説明

発光素子及びその製造方法

【課題】 低電圧での動作が可能であり、発光効率、安定性、製造コストなどに優れた発光素子の開発が求められていた。
【解決手段】 そこで、本発明は、基板と、前記基板上に配置された第1の電極と、前記第1の電極と間を介して対向して配置された第2の電極と、前記電極間に、前記両電極に電圧を印加することにより発光する発光層と前記発光層に電荷を注入するための層とが積層された積層体とを備え、前記電荷を注入するための層は、前記発光層に前記電荷を注入することで発光を生じさせる酸化物を含有することを特徴とする発光素子を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子、特に電極層と発光層と電荷注入層を有したものに関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子を適用したフラットパネルディスプレイ(FPD)が注目されている。FPDは、適用される発光素子の種類から、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(有機EL)、無機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(無機EL)、発光ダイオードディスプレイ(LEDディスプレイ)等、が挙げられる。
【0003】
発光ダイオードは、低電圧駆動が可能であり、安定性にも優れるが、結晶成長技術が必要であるため、ガラス基板やプラスチック基板上への形成は困難である。そのため、ディスプレイとしてはその適用領域が限られている。
【0004】
有機ELディスプレイは、低電圧駆動が可能であり、ガラス基板やプラスチック基板上への形成が可能であるが、耐久性の点で改善する余地がある。
【0005】
無機ELディスプレイは、多結晶質の無機蛍光体を使用できるため、大面積のディスプレイ作成が比較的容易であり高いが使用環境耐性が期待できるが、現状では、駆動電圧が高いことが改善点となっている。
【特許文献1】特開2001−210865
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、酸化物材料を用いたデバイスは、耐高温度性をはじめとした使用環境耐性に優れることや、環境へ負荷が少ないのことから、ディスプレイ等の発光デバイスへの利用が期待される。特許文献1は、酸化物からなる半導体微結晶を適用した発光素子が技術開示されている。
【0007】
このような技術的背景により、本発明は、低電圧での動作が可能であり、より発光効率、安定性、製造コストなどに優れた新規な発光素子を提供することとしている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明は、基板と、前記基板上に配置された第1の電極と、前記第1の電極と間を介して対向して配置された第2の電極と、前記電極間に、前記両電極に電圧を印加することにより発光する発光層と前記発光層に電荷を注入するための層とが積層された積層体とを備え、前記電荷を注入するための層は、前記発光層に前記電荷を注入することで発光を生じさせる酸化物を含有することを特徴とする発光素子を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、表面に電極を備える基板を用意する工程と、前記基板上に電圧を印加することにより発光する発光層と前記発光層に電荷を注入するための層とが積層された積層体を形成する工程とを備え、前記電荷を注入するための層は、前記発光層に前記電荷を注入することで発光を生じさせる酸化物を含有することを特徴とする発光素子の製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の発光素子について説明する。
【0011】
図1、2は本発明の発光素子の構成例を模式的に示した図である。ここで、10は基板、11は透明電極層、12は電荷輸送層、13は発光層、14は電子注入層、15は電極層、16は電源、17は光である。図における電子注入層12および電荷輸送層14が、前述の電荷注入層にあたる。
【0012】
すなわち、基板上に、電極層と、発光層と、電極層と発光層の間に配した電荷注入層を有した薄膜型発光素子となっている。後述するように、電荷注入層がRh、Co、Cu、Niのいずれかを主成分とした酸化物からなる。ここで、「A元素が主成分とである酸化物」とは、1以上の金属元素(A,B,C,D,,,)と酸素元素を有した材料において、すべての金属元素の中でもっともA元素の組成量が大きい材料のことを意味する。また、化学式ABO等で記される場合のように、A,Bの組成量が同一である場合は、A,Bともに主成分である。
【0013】
透明電極層及び電極層は、それぞれ駆動用の電源に電気的に接続される。駆動電源は、電圧源であっても電流源であってもよく、DC電源、パルス電源、AC電源など任意であるが、発光素子は、透明電極層が電極層より高電位にあるときに光17を発するものである。
【0014】
図1は光を基板側から取り出すタイプの素子の概念図であり、図2は光を基板反対側から取り出すタイプの素子の概念図である。
【0015】
以下、それぞれの層について説明する。
【0016】
基板10は、図1の構成に示すような基板側より光を取り出す場合は、発光した光が透過するよう透明なガラスやプラスチックであることが好ましい。図2にしめすように光を上面より取り出す場合は基板の種類には寄らない。この場合基板としてはガラスやプラスチック、セラミック、半導体基板などを利用可能である。
【0017】
透明電極層11は、発光時に電源の正極(高電位側)に接続される電極である。電極として機能するための導電性と、発光した光が透過性の両方の機能を有することが好ましい。たとえば、ドーピングされたInやSnO、ZnO、ITO等の透明導電膜があげられる。
【0018】
電極層15は、発光時に電源の負極(低電位側)に接続される電極である。Al,AuやPt、Agなど各種の金属や合金、透明導電膜が利用可能である。ただし、後述の電子注入層との組み合わせることでより効果的に発光層へ電子を注入するために、AlMg合金やAlLi合金などの仕事関数の小さい金属材料を用いることが好ましい。これにより素子の駆動電圧を低下することができる。これらの透明導電層および電極層のの成膜には、真空蒸着やスパッタ蒸着などの気相法、めっき等の液相法、ゾル−ゲル等の固相法等、任意の薄膜作成方法を用いることができる。
【0019】
発光層13は駆動時に発光を示す層である。発光層の厚さは50nm〜1μmの範囲が好ましい。任意の発光材料を適用可能であるが、ZnWO、MgWOをはじめとするタングステン酸化物、ZnMoOやSrMOをはじめとするモリブデン酸化物、YVOをはじめとするバナジウム酸化物、EuSiOやEuSiOをはじめとするユーロピウム酸化物が挙げられる。ほかにも、Alq3やIr(ppy)をはじめとする有機発光材料、ZnSe,CdSe、ZnTe,GaP,GaN、ZnOをはじめとする半導体材料などを用いることもできる。これらの中でも、特に、WO2−やMoO2−イオン型の発光材料は、本発明の発光素子の構成において好ましい発光材料である。
【0020】
本発明の発光素子に特徴的な電荷注入層について説明する。図1,2、において電子注入層14、電荷輸送層が電荷注入層である。電荷注入層の厚さは数10nm〜数100nmの範囲が好ましい。
【0021】
まず電子注入層について説明する。
【0022】
本発明の発光素子においては、酸化物からなる電子注入層を介して、電極層から発光層へ電子の注入を行う。特に、この電子注入層を配することで、電子を効果的に発光層に注入することができる。図3に電子に対するポテンシャルの変化を模式的に示した。本発明においては、電子注入層の伝導帯の位置(真空準位からの深さ)が、電極層の仕事関数に近いことが好ましい。電極層としては、AlMgやAlLiやLiF/Alをはじめとする比較的安定で低仕事関数を有した金属材料が好ましい。これらの仕事関数は典型的に2.5〜3.5eV程度であるため、伝導帯の位置が2〜4eV程度(さらに好ましくは2.5〜eV近傍)の深さにあることが好ましい。一般的な酸化物材料は、伝導帯の位置が必ずしもこの位置にはないので、材料の選択に工夫が必要となる。
【0023】
このような観点から、発明者らが鋭意検討し材料を選択すると、酸化物材料として、以下のような材料が期待できる。たとえば、ZnRhやMgRh、SrRhをはじめとするロジウム酸化物、ZnCoをはじめとするコバルト酸化物、SrCuやCuAlOをはじめとする銅酸化物、NiOをはじめとするニッケル酸化物が挙げられる。このような材料は、一般的な遷移金属酸化物と比べて、比較的浅い位置に伝導帯を有し、上述の伝導帯位置に近いと考える。これらの中でも、ZnとRhの複合酸化物は、本発明の電子注入層として好ましい材料である。
【0024】
本発明においては、上述のように、一般的な遷移金属酸化物に比べて、伝導帯が浅い位置にある酸化物材料を、電子注入層に適用することで、低仕事関数金属の電極層から電子注入層を介して発光層へ効果的な電子注入がなされる。これにより、素子の駆動電圧の低下が可能である。
【0025】
次に電荷輸送層12について説明する。電荷輸送層12は、図1,2のように発光層とアノード電極である透明電極層の間に配する。電荷輸送層は、発光層から透明電極へ電子を輸送する(透明電極から発光層へホールを輸送する)役割を担う。このように、電荷輸送層としては、透明電極層からホールを効果的に発光層に注入できることが好ましい。これにより素子の低電圧化がはかれる。一方、別の視点として、電荷輸送層は、カソード側(電子注入層)から注入された電子を発光層に留めるようにブロックすることが好ましい。このような電子ブロックの機能により、素子は発光に寄与しない無効電流が少なくなり、発光効率の向上がなされる。
【0026】
本発明の、電荷輸送層の選択には、特に後者を、すなわち電子ブロック層としての機能を重視することが好ましい。この観点から、電荷輸送層としも上述した伝導帯が浅い材料は、好ましい材料である。これらの酸化物は良好な電子ブロック層としても期待できる。ZnRh2O4やNiOなど、電子注入層で好ましい材料と同様の材料を適用することは好ましい構成ということができる。
【0027】
さらに、電子注入層もホールを発光層に留めるようにホールをブロックする機能をゆうすることが好ましい。たとえは、電子注入層の価電子帯の位置が浅く、ホールブロック層としては必ずしも好ましくない場合には、ZnOなどの価電子帯がやや深い位置にある材料を、ホールブロック層として発光材料とカソード電極側の電子注入層の間に挟む構成をとることが挙げられる。
【0028】
ただし、発光層に酸化物を適用する場合には、一般的にホールの移動度は遅いため、カソード側の電子注入層まで到達するホールは少ないであろう。このため、ホールブロック層の必要性は、電子ブロック層のそれに比べて低いと考える。
【0029】
以上より、図1のように電子注入層、電荷輸送層の両方に、Rh、Co、Cu、Niのいずれかを主成分とした酸化物を適用した構成は、好ましい構成である。
【0030】
また、図1,2では、電子注入層と電荷輸送層の両方を有しているが、どちらか一方のみを適用した場合も、本発明に含まれる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を用いて本発明を更に説明する。
【0032】
但し、本発明は以下の実施例に限られるものではなく、上述の概念に含まれるものを包含する。
【0033】
〔実施例1〕
本実施例の発光素子は、図1に記した構造からなる。
【0034】
ここで、10は基板、11は透明電極層、12は電荷輸送層、13は発光層、14は電子注入層、15は電極層、16は電源、17は光である。本実施例においては、ZnとWの複合酸化物からなる発光層と、ZnとRhの複合酸化物からなる電子注入層及び電荷輸送層を用いている。上図における電子注入層14および電荷輸送層12が、前記電荷注入層にあたる。すなわち発光層が2つの電荷注入層で挟まれた構成となっている。
【0035】
以下、作成工程に沿って説明する。
【0036】
基板として石英基板を用いる。基板10上にマグネトロンスパッタリング法により透明電極層11としてITOを300nm成膜する。次に、電荷輸送層12として、ZnとRhの複合酸化物を80nm成膜する。ZnとRhの複合酸化物からなるターゲットを用意し、マグネトロンスパッタリング法により成膜する。ターゲットのZnとRhは、成膜物の組成比が約1:2になうように調節してある。成膜時の基板温度は600℃、投入パワーは150W、雰囲気はArとO2の雰囲気であり、トータルガス圧は0.6Pa、ArとOのガス流量比は5:2のである。この薄膜は、ZnとRhの組成比が約1:2であり、X線回折により、ZnRhの回折ピークを有している。
【0037】
次に、発光層13して、ZnとWの複合酸化物を100nm成膜する。ZnとWの複合酸化物からなるターゲットを用意し、マグネトロンスパッタリング法により成膜する。ターゲットのZnとWは、成膜物の組成比が約1:1になうように調節してある。成膜時の基板温度は約600℃、投入パワーは150Wである。この薄膜は、ZnとWの組成比が約1:1であり、X線回折により、ZnWOの回折ピークを有している。
【0038】
次に、電子注入層14として、ZnとRhの複合酸化物を80nm成膜する。ZnとRhの複合酸化物からなるターゲットを用意し、マグネトロンスパッタリング法により成膜した。ターゲットのZnとRhは、成膜物の組成比が約1:2になうように調節してある。成膜時の基板温度は30℃、投入パワーは150Wである。この薄膜は、ZnとRhの組成比が約1:2である。また、他の石英基板上にこの成膜条件で作成した薄膜は、X線回折によりアモルファス状である。
【0039】
次に、電極として、AlMgを真空蒸着により100nm成膜し、発光素子とする。
【0040】
透明電極層及び電極層は、それぞれ駆動用の電源に電気的に接続する。駆動電源は、パルス電圧源である。透明電極膜11を正極、上部電極を負極として、パルス幅1ms、繰り返し周波数50Hzのパルス電圧印加し、その電圧を徐々に増加したところ40V程度からガラス基板側から青白色の発光が得られる。
【0041】
〔実施例2〕
本実施例の発光素子は、図1に記した構造からなる。本実施例においては、EuとSiの複合酸化物からなる発光層と、SrとCuの複合酸化物からなる電子注入層及びNi酸化物からなる電荷輸送層を用いている。
【0042】
基板としてYSZ単結晶基板(111)を用いる。基板10上にマグネトロンスパッタリング法により透明電極層11としてITOを300nm成膜する。基板温度は700℃とする。このITO膜は基板面に垂直な<111>方向に優先配向していることを確認している。
【0043】
次に、電荷輸送層として、マグネトロンスパッタリング法によりNiOを100nm成膜する。NiOのターゲットを基板温度は700℃、投入パワーは150W、雰囲気はArとOの雰囲気であり、トータルガス圧は0.6Pa、ArとOのガス流量比は5:2である。
【0044】
次に、発光層して、EuとSiの複合酸化物を200nm成膜する。EuOターゲットとSiO2ターゲットを用意し、マグネトロンスパッタリング法により2元同時成膜する。それぞれのターゲットへの投入パワーは、成膜物の組成比が約3:2になうように調節している。成膜時の基板温度は約800℃、ガスはArとO2の混合雰囲気下で行う。ガス圧は0.5Paであり、ArとO2の流量比は5:2である。この薄膜は、EuとSiの組成比が約3:2である。またX線回折により、EuSiO3およびEu2SiO4のピークを有する。
【0045】
次に、電子注入層として、SrとCuの複合酸化物を100nm成膜する。SrとCuの複合酸化物からなるターゲットを用意し、マグネトロンスパッタリング法により成膜した。ターゲットのSrとCuは、成膜物の組成比が約1:2になうように調節してある。成膜時の基板温度は400℃、投入パワーは150Wである。この薄膜は、SrとCuの組成比が約1:2である。またX線回折により、SrCu2O2の回折ピークを有している。
【0046】
次に、電極として、LiFを50nm Alを200nmを真空蒸着により成膜し、発光素子とする。
【0047】
実施例1と同様にパルス電圧を印加し、DC電圧を徐々に印加したところ50V程度から赤色の発光が得られる。
【0048】
〔実施例3〕
本実施例は実施例1と類似した構成の発光素子であるが、本実施例においては、電荷輸送層を用いなかった。すなわち、ITO上にZnとWの複合酸化物からなる発光層、その上にZnとRhの複合酸化物からなる電子注入層を配した構成である。
【0049】
本実施例は、実施例1に比べて、発光がやや不安定であり、駆動時の電流値がやや大きくなるが、構造が単純になっており低コストでの作成が可能である。
【0050】
実施例1では本実施例に比べて電荷輸送層を適用したことで、発光層に注入された電子が電荷輸送層でブロックされるために、無効電流の低減がはかられていると考えることができる。
【0051】
〔実施例4〕
実施例1の構成において、図4に示すように発光層とカソード側の電子注入層の間にZnOからなる電荷ブロック層41を配した例である。具体的には、発光層のZn−W−Oを成膜後、ZnOの薄膜をスパッタリング法により、30nm成膜する。引き続き、実施例1と同様に、電子注入層及び電極層を形成する。
【0052】
本実施例においては、実施例1よりも構成が複雑になっているが、動作時の無効電流の低減がはかられている。
【0053】
本実施例においては、電荷ブロック層で、電荷輸送層から発光層に供給されたホールがカソード側に流れることをブロックすることで、無効電流の低減がなされたと考えることができる。
【0054】
ここでは、電子注入層と発光層の間に電荷ブロック層(ホールブロック層)を配したが、同様に、電荷輸送層と発光層の間に、電荷ブロック層(電子ブロック層)を配する構成も考えられる。これにより、電荷輸送層と発光層との間での無効電流の低減がなされ、発光効率が上がると考えられる。発光層の間に電荷ブロック層(電子ブロック層)を配する構成も考えられる。
【0055】
〔実施例5〕
本実施例においては、実施例4において電荷輸送層、発光層、電荷ブロック層、電子注入層を連続的に成膜する例である。図5に示すように、透明電極層と電極層の間に、傾斜組成層51が挟まれた構成になる。傾斜組成層の作成は、ZnO、Rh、WOの3つのターゲットを有した3元スパッタ装置を用いる。
【0056】
傾斜組成層の作成には、図5b)の投入パワーの経時変化をグラフに示すように、まず、ZnOとRhを同時スパッタして、Zn−Rh−O複合酸化物を成膜する。次にRhへの電力を低下させながらWO3への電力を増加させることで、Zn−Rh−O酸化物からZn−W−O酸化物に連続的に組成を変化させる。引き続き、発光層としてのZn−W−O酸化物を所定の厚さ成膜後、WOへの電力投入を低下させ、Zn−Oを成膜し、さらに、引き続きRhへの投入電力を増加することで、Zn−Rh−O複合酸化物を作成する。この間、ZnOへの投入パワー、基板温度、ガス圧などは固定とする。(ただし必要であれば変更しても良い)。成膜時の基板温度は600℃、雰囲気はArとOの雰囲気であり、トータルガス圧は0.6Pa、ArとOのガス流量比は5:2のである。
【0057】
このようにしてZn−Rh−OからZn−W−O、さらにZn−O、Zn−Rh−Oへと組成が連続的に変わる傾斜組成膜を作成できる。それぞれの組成の部位において、図5(b)に示すように、電荷輸送層、発光層、電荷ブロック層、電子注入層としての機能をなすことができる。
【0058】
本実施例の手法で作成した素子は、実施例4の素子に比べて発光効率が高い。これは、連続的に組成を変化させることで、材料の不連続部分がないため、キャリアの失活が低減されていると考える。
【0059】
また、このように複数の機能層を同一の装置を用いて連続して作成することで、素子作成は簡便になり、信頼性の向上、低コスト化が期待できる。このような効果は、電荷輸送層と電子注入層に同じ材料系を用いること、さらに発光層も含めて、すべての層が亜鉛酸化物であることによっている。すなわち、このような材料の選択が、素子特性の向上と低コスト化の観点から好ましい構成であるといえる。
【0060】
〔実施例6〕
本実施例は、発光層に有機材料を適用した例である。また、図2にしめすように、光を基板反対側から取り出すタイプの素子の例である。
【0061】
本実施例においては、Alq3からなる発光層と、MgとRhの複合酸化物からなる電子注入層及び電荷輸送層を用いている。
【0062】
基板として石英基板を用いた。まず、電極として、AlMgを真空蒸着により100nm成膜する。次に、電子注入層として、SrとRhの複合酸化物を50nm成膜する。ZnとRhの複合酸化物からなるターゲットを用意し、マグネトロンスパッタリング法により成膜した。ターゲットのSrとRhは、成膜物の組成比が約1:2になうように調節してある。成膜時の基板温度は30℃、投入パワーは150Wである。この薄膜は、SrとRhの組成比が約1:2である。また、他の石英基板上にこの成膜条件で作成した薄膜は、X線回折によると、アモルファス状である。
【0063】
次に発光層として、Alq3を真空蒸発法により成膜した。厚さは60nmである。
【0064】
次に、電荷輸送層として、MgとRhのアモルファス複合酸化物を50nm成膜する。成膜時の基板温度は30℃、投入パワーは150Wである。この薄膜は、MgとRhの組成比は約1:2である。
【0065】
次に、マグネトロンスパッタリング法により透明電極層11としてアモルファスITOを300nm成膜し、発光素子とする。
【0066】
透明電極層及び電極層は、それぞれ駆動用の電源に電気的に接続する。駆動電源は、パルス電圧源である。透明電極膜11を正極、上部電極を負極として、パルス幅1ms、繰り返し周波数50Hzのパルス電圧印加し、その電圧を徐々に増加したところ20V程度から透明電極層側から発光が得られる。
【0067】
〔実施例7〕
本実施例においては、構成は実施例5と同様であるが、蛍光層に微粒子を用いている。微粒子はCdSeをZnSが覆ったコアシェル構造を有し、平均粒径4nmのものを用いた。これをプロパノールに分散させ、分散液をスピンコートし、乾燥することで作成した。
【0068】
また、電子注入層にはMgとCoの複合酸化物を用いている。成膜時の基板温度は30℃、投入パワーは150Wである。この薄膜は、膜厚が150nmであり、MgとCoの組成比が約1:2である。
【0069】
素子を駆動したところ、60V付近から橙色の発光が得られる。
【0070】
CdSe半導体微粒子から生じる発光は、粒径を制御することで発色を制御できることが知られている。このように発光層にナノサイズの微粒子を適用した構成により、さまざまな色の発光素子を作成できる。
【0071】
〔実施例8〕
本実施例は交流駆動型の発光素子の例である。
【0072】
本実施例の素子構成を概略断面図6に記す。
【0073】
基板60上に、透明電極層61、誘電体層62、電子注入層63、発光層64、電子注入層65、誘電体層66、電極層67の順に積層された構成である。誘電体層を用いることで発光層内に高い電界を印加することができるため、効率的に電界による励起を行うことができる。
【0074】
本実施例においては、電極層、透明電極層はAC電源68に電気的に接続される。
【0075】
図のように、基板上に、電極層と、発光層と、電極層と発光層の間に配した電荷注入層を有した薄膜型発光素子となっている。上図における2つの電子注入層63,65が前述の電荷輸送層に対応する。すなわち発光層が2つの電荷注入層で挟まれた構成となっている。
【0076】
本実施例の素子においては、電子注入層から発光層に注入された電子は発光層内の電界で加速される。十分なエネルギーを得た電子が発光層における発光中心を衝突励起し、発光に到る。すなわち、電界励起型の発光素子である。
【0077】
基板として石英基板を用いた。基板60上に透明電極層61としてITOを300nm成膜する。その後マグネトロンスパッタリング法によりBaTiO3を1μm成膜して誘電体層62を形成する。次に、電子注入層63としてZn−Rh−O複合酸化物を形成する。厚さは100nmである。その後、発光層64としてY2O3:Eu膜をマグネトロンスパッタ法により成膜する。厚さは600nmである。引き続き、発光層の発光能を高めるために、酸素雰囲気中で700℃の熱処理を施す。さらに電子注入層65としてZn−Rh−O複合酸化物を100nm形成し、その後、誘電体層66であるBaTiO3を1μm成膜し誘電体層66とする。その後、電極層67としてAl電極を300nm成膜する。
【0078】
次に透明電極膜61と電極層67に、AC電源68を接続し、1KHzの交流電圧を徐々に印加すると、140V程度から赤色の発光が得られる。比較例として作成した電子注入層を形成しない素子と比べると、発光を開始する電圧が低く、また発光の安定性に優れる。
【0079】
同様な構成において、蛍光層としてZnS:Mnを用いることで橙黄色の発光をえることができる。ほかにも、BaAl2S4:EuやSrS:Cuを蛍光層に用いることで、青色の発光を得ることができる。他にも、発光層として、ZnS:Mn、SrS:Ce,Eu、CaS:Eu、ZnS:Tb,F、CaS:Ce、SrS:Ce、CaGa:Ce、BaAl:Eu、Ga:Eu、Y:Eu、ZnSiO:Mn、ZnGa:Mn等を用いることが考えられる。
【0080】
また、図6は光を基板側から取り出すタイプの素子であるが、透明電極層61と電極層67を入れ替えた構成により、光を基板反対側から取り出すタイプとすることもできる。
【0081】
〔実施例9〕
本実施例は、電子線励起で発光させるタイプの発光素子の例である。
【0082】
図7にその構成を示す。本実施の発光素子は、電子放出素子71に対向して、発光層を有した基板を配している。電子放出素子と発光層の間に電圧を印加すること、で電子放出素子から放出された電子ビームを加速して発光層に照射することで、発光材料を励起し、発光させる。
【0083】
本実施例においては、ガラス基板上にSnO:Fの透明電極層75を300nm成膜し、その上に電子注入層であるZn−Rh−O複合酸化物からなる層と発光層であるZn−W−O複合酸化物からなる層が交互に積層された薄膜74を成膜した。その厚さは2.1μmであり、それぞれの層の厚さは100nm、それぞれの層数は11層、10層である。
【0084】
さらに電極層としてアルミを50nm成膜した。この電極層は、チャージアップ防止と発光層からの光反射の役割を担っている。
【0085】
これを電子放出素子と対向して配し、ガラス容器(不図示)の中に配し真空封止した。電子放出素子は、一般的なスピントタイプの電子放出素子を配している。
【0086】
電子放出素子と透明導電膜の間に2kVの加速電圧を印加し、電子放出素子から放出された電子ビームを蛍光層に照射したところ、青白色の発光が得られる。また、Zn−W−O複合酸化物のみの薄膜と本実施例を比較すると、本実施例では、蛍光強度は70%程度あるが、チャージアップは非常に少なく、発光が安定する。Zn−Rh−O酸化物が励起電荷を発光体であるZn−W−O複合酸化物に効果的に供給するとともに、導電性を付与することで帯電防止の効果があると考えられる。
【0087】
本実施例の構成は、電子放出素子、真空層、電子注入層、発光層が積層された構成ということができる。このような構成を採用することで、電子線励起型の発光素子においては電極層73の厚みを薄くすることが可能であり、もしくは無くすことが可能であり、その結果入射電子線が有効に発光層へ入射可能となる。これより、加速電圧が小さくとも良好な発光を得ることができる。
【0088】
また、ZnWO4の変わりに、Y:Euを用いた場合にも同様な効果が見られる。
【0089】
〔実施例10〕
次に本発明の発光素子を画像表示装置、照明装置、印字装置として応用する例について説明する。
【0090】
実施例1や実施例8の発光素子を画像表示装置として用いるには電極をライン状に上下でマトリックス状に配線して駆動させることにより可能である。カラー画像を得たい場合には白色の発光材料を用いてRGBのフィルターで色を出したり、RGBに対応した発光材料を高精度にパターニング成膜することにより可能である。また。青色発光材料を用いて、緑、赤の色を蛍光体で青から変換させることも可能である。
【0091】
また、本発明の発光素子を照明装置に用いる場合には、白色発光材料をもちいる方法やRGB発光材料を縦方向に積層させる方法、青や紫外発光をさせてからRGBの発光へ変換させる方法がある。
【0092】
また、本発明を印字装置などのプリンターに用いる場合には、レーザー光をポリゴンミラーを用いて走査させる代わりに、ライン状に発光素子を並べて駆動することにより可能となる。
【0093】
本発明の構成及び製法により、比較的に低電圧で駆動が可能な発光素子を実現できる。また、前記発光素子は、酸化物材料を主構成要素としているため、使用環境耐性に優れることや、環境へ負荷が少ないという特徴がある。
【0094】
また、前記発光素子は、ディスプレイや印字装置、照明装置に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の発光素子の構成を示す概略図である。(断面図)
【図2】本発明を基板反対側から取り出すタイプの発光素子の構成を示す概略図である。(断面図)
【図3】本発明の発光素子における電子に対するポテンシャルを示す概略図である。
【図4】本発明の電荷ブロック層を有した発光素子の構成を示す概略図である。(断面図)
【図5】本発明の傾斜組成膜を有した発光素子の構成を示す概略図である。(断面図)
【図6】本発明のAC駆動型発光素子の構成を示す概略図である。(断面図)
【図7】本発明の電子線励起型発光素子の構成を示す概略図である。(断面図)
【図8】本発明の電荷注入層が一層のみからなる発光素子の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0096】
10 基板
11 透明電極
12 電荷輸送層
13 発光層
14 電子注入層
15 電極層
16 電源
17 光
41 電荷ブロック層
51 傾斜組成層
60 基板
61 透明電極
62 誘電体層
63 電子注入層
64 発光層
65 電子注入層
66 誘電体層
67 電極層
68 AC電源
69 光
70 基板
71 電子放出素子
72 真空
73 電極層
74 発光層と電荷注入層の交互積層膜
75 透明導電膜
76 電源
77 光
78 電子ビーム
79 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に配置された第1の電極と、
前記第1の電極と間を介して対向して配置された第2の電極と、
前記電極間に、前記両電極に電圧を印加することにより発光する発光層と前記発光層に電荷を注入するための層とが積層された積層体とを備え、
前記電荷を注入するための層は、前記発光層に前記電荷を注入したときに発光が生じる酸化物を含有することを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記酸化物が、Rh、Co、Cu、Niの何れかを含有することを特徴とする請求項1記載の発光素子。
【請求項3】
前記発光層が、酸化物からなることを特徴とする請求項1又は2のいずれか記載の発光素子。
【請求項4】
前記発光層が、W又はMoを含む複合酸化物であることを特徴とする請求項1から3のいずれか記載の発光素子。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか記載の複数の発光素子と、
前記発光素子を駆動するための駆動手段と、
前記発光素子からの光を表示するための表示パネルとを備えることを特徴とする画像表示装置。
【請求項6】
表面に電極を備える基板を用意する工程と、
前記基板上に電圧を印加することにより発光する発光層と前記発光層に電荷を注入するための層とが積層された積層体を形成する工程とを備え、
前記電荷を注入するための層は、前記発光層に前記電荷を注入することで発光を生じさせる酸化物を含有することを特徴とする発光素子の製造方法。
【請求項7】
前記酸化物が、Rh、Co、Cu、Niの何れかを含有することを特徴とする請求項6記載の発光素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−4658(P2006−4658A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−177060(P2004−177060)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】