説明

発光装置および電子機器

【課題】割れたり剥離したりし難いガスバリア層で発光素子を十分に封止する。
【解決手段】主基板10上に配列された複数の有機EL素子P1、これらを覆う第1の有機緩衝層191、第1の有機緩衝層191上に配置されて複数の有機EL素子P1に重なる第2の有機緩衝層192、およびガスバリア層20を備える。有機緩衝層が2層構成であるため、各有機緩衝層の厚さは薄くなる。各有機緩衝層は塗布により形成されるものであるから、各有機緩衝層の薄さは各有機緩衝層の最外端の角度の小ささにつながる。また、第2の有機緩衝層192に重なる主基板10上の領域は、第1の有機緩衝層191に重なる主基板10上の領域と一致しない。したがって、ガスバリア層20の立ち上がり部分では、ガスバリア層20の立ち上がる角度が徐々に増す。よって、ガスバリア層20は緩やかに立ち上がる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子の薄膜封止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子の一種として、2つの電極で挟まれ電界により励起して発光する多層の有機化合物からなる有機発光層薄膜を有する発光素子を用いて発光する有機EL(electro-luminescent)素子がある。有機発光材料及びカルシウムやマグネシウム、アルミニウム錯体などの電子注入層を含む陰極が劣化するのを防ぐために封止が行われる。この封止の技術として、極薄の無機化合物膜で有機EL素子を覆う薄膜封止技術が知られている(特許文献1〜4)。この技術では、無機化合物膜が外気を遮断するガスバリア層として機能する。
【特許文献1】特開平9−185994号公報
【特許文献2】特開2001−284041号公報
【特許文献3】特開2000−223264号公報
【特許文献4】特開2003−17244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
有機EL素子を覆うために、上記の薄膜封止技術においては、ガスバリア層が、画素隔壁を含む複数の発光素子領域の陰極表面上に、有機緩衝層のような有機化合物からなる平坦化層によってこれらの凹凸を平坦化してから、無機化合物からなるガスバリア層が形成されている。しかし、このような形状のガスバリア層では、有機緩衝層の終端部(立ち上がり部分)に応力が集中する。応力集中が著しいと、ガスバリア層にクラックが生じたり、ガスバリア層が剥離したりし易くなってしまう。加えて、ガスバリア層が透明かつ耐湿性に優れる珪素化合物などの無機化合物膜の場合には、有機化合物膜に比較して密度および弾性率(ヤング率)が高いため、応力集中によるクラックが生じ易い。
ガスバリア層が割れたり剥離したりすると、外部の大気成分に含まれる水分が浸入してしまうため、有機EL素子の封止性(特にクリーンルームでも取りきれない微細な異物に対する被覆性)が著しく低下する。これは、有機EL素子の早期劣化を招くから、解決すべき問題である。とはいえ、ガスバリア層を弾性率の低い有機化合物膜にして応力の分散を図ったり、ガスバリア層を一様に薄くして応力の分散を図ったりすると、ガスバリア層が割れたり剥離したりしなくても、十分な封止性を得られず、やはり、有機EL素子の早期劣化を招く虞がある。
本発明は、上述した事情に鑑み、割れたり剥離したりし難いガスバリア層で発光素子を十分に封止することができる発光装置および電子機器を提供することを解決課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係る発光装置は、基板上に絶縁性の画素隔壁により分離された陽極と、有機発光層薄膜と陰極が順次積層された電界により励起して発光する複数の発光素子と、
有機化合物を塗布し固化させて形成され、前記複数の発光素子領域よりも広い範囲を覆う第1の有機緩衝層と、
有機化合物を塗布し固化させて形成され、前記基板との間に前記第1の有機緩衝層を挟み、前記複数の発光素子を覆う第2の有機緩衝層と、
無機化合物から形成され、前記第1の有機緩衝層および前記第2の有機緩衝層領域よりも広い範囲を覆い、前記複数の発光素子を外気から保護するガスバリア層とを備え、
前記第1の有機緩衝層に重なる前記基板上の領域と前記第2の有機緩衝層に重なる前記基板上の領域とが完全には一致しない、ことを特徴とする。有機化合物は、炭素からなる骨格を構造の基本とする化合物である。
【0005】
基板上に絶縁性の画素隔壁とその間にある多数の陽極によって配列された複数の発光素子とその上に形成される陰極表面には多くの段差が生じる。その上に直接無機化合物から形成されたガスバリア層を密着させると、ガスバリア層に大きな段差が生じ、応力集中により割れたり剥がれたりし易くなってしまう。ガスバリア層を割れ難く剥がれ難くするには、この発光装置のように、ガスバリア層の形成前に、複数の発光素子がある凹凸上に有機化合物を塗布し固化させて表面を略平坦化する有機緩衝層を形成するのが有効である。この有機緩衝層は、多くの有機化合物を塗布して有機緩衝層を十分に厚く形成すれば、上記の段差を埋めてガスバリア層を略平坦化することができる。また、ガスバリア層の立ち上がり部分への応力集中を緩和することもできる。しかし、有機緩衝層の表面平坦性をさらに向上させるには液体である材料の粘度を上げて有機緩衝層をより厚く塗布しなければならず、表面張力の増加で有機緩衝層の終端部の角度が大きくなり過ぎる。つまり、ガスバリア層が折れ曲がって立ち上がる角度が大きくなり過ぎ、立ち上がり部分への応力集中が著しくなってしまう。
【0006】
本発明は、このような課題をも解決するためのものでもあり、上記の発光装置は、有機緩衝層を2層構成とし、第1の有機緩衝層領域と第2の有機緩衝層領域とが完全には一致しないようにしている。有機緩衝層を2層構成とすることにより、各層の厚さは、一層構成の場合の有機緩衝層よりも薄くなる。したがって、各層の終端部の角度は、一層構成の場合の有機緩衝層の終端部の角度よりも小さくなる。しかも、第1の有機緩衝層領域と第2の有機緩衝層領域とが完全には一致しないから、ガスバリア層の立ち上がり部分のうちの一部または全部では、ガスバリア層の立ち上がる角度が緩やかに増していくことになる。つまり、上記の発光装置のガスバリア層は、割れたり剥離したりし難いものとなる。したがって、上記の発光装置によれば、割れたり剥離したりし難いガスバリア層で発光素子を十分に封止することができる。
【0007】
上記の発光装置において、前記第2の有機緩衝層の領域が前記第1の有機緩衝層の領域よりも広い範囲を被覆してもよいし、前記第1の有機緩衝層領域が前記第2の有機緩衝層の領域よりも広い範囲を被覆してもよい。
【0008】
前者の発光装置において、前記第1の有機緩衝層が、前記複数の発光素子領域よりも広い範囲を被覆する定常の厚さの第1の定常部分と、前記第1の定常部分を囲んで終端部に向かって徐々に薄くなる第1の外端部分とを有し、前記第2の有機緩衝層よりも広い範囲を被覆する定常の厚さの第2の定常部分と、前記第2の定常部分を囲んで最外端に向かって徐々に薄くなる第2の外端部分とを有し、前記第1の定常部分に前記第2の定常部分および前記第2の外端部分が重なっており、前記第1の定常部分は前記第2の定常部分よりも薄いようにしてもよい。「定常」は略一定であることを意味する。具体的には、画素隔壁高さが約2μmで発光素子領域の凹凸段差が約2μmあった場合、画素隔壁上部の有機緩衝層の厚みが約3μm、画素隔壁のない部分(発光部分)の有機緩衝層の厚みが約5μmであれば、有機緩衝層の表面は略平坦と言える。このように、画素隔壁有無によって有機緩衝層の厚みが変わって有機緩衝層が表面を略平坦にしている部分を定常と定義している。
【0009】
この発光装置によれば、被覆領域が狭くて上にある方の第2の有機緩衝層が厚く、被覆領域が広くて下にある方の第1の有機緩衝層が薄くなる。したがって、複数の発光素子の封止性を向上させるために第1および第2の有機緩衝層の総厚を十分に厚くしても、ガスバリア層の立ち上がる角度は薄い方の第1の有機緩衝層の第1の外端部分の角度と一致する。また、第1の定常部分に第2の定常部分および第2の外端部分が重なっているため、ガスバリア層は、その立ち上がりにおいて、第1の外端部分に沿ってから第2の外端部分に沿うことになる。したがって、狭くて上にある方の第2の有機緩衝層が厚くて第2の外端部分の角度が大きくても、ガスバリア層は徐々に立ち上がることになる。以上より、ガスバリア層が緩やかに立ち上がるようにしつつ、複数の発光素子領域を被覆する第1および第2の有機緩衝層の総厚を十分に厚くすることができる。よって、ガスバリア層が、より一層、割れたり剥離したりし難くなり、発光素子の封止性が更に向上する。
【0010】
後者の発光装置において、前記第1の有機緩衝層が、前記複数の発光素子領域よりも広い範囲を被覆する定常の厚さの第1の定常部分と、前記第1の定常部分を囲んで最外端に向かって徐々に薄くなる第1の外端部分とを有し、前記第2の有機緩衝層が、前記複数の発光素子領域よりも広い範囲を被覆する定常の厚さの第2の定常部分と、前記第2の定常部分を囲んで最外端に向かって徐々に薄くなる第2の外端部分とを有し、前記第2の定常部分に前記第1の定常部分および前記第1の外端部分が重なっており、前記第2の定常部分は前記第1の定常部分よりも薄いようにしてもよい。
【0011】
この発光装置によれば、被覆領域が狭くて下にある方の第1の有機緩衝層が厚く、被覆領域が広くて上にある方の第2の有機緩衝層が薄くなる。したがって、複数の発光素子の封止性を向上させるために第1および第2の有機緩衝層の総厚を十分に厚くしても、ガスバリア層の立ち上がる角度は薄い方の第2の有機緩衝層の第2の外端部分の角度と一致する。また、第2の定常部分に第1の定常部分および第1の外端部分が重なっているため、ガスバリア層は、その立ち上がりにおいて、第2の外端部分に沿ってから第1の外端部分に沿うことになる。したがって、狭くて下にある方の第1の有機緩衝層が厚くて第1の外端部分の角度が大きくても、ガスバリア層は徐々に立ち上がることになる。以上より、ガスバリア層が緩やかに立ち上がるようにしつつ、複数の発光素子に重なる第1および第2の有機緩衝層の総厚を十分に厚くすることができる。よって、ガスバリア層が、より一層、割れたり剥離したりし難くなり、発光素子の封止性が更に向上する。
【0012】
上記各発光装置において、前記第1の有機緩衝層/前記第2の有機緩衝層の終端部において前記第1の有機緩衝層/前記第2の有機緩衝層の上面と前記基板の上面とがなす角が20度以下である、ようにしてもよい。この発光装置によれば、ガスバリア層が立ち上がる角度を十分に小さくすることができる。したがって、ガスバリア層における応力集中を抑制し、ガスバリア層をより割れ難く剥離し難くすることができる。
【0013】
本発明に係る電子機器は、上記各発光装置を備える。上記各発光装置では、割れたり剥離したりし難いガスバリア層で発光素子が十分に封止され、その劣化が抑止される。よって、本発明に係る電子機器によれば、長期にわたる品質の維持が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を説明する。なお、以下の各図面においては、各部の寸法の比率を実際のものとは適宜に異ならせている。図1〜図12の断面図に描かれている面は全て断面であるから、一部を除いてハッチングを省略している。また、以下の説明において、「上」および「下」は図の紙面を基準とした表現であり、層の「厚さ」は断面図の紙面上下方向における層の長さを意味する。
【0015】
<A:第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態に係る有機ELパネル(発光装置)は、後述の高分子系有機EL材料を用いるフルカラーパネルである。この有機ELパネルは、赤色光を発する有機EL素子、緑色光を発する有機EL素子、および青色光を発する有機EL素子を並置して、フルカラーの表示を可能としている。また、この有機ELパネルは、有機EL素子からの光が主基板とは反対の側から出射されるトップエミッションタイプである。
【0016】
<A1:構成>
図1はこの有機ELパネルの断面図であり、図2は、その一部Aを拡大して示す断面図である。この有機ELパネルは平板状の主基板10を備える。主基板10は、ガラスまたはプラスチックから形成され、その上面には複数の有機EL素子P1が形成されている。有機EL素子P1は、後述の高分子系有機EL材料を用いて形成された有機発光層16を有し、発光させるタイミングで電流供給を受けて有機発光層16(詳しくは有機発光層16内の発光層)を発光させる。有機EL素子P1は、発光色により3種類に分類される。主基板10上では、これら3種類の有機EL素子P1が規則的に配列されている。
【0017】
主基板10上には、複数の有機EL素子P1に1対1で対応する複数のTFT(Thin Film Transistor)11および各種の配線(一部を除いて図示略)が形成されている。TFT11は、電気エネルギおよび制御信号を受けて自己に対応する有機EL素子P1を駆動する。具体的には、有機EL素子P1に電気エネルギを供給する。また、主基板10上には、複数のTFT11を覆うように、無機絶縁層12が形成されている。無機絶縁層12は、複数のTFT11および各種の配線を絶縁するものであり、例えば珪素化合物から形成されている。
【0018】
無機絶縁層12上には、親液バンク層(無機画素隔壁絶縁層)13が例えば膜厚50〜200nmの二酸化珪素で形成されており、親液バンク層13上には撥液バンク層(有機画素隔壁絶縁層)14が例えば膜厚1〜3μmのアクリル樹脂またはポリイミドから形成されている。無機絶縁層12、親液バンク層13および撥液バンク層14は凹部を画定しており、この凹部の底部を有機EL素子P1が占めている。なお、単色で用いる発光装置及び電子機器の場合は、塗り分けが必要でないため撥液バンク層14を除いた構造として、有機発光層16を陽極15と親液バンク層13に跨ってスピンコートやスリットコートなどによって形成しても良い。
【0019】
有機EL素子P1は、有機発光層16を挟む陽極15および共通陰極層17を有する。陽極15および共通陰極層17は、有機発光層16に正孔および電子を注入するための電極であり、供給された電気エネルギにより電界を発生させる。陽極15は、無機絶縁層12上に例えば仕事関数が5eV以上の正孔注入性の高いITO(Indium Tin Oxide)などから形成された電極であり、上記の配線により対応するTFT11に接続されている。共通陰極層17は、有機発光層16および撥液バンク層14上に形成されて複数の有機EL素子P1に跨る共通の電極として機能する層であり、例えば、有機発光層16へ電子を注入し易くするための電子注入バッファー層と、電子注入バッファー層上にITOやアルミニウムなどの金属から形成された電気抵抗の小さい層とを有する。電子注入バッファー層は、例えばフッ化リチウムやカルシウム金属、マグネシウム−銀合金から形成されている。
【0020】
有機発光層16は、電界により注入された正孔と電子との再結合により励起して発光する発光層を含む。発光層以外の層をも含むように多層からなる有機発光層16を構成することも可能であり、電気抵抗を少なくするため全ての層が300nm以下の薄膜になることが好ましい。発光層以外の層としては、正孔を注入し易くするための正孔注入層や、注入された正孔を発光層へ輸送し易くするための正孔輸送層、電子を注入し易くするための電子注入層、注入された電子を発光層へ輸送し易くするための電子輸送層などの、上記の再結合に寄与する層がある。
【0021】
発光層は高分子系有機EL材料から形成されている。高分子系有機EL材料は、正孔と電子との再結合により励起して発光する有機化合物のうち、分子量が比較的に高いものである。有機EL素子P1を形成している高分子系有機EL材料は、有機EL素子P1の種類(発光色)に応じた物質となっている。発光層における再結合に寄与する層の材料は、この層に接する層の材料に応じた物質となっている。これらの材料を溶媒で希釈してインクジェット法やその他印刷法によってパターン塗布する場合、撥液バンク層14に対する有機発光層16の材料が撥液バンク層14表面をはじくため、画素ごとに各色が塗り分けられる。単色で塗り分けが必要ない場合は、撥液バンク層14を除くことで、スピンコートやスリットコートなどによって有機発光層16を親液バンク層13と陽極15の上を跨いで形成しても、画素の分離ができる。親液バンク層13は、凹部の底の陽極15の端部まで有機発光層16の膜厚を安定化させるもので、上部には有機発光層16が形成される。例えば、膜厚50〜200nmの二酸化珪素から形成されている。
【0022】
無機絶縁層12および共通陰極層17上には、共通陰極層17を覆うように陰極保護層18が形成されている。陰極保護層18上には、画素隔壁による凹凸を平坦化するため複数の有機EL素子P1の全部に重なるように第1の有機緩衝層191が形成されている。第1の有機緩衝層191上には、複数の有機EL素子P1の全部に重なるように第2の有機緩衝層192が形成されている。陰極保護層18、第1の有機緩衝層191および第2の有機緩衝層192上には、第1の有機緩衝層191および第2の有機緩衝層192の終端部まで完全に覆うようにガスバリア層20が形成されている。
【0023】
ガスバリア層20は、第1の有機緩衝層191、第2の有機緩衝層192および複数の有機EL素子P1の封止性の向上に寄与するものであり、第1の有機緩衝層191および第2の有機緩衝層192に密着している。ガスバリア層20は、光透過性、ガスバリア性、および耐水性に優れた材料から形成されている。このような材料としては珪素酸窒化物、珪素窒化物、SiNHなどの窒素を含む珪素化合物が好ましい。ガスバリア層の形成方法として、ICPやECRプラズマ、プラズマガンで発生させた高密度プラズマを用いる、スパッタやイオンプレーティング、CVD法などの高密度プラズマ成膜法を用いることで、低温かつ高密度で高品位の無機化合物の薄膜が形成される。ガスバリア層20の厚さは、複数の有機EL素子P1の封止性の度合い、ガスバリア層にクラックが生じたりガスバリア層が剥離したりする可能性、および製造コストを勘案して定められている。具体的には、300nm〜800nmである。
【0024】
第1の有機緩衝層191および第2の有機緩衝層192は、ガスバリア層20の平坦性および密着性の向上と、ガスバリア層20に生じる応力の緩衝とを目的として設けられている。両有機緩衝層は、後述の粘度および組成の有機緩衝層材料(液体)を減圧雰囲気下のスクリーン印刷法を用いて、スクリーンメッシュとスキージを用いて画素隔壁による凹凸を膜厚を制御して第2の有機緩衝層の上面が略平坦化するように塗布し、その後の硬化によって形成される。第2の有機緩衝層192に重なる主基板10上の領域は、第1の有機緩衝層191に重なる主基板10上の領域に含まれるように、より広い範囲に形成されている。
【0025】
第1の有機緩衝層191は、好適には厚さが3μm〜10μmであり、複数の有機EL素子P1の全てに重なる第1の被覆部分191aと、第1の被覆部分191aを囲む定常の厚さの第1の定常部分191bと、第1の定常部分191bを囲んで最外端に向かって徐々に薄くなる第1の外端部分191cとを有する。第1の有機緩衝層191は液体を塗布して形成されるものであるから、第1の有機緩衝層191の終端部において第1の外端部分191cの上面と主基板10の上面とがなす角(θ1)は、第1の定常部分191bの厚さに応じたものとなる。本実施の形態では、この角(θ1)が20度以下となるように、第1の定常部分191bの厚さの上限が定められている。このため、第1の被覆部分191aの上面は平坦でなくなっている。
【0026】
一方、第2の有機緩衝層192は、画素隔壁の高さに準じて好適には厚さが3μm〜20μmであり、複数の有機EL素子P1の全てに重なる第2の被覆部分192aと、第2の被覆部分192aを囲む定常の厚さの第2の定常部分192bと、第2の定常部分192bを囲んで最外端に向かって徐々に薄くなる第2の外端部分192cとを有する。第2の有機緩衝層192は液体を塗布して形成されるものであり、この塗布は、第2の被覆部分192aの上面が平坦となるように行われるから、第2の定常部分192bは第1の定常部分191bよりも厚くなっており、第2の有機緩衝層192の最外端において第2の外端部分192cの上面と下面とがなす角(θ2)は、上記の角(θ1)よりも大きくなっている。なお、第1の有機緩衝層191および第2の有機緩衝層192の厚さは、ガスバリア層を越えて滲入してきた異物に対する被覆性や、後述の表面保護基板22の上面に到達せずに表面保護基板22の側面や後述の接着層21の側面に逃げる光の割合をも考慮して定められる。
【0027】
陰極保護層18は、共通陰極層17の保護と、硬化前の第1の有機緩衝層191の濡れ性及び接着性の向上とを目的として設けられており、光透過性、密着性および耐水性に優れた珪素酸窒化物などの珪素化合物から形成されている。上記の共通陰極層17は、特にトップエミッション構造の場合に透明性を考慮して共通陰極層の膜厚が薄くなるためピンホール等の発生頻度が増加する。そのため、有機緩衝層19を形成するまでの輸送時に付着する微量の水分や、硬化前の有機緩衝層19の材料の浸透による有機発光層16へのダメージがダークスポットとなるため、これらを防ぐ役割を持つ。このため、陰極保護層18の厚さは100nm以上となっている。また、共通陰極層17の上面には、バンク14と有機EL素子P1との段差による凹凸があるため、陰極保護層18において応力集中が生じる。この応力集中による破損を防ぐために、陰極保護層18の厚さは200nm以下となっている。
【0028】
主基板10上には、無機絶縁層12、陰極保護層18、ガスバリア層20を覆うように、接着層21が形成されている。接着層21上には、接着層21の全部に重ねて表面保護基板22が固定されている。表面保護基板22の下面全面は接着層21に接している。接着層21は表面保護基板22を主基板10に接着するものであり、光透過性に優れた樹脂接着剤から形成されている。この樹脂接着剤としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂などがある。表面保護基板22は、光学特性及びガスバリア層の保護を目的として設けられたものであり、ガラスまたは光透過性に優れたプラスチックから形成されている。このようなプラスチックとしては、ポリエチレンテレフタレートやアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリオレフィンなどがある。表面保護基板22には、カラーフィルタの機能や、紫外線を遮断/吸収する機能、外光の反射を防止する機能、放熱する機能などを持たせてもよい。また、コスト面を考慮して、カラーフィルターなど光学的な機能を必要としない場合などには、接着層21のみの1層とし、表面保護基板22が存在しない構造でもよい。
【0029】
<A2:製造手順>
本実施の形態に係る有機ELパネルを製造するには、まず、主基板10上にTFT11および各種の配線と無機絶縁層12を形成する。次に、無機絶縁層12上にアルミニウム−銅合金材料などの光反射性の反射層と、透明なITOをスパッタ法により成膜して複数の画素となる陽極15を形成する。これにより、点灯制御をおこなうTFT11と接続される。次に、無機絶縁層12上に、陽極15を囲むように親液バンク層13を形成する。次に、親液バンク層13上に例えばポリイミドやアクリル樹脂などの有機化合物からなる撥液バンク層14を形成する。次に、主基板10上から有機物系の異物除去とITO表面の濡れ性を向上させるため、プラズマ洗浄などの洗浄処理を行う。
【0030】
次に、有機発光層16を陽極15上に形成する。この形成では、材料が塗布され、陽極15及び親液バンク層13に接して平坦に広がる。したがって、厚さが均一の平坦な有機発光層16が形成される。有機発光層16に含まれる発光層の形成では、赤色光を発する有機EL素子P1を構成することになる陽極15上には、赤色光を発する有機発光層16を形成するための高分子系有機EL材料を塗布する。これと同様のことを、緑色光を発する有機EL素子P1および青色光を発する有機EL素子P1についても行う。塗布方法としては、スピンコートやスリットコート法を用いても良いし、3色を塗り分ける場合にはインクジェット法やスクリーン印刷法を用いて画素ごとにパターン塗布をすると材料効率の良い塗布ができる。有機発光層16が複数の層からなる場合には、各層を順に成膜することになる。
【0031】
次に、複数の有機EL素子P1に共通の電極、すなわち共通陰極層17を形成する。例えば、まず、加熱ボート(るつぼ)を用いた真空蒸着法によりフッ化リチウム及びカルシウムやマグネシウムなどの電子注入性の高い金属または合金を成膜し、次に、電極の電気抵抗を下げるため、真空蒸着法により画素部を避けるようにパターン形成したアルミニウムか、ECR(Electron Cyclotron Resonance)プラズマスパッタ法やイオンプレーティング法、対向ターゲットスパッタ法など減圧雰囲気下の高密度プラズマ成膜法により透明なITOを成膜する。次に、酸素プラズマ処理を行い、ECRスパッタ法やイオンプレーティング法などの高密度プラズマ成膜法により、共通陰極層17を覆うように、珪素酸窒化物からなる陰極保護層18を形成する。酸素プラズマ処理を行うのは、共通陰極層17と陰極保護層18との密着性を向上させるためである。
【0032】
次に、減圧雰囲気スクリーン印刷法により、陰極保護層18上に、粘度が室温(25℃)で2000m〜10000Pa・sの液状の有機緩衝層材料を印刷し、窒素ガスを導入して大気圧に戻した後、硬化室に搬送して60〜100℃の範囲で基板ごと加熱して完全硬化させることにより、第1の有機緩衝層191を形成する。この形成を減圧雰囲気下で行うのは、塗布時に発生する気泡の除去とできるだけ水分を除去するためである。共通陰極17や陰極保護層18の形成と違って、100〜5000Paという比較的低い真空度で塗布がおこなわれるが、窒素で置換することによって露点は−60℃以下になるまで水分が除去されている。粘度が室温で2000mPa・s以上の有機緩衝層材料を用いるのは、有機緩衝層材料が陰極保護層18を透過して共通陰極層17や有機発光層16に滲入する事態を避けるためである。
【0033】
有機緩衝層材料の主成分(例えば70重量%以上)としては、硬化前には流動性に優れかつ溶媒のような揮発成分を持たない有機化合物を用いることが可能であり、本実施の形態では、エポキシ基を有する分子量3000以下のエポキシモノマー(分子量1000以下)/オリゴマー(分子量1000〜3000)を用いている。具体的には、ビスフェノールA型エポキシオリゴマーやビスフェノールF型エポキシオリゴマー、フェノールノボラック型エポキシオリゴマー、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ε-カプロラクトン変性3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキレートなどを単独でまたは組み合わせて用いることが可能である。
【0034】
有機緩衝層材料の副成分としては、エポキシモノマー/オリゴマーと反応する硬化剤がある。この硬化剤としては、電気絶縁性に優れかつ強靭で耐熱性に優れる硬化被膜を形成するものが良く、光透過性に優れかつ硬化のばらつきの少ない付加重合型のものがよい。具体的には、3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6−エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物またはそれらの重合物などの酸無水物系硬化剤が好適である。その理由の第1は、酸無水物系硬化剤の硬化は60〜100℃の範囲の加熱で行われ、その硬化被膜は珪素酸窒化物との密着性に優れるエステル結合を持つ高分子となるからである。第2は、酸無水の開環を促進する硬化促進剤として芳香族アミンやアルコール類、アミノフェノールなどの比較的分子量の高いものを添加することで低温かつ短時間での硬化が可能となるからでもある。第3は、カチオン放出タイプの光重合開始剤に比較して、急激な硬化収縮による各部の損傷を招き難いからである。
【0035】
有機緩衝層材料の他の副成分としては、共通陰極層17や第1のガスバリア層20との密着性を向上させるシランカップリング剤や、イソシアネート化合物などの捕水剤、硬化時の収縮を防ぐ微粒子などの添加剤が混入されていてもよい。これらの硬化前の粘度は、室温で1000mPa・s〜10000mPa・sが好ましい。
【0036】
本実施の形態で用いる主成分材料および副成分材料の硬化前の粘度は、いずれも室温で1000mPa・s以上が好ましい。これは、硬化前の材料が有機発光層16に滲入してしまう可能性を抑制するためである。これらの材料の粘度は、この抑制だけでなく、必要なパターン精度での生膜を実現できること、かつ所望の厚さの膜を形成できること、かつ形成した膜内に気泡が生じないことなどをも考慮して定められるべきである。
【0037】
次に、減圧雰囲気スクリーン印刷法により、第1の有機緩衝層191上に、上記と同様の有機緩衝層材料を印刷し、窒素ガスで大気圧まで加圧した後60〜100℃の範囲で加熱して完全硬化させることにより、第2の有機緩衝層192を形成する。第2の有機緩衝層192の形成時の形成時に印刷する有機緩衝層材料が接するのは、陰極保護層18ではなく、第1の有機緩衝層191であるから、ヌレ性が比較的に高く、第1の有機緩衝層191の形成に用いた有機緩衝層材料と同一の材料を用いると、θ1<θ2とすることができない。そこで、本実施の形態では、第1の有機緩衝層191の形成に用いた有機緩衝層材料とは粘度および組成の少なくとも一方が僅かに異なる材料を用いて第2の有機緩衝層192を形成するようにしている。
【0038】
次に、再び減圧雰囲気にして、酸素プラズマ処理を行い、ECRスパッタ法やイオンプレーティング法などの高密度プラズマ成膜法により、第1の有機緩衝層191および第2の有機緩衝層192の終端部まで完全に覆うようなより広い範囲でガスバリア層20を形成する。酸素プラズマ処理を行うのは、第2の有機緩衝層192とガスバリア層20との密着性を向上させるためである。次に、無機絶縁層12、陰極保護層18およびガスバリア層20を覆うように光透過性に優れた樹脂接着剤を塗布し、この樹脂接着剤に表面保護基板22の下面全面を接触させ、この樹脂接着剤を硬化させて接着層21を形成する。なお、樹脂接着剤に代えて液状の接着剤を用いるようにしてもよいし、予めシート状に形成された接着剤を第2のガスバリア層12と表面保護基板22とで挟んで圧迫することにより接着する両者を接着するようにしてもよい。
【0039】
<A3:効果>
本実施の形態に係る有機ELパネルでは、有機緩衝層が2層構成であるため、各有機緩衝層の厚さは、一層構成の場合の有機緩衝層よりも薄くなる。したがって、各有機緩衝層の終端部の角度は、一層構成の場合の有機緩衝層の終端部の角度よりも小さくなる。具体的には、広くて下の第1の有機緩衝層191の第1の外端部分191cの角度は20度以下となっている。また、狭くて上の第2の有機緩衝層192に重なる主基板10上の領域が、広くて下の第1の有機緩衝層191に重なる主基板10上の領域に含まれており、第1の定常部分191bには第2の定常部分192bおよび第2の外端部分192cが重なっている。したがって、ガスバリア層20の立ち上がり部分では、ガスバリア層20の立ち上がる角度が緩やかに増していくことになる。よって、ガスバリア層20は、割れたり剥離したりし難いものとなる。したがって、本実施の形態に係る有機ELパネルによれば、割れたり剥離したりし難いガスバリア層20で複数の有機EL素子P1を十分に封止することができる。
【0040】
また、この有機ELパネルによれば、狭くて上にある方の第2の有機緩衝層192が厚く、広くて下にある方の第1の有機緩衝層191が薄くなっている。したがって、複数の有機EL素子P1の封止性を向上させるために第1の有機緩衝層191および第2の有機緩衝層192の総厚を十分に厚くしても、ガスバリア層20の立ち上がる角度は薄い方の第1の有機緩衝層191の第1の外端部191cの角度と一致する。また、第1の定常部分191bに第2の定常部分192bおよび第2の外端部分192cが重なっているため、ガスバリア層20は、その立ち上がりにおいて、第1の外端部191cに沿ってから第2の外端部分192cに沿うことになる。したがって、狭くて上にある方の第2の有機緩衝層192が厚くて第2の外端部分192cの角度が大きくても、ガスバリア層20は徐々に立ち上がることになる。以上より、ガスバリア層20が緩やかに立ち上がるようにしつつ、複数の有機EL素子P1に重なる第1の有機緩衝層191および第2の有機緩衝層192の総厚を十分に厚くすることができる。
【0041】
有機EL素子の封止の方法として、キャップ状の封止基板を用いる方法が知られている。一方、有機ELパネルには、大型化、薄型化および軽量化の要請がある。これらの要請に応えようとする場合、キャップ状の封止基板を用いる方法では、周辺を接着剤によって主基板と保持するため、外部応力に対して十分な強度を有機ELパネルに持たせるのが難しくなる。これに対して、本実施の形態に係る有機ELパネルでは、いわゆる薄膜封止により複数の有機EL素子P1上に広い接着面積で接触して封止しており、、パネルとしての強度は非常に高く、かつガスバリア層が割れたり剥離したり難く、かつ複数の有機EL素子P1の封止性も十分に高い。したがって、この有機ELパネルによれば、大型化、薄型化および軽量化の要請に応えることができる。また、有機ELパネルが大型化すると、有機EL素子と主基板との間のTFTや配線が多くなり、有機発光層からの光が主基板側から出射されるボトムエミッションタイプでは、画素の開口率が小さくなり発光効率が低下する虞がある。しかし、この有機ELパネルはトップエミッションタイプであるから、そのような虞がない。
【0042】
有機ELパネルの製造において、ゴミ等の異物や水分の付着を防ぐには、1Pa以下の高真空下で作業を行うのが望ましい。しかし、有機緩衝層材料は液状であるから、有機緩衝層を高真空下で形成するのは困難である。そこで、本実施の形態では、100〜5000Paの減圧雰囲気下にてスクリーン印刷法を用い、減圧雰囲気下で有機緩衝層を形成するようにしている。これは、塗布時に発生する気泡の除去と異物を被覆することで、ガスバリア層のピンホール除去に寄与する。また、ガスバリア層は高密度プラズマ成膜法により0.1〜10Paの高真空下でかつ低温下で形成される。したがって、ガスバリア層の形成過程で複数の有機EL素子にダメージを与えずに済む。また、上述した製造手順から明らかなように、この有機ELパネルの封止の工程は、クリーンルームであっても付着を避けられない微細な異物の影響を受け難い工程となっている。これは、有機発光層の形成を始めてしまうと封止の工程を終えるまでは洗浄処理を行うことが難しいという実情に鑑みれば、極めて有利な特徴である。
【0043】
<B:第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態に係る有機ELパネルは、有機緩衝層の構成を除いて第1の実施の形態に係る有機ELパネルと同様である。
図3はこの有機ELパネルの断面図であり、図4は、その一部Bを拡大して示す断面図である。この有機ELパネルにおいて、陰極保護層18上には、複数の有機EL素子P1の全部に重なるように第1の有機緩衝層193が形成されている。第1の有機緩衝層193上には、第1の有機緩衝層193領域を覆うように第2の有機緩衝層194が形成されている。陰極保護層18、第1の有機緩衝層193および第2の有機緩衝層194上には、両有機緩衝層領域の全てを被覆するような広い範囲でガスバリア層20が形成されている。
【0044】
第1の有機緩衝層193および第2の有機緩衝層194は、ガスバリア層20の平坦性および密着性の向上と、ガスバリア層20に生じる応力の緩衝とを目的として設けられている。両有機緩衝層は、前述の有機緩衝層材料を減圧雰囲気下で塗布し硬化させて形成されており、互いに密着している。第1の有機緩衝層193に重なる主基板10上の領域は、第2の有機緩衝層194に重なる主基板10上の領域に含まれている。
【0045】
第1の有機緩衝層193は、複数の有機EL素子P1の全てに重なる第1の被覆部分193aと、第1の被覆部分193aを囲む定常の厚さの第1の定常部分193bと、第1の定常部分193bを囲んで終端部に向かって徐々に薄くなる第1の外端部分193cとを有する。第1の有機緩衝層193は液体を塗布して形成されるものであるから、第1の有機緩衝層193の最外端において第1の外端部分193cの上面と主基板10の上面とがなす角(θ3)は、第1の定常部分193bの厚さに応じたものとなる。
【0046】
一方、第2の有機緩衝層194は、複数の有機EL素子P1の全てに重なる第1の被覆部分194aと、第2の被覆部分194aを囲む定常の厚さの第2の定常部分194bと、第2の定常部分194bを囲んで終端部に向かって徐々に薄くなる第2の外端部分194cとを有する。第1の有機緩衝層193は液体を塗布して形成されるものであり、この塗布は、第2の被覆部分194aの上面が平坦となるように行われる。
【0047】
本実施の形態では、第2の有機緩衝層194の終端部において第2の外端部分194cが立ち上がる角(θ4)が20度以下となるように、第2の定常部分194bの厚さの上限が定められている。これを満たすように第2の有機緩衝層194が形成されたときに第2の被覆部分194aの上面が平坦となるように、第1の定常部分193bの厚さ、すなわち第1の有機緩衝層193が立ち上がる角(θ3)が定められている。本実施の形態では、θ3≒θ4となっている。また、第1の有機緩衝層193の厚さは、画素隔壁の高さや、カラーフィルタ機能などを有する表面保護基板22の上面に効率よく光を透過させるように、表面保護基板22の側面や後述の接着層21の側面に逃げる光の割合をも考慮して定められる。
【0048】
本実施の形態に係る有機ELパネルでは、有機緩衝層が2層構成であり、狭くて下の第1の有機緩衝層193に重なる主基板10上の領域が、広くて上の第2の有機緩衝層194に重なる主基板10上の領域に含まれている。また、狭くて下にある方の第1の有機緩衝層193が厚く、広くて上にある方の第2の有機緩衝層194が薄くなっている。また、第2の定常部分194bに第1の定常部分193bおよび第1の外端部193cが重なっている。以上より、本実施の形態に係る有機ELパネルによれば、第1の実施の形態に係る有機ELパネルにより得られる効果と同様の効果が得られる。
【0049】
上述した第1および第2の実施の形態に係る有機ELパネルでは、ガスバリア層が割れたり剥離したりし難いため、結果として、良好に発光し続けることが可能な時間が長くなる。このことを裏付けるために実験を行った。この実験は、上述した第1および第2の実施の形態に係る有機ELパネルや他の有機ELパネルを、気温60℃、RH(相対湿度)90%の雰囲気下で600時間連続して暴露し、暴露後の発光状態を調べる、というものである。この実験に用いた有機ELパネルは、平均段差3μmの画素隔壁を持ち、いずれも、エポキシ樹脂から形成された有機緩衝層を有し、珪素酸窒化物から形成されたガスバリア層(厚さ500nm)を有する。
【0050】
実験の結果、有機緩衝層として、定常部の厚さが20μmの有機緩衝層を1つしか持たない有機ELパネル(有機緩衝層の最外端において有機緩衝層の上面と主基板の上面とがなす角が20〜25度)では、複数の有機EL素子のうち、周辺部(有機緩衝層のテーパ部分の周囲)のものが発光不良となった。また、定常部の厚さが10μmの有機緩衝層を2つ持ち、下層のガスバリアに重なる主基板上の領域と上層のガスバリア層に重なる主基板上の領域とが完全に一致する有機ELパネル(有機緩衝層の最外端において有機緩衝層の上面と主基板の上面とがなす角が25〜30度)では、複数の有機EL素子のうち、周辺部のものが発光不良となった。両パネルで周辺部の有機EL素子が発光不良となったのは、有機緩衝層のテーパ部分の周囲のガスバリア層が割れたり剥離したりして水分が浸入したためである。
【0051】
これらに対し、第2の実施の形態に係る有機ELパネルのように、厚さが10μmの有機緩衝層を2つ持ち、主基板に近い側の有機緩衝層に重なる主基板上の領域が、主基板から遠い側の有機緩衝層に重なる主基板上の領域に含まれる有機ELパネル(広い方の有機緩衝層の最外端において有機緩衝層の上面と主基板の上面とがなす角が10〜15度)では、複数の有機EL素子の全てが良好に発光可能であった。
【0052】
また、第1の実施の形態に係る有機ELパネルのように、厚さが5μmの有機緩衝層と、厚さが10μmの有機緩衝層とを持ち、後者に重なる主基板上の領域が前者に重なる主基板上の領域に含まれる有機ELパネル(前者の最外端において前者の上面と主基板の上面とがなす角が5〜10度)では、複数の有機EL素子の全てが良好に発光可能であった。さらに、この有機ELパネルにおいて後者(狭い方)の厚さを20μmとした有機ELパネル(前者の最外端において前者の上面と主基板の上面とがなす角が5〜10度)でも、複数の有機EL素子の全てが良好に発光可能であった。
【0053】
<C:第3の実施の形態>
本発明の第3の実施の形態に係る有機ELパネルの有機緩衝層の構成は、第2の実施の形態における有機緩衝層の構成と同様である。ただし、本実施の形態に係る有機ELパネルは、後述の低分子系有機EL材料を用いるフルカラーパネルであり、白色光を発する有機EL素子およびカラーフィルタを用いて、フルカラーの表示を可能としている。
【0054】
<C1:構成>
図5はこの有機ELパネルの断面図であり、図6は、その一部Cを拡大して示す断面図である。この有機ELパネルは平板状の主基板30を備える。主基板30は、ガラスまたはプラスチックから形成され、その上面には複数の有機EL素子P2が形成されている。有機EL素子P2は、白色光を発する素子であり、後述の低分子系有機EL材料を用いて形成された有機発光層37を有し、電気エネルギの供給を受けて有機発光層37(詳しくは有機発光層37内の発光層)を発光させる。
【0055】
主基板30上には、複数の有機EL素子P2ごとに対応する複数のTFT31および各種の配線(図示略)が形成されている。TFT31は、第2の実施の形態におけるTFT11と同様に、自己に対応する有機EL素子P2を駆動する。また、主基板30上には、複数のTFT31を覆うように、無機絶縁層32が形成されている。無機絶縁層32は、複数のTFT31および各種の配線を絶縁するものであり、例えば珪素窒化物から形成されている。
【0056】
配線やTFTによる段差を無くす平坦化層33上には、平坦化層33の凹部から立ち上がる画素隔壁絶縁層36が、例えばポリイミドやアクリル樹脂などの有機化合物から形成されている。画素隔壁絶縁層36の上端は平坦化層33の凸部よりも高い位置にあり、平坦化層33および画素隔壁絶縁層36は凹部を画定している。平坦化層33内には、有機EL素子P2から陽極35を通ってきた光を反射する金属反射層34が光反射性の金属から形成されている。この凹部の底部の金属反射層34上には、腐食を防ぐための無機絶縁層34が設けられ、さらに仕事関数の高いITOからなる陽極35が占めている。
【0057】
有機EL素子P2は、有機発光層37を挟む陽極35および共通陰極層38を有する。陽極35および共通陰極層38は、有機発光層37に正孔および電子を注入するための電極として機能する。陽極35は、平坦化層33上に例えば薄いアルミニウムなどの金属やITOから形成された透光性の電極であり、平坦化層33と画素隔壁絶縁層36との隙間を通って対応するTFT31に接続されている。共通陰極層38は、有機発光層37および画素隔壁絶縁層36上に形成されて複数の有機EL素子P2に共通の電極として機能する層であり、例えば、有機発光層37へ電子を注入し易くするための電子注入バッファー層と、電子注入層上に透明なITO層または非画素領域にパターン形成するアルミニウム層などから形成された電気抵抗の低い層とを有する。電子注入バッファー層は、例えばフッ化リチウムやマグネシウム−銀合金から形成されている。
【0058】
有機発光層37は、第2の実施の形態における有機発光層16に相当する。前者が後者と異なるのは、複数の有機発光層37に共通している点と、発光層が低分子系有機EL材料から形成されている点である。低分子系有機EL材料は、正孔と電子との再結合により励起して発光する有機化合物のうち、分子量が比較的に低いものである。例えば、スチリルアミン系のホストにアントラセン系のドーパントを色素ドーピングしたものや、スチリルアミン系のホストにルブレン系のドーパントを色素ドーピングしたものが挙げられる。有機発光層37に、発光層における再結合に寄与する他の層が含まれる場合、他の層の材料は、この層に接する層の材料に応じた物質となっている。例えば、正孔注入層の材料としてはトリアリールアミン(ATP)多量体が挙げられ、正孔輸送層の材料としてはTPD(トリフェニルジアミン)系化合物が挙げられ、電子注入層の材料としてはアルミニウムキノリノール錯体が挙げられる。
【0059】
無機絶縁層32および共通陰極層38上には、共通陰極層38および平坦化層33を覆うように陰極保護層39が形成されている。陰極保護層39上には、複数の有機EL素子P2及び画素隔壁絶縁層36、平坦化層33の全部に重なるように第1の有機緩衝層195が形成されている。陰極保護層39および第1の有機緩衝層195上には、第1の有機緩衝層195を覆うように第2の有機緩衝層196が形成されている。陰極保護層39および第2の有機緩衝層196上には、第2の有機緩衝層196を覆うようにガスバリア層20が形成されている。
【0060】
陰極保護層39、第1の有機緩衝層195および第2の有機緩衝層196は、第2の実施の形態における陰極保護層18、第1の有機緩衝層193および第2の有機緩衝層194に相当する。したがって、第1の有機緩衝層195は、複数の有機EL素子P2の全てに重なる第1の被覆部分195aと、第1の被覆部分195aを囲む定常の厚さの第1の定常部分195bと、第1の定常部分195bを囲んで終端部に向かって徐々に薄くなる第1の外端部分195cとを有する。一方、第2の有機緩衝層196は、複数の有機EL素子P2の全てに重なる第2の被覆部分196aと、第2の被覆部分196aを囲む定常の厚さの第2の定常部分196bと、第6の定常部196bを囲んで終端部に向かって徐々に薄くなる第2の外端部分196cとを有する。
【0061】
本実施の形態では、第2の有機緩衝層196の終端部において第2の外端部分196cが立ち上がる角(θ6)が20度以下となるように、第2の定常部分196bの厚さの上限が定められている。また、これを満たすように第2の有機緩衝層196が形成されたときに第2の被覆部分196aの上面が平坦となるように、第1の定常部分195bの厚さ、すなわち第1の有機緩衝層195が立ち上がる角(θ5)が定められている。本実施の形態においても、θ5≒θ6である。また、第1の有機緩衝層195の厚さは、画素隔壁の段差に対する被覆性や、カラーフィルタ基板42の下面に到達せずに後述の接着層21の側面に逃げる光の割合をも考慮して定められる。
【0062】
主基板30上には、無機絶縁層32、陰極保護層39およびガスバリア層20を覆うように、接着層21が形成されている。接着層21上には、接着層21の全部に重ねてカラーフィルタ基板42が固定されている。カラーフィルタ基板42の下面全面は接着層41に接している。カラーフィルタ基板42は、有機EL素子P2からの光から赤色光、緑色光および青色光を取り出すためのものであり、光透過性の低いブラックマトリックス層43と、この層に形成された開口を塞ぐフィルタ層44とを有する。ブラックマトリックス層43には複数の開口があり、フィルタ層44には、赤色光だけを通過させるもの、緑色光だけを通過させるもの、および青色光だけを通過させるもの3種類がある。各フィルタ層44は有機EL素子P2に重なっており、重なっている有機EL素子P2からの光の赤色光成分、緑色光成分または青色光成分を透過させる。カラーフィルタ基板42は、ガスバリア層の保護をも目的としており、ブラックマトリックス層43およびフィルタ層44以外の部分は、ガラスまたは光透過性に優れたプラスチックから形成されている。このようなプラスチックとしては、ポリエチレンテレフタレートやアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリオレフィンなどがある。カラーフィルタ基板42には、紫外線を遮断/吸収する機能、外光の反射を防止する機能、フィンにより放熱する機能などを持たせてもよい。
【0063】
<C2:製造手順>
本実施の形態に係る有機ELパネルを製造するには、まず、主基板30上にTFT31および各種の配線と無機絶縁層32を形成する。次に、無機絶縁層32上に平坦化層33および金属反射層34を形成する。次に、金属反射層34の腐食を防ぐため表面及びその周辺部を無機絶縁層で被覆した後、複数の陽極35を形成する。これにより、TFT31と陽極35とが1対1で接続される。陽極35の形成方法としては、陽極35の材料に適した公知の方法を採用可能である。次に、陽極35の一部と平坦化層33との上に、例えばポリイミドをパターン形成して画素隔壁絶縁層36を形成する。次に、主基板30上から有機物系の異物の除去や仕事関数を上げるために、プラズマ洗浄などの洗浄処理を行う。
【0064】
次に、露出している陽極35上に、複数の有機EL素子P2に共通の有機発光層37の残りの層を形成する。この形成では、発光層が低分子系有機EL材料で成膜される。有機発光層37の形成方法は、加熱ボートを用いた真空蒸着法である。これは、有機発光層37が発光層のみからなる場合であっても、複数の層からなる場合であっても同様である。有機発光層37が複数の層からなる場合には、各層を順に成膜することになる。
【0065】
次に、複数の有機EL素子P2に共通の電極、すなわち共通陰極層38を形成する。次に、酸素プラズマ処理を行う。次に、共通陰極層38を覆うように陰極保護層39を形成する。次に、減圧雰囲気スクリーン印刷法により、陰極保護層39上に第1の有機緩衝層195を形成し、次いで第2の有機緩衝層196を形成する。次に、酸素プラズマ処理を行い、第2の有機緩衝層196を覆うようにガスバリア層20を形成する。
【0066】
次に、無機絶縁層32、陰極保護層39およびガスバリア層20を覆うように光透過性に優れた樹脂接着剤を塗布し、この樹脂接着剤にカラーフィルタ基板42の下面全面を接触させ、この樹脂接着剤を硬化させて接着層21を形成する。この硬化は、カラーフィルタ基板42の複数のフィルタ44と複数の有機EL素子P2とが1対1で重なる位置で行われる。カラーフィルタ基板42の接着のバリエーションとしては、第1の実施の形態における表面保護基板22の接着のバリエーションと同様のものがある。
【0067】
<C3:効果>
本実施の形態に係る有機ELパネルでは、有機緩衝層が2層構成であり、狭くて下の第1の有機緩衝層195に重なる主基板30上の領域が、広くて上の第2の有機緩衝層196に重なる主基板30上の領域に含まれている。また、狭くて下にある方の第1の有機緩衝層195が厚く、広くて上にある方の第2の有機緩衝層196が薄くなっている。また、第2の定常部分196bに第1の定常部分195bおよび第1の外端部195cが重なっている。以上より、本実施の形態に係る有機ELパネルによれば、第2の実施の形態に係る有機ELパネルにより得られる効果と同様の効果が得られる。
【0068】
<D:第4の実施の形態>
図7は本発明の第4の実施の形態に係る有機ELパネルの断面図であり、図8は、その一部Dを拡大して示す断面図である。これらの図から明らかなように、この有機ELパネルは、ガスバリア層の構成を除いて第1の実施の形態に係る有機ELパネルと同様である。
【0069】
本実施の形態に係る有機ELパネルは、ガスバリア層として、第1のガスバリア層201と第2のガスバリア層202を備える。第1のガスバリア層201は、陰極保護層18、第1の有機緩衝層191および第2の有機緩衝層192上に形成され、有機緩衝層191および第2の有機緩衝層192に密着し、これらを覆っている。第2のガスバリア層202は、第1のガスバリア層201上に形成され、複数の有機EL素子P1領域を被覆しつつ、第1の有機緩衝層191の終端部が露出するように狭い範囲で形成される。両ガスバリア層は第1の実施の形態におけるガスバリア層20と同一の材料から形成され、相互に密着している。
【0070】
第1のガスバリア層201は、第1の有機緩衝層191、第2の有機緩衝層192および複数の有機EL素子P1の封止性の向上に寄与する。第1のガスバリア層201の厚さは200nm〜400nmである。この範囲の下限は、有機緩衝層の側面やその近傍における封止性が不足しないように定められている。第2のガスバリア層202は複数の有機EL素子P1の封止性の向上に寄与する。第2のガスバリア層202の厚さは、200nm〜800nmである。また、本実施の形態では、第1のガスバリア層201の厚さと第2のガスバリア層202の厚さの和、すなわちガスバリア層の総厚が1000nm未満となるように、両層の厚さが制限されている。この制限は、複数の有機EL素子P1の封止性の度合い、ガスバリア層にクラックが生じたりガスバリア層が剥離したりする可能性、および製造コストを勘案して定められている。
【0071】
本実施の形態に係る有機ELパネルによれば、第1の実施の形態に係る有機ELパネルにより得られる効果と同様の効果が得られる。ところで、封止性を向上させるためにはガスバリア層を厚くする必要があるが、ガスバリア層を一様に厚くすると、ガスバリア層の平坦でない部分への応力集中が著しくなってしまう。これに対し、本実施の形態によれば、ガスバリア層として第1のガスバリア層201および第2のガスバリア層202を備えることにより、複数の有機EL素子P1の全部に重なるガスバリア層の総厚を十分に厚くしつつ、ガスバリア層が立ち上がる第1の有機緩衝層191の終端部においてガスバリア層を薄くすることができる。したがって、複数の有機EL素子P1の封止性を向上させつつ、ガスバリア層の割れ難さおよび剥離し難さを維持することができる。
【0072】
<E:第5の実施の形態>
図9は本発明の第5の実施の形態に係る有機ELパネルの断面図であり、図10は、その一部Eを拡大して示す断面図である。これらの図から明らかなように、この有機ELパネルは、ガスバリア層の構成を除いて第2の実施の形態に係る有機ELパネルと同様である。本実施の形態に係る有機ELパネルは、第4の実施の形態における第1のガスバリア層201および第2のガスバリア層202に相当する、第1のガスバリア層203および第2のガスバリア層204を備える。
【0073】
本実施の形態に係る有機ELパネルによれば、第2の実施の形態に係る有機ELパネルにより得られる効果と同様の効果が得られる。さらに、ガスバリア層として第1のガスバリア層203および第2のガスバリア層204を備えることにより、複数の有機EL素子P1の封止性を向上させつつ、ガスバリア層の割れ難さおよび剥離し難さを維持することができる。
【0074】
<F:第6の実施の形態>
図11は本発明の第6の実施の形態に係る有機ELパネルの断面図であり、図12は、その一部Fを拡大して示す断面図である。これらの図から明らかなように、この有機ELパネルは、ガスバリア層の構成を除いて第3の実施の形態に係る有機ELパネルと同様である。本実施の形態に係る有機ELパネルは、第5の実施の形態における第1のガスバリア層203および第2のガスバリア層204に相当する、第1のガスバリア層205および第2のガスバリア層206を備える。
【0075】
本実施の形態に係る有機ELパネルによれば、第3の実施の形態に係る有機ELパネルにより得られる効果と同様の効果が得られる。さらに、ガスバリア層として第1のガスバリア層205および第2のガスバリア層206を備えることにより、複数の有機EL素子P2の封止性を向上させつつ、ガスバリア層の割れ難さおよび剥離し難さを維持することができる。
【0076】
<G:変形例>
上述した実施の形態を変形し、有機緩衝層の数を3つ以上としてもよい。ただし、これらの有機緩衝層には、一方の有機緩衝層に重なる主基板上の領域と他方の有機緩衝層に重なる主基板の領域とが完全には一致せずに重なるような2つの有機緩衝層が含まれていなければならない。これはガスバリア層についても同様である。なお、上述した第4〜第6の実施の形態を変形し、主基板に近い方の第1のガスバリア層を主基板から遠い方の第2のガスバリア層が覆うように構成してもよい。
【0077】
上述した実施の形態を変形し、単色光を発するパネルとしてもよいし、色変換層を有するフルカラーパネルとしてもよい。また、ボトムエミッションタイプのパネルとしてもよい。この場合、高い光透過性が要求されるのは発光層の下方の層に限られる。したがって、共通陰極層が発光層の上方に位置する場合には、共通陰極層を例えば低電気抵抗のアルミニウムなどの金属材料を厚くかつ全面に形成することも可能である。
【0078】
<H:電子機器>
上述した有機ELパネルは様々な電子機器に適用可能である。上述した有機ELパネルを適用した電子機器として、ここでは、画像表示装置および画像印刷装置を例示する。
<H1:画像表示装置>
上述した有機ELパネルを備えた画像表示装置は、有機ELパネルに電気エネルギおよび制御信号を供給するための配線と、外部の装置から与えられた画像データに応じた光像を有機ELパネルに形成させるための制御信号を生成する回路を備える。このような画像表示装置は様々な形態を採りうるが、ここでは、2つの例を挙げて説明する。
【0079】
図13に、上述した有機ELパネルを表示部31として用いたパーソナルコンピュータの構成を示す。パーソナルコンピュータ30は、表示ユニットとしての表示部31と本体部32を備える。本体部32には、電源スイッチ33及びキーボード34が設けられている。パーソナルコンピュータ30によれば、上述した有機ELパネルを表示部31として用いているから、表示部31の大型化、薄型化および軽量化の要請に応えることができる。また、有機ELパネルの発光品質が劣化し難いため、長期にわたる品質の維持が容易となる。
【0080】
図14に、上述した有機ELパネルを表示部41として用いた携帯電話機の構成を示す。携帯電話機40は、複数の操作ボタン42及びスクロールボタン43、並びに表示ユニットとしての表示部41を備える。スクロールボタン43を操作することによって、表示部41に表示される画面がスクロールされる。携帯電話機40によれば、有機ELパネルを表示部41として用いているから、表示部41の薄型化および軽量化の要請に応えることができる。また、有機ELパネルの発光品質が劣化し難いため、長期にわたる品質の維持が容易となる。
【0081】
<H2:画像印刷装置>
次に、上述した有機ELパネルを用いた画像印刷装置について説明する。この種の画像印刷装置の例としては、プリンタ、複写機の印刷部分およびファクシミリの印刷部分がある。このように、上述した有機ELパネルを用いた画像印刷装置は様々な形態を採りうるが、ここでは、電子写真方式のフルカラー画像印刷装置について2つの例を挙げて説明する。
【0082】
図15は、上述した有機ELパネルをライン型の露光ヘッドとして用いた画像印刷装置の一例を示す縦断面図である。この画像印刷装置は、ベルト中間転写体方式を利用したタンデム型のフルカラー画像印刷装置である。この画像印刷装置では、同様な構成の4個の露光ヘッド10K,10C,10M,10Yが、同様な構成である4個の感光体ドラム(像担持体)110K,110C,110M,110Yの露光位置にそれぞれ配置されている。
【0083】
この図に示すように、この画像印刷装置には、駆動ローラ121と従動ローラ122が設けられており、これらのローラ121,122には無端の中間転写ベルト120が巻回されて、矢印に示すようにローラ121,122の周囲を回転させられる。図示しないが、中間転写ベルト120に張力を与えるテンションローラなどの張力付与手段を設けてもよい。
【0084】
この中間転写ベルト120の周囲には、互いに所定間隔をおいて4個の外周面に感光層を有する感光体ドラム110K,110C,110M,110Yが配置される。添え字K,C,M,Yはそれぞれ黒、シアン、マゼンタ、イエローの顕像を形成するために使用されることを意味している。他の部材についても同様である。感光体ドラム110K,110C,110M,110Yは、中間転写ベルト120の駆動と同期して回転駆動される。
【0085】
各感光体ドラム110(K,C,M,Y)の周囲には、コロナ帯電器111(K,C,M,Y)と、露光ヘッド10(K,C,M,Y)と、現像器114(K,C,M,Y)が配置されている。コロナ帯電器111(K,C,M,Y)は、対応する感光体ドラム110(K,C,M,Y)の外周面を一様に帯電させる。露光ヘッド10(K,C,M,Y)は、感光体ドラムの帯電させられた外周面に静電潜像を書き込む。各露光ヘッド10(K,C,M,Y)は、複数の有機EL素子の配列方向が感光体ドラム110(K,C,M,Y)の母線(主走査方向)に沿うように設置される。静電潜像の書き込みは、上記の複数の有機EL素子により光を感光体ドラムに照射することにより行う。現像器114(K,C,M,Y)は、静電潜像に現像剤としてのトナーを付着させることにより感光体ドラムに顕像すなわち可視像を形成する。
【0086】
このような4色の単色顕像形成ステーションにより形成された黒、シアン、マゼンタ、イエローの各顕像は、中間転写ベルト120上に順次一次転写されることにより、中間転写ベルト120上で重ね合わされて、この結果フルカラーの顕像が得られる。中間転写ベルト120の内側には、4つの一次転写コロトロン(転写器)112(K,C,M,Y)が配置されている。一次転写コロトロン112(K,C,M,Y)は、感光体ドラム110(K,C,M,Y)の近傍にそれぞれ配置されており、感光体ドラム110(K,C,M,Y)から顕像を静電的に吸引することにより、感光体ドラムと一次転写コロトロンの間を通過する中間転写ベルト120に顕像を転写する。
【0087】
最終的に画像を形成する対象としてのシート102は、ピックアップローラ103によって、給紙カセット101から1枚ずつ給送されて、駆動ローラ121に接した中間転写ベルト120と二次転写ローラ126の間のニップに送られる。中間転写ベルト120上のフルカラーの顕像は、二次転写ローラ126によってシート102の片面に一括して二次転写され、定着部である定着ローラ対127を通ることでシート102上に定着される。この後、シート102は、排紙ローラ対128によって、装置上部に形成された排紙カセット上へ排出される。
上述した画像印刷装置によれば、上述した有機ELパネルを露光ヘッド10(K,C,M,Y)として用いているから、露光ヘッドの小型化の要請に応えることができる。また、有機ELパネルの発光品質が劣化し難いため、長期にわたる品質の維持が容易となる。
【0088】
図16は、上述した有機ELパネルをライン型の露光ヘッドとして用いた他の画像印刷装置の一例を示す縦断面図である。この画像印刷装置は、ベルト中間転写体方式を利用したロータリ現像式のフルカラー画像印刷装置である。
【0089】
この図に示す画像印刷装置において、感光体ドラム(像担持体)165の周囲には、コロナ帯電器168、ロータリ式の現像ユニット161、露光ヘッド167、中間転写ベルト169が設けられている。
【0090】
コロナ帯電器168は、感光体ドラム165の外周面を一様に帯電させる。露光ヘッド167は、感光体ドラム165の帯電させられた外周面に静電潜像を書き込む。露光ヘッド167は、上述した有機ELパネルであり、複数の有機EL素子の配列方向が感光体ドラム165の母線(主走査方向)に沿うように設置される。静電潜像の書き込みは、上記の複数の有機EL素子により光を感光体ドラムに照射することにより行う。
【0091】
現像ユニット161は、4つの現像器163Y,163C,163M,163Kが90°の角間隔をおいて配置されたドラムであり、軸161aを中心にして反時計回りに回転可能である。現像器163Y,163C,163M,163Kは、それぞれイエロー、シアン、マゼンタ、黒のトナーを感光体ドラム165に供給して、静電潜像に現像剤としてのトナーを付着させることにより感光体ドラム165に顕像すなわち可視像を形成する。
【0092】
無端の中間転写ベルト169は、駆動ローラ170a、従動ローラ170b、一次転写ローラ166およびテンションローラに巻回されて、これらのローラの周囲を矢印に示す向きに回転させられる。一次転写ローラ166は、感光体ドラム165から顕像を静電的に吸引することにより、感光体ドラムと一次転写ローラ166の間を通過する中間転写ベルト169に顕像を転写する。
【0093】
具体的には、感光体ドラム165の最初の1回転で、露光ヘッド167によりイエロー(Y)像のための静電潜像が書き込まれて現像器163Yにより同色の顕像が形成され、さらに中間転写ベルト169に転写される。また、次の1回転で、露光ヘッド167によりシアン(C)像のための静電潜像が書き込まれて現像器163Cにより同色の顕像が形成され、イエローの顕像に重なり合うように中間転写ベルト169に転写される。そして、このようにして感光体ドラム9が4回転する間に、イエロー、シアン、マゼンタ、黒の顕像が中間転写ベルト169に順次重ね合わせられ、この結果フルカラーの顕像が転写ベルト169上に形成される。最終的に画像を形成する対象としてのシートの両面に画像を形成する場合には、中間転写ベルト169に表面と裏面の同色の顕像を転写し、次に中間転写ベルト169に表面と裏面の次の色の顕像を転写する形式で、フルカラーの顕像を中間転写ベルト169上で得る。
【0094】
画像印刷装置には、シートが通過させられるシート搬送路174が設けられている。シートは、給紙カセット178から、ピックアップローラ179によって1枚ずつ取り出され、搬送ローラによってシート搬送路174を進行させられ、駆動ローラ170aに接した中間転写ベルト169と二次転写ローラ171の間のニップを通過する。二次転写ローラ171は、中間転写ベルト169からフルカラーの顕像を一括して静電的に吸引することにより、シートの片面に顕像を転写する。二次転写ローラ171は、図示しないクラッチにより中間転写ベルト169に接近および離間させられるようになっている。そして、シートにフルカラーの顕像を転写する時に二次転写ローラ171は中間転写ベルト169に当接させられ、中間転写ベルト169に顕像を重ねている間は二次転写ローラ171から離される。
【0095】
上記のようにして画像が転写されたシートは定着器172に搬送され、定着器172の加熱ローラ172aと加圧ローラ172bの間を通過させられることにより、シート上の顕像が定着する。定着処理後のシートは、排紙ローラ対176に引き込まれて矢印Fの向きに進行する。両面印刷の場合には、シートの大部分が排紙ローラ対176を通過した後、排紙ローラ対176が逆方向に回転させられ、矢印Gで示すように両面印刷用搬送路175に導入される。そして、二次転写ローラ171により顕像がシートの他面に転写され、再度定着器172で定着処理が行われた後、排紙ローラ対176でシートが排出される。
上述した画像印刷装置によれば、上述した有機ELパネルを露光ヘッド167として用いているから、露光ヘッドの小型化の要請に応えることができる。また、有機ELパネルの発光品質が劣化し難いため、長期にわたる品質の維持が容易となる。
【0096】
以上、画像印刷装置を例示したが、本発明に係る有機EL装置は、他の電子写真方式の画像印刷装置にも応用可能である。例えば、中間転写ベルトを使用せずに感光体ドラムから直接シートに顕像を転写するタイプの画像印刷装置や、モノクロの画像を形成する画像印刷装置、像担持体として感光体ベルトを用いる画像印刷装置にも応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る有機ELパネルの断面図である。
【図2】同図の一部Aを拡大して示す断面図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る有機ELパネルの断面図である。
【図4】同図の一部Bを拡大して示す断面図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態に係る有機ELパネルの断面図である。
【図6】同図の一部Cを拡大して示す断面図である。
【図7】本発明の第4の実施の形態に係る有機ELパネルの断面図である。
【図8】同図の一部Dを拡大して示す断面図である。
【図9】本発明の第5の実施の形態に係る有機ELパネルの断面図である。
【図10】同図の一部Eを拡大して示す断面図である。
【図11】本発明の第6の実施の形態に係る有機ELパネルの断面図である。
【図12】同図の一部Fを拡大して示す断面図である。
【図13】本発明の実施の形態に係る有機ELパネルを用いたパーソナルコンピュータの外観を示す図である。
【図14】本発明の実施の形態に係る有機ELパネルを用いた携帯電話機の外観を示す図である。
【図15】本発明の実施の形態に係る有機ELパネルを用いた画像印刷装置の一例を示す縦断面図である。
【図16】本発明の実施の形態に係る有機ELパネルを用いた画像印刷装置の他の例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0098】
10,30……主基板(基板)、14,36……バンク、16,37……有機発光層、17,38……共通陰極層、18,39……陰極保護層、191,193,195……第1の有機緩衝層、192,194,196……第2の有機緩衝層、20……ガスバリア層、201,203,205……第1のガスバリア層、202,204,206……第2のガスバリア層、P1,P2……有機EL素子(発光素子)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に絶縁性の画素隔壁により分離された陽極と、有機発光層薄膜と陰極が順次積層された電界により励起して発光する複数の発光素子と、
有機化合物を塗布し固化させて形成され、前記複数の発光素子領域よりも広い範囲を覆う第1の有機緩衝層と、
有機化合物を塗布し固化させて形成され、前記基板との間に前記第1の有機緩衝層を挟み、前記複数の発光素子を覆う第2の有機緩衝層と、
無機化合物から形成され、前記第1の有機緩衝層および前記第2の有機緩衝層領域よりも広い範囲を覆い、前記複数の発光素子を外気から保護するガスバリア層とを備え、
前記第1の有機緩衝層に重なる前記基板上の領域と前記第2の有機緩衝層に重なる前記基板上の領域とが完全には一致しない、
ことを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記陰極と有機緩衝層の間に、無機化合物からなる陰極保護層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記第2の有機緩衝層の領域は、前記第1の有機緩衝層領域よりも広い範囲で被覆するように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項4】
前記第1の有機緩衝層は、前記複数の発光素子領域よりも広い範囲で被覆する定常の厚さの第1の定常部分と、前記第1の定常部分を囲んで終端部に向かって徐々に薄くなる第1の外端部分とを有し、
前記第2の有機緩衝層は、前記複数の発光素子領域よりも広い範囲で被覆する定常の厚さの第2の定常部分と、前記第2の定常部分を囲んで終端部に向かって徐々に薄くなる第2の外端部分とを有し、
前記第1の定常部分に前記第2の定常部分および前記第2の外端部分が重なっており、 前記第1の定常部分は前記第2の定常部分よりも薄い、
ことを特徴とする請求項3に記載の発光装置。
【請求項5】
前記第1の有機緩衝層の終端部において前記第1の有機緩衝層の上面と前記基板の上面とがなす角は20度以下である、
ことを特徴とする請求項3または4に記載の発光装置。
【請求項6】
前記第1の有機緩衝層の領域は、前記第2の有機緩衝層領域よりも広い範囲で被覆するように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項7】
前記第1の有機緩衝層は、前記複数の発光素子領域よりも広い範囲で被覆する定常の厚さの第1の定常部分と、前記第1の定常部分を囲んで終端部に向かって徐々に薄くなる第1の外端部分とを有し、
前記第2の有機緩衝層は、前記複数の発光素子領域よりも広い範囲で被覆する定常の厚さの第2の定常部分と、前記第2の定常部分を囲んで終端部に向かって徐々に薄くなる第2の外端部分とを有し、
前記第2の定常部分に前記第1の定常部分および前記第1の外端部分が重なっており、
前記第2の定常部分は前記第1の定常部分よりも薄い、
ことを特徴とする請求項6に記載の発光装置。
【請求項8】
前記第2の有機緩衝層の終端部において前記第2の有機緩衝層の上面と前記基板の上面とがなす角は20度以下である、
ことを特徴とする請求項6または7に記載の発光装置。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の発光装置を備える電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−141750(P2007−141750A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−336651(P2005−336651)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】