説明

発光素子及び表示デバイス

発光素子は、互いに対向する一対の電極と、前記一対の電極の間に挟まれており、平均粒径100nm以下の珪素微粒子を有する発光層とを備え、前記珪素微粒子は、表面の少なくとも一部を導電性物質によって被覆されている。また、前記導電性物質は、インジウム、錫、亜鉛、ガリウムの群から選ばれる少なくとも1つを含む酸化物又は複合酸化物であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、発光性無機材料を用いた発光素子及び該発光素子を用いた表示デバイスに関する。
【背景技術】
フラットパネルディスプレイの中で、液晶パネル、プラズマディスプレイ等とともに注目を集めている表示デバイスとして、エレクトロルミネッセンス(以下ELと称する)素子を用いた表示デバイスがある。このEL素子には、発光体に無機化合物を使用する無機EL素子と、発光体に有機化合物を使用する有機EL素子がある。EL素子は、高速応答性、高コントラスト、耐振性等の特徴を有する。このEL素子は、その内部に気体部が無いため高圧下や低圧下でも使用できる。
有機EL素子では、駆動電圧が低いため薄膜トランジスタ(TFT)を用いたアクティブマトリクス方式での駆動によって一定の階調性を発現することができるが、その一方、素子が湿度等の影響を受けやすく寿命が短い。また、無機EL素子は、有機EL素子と比較して、長寿命で、使用温度範囲が広く、耐久性に優れる等の特徴がある。その一方、無機EL素子は発光に要する電圧が通常200〜300Vと高いため、薄膜トランジスタ(TFT)を使用したアクティブマトリクス方式での駆動が困難であった。そのため、無機EL素子は、パッシブマトリクス方式で駆動されてきた。
パッシブマトリクス駆動では、第1の方向に平行に延在する複数の走査電極と、第1の方向と直交する第2の方向に平行に延在する複数のデータ電極とが設けられ、この互いに交差している走査電極とデータ電極との間に発光素子が挟まれており、一組の走査電極とデータ電極との間に交流電圧を印加して一つの発光素子が駆動される。このパッシブマトリクス駆動では、走査線の数が増加すると、表示デバイス全体として平均輝度が低くなるため、発光素子としての輝度向上が必要である。また、無機発光体は一般的には絶縁物結晶中に発光材料をドープしたものであり、そのためにUV光を照射した場合には光るが、電界を印加しても絶縁物結晶中に電子は浸透しにくく、帯電による反発も強いために発光させるためには高エネルギー電子が必要となる。そのため、低エネルギー電子で発光させるためには対策が必要である。
特公昭54−8080号公報に記載の技術によれば、発光層にZnSを主体とし、Mn,Cr,Tb,Eu,Tm,Yb等をドープすることによって、無機EL素子を駆動(発光)させ、発光輝度の向上が図られたが、200〜300Vの高電圧でしか駆動しないため、TFTを使用することができない。
なお、珪素微粒子を用いた発光素子が知られている(特開平8−307011号公報)。この発光素子では、珪素微粒子の大きさが50nm程度と非常に小さいために量子効果を生じてバンドギャップ幅が可視光領域となる。これによって可視光領域で発光させている。
【発明の開示】
発光素子をテレビ等の高品位な表示デバイスとして使用する場合は、TFTを使用可能な低電圧で発光素子を駆動することが必要とされている。
本発明の目的は、低電圧で駆動でき、薄膜トランジスタを使用できる発光素子を提供することである。
本発明に係る発光素子は、互いに対向する一対の電極と、
前記一対の電極の間に挟まれており、平均粒径100nm以下の珪素微粒子を有する発光層と
を備え、
前記珪素微粒子は、表面の少なくとも一部を導電性物質によって被覆されていることを特徴とする。
発光層に外部電界を与え、珪素微粒子に電子を浸透させることによって珪素は量子効果によって発光する。この場合に、本発明者は、粒径100nm以下の珪素粒子の表面に導電性物質が被覆されている構成において、珪素微粒子に電子が浸透し易くなるため、低電圧にて発光せしめることができることを知見した。
本発明に係る発光素子の各構成部材について説明する。
この発光素子は、支持体基板上に固定してもよい。この支持体基板としては、電気絶縁性が高い材料を用いる。支持体基板側から発光素子の光を取り出す場合には、可視領域での光の透過性が高い材料からなる支持体基板を用いる。発光素子の作製工程において支持体基板の温度が数百℃に達する場合は、軟化点が高く耐熱性に優れ、熱膨張係数が積層する膜と同程度である材料を用いる。このような支持体基板としてはガラス、セラミックス、シリコンウエハなどが使用できるが、通常のガラスに含まれるアルカリイオン等が発光素子へ影響しないように、無アルカリガラスを用いてもよい。また、ガラス表面に発光素子へのアルカリイオンのイオンバリア層としてアルミナ等をコートしてもよい。
電極には、電気伝導性が高く、電界によるイオンのマイグレーションがない材料を用いる。この電極としては、アルミニウム、モリブテン、タングステン等を用いることができる。発光素子の光を取り出す側の電極には、上述の電極の性能に加えて、可視領域で透明性の高い材料を用いればよく、この電極として、錫ドープ酸化インジウム(ITO)等を主体とした電極を用いることができる。なお、一対の電極双方を透明電極とすることにより、両面発光素子を得ることもできる。また、本発明の発光素子及び表示デバイスは、直流で駆動しても、交流で駆動しても、あるいはパルスで駆動してもよい。
導電性物質としては、可視光領域で透過性のある導電性の無機物質を用いることができる。そのような物質としては、インジウム、錫、亜鉛、ガリウムの群から選ばれる少なくとも一つの元素を含む酸化物材料又は複合酸化物材料を含んでいることが好ましい。これらの酸化物系材料としては、例えば、Ga、GaInO、In、SnO、InSn12、ZnO、CdIn、CdSnO、ZnSnO、MgIn、ZnGa、CdGa、CaGa、AgInO、InGaMgO、InGaZnO等がある。また、他の例としてはチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ガリウム、アルミニウムの群から選ばれる少なくとも1つの元素を含む窒化物(例えば、窒化チタン)又は複合窒化物を含んでいることが好ましい。またさらに他の例としては、金、銀、白金、銅、ロジウム、パラジウム、アルミニウム、クロム等の金属又はこれらを主体とする合金(例えば、マグネシウム銀合金)の薄膜を用いてもよい。なお、表面の少なくとも一部に導電性物質を被覆した珪素微粒子を透明導電体マトリクスの材料中へ分散させてもよい。透明導電体マトリクス材料として好適な例には、ポリアセチレン系、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイドに代表されるポリフェニレン系、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリセレノフェン、ポリテルロフェンに代表される複素環ポリマ系、ポリアニリンに代表されるイオン性ポリマ系、ポリアセン系、ポリエステル系、金属フタロシアニン系やこれらの誘導体、共重合体、混合体などが挙げられる。さらに好適な例として、ポリ−N−ビニルカルバゾール(PVK)、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)等が挙げられる。またさらに、詳細を後述する電子輸送性を有するポリマ等を用いてもよい。またさらに、導電性又は半導電性ポリマ中に、詳細を後述する低分子系の電子輸送性有機材料、若しくは導電性又は半導電性無機材料を分散して、導電性を調整した形態であってもよい。
前記電極と発光層の間には、電子輸送性材料からなる電子輸送層を形成してもよい。電子輸送性材料は、電子輸送層内で電子を素早く輸送する電子移動度が高い材料であり、有機物ではアルミキノリネートやオキサジアゾール誘導体などを主体とする材料を使用でき、無機物ではn型半導体材料の単結晶体、多結晶体、及びその粒子粉末の樹脂分散層等を使用できる。
前記電極と発光層の間には、正孔輸送性材料からなる正孔輸送層を形成してもよい。正孔輸送性層は、陽極となる電極と発光層の間に設けてもよい。正孔輸送性材料は正孔輸送層内で正孔を素早く輸送する正孔移動度が高い材料であり、ポリビニルカルバゾール系やポリフェニレンビニレン系などを主体とする材料を使用できる。
本発明に係る発光素子の構成について説明する。
この発光素子は、図1に示す通り、互いに対向する一対の電極の間に、表面の少なくとも一部に導電性物質を被覆した珪素微粒子を発光体として含む発光層を備える。即ち、この発光素子は、発光層を一対の電極で挟み込み、各電極を電源に接続する基本構成を有する。なお、電極は支持体上に形成してもよい。また、表面に導電性物質を被覆等した珪素微粒子を透明導電体のマトリクス中に分散してもよい。また、電極と発光層の間に電子輸送層を設けてもよい。さらに、電子輸送層と電極の間に電子注入層を設けてもよい。また、陽電極となる電極と発光層の間に正孔輸送層を設けてもよい。さらに、正孔輸送層と陽電極の間に正孔注入層を設けてもよい。また、この発光素子は低電圧にて駆動するので、薄膜トランジスタ(TFT)を構造中に備えることによって低電圧でアクティブマトリクス駆動するディスプレイを得ることが可能である。
次に、この発光素子において、十分な発光効率を得るための条件について検討する。この発光素子は、発光素子の電極へ外部電界を印加することによって駆動され、印加した外部電界によって電子が発光層中の発光体へ送られる。発光体の中心は100nm以下の珪素微粒子なので、該発光体の中心に電子が浸透すると量子効果によって珪素が励起して発光する。この珪素微粒子は、導電性物質により表面を被覆しているため、中心の珪素微粒子へ電子が浸透し易くなっている。
ここで、珪素微粒子は、伝達された電子のエネルギーによって励起し、基底状態になるときに発光する。つまり、珪素微粒子の粒径は小さくなればなるほど量子効果が生じてバンドギャップが拡大し、粒径100nm以下では珪素微粒子が可視光領域で発光するが、粒径が小さくなればなるほど表面積が増えて不安定になる。小さな粒径を安定に保つためにも微粒子表面を被覆することが必要である。この場合、珪素微粒子の表面を導電性物質によって被覆することが好ましい。これによって、珪素微粒子内の珪素原子へ効率よくエネルギーを伝達することが可能となる。
また、発光層上に電子輸送層を設けることにより、電子を効率よく珪素微粒子へ伝達することが可能となる。さらに、発光層を電子輸送性材料からなる2枚の電子輸送層で挟み込むことにより、電子輸送性材料は正孔ストッパとしても働くため、伝達されてきた電子が正孔と再結合することなく、電子を効率よく珪素微粒子へ伝達することができる。
【発明の効果】
本発明に係る発光素子によれば、表面の少なくとも一部を導電性物質で被覆している珪素微粒子を発光体として用いている。これによって、量子効果により可視光領域での発光を得ることができ、しかも化学的に安定させることができる。また、低電圧駆動させることができ、微粒子による高効率発光の発光素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の実施の形態1に係る発光素子の構成を示す断面図である。
図2は、本発明の実施の形態8に係る発光素子の構成を示す断面図である。
図3は、本発明の実施の形態9に係る発光素子の電極構成を示す斜視図である。
図4は、本発明の実施の形態10に係る表示デバイスを示す平面概略図である。
図5は、本発明の実施の形態4に係る発光素子の別例の構成を示す断面図である。
図6は、本発明の実施の形態8に係る発光素子の別例の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の実施の形態に係る発光素子について添付図面を用いて以下に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施の形態により限定されるものではない。なお、図面において実質的に同一の部材には同一の符号を付している。
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係る発光素子について、図1を用いて説明する。図1は、この発光素子10の素子構造を示す概略図である。この発光素子10は、2つの第1及び第2電極2、4の間に発光層3を挟んでいる。各層の積層関係の観点から説明すると、この発光素子10は、支持体として透明基板1が設けられ、その上に、第1電極2、発光層3、第2電極4が順に積層されている。また、該透明基板1の側から光が取り出される。
なお、この発光素子10において、発光素子より取り出される発光色は、発光層3を構成する珪素微粒子5によって決定されるが、多色表示や白色表示、各色の色純度調整等のために、発光層3の光取り出し方向前方に色変換層をさらに備えたり、透明導電体マトリクス内に色変換材料を混在させてもよい。色変換層及び色変換材料には、光を励起源として発光するものであればよく、有機材料、無機材料を問わず、公知の蛍光体、顔料、染料等を用いることができる。例えば発光層3からの発光と補色関係にある発光を示す色変換層を備えることにより、白色発光する面光源とすることができる。
次に、この発光素子10の発光特性について説明する。この発光素子10のITO透明電極(第1電極)2と、Ag電極(第2電極)4とから電極を引き出し、ITO透明電極2とAg電極4との間に外部電圧を印加することにより、発光素子10において発光する。なお、この実施の形態1に係る発光素子では、粒径10〜30nmの珪素微粒子表面を膜厚10〜30nmの窒化チタンにて被覆した。
次に、この発光素子10の製造方法について説明する。この発光素子は、以下の手順によって作製した。
(a)支持体1として無アルカリガラス基板を用いた。基板1の厚みは1.7mmであった。
(b)支持体1の上に、第1電極2としてITO酸化物ターゲットを用いてRFマグネトロンスパッタリング法により、ITO透明電極2を形成した。
(c)形成されたITO透明電極2の上に、珪素微粒子5に導電性物質6を被覆した発光層3を蒸着法により形成した。
(d)上記発光層3の上に、第2電極4としてAg電極ペーストをスクリーン印刷し、乾燥させ、第2電極4を形成した。
以上の工程によって発光素子10を完成した。
この発光素子10の第1電極2と第2電極4をそれぞれ直流電源7の正極と負極に接続して直流電圧を与えると、4.5Vで明るい発光が確認できた。この発光素子10は低電圧で駆動できるので、TFTを用いて画素を制御することが可能である。
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係る発光素子について説明する。この発光素子は、実施の形態1に係る発光素子10と比較すると、珪素微粒子5の粒径が相違する以外は同じである。この珪素微粒子5の粒径は5〜20nmであった。実施の形態2に係る発光素子の第1電極2と第2電極4をそれぞれ直流電源7の正極と負極に接続して直流電圧を与えると、3.6Vで明るい発光が確認できた。実施の形態2に係る発光素子は低電圧駆動であるため、TFTを用いて画素を制御することが可能である。
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3に係る発光素子について説明する。この発光素子は、実施の形態1に係る発光素子10と比較すると、珪素微粒子5の粒径が相違する以外は同じである。この珪素微粒子5の粒径は70〜100nmであった。実施の形態3の発光素子の第1電極2と第2電極4をそれぞれ直流電源7の正極と負極に接続して直流電圧を与えると、22Vで明るい発光が確認できた。実施の形態3に係る発光素子は低電圧駆動であるため、TFTを用いて画素を制御することが可能である。
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4に係る発光素子について説明する。この発光素子は、実施の形態1に係る発光素子10と比較すると、導電性物質6がマグネシウム銀合金である点で相違する以外は同じである。マグネシウムと銀のモル比率は10:1であり、膜厚は5〜50nmとした。実施の形態4に係る発光素子の第1電極2と第2電極4をそれぞれ直流電源7の正極と負極に接続して直流電圧を与えると、3.1Vで明るい発光が確認できた。実施の形態4に係る発光素子は低電圧駆動であるため、TFTを用いて画素を制御することが可能である。
なお、珪素微粒子を被覆する導電性物質として半導体材料ではなく金属材料を用いる場合には、珪素微粒子の表面の全体ではなく一部分のみを導電性物質で被覆することが好ましい。この場合、図5に示すように、上記表面の一部を金属材料からなる導電性物質16で被覆した珪素微粒子15を半導体材料からなる透明導電体マトリクス17中に分散させて発光層3を構成してもよい。
(実施の形態5)
本発明の実施の形態5に係る発光素子について説明する。この発光素子は、実施の形態4に係る発光素子と比較すると、珪素微粒子5の粒径が相違する以外は同じである。この珪素微粒子5の粒径は70〜100nmであった。実施の形態5に係る発光素子の第1電極2と第2電極4をそれぞれ直流電源7の正極と負極に接続して直流電圧を与えると、19Vで明るい発光が確認できた。実施の形態5に係る発光素子は低電圧駆動であるため、TFTを用いて画素を制御することが可能である。
(実施の形態6)
本発明の実施の形態6に係る発光素子について説明する。この発光素子は、実施の形態3に係る発光素子と比較すると、導電性物質6がGaを主体とする点で相違する以外は同じである。この珪素微粒子5の粒径は70〜100nmであった。実施の形態6に係る発光素子の第1電極2と第2電極4をそれぞれ直流電源7の正極と負極に接続して直流電圧を与えると、21Vで明るい発光が確認できた。実施の形態6に係る発光素子は低電圧駆動であるため、TFTを用いて画素を制御することが可能である。
(実施の形態7)
本発明の実施の形態7に係る発光素子について説明する。この発光素子は、実施の形態6に係る発光素子と比較すると、導電性物質6がInSn12を主体とする点で相違する以外は同じである。この珪素微粒子5の粒径は70〜100nmであった。実施の形態7に係る発光素子の第1電極2と第2電極4をそれぞれ直流電源7の正極と負極に接続して直流電圧を与えると、16Vで明るい発光が確認できた。実施の形態7に係る発光素子は低電圧駆動であるため、TFTを用いて画素を制御することが可能である。
なお、前記実施の形態2から7に係る発光素子において、実施の形態1に係る発光素子と同様、発光素子より取り出される発光色は、発光層3を構成する珪素微粒子5によって決定されるが、多色表示や白色表示、各色の色純度調整等のために、発光層3の光取り出し方向前方に色変換層をさらに備えたり、透明導電体マトリクス内に色変換材料を混在させてもよい。
(実施の形態8)
本発明の実施の形態8に係る発光素子について図2を用いて説明する。図2は、この発光素子20の構成を示す断面図である。この発光素子20は、実施の形態1から7に係る発光素子と比較すると、発光層3と第1電極2との間に第1電子輸送層8、発光層3と第2電極4との間に第2電子輸送層9を設けている点で相違する。この電子輸送層8、9によって発光層3に電子を流れやすくすることができる。また、実施の形態8に係る発光素子の第1電極2と第2電極4をそれぞれ直流電源7の正極と負極に接続した場合、第1電極2の側に設けた第1電子輸送層8は正孔ストッパ層としても機能する。電子輸送層8、9を構成する電子輸送性材料には、有機材料としては大きく分けて低分子系材料と高分子系材料とがある。
電子輸送性を備える低分子系材料としては、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、スチリルベンゼン誘導体、シロール誘導体、1,10−フェナントロリン誘導体、キノリノール系金属錯体、チオフェン誘導体、フルオレン誘導体、キノン誘導体等やこれらの2量体、3量体が挙げられる。特に好ましくは、2−(4−ビフェニル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)、2,5−ビス[1−(3−メトキシ)−フェニル]−1,3,4−オキサジアゾール(BMD)、1,3,5−トリス[5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル]ベンゼン(TPOB)、3−(4−ビフェニル)−4−フェニル−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(TAZ)、3−(4−ビフェニル)−4−(4−エチルフェニル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(p−EtTAZ)、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BPhen)、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)、3,5−ジメチル−3’,5’−ジ−tert−ブチル−4,4’−ジフェノキノン(MBDQ)、2,5−ビス[2−(5−tert−ブチルベンゾキサゾリル)]−チオフェン(BBOT)、トリニトロフルオレノン(TNF)、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)、5,5’−ビス(ジメシチルボリル)−2,2’ビチオフェン(BMB−2T)等があるが、これらに限定されるものではない。
また、電子輸送性を備える高分子系材料としては、ポリ−[2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシルオキシ)−1,4−(1−シアノビニレン)フェニレン](CN−PPV)やポリキノキサリン、または低分子系で電子輸送性を示す分子構造を分子鎖中に組み込んだポリマ等が挙げられる。またさらに、導電性又は非導電性ポリマ中に前述の低分子系の電子輸送性材料を分子分散した形態であってもよい。また、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム(In)、酸化チタン(TiO)等に代表される、電子注入性がよく、可視光域に吸収をもたないn型半導体材料の単結晶体、多結晶体、及びその粒子粉末の樹脂分散層等を用いることもできる。
なお、珪素微粒子を被覆する導電性物質として半導体材料ではなく金属材料を用いる場合には、珪素微粒子の表面の全体ではなく一部分のみを導電性物質で被覆することが好ましい。この場合、図6に示すように、上記表面の一部を金属材料からなる導電性物質16で被覆した珪素微粒子15を半導体材料からなる透明導電体マトリクス17中に分散させて発光層3を構成してもよい。
(実施の形態9)
本発明の実施の形態9に係る発光素子30について、図3を用いて説明する。図3は、この発光素子30の電極構成を示す斜視図である。この発光素子30は、実施の形態1から8に係る発光素子の電極2に接続された薄膜トランジスタ11をさらに備える。薄膜トランジスタ11には、x電極12とy電極13とが接続されている。この発光素子30では、珪素微粒子5の表面の少なくとも一部を導電性物質6で被覆しているので、低電圧で駆動することができ、薄膜トランジスタ11を使用することができる。また、薄膜トランジスタ11を用いることによって発光素子30にメモリ機能を持たせることができる。この薄膜トランジスタ11としては、低温ポリシリコンやアモルファスシリコン薄膜トランジスタ等が用いられる。さらに、有機材料を含む薄膜により構成された有機薄膜トランジスタであってもよく、あるいは、酸化亜鉛系等の透明薄膜トランジスタであってもよい。
(実施の形態10)
本発明の実施の形態10に係る表示デバイスについて、図4を用いて説明する。図4は、この表示デバイス40の互いに直交するx電極12とy電極13とによって構成されるアクティブマトリクスを示す概略平面図である。この表示デバイス40は、薄膜トランジスタ11を有するアクティブマトリクス型表示デバイスである。このアクティブマトリクス型表示デバイス40は、図3に示した薄膜トランジスタ11を備えた複数の発光素子30が2次元配列されている発光素子アレイと、該発光素子アレイの面に平行な第1方向に互いに平行に延在している複数のx電極12と、該発光素子アレイの面に平行であって、第1方向に直交する第2方向に平行に延在している複数のy電極13とを備える。この発光素子アレイの薄膜トランジスタ11は、x電極12及びy電極13とそれぞれ接続されている。一対のx電極12とy電極13とによって特定される発光素子が一つの画素となる。このアクティブマトリクス表示デバイス40によれば、上述のように、各画素の発光素子を構成する発光層3は、表面の少なくとも一部を導電性物質6によって被覆している珪素微粒子5を含む。これにより、低電圧駆動できるので、薄膜トランジスタ11を使用でき、メモリ効果を利用できる。また、低電圧駆動するので長寿命の表示デバイスが得られる。なお、発光層3を構成する珪素微粒子5を、その発光色(RGB)に応じて各画素ごとに配置させることにより3原色フルカラー表示デバイスを得ることができる。また、RGB各色の色純度調整のために、光取り出し方向前方にカラーフィルタを備えてもよい。さらに、すべての画素に単一色を発する発光層3を用いて、且つ、光取り出し方向前方に色変換層及びカラーフィルタをさらに備えてもよい。これにより、例えば、発光層3から生じた青色の光を色変換層が吸収して緑色や赤色の発光が生じ、これらを個々に取り出すことで、別例の3原色フルカラー表示デバイスを得ることもできる。
(比較例1)
比較例の発光素子について説明する。この発光素子は、実施の形態1に係る発光素子10と比較すると、珪素微粒子の粒径が相違すると共に、表面に導電性物質を有しない点で相違するが、それ以外は同じである。比較例1の珪素微粒子の粒径は180〜220nmであった。比較例1の発光素子の第1電極2と第2電極4をそれぞれ正極と負極に接続して直流電圧を与えると、103Vで明るい発光が確認できた。比較例1の発光素子は高電圧駆動であるため、TFTを用いて画素を制御することが困難または不可能である。
(比較例2)
比較例2の発光素子について説明する。この発光素子は、実施の形態1に係る発光素子10と比較すると、珪素微粒子の粒径が相違する以外は同じである。比較例2の珪素微粒子の粒径は200〜240nmであった。比較例2の発光素子の第1電極2と第2電極4をそれぞれ正極と負極に接続して直流電圧を与えたが、200Vでも発光が確認できなかった。
(比較例3)
比較例3の発光素子について説明する。この発光素子は、実施の形態4に係る発光素子と比較すると、導電性物質が無い以外は同じである。比較例3の発光素子の第1電極2と第2電極4をそれぞれ正極と負極に接続して直流電圧を与えたが、200Vでも発光が確認できなかった。
(比較例4)
比較例4の発光素子について説明する。この発光素子は、実施の形態4に係る発光素子と比較すると、導電性物質であるマグネシウム銀合金の膜厚が相違し、該膜厚が60〜100nmである点で相違する以外は同じである。比較例4の発光素子の第1電極2と第2電極4をそれぞれ正極と負極に接続して直流電圧を与えたが、導電性物質が不透明であり、200Vでも発光が確認できなかった。
(比較例5)
比較例5の発光素子について説明する。この発光素子は、実施の形態1に係る発光素子10と比較すると、導電性物質である窒化チタンの膜厚が相違し、該膜厚が40〜80nmである点で相違する以外は同じである。比較例5の発光素子の第1電極2と第2電極4をそれぞれ正極と負極に接続して直流電圧を与えたが、導電性物質が不透明であり、200Vでも発光が確認できなかった。
上述の通り、本発明は好ましい実施形態により詳細に説明されているが、本発明はこれらに限定されるものではなく、以下の特許請求の範囲に記載された本発明の技術的範囲内において多くの好ましい変形例及び修正例が可能であることは当業者にとって自明なことであろう。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する一対の電極と、
前記一対の電極の間に挟まれており、平均粒径100nm以下の珪素微粒子を有する発光層と
を備え、
前記珪素微粒子は、表面の少なくとも一部を導電性物質によって被覆されていることを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記導電性物質は、インジウム、錫、亜鉛、ガリウムの群から選ばれる少なくとも1つの元素を含む酸化物又は複合酸化物を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記導電性物質は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ガリウム、アルミニウムの群から選ばれる少なくとも一つの元素を含む窒化物又は複合窒化物を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項4】
前記導電性物質は、厚さ30nm以下の窒化チタンであることを特徴とする請求項1又は3に記載の発光素子。
【請求項5】
前記導電性物質は、厚さ50nm以下のマグネシウム銀合金であることを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項6】
前記発光層と少なくとも一方の電極との間に、さらに電子輸送層を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の発光素子。
【請求項7】
前記電極の少なくとも一方に接続された薄膜トランジスタをさらに備えることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の発光素子。
【請求項8】
請求項7に記載の発光素子が2次元配列されている発光素子アレイと、
前記発光素子アレイの面に平行な第1方向に互いに平行に延在している複数のx電極と、
前記発光素子アレイの面に平行であって、前記第1方向に直交する第2方向に平行に延在している複数のy電極と
を備え、
前記発光素子アレイの前記薄膜トランジスタは、前記x電極及び前記y電極とそれぞれ接続されていることを特徴とする表示デバイス。

【国際公開番号】WO2005/004545
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【発行日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511398(P2005−511398)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009668
【国際出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】