説明

発光素子及び当該発光素子を用いたレーザー装置

【課題】有機化合物を、低い電流密度で電流励起することによって反転分布状態を形成することのできる発光素子を提供することを課題とする。また、有機化合物をレーザー媒質とした電流励起型のレーザー発振器を提供することを課題とする。
【解決手段】基底状態として存在する分子を外部エネルギーによって直接励起するのではなく、第1の層及び第2の層へ電流を流す電流励起を用い、第1の層において、第2の層に接する領域にイオン種が蓄積されるような構成とする。すなわち、隣接した第1の層と第2の層とを有し、第1の層の最低空分子軌道準位と第2の層のLUMO準位との間、及び第1の層の最高被占分子軌道準位と第2の層のHOMO準位との間のそれぞれにエネルギー障壁を有し、HOMO準位間のエネルギー障壁は、LUMO準位間のエネルギー障壁より大きくなるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流励起による誘導放出をする発光素子、及び当該発光素子を用いたレーザー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー光は、単色性、高い可干渉性、強い指向性を有する光であり、光通信技術や光記録技術、光情報処理技術などの分野で欠かせないものとなっている。レーザー光を生み出す装置、つまりレーザー装置は、レーザー媒質の種類により、主に固体レーザー、色素レーザー、気体レーザーに分類される。これらの中でも固体レーザーの一つである半導体レーザーは、近年急速に発展したレーザーである。半導体レーザーの特徴は、第1に装置の小型化ができることである。このため、光ファイバと接続するための光モジュールなどの他の部品と組み合わせることが容易である。第2に、電流励起によってレーザー光が得られることである。従って、電流を流すことによって瞬時に発振可能であり、電流の量によって出力を調整することができ、かつ安定した出力を得ることができる。第三に、技術的に既に確立されている半導体製造プロセスを転用して生産することができるため、大量生産が可能である点である。さらに、半導体の媒質を変えることによって出力波長を変換できることも大きな特徴である。
【0003】
無機の化合物半導体から構成される半導体レーザーは、図9に示すように電極1001と電極1002の間に、P型半導体層1003、N型半導体層1004、発光を担う活性層1005を挟み込んだものである。活性層1005としてInGaAsPやGaAs、InGaNなどの化合物半導体がよく用いられる。この活性層1005をクラッド層と呼ばれるP型半導体層1003およびN型半導体層1004で挟むことで半導体レーザーが製造される。クラッド層に用いられる化合物半導体としては、InP、AlGaAs、ZnSSe、GaNなどが挙げられる。P型半導体層1003から正孔を、N型半導体層1004から電子が注入され、これらのキャリアは活性層1005に到達する。活性層1005では正孔と電子が再結合し、この際、価電子帯と伝導帯とのエネルギー差に相当する光が発生する。発生した光は、大部分が活性層1005内に閉じ込められ、へき開面から出力される。へき開面の反射率は、活性層1005と空気との屈折率によって決まり、例えばGaAsを活性層に用いた場合、光は約30%反射して活性層1005に戻る。反射した光は、活性層1005の二つのへき開面で反射しながら増幅され、活性層の長さによって決まる波長の光のみが増幅される。ここで電流値を増加させていくと、ある電流密度で反転分布が形成される。このときの電流密度は閾値と呼ばれ、この閾値以降誘導放出により振幅が増幅された光がレーザー光としてへき開面から発振される。
【0004】
上述したように、これまでに開発された半導体レーザーは、無機半導体から構成され、無機半導体レーザと呼ぶ。これに対し、有機化合物をレーザー媒質としたレーザー(有機レーザーと呼ぶ)の開発は困難を極め、未だ実用化に至っていない。しかし有機レーザーが実用化されれば、無機半導体レーザーでは得られない特性を付与することができる。例えば材料の柔軟性に基づいてフレキシブルなレーザーが作製できること、製造プロセスの簡素化やコスト削減が可能であること、製造プロセスが多様であること(蒸着、スピンコート法、印刷法、ディップコーティングなどが適用できるなど)などが挙げられる。
【0005】
これ迄に有機レーザーの開発を妨げていた主な要因は、有機化合物を用いた場合には、レーザー発振に必要不可欠な反転分布状態を形成することが困難であったことである。
【0006】
非特許文献1に示されているように、有機化合物を用いてレーザー光発振するのに(つまり反転分布状態を形成するのに)必要な光エネルギー密度は5μJ/cmである。これに相当するエネルギーを電流注入によって得ようとすると、数千A/cmもの電流密度の電流を流すことが必要とされる。しかし、有機化合物中に数千A/cmもの電流密度の電流を流すと、素子は破壊されてしまう。従って、有機化合物をレーザー媒質とした電流励起型のレーザー発振を実現するためには、低い電流密度で反転分布状態を形成できるようにする技術を開発することが必要であった。
【非特許文献1】Kozlov, V. G. 等, アプライド・フィジックス・レターズ, 1998年, 72号, 144−146頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、有機化合物を、低い電流密度で電流励起することによって反転分布状態を形成することのできる発光素子を提供することを課題とする。また、有機化合物をレーザー媒質とした電流励起型のレーザー発振器(すなわちレーザー装置)を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来のレーザー素子では、外部エネルギーによって基底状態の分子を励起状態へ励起し、励起状態の分子数より基底状態の分子数を大きくすることによって反転分布を得ようとするものである。これに対して本発明では、基底状態の分子を、電気化学的にキャリアを有する状態とし、基底状態の分子数を相対的に減少させ、これによって励起状態の分子数を基底状態の分子数よりも多くすることで反転分布を形成するものである。このような反転分布を形成するために、一対の電極間に複数の層を設けている。
【0009】
本発明の発光素子の構成について以下に説明する。
【0010】
本発明の発光素子は、一対の電極間に少なくとも第1の層及び第2の層を有し、当該第1の層及び第2の層は、第1の層及び第2の層へ一方に正孔を注入し、他方に電子を注入したとき、第1の層における第2の層に接する領域にイオン種が蓄積されるように、隣接して設けられたことを特徴としている。
【0011】
具体的には、本発明の発光素子は、隣接した第1の層と第2の層とを有し、第1の層の最低空分子軌道(LUMO:Lowest Unoccupied Molecular Orbital)準位と第2の層のLUMO準位との間、及び第1の層の最高被占分子軌道(HOMO:Highest Occupied Molecular Orbital)準位と第2の層のHOMO準位との間のそれぞれにエネルギー障壁を有することを特徴とする。そして、HOMO準位間のエネルギー障壁は、LUMO準位間のエネルギー障壁より大きいことを特徴とする。
【0012】
別の形態を有する本発明の発光素子は、第1の層において、第2の層に接する領域に基底状態として存在する分子の割合を電気化学的に減少させることにより、基底状態の分子の割合よりも励起状態の分子の割合を大きくすることによって反転分布状態を生じさせることを特徴とする。
【0013】
別の形態を有する本発明の発光素子は、第1の層から第2の層へ正孔の移動を阻止するための第1のエネルギー障壁と、第2の層から第1の層へ電子の移動を阻止するための第2のエネルギー障壁を有することを特徴とする。そして、第1のエネルギー障壁は第2にエネルギー障壁よりも大きいことを特徴とする。
【0014】
別の形態を有する本発明の発光素子は、第1の層と第2の層とは優先的に輸送されるキャリアの極性が異なり、第1の層のHOMO準位は第2の層のHOMO準位よりも高く、第1の層のLUMO準位は第2の層のLUMOの準位よりも高いことを特徴としている。また、第1の層は電子よりも正孔の輸送性が高く、第2の層は正孔よりも電子の輸送性が高いことも特徴とする。
【0015】
なお、第1の層と第2の層のHOMO準位の差の絶対値は0.5eV以上が好ましく、より好ましくは0.5eV以上3.0eV未満である。また、第1の層と第2の層のLUMO準位の差の絶対値は、0.1eV以上であって且つ第1の層と第2の層のHOMO準位の差の絶対値よりも小さいことが好ましく、より好ましくは0.1以上3.0eV未満である。
【0016】
上記のような構成とすることにより、第1の層及び第2の層へ一方に正孔を注入し、他方に電子を注入したとき発光領域における基底状態の分子数は励起状態の分子数よりも少なくなる。すなわち、反転分布状態が生じやすい。このように一方に正孔を注入し、他方に電子を注入することによって発光する素子を電流励起型発光素子と呼ぶ。
【0017】
また、反転分布状態が形成された領域での発光を増幅するために、本発明の発光素子は、発光を共振するための構造を有していることを特徴としている。
【0018】
具体的には、本発明の発光素子は、一対の反射体の間に上述の二つの層を有し、反射体間の距離が、反転分布状態が形成された領域での発光の波長の2分の1の整数倍となることを特徴としている。
【0019】
なお、反射体は、発光素子の電極としての機能を有することができる。
【0020】
発光素子の第1の層を構成する物質としては、例えば4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]−ビフェニル(以下、α−NPDと示す)や、4,4’,4’’−トリス(N,N−ジフェニル−アミノ)−トリフェニルアミン(以下、TDATAと示す)、4,4’−ビス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ]−ビフェニル(以下、TPDと示す)、4,4’,4’’−トリス(N−カルバゾリル)トリフェニルアミン(以下、TCTAと示す)などが好ましい。但し、ここに列挙した以外の物質であっても、正孔移動度が1×10−6cm/V・sec以上のものであればよい。当該移動度は、室温にて測定した場合の値である。
【0021】
発光素子の第2の層を構成する物質としては、例えばトリス(8−キノリノラート)アルミニウム錯体(以下、Alqと記す)に代表されるような、キノリン骨格またはベンゾキノリン骨格を有する金属錯体やその混合配位子錯体などが好ましい。さらに、金属錯体以外にも、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(以下、PBDと示す)、1,3−ビス[5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル]ベンゼン(以下、OXD−7と示す)などのオキサジアゾール誘導体、3−(4−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−5−(4−ビフェニリル)−1,2,4−トリアゾール(以下、TAZと示す)、3−(4−tert−ブチルフェニル)−4−(4−エチルフェニル)−5−(4−ビフェニリル)−1,2,4−トリアゾール(以下、p−EtTAZと示す)などのトリアゾール誘導体、バソフェナントロリン(以下、BPhenと示す)、バソキュプロイン(以下、BCPと示す)などのフェナントロリン誘導体、4,4’−(N−カルバゾリル)ビフェニル(以下、CBPと記す)を用いることができる。但し、ここに列挙した以外の物質であっても、電子移動度が10−8cm/V・sec以上のものであればよい。当該移動度は、室温にて測定した場合の値である。
【0022】
なお、第1の層と第2の層は、いずれか一方または両方が無機化合物を含む層であってもよい。
【0023】
このような発光素子は、当該発光素子へ流す電流の密度に対する発光スペクトル強度の変化が、傾きの異なる二つの線形領域で区分可能であり、傾きの大きい領域は、傾きの小さい領域に対して、高電流密度側にある。そして、傾きの異なる二つの線形領域の閾値が、2mA/cm以上50mA/cm以下である。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、有機化合物を、低い電流密度で電流励起することによって反転分布状態を形成できる発光素子を得ることができる。また、反転分布状態が形成された領域において誘導放出された光を共振・増幅することのできる発光素子を得ることができる。また、有機化合物をレーザー媒質とした電流励起型のレーザー装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の発光素子の態様について以下に説明する。
【0026】
従来のレーザー素子では、外部エネルギーによって基底状態の分子を励起状態へ励起し、励起状態の分子数より基底状態の分子数を大きくすることによって反転分布を得ようとするものである。これに対して本発明では、基底状態の分子を、電気化学的にキャリアを有する状態とし、基底状態の分子数を相対的に減少させ、これによって励起状態の分子数を基底状態の分子数よりも多くすることで反転分布を形成するものである。
【0027】
具体的には、図3に示すように、発光素子は、優先的に輸送されるキャリアの極性が異なり、隣接して設けられている二つの層311、312を少なくとも有し、二つの層にはそれぞれ分子301a、302aが含まれる。二つの層311、312にそれぞれ正孔または電子を注入させることで、基底状態であった分子301a、302aの殆んど全てを、キャリアを有する状態にする。キャリアを有する状態とは、イオン種が形成されている状態である。イオン種には、カチオンラジカル301b、又はアニオンラジカル302bがある。その他のイオン種としては、ジカチオン、ジアニオン等がある。イオン種が形成されていることで、電気化学的に基底状態の分子の膜中濃度が減少する。そして、例えば基底状態であった分子301aの殆んど全てがカチオンラジカル301bになった領域に、電子を注入させる。このとき、再結合により励起状態の分子301cが形成されるが、基底状態の分子301aの密度は非常に低いため、相対的に励起状態の分子301cの数が基底状態の分子301aの数よりも多くなり、反転分布状態が形成されることになる。なお図3において、302cは発光して基底状態に至った分子を表している。
【0028】
このような、電気化学的な反転分布状態を形成することのできる発光素子のエネルギー構造について、図1を用いて説明する。
【0029】
図1は、本発明の発光素子のエネルギーバンド図である。図1において、第1の層101は電子よりも正孔の輸送性が高い層であり、第2の層102は正孔よりも電子の輸送性が高い層である。正孔は陽極103側から第1の層101に注入され、陰極104側へ輸送される。
【0030】
ここで第1の層101のHOMOの準位(HOMO準位)107は第2の層102のHOMO準位108よりも上に位置し、また第1の層101と第2の層102のHOMO準位の差(ΔE)106の絶対値ができるだけ大きくなるように構成されている。これによって、第2の層102は正孔を阻止するための層として機能し、できるだけ多くの正孔を第1の層101内に蓄積することができる。なおHOMO準位の差106の絶対値は、0.5eV以上が好ましく、より好ましくは0.5eV以上3.0eV未満である。
【0031】
また、第1の層101のLUMOの準位(LUMO準位)109は第2の層102のLUMO準位110よりも上に位置し、また第1の層101と第2の層102のLUMO準位の差(ΔE)105の絶対値ができるだけ大きくなるように構成されている。これによって、陰極104側から注入された電子が第1の層101に大量に注入されるのを阻止することができる。従って、電子と正孔との再結合によって正孔の蓄積ができなくなるのを抑制することができる。
【0032】
HOMO準位の差、又はLUMO準位の差をエネルギー障壁と呼ぶ。
【0033】
また、発光させるために、正孔輸送に対するエネルギー障壁よりも電子輸送に対するエネルギー障壁の方が小さくなるように構成されている。つまり、LUMO準位の差105(ΔE)の絶対値がHOMO準位の差106(ΔE)の絶対値よりも小さくなるように構成されている。これは、キャリアの注入速度は、エネルギー障壁の大きさに大きく依存するためである。なお、LUMO準位の差105の大きさは、好ましくは0.1以上3.0eV未満である。このような値にすることによって、第1の層101へ僅かな電子注入がなされるように制御することができる。
【0034】
上記のような構成を有する本発明の発光素子では、発光領域における基底状態の分子の数をできるだけ少なくし、正孔を有する分子(カチオンラジカル分子)の密度を上げることができる。つまり第1の層101のうち第2の層102と接している側には殆んど基底状態の分子は存在せず、イオン種であるカチオンラジカルが占めている。なお、正孔が蓄積された第1の層101には僅かに電子が注入される。電子が注入されると正孔と再結合して発光領域に励起子が生成する。すなわち励起状態が形成される。このとき、発光領域では基底状態の分子は殆んど存在しないため、基底状態の分子数は、励起状態の分子数に対して小さくなり、反転分布状態が形成される。
【0035】
なお、本形態では第1の層101において反転分布状態が形成されるような構成の発光素子について説明したが、これ以外に第2の層102に反転分布状態が形成されるような構成の発光素子であってもよい。この場合、上記した発光素子と全く逆の構成の発光素子とすればよい。具体的には、ΔEの絶対値がΔEの絶対値よりも大きくなるような構成とすればよい。このような構成を有する発光素子では、第2の層102に電子が蓄積される。
【0036】
なお、有機化合物では電子よりも正孔の輸送性に優れたものの方が多く、第1の層101における正孔の移動度の方が第2の層102における電子の移動度よりも高くなるような発光素子の方が作製しやすい。従って、発光素子の構造としては、先に述べたような第1の層101に反転分布状態が形成されるような構成を有する方が好ましい。
【0037】
上記に示したようなエネルギーバンド構造を有する発光素子の構造について、図2を用いて以下に説明にする。
【0038】
なお本形態では、発光素子の端面(エッジ部分)から矢印に示すように発光を取り出すことのできるような構造を有する発光素子について説明する。勿論、発光素子の上面から発光を取り出す構造を有する発光素子であっても、本発明の素子構造を適用することができる。
【0039】
図2において、11は素子を支持するための基板である。基板11の材質として特に限定されるものはない。ガラス、石英、プラスチックのみならず、紙や布などの柔軟な基板でも用いることができる。
【0040】
基板11の上には第1の電極12が形成されている。第1の電極12は陽極として機能すると共に、発光を反射するための反射体としての機能を有するとよい。本形態に示す発光素子において第1の電極12は二層(12a、12b)で構成することができる。例えば第1の電極12aは導電性の高いもので形成すればよい。また第1の電極12bは第1の層13と接し、第1の層13へ正孔を注入する機能を有する材料を用いる。例えば、インジウム錫酸化物(ITO:Indium Tin Oxide)やZnOのような仕事関数が高い金属酸化物を用いることができる。さらに第1の電極12bは反射体としても機能するものとするとよい。そのため、仕事関数が大きく、反射性を有するAl、Ag、Pt、又はAu等の金属または合金などを用いて形成することが好ましい。第1の電極12bが反射体としても機能することを考慮すれば、Agのような可視光の吸収率が低く反射率の高いものを用いて形成することが好ましいからである。また膜厚については、第1の電極12bが反射体として機能できるような膜厚に制御されている。非常に薄い場合、反射体としての機能を奏することができないからである。なお、第1の電極12bが仕事関数の高い材料で形成されることから、第1の電極12aは仕事関数については特に制限されない。また、第1の電極12aは反射性を有する材料(Al、Agなど)を用いればよく、誘電体多層膜などを用いてもよい。このように電極を積層構造とすることによって、電極材料の選択の幅を広げることができ、積層された電極の各機能を高めることができる。また、第1の電極12は、必ずしも二層で構成される必要はなく、単層構造、又は三層以上の積層構造であってもよい。
【0041】
第1の電極12bの上に形成されている第1の層13は、正孔を輸送するための層であると共に、発光する層である。なお本形態の発光素子では、第1の層13は、電子よりも正孔の輸送性が高く、また正孔注入性にも優れ、エネルギーバンドギャップの大きいもので形成することが好ましい。また、発光する層でもあるため、発光の量子収率の大きな材料が好ましい。例えば、芳香族アミンが好ましい。具体的には、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]−ビフェニル(以下、α−NPDと示す)や、4,4’,4’’−トリス(N,N−ジフェニル−アミノ)−トリフェニルアミン(以下、TDATAと示す)、4,4’−ビス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ]−ビフェニル(以下、TPDと示す)、4,4’,4’’−トリス(N−カルバゾリル)トリフェニルアミン(以下、TCTAと示す)などを用いることができる。一方、高分子材料としては良好なホール輸送性を示すポリ(ビニルカルバゾール)などを用いてもよい。なお、トリフェニルアミン誘導体はエネルギーバンドギャップが大きくHOMO準位が高い、つまりイオン化ポテンシャルが小さいため特に好ましい。なお、第1の層13は、単層のみでなく、上記に示したような物質からなる二層以上の積層構造を有する層であってもよい。
【0042】
第1の層13の上には第2の層14が形成されている。第2の層は、電子を輸送するための層である。第2の層14は、正孔よりも電子の輸送性が高く、また電子注入性にも優れ、イオン化ポテンシャルの大きいものを用いて形成することが好ましい。例えば、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム錯体(以下、Alqと記す)に代表されるような、キノリン骨格またはベンゾキノリン骨格を有する金属錯体やその混合配位子錯体などを用いることが好ましい。さらに、金属錯体以外にも、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(以下、PBDと示す)、1,3−ビス[5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル]ベンゼン(以下、OXD−7と示す)などのオキサジアゾール誘導体、3−(4−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−5−(4−ビフェニリル)−1,2,4−トリアゾール(以下、TAZと示す)、3−(4−tert−ブチルフェニル)−4−(4−エチルフェニル)−5−(4−ビフェニリル)−1,2,4−トリアゾール(以下、p−EtTAZと示す)などのトリアゾール誘導体、バソフェナントロリン(以下、BPhenと示す)、バソキュプロイン(以下、BCPと示す)などのフェナントロリン誘導体、4,4’−(N−カルバゾリル)ビフェニル(以下、CBPと記す)を用いることができる。なお、第2の層14を構成する物質は第1の層13を構成する物質よりもバンドギャップが大きく、かつイオン化ポテンシャルがより大きいものを用いることが好ましい。具体的には、CBPやBCPなどのフェナントロリン誘導体やカルバゾール誘導体などである。なお、第2の層14は、単層のみでなく、上記に示したような物質からなる二層以上の積層構造を有する層であってもよい。
【0043】
なお、第1の層13のHOMO準位は、第2の層14のHOMO準位よりも上に位置し、第1の層13のLUMO準位は、第2の層14のLUMO準位よりも上に位置していることが好ましい。第1の層13が二層以上の積層構造である場合、第1の層13のうち第2の層14に接する層のHOMO準位及びLUMO準位がそれぞれ第2の層14のHOMO準位及びLUMO準位よりも上に位置していることが好ましい。また、第2の層14が二層以上の積層構造である場合、第2の層14のうち第1の層13に接する層のHOMO準位及びLUMO準位がそれぞれ第1の層13のHOMO準位及びLUMO準位よりも下に位置していることが好ましい。また、第1の層13及び第2の層14が二層以上の積層構造である場合、第1の層13のうち第2の層14に接する層のHOMO準位及びLUMO準位が、第2の層14のうち第1の層13に接する層のHOMO準位及びLUMO準位よりも上に位置していることが好ましい。
【0044】
第2の層14の上に第2の電極15が形成される。第2の電極15は陰極として機能すると共に、発光を反射するための反射体としての機能を有するとよい。本形態に示す発光素子において第2の電極15は二層(15a、15b)で構成することができる。例えば第2の電極15aは第2の層14と接し、第2の層14へ電子を注入するものである。従って、第2の電極15aは、1族または2族の典型元素、すなわちLiやCs等のアルカリ金属、およびMg、Ca、Sr等のアルカリ土類金属、およびこれらを含む合金(Mg/Ag、Al/Li)の他、希土類金属を含む遷移金属のような仕事関数の低いもので形成することが好ましい。また、第2の電極15aは、反射体として機能する。従って、Al、Ag、若しくはMg、またはこれらの合金のような可視光の吸収が小さく、反射率の大きな金属を用いて形成することが好ましい。また膜厚については、反射体として機能できるような膜厚に制御されている。非常に薄い場合、反射体としての機能を奏することができないからである。なお、第2の電極15aが仕事関数の低い材料で形成されることから、第2の電極15bは仕事関数については特に制限されない。また、第2の電極15bは反射性を有する材料(Al、Agなど)を用いればよく、誘電体多層膜などを用いてもよい。このように電極を積層構造とすることによって、電極材料の選択の幅を広げることができ、積層された電極の各機能を高めることができる。また、第2の電極15は、必ずしも二層で構成される必要はなく、単層構造、又は三層以上の積層構造であってもよい。
【0045】
なお、第1の層13や第2の層14は、湿式、及び乾式のいずれの方法を適用して形成しても構わない。高分子材料の場合では、スピンコート法、インクジェット法、ディップコート法、又は印刷法などが適している。一方低分子材料であれば、ディップコート法やスピンコート法だけでなく、真空蒸着などによっても形成することができる。第1の電極12、第2の電極15についても形成方法は特に限定されず、蒸着法、スパッタリング法等によって形成することができる。
【0046】
反射体として機能する第1の電極12と第2の電極15との光学的距離(以下、単に距離と呼ぶ)は、反転分布状態が形成された領域における発光を共振・増幅するために、発光波長の2分の1の整数倍となっているとよい。これによって、定常波を形成して光を共振・増幅させることができるからである。なお、当該距離の制御は、第1の層13と第2の層14との積算膜厚を変えることによって行うことができる。
【0047】
なお、本形態では第1の電極12と第2の電極15との間に設けられた層は、第1の層13と第2の層14との二層で構成されているが、これに限らず、その他の機能層を設けた三層以上の構成のものとしてもよい。例えば、電子注入層や正孔注入層、正孔阻止層などの機能を設けても構わない。
【0048】
上記発光素子では、以下の実施例1で示すが、電流密度に対する発光強度の変化からわかる誘導放出の閾値を電流密度50mA/cm以下、好ましくは15mA/cm以下とすることができる。すなわち、この閾値以上の電流密度となるように電流を流した場合に反転分布状態が形成される。なお、閾値は、発光素子の耐久性を考慮すれば2mA/cm以上50mA/cm以下であることが好ましく、本発明の発光素子では2mA/cm以上50mA/cm以下に閾値を有することができる。当該状態が形成された領域において各々の電極から注入された電子と正孔が再結合し発光した発光の一部は反射体(本形態においては第1および第2の電極)の間で共振・増幅される。なお、該発光の発光スペクトルは、上記発光素子内で共振し得る発光波長を主とし、比較的鋭いピークをもつものである。上記発光素子は、例えばレーザー発振器、即ちレーザー装置として用いることができる。
【実施例1】
【0049】
本発明の発光素子、並びにその発光素子の諸特性について説明する。
【0050】
図4に示すように、ガラス基板70上にITOを成膜して電極71を形成する。電極71上に、第1の層72としてα−NPDを真空蒸着によって成膜した後、さらに第1の層72の上に第2の層73(73a、73b)として、CBPおよびBCPを順に成膜した。第2の層73の上に第3の層74としてフッ化カルシウムを成膜した後、さらに電極75としてアルミニウムを成膜し、発光素子とした。なお、第1の層72、第2の層73a、73bの膜厚はそれぞれ、100、30、130nmでありこれらの合計膜厚は260nmである。これは、上記発光素子において電極71、75がそれぞれ反射体として機能する。このように本実施例における発光素子は発光した光を共振できるような構成となっている。
【0051】
なお、α−NPDは正孔輸送性に優れた物質であり、LUMO準位は−2.4eV、HOMO準位は−5.3eVである。CBPは電子輸送性の高い物質であり、LUMO準位は−2.5eV、HOMO準位は−5.9eVである。BCPは電子輸送性に優れた物質であり、LUMO準位は−1.7eV、HOMO準位は−6.7eVである。なお上記発光素子のエネルギーバンド構造を図5に示す。図5からも分かるように、第1の層72のLUMO準位は第2の層73aのLUMO準位よりも高い。また、第1の層72のHOMO準位は第2の層73aのHOMO準位よりも高い。なお、第2の層73bのLUMO準位は第2の層73aのLUMO準位よりも高く、第2の層73bのHOMO準位は第2の層73aのHOMO準位よりも低く構成されている。
【0052】
上記の発光素子の発光スペクトル図を図6に示す。図6から、465nmに半値幅の狭いピークを有する発光が得られていることが分かる。また、電流密度に対する発光強度の変化を図7に示す。なお、実施例のプロットを傾きの異なる2つの領域に区分し、それぞれの領域についての近似直線を実線で示した。図7から、電流密度の増加に応じて直線的に発光強度が増大するが、電流密度が12mA/cmを屈曲点(つまり閾値)としてその傾きが大きくなることが分かる。これは12mA/cmよりも小さい電流密度の領域では自然放射が支配的であるのに対し、12mA/cmよりも大きい電流密度の領域では誘導放射が起こっていることを示しているものと考えられる。
【0053】
またこれは次のようなメカニズムによるものと考えられる。第1の層に注入された正孔は、第1の層72と第2の層73aとの間のエネルギー障壁(HOMO準位の差)によって第2の層73aへの注入を阻止され、第1の層72に蓄積される。第2の層73bから第2の層73aへ容易に注入された電子は、第1の層72と第2の層73aとの間のエネルギー障壁(LUMO準位の差)によって第1の層72への注入を阻止される。但し、僅かな確率ではあるが電子は第1の層へ注入される。従って、第1の層72のうち第2の層73a側の領域では、正孔と電子の再結合がおこり励起状態が形成される。しかし、当該領域において、正孔を有する分子の濃度が高いため、励起状態の分子数が基底状態の分子数よりも多くなり、その結果反転分布状態が形成される。
【0054】
(比較例)
【0055】
上記発光素子に対する比較例について説明する。
【0056】
図8に示すように、ガラス基板80上にITOを成膜して電極81を形成する。電極81上に、第1の層82としてα−NPDを真空蒸着によって成膜した後、さらに第1の層82の上に第2の層83としてBCPを成膜した。第2の層83の上に第3の層84としてフッ化カルシウムを成膜した後、さらに電極85としてアルミニウムを成膜し、発光素子とした。なお、第1の層82、第2の層83の膜厚はそれぞれ、100、160nmでありこれらの合計膜厚は260nmである。なお、上記発光素子において電極81、84がそれぞれ反射体として機能する。このような本比較例における発光素子は発光した光を共振できるような構成となっている。
【0057】
比較例の発光素子のエネルギーバンド構造を図10に示す。図10からも分かるように、第1の層82のLUMO準位は第2の層83のLUMO準位よりも低い。また、第1の層82のHOMO準位は第2の層83のHOMO準位よりも高い。
【0058】
上記の発光素子の発光スペクトルを図11に示す。図11から、460nmに半値幅の狭いピークを有する発光が得られていることが分かる。しかし、電流密度に対する発光強度の依存性(図7)では、電流密度の増加に応じて直線的に発光強度が増大するが、本発明の発光素子においてみられていたような、屈曲点は有していないことがわかる。
【0059】
またこれは次のようなメカニズムによるものと考えられる。第1の層に注入された正孔は、第1の層82と第2の層83との間のエネルギー障壁(HOMO準位の差)によって第2の層83への注入を阻止され、第1の層82に蓄積される。しかし、第1の層82よりも第2の層83のLUMO準位が高いため、第2の層83から第1の層82へ速やかに電子が注入され、電子と正孔の再結合が頻繁におこる。その結果、キャリアを有する分子数は少なく、基底状態に至った分子数が、励起状態の分子数よりも大きい状態が形成されてしまい、反転分布状態を形成することができない。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の発光素子のエネルギーバンド構造について説明する図。
【図2】本発明の発光素子の積層構造について説明する図。
【図3】本発明の発光素子における反転分布状態の形成過程について説明する図。
【図4】本発明の発光素子の積層構造について説明する図。
【図5】本発明の発光素子のエネルギーバンド構造について説明する図。
【図6】本発明の発光素子の発光スペクトル。
【図7】本発明の発光素子および比較例の発光素子における発光スペクトル強度の電流密度依存性について示す図。
【図8】比較例の発光素子の積層構造について説明する図。
【図9】従来技術の半導体レーザーについて説明する図。
【図10】比較例の発光素子のエネルギーバンド構造について説明する図。
【図11】比較例の発光素子の発光スペクトル。
【符号の説明】
【0061】
11 基板
12 第1の電極
12a 第1の電極
12b 第1の電極
13 第1の層
14 第2の層
15 第2の電極
15a 第2の電極
15b 第2の電極
70 ガラス基板
71 電極
72 第1の層
73 第2の層
73a 第2の層
73b 第2の層
74 第3の層
75 電極
80 ガラス基板
81 電極
82 第1の層
83 第2の層
84 第3の層
85 電極
101 第1の層
102 第2の層
103 陽極
104 陰極
105 LUMO準位の差
106 HOMO準位の差
107 第1の層101のHOMOの準位
108 第2の層102のHOMO準位
109 第1の層101のLUMOの準位
110 第2の層102のLUMO準位
301a 分子
301b カチオンラジカル
301c 分子
302a 分子
302b アニオンラジカル
302c 分子
311 層
312 層
1001 電極
1002 電極
1003 P型半導体層
1004 N型半導体層
1005 活性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に第1の層及び第2の層を有し、
前記第1の層及び前記第2の層は、前記第1の層及び前記第2の層へ一方に正孔を注入し、他方に電子を注入したとき、前記第1の層における前記第2の層に接する領域にイオン種が蓄積されるように、隣接して設けられたことを特徴とする発光素子。
【請求項2】
一対の電極間に第1の層及び第2の層を有し、
前記第1の層及び前記第2の層は、前記第1の層及び前記第2の層へ一方に正孔を注入し、他方に電子を注入したとき、前記第1の層における前記第2の層に接する領域にイオン種が蓄積されるように、隣接して設けられ、
且つ前記第1の層のLUMO準位と前記第2の層のLUMO準位の間、及び前記第1の層のHOMO準位と前記第2の層のHOMO準位の間のそれぞれにエネルギー障壁を有することを特徴とする発光素子。
【請求項3】
一対の電極間に第1の層及び第2の層を有し、
前記第1の層及び前記第2の層は、前記第1の層及び前記第2の層へ一方に正孔を注入し、他方に電子を注入したとき、前記第1の層における前記第2の層に接する領域にイオン種が蓄積されるように、隣接して設けられ、
且つ前記第1の層のLUMO準位と前記第2の層のLUMO準位の間、及び前記第1の層のHOMO準位と前記第2の層のHOMO準位の間のそれぞれにエネルギー障壁を有し、
前記第1の層のHOMO準位と前記第2の層のHOMO準位の間のエネルギー障壁は、前記第1の層のLUMO準位と前記第2の層のLUMO準位の間のエネルギー障壁より大きいことを特徴とする発光素子。
【請求項4】
一対の電極間に第1の層及び第2の層を有し、
前記第1の層及び前記第2の層は、前記第1の層及び前記第2の層へ一方に正孔を注入し、他方に電子を注入したとき、前記第1の層における前記第2の層に接する領域にイオン種が蓄積されるように、隣接して設けられ、
前記第1の層における前記第2の層に接する領域に基底状態として存在する分子の割合を電気化学的に減少させることにより、基底状態の分子の割合よりも励起状態の分子の割合を大きくすることによって反転分布状態が生じることを特徴とする発光素子。
【請求項5】
一対の電極間に第1の層及び第2の層を有し、
前記第1の層及び前記第2の層は、前記第1の層及び前記第2の層へ一方に正孔を注入し、他方に電子を注入したとき、前記第1の層における前記第2の層に接する領域にイオン種が蓄積されるように、隣接して設けられ、
前記第1の層から前記第2の層へ正孔の移動を阻止するための第1のエネルギー障壁と、
前記第2の層から前記第1の層へ電子の移動を阻止するための第2のエネルギー障壁と
を有することを特徴とする発光素子。
【請求項6】
一対の電極間に第1の層及び第2の層を有し、
前記第1の層及び前記第2の層は、前記第1の層及び前記第2の層へ一方に正孔を注入し、他方に電子を注入したとき、前記第1の層における前記第2の層に接する領域にイオン種が蓄積されるように、隣接して設けられ、
前記第1の層のから前記第2の層へ正孔の移動を阻止するための第1のエネルギー障壁と、
前記第2の層から前記第1の層へ電子の移動を阻止するための第2のエネルギー障壁と
を有し、
前記第1のエネルギー障壁は前記第2にエネルギー障壁よりも大きいことを特徴とする発光素子。
【請求項7】
一対の電極間に第1の層及び第2の層を有し、
前記第1の層及び前記第2の層は、前記第1の層及び前記第2の層へ一方に正孔を注入し、他方に電子を注入したとき、前記第1の層における前記第2の層に接する領域にイオン種が蓄積されるように、隣接して設けられ、
前記第1の層と前記第2の層とは優先的に輸送されるキャリアの極性が異なり、
前記第1の層のHOMO準位は前記第2の層のHOMO準位よりも高く、
前記第1の層のLUMO準位は前記第2の層のLUMO準位よりも高い
ことを特徴とする発光素子。
【請求項8】
一対の電極間に第1の層及び第2の層を有し、
前記第1の層及び前記第2の層は、前記第1の層及び前記第2の層へ一方に正孔を注入し、他方に電子を注入したとき、前記第1の層における前記第2の層に接する領域にイオン種が蓄積されるように、隣接して設けられ、
前記第1の層は電子よりも正孔移動度が高く、
前記第2の層は正孔よりも電子移動度が高く、
前記第1の層のHOMO準位は前記第2の層のHOMO準位よりも高く、
前記第1の層のLUMO準位は前記第2の層のLUMO準位よりも高い
ことを特徴とする発光素子。
【請求項9】
請求項7又は8において、前記第1の層と前記第2の層のHOMO準位の差の絶対値が0.5eV以上であることを特徴とする発光素子。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれか一において、前記第1の層と前記第2の層のHOMO準位の差の絶対値が、前記第1の層と前記第2の層のLUMO準位の差の絶対値よりも大きいことを特徴とする発光素子。
【請求項11】
請求項10において、前記第1の層と前記第2の層のLUMO準位の差の絶対値が0.1eV以上3.0eV未満であることを特徴とする発光素子。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか一において、前記発光素子から発光した光を反射する第1の電極及び第2の電極を有し、
前記第1の層及び前記第2の層は、前記第1の電極及び前記第2の電極において前記光が共振するような膜厚を有することを特徴とする発光素子。
【請求項13】
請求項5乃至12のいずれか一において、前記第1の層は4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]−ビフェニルを用いて形成されていることを特徴とする発光素子。
【請求項14】
請求項5乃至13のいずれか一において、前記第2の層は4,4’−(N−カルバゾリル)ビフェニルを用いて形成されていることを特徴とする発光素子。
【請求項15】
請求項5乃至13のいずれか一において、前記第2の層は4,4’−(N−カルバゾリル)ビフェニルとバソキュプロインとを用いて形成されていることを特徴とする発光素子。
【請求項16】
一対の電極間に第1の層及び第2の層を有し、
前記第1の層及び前記第2の層は、前記第1の層及び前記第2の層へ一方に正孔を注入し、他方に電子を注入したとき、前記第1の層における前記第2の層に接する領域にイオン種が蓄積されるように、隣接して設けられ、
電流の密度に対する発光スペクトル強度の変化は、傾きの異なる二つの線形領域に区分され、傾きの大きい領域は、傾きの小さい領域に対して、高電流密度側にあることを特徴とする発光素子。
【請求項17】
一対の電極間に第1の層及び第2の層を有し、
前記第1の層及び前記第2の層は、前記第1の層及び前記第2の層へ一方に正孔を注入し、他方に電子を注入したとき、前記第1の層における前記第2の層に接する領域にイオン種が蓄積されるように、隣接して設けられ、
且つ前記第1の層のLUMO準位と前記第2の層のLUMO準位との間、及び前記第1の層のHOMO準位と前記第2の層のHOMO準位との間のそれぞれにエネルギー障壁を有し、
電流の密度に対する発光スペクトル強度の変化が、傾きの異なる二つの線形領域で区分可能であり、傾きの大きい領域は、傾きの小さい領域に対して、高電流密度側にあることを特徴とする発光素子。
【請求項18】
一対の電極間に第1の層及び第2の層を有し、
前記第1の層及び前記第2の層は、前記第1の層及び前記第2の層へ一方に正孔を注入し、他方に電子を注入したとき、前記第1の層における前記第2の層に接する領域にイオン種が蓄積されるように、隣接して設けられ、
且つ前記第1の層のLUMO準位と前記第2の層のLUMO準位との間、及び前記第1の層のHOMO準位と前記第2の層のHOMO準位との間のそれぞれにエネルギー障壁を有し、
前記第1の層のHOMO準位と前記第2の層のHOMO準位との間のエネルギー障壁は、前記第1の層のLUMO準位と前記第2の層のLUMO準位との間のエネルギー障壁より大きく、
電流の密度に対する発光スペクトル強度の変化が、傾きの異なる二つの線形領域で区分可能であり、傾きの大きい領域は、傾きの小さい領域に対して、高電流密度側にあることを特徴とする発光素子。
【請求項19】
一対の電極間に第1の層及び第2の層を有し、
前記第1の層及び前記第2の層は、前記第1の層及び前記第2の層へ一方に正孔を注入し、他方に電子を注入したとき、前記第1の層における前記第2の層に接する領域にイオン種が蓄積されるように、隣接して設けられ、
前記第1の層において、前記第2の層に接する領域に基底状態として存在する分子の割合を電気化学的に減少させることにより、基底状態の分子の割合よりも励起状態の分子の割合を大きくすることによって反転分布状態が生じ、
電流の密度に対する発光スペクトル強度の変化が、傾きの異なる二つの線形領域で区分可能であり、傾きの大きい領域は、傾きの小さい領域に対して、高電流密度側にあることを特徴とする発光素子。
【請求項20】
請求項16乃至19のいずれか一において、前記傾きの異なる二つの線形領域の閾値が、2mA/cm以上50mA/cm未満であることを特徴とする発光素子。
【請求項21】
請求項1乃至請求項20のいずれか一項に記載の発光素子を用いていることを特徴とするレーザー装置。
【請求項22】
請求項1乃至請求項20のいずれか一項に記載の発光素子を、レーザー発振器として用いていることを特徴とするレーザー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−303456(P2006−303456A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−71361(P2006−71361)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】