説明

発光素子及び表示装置

発光素子(10)は、互いに対向している正孔注入電極(2)と電子注入電極(8)と、前記正孔注入電極と電子注入電極との間に挟まれており、前記正孔注入電極の側から前記電子注入電極の側に向って順に積層されている、正孔輸送層(3)、発光体層(6)、及び電子輸送層(7)とを備え、前記発光体層は、表面の少なくとも一部を有機材料(5)で被覆されている無機蛍光体層(4)を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、発光ディスプレイや、通信、照明などに用いられる各種光源として使用可能な発光素子及び該発光素子を用いた表示装置に関する。
【背景技術】
近年、平面型の表示装置の中で、エレクトロルミネッセンス(EL)素子に期待が集まっている。このEL素子は、自発発光性を有し視認性に優れ、視野角が広く、応答性が速いなどの特徴を持つ。また、現在開発されているEL素子には、発光体として無機材料を用いた無機EL素子と発光体として有機材料を用いた有機EL素子がある。
硫化亜鉛等の無機蛍光体を発光体とする無機EL素子は、10V/cmもの高電界で加速された電子が蛍光体の発光中心を衝突励起し、それらが緩和する際に発光する。1974年に猪口らによって提案された二重絶縁構造の素子が高い輝度と長寿命を持つことを示し、車載用ディスプレイ等への実用化がなされた。
無機蛍光体は一般に、絶縁物結晶を母体結晶として、その中に発光中心となる無機材料をドープしたものである。この母体結晶は化学的に安定であるものが用いられるため、無機EL素子は信頼性が高く、寿命も3万時間以上を実現している。しかしながら、電界を印加しても絶縁物結晶中には電子が浸透しにくく、また入射電子が表面に蓄積することによって帯電を生じ、後続する電子が反発してしまうことから、励起源として高エネルギー電子を衝突させる必要がある。従って、無機EL素子は、高信頼性で長寿命という特徴を有する反面、その駆動に高い交流電圧を必要とすることから、薄膜トランジスタを使用したアクティブマトリクス方式での駆動ができないという課題があり、テレビ等の表示デバイスとしては実用化が進んでいない。
また、特公昭54−8080号公報に記載の技術によれば、発光層にZnSを主体とし、Mn,Cr,Tb,Eu,Tm,Yb等の遷移金属元素や希土類元素をドープすることによって、発光輝度の向上が図られたものの、平均輝度は400cd/m未満であり、TV等の表示デバイスとしては不十分であった。
一方、有機材料を発光体とする有機EL素子は、電極から注入された正孔と電子が励起子を形成し、それらが基底状態に遷移する際に発光する。Applied Physics Letters,51,1987,P913の中でTangらによって提案された正孔輸送層と有機発光層とを順次積層した2層構成の素子により、10V以下の駆動電圧で、輝度が1000cd/m以上の発光が得られるとされており、これがきっかけとなって、今日に至るまで、活発な研究開発が進められてきた。
以下、現在一般に検討されている有機EL素子について、図5を用いて説明する。この有機EL素子50は、透明基板51上に透明の正孔注入電極52、正孔輸送層53、発光体層56、電子注入電極58の順に積層して形成されている。なお、正孔注入電極52と正孔輸送層53との間に正孔注入層を設けたり、発光体層56と電子注入電極58との間に電子輸送層を設けたり、さらに発光体層56と電子輸送層との間に正孔ブロック層を設けたり、電子輸送層と電子注入電極58との間に電子注入層を設けたりすることもある。
正孔注入電極としては、透明導電膜であるITO(インジウム錫酸化物)膜等が用いられる。ITO膜はその透明性を向上させ、あるいは抵抗率を低下させる目的で、スパッタリング法、エレクトロンビーム蒸着法、イオンプレーティング法等によって成膜される。
正孔輸送層としては、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(TPD)等、Tangらの用いたジアミン誘導体が用いられる。これらの材料は一般に透明性に優れ、80nm程度の膜厚でもほぼ透明である。
発光体層としては、Tangらの報告と同様に、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)等の電子輸送性発光材料を真空蒸着により数十nmの膜厚に形成して用いる構成が一般的である。種々の発光色を実現するなどの目的で、発光体層は比較的薄膜とし、電子輸送層を20nm程度積層した、所謂ダブルヘテロ構造が採用されることもある。
電子注入電極としては、Tangらの提案したMgAg合金あるいはAlLi合金等、仕事関数が低く電子注入障壁の低い金属と、比較的仕事関数が大きく安定な金属との合金、又はLiF等種々の電子注入層とAl等との積層電極が用いられることが多い。
また、Journal of the Society for Information Display,vol.8,No.2,p93−97には、各画素の駆動に低温ポリシリコン薄膜トランジスタを用いた有機EL表示装置が記載されている。
従来の有機EL素子は、水分や酸素の存在下で電界の印加や光照射等により、発光体となる有機材料の分子結合が切断され、発光性能が低下するという欠点があった。従って、連続駆動あるいは長期保存によって、実用に耐えられないという課題があった。この課題に対して、特開2003−59665号公報に記載されているように、発光体として信頼性の高い無機材料を用いるハイブリッド型の有機EL素子が提案されている。
【発明の開示】
発光素子をテレビ等の表示デバイスとして利用する場合、その寿命は少なくとも3万時間程度は必要とされる。また、薄膜トランジスタによるアクティブマトリクス駆動を可能とするために、低電圧で駆動できることが必要とされている。従来の有機EL素子では、低電圧駆動が可能である反面、発光体として有機材料を用いているため、十分な寿命は得られていない。一方、従来の無機EL素子は、長寿命である反面、駆動に高電圧を要する。また、従来提案されているハイブリッド型の発光素子の場合、直流低電圧で無機蛍光体を発光させることができたものの、無機蛍光体の優れた発光特性、信頼性を十分に活かしきれていない。このように、発光体の材料を問わず、高輝度であることと高信頼性、長寿命であることを同時に満足させることは困難であった。
本発明の目的は、低電圧駆動が可能な高輝度、且つ、長寿命の発光素子と、その発光素子を用いた表示装置を提供することである。
本発明に係る発光素子は、互いに対向している正孔注入電極と電子注入電極と、
前記正孔注入電極と電子注入電極との間に挟まれており、前記正孔注入電極の側から前記電子注入電極の側に向って順に積層されている、正孔輸送層、発光体層、及び電子輸送層と
を備え、
前記発光体層は、表面の少なくとも一部を有機材料で被覆されている無機蛍光体材料よりなることを特徴とする。
また、前記発光体層は、表面の少なくとも一部を有機材料で被覆されている無機蛍光体層を含んでもよい。
さらに、互いに対向しており、少なくとも一方が透明または半透明である第1及び第2基板をさらに備え、
前記第1及び第2基板の間に、前記正孔注入電極と、前記正孔輸送層と、前記発光体層と、前記電子輸送層と、前記電子注入電極とを上記順序で挟むことが好ましい。
またさらに、前記無機蛍光層は、半導体母体結晶よりなることが好ましい。
また、前記有機材料は、前記無機蛍光体層表面に化学吸着により被覆されているものであってもよい。さらには、前記有機材料は、正孔輸送性を有する導電性有機材料であって、前記正孔輸送層と対向する前記無機蛍光体層の表面に化学吸着しているものであってもよい。また、前記有機材料は、電子輸送性を有する導電性有機材料であって、前記電子輸送層と対向する前記無機蛍光体層の表面に化学吸着しているものであってもよい。さらに、前記正孔輸送性を有する導電性有機材料と、電子輸送性を有する導電性有機材料とが、前記無機蛍光体層の、それぞれ前記正孔輸送層と対向する表面、又は、前記電子輸送層と対向する表面に化学吸着しているものであってもよい。
さらに、前記発光体層は、表面の少なくとも一部を有機材料で被覆されている無機蛍光粒子を含むものであってもよい。
またさらに、互いに対向しており、少なくとも一方が透明または半透明である第1及び第2基板をさらに備え、
前記第1及び第2基板の間に、前記正孔注入電極と、前記正孔輸送層と、前記発光体層と、前記電子輸送層と、前記電子注入電極とを上記順序で挟むことが好ましい。
また、前記無機蛍光体粒子は、半導体母体結晶よりなる蛍光体であることが好ましい。さらに、前記半導体母体結晶は、Zn、Ga、In、Sn、Tiの群から選ばれる少なくとも1種類の元素を含む酸化物又は複合酸化物を含んでいることが好ましい。
さらに、前記有機材料は、前記無機蛍光体粒子の表面に化学吸着により担持されているものであってもよい。またさらに、前記有機材料は、正孔輸送性と電子輸送性とを有する導電性有機材料であってもよい。また、前記有機材料は、正孔輸送性を有する導電性有機材料と、電子輸送性を有する導電性有機材料とを含んでいるものであってもよい。
またさらに、前記正孔注入電極と前記正孔輸送層との間に挟まれた正孔注入層をさらに備えるものであってもよい。また、前記電子注入電極と前記電子輸送層との間に挟まれた電子注入層をさらに備えてもよい。またさらに、前記発光体層と前記電子輸送層との間に挟まれた正孔ブロック層をさらに備えてもよい。
また、前記正孔注入電極又は前記電子注入電極に接続された薄膜トランジスタをさらに備えてもよい。さらに、前記薄膜トランジスタは、有機材料を含む薄膜により構成された有機薄膜トランジスタであってもよい。
本発明に係るアクティブマトリクス型表示装置は、前記複数の発光素子が2次元配列されている発光素子アレイと、前記発光素子アレイの面に平行な第1方向に互いに平行に延在している複数のx電極と、前記発光素子アレイの面に平行であって、前記第1方向に直交する第2方向に平行に延在している複数のy電極とを備え、前記発光素子アレイの前記薄膜トランジスタは、前記x電極及び前記y電極とそれぞれ接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る構成の発光素子によれば、低抵抗の母体結晶を含み、少なくとも一部に導電性有機材料が吸着している無機蛍光体材料を発光層として用いている。このために、従来の有機EL素子並みの低電圧駆動でありながら、長寿命で信頼性の高い発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の実施の形態1に係る発光素子の発光面に垂直な断面図である。
図2は、本発明の実施の形態2に係る発光素子の斜視図である。
図3は、本発明の実施の形態3に係る発光素子を用いた表示装置の平面概略図である。
図4は、本発明の実施の形態3に係る発光素子を用いた表示装置の発光面に垂直な断面図である。
図5は、従来の有機EL素子の発光面に垂直な断面図である。
図6は、本発明の実施の形態4に係る発光素子の発光面に垂直な断面図である。
図7は、本発明の実施の形態5に係る発光素子の発光面に垂直な断面図である。
図8は、本発明の実施の形態6に係る発光素子の発光面に垂直な断面図である。
図9は、本発明の実施の形態7に係る発光素子の発光面に垂直な断面図である。
図10は、本発明の実施の形態8に係る発光素子の発光面に垂直な断面図である。
図11は、本発明の実施の形態9に係る発光素子の発光面に垂直な断面図である。
図12は、本発明の実施の形態10に係る発光素子の斜視図である。
図13は、本発明の実施の形態11に係る発光素子を用いた表示装置の平面概略図である。
図14は、本発明の実施の形態11に係る発光素子を用いた表示装置の発光面に垂直な断面図である。
図15は、本発明の実施の形態12に係る発光素子の発光面に垂直な断面図である。
図16は、本発明の実施の形態13に係る発光素子の斜視図である。
図17は、本発明の実施の形態14に係る発光素子を用いた表示装置の平面概略図である。
図18は、本発明の実施の形態14に係る発光素子を用いた表示装置の発光面に垂直な断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施の形態に係る発光素子および該発光素子を用いた表示装置について添付図面を用いて説明する。なお、図面において実質的に同一の部材には同一の符号を付している。
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係る発光素子について、図1を用いて説明する。図1は、この発光素子の発光面に垂直な断面図である。この発光素子10は、発光体として無機蛍光体層4を用いている。この発光素子10は、透明基板1と、該透明基板1の上に設けられた正孔注入電極2と、該正孔注入電極2に対向して設けられた電子注入電極8と、該透明正孔注入電極2と該電子注入電極8の間に挟まれている、電子輸送性有機材料5が表面に化学吸着された無機蛍光体層4とを備える。さらに詳細には、この発光素子10は、該正孔注入電極2と該無機蛍光体層6との間に正孔輸送層3を、該電子輸送性有機材料5が表面に化学吸着された無機蛍光体層4と該電子注入電極8との間に電子輸送層7を備える。また、光は、矢印で示したように、基板1の側から取り出される。なお、前述の構成に加えて、正孔注入電極2と正孔輸送層3との間に正孔注入層及び/又は導電層等を備えていてもよい。また、発光体層6と電子輸送層7との間に正孔ブロック層及び/又は導電層等を備えていてもよい。さらに、電子輸送層7と電子注入電極8との間に電子注入層及び/又は導電層等を備えていてもよい。また、この発光素子10において、発光素子より取り出される発光色は、無機蛍光体層4によって決定されるが、多色表示や白色表示、各色の色純度調整等のために、無機蛍光体層4の光取り出し方向前方に色変換層をさらに備えたり、正孔輸送層3内に色変換材料を混在させてもよい。色変換層及び色変換材料には、光を励起源として発光するものであればよく、有機材料、無機材料を問わず、公知の蛍光体、顔料、染料等を用いることができる。例えば無機蛍光体層4からの発光と補色関係にある発光を示す色変換層を備えることにより、白色発光する面光源とすることができる。
次に、発光素子10の各構成部材について詳細に説明する。
まず、透明基板1について説明する。透明基板1は、その上に形成する各層を支持できるものであればよい。また、無機蛍光体層4内で生じた発光を取り出せるように透明又は半透明の材料であればよい。透明基板1としては、例えば、コーニング1737等のガラス基板、又は、ポリエステル等の樹脂フィルム等を用いることができる。通常のガラスに含まれるアルカリイオン等が発光素子へ影響しないように、無アルカリガラスやセラミックス基板やシリコン基板を用いてもよい。また、ガラス表面にイオンバリア層としてアルミナ等をコートしてもよい。樹脂フィルムは耐久性、柔軟性、透明性、電気絶縁性、防湿性の材料を用いればよく、ポリエチレンテレフタレート系やポリクロロトリフルオロエチレン系とナイロン6の組み合わせやフッ素樹脂系材料等を使用できる。なお、電子注入電極8の面から光を取り出す場合には、透明基板1は必ずしも透明でなくてもよい。
次に、正孔注入電極2について説明する。正孔注入電極2としては、透過性を有し、且つ仕事関数の高い金属が用いられ、特に、ITO(インジウム錫酸化物)膜が用いられる。他には、SnO、ZnO等の酸化物や、Ni,Au,Pt,Pd、Cr、Mo、W、Ta、Nb等、又はこれらの合金を用いることができる。さらには、ポリアニリン等の導電性樹脂を用いることもできる。ITO膜はその透明性を向上させ、あるいは抵抗率を低下させる目的で、スパッタリング法、エレクトロンビーム蒸着法、イオンプレーティング法等の成膜方法で成膜できる。また成膜後に、抵抗率や仕事関数制御の目的でプラズマ処理などの表面処理を施してもよい。透明な正孔注入電極2の膜厚は必要とされるシート抵抗値と可視光透過率から決定されるが、発光素子10では比較的駆動電流密度が高く、配線抵抗が問題となるため、シート抵抗値を小さくするため100nm以上の厚さで用いられることが多い。なお、この発光素子10では、正孔注入電極2あるいは電子注入電極8の少なくとも一方の電極を透明ないし半透明にすることにより、面発光を取り出すことができる。また、電子注入電極8を透明乃至半透明にして、正孔注入電極2を非透明にすると、同一の層構成において上面光取り出し型の発光素子を得ることもできる。さらに、正孔注入電極2と電子注入電極8の両方を透明ないし半透明にすることにより、両面光取り出し型の発光素子を得ることもできる。
次に、正孔輸送層3について説明する。正孔輸送層3としては、正孔輸送性を備える有機材料が用いられ、大きくは低分子系材料と高分子系材料とに分けられる。正孔輸送性を備える低分子系材料としては、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(TPD)、N,N’−ビス(α−ナフチル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(NPD)等、Tangらの用いたジアミン誘導体、特に日本国特許第2037475号に開示されたQ1−G−Q2構造のジアミン誘導体等が挙げられる。なお、Q1及びQ2は、別個に窒素原子及び少なくとも3個の炭素鎖(それらの少なくとも1個は芳香族のもの)を有する基である。Gは、シクロアルキレン基、アリーレン基、アルキレン基又は炭素−炭素結合からなる連結基である。他の好適な例としては、オキサジアゾール系化合物、オキサゾール系化合物、トリフェニルペタン系化合物、ピラゾリン系化合物、ヒドラゾン系化合物、スチルベン系化合物、スターバースト系化合物等が挙げられる。また、正孔輸送性を備える高分子系材料としては、π共役ポリマやσ共役ポリマ、さらに低分子系で正孔輸送性を示す分子構造を分子鎖中に組み込んだポリマ等があり、例えばアリールアミン系化合物等が組み込まれる。具体的には、ポリ−パラ−フェニレンビニレン誘導体(PPV誘導体)、ポリチオフェン誘導体(PAT誘導体)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP誘導体)、ポリアルキルフェニレン(PDAF)、ポリアセチレン誘導体(PA誘導体)、ポリシラン誘導体(PS誘導体)等が挙げられるが、中でもポリ−N−ビニルカルバゾール(PVK)は、10−6cm/Vsと極めて高いホール移動度を示す。他の具体例としては、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリスチレンスルホン酸(PSS)やポリメチルフェニルシラン(PMPS)等がある。
また、導電性又は非導電性ポリマ中に低分子系の正孔輸送性材料を分子分散させた形態も同様に可能である。分子分散系での具体例としては、テトラフェニルジアミン(TPD)をポリカーボネート中に高濃度で分子分散させた例があり、そのホール移動度は10−4〜10−5cm/Vs程度である。またさらに、導電性又は非導電性ポリマ中にp型の半導電性無機材料を分散させた形態であってもよい。
正孔輸送層3の成膜方法としては、低分子系材料としては真空蒸着法を、高分子系材料としてはインクジェット法、ディッピング、スピンコート、その他各種の塗布方法を使用することができる。
次に、無機蛍光体層4について説明する。無機蛍光体層4を構成する蛍光体としては、可視光域に吸収をもたず、且つ電気抵抗の低い蛍光体であることが好ましい。蛍光体は、一般に半絶縁性の半導体よりなる単一又は複数の母体結晶に、発光中心として、Mn、Cu、Ti、Ag、Au、Al、Ga、Sn、Pb、Cr、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb等から選択された単一又は複数の金属元素が賦活剤として添加されて構成される。また、これらの賦活剤としてはTbFやPrFといったフッ化物でもよい。さらに、共賦活剤として、ClやI等の非金属元素を添加してもよい。母体結晶としては、大別して硫化物、セレン化物、テルル化物系、酸化物系が用いられ、硫化物、セレン化物、テルル化物系では、第12族−第16族化合物半導体(例えばZnS、CdS、ZnSe、CdSe、ZnTe等)、第2族−第16族化合物半導体(例えばCaS、SrS、CaSe、SrSe等)、及びこれらのガリウム硫化物(例えばCaGa、SrGa、BaGa等)、アルミニウム硫化物(例えばBaAl、CaAl、SrAl等)等や、これら化合物半導体の混晶(例えばZnMgS、CaSSe、CaSrS等)、または部分的に偏析していてもよい混合物等がある。一方の酸化物系では、金属酸化物(例えばZnO、(Zn、Mg)O、CaO、GeO、SnO、Ga、Y、In等)、金属複合酸化物(例えばZnSiO、ZnGeO、ZnGa、CaGa、CaGeO、CaTiO、MgGeO、YGeO、YGeO、YGe、YSiO、BeGa、SrGa、(ZnSiO−ZnGeO)、(Ga−Al)、(CaO−Ga)、(Y−GeO)等)や、部分的に偏析していてもよいこれらの混合物等がある。中でも特に好適な、単一の母体結晶として特に抵抗の低い例としては、Zn、Ga、In、Sn、Tiの群から選ばれる少なくとも1種類の元素を含む酸化物又は複合酸化物が挙げられ、それぞれの蛍光体の例としては、ZnO:Zn(発光色はBlue−Green)、(Zn、Mg)O:Zn(Blue)、ZnGa:Mn2+(Green)、In:Eu3+(Red)、SnO:Eu3+(Red)、CaTiO:Pr3+(Red)等がある。さらに、例えばZnSのように比較的抵抗の高い母体結晶の場合には、低抵抗化するために前述したZnO、In等の抵抗の低い母体結晶を混合してもよい。また、賦活剤の濃度は、一般に最適濃度があり、ある濃度以上では濃度消光により発光強度は減少する。これは、発光中心間で、量子力学的な共鳴によって一方向から他方へ励起エネルギーが伝達され、非発光部分に届けられるためと考えられている。
次に、無機蛍光体層4の表面に化学吸着させる電子輸送性有機材料層5について説明する。電子輸送性有機材料5としては、電子輸送性を備えたものであればよく、単一又は複数の材料からなる層であってよい。さらに、電子輸送性有機材料5としては大きく分けて、低分子系材料と高分子系材料とが挙げられる。
電子輸送性を備える低分子系材料としては、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、スチリルベンゼン誘導体、シロール誘導体、1,10−フェナントロリン誘導体、キノリノール系金属錯体、チオフェン誘導体、フルオレン誘導体、キノン誘導体等やこれらの2量体、3量体が挙げられる。中でも2−(4−ビフェニル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)、2,5−ビス[1−(3−メトキシ)−フェニル]−1,3,4−オキサジアゾール(BMD)、1,3,5−トリス[5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル]ベンゼン(TPOB)、3−(4−ビフェニル)−4−フェニル−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(TAZ)、3−(4−ビフェニル)−4−(4−エチルフェニル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(p−EtTAZ)、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BPhen)、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)、3,5−ジメチル−3’,5’−ジ−tert−ブチル−4,4’−ジフェノキノン(MBDQ)、2,5−ビス[2−(5−tert−ブチルベンゾキサゾリル)]−チオフェン(BBOT)、トリニトロフルオレノン(TNF)、5,5’−ビス(ジメシチルボリル)−2,2’ビチオフェン(BMB−2T)、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)を用いることが好ましい。また、電子輸送性を備える高分子系材料としては、ポリ−[2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシルオキシ)−1,4−(1−シアノビニレン)フェニレン](CN−PPV)やポリキノキサリン、または低分子系で電子輸送性を示す分子構造を分子鎖中に組み込んだポリマ等が挙げられる。
次に、無機蛍光体層4の表面に電子輸送性有機材料5を化学吸着させる方法について説明する。化学吸着の方法としては、例えば、まず、電子輸送性有機材料5にカルボキシル基(−COOH)を導入し、無機蛍光体層4の表面の水酸基(−OH)とエステル結合させて固定化する方法がある。エステル化は、電子輸送性有機材料5を溶剤に溶解又は分散させ、この溶液又は分散液に無機蛍光体層4を浸漬させることによって行うことができるが、これに限定されるものではない。以上の処理によって、表面に電子輸送性有機材料5を化学吸着させた無機蛍光体層4を形成できる。なお、カルボキシル基の代わりに、チオカルボキシル基(−CSOH)、ジチオカルボキシル基(−CSSH)、スルホ基(−SOH)、スルフィノ基(−SOH)、スルフェノ基(−SOH)、ホスホノ基(−PO(OH))、ホスフィン基(−PH)、メルカプト基(−SH)、トリメトキシシリル基(−Si(OCH))、トリクロロシリル基(−SiCl)、アミド基(−CONH)、アミノ基(−NH)を用いることもできる。さらに、無機蛍光体層4中の金属元素と電子輸送性材料5の窒素、酸素、硫黄、リン等の孤立電子対を有する元素との配位結合であってもよい。また、表面に電子輸送性有機材料5を化学吸着させた後に、加熱や酸又は塩基処理等の後処理を行ってもよい。
さらに、電子輸送性有機材料5と無機蛍光体層4の表面との化学吸着は、無機蛍光体層4を水分等の影響から保護し、化学的安定性を向上させる効果がある。
次に、電子輸送層7について説明する。電子輸送層7としては、電子輸送性を備える有機材料が用いられ、前述の電子輸送性有機材料5に用いられるものと同一のものが挙げられる。また、導電性又は非導電性ポリマ中に前述の低分子系の電子輸送性有機材料やn型の導電性無機材料を分散させた形態であってもよい。
電子輸送層7の成膜方法としては、低分子系材料としては真空蒸着法を、高分子系材料としてはインクジェット法、ディッピング、スピンコート、その他各種の塗布方法を使用することができる。
次に、電子注入電極8について説明する。電子注入電極8としては、仕事関数が低く電子注入障壁の少ないアルカリ金属やアルカリ土類金属と、比較的に仕事関数が大きく安定なAl、Agなどの金属との合金を用いることができる。この合金からなる電子注入電極8は、安定でかつ電子注入が容易である。この電子注入電極8としては、例えば、MgAg、AlLiなどを用いることができる。また、他の電子注入電極8としては、有機層側に低仕事関数の金属薄膜を形成し、その上に保護電極として安定な金属からなる金属膜を積層する構成や、LiF膜やAl膜の薄膜を形成した後にAl膜を比較的厚く形成する積層構成など、種々の電極を用いることができる。さらに、電子注入電極8の側から光を取り出す場合は、前述の内容に加えて透明又は半透明であればよく、例えば、MgAgを10nm程度の薄層として設けたり、InZnO等のスパッタリング成膜により下層の有機材料層への熱的影響を減らした製法で電子注入電極8を形成し、さらにその上に保護層を設けて用いられる。
次に、このようにして作成された発光素子10における発光の機構について説明する。電子輸送性有機材料5は、電子輸送を担うπ電子雲が大きく広がった分子構造を持つ。前述したように、電子輸送性有機材料5は無機蛍光体層4の表面に対して化学吸着し、且つ、母体結晶の導電性が高いため、電子輸送性有機材料5のπ電子雲の広がりが無機蛍光体層4の表面にまで作用し、注入障壁に阻害されることなく電子注入が起きる。発光の過程としては次の2つの過程が考えられる。第1の発光過程は、無機蛍光体層4中に注入された電子が発光中心近傍まで移動してドナー準位に捕獲され、正孔注入電極より注入された正孔と再結合する際に発光する過程である。第2の発光過程は、再結合エネルギーの移動によって、発光中心として賦活された希土類イオン等の殻内電子遷移が生じ、これが緩和する際に発光する過程である。実際には上記の第1及び第2の発光過程が混在していると考えられる。
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係る発光素子について、図2を用いて説明する。図2は、この発光素子20の電極構成を示す斜視図である。この発光素子20は、透明正孔注入電極2に接続された薄膜トランジスタ11をさらに備える。薄膜トランジスタ11には、x電極12とy電極13とが接続されている。また、薄膜トランジスタを用いることによって発光素子20にメモリ機能を持たせることができる。この薄膜トランジスタ11としては、低温ポリシリコンやアモルファスシリコン薄膜トランジスタ等が用いられる。さらに、有機材料を含む薄膜により構成された有機薄膜トランジスタであってもよい。
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3に係る表示装置について、図3と図4を用いて説明する。図3は、この表示装置30の互いに直交するx電極12とy電極13とによって構成されるアクティブマトリクスを示す概略平面図である。また、図4はこの表示装置30におけるx電極12と平行で、且つ発光面に垂直な断面図である。この表示装置30は、薄膜トランジスタ11を有するアクティブマトリクス型表示装置である。このアクティブマトリクス型表示装置30は、図2に示した前述の複数の発光素子が2次元配列されている発光素子アレイと、該発光素子アレイの面に平行な第1方向に互いに平行に延在している複数のx電極12と、該発光素子アレイの面に平行であって、第1方向に直交する第2方向に平行に延在している複数のy電極13とを備える。この発光素子アレイの薄膜トランジスタ11は、x電極12及びy電極13とそれぞれ接続されている。一対のx電極12とy電極13とによって特定される発光素子が一つの画素となる。このアクティブマトリクス表示装置30によれば、上述のように、各画素の発光素子を構成する無機蛍光体層4は、表面に電子輸送性有機材料5を担持している。これにより、無機蛍光体層4への電子注入が効率的に発生し、無機蛍光体層4を発光させることができるので、低電圧駆動で高輝度、長寿命の表示装置が得られる。また、無機蛍光体粒子4を、その発光色に応じて各画素41a(R)、41b(G)、41c(B)ごとに配置させることにより3原色フルカラー表示装置となる。なお、RGB3色の色純度調整のために、光取り出し方向にカラーフィルタを備えてもよい。さらに、すべての画素41に単一色を発する無機蛍光体4を用い、且つ、光取り出し方向前方に色変換層及びカラーフィルタを備えてもよい。これにより、例えば、無機蛍光体層から生じた青色の光を色変換層が吸収して緑色や赤色の発光が生じ、これらを個々に取り出すことで、別例の3原色フルカラー表示装置を得ることもできる。
次に、図4を用いてこのアクティブマトリクス型表示装置30の製造方法を説明する。透明基板1上に薄膜トランジスタ11を形成した後、実施の形態1の発光素子10と同様に、透明正孔注入電極2を形成し、次いで、例えばインクジェット法を用いて正孔輸送層3を形成する。さらに、例えば、高周波スパッタリング法により無機蛍光体層4を形成する。電子輸送層7を塗布形成する。その後、例えば真空蒸着法を用いて電子注入電極8を形成する。カラーの表示装置の場合、無機蛍光体層4を形成する際に、例えば真空蒸着法を用いて、画素ピッチに合せてメタルマスクを位置合わせすることにより、各画素(R)41a、画素(G)41b、画素(B)41cに色分けして形成する。この工程に先立ち、各画素を区分する画素分離領域42を形成してもよい。尚、上述の製造方法は一例であり、これに限定されるものではない。
次に、具体的な実施例に基づいてさらに詳細に説明する。
【実施例1】
本発明の実施例1に係る発光素子について図1を用いて説明する。この発光素子では、実施の形態1に係る発光素子10と同一の構成を有しているので、その構成についての説明を省略する。この発光素子では、透明な正孔注入電極2を形成した透明基板1として、市販のITO膜付ガラス基板を用いた。また、無機蛍光体層4には、ZnOを用いた。ここでZnOには、Zn過剰部分が格子欠陥として存在し、この格子欠陥が発光中心として機能すると考えられており、希土類イオン等の賦活剤を必要としない。無機蛍光体層4の表面に化学吸着させる電子輸送性有機材料5としては、PBD誘導体を用いた。さらに、正孔輸送層3としてはPEDOTを、電子輸送層7にはAlq3を、電子注入電極としては、Alを用いた。
次に、この発光素子の製造方法について説明する。この発光素子は、以下の工程によって製造される。
(a)透明な正孔注入電極2を形成した透明基板1として、市販のITO膜付ガラス基板を準備した。これをアルカリ洗剤、水、アセトン、イソプロピルアルコール(IPA)を用いて超音波洗浄し、次いで沸騰したIPA溶液から引き上げて乾燥した。最後に、UV/O洗浄した。
(b)次に、PEDOTをクロロホルムに溶解させ、スピンコート法によりITO膜付ガラス基板上に塗布し、正孔輸送層3とした。膜厚は100nmとした。
(c)次に、高周波スパッタリング法により、ZnOの薄膜を形成し、無機蛍光体層4とした。膜厚は100nmとした。これを基板Aとする。
(d)次に、基板Aをエタノール中に浸漬し、連続攪拌しながら、その中にPBD誘導体を投入し一晩放置する。これによって、無機蛍光体薄膜4の表面に電子輸送性有機材料5を化学吸着させた。
(e)次に、真空蒸着法により前記電子輸送性有機材料5の上にAlq3を積層し、電子輸送層7とした。膜厚は50nmとした。
(f)次に、真空蒸着法により前記電子輸送層7上にAlを積層し、電子注入電極8とした。膜厚は200nmとした。
(g)次に、低湿度・低酸素濃度環境下で、ガラス板とエポキシ接着剤によりパッケージングして発光素子を得た。
このようにして作製した発光素子に直流電圧を印加して評価したところ、20Vで発光輝度が420cd/mを示した。これは以下に示す比較例1に比べて高かった。また、この発光素子を200cd/mの初期輝度で寿命試験を実施したところ、輝度半減寿命は17000時間であった。これは比較例1に比べて長かった。
【実施例2】
本発明の実施例2に係る表示装置について、図4を用いて説明する。この表示装置は、実施の形態3に係る表示装置30と同様に薄膜トランジスタ11を有するが、RGBの3色の画素(R)41a、画素(G)41b、画素(B)41cを有する点で相違している。各画素(R)41a、画素(G)41b、画素(B)41cでは、無機蛍光体層4をそれぞれ対応する色に変えている。
この表示装置の製造方法について説明する。この表示装置は、実施の形態1に係る発光素子10を2次元的配列させているものであるので、実施の形態1に係る発光素子10の製造方法と実質的に同様に行うことができる。この表示装置の製造方法では、それぞれの画素41a、41b、41cごとに異なる無機蛍光体層4を使用する。
(比較例1)
実施例1と同様に、正孔輸送層3まで形成した後、真空蒸着法により、Alq3に3−(2−ベンゾチアゾリル)−7−ジエチルアミノクマリン(クマリン6)をドープさせた発光体層を形成し、次いで、実施例1と同様に電子輸送層7、電子注入電極8を形成した後、パッケージングして発光素子を得た。
このようにして作製した発光素子に直流電圧を印加して評価したところ、8Vで発光輝度が310cd/mを示した。この発光素子を、実施例1と初期の輝度が同じになる条件下で寿命試験を実施したところ、輝度半減寿命は8000時間であった。
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4に係る発光素子について、図6を用いて説明する。図6は、この発光素子の発光面に垂直な断面図である。この発光素子60は、実施の形態1に係る発光素子10と比較すると、電子輸送性有機材料5の代わりに正孔輸送性有機材料6が無機蛍光体層4に化学吸着している点で相違する。さらに詳細には、この発光素子60は、無機蛍光体層4の2面の界面のうち、正孔注入電極2と対向する側に正孔輸送性有機材料6が化学吸着している。またさらには、この発光素子60は、実施の形態1に係る発光素子10と比較すると、正孔輸送層3が接着層として機能する点で相違する。なお、その他の構成部材については実質的に同一なので、説明を省略する。
正孔輸送性有機材料6としては、正孔輸送性を備える有機材料が用いられ、前述の正孔輸送層3に用いられるものと同一のものが挙げられる。また、無機蛍光体層4の表面に正孔輸送性有機材料6を化学吸着させる方法については、前述の、無機蛍光体層4の表面に電子輸送性有機材料5を化学吸着させる方法と、実質的に同一なので、説明を省略する。
また、正孔輸送層3としては、前述の正孔輸送性有機材料6が吸着している無機蛍光体層4と正孔注入電極2との接着層として機能する高分子系材料が含まれていることが好ましい。この正孔輸送層3としては、前述の正孔輸送層3に用いられるもののうち、正孔輸送性を備える高分子系材料、及び導電性又は非導電性ポリマに低分子系の正孔輸送性材料を分子分散させた形態や、p型の半導電性無機材料を分散させた形態を用いることができる。
次に、本発明の実施の形態4に係る発光素子60の製造方法について説明する。この発光素子60は、以下の工程によって製造される。
(a)基板9を準備する。
(b)次に、前記基板9の上に、例えば真空蒸着法を用いて、電子注入電極8を形成する。
(c)次に、前記電子注入電極8の上に、例えば真空蒸着法を用いて、電子輸送層7を形成する。
(d)次に、前記電子輸送層7の上に、例えば高周波スパッタリング法を用いて、無機蛍光体層4を形成する。
(e)次に、前記無機蛍光体層4の表層面に、実施例1と同様にして、正孔輸送性有機材料6を化学吸着させる。これによって、無機蛍光体層4の表面の少なくとも一部を正孔輸送性有機材料6で被覆する。これを基板Cとする。
(f)透明基板1を準備する。
(g)次に、前記透明基板1の上に、例えばスパッタリング法を用いて、正孔注入電極2を形成する。
(h)次に、前記正孔注入電極2の上に、例えばスピンコート法を用いて、正孔輸送層3を形成する。これを基板Dとする。
(i)正孔輸送層3の成膜直後に、基板Cの無機蛍光体層4を、基板Dの正孔輸送層3と互いに対向させて重ね合わせ、基板Cと基板Dとを貼り合わせる。これによって発光素子60を作成する。
(実施の形態5)
本発明の実施の形態5に係る発光素子について、図7を用いて説明する。図7は、この発光素子の発光面に垂直な断面図である。この発光素子70は、実施の形態4に係る発光素子60と比較すると、電子輸送性有機材料5が無機蛍光体層4に、さらに化学吸着している点で相違する。さらに詳細には、この発光素子70は、無機蛍光体層4の2面の界面のうち、正孔注入電極2と対向する界面に正孔輸送性有機材料6が、電子注入電極7と対向する界面に電子輸送性有機材料5が化学吸着している。なお、その他の構成部材については、実施の形態1に係る発光素子10及び実施の形態4に係る発光素子60に実質的に同一なので、説明を省略する。
次に、本発明の実施の形態5に係る発光素子70の製造方法について説明する。この発光素子70は、以下の工程によって製造される。
(a)KCl基板を準備する。
(b)次に、前記KCl基板の上に、例えば高周波スパッタリング法を用いて、無機蛍光体層4を形成する。
(c)次に、前記無機蛍光体層4の表層面に、実施の形態4に係る発光素子60と同様にして、正孔輸送性有機材料6を化学吸着させる。これによって、無機蛍光体層4の表面の少なくとも一部を正孔輸送性有機材料6で被覆する。これを基板Eとする。
(d)透明基板1を準備する。
(e)次に、前記透明基板1の上に、例えばスパッタリング法を用いて、正孔注入電極2を形成する。
(f)次に、前記正孔注入電極2の上に、例えばスピンコート法を用いて、正孔輸送層3を形成する。これを基板Fとする。
(g)正孔輸送層3の成膜直後に、基板Eの無機蛍光体層4を、基板Fの正孔輸送層3と互いに対向させて重ね合わせ、基板Eと基板Fとを貼り合わせる。
(h)次に、前記基板Eの側からKClを水中に溶出させて取り除き、前記無機蛍光体4の表面を露出させる。
(i)次に、露出した前記無機蛍光体4の表層面の上に、実施例1と同様にして、電子輸送性有機材料5を化学吸着させ、さらに、電子輸送層7、電子注入電極8を形成する。
(j)前記電子注入電極8の上に保護層を形成する。これによって発光素子70を作成する。
(実施の形態6)
本発明の実施の形態6に係る発光素子について、図8を用いて説明する。図8は、この発光素子の発光面に垂直な断面図である。この発光素子80は、実施の形態1に係る発光素子10と比較すると、光の取り出し方向及び駆動電源の極性が逆になっている点で相違する。さらに、この発光素子80は、前述の駆動電源の極性に応じて、正孔注入電極、電子注入電極、正孔輸送層、及び電子輸送層の積層構成が実施の形態1に係る発光素子とは逆になっている点で相違する。またさらには、この発光素子80は、電子輸送層7が接着層として機能する点で相違する。また、光は、矢印で示したように透明基板1の側から取り出される。なお、その他の構成部材については実質的に同一なので、説明を省略する。
電子輸送層7としては、電子輸送性有機材料5が吸着している無機蛍光体層4と電子注入電極8との接着層として機能する高分子系材料が含まれていることが好ましい。この電子輸送層7としては、前述の実施の形態1に係る発光素子10の電子輸送層7に用いられるもののうち、電子輸送性を備える高分子系材料、及び導電性又は非導電性ポリマに低分子系の電子輸送性材料を分子分散させた形態や、n型の半導電性無機材料を分散させた形態を用いることができる。
次に、本発明の実施の形態6に係る発光素子80の製造方法について説明する。この発光素子80は、以下の工程によって製造される。
(a)透明基板1を準備する。
(b)次に、前記透明基板1の上に、例えばスパッタリング法を用いて、正孔注入電極2を形成する。
(c)次に、実施例1と同様にして、前記正孔注入電極2の上に、正孔輸送層3、無機蛍光体層4を形成し、さらに、前記無機蛍光体層4の表面に、電子輸送性有機材料5を化学吸着させる。これによって、無機蛍光体層4の表面の少なくとも一部を電子輸送性有機材料5で被覆する。これを基板Gとする。
(d)基板9を準備する。
(e)次に、前記基板9の上に、例えば真空蒸着法を用いて、電子注入電極8を形成する。
(f)次に、前記電子注入電極8の上に、例えばスピンコート法を用いて、電子輸送層7を形成する。これを基板Hとする。
(g)電子輸送層7の成膜直後に、基板Gの無機蛍光体層4を、基板Hの電子輸送層3と互いに対向させて重ね合わせ、基板Gと基板Hとを貼り合わせる。これによって発光素子80を作成する。
(実施の形態7)
本発明の実施の形態7に係る発光素子について、図9を用いて説明する。図9は、この発光素子の発光面に垂直な断面図である。この発光素子90は、実施の形態4に係る発光素子60と比較すると、光の取り出し方向及び駆動電源の極性が逆になっている点で相違する。さらに、この発光素子90は、前述の駆動電源の極性に応じて、正孔注入電極、電子注入電極、正孔輸送層、及び電子輸送層の積層構成が逆になっている点で相違する。また、光は、矢印で示したように、透明基板1の側から取り出される。なお、その他の構成部材については実質的に同一なので、説明を省略する。
次に、本発明の実施の形態7に係る発光素子90の製造方法について説明する。この発光素子90は、以下の工程によって製造される。
(a)実施の形態4に係る発光素子60と同様に、基板9の上に、電子注入電極8、電子輸送層7、無機蛍光体層4を形成し、さらに、前記無機蛍光体層4の表面に、正孔輸送性有機材料6を化学吸着させる。これによって、無機蛍光体層4の表面の少なくとも一部を正孔輸送性有機材料6で被覆する。これを基板Iとする。
(b)実施の形態4と係る発光素子60と同様に、透明基板1の上に、正孔注入電極2、正孔輸送層3を形成する。これを基板Jとする。
(c)正孔輸送層3の成膜直後に、基板Iの無機蛍光体層4を、基板Jの正孔輸送層3と互いに対向させて重ね合わせ、基板Iと基板Jとを貼り合わせる。これによって発光素子90を作成する。
(実施の形態8)
本発明の実施の形態8に係る発光素子について、図10を用いて説明する。図10は、この発光素子の発光面に垂直な断面図である。この発光素子100は、実施の形態5に係る発光素子70と比較すると、光の取り出し方向及び駆動電源の極性が逆になっている点で相違する。さらに、この発光素子100は、前述の駆動電源の極性に応じて、正孔注入電極、電子注入電極、正孔輸送層、及び電子輸送層の積層構成が逆になっている点で相違する。またさらには、この発光素子100は、正孔輸送層3に加えて、電子輸送層7についても接着層として機能する点で相違する。また、光は、矢印で示したように透明基板1の側から取り出される。なお、その他の構成部材については実質的に同一なので、説明を省略する。
次に、本発明の実施の形態8に係る発光素子100の製造方法について説明する。この発光素子100は、以下の工程によって製造される。
(a)実施の形態5に係る発光素子70の正孔輸送性有機材料6を化学吸着させる方法と同様にして、KCl基板の上に無機蛍光体層4を形成し、前記の無機蛍光体層4の表面に、電子輸送性有機材料5を化学吸着させる。これによって、無機蛍光体層4の表面の少なくとも一部を電子輸送性有機材料5で被覆する。これを基板Kとする。
(b)実施の形態6に係る発光素子80と同様にして、基板9の上に、電子注入電極8、電子輸送層7を形成する。これを基板Lとする。
(c)電子輸送層7の成膜直後に、基板Kの無機蛍光体層4を、基板Lの電子輸送層7と互いに対向させて重ね合わせ、基板Kと基板Lとを貼り合わせる。
(d)次に、実施の形態5に係る発光素子70と同様にして、前記無機蛍光体4の表面を露出させ、その上に、正孔輸送性有機材料6を化学吸着させる。これによって、無機蛍光体層4の表面の少なくとも一部を正孔輸送性有機材料6で被覆する。これを基板Mとする。
(e)実施の形態7に係る発光素子90と同様にして、透明基板1の上に、正孔注入電極2、正孔輸送層3を順次形成する。これを基板Nとする。
(f)正孔輸送層3の成膜直後に、基板Mの無機蛍光体層4を、基板Nの正孔輸送層3と互いに対向させて重ね合わせ、基板Mと基板Nとを貼り合わせる。これによって発光素子100を作成する。
なお、以上の説明では、無機蛍光体層4を除いて、有機材料からなる層が2層構成の例を示したが、これらの層が2層以上からなる構成であってもよい。
また、実施の形態4から8に係る発光素子において、正孔輸送性有機材料5又は電子輸送性有機材料6の化学吸着、各層の成膜、各基板の貼り合わせは、乾燥雰囲気下で行うことが望ましく、さらに低酸素雰囲気下で行うことがより望ましい。これにより、動作電圧の低下、高効率化、長寿命化等の特性改善を図ることができる。またさらに、接着層となる正孔輸送層3又は電子輸送層7には、その界面付近に光又は熱で架橋又は重合する架橋性又は重合性材料を含んでいるとよい。これにより、各基板の貼り合わせの際に、光又は熱を加えることで、接着力を向上させることができる。
(実施の形態9)
本発明の実施の形態9に係る発光素子について、図11を用いて説明する。図11は、この発光素子の発光面に垂直な断面図である。この発光素子110は、実施の形態1に係る発光素子10と比較すると、無機蛍光体層4の代わりに、発光体として無機蛍光体粒子114を用いた発光体層116を備える点で相違する。さらに詳細には、この発光素子110は、電子輸送性有機材料5の代わりに、導電性有機材料115が表面に化学吸着された無機蛍光体粒子114を含む発光体層116を備える点で相違する。またさらには、この発光素子110は、透明基板1と、該透明基板1の上に設けられた正孔注入電極2と、該正孔注入電極2に対向して設けられた電子注入電極8と、該正孔注入電極2と該電子注入電極8の間に挟まれている発光体層116とを備える。またさらには、この発光素子110は、該正孔注入電極2と該発光体層116との間に正孔輸送層3を、該発光体層116と該電子注入電極8との間に電子輸送層7を備える。また、光は、矢印で示したように、透明基板1の側から取り出される。
次に、発光素子110の各構成部材について詳細に説明する。なお、実施の形態1に係る発光素子10と実質的に同一の部材については説明を省略する。
まず、発光体層116について説明する。発光体層116は、表面の少なくとも一部が導電性有機材料115で被覆された無機蛍光体粒子114を含んでいる。さらに、導電性有機材料115は、無機蛍光体粒子114の表面に化学吸着していることが好ましい。
まず、無機蛍光体粒子114としては、実施の形態1に係る発光素子10の無機蛍光体層4と実質的に同一のものを用いることができる。次に、無機蛍光体粒子114の表面に化学吸着させる導電性有機材料115については、正孔輸送性及び/又は電子輸送性を備えていればよく、単一又は複数からなる材料であってよい。さらに、導電性有機材料115としては大きく分けて、低分子系材料と高分子系材料とが挙げられる。
正孔輸送性を備える有機材料としては、実施の形態1に係る発光素子10の正孔輸送層3に用いられるものと実質的に同一のものを用いることができる。一方、電子輸送性を備える有機材料としては、実施の形態1に係る発光素子10の電子輸送性有機材料5と実質的に同一のものを用いることができる。
さらに、正孔輸送性と電子輸送性を兼ね備えたものとして、分子鎖中に正孔輸送性を備えるユニットと電子輸送性を備えるユニットを共重合したバイポーラ性高分子材料を用いてもよい。例えば、正孔輸送性ユニットとして9−ビニルカルバゾールと電子輸送性ユニットとしてオキサジアゾールビニルモノマとをランダム共重合させたP(VK−co−OXD)や、正孔輸送性ユニットとしてTPDと電子輸送性ユニットとしてオキサジアゾールとを交互に配列させたPTPDOXD等が挙げられる。
次に、無機蛍光体粒子114の表面に導電性有機材料115を化学吸着させる方法について説明する。化学吸着の方法としては、実施の形態1に係る発光素子10における無機蛍光体層4の表面に電子輸送性有機材料5を化学吸着させる方法と実質的に同一であり、説明を省略する。さらに、導電性有機材料115と無機蛍光体粒子114の表面との化学吸着は、無機蛍光体粒子114を水分等の影響から保護し、化学的安定性やハンドリング性向上に対して有効である。
これらの無機蛍光体粒子114を含む発光体層116の成膜方法としては、導電性有機材料115を溶解しない有機溶剤等に無機蛍光体粒子114を分散させて、インクジェット法、ディッピング、スピンコート、その他各種の塗布方法を使用することができる。また、無機蛍光体粒子114は、透明導電性マトリクス中へ分散させてもよい。該マトリクス材料としては、前述した正孔輸送性ポリマや電子輸送性ポリマ、その他の導電性ポリマを用いることができる。導電性ポリマの好適な例としては、ポリアセチレン系、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイドに代表されるポリフェニレン系、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリセレノフェン、ポリテルロフェンに代表される複素環ポリマ系、ポリアニリンに代表されるイオン性ポリマ系、ポリアセン系、ポリエステル系、金属フタロシアニン系やこれらの誘導体、共重合体、混合体などが挙げられる。さらに、導電性又は非導電性ポリマ中に、前述した正孔輸送性材料や電子輸送性材料のような低分子材料、若しくは、無機導電性、無機半導電性材料を分散して、導電性を調整した形態であってもよい。これにより、無機蛍光体粒子114の表面が帯電することを防ぎ、後続する電子の反発を防止することができる。またさらに、発光体層116の中には、分散助剤として界面活性剤を含んでいてもよい。これらにより、分散安定性が向上し、発光体層116の層内均一性が向上する。
次に、このようにして作成された発光素子110における発光の機構について説明する。導電性有機材料115は、単体でもキャリア(正孔、電子)輸送性を有する材料であり、キャリア輸送を担うπ電子雲が大きく広がった分子構造を持つ。前述したように、導電性有機材料115は無機蛍光体粒子114の表面に対して化学吸着し、且つ母体結晶の導電性が高いため、導電性有機材料115のπ電子雲の広がりが無機蛍光体粒子114の表面にまで作用し、注入障壁に阻害されることなくキャリア注入が起きる。発光過程として次の2つの過程が考えられる。第1の発光過程は、無機蛍光体粒子114中に注入されたキャリアが母体結晶の発光中心近傍まで移動して、正孔がアクセプタ準位に捕獲され、電子がドナー準位に捕獲され、これらが再結合する際に発光する過程である。第2の発光過程は、再結合エネルギーの移動によって、発光中心として賦活された希土類イオン等の殻内電子遷移が生じ、これが緩和する際に発光する過程である。実際には第1及び第2の発光過程が混在しているものと考えられる。
(実施の形態10)
本発明の実施の形態10に係る発光素子について、図12を用いて説明する。図12は、この発光素子120の電極構成を示す斜視図である。この発光素子120は、透明正孔注入電極2に接続された薄膜トランジスタ11をさらに備える。薄膜トランジスタ11には、x電極12とy電極13とが接続されている。また、薄膜トランジスタを用いることによって発光素子120にメモリ機能を持たせることができる。この薄膜トランジスタ11としては、低温ポリシリコンやアモルファスシリコン薄膜トランジスタ等が用いられる。さらに、有機材料を含む薄膜により構成された有機薄膜トランジスタであってもよい。
(実施の形態11)
本発明の実施の形態11に係る表示装置について、図13と図14を用いて説明する。図13は、この表示装置130の互いに直交するx電極12とy電極13とによって構成されるアクティブマトリクスを示す概略平面図である。また、図14はこの表示装置130におけるx電極12と平行で、且つ発光面に垂直な断面図である。この表示装置130は、薄膜トランジスタ11を有するアクティブマトリクス型表示装置である。このアクティブマトリクス型表示装置130は、図12に示した前述の複数の発光素子が2次元配列されている発光素子アレイと、該発光素子アレイの面に平行な第1方向に互いに平行に延在している複数のx電極12と、該発光素子アレイの面に平行であって、第1方向に直交する第2方向に平行に延在している複数のy電極13とを備える。この発光素子アレイの薄膜トランジスタ11は、x電極12及びy電極13とそれぞれ接続されている。一対のx電極12とy電極13とによって特定される発光素子が一つの画素となる。このアクティブマトリクス表示装置130によれば、上述のように、各画素の発光素子を構成する発光体層116は、表面に導電性有機材料115を担持している無機蛍光体粒子114を含んでいる。これにより、無機蛍光体粒子114へのキャリア注入が効率的に発生し、無機蛍光体粒子114を発光させることができるので、低電圧駆動で高輝度、長寿命の表示装置が得られる。また、無機蛍光体粒子114を、その発光色に応じて各画素41a(R)、41b(G)、41c(B)ごとに配置させることにより3原色フルカラー表示装置となる。
次に、図14を用いて、このアクティブマトリクス型表示装置130の製造方法を説明する。透明基板1上に薄膜トランジスタ11を形成した後、実施の形態9の発光素子110と同様に、透明正孔注入電極2を形成し、次いで、例えばインクジェット法を用いて正孔輸送層3、発光体層116、電子輸送層7を順に塗布形成する。その後、例えば真空蒸着法を用いて電子注入電極8を形成する。カラーの表示装置の場合、発光体層116を形成する際に、例えばインクジェット法を用いて、RGBの各無機蛍光体粒子114を含む塗布液を、画素ピッチに合せ、各画素41a(R)、41b(G)、41c(B)に色分けして塗布形成する。この工程に先立ち、各画素を区分する画素分離領域42を形成してもよい。なお、前述の製造方法は一例であり、これに限定されるものではない。
【実施例3】
本発明の実施例3に係る発光素子について図11を用いて説明する。この発光素子では、実施の形態9に係る発光素子110と同一の構成を有しているので、その構成についての説明を省略する。この発光素子では、透明な正孔注入電極2を形成した透明基板1として、市販のITO膜付ガラス基板を用いた。また、無機蛍光体粒子114には、ZnO:Znを用いた。ここでZnOには、Zn過剰部分が格子欠陥として存在し、この格子欠陥が発光中心として機能すると考えられており、希土類イオン等の賦活剤を必要としない。無機蛍光体粒子114の表面に化学吸着させる導電性有機材料115としては、α−NPD誘導体とPBD誘導体を用いた。さらに、正孔輸送層3としてはPEDOTを、電子輸送層7にはAlq3を、電子注入電極としては、Alを用いた。
次に、この発光素子の製造方法について説明する。この発光素子は、以下の工程によって製造される。
(a)透明な正孔注入電極2を形成した透明基板1として、市販のITO膜付ガラス基板を準備した。これをアルカリ洗剤、水、アセトン、イソプロピルアルコール(IPA)を用いて超音波洗浄し、次いで沸騰したIPA溶液から引き上げて乾燥した。最後に、UV/O洗浄した。
(b)次に、PEDOTをクロロホルムに溶解させ、スピンコート法によりITO膜付ガラス基板上に塗布し、正孔輸送層3とした。膜厚は100nmとした。
(c)次に、導電性有機材料5を表面に化学吸着させた無機蛍光体粒子4をエタノール中に超音波分散させて、スピンコート法により前記正孔輸送層3上に塗布し、発光体層6とした。膜厚は150nmとした
ここで、導電性有機材料5を表面に化学吸着させた無機蛍光体粒子4の製造方法について以下に説明する。
(1)まず、無機蛍光体粒子としてZnO:Znの微結晶粒子粉末を用い、該ZnO:Znの微結晶粒子粉末をエタノール中に超音波攪拌装置を用いて分散させる。
(2)この分散液を連続攪拌しながら、その中にα−NPD誘導体とPBD誘導体を投入し一晩浸漬する。これによって、ZnO:Znの微結晶粒子の表面にα−NPD誘導体とPBD誘導体を化学吸着させた無機蛍光体粒子4を得ることができる。
(d)次に、真空蒸着法により前記発光体層6上にAlq3を積層し、電子輸送層7とした。膜厚は50nmとした。
(e)次に、真空蒸着法により前記電子輸送層7上にAlを積層し、電子注入電極8とした。膜厚は200nmとした。
(f)次に、低湿度低酸素濃度環境下で、ガラス板とエポキシ接着剤によりパッケージングして発光素子を得た。
このようにして作製した発光素子に直流電圧を印加して評価したところ、15Vで発光輝度が400cd/mを示した。これは以下に示す比較例1に比べて高かった。また、この発光素子を200cd/mの初期輝度で寿命試験を実施したところ、輝度半減寿命は18000時間であった。これは比較例1に比べて長かった。
【実施例4】
本発明の実施例4に係る表示装置について、図14を用いて説明する。この表示装置は、実施の形態11に係る表示装置130と同様に薄膜トランジスタ11を有するが、RGBの3色の画素(R)41a、画素(G)41b、画素(B)41cを有する点で相違している。各画素(R)41a、画素(G)41b、画素(B)41cでは、無機蛍光体粒子4をそれぞれ対応する色に変えている。また、この表示装置では、各画素間を隔てる画素分離領域42が設けられている。この画素分離領域42には、ポリイミドを使用し、フォトエッチングにより隔壁を作成した。
この表示装置の製造方法について説明する。この表示装置は、実施の形態9に係る発光素子110を2次元的配列させているものであるので、実施の形態9に係る発光素子110の製造方法と実質的に同様に行うことができる。この表示装置の製造方法では、それぞれの画素ごとに異なる無機蛍光体粒子11を使用する。この場合に、画素分離領域42を設けることよって、画素41a、41b、41c形成時の位置決め精度に余裕を与えている。
(比較例2)
実施例3と同様に、正孔輸送層3まで形成した後、真空蒸着法により、Alq3に3−(2−ベンゾチアゾリル)−7−ジエチルアミノクマリン(クマリン6)をドープさせた発光体層を形成し、次いで、実施例3と同様に電子輸送層7、電子注入電極8を形成した後、パッケージングして発光素子を得た。
このようにして作製した発光素子に直流電圧を印加して評価したところ、7Vで発光輝度が300cd/mを示した。この発光素子を、実施例1と初期の輝度が同じになる条件下で寿命試験を実施したところ、輝度半減寿命は8000時間であった。
(実施の形態12)
本発明の実施の形態12に係る発光素子について、図15を用いて説明する。図15は、この発光素子の発光面に垂直な断面図である。この発光素子150は、実施の形態9に係る発光素子110と比較すると、光の取り出し方向及び駆動電源の極性が逆になっている点で相違する。また、この発光素子150では前述の駆動電源の極性に応じて、正孔注入電極、電子注入電極、正孔輸送層、及び電子輸送層の積層構成が逆になっている点で相違する。また、光は、矢印で示したように、透明基板1の側から取り出される。なお、その他の構成部材については実質的に同一なので、説明を省略する。この発光素子150では、実施の形態9で用いられるガラス基板等の透明基板を上面に配置することで、保護層を設けずに上面からの光取り出しを可能とする。また、発光素子150は、正孔輸送層又は電子輸送層で、対向する2枚の基板を貼り合わせることにより作成することができる。
(実施の形態13)
本発明の実施の形態13に係る発光素子について、図16を用いて説明する。図16は、この発光素子160の電極構成を示す斜視図である。この発光素子160は、実施の形態10に係る発光素子120と比較すると、光の取り出し方向及び駆動電源の極性が逆になっている点で相違する。また、この発光素子160では前述の駆動電源の極性に応じて、正孔注入電極、及び電子注入電極の構成が逆になっており、電子注入電極8に接続された薄膜トランジスタ11を備える点で相違する。なお、その他の構成部材については実質的に同一なので、説明を省略する。
(実施の形態14)
本発明の実施の形態14に係る表示装置について、図17を用いて説明する。図17は、この表示装置170の互いに直交するx電極12とy電極13とによって構成されるアクティブマトリクスを示す概略平面図である。この表示装置170は、実施の形態11に係る表示装置130と比較すると、図16に示した前述の複数の発光素子が2次元配列されている点で相違する。なお、その他の構成部材については実質的に同一なので、説明を省略する。
【実施例5】
本発明の実施例5について説明する。この発光素子では、実施の形態12に係る発光素子150と同一の構成を有しているので、その構成についての説明を省略する。この発光素子では、実施例3に係る発光素子と比較すると、光の取り出し方向及び駆動電源の極性が逆になっている点で相違する。そのため、実施例3とは製造方法の点で相違する。
次に、この発光素子の製造方法について、図15を用いて説明する。この発光素子は、以下の工程によって製造される。
(a)基板9としてガラス基板を準備し、実施例3におけるITO膜付ガラス基板と同様に洗浄した。
(b)次に、真空蒸着法により前記基板9上にMgAgを積層し、電子注入電極8とした。膜厚は300nmとした。
(c)次に、真空蒸着法により前記電子注入電極8上にCN−PPVを積層し、電子輸送層7とした。膜厚は50nmとした。
(d)次に、導電性有機材料115を表面に化学吸着させた無機蛍光体粒子114をエタノール中に超音波分散させて、スピンコート法により前記電子輸送層7上に塗布し、発光体層116とした。膜厚は150nmとした。これを基板Oとする。なお、導電性有機材料115を表面に化学吸着させた無機蛍光体粒子114の製造方法は、実施例3と同一であるため、説明を省略する。
(e)次に、正孔注入電極2を形成した透明基板1として、市販のITO膜付ガラス基板を準備し、実施例3と同様に洗浄した。
(f)次に、PEDOTをクロロホルムに溶解させ、スピンコート法により前記正孔注入電極2上に塗布し、正孔輸送層3とした。膜厚は100nmとした。これを基板Pとする。
(g)正孔輸送層3の成膜直後に、基板Oの基板9の上の発光体層116を、基板Pの透明基板1の上の正孔輸送層3と互いに対向させて重ね合わせて、基板Oと基板Pとを貼り合わせた。これによって発光素子150を作成した。
このようにして作製した発光素子に直流電圧を印加して評価したところ、16Vで発光輝度が380cd/mを示した。これは前述の実施例3と同等であった。
なお、以上の説明では、3層構成の例を示したが、有機材料を含む層が3層以上からなる構成であってもよい。
また、上記実施の形態4から9及び12に係る発光素子においては、実施の形態1に係る発光素子と同様、正孔注入電極2と正孔輸送層3との間に正孔注入層及び/又は導電層等を備えていてもよい。また、無機蛍光体層4若しくは発光体層116と電子輸送層7との間に正孔ブロック層及び/又は導電層等を備えていてもよい。さらに、電子輸送層7と電子注入電極8との間に電子注入層及び/又は導電層等を備えていてもよい。またさらに、これらの発光素子より取り出される発光色は、無機蛍光体層4若しくは無機蛍光体粒子114によって決定されるが、多色表示や白色表示、各色の色純度調整等のために、無機蛍光体層4若しくは発光体層116の光取り出し方向前方に色変換層をさらに備えたり、無機蛍光体層4若しくは発光体層116の光取り出し方向前方に設けられている正孔輸送層3や電子輸送層7、正孔注入層、電子注入層、正孔ブロック層中、若しくは発光体層116の透明導電性マトリクス中に色変換材料を混在させてもよい。色変換層及び色変換材料には、光を励起源として発光するものであればよく、有機材料、無機材料を問わず、公知の蛍光体、顔料、染料等を用いることができる。これにより、例えば無機蛍光体層4若しくは発光体層116からの発光と、補色関係にある色変換層若しくは色変換材料からの発光とが混合され、白色発光する面光源とすることができる。
またさらに、前記実施の形態4,5及び11に係る発光素子においては、実施の形態1に係る発光素子と同様、電子注入電極8を透明乃至半透明にすることにより、別例の上面光取り出し型、若しくは両面光取り出し型の発光素子を得ることができる。
またさらに、前記実施の形態11及び14に係る表示装置においては、実施の形態3に係る表示装置と同様、RGB各色の色純度調整のために、光取り出し方向前方にカラーフィルタを備えてもよい。さらに、すべての画素41に単一色を発する無機蛍光体を用いて、且つ、光取り出し方向前方に色変換層及びカラーフィルタを備えてもよい。これにより、例えば無機蛍光体114から生じた青色の光を色変換層が吸収して緑色や赤色の発光が生じ、これらを個々に取り出すことで、別例の3原色フルカラー表示装置を得ることもできる。
上述の通り、本発明は好ましい実施形態により詳細に説明されているが、本発明はこれらに限定されるものではなく、以下の特許請求の範囲に記載された本発明の技術的範囲内において多くの好ましい変形例及び修正例が可能であることは当業者にとって自明なことであろう。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向している正孔注入電極と電子注入電極と、
前記正孔注入電極と電子注入電極との間に挟まれており、前記正孔注入電極の側から前記電子注入電極の側に向って順に積層されている、正孔輸送層、発光体層、及び電子輸送層と
を備え、
前記発光体層は、表面の少なくとも一部を有機材料で被覆されている無機蛍光体材料よりなることを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記発光体層は、表面の少なくとも一部を有機材料で被覆されている無機蛍光体層を含むことを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
互いに対向しており、少なくとも一方が透明または半透明である第1及び第2基板をさらに備え、
前記第1及び第2基板の間に、前記正孔注入電極と、前記正孔輸送層と、前記発光体層と、前記電子輸送層と、前記電子注入電極とを上記順序で挟むことを特徴とする請求項2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記無機蛍光体層は、半導体母体結晶よりなる蛍光体であることを特徴とする請求項2又は3に記載の発光素子。
【請求項5】
前記有機材料は、前記無機蛍光体層の表面の少なくとも一部に化学吸着していることを特徴とする請求項4に記載の発光素子。
【請求項6】
前記有機材料は、正孔輸送性を有する導電性有機材料であり、且つ、前記正孔輸送層と対向する前記無機蛍光体層の表面に化学吸着していることを特徴とする請求項5に記載の発光素子。
【請求項7】
前記有機材料は、電子輸送性を有する導電性有機材料であり、且つ、前記電子輸送層と対向する前記無機蛍光体層の表面に化学吸着していることを特徴とする請求項5に記載の発光素子。
【請求項8】
前記有機材料として正孔輸送性を有する導電性有機材料と電子輸送性を有する導電性有機材料を有し、前記正孔輸送性を有する導電性有機材料が前記無機蛍光体層の前記正孔輸送層と対向する表面に化学吸着し、且つ、前記電子輸送性を有する導電性有機材料が前記無機蛍光体層の前記電子輸送層と対向する表面に化学吸着していることを特徴とする請求項5に記載の発光素子。
【請求項9】
前記発光体層は、表面の少なくとも一部を有機材料で被覆されている無機蛍光体粒子を含むことを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項10】
互いに対向しており、少なくとも一方が透明または半透明である第1及び第2基板をさらに備え、
前記第1及び第2基板の間に、前記正孔注入電極と、前記正孔輸送層と、前記発光体層と、前記電子輸送層と、前記電子注入電極とを上記順序で挟むことを特徴とする請求項9に記載の発光素子。
【請求項11】
前記無機蛍光体粒子は、半導体母体結晶よりなる蛍光体であることを特徴とする請求項9又は10に記載の発光素子。
【請求項12】
前記有機材料は、前記無機蛍光体粒子の表面の少なくとも一部に化学吸着により担持されていることを特徴とする請求項11に記載の発光素子。
【請求項13】
前記有機材料は、正孔輸送性と電子輸送性とを有する導電性有機材料であることを特徴とする請求項12に記載の発光素子。
【請求項14】
前記有機材料は、正孔輸送性を有する導電性有機材料と、電子輸送性を有する導電性有機材料とを含んでいることを特徴とする請求項12に記載の発光素子。
【請求項15】
前記半導体母体結晶は、Zn、Ga、In、Sn、Tiの群から選ばれる少なくとも1種類の元素を含む酸化物又は複合酸化物を含んでいることを特徴とする請求項4又は11に記載の発光素子。
【請求項16】
前記正孔注入電極と前記正孔輸送層との間に挟まれた正孔注入層をさらに備えることを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載の発光素子。
【請求項17】
前記電子注入電極と前記電子輸送層との間に挟まれた電子注入層をさらに備えることを特徴とする請求項1から16のいずれか一項に記載の発光素子。
【請求項18】
前記発光体層と前記電子輸送層との間に挟まれた正孔ブロック層をさらに備えることを特徴とする請求項1から17のいずれか一項に記載の発光素子。
【請求項19】
前記正孔注入電極に接続された薄膜トランジスタをさらに備えることを特徴とする請求項1から18のいずれか一項に記載の発光素子。
【請求項20】
前記電子注入電極に接続された薄膜トランジスタをさらに備えることを特徴とする請求項1から18のいずれか一項に記載の発光素子。
【請求項21】
前記薄膜トランジスタは、有機材料を含む薄膜により構成された有機薄膜トランジスタであることを特徴とする請求項19又は20に記載の発光素子。
【請求項22】
請求項19から21のいずれか一項に記載の複数の発光素子が2次元配列されている発光素子アレイと、
前記発光素子アレイの面に平行な第1方向に互いに平行に延在している複数のx電極と、
前記発光素子アレイの面に平行であって、前記第1方向に直交する第2方向に平行に延在している複数のy電極と
を備え、
前記発光素子アレイの前記薄膜トランジスタは、前記x電極及び前記y電極とそれぞれ接続されていることを特徴とする表示装置。

【国際公開番号】WO2005/004547
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【発行日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511402(P2005−511402)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009677
【国際出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】