説明

発光素子用蛍光体シート形成用塗布液及びその塗布液から作製される蛍光体シート

【課題】柔軟性に富み、耐熱性や耐薬品性等を兼ね備えた発光素子用蛍光体シート形成用塗布液及びその塗布液から作製される蛍光体シートの提供。
【解決手段】蛍光体粒子と皮膜形成液とを含む発光素子用蛍光体シート形成用塗布液で、該皮膜形成液が、Ml+(ORl−m(Mは、Si、Al、Zr及びTi原子、lはMの価数であり、Rは、C1〜5の炭化水素基等、Rは、ビニル、アミノ基等である。lはMの価数であり、mはOR基の数である。)で表される化合物の加水分解、重縮合物と、官能基末端がシラノール、エポキシ、カルボキシル及びカルビノール基からなる群から選択される少なくとも1種類の有機基とを含んでなる、発光素子用蛍光体シート形成用塗布液である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子用蛍光体層を形成するための蛍光体シート形成用塗布液及びその塗布液から製造される蛍光体シートに関する。
【背景技術】
【0002】
省電力化、環境への影響性及び長寿命等の観点から、各種光源や照明の代替として発光ダイオード(LED)が利用されつつある。LEDの色変換には、例えば、青色LEDにYAG系蛍光体又は紫外LEDにRGB系蛍光体の組合わせで白色LEDを製造している。この際、LEDチップ上へ蛍光体を含有したエポキシ樹脂等を滴下して蛍光体層を形成していた。しかしながら、蛍光体層を形成する際、該樹脂等を塗布した後に加熱等により硬化させるため、比重が大きい蛍光体が硬化前に沈降して不均一な分布となってしまい、波長変換効率に差が生じ、発光波長にムラができてしまう問題があった。
特許文献1では、上記問題の解決方法として、波長変換物質(蛍光体)を結着材スラリー若しくは各種樹脂材料に分散させ、これを基材(ガラス、各種熱硬化性樹脂若しくは各種UV硬化性樹脂)上に塗布して形成した蛍光体シートをLEDチップ若しくはLEDチップ実装基板上に実装している。
また、特許文献2では、同様に蛍光体を熱可塑性樹脂(ポリアリレート又はポリカーボネート)に含有させた色変換シートを色度変換に利用している。
【特許文献1】特開2000−31548
【特許文献2】特開平11−199781
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記特許文献1では、均一な膜厚の蛍光体シートを基材上へ形成することにより、波長変換効率の差が小さくなり、より発光波長ムラの低減が可能であるが、次の問題点がある。蛍光体層を基材上に形成しており、基材の使用を必須としている。そのため、3次元形状の蛍光体シートの作製、蛍光体層単体での使用が困難であるため、蛍光体シートの利用範囲に制限が生じてしまう。更に、基材としてガラスを使用した場合、衝撃により破損することが懸念される。また、各種樹脂材料を基材として用いる場合、LEDから放射される光若しくは外部光による基材劣化が生じてしまう恐れがある。
前記特許文献2では、熱可塑性樹脂に光安定剤を添加する等して耐光性を向上させているが、熱可塑性樹脂を使用しているため、耐熱性や耐薬品性等の信頼性に乏しい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記問題点を解決するため、本発明は、a)蛍光体粒子と、b)皮膜形成液とを含んでなる発光素子用蛍光体シート形成用塗布液とした。この皮膜形成液には、好ましくは、Ml+(ORl−m(式中、MはSi、Al、Zr及びTiからなる群から選択されるいずれか1種類の金属元素であり;lはMの価数を表し;Rは炭素数1〜5の炭化水素基、アルコキシアルキル基又はアシル基であり;Rはビニル、アミノ、イミノ、エポキシ、アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシ、フェニル、メルカプト及びアルキル基からなる群から選択される少なくとも一種類を含む有機基であり;mはOR基の数を表し;l及びmはいずれも整数である。)の加水分解・重縮合物及び官能基末端ポリシロキサン化合物(末端の官能基がシラノール、エポキシ、カルボキシル及びカルビノール基からなる群から選択される少なくとも一種類を含む有機基)が含まれる。
また、本発明は、この発光素子用蛍光体シート形成用塗布液から製造される蛍光体シート及びタック感及び柔軟性に富む半硬化蛍光体シートとした。
【0005】
(発光素子用蛍光体シート形成用塗布液)
a)蛍光体粒子
蛍光体として、以下のものを採用することができる。例えば、赤色系の発光色を有する6MgO・As:Mn4+、Y(PV)O:Eu、CaLa0.1Eu0.9Ga、BaY0.9Sm0.1Ga、Ca(Y0.5Eu0.5)(Ga0.6In0.5、Y:Eu、YVO:Eu、Y:Eu、3.5MgO・0.5MgFGeO:Mn4+及び(Y・Cd)BO:Eu等、緑色系の発光色を有するYAl12:Ce3+(YAG)、YSiO:Ce3+、Tb3+、SrSi・2SrCl:Eu、BaMgAl1627:Eu2+,Mn2+、ZnSiO:Mn、ZnSiO:Mn、LaPO:Tb、SrAl:Eu、SrLa0.2Tb0.8Ga、CaY0.9Pr0.1Ga、ZnGd0.8Ho0.2Ga、SrLa0.6Tb0.4Al、ZnS:Cu,Al、(Zn,Cd)S:Cu,Al、ZnS:Cu,Au,Al、ZnSiO:Mn、ZnSiO:Mn、ZnS:Ag,Cu、(Zn・Cd)S:Cu、ZnS:Cu、GdOS:Tb、LaOS:Tb、YSiO:Ce・Tb、ZnGeO:Mn、GeMgAlO:Tb、SrGaS:Eu2+、ZnS:Cu・Co、MgO・nB:Ge,Tb、LaOBr:Tb,Tm、及びLaS:Tb等、青色系の発光色を有する(Ba,Ca,Mg)(POCl:Eu2+、(Ba,Mg)Al1627:Eu2+、BaMgSi:Eu2+、BaMgAl1627:Eu2+、(Sr,Ca)10(POCl:Eu2+、(Sr,Ca)10(POCl・nB:Eu2+、Sr10(POCl:Eu2+、(Sr,Ba,Ca)(POCl:Eu2+、Sr:Eu、Sr(POCl:Eu、(Sr,Ca,Ba)(POCl:Eu、SrO・P・B:Eu、(BaCa)(POCl:Eu、SrLa0.85Tm0.06Ga、ZnS:Ag、GaWO、YSiO:Ce、ZnS:Ag、Ga,Cl、CaOCl:Eu2+、BaMgAl:Eu2+、及び一般式(M1,Eu)10(POCl(M1は、Mg,Ca,Sr,及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素)で表される蛍光体等、を用いることができる。また、白色系の発光色を有するYVO:Dy、黄色系の発光色を有するCaLu0.5Dy0.5Gaを用いることもできる。
【0006】
発光素子からの光の波長が400nm以下のいわゆる紫外線であった場合、例えば、ZnS:Cu,Al、(Zn,Cd)S:Cu,Al、ZnS:Cu,Au,Al、YSiO:Tb(Zn,Cd)S:Cu、GdS:Tb、YS:Tb、YAl12:Ce、(Zn,Cd)S:Ag、ZnS:Ag,Cu,Ga,Cl、YAl12:Tb、Y(Al,Ga)12:Tb、ZnSiO:Mn、LaPO:Ce,Tb、YS:Eu、YVO:Eu、ZnS:Mn、Y:Eu、ZuS:Ag、ZnS:Ag,Al、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(POCl:Eu、Sr10(POCl:Eu、(Ba,Sr,Eu)(Mg,Mn)Al1017、(Ba,Eu)MgAl1017、ZnO:Zn、YSiO:Ceのいずれか又はこれらの中から選ばれる二以上の蛍光体を組み合わせて用いることができる。
【0007】
これらの粒子の粒径は特に限定されないが、好ましくは100nmから10μmのオーダーである。また、粒子の形状も、液の流動性に影響を与えない限り、特に限定されない。
【0008】
b)皮膜形成液
本発明において用いられる皮膜形成液には、式(1)で表される化合物の加水分解・重縮合物と官能基末端ポリシロキサン化合物とを含んでなる皮膜形成液が含まれる。
本発明において、皮膜形成液とは、硬化の際に、蛍光体の粒子同士を連結する透光性の有機−無機連結層を形成する有機−無機系化合物とを含む液体を意味し、その液体は柔軟性を与える有機基と耐熱性及び耐薬品性を与える無機系の結合骨格を有する。
【0009】
式(1)で表される化合物は、
l+(ORl−m (1)
(式中、MはSi、Al、Zr及びTiからなる群から選択されるいずれか1種の元素であり;lはMの価数を表し;Rは炭素数1〜5の炭化水素基、アルコキシアルキル基又はアシル基であり;Rはビニル、アミノ、イミノ、エポキシ、アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシ、フェニル、メルカプト及びアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種の有機基であり;mはOR基の数を表し;l及びmはいずれも整数である。)である。
【0010】
上記Ml+(ORl−mで表される化合物のうち、MがSiである化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、β−シアノエチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランなどが挙げられ、MがAlである化合物としては、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムn−ブトキシド、アルミニウムトリt−ブトシキド、アルミニウムトリエトキシドなどが挙げられ、MがZrである化合物としては、ジルコニウムn−プロポキシド、ジルコニウムn−ブトキシド、ジルコニウムi−ブトキシド、ジルコニウムt−ブトキシド、ジルコニウムジメタクリレートジブトキシドなどが挙げられ、MがTiである化合物としては、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn−ブトキシド、チタンテトラi−ブトキシド、チタンメタクリレートトリイソプロポキシド、チタンテトラメトキシプロポキシド、チタンテトラn−プロポキシド、チタンテトラエトキシドなどが挙げられる。これらの化合物のうち1種類だけを用いてよいが、二種類以上を混合してもかまわない。
【0011】
式(1)の化合物の加水分解・重縮合反応は、例えば特開2001−214093に記載されているような公知の方法によって行うことができる。
加水分解・重縮合反応を行うために添加する水の量は、式(1)の化合物1モルに対して0.1モル以上が好ましい。
式(1)の化合物を加水分解・縮重合する際には、既知の触媒などを添加して加水分解・縮重合を促進しても良い。この場合、添加する触媒としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの有機酸や、硝酸、塩酸、リン酸、硫酸などの無機酸を用いることができる。
上記Ml+(ORl−mの加水分解・重縮合物は、好ましくは液状である。Mは好ましくはSiである。
【0012】
また、本発明において用いられる皮膜形成液には、官能基末端ポリシロキサン化合物も含まれる。この官能基末端ポリシロキサン化合物は、末端の官能基がシラノール、エポキシ、カルボキシル及びカルビノール基からなる群から選択される少なくとも1種類の有機基であれば、特に限定されるものではない。本発明で使用する官能基末端ポリシロキサン化合物について、また、式(1)で表される化合物の加水分解・重縮合物に対して官能基末端ポリシロキサン化合物を重量比で0.01〜10の割合で混合するのが好ましい。更に、式(1)で表される化合物の加水分解・重縮合物に対して官能基末端ポリシロキサン化合物を重量比で0.2〜2の割合で混合するのが好ましい。
【0013】
末端の官能基がシラノール基のシラノール基末端ポリシロキサン化合物としては、例えば、末端の官能基以外の官能基が1価の炭化水素基からなるシラノール基末端ポリシロキサン化合物及び末端の官能基以外の官能基が1価の炭化水素基からなるコポリマーがあり、好ましくは、シラノール基末端ポリアルキルフェニルシロキサン、シラノール基末端ジアルキルシロキサン−ジアルキルシロキサンコポリマー若しくはシラノール基末端ジアルキルシロキサン−ジフェニルシロキサンコポリマーがあり、特に好ましくは、シラノール基末端ポリメチルフェニルシロキサン、シラノール基末端ポリジフェニルシロキサン、シラノール基末端ジメチルシロキサン−ジフェニルシロキサンコポリマーがある。
末端の官能基がエポキシ基のエポキシ基末端ポリシロキサン化合物としては、例えば、末端の官能基以外の官能基が1価の炭化水素基からなるエポキシ基末端ポリシロキサン化合物及び末端の官能基以外の官能基が1価の炭化水素基からなるコポリマーがあり、好ましくは、エポキシ基末端ポリアルキルフェニルシロキサン、エポキシ基末端ジアルキルシロキサン−ジアルキルシロキサンコポリマー若しくはエポキシ基末端ジアルキルシロキサン−ジフェニルシロキサンコポリマーがあり、特に好ましくは、エポキシ基末端ポリメチルフェニルシロキサン若しくはエポキシ基末端ポリジフェニルシロキサン、エポキシ基末端ジメチルシロキサン−ジフェニルシロキサンコポリマーがある。
末端の官能基がカルボキシル基のカルボキシル基末端ポリシロキサン化合物としては、例えば、末端の官能基以外の官能基が1価の炭化水素基からなるカルボキシル基末端ポリシロキサン化合物及び末端の官能基以外の官能基が1価の炭化水素基からなるコポリマーがあり、好ましくは、カルボキシル基末端ポリアルキルフェニルシロキサン、カルボキシル基末端ジアルキルシロキサン−ジアルキルシロキサンコポリマー若しくはカルボキシル基末端ジアルキルシロキサン−ジフェニルシロキサンコポリマーがあり、特に好ましくは、カルボキシル基末端ポリメチルフェニルシロキサン若しくはカルボキシル基末端ポリジフェニルシロキサン、カルボキシル基末端ジメチルシロキサン−ジフェニルシロキサンコポリマーがある。
末端の官能基がカルビノール基のカルビノール基末端ポリシロキサン化合物としては、例えば、末端の官能基以外の官能基が1価の炭化水素基からなるカルビノール基末端ポリシロキサン化合物及び末端の官能基以外の官能基が1価の炭化水素基からなるコポリマーがあり、好ましくは、カルビノール基末端ポリアルキルフェニルシロキサン、カルビノール基末端ジアルキルシロキサン−ジアルキルシロキサンコポリマー若しくはカルビノール基末端ジアルキルシロキサン−ジフェニルシロキサンコポリマーがあり、特に好ましくは、カルビノール基末端ポリメチルフェニルシロキサン若しくはカルビノール基末端ポリジフェニルシロキサン、カルビノール基末端ジメチルシロキサン−ジフェニルシロキサンコポリマーがある。
【0014】
皮膜形成液の式(1)で表される化合物の加水分解・重縮合物と官能基末端ポリシロキサン化合物は、5℃から150℃の範囲の温度で、式(1)で表される化合物の加水分解・重縮合物に対して官能基末端ポリシロキサン化合物を重量比で0.01〜10の割合で混合するのが好ましい。更に常温から80℃の範囲の温度で、式(1)で表される化合物の加水分解・重縮合物に対して官能基末端ポリシロキサン化合物を重量比で0.2〜2の割合で混合するのがより好ましい。
【0015】
本発明の発光素子用蛍光体シート形成用塗布液は無機材料粒子を混入しても流動性を保つことが可能であるため、蛍光体の他に無機材料粒子を添加してもよい。無機材料粒子としては、例えば、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニア、窒化アルミニウム、窒化ホウ素等の粒子があり、これらを単独で使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。この無機材料粒子の粒径は、特に限定されるものではないが、数百nm〜数十μmとすることが分散性等を考慮すると好ましい。粒子形状は、特に限定されるものではない。無機材料粒子は複数種類を併用することもできる。
本発明の発光素子用蛍光体シート形成用塗布液の流動性は、上記蛍光体粒子(a)と上記皮膜形成液(b)と任意に混合される無機材料粒子との混合比又は増粘剤等の助剤を加えることにより、適宜調整が可能である。また、有機溶媒を適量加えることでも調整可能である。
【0016】
(蛍光体シート)
本発明の上記発光素子用蛍光体シート形成用塗布液を用いて、スクリーン印刷やバーコード等の様々な塗布方法により基材に塗布し、70〜200℃で乾燥することにより蛍光体シートを製造することができる。また、蛍光体濃度及びシート膜厚によって変換できる色度を制御することができる。そのため、蛍光体シートの製造によって、発光素子の色度変換用蛍光体層の量産性が高くなり、前もって色度調整することが可能になる。また、本発明の蛍光体シートは、有機−無機系皮膜から構成されるため、有機の柔軟性と無機の耐熱性を兼ね備えている。また、シロキサン結合骨格から構成されるため、耐薬品性を有した構造となる。
【0017】
また、この蛍光体シートは乾燥温度と乾燥時間を変えることによって、タック感を有した半硬化状態で熱可塑性の蛍光体シートが製造可能であり、更なる熱処理で完全硬化させることによって、タック感の無い熱硬化性の蛍光体シートとなる。前記の半硬化蛍光体シートは形成した基材から容易に剥離可能で、蛍光体シート単体を取り扱うことができる。例えば、蛍光体シート単体をパッケージ若しくは発光素子上へ設置し、熱処理することによって接着剤を使用することなく、強固に接着・固定することができる。また、この半硬化蛍光体シートは柔軟性に富んでおり、簡単に3次元形状に加工することができ、その後、熱処理することによって完全硬化させ、付与した形状を維持することができる。そのため、複雑な形状に対しても追従した形状の色変換蛍光体層を容易に形成することができる。従って、本発明の塗布液は、上述の従来の問題点を全て解決するものである。
更には、この蛍光体シートは、塗布及び熱処理の工程のみで製造可能なため、量産性に優れ、また、様々な塗布方法に対応可能である。このため、パターニング及びロール化も可能である。
また、基材は特に制限はなく、ガラスや各種樹脂材料等の様々な基材上へ塗布でき、保護層上への塗布若しくは蛍光体シート上への保護層等の塗布も可能であり、多層化も容易にできる。
【0018】
本発明の発光素子用蛍光体シート形成用塗布液は、a)蛍光体粒子と、b)皮膜形成液とを含んでなる発光素子用蛍光体シート形成用塗布液とからなる。この皮膜形成液には、好ましくは、Ml+(ORl−m(式中、MはSi、Al、Zr及びTiからなる群から選択されるいずれか1種類の金属元素であり;lはMの価数を表し;Rは炭素数1〜5の炭化水素基、アルコキシアルキル基又はアシル基であり;Rはビニル、アミノ、イミノ、エポキシ、アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシ、フェニル、メルカプト及びアルキル基からなる群から選択される少なくとも一種類を含む有機基であり;mはOR基の数を表し;l及びmはいずれも整数である。)の加水分解・重縮合物及び官能基末端ポリシロキサン化合物(末端の官能基がシラノール、エポキシ、カルボキシル及びカルビノール基からなる群から選択される少なくとも一種類を含む有機基)が含まれる。
このため、本発明の発光素子用蛍光体シート形成用塗布液から製造できる蛍光体シートは柔軟性を有し、耐熱性及び耐薬品性等の高い信頼性を兼備している。また、熱処理条件によって、半硬化蛍光体シートとすることで、タック感の付与及び更に柔軟性に富む蛍光体シートを製造できる。タック感を付与することで、発光素子上若しくは発光素子パッケージ上に設置し、熱処理するだけで、接着剤を使用することなく、容易に所望する色度変換ができる蛍光体層の形成を可能にした。
【0019】
また、富んだ柔軟性を有することで3次元形状への容易な加工を可能にした。これらの半硬化蛍光体シートは、更なる熱処理を施すことでタック感の消失及び3次元形状の保持をすることができる。また、従来の蛍光体シートでも可能であった蛍光体量とシート膜厚の制御による所望の色度変換は、本発明の蛍光体シートによってももちろん可能である。
更に、本発明の蛍光体シートは塗布工程及び熱処理工程で製造でき、高い量産性を有し、例えばフィルム上へ塗布及び熱処理を施すことで、蛍光体シートのロール化も可能にした。塗布工程においては、様々な塗布方法に対応可能で蛍光体シートのパターニング及び膜厚制御が容易である。また、あらかじめ大面積の蛍光体シートを作製しておき、その蛍光体シートから打ち抜き、切断等の加工により寸法精度良く、所望の形状の蛍光体シートが量産性高く作製できるという効果も得られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に実施例を挙げるが、それらは本発明の説明を目的とするものであって、本発明をこれらの態様に限定することを意図するものではない。
本発明は、a)蛍光体粒子と、b)皮膜形成液とを含んでなる発光素子用蛍光体シート形成用塗布液である。この皮膜形成液には、好ましくは、Ml+(ORl−mの加水分解・重縮合物及び官能基末端ポリシロキサン化合物が含まれる。
また、本発明は、この発光素子用蛍光体シート形成用塗布液から製造される蛍光体シート及びタック感及び柔軟性に富む半硬化蛍光体シートである。
【実施例1】
【0021】
フェニルトリメトキシシラン10gに水1.82gと酢酸0.3g及びシラノール基末端メチルフェニルポリシロキサン10gを加え、室温で攪拌した。その後、水及び酢酸を除去するために加熱攪拌した。
こうして得られた塗布液に黄色系蛍光体を加え、プロペラ攪拌機で攪拌して、蛍光体シート形成用塗布液を作製した。この蛍光体シート形成用塗布液をスクリーン印刷によりPETフィルム上に蛍光体シートを作製し、150℃で1時間熱処理した。その蛍光体シートを所望のサイズに切断し、PETフィルムから剥離して、青色発光素子のパッケージング上に貼付けて200℃で1時間硬化させた。こうして得られた蛍光体シート付き青色発光素子パッケージは、蛍光体シートとパッケージが強固に接着され、更に所望の色度に色変換させることができた。
【実施例2】
【0022】
実施例1と同様の方法で蛍光体シート形成用塗布液を作製し、アプリケータによりPETフィルム上に蛍光体シートを作製し、150℃で1時間熱処理した。その蛍光体シートは、容易にPETフィルムから剥離することができ、また、金型(図1(A)及び(B))によって、容易に切断でき、3次元形状へ加工することができた(図2)。こうして得られた所望サイズの蛍光体シートを青色発光素子上に設置し、200℃で1時間硬化させた。その蛍光体層付き青色発光素子は、実施例1と同様、蛍光体シートと青色発光素子が強固に接着され、更に所望の色度に色変換させることができた。
【実施例3】
【0023】
実施例1と同様の方法で蛍光体シート形成用塗布液を作製し、アプリケータによりガラス基板上に蛍光体シートを作製し、200℃で1時間硬化させた。その蛍光体シートを電気炉で300℃、1時間熱処理を施した。この熱処理前後で蛍光体シートの変色や変形等は見られなかった。
また、同様の方法で作製した蛍光体シートにイソプロピルアルコール及びアセトンを滴下した。これらを自然乾燥した後で蛍光体シートの外観変化を調べたが、どちらの溶剤に対しても変化が見られなかった。
【実施例4】
【0024】
メチルトリエトキシシラン16gに水3.6gと酢酸0.6g及びシラノール粉末端ポリジメチルシロキサン10gを加え、室温で攪拌した。その後、エバポレータを使用し、水及び酢酸を除去した。その後、粘度調整のため、イソプロピルセロソルブを5g添加した。
こうして得られた塗布液に黄色系蛍光体を加え、プロペラ攪拌機で攪拌して蛍光体シート形成用塗布液を作製した。この蛍光体シート形成用塗布液をスクリーン印刷によりPETフィルム上に蛍光体シートを作製し、150℃で30分熱処理した。その蛍光体シートを丸形の打ち抜き型で打ち抜き、PETフィルムから剥離して、青色発光素子のパッケージング上に貼付けて200℃で30分硬化させた。こうして得られた蛍光体シートつき青色発光素子パッケージは、蛍光体シートとパッケージが強固に接着され、更に所望の色度に色変換することができた。
【実施例5】
【0025】
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン50gに水7.6gと酢酸1.3g及びエポキシ基末端ポリジメチルシロキサン25gを加え、室温で攪拌した。その後、水及び酢酸を除去するために加熱攪拌した。放冷後、4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸無水物3.6gを添加し、室温で攪拌した。
こうして得られた塗布液に黄色系蛍光体を加え、プロペラ攪拌機で攪拌して、蛍光体シート形成用塗布液を作製した。この蛍光体シートをバーコードによってPETフィルム上に蛍光体シートを作製し、150℃で1時間熱処理した。その蛍光体シートを所望のサイズに切断し、PETフィルムから剥離して、青色発光素子のパッケージング上に貼付けて200℃で30分間硬化させた。こうして得られた蛍光体シート付き青色発光素子パッケージは、蛍光体シートとパッケージが強固に接着され、更に所望の色度に色変換することができた。
【0026】
(比較例1)
実施例3と同様にポリカーボネートシートを300℃で熱処理を施した。このポリカーボネートシートでは、300℃に到達する前に、大きく変形し、変色も見られた。そのうえ、時間経過とともに完全に溶融してしまった。
同様に、ポリカーボネートシートにイソプロピルアルコール及びアセトンを滴下した。これらを自然乾燥した後で外観変化を行うと、イソプロピルアルコールを滴下したものは、特に大きな変化は見られなかったが、アセトンを滴下したものは、ポリカーボネートが溶解し、白濁や表面荒れが発生していた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は蛍光体シートへの3次元形状付与方法の一例を示す図である(A:3次元形状の付与前、B:3次元形状の付与後)。
【図2】図2は3次元形状を付与した蛍光体シートの一例である。
【符号の説明】
【0028】
11 金型本体
12 半硬化蛍光体シート
13 3次元形状付与半硬化蛍光体シート
14 ガイドバー
15 金型平板
21 3次元形状付与蛍光体シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体粒子と皮膜形成液とを含んでなる、発光素子用蛍光体シート形成用塗布液。
【請求項2】
皮膜形成液が、
l+(ORl−m
(式中、MはSi、Al、Zr及びTiからなる群から選択されるいずれか1種類の金属元素であり;lはMの価数を表し;Rは炭素数1〜5の炭化水素基、アルコキシアルキル基又はアシル基であり;Rはビニル、アミノ、イミノ、エポキシ、アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシ、フェニル、メルカプト及びアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種の有機基であり;mはOR基の数を表し;l及びmはいずれも整数である。)
で表される化合物の加水分解・重縮合物と、
末端官能基がシラノール、エポキシ、カルボキシル及びカルビノール基からなる群から選択される少なくとも1種類の有機基である、官能基末端ポリシロキサン化合物と、
を含んでなる、請求項1に記載の塗布液。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の塗布液から作製される蛍光体シート。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の塗布液から作製されるタック感及び/又は柔軟性に富む半硬化蛍光体シート。

【図1】
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【図2】
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