説明

発光素子

【課題】発光出力及び応答特性が良く、かつ発光に必要な順方向電圧の上昇を抑制することができる発光素子を提供する。
【解決手段】本発明に係る発光素子は、基板上に、量子井戸層51とバリア層を交互に積層させた量子井戸構造の活性層5を具備する発光素子である。前記バリア層の少なくとも一つは、第1のバリア層53及び第2のバリア層52を積層させた構造を含んでおり、第1のバリア層53は量子井戸層51の歪を緩衝する層であり、第2のバリア層52は、量子井戸層51に対してエネルギー障壁を有する層である。また、前記バリア層の少なくとも一つは、組成が厚さ方向で連続的に変化した層であり、量子井戸層51の歪を緩衝し、かつ量子井戸層51に対してエネルギー障壁を有する層であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子井戸層構造を有する発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速データ通信、あるいはセンサー用途に用いる光源に対しての需要が増加している。これらの用途に使用する光源には、高出力かつ高速応答性を満たすことが求められる。この2つの特性を有する発光素子として、共振器構造を有する面発光型の発光素子(例えば発光ダイオード)がある。
【0003】
共振器構造を有する発光素子は、活性層を2つの反射層で挟み込むことにより、活性層からの光を活性層に対して垂直方向に共振させる構造(垂直共振器)を有している。垂直共振器構造において、活性層を量子井戸層にすると高速応答性が実現される。また量子井戸層を複数形成することにより発光出力が高くなる。また、特許文献1には、共振器内の定在波の腹となる位置に複数の量子井戸層が存在することにより、発光出力を高めた発光ダイオードが開示されている。
【0004】
また、特許文献2、非特許文献1には基板と格子定数が異なる量子井戸層を作製する際、量子井戸層によって蓄積される歪を、量子井戸層とは反対の符号の歪を有するバリア層で補償することにより、低発振閾値電流及び高信頼性を達成した半導体レーザが開示されている。
【特許文献1】特開平10−27945号公報
【特許文献2】特許第3505259号
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.58(1991),p1952-1954
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
共振器構造を有する発光素子では、発光出力を向上させるためにはキャリアを量子井戸層に閉じ込める必要があり、量子井戸層の相互間隔を十分長くしていたため、高速応答性が得られなかった。例えば、特許文献1のように高い発光出力を得るために複数の定在波の腹に量子井戸層を配置すると、順方向電圧が増大し、かつ応答速度が低下してしまう。
【0006】
また、特許文献2、非特許文献1のように、量子井戸層間のバリア層を量子井戸層の歪を緩衝する層とした場合、バリア層のエネルギー障壁が変化するため、量子井戸層に対して適切な障壁とすることができなくなる。そのため、発光出力の低下や順方向電圧の上昇が生じてしまう。
【0007】
本発明は上記のような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、発光出力及び応答特性が良く、かつ発光に必要な順方向電圧の上昇を抑制することができる発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、基板との格子定数差が大きい活性層を成長させる場合、歪みを補償するバリア層と、量子井戸層に対して適切なエネルギー障壁を持つバリア層とを設けることにより、歪量子井戸層を近接させた場合においても結晶欠陥の発生を抑制しつつ、キャリア閉じ込め効率を高めて発光出力を向上させることが可能であることを見いだした。
【0009】
本発明は、上記した知見に基づいて成された。すなわち本発明に係る発光素子は、基板上に、量子井戸層とバリア層を交互に積層させた量子井戸構造の活性層を具備する発光素子であって、
前記バリア層の少なくとも一つは、第1のバリア層及び第2のバリア層を積層させた構造を含んでおり、
前記第1のバリア層は前記量子井戸層の歪を緩衝する層であり、
前記第2のバリア層は、前記量子井戸層に対してエネルギー障壁を有する層であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る他の発光素子は、基板上に、量子井戸層とバリア層を交互に積層させた量子井戸構造の活性層を具備する発光素子であって、
前記バリア層の少なくとも一つは、組成が厚さ方向で連続的に変化した層であり、
前記バリア層は前記量子井戸層の歪を緩衝し、
かつ前記量子井戸層に対してエネルギー障壁を有する層であることを特徴とする。
【0011】
前記活性層が、2つの反射層で挟まれた共振器構造を有するのが好ましい。この場合、前記量子井戸層の中心間距離をL、前記発光素子の発光波長をλ、前記共振器構造の光学長内の平均屈折率をnとした場合に、λ/(19×n)≦L≦λ/(9×n)であるのが好ましい。
【0012】
前記基板の格子定数をA、前記量子井戸層の格子定数をB、前記量子井戸層が有する歪をε1としたとき、ε1=-(A−B)/A×100(%)で表される前記量子井戸層の歪が、−0.5%以下又は0.5%以上であるのが好ましい。
また、前記基板の格子定数をA、前記第2のバリア層の格子定数をC、前記第2のバリア層が有する歪をε2としたとき、ε2=-(A−C)/A×100(%)で表される前記バリア層の歪が、−2.0%以上0%未満、又は0%超2.0%以下であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基板との格子定数差が大きい活性層を有する発光素子において、量子井戸層相互間に位置するバリア層のバリア機能を低下させずに、活性層に発生する歪を緩衝することにより、活性層の発光面積を広くすることが可能になり、その結果、発光素子の発光出力を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について、共振器を有する発光素子を例に説明する。図1(A) は、本発明の実施形態に係る発光素子の構造を示す断面図であり、図1(B)はその平面図である。図1(A)は図1(B)のA-A断面を示している。図1(B)において、12a、12bはダイシングラインを示している。
【0015】
この発光素子1は垂直共振器型発光ダイオードであり、第1導電型(例えばn型)の基板2の表面上に、第1反射層3、第1クラッド層4、アンドープの活性層5、第2クラッド層6、第2反射層8、及びコンタクト層9をこの順に積層したものである。第1クラッド層4、活性層5、及び第2クラッド層6により垂直共振器を形成するダブルへテロ接合層7が形成されている。垂直共振器の光学長は、第1反射層3と第2反射層8の距離すなわちダブルへテロ接合層7の厚みである。ここで、第1クラッド層4、第2クラッド層6内の活性層5側に拡散防止層を配置してもよい。また、第2反射層8の上部に電流拡散層を配してもよい。
【0016】
なお、第1反射層3及び第1クラッド層4を第1導電型として、第2クラッド層6、第2反射層8、及びコンタクト層9を第2導電型(例えばp型)にしてもよい。
【0017】
基板2の裏面には電極10が形成されており、コンタクト層9の一部上には電極11が形成されている。電極11の平面形状は任意の形状(例えば円形、楕円形、又は矩形)とすることができる。コンタクト層9のうち電極11に覆われていない領域が、光が射出する開口部9aになる。
【0018】
活性層5は発光層であり、多重量子井戸構造を有している。活性層5の構造については、図2を用いて後述する。
【0019】
上記したように、活性層5が第1反射層3及び第2反射層8に挟まれることにより、垂直共振器が形成されている。この垂直共振器内には光の定在波が生じる。すなわち活性層5から下方に射出した光は第1反射層3によって反射される。第1反射層3からの反射光、及び活性層5から上方に射出した光は第2反射層8に入射する。第2反射層8に入射した光の一部は反射し、定在波を形成する。なお、第2反射層8に入射した光の残りは開口部9aから発光素子1の外部に射出する。このため、第2反射層8より第1反射層3の反射率を高くするのが好ましい。
【0020】
活性層5の中には定在波の節が位置せず、かつ少なくとも1つの量子井戸層51(図2を用いて後述)が定在波の腹の位置(電界強度分布が最大値の95%以上となる部分)に配置されているのが好ましい。このようにすると、発光素子1の発光出力を高くすることができる。また、複数の量子井戸層のうち、最も禁制帯幅が小さい量子井戸層が発光する光の波長をλとした場合、2つの反射層間の長さである垂直共振器の光学長は略λ、略1.5λ、略2.0λであるのが好ましい。光学長を0.5λとすると、活性層5中にクラッド層からドーパントが拡散し、発光効率が低下するおそれがあるため好ましくない。また、光学長が2.5λ以上となると共振効果が弱くなり発光出力が低下する。
【0021】
基板2、第1反射層3、及び第1クラッド層4の格子整合性が良く、これらの格子定数差を基板の格子定数に対して±0.2%以内とすることが、上層の半導体層の結晶性を維持することが可能となり好ましい。なお、必要に応じて基板2と第1反射層3の間にn型のバッファー層(図示せず)を設けてもよい。この場合、第1反射層3の結晶性を更に良くすることができる。また、活性層5と第1クラッド層4の間、及び活性層5と第2クラッド層6の間それぞれに、不純物の拡散を防止する拡散防止層を設けてもよい。
【0022】
図2は、活性層5の構造を説明するための断面拡大図である。活性層5は、両端にバリア層54を位置させ、かつこれら2つのバリア層54の間に、量子井戸層51と、バリア層50を、交互に複数積層した構造を有している。バリア層50の厚みを、量子井戸層に対するエネルギー障壁としての機能を保てる範囲で薄くすることにより、順方向電圧の増加も抑えることができる。
【0023】
本図においては量子井戸層51の層数は3層であるが、2層であってもよいし、4層以上であってもよい。ただし、活性層5内には光の定在波の節を位置させないのが好ましい。これにより、発光出力の低下を抑制することができる。
【0024】
また、量子井戸層51の少なくとも1つは引張り歪もしくは圧縮歪みを有している。この量子井戸層51の歪は、基板2と量子井戸層51との格子定数差に起因しており、この格子定数差が大きいほど大きくなる。
【0025】
すなわち量子井戸層51内に生じる歪量εは、基板2の格子定数をA、量子井戸層51の格子定数をB(A+a)としたとき、
ε=−(A−B)/A×100=−a/A×100 (%)
で表される。ここで、量子井戸層51の格子定数が基板2の格子定数よりも大きい場合、つまりε<0のとき、量子井戸層51内には圧縮歪が生じる。逆に量子井戸層51の格子定数が基板2の格子定数よりも小さい場合、つまりε>0のとき、量子井戸層51内には引張歪が生じる。量子井戸層51内の歪が大きい場合、量子井戸層51内に格子欠陥が生じ易くなり、量子井戸層51の発光面積が減少し、発光素子の発光出力が減少してしまう。
【0026】
そこで本実施形態では、量子井戸間に配置されているバリア層50の少なくとも1つは2層以上の構造であり、量子井戸層51の歪みを補償(相殺)するための、量子井戸層51とは反対方向の歪み(歪量子井戸が圧縮方向であれば引張り、引張り方向であれば圧縮)を有する歪補償バリア層53と、キャリア閉じ込め効率を高めて発光出力を向上させるための、量子井戸層に対して適切なエネルギー障壁高さとなる、すなわち量子井戸層51の伝導帯のエネルギー準位に対して0.3eV以上のエネルギー準位となる伝導帯をもつエネルギー障壁バリア層52を配置している。
【0027】
歪補償バリア層53の格子定数をC(A+b)、歪補償バリア層が有する歪をε2としたとき、歪補償バリア層の歪は
ε2=−(A−C)/A×100=−b/A×100 (%)
で表される。
【0028】
量子井戸層51間のバリア層50に歪補償バリア層53を設けること、すなわち基板2の格子定数が、量子井戸層51の格子定数と歪補償バリア層53の格子定数の間の値となるような層を量子井戸層51間に設けることで、ε1が−0.5%以下、もしくは0.5%以上の量子井戸層を積層した場合であっても量子井戸層51内に生じる歪を緩和することが可能となり、量子井戸層51内の格子欠陥を減少させ、発光面積の減少を抑制することができ、歩留まりを向上することができる。この歪補償バリア層53の歪量、層数は、量子井戸層51内に生じる歪量によって適宜選択することができる。
【0029】
また、量子井戸層51の間に位置するバリア層50を、量子井戸層51の歪を補償する歪補償バリア層53に加え、量子井戸層51に対して適切なエネルギー障壁高さのエネルギー障壁バリア層52を含むようにすることで、上記した歪緩和効果に加え、バリア層50のキャリア閉じ込め効率を高める効果を生じさせることができる。その結果、量子井戸層51相互間がエネルギー障壁バリア層52単層の場合、歪補償バリア層53単層の場合と比較して、発光出力を高め、かつウェハ内の発光出力のばらつきをさらに抑えて発光素子の歩留まりを向上させることができる。
【0030】
なお、歪補償バリア層53の歪量ε2は、好ましくは−2.0%以上0%未満又は0%超2.0%以下(特に好ましくは−1.0%以上0%未満又は0%超1.0%以下)であるのが好ましい。歪量ε2が上記した範囲から外れ、かつ量子井戸層51の有する歪よりも大きくなった場合、歪補償バリア層53内に格子欠陥が発生し、発光素子の出力や歩留まりが低下する為である。
【0031】
歪補償バリア層53及び量子井戸層51の歪の方向及び大きさは、歪補償バリア層53及び量子井戸層51を構成している物質の組成を変化させて格子定数を制御することにより行える。例えば基板2がGaAs基板である場合、歪補償バリア層53は、例えばIn1-θGaθP膜(0≦θ≦1)で構成される。θ<0.49にすれば歪補償バリア層53の格子定数はGaAs基板の格子定数より大きくなり、歪補償バリア層内に圧縮歪が生じる。またその値は、θを小さくするほど圧縮方向に大きくなる。またθ>0.49にすれば歪補償バリア層の格子定数はGaAs基板の格子定数より小さくなり、歪補償バリア層53内に引張歪が生じる。またその値は、θを大きくするほど引張方向に大きくなる。
【0032】
また、歪補償バリア層53の厚さは5nm以下が好ましい。これは、歪補償バリア層53の厚さが5nm超の場合は、バリア層50の厚みが厚くなり発光素子の順方向電圧が上昇する為である。
【0033】
なお、図2において量子井戸層51間のバリア層50は、エネルギー障壁バリア層52で歪補償バリア層53を挟んだ3層構造としているが、これに限らず、エネルギー障壁バリア層52、歪補償バリア層53を1層づつ積層した構造、エネルギー障壁バリア層52を歪補償バリア層53で挟んだ構造、さらには4層以上の構造であっても良い。ただし、図2に示した、歪補償層バリア層53をエネルギー障壁バリア層52で挟んだ3層の積層構造が、各量子井戸層にキャリア閉じ込め効果を持たせ、各量子井戸層からの発光スペクトルを重複させることができる。そのため、シャープな1つ山の発光スペクトルの発光素子とすることができ、発光出力を高めることができる。
【0034】
さらにバリア層50に歪補償バリア層53及びエネルギー障壁バリア層52を設けることで、量子井戸層51内の格子欠陥を増加させずに量子井戸層51の中心間距離を小さくすることが可能となり、発光素子の発光出力を維持したまま、さらなる高速応答性を実現することができる。特に発光素子が共振型発光素子とした場合、共振器内の定在波の電解分布強度が高い部分に数多くの量子井戸層51を配置することが可能となり、発光出力及び応答速度を向上させ、かつ順方向電圧の上昇を抑制させることができる。
【0035】
発光素子が垂直共振型である場合、互いに隣りあう2つの量子井戸層51の中心間距離Lは、発光素子1の発光波長をλ、ダブルへテロ接合層7の平均屈折率をnとした場合、(1)式を満たすのが好ましい。また更に好ましくは、(2)式を満たすのが好ましい。
λ/(19×n)≦L≦λ/(9×n) … (1)
λ/(15×n)≦L≦λ/(10×n) … (2)
ただし、量子井戸層51の中心間距離Lは、隣接する量子井戸層51において、各量子井戸層51の厚みの半分と、量子井戸層51に挟まれたバリア層50の厚みである。すなわち、厚みがXとYである量子井戸層51間に、厚みがZのバリア層50が挟まれた構造の場合、量子井戸層51の中心間距離Lは、L=(X+Y)/2+Zとなる。また、平均屈折率nは、共振器を構成するダブルへテロ接合層7における各層の屈折率と、共振器長となるダブルへテロ接合層7の厚みに対する各層の厚みの比率の積を合計したものである。例えば屈折率Bの膜の厚さが20nm、屈折率Cの膜の厚さが10nmから共振器が形成される場合、この共振器における平均屈折率はn=B×(20/30)+C×(10/30)となる。
【0036】
量子井戸層51の中心間距離が上記(1)式を満たすことにより、発光素子1の発光効率及び応答特性の双方が良くなる。Lがλ/(19×n)より小さくなると、バリア層50による量子井戸層51へのキャリア閉じ込め効果を確保する、または量子井戸層の歪を補償するために必要なバリア層50の厚さを確保できなくなり、発光出力が低下する。また、量子井戸層51の実効幅が実質的に広くなって応答特性が低下する恐れがある。一方、Lがλ/(9×n)より大きくなると、共振効果が低下することにより、発光出力の低下、応答特性の低下、及び発光に必要な順方向電圧の上昇が生じる。なお、Lは、上記式を満たす範囲の値に設定することが好ましく、すべての近接する量子井戸層51の相互間で同一の値であってもよいし、少なくとも1つが他と異なる値であってもよい。
【0037】
また、本発明に係る発光素子において、各量子井戸層の禁制帯幅を変化させることが可能である。
図3の各図は、量子井戸層51の禁制帯幅を説明するための図である。図3(A)の例では、3つの量子井戸層51は同一の組成を有しており、それぞれの禁制帯幅が同一である。
【0038】
図3(B)及び図3(C)の例では3つの量子井戸層51の組成はそれぞれ異なる。そして、図3(B)に示す例では、第2クラッド層6から第1クラッド層4に近づくにつれて量子井戸層51の禁制帯幅が大きくなっている。また図3(C)に示す例では、最も第2クラッド層6に近い量子井戸層51の順に、禁制帯幅が小さくなっている。すなわち、3つの量子井戸層51の禁制帯幅がすべて違っている。
【0039】
また、図3(D)に示す例では、中間に位置する量子井戸層51の禁制帯幅が最も大きく、かつ第1、第2クラッド層に最も近い量子井戸層51が略同じ禁制帯幅となっている。
【0040】
図3(B)〜(D)のいずれの場合においても、図3(A)に示す禁制帯幅が同一とした場合と比べ、発光素子1の発光出力が高くなる。特に、図3(D)に示すように量子井戸層51を配置することで、発光出力を効果的に向上させることが可能となり、垂直共振器の長さを禁制帯幅の小さい量子井戸層から発光する波長のn/2倍(nは正の整数)と略同じとすることでも発光出力を向上させることができる。なお、量子井戸層51の数が2層の場合又は4層以上の場合のいずれにおいても、図3の各図に示した構成を有するのが望ましい。
【0041】
次に、発光素子1の製造方法について説明する。まず、基板2上に第1反射層3を形成する。第1反射層3は、例えばMOCVD法又はMBE法を用いることにより、エピタキシャル成長層として形成することができる。基板2がn型のGaAs基板の場合、第1反射層3は、例えばn型のAl1-xGaxAs膜(0<x<1)からなる第1ブラッグ反射層、及びn型のAl1-yGaAs膜(0≦y<1、かつy<x)からなる第2ブラッグ反射膜を交互に積層することにより形成される。
なお、第1反射層3を形成する前に基板2上にバッファー層を形成してもよい。
【0042】
次いで、第1クラッド層4、活性層5、第2クラッド層6、第2反射層8、コンタクト層9を、この順に形成する。これらの層は、例えばMOCVD法又はMBE法を用いることにより、例えば同一の装置内でエピタキシャル成長層として連続して形成することができる。
【0043】
具体的には、第1反射層3がn型のAl1-xGaxAs膜(0<x<1)及びAl1-yGaAs膜(0≦y<1、かつy<x)で形成される場合、第1クラッド層4はn型のAl1-ZGaZAs膜(0≦z≦1)により形成される。
【0044】
また、活性層5の量子井戸層51はアンドープのInαGa1-αAs膜(0<α≦1)により形成され、バリア層50はAlβGaγIn1-β-γP膜(0≦β≦1、0≦γ≦1、かつ0≦β+γ≦1)又はAl1-θGaθAs膜(0≦θ≦1)により形成される。歪補償バリア層53は量子井戸層51と異なる歪を有する組成となる1−β−γ<0.49のAlβGaγIn1-β-γP膜である。
【0045】
また、第2クラッド層6は、例えばp型のAl1-aGaAs膜(0≦a≦1)により形成される。第2反射層8は、例えばp型のAl1-bGaAs膜(0<b<1)からなる第1ブラッグ反射層、及びp型のAl1-cGaAs膜(0≦c<1、かつc<b)からなる第2ブラッグ反射膜を交互に積層することにより形成される。コンタクト層9は、例えばGaAs膜により形成される。
【0046】
なお、第1クラッド層4、活性層5、及び第2クラッド層6の組成は、所望する発光波長に応じて選定する。
【0047】
次いで、コンタクト層9の表面に電極11を形成するとともに、基板2の裏面に電極10を形成する。次いで、エッチングにより電極11を選択的に除去し、開口部9aを形成する。その後、ダイシングライン12a、12bに沿ってダイシングを行ない、複数の発光素子1を互いに切り離す。
【0048】
以上、本発明の実施形態によれば、歪を有する多重量子井戸構造を有する活性層5において、量子井戸層51の間に位置するバリア層50を2層以上の構造とし、少なくとも一つの層は、量子井戸層51とは逆方向の歪みを有する歪補償バリア層53とすることで、活性層5全体の歪みを補償し、量子井戸層51の結晶性を向上させることができる。このため、量子井戸層51内に結晶欠陥の少ない、発光効率の高い発光素子を作製することができる。
【0049】
また、量子井戸層51の間に位置するバリア層50の少なくとも1層は量子井戸層51に対して適切なエネルギー障壁を持つエネルギー障壁バリア層52とすることにより、量子井戸層51相互間が歪補償バリア層単層の場合と比較しキャリアの閉じ込め効果を高めることができ、更に発光効率の高い発光素子を作製することができる。
【0050】
更に、量子井戸層51の中心間距離を小さくしても量子井戸層内の結晶性の劣化を抑制することができるため、発光出力を維持したまま、応答特性を高め、更に順方向電圧も低下させることができる。
【0051】
特に応答性を向上させ、かつ発光に必要な順方向電圧の上昇を抑制する為に量子井戸層の相互間隔を短くしても、発光効率を向上させることができる。
【0052】
また、別の実施の形態として、量子井戸層51相互間に位置するバリア層50を単層とし、この単層のバリア層50の格子定数(すなわち組成)を厚さ方向に傾斜又は変化した層としてもよい。この場合、バリア層50の一部を、歪補償バリア効果を有する組成とし、バリア層50の他の部分を、量子井戸層51に対して所定のエネルギー障壁高さを有する(バリア効果を有する)組成とするのが好ましい。具体的には、バリア層50のうち一方の量子井戸層51側の部分は、歪補償バリア効果を有する組成とし、バリア層50のうち他方の量子井戸層51側の部分は、量子井戸層51に対して所定のエネルギー障壁高さを有する(バリア効果を有する)組成とすることができる。たとえば、バリア層50の組成(格子定数)が厚さ方向に変化させる、すなわち、AlβGaγIn1-β-γP膜のβ及びγを徐々に変化させたそうとしてもよい。
【0053】
尚、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。例えば活性層5が有する量子井戸層51を一層にしてもよい。この場合、量子井戸層51を挟む2つのバリア層54の少なくとも一方を、エネルギー障壁バリア層52、歪補償バリア層53に置き換える。
【実施例】
【0054】
図2に示した素子構造のうち、ダブルヘテロ構造7を基板上に作製した。実施例1において、基板2にはn型のGaAs基板(格子定数:5.65Å)を使用し、第1クラッド層4にはn−Al0.3Ga0.7As膜を使用し、活性層5の量子井戸層51には膜厚8nmのi−In0.16Ga0.84As膜を使用し、活性層5のバリア層50のエネルギー障壁バリア層52として膜厚2.5nmのi−Al0.3Ga0.7As膜、バリア層50の歪補償バリア層53として膜厚5nmのi−In0.4Ga0.6P膜を使用し、第2クラッド層6にはp−Al0.5Ga0.5As膜を使用した。本実施例1おいて、量子井戸層51は基板2に対して−1.15%の圧縮歪を有しており、歪補償バリア層53は0.63%の引張歪を有している。また、エネルギー障壁バリア層52は−0.04%の圧縮歪を有している。また、実施例1において、共振器長の平均屈折率nは3.425であり、量子井戸層51の中心間距離L=18nmである。
【0055】
また、比較例1として、活性層5の構成を図4に示す構成に置き換えたダブルヘテロ構造7を基板上に作製した。この発光素子において、活性層5には歪補償バリア層53が設けられておらず、量子井戸層51の相互間には膜厚が10nmのエネルギー障壁バリア層52のみが設けられている。なお、各層の組成は実施例1と同じであり、また各層の膜厚は、エネルギー障壁バリア層52の膜厚を除いて実施例1と同様である。
【0056】
また、比較例2として、活性層5の構成を図5に示す構成に置き換えたダブルヘテロ構造7を基板上に作製した。この発光素子において、活性層5にはエネルギー障壁バリア層52が設けられておらず、量子井戸層51の相互間には膜厚10nmの歪補償バリア層53のみが設けられている。なお、各層の組成は実施例1と同じであり、また各層の膜厚は、歪補償バリア層53の膜厚を除いて実施例1と同様である。
【0057】
また比較例3として、歪補償バリア層53を量子井戸層51と同じ圧縮歪(歪を補償しない)の組成の層とした以外は、実施例1と同様の構成を有するダブルヘテロ構造7を基板上に作製した。比較例3において、実施例1の歪補償バリア層53を量子井戸層51と同じ圧縮歪(歪を補償しない)でGaAs基板と格子定数が近似したi−In0.5Ga0.5P膜を使用した。
【0058】
実施例1及び比較例1〜3において、量子井戸層51は基板2に対して−1.15%の圧縮歪を有している。また実施例1、比較例2において、歪補償バリア層53は0.63%の基板とは逆方向の引張歪を有する層である。また、実施例1、比較例1のエネルギー障壁バリア層52は−0.04%の基板とは同逆方向の圧縮歪を有している。また比較例3において、歪補償バリア層53は−0.11%の基板とは同逆方向の圧縮歪を有している。
【0059】
図6(A),(B),(C)は、実施例1、比較例1、比較例2それぞれに対応する試料のフォトルミネッセンス(PL)強度のウェハ面内分布を示す。PL測定は、発光径が0.3mmのYAGレーザ(波長532nm)を試料の一部に照射し、レーザ照射した箇所からの発光をアバランシェフォトダイオードで受光することにより発光強度を測定した。PL測定はレーザを2.5mmピッチでウェハ面内を走査させることにより、ウェハ全体のPL強度を測定した。
【0060】
図6(B)に示したように、比較例1の歪補償バリア層53を用いない活性層構造の試料では、PL発光強度の弱い部分が[011]方向に沿って発生し、欠陥の発生により結晶性が悪化していることが分かった。一方、図6(A)及び(C)に示したように、実施例1及び比較例2の歪補償バリア層53を入れた活性層構造の試料では、PL発光強度がウェハ面内の略全面で略一定だった。なお、比較例3の歪補償バリア層51を用いない活性層構造の試料は、結果を図示していないが、比較例1の試料と同様、PL発光強度の弱い部分が生じていた。
これにより、歪補償バリア層53を導入することにより、歪みを起因とする活性層の結晶欠陥の発生を抑制できたことが示された。
【0061】
図7(A)は、実施例の試料の中心にレーザー光を照射し、ウェハからのPL光を分光して得られたPLスペクトルを示している。図7(B)は、比較例2の試料を図7(A)の場合と同様に測定したPLスペクトルを示している。この図において、横軸はPL発光波長を示し、縦軸はPL発光強度を示している。図7(A)に示すように、実施例1の試料では発光強度が最大となるPL発光波長は919.6nmであり、PLスペクトルも1つ山であった。これに対し、比較例2の試料では発光強度が最大となるPL発光波長は902.4nmであり、PLスペクトルも1つ山であった。また、実施例1の試料、比較例2の試料それぞれのPLスペクトルにおける最大PL発光強度に対して、半分以上のPL発光強度となる波長範囲幅(発光強度の半値幅)を測定したところ、実施例1の試料の半値幅が31.4nmであるのに対し、比較例2の試料の半値幅は55.3nmと大きくなっている。このように実施例1の試料のほうが比較例2の試料より半値幅が狭くなった。これは3層の量子井戸層51間全てに対してエネルギー障壁バリア層52、歪補償バリア層53を設け、3層の量子井戸層51それぞれからの発光スペクトルが重なっているからであり、実施例1の試料の場合、目的とする発光波長での光出力も大きくなる。さらに、活性層を2つの反射層で挟んだ共振器構造をとる場合には、共振現象がより効率良く起き、全光出力の値も大きくなる。一方、比較例2の試料の場合、各量子井戸層の発光スペクトルがずれてしまうため、得られる発光スペクトルは2山となり発光出力も実施例1の試料に比べ低くなっている。
【0062】
次に、実施例1、比較例1、及び比較例2の活性層を用いた共振器型の発光素子を基板上に作製した。そして実施例1、比較例1、及び比較例2それぞれ、複数の発光素子を切り出し、これら発光素子の発光強度を測定した。発光強度測定において、発光素子に20mAを通電し、積分球を用いて全発光出力を測定した。結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1に示すように、歪補償バリア層53を用いてない比較例1では出力のばらつきが大きかった。それに対して歪補償バリア層53を用いた実施例1及び比較例2では、出力のバラつきが小さく、かつ平均の光出力及び最大の光出力も比較例1に比べ高くなった。
【0065】
また、実施例1と比較例2を比べると、実施例1のほうが出力のバラつきがさらに小さく、かつ平均の光出力及び最大の光出力も高くなった。これは、歪補償バリア層53と独立して、量子井戸層51に対して適切なエネルギー障壁を持つエネルギー障壁バリア層52を設けたため、バリア層50のキャリア閉じ込め効率が高まったことによる。
【0066】
これらの結果から、適正な位置に各量子井戸層51を配置し、かつ量子井戸層51の歪を歪補償バリア層53で補償することにより、垂直共振器型発光ダイオードにおいて高出力化ができ、かつウェハ面内で発光出力のばらつきが小さくなることが示された。また、歪補償バリア層53と独立して量子井戸層51に対して適切なエネルギー障壁を持つエネルギー障壁バリア層52を設けることにより、垂直共振器型発光ダイオードにおいて更に高出力化ができ、かつウェハ面内で発光出力のばらつきが更に小さくなることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】(A) は本発明の実施形態に係る発光素子の構造を示す断面図、(B)はその平面図。
【図2】活性層5の構造を説明するための断面拡大図。
【図3】各図はそれぞれ量子井戸層51の禁制帯幅を説明する為の図。
【図4】比較例1の活性層5の構成を説明するための断面図。
【図5】比較例2の活性層5の構成を説明するための断面図。
【図6】(A),(B),(C)は、実施例1、比較例1、比較例2のフォトルミネッセンス(PL)強度のウェハ面内分布を示す図。
【図7】(A),(B)は実施例1、比較例2と同様のダブルへテロ接合層をそれぞれ作製した際に見られたPLスペクトルを示す図。
【符号の説明】
【0068】
1…発光素子、2…基板、3…第1反射層、4…第1クラッド層、5…活性層、6…第2クラッド層、7…ダブルヘテロ接合層、8…第2反射層、9…電極層、9a…開口部、10,11…電極、51…量子井戸層、50、54…バリア層、52…エネルギー障壁バリア層、53…歪補償バリア層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、量子井戸層とバリア層を交互に積層させた量子井戸構造の活性層を具備する発光素子であって、
前記バリア層の少なくとも一つは、第1のバリア層及び第2のバリア層を積層させた構造を含んでおり、
前記第1のバリア層は前記量子井戸層の歪を緩衝する層であり、
前記第2のバリア層は、前記量子井戸層に対してエネルギー障壁を有する層であることを特徴とする発光素子。
【請求項2】
基板上に、量子井戸層とバリア層を交互に積層させた量子井戸構造の活性層を具備する発光素子であって、
前記バリア層の少なくとも一つは、組成が厚さ方向で連続的に変化した層であり、
前記バリア層は前記量子井戸層の歪を緩衝し、
かつ前記量子井戸層に対してエネルギー障壁を有する層であることを特徴とする発光素子。
【請求項3】
前記活性層が、2つの反射層で挟まれた共振器構造を有する請求項1又は2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記量子井戸層の中心間距離をL、前記発光素子の発光波長をλ、前記共振器構造の光学長内の平均屈折率をnとした場合に、
λ/(19×n)≦L≦λ/(9×n)
である請求項3に記載の発光素子。
【請求項5】
前記基板の格子定数をA、前記量子井戸層の格子定数をB、前記量子井戸層が有する歪をε1としたとき、
ε1=-(A−B)/A×100 (%)
で表される前記量子井戸層の歪が、−0.5%以下又は0.5%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項6】
前記基板の格子定数をA、前記第2のバリア層の格子定数をC、前記第2のバリア層が有する歪をε2としたとき、
ε2=-(A−C)/A×100 (%)
で表される前記バリア層の歪が、−2.0%以上0%未満、又は0%超2.0%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−4555(P2009−4555A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−163896(P2007−163896)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】