説明

発光素子

【課題】不安定な材料を使用することなく、また素子構造を単純化することで、高効率でかつ安定性のある、また従来の素子に比べ素子作製において手間が省ける三重項発光素子を提供する。
【解決手段】従来の三重項発光素子で導入している正孔ブロッキング層を使用しない素子構造、すなわち、基板101の上に陽極102、その上に正孔輸送材料からなる正孔輸送層103、電子輸送材料および三重項発光するドーパント材料からなる電子輸送性発光層104、そして陰極105を積層させた素子構造において、正孔輸送材料および電子輸送材料の組み合わせや、電子輸送材料およびドーパント材料の組み合わせを最適化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽極と、電界を加えると発光が得られる有機化合物膜と、陰極と、から構成さ
れる有機発光素子に関する。特に、三重項励起状態から発光を呈する発光材料が使用され
た有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、電圧の印加によって有機化合物膜に両電極から電子と正孔が注入され
、それらの再結合によって形成された励起状態の分子(励起分子)からの発光を利用する
発光素子である。
【0003】
有機化合物膜からの発光は、励起分子が形成され基底状態に失活する際に放出されるエ
ネルギーが光となったものである。この失活過程には大きく別けて2種類あり、一重項励
起分子を経由して失活する場合(この際蛍光を発する)と、三重項励起分子を経由して失
活する場合がある。三重項励起分子経由の失活過程には、燐光としての光放出過程と、三
重項―三重項消滅過程とがあるが、基本的に室温で燐光経由の失活過程をふむ有機材料は
少ない(熱失活するものが殆どで光放出による失活は行わない)。このため有機発光素子
に使用される有機化合物の大半が一重項励起分子経由の蛍光を発する材料であり、多くの
有機発光素子の発光は蛍光を利用している。
【0004】
この蛍光を発する有機化合物を利用した有機発光素子は、1987年にC.W.Tang等が報告し
た、二種類の有機化合物を積層させた合計約100 nm程度の有機化合物膜を電極で挟んだ二
層型構造が基本となっている(非特許文献1参照)。その後1988年に安達等によって三層
型構造が提案され(非特許文献2参照)、現在ではこれらの積層型構造を応用した多層型
の素子構造がとられている。
【0005】
このような多層型構造の素子は「層の機能分離」といった特徴をもつ。層の機能分離と
は、一種類の有機化合物に様々な機能を同時に持たせるのではなく、一つの層ごとに機能
を分担させるというものである。たとえば二層型構造の素子では、正孔の輸送の役割を担
う正孔輸送層、および電子の輸送と発光の役割を担う発光性電子輸送層を用いており、ま
た三層型構造の素子では、正孔輸送のみの役割を担う正孔輸送層、電子輸送のみの役割を
担う電子輸送層、そしてその二層の間に発光する発光層を用いている。このように、各層
を機能分離させることによって、有機発光素子に用いる有機化合物の分子設計に自由度が
増えるという利点がある。
【0006】
例えば単層型構造の素子では、一つの層に電子も正孔も注入しやすく、両キャリヤを輸
送する機能をもち、かつ蛍光量子収率も高いという多くの特性が求められる。しかしなが
ら、二層型構造の素子のように電子輸送性発光層を用いた場合、正孔輸送層には正孔を注
入しやすい有機化合物を、電子輸送性発光層には電子が注入されやすく高い蛍光量子収率
を得る有機化合物をそれぞれ適用すればよく、一つの層に対しての要求が減り、材料を選
択しやすくなる。
【0007】
また三層型構造の素子では、さらに「発光層」を導入することで電子輸送性と発光性の
機能を分離できる。しかも発光層にレーザー色素などの高量子収率の蛍光色素(ゲスト)
を固体媒体(ホスト)材料に分散したものを用いることによって、発光層の蛍光量子収率
を向上させることができ、有機発光素子の量子効率が大きく向上するばかりでなく、使用
する蛍光色素の選択によって発光波長を自由に制御できる(非特許文献3参照)。このよ
うに色素(ゲスト)をホスト材料に分散した素子はドープ型素子と呼ばれる。
【0008】
多層型構造の素子のもう一つの有効な点は「キャリヤ閉じ込め効果」である。たとえば
非特許文献1の二層型構造の場合、陽極から正孔輸送層へ正孔が、陰極から電子輸送層へ
電子が注入され、正孔輸送層と電子輸送層の界面へと移動する。その後正孔は、正孔輸送
層と電子輸送層とのイオン化ポテンシャルの差が小さいため電子輸送層へ注入されるのに
対し、電子は、正孔輸送層の電気親和力が小さい上に電子輸送層との電子親和力の差が大
きすぎるため、正孔輸送層には注入されず、正孔輸送層にブロックされて電子輸送層内へ
閉じ込められる。したがって、電子輸送層内で正孔、電子両方の密度が高くなり、キャリ
ヤの再結合が効率よく行われるようになる。
【0009】
このようなキャリヤ閉じ込め効果を発揮させるのに有効な材料の一例として、イオン化
ポテンシャルの非常に大きい材料が挙げられる。イオン化ポテンシャルが大きい材料に正
孔を注入することは難しく、このような材料は正孔をブロックできる材料(正孔ブロッキ
ング材料)として幅広く使用されている。例えば非特許文献1で報告された芳香族ジアミ
ン化合物からなる正孔輸送層とトリス(8-キノリノラト)-アルミニウム(以下「Alq」と
記す)からなる電子輸送層を積層させた場合、これに電圧を印加すると電子輸送層のAlq
が発光する。しかし、この素子の二層の間に正孔ブロッキング材料を挿入することで正孔
は正孔輸送層に閉じ込められ、正孔輸送層側を発光させることもできる。
【0010】
このように、様々な機能をもった層(正孔輸送層、正孔ブロッキング層、電子輸送層、
電子注入層など)を導入することで、高効率化、発光色の制御などが可能となり、現在の
有機発光素子においては多層型構造が基本構造として確立した。
【0011】
このような中、1998年、S.R.Forrestらによって室温で三重項励起状態からの発光(燐
光)を得ることができる三重項発光材料(文献では、白金を中心金属とする金属錯体)を
ゲストとして利用したドープ型素子(以下「三重項発光素子」と記す)が発表された(非
特許文献4参照)。なお、以下では、この三重項発光素子と区別するため、一重項励起状
態からの発光を利用する素子は「一重項発光素子」と記す。
【0012】
上でも述べたが、有機化合物に注入された正孔および電子の再結合によって生成される
励起分子には、一重項励起分子と三重項励起分子とがある。この場合、スピンの多重度の
違いに由来して一重項励起分子と三重項励起分子とが1:3の割合で生成する。これまで
の材料では基本的に、室温において三重項励起分子は熱失活をしてしまうため、一重項励
起分子だけを発光に利用してきた。このため生成された励起分子の4分の1しか発光に利
用されていない。ここで三重項励起分子が発光に利用できるようになれば、今までの約3
〜4倍は効率の高い発光を得られる。
【0013】
非特許文献4では、先に述べた多層型構造を使用している。すなわち、正孔輸送層とし
て芳香族アミン系の化合物4,4'-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニル-アミノ]-ビフェニ
ル(以下「α-NPD」と記す)を用い、発光層としてAlqに2,3,7,8,12,13,17,18-オクタエ
チル−21H,23H-ポルフィリン-白金(以下「PtOEP」と記す)を6%分散させたものを用い
、電子輸送層としてAlqを用いた素子構造で、外部量子効率の最大値が4%、100 cd/m2
で1.3 %という値を示した。
【0014】
その後、正孔ブロッキング層を利用した素子構造で、正孔輸送層としてα-NPDを、発光
層として4,4' -N,N' -ジカルバゾール-ビフェニル(以下「CBP」と記す)にPtOEPを6%
分散させたものを、正孔ブロッキング層として2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェ
ナントロリン(以下「BCP」と記す)を、電子輸送層としてAlqを使用し、100cd/m2で 外
部量子効率2.2 %、最大で5.6 %と、素子の発光効率を向上させている(非特許文献5参照
)。
【0015】
さらに三重項発光材料としてトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(以下「Ir(pp
y)3」と記す)を使用した三重項発光素子が報告され(非特許文献6参照)、その後非特許
文献6と同じ素子構造で有機化合物膜の膜厚を最適化することで、100cd/m2で外部量子効
率14.9 %という非常に効率のよい有機発光素子も報告されている(非特許文献7参照)。
これで事実上、従来の一重項発光素子の3倍近い発光効率を得る素子が作製されるように
なった。
【0016】
現在、中心金属にイリジウムや白金を使用した三重項発光材料が探索され、一重項発光
素子に比べて非常に効率の良い三重項発光素子が注目をあびており、精力的に研究がおこ
なわれている。
【0017】
三重項発光素子は一重項発光素子に比べてはるかに高い発光効率であるが、しかし一重
項発光素子に比べて桁違いに寿命が短く、安定性に欠けている。また効率をあげるために
多層構造をとっているが、そのため素子構造が最低でも四層構造となっており、素子作製
に対して手間がかかる、といった単純なデメリットもある。
【0018】
素子の寿命に関しては、α-NPDを使用した正孔輸送層と、ホスト材料であるCBPおよび
ゲスト(ドーパント)材料であるIr(ppy)3を使用した発光層と、BCPを使用した正孔ブロ
ッキング層と、Alqを使用した電子輸送層と、を積層した素子において、初期輝度500 cd/
m2の条件で半減期がたった170時間という報告(非特許文献8参照)があり、この寿命で
は実用化には程遠い。
【0019】
この原因として非特許文献8では、正孔ブロッキング材料で使用しているBCPの安定性
が低いことが挙げられている。三重項発光素子においては、非特許文献5で示された素子
構造が基本構造となっており、正孔ブロッキング層は不可欠なものとして使用されている
。図12に従来の三重項発光素子の構造を示す。基板1101の上に陽極1102、その
上に有機化合物膜として正孔輸送層1103、発光層1104、正孔ブロッキング層11
05、電子輸送層1106、そして陰極1107を積層させた素子構造となっている。正
孔ブロッキング層によるキャリヤの閉じ込め効果によって、キャリヤの再結合は効率よく
行われるようになるが、しかし一方では、一般的に使用されている正孔ブロッキング材料
は安定性が低いという欠点を持っているため寿命が延びない。またホスト材料として使用
されているCBPも安定性の低い材料であるため、これも寿命が延びない原因の一つと考え
られる。
【0020】
正孔ブロッキング層を使用しない三層型構造の素子も作製されている(非特許文献9参
照)。ここではホスト材料として、両キャリヤ輸送性であると言われているCBPの代わり
に、電子輸送材料と用いることを特徴としている。しかしホスト材料に使用された電子輸
送材料は、正孔ブロッキング材料として使用されるBCP、1,3−ビス(N,N−t−ブチル−フ
ェニル)−1,3,4−オキサゾール(以下「OXD7」と記す)、3−フェニル−4−(1'−ナフ
チル)−5−フェニル−1,2,4−トリアゾール(以下「TAZ」と記す)であり、正孔ブロッ
キング層は導入しないものの、結局は正孔ブロッキング材料としてよく用いられるものを
素子内に使用している。BCPはもちろんその他のどの材料も安定性の低い材料であり、高
い効率は出るものの、安定性の低い素子となっている。
【0021】
また、正孔ブロッキング材料を使用しない単純な二層型の素子構造も報告されている(
非特許文献10参照)が、ホスト材料にCBPを使用しており、高い発光効率を得ているもの
の安定性に欠ける。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】C.W.Tang and S.A.Vanslyke, "Organic electroluminescent diodes" , Applied Physics Letters,Vol.51, No.12, 913-915 (1987)
【非特許文献2】Chihaya ADACHI, Shozuo TOKITO, Tetsuo TSUTSUI and Shogo SAITO, "Electroluminescence in Organic Films with Three-Layered Structure", Japanese Journal of Applied Physics, Vol. 27, No.2, L269-L271(1988)
【非特許文献3】C.W.Tang , S.A.Vanslyke and C.H.Chen, "Electroluminescence of doped organic thin films", Journal of Applied Physics, Vol.65, 3610-3616 (1989)
【非特許文献4】M.A.Baldo, D.F.O'Brien, Y.You, A.Shoustilkov, S.Silbley, M.A.Thomoson and S.R.Forrest, "Highly efficient phosphorescent emission from organic electroluminescent devices", Nature, Vol.395, 151-154 (1998)
【非特許文献5】D.F.O'Brien, M.A.Baldo, M.E.Thompson and S.R.Forrest, "Improved energy transfer in electrophosphorescent devices", Applied Physics Letters, Vol.74, No.3, 442-444 (1999)
【非特許文献6】M.A.Baldo, S.Lamansky, P.E.Burrows, M.E.Thompson and S.R.Forrest, "Very high-efficiency green organic light-emitting devices based on electrophosphorescence", Applied Physics Letters,Vol.75, No.1, 4-6 (1999)
【非特許文献7】Teruichi Watanabe, Kenji Nakamura, Shin Kawami, Yoshinori Fukuda, Taishi Tsuji, Takeo Wakimoto, Satoshi Miyaguchi, Masayuki Yahiro, Moon-Jae Yang, Tetsuo Tsutsui, "Optimization of emittimg efficiency in organic LED cells using Ir complex", Synthetic Metals, Vol.122, 203-207 (2001)
【非特許文献8】Tetsuo TSUTSUI, Moon-Jae YANG, Masayuki YAHIRO, Kenji NAKAMURA, Teruichi WATANABE, Taishi TSUJI, Yoshinori FUKUDA, Takeo WAKIMOTO and Satoshi MIYAGUCHI, "High Quantum Efficiency inorganic Light-Emitting Devices with Iridium-Complex as a Triplet Emissive Center", Japanese Journal of Applied Physics, Vol.38, No.12B, L1502-L1504 (1999)
【非特許文献9】Chihaya ADACHI, Marc A. Baldo, Stephen R. Forrest and Mark E. Thompson, "High-efficiency organic electrophosphorescent devices with tris(2-phinylpyridine)iridium doped into electron-transporting materials", Applied Physics Letters, Vol.77,No.6, 904-906 (2000)
【非特許文献10】Chihaya ADACHI, Raymond KWONG, Stephen R. Forrest, "Efficient electrophosphorescence using a doped ambipolar conductive molecular organic thin film", Organic Electronics, Vol.2, 37-43 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
このように、三重項発光素子において発光効率は高い素子は報告されているが、効率も
よく、安定性もある、といった三重項発光素子の報告は未だなく、その原因として使用さ
れているホスト材料、正孔ブロッキング材料の不安定性が原因となっている。
【0024】
そこで本発明では、このように不安定な材料を使用することなく、また素子構造を単純
化することで、高効率でかつ安定性のある、また従来の素子に比べ素子作製において手間
が省ける三重項発光素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、三重項発光素子において、従来の三重項発光素子で導入している正孔ブロッ
キング層を使用せず、有機化合物膜は、正孔輸送層と、三重項発光するドーパント材料を
安定性のある電子輸送材料に分散した層と、を積層させた単純な素子構造(図1)にする
ことで達成される。すなわち、基板101の上に陽極102、その上に正孔輸送材料から
なる正孔輸送層103、電子輸送材料および三重項発光するドーパント材料からなる電子
輸送性発光層104、そして陰極105を積層させた素子構造で達成される。ここでは、
陽極102と陰極105に挟まれた領域(すなわち正孔輸送層103および電子輸送性発
光層104)が有機化合物膜に相当する。
【0026】
したがって本発明では、陽極と、有機化合物膜と、陰極と、から構成される有機発光素
子において、前記有機化合物膜は、正孔輸送材料からなる正孔輸送層と、前記正孔輸送層
に接して設けられた電子輸送材料からなる電子輸送層と、を含み、かつ、前記電子輸送層
内に、三重項励起状態からの発光を呈する発光材料が添加されていることを特徴とする。
【0027】
なお、陽極102と正孔輸送層103との間には、正孔注入層を挿入してもよい。また
、陰極105と電子輸送性発光層104との間には、電子注入層を挿入してもよい。さら
に、これら正孔注入層および電子注入層の両方を挿入してもよい。
【0028】
ところで、上記のような素子において、正孔輸送層103が発光してしまうのを防ぐた
め、正孔輸送材料と電子輸送材料の組み合わせを考慮することも、課題を解決するための
手段として重要である。
【0029】
そこで本発明では、前記正孔輸送材料における最高被占分子軌道準位と最低空分子軌道
準位とのエネルギー差が、前記電子輸送材料における最高被占分子軌道準位と最低空分子
軌道準位とのエネルギー差よりも大きいことを特徴とする。
【0030】
また、他の手段として、前記正孔輸送材料の吸収スペクトルと前記電子輸送材料の発光
スペクトルが重ならないことを特徴とする。この場合、ただ単にスペクトルが重ならない
だけでなく、スペクトルの位置関係として、前記正孔輸送材料の吸収スペクトルが前記電
子輸送材料の発光スペクトルよりも短波長側に位置することが好ましい。
【0031】
ここで、上記で述べたような本発明の三重項発光素子の発光効率を向上させるために、
三重項発光するドーパントがキャリアをトラップしやすい素子構成にすることも、課題を
解決するための手段として重要である。
【0032】
そこで本発明では、三重項励起状態からの発光を呈する発光材料の最高被占分子軌道準
位および最低空分子軌道準位が共に、前記電子輸送材料における最高被占分子軌道準位と
最低空分子軌道準位とのエネルギーギャップ内に位置することを特徴とする。
【0033】
また、他の手段として、前記正孔輸送材料のイオン化ポテンシャルの値が、三重項励起
状態からの発光を呈する発光材料のイオン化ポテンシャルの値と比べて同じかまたは大き
いことを特徴とする。
【0034】
さらに他の手段として、前記正孔輸送材料の最低空分子軌道準位を示す値の絶対値が、
前記電子輸送材料の最低空分子軌道準位を示す値の絶対値よりも0.2 eV以上小さいことを
特徴とする。
【0035】
なお、これらを組み合わせた素子構成、すなわち、前記正孔輸送材料のイオン化ポテン
シャルの値が三重項励起状態からの発光を呈する発光材料のイオン化ポテンシャルの値と
比べて同じかまたは大きく、かつ、前記正孔輸送材料の最低空分子軌道準位を示す値の絶
対値が前記電子輸送材料の最低空分子軌道準位を示す値の絶対値よりも0.2 eV以上小さい
場合が、より好ましいと言える。
【0036】
上記のことを考慮し、本発明に好適な正孔輸送材料として、4,4',4"-トリス(N−カルバ
ゾール)トリフェニルアミン、4,4'-ビス[N,N-ビス(3-メチルフェニル)-アミノ]-ジフェニ
ルメタン、1,3,5-トリス[N,N-ビス(2-メチルフェニル)-アミノ]-ベンゼン、1,3,5-トリス
[N,N-ビス(3-メチルフェニル)-アミノ]-ベンゼン 、1,3,5-トリス[N,N-ビス(4-メチルフ
ェニル)-アミノ]-ベンゼンのいずれかを使用することを特徴とする。
【0037】
また、前記電子輸送材料に2,2',2"-(1,3,5-ベンゼントリイル)トリス-[1-フェニル-1H
-ベンゾイミダゾ−ル]、リチウムテトラ(2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾオキサゾラト
ボロン、ビス(2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾオキサゾラト)(トリフェニルシラノラト)
アルミニウム、ビス(2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト)(トリフェニルシラノ
ラト)アルミニウム、2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾオキサゾラトリチウム、(2-(2-ヒ
ドロキシフェニル)ベンゾオキサゾラト)-ジフェニルボロン、トリス(8-キノリノラト)-
アルミニウム、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム
、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(4-フェニルフェノラト)アルミニウム、リチウムテト
ラ(2-メチル-8-ヒドロキシ-キノリナト)ボロン、(2-メチル-8-キノリノラト)-ジフェニル
ボロン、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)アルミニウムヒドロキシドのいずれかを使用す
ることを特徴とする。
【0038】
さらに本発明の素子においては、これらの正孔輸送材料および電子輸送材料を組み合わ
せて使用することが有効である。
【発明の効果】
【0039】
本発明を実施する事で、従来の三重項発光素子と同じ程度の高効率な三重項発光素子を
、簡略な素子構成で得る事ができる。また、不安定な材料を使用する層を省く事で、安定
性のある有機発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明における二層型三重項発光素子の素子構造を示す図。
【図2】HOMO−LUMOのエネルギー準位を示す図。
【図3】素子のエネルギーギャップダイヤグラム。
【図4】ホスト材料の発光スペクトルと正孔輸送材料の吸収スペクトルの位置関係を示す図。
【図5】実施例1の初期特性及び発光スペクトル。
【図6】実施例2の初期特性及び発光スペクトル。
【図7】実施例3の初期特性及び発光スペクトル。
【図8】実施例4の初期特性及び発光スペクトル。
【図9】比較例1の初期特性及び発光スペクトル。
【図10】比較例2の初期特性及び発光スペクトル。
【図11】比較例3の初期特性及び発光スペクトル。
【図12】従来の三重項発光素子の素子構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、有機発光素子は、発光を取り
出すために少なくとも陽極、または陰極の一方が透明であれば良いが、本実施例の形態で
は、基板上に透明な陽極を形成し、陽極側から光を取り出す素子構造を記述する。実際は
陰極を基板上に形成して陰極から光を取りだす構造や、基板とは逆側から光を取り出す構
造、電極の両側から光を取り出す構造にも適用可能である。
【0042】
上記のように、本発明では、三重項発光素子において正孔ブロッキング層を使用しない
ことを特徴としている(図1)。しかし、ただ単純に従来の素子構造(図12)から正孔
ブロッキング層を除いた素子を作製すればよい、ということにはならない。
【0043】
まず、従来の三重項発光素子と本発明の二層型の素子では、再結合領域に違いがある。
従来の三重項発光素子においては正孔ブロッキング層を用いることより、キャリヤの再結
合領域は発光層と正孔ブロッキング層の界面であった。これに対して本発明で提案する素
子構造では、キャリヤの再結合領域は正孔輸送層とホストである電子輸送材料との界面に
なる。
【0044】
このため、三重項発光素子の発光機構が重要である。一般にドーパント(ゲスト)を使
用したホスト―ゲスト系の発光層を使用した素子の発光機構として、2種類の発光機構が
考えられる。
【0045】
第一の発光機構は、ホストからのエネルギー移動によるドーパントの発光である。この
場合まず、ホストに両キャリヤが注入されホストの励起分子が形成される。この励起分子
のエネルギーがドーパントに移動し、そのエネルギーによってドーパントは励起され、失
活する際に光を放出する。三重項発光素子の場合、ドーパントは三重項励起分子経由で燐
光を放出する材料であるため、発光した光は燐光である。
【0046】
エネルギー移動による発光機構で重要となってくるのは、ホスト材料の発光スペクトル
とドーパント材料の吸収スペクトルの重なり合いが大きいことである。ホスト材料および
ドーパント材料における最高被占分子軌道(HOMO)と最低空分子軌道(LUMO)の位置関係
は重要ではない。
【0047】
なお、本明細書において、HOMOの値は大気中における光電子分光測定により観測したイ
オン化ポテンシャルの値を使用する。また、吸収スペクトルの吸収端をHOMOとLUMOとのエ
ネルギー差(以下、このエネルギー差を「エネルギーギャップ値」と記す)としている。
従って、LUMOの値は、光電子分光測定によって測定されたイオン化ポテンシャルの値から
、吸収スペクトルの吸収端によって見積もられたエネルギーギャップ値を引いたものを使
用している。ここで、実際にはこれらの値(HOMO(イオン化ポテンシャル)、LUMO、エネ
ルギーギャップ値)は真空準位を基準としているため負の値をとるが、本明細書中ではす
べて絶対値で表すこととする。HOMO、LUMO、エネルギーギャップ値の概念図を表すと、図
2のようになる。
【0048】
ところで、もしドーパント材料のHOMOおよびLUMOのエネルギーレベルが共に、ホスト材
料におけるHOMOとLUMOとのエネルギーギャップ内に位置する場合、先程述べたホストから
ドーパントへのエネルギー移動の発光機構に加え、ドーパント上でキャリヤがトラップさ
れてドーパント上で直接キャリヤが再結合される、という直接再結合の発光機構も生じる
。これが第二の発光機構である。
【0049】
しかし、ドーパント材料とホスト材料がこのようなエネルギーレベルの位置関係にある
場合、エネルギー移動もおこる条件となっているため、発光機構がどちらの機構からの寄
与であるのか分離することは通常難しく、両方の発光機構が関与している可能性も考えら
れる。
【0050】
まず、三重項発光素子がエネルギー移動の機構(第一の発光機構)で発光している場合
を考える。従来の素子構造ではキャリヤの再結合領域が発光層と正孔ブロッキング層との
界面であることから、ホスト材料からドーパント材料へのエネルギー移動以外にも、正孔
ブロッキング材料へのエネルギー移動も考えられる。しかし正孔ブロッキング材料の吸収
スペクトルが非常に短波長側にあるため、従来の三重項発光素子で報告されてきたホスト
材料の発光スペクトルと正孔ブロッキング材料の吸収スペクトルは重なりあう部分はなく
、ホスト材料−正孔ブロッキング材料間でのエネルギー移動は起こりえない。つまり、従
来型の三重項発光素子では、ホスト材料から正孔ブロッキング材料へはエネルギー移動が
起こらないような素子構造になっているといえる。
【0051】
これに対して本発明での素子構造では、キャリヤの再結合領域は、正孔輸送材料を含む
正孔輸送層とホスト材料を含む電子輸送性発光層との界面である。このため、本発明の素
子ではホスト材料から正孔輸送材料へのエネルギー移動が考えられる。ホスト材料から正
孔輸送材料へエネルギー移動がおこってしまっては、効率よい発光を得ることができない

【0052】
そこで、エネルギー移動に関してホスト材料のエネルギーギャップ値と正孔輸送材料の
エネルギーギャップ値の大小関係が大まかな目安となる。ホスト材料のエネルギーギャッ
プ値が正孔輸送材料のエネルギーギャップ値より小さければ、ホスト材料からのエネルギ
ー移動で正孔輸送材料を励起させることは難しい。このことから、ホスト材料から正孔輸
送材料へエネルギー移動が起こらないようにするために、正孔輸送材料はホスト材料より
も大きいエネルギーギャップ値を持つものが好ましい。
【0053】
図3は、この場合のエネルギーダイヤグラムである。図3に示すように、正孔輸送材料
のエネルギーギャップ値Aはホスト材料のエネルギーギャップ値Bより大きくなるよう、材
料を選択すればよい。
【0054】
また、ホスト材料−正孔輸送材料間でエネルギー移動が起こらない条件として、ホスト
材料の発光スペクトルと正孔輸送材料の吸収スペクトルに重なり合いを持たないような材
料の組み合わせを選択する手法もある。この際、正孔輸送材料の吸収スペクトルは電子輸
送材料の発光スペクトルよりも短波長側に位置することが好ましい。
【0055】
図4にこの条件を図示する。(a)はホスト材料−正孔輸送材料間でエネルギー移動が
起こってしまう場合のスペクトルの位置関係を、(b)はホスト材料−正孔輸送材料間で
エネルギー移動を起こさない場合のスペクトルの位置関係を、それぞれ示している。本発
明では(b)の位置関係にあることが好ましい。
【0056】
これらの条件以外に、ドーパント材料のHOMOおよびLUMOのエネルギーレベルが共に、ホ
スト材料のHOMOとLUMOのエネルギーギャップ内に位置するようなホスト材料を選んだ場合
、直接再結合の発光機構(第二の発光機構)も考慮されるため、さらなる条件を考慮する
ことが重要である。
【0057】
この場合、正孔輸送材料からドーパント材料へ正孔キャリヤが注入されやすいよう、正
孔輸送材料のHOMOを示すイオン化ポテンシャルの値が大きいものが適している。すなわち
、ドーパント材料のイオン化ポテンシャルより正孔輸送材料のイオン化ポテンシャルが大
きくなるように組み合わせる。正孔輸送材料のイオン化ポテンシャルが大きすぎると陽極
から正孔輸送材料に正孔が注入されにくくなるが、この場合は陽極と正孔輸送層との間に
正孔注入層を導入することで改善される。
【0058】
また、電子キャリヤに対しては、電子輸送性のホストを介してドーパントが電子キャリ
ヤをトラップすると考えられる。ドーパントにトラップされなかった電子が電子輸送層内
を移動し、正孔輸送層との界面までたどり着いた場合、もし正孔輸送材料のLUMO準位がホ
スト材料のLUMO準位と大差がなければ、界面にたどり着いた電子は正孔輸送層へ入り込ん
でしまう。このため電子は電子輸送層へ閉じ込められず、効率よい再結合が行われない。
このような状況を避けるため、正孔輸送材料とホスト材料である電子輸送材料とのLUMO準
位の差は、電子をブロッキングするのに十分大きいものであることが望まれる。この差は
0.2 eV以上あることが望ましい。
【0059】
次に、本発明の三重項発光素子の作製法および用いる材料について、より具体的に例示
する。
【0060】
図1に示す本発明の素子作製方法は、まず、陽極(ITO)を有する基板に正孔輸送材料
を蒸着し、次に電子輸送材料(ホスト材料)と三重項発光材料(ドーパント材料)を共蒸
着し、最後に陰極を蒸着で形成する。ホスト材料とドーパント材料を共蒸着する際のドー
パント濃度は、約8wt%程度になるようにあわせる。最後に封止を行い、有機発光素子を
得る。
【0061】
次に、本発明の素子で使用できる正孔注入材料、正孔輸送材料、電子輸送材(ホスト材
料)、三重項発光材料(ドーパント材料)に好適な材料を以下に列挙する。ただし、本発
明の素子に用いる材料は、これらに限定されない。
【0062】
正孔注入材料としては、有機化合物でればポルフィリン系の化合物や、フタロシアニン
(以下「H2Pc」と記す)、銅フタロシアニン(以下「CuPc」と記す)などが有効である。
また、使用する正孔輸送材料よりもイオン化ポテンシャルの値が小さく、かつ、正孔輸送
機能をもつ材料であれば、これも正孔注入材料として使用できる。導電性高分子化合物に
化学ドーピングを施した材料もあり、ポリスチレンスルホン酸(以下「PSS」と記す)を
ドープしたポリエチレンジオキシチオフェン(以下「PEDOT」と記す)や、ポリアニリン
などが挙げられる。また、絶縁体の高分子化合物も陽極の平坦化の点で有効であり、ポリ
イミド(以下「PI」と記す)がよく用いられる。さらに、無機化合物も用いられ、金や白
金などの金属薄膜の他、酸化アルミニウム(以下「アルミナ」と記す)の超薄膜などがあ
る。
【0063】
正孔輸送材料としては、そのエネルギーギャップ値が、ホスト材料として使用する電子
輸送材料のエネルギーギャップ値よりも大きいものが有効である。また、発光材料よりも
イオン化ポテンシャルが大きい、あるいは電子輸送材料よりもLUMOの絶対値が0.2 eV以上
小さいことが好ましい。
【0064】
本発明の素子に好適なエネルギーギャップ値の大きい正孔輸送材料としては、下記構造
式(1)で表される4,4',4"-トリス(N−カルバゾール)トリフェニルアミン(以下「TCTA
」と記す)、下記構造式(2)で表される1,3,5-トリス[N,N-ビス(2-メチルフェニル)-ア
ミノ]-ベンゼン(以下「o-MTDAB」と記す)、下記構造式(3)で表される1,3,5-トリス[
N,N-ビス(3-メチルフェニル)-アミノ]-ベンゼン (以下「m-MTDAB」と記す) 、下記構造式
(4)で表される1,3,5-トリス[N,N-ビス(4-メチルフェニル)-アミノ]-ベンゼン(以下「
p-MTDAB」と記す)、下記構造式(5)で表される4,4'-ビス[N,N-ビス(3-メチルフェニル
)-アミノ]-ジフェニルメタン(以下「BPPM」と記す)などが挙げられる。
【0065】
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【0066】
一方、もっとも広く用いられている芳香族アミン系の化合物である4-4'-ビス[N-(3-メ
チルフェニル)-N-フェニル-アミノ]-ビフェニル(以下「TPD」と記す)や、その誘導体
であるα-NPDなどは、構造式(1)〜(5)の化合物に比べてエネルギーギャップ値が小
さく、本発明の素子に対する使用が困難である。構造式(1)〜(5)の化合物、α-NPD
、TPDのエネルギーギャップ値(実測値)をまとめると、表1のようになる。
【0067】
【表1】

【0068】
次に、ホストとなる電子輸送材料としては、安定性の高いものが好ましく、安定性の高
い金属錯体が多くあげられる。ホスト材料はドーパントである三重項発光材料よりもエネ
ルギーギャップ値の大きい材料でなくてはならない。このようなホスト材料は、使用する
発光材料によって異なってくる。本発明の素子において、ホストとして使用可能である電
子輸送材料の例を以下に示す。
【0069】
本発明において、青色発光材料に対するホスト材料として使用できる物質は、下記構造
式(6)で表される2,2',2"-(1,3,5-ベンゼントリル)トリス-[1-フェニル-1H -ベンゾイ
ミダゾ−ル](以下「TPBI」と記す)といった、紫外領域ほどの非常に短波長に発光スペ
クトルが見られるような物質が挙げられる。
【0070】
【化6】

【0071】
本発明において、緑色発光材料に対するホスト材料としては、下記構造式(7)で表さ
れるリチウムテトラ(2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾオキサゾラトボロン(以下「LiB(P
BO)4」と記す)、下記構造式(8)で表されるビス(2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾオ
キサゾラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム(以下「SAlo」と記す)、下記構造
式(9)で表されるビス(2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト)(トリフェニルシ
ラノラト)アルミニウム(以下「SAlt」と記す)、下記構造式(10)で表される2-(2-ヒ
ドロキシフェニル)ベンゾオキサゾラトリチウム(以下「Li(PBO)」と記す)、下記構造式
(11)で表される(2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾオキサゾラト)-ジフェニルボロン
(以下「B(PBO)Ph2」と記す)などが挙げられる。これらに加え、青色発光できる材料の
使用も可能である。
【0072】
【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【0073】
本発明において、赤色発光材料に対するホスト材料としては、下記構造式(12)で表
されるAlq、下記構造式(13)で表されるビス(2-メチル-8-キノリノラト)(トリフェニ
ルシラノラト)アルミニウム(以下「SAlq」と記す)、下記構造式(14)で表されるビ
ス(2-メチル-8-キノリノラト)(4-フェニルフェノラト)アルミニウム(以下「BAlq」と記
す)、下記構造式(15)で表されるリチウムテトラ(2-メチル-8-ヒドロキシ-キノリナ
ト)ボロン(以下「LiB(mq)4」と記す)、下記構造式(16)で表される(2-メチル-8-キ
ノリノラト)-ジフェニルボロン(以下「BmqPh」と記す)、下記構造式(17)で表され
るビス(2-メチル-8-キノリノラト)アルミニウムヒドロキシド(以下「Almq2(OH)」と記す
)などが挙げられる。これらに加え、青色発光できる材料、緑色発光できる材料もホスト
材料として使用可能である。
【0074】
【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【0075】
なお、ここで述べたホスト材料のうちのいくつかに関するエネルギーギャップ値(実測
値)は、表2のようになる。
【0076】
【表2】

【0077】
ドーパントである三重項発光材料としては、イリジウムまたは白金を中心金属とする錯
体が多くあげられるが、室温で燐光を発する材料であればよい。PtOEP 、Ir(ppy)3やビス
(2-フェニルピリジナト-N,C2')アセチルアセトナトイリジウム(以下「acacIr(ppy)2」と
記す)、ビス(2-(4'-トリル)ピリジナト-N,C2')アセチルアセトナトイリジウム(以下「a
cacIr(tpy)2」と記す)、ビス(2-(2'-ベンゾチエニル)-ピリジナト-N,C3')アセチルアセ
トナトイリジウム(以下「acacIr(btp)2」と記す)などが挙げられる。
【0078】
なお、ここで述べたドーパント材料のエネルギーギャップ値(実測値)は、表3のよう
になる。
【0079】
【表3】

【0080】
電子注入材料としては、上で述べた電子輸送材料を用いることができる。しかし、正孔
ブロッキング材料として使用されるような電子輸送材料(BCPやOXD7など)は、安定性が
低いため不適である。その他にフッ化リチウムなどのアルカリ金属ハロゲン化物や酸化リ
チウムなどのアルカリ金属酸化物のような、絶縁体の超薄膜がよく用いられる。また、リ
チウムアセチルアセトネート(以下「Li(acac)」と記す)や、8-キノリノラト-リチウム
(以下「Liq」と記す)などのアルカリ金属錯体も有効である。
【0081】
以上で述べたような各機能を有する材料を、各々組み合わせ、本発明の有機発光素子に
適用することにより、従来の三重項発光素子よりも作製過程において手間が省ける上に、
安定性が高く、効率的には従来の三重項発光素子と同じ程度の高効率有機発光素子を作製
することができる。
【0082】
本実施例では、本発明の図2に示した有機発光素子を具体的に例示する。
【実施例1】
【0083】
まず、陽極102であるITOが100 nm程度成膜されたガラス基板101に、正孔輸送材
料であるBPPMを40 nm蒸着する。これが正孔輸送層103である。
【0084】
正孔輸送層が作製された後、三重項発光材料であるacacIr(tpy)2と電子輸送材料(ホス
ト材料)であるTPBIをおよそ2:23の比率(重量比)になるように共蒸着を行う。つまりT
PBIに約8 wt%の濃度でacacIr(tpy)2が分散されていることになる。この共蒸着膜を50 nm
成膜する。これが電子輸送性発光層104である。
【0085】
最後に陰極105としてMgとAgを原子比が10:1になるように共蒸着を行い、陰極を150
nm成膜する。これによりacacIr(tpy)2に由来する緑色発光の三重項発光素子を得る。
【0086】
図5はこの素子における初期特性のグラフ、及び発光スペクトルである。単純な二層型
の素子構造でも最大外部量子効率が約10 %と高い効率の素子特性を示した。
【実施例2】
【0087】
実施例1とは異なった正孔輸送材料(但し本発明の条件を満たす材料)を使用し、本発
明の素子を作製した。
【0088】
まず、陽極102であるITOが100 nm程度成膜されたガラス基板101に、正孔輸送材
料であるo-MTDABを40 nm蒸着する。これが正孔輸送層103である。
【0089】
正孔輸送層が作製された後、三重項発光材料であるacacIr(tpy)2と電子輸送材料(ホスト
材料)であるTPBIをおよそ2:23の比率(重量比)になるように共蒸着を行う。つまりTPB
Iに約8wt%の濃度でacacIr(tpy)2が分散されていることになる。この共蒸着膜を50 nm成
膜する。これが電子輸送性発光層104である。
【0090】
最後に陰極105としてMgとAgを原子比が10:1になるように共蒸着を行い、陰極を150
nm成膜する。これによりacacIr(tpy)2に由来する緑色発光の三重項発光素子を得る。
【0091】
図6はこの発光素子の初期特性及び発光スペクトルのグラフである。実施例1同様、高
効率の素子が作製できる。
【実施例3】
【0092】
実施例1とは異なった電子輸送材料(但し本発明の条件を満たす材料)をホスト材料と
して使用し、本発明の示す有機発光素子を作製した。作製方法は実施例1、2と同様の方
法であり、正孔輸送材料にBPPM、ホストである電子輸送材料にSAlt、ドーパントはacacIr
(tpy)2を使用している。acacIr(tpy)2に由来する緑色発光の三重項発光素子を得ることが
できる。
【0093】
図7にこの素子の初期特性及び発光スペクトルを示す。実施例1、2と同様従来の三重
項発光素子と同当の高効率素子となる。
【実施例4】
【0094】
実施例1、2、3とは異なった三重項発光材料をドーパントとして使用し、実施例1、
2、3とは発光色の異なる有機発光素子を作製した。作製方法は実施例1、2、3と同様
の方法であり、正孔輸送材料にBPPM、ホストである電子輸送材料にTPBI、ドーパントはビ
ス(2-(2',4'-ジフルオロフェニル)ピリジナト-N,C2')ピコラトイリジウムを使用している
。ドーパント材料に由来する青色発光の三重項発光素子を得ることができる。
【0095】
図8にこの素子の初期特性及び発光スペクトルを示す。実施例1、2、3と同様従来の
三重項発光素子と同当の高効率素子となる。
【0096】
[比較例1]
本比較例は、図12に示すような、従来の三重項発光素子と同様な構造の素子を作製し
、その際の特性を本発明の素子と比較した。
【0097】
まず、陽極1102であるITOが100 nm程度成膜されたガラス基板1101に、正孔輸
送材料であるα-NPDを40 nm蒸着する。これが正孔輸送層1103である。
【0098】
正孔輸送層が作製された後、三重項発光材料であるacacIr(tpy)2とホスト材料であるCB
Pをおよそ2:23の比率(重量比)になるように共蒸着を行う。つまりCBPに約8wt%の濃度
でacacIr(tpy)2が分散されていることになる。この共蒸着膜を50 nm成膜する。これが発
光層1104である。
【0099】
発光層を形成した後、正孔ブロッキング材料であるBCPを20 nm蒸着し正孔ブロッキング
層1105を形成する。その後電子輸送材料であるAlqを30 nm蒸着し電子輸送層1106
を形成する。
【0100】
最後に陰極1107としてMgとAgを原子比が10:1になるように共蒸着を行い、陰極を15
0 nm成膜する。これによりacacIr(tpy)2に由来する緑色発光の三重項発光素子を得る。
【0101】
図9にこの素子の初期特性、及び発光スペクトルを示す。実施例1、2、3と比べてみ
ると、実施例で示した本発明の素子は従来型の素子と同じ程度の高効率の素子であること
がわかる。正孔ブロッキング層を使用しなくとも十分な素子特性を示す事が確認できた。
【0102】
[比較例2]
本比較例では、本発明の素子の条件に当てはまらないような正孔輸送材料を使用した、
二層型構造の三重項発光素子の特性を例示する。
【0103】
作製方法は実施例と同様であるが、使用する正孔輸送材料のエネルギーギャップ値がホ
スト材料に比べて小さくなるような、正孔輸送材料−ホスト材料の組み合わせを使用する
。正孔輸送材料にはTPD、ホスト材料には電子輸送材料であるTPBI、ドーパントにはacacI
r(tpy)2を使用する。
【0104】
図10にこの素子の初期特性、発光スペクトルを示す。正孔輸送材料にTPDを使用する
と、三重項発光素子にしては非常に効率の低い素子となった。発光スペクトルをみるとわ
かるが、acacIr(tpy)2からの発光以外にもTPDからの発光であるスペクトル(400nm付近)
が観測される。これが原因で効率が低くなってしまう。このように、条件に当てはまらな
い材料を使用すると素子の初期特性は悪い。
【0105】
[比較例3]
本比較例では、比較例2と同様、本発明の素子の条件に当てはまらないような正孔輸送
材料を使用した、二層型構造の三重項発光素子の特性を例示する。
【0106】
作製方法は実施例と同様であるが、使用する正孔輸送材料のエネルギーギャップ値がホ
スト材料に比べて小さくなるような正孔輸送材料−ホスト材料の組み合わせを使用する。
正孔輸送材料にはα-NPD、ホスト材料には電子輸送材料であるTPBI、ドーパントにはacac
Ir(tpy)2を使用する。
【0107】
図11にこの素子の初期特性、発光スペクトルを示す。正孔輸送材料にα-NPDを使用す
ると、比較例2同様、三重項発光素子にしては非常に効率の低い素子となった。発光スペ
クトルも比較例2同様、正孔輸送材料であるα-NPDからの発光であるスペクトル(440nm
付近)も観測される。これが原因で効率が低くなってしまう。このように、条件に当ては
まらない材料を使用すると素子の初期特性は悪くなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、有機化合物膜と、陰極とを有し、
前記有機化合物膜は、正孔輸送層と、前記正孔輸送層に接して設けられた電子輸送層とを有し、
前記正孔輸送層は正孔輸送材料を有し、
前記電子輸送層は、電子輸送材料及び三重項励起状態からの発光を呈する発光材料を有し、
前記発光材料はイリジウム錯体を含み、
前記正孔輸送材料における最高被占分子軌道準位と最低空分子軌道準位とのエネルギー差が、前記電子輸送材料における最高被占分子軌道準位と最低空分子軌道準位とのエネルギー差よりも大きいことを特徴とする発光素子。
【請求項2】
請求項1に記載の発光素子において、
金薄膜、白金薄膜または酸化アルミニウム薄膜を有する正孔注入層をさらに有し、
前記正孔注入層は、前記陽極と前記正孔輸送層との間に設けられていることを特徴とする発光素子。
【請求項3】
請求項1に記載の発光素子において、
アルカリ金属ハロゲン化物またはアルカリ金属酸化物の薄膜を有する電子注入層をさらに有し、
前記電子注入層は、前記陰極と前記電子輸送層との間に設けられていることを特徴とする発光素子。
【請求項4】
請求項1に記載の発光素子において、
フッ化リチウムまたは酸化リチウムの薄膜を有する電子注入層をさらに有し、
前記電子注入層は、前記陰極と前記電子輸送層との間に設けられていることを特徴とする発光素子。
【請求項5】
請求項1に記載の発光素子において、
アルカリ金属錯体を有する電子注入層をさらに有し、
前記電子注入層は、前記陰極と前記電子輸送層との間に設けられていることを特徴とする発光素子。
【請求項6】
請求項1に記載の発光素子において、
リチウムアセチルアセトネートまたは8−キノリノラト−リチウムを有する電子注入層をさらに有し、
前記電子注入層は、前記陰極と前記電子輸送層との間に設けられていることを特徴とする発光素子。
【請求項7】
陽極と、有機化合物膜と、陰極とを有し、
前記有機化合物膜は、前記陽極に接して設けられた正孔注入層と、正孔輸送層と、前記正孔輸送層に接して設けられた電子輸送層とを有し、
前記正孔輸送層は正孔輸送材料を有し、
前記電子輸送層は、電子輸送材料及び三重項励起状態からの発光を呈する発光材料を有し、
前記発光材料はイリジウム錯体を含み、
前記正孔輸送材料における最高被占分子軌道準位と最低空分子軌道準位とのエネルギー差が、前記電子輸送材料における最高被占分子軌道準位と最低空分子軌道準位とのエネルギー差よりも大きいことを特徴とする発光素子。
【請求項8】
陽極と、有機化合物膜と、陰極とを有し、
前記有機化合物膜は、正孔輸送層と、前記正孔輸送層に接して設けられた電子輸送層と、前記陰極に接して設けられた電子注入層とを有し、
前記正孔輸送層は正孔輸送材料を有し、
前記電子輸送層は、電子輸送材料及び三重項励起状態からの発光を呈する発光材料を有し、
前記発光材料はイリジウム錯体を含み、
前記正孔輸送材料における最高被占分子軌道準位と最低空分子軌道準位とのエネルギー差が、前記電子輸送材料における最高被占分子軌道準位と最低空分子軌道準位とのエネルギー差よりも大きいことを特徴とする発光素子。
【請求項9】
陽極と、有機化合物膜と、陰極とを有し、
前記有機化合物膜は、前記陽極に接して設けられた正孔注入層と、正孔輸送層と、前記正孔輸送層に接して設けられた電子輸送層と、前記陰極に接して設けられた電子注入層とを有し、
前記正孔輸送層は正孔輸送材料を有し、
前記電子輸送層は、電子輸送材料及び三重項励起状態からの発光を呈する発光材料を有し、
前記発光材料はイリジウム錯体を含み、
前記正孔輸送材料における最高被占分子軌道準位と最低空分子軌道準位とのエネルギー差が、前記電子輸送材料における最高被占分子軌道準位と最低空分子軌道準位とのエネルギー差よりも大きいことを特徴とする発光素子。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の発光素子において、
前記正孔輸送材料は、4,4’,4”−トリス(N−カルバゾール)トリフェニルアミン、4,4’−ビス[N,N−ビス(3−メチルフェニル)−アミノ]−ジフェニルメタン、1,3,5−トリス[N,N−ビス(2−メチルフェニル)−アミノ]−ベンゼン、1,3,5−トリス[N,N−ビス(3−メチルフェニル)−アミノ]−ベンゼン、1,3,5−トリス[N,N−ビス(4−メチルフェニル)−アミノ]−ベンゼンのいずれかであることを特徴とする発光素子。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載の発光素子において、
前記電子輸送材料は、2,2’,2”−(1,3,5−ベンゼントリル)トリス−[1−フェニル−1H−ベンゾイミダゾ−ル]、リチウムテトラ(2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾオキサゾラトボロン、ビス(2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾオキサゾラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム、ビス(2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム、2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾオキサゾラトリチウム、(2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾオキサゾラト)−ジフェニルボロン、トリス(8−キノリノラト)−アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(4−フェニルフェノラト)アルミニウム、リチウムテトラ(2−メチル−8−ヒドロキシ−キノリナト)ボロン、(2−メチル−8−キノリノラト)−ジフェニルボロン、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)アルミニウムヒドロキシドのいずれかであることを特徴とする発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−56581(P2010−56581A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279334(P2009−279334)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【分割の表示】特願2004−360371(P2004−360371)の分割
【原出願日】平成14年11月26日(2002.11.26)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】