説明

発光素子

【課題】発光出力及び応答特性が良く、かつ発光に必要な順方向電圧の上昇を抑制することができる発光素子を提供する。
【解決手段】本発明に係る発光素子は、基板2上に、量子井戸層21をバリア層23,52で挟んで積層させた量子井戸構造の活性層5を具備する発光素子であって、基板2の格子定数は、量子井戸層21の格子定数と、少なくとも1つのバリア層52の格子定数の間の値であることを特徴とする。活性層5は2以上の量子井戸層21を有していてもよい。この場合、基板2の格子定数は、少なくとも一つの量子井戸層21の格子定数と、少なくとも1つのバリア層52の格子定数の間の値である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子井戸層構造を有する発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速かつ大容量のデータ通信網の需要が増加している。これに伴い、屋内用又は車載用のデータ通信網として、プラスチック光ファイバー(POF)を用いたデータ通信網が注目されている。このデータ通信網の光源には、高出力かつ高速応答性が求められる。この2つの特性を有する発光素子として、共振器構造を有する面発光型の発光素子(例えば発光ダイオード)がある。
【0003】
共振器構造を有する発光素子は、活性層を2つの反射層で挟み込むことにより、活性層からの光を活性層に対して垂直方向に共振させる構造(垂直共振器)を有している。垂直共振器構造において、活性層を量子井戸層にすると高速応答性が実現される。また量子井戸層を複数形成することにより発光出力が高くなる。
【0004】
特許文献1には、共振器の長さを発光波長の1/2として、かつ共振器の中央に複数の量子井戸層を設けることにより、共振器内の定在波の腹となる位置に複数の量子井戸層が存在するようにした発光ダイオードが開示されている。この発光ダイオードは、複数の量子井戸層それぞれの両側にトンネルバリア層を有している。そして各対のトンネルバリア層の厚さを他の対のトンネルバリア層のいずれの厚さとも相違している。このようにすることにより、各量子井戸層間のキャリア数の偏りによるキャリア準位の幅広化が抑制され、共振器のQED効果が高まり発光効率が高まる。なお、トンネルバリア層の相互間にはバンドギャップ整合層が形成されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−174328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
共振器構造を有する発光素子では、発光出力を向上させるためにはキャリアを量子井戸層に閉じ込める必要があり、量子井戸層の相互間隔を十分長くしていたため、高速応答性が得られなかった。例えば、高い発光出力を得るために複数の定在波の腹に量子井戸層を配置すると、順方向電圧が増大し、かつ応答速度が低下してしまう。
【0007】
また、特許文献1に開示された垂直共振器型発光ダイオードは、複数の量子井戸層を有しているが、各量子井戸層の相互間に位置するバリア層が多層構造になると、量子井戸層の相互間隔が大きくなるため、順方向電圧が増大し、かつ応答速度が低下してしまう。
【0008】
本発明は上記のような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、発光出力及び応答特性が良く、かつ発光に必要な順方向電圧の上昇を抑制することができる発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、基板との格子定数差が大きい活性層を成長させる場合、活性層内に歪が生じ、この歪により活性層内に格子欠陥が生じて発光出力が低下することを見出した。特に高速応答性の発光素子を得ることを目的として活性層を多重量子井戸構造として各量子井戸層間距離を小さくした場合、活性層を構成する各層の膜厚が薄くなるために量子井戸層内に発生する歪が十分に緩衝されず、発光面積が大きく減少することを見出した。従来は、活性層のキャリア閉じ込め効率を高めて発光出力を向上させるというアプローチが行われていたが、本発明者は、上記した知見に基づいて、活性層の発光面積の減少を抑制することにより、従来とは異なるアプローチで発光出力の向上が可能であることを見出した。
【0010】
本発明は、上記した知見に基づいて成された。すなわち本発明に係る発光素子は、基板上に、量子井戸層をバリア層で挟んで積層させた量子井戸構造の活性層を具備する発光素子において、前記基板の格子定数は、前記量子井戸層の格子定数と、少なくとも1つの前記バリア層の格子定数の間の値であることを特徴とする。
【0011】
前記活性層は2以上の前記量子井戸層を有し、前記基板の格子定数は、少なくとも一つの前記量子井戸層の格子定数と、少なくとも1つのバリア層の格子定数の間の値であるのが好ましい。
【0012】
前記活性層が、2つの反射層で挟まれた共振器構造を有していてもよい。この場合、前記前記量子井戸層の中心間距離をL、前記発光素子の発光波長をλ、前記反射層間の距離である共振器の光学長内の平均屈折率をnとした場合に、λ/(19×n)≦L≦λ/(9×n)であるのが好ましい。
【0013】
前記基板の格子定数をA、前記量子井戸層の格子定数をA+α、前記量子井戸層が有する歪をε1としたとき、ε1=-α/A×100 (%)で表される前記量子井戸層の歪が、−0.5%以下又は0.5%以上であってもよい。
【0014】
前記基板の格子定数をA、前記歪を有するバリア層の格子定数をA+β、該バリア層が有する歪をε2としたとき、ε2=-β/A×100 (%)で表される前記バリア層の歪が、−2.0%以上0%未満、又は0%超2.0%以下であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基板との格子定数差が大きい活性層を有する発光素子において、活性層に発生する歪を緩衝し、活性層の発光面積を広くすることにより発光効率を向上させた発光素子を提供することができる。特に活性層が多重量子井戸構造である場合、応答特性を向上させ、かつ発光に必要な順方向電圧の上昇を抑制するために量子井戸層の相互間隔を短くしても、発光効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について、共振器を有する発光素子を例に説明する。図1(A) は、本発明の実施形態に係る発光素子の構造を示す断面図であり、図1(B)はその平面図である。図1(A)は図1(B)のA-A断面を示している。図1(B)において、12a、12bはダイシングラインを示している。
【0017】
この発光素子1は垂直共振器型発光ダイオードであり、第1導電型(例えばn型)の基板2の表面上に、第1反射層3、第1クラッド層4、アンドープの活性層5、第2クラッド層6、第2反射層8、及びコンタクト層9をこの順に積層したものである。第1クラッド層4、活性層5、及び第2クラッド層6により垂直共振器を形成するダブルへテロ接合層7が形成されている。垂直共振器の光学長は、第1反射層3と第2反射層8の距離すなわちダブルへテロ接合層7の厚みである。ここで、第1クラッド層4、第2クラッド層6内の活性層5側に拡散防止層を配置してもよい。また、第2反射層8の上部に電流拡散層を配してもよい。
【0018】
なお、第1反射層3及び第1クラッド層4を第1導電型として、第2クラッド層6、第2反射層8、及びコンタクト層9を第2導電型(例えばp型)にしてもよい。
【0019】
基板2の裏面には電極10が形成されており、コンタクト層9の一部上には電極11が形成されている。電極11の平面形状は任意の形状(例えば円形、楕円形、又は矩形)とすることができる。コンタクト層9のうち電極11に覆われていない領域が、光が射出する開口部9aになる。
【0020】
活性層5は発光層であり、多重量子井戸構造を有している。活性層5の構造については、図2を用いて後述する。
【0021】
上記したように、活性層5が第1反射層3及び第2反射層8に挟まれることにより、垂直共振器が形成されている。この垂直共振器内には光の定在波が生じる。すなわち活性層5から下方に射出した光は第1反射層3によって反射される。第1反射層3からの反射光、及び活性層5から上方に射出した光は第2反射層8に入射する。第2反射層8に入射した光の一部は反射し、定在波を形成する。なお、第2反射層8に入射した光の残りは開口部9aから発光素子1の外部に射出する。このため、第2反射層8より第1反射層3の反射率を高くするのが好ましい。
【0022】
活性層5の中には定在波の節が位置せず、かつ少なくとも1つの量子井戸層21(図2を用いて後述)が定在波の腹の位置(電界強度分布が最大値の95%以上となる部分)に配置されているのが好ましい。このようにすると、発光素子1の発光出力を高くすることができる。また、複数の量子井戸層のうち、最も禁制帯幅が小さい量子井戸層が発光する光の波長をλとした場合、2つの反射層間の長さである垂直共振器の光学長は略λ、略1.5λ、略2.0λであるのが好ましい。光学長を0.5λとすると、活性層5中にクラッド層からドーパントが拡散し、発光効率が低下するおそれがあるため好ましくない。また、光学長が2.5λ以上となると共振効果が弱くなり発光出力が低下する。
【0023】
基板2、第1反射層3、及び第1クラッド層4の格子整合性は良く、これらの格子定数差を基板の格子定数に対して±0.2%以内とすることが、上層の半導体層の結晶性を維持することが可能となり好ましい。なお、必要に応じて基板2と第1反射層3の間にn型のバッファー層(図示せず)を設けてもよい。この場合、第1反射層3の結晶性を更に良くすることができる。また、活性層5と第1クラッド層4の間、及び活性層5と第2クラッド層6の間それぞれに、不純物の拡散を防止する拡散防止層を設けてもよい。
【0024】
図2は、活性層5の構造を説明するための断面拡大図である。活性層5は、両端にバリア層23を位置させ、かつこれら2つのバリア層23の間に、量子井戸層21とバリア層52を交互に複数積層した構造を有している。本図においては量子井戸層21の層数は3層であるが、2層であってもよいし、4層以上であってもよい。ただし、活性層5内には定在波の節を位置させないのが好ましい。これにより、発光出力の低下を抑制することができる。またバリア層23、52の厚みを、量子井戸層に対するエネルギー障壁としての機能を保てる範囲で薄くすることにより、同時に順方向電圧の増加も抑えることができる。
【0025】
また、量子井戸層21の少なくとも1つは引張り歪もしくは圧縮歪みを有している。この量子井戸層21の歪は、基板2と量子井戸層と21の格子定数差が大きいほど大きくなる。
【0026】
すなわち量子井戸層21内に生じる歪量εは、基板2の格子定数をA、量子井戸層21の格子定数をA+αとしたとき、
ε=−α/A×100 (%)
で表される。ここで、量子井戸層21の格子定数が基板2の格子定数よりも大きい場合、つまりε<0のとき、量子井戸層21内には圧縮歪が生じる。逆に量子井戸層21の格子定数が基板2の格子定数よりも小さい場合、つまりε>0のとき、量子井戸層21内には引張歪が生じる。量子井戸層21内の歪が大きい場合、量子井戸層21内に格子欠陥が生じ易くなり、量子井戸層21の発光面積が減少し、発光素子の発光出力が減少してしまう。
【0027】
そこで本実施形態では、この歪みを相殺することを目的として、量子井戸間に配置されているバリア層52の少なくとも1つに、歪を有する量子井戸層21とは反対方向の歪み(歪量子井戸が圧縮方向であれば引張り、引張り方向であれば圧縮)を持たせている(以下、このバリア層52を歪補償バリア層と記載)。歪補償バリア層の格子定数をA+β、歪補償バリア層が有する歪をε2としたとき、歪補償バリア層の歪は
ε2=-β/A
で表される。
【0028】
量子井戸層21間のバリア層52を歪補償バリア層とすること、すなわち基板2の格子定数を量子井戸層21の格子定数と、歪補償バリア層の格子定数の間の値にすることで、ε1が−0.5%以下、もしくは0.5%以上の量子井戸層を積層した場合であっても量子井戸層21内に生じる歪を緩和することが可能となり、量子井戸層21内の格子欠陥を減少させ、発光面積の減少を抑制することができる。この歪補償バリア層の層数は、量子井戸層21内に生じる歪量によって適宜選択することができ、歪を有する量子井戸層21間に配置することで量子井戸層21内の歪を効果的に緩和することができる。
【0029】
なお、歪補償バリア層の歪量ε2は、好ましくは−2.0%以上0%未満又は0%超2.0%以下(特に好ましくは−1.0%以上0%未満又は0%超1.0%以下)であるのが好ましい。歪量ε2が上記した範囲から外れ、かつ量子井戸層の有する歪量よりも大きくなった場合、歪補償バリア層内に格子欠陥が発生し、発光素子の出力や歩留まりが低下する為である。
【0030】
歪補償バリア層の歪の方向及び大きさは、歪補償バリア層を構成している物質の組成を変化させて格子定数を制御することにより行える。例えば基板2がGaAs基板である場合、歪補償バリア層は、例えばIn1-θGaθP膜(0≦θ≦1)で構成される。θ<0.49にすれば歪補償バリア層の格子定数はGaAs基板の格子定数より大きくなり、歪補償バリア層内に引張歪が生じる。またその値は、θを小さくするほど引張方向に大きくなる。またθ>0.49にすれば歪補償バリア層の格子定数はGaAs基板の格子定数より小さくなり、歪補償バリア層内に圧縮歪が生じる。またその値は、θを大きくするほど圧縮方向に大きくなる。
【0031】
さらに歪補償バリア層を設けることで、量子井戸層21内の格子欠陥を増加させずに量子井戸層21の中心間距離を小さくすることが可能となり、発光素子の発光出力を維持したまま、さらなる高速応答性を実現することができる。特に発光素子が共振型発光素子とした場合、共振器内の定在波の電解分布強度が高い部分に数多くの量子井戸層21を配置することが可能となり、発光出力及び応答速度を向上させ、かつ順方向電圧の上昇を抑制させることができる。
【0032】
発光素子が垂直共振型である場合、互いに隣りあう2つの量子井戸層21の中心間距離Lは、発光素子1の発光波長をλ、ダブルへテロ接合層7の平均屈折率をnとした場合、(1)式を満たすのが好ましい。また更に好ましくは、(2)式を満たすのが好ましい。
λ/(19×n)≦L≦λ/(9×n) … (1)
λ/(15×n)≦L≦λ/(10×n) … (2)
ただし、量子井戸層21の中心間距離Lは、隣接する量子井戸層21において、各量子井戸層21の厚みの半分と、量子井戸層21に挟まれたバリア層52の厚みである。すなわち、厚みがXとYである量子井戸層21間に、厚みがZのバリア層52が挟まれた構造の場合、量子井戸層21の中心間距離Lは、L=(X+Y)/2+Zとなる。また、平均屈折率nは、ダブルへテロ接合層7を構成する各層の屈折率と、活性層5に対する各層の長さの比率の積を合計したものである。例えば屈折率Bの膜の厚さが20nm、屈折率Cの膜の厚さが10nmの平均屈折率n=B×(20/30)+C×(10/30)となる。このようにすると、発光出力を効率的に高められる。
【0033】
量子井戸層21の中心間距離が上記(1)式を満たすことにより、発光素子1の発光効率及び応答特性の双方が良くなる。Lがλ/(19×n)より小さくなると、バリア層による量子井戸層へのキャリア閉じ込め効果を確保するために必要なバリア層52の厚さを確保できなくなり、発光出力が低下する。また、量子井戸層21の実効幅が実質的に広くなって応答出力が低下する恐れがある。また、Lがλ/(9×n)より大きくなると、共振効果が低下することにより、発光出力の低下、応答特性の低下、及び発光に必要な順方向電圧の上昇が生じる。なお、Lは、上記式を満たす範囲の値に設定することが好ましく、すべての近接する量子井戸層の相互間で同一の値であってもよいし、少なくとも1つが他と異なる値であってもよい。
【0034】
また、本発明に係る発光素子において、各量子井戸層の禁制帯幅を変化させることが可能である。
図3の各図は、量子井戸層21の禁制帯幅を説明するための図である。図3(A)の例では、3つの量子井戸層21は同一の組成を有しており、それぞれの禁制帯幅が同一である。
【0035】
図3(B)及び図3(C)の例では3つの量子井戸層21の組成はそれぞれ異なる。そして、図3(B)に示す例では、第2クラッド層6から第1クラッド層4に近づくにつれて量子井戸層21の禁制帯幅が大きくなっている。また図3(C)に示す例では、最も第2クラッド層6に近い量子井戸層21の順に、禁制帯幅が小さくなっている。すなわち、3つの量子井戸層21の禁制帯幅がすべて違っている。
【0036】
また、図3(D)に示す例では、中間に位置する量子井戸層21の禁制帯幅が最も大きく、かつ第1、第2クラッド層に最も近い量子井戸層21が略同じ禁制帯幅となっている。
【0037】
図3(B)〜(D)のいずれの場合においても、図3(A)に示す禁制帯幅が同一とした場合と比べ、発光素子1の発光出力が高くなる。特に、図3(D)に示すように量子井戸層21を配置することで、発光出力を効果的に向上させることが可能となり、垂直共振器の長さを禁制帯幅の小さい量子井戸層から発光する波長のn/2倍(nは正の整数)と略同じとすることでも発光出力を向上させることができる。なお、量子井戸層21の数が2層の場合又は4層以上の場合のいずれにおいても、図3の各図に示した構成を有するのが望ましい。
【0038】
次に、発光素子1の製造方法について説明する。まず、基板2上に第1反射層3を形成する。第1反射層3は、例えばMOCVD法又はMBE法を用いることにより、エピタキシャル成長層として形成することができる。基板2がn型のGaAs基板の場合、第1反射層3は、例えばn型のAl1-xGaxAs膜(0<x<1)からなる第1ブラッグ反射層、及びn型のAl1-yGaAs膜(0≦y<1、かつy<x)からなる第2ブラッグ反射膜を交互に積層することにより形成される。
なお、第1反射層3を形成する前に基板2上にバッファー層を形成してもよい。
【0039】
次いで、第1クラッド層4、活性層5、第2クラッド層6、第2反射層8、コンタクト層9を、この順に形成する。これらの層は、例えばMOCVD法又はMBE法を用いることにより、例えば同一の装置内でエピタキシャル成長層として連続して形成することができる。
【0040】
具体的には、第1反射層3がn型のAl1-xGaxAs膜(0<x<1)及びAl1-yGaAs膜(0≦y<1、かつy<x)で形成される場合、第1クラッド層4はn型のAl1-ZGaZAs膜(0≦z≦1)により形成される。
【0041】
また、活性層5の量子井戸層21はアンドープのInαGa1-αAs膜(0<α≦1)により形成され、バリア層52はAlβGaγIn1-β-γP膜(0≦β≦1、0≦γ≦1、かつ0≦β+γ≦1)又はAl1-θGaθAs膜(0≦θ≦1)により形成される。バリア層52の少なくとも1つは1−β−γ<0.49のAlβGaγIn1-β-γP膜である。また、バリア層23についてはAlβGaγIn1-β-γP膜、Al1-θGaθAs膜のいずれを使用してもよい。
【0042】
また、第2クラッド層6は、例えばp型のAl1-aGaAs膜(0≦a≦1)により形成される。第2反射層8は、例えばp型のAl1-bGaAs膜(0<b<1)からなる第1ブラッグ反射層、及びp型のAl1-cGaAs膜(0≦c<1、かつc<b)からなる第2ブラッグ反射膜を交互に積層することにより形成される。コンタクト層9は、例えばGaAs膜により形成される。
【0043】
なお、第1クラッド層4、活性層5、及び第2クラッド層6の組成は、所望する発光波長に応じて選定する。
【0044】
次いで、コンタクト層9の表面に電極11を形成するとともに、基板2の裏面に電極10を形成する。次いで、エッチングにより電極11を選択的に除去し、開口部9aを形成する。その後、ダイシングライン12a、12bに沿ってダイシングを行ない、複数の発光素子1を互いに切り離す。
【0045】
以上、本発明の実施形態によれば、歪を有する多重量子井戸構造を有する活性層5において、少なくとも一つのバリア層52は、量子井戸層21とは逆方向の歪みを有する歪補償バリア層とすることで、活性層5全体の歪みを補償し、量子井戸層21の結晶性を向上させることができる。このため、量子井戸層21内に結晶欠陥の少ない、発光効率の高い発光素子を作製することができる。
【0046】
さらに、量子井戸層21の中心間距離を小さくしても量子井戸層内の結晶性の劣化を抑制することができるため、発光出力を維持したまま、応答特性を高め、さらに順方向電圧も低下させることができる。
【0047】
尚、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。例えば活性層5が有する量子井戸層21を一層にしてもよい。この場合、量子井戸層21を挟む2つのバリア層23の少なくとも一方が、上記した歪補償バリア層になる。
【実施例1】
【0048】
歪補償バリア層による量子井戸層内の歪緩衝効果を検証する為に、図4(A)に構造を示す試料1を作製した。また、比較例として、図4(B)に構造を示す試料2を作製した。
【0049】
図4(A)に示す試料1(歪補償バリア層あり)は、n型のGaAs基板60(格子定数:5.65Å)、i−Al0.3Ga0.7As膜からなる第1クラッド層61、i−Al0.3Ga0.7As膜からなるバリア層62、i−In0.15Ga0.85As膜からなる量子井戸層63、i−In0.45Ga0.55P膜からなる歪補償バリア層64、i−In0.11Ga0.89As膜からなる量子井戸層65、i−In0.45Ga0.55P膜からなる歪補償バリア層66、i−In0.15Ga0.85As膜からなる量子井戸層67、i−Al0.3Ga0.7As膜からなるバリア層68、及びi−Al0.3Ga0.7As膜からなる第2クラッド層69を、この順に積層させたものである。図中括弧内に記載したように、量子井戸層63、65、67のGaAs基板60に対する歪量はそれぞれ−1.07%、−0.78%、−1.07%、歪補償バリア層64、66のGaAs基板60に対する歪量は0.26%、バリア層62、68のGaAs基板60に対する歪量は−0.02%であった。また、各層の膜厚はそれぞれ10nmとした。
【0050】
また図4(B)に示す試料2(歪補償バリア層なし)は、n型のGaAs基板70上に、i−Al0.3Ga0.7As膜からなる第1クラッド層71、i−Al0.3Ga0.7As膜からなるバリア層72、i−In0.15Ga0.85As膜からなる量子井戸層73、i−Al0.3Ga0.7As膜からなるバリア層74、i−In0.11Ga0.89As膜からなる量子井戸層75、i−Al0.3Ga0.7As膜からなるバリア層76、i−In0.15Ga0.85As膜からなる量子井戸層77、i−Al0.3Ga0.7As膜からなるバリア層78、及びi−Al0.3Ga0.7As膜からなる第2クラッド層79を、この順に積層させたものである。図中括弧内に記載したように、量子井戸層73、75、77のGaAs基板70に対する歪量はそれぞれ−1.07%、−0.78%、−1.07%、バリア層72、74、76、78のGaAs基板70に対する歪量は−0.02%であった。また、各層の膜厚はそれぞれ10nmとした。
【0051】
図5は、試料1及び試料2のフォトルミネッセンス(PL)強度のウェハ面内分布を示す。試料1及び2のPL強度は、YAGレーザ(波長532nm)を照射し、試料中のレーザ照射した箇所からの発光をアバランシェフォトダイオードで受光することにより測定した。このとき試料から発光された光は約940nmが主発光波長であり、上述した量子井戸層から発光されていることが分かった。また、ウェハ全体にレーザを2.5mmピッチで走査させることにより、ウェハ全体のPL強度を測定した。
【0052】
図5に示したように、歪補償バリア層を用いない試料2ではPL発光強度の弱い部分が[011]方向に沿って発生し、欠陥の発生により結晶性が悪化していることが分かった。一方、活性層間に歪補償バリア層を入れた試料1では発光強度がウェハ面内の略全面で略一定だった。これにより、歪補償バリア層を導入することにより、歪みを起因とする活性層の結晶欠陥の発生を抑制できたことが示された。
【0053】
次に、上記した実施形態に示した構造を有する垂直共振器型発光ダイオードを、同一のウェハから切り出すことにより複数作製した。これらの垂直共振器型発光ダイオードの活性層5としては、図4(A)に示したバリア層62、量子井戸層63、歪補償バリア層64、量子井戸層65、歪補償バリア層66、量子井戸層67、及びバリア層68をこの順にそれぞれ10nm積層した構造を採用した(実施例1)。
【0054】
また比較例となる垂直共振器型発光ダイオードを、一つのウェハから複数切り出して作製した。この比較例1となる垂直共振器型発光ダイオードは、活性層の構造以外は実施例1と同様の構造であるが、活性層を、図4(B)に示したバリア層72、量子井戸層73、バリア層74、量子井戸層75、歪補償バリア層76、量子井戸層77、及びバリア層78をこの順にそれぞれ10nm積層した構造とした。
【0055】
実施例1に係る複数の垂直共振器型発光ダイオード及び比較例1に係る複数の垂直共振器型発光ダイオードそれぞれにおいて、20mA通電時の発光出力を測定した。結果を表1に示す。発光出力は積分球を用いることにより全発光出力の測定を行った。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示すように、比較例1では歪補償バリア層を用いてない為に欠陥がウェハ面内に部分的に発生し、出力のばらつきが大きくなった。それに対してIn0.45Ga0.55P層である歪補償バリア層66を用いた実施例1では、出力のバラつきが小さく、かつ平均の光出力及び最大の光出力も歪補償バリア層を用いない場合に比べ高くなった。
【0058】
これらの結果から、適正な位置に各量子井戸を配置し、かつ量子井戸層の歪を歪補償バリア層で補償することにより、垂直共振器型発光ダイオードにおいて高出力化ができ、かつウェハ面内で発光出力のばらつきが小さくなることが示された。
【0059】
次に、実施例1においてバリア層62、歪補償バリア層64,66、及びバリア層68の厚みを変化させた垂直共振器型発光ダイオードを複数種類作成した(実施例2)。また比較例1においてバリア層72,74,76,78の厚みを変化させた垂直共振器型発光ダイオードを複数種類作成した(比較例2)。量子井戸層の厚みは全て10nmであり、バリア層の厚みは20nm、15nm、10nm、及び5nmである。各垂直共振器型発光ダイオードの発光波長λは940nmであり、共振器内の平均屈折率nは、実施例2、比較例2ともに約3.31であった。また、λ/(A×n)=L(量子井戸層21の中心間距離)の式で算出されるA(すなわち上記した(1)式及び(2)式に関連)は、9.5〜18.9の間である。これらの垂直共振器型発光ダイオードにおいて、20mA通電時の発光出力を測定した。結果を表2に示す。発光出力は積分球を用いることにより全発光出力の測定を行った。
【0060】
【表2】

【0061】
表2に示すように、量子井戸層の中心間距離がいずれの値をとった場合においても、実施例2は比較例2と比較して平均の発光出力が約2倍になった。また、量子井戸層の中心間距離を15nmと小さくした場合、比較例2の発光出力は、中心間距離を25nmとした時の約半分となったのに対し、実施例2の発光出力は、中心間距離を20nmとした時の約4/5であり、量子井戸層の中心間距離を小さくしても発光出力の減少割合が小さいことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】(A) は本発明の実施形態に係る発光素子の構造を示す断面図、(B)はその平面図。
【図2】活性層5の構造を説明するための断面拡大図。
【図3】各図はそれぞれ量子井戸層21の禁制帯幅を説明する為の図。
【図4】(A)は試料1の積層構造を示す断面図、(B)は試料2の積層構造を示す断面図。
【図5】(A)は試料1のPL強度のウェハ面内分布を示す図、(B)は試料2のPL強度のウェハ面内分布を示す図。
【符号の説明】
【0063】
1…発光素子、2…基板、3…第1反射層、4…第1クラッド層、5…活性層、6…第2クラッド層、7…ダブルヘテロ接合層、8…第2反射層、9…電極層、9a…開口部、10,11…電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、量子井戸層をバリア層で挟んで積層させた量子井戸構造の活性層を具備する発光素子において、
前記基板の格子定数は、前記量子井戸層の格子定数と、少なくとも1つの前記バリア層の格子定数の間の値であることを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記活性層は2以上の前記量子井戸層を有し、
前記基板の格子定数は、少なくとも一つの前記量子井戸層の格子定数と、少なくとも1つのバリア層の格子定数の間の値であることを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記活性層が、2つの反射層で挟まれた共振器構造を有する請求項2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記前記量子井戸層の中心間距離をL、前記発光素子の発光波長をλ、前記反射層間の距離である共振器の光学長内の平均屈折率をnとした場合に、
λ/(19×n)≦L≦λ/(9×n)
である請求項3に記載の発光素子。
【請求項5】
前記基板の格子定数をA、前記量子井戸層の格子定数をA+α、前記量子井戸層が有する歪をε1としたとき、
ε1=-α/A×100 (%)
で表される前記量子井戸層の歪が、−0.5%以下又は0.5%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発光素子
【請求項6】
前記基板の格子定数をA、前記歪を有するバリア層の格子定数をA+β、該バリア層が有する歪をε2としたとき、
ε2=-β/A×100 (%)
で表される前記バリア層の歪が、−2.0%以上0%未満、又は0%超2.0%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−103498(P2008−103498A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−284043(P2006−284043)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】