される。上記各層の形成は、同一のチャンバ内で行うことも可能であるし、別のチャンバ内で行うことも可能である。
【0031】
以上のように、複数の素子領域を含む積層構造を有する基板Wを作製する。以下、基板Wの構造について説明する。
【0032】
図2は、基板Wの構造を示す概略上面図である。基板Wは、本実施形態において、全体としてZ軸方向と直交するXY平面を含む矩形状の板状構造を有し、例えば一辺が730mm〜920mmである。基板Wは、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ配列され、スクライブラインLによって区画される複数の素子領域10が形成されている。本実施形態では、図2に示すように、スクライブラインLはX軸方向及びY軸方向に直線的に素子領域10を区画し、各素子領域10はほぼ同一の構成及び大きさを有する。
【0033】
各素子領域10は、発光領域20と配線領域30とを有する。発光領域20と配線領域30とはX軸方向に隣接して形成され、全体としてX軸方向に交互に周期的に配列される。また、発光領域20及び配線領域30は、それぞれ各素子領域10を横切るようにY軸方向に沿って連続的に延びる。
【0034】
各々の素子領域10は、後述するように後の分離工程においてスクライブラインLで分離され、発光素子1の一部となる。また、基板W上に形成される素子領域10の数は図示の例に限られない。
【0035】
発光領域20には、発光層5が含まれる。また、上部電極層7は、発光領域20と配線領域30とを含む各素子領域10を横切るようにX軸方向に沿って連続的に形成される。
【0036】
次に、以上のような構造の基板Wは図示しないチャンバ内に搬送され、基板W上にマスクが配置される。
【0037】
(マスクの配置工程)
マスクは、典型的には、図示しないチャンバ内部に設置されたマスク載置装置等に、基板Wの搬送前から配置されている。マスク載置装置は、基板Wが配置されるステージの上部に設置されており、基板Wがステージ上に搬送されると、マスク載置装置によってマスクと基板Wとの位置合わせが行われ、以下のようにマスクが基板W上に配置される。なお、マスクの配置工程およびその後の成膜工程に用いられるチャンバは、基板Wの作製に用いたチャンバと別のチャンバでも、同じチャンバでも特に制限されない。
【0038】
図3は、本実施形態に係るマスクの概略上面図であり、図4は、基板W上に当該マスクが配置された態様を示す概略上面図である。マスク40は、枠体41と、複数のバー(遮蔽部)42と、複数のバー42間に形成された開口部43とを有する。枠体41は、矩形環状に形成され、X軸方向に対向する2辺と、Y軸方向に対向する2辺とを有する。このうち、Y軸方向に対向する2辺を、それぞれ第1の辺部411と、第2の辺部412とする。
【0039】
複数のバー42は、Y軸方向に延在し、X軸方向に配列されている。本実施形態において、各バー42の両端は、第1の辺部411及び第2の辺部412上に配置された複数の固定部材44によって固定される。また、各バー42間の間隔、すなわち開口部43の幅は、本実施形態において約3mmとすることができる。バー42の厚みは、例えば0.05〜2.0mmに形成される。
【0040】
枠体41は、図4のように基板Wの周縁に配置される。複数のバー42は、それぞれ上述のように固定部材44によって固定されて配線領域30を被覆し、各バー42間の開口部43は、発光領域20を露出させる。本実施形態では図4のように、配線領域30のX軸方向の幅をバー42とほぼ同じ幅としており、Y軸方向に延びるスクライブラインLはバー42と重複して存在する。なお、配線領域30のX軸方向の幅がバー42の幅以下で、配線領域30の全面がバー42によって被覆されればこれに限られない。
【0041】
マスク40の枠体41及びバー42は、本実施形態において、アルミナ(Al2O3)によって形成されているが、材料は特に制限されない。例えば、他の材料として金属または耐熱性樹脂等を用いることができる。
【0042】
本実施形態のマスク40は、個々の発光領域20に対応して形成された複数の矩形の開口を有するマスクと比較して、高温下における開口部43の形状変化を抑制することができる。なお必要に応じて、マスク40をバー42の延在方向であるY軸方向に引っ張る張力付加機構を備えてもよい。このことによって、開口部43の形状変化をさらに抑制することが可能となる。
【0043】
マスク40に対する基板Wの位置合わせ方法については、特に限られない。例えば、CCDカメラ等によってステージに配置されたアライメントマークを観察しながら行うことも可能である。また、ステージに配置され、基板Wの位置を規定するピン構造等を用いて機械的に行うことも可能である。
【0044】
次に、以上のように配置されたマスク40を介して、基板Wの成膜を行う。
【0045】
(保護膜の成膜工程例)
基板Wの成膜工程では、マスク40を介して、開口部43から露出した発光領域20上に、無機膜8と有機膜9とを交互に成膜する。まず、上部電極層7上に、無機膜8が形成される。無機膜8は、例えばCVD法により成膜される。なお、無機膜8の成膜に用いるマスク40と有機膜9の成膜に用いるマスク40とは、それぞれ同一のマスクでもよいし別のマスクでもよい。
【0046】
次に、無機膜8上に、有機膜9が形成される。有機膜9は、紫外線硬化性を有するアクリル樹脂で形成される。有機膜9の形成方法は特に限定されない。例えば、スピンコート法や吹き付け法等で無機膜8上にアクリル樹脂を塗布し、塗布されたアクリル樹脂への紫外線照射によって当該樹脂を硬化させることで、有機膜9が形成される。
【0047】
続いて、有機膜9上に、再び無機膜8がCVD法、スパッタ法等により形成される。これにより、基板Wの発光領域20上に、無機膜8と有機膜9とが交互に積層された3層構造の保護膜Pが形成される。有機膜9は、平坦化層としての機能を有し、これにより無機膜8のカバレッジ性を高めることが可能となる。
【0048】
なお、無機膜8と有機膜9とが別個のチャンバ内で成膜される際は、それぞれのチャンバ内に配置されたマスク載置装置等に、同一の形状のマスク40を配置することで、保護膜Pを形成することができる。
【0049】
最後に、保護膜Pが積層された基板Wを、複数の素子領域10に分離し、発光素子1を作製する。
【0050】
(分離工程例)
成膜工程を行ったチャンバから基板Wを取り出し、スクライブラインLに沿ってX軸方向及びY軸方向に素子領域10を分離する。分離の方法としては、ダイシングソー、レーザを用いた加工技術、ドライエッチング等が挙げられるが、これに限られない。この工程によって、発光素子1が製造される。
【0051】
以上のような構成の発光素子1は、端面の揃った無機膜8と有機膜9とからなる保護膜Pを有する。これは、マスク40がY軸方向に沿って延びる広い開口部43を有することによって、熱変形等による開口部43の歪みが少ないため、無機膜8と有機膜9との成膜領域の形状をほぼ一定に保持することができるためである。このような保護膜Pによって、発光層5への水分、酸素等の侵入を抑制することができ、不具合が少なく、寿命が長い発光素子1を製造することが可能となる。
【0052】
一方、個々の素子領域に対応する複数の矩形の開口を有するマスクでは、熱変形等による開口の歪みが生じやすく、所望の領域に成膜することができなかった。特に、基板が大型化した際は1枚の基板に含まれる素子領域の数も多くなるため、上記マスクでは開口部が多く必要となる。また、大型化による熱変形の影響をより受けやすくなる。このため、上記マスクでは基板の大型化に対応することができなかった。さらに、上記マスクに開口の歪みが生じた場合や、CVDプロセスを実施した後のクリーニングガスとして用いられる NF3ガスによってマスクに腐食が生じた場合は、マスク全体を交換しなければならず、費用の負担も大きかった。
【0053】
本実施形態に係るマスク40を用いた場合は、開口部43が複数の素子領域10に対応し、かつ熱変形等による開口部43の歪みが少ないため、基板の大型化にも十分対応することが可能である。また、枠体41とバー42とが別部材で構成されているため、必要なバー42のみ交換することができ、費用の負担を抑えることができる。
【0054】
また、マスク40は、広い開口部43を有するため、個々の素子領域10を基板W上に効率よく配置することができる。このため、複数の矩形の開口を有するマスクと比較して、1枚の基板Wから多くの発光素子1を分離することが可能となり、各々の発光素子1を低コストに作製することが可能となる。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0056】
以上の実施形態では、平坦な基板2上に発光層5等を積層したが、これに限られない。例えば、基板2上に複数の凹部を形成し、その凹部に発光層5等が形成される構造とすることもできる。また、基板2には、必要に応じて図示しない駆動回路等を形成することも可能である。
【0057】
また、以上の実施形態において説明した発光素子1は、保護膜Pの上にさらにガラス層、透明フィルム等を形成することができる。この構造によって、発光素子1を、例えばタッチパネル等に使用される表示装置として用いることができる。
【符号の説明】
【0058】
1・・・発光素子
3・・・下部電極層
5・・・発光層
7・・・上部電極層
8・・・無機膜
9・・・有機膜
10・・・素子領域
20・・・発光領域
30・・・配線領域
40・・・マスク
42・・・バー(遮蔽部)
43・・・開口部
W・・・基板
P・・・保護膜
L・・・スクライブライン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光領域と、前記発光領域と第1の軸方向に隣接する配線領域とをそれぞれ含む複数の素子領域が、前記第1の軸方向と前記第1の軸方向に直交する第2の軸方向とにそれぞれ配列された基板を作製し、
前記第2の軸方向に延在し前記第1の軸方向に配列された直線的な複数の遮蔽部と、前記複数の遮蔽部間に形成された複数の開口部とを有するマスクを、前記複数の遮蔽部が前記複数の素子領域各々の前記配線領域を被覆し、前記複数の開口部から前記複数の素子領域各々の前記発光領域が露出するように、前記基板に対向して配置し、
前記マスクを介して、前記基板上に異種材料の積層構造を有する保護膜を成膜し、
前記基板を、前記素子領域毎に分離する
発光素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の発光素子の製造方法であって、
前記保護膜の成膜工程は、無機膜と有機膜とを交互に成膜することを含む
発光素子の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の発光素子の製造方法であって、
前記無機膜は、シリコン化合物からなる
発光素子の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の発光素子の製造方法であって、
前記シリコン化合物は、シリコン窒化物,シリコン酸窒化物,シリコン酸化物の少なくとも一つを含む
発光素子の製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載の発光素子の製造方法であって、
前記有機膜は、アクリル樹脂またはポリウレア樹脂からなる
発光素子の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の発光素子の製造方法であって、
前記アクリル樹脂は、紫外線硬化性を有する
発光素子の製造方法。
【請求項1】
発光領域と、前記発光領域と第1の軸方向に隣接する配線領域とをそれぞれ含む複数の素子領域が、前記第1の軸方向と前記第1の軸方向に直交する第2の軸方向とにそれぞれ配列された基板を作製し、
前記第2の軸方向に延在し前記第1の軸方向に配列された直線的な複数の遮蔽部と、前記複数の遮蔽部間に形成された複数の開口部とを有するマスクを、前記複数の遮蔽部が前記複数の素子領域各々の前記配線領域を被覆し、前記複数の開口部から前記複数の素子領域各々の前記発光領域が露出するように、前記基板に対向して配置し、
前記マスクを介して、前記基板上に異種材料の積層構造を有する保護膜を成膜し、
前記基板を、前記素子領域毎に分離する
発光素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の発光素子の製造方法であって、
前記保護膜の成膜工程は、無機膜と有機膜とを交互に成膜することを含む
発光素子の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の発光素子の製造方法であって、
前記無機膜は、シリコン化合物からなる
発光素子の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の発光素子の製造方法であって、
前記シリコン化合物は、シリコン窒化物,シリコン酸窒化物,シリコン酸化物の少なくとも一つを含む
発光素子の製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載の発光素子の製造方法であって、
前記有機膜は、アクリル樹脂またはポリウレア樹脂からなる
発光素子の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の発光素子の製造方法であって、
前記アクリル樹脂は、紫外線硬化性を有する
発光素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2013−73880(P2013−73880A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214009(P2011−214009)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】
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