説明

発光素子

【課題】反射膜では完全に反射しきれずに反射膜を透過した一次光により励起される二次光を有効利用することにある。
【解決手段】基板と、該基板の上方に配設されて一次光を発する発光層と、前記基板と前記発光層との間に配設され、前記一次光を反射する少なくとも1層からなる反射膜とを具える発光素子であって、該発光素子は、前記基板と前記反射膜との間に配設される、2層以上の光波長制御層からなる光波長制御多層膜をさらに具え、該光波長制御多層膜は、前記反射膜では完全に反射しきれずに反射膜を透過した一次光により励起される二次光の波長を基板励起光の波長とは異なる波長域内に制御することができることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子に関し、特に、センサ用途等に用いられる発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、基板上にダブルヘテロ構造を具える発光素子において、発光層で発生した一次光は、発光素子表面の光取り出し側だけではなく、全方向に向かうこととなる。このうち、発光素子の裏面に向かった一次光は、裏面の電極または基板に吸収・散乱されて、発光素子の光出力には直接寄与せず、発光効率の低下を招く原因となっていた。
【0003】
そのため、従来、基板と発光層との間に、この発光層で発生した一次光のうち、発光素子の裏面に向かった一次光を反射するための反射膜を設ける技術が開発されてきたが、このような一次光を完全に反射することは難しく、特に、反射膜に対して斜めに入射した光に関しては、反射膜の反射帯域がずれてしまい、反射率が30〜40%程度まで低下する。これにより、一次光の一部は反射膜を透過して基板に達し、副次的に基板励起光を発することになる。この基板励起光は、上記一次光とは異なる波長を有するため、例えば一次光が信号光としてセンサ用途に用いられる場合、信号光への雑音が重畳されてしまうという問題があった。
【0004】
そのため、特許文献1には、基板と発光層との間に、この発光層で発生した一次光のうち、発光素子の裏面に向かった一次光を吸収するための光吸収層を設ける技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、基板と発光層との間に、この発光層で発生した一次光のうち、発光素子の裏面に向かった一次光により励起された励起光を反射し、励起光が発光素子の表面に向かうのを抑制し、基板に吸収させるための反射膜を設ける技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された技術は、光吸収層で吸収された一次光の光エネルギーが熱となり、発光素子内で余分な熱を生じさせてしまうという問題があり、また、特許文献2に記載された技術は、発生した励起光が素子表面から取り出されることを抑制するだけで、発光素子の表面に向かわなかった分の光のエネルギーを無駄に熱変換するという点については、何ら改善されたものではなかった。これらの熱は、発光効率や信頼性の低下をもたらす場合がある。
【0007】
また、副次的に発する光を一次光と異なる別の信号光として有効利用することも一部で研究されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−284637号公報
【特許文献2】特開平9−289336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に、発光素子をセンサとして用いる場合は、受光素子(フォトダイオード)との対の形で用いることが多い。たとえばGaAsを基板に用いた場合の基板励起光の波長は860nmであるのに対し、通常用いられるSi系フォトダイオードは、一般に受光波長範囲が広いため、一次光の波長だけでなく上記基板励起光にも感度を有する場合が多い。この基板励起光の波長に対する感度が、信号光への雑音といった問題を引き起こすことになる。本発明の目的は、上述した問題を解決し、または一次光により励起された二次光を別の信号光として有効利用するために、反射膜では完全に反射しきれずに反射膜を透過した一次光により励起される二次光を、有効に放出することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)基板と、該基板の上方に配設されて一次光を発する発光層と、前記基板と前記発光層との間に配設され、前記一次光を反射する少なくとも1層からなる反射膜とを具える発光素子であって、該発光素子は、前記基板と前記反射膜との間に配設される、2層以上の光波長制御層からなる光波長制御多層膜をさらに具え、該光波長制御多層膜は、前記反射膜では完全に反射しきれずに反射膜を透過した一次光により励起される二次光の波長を、基板励起光の波長とは異なる波長域内に制御することができることを特徴とする発光素子。
【0011】
(2)前記光波長制御多層膜は、前記二次光の中心波長λ2が、前記基板が中心波長λ1である前記一次光により励起された場合の基板励起光の中心波長λ3に対し、前記二次光の中心波長λ2が下記の関係を有するよう制御する上記(1)に記載の発光素子。
λ3−230nm≦λ2≦λ3+440nm(λ1<λ2≠λ3)
【0012】
(3)前記光波長制御多層膜はInxGa1-xAs/AlyGa1-yAs(0≦x≦1,0≦y≦1)からなる量子井戸二次光膜であり、前記InxGa1-xAs材料中のIn組成は、臨界膜厚以下となるような条件を満たす組成からなる上記(1)または(2)に記載の発光素子。
【0013】
(4)前記光波長制御多層膜はAlxGa1-xAs材料(0≦x≦1)からなる二次光分散膜であり、前記AlxGa1-xAs材料中のAl組成は、前記基板側から前記反射膜側へ向かう前記光波長制御多層膜の厚さ方向に、低Al組成と高Al組成との間を複数回往復しながら連続的に変化させてなる上記(1)または(2)に記載の発光素子。
【0014】
(5)前記光波長制御多層膜の厚さは、0.3nm〜10μmである上記(1)〜(4)のいずれか一に記載の発光素子。
【発明の効果】
【0015】
本発明の発光素子は、基板と反射膜との間に2層以上の光波長制御層からなる光波長制御多層膜を具えることによって、反射膜では完全に反射しきれずに反射膜を透過した一次光により励起される二次光の波長を基板励起光の波長とは異なる波長域内に制御することができ、したがって、二次光の波長を信号光に悪影響の少ない波長域にシフトさせたり、別の有用な波長域にシフトさせたりすることにより、二次光を有効に放出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に従う発光素子を示す概略図である。
【図2】AlxGa1-xAs材料からなる光分散多重膜中のAl組成のパターンの一例を示すグラフである。
【図3】実施例2に従うAlxGa1-xAs材料からなる光分散多重膜中のAl組成のパターンの一例を示すグラフである。
【図4】実施例1に従う発光素子のPLスペクトル測定結果を示すグラフである。
【図5】実施例2に従う発光素子のPLスペクトル測定結果を示すグラフである。
【図6】実施例1および比較例1に従う発光素子の発光スペクトル測定結果を示すグラフである。
【図7】実施例2および比較例2に従う発光素子の発光スペクトル測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の発光素子の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に従う発光素子の断面構造を模式的に示したものである。なお、図中のハッチングは説明のため便宜上施したものであり、また、厚さ方向も誇張して描かれている。
【0018】
本発明に従う発光素子1は、図1に示すように、基板2と、この基板2の上方に配設されて一次光を発する発光層3と、基板2と発光層3との間に配設され、一次光を反射する少なくとも1層からなる反射膜4とを具え、さらに、基板2と反射膜4との間に配設される、2層以上の光波長制御層からなる光波長制御多層膜5を具え、このような構成を採用することにより、反射膜4では完全に反射しきれずに反射膜4を透過した一次光により励起される二次光の波長を所定の波長域内に制御することを可能にしたものである。
【0019】
基板2は、結晶成長が容易で、工業的に安価に入手可能であり、600nm付近から1300nm付近の発光素子が容易に実現可能であることから、例えばGaAs基板とするのが好ましい。
【0020】
発光層3は、下側クラッド層6および上側クラッド層7とで挟んだダブルヘテロ構造とするのが好ましく、発光層3は、量子井戸構造とするのがより好ましい。一例として、基板2がGaAs基板である場合、発光層3はInGaP系量子井戸構造とし、下側クラッド層6および上側クラッド層7はAlGaInP系材料からなるのが好ましい。
【0021】
反射膜4は、例えばGaAs基板に格子整合するため結晶成長が非常に容易でかつ、屈折率をおよそ3〜3.6まで容易に変更可能なAlGaAs系材料からなるのが好ましい。反射膜4が対をなすGaAs層およびAlAs層を有する場合、例えば870nm帯において90%以上の反射率を確保するためには、これらは10対以上であるのがより好ましい。厚さはλ/(4・n_AlGaAs)(λは設計波長、n_AlGaAsは屈折率)を満たすよう波長に応じて設計するのがよい。
【0022】
光波長制御多層膜5は、2層以上の光波長制御層からなり、反射膜4を透過した一次光により励起される二次光の波長λ2を制御する。光波長制御多層膜5はInxGa1-xAs/AlyGa1-yAs(0≦x≦1,0≦y≦1)からなる量子井戸二次光膜とすることができ、InxGa1-xAs材料中のIn組成は、臨界膜厚以下となるような条件を満たす組成からなるのが好ましい。量子井戸は、In組成が増えて歪みを内包しても結晶性よく成長でき、発光波長を長波長化することが可能となるためである。また、このとき、前記波長の制御は、In組成および量子井戸幅で調整することができ、その範囲は、臨界膜厚より、InAsの0.3nmが最も長波長化した時で、およそ1300nmとすることにより行う。なお、ここで言う臨界膜厚は、MatthewsとBlakelseeのモデルから求められる、GaAs基板上に成長可能な臨界膜厚を意味する。
【0023】
また、光波長制御多層膜5は、AlxGa1-xAs材料(0≦x≦1)からなる二次光分散膜とすることもできる。AlGaAs系材料は、Al組成とGa組成を制御するのが容易であり、また、GaAs基板2との格子不整合度が小さく、屈折率、バンドギャップを幅広く選択することができるためである。さらに、屈折率はAl組成が高くなると小さくなるため、光学設計をするのが容易となり、再現性よく、設計通りに所望の構造を得ることができるためである。また、このとき、前記波長の制御は、Al組成を変えることで調整でき、その範囲はGaAsの860nmから直接遷移領域のAl0.43Ga0.57Asの630nmとすることにより行う。また、AlxGa1-xAs材料中のAl組成は、図2に一例として示されるように、基板側から反射膜側へ向かう前記光波長制御多層膜の厚さ方向に、低Al組成と高Al組成との間を複数回往復しながら連続的に変化させてもよい。
【0024】
あるいは、光波長制御多層膜5は、AlxGa1-xAs/AlxGa1-xAsの量子井戸構造としてもよい。AlGaAs系材料は、Al組成(x)を高くすることで、間接遷移領域に近づき、発光効率が低下する。一方、低Al組成部分は二次光を発生させるため、二次光の波長を決定する低Al組成の設計は特に重要となる。また、高Al組成は、低Al組成の領域で十分にキャリアを閉じ込め、効率よく二次光を起こすことができるよう設計することが重要となる。したがって、高Al組成の設計は、例えばx=0.9〜1.0の範囲で固定するのが好ましい。
このとき、例えば、量子井戸のように低Al組成と高Al組成を繰り返すと、量子井戸の閉じ込めが強く、発光効率が高くなるため、層数が少なくても強い二次発光を得ることができる。
【0025】
光波長制御多層膜5を構成する光波長制御層の厚みとは、図2において、例えば高Al組成−低Al組成−高Al組成で表される1サイクルの幅のことをいう。なお、図2中、縦軸は、前記AlxGa1-xAs材料におけるAl組成の割合(x=1を100%とし、x=0を0%とする。)を示し、横軸は、二次光分散膜5の、基板2側からの厚さを示す。
【0026】
二次光分散膜5の厚さは、10nm〜10μmの範囲とすることができる。厚さが10nm未満だと、二次光の強度が弱くなりすぎるおそれがあり、厚さが10μmを超えると、成膜時間に時間がかかりすぎ、生産性が低下するおそれがあるためである。
【0027】
これら光波長制御多層膜5、反射膜4、下側クラッド層6、発光層3および上側クラッド層7は、基板2上に、MOCVD法を用いてエピタキシャル成長させて形成するのが好ましい。なお、これら膜および層の厚さは、用いられる材料および用途に応じて適宜選択することができる。
【0028】
また、図1には示していないが、発光層3付近に電流狭窄層を形成してもよい。この場合、電流狭窄層の電極面積は任意であり、必要に応じて、メサ形状にしたり、保護膜を付けたりすることもできる。また、電流狭窄層は、第一の導電型またはドーピングを行わない層として成長させることができ、イオン注入法により高抵抗化すること、Zn拡散により所望の構造にすること、または、酸化膜、窒化膜等を形成することによっても得ることができる。
【0029】
例えば、基板2にGaAs(λ3=860nm)を用い、一次光の波長λ1が600nmである場合、光波長制御多層膜5に用いることが可能な材料は、AlGaAs,InGaAs,InAlGaAsとなり、λ2の選択可能範囲は最大で630〜1300nmとなる(但し、λ2=860nmを除く)。よって、光波長制御多層膜5は、2基板が一次光の中心波長λにより励起された場合の基板励起光の中心波長λ3に対し、二次光の中心波長λ2が下記の関係を有するよう制御するのが好ましい。
λ3−230nm≦λ2≦λ3+440nm(λ1<λ2≠λ3)
【0030】
また、AlGaAsが直接遷移の組成範囲で強度が十分得られる波長は650nmであり、InGaAsがIn組成が増えても、臨界膜厚以下で再現性よく成長することができる波長は1100nmであるため、より好ましいλ2の選択可能範囲は650〜1100nmとなる(但し、λ2=860nmを除く)。したがって、下記の関係を有するよう制御するのがより好ましい。
λ3−210nm≦λ2≦λ3+240nm(λ1<λ2≠λ3
【0031】
なお、発光波長は幅を有するため、λ2とλ1およびλ3との間は、以下のように、それぞれ50nm以上離した方が、発光スペクトルが重なることがなく、より好ましい。
λ1+50nm<λ2<λ3−50nm、
またはλ3+50nm<λ2
【0032】
以上、図1および図2は、代表的な実施形態の例を示したものであって、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
MOCVD法により、基板(Siドープ、面方位:(100)15°off、厚さ:350μm)上に光波長制御多層膜として、In0.1Ga0.9As/Al0.2Ga0.8Asからなる量子井戸二次光膜(厚さ:70nm)、n−反射膜(厚さ:1.8μm、Al0.45Ga0.55As(42.3nm)/AlAs(47.3nm)の20回繰り返し層、ドーパントSe)、n−クラッド層(厚さ:90nm、Al0.5In0.5P、ドーパントSe)、発光層(厚さ:84nm、In0.53Ga0.47P、アンドープ)、p−クラッド層(厚さ:180nm、Al0.5In0.5P、ドーパントMg)、p−反射膜(厚さ:0.9μm、Al0.45Ga0.55As(42.3nm)/AlAs(47.3nm)の10回繰り返し層、ドーパントC)を順次成長させて本発明に従う発光素子(総厚:3.1μm(基板除く))を形成した。p−反射膜は、n−反射膜と垂直共振器を形成し、発光スペクトルを狭く、よりセンサ用途に好適にするために挿入している。このとき、発光層が発する一次光の波長λ1=640nmである。
【0034】
(実施例2)
前記光波長制御多層膜が、AlxGa1-xAs材料(0≦x≦1)からなり、図3に示すように、前記AlxGa1-xAs材料中のAl組成が、前記基板側から前記反射膜側へ向かう前記二次光分散膜の厚さ方向に、低Al組成と高Al組成との間を20回往復しながら連続的に変化するよう形成した(膜厚2.3μm)こと以外は、実施例1と同様の方法により発光素子を形成した。1周期の厚さは、GaAs基板からの基板励起光λ3(860nm)を反射するように、反射帯域を860nmに設定するために56.7nmとした。この組成パターンは、マスフローメーターの流量設定を連続的に変化させて形成することができる。なお、図3中、縦軸は、前記AlxGa1-xAs材料におけるAl組成の割合(x=1を100%とし、x=0を0%とする。)を示し、横軸は、前記光分散多重膜の、前記基板側からの厚さを示す。このとき、二次発光層のフォトルミネッセンスピーク波長は790nmである。
【0035】
(比較例1)
光波長制御多層膜を形成しないこと以外は、実施例1と同様の方法により発光素子(総厚:3.0μm)を形成した。
【0036】
(比較例2)
光波長制御多層膜が、いわゆるブラッグ反射膜となるように、GaAs(59.7nm)/AlAs(71.7nm)層を20.5回往復しながら階段状に変化するよう形成した(膜厚2.7μm)。1周期の厚さは、GaAs基板からの基板励起光λ3(860nm)を反射するように、反射帯域を860nmに設定したこと以外は、実施例1と同様の方法により発光素子を形成した。
【0037】
(評価1)
上記実施例1〜2および比較例1〜2について、光波長制御多層膜のみを成長したサンプルのPLスペクトル測定(PHILIPS社製PLM-100)を行った。光源には、D-YAG(YAGの2倍波:Double YAG)レーザー(波長532nm)を用い、サンプルに垂直に入射させた。
【0038】
図4および図5に、それぞれ実施例1および2の測定結果のグラフを示す。図中、横軸は波長(nm)であり、縦軸は、強度を表す。これら結果より、上記実施例1および2では、それぞれ、PLスペクトルのピーク波長が、915nm、790nmに現れているということがわかる。また、図には示されないが、比較例2は860nmであった。
【0039】
(評価2)
上記実施例1〜2および比較例1〜2の発光素子について、発光スペクトル測定を行った。この測定は、スペクトルアナライザ(大塚電子社製 MCPD-3000)を用いて行ったものである。
【0040】
図6および図7は、それぞれ実施例1および比較例1ならびに実施例2および比較例2の発光スペクトル測定の結果を示したものである。図中、破線は実施例を、実線は比較例の結果を示し、また、横軸は波長(nm)を、縦軸は一次光ピーク値を1としたときの光の強度(arbitrary unit)を示している。なお、本評価は、二次光に着目しているため、二次光の波長付近のみを示した。
【0041】
図6において、比較例1は、基板励起光(860nm)から波長を変化させることなく、波長860nmの位置で二次光を発光しているのに対し、実施例1は、基板励起光(860nm)とは異なる波長910nmの位置で二次光を発光していることがわかる。
同様に、比較例2は、基板励起光(860nm)から波長を変化させることなく、波長860nmの位置で二次光を発光しているのに対し、実施例2は、基板励起光(860nm)とは異なる波長790nmの位置で二次光を発光していることがわかる。
【0042】
表1に、一次光、二次光および基板励起光の中心波長λ1、λ2およびλ3ならびに二次光の受光感度(受光素子:浜松ホトニクス製、S5973-02、Si-PINフォトダイオード)を示す。
【0043】
【表1】

【0044】
以上の結果より、本発明の発光素子は、二次光の発生位置を制御できるということがわかる。例えば、受光素子として本実施例のSi系フォトダイオードを使用した場合、二次光の信号を積極的に利用しようとした場合、λ3の受光感度(30%)よりも受光感度が高くなる短波側へずらした発光素子(実施例2)を用いることで、λ3よりも、1.5倍の感度があるため、より容易に信号を検出でき、二次光を確実に利用することが可能となる。一方、二次光の信号を利用したくない場合、λ3よりも受光感度が悪くなる長波側へずらした発光素子(実施例1)を用いることで、λ3よりも、半分の感度に落ちるため、より検知が鈍感になり、二次光よる誤作動を防止することが可能となる。
なお、二次光の波長による受光感度の変化の傾向および度合いは、本実施例に限らず、用いるフォトダイオードの仕様と制御する二次光波長によって異なり、様々に設計することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の発光素子によれば、基板と反射膜との間に2層以上の光波長制御層からなる光波長制御多層膜を具えることによって、反射膜では完全に反射しきれずに反射膜を透過した一次光により励起される二次光の波長を所定の波長域内に制御して放出することができ、したがって、光のエネルギーを無益に熱変換することなく、二次光の波長を信号光に悪影響の少ない波長域にシフトさせたり、別の有用な波長域にシフトさせたりすることにより、二次光を有効利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 発光素子
2 基板
3 発光層
4 反射膜
5 光分散多重膜
6 下側クラッド層
7 上側クラッド層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板の上方に配設されて一次光を発する発光層と、前記基板と前記発光層との間に配設され、前記一次光を反射する少なくとも1層からなる反射膜とを具える発光素子であって、
該発光素子は、前記基板と前記反射膜との間に配設される、2層以上の光波長制御層からなる光波長制御多層膜をさらに具え、該光波長制御多層膜は、前記反射膜では完全に反射しきれずに反射膜を透過した一次光により励起される二次光の波長を、基板励起光の波長とは異なる波長域内に制御することができることを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記光波長制御多層膜は、前記二次光の中心波長λ2が、前記基板が中心波長λ1である前記一次光により励起された場合の基板励起光の中心波長λ3に対し、前記二次光の中心波長λ2が下記の関係を有するよう制御する請求項1に記載の発光素子。
λ3−230nm≦λ2≦λ3+440nm(λ1<λ2≠λ3)
【請求項3】
前記光波長制御多層膜はInxGa1-xAs/AlyGa1-yAs(0≦x≦1,0≦y≦1)からなる量子井戸二次光膜であり、前記InxGa1-xAs材料中のIn組成は、臨界膜厚以下となるような条件を満たす組成からなる請求項1または2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記光波長制御多層膜はAlxGa1-xAs材料(0≦x≦1)からなる二次光分散膜であり、前記AlxGa1-xAs材料中のAl組成は、前記基板側から前記反射膜側へ向かう前記光波長制御多層膜の厚さ方向に、低Al組成と高Al組成との間を複数回往復しながら連続的に変化させてなる請求項1または2に記載の発光素子。
【請求項5】
前記光波長制御多層膜の厚さは、0.3nm〜10μmである請求項1〜4のいずれか一項に記載の発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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