説明

発光装置および電子機器

【課題】 無機バンク層が配置された領域における光漏れの少ない発光装置を提供すること。
【解決手段】 発光装置としての有機EL装置1は、基板10上に形成された画素電極11と、画素電極11の外縁部に一部が重なった状態で形成された無機バンク層12と、無機バンク層12上に配置された有機バンク層13とを有する。画素電極11、無機バンク層12、有機バンク層13によって形作られる凹部には、正孔輸送層14および有機発光層15が配置されている。ここで、無機バンク層12は、酸化チタンおよび酸化ケイ素が交互に積層された誘電体多層膜からなる反射膜である。有機EL装置1は、有機発光層15の発光により発光部32において発光する。また、遮光部33においては有機発光層15からの光が無機バンク層12により遮光(反射)され、光漏れが少ない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光層を有する有機EL(Electro Luminescence)装置等を含む発光装置、および当該発光装置を搭載した電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
上記有機EL装置の一つに、基板上に形成されたバンク(隔壁)の間に、有機発光材料が溶解または分散された液滴を吐出する、いわゆる液滴吐出法によって製造されるものがある。図10(a)は、こうした方法により製造された有機EL装置の断面図であり、図10(b)は、この有機EL装置の発光部の形状を示した平面図である。
【0003】
この有機EL装置は、基板10上に陽極としての円形の画素電極11を有する。画素電極11の周りには、画素電極11を底部とする凹部を形作るように無機バンク層12eおよび有機バンク層13が形成されている。上記凹部には液滴吐出法によって形成された正孔輸送層14および有機発光層15が配置され、さらに有機発光層15と有機バンク層13を覆って金属の陰極16および封止部材17が形成されている。ここで、無機バンク層12eは親液性の酸化ケイ素からなり、上記液滴が凹部の底に濡れ広がるのを補助するとともに、陽極と陰極との短絡を防ぐ役割を果たす。この有機EL装置は、画素電極11および陰極16に挟まれた有機発光層15に電流を流すことにより有機発光層15を図10(b)の発光部32において発光させ、その光を図10(a)の下側から取り出す発光装置である。
【0004】
ここで、画素電極11と正孔輸送層14との間に無機バンク層12eが配置された領域においては、無機バンク層12eが絶縁体のため、本来的には電流が流れず、発光は行われない。この領域が、図10(b)の非発光部33eに相当する。ところが、正孔輸送層14の比抵抗が小さいと、上記領域にも電流が流れ、弱いながらも(発光部の輝度の約20%)発光が行われてしまうという問題があった。この光は、無機バンク層12eが透光性を有するために、当該無機バンク層12eおよび基板10を透過し、有機EL装置の外部に漏れてしまう。つまり、発光部32だけでなく非発光部33eまでが発光してしまう。有機EL装置を光書き込みヘッドに適用する場合において、非発光部33eが発光すると、描画の解像度が低下して画質が劣化する等の不具合が発生する。
【0005】
そこで、無機バンク層12eと有機バンク層13との間に、クロムおよび酸化クロム等の遮光層を配置する技術が特許文献1に開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−249376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、無機バンク層12eと上記遮光層を完全に重ねることは困難であり、両者がずれて配置された領域においては依然として光漏れが起きてしまうという問題点があった。また、上記遮光層は絶縁性が十分でなく、ショートやクロストークの原因になる場合もあった。
【0008】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、無機バンク層が配置された領域における光漏れの少ない発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の発光装置は、基板上に形成された画素電極と、前記基板上に形成された第1バンク層であって、前記基板の法線方向から見て、一部が前記画素電極の外縁部に重なった状態に配置された第1バンク層と、前記第1バンク層上に配置された第2バンク層と、前記画素電極、前記第1バンク層、前記第2バンク層によって形作られる凹部に配置された発光層とを備え、前記第1バンク層は反射膜であることを特徴とする。
【0010】
こうした構成によれば、画素電極の形成された領域のうち、第1バンク層が重ねられた領域においては、たとえ発光層が発光したとしても、その光は画素電極および基板を透過する前に第1バンク層によって反射されるため、光漏れが起きにくい。このように、第1バンク層自体を反射膜とすることにより、第1バンク層が配置された領域における光漏れの少ない発光装置が得られる。
【0011】
上記発光装置において、前記反射膜は、誘電体多層膜であることが好ましい。誘電体は絶縁性を有するので、上記構成によれば、絶縁体によって反射膜を形成することができる。これにより、第1バンク層に、反射膜としての効果とともに、画素電極と陰極との間の短絡を防ぐ効果を持たせることができる。また、誘電体多層膜を用いれば、膜の材質および厚さを適宜調節することにより、所望の波長において高い反射率を有する反射膜を形成することができる。
【0012】
上記発光装置において、前記誘電体多層膜は、酸化チタンの層および酸化ケイ素の層の積層体であることが好ましい。あるいは、前記誘電体多層膜は、窒化ケイ素の層および酸化ケイ素の層の積層体であることが好ましい。こうした、屈折率に差のある物質を交互に積層する構成によれば、反射率の高い誘電体多層膜を形成することができるので、第1バンク層が配置された領域における光漏れをより効率良く防ぐことができる。また、酸化チタンおよび酸化ケイ素は、親液性を有する。このため、これらの物質を第1バンク層の最表面とすることによって、上記凹部の底部に液滴吐出法により機能液を吐出する際に、当該機能液が凹部の底部に濡れ広がるのを補助することができる。
【0013】
上記発光装置において、前記誘電体多層膜は、3層ないし7層の積層体として形成されていることが好ましい。積層数が上記の範囲にあれば、第1バンク層が十分な反射率を有するとともに、当該第1バンク層の形成プロセスを必要最小限に抑えることができる。
【0014】
上記発光装置において、前記第1バンク層は、前記発光層の主発光波長の光に対する透過率が20%以下であり、前記主発光波長は、前記発光層の発光スペクトルにおいて発光強度が最大となる波長であることが好ましい。このように、発光強度の最も大きな波長における透過率が20%以下となる構成にすれば、第1バンク層は、発光層からの光を効率良く遮光することができる。特に、主発光波長近傍における第1バンク層の透過スペクトルの変化が発光層の発光スペクトルの変化に対してなだらかであれば、発光層からのほとんどの光に対する透過率が20%以下となり、より効率的に遮光することができる。このとき、上記光漏れの輝度が本来の発光部の輝度の20%であれば、第1バンク層によって当該光漏れの輝度を発光部の輝度の4%以下に抑えることができる。すなわち、光漏れの影響を無視できる程度にまで遮光することができる。
【0015】
上記発光装置において、前記第1バンク層は、550nm以上800nm以下の波長領域に含まれる光に対する透過率が20%以下であることが好ましい。こうした構成によれば、第1バンク層は、主発光波長が550nm以上800nm以下であるような発光層からの光を効率的に遮光することができる。
【0016】
上記発光装置において、前記発光層は、有機材料を主成分としてもよい。こうした構成によれば、例えば、第1バンク層が配置された領域における光漏れの少ない有機EL装置が得られる。
【0017】
本発明による発光装置は、画像形成装置を始めとする電子機器に用いられる。当該画像形成装置は、第1バンク層が配置された領域における光漏れの少ない発光装置が組み込まれた光書き込みヘッドモジュールにより、感光体ドラム上でボケのない高解像度の描画を行うことが可能であり、高画質の印刷を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に示す各図においては、各構成要素を図面上で認識され得る程度の大きさとするため、各構成要素の寸法や比率を実際のものとは適宜に異ならせてある。
【0019】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の発光装置としての有機EL装置1の平面図である。有機EL装置1は、基板10と、基板10上に配列された、発光を行う複数の有機EL素子24とを備えている。より詳しくは、基板10の長手方向に沿って等ピッチに配列された有機EL素子24の列が、2列配列されている。そして、各有機EL素子24は、隣接する他の列の有機EL素子24と縦方向に半ピッチだけずれるようにして配置されている。つまり、各有機EL素子24は、千鳥格子状に配列されている。各有機EL素子24は、有機バンク層13に囲まれている。
【0020】
次に、図2を用いて有機EL装置1の構造について詳述する。図2(a)は、図1中のA−A線における断面図であり、図2(b)は、有機EL装置1の発光部32および遮光部33を表す平面図である。有機EL装置1は、基板10を基体とし、その上に各構成要素が積み上げられて構成されている。ここで、基板10は、TFT(Thin Film Transistor)素子を含むいわゆる素子基板であり、ガラス基板上に、公知の技術を用いて形成されたTFT素子や各種電極、絶縁層等が積層されたものである。
【0021】
基板10上には、陽極としての画素電極11が形成されている。画素電極11は、透光性を有するITO(Indium Tin Oxide)からなり、発光部32を円形とするために、これと同心の円形に形成されている。画素電極11は、基板10に含まれるTFT素子を介して、図示しないデータ信号出力駆動回路に接続されている。そして、このデータ信号出力駆動回路から出力された描画データ信号が画素電極11に供給されるようになっている。
【0022】
画素電極11の周りには、当該画素電極11を底部とする凹部を形作るように、親液性を有する無機材料からなる無機バンク層12、および撥水性を有する有機材料からなる有機バンク層13がこの順に積層されている。無機バンク層12、有機バンク層13は、それぞれ本発明における第1バンク層、第2バンク層に対応する。
【0023】
上記凹部には、液滴吐出法によって形成された正孔輸送層14および有機発光層15がこの順に配置されている。正孔輸送層14には、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)が用いられる。ここで、液滴吐出法とは、有機発光材料等の機能物質が溶解または分散された機能液の液滴を吐出し、その後、吐出された機能液を乾燥させて溶媒を蒸発させ、機能物質の層を形成する手法である。液滴吐出法には、インクジェット法などが含まれる。有機発光層15および有機バンク層13の上には、これらを覆うように金属の陰極16および封止部材17がこの順に積層されている。上述した有機EL素子24は、画素電極11、陰極16、正孔輸送層14および有機発光層15によって構成される。
【0024】
有機発光層15は、エレクトロルミネッセンス現象を発現する有機発光物質の層である。画素電極11と陰極16との間に電圧を印加することによって、有機発光層15には、正孔輸送層14から正孔が、また、陰極16から電子が注入され、有機発光層15は、これらが再結合したときに光を発する。有機発光層15からの発光スペクトルは、材料の発光特性や膜厚に依存する。本実施形態では、有機発光層15は赤色光を発光し、その主発光波長、すなわち発光スペクトルにおいて発光強度が最大となる波長は630nm、発光強度が最大の20%以上となる波長範囲は590〜770nmである。有機発光層15から図2(a)の下方向に射出された光はそのまま基板10を透過し、また図2(a)の上方向に射出された光は陰極16によって反射された後に下方向へ進み、同じく基板10を透過する。
【0025】
ここで、本発明の特徴部分である無機バンク層12について説明する。無機バンク層12は、有機発光層15において発光された光を反射する反射膜としての機能を有する。無機バンク層12は、画素電極11の周りを囲うようにして基板10上に配置されており、かつ画素電極11に対して、その外縁部に乗り上げる形で重なっている。換言すれば、無機バンク層12は、画素電極11と同心でかつ画素電極11より小さな直径の開口部を有して、画素電極11に重ねて配置されている。
【0026】
画素電極11と無機バンク層12とが重なった部位には有機バンク層13はほとんど形成されておらず、当該部位における層構造は、基板10の側から、画素電極11、無機バンク層12、正孔輸送層14、有機発光層15、陰極16、封止部材17となっている。この部位は、図2(b)において発光部32を囲うリング状の遮光部33に対応する。また、発光部32は、無機バンク層12の開口部に対応する。ここで、遮光部33のリングの幅は3〜5μmであり、発光部32の直径は約50μmである。こうした構成に配置された無機バンク層12は、製造過程において正孔輸送層14または有機発光層15を含む液滴が凹部の底に濡れ広がるのを補助するとともに、仮にこれらの層が凹部の底に完全に濡れ広がらなかった場合に画素電極11と陰極16とが短絡するのを防ぐ役割を果たす。
【0027】
遮光部33においては、画素電極11と正孔輸送層14との間に絶縁性の無機バンク層12が挟まっているため、本来的には正孔輸送層14および有機発光層15には電流が流れず、発光は行われない。しかしながら、正孔輸送層14の比抵抗が小さいと電流が流れ、弱いながらも(発光部32の輝度の約20%)発光が行われてしまう。無機バンク層12は、こうした好ましくない光を外部に透過させないための反射膜としての機能も併せ持つ。その原理を以下に示す。
【0028】
無機バンク層12は、より詳しくは、図5の拡大断面図に示すように、複数の誘電体が積層されてなる誘電体多層膜(ダイクロイックミラー)である。具体的には、酸化チタン(TiO2;屈折率=2.40)の層と酸化ケイ素(SiO2;屈折率=1.45)の層が計5層、交互に積層された積層体である。これらの各層は、1/4波長板となるような厚みで積層されており、5層の厚さは合計で約500nmとなる。当該厚さは、触針式の段差計、エリプソメータ、光干渉式膜厚測定装置等で測定することができる。酸化チタンおよび酸化ケイ素は加工が容易であり、全5層を形成した後に一度にエッチングしてパターニングすることができる。
【0029】
こうして誘電体を1/4波長板の厚みで積層することにより、各層の境界面からの反射光が相加的に重なるようになり、高効率の反射膜が得られる。これらいずれの層でも反射されなかった光は、透過する。
【0030】
上記構成の無機バンク層12は、図6に示すような透過スペクトルを有する。この図から分かるように、無機バンク層12は550〜800nmにおいて透過率が20%以下(すなわち反射率が80%以上)となるように設定されている。よって、有機発光層15の発光スペクトルが最大発光輝度の20%以上となる範囲の波長に対する透過率を20%以下に抑えられる。この波長範囲には、有機発光層15の主発光波長である630nmも含まれている。なお、上記透過スペクトルは、分光光度計を用いて各波長の反射率、透過率を測定することによって得られたものである。
【0031】
有機発光層15の発光の、無機バンク層12における透過率が20%以下に抑えられると、遮光部33における光漏れの影響は無視できる範囲となる。これは、無機バンク層12が透明であるときの遮光部33における光漏れによる輝度が発光部32における輝度の約20%であり、これが無機バンク層12の反射特性によりさらに20%以下に抑えられると、遮光部33における輝度は発光部における輝度の約4%以下となるためである。
【0032】
ここで、無機バンク層12の透過スペクトルは、550nm以上800nm以下の波長領域でも透過率が20%以下となるように設定されているので、こうした波長領域に主発光波長を有する有機発光層を用いたとしても上記の遮光効果を奏する。
【0033】
以上のような構成の有機EL装置1は、発光部32においてのみ発光し、遮光部33においては、有機発光層15からの光が無機バンク層12によって遮光(反射)されてほとんど発光しない。すなわち、有機EL装置1は、無機バンク層12が配置された領域における光漏れの少ない発光装置である。
【0034】
有機EL装置1は、図3の斜視図に示すように、光書き込みヘッドモジュール101Kに組み込まれて用いられる。光書き込みヘッドモジュール101Kは、円柱状の感光体ドラム41Kと平行に、これと対向した状態で用いられる。光書き込みヘッドモジュール101Kは、感光体ドラム41Kと平行な方向に配設された箱体21と、箱体21と感光体ドラム41Kとの間に位置するように箱体21に取り付けられた光学部材23とを備えている。箱体21は、感光体ドラム41K側に開口部を有しており、その開口部に向かって光が射出するように有機EL装置1が固定されている。
【0035】
また、図4の断面図に示すように、光学部材23は、有機EL装置1と対向する位置に備えられている。この光学部材23は、内部にセルフォック(登録商標)レンズアレイ31を備えており、有機EL装置1の有機EL素子24から射出され、一端に入射した光を、他端側から射出して感光体ドラム41Kの表面で集光、照射(描画)する。このとき、有機EL素子24は、発光部32において、その周囲の遮光部33が遮光された輪郭のクリアな発光を行う。このため、光書き込みヘッドモジュール101Kは、感光体ドラム41K上でボケのない高解像度の描画を行うことができる。
【0036】
なお、上記有機発光層15の主発光波長(630nm)は、感光体ドラム41Kの感度の高い波長域から選択されたものである。このように、有機発光層15の発光波長は、感光体ドラム41Kの特性に応じて設定することが好ましく、感光体ドラム41Kの感度特性に応じて適宜選択することが可能である。
【0037】
(第2の実施形態)
上記第1の実施形態は、各々の有機EL素子24を有機バンク層13が囲う構成であるが、これに代えて、有機バンク層13が、複数の有機EL素子24を含む領域を囲う構成とすることもできる。以下では、こうした構成の本発明の第2の実施形態に係る有機EL装置1Aについて説明する。
【0038】
図7は、有機EL装置1Aの平面図であり、図8(a)は、図7中のB−B線における断面図である。また、図8(b)は、有機EL装置1Aの発光部32および遮光部33を表す平面図である。有機EL装置1Aの構成は、有機バンク層13の配置される位置を除けば基本的に第1の実施形態の有機EL装置1と同じであるので、以下では相違点を中心に説明する。
【0039】
有機EL装置1Aにおいて、有機バンク層13は、すべての有機EL素子24を含む矩形の領域を囲む開口をもって、無機バンク層12上に形成される。換言すれば、画素電極11、無機バンク層12、有機バンク層13が形作る凹部の底部は、すべての有機EL素子24に対応する画素電極11を含むような矩形の領域となっている。本実施形態においても、無機バンク層12は、酸化チタンおよび酸化ケイ素からなる誘電体多層膜の反射膜であり、画素電極11の周りを囲うようにして基板10上に配置され、かつ画素電極11に対して、その外縁部に乗り上げる形で重なっている。そして、画素電極11が配置されかつ無機バンク層12が配置されていない領域が発光部32に対応し、上記凹部の底部であって無機バンク層12が配置された領域が遮光部33に対応する。
【0040】
正孔輸送層14および有機発光層15は、上記凹部によって規定される矩形の領域の全体にわたって、この順に液滴吐出法を用いて形成される。このように、正孔輸送層14および有機発光層15は、個別の有機EL素子24に対して形成されるのではなく、同一の正孔輸送層14および有機発光層15が全ての有機EL素子24に対応するようになっている。このような構成によれば、各々の有機EL素子24における正孔輸送層14および有機発光層15の厚さを均一にすることができる。また、有機発光層15と有機バンク層13を覆って金属の陰極16および封止部材17がこの順に積層されている。
【0041】
以上のような構成の有機EL装置1Aは、発光部32においてのみ発光し、遮光部33においては、有機発光層15からの光が無機バンク層12によって遮光(反射)されてほとんど発光しない。すなわち、有機EL装置1Aは、無機バンク層12が配置された領域における光漏れの少ない発光装置である。このため、図3に示すような光書き込みヘッドモジュール101Kに用いれば、感光体ドラム41K上でボケのない高解像度の描画を行うことができる。
【0042】
(電子機器への搭載例)
本発明を適用した有機EL装置1およびこれが組み込まれた光書き込みヘッドモジュール101Kは、例えば、図9に示す画像形成装置80に用いられる。図9は、画像形成装置80の構造を示す断面図である。画像形成装置80は、上記有機EL装置1が組み込まれた光書き込みヘッドモジュール101K,101C,101M,101Yを備えており、これらに対応して4個の感光体ドラム(像担持体)41K,41C,41M,41Yを配置したタンデム方式として構成されたものである。
【0043】
この画像形成装置80は、駆動ローラ91と従動ローラ92とテンションローラ93とを備え、これら各ローラに中間転写ベルト90を、図9中矢印方向(反時計方向)に循環駆動するよう張架したものである。この中間転写ベルト90に対して、感光体ドラム41K,41C,41M,41Yが所定間隔で配置されている。これら感光体ドラム41K,41C,41M,41Yは、その外周面が像担持体としての感光層となっている。
【0044】
ここで、上記符号中のK、C、M、Yは、それぞれ黒、シアン、マゼンタ、イエローを意味し、それぞれ黒、シアン、マゼンタ、イエロー用の感光体であることを示している。なお、これら符号(K、C、M、Y)の意味は、他の部材についても同様である。感光体ドラム41K,41C,41M,41Yは、中間転写ベルト90の駆動と同期して、図9中矢印方向(時計方向)に回転駆動するようになっている。
【0045】
各感光体ドラム41(K、C、M、Y)の周囲には、それぞれ感光体ドラム41(K、C、M、Y)の外周面を一様に帯電させる帯電手段(コロナ帯電器)42(K、C、M、Y)と、この帯電手段42(K、C、M、Y)によって一様に帯電させられた外周面を感光体ドラム41(K、C、M、Y)の回転に同期して順次ライン走査する光書き込みヘッドモジュール101(K、C、M、Y)とが設けられている。
【0046】
また、光書き込みヘッドモジュール101(K、C、M、Y)で形成された静電潜像に現像剤であるトナーを付与して可視像(トナー像)とする現像装置44(K、C、M、Y)と、現像装置44(K、C、M、Y)で現像されたトナー像を一次転写対象である中間転写ベルト90に順次転写する転写手段としての一次転写ローラ45(K、C、M、Y)とが設けられている。また、転写された後に感光体ドラム41(K、C、M、Y)の表面に残留しているトナーを除去するクリーニング手段としてのクリーニング装置46(K、C、M、Y)が設けられている。
【0047】
各光書き込みヘッドモジュール101(K、C、M、Y)は、各有機EL装置のアレイ方向(有機EL素子24の整列方向)が感光体ドラム41(K、C、M、Y)の回転軸に平行となるように設置されている。そして、各光書き込みヘッドモジュール101(K、C、M、Y)の主発光波長と、感光体ドラム41(K、C、M、Y)の感度ピーク波長とが略一致するように設定されている。
【0048】
現像装置44(K、C、M、Y)は、例えば、現像剤として非磁性一成分トナーを用いる。そして、その一成分現像剤を例えば供給ローラで現像ローラへ搬送し、現像ローラ表面に付着した現像剤の膜厚を規制ブレードで規制し、その現像ローラを感光体ドラム41(K、C、M、Y)に接触させあるいは押圧せしめることにより、感光体ドラム41(K、C、M、Y)の電位レベルに応じて現像剤を付着させ、トナー像として現像するものである。
【0049】
このような4色の単色トナー像形成ステーションにより形成された黒、シアン、マゼンタ、イエローの各トナー像は、一次転写ローラ45(K、C、M、Y)に印加される一次転写バイアスによって中間転写ベルト90上に順次一次転写される。そして、中間転写ベルト90上で順次重ね合わされてフルカラーとなったトナー像は、二次転写ローラ66において用紙等の記録媒体Pに二次転写され、さらに定着部である定着ローラ対61を通ることで記録媒体P上に定着される。その後、排紙ローラ対62によって装置上部に形成された排紙トレイ68上に排出される。
【0050】
なお、図9中の符号63は多数枚の記録媒体Pが積層保持されている給紙カセット、64は給紙カセット63から記録媒体Pを一枚ずつ給送するピックアップローラ、65は二次転写ローラ66の二次転写部への記録媒体Pの供給タイミングを規定するゲートローラ対、66は中間転写ベルト90との間で二次転写部を形成する二次転写手段としての二次転写ローラ、67は二次転写後に中間転写ベルト90の表面に残留しているトナーを除去するクリーニング手段としてのクリーニングブレードである。
【0051】
この画像形成装置80は、本発明に係る有機EL装置1を有する光書き込みヘッドモジュール101(K、C、M、Y)が露光手段として備えられている。このため、画像形成装置80は、感光体ドラム41K上でボケのない高解像度の描画を行うことが可能であり、高画質の印刷を行うことができる。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態に対しては、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で様々な変形を加えることができる。変形例としては、例えば以下のようなものが考えられる。
【0053】
(変形例1)
上記各実施形態において、無機バンク層12の材料は、酸化チタンおよび酸化ケイ素であるが、これに代えて、窒化ケイ素(SiN;屈折率=1.80)および酸化ケイ素を材料とし、これらを交互に積層させた構造とすることもできる。こうした構成によっても、有機発光層15の主発光波長における透過率が20%以下となるような誘電体多層膜からなる無機バンク層12を形成することができる。ただし、窒化ケイ素の膜は必ずしも親液性をもたないので、窒化ケイ素を最上面にしないことが好ましい。
【0054】
(変形例2)
上記各実施形態において、無機バンク層12は酸化チタンおよび酸化ケイ素を計5層積層させたものであるが、これに代えて、3層ないし7層としてもよい。積層数を減少させると、製造プロセスを簡素化することができ、また、無機バンク層12の厚さを低減させることができる。一方、積層数を増加させることによって、無機バンク層12の透過率を低減させるとともに、透過率が20%以下となる波長領域を広げることができる。無機バンク層12の透過スペクトルは、上記各層の厚さを層毎に若干変えることで調整することもできる。なお、無機バンク層12の厚さや製造プロセスに制限がなければ、積層数を8層以上とすることもできる。
【0055】
(変形例3)
上記各実施形態において、画素電極11、および無機バンク層12の開口部(すなわち発光部32)は円形であるが、本発明の実施にあたってはこれに限定されず、例えば矩形や楕円形とすることもできる。
【0056】
(変形例4)
上記各実施形態では、正孔輸送層14および有機発光層15を液滴吐出法によって形成するようにしたが、本発明の実施にあたってはこれに限定されず、例えば、有機発光材料等の機能物質を含んだ機能液をディスペンサーを使用して凹部内に塗布するようにしてもよい。このようにすることで、上記各実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0057】
(変形例5)
上記実施形態では、発光層として有機発光層を使用したが、本発明の実施にあたってはこれに限定されず、画素電極11、無機バンク層12、有機バンク層13によって形作られる凹部に配置可能なものであればどのような発光層であってもよい。
【0058】
(変形例6)
上記各実施形態では、有機EL装置1を電子機器としての画像形成装置80に適用したが、本発明の実施にあたってはこれに限定されず、他の電子機器に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る有機EL装置の平面図。
【図2】(a)は、図1に示す有機EL装置の断面図、(b)は、発光部の平面図。
【図3】有機EL装置が組み込まれた光書き込みヘッドモジュールの斜視図。
【図4】図3に示す光書き込みヘッドモジュールの断面図。
【図5】無機バンク層の拡大断面図。
【図6】無機バンク層の透過スペクトルを示す図。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る有機EL装置の平面図。
【図8】(a)は、図7に示す有機EL装置の断面図、(b)は、発光部の平面図。
【図9】本発明に係る有機EL装置を搭載した画像形成装置の断面図。
【図10】従来の有機EL装置の断面図。
【符号の説明】
【0060】
1,1A…「発光装置」としての有機EL装置、10…基板、11…画素電極、12…「第1バンク層」としての無機バンク層、13…「第2バンク層」としての有機バンク層、14…正孔輸送層、15…「発光層」としての有機発光層、16…陰極、17…封止部材、24…有機EL素子、32…発光部、33…遮光部、41…感光体ドラム、80…「電子機器」としての画像形成装置、101…光書き込みヘッドモジュール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された画素電極と、
前記基板上に形成された第1バンク層であって、前記基板の法線方向から見て、一部が前記画素電極の外縁部に重なった状態に配置された第1バンク層と、
前記第1バンク層上に配置された第2バンク層と、
前記画素電極、前記第1バンク層、前記第2バンク層によって形作られる凹部に配置された発光層と
を備え、
前記第1バンク層は反射膜であることを特徴とする発光装置。
【請求項2】
請求項1に記載の発光装置であって、
前記反射膜は、誘電体多層膜であることを特徴とする発光装置。
【請求項3】
請求項2に記載の発光装置であって、
前記誘電体多層膜は、酸化チタンの層および酸化ケイ素の層の積層体であることを特徴とする発光装置。
【請求項4】
請求項2に記載の発光装置であって、
前記誘電体多層膜は、窒化ケイ素の層および酸化ケイ素の層の積層体であることを特徴とする発光装置。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか一項に記載の発光装置であって、
前記誘電体多層膜は、3層ないし7層の積層体として形成されていることを特徴とする発光装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の発光装置であって、
前記第1バンク層は、前記発光層の主発光波長の光に対する透過率が20%以下であり、
前記主発光波長は、前記発光層の発光スペクトルにおいて発光強度が最大となる波長であることを特徴とする発光装置。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか一項に記載の発光装置であって、
前記第1バンク層は、550nm以上800nm以下の波長領域に含まれる光に対する透過率が20%以下であることを特徴とする発光装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の発光装置であって、
前記発光層は、有機材料を主成分とすることを特徴とする発光装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の発光装置を備えた電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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