説明

発光素子及び発光素子用基板材料

【課題】従来の発光素子に利用される基板は低屈折率のため、光の取り出し効率が低い。
【解決手段】発光層及び基板層を含む発光素子あって、前記発光層の屈折率(nEL)から前記基板層の屈折率(nsub)を減じた数(Δn)が0.2以下であることを特徴とする該発光素子。前記基板層の屈折率が1.6以上であることを特徴とする該発光素子。前記発光素子において、基板層と発光層の間に導電体層が形成されることを特徴とする該発光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロニクスルミネッセンス(有機EL)発光装置、無機エレクトロニクスルミネッセンス(無機EL)発光装置、発光ダイオード(LED)などの発光素子及び前記発光素子に用いられる基板に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELとする)は、有機層を電極間に挟み、電極間に電圧を印加して、ホール、電子を注入し、有機層内で再結合させて、発光分子が励起状態から基底状態に至る過程で発生する光を取り出すもので、ディスプレイやバックライト、照明用途に用いられている。
【0003】
有機層の屈折率は430nmで1.8〜2.1程度である。一方、例えば透光性電極層としてITO(酸化インジウム錫:Indium Tin Oxide)を用いる場合の屈折率は、ITO成膜条件や組成(Sn−In比率)で異なるが、1.9〜2.4程度が一般的である。このように有機層と透光性電極層の屈折率は近く、発光した光は有機層と透光性電極層間で全反射することなく、透光性電極層と透光性基板の界面に到達する。透光性基板には通常ガラスや樹脂基板が用いられるが、これらの屈折率は1.5〜1.6程度であり、有機層或いは透光性電極層よりも低屈折率である。スネルの法則から考えると、ガラス基板に浅い角度で進入しようとした光は全反射で有機層方向に反射され、反射性電極で再度反射され再び、ガラス基板の界面に到達する。この時、ガラス基板への入射角度は変わらないため、反射を有機層、透光性電極層内で繰り返し、ガラス基板から外に取り出すことができない。概算では、発光した光の60%程度がこのモード(有機層・透光性電極層伝播モード)で取り出せないことが分かる。同様なことが基板、大気界面でも起き、これにより発光した光の20%程度がガラス内部を伝播して、光が取り出せない(基板伝播モード)。従って、有機ELの外部に取り出せる光の量は、発光した光の20%足らずになっているのが現状である。
【0004】
特許文献1では、環境負荷化学物質を含有しないあるいは低減したディスプレイ用ガラス(基板)として無アルカリガラス(基板)の組成及び製造方法の開示がされている。
しかしながら、開示されている組成はSiOをベースにしたガラスであり、明記はされていないがその屈折率は決して高くないと言える。つまり、特許文献1のガラスでは、有機EL素子とガラスとの屈折率差が大きく、素子とガラスとの界面で光が散乱あるいは反射をしてしまい、十分な光の取り出し効率が得られない。
【0005】
特許文献2では、有機ELディスプレイを曲面で使用することを考慮したフィルム状ガラスの製造方法についての開示がされている。
しかしながら、開示されている組成は特許文献1同様SiOをベースにした組成であり、屈折率は決して大きくないと言える。特許文献2も特許文献1同様、有機EL素子とガラスとの屈折率差が大きく、素子とガラスとの界面で光が散乱あるいは反射をしてしまい、十分な光の取り出し効率が得られない。
【0006】
特許文献3では、半透明物質層である光散乱層を基板の片面に設ける構造を提案している(段落0039〜0040)。ガラス粒子をアクリル系接着剤で基板面に固着させて、基板面に凝集配置することで基板と有機EL素子との間に光散乱部を設けた構造を提案している。
しかしながら、特許文献3では、半透明物質層はパラフィン等を樹脂バインダにより基板上に固着している(段落0040)。つまり、特許文献3の光散乱部は、樹脂であり、水分を吸収し易い。よって、特許文献2の有機EL装置は、長期の使用に耐えられないという問題点がある。
【0007】
特許文献4では、ガラス基板と透明電極の界面の反射を低減する手法として、ガラス基板表面にサンドブラストや、プレスなどで凹凸を形成する方法が提案されている。凹凸を形成した面の上には、透明電極を形成しにくいので、凹凸面の上にゾル−ゲル法などで形成したシリカゾルやチタニアゾルなどを塗布し、高屈折率層を形成することが提案されている。
しかしながら、このような方法では、ゾル−ゲル法などで形成した高屈折率層から水分が放出され、有機EL素子を劣化させるなどの問題がある。またゾル−ゲル法などで調製したシリカゾルやチタニアゾルなどを塗布し加熱した場合、膜にひび割れなどが生じ、均質な膜を形成することができず、凹凸を埋めて平坦な膜表面を形成することが出来ないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−1589号公報
【特許文献2】特開2011−16705号公報
【特許文献3】特許第2931211号公報
【特許文献4】特開2004−296438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明では、高効率で長寿命かつ高輝度な発光素子を提供することを目的とする。
本発明の様では、当該発光素子に使用される基板であって、鉛を含まず、高屈折率で高い光の取り出し効率を有する基板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、発光素子の基板に高屈折率に寄与する成分が含有させ、発光層の屈折率と基板層の屈折率との差を0.2以下とすることで、高い光の取り出し効率を有する、高効率で長寿命な発光素子を実現した。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0011】
(1)発光層及び基板層を含む発光素子あって、前記発光層の屈折率(nEL)から前記基板層の屈折率(nsub)を減じた数(Δn)が0.2以下であることを特徴とする前記発光素子。
(2)前記基板層の屈折率が1.6以上であることを特徴とする(1)の発光素子。
(3)前記発光素子において、基板層と発光層の間に導電体層が形成されることを特徴とする(1)又は(2)の発光素子。
(4)前記発光層が有機EL層であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか記載の発光素子。
(5)(1)〜(4)のいずれかの発光素子における基板層に使用されるガラス。
(6)前記基板層が、SiO、B、P、Bi及びTeOからなる群より選択される1種以上を0.1%以上含有する(5)に記載のガラス。
(7) BaO、LnxOy(式中、LnはY、La、Ce、Nd、Eu、Gd、Tb、Ho、Yb、Luからなる群より選択される1種以上、x及びyは任意の自然数)、TiO、ZrO、Nb、Bi、GeO、SnO、WO、Ta、Ga、MoO、TeOの少なくとも1種類以上を含有することを特徴とする(5)に記載のガラス。
(8) 酸化物基準のモル%表示で、
LnxOy(式中、LnはY、La、Ce、Nd、Eu、Gd、Tb、Ho、Yb、Luからなる群より選択される1種以上、x及びyは任意の自然数)の合計含有量が0.1〜70%
又は/及び
TiO、ZrO及びNbの合計含有量が0.1〜80%
又は/及び
Bi、GeO、SnO、WO、Ta、Ga及びMoOの合計含有量が0.1〜90%
又は/及び
TeOの含有量が0.1〜90%
となる(5)〜(7)のいずれかに記載のガラス。
(9)
酸化物基準のモル%表示で、SiO、B、P、Bi及びTeOとBaOとの合計含有量が0.1〜90%となる(5)〜(8)記載のガラス。
(10)
酸化物基準のモル%表示で
0〜90%のSiO
0〜90%のB
0〜90%のP
0〜40%のAl
0〜40%のRO(但し、RはLi、Na、K、Rb、Csから選ばれる一種以上)
0〜40%のRnO(但し、RnはMg、Ca、Srから選ばれる一種以上)
0〜60%のZnO
の各成分を含有する請求項(5)〜(9)に記載のガラス。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光の取り出し効率が高く、高輝度で長寿命な発光素子の提供及び前記発光素子を実現する透光性基板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態である発光装置を示す模式的断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体的な実施形態により説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
図1は、本発明に従う一実施形態の基板及び発光素子を有する発光装置を示す模式的断面図である。
【0016】
図1において、発光素子は基板層A、導電体層B、発光層C、陰極Dを有しており、基板層Aに隣接して、導電体層Bが形成されており、導電体層Bと隣接して発光層Cが形成されており、発光層Cと隣接して陰極Dが形成されている。
【0017】
本実施形態において、導電体層Bは陽極として機能し、発光層Cは、陽極としての導電体層Bと陰極Dとの間に形成されている。
【0018】
発光層Cと導電体層Bとの間には、必要に応じてホール注入層、ホール輸送層などが形成されていてもよい。また、発光層Cと陰極Dの間には、必要に応じて、電子輸送層、電子注入層などが形成されている。ホール注入層には電極から効率よくホールを取り入れる役割があり、材料としてCuPCなどがある。ホール輸送層にはホールを能率的に輸送するが、反対方向から来る電子を通行止めにする役目があり、材料としてα−NPDなどがある。また、電子輸送層には電子を能率的に輸送するが、反対方向から来るホールを通行止めにする役目がある。電子注入層には電極から効率よく電子を取り入れる役割があり、材料としてLiOなど公知の材料を適宜使用できる。
【0019】
発光層Cで発光した光は、導電体層B及び基板層Aを通り、外部に取り出される。
【0020】
本実施形態の基板層Aについて説明する。
基板層Aは、発光層から効率よく光を取り出すために、発光層の屈折率(nEL)から基板層の屈折率(nsub)を減じた数(Δn)が、好ましくは0.2以下、より好ましくは0.1以下、最も好ましくは0.0以下である(負の値を含む)。
【0021】
特に、通常使用される発光層の屈折率が1.8程度であることから、基板層の屈折率が1.6以上であることが好ましい。
【0022】
また、光の取り出し効率を向上させるために、基板層の表面1A及び2Aに、凹凸形状が形成されていても良い。
すなわち、図1では、基板層Aの導電体層側の形状を平滑に示したが、凹凸状となっていてもよい。凹凸面は、基板層Aの表面1A全体に形成されても良いし、発光層を形成する領域においてのみ形成されていても良い。また、基板層Aの表面2Aにおいても同様の凹凸面が形成されていても良い。
凹凸面は、例えば、サンドブラスト法、ガラス板表面のプレス成形、ロール成板法、ゾルーゲルスプレー法、エッチング法などの方法で形成することができる。
【0023】
上記光学特性を満たす基板層Aの材料としては、樹脂、ガラス、透明ガラスセラミックスなどが使用できる。
【0024】
基板層Aとして樹脂を使用する場合は、ポロアリレート、ポロエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリアミド、セルローストリアセテートなどが使用できる。
【0025】
基板層Aとして透明ガラスセラミックスを使用する場合は、ガラス内部に存在する結晶の粒径が1μm以下であることが好ましい。1μmよりも大きな結晶が存在する場合、基板内部での光の散乱が大きくなりすぎ、透明性が失われる原因となる。
【0026】
基板層Aは所定の屈折率を有していることのほか、化学的耐久性に優れていることが好ましい。特に、基板層上に導電体層などを形成する際の洗浄工程において用いる薬品等に対して、劣化しないことが望まれる。
化学的耐久性(粉末法耐水性)については、日本光学硝子工業会規格「光学ガラスの化学的耐久性の測定方法」JOGIS06−1999において、1級〜4級であることが好ましく、1級〜3級であることがより好ましく、1級〜2級であることが最も好ましい。
化学的耐久性(耐酸性)については、日本光学硝子工業会規格「光学ガラスの化学的耐久性の測定方法」JOGIS06−1999において、1級〜4級であることが好ましい。
【0027】
基板層Aにガラスを用いる場合の組成について、以下に詳細を記載する。
【0028】
[ガラス成分]
本発明のガラス組成物を構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。各成分はモル% にて表現する。なお、本願明細書中においてモル% で表されるガラス組成は全て酸化物基準でのモル%で表されたものである。ここで、「酸化物基準」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、硝酸塩等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、該生成酸化物の総和を100モル%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0029】
基板層Aに用いることが可能なガラス系は、SiO、B、P、Bi及びTeOからなる群より選択される1種以上を0.1%以上ガラスが好ましく、具体的には
SiO系、B系、SiO−P−Bi系、TeO系ガラスより選択される1種以上を0.1%以上含有するガラスが挙げられる。
【0030】
基板層Aは、光の取り出し効率を向上させるため、高屈折率に寄与する成分として、BaO、LnxOy(Ln=Y、La、Ce、Nd、Eu、Gd、Tb、Ho、Yb、Luなど)、TiO、ZrO、Nb、Bi、GeO、SnO、WO、Ta、Ga、MoO、TeOから選ばれるいずれかの成分を含有することが好ましい。その含有量は、酸化物基準のモル%表示で、合計含有量で0.1%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、20%以上が最も好ましい。
【0031】
希土類を主成分とするガラス系の場合、高屈折率の効果を十分に得るために、酸化物基準のモル%表示で、LnxOy(Ln=Y、La、Ce、Nd、Eu、Gd、Tb、Ho、Yb、Luなど)の合計含有量で0.1%以上が好ましく、5%以上がより好ましく、15%以上が最も好ましい。一方、希土類の含有量が多すぎる場合、失透しやすくなり、ガラス化が困難となる。そのため、その含有量は合計含有量で、70%以下が好ましく、50以下がより好ましく、30%以下が最も好ましい。
【0032】
TiO、ZrO、Nbを主成分とするガラス系の場合、高屈折率の効果を十分に得るために、酸化物基準のモル%表示で、TiO、ZrO及びNb合計含有量で0.1以上が好ましく、8%以上がより好ましく、18%以上が最も好ましい。一方、これらの含有量が多すぎる場合、失透しやすくなり、ガラス化が困難となる。そのため、その含有量は合計含有量で、80%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、40%以下が最も好ましい。また、希土類と共に含有させることで、より効果を得ることが可能となる。
【0033】
GeO、SnO、WO、Ta、Ga及び/又はMoOを主成分とするガラス系の場合、高屈折率の効果を十分に得るために、酸化物基準のモル%表示で、合計含有量で0.1以上が好ましく、3%以上がより好ましく、8%以上が最も好ましい。一方、含有量が多い場合、失透しやすくなり、ガラス化が困難となる。そのため、その含有量は合計含有量で、90%以下が好ましく、50%以下が好ましく、30%以下が最も好ましい。また、希土類やTiO、ZrO及び/又はNbと共に含有させることでより効果を得ることが可能となる。
【0034】
Bi及び/又はTeOを主成分とするガラス系の場合、高屈折率の効果を十分に得るために、酸化物基準のモル%表示で、合計含有量で0.1以上が好ましく、3%以上がより好ましく、8%以上が最も好ましい。一方、含有量が多い場合、失透しやすくなり、ガラス化が困難となるとともに耐久性が悪化する。そのため、その含有量は合計含有量で、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、70%以下が最も好ましい。また、希土類やTiO、ZrO、Nb、GeO、SnO、WO、Ta、Ga及び/又はMoOと共に含有させることでより効果を得ることが可能となる。
【0035】
BaOは高屈折率に寄与する成分であると共に、ガラスの溶融性と安定性の向上、低Tg化に効果があり、さらに化学的耐久性の向上にも有効である。そのため、その含有量は酸化物基準のモル%表示で、0.1%以上が好ましく、5%以上が好ましく、15%以上が最も好ましい。一方、含有量が多い場合、失透しやすくなり、ガラス化が困難となるとともに耐久性が悪化する。そのため、その含有量は酸化物基準のモル%表示で、90%以下が好ましく、60%以下が好ましく、40%以下が最も好ましい。また、希土類やTiO、ZrO、Nb、GeO、SnO、WO、Ta、Ga、MoO、Bi及び/又はTeOと共に含有させることでより効果を得ることが可能となる。
【0036】
希土類を主成分とするガラス系の場合、ガラスフォーマーとして、SiO、B、P、Bi、TeOなどを含有させる必要がある。その含有量は、酸化物基準のモル%表示で、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上が最も好ましい。
【0037】
SiO成分はガラス骨格を形成することが可能な成分であり、化学的耐久性を向上させる成分であるので、任意成分である。SiO成分の含有量が90%よりも多いとガラスが失透しやすくなるとともに粘性が高くなり溶融させるのが困難となる。従って、SiO成分の含有量は90%以下が好ましく、65%以下がより好ましく、40%以下が最も好ましい。
【0038】
はガラスの形成酸化物であり、安定なガラスを得るのに有用な成分であり、任意成分である。B成分の含有量が酸化物基準のモル%表示で、90%よりも多いとガラスが失透しやすくなるとともに化学的耐久性が著しく悪化する。従って、B成分の含有量は90%以下が好ましく、65%以下がより好ましく、40%以下が最も好ましい。
【0039】
成分はガラス骨格を形成する成分であり、ガラスを安定化させる成分であるので、任意成分である。P成分の含有量が酸化物基準のモル%表示で、90%よりも多いとガラスが失透しやすくなると共に、化学的耐久性が著しく悪化する。従って、P成分の含有量は90%以下が好ましく、55%以下がより好ましく、40%以下が最も好ましい。
【0040】
Al成分は、ガラス骨格を形成することができ、化学的耐久性を向上させ、また、ガラスを安定化するのに有効な成分であり、任意成分である。P成分の含有量が酸化物基準のモル%表示で、90%よりも多いとガラスが失透しやすくなると共に、化学的耐久性が著しく悪化する。従って、P成分の含有量は90%以下が好ましく、55%以下がより好ましく、40%以下が最も好ましい。
【0041】
O(但し、RはLi、Na、K、Rb、Csから選ばれる一種以上)成分はガラス溶解の際にバッチの発泡性を抑え、ガラスの溶融性と安定性の向上、更にガラスのTgの低減に効果が大きい有用な成分であるが、多く入るとガラスの化学耐久性が悪くなりやすいので、上限を40%とするのが好ましく、28%とするのがさらに好ましく、15%とするのが最も好ましい。また、これらの成分を1種以上使うとより効果的である。
【0042】
RnO(但し、RnはMg、Ca、Srから選ばれる一種以上)、はガラスの溶融性と安定性の向上、ガラス転移点を下げる効果があり、さらに化学的耐久性の向上にも有効である、任意の添加成分である。これら成分の1種又は2種以上の合計量が多すぎるとガラス安定性が悪くなる。従って、これら成分の合計含有量は上限を40%とするのが好ましく、31%とするのがより好ましく、16%とするのが最も好ましい。
【0043】
ZnOはガラス安定性の向上、ガラス転移点を下げるために効果的な成分であり、任意成分である。しかし、含有量が多いと失透しやすくなる。そのため、上限を60%とするのが好ましく、45%とするのがより好ましく、35%とするのが最も好ましい。
【0044】
Fは化学的耐久性を向上させる任意の成分である。また、透過率を向上し、ガラス転移点を下げるのに効果的な成分である。しかし、含有量が多いと失透やガラス表面にヤケ(ガラス成分の揮発による白濁化)ができる要因となる。そのため、上限を40%とするのが好ましく、30%とするのがより好ましく、20%とするのが最も好ましい。
【0045】
Sb又はAs成分はガラス熔融時の脱泡のために添加し得るが、その量は5%までで十分である。そのため、好ましくは5%以下であり、より好ましくは3%以下であり、最も好ましくは含有しないほうがよい。
【0046】
< 含有させるべきでない成分について>
Cd及びTl成分はガラス転移点を下げることを目的として含有させることができる。しかし、Pb、Th、Cd、Tl、Osの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあるため、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には実質的に含まないことが好ましい。
【0047】
鉛成分は、ガラスを製造、加工、及び廃棄をする際に環境対策上の措置を講ずる必要が
あるため、コストが高くなるため、できれば含有させるべきでない。
【0048】
Fe、Cr、CuO、NiOなどの着色成分は、ガラスを着色させてしまうため、これら成分は合計含有量で1%以下に抑えるのが好ましい。より好ましくは0.5%以下であり、最も好ましくは0.05%以下である。
【0049】
発光素子及び/又は発光装置は薄型化、大型化が進んでおり、発光素子及び/又は発光装置に用いられる基板は薄いことが好ましい、その厚みは2mm以下が好ましく、より好ましくは1mm以下であり、最も好ましくは0.7mm以下である。
【0050】
薄い基板を製造する手法としては、フロート法、オーバーフロート法、ダウンドロー法など成形時に薄い基板として作製する手法から、一度成形した基板を切断、研磨、サンドブラストなど機械加工により薄く加工することで作製する手法がある。薄い基板を製造する上で、基板のヤング率は70×10 N/m以上が好ましい。より好ましくは76×10 N/m以上であり、最も好ましくは81×10 N/m以上である。また、上限を400×10 N/m以下とすることが好ましく、より好ましくは300×10 N/m以下であり、最も好ましくは280×10 N/m以下である。
【0051】
基板層の表面1A上には、必要に応じて透明膜層が形成されていてもよい。透明膜層には、光の取り出し効率を向上させる効果があり、発光層と基板層の間の屈折率を有することが好ましい。
基板層の表面2B上にも、必要に応じて透明膜層が形成されていてもよい。この場合、透明膜層は空気と基板層の間の屈折率を有することが好ましい。
透明膜層として使用する材料としては、樹脂、ガラス、透明ガラスセラミックスなどが使用できる。透明膜層としては、これら材料一層からなっていてもよいし、何層にも積層された構造になっていてもよい。
【0052】
本実施形態の導電体層Bについて説明する。
導電体層Bには、可視光の光を透過する素材で構成される。材料として、ITO(酸化インジウムスズ)、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛などがある。
【0053】
本実施形態の発光層Cについて説明する。
発光層Cには、LED(Light Emitting Diode)、無機EL(Inorganic Electro Luminescence)、有機EL(Organic Electro Luminescence又はOrganic−LED)、プラズマ発光層、電界放出型発光層などがある。
発光層CとしてLEDを用いる場合、AlGaAs、GaAsP、InGaN、GaN、AlGaN、GaP、ZnSe、AlGaInPなどが使用できる。
発光層Cとして無機ELを用いる場合、硫化亜鉛などが使用できる。
発光層Cとして有機ELを用いる場合、主に低分子系と高分子系に分けられる。低分子系では、ジスチリルビフェニル系青色発光材、ジメシチルボリル基結合アモルファス発光材、オキサジアゾール−ベリリウム青色発光錯体などが使用できる。高分子系では、オリゴフェニレンビニレンテトラマー発光材、ビナフタレン含有発行ポリマー、ポリシラン系発光ポリマーなど公知の発光材料が使用できる。
【0054】
本実施形態の陰極Dについて説明する。
陰極Dには、電子伝導性の高い素材で構成される。材料として、Al、Au、Ag−Mg合金、Mgなどの導電体を使用することが好ましい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実
施例に限定されるものではない。
[ガラスの作製]
ガラスが酸化物基準のモル%で表わされた表1〜3に示す組成比となるように、珪砂、硼酸、第二リン酸アンモニウム、酸化アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、第一リン酸ソーダ、炭酸カリウム、リン酸二水素カリウム、酸化亜鉛、メタリン酸亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、炭酸ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、炭酸バリウム、硝酸バリウム、メタリン酸バリウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、二酸化テルル、酸化ビスマス、酸化タングステン、酸化錫、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化ガドリニウム、酸化ニオブ、亜砒酸、五酸化アンチモン等のガラス原料バッチを調製した。ガラス原料バッチはアルミナるつぼ、石英るつぼ、金るつぼ、又は白金坩堝へ充填し、電気炉により750℃〜1500℃の温度で30分〜4時間加熱溶融した。溶融したガラスは十分に攪拌、泡抜き(清澄)を行い、板状に成型し徐冷した。
【0056】
[ガラスの測定]
作製したガラスについて、ガラス転移点(Tg)、100℃〜300℃における平均線熱膨張係数(α)、屈折率(nd)の測定を行った。その結果を表1〜2に示す。
【0057】
(ガラス転移点(Tg))
ガラス転移点(Tg)については、示差熱分析装置(DTA)で昇温速度を10℃/分にして測定した。
【0058】
(熱膨張係数)
作製したガラスについてJOGIS(日本光学硝子工業会規格)16−2003「光学ガラスの常温付近の平均線膨張係数の測定方法」に則り、温度範囲を100℃から300℃の範囲に換えて平均線膨張係数を測定した。測定した平均線膨張係数(α)の値を表1〜2に示す。
【0059】
波長588nmでの屈折率[nd]については、徐冷降温速度を−25℃/hrとして得られたガラスについて測定した。
【0060】
(ヤング率)
ヤング率は、100×10×10mmの角棒試料を作製し、室温での縦波及び横波の音速を超音波パルス重畳(4.5MHz)によって測定した。
【0061】
(化学的耐久性)
化学的耐久性(耐水性及び耐酸性)については、日本光学硝子工業会規格「光学ガラスの化学的耐久性の測定方法」JOGIS06−1999に準じて測定した。
【0062】
(耐水性の測定)
ガラスを鉄乳鉢で、粒度425〜600μmに破砕し、比重の3〜4倍のグラム量を採取する。採取したガラス粉末中に混入している鉄粉を磁石で取り除き、ガラス粉末を50mlビーカーに移し入れ、メチルアルコールを加えて全量を約30mlとし、ガラス棒にて攪拌し、傾斜法によってガラス微粉を除去する。この洗浄を5回繰り返した後、吸引ろ過ポンプを用いて、ガラスろ過器(1Gフィルター)でろ過する。ろ過期中のガラス粉末を、乾燥機(110〜120℃)で60分間乾燥後、シリカゲルデシケーター中で放冷する。乾燥したガラス試料の質量を正確に秤量した後、比重ビンにとり、白金かごの中に入れる。白金かごを純水(pH6.5〜7.5)の入った石英ガラス製丸底フラスコに入れて、沸騰水浴中で60分間処理した。処理後に白金かごをメチルアルコールの入ったビーカーに移しいれ、洗浄する。洗浄後、秤量ビンに入れ、乾燥器(110〜120℃)で60分間乾燥する。乾燥後、シリカゲルデシケーターで60分間放冷した後、質量を測定し、ガラス試料の減量率(wt%)を算出して、減量率(wt%)が0.05未満の場合をクラス1、減量率が0.05〜0.10未満の場合をクラス2、減量率が0.10〜0.25未満の場合をクラス3、減量率が0.25〜0.60未満の場合をクラス4、減量率が0.60〜1.10未満の場合をクラス5、減量率が1.10以上の場合をクラス6としたものであり、クラスの数が小さいほど、ガラスの耐水性が優れていることを意味する。
【0063】
(耐酸性の測定)
ガラスを鉄乳鉢で、粒度425〜600μmに破砕し、比重の3〜4倍のグラム量を採取する。採取したガラス粉末中に混入している鉄粉を磁石で取り除き、ガラス粉末を50mlビーカーに移し入れ、メチルアルコールを加えて全量を約30mlとし、ガラス棒にて攪拌し、傾斜法によってガラス微粉を除去する。この洗浄を5回繰り返した後、吸引ろ過ポンプを用いて、ガラスろ過器(1Gフィルター)でろ過する。ろ過期中のガラス粉末を、乾燥機(110〜120℃)で60分間乾燥後、シリカゲルデシケーター中で放冷する。乾燥したガラス試料の質量を正確に秤量した後、比重ビンにとり、白金かごの中に入れる。白金かごを0.01N硝酸水溶液の入った石英ガラス製丸底フラスコに入れて、沸騰液浴中で60分間処理した。処理後に白金かごをメチルアルコールの入ったビーカーに移しいれ、洗浄する。洗浄後、秤量ビンに入れ、乾燥器(110〜120℃)で60分間乾燥する。乾燥後、シリカゲルデシケーターで60分間放冷した後、質量を測定し、ガラス試料の減量率(wt%)を算出して、減量率(wt%)が0.20未満の場合をクラス1、減量率が0.20〜0.36未満の場合をクラス2、減量率が0.35〜0.65未満の場合をクラス3、減量率が0.65〜1.20未満の場合をクラス4、減量率が1.20〜2.20未満の場合をクラス5、減量率が2.20以上の場合をクラス6としたものであり、クラスの数が小さいほど、ガラスの耐酸性が優れていることを意味する。



【0064】
【表1】

【0065】
【表2】
















【0066】
【表3】

【0067】
本発明で作製したガラスを検査したところ、100cm中の泡の断面積の総和はいずれも0.03mm未満であった。なお、ここでいう泡とはガラス内部に存在する気泡や結晶、異物などのことを指し、その直径又は最大径が0.03mm以上のものを対象とした。本発明のガラスは、泡が十分に少なく、またガラス内部での成分のムラ(脈理)が極めて少ない。そのため、ガラス内部での光の散乱が少なく、効率よく光を取り出すことが可能である。
【0068】
本発明の実施例のガラスは、波長588 nmでの屈折率(nd)が1.65〜2.10である。一方、比較例で示すガラスは、ndが1.52〜1.56である。従来、発光素子の基板には屈折率が1.40〜1.55程度であった。そのため、発光部の屈折率(有機EL素子層の場合、屈折率は1.85程度)から基板の屈折率を減じた数(Δn)は0.2よりも大きく、光の取り出し効率が低かった。本発明のガラスは、Δnが0.2よりも小さいため、従来に比べ光の取り出し効率の向上が期待できる。
【0069】
本発明の実施例のガラスは、耐水性・耐酸性がいずれも4級以上であった。一方、比較例2で示すガラスは、耐酸性が5級である。比較例2のガラスでは、発光素子を製造する工程上での熱処理や薬品処理時にガラスが浸食及び/又は反応物を生じさせるため、ガラス基板の腐食や前記処理中に生じた反応物などが装置のフィルターなどに詰まらせたり、不均一な処理状態となってしまったり等の様々な問題を引き起こす可能性がある。本発明では、前記処理中でのガラスの浸食や反応物が生成される恐れが小さいと言える。
【0070】
本発明の実施例のガラスは、ヤング率が84〜277×10 N/mであった。
【0071】
作製したガラスは、切断、研磨加工により、100×90×0.7mmの薄いガラス基板に加工した。加工後のガラス基板はいずれもカケや泡、脈理などがなく、また加工処理によるガラス表面の浸食や反応物の生成もなかった。本発明の実施例のガラスは、上記組成及び物性を有しており、有機EL等の発光素子に適したガラス及びガラス基板であるといえる。
【0072】
以上、説明したように本発明にかかる発光素子及び基板は、発光層の屈折率(nEL)から基板層の屈折率(nsub)を減じた数(Δn)が0.2以下であるため、高い光の取り出し効率を実現できる。本発明の形態を用いることにより、高効率で長寿命な発光素子を実現する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光層及び基板層を含む発光素子あって、前記発光層の屈折率(nEL)から前記基板層の屈折率(nsub)を減じた数(Δn)が0.2以下であることを特徴とする前記発光素子。
【請求項2】
前記基板層の屈折率が1.6以上であることを特徴とする請求項1の発光素子。
【請求項3】
前記発光素子において、基板層と発光層の間に導電体層が形成されることを特徴とする請求項1又は2の発光素子。
【請求項4】
前記発光層が有機EL層であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の発光素子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの発光素子における基板層に使用されるガラス。
【請求項6】
前記基板層が、SiO、B、P、Bi及びTeOからなる群より選択される1種以上を0.1%以上含有する請求項5に記載のガラス。
【請求項7】
BaO、LnxOy(式中、LnはY、La、Ce、Nd、Eu、Gd、Tb、Ho、Yb、Luからなる群より選択される1種以上、x及びyは任意の自然数)、TiO、ZrO、Nb、Bi、GeO、SnO、WO、Ta、Ga、MoO及びTeOの少なくとも1種類以上を含有することを特徴とする請求項6に記載のガラス。
【請求項8】
酸化物基準のモル%表示で、
LnxOy(式中、LnはY、La、Ce、Nd、Eu、Gd、Tb、Ho、Yb、Luからなる群より選択される1種以上、x及びyは任意の自然数)の合計含有量が0.1〜70%
又は/及び
TiO、ZrO及びNbの合計含有量が0.1〜80%
又は/及び
Bi、GeO、SnO、WO、Ta、Ga及びMoOの合計含有量が0.1〜90%
又は/及び
TeOの含有量が0.1〜90%
となる請求項5〜7のいずれかに記載のガラス。
【請求項9】
酸化物基準のモル%表示で、SiO、B、P、Bi及びTeOとBaOの合計含有量が0.1〜90%となる請求項5〜8のいずれかに記載のガラス。
【請求項10】
酸化物基準のモル%表示で
0〜90%のSiO
0〜90%のB
0〜90%のP
0〜40%のAl
0〜40%のRO(但し、RはLi、Na、K、Rb、Csから選ばれる一種以上)
0〜40%のRnO(但し、RnはMg、Ca、Srから選ばれる一種以上)
0〜60%のZnO
の各成分を含有する請求項5〜9のいずれかに記載のガラス。

【図1】
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【公開番号】特開2012−221591(P2012−221591A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83036(P2011−83036)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】