説明

発光表示用媒体

【課題】任意な表示パターンを描画・消去することが容易にでき、簡単な構造で安価な発光表示用媒体の提供。
【解決手段】背面電極、電界印加により紫外線を発光する蛍光体粒子が誘電体に分散されてなる発光層、透明電極がこの順に面全体に積層された基本構造を有する発光表示用媒体の提供による。更に、該発光表示用媒体に紫外線によりフォトルミネッセンス発光する蛍光体を、表示パターンに応じて描画・消去することにより達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエレクトロルミネッセンス(以下、「EL」と記す。)素子を用いた発光表示用媒体に関する。さらに、エレクトロルミネッセンス発光させた光を基に蛍光物質をフォトルミネッセンス発光させることにより使用者が任意に発光(表示)パターンを設定できる発光表示用媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
表示パターンを任意に描画・消去することが容易な従来のEL発光表示用媒体は、発光層が電圧を加えるために配置された2つの電極間に位置するのではなく、それらの上層に位置する構造となっている。一般に、EL発光表示用媒体の発光輝度を高めるためには、発光層に効率良く電界を発生させる必要があり、通常のEL素子においては発光層を背面電極(裏面電極と記すこともある)と透明電極とで挟みこむ構造が採られている。しかし、表示パターンを任意に描画・消去することを可能とするためにはそのような構造を採用することはできなかった。これは、以下のような理由による。
【0003】
EL発光表示用媒体の表示パターンを任意に描画・消去するためには、発光層中に蛍光体を均一に分散させて、発光表示を希望する部分に位置する蛍光体のみを発光させ、かつその発光表示を希望する部分のパターンを容易に変更可能にする必要がある。このため、例えば特許文献1に記載の発明は、図5に示すように、一方の電極57から出てもう一方の電極57(同一面上に対向する電極)に入る電気力線58を、絶縁層52、EL発光層53、透明伝導材56とを介させる(迂回させる)ことによって、両電極57とその上層の透明伝導材56との間で垂直な電気力線58を生じさせる構造となっている。
【0004】
この構造によって、電極57とその上層に設置された透明伝導材56との間(図5中では領域b)にあるEL用蛍光体54のみが発光し、領域aにあるEL用蛍光体54は発光しないため、透明伝導材56による描画パターンを発光表示することが可能となる。そして透明伝導材56が最上層にあるため、この透明伝導材56のみを交換することにより、表示パターンを任意に変更することを可能としている。
【0005】
したがって、このような従来のEL発光表示用媒体では、EL用蛍光体54をEL発光させて得られた可視光をそのまま表示に利用しているため、透明伝導材56を電圧印加のための電極とすることができなかった。仮に、透明伝導材56を電圧印加用の電極として裏面電極と対向させ、その間に発光層を配置するという前述のEL素子のような構造を採用した場合には、表示パターンを変更する際に表示側の透明電極自体を交換することとなり、容易に行なうことはできず、またその度に電極を作製する必要があり不経済となる問題があった。
【0006】
また特許文献1に記載の発明のような構造では、印加電圧に対して生じる電界強度の割合が小さい(効率が悪い)という問題を有している。また、印加電圧を上げると、電極57の間を直線的に短絡してしまうという危険性が有り、絶縁信頼性に劣るものとなっている。更に、対向する電極57同士の間隙の上部(図5中の領域c)にあるEL用蛍光体54は非常に発光効率が悪くなるため、発光表示にムラが生じるという問題もある。
【0007】
このような問題を防ぐために、例えば図6に示す特許文献2に記載の発明のように、2電極(背面電極67及び透明電極69)を異なる層に配置して、低ε(誘電率)の絶縁層60を介在させる等の工夫も考えられるが、複雑な構造となるうえに、高コストとなる問題が生じる。
また、従来の表示パターンの描画・変更可能なEL発光表示用媒体では、単色でしか表示できないか、煩雑な手法により多色化を図ったとしても表示パターンをフレキシブルに変更できるようなものではなかった。
【0008】
【特許文献1】特開平08−153582
【特許文献2】特開2004−259602
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、任意な表示パターンを描画・消去することが容易にできる発光表示用媒体の構造を簡単にするとともに、安価に提供することを目的とする。更に、該発光表示用媒体を絶縁信頼性に優れたものとし、発光強度を高めることを目的とする。また、任意の描画パターンに応じて任意の彩色をした多色発光表示を可能とする発光表示用媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、発光層からEL発光させた光(主には紫外線)によって、表示用蛍光物質をフォトルミネッセンス(以下、「PL」と記す。)発光させることが有効であることを見出し、本発明に至った。そこで本発明は以下の構成を採用する。
【0011】
(1)背面電極、絶縁層、電界印加により紫外線を発光する蛍光体粒子が誘電体に分散されてなる発光層、透明電極がこの順に面全体に積層された基本構造を有する発光表示用媒体である。
【0012】
(2)前記透明電極上あるいは前記発光層上に可視光遮蔽層が形成された前記(1)に記載の発光表示用媒体である。
(3)前記紫外線を発光する蛍光体粒子の主成分がZnSにIIA族硫化物を混晶化した蛍光体である前記(1)又は(2)に記載の発光表示用媒体である。
(4)前記透明電極の基材フィルムの主成分がシクロオレフィンポリマーあるいはシクロオレフィンコポリマーである前記(1)〜(3)のいずれか一に記載の発光表示用媒体である。
(5)前記透明電極の導電層の主成分がZn(1-x)xO(R:IIA族元素、0≦x≦0.5)である前記(1)〜(4)のいずれか一に記載の発光表示用媒体である。
【0013】
(6)前記発光層よりも前記透明電極側に、紫外線によって可視光線をPL発光する蛍光体により形成される表示層を設けたことを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか一に記載の発光表示用媒体である。
(7)前記表示層上に紫外線遮蔽フィルターを形成したことを特徴とする前記(6)に記載の発光表示用媒体である。
【0014】
(8)前記(1)〜(7)のいずれか一に記載の発光表示用媒体に、前記PL発光する蛍光体を前記表示層上に付着させて文字やパターンを描画し、かかる描画した文字やパターンを発光表示可能としたことを特徴とする発光表示用媒体である。
【0015】
上記(1)に記載の発明は、電圧の印加によって紫外線(以下UVと記す)をEL発光する面発光光源として機能する発光表示用媒体である。上記(6)〜(8)に記載の発明のように、UVによって励起され可視光をPL発光する蛍光体(以下PL用蛍光体と記す)により形成される表示層とを組み合わせることによって、任意の描画パターンを表示・消去することを容易に行なうことができるようになる。
本発明の発光表示用媒体は、発光層を背面電極と透明電極との間に配置することにより、発光層に効率よく電界を発生させることが可能となり、また絶縁信頼性にも優れたものとなる。更に、PL用蛍光体としては公知の蛍光インク等に含まれる材料が利用可能であるため、公知の蛍光インク等を使用することによって任意にパターンを描画することが可能である。
【0016】
また本発明においては、描画された表示パターンはフォトルミネッセンスにより発光された可視光によって表示されるため、描画する際に用いる蛍光物質(PL用蛍光体)を適宜選択することにより、任意に多色での表示が可能となる。つまり、EL発光により生じるUVによって表示用蛍光物質(PL用蛍光体)を励起するため、任意の波長の可視光によって描画パターンを表示することが可能となるのである。これは、物質が光励起によって発光する場合には吸収した光エネルギーの一部が物質の内部エネルギーに転換されるため、発光スペクトルは吸収スペクトルよりも長波長になるというストークスの法則に基づくものである。
【0017】
更に、本発明による発光表示用媒体は薄く軽量なEL素子型表示装置の利点を維持し、かつ発光効率がよく、絶縁信頼性にも優れたものであり、任意の表示パターンの描画・消去が可能である。また、これらの特徴を有していても、その構造を複雑にすることなく、安価に製造することが可能である。
【0018】
(2)に記載の発明は、透明電極又は発光層上に可視光遮蔽層を設けることを特徴としている。このため、発光層によるEL発光したUVに可視光成分が含まれていたとしても、可視光遮蔽層によって遮蔽されるため、表示面上に漏れ出すことがない。これにより、発光層からの可視光成分がPL用蛍光体の発光する可視光と混ざることがないため、任意な描画パターンの表示の鮮明さを悪化させないようにすることが可能となる。
【0019】
(3)に記載のZnSにIIA族硫化物を混晶化した蛍光体は、高効率にUVをEL発光することが可能であるため、高輝度の発光表示が期待できる。
高効率でEL発光する蛍光体としてはZnS蛍光体がよく知られている。これはZnSにCuやAg等の付活剤、ClやAl等の共付活剤をドーピングしたものであるが、発光スペクトルのピークは450nm以上である。これに対し、ZnMgSなどZnSにIIA族硫化物を混晶化した蛍光体に付活剤及び共付活剤をドーピングした蛍光体は、短波長可視光〜紫外発光することができる蛍光体である。
【0020】
(4)に記載のシクロオレフィンポリマー又はシクロオレフィンコポリマーは、従来よく用いられてきたPET基材に比べて、UVの低波長域での透過率が高い。このため、本発明による発光表示用媒体は透明電極がUVを吸収することによるUVのロスを小さくすることができ、効率良く表示用蛍光物質(PL用蛍光体)をPL発光させることが可能となる。
【0021】
上記(5)に記載のZn(1-x)xO(R:IIA族元素、0≦x0.5)は、従来の透明電極に用いられてきたITO(酸化インジウムスズ)に比べ、UVの低波長域での透過率が高い。このため、本発明による発光表示用媒体は透明電極がUVを吸収することによるUVのロスを小さくすることができ、効率良く表示用蛍光物質(PL用蛍光体)をPL発光させることが可能となる。
【0022】
上記(6)に記載の発明は前記(1)〜(5)に記載の発光表示用媒体とPL用蛍光体を組み合わせることによって、任意の描画パターンを発光表示することを特徴とする発光表示用媒体である。本発明によれば、PL用蛍光体が発光する可視光を発光表示に用いるため、PL用蛍光体の描画パターンを変更するのみで、表示パターンを変更することができる。つまり、表示層を公知の蛍光ペン等を利用することによって容易に形成・変更することが可能となる。
【0023】
上記(7)に記載の発明は、描画に用いたPL用蛍光体上に紫外線遮蔽層を有することを特徴としている。このため、任意な描画パターン以外の部分から漏れ出す発光層からのUVを遮蔽することができる。これにより、皮膚、目をはじめ人体に悪影響を及ぼす可能性のあるUVを発光表示用媒体から外に出ることを防止することが可能となり、安全性を高めることができる。
【0024】
上記(1)〜(7)のいずれか一に記載の発光表示用媒体にPL用蛍光体を付着させる方法としては、PL用蛍光体を含んだペンにより発光層より表示側に描画する方法、PL用蛍光体を含んだテープを発光層より表示側に貼り付ける方法、PL用蛍光体により描画されたパネル又はフィルター等を発光層より表示側に装着する方法、PL用蛍光体を含む磁性材料を発光層より表示側に付着させる方法等が考えられる。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、任意な表示パターンを描画・消去することが容易にできる発光表示用媒体の構造を単純にすることが可能となる。これにより、該発光表示用媒体を簡便かつ安価に提供することができる。更に、本発明の発光表示用媒体は絶縁信頼性に優れ、発光強度も高く、機能的にも従来品より優れたものである。また、従来品では達成できなかった任意の描画パターンに応じて彩色を施した多色発光表示も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1(A)に示すように、本発明に係る発光表示用媒体は背面電極1と透明電極5との間に絶縁層2及びUV発光層3を配置させることにより簡便に構成される。
高効率で発光する蛍光体としてはZnS蛍光体が広く知られている。これはZnSにCuやAg等を付活剤、ClやAl等を共付活剤としてドーピングしたものであるが、発光スペクトルのピーク波長は450nm以上であり、本発明の発光表示用媒体に利用するには適さない。これに対して、ZnMgSなどZnSにIIA族硫化物を混晶化した蛍光体に付活剤と共付活剤をドーピングした蛍光体は、短波長可視光〜紫外発光することができる蛍光体であり、本発明の発光表示用媒体を構成するUV発光層3のEL用蛍光体4の主成分として好ましい。
【0027】
この蛍光体は、母体の一般式が、Zn(1-x)xS(式中のAはBe、Mg、Ca、Sr及びBaの群から選ばれる少なくとも1種のIIA族元素、0<x)で表され、IIA族硫化物の含有量に依存して発光波長を変化させることができる。ドーピングした付活剤は一般的にはZnやIIA族元素からなる陽イオンの位置を置換してアクセプターになり、共付活剤は硫黄の位置又は陽イオンの位置を置換してドナーになり、これらの準位間での発光が起こるため、ドナー−アクセプタ−(DA)ペア発光と呼ばれる。
【0028】
一方、付活剤が陽イオンを置換するのではなく、母体結晶の格子間位置に侵入すると、陽イオンと格子間元素の会合による新しい準位が発生し、B−Cu型発光と呼ばれるDAペア発光よりも高エネルギー(短波長)の発光が起こる。
このような混晶蛍光体の製法は、例えばZnMgS系の場合、ZnSとMgS粉末を出発原料とし、これらに付活剤、共付活剤を添加した混合粉末を焼成することで得られる。
【0029】
透明電極5の基材フィルムとしては、UVの低波長域での透過率が高いシクロオレフィンポリマー(以下COPと記す)又はシクロオレフィンコポリマー(以下COCと記す)を用いることが好ましい。COPは従来から利用されているPET(ポリエチレンテレフタレート)等よりも光の透過性が高く、更に、より低波長域の光を非常に良好に透過させる。これにより、透明電極5の基材フィルムによるUVの吸収ロスが減り、効率良くPL用蛍光体を励起することが可能となる。
【0030】
COPは、下式(1)に示すように、ノルボルネン系モノマー(I)を開環メタセシス重合後に水素化することによって、開環重合型の(II)が得られる。このようなCOPは、例えば、日本ゼオン社、JSR社等から提供されている。
【0031】
また、COCは下式(2)に示すように、ノルボルネン系モノマー(I)をエチレン系モノマーと重合させることにより、付加共重合型の(III)が得られる。このようなCOCは、例えば、三井化学社、TICONA社等により提供されている。
【0032】
【化1】

【0033】
【化2】

【0034】
透明電極の基材フィルムとしては他にも、従来からよく用いられてきたPET(ポリエチレンテレフタレート)基材、PES(ポリエーテルスルホン)、PC(ポリカーボネート)、PAR(ポリアリレート)やPE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)等のオレフィン樹脂も利用可能である。
【0035】
透明電極5の透明導電相としては、一般的なインジウム・スズ系酸化物(ITO)でもいいが、紫外線に対して透明性の高いZn(1-x)xO(R:IIA族元素、0≦x≦0.5)が好ましい。
この材料はZnOにIIA族元素が固溶した混晶材料である。ZnOは導電性が高く、透明導電膜として有望な材料であり、ZnOとバンドギャップが大きいIIA族元素の酸化物との混晶にすることにより、導電性を損なわずに、より短波長の紫外線も十分に透過できる材料とすることができる。IIA族元素の中ではバンドギャップの大きいMgが最も好ましい。
【0036】
透明電極5を構成する透明導電相の比抵抗は10-1Ωcm以下であることが好ましい。このような低い抵抗値は、ZnOやZnMgOにAlをドーピングすることで達成できる。Alの添加量は、これらの酸化物中の金属元素の総和の数at%程度である。Al以外にもGa等の添加により比抵抗を低下させることもできる。
このような膜は、スパッタ法、レーザアブレージョン等の各種気相法で合成してもいいし、水熱合成法やゾルゲル法でもかまわない。
【0037】
これらの構成により、任意な表示パターンを描画・消去することが可能な表示パネルを作製することができる。図1(B)に示すように透明電極5及び背面電極1に交流電圧を印加することにより、UV発光層3中のEL用蛍光体4がUV9を発光する。更にUV9により、透明電極5の表面に描画されたPL発光用蛍光体が励起され、可視光10を発光し、任意の描画パターンに応じた発光表示が可能となる。
【0038】
図2に示す本発明の表示パネルは、PL用蛍光体26とUV発光層23との間に可視光遮蔽層として、可視光遮蔽フィルター29が形成されたことを特徴とする。可視光遮蔽フィルター29は、図3に示すようにUV発光層22から出た光のうち可視光成分(図3では400nm以上の光)を遮蔽するため、PL用蛍光体26にはUVのみが到達するようになる。したがって、PL用蛍光体26から発光される可視光とUV発光層23から出た光のうちの可視光成分とが混ざり合うことがなくなるため、発光表示される描画パターンの陰影がよりはっきりするようになる。
【0039】
上記の通りUV発光層23から出た光のうちの可視光成分とPL用蛍光体26が発光する可視光とが混ざり合わないようにするためには、400nm以下の光をよく透過させ、400nmを超える光を透過させないものが可視光遮蔽フィルター29として好ましい。また、本発明の発光表示用媒体自体がフレキシブルなものであるため、ガラスよりもフィルム状のものの方が発光表示用媒体として扱いやすくなるため、好ましい。このような可視光遮蔽フィルターとしては、例えばバンドパスフィルターBPB−42(富士フィルム社)が適している。
【0040】
図4に示す本発明の発光表示用媒体はPL用蛍光体26よりも上層に紫外線遮蔽フィルム49を有することを特徴とする。紫外線は皮膚、目等人体に悪影響を及ぼす可能性が高いため、本発明の発光表示用媒体を安全に利用するためには、効率良く紫外線をカットする必要がある。安全のためには400nm未満の光を遮蔽できるようなものが好ましい。また、取付け及び取外しが簡便な紫外線遮蔽フィルムを用いれば、PL用蛍光体による表示パターンの変更が容易であることの利便性を保つことができる。
【0041】
このような紫外線遮蔽フィルムとしては、例えば富士フィルム社シャープカットフィルター:SC−40があるが、他にもベンゾフェノン系、ベンゾフェノール系、ベンゾトリアゾール系等の有機系UV吸収剤あるいは酸化チタン、酸化亜鉛等の無機微粉末を、PET等の透明樹脂中に練り込んでフィルム化したもの、あるいは透明樹脂上に塗布したもの等が利用可能である。
【0042】
また、本発明に係る発光表示用媒体の表面に公知の蛍光ペンにより発光表示パターンを描画した場合には、柔らかい布(例えばティッシュペーパー等)により簡単に拭き取ることが可能である。このように、本発明の発光表示用媒体は描画パターンを消去することも簡単にできるため、任意の多色発光表示パターンを簡単に何度でも描画することができる。また、発光表示パターンの描画を繰り返し描きかえることにより薄く色残りをするようになった場合には、アルコール等の有機溶剤を染み込ませた上で拭き取ることによりきれいにすることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例に基づき本発明を詳細に解説する。
(1)蛍光体の作製
(i)原料
蛍光体母体 : ZnS粉末(平均粒径1μm)
IIA族元素源 : MgS粉末
付活剤 : Cu2S粉末
共付活剤(フラックス兼用): NaCl粉末
(ii)混合
ZnS,MgS(50mol%),CuS(0.01mol%),NaCl(2mol%)を窒素中、乾式混合した。
(iii)焼成
原料混合物は、蓋付きの石英るつぼに投入し、バッチ式窒素炉を用い、1気圧の各種ガス中、1000℃で3時間焼成を行った後、炉内で室温まで自然放冷した。
(iv)洗浄(脱イオン水でフラックス除去)/粉砕(乳鉢)/洗浄(脱イオン水)
【0044】
(2)発光素子の作製
[発光層インクの作製]
ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレンの共重合体を酢酸ブチル溶剤に20wt%溶解させたフッ素樹脂ワニスに、上記ZnMgS:Cu蛍光体粉末を重量比1:1で加え、遊星式撹拌機で撹拌し、3本ロールを通してインク化した。
[絶縁層インクの作製]
ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレンの共重合体を酢酸ブチル溶剤に20wt%溶解させたフッ素樹脂ワニスに、チタン酸バリウムを重量比1:1で加え、遊星式撹拌機で撹拌し、3本ロールを通してインク化した。
[透明電極及び発光層形成]
ITO/PET(東洋紡績社300R:125μm)を基材としてITO面上に、発光層インクを用いて発光層をスクリーン印刷した(100×100mm)。乾燥後の厚みは20μm。
[絶縁層形成]
上記発光層上に、絶縁層インクを用いて絶縁層をスクリーン印刷した。乾燥後の厚みは20μm。
[背面電極形成]
上記絶縁層上に、カーボンペースト(アチソン社EL801)を用いて背面電極およびバスバー電極をスクリーン印刷した。乾燥後の厚みは20μm。
【0045】
(3)発色発光試験
この多層印刷体の基材ITO/PET(透明電極)の外側(PET面側)に、可視光遮蔽フィルター(富士フォルム社バンドパスフィルターBPB−42)を置き、保護フィルム(PET:50μm)でラミネートした。
その保護フィルム上に、蛍光ペン(ゼブラ社蛍光オプテックスペン)で「S」と文字を書いた。
背面電極と透明導電フィルムITO面上のバスバー電極間に、インバータで周波数1000Hz、200Vの交流電圧を加えた。蛍光ペン上の「S」の蛍光文字部分が蛍光発色した。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る発光表示用媒体の実施形態の一例の断面図である。
【図2】本発明に係る他の発光表示用媒体の実施形態の一例の断面図である。
【図3】本発明に好ましく用いられる可視光遮蔽フィルターの効果を示した図である。
【図4】本発明に係る更に他の発光表示用媒体の実施形態の一例の断面図である。
【図5】従来のEL表示シートの構造の一例の断面図である。
【図6】従来のEL表示シートの他の構造の一例の断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1、21、41 背面電極
2、22、42 絶縁層
3、23、43 UV発光層
4、24、44 EL用蛍光体
5、25、45 透明電極
6、26、46 PL用蛍光体
7、27、47 バスバー電極
8、28、48 交流用電源
9 UV
10 可視光
20 保護フィルム
29 可視光遮蔽フィルター
49 紫外線遮蔽フィルム
51、61 ベースフィルム
52、62 絶縁層
53、63 EL発光層
54、64 EL用蛍光体
55、65 透明フィルム
56、66 透明伝導材
57 電極
58、68 電気力線
60 絶縁層(低誘電率)
67 背面電極
69 透明電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
背面電極、絶縁層、電界印加により紫外線を発光する蛍光体粒子が誘電体に分散されてなる発光層、透明電極がこの順に面全体に積層された基本構造を有する発光表示用媒体。
【請求項2】
前記透明電極上あるいは前記発光層上に可視光遮蔽層が形成された請求項1に記載の発光表示用媒体。
【請求項3】
前記紫外線を発光する蛍光体粒子の主成分がZnSにIIA族硫化物を混晶化した蛍光体である請求項1又は2に記載の発光表示用媒体。
【請求項4】
前記透明電極の基材フィルムの主成分がシクロオレフィンポリマーあるいはシクロオレフィンコポリマーである請求項1〜3のいずれか一に記載の発光表示用媒体。
【請求項5】
前記透明電極の導電層の主成分がZn(1-x)xO(R:IIA族元素、0≦x≦0.5)である請求項1〜4のいずれか一に記載の発光表示用媒体。
【請求項6】
前記発光層よりも前記透明電極側に、紫外線によって可視光線をフォトルミネッセンス発光する蛍光体により形成される表示層を設けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一に記載の発光表示用媒体。
【請求項7】
前記表示層上に紫外線遮蔽フィルターを形成したことを特徴とする請求項6に記載の発光表示用媒体。
【請求項8】
前記請求項1〜7のいずれか一に記載の発光表示用媒体を用意し、当該発光表示用媒体の表示層上に前記フォトルミネッセンス発光する蛍光体を付着させて文字やパターンを描画することを特徴とする発光表示方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−141748(P2007−141748A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−336614(P2005−336614)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】