説明

発光装置、表示装置および電子機器

【課題】陰極と陽極の間に複数の発光する機能を有する層を備えた発光素子において、これら複数の発光する機能を有する層のうち、所望の層を選択的もしくは支配的に発光させることができる発光装置、表示装置および電子機器を提供すること。
【解決手段】発光装置1は、発光素子1Rが、陽極3Rと、陰極12と、陽極3Rと陰極12との間に設けられた赤色発光層5Rと、陽極3Rと赤色発光層5Rとの間に設けられた青色発光層5Bと、赤色発光層5Rと青色発光層5Bとの間に設けられ、正孔ブロック材料および正孔輸送材料を含んで構成されたキャリア調整層9とを備え、発光素子1Bが、陽極3Bと、陰極12と、陽極3Bと陰極12との間に設けられた青色発光層5Bと、青色発光層5Bと陽極3Bとの間に設けられ、正孔ブロック材料および正孔輸送材料を含んで構成されたキャリア調整層9とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置、表示装置および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(いわゆる有機EL素子)の製造において、各色に発光する有機EL素子が備える赤色発光層と緑色発光層とを塗布法で形成し、青色発光層を真空蒸着法(蒸着法)で形成した表示装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
これは、インクジェット法のような塗布法を用いて作製された有機EL素子は、赤色および緑色に発光する有機EL素子では、実用レベルの発光寿命(輝度寿命)や発光効率(電流効率または外部量子効率)を有するものの、青色に発光する有機EL素子では、実用レベルの発光寿命や発光効率に達しないことが多く、また、真空蒸着法を用いて作製された青色に発光する有機EL素子は、塗布法を用いて作製されたものと比較して、その発光寿命が数倍以上長く、実用レベルに達していることが多い点に着目した技術である。つまり、インクジェット法のような液相プロセスを用いて作製されたある発光色の有機EL素子が、実用レベルの発光寿命や発光効率に達しない場合でも、真空蒸着法のような気相プロセスを用いて作製された同様の発光色の有機EL素子は、実用レベルの発光寿命や発光効率を有する場合がある。
【0003】
このような表示装置において、赤色有機EL素子(赤色画素)および緑色有機EL素子(緑色画素)は、それぞれ、これらが有する赤色発光層および緑色発光層上に、真空蒸着法を用いて青色発光層が形成された構成、すなわち、赤色発光層および緑色発光層を含む全面に、真空蒸着法により青色発光層が形成された構成となっている。そのため、かかる構成の表示装置の製造方法は、高精細マスクを用いて、青色有機EL素子(青色画素)のみに選択的に青色発光層を蒸着(成膜)する必要がないことから、大型パネルを備える表示装置の製造に最適である。
【0004】
しかしながら、この場合、赤色有機EL素子および緑色有機EL素子において、青色発光層は、それぞれ、赤色発光層および緑色発光層上に接触して設けられているため、青色発光層から、赤色発光層および緑色発光層へ、電子が十分注入されない場合が多い。
そのため、赤色有機EL素子(赤色画素)および緑色有機EL素子(緑色画素)において、意図しない青色発光層が発光することにより、それぞれ、赤色および緑色としての色純度が低くなってしまうことがあった。
すなわち、陰極と陽極の間に複数の発光する機能を有する層(発光層)を備えた発光素子において、前記発光する機能を有する層のうち、所望の層を選択的または支配的に発光させることができないという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−73532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、陰極と陽極の間に複数の発光する機能を有する層を備えた発光素子において、これら複数の発光する機能を有する層のうち、所望の層を選択的または支配的に発光させることができる発光装置、表示装置および電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の発光装置は、互いに異なる色の光を出射する第1の発光素子および第2の発光素子を有する発光装置であって、
前記第1の発光素子は、
第1の陽極と、
第1の陰極と、
前記第1の陽極と前記第1の陰極との間に設けられ、第1の色に発光する機能を有する第1の発光層と、
前記第1の陽極と前記第1の発光層との間に設けられ、前記第1の色とは異なる第2の色に発光する機能を有する非発光層と、
前記第1の発光層と前記非発光層との間に設けられ、正孔ブロック材料および正孔輸送材料を含んで構成された第1のキャリア調整層とを備え、
前記第2の発光素子は、
第2の陽極と、
第2の陰極と、
前記第2の陽極と前記第2の陰極との間に設けられ、前記第2の色に発光する機能を有する第2の発光層と、
前記第2の発光層と前記第2の陽極との間に設けられ、正孔ブロック材料および正孔輸送材料を含んで構成された第2のキャリア調整層とを備えることを特徴とする。
【0008】
このように構成された発光装置によれば、第1の発光素子において、第1のキャリア調整層が正孔ブロック材料を含んでいるため、第1のキャリア調整層が第1の発光層に正孔を留めることができる。そのため、第1の発光素子において、非発光層の発光を防止または抑制しつつ、第1の発光層を選択的または支配的に発光させることができる。
また、第2の発光素子において、第2のキャリア調整層が正孔輸送材料を含んでいるため、第2のキャリア調整層が正孔を第2の発光層へ輸送することができる。そのため、第2の発光素子において、第2の発光層を効率的に発光させることができる。
【0009】
特に、非発光層および第2の発光層を同一材料で構成するとともに、第1のキャリア調整層および第2のキャリア調整層を同一材料で構成することができる。そのため、非発光層および第2の発光層を同一の気相プロセスにより一括形成するとともに、第1のキャリア調整層および第2のキャリア調整層を発光素子毎に塗り分けずに同一の気相プロセスにより一括形成することができる。その結果、第1の発光素子および第2の発光素子の特性を優れたものとするとともに、発光装置の大型化を容易なものとすることができる。
【0010】
本発明の発光装置では、前記第1のキャリア調整層は、前記正孔ブロック材料を含んで構成された第1の正孔ブロック層を有し、
前記第2のキャリア調整層は、前記正孔ブロック材料を含んで構成された第2の正孔ブロック層を有することが好ましい。
これにより、第1の発光素子において、第1の正孔ブロック層が第1の発光層に正孔を効果的に留めることができる。また、第1のキャリア調整層および第2のキャリア調整層を同一の層構成で構成することができ、第1のキャリア調整層および第2のキャリア調整層を発光素子毎に塗り分けずに同一の気相プロセスにより一括形成することができる。
【0011】
本発明の発光装置では、前記第1のキャリア調整層は、前記第1の正孔ブロック層と前記非発光層との間に設けられ、前記正孔輸送材料を含んで構成された第1の正孔輸送層を有し、
前記第2のキャリア調整層は、前記第2の正孔ブロック層と前記第2の発光層との間に設けられ、前記正孔輸送材料を含んで構成された第2の正孔輸送層を有することが好ましい。
これにより、第1のキャリア調整層および第2のキャリア調整層を同一の層構成としつつ、第2の発光素子において、第2の発光層への正孔の注入量を増加させ、発光効率を高めることができる。
【0012】
本発明の発光装置では、前記第1の正孔ブロック層および前記第2の正孔ブロック層は、それぞれ、前記正孔ブロック材料および前記正孔輸送材料を含む混合材料で構成されていることが好ましい。
これにより、第1の発光素子において、第1の正孔ブロック層が第1の発光層に正孔を効果的に留めることができる。また、第2の発光素子において、第2の発光層への正孔の注入量を増加させ、発光効率を高めることができる。
【0013】
本発明の発光装置では、前記第2の発光素子は、
前記第2のキャリア調整層と前記第2の陽極との間に設けられた正孔注入層を備えることが好ましい。
これにより、第2の発光素子において、第2の発光層への正孔の注入量を増加させ、発光効率を高めることができる。
【0014】
本発明の発光装置では、前記第1のキャリア調整層は、前記第1の正孔ブロック層と前記第1の発光層との間に設けられた第1の電子注入層を有し、
前記第2のキャリア調整層は、前記第2の正孔ブロック層と前記正孔注入層との間に設けられた第2の電子注入層を有することが好ましい。
これにより、第1のキャリア調整層および第2のキャリア調整層を同一の層構成としつつ、第1の発光素子において、第1の発光層への電子の注入量を増加させ、発光効率を高めることができる。
【0015】
本発明の発光装置では、前記正孔ブロック材料は、前記第1の発光層の構成材料のHOMO準位よりも深いHOMO準位を有することが好ましい。
これにより、キャリア調整層は、第1の発光素子において、正孔ブロック性を発揮することができる。
本発明の発光装置では、前記正孔ブロック材料は、前記第1の発光層の構成材料のバンドギャップよりも広いバンドギャップを有することが好ましい。
これにより、正孔ブロック材料のHOMO準位を第1の発光層の構成材料のHOMO準位よりも深くすることができる。
【0016】
本発明の発光装置では、前記第1の色は、赤色または緑色であり、前記第2の色は、青色であることが好ましい。
これにより、非発光層および第2の発光層を青色の発光材料で同一の気相プロセスにより一括形成することができる。また、気相プロセスにより第2の発光層を形成することにより、第2の発光層の特性を高めることができる。そのため、一般に青色の発光材料は赤色および緑色の発光材料よりも特性が劣るが、第2の発光素子の特性を実用レベルとすることができる。また、一般に赤色および緑色の発光材料は青色の発光材料よりも特性が優れるため、第1の発光層を赤色または緑色の発光材料で液相プロセスにより形成しても、第1の発光層の特性を実用レベルとすることができる。
【0017】
本発明の発光装置では、前記非発光層は、前記第2の発光層と一体的に設けられていることが好ましい。
これにより、非発光層および第2の発光層を同一の気相プロセスにより一括形成することができる。
本発明の発光装置では、前記第1の発光層は、液相プロセスにより形成されたものであり、前記非発光層および前記第2の発光層は、気相プロセスにより一括形成されたものであることが好ましい。
これにより、第1の発光層および第2の発光層の特性をそれぞれ実用レベルとすることができる。
【0018】
本発明の発光装置では、前記第1のキャリア調整層は、前記第2のキャリア調整層と一体的に設けられていることが好ましい。
これにより、第1のキャリア調整層および第2のキャリア調整層を気相プロセスにより一括形成することができる。
本発明の発光装置では、前記第1のキャリア調整層および前記第2のキャリア調整層は、気相プロセスにより一括形成されたものであることが好ましい。
これにより、第1のキャリア調整層および第2のキャリア調整層の特性をそれぞれ優れたものとすることができる。
本発明の表示装置は、本発明の発光装置を備えることを特徴とする。
これにより、優れた信頼性を有する表示装置を提供することができる。
本発明の電子機器は、本発明の発光装置を備えることを特徴とする。
これにより、優れた信頼性を有する電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係る発光装置の概略構成を示す模式的断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る発光装置の概略構成を示す模式的断面図である。
【図3】本発明の表示装置を適用したディスプレイ装置の実施形態を示す縦断面図である。
【図4】本発明の電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
【図5】本発明の電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
【図6】本発明の電子機器を適用したディジタルスチルカメラの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の発光装置、表示装置および電子機器を添付図面に示す好適な実施形態について説明する。
<第1実施形態>
まず、本発明の第1実施形態を説明する。
(発光装置)
図1は、本発明の第1実施形態に係る発光装置の概略構成を示す模式的断面図である。なお、以下では、説明の便宜上、図1中の上側を「上」、下側を「下」として説明を行う。
【0021】
図1に示す発光装置1は、基板2と、この基板2上に設けられた複数の発光素子(エレクトロルミネッセンス素子)1R、1G、1Bとを備える。
この発光装置1において、発光素子1R、1G、1Bは、互いに異なる色の光を出射するものである。
より具体的には、この発光装置1において、発光素子1R(第1の発光素子)は、陽極3R(第1の陽極)と正孔注入層4Rと赤色発光層5R(第1の発光層)と第1電子注入層6R(第1の電子注入層)と正孔ブロック層7R(第1の正孔ブロック層)と正孔輸送層8R(第1の正孔輸送層)と青色発光層5BR(非発光層)と電子輸送層10Rと第2電子注入層11Rと陰極12R(第1の陰極)とがこの順に積層されてなる。
【0022】
また、発光素子1G(第1の発光素子)は、陽極3G(第1の陽極)と正孔注入層4Gと緑色発光層5G(第1の発光層)と第1電子注入層6G(第1の電子注入層)と正孔ブロック層7G(第1の正孔ブロック層)と正孔輸送層8G(第1の正孔輸送層)と青色発光層5BG(非発光層)と電子輸送層10Gと第2電子注入層11Gと陰極12G(第1の陰極)とがこの順に積層されてなる。
また、発光素子1B(第2の発光素子)は、陽極3B(第2の陽極)と正孔注入層4Bと第1電子注入層6B(第2の電子注入層)と正孔ブロック層7B(第2の正孔ブロック層)と正孔輸送層8B(第2の正孔輸送層)と青色発光層5BB(第2の発光層)と電子輸送層10Bと第2電子注入層11Bと陰極12Bとがこの順に積層されてなる。
【0023】
ここで、第1電子注入層6R、6G、6Bは、一体的に設けられ、第1電子注入層6を構成している。また、正孔ブロック層7R、7G、7Bは、一体的に設けられ、正孔ブロック層7を構成している。また、正孔輸送層8R、8G、8Bは、一体的に設けられ、正孔輸送層8を構成している。また、青色発光層5BR、5BG、5BBは、一体的に設けられ、青色発光層5Bを構成している。また、電子輸送層10R、10G、10Bは、一体的に設けられ、電子輸送層10を構成している。また、第2電子注入層11R、11G、11Bは、一体的に設けられ、第2電子注入層11を構成している。また、陰極12R、12G、12Bは、一体的に設けられ、陰極12を構成している。
すなわち、第1電子注入層6、正孔ブロック層7、正孔輸送層8、青色発光層5B、電子輸送層10、第2電子注入層11および陰極12は、それぞれ、発光素子1R、1G、1Bに共通して用いられている。
【0024】
これに対し、陽極3R、正孔注入層4Rおよび赤色発光層5Rは、それぞれ発光素子1Rに個別に用いられ、陽極3G、正孔注入層4Gおよび緑色発光層5Gは、それぞれ発光素子1Gに個別に用いられ、また、陽極3Bおよび正孔注入層4Bは、それぞれ発光素子1Bに個別に用いられている。
また、第1電子注入層6、正孔ブロック層7および正孔輸送層8からなる積層体は、キャリアの流れを調整するキャリア調整層9を構成する。なお、発光素子1Rにおいて、第1電子注入層6R、正孔ブロック層7Rおよび正孔輸送層8Rからなる積層体は、正孔ブロック材料および正孔輸送材料を含んで構成された第1のキャリア調整層を構成する。また、発光素子1Gにおいて、第1電子注入層6G、正孔ブロック層7Gおよび正孔輸送層8Gからなる積層体は、正孔ブロック材料および正孔輸送材料を含んで構成された第1のキャリア調整層を構成する。また、発光素子1Bにおいて、第1電子注入層6B、正孔ブロック層7Bおよび正孔輸送層8Bからなる積層体は、正孔ブロック材料および正孔輸送材料を含んで構成された第2のキャリア調整層を構成する。
【0025】
このような発光装置1にあっては、陽極3Rと陰極12との間に駆動電圧が印加されることにより、赤色発光層5Rに対し、陰極12側から電子が供給(注入)されるとともに、陽極3R側から正孔が供給(注入)される。そして、赤色発光層5Rでは、正孔と電子とが再結合し、この再結合によりエキシトン(励起子)が生成し、エキシトンが基底状態に戻る際にエネルギーを光(蛍光やりん光)として放出する。その際、後に詳述するように、キャリア調整層9の作用により、発光素子1Rでは、青色発光層5Bにおける正孔と電子との再結合が抑制または防止される。そのため、発光素子1Rは、赤色に発光する。
同様に、陽極3Gと陰極12との間に駆動電圧が印加されることにより、緑色発光層5Gでは、正孔と電子とが再結合し、発光素子1Gは、緑色に発光する。
【0026】
また、陽極3Bと陰極12との間に駆動電圧が印加されることにより、青色発光層5Bでは、正孔と電子とが再結合し、発光素子1Bは、青色に発光する。その際、後に詳述するように、キャリア調整層9の作用により、発光素子1Bでは、青色発光層5Bにおける正孔と電子との再結合を好適に行うことができる。
本実施形態では、発光素子1R、1G、1Bは、それぞれ、基板2側から光を取り出す構成(ボトムエミッション型)である。なお、発光素子1R、1G、1Bは、それぞれ、基板2と反対側から光を取り出す構成(トップエミッション型)であってもよい。
【0027】
以下、発光装置1を構成する各部を順次説明する。
[基板2]
基板2は、陽極3R、3G、3Bをそれぞれ支持するものである。本実施形態の発光素子1R、1G、1Bは、それぞれ、前述したようにボトムエミッション型であるため、基板2は、実質的に透明(無色透明、着色透明または半透明)とされている。
【0028】
基板2の構成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレートのような樹脂材料や、石英ガラス、ソーダガラスのようなガラス材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
このような基板2の平均厚さは、特に限定されないが、0.1〜30mm程度であるのが好ましく、0.1〜10mm程度であるのがより好ましい。
【0029】
なお、発光素子1R、1G、1Bがそれぞれトップエミッション型である場合、基板2には、透明基板および不透明基板のいずれも用いることができる。
不透明基板としては、例えば、アルミナのようなセラミックス材料で構成された基板、ステンレス鋼のような金属基板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成したもの、樹脂材料で構成された基板等が挙げられる。
【0030】
[陽極3R、3G、3B]
陽極3Rは、正孔注入層4Rに正孔を注入する電極である。同様に、陽極3Gは、正孔注入層4Gに正孔を注入する電極である。また、陽極3Bは、正孔注入層4Bに正孔を注入する電極である。
この陽極3R、3G、3Bの構成材料としては、それぞれ、特に限定されないが、仕事関数が大きく、導電性に優れる材料が好適に用いられる。
【0031】
陽極3R、3G、3Bの構成材料としては、それぞれ、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、In、SnO、フッ素添加SnO、Sb添加SnO、ZnO、Al添加ZnO、Ga添加ZnO等の金属酸化物、Au、Pt、Ag、Cuまたはこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、陽極3R、3G、3Bの構成材料は、互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0032】
また、本実施形態の発光素子1R、1G、1Bはそれぞれ前述したようにボトムエミッション型であるため、陽極3R、3G、3Bはそれぞれ実質的に透明(無色透明、着色透明または半透明)とされている。なお、発光素子1R、1G、1Bがそれぞれトップエミッション型である場合には、陽極3R、3G、3Bは、それぞれ不透明であってもよい。
このような陽極3R、3G、3Bの平均厚さは、それぞれ、特に限定されないが、10nm以上200nm以下程度であるのが好ましく、30nm以上150nm以下程度であるのがより好ましい。
なお、陽極3R、3G、3Bの平均厚さは、互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0033】
[正孔注入層4R、4G]
正孔注入層4Rは、陽極3Rからの正孔注入を容易にする機能を有するものである。同様に、正孔注入層4Gは、陽極3Gからの正孔注入を容易にする機能を有するものである。
また、この正孔注入層4Rは、後述する赤色発光層5Rに接する。同様に、正孔注入層4Gは、後述する緑色発光層5Gに接する。
【0034】
この正孔注入層4R、4Gの構成材料(正孔注入材料)としては、それぞれ、特に限定されないが、正孔注入層4R、4Gを液相プロセスを用いて形成し得るように、導電性高分子材料(または導電性オリゴマー材料)に電子受容性ドーパントを添加したイオン伝導性正孔注入材料が好適に用いられる。
このようなイオン伝導性正孔注入材料としては、例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)のようなポリチオフォン系正孔注入材料や、ポリアニリン−ポリ(スチレンスルホン酸)(PANI/PSS)のようなポリアニリン系正孔注入材料や、下記一般式(1)で表わされるオリゴアニリン誘導体と、下記一般式(4)で表わされる電子受容性ドーパントとで塩を形成してなるオリゴアニリン系正孔注入材料が挙げられる。
【0035】
【化1】

[式中、R、RおよびRは、それぞれ独立して未置換もしくは置換の一価炭化水素基またはオルガノオキシ基を示し、AおよびBは、それぞれ独立して下記一般式(2)または下記一般式(3)で表される二価の基であり、R〜R11、はそれぞれ独立して水素原子、水酸基、未置換もしくは置換の一価炭化水素基またはオルガノオキシ基、アシル基、またはスルホン酸基であり、mおよびnは、それぞれ独立して1以上の正数で、m+n≦20を満足する。]
【0036】
【化2】

【0037】
【化3】

[式中、Dは、ベンゼン環、ナフタレン環、アトラセン環、フェナントレン環または複素環を表し、R12、R13は、それぞれ独立してカルボキシル基またはヒドロキシル基を表す。]
【0038】
なお、正孔注入層4R、4Gの構成材料は、互いに同じであっても異なっていてもよい。
このような正孔注入層4R、4Gの平均厚さは、それぞれ、特に限定されないが、5nm以上150nm以下程度であるのが好ましく、10nm以上100nm以下程度であるのがより好ましい。
【0039】
なお、正孔注入層4R、4Gの平均厚さは、互いに同じであっても異なっていてもよい。
また、この正孔注入層4R、4Gは、それぞれ、発光素子1R、1Gの構成、例えば、陽極3R、3G、赤色発光層5R、緑色発光層5G等の構成材料や厚さ等によっては省略することもできる。
【0040】
また、この正孔注入層4Rに代えて、あるいは、正孔注入層4Rと後述する赤色発光層5Rとの間に、正孔輸送層を設けてもよい。同様に、正孔注入層4Gに代えて、あるいは、正孔注入層4Gと後述する緑色発光層5Gとの間に、正孔輸送層を設けてもよい。この正孔輸送層の構成材料としては、特に限定されないが、この正孔注入層を液相プロセスを用いて形成し得るように、例えば、下記一般式(5)で表わされるトリフェニルアミン系ポリマー等のアミン系化合物が好適に用いられる。
【0041】
【化4】

【0042】
この正孔輸送層の平均厚さは、特に限定されないが、5nm以上100nm以下程度であるのが好ましく、10nm以上50nm以下程度であるのがより好ましい。
【0043】
[正孔注入層4B]
正孔注入層4Bは、陽極3Bからの正孔注入を容易にする機能を有するものである。また、この正孔注入層4Bは、後述する第1電子注入層6に接する。
この正孔注入層4Bは、発光素子1Bのキャリア調整層9と陽極3Bとの間に設けられている。これにより、発光素子1Bにおいて、青色発光層5Bへの正孔の注入量を増加させ、発光効率を高めることができる。
【0044】
この正孔注入層4Bの構成材料(正孔注入材料)としては、特に限定されないが、正孔注入層4Bを液相プロセスを用いて形成し得るように、導電性高分子材料(または導電性オリゴマー材料)に電子受容性ドーパントを添加したイオン伝導性正孔注入材料が好適に用いられる。
このようなイオン伝導性正孔注入材料としては、前述した正孔注入層4Rの構成材料(正孔注入材料)として挙げたものと同様のものを用いることができる。
【0045】
なお、正孔注入層4Bの構成材料は、前述した正孔注入層4R、4Gの構成材料と同じであっても異なっていてもよい。
また、正孔注入層4Bの平均厚さは、特に限定されないが、5nm以上150nm以下程度であるのが好ましく、10nm以上100nm以下程度であるのがより好ましい。
なお、正孔注入層4Bの平均厚さは、前述した正孔注入層4R、4Gの平均厚さと同じであっても異なっていてもよい。
【0046】
[赤色発光層5R]
赤色発光層5Rは、赤色(第1の色)に発光する機能を有する。
赤色発光層5Rは、赤色に発光する赤色発光材料を含んで構成される。また、この赤色発光層5Rは、前述した正孔注入層4R上に設けられている。
このような赤色発光層5Rの構成材料(赤色発光材料)は、特に限定されないが、赤色発光層5Rを液相プロセスを用いて形成し得るように、溶液化または分散液化できることが望ましい。そこで、赤色発光層5Rの構成材料としては、溶媒に溶解または分散媒に分散することができる高分子赤色発光材料および低分子赤色発光材料が好適に用いられ、例えば、下記一般式(6)および下記一般式(7)で表わされる高分子赤色発光材料が挙げられる。
【0047】
【化5】

【0048】
このような赤色発光材料は、液相プロセスを用いて赤色発光層5Rを形成しても、発光素子1Rの発光寿命特性を実用レベルとすることができる。
このような赤色発光層5Rの平均厚さは、特に限定されないが、10nm以上150nm以下程度であるのが好ましく、20nm以上100nm以下程度であるのがより好ましい。
【0049】
[緑色発光層5G]
緑色発光層5Gは、緑色(第1の色)に発光する機能を有する。
緑色発光層5Gは、緑色に発光する緑色発光材料を含んで構成される。また、この緑色発光層5Gは、前述した正孔注入層4G上に設けられている。
このような緑色発光層5Gの構成材料は、特に限定されないが、緑色発光層5Gを液相プロセスを用いて形成し得るように、溶液化または分散液化できることが望ましい。そこで、緑色発光層5Gの構成材料としては、溶媒に溶解または分散媒に分散することができる高分子緑色発光材料および低分子緑色発光材料が好適に用いられ、例えば、下記一般式(19)および下記一般式(20)で表わされる高分子緑色発光材料が挙げられる。
【0050】
【化6】

【0051】
このような緑色発光材料は、液相プロセスを用いて緑色発光層5Gを形成しても、発光素子1Gの発光寿命特性を実用レベルとすることができる。
このような緑色発光層5Gの平均厚さは、特に限定されないが、10nm以上150nm以下程度であるのが好ましく、20nm以上100nm以下程度であるのがより好ましい。
【0052】
[第1電子注入層6]
第1電子注入層6は、キャリア調整層9の一部を構成する層である。また、発光素子1Rでは、第1電子注入層6が赤色発光層5Rに接する。また、発光素子1Gでは、第1電子注入層6が緑色発光層5Gに接する。また、発光素子1Bでは、第1電子注入層6が正孔注入層4Bに接する。
【0053】
この第1電子注入層6は、正孔ブロック層7と赤色発光層5Rとの間、正孔ブロック層7と緑色発光層5Gとの間、および、正孔ブロック層7と正孔注入層4Bとの間に設けられている。これにより、発光素子1R、1G、1Bのキャリア調整層9を同一の層構成としつつ、発光素子1R、1Gにおいて、赤色発光層5Rおよび緑色発光層5Gへの電子の注入量を増加させ、発光効率を高めることができる。
【0054】
この第1電子注入層6の構成材料としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、アルカリ金属塩(酸化物、フッ化物、塩化物等)、アルカリ土類金属塩(酸化物、フッ化物、塩化物等)、希土類金属塩(酸化物、フッ化物、塩化物等)、金属錯体等のような電子注入材料が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
このような電子注入材料を主材料として第1電子注入層6を構成することにより、発光素子1Rにおいて、キャリア調整層9を介した青色発光層5Bから赤色発光層5Rへの電子の注入効率を向上させることができる。また、発光素子1Gにおいて、キャリア調整層9を介した青色発光層5Bから緑色発光層5Gへの電子の注入効率を向上させることができる。
【0056】
アルカリ金属としては、例えば、Li、Na、K、Rb、Csが挙げられる。また、アルカリ土類金属としては、例えば、Mg、Ca、Sr、Baが挙げられる。さらに、希土類金属としては、例えば、Nd、Sm、Y、Tb、Euが挙げられる。
アルカリ金属塩としては、例えば、LiF、LiCO、LiCl、NaF、NaCO、NaCl、CsF、CsCO、CsClが挙げられる。また、アルカリ土類金属塩としては、例えば、CaF、CaCO、SrF、SrCO、BaF、BaCOが挙げられる。さらに、希土類金属塩としては、例えば、SmF、ErFが挙げられる。
【0057】
金属錯体としては、例えば、8−キノリノラトリチウム(Liq)やトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)等の8−キノリノールなしいその誘導体を配位子とする有機金属錯体が挙げられる。
また、第1電子注入層6の形成プロセスは、真空蒸着法(蒸着法)やスパッタ法のような気相プロセスを用いても良いし、インクジェット法やスリットコート法のような液相プロセスを用いても良い。
【0058】
さらに、第1電子注入層6は、2種以上の電子注入層が積層される形で形成されていても良い。これによって、キャリア調整層9の発光素子1R、1Gにおけるキャリア注入動作が的確に行われる。
第1電子注入層6の平均厚さは、特に限定されないが、0.01nm以上10nm以下程度であるのが好ましく、0.1nm以上5nm以下程度であるのがより好ましい。第1電子注入層6の平均厚さをかかる範囲内に設定することにより、キャリア調整層9の発光素子1Rにおけるキャリア注入動作が的確に行われる。
【0059】
[正孔ブロック層7]
正孔ブロック層7は、正孔をブロックする機能を有する。これにより、発光素子1R、1Gにおいて、赤色発光層5Rおよび緑色発光層5Gに正孔を留めて、赤色発光層5Rおよび緑色発光層5Gを選択的または支配的に発光させることができる。
このような正孔ブロック層7は、正孔ブロック材料を含んで構成されている。これにより、発光素子1R、1Gにおいて、正孔ブロック層7が赤色発光層5Rおよび緑色発光層5Gに正孔を効果的に留めることができる。また、発光素子1R、1G、1Bのキャリア調整層9を同一の層構成で構成することができ、発光素子1R、1G、1B毎に塗り分けずにキャリア調整層9を同一の気相プロセスにより一括形成することができる。
【0060】
正孔ブロック層7に含まれる正孔ブロック材料は、赤色発光層5Rおよび緑色発光層5Gの構成材料のHOMO準位よりも深いHOMO準位を有する。これにより、キャリア調整層9は、発光素子1R、1Gにおいて、正孔ブロック性を発揮することができる。
また、かかる正孔ブロック材料は、赤色発光層5Rおよび緑色発光層5Gの構成材料のバンドギャップよりも広いバンドギャップを有するのが好ましい。これにより、正孔ブロック材料のHOMO準位を赤色発光層5Rおよび緑色発光層5Gの構成材料のHOMO準位よりも深くすることができる。
【0061】
このような正孔ブロック層7の構成材料(正孔ブロック材料)としては、特に限定されないが、例えば、下記式(21)で表わされるビス(2メチル−8−キノリノレイト)−4−(フェニルフェノレイト)アルミニウム(BAlq)等のアルミニウム錯体、下記式(22)で表わされる2,9−ジメチ−4,7−ジフェニル−1.10−フェナントロリン(BCP)等のフェナントロリン誘導体、下記式(23)で表わされる3−(4−ビフェニル)−4−フェニル−5−ターシャリーブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)等のトリアゾール誘導体等を用いることができる。
【0062】
【化7】

【0063】
また、正孔ブロック層7の構成材料は、正孔輸送性を有するのが好ましい。これにより、発光素子1Bにおいて、正孔ブロック層7を介して青色発光層5Bに正孔を輸送することができる。その結果、発光素子1Bを青色発光させることができる。
また、正孔ブロック層7には、前述した正孔ブロック材料の他、正孔輸送性に優れた材料が含まれていてもよい。すなわち、正孔ブロック層7は、正孔ブロック材料および正孔輸送材料を含む混合材料で構成されていてもよい。この場合、発光素子1R、1Gにおいて、正孔ブロック層7が赤色発光層5Rおよび緑色発光層5Gに正孔を効果的に留めることができる。また、発光素子1Bにおいて、青色発光層への正孔の注入量を増加させ、発光効率を高めることができる。かかる混合材料に用いる正孔輸送材料としては、後述する正孔輸送層8の構成材料(正孔輸送材料)と同様の材料を用いることができる。このような正孔輸送材料を含む正孔ブロック層7は、正孔輸送性を有するものとなる。
【0064】
このような正孔ブロック層7の平均厚さは、特に限定されないが、0.1nm以上20nm以下であるのが好ましく、1nm以上10nm以下であるのがより好ましい。このような範囲内に正孔ブロック層7の平均厚さを設定することにより、発光素子1R、1Gにおける正孔ブロック性と、発光素子1Bにおける正孔輸送性とをバランスよく設定することができる。
【0065】
[正孔輸送層8]
正孔輸送層8は、キャリア調整層9を構成する層の一つであり、青色発光層5Bに接する層である。
この正孔輸送層は、正孔ブロック層7と青色発光層5Bとの間に設けられ、正孔輸送材料を含んで構成されている。これにより、発光素子1R、1G、1Bのキャリア調整層9を同一の層構成としつつ、発光素子1Bにおいて、青色発光層5Bへの正孔の注入量を増加させ、発光効率を高めることができる。
【0066】
また、この正孔輸送層8は、発光素子1Bにおいて、正孔輸送性を有する。このような正孔輸送層8は、発光素子1Bにおいて、電子ブロック性を有する。そのため、発光素子1Bでは、青色発光層5Bからの電子をブロックさせて、青色発光層5Bに電子を留めることができる。その結果、発光素子1Bでは、青色発光層5Bを効率よく発光させることができる。
【0067】
また、正孔輸送層8は、発光素子1R、1Gにおいて、第1電子注入層6の構成材料(電子輸送材料)が拡散されることにより、前述した電子ブロック性が抑制または消失され、電子輸送性を発揮する。そのため、発光素子1R、1Gでは、青色発光層5Bからの電子をブロックせずに正孔輸送層8を通過させ、赤色発光層5Rおよび緑色発光層5Gへ電子を効率的に注入させることができる。その結果、発光素子1R、1Gでは、赤色発光層5Rおよび緑色発光層5Gを効率よく発光させることができる。
【0068】
この正孔輸送層8の構成材料(正孔輸送材料)としては、特に限定されないが、正孔輸送層8を真空蒸着法のような気相プロセスを用いて形成し得るように、例えば、下記式(8)で表わされるN,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(m−トリル)−ベンジジン(TPD)、下記式(9)で表わされるビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル]ベンジジン(α−NPD)等のベンジジン誘導体等のアミン系化合物が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0069】
【化8】

【0070】
中でも、正孔輸送層8の構成材料としては、前述したように正孔輸送層8が発光素子1Bにおいて電子ブロック性を好適に発揮させることができるという観点から、アミン系化合物を用いるのが好ましい。
このような正孔輸送層8の平均厚さは、特に限定されないが、1nm以上50nm以下程度であるのが好ましく、5nm以上30nm以下程度であるのがより好ましい。正孔輸送層8の平均厚さをかかる範囲内に設定することにより、前述したような正孔輸送層8の発光素子1Bにおける電子ブロック性と発光素子1R、1Gにおける電子輸送性とのバランスを優れたものとすることができる。
【0071】
[青色発光層5B]
青色発光層5Bは、青色(第1の色とは異なる第2の色)に発光する機能を有する。
青色発光層5Bは、青色に発光する青色発光材料を含んで構成されている。
この青色発光層5Bの構成材料としては、特に限定されないが、青色発光層5Bを気相プロセスを用いて形成し得るものが好適に用いられ、例えば、下記式(10)で表わされるスチリル誘導体の青色発光材料が挙げられる。
【0072】
【化9】

【0073】
また、その他に青色発光層5Bの構成材料としては、青色発光材料をゲスト材料としてホスト材料にドープしたものが用いられる。ホスト材料は、正孔と電子とを再結合させて励起子を生成するとともに、その励起子のエネルギーを青色発光材料に移動(フェルスター移動またはデクスター移動)させる機能を有する。このホスト材料の機能により、ゲスト材料である青色発光材料が効率よく励起され、発光する。
【0074】
ここで、ホスト材料としては、例えば、下記式(11)、下記式(12)および下記式(13)で表わされるアントラセン誘導体が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる。また、ゲスト材料としての青色発光材料としては、例えば、下記式(14)、下記式(15)および下記式(16)で表わされるスチリル誘導体が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0075】
【化10】

【0076】
このような青色発光材料は、気相プロセスを用いて青色発光層5Bを形成することにより、発光素子1Bの発光寿命特性を実用レベルとすることができる。
さらに、このようなゲスト材料およびホスト材料を用いる場合、青色発光層5B中におけるゲスト材料の含有量(ドープ量)は、ホスト材料に対して重量比で0.1%以上20%以下程度であるのが好ましく、0.5%以上10%以下程度であるのがより好ましい。ゲスト材料の含有量をこのような範囲内とすることで、発光効率を最適化することができる。
このような青色発光層5Bの平均厚さは、特に限定されないが、5nm以上100nm以下程度であるのが好ましく、10nm以上50nm以下程度であるのがより好ましい。
【0077】
[電子輸送層10]
電子輸送層10は、陰極12から第2電子注入層11を介して電子輸送層10に注入された電子を青色発光層5Bに輸送する機能を有するものである。また、電子輸送層10は、青色発光層5Bから電子輸送層10へ通過しようとする正孔をブロックする機能を有する場合もある。
【0078】
電子輸送層10の構成材料(電子輸送材料)としては、特に限定されないが、電子輸送層10を気相プロセスを用いて形成し得るように、例えば、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)や8−キノリノラトリチウム(Liq)等の8−キノリノールなしいその誘導体を配位子とする有機金属錯体などのキノリン誘導体、2−(4−tert−ブチルフェニル)−5−(4−ビフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(tBu−PBD)、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)のようなオキサジアゾール誘導体、3−(4−ビフェニル)−4−フェニル−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(TAZ)のようなトリアゾール誘導体、下記式(17)で表わされる化合物のようなシロール誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、キノキサリン誘導体、下記式(18)で表わされる化合物のような含窒素複素環誘導体等が好適に用いられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0079】
【化11】

【0080】
電子輸送層10の平均厚さは、特に限定されないが、1nm以上100nm以下程度であるのが好ましく、5nm以上50nm以下程度であるのがより好ましい。これにより、第2電子注入層11から注入された電子を好適に青色発光層5Bに輸送することができる。
なお、この電子輸送層10は、発光装置1構成する各層の構成によっては、省略することもできる。
【0081】
[第2電子注入層11]
第2電子注入層11は、陰極12から電子輸送層10への電子の注入効率を向上させる機能を有するものである。
この第2電子注入層11の構成材料(電子注入材料)としては、特に限定されないが、例えば、前述の第1電子注入層6の構成材料として挙げたものと同様のものを用いることができる。
【0082】
なお、第2電子注入層11および第1電子注入層6の構成材料(電子注入材料)は、それぞれ、これらを挾持する2つの層の構成材料の組み合わせに応じて、最適な注入効率が得られるものが選択されるため、第2電子注入層11の構成材料と第1電子注入層6の構成材料とは、同一であっても異なっていてもよい。
第2電子注入層11の平均厚さは、特に限定されないが、0.01nm以上100nm以下程度であるのが好ましく、0.1nm以上10nm以下程度であるのがより好ましい。
なお、この第2電子注入層11は、電子輸送層10と陰極12の構成材料の種類およびその膜厚等の組み合わせによっては省略することもできる。
【0083】
[陰極12]
陰極12は、第2電子注入層11を介して電子輸送層10に電子を注入する電極である。
この陰極12の構成材料としては、仕事関数の小さい材料を用いるのが好ましい。陰極12の構成材料のとしては、後述する、陰極12の形成工程において、気相プロセスを用いて形成し得るように、例えば、Li、Mg、Ca、Sr、La、Ce、Er、Eu、Sc、Y、Yb、Ag、Cu、Al、Cs、Rb、Auまたはこれらを含む合金等が用いられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて(例えば、複数層の積層体等)用いることができる。
【0084】
特に、本実施形態では前述したように発光素子1R、1G、1Bがボトムエミッション型であるため、陰極12には光透過性が求められず、陰極12の構成材料のとしては、例えば、Al、Ag、AlAg、AlNd等の金属または合金が好ましく用いられる。かかる金属または合金を陰極12の構成材料として用いることにより、陰極12の電子注入効率および安定性の向上を図ることができる。
このような陰極12の平均厚さは、特に限定されないが、50nm以上1000nm以下程度であるのが好ましく、100nm以上500nm以下程度であるのがより好ましい。
【0085】
なお、発光素子1R、1G、1Bがトップエミッション型である場合、陰極12の構成材料としては、MgAg、MgAl、MgAu、AlAg等の金属または合金を用いるのが好ましい。かかる金属または合金を陰極12の構成材料として用いることにより、陰極12の光透過性を維持しつつ、陰極12の電子注入効率および安定性の向上を図ることができる。
【0086】
かかる場合、陰極12の平均厚さは、特に限定されないが、1nm以上50nm以下程度であるのが好ましく、5nm以上20nm以下程度であるのがより好ましい。
以上説明したように構成された発光装置1によれば、発光素子1Rにおいて、キャリア調整層9が正孔ブロック材料を含んでいるため、キャリア調整層9が赤色発光層5Rに正孔を留めることができる。そのため、発光素子1Rにおいて、青色発光層5B(より具体的には、非発光層である青色発光層5BR)の発光を防止または抑制しつつ、赤色発光層5Rを選択的または支配的に発光させることができる。
【0087】
同様に、発光素子1Gにおいて、キャリア調整層9が正孔ブロック材料を含んでいるため、キャリア調整層9が緑色発光層5Gに正孔を留めることができる。そのため、発光素子1Gにおいて、青色発光層5B(より具体的には、非発光層である青色発光層5BG)の発光を防止または抑制しつつ、緑色発光層5Gを選択的または支配的に発光させることができる。
【0088】
また、発光素子1Bにおいて、キャリア調整層9が正孔輸送材料を含んでいるため、キャリア調整層9が正孔を青色発光層5B(より具体的には青色発光層5BB)へ輸送することができる。そのため、発光素子1Bにおいて、青色発光層5Bを効率的に発光させることができる。
特に、発光素子1R、1G、1B毎の塗り分けをせずに、青色発光層5Bおよびキャリア調整層9をそれぞれ気相プロセスにより形成することができるので、発光素子1R、1G、1Bの特性を優れたものとするとともに、発光装置1の大型化を容易なものとすることができる。
【0089】
また、発光素子1R、1Gの非発光層である青色発光層5Bと発光素子1Bの青色発光層5Bは、一体的に設けられているので、発光素子1R、1G、1Bの青色発光層5Bを同一の気相プロセスにより一括形成することができる。また、気相プロセスにより青色発光層5Bを形成することにより、青色発光層5Bの特性を高めることができる。そのため、一般に青色の発光材料は赤色および緑色の発光材料よりも特性が劣るが、発光素子1Bの特性を実用レベルとすることができる。また、一般に赤色および緑色の発光材料は青色の発光材料よりも特性が優れるため、赤色発光層5Rおよび緑色発光層5Gをそれぞれ液相プロセスにより形成しても、赤色発光層5Rおよび緑色発光層5Gの特性を実用レベルとすることができる。
また、発光素子1R、1G、1Bのキャリア調整層9は一体的に設けられているので、キャリア調整層9を気相プロセスにより一括形成することができる。これにより、キャリア調整層9の特性を優れたものとすることができる。
【0090】
(発光装置1の製造方法)
以上説明したように構成された発光装置1は、例えば、次のようにして製造することができる。
[1]まず、基板2を用意し、基板2上に、陽極(個別電極)3R、3G、3Bを形成する。
【0091】
この陽極3R、3G、3Bは、例えば、基板2上に、陽極3R、3G、3Bの構成材料を主材料として構成される薄膜を蒸着等を用いて形成した後、その薄膜をエッチング等を用いてパターニングすることにより得ることができる。
また、陽極3R、3G、3Bの形成後、必要に応じて、陽極3R、3G、3Bの上面には、酸素プラズマ処理を施すようにしてもよい。これにより、陽極3R、3G、3Bの上面を親液性を付与すること、陽極3R、3G、3Bの上面に付着する有機物を除去(洗浄)すること、陽極3R、3G、3Bの上面付近の仕事関数を調整すること等を行うことができる。
【0092】
ここで、酸素プラズマ処理の条件としては、例えば、プラズマパワー100〜800W程度、酸素ガス流量50〜100mL/min程度、被処理部材(陽極3R、3G、3B)の搬送速度0.5〜10mm/sec程度、基板2の温度70〜90℃程度とするのが好ましい。
また、この酸素プラズマ処理の前に、各陽極3R、3G、3Bを区画するように、隔壁(バンク)を形成することができる。
【0093】
この隔壁は、各陽極3R、3G、3Bが露出するようにフォトリソグラフィー法等を用いてパターニングすること等により形成することができる。
ここで、隔壁の構成材料は、耐熱性、撥液性、インク溶剤耐性、基板2等との密着性等を考慮して選択される。具体的には、隔壁の構成材料としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂のような有機材料や、SiOのような無機材料が挙げられる。
【0094】
このような隔壁を形成した場合、酸素プラズマ処理により、陽極3R、3G、3Bの表面と隔壁の表面(壁面を含む)が活性化され親液化する。その後、CF等のフッ素系ガスを処理ガスとしてプラズマ処理するのが好ましい。これにより、有機材料である感光性樹脂からなる隔壁の表面のみにフッ素系ガスが反応して撥液化される。これによって、隔壁の隔壁としての機能がより効果的に発揮される。
【0095】
[2]次に、陽極3R上に正孔注入層4R、陽極3G上に正孔注入層4G、陽極3B上に正孔注入層4Bを形成する。
この正孔注入層4R、4G、4Bは、例えば、正孔注入材料を溶媒に溶解または分散媒に分散してなる正孔注入層形成用材料を、陽極3R、3G、3B上に供給した後、乾燥(脱溶媒または脱分散媒)すること(すなわち液相プロセス)によって形成することができる。
【0096】
この正孔注入層形成用材料の供給方法としては、例えば、スピンコート法、ロールコート法、インクジェット印刷法等の各種塗布法を用いることもできる。かかる塗布法を用いることにより、正孔注入層4R、4G、4Bを比較的容易に形成することができる。
また、正孔注入層形成用材料の調製に用いる溶媒または分散媒としては、例えば、各種無機溶媒や、各種有機溶媒、または、これらを含む混合溶媒等が挙げられる。
なお、乾燥は、例えば、大気圧または減圧雰囲気中での放置、加熱処理、不活性ガスの吹付け等により行うことができる。
【0097】
[3]次に、正孔注入層4R上に赤色発光層5R、正孔注入層4G上に緑色発光層5Gを形成する。
この赤色発光層5Rおよび緑色発光層5Gは、正孔注入層4R、4G、4Bと同様、液相プロセスによって形成することができる。
[4]次に、赤色発光層5R、緑色発光層5Gおよび正孔注入層4Bに重なるように、第1電子注入層6を形成する。
この第1電子注入層6の形成方法としては、例えば、スパッタ法、真空蒸着法、CVD法等の気相プロセスや、インクジェット法、スピンコート法(パイロゾル法)、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法等の液相プロセスを用いることができるが、中でも、気相プロセスを用いるのが好ましい。気相プロセスを用いることにより、赤色発光層5R、緑色発光層5Gおよび正孔注入層4Bと第1電子注入層6との間での層溶解を防止しつつ、第1電子注入層6を確実に形成することができる。
【0098】
[5]次に、第1電子注入層6上に、正孔ブロック層7を形成する。
この正孔ブロック層7の形成方法としては、第1電子注入層6の形成方法と同様、気相プロセスや液相プロセスを用いることができるが、中でも、気相プロセスを用いるのが好ましい。気相プロセスを用いることにより、第1電子注入層6との間での層溶解を防止しつつ、正孔ブロック層7を確実に形成することができる。
【0099】
[6]次に、正孔ブロック層7上に、気相プロセスまたは液相プロセスを用いて、正孔輸送層8を形成する。
[7]次に、正孔輸送層8上に、青色発光層5Bを形成する。
この青色発光層5Bの形成方法としては、第1電子注入層6の形成方法と同様、気相プロセスや液相プロセスを用いることができるが、中でも、気相プロセスを用いるのが好ましい。気相プロセスを用いることにより、正孔輸送層8との間での層溶解を防止しつつ、青色発光層5Bを確実に形成することができる。
【0100】
[8]次に、青色発光層5B上に、電子輸送層10を形成する。
この電子輸送層10の形成方法としては、第1電子注入層6の形成方法と同様、気相プロセスや液相プロセスを用いることができるが、中でも、気相プロセスを用いるのが好ましい。気相プロセスを用いることにより、青色発光層5Bとの間での層溶解を防止しつつ、電子輸送層10を確実に形成することができる。
【0101】
[9]次に、電子輸送層10上に、第2電子注入層11を形成する。
この第2電子注入層11の形成方法としては、第1電子注入層6の形成方法と同様、気相プロセスや液相プロセスを用いることができるが、中でも、気相プロセスを用いるのが好ましい。気相プロセスを用いることにより、電子輸送層10との間での層溶解を防止しつつ、第2電子注入層11を確実に形成することができる。
【0102】
[10]次に、第2電子注入層11上に、陰極12を形成する。
この陰極12の形成方法としては、第1電子注入層6の形成方法と同様、気相プロセスや液相プロセスを用いることができるが、中でも、気相プロセスを用いるのが好ましい。気相プロセスを用いることにより、第2電子注入層11との間での層溶解を防止しつつ、陰極12を確実に形成することができる。
以上のようにして、発光装置1が得られる。なお、陰極12の形成後、必要に応じて、エポキシ樹脂のような封止樹脂、封止基板等を用いて封止処理を行ってもよい。
【0103】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図2は、本発明の第2実施形態に係る発光装置の概略構成を示す模式的断面図である。
以下、第2実施形態の発光装置について、前述した実施形態の発光装置との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0104】
第2実施形態の発光装置1Aは、正孔ブロック層と青色発光層との間の正孔輸送層を省略した以外は、第1実施形態の発光装置1とほぼ同様である。なお、前述した実施形態と同様の構成には、同一符号を付してある。
図2に示す発光装置1Aは、基板2と、この基板2上に設けられた複数の発光素子(エレクトロルミネッセンス素子)1AR、1AG、1ABとを備える。
【0105】
この発光装置1Aにおいて、発光素子1ARは、陽極3Rと正孔注入層4Rと赤色発光層5Rと第1電子注入層6と正孔ブロック層7と青色発光層5Bと電子輸送層10と第2電子注入層11と陰極12とがこの順に積層されてなる。
また、発光素子1AGは、陽極3Gと正孔注入層4Gと緑色発光層5Gと第1電子注入層6と正孔ブロック層7と青色発光層5Bと電子輸送層10と第2電子注入層11と陰極12とがこの順に積層されてなる。
【0106】
また、発光素子1ABは、陽極3Bと正孔注入層4Bと第1電子注入層6と正孔ブロック層7と青色発光層5Bと電子輸送層10と第2電子注入層11と陰極12とがこの順に積層されてなる。
ここで、第1電子注入層6および正孔ブロック層7からなる積層体は、キャリアの流れを調整するキャリア調整層9Aを構成する。
このキャリア調整層9Aの第1電子注入層6は、前述した第1実施形態のキャリア調整層9の第1電子注入層6と同様に構成することができる。
【0107】
また、キャリア調整層9Aの正孔ブロック層7は、前述した第1実施形態のキャリア調整層9の正孔ブロック層7と同様に構成することができるが、特に、正孔ブロック材料および正孔輸送材料を含む混合材料で構成されているのが好ましい。これにより、発光素子1R、1Gにおいて、正孔ブロック層7が赤色発光層5Rおよび緑色発光層5Gに正孔を効果的に留めることができる。また、発光素子1Bにおいて、青色発光層5Bへの正孔の注入量を増加させ、発光効率を高めることができる。
【0108】
キャリア調整層9Aの正孔ブロック層7を構成する混合材料に含まれる正孔ブロック材料としては、前述した第1実施形態のキャリア調整層9の正孔ブロック層7に含まれる正孔ブロック材料と同様、例えば、前記式(21)で表わされるビス(2メチル−8−キノリノレイト)−4−(フェニルフェノレイト)アルミニウム(BAlq)等のアルミニウム錯体、前記式(22)で表わされる2,9−ジメチ−4,7−ジフェニル−1.10−フェナントロリン(BCP)等のフェナントロリン誘導体、前記式(23)で表わされる3−(4−ビフェニル)−4−フェニル−5−ターシャリーブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)等のトリアゾール誘導体等を用いることができる。
【0109】
また、キャリア調整層9Aの正孔ブロック層7を構成する混合材料に含まれる正孔輸送材料としては、例えば、前記式(8)で表わされるN,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(m−トリル)−ベンジジン(TPD)、下記式(9)で表わされるビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル]ベンジジン(α−NPD)等のベンジジン誘導体等のアミン系化合物等が挙げられる。
このような混合材料で構成された正孔ブロック層7は、例えば、正孔ブロック材料と正孔輸送材料を真空蒸着法を用いて共蒸着することにより形成することができる。
また、正孔ブロック層7中における正孔ブロック材料に対する正孔輸送材料の混合比は、重量比で0.1%以上50%以下程度であるのが好ましい。
【0110】
以上説明したような第2実施形態の発光装置1Aによっても、発光素子1ABの青色発光層5Bを好適に発光させつつ、発光素子1ARにおいて、所望の層、赤色発光層5Rを選択的または支配的に発光させることができる。同様に、発光素子1ABの青色発光層5Bを好適に発光させつつ、発光素子1AGにおいて、緑色発光層5Gを選択的または支配的に発光させることができる。
以上説明したような発光装置1、1Aは、ディスプレイ装置(表示装置)に組み込むことができる。
【0111】
(表示装置)
次に、本発明の表示装置を適用したディスプレイ装置の一例について説明する。なお、以下、前述した発光装置1を組み込んだ表示装置の一例を説明するが、発光装置1と同様の構成については、その説明を省略する。
図3は、本発明の表示装置を適用したディスプレイ装置の実施形態を示す縦断面図である。
【0112】
図3に示すディスプレイ装置100は、基板21と、サブ画素100R、100G、100Bに対応して設けられた複数の発光素子1R、1G、1Bおよび複数の駆動用トランジスタ24とを有している。
なお、本実施形態において、ディスプレイ装置100は、各発光素子1R、1G、1Bからの光R、G、Bを基板21側から透過させるボトムエミッション構造のディスプレイパネルである。
【0113】
基板21上には、複数の駆動用トランジスタ24が設けられ、これらの駆動用トランジスタ24を覆うように、絶縁材料で構成された平坦化層22が形成されている。
各駆動用トランジスタ24は、シリコン等の半導体材料からなる半導体層241と、半導体層241上に形成されたゲート絶縁層242と、ゲート絶縁層242上に形成されたゲート電極243と、ソース電極244と、ドレイン電極245とを有している。
【0114】
また、平坦化層22上には、各駆動用トランジスタ24に対応して、発光素子(有機EL素子)1R、1G、1Bが設けられている。
かかる構成の発光素子1R、1G、1Bの隣接するもの同士の間には、隔壁31が設けられている。
本実施形態では、発光素子1R、1G、1Bにおいて、陽極3R、3G、3B、正孔注入層4R、4G、4B、赤色発光層5Rおよび緑色発光層5Gが隔壁31で区画されることにより個別に設けられている。
【0115】
ここで、陽極3R、3G、3Bは、それぞれ、画素電極(個別電極)を構成し、陰極12は、共通電極を構成する。そして、各発光素子1R、1G、1Bの各陽極3R、3G、3Bは、各駆動用トランジスタ24のドレイン電極245に導電部(配線)27により電気的に接続されている。
さらに、これらの発光素子1R、1G、1B上には、本実施形態では、これらを覆うように、エポキシ樹脂で構成されたエポキシ層35が形成されている。
【0116】
そして、エポキシ層35上に、これを覆うように封止基板20が設けられている。これにより、発光素子1R、1G、1Bの気密性が確保され、酸素や水分の浸入を防止できることから、発光素子1R、1G、1Bの信頼性の向上を図ることができる。
以上説明したようなディスプレイ装置100は、各発光素子1R、1G、1Bを組み合わせて発光させることでフルカラー表示も可能となる。
【0117】
このようなディスプレイ装置100によれば、前述したような発光装置1を備えるので、優れた信頼性を有する。
このようなディスプレイ装置100(本発明の表示装置)は、各種の電子機器に組み込むことができる。このような電子機器は、前述したような発光装置1を備えるので、優れた信頼性を有する。
【0118】
図4は、本発明の電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
この図において、パーソナルコンピュータ1100は、キーボード1102を備えた本体部1104と、表示部を備える表示ユニット1106とにより構成され、表示ユニット1106は、本体部1104に対しヒンジ構造部を介して回動可能に支持されている。
このパーソナルコンピュータ1100において、表示ユニット1106が備える表示部が前述のディスプレイ装置100で構成されている。
【0119】
図5は、本発明の電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
この図において、携帯電話機1200は、複数の操作ボタン1202、受話口1204および送話口1206とともに、表示部を備えている。
携帯電話機1200において、この表示部が前述のディスプレイ装置100で構成されている。
【0120】
図6は、本発明の電子機器を適用したディジタルスチルカメラの構成を示す斜視図である。なお、この図には、外部機器との接続についても簡易的に示されている。
ここで、通常のカメラは、被写体の光像により銀塩写真フィルムを感光するのに対し、ディジタルスチルカメラ1300は、被写体の光像をCCD(Charge Coupled Device)などの撮像素子により光電変換して撮像信号(画像信号)を生成する。
【0121】
ディジタルスチルカメラ1300におけるケース(ボディー)1302の背面には、表示部が設けられ、CCDによる撮像信号に基づいて表示を行う構成になっており、被写体を電子画像として表示するファインダとして機能する。
ディジタルスチルカメラ1300において、この表示部が前述のディスプレイ装置100で構成されている。
【0122】
ケースの内部には、回路基板1308が設置されている。この回路基板1308は、撮像信号を格納(記憶)し得るメモリが設置されている。
また、ケース1302の正面側(図示の構成では裏面側)には、光学レンズ(撮像光学系)やCCDなどを含む受光ユニット1304が設けられている。
撮影者が表示部に表示された被写体像を確認し、シャッタボタン1306を押下すると、その時点におけるCCDの撮像信号が、回路基板1308のメモリに転送・格納される。
【0123】
また、このディジタルスチルカメラ1300においては、ケース1302の側面に、ビデオ信号出力端子1312と、データ通信用の入出力端子1314とが設けられている。そして、図示のように、ビデオ信号出力端子1312にはテレビモニタ1430が、デ−タ通信用の入出力端子1314にはパーソナルコンピュータ1440が、それぞれ必要に応じて接続される。さらに、所定の操作により、回路基板1308のメモリに格納された撮像信号が、テレビモニタ1430や、パーソナルコンピュータ1440に出力される構成になっている。
【0124】
なお、本発明の電子機器は、図4のパーソナルコンピュータ(モバイル型パーソナルコンピュータ)、図5の携帯電話機、図6のディジタルスチルカメラの他にも、例えば、テレビや、ビデオカメラ、ビューファインダ型、モニタ直視型のビデオテープレコーダ、ラップトップ型パーソナルコンピュータ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳(通信機能付も含む)、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニタ、電子双眼鏡、POS端末、タッチパネルを備えた機器(例えば金融機関のキャッシュディスペンサー、自動券売機)、医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電表示装置、超音波診断装置、内視鏡用表示装置)、魚群探知機、各種測定機器、計器類(例えば、車両、航空機、船舶の計器類)、フライトシュミレータ、その他各種モニタ類、プロジェクター等の投射型表示装置等に適用することができる。
【0125】
以上、本発明の発光装置、表示装置および電子機器を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものでない。
例えば、前述した実施形態では、発光装置が赤色発光層、緑色発光層および青色発光層を備える場合を例に説明したが、発光層の発光色は、これに限定されず、例えば、黄色等の他の色であってもよい。
【実施例】
【0126】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.発光装置の製造
(実施例)
<1> まず、平均厚さ1.0mmの透明なガラス基板を用意した。次に、この基板上に、スパッタ法により、平均厚さ50nmのITO膜を形成した後、このITO膜をフォトリソグラフィー法を用いてパターニングすることで、R画素、G画素およびB画素に対応する3つの陽極(個別電極)を形成した。
【0127】
<2> 次に、各陽極を露出させるとともに陽極同士の間を隔てるように、アクリル樹脂で構成された隔壁(バンク)を形成した。
そして、Oガスを処理ガスとして用いたプラズマ処理により、各陽極の表面と隔壁の表面(壁面を含む)を親液化(親水化)した。続いて、CFガスを処理ガスとして用いたプラズマ処理により、アクリル系樹脂からなる隔壁の表面のみにCFガスを反応させて、隔壁の表面を撥液化(撥水化)した。
【0128】
<3> 次に、各陽極上に、インクジェット法により、1.0wt%PEDOT/PSS水分散液を塗布し、その塗布された分散液を乾燥、焼成することにより、平均厚さ50nmの正孔注入層を形成した。
<4> 次に、R画素に対応する正孔注入層上に、インクジェット法により、前記式(6)で表わされる化合物(高分子量材料)の1.2wt%テトラメチルベンゼン溶液を塗布した。また、G画素に対応する正孔注入層上に、インクジェット法により、前記式(19)で表わされる化合物(高分子量材料)の1.2wt%テトラメチルベンゼン溶液を塗布した。そして、その塗布された各溶液を乾燥、焼成することにより、平均厚さ60nmの発光層(赤色発光層および緑色発光層)を形成した。
【0129】
<5> 次に、赤色発光層上、緑色発光層上およびB画素に対応する正孔注入層上に、真空蒸着法により、CsCOを蒸着源として真空蒸着法により成膜し、平均厚さ0.5nmの第1電子注入層を形成した。
<6> 次に、第1電子注入層上に、前記式(21)で表わされるビス(2メチル−8−キノリノレイト)−4−(フェニルフェノレイト)アルミニウム(BAlq)を真空蒸着法により成膜し、平均厚さ10nmの正孔ブロック層を形成した。
【0130】
<7> 次に、正孔ブロック層上に、真空蒸着法により、α−NPDを成膜し、平均厚さ10nmの正孔輸送層を形成した。
<8> 次に、正孔輸送層上に、真空蒸着法を用いて共蒸着により以下に示す混合材料で構成される平均厚さ20nmの青色発光層を形成した。
ここで、青色発光層の構成材料(混合材料)としては、ホスト材料として上記式(9)で表わされる化合物を用い、ゲスト材料として上記式(11)で表わされる化合物を用いた。また、青色発光層中のゲスト材料(ドーパント)の含有量(ドープ濃度)は、ホスト材料に対して重量比で5.0%とした。
【0131】
<9> 次に、青色発光層上に、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)を真空蒸着法により成膜し、平均厚さ20nmの電子輸送層を形成した。
<10> 次に、電子輸送層上に、フッ化リチウム(LiF)を真空蒸着法により成膜し、平均厚さ1.0nmの電子注入層を形成した。
<11> 次に、電子注入層上に、Alを真空蒸着法により成膜した。これにより、Alで構成される平均厚さ200nmの陰極を形成した。
【0132】
<12> 次に、形成した各層を覆うように、ガラス製の保護カバー(封止部材)を被せ、エポキシ樹脂により固定、封止した。
以上の工程により、図1に示すような層構成を有するボトムエミッション構造の発光装置を製造した。
(比較例)
第1電子注入層および正孔ブロック層の形成を省略した以外は、前述した実施例と同様にして、発光装置を製造した。
【0133】
2.評価
実施例および比較例の発光装置の発光素子について、それぞれ、輝度が10cd/mとなるように発光素子に定電流を流し、このときに発光色を目視にて観察した。
その結果を表1に示す。
【0134】
【表1】

【0135】
表1から明らかなように、実施例の発光装置では、各画素の発光素子が所望の色に発光していた。すなわち、R画素に対応する発光素子が赤色に発光し、G画素に対応する発光素子が緑色に発光し、B画素に対応する発光素子が青色に発光していた。これは、R画素およびG画素の発光素子において、正孔ブロック層の正孔ブロック機能により正孔がブロックされ、赤色発光層や緑色発光層を通過して青色発光層に到達することなく、正孔が赤色発光層や緑色発光層に留まり、一方、B画素の発光素子において、正孔ブロック層の正孔ブロック機能が緩和されるとともに、正孔ブロック層の正孔輸送性が好適に発現され、青色発光層に正孔が到達したためと考えられる。
これに対し、比較例の発光装置では、いずれの画素の発光素子においても青色に発光しており、R画素およびG画素の発光素子において所望の発光色を得ることができなかった。これは、R画素およびG画素の発光素子において、赤色発光層や緑色発光層を通過した正孔が青色発光層に到達し、青色発光層が発光したためであると考えられる。
【符号の説明】
【0136】
1‥‥発光装置 1A‥‥発光装置 1AR‥‥発光素子 1AG‥‥発光素子 1AB‥‥発光素子 1R‥‥発光素子 1G‥‥発光素子 1B‥‥発光素子 2‥‥基板 3R‥‥陽極 3G‥‥陽極 3B‥‥陽極 4R‥‥正孔注入層 4G‥‥正孔注入層 4B‥‥正孔注入層 5R‥‥赤色発光層 5G‥‥緑色発光層 5B、5BR、5BG、5BB‥‥青色発光層 6、6R、6G、6B‥‥第1電子注入層 7、7R、7G、7B‥‥正孔ブロック層 8、8R、8G、8B‥‥正孔輸送層 9‥‥キャリア調整層 9A‥‥キャリア調整層 10、10R、10G、10B‥‥電子輸送層 11、11R、11G、11B‥‥第2電子注入層 12、12R、12G、12B‥‥陰極 20‥‥封止基板 21‥‥基板 22‥‥平坦化層 24‥‥駆動用トランジスタ 31‥‥隔壁 35‥‥エポキシ層 100‥‥ディスプレイ装置 100R、100G、100B‥‥サブ画素 241‥‥半導体層 242‥‥ゲート絶縁層 243‥‥ゲート電極 244‥‥ソース電極 245‥‥ドレイン電極 1100‥‥パーソナルコンピュータ 1102‥‥キーボード 1104‥‥本体部 1106‥‥表示ユニット 1200‥‥携帯電話機 1202‥‥操作ボタン 1204‥‥受話口 1206‥‥送話口 1300‥‥ディジタルスチルカメラ 1302‥‥ケース 1304‥‥受光ユニット 1306‥‥シャッタボタン 1308‥‥回路基板 1312‥‥ビデオ信号出力端子 1314‥‥入出力端子 1430‥‥テレビモニタ 1440‥‥パーソナルコンピュータ R、G、B‥‥光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる色の光を出射する第1の発光素子および第2の発光素子を有する発光装置であって、
前記第1の発光素子は、
第1の陽極と、
第1の陰極と、
前記第1の陽極と前記第1の陰極との間に設けられ、第1の色に発光する機能を有する第1の発光層と、
前記第1の陽極と前記第1の発光層との間に設けられ、前記第1の色とは異なる第2の色に発光する機能を有する非発光層と、
前記第1の発光層と前記非発光層との間に設けられ、正孔ブロック材料および正孔輸送材料を含んで構成された第1のキャリア調整層とを備え、
前記第2の発光素子は、
第2の陽極と、
第2の陰極と、
前記第2の陽極と前記第2の陰極との間に設けられ、前記第2の色に発光する機能を有する第2の発光層と、
前記第2の発光層と前記第2の陽極との間に設けられ、正孔ブロック材料および正孔輸送材料を含んで構成された第2のキャリア調整層とを備えることを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記第1のキャリア調整層は、前記正孔ブロック材料を含んで構成された第1の正孔ブロック層を有し、
前記第2のキャリア調整層は、前記正孔ブロック材料を含んで構成された第2の正孔ブロック層を有する請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記第1のキャリア調整層は、前記第1の正孔ブロック層と前記非発光層との間に設けられ、前記正孔輸送材料を含んで構成された第1の正孔輸送層を有し、
前記第2のキャリア調整層は、前記第2の正孔ブロック層と前記第2の発光層との間に設けられ、前記正孔輸送材料を含んで構成された第2の正孔輸送層を有する請求項2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記第1の正孔ブロック層および前記第2の正孔ブロック層は、それぞれ、前記正孔ブロック材料および前記正孔輸送材料を含む混合材料で構成されている請求項2または3に記載の発光装置。
【請求項5】
前記第2の発光素子は、
前記第2のキャリア調整層と前記第2の陽極との間に設けられた正孔注入層を備える請求項2ないし4のいずれかに記載の発光装置。
【請求項6】
前記第1のキャリア調整層は、前記第1の正孔ブロック層と前記第1の発光層との間に設けられた第1の電子注入層を有し、
前記第2のキャリア調整層は、前記第2の正孔ブロック層と前記正孔注入層との間に設けられた第2の電子注入層を有する請求項5に記載の発光装置。
【請求項7】
前記正孔ブロック材料は、前記第1の発光層の構成材料のHOMO準位よりも深いHOMO準位を有する請求項1ないし6のいずれかに記載の発光装置。
【請求項8】
前記正孔ブロック材料は、前記第1の発光層の構成材料のバンドギャップよりも広いバンドギャップを有する請求項7に記載の発光装置。
【請求項9】
前記第1の色は、赤色または緑色であり、前記第2の色は、青色である請求項1ないし8のいずれかに記載の発光装置。
【請求項10】
前記非発光層は、前記第2の発光層と一体的に設けられている請求項1ないし9のいずれかに記載の発光装置。
【請求項11】
前記第1の発光層は、液相プロセスにより形成されたものであり、前記非発光層および前記第2の発光層は、気相プロセスにより一括形成されたものである請求項10に記載の発光装置。
【請求項12】
前記第1のキャリア調整層は、前記第2のキャリア調整層と一体的に設けられている請求項1ないし11のいずれかに記載の発光装置。
【請求項13】
前記第1のキャリア調整層および前記第2のキャリア調整層は、気相プロセスにより一括形成されたものである請求項12に記載の発光装置。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかに記載の発光装置を備えることを特徴とする表示装置。
【請求項15】
請求項1ないし13のいずれかに記載の発光装置を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−230833(P2012−230833A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98706(P2011−98706)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】