説明

発光素子

【課題】 発光素子において、高い光取り出し効率を有する発光素子を得る。
【解決手段】 基板と、該基板表面上に位置する発光層とを有する発光素子であって、発光層は少なくとも一部の領域に媒質と該媒質とは屈折率が異なる分散体とを備え、分散体は、一部の領域が発光層の他の領域よりも光が散乱するように、媒質中に分散されており、他の領域の屈折率が基板の屈折率よりも大きい

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光取り出し効率が高く、高い輝度を有する発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、様々な構成の発光素子が知られている。その一例として、図8に断面図を示す構成の発光素子が知られている。図8に示す発光素子1000は、前面板1001と発光層1002と、発光層1002を励起するための励起源の一部である透明電極1003を備えている。前面板1001は、可視光に対して透明な媒質で形成され、例えばガラスやプラスチックなどで形成される。励起源は、例えば、前面板1001と対向して配置された電子放出素子1005と前面板1001に設けられた透明電極1003とで構成される。このような構成において、電子放出素子1005に電界を加えることで放出された電子が、前面板に配置された透明電極1003によって加速された後、発光層に入射することで光が生成される。生成された光は、前面板1001を透過し、外部に抽出されることで、表示光1004となる。発光層で生成された光のうち、外部に抽出され、表示光1004となる光の割合を光取り出し効率と呼ぶ。
【0003】
発光素子1000において、光取り出し効率が低下する要因の一つとして、前面板1001と励起源の透明電極1003との界面、あるいは発光層1002と励起源の透明電極1003との界面における全反射損失がある。高屈折率媒質から低屈折率媒質に向けて光が伝搬すると、臨界角よりも大きな角度で伝搬する光は全反射され、高屈折率媒質に閉じ込められる。このような光1005は、低屈折率媒質中に抽出されず、高屈折率媒質中を伝搬し、損失となる。
【0004】
光取り出し効率を向上させるため、例えば、特許文献1では、図9に示すように、発光層1102内の一部に反射構造体1105を設けることが開示されている。図9に示す発光素子1100は、前面板1101,発光層1102、透明電極1103、電極層1104とを有し、電極層1104,発光層1102,透明電極層1103の一部に反射構造体1105が設けられている。これによって、発光層1102の内部を伝搬する光が、反射構造体1105にて反射され、臨界角以内の角度で伝搬する光に変換されることで、外部に抽出される光1106を増大させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−139988
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし特許文献1に記載されている手法では、光取り出し効率の向上に改善が求められている。図9において、反射構造体1105によって外部に抽出される光の量は、反射構造体1105の反射面の角度と入射する光の角度によって決まる。反射面がxy面に対して45度に近い角度の場合、水平方向に近い角度で伝搬する光1108のみが外部に抽出される。一方、反射面がxy面に対して45度よりも小さい角度あるいは大きい角度の場合、斜め方向に伝搬する光1107のみが外部に抽出される。このように反射構造体1105によって外部に抽出される光は、発光層1102内を特定の角度で伝搬する光のみに限定され、光取り出し効率を十分に向上させるには至っていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本願発明は、
基板と、該基板表面上に位置する発光層とを有する発光素子であって、前記発光層は少なくとも一部の領域に媒質と該媒質とは屈折率が異なる分散体とを備え、前記分散体は、前記一部の領域が前記発光層の他の領域よりも光が散乱するように、前記媒質中に分散され、前記他の領域の屈折率が前記基板の屈折率よりも大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光取り出し効率が高く、高い輝度を有する発光素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態の発光素子及び発光素子が備える発光層のxz断面図。
【図2】本発明の他の実施形態の発光素子及び発光素子が備える発光層のxz断面図。
【図3】本発明の更に他の実施形態の発光素子及び発光素子が備える発光層のxz断面図。
【図4】本発明の一実施形態の発光素子が備える発光層の作成工程を示す図。
【図5】本発明の他の実施形態の発光素子が備える発光層の作成工程を示す図。
【図6】本発明の実施形態における光取り出し効率を示す図。
【図7】本発明の実施例2における発光素子のxz断面図。
【図8】従来の発光素子のxz断面図。
【図9】従来の他の発光素子のxz断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、図面を用いて詳細に説明する。
【0011】
本実施形態の発光素子を図1の(a)、(b)に示す。図1の(a)、(b)はそれぞれ、本実施形態の発光素子100のxz断面図およびxy平面図を示す。発光素子100は、前面板101と発光層102とを備え、更に好ましい形態として励起源の一部である透明電極103を有している。励起源は、前面板101と対向する部材(例えば基材)上に形成された後述の電子放出素子112と、前面板101上に設けられた透明電極103とを備えている。そして図1に示す本実施の形態のように、前面板101の表面に励起源の一部である透明電極103を有し、この上に発光層102を備える場合、前面板101とその表面の透明電極103とをまとめて基板111という。つまり、発光層102が設けられている部材全体が基板111である。
【0012】
前面板101は、可視光に対して透明な媒質で形成されており、例えば、ガラスで形成されている。発光層102は、少なくとも2つの領域を備え、前面板101と透明電極103とを有する基板111の表面上に配置されており、具体的には透明電極103の表面に配置されることで、基板表面上に位置している。図1に示す本実施の形態において、発光層102は、一部に媒質とこの媒質とは屈折率が異なる分散体とを備える領域105を有しており、以下この領域を散乱領域105ともいう。また、発光層102の一部に設けられた散乱領域105以外の他の領域104を、以下では伝搬領域104ともいう。このように、図1に示す形態では、発光層102は2つの領域を備えている。尚、伝搬領域104は、本実施形態における基板111を構成する前面板101あるいは透明電極103よりも屈折率が大きく、図1に示す本実施形態では、励起手段の一部である透明電極103よりも屈折率が大きい。
【0013】
伝搬領域104は、発光媒質、例えば、蛍光体で構成され、電子照射などにより可視波長域である波長350nmから800nmのいずれかの波長を含む光を発生する。上述の通り、発光層102の散乱領域105とは他の領域である伝搬領域104の屈折率は、本実施形態における基板111を構成する励起手段の透明電極103よりも屈折率が大きい。このため伝搬領域104では、発光すると少なくとも一部の光が、内部で全反射しながら伝搬する。発光層102のうちの一部の領域である散乱領域105は、発生した光の少なくとも一部を散乱光に変換する領域である。このような構成において、上述の励起源の電子放出素子112に電界を加えると電子が放出され、放出された電子が励起源の透明電極103によって加速された後、発光層102に照射し、光が発生する。発生した光は、発光層102および前面板101を透過し、外部に射出されることで出力光106となる。
【0014】
本実施形態における発光素子100が、高い光取り出し効率、高い輝度を得ることができる理由を次に述べる。
【0015】
図1において、伝搬領域104で発生した光のうち、伝搬領域104と励起源の透明電極103との界面の臨界角よりも大きな角度で伝播する光107は、伝搬領域104内を全反射を繰り返しながら伝播し、散乱領域105に到達する。散乱領域105に到達した光は、光を分散させるための微粒子等からなる分散体によって散乱され、様々な方向に向かう散乱光となる。尚、以下において、分散体を散乱体という場合もある。散乱領域105内では、分散体による散乱が何度も起こるため、散乱領域105に入射する光の角度(伝搬領域104を伝搬する光の角度)によらず、様々な方向に向かう散乱光が発生する。このうち、散乱領域105と励起源の透明電極103との界面を透過し、前面板101と外部との界面における臨界角よりも小さい角度で伝搬する光は、外部に射出される出力光106となる。また、散乱光のうち、散乱領域105と励起源の透明電極103との界面の臨界角よりも大きな角度で伝搬する光は、全反射されるが、散乱体によって再び散乱されて、伝搬方向が変化し、一部の光は前面板101を透過する出力光106となる。これらの効果により、伝搬領域104を伝搬する光の角度によらず、伝搬光を出力光106に変換することができ、光取り出し効率が向上し、高い輝度を有する発光素子を得ることができる。なお、発光媒質中に分散体を設けると、発光媒質の品質が劣化し、発光効率の低下を招く。さらに、分散体によって、発光層102に占める発光媒質の体積が減少し、発光量が低下する。それゆえ、発光層102の全領域に光を散乱させる分散体を設け、発光層102の全領域を散乱領域105とすると、発光量が減少し、輝度の低下を招く。本実施形態の発光素子においては、散乱領域105を発光層102の一部に設けることで、発光量の低下を防ぎ、高い輝度を有する発光素子を得ることができる。
【0016】
次に本実施形態の構成において、散乱領域105と伝搬領域104との間に、中間領域108を設けた発光素子110の概略図を図2に示す。図2の(a)、(b)はそれぞれ発光素子110のxz断面とxy平面を示す図である。発光素子110の前面板101、励起源の透明電極103と電子放出素子112伝搬領域104は、発光素子100と同じ構成となっている。中間領域108は、伝搬領域104と散乱領域105の間に配置され、伝搬領域104と散乱領域105の屈折率の間の有効屈折率を有している。散乱領域105および中間領域108の有効屈折率Neffは、散乱体およびその周囲を構成する媒質の屈折率と、各媒質が空間に占める体積比率で決定され、次式で表すことができる。
【0017】
【数1】

【0018】
式1において、NscattおよびNbackは、散乱体および周囲の媒質の屈折率、ffscattおよびffbackは、各媒質が空間に占める体積比率をあらわしている。散乱領域105および中間領域108は、例えば、媒質中に散乱体として微粒子を分散することで構成され、充填率が異なる領域となっている。尚、本発明における媒質とは、散乱体の周りの物質を意味し、気体(空気)や真空を意味する場合もある。
【0019】
中間領域108を有する構成における発光素子110によって、光取り出し効率を更に高めることができる理由を次に述べる。
【0020】
伝搬領域104を伝搬し、伝搬領域104と中間領域108の界面10に光が入射するとき、ならびに中間領域108を伝搬し、中間領域108と散乱領域105の界面11に光が入射するとき、各界面で屈折率差があると反射光が発生する。この反射光は、伝搬領域104を散乱領域105および中間領域108に向かう向きとは反対の方向に向かって伝搬し、発光媒質による吸収や、伝搬領域104内での全反射の際に、表面散乱の影響を受けて減衰し、損失となる。しかし、本実施形態の中間領域108は、伝搬領域104と散乱領域105の間の屈折率を有するため、各界面における屈折率差が小さくなり、この反射光による損失を低減することができる。よって、伝搬領域104を伝搬する光を無駄なく散乱光に変換して、出力光106にすることができ、高い光取り出し効率を得ることができる。
【0021】
上述の各実施形態においては、媒質中に分散体としての微粒子を分散することで、散乱領域105および中間領域108を構成することができる。そして微粒子の充填率や媒質を適切に選択することで、所望の散乱特性と有効屈折率を有する領域を構成することができる。
【0022】
なお、中間領域の屈折率は、勾配を有していてもよい。図3に屈折率の勾配を有する中間領域109を設けた発光素子120の概略図を示す。図3の(a)、(b)はそれぞれ、発光素子120のxz断面とxy平面を示す図である。発光素子120の前面板101、励起源の透明電極103と電子放出素子112、伝搬領域104は、発光素子100と同じ構成となっている。中間領域109は、伝搬領域104と散乱領域105の間に設けている。中間領域109は、伝搬領域104と散乱領域105の間の屈折率を有し、伝搬領域104から散乱領域105に向かうにつれて、屈折率が低下あるいは増加する構成となっている。例えば、中間領域109を複数の領域に分割し、各領域を構成する媒質や分散体としての微粒子の充填率を適切に選択することで、屈折率を調整することができる。このような構成とすると、各領域の界面における屈折率差を更に小さくすることができ、界面で発生する反射光を更に低減することができる。そして、反射光による損失を低減し、効率良く散乱光を発生することで出力光106を増大し、より高い光取り出し効率を得ることが出来る。
【0023】
本発明に含まれる発光層102は、図1および図2で示した構成に制限されるものではない。
例えば、発光層102の各領域(伝搬領域104と散乱領域105、好ましくは更に中間領域108,109)に、分散体となる微粒子が分散され、この分散体である微粒子の充填率あるいは粒子径が互いに異なるように構成してもよい。例えば、伝搬領域104を微粒子の充填率が高い領域あるいは径が小さい微粒子を含有する領域とし、散乱領域105を、微粒子の充填率が低い領域あるいは径が大きい微粒子を含有する領域とする。分散体である微粒子の充填率を高くすると、微粒子同士が接する面が増え、均質な媒質に近い状態となる。あるいは、発光波長と比べて十分に小さい微粒子で構成すると、微粒子単体の散乱効率が非常に小さくなる。これにより、伝搬領域104は、全反射による光の伝搬が起こる領域となる。一方、分散体である微粒子の充填率を低くすると、微粒子と周囲の媒質が接する面が増え、散乱が発生しやすくなり、径が大きい微粒子で構成すると、微粒子単体の散乱効率が大きくなる。これにより、散乱領域105は、伝搬領域104よりも光が散乱しやすい領域となる。
【0024】
また、各領域(伝搬領域104と散乱領域105、好ましくは中間領域108,109)を、微粒子の周囲の媒質が互いに異なる構成としてもよい。例えば、伝搬領域104を、周囲の媒質が微粒子と同じ屈折率を有する媒質で構成し、散乱領域105を、周囲の媒質が微粒子とは異なる屈折率を有する媒質で構成する。これによって伝搬領域104では、微粒子と周囲の媒質との屈折率差が無くなることで散乱が減少し、全反射による光の伝搬が起こる領域となる。一方散乱領域105では、屈折率差によって、散乱光が発生する領域となる。このように各領域で、微粒子の大きさ、充填率、周囲の媒質を適切に選択することで、所望の散乱特性と有効屈折率を有する領域を構成することができ、前記で述べた効果を得ることができる。つまり、これらの知見に基づいて、分散体を媒質中に適宜の状態で分散させることで、散乱領域105が、伝搬領域104よりも光が散乱するように制御することが可能となる。換言すると、分散体は、一部の領域である散乱領域105が、他の領域である伝搬領域104よりも光が散乱するように、媒質中に分散されており、光が散乱するようにするためには、上述のとおり、分散体の粒径や、媒質中における充填率や、また媒質との組み合わせ(屈折率の差)などを所望に整えた分散状態にすればよい。具体的には、一部の領域である散乱領域105における分散体の充填率が、他の領域である伝搬領域104における分散体の充填率よりも小さくする、または散乱領域105における分散体の径が、伝搬領域104における分散体の径よりも大きくするとよい。また、一部の領域である散乱領域105における媒質と分散体との屈折率差が、他の領域である伝搬領域104における媒質と分散体との屈折率差よりも大きくするとよい。
【0025】
尚、各領域の有効屈折率は微粒子の充填率や媒質の屈折率に伴って変化する。
例えば、中間領域108を、伝搬領域104と散乱領域105の間の充填率で構成すると、伝搬領域104と散乱領域105の間の有効屈折率を有する中間領域を構成できる。また、中間領域108を、伝搬領域104および散乱領域105で用いた周囲媒質の間の屈折率を有する媒質を用いて構成することで、両領域の間の屈折率を有する領域を構成できる。
【0026】
次に、本実施形態の発光層102の作成方法について説明する。図4の(a)〜(c)および図5の(a)〜(c)は、本実施の形態の発光層102のxz面内の断面図で示している。まず、前面板101に透明電極層103を形成し、その上に、散乱体として微粒子12を塗布する(図4の(a))。微粒子12の塗布は例えばインクジェットの技術を用いることで、所定の領域に微粒子12を塗布することができる。次に、発光媒質13を散乱体12を含む前面板101に塗布することで、散乱領域105と伝搬領域104を形成することができる(図4の(b))。また、大きさや充填率が異なる散乱体12、14を領域毎に塗り分けた後、発光媒質13を塗布することで、中間領域108を含む発光層102を作製することもできる(図4の(c))。
【0027】
あるいは、前面板101に透明電極層103を形成し、その上に発光媒質で形成された微粒子15を塗布する(図5の(a))。更に、一部の領域に、微粒子15と同じ屈折率を有する媒質16を微粒子15の間に充填することで伝搬領域104を作製することができる(図5の(b))。尚、媒質16が無い領域は、微粒子15が散乱体として機能し、散乱領域105となる。また、領域によって異なる媒質16、17を充填することで、中間領域108を含む発光層102を作製することもできる(図5の(c))。
【0028】
なお、散乱領域105の有効屈折率は、伝搬領域104の屈折率よりも小さいことが望ましい。散乱領域105で散乱され、前面板101を伝搬する光のうち、前面板101と外部との臨界角以内の角度で伝搬する光は出力光106となり、それ以上の光は全反射され、損失となる。前面板101における光の伝搬角度は、散乱領域105の有効屈折率と前面板101の屈折率から、スネルの法則で決定される。散乱領域105の有効屈折率を小さくすると、前面板101を伝搬する光の角度は小さくなり、臨界角よりも小さい角度で伝搬する散乱光が増加する。これにより、外部に射出される出力光106が増加し、光取り出し効率を高くすることができる。
【0029】
また、本実施の形態において、伝搬領域104を発光層102の中央に位置させ、散乱領域105を伝搬領域104の周囲に位置させることが好ましい。伝搬領域104を伝搬する光は、全反射を繰り返し、発光層102の外周部のいずれかの位置に到達する。しかし散乱領域105が伝搬領域104の周囲に位置しているので、伝搬光は必ず散乱領域105に入射することとなり、前記で述べた効果を得ることができ、光取り出し効率が高い発光素子を得ることができる。
【0030】
更に、本実施の形態において、散乱領域105の基板111と対面しない部分に反射部材を設けてもよい。散乱領域105で発生した散乱光のうち、基板111とは対面しない部分、つまり電子放出素子112と対面する部分(下面)や、基板111に対面する部分と電子放出素子112に対面する部分との間の部分(側面)に透過した光は出力光とはならず、損失となる。しかしこれらの部分に反射部材を設けると、これら損失となる光が反射され、散乱領域105に再び入射する。散乱領域に入射した光は、再び散乱され、一部の光は、出力光106に変換される。これにより、伝搬光を出力光106に更に効率良く変換することができ、光取り出し効率が更に高い発光素子を得ることができる。
【0031】
尚、前面板101は、可視光に対して透明な材料であればよく、プラスチックで形成してもよい。また、励起源は、発光層102の裏面に電極を備え、更にその後方に電子放出素子を設けた構成であってもよい。あるいは励起源は、前面板101と発光層102との間および発光層102の裏面とに、陽極と陰極を設けた構成であってもよい。両電極間に電流を印加し、電子と正孔を注入することで、発光層102で光を発生させることができる。あるいは、励起源は、前面板上に電極を配置し、発光層102の裏面に、セルと電極を配列し、セル内にプラズマによって紫外線を発生するガスを封入した構成としてもよい。このような構成とし、セルに含まれるガスに電流を流すと、紫外線が発生し、蛍光体粒子に照射されることで、蛍光体粒子が励起され、光を発生させることができる。
【実施例1】
【0032】
本実施例における発光素子を図1に示す。前面板101は屈折率が1.5の媒質で形成されている。また、励起源として、発光層102と前面板101の間に屈折率1.8の媒質で形成された透明電極103が配置され、発光層102の裏面に電子放出素子112が配置されている。発光層102の背面の領域は真空となっている。発光層102の伝搬領域104は、発光媒質として屈折率が2.2の媒質(蛍光体)で構成されている。また、散乱領域105は、伝搬領域104を構成する屈折率が2.2の媒質(蛍光体)中に屈折率が1.0の散乱体を充填率70%で分散させた領域となっている。このとき散乱領域105の有効屈折率は1.36であった。
【0033】
また、図2に示す発光素子110も用意した。図2に示す発光素子110の前面板101、励起源の透明電極103と電子放出素子112は、発光素子100と同じ構成を有している。また発光層102の伝搬領域104および散乱領域105は、発光素子100と同じ構成を有している。中間領域108は、伝搬領域104を構成する屈折率が2.2の媒質中に屈折率が1.0の散乱体を充填率35%で分散させた領域となっている。このとき中間領域108の有効屈折率は、1.78であった。
【0034】
図6は、このような発光素子100、110において、光取り出し効率を計算した結果を示す図である。図6の縦軸は光取り出し効率を示している。図6には、比較として散乱領域105および中間領域108を設けない従来の構成(図8にします発光素子1000)における光取り出し効率も示した。従来の構成は、発光素子1000において、前面板1001の屈折率を1.5、励起源の透明電極1003の屈折率を1.8、発光層1002の屈折率を2.2、としている。
【0035】
なお、散乱領域105の内部に入射した光はすべて散乱光に変換されるとし、各領域の界面で反射された光は損失として計算した。図6に示すように、本発明の構成において、散乱領域105を設けることで、従来よりも高い光取り出し効率を得ることができる。また、中間領域108を設けた構成によって、更に高い光取り出し効率を得ることができる。
【0036】
上記発光素子100においては、発光層102の一部に散乱領域105を設け、伝搬領域104を伝搬する光の一部を散乱させ、外部に出力することにより、高い光取り出し効率が得られる。さらに、伝搬領域104と散乱領域105の間に中間領域108を設け、有効屈折率が、伝搬領域104と散乱領域105の屈折率の間の屈折率となるように構成することにより、各領域の界面における反射を低減し、光取り出し効率を更に高くすることができる。そして、輝度が高い発光素子を得ることができる。
【0037】
なお、本発明の各領域の構成や用いる媒質は、本実施例で示した構成および媒質とは異なっていてもよい。
【実施例2】
【0038】
図7に本実施例の発光素子200の概略を示す。図7は本実施例の発光素子200のxz断面図である。発光素子200は、前面板201と、前面板201上に設けられた励起源の透明電極208と、透明電極208上に設けられた赤色、緑色、青色の光を発生する発光層205、206,207とを備える。各発光層は光吸収性を有する媒質で形成された隔壁215によって区切られている。図7には、3つの発光層205,206,207を示しており、このような発光層を複数個配列することで、カラー画像を表示することが可能となる。前面板201は、可視光に対して透明な媒質で形成されており、例えば、ガラスで形成されている。
【0039】
発光層205、206、207は、中央に伝搬領域209、210、211が配置され、その周囲に散乱領域212、213、214が配置されている。各発光層205、206、207には、赤色、緑色、青色の各波長の光を発生する蛍光体を含んでいる。
【0040】
また、励起源の一部である電子放出素子発光層に対向して配置されている。このように例えば、励起源は電子放出素子220と透明電極208とで構成される。このような構成において、電子放出素子220に電界を加えると、発光層に向けて電子が放出され、発光層204,205,206に電子が供給され、発光する。発生した光は、前面板201を透過し、外部に抽出されることで、表示光となる。
【0041】
本実施例2にかかる発光素子200では、各色毎の発光層を構成する媒質や発光波長に応じて、伝搬領域209、210、211、散乱領域212、213、214の散乱特性、有効屈折率、発光層に占める散乱領域の面積を適切に設定する。これにより、各色毎の発光層において、光取り出し効率を向上させることができ、全発光層で同じ散乱領域を設けた場合と比べて、表示光の輝度が高い発光素子を得ることが出来る。なお、散乱領域212、213、214の発光層に占める面積は小さい方が望ましい。外部から発光素子に光が入射すると、散乱領域212、213、214で外光が散乱され、一部の光は拡散反射光となる。この拡散反射光は、黒表示の際に、最低輝度を増加させ、コントラストが低下する要因となる。散乱領域105の面積を小さくすることで、外光が散乱光に変換されるのを低減し、拡散反射を抑制することができる。具体的に、本実施例においては、基板に平行な面内において、各発光層中に占める散乱領域の面積が、青色の光を発生する発光層、緑色の光を発生する発光層、赤色の光を発生する発光層の順で大きくなるように構成した。伝播領域から散乱領域に入射した光は、一部の光が散乱光に変換され、残りの光は散乱されずに散乱領域を透過する。散乱領域を大きくすると、散乱光に変換される確率が増加し、透過光が減少する。波長が長い光は、分散体による散乱の影響を受けにくく、散乱光に変換されずに透過光となりやすい。このような構成とすると、各波長の光を十分に散乱させることができ、有効に取り出すことができる。また、各発光層において、散乱領域の面積を減らすことができるため、上述した理由で拡散反射を抑制することができ、良好なフルカラー表示が実現できた。
【符号の説明】
【0042】
100,110,120,200,1000,1100 発光素子
101,201,1001,1101 前面板
102,205,206,207,1002,1102 発光層
104,209,210,211 伝搬領域(他の領域)
105,108,109,212,213,214 散乱領域(一部の領域)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板表面上に位置する発光層とを有する発光素子であって、前記発光層は少なくとも一部の領域に媒質と該媒質とは屈折率が異なる分散体とを備え、前記分散体は、前記一部の領域が前記発光層の他の領域よりも光が散乱するように、前記媒質中に分散され、前記他の領域の屈折率が前記基板の屈折率よりも大きいことを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記一部の領域と前記他の領域との間に中間領域を備え、該中間領域の有効屈折率は、該一部の領域と該他の領域の有効屈折率の間の大きさを有していることを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記中間領域は、前記他の領域から前記一部の領域に向かって、該他の領域の屈折率から該一部の領域の有効屈折率に変化する、屈折率の勾配を有していることを特徴とする請求項2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記他の領域が、前記媒質と該媒質中に分散された前記分散体とから構成され、前記一部の領域における前記媒質中の前記分散体の充填率が、前記他の領域における前記媒質中の前記分散体の充填率よりも小さいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項5】
前記他の領域が、前記媒質と該媒質中に分散された前記分散体とから構成され、前記一部の領域における前記分散体の径が、前記他の領域における前記分散体の径よりも大きいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項6】
前記他の領域が、前記媒質とは異なる他の媒質と、該他の媒質中に分散された前記分散体とから構成され、前記一部の領域における前記媒質と該媒質中に分散された前記分散体との屈折率の差が、前記他の領域における前記他の媒質と該他の媒質中に分散された前記分散体との屈折率の差よりも大きいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項7】
前記他の領域は、前記発光層の中央に位置し、前記一部の領域は、前記他の領域の周囲に位置していることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項8】
前記一部の領域の有効屈折率は、前記他の領域の屈折率よりも小さいことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項9】
前記一部の領域の、前記基板表面と対面しない部分に、反射部材を有することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項10】
前記発光素子は、赤色、青色、または緑色の光を発生する複数の発光層を備え、前記基板に平行な面内において、各発光層中に占める前記一部の領域の面積が、前記青色の光を発生する発光層、前記緑色の光を発生する発光層、前記赤色の光を発生する発光層の順で大きくなるように構成されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−119076(P2012−119076A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265100(P2010−265100)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】