説明

発光素子

【課題】低電圧駆動が可能な発光素子を提供する。
【解決手段】正電極15と負電極12との間に無機発光体からなる発光層13を有する発光素子10において、発光層13と負電極12との間になだれ現象により電荷を発生する電荷発生層14を設けることによって、低電圧駆動を可能にした。電荷発生層がS・Se・Te・Si・SiC・Geの群から選択される1種もしくは2種以上の組成物からなり、かつ非晶質膜で構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子に関し具体的には無機発光体を用いた発光素子(以下、無機EL発光素子と言う)に関する。
【背景技術】
【0002】
無機EL発光素子は、温度・湿度に対する安定性に優れるため長寿命であるという特長がある反面、駆動電圧として100V以上の交流電圧を必要とすることから、高速スイッチング駆動回路のコストが高価になると言う問題があり、ディスプレイパネルや光通信用の光源などへの応用が遅れていた。このような背景から、駆動電圧の低電圧化を目的とした無機EL発光素子の提案がいろいろなされている。その代表的な提案について図5を参照にして以下に説明する。
【0003】
図5は、従来の無機EL発光素子の断面構成を模式的に示す断面模式図である。無機EL素子50は、ガラス基板51と、錫ドープ酸化インジウム(ITO)からなる正電極52と、シリコンの酸化物あるいはゲルマニウムの酸化物を主成分とする絶縁性の正孔注入輸送層53と、ZnSなどの無機発光体からなる発光層54と、酸化ストロンチウム・酸化マグネシウムなどの酸化物からなる絶縁性の電子注入輸送層55と、アルミニウムからなる負電極56とをこの順に積層したものから構成されている。
【0004】
正孔注入輸送層53および電子注入輸送層55は、無機発光体との界面に生じる障壁ポテンシャルの高さを低くして、発光層54への正孔および電子の注入効率を良くすることによって、低電圧駆動化を図っている。
【0005】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【特許文献1】特開2000−340366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の無機EL発光素子は、正孔注入輸送層および電子注入輸送層を高抵抗にする必要がある。したがって、発光層への正孔および電子の注入数が制限されるため、駆動電圧の低電圧化に限界があった。そこで本発明の目的は、発光層への電荷の注入数を増大させることによって、低電圧駆動でしかも発光効率の高い無機EL発光素子を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発光素子は、正電極と、無機発光体からなる発光層と、なだれ現象によって電荷を発生させる電荷発生層と、負電極とがこの順序で積層されていることを特徴とする。
【0008】
また、電荷発生層がS・Se・Te・Si・SiC・Geの群から選択される1種もしくは2種以上の組成物からなり、かつ非晶質膜で構成されていることを特徴とする。
【0009】
このような構成にすることによって、負電極もしくは正電極から注入された電荷の数がなだれ現象によって鼠算式に増加するため発光層への電荷の注入数が多くなる。したがって、電荷発生層で増加した電荷数に相応する電圧分だけ駆動電圧を低減することが可能となり、発光効率の向上が図れる。
【0010】
また、発光層がp型発光層とn型発光層との2層から構成され、かつ前記p型発光層がMg・Ca・Sr・Ba・Cu・Zn・In・Ga・Bi・B・P・Rhの各酸化物の群から選択される1種もしくは2種以上の組成物からなり、前記n型発光層がCu・Al・Zn・In・Ga・Sb・Sn・Bi・B・Pの各酸化物の群から選択される1種もしくは2種以上の組成物からなり、かつ前記p型発光層およびn型発光層が非晶質膜で構成されていることを特徴とする。
【0011】
このように発光層をpn接合で構成することによって、良い整流特性が得られるため駆動電圧のさらなる低減と発光効率の向上が図れる。
【0012】
また、電荷発生層の表面が複数の突起を有し、かつ突起の先端部が発光層と接触していることを特徴とする。
【0013】
このような構成にすることにより、電荷発生層の突起先端部の電界強度が高くなるため、なだれ現象による電荷の発生効率が高くなる。したがって、さらなる駆動電圧の低減と発光効率の向上が図れる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の発光素子によれば、無機EL素子の利点である長寿命化に加えて、駆動電圧の低減化と、発光輝度の高輝度化とを同時に実現させることができる効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明による発光素子の一実施形態について図1〜図4の図面を用いて説明する。尚、各図面において同じ構成要素には同一の符号を付し、重複する構成要素の説明は省略する。
【0016】
(実施の形態1)
図1は、本発明による発光素子の一構成例を模式的に示す断面模式図である。発光素子10は、透光性の基板11上に、正電極15と、無機発光体からなる発光層13と、なだれ現象によって電荷を発生させる電荷発生層14と、負電極12とをこの順序で積層したものから構成されている。
【0017】
本発明の発光素子10と図5で説明した従来の無機EL素子とで最も異なる点は、本発明の発光素子10には発光層13と負電極12との間に電荷発生層14が設けられている点である。ここで、本発明の電荷発生層14と従来の電子注入輸送層および正孔注入輸送層とでは作用が全く異なっている。すなわち、従来の電子注入輸送層および正孔注入輸送層は発光層への電荷の注入を容易にする作用を有するものであるのに対して、本発明の電荷発生層14は負電極12もしくは正電極15から注入された電荷の数をなだれ現象によって鼠算式に増加させる作用を有している。したがって、電荷発生層14で生成された電荷数に相応する電圧分だけ駆動電圧を低減させることが可能となる。
【0018】
基板11としては、石英・ガラス・セラミック・アクリル樹脂・ポリカーボネート樹脂など可視光を透過する透光性基板であればいずれでも用い得る。基板11の形態は、板状であってもフィルム状であってもいずれでもよい。
【0019】
負電極12としては、ITO(In23にSnO2をドープしたもの)・InZnO・酸化錫などの透明導電体であればいずれでも用い得る。
【0020】
正電極15としては、Au・Pt・Irあるいは仕事関数が4eV以下のAl・In・Mg・Ti・MgAg・AlAg・AlLi・Siなど一般によく知られている導電体が用い得る。
【0021】
電荷発生層14は、電子なだれ現象を発生させる電子増倍物質もしくは正孔なだれ現象を発生させる正孔増倍物質からなる膜で構成されている。電子増倍物質としては、Si・Ge・SiCの群から選択される1種もしくは2種以上からなる組成物が好適である。また正孔増倍物質としては、S・Se・Te・Si・Geの群から選択される1種もしくは2種以上からなる組成物が好適である。これらの電子増倍物質もしくは正孔増倍物質は、10V/μm以下の低電界強度で多数の電荷を生成するため、駆動電圧の低減に有効である点で好ましい。また、電荷発生層14を非晶質膜で構成すると電荷発生効率が高くなる点で好ましい。
【0022】
無機発光体としては、ZnS・SrS・BaAl24・CaS等の硫化物、GaN・InGaN・AlN等の窒化物、ZnO・Y23・ZnSiO4等の酸化物にMn、Cr等の遷移金属あるいはEu・Ce等の希土類金属などの発光中心を添加したものなど、一般によく知られている蛍光体であればいずれでも適用できる。
【0023】
負電極12・正電極15・発光層13・電荷発生層14の各層は、スパッタリング法・真空蒸着法・電子ビーム蒸着法・イオンプレーティング法・ゾルゲル法・スピンコート法などの成膜方法によって形成することができる。特に、負電極12および発光層13の形成には、反応性スパッタリング法もしくは電子ビーム蒸着法が非晶質膜形成に優れる点で好ましい。
【0024】
尚、図1では発光層13と電荷発生層14とをそれぞれ単層で構成しているが、発光層13と電荷発生層14とを交互に複数層積層した構成にしてもよい。このような構成にすると発光輝度を高くすることができる。
【0025】
以上に説明したように、本実施形態の発光素子10は、電荷発生層14で生成される電荷数に相応する電圧分だけ駆動電圧を低減させることができるため、数V〜数十Vの直流駆動電圧で発光させることができる。また、無機発光体を用いているため長寿命化が実現される。さらに、発光素子の大面積化が容易であるため製造コストの低減が図れる。
【0026】
(実施の形態2)
図2は、本発明による発光素子の他の一構成例を模式的に示す断面模式図である。図2に示す発光素子20は、発光層21がp型発光体からなるp型発光層22とn型発光体からなるn型発光層23との2層から構成されている点以外は図1に示す発光素子10の構成要素と同じである。したがって、ここでは発光層21の構成についてのみ説明し、他の構成要素については説明を省略する。
【0027】
p型発光体としては、Mg・Ca・Sr・Ba・Cu・Zn・In・Ga・Bi・B・P・Rhの各酸化物の群から選択される1種もしくは2種以上からなる組成物が用い得る。具体的には、SrCuO2・ZnO−Rh23・CuInO2・CuGaO2が適用できる。
【0028】
n型発光体としては、Cu・Al・Zn・In・Ga・Sb・Sn・Bi・B・Pの各酸化物の群から選択される1種もしくは2種以上からなる組成物が用い得る。具体的には、ZnO・ZnAlO・Ga23・SnO2:Sb・CuInO2が適用できる。
【0029】
上述したp型発光体およびn型発光体をスパッタリング法・電子ビーム蒸着法・ゾルゲル法・スピンコート法等の成膜方法で順次成膜することによって、p型発光層22とn型発光層23とが積層された非晶質膜からなる発光層21を得ることができる。このようにして形成した発光層21は透光性に優れるため、発光層21で発光した光を効率良く外部に取り出すことができる。また、発光層21を非晶質膜で構成すると、成膜工程において基板温度を高くする必要が無く、室温もしくは100℃以下の成膜温度で形成できるため、製造コストの低減が図れる点で好ましい。
【0030】
以上に説明したように、発光層21をpn接合で構成すると、低電圧で効率の良い整流特性が得られるため駆動電圧の低減と発光効率の向上が図れる。
【0031】
(実施の形態3)
図3は、本発明による他の発光素子の一構成例を模式的に示す断面模式図である。本実施形態の発光素子30の構成と図1に示す発光素子10および図2に示す発光素子20の基本構成は同じである。異なる点は、本実施形態の電荷発生層33の表面が複数の突起を有している点である。したがって、ここでは電荷発生層33の構成について詳しく説明することとし、他の構成要素については説明を省略する。
【0032】
電荷発生層33の表面は、図3に示すように突起形状をなし、突起の先端部33A(凸部)が発光層13(図2の場合は発光層21のn型発光層23)の層内に突き刺さった構成になっている。発光層13内に突き刺す先端部33Aの深さは、発光層13(図2の場合はn型発光層23)の層厚の1/5以下に設定する。尚、先端部33Aを図4に示すように発光層13(図2の場合はn型発光層23)の表面に接触させてもよい。
【0033】
電荷発生層33表面の突起は、突起の核となる銀・白金・金・カーボンナノチューブなどの導電性ナノ粒子32を負電極35の上に形成したのち、電子増倍物質もしくは正孔増倍物質を真空蒸着法やスパッタ法で成膜することによって容易に形成することができる。
【0034】
突起間の空隙(凹部)をSiO2・Al23などの絶縁材料34で埋めると、突起部以外からのリーク電流を抑制することができる点で好ましい。
【0035】
以上に説明したように、電荷発生層33の表面を突起形状にすると、正電極31と負電極35との間に電圧を印加した際、先端部33Aの電界強度が強くなるため、図1の電荷発生層14と比較してなだれ現象を発生する電圧が低くなる。したがって、図1の発光素子10より低い駆動電圧で発光素子30を発光させることができる点で好ましい。
【0036】
(実施例1)
実施形態1に係る発光素子10の具体的な実施例について、図1を参照にして以下に説明する。
【0037】
正電極15を担持した基板11として、市販のITO膜付ガラス基板を用意した。まず、発光体であるZnS:Mnを、アルゴンガス雰囲気中で高周波マグネトロンスパッタ法により、ITO膜(正電極15)の上に成膜して発光層13を形成した。発光層13の成膜条件は以下の通りである。
ターゲット:Mnを約7モル%添加したZnS:Mn(直径80mm、厚さ5mm)
アルゴンガス圧:4mTorr
基板温度:350℃
発光層13の膜厚:約500nm
つぎに、発光層13を担持した基板11を水冷して室温にした後、正孔増倍物質としてSeを用い、電子ビーム蒸着法により発光層13の上に膜厚1000nmの非晶質セレン膜からなる電荷発生層14を形成した。
【0038】
つぎに、正電極材料としてAuを用い、スパッタ法により電荷発生層14の上に膜厚150nmのAu膜からなる正電極15を形成した。
【0039】
以上のようにして作成した発光素子10の負電極12と正電極15との間に30Vの直流電圧を印加したところ、発光輝度600cd/m2のオレンジ光が得られた。
【0040】
(実施例2)
実施形態2に係る発光素子20の具体的な実施例について、図2を参照にして以下に説明する。尚、発光層21以外の構成要素は実施例1と同じ方法で形成した。したがって、ここでは発光層21の作成方法を中心に説明する。
【0041】
ITO膜付ガラス基板のITO膜(負電極12)の上に、粒子径1〜3μmのSiドープGaN粒子をアクリル系樹脂溶液に分散させたn型発光体ペーストをスピンコート法により、ITO膜(負電極12)上に塗布したのち、乾燥してn型発光層23を形成した。n型発光層23の膜厚は約10μmである。次にSrCuO2(p型発光体)を以下の成膜条件で成膜して膜厚約500nmの非晶質p型SrCuO2膜からなるp型発光層22を形成した。
成膜方法:高周波マグネトロンスパッタ法
ターゲット:直径80mm、厚さ5mmのSrCuO2
アルゴンガス圧:4mTorr
基板温度:室温
つぎに、実施例1と同様の方法でp型発光層22の上に電荷発生層14と正電極15とを順に形成して発光素子20を得た。得られた発光素子20の正電極15と負電極12との間に直流電圧を印加したところ、電圧20Vで発光が開始し、電圧30V、電流40mAで発光輝度1200cd/m2の緑光が得られた。
【0042】
(実施例3)
実施形態3に係る発光素子30の具体的な実施例について、図3を参照にして以下に説明する。尚、電荷発生層33以外の構成要素は実施例1と同じ方法で形成した。したがって、ここでは電荷発生層33の作成方法を中心に説明する。
【0043】
10mm角、厚み0.2mmの導電性Si基板11の上に負電極35としてPt膜をスパッタ法にて膜厚約200nm形成したものを用意した。まず、Pt膜の上に平均粒子径約30nmのAg粒子を分散させたAgナノペーストをスピンコート法にて塗布し、窒素ガス雰囲気中で乾燥させた。つぎに、スパッタ法によりAg粒子(核)の上にSiC膜を形成したところ、非晶質のSiC膜(電荷発生層33)の表面に平均0.2μmの凹凸状の突起が形成された。
【0044】
つぎに、実施例1と同様の方法で微小な突起を有する電荷発生層33の上に膜厚約0.5μmのZnS:Mn膜から発光層13と、膜厚約200nmのAu膜からなる正電極31とを順次積層して発光素子30を得た。発光層13の層内に突き刺さった突起先端部33Aの深さを測定したところ、平均30nmであった。
【0045】
得られた発光素子30の正電極31と負電極35との間に直流電圧を印加したところ、電圧23Vで発光が開始し、電圧38V、電流10mAで発光輝度800cd/m2のオレンジ光が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の発光素子は、テレビ装置・パソコン装置などに用いるディスプレイパネルや光通信用の光源に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明による発光素子の一構成例を示す断面模式図
【図2】本発明による発光素子の他の一構成例を示す断面模式図
【図3】本発明による発光素子の他の一構成例を示す断面模式図
【図4】図3に示す発光素子の他の構成例を示す断面模式図
【図5】従来の発光素子の構成例を示す断面模式図
【符号の説明】
【0048】
10、20、30、40 発光素子
11 基板
12、35 負電極
13、21 発光層
14、33 電荷発生層
15、31 正電極
22 p型発光層
23 n型発光層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正電極と、無機発光体からなる発光層と、なだれ現象によって電荷を発生させる電荷発生層と、負電極とがこの順序で積層されていることを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記電荷発生層がS、Se、Te、Si、SiC、Geの群から選択される1種もしくは2種以上の組成物からなり、かつ非晶質膜で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記発光層がp型発光層とn型発光層との2層から構成され、かつ前記p型発光層がMg・Ca・Sr・Ba・Cu・Zn・In・Ga・Bi・B・P・Rhの各酸化物の群から選択される1種もしくは2種以上の組成物からなり、前記n型発光層がCu・Al・Zn・In・Ga・Sb・Sn・Bi・B・Pの各酸化物の群から選択される1種もしくは2種以上の組成物からなり、かつ前記p型発光層およびn型発光層が非晶質膜で構成されていることを特徴とする請求項1もしくは2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記電荷発生層の表面が複数の突起を有し、かつ前記突起の先端部が前記発光層と接触していることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−277669(P2008−277669A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−122064(P2007−122064)
【出願日】平成19年5月7日(2007.5.7)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】