説明

発光素子

【課題】 発光素子において、高い光取り出し効率を有する発光素子を得る。
【解決手段】 基板上に、微細構造を介して配置された発光層を有する発光素子であって、
微細構造は、第一微細構造と第二微細構造との積層体を備え、第一、第二微細構造は、それぞれ主要部材中に主要部材とは屈折率が異なる部材が基板の面と平行な方向に周期的に配列されており、第一微細構造と第二微細構造とは屈折率が異なる部材の配列周期が異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い光取り出し効率を有する発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、様々な構成の発光素子が知られている。その一例として、図6に断面図を示す構成のものが知られている。図6に示す発光素子1000は、前面板1001と発光層1002と、発光層を励起するための励起源の一部である透明電極1003を備えている。前面板1001は、可視光に対して透明な媒質で形成され、例えばガラスやプラスチックなどで形成される。励起源は、例えば、前面板1001と対向して配置された電子放出素子1005と、前面板1001に設けられた透明電極1003とで構成される。このような構成において、電子放出素子1005に電界を加えることで放出された電子が、前面板に配置された透明電極1003によって加速された後、発光層に入射することで光が生成される。発光層で生成された光は、前面板1001を透過し、外部に抽出されることで、出力光1004となる。発光層で生成された光のうち、外部に抽出され、出力光1004となる光の割合を光取り出し効率と呼ぶ。
【0003】
発光素子1000において、光取り出し効率が低下する要因の一つとして、前面板1001と励起源の透明電極1003との界面、あるいは発光層1002と励起源の透明電極1003との界面における全反射損失がある。高屈折率媒質から低屈折率媒質に向けて光が伝搬すると、臨界角よりも大きな角度で伝搬する光は全反射され、高屈折率媒質に閉じ込められる。このような光は、低屈折率媒質中に抽出されず、高屈折率媒質中を伝搬し、損失となる。
【0004】
全反射損失を低減し、光取り出し効率を向上させるため、例えば、特許文献1では、図7に示すように、屈折率が異なる媒質で形成された部材間に、微細構造を設けることが開示されている。図7に示す発光素子1100は、前面板1101、発光層1102、透明電極1103、電極層1104とを有し、前面板1101と透明電極1103との間に微細構造1105が設けられている。微細構造1105は、屈折率が異なる複数の媒質で構成され、光の波長程度の周期の屈折率分布を有している。これによって、発光層1102の内部で発生した光のうち、臨界角以上の角度で伝播する光を回折によって、臨界角以内の角度で伝搬する光に変換することで、外部に抽出される光1106を増大させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−283751
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし特許文献1に記載されている手法では、光取り出し効率の向上に改善が求められている。図7において、発光層から入射し、微細構造1105を透過した光の一部は透過回折光となり、残りの光は0次透過光となる。微細構造1105に対して入射角度が小さい光が入射すると、一部の光は回折によって、臨界角よりも大きな角度で伝播する回折光1107となり、界面で全反射され、損失となる。また、微細構造1105に対して入射角度が大きい光が入射すると、回折されない光、すなわち0次透過光1108は、前面板と外部との界面における臨界角よりも大きな角度で伝播する光となり、界面で全反射され、前面板内部に閉じ込められ、損失となる。つまり、従来の手法において、微細構造1105の回折効率を向上させると、回折光1107が増大し、回折効率を低下させると、透過光1108が増大する。このように、微細構造1105によって、外部に抽出される光は特定の角度で微細構造に入射する光のみに限定され、光取り出し効率を十分に向上させるには至っていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本願発明は、
基板上に、微細構造を介して配置された発光層を有する発光素子であって、
前記微細構造は、第一微細構造と第二微細構造との積層体を備え、該第一微細構造及び第二微細構造は、それぞれ主要部材中に該主要部材とは屈折率が異なる部材が前記発光層が配置された基板の面と平行な方向に周期的に配列されており、該第一微細構造と第二微細構造とは前記主要部材とは屈折率が異なる部材の配列周期が異なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光取り出し効率が高く、高い輝度を有する発光素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(a)本発明の実施例1である発光素子のxz断面図。(b)本発明の実施例1である発光素子に含まれる微細構造のxy断面図。
【図2】本発明の実施例1における光取り出し効率が向上する原理を説明する図。
【図3】本発明の実施例1における光取り出し効率が向上する原理を説明する図。
【図4】本発明の実施例1における光取り出し効率を計算した結果を示すグラフ。
【図5】本発明の実施例2における発光素子のxz断面図。
【図6】従来の発光素子のxz断面図。
【図7】従来の発光素子のxz断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、図面を用いて詳細に説明する。
【0011】
本発明の実施例1にかかる発光素子100の概略図を図1に示す。図1(a)、(b)、(c)は、それぞれ発光素子100のxz断面図、微細構造104の一部構造(後述の周期構造105、106のいずれか一方)のxy平面図、微細構造104の一部構造(後述の周期構造105、106のいずれか一方)のxz断面図である。発光素子100は、前面板101と発光層102と微細構造104を備え、更に好まし形態として励起源の一部である透明電極103を有している。励起源は、前面板101と対向する部材(例えば基材)上に形成された後述の電子放出素子112と、前面板101上に設けられた透明電極103とを備えている。
【0012】
前面板101は、可視光に対して透明な媒質で形成されており、例えば、ガラスで形成されている。発光層102は、例えば、蛍光体を含む膜となっており、可視波長域である波長350nmから800nmのいずれかの波長を含む光を発生する。本実施形態では、好ましい形態として、発光層102の前面板101に面する部分に励起源の一部である透明電極103が配置されている。尚、透明電極103の位置はこれに限らず、発光層102の露出面(発光層102の、後述の電子放出素子112に対面する部分、以下裏面という場合もあり)に設けられていてもかまわない。
【0013】
微細構造104は、前面板101と発光層102との間に配置されている。換言すると、前面板101からなる基板上に、微細構造104を介して発光層102が配置されている。微細構造104は、第一微細構造105と第二微細構造106とを備えており、これらを積層配置した積層体を有している。そして第一微細構造105と第二微細構造106は、それぞれ主要部材中(部材10の部材中)に主要部材10とは屈折率が異なる部材11が基板である前面板101の発光層102が配置された面と平行な方向であるxy平面の面内方向において周期的に配列されている。そして、第一微細構造105と第二微細構造106とは、部材11の配列周期が互いに異なっている。尚、以下の説明においては、第一微細構造105、第二微細構造106を、それぞれ周期構造105、周期構造106という場合もある。図1(b)は、周期構造105、106の内の一方のみをZ方向から見たxy平面における構成の一例を示した図、また図1(c)は、周期構造105、106の内の一方のみをy方向から見たxz平面における構成の一例を示した図(xz断面図)である。図1(b)に示すように、周期構造105、106は、第1の媒質で形成された主要部材層10に、第一の媒質とは屈折率の異なる第2の媒質で形成された部材11である円柱構造11が2次元的に周期的に配列されている。図中で示したベクトルA1およびA2を基本格子ベクトルとし、基本格子ベクトルの和あるいは差で表される位置に第2の媒質で構成された円柱構造11を配列した、三角格子構造を有している。ベクトルA1は、格子周期12の長さをaとすると、(0.5a、√3a/2、0)のベクトルであり、ベクトルA2は(0.5a、−√3a/2、0)のベクトルである。周期構造105と周期構造106は、構造に入射する光の角度に応じた回折特性が互いに異なる構造である。本実施形態においては、格子周期12の長さaが互いに異なる構造となっている。
【0014】
励起源は、例えば、前述の透明電極103と、これに対向配置された電子放出素子112とを有しており、電子放出素子112に電界を加えると、電子が放出され、放出された電子が透明電極103によって加速された後、発光層102に照射し、光が発生する。図1(a)において、前面板101と外部との界面における臨界角をθcとする。発光層102で発生した光が微細構造104に入射すると、周期構造105によって回折され、0次透過光と複数の回折光が生成される。更に、これらの光が、周期構造106に入射し、複数の回折光と0次透過光が生成される。このうち、臨界角θc以内の角度で伝播する光は、外部に射出され、出力光107となり、臨界角θc以上の角度で伝搬する光は、界面で全反射され、外部に射出されず、損失光108となる。本実施形態の微細構造104によって、発光層内の光が損失光108に変換されるのを低減し、出力光107に効率良く変換し、光取り出し効率を向上させる。
【0015】
本実施形態における発光素子100において、高い光取り出し効率を有する発光素子を得ることができる理由を次に述べる。
【0016】
図2は本発明における発光素子101が高い光取り出し効率を得ることができることを説明する概略図である。図2において、前面板101、発光層102、励起源の一部である透明電極103、周期構造105、106は図1と同じである。周期構造105によって回折された光のうち、臨界角θcよりも小さい角度で伝搬する光を透過光110、大きい角度で伝搬する光を透過光111とする。発光層102で発生した光は、発光層102内を様々な方向に向かって伝搬する。立体角を考慮すると、前面板101に対して垂直方向に近い角度で伝搬する光よりも、平行方向に近い角度で伝搬する光の方が多く存在する。発光層102内を伝搬する光のうち、θcよりも大きい角度で周期構造105に入射する光を入射光109とする。
【0017】
ここで、入射角度が大きい光109に対して回折効率が高くなるように、周期構造105を構成すると、透過光110を透過光111よりも強くすることができる。さらに周期構造106を、入射角度が小さい光110に対して回折効率が低く、入射角度が大きい光111に対しては、少なくとも一部の光を回折する構造とする。
【0018】
これにより、入射光110がθcよりも大きい角度で伝搬する光115に変換されるのを抑制し、損失光108を低減することができる。また、入射光111の一部は、θcよりも小さい角度で伝搬する光112に変換されるため、出力光107を増大することができる。
【0019】
一方、入射角度が大きい光109に対して、回折効率が低くなるように、周期構造105を構成すると、透過光110よりも透過光111を強くすることができる。さらに周期構造106を、入射角度が大きい光111に対して回折効率が高い構造とし、θcよりも小さい角度で伝搬する透過回折光112を強く発生させる。これにより、透過光113を低減し、出力光107を増大することができる。さらに、周期構造106を、入射角度が小さい光110に対して回折効率を低くすると、θcよりも大きい角度で伝搬する光115の発生が抑制され、損失光108が低減し、出力光107が更に増大する。
【0020】
このように、周期構造105の回折特性が、透過光110と透過光111のいずれを強く出力するようになっていても、周期構造106の回折特性が周期構造105とは逆の回折特性を有するようにすることで、出力光107を増大させることができる。
【0021】
具体的には、後述の図4で説明するように、周期構造105と周期構造106それぞれの、部材11の配列周期(格子周期)を異ならせることで、上記の作用を生じさせ、表示光107を増大させることができる。これにより損失光を低減し、高い光取り出し効率を有する発光素子を得ることができる。
【0022】
更に本実施形態において、周期が異なる周期構造を積層することで構成された微細構造によって、上記で述べた効果が得られる理由を次に述べる。
【0023】
微細構造104に入射し、周期構造105および周期構造106によって回折された光の、前面板101の発光層102が設けられた面に平行な方向(面内)における波数ベクトル成分をKoutxとする。Koutxは、一般的な回折の式から、式1で表すことができる。
【0024】
【数1】

【0025】
式1において、mおよびnは整数で、周期構造105、106の回折次数を表している。光が微細構造104に入射する直前の媒質を入射側媒質と呼び、本実施形態においては励起源の一部である透明電極103を構成する媒質とする。Kinxは入射側媒質中の光の、前面板101に平行な面内における波数ベクトル成分を表している。本実施形態においては励起源の透明電極103中における光の前面板101に平行な面内における波数ベクトル成分を表している。G105およびG106はそれぞれ周期構造105、106の逆格子ベクトルを表し、式2および式3で表すことができる。
【0026】
【数2】

【0027】
【数3】

【0028】
式2および式3において、P105およびP106は、それぞれ周期構造105、106における部材11の周期を表している。Ksubは、透過側媒質中の光の波数ベクトルで、本実施例においては前面板101中の波数ベクトルとする。式1において、KoutxがKsubよりも小さくなる回折次数では、透過回折光が発生し、Ksubよりも大きくなる回折次数では、透過回折光は発生しない。周期構造に入射する光の角度と、発生する回折光の関係は、各周期構造の部材11の周期の大きさ(長さ)で制御される。前面板101を伝播し、臨界角θcの角度で伝播する光の前面板101に平行な面内における波数ベクトルの長さをKcxとし、式4で表す。
【0029】
【数4】

【0030】
式1で示す透過光のうち、KoutxがKcxより小さい光、すなわち伝搬角度がθcよりも小さい光は、前面板101から外部に射出され、出力光107となる。また、Kcxより大きい光は、前面板101と外部との界面で全反射され、損失光108となる。
式1は、更に式5および式6のように書くことができる。
【0031】
【数5】

【0032】
【数6】

【0033】
式5および式6の、K´outxは、周期構造105によって(m+n)次で回折された光の、前面板101に平行な面内における波数ベクトル成分を表している。ΔGは、周期構造105と周期構造106の逆格子ベクトルの差を表している。式5より、微細構造104の透過光は、周期構造105によって回折され、更にΔGの逆格子ベクトルを有する構造によって回折された光と見なすことができる。
【0034】
図3は本実施形態において、部材11(図1(b)参照)の周期が互いに異なる周期構造を積層することで構成された微細構造によって、高い光取り出し効率を得ることができることを説明する概略図である。図3において、前面板101、発光層102、励起源の一部である透明電極103、周期構造105は図1と同じである。構造106´は、周期構造105と周期構造106の周期の差で定義される、ΔGの逆格子ベクトルを有する構造である。周期構造105によってm+n次で回折された光のうち、K´outxがKcxよりも小さい光を透過光110、Kcxよりも大きい光を透過光111とする。入射光109に対する周期構造105の回折特性によって、透過光110あるいは透過光111の強度を増大することができる。透過光110の強度を透過光111よりも大きくした場合、式5より、ΔGによって、KoutxがKsubよりも大きくなるように構成すると、透過回折光115の発生を抑制することができる。また、透過光111の一部は、周期構造106´によって回折され、透過光112に変換される。これにより、損失光108を低減し、出力光107を増大することができる。また、透過光110よりも透過光111の強度を大きくした場合、nの値が負の整数のとき、ΔGによって、KoutxがKcxよりも小さくなるように構成すると、透過回折光112が発生し、透過光113が低減する。nの値が正の整数のとき、ΔGによって、Koutxの値がKsubよりも大きくなるように構成すると、前面板101と外部との界面で全反射され、損失となる回折光の発生を抑制することができる。これらの効果により、損失光108を低減し、出力光107を増大することができる。
【0035】
互いに部材11の配列周期が異なる周期構造105と周期構造106を積層した微細構造104を設け、以上の効果が得られるように、適切なΔGを有する構成にする。これにより損失光を低減し、高い光取り出し効率を有する発光素子を得ることができる。
【0036】
なお、周期構造105および周期構造106の、入射光の角度に対する回折特性は、周期構造の周期の長さだけでなく、周期構造を構成する媒質や形状によって制御することができる。
【0037】
周期構造105と周期構造106を構成する媒質、形状を互いに異なる構成とすることで、異なる回折特性を得ることができる。周期構造105を、適切な回折特性が得られるように構成し、発光層102から周期構造105に大きな角度で入射する光を、透過光110あるいは透過光111に効率良く変換する。次に、透過光110あるいは透過光111の伝搬角度に対する周期構造106の回折特性を適切に制御し、損失光108の発生を抑制し、出力光107を増大する。これにより、高い光取り出し効率を有する発光素子100を得ることができる。
【0038】
なお、周期構造105、106の格子周期(部材11の配列周期)は、発光層102が発する光の波長が波長350nm以上且つ800nm以下の場合、0.2μm以上かつ5μm以内であることが好ましい。格子周期が0.2μm未満の構造にすると、周期構造の逆格子ベクトルが大きくなり、可視光に対して回折光が発生しなくなる。また格子周期が5μmよりも大きい構造にすると、回折効率が大幅に低下する。上記の範囲を満たす周期構造を用いることで、各周期構造が回折格子として機能し、これらの構造を積層することで、高い回折効率を有する微細構造を得ることができ、高い光取り出し効率を有する発光素子を得ることができる。特に、周期構造105または周期構造106の少なくとも一方の格子周期(部材11の配列周期)は1μm以上且つ3μm以下にすることが望ましく、更に望ましくは1.5μm以上且つ2.5μm以下にすることが望ましい。周期が1μm以上且つ3μm以下の構造にすると、広い入射角度の光に対して、複数の回折光を発生することができ、回折効率を高くすることができる。周期が1.5μm以上且つ2.5μm以下の構造にすると、回折効率を更に高くすることができる。このような格子周期を有する周期構造を用いることで、微細構造の回折効率を高くすることができ、高い光取り出し効率を有する発光素子を得ることができる。
【0039】
また、本実施形態の構成において、周期構造105と周期構造106の格子周期(部材11の配列周期)のと差は、0.6μm以上であることが望ましい。
【0040】
格子周期の差が小さいと、逆格子ベクトルの差ΔGが小さい値となる。式5より、nが小さい整数のとき、KoutxはKsubよりも大きく、Kcxより小さくなり、損失光108となる回折光が発生する。そのため、ΔGは大きな値であることが望ましく、格子周期の差を0.6μm以上とすることで、損失光108を抑制し、高い光取り出し効率を有する発光素子を得ることができる。
【0041】
また、本実施形態の構成において、第一微細構造である周期構造105が第二微細構造である周期構造106よりも発光層102に近接して配置され、周期構造105における部材11の配列周期が周期構造106における部材11の配列周期よりも大きいことが好ましい。格子周期(部材11の配列周期)が長い(大きい)周期構造は、広い角度や波長帯域の入射光に対して、複数の回折光が発生し、高い透過回折効率を得ることができる。よって発光層102で生じた光が周期構造105によって反射されるのを低減し、透過光110または透過光111に効率良く変換することができる。これにより、発光層102から前面板101に射出される光が増大し、光取り出し効率を向上することができる。
【0042】
なお、本実施形態を構成する媒質、微細構造104に含まれる周期構造105、106の格子周期12、円柱の直径13および高さ14は、本実施形態で示した媒質および長さとは異なっていてもよい。
【0043】
なお、図1で示すように、部材11が三角格子状に配列されている構造(以下、三角格子構造ともいう)は、構造の対称性がよく、微細構造に入射する光の角度依存性が少ないため、発光素子100からの出力光の強度の角度依存性を低減することができるため好ましい。しかし、本実施形態に含まれる微細構造104は、図1で示した構造に制限されるものではない。尚、微細構造104は、微粒子を前面板101に平行な面内において三角格子状に配列し、積層した構造でもよい。溶媒中に微粒子を分散させ、その溶液を前面板101に塗布して、溶媒を除去することで、微粒子が配列した構造を作製することができる。このとき、各工程の条件を適切に設定することで、微粒子が三角格子状に分布し、最近傍の微粒子が互いに接する状態で配置された最密充填構造を簡単に作製することができる。また、微粒子の径を適切に選択することで、周期構造の周期を制御することができ、本実施形態の構造を簡単に作製することができる。あるいは、周期構造105、106は、部材11の配列として、正方格子状(正方格子構造)や他の周期的な配列を有していても良い。周期構造105と周期構造106は互いに異なる基本格子ベクトルを有する構造でも良い。
【0044】
本実施形態に含まれる前面板101は、可視光に対して透明な材料であればよく、プラスチックで形成してもよい。また、励起源は、発光層102の裏面(電子放出素子に対向する面)に電極を備え、更にその後方に電子放出素子を設けた構成であってもよい。あるいは励起源は、前面板101と発光層102との間および発光層102の裏面に、陽極と陰極を設けた構成であってもよい。両電極間に電流を印加し、電子と正孔を注入することで、発光層102で光を発生させることができる。あるいは、励起源は、前面板上に電極を配置し、発光層102の裏面に、セルと電極を配列し、セル内にプラズマによって紫外線を発生するガスを封入した構成としてもよい。このような構成とし、セルに含まれるガスに電流を流すと、紫外線が発生し、蛍光体粒子に照射されることで、蛍光体粒子が励起され、光を発生することが出来る。また、発光層102は、蛍光体粒子を、蛍光体粒子と同じ屈折率を有する媒質の中に分散させて配置することで構成してもよい。このような構成にすることで、蛍光体粒子とその周囲との境界で、屈折率の差によって発生する散乱反射を低減することができ、発光層102で発生する拡散反射を抑制することができる。発光層102は、本実施形態で示した屈折率を有する媒質以外の媒質でもよい。
【実施例1】
【0045】
以下、図面を用いて、本実施例を説明する。図1は、本実施例における発光素子100に含まれる微細構造104の一例を示す。図1の微細構造104において、周期構造105の部材11である円柱構造11の配列周期(格子周期)12は1800nm、円柱の直径13および高さ14はそれぞれ1500nmの長さを有している。周期構造106の部材11である円柱構造11の直径13と配列周期(格子周期)12との比(直径13を配列周期12で除した値)を0.83とし、円柱の高さ14は直径13と同じ長さを有している。円柱を構成する媒質の屈折率を2.2、円柱構造11の周りの主要部材10を構成する媒質の屈折率は1.5となっている。前面板101および発光層102は屈折率が1.5の媒質で形成されている。また、励起源の一部である透明電極103は、発光層102と微細構造104の間に屈折率1.8の媒質で形成され、発光層102の裏面側には励起源の一部である電子放出素子112が配置されている。尚、発光層102の裏面の領域は真空となっている。また発光層102の発光波長は550nmとしている。図4は、このような発光素子において、周期構造106の周期を200nmから1800nmまで変化させたときの光取り出し効率を計算した結果を示す図である。図4の横軸は、周期構造105における部材11(円柱構造11)と周期構造106における部材11(円柱構造11)の配列周期(格子周期)の長さの差を表しており、縦軸は光取り出し効率を示している。さらに、図4には、従来の構成における微細構造を含む発光素子の光取り出し効率を示した。図4において、破線117は、従来の構成の特性を示しており、実線116は、本実施例における構成の特性を示している。従来の構成における微細構造は、図7の微細構造1105において、格子周期の長さを1800nmとし、円柱の直径および高さは1500nmの長さを有している。つまり、本実施例における周期構造105のみを備えている。また、前面板1101、発光層1102、透明電極1103を構成する媒質の屈折率は、本実施例と同じ屈折率を有している。なお、前面板101と外部領域との界面における反射率は、本実施例と従来の構成とで同じ構成であるため、無視している。光取り出し効率の計算は、電磁場解析で行った。
【0046】
図4に示すように、本実施例の構成において、従来よりも高い光取り出し効率が得ることができる。特に本発明の構成において、周期構造105における部材11の配列周期(格子周期)と周期構造106における部材11の配列周期(格子周期)との差が0.6μm以上のところで、従来の構成よりも高い光取り出し効率を得ることができた。尚これは、本実施例の周期構造104における周期構造105と比較例の微細構造1105とで微細構造を構成する媒質や円柱構造の形状を同じにした場合の比較であり、構成部材の媒質や形状を互いに異ならせた場合にはこの限りではない。上述の実施形態で説明した通り、第一微細構造における主要部材10とは異なる屈折率を有する部材11の配列周期と第二微細構造における主要部材10とは異なる屈折率を有する部材11の配列周期とが異なることによって、小さい角度で伝搬する透過光110、大きい角度で伝搬する透過光111の双方に作用して、損失光108を低減し、出力光107を増大させることが出来ることが重要である。
【0047】
以上のように、本実施例にかかる発光素子100において、周期構造105と周期構造106で構成された微細構造104を前面板101と発光層102の間に設け、格子周期の差が適切な長さとなるように構成する。これによって周期構造105および周期構造106の入射角度特性は互いに異なり、これにより、高い光取り出し効率を有する発光素子が得られることができる。
【実施例2】
【0048】
図5に本実施例の発光素子200の概略構成を示す。発光素子図5は本実施例の発光素子200のxz断面図である。発光素子200は、前面板201と、前面板201上に設けられた微細構造209,210,211と、微細構造を介して前面板201上に配置された赤色、緑色、青色の光を発生する発光層205,206,207とを備える。尚、微細構造と発光層との間には、好ましい形態として励起源の一部である透明電極208が配置されている。また、各発光層は光吸収性を有する媒質で形成された隔壁218によって区切られている。図5には、3つの発光層205,206,207202、203、204を示しており、このような発光層を複数個配列することで、カラー画像を表示することが可能となる。前面板201は、可視光に対して透明な媒質で形成されており、例えば、ガラスで形成されている。
【0049】
各発光層205、206、207には、赤色、緑色、青色の各波長の光を発生する蛍光体を含んでいる。
【0050】
微細構造209、210,211は、それぞれ図1に示す微細構造104と同様の構造を有している。つまり、微細構造(周期構造)212,213,214は図1における周期構造106と同様の構造を有し、微細構造(周期構造)215,216,217は図1にける周期構造105と同様の構造を有している。
【0051】
各微細構造209、210、211は、異なる構造あるいは異なる媒質で構成されている。
【0052】
また、励起源の一部である電子放出素子222が発光層に対向して配置されている。このような構成において、電子放出素子222に電界を加えると、発光層に向けて電子が放出され、発光層205,206、207に電子が供給され、発光する。発生した光は、微細構造209、210、211および前面板201を透過し、外部に抽出されることで、出力光となる。
【0053】
本実施例2にかかる発光素子200においても、上述の実施例1同様、微細構造209、210、211の格子周期、円柱の直径、高さ、各媒質の屈折率を適切に設定する。これにより、光取り出し効率が向上させることができ、輝度が高い画像を表示することが出来る。
【0054】
なお、本実施例2にかかる発光素子200においては、各色に対応する微細構造209,210,211で互いに異なる構造(構成部材の媒質や形状を異ならせた)を採用したが、これに限るものではない。例えば、赤色、緑色あるいは青色に対応する微細構造の、いずれか一つの微細構造と、他の微細構造とが異なる構成であってもよい。これによって、同じ構造を有する微細構造を配置した場合と比べて、光取り出し効率が向上し、出力光の輝度が高い画像を表示することができる。また、各発光層に設ける微細構造は、同じ構造であってもよい。同じ構造を用いることで、上記の効果が低減する代わりに、発光層ごとに作製方法や条件を変える必要がなく、作製が容易となる。
【符号の説明】
【0055】
100,200,1000,1100 発光素子
101,201,1001,1101 前面板
102,205,206,207,1002,1102 発光層
104,209,210,211,1105 微細構造
105,106,212,213,214,215,216,217 第一または第二微細構造(周期構造)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、微細構造を介して配置された発光層を有する発光素子であって、
前記微細構造は、第一微細構造と第二微細構造との積層体を備え、該第一微細構造及び第二微細構造は、それぞれ主要部材中に該主要部材とは屈折率が異なる部材が前記発光層が配置された基板の面と平行な方向に周期的に配列されており、該第一微細構造と第二微細構造とは前記主要部材とは屈折率が異なる部材の配列周期が異なることを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記発光層は、波長350nm以上且つ800nm以下の光を発する媒質で形成され、
前記第一微細構造における主要部材とは屈折率が異なる部材の配列周期および前記第二微細構造における主要部材とは屈折率が異なる部材の配列周期が、0.2μm以上且つ5μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記第一微細構造における主要部材とは屈折率が異なる部材の配列周期または前記第二微細構造における主要部材とは屈折率が異なる部材の配列周期の少なくとも一方が、1μm以上且つ3μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記第一微細構造における主要部材とは屈折率が異なる部材の配列周期または前記第二微細構造における主要部材とは屈折率が異なる部材の配列周期の少なくとも一方が、1.5μm以上且つ2.5μm以下であることを特徴とする請求項3に記載の発光素子。
【請求項5】
前記第一微細構造における主要部材とは屈折率が異なる部材の配列周期と前記第二微細構造における主要部材とは屈折率が異なる部材の配列周期との差が、0.6μm以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項6】
前記微細構造は、前記第一微細構造が前記第二微細構造よりも前記発光層に近接して配置され、前記第一微細構造における主要部材とは屈折率が異なる部材の配列周期が前記第二微細構造における主要部材とは屈折率が異なる部材の配列周期よりも大きいことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項7】
前記第一微細構造における主要部材とは屈折率が異なる部材および前記第二微細構造における主要部材とは屈折率が異なる部材が、三角格子状に配列されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項8】
前記発光素子は、赤色、青色、または緑色の光を発生する複数の発光層を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−133945(P2012−133945A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283774(P2010−283774)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】