説明

発光装置とその製造方法

【課題】発光素子からの紫外光または青色光にて高効率に発光する蛍光体を利用する発光装置であって、発光色の設定が容易でありかつ輝度の高い発光装置を提供する。
【解決手段】発光装置(10)は、1次光を発する発光素子(11)と、1次光の一部を吸収してその1次光の波長以上の波長を有する2次光を発する波長変換部(12)とを含み、その波長変換部は互いに異なる光吸収帯域を有する複数種の蛍光体(13、14、15)を含み、これら複数種の蛍光体の少なくとも1種は他の少なくとも1種で発せられた2次光を吸収し得る吸収帯域を有することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1次光を発する半導体発光素子とその1次光を吸収して2次光を発する蛍光体を含む波長変換部とを備えた発光装置または白色発光装置の改善に関するものである。
【背景技術】
【0002】
そのような半導体発光素子と波長変換部とを組合せた発光装置または白色発光装置は、低消費電力、小型、高輝度、さらに広範囲な色再現性が期待される次世代の発光装置または白色発光装置として注目され、その研究開発が活発に行われている。
【0003】
半導体発光素子としてはGaN系発光素子やZnO系発光素子などが用いられ、発光素子から発せられる1次光としては、通常は紫外線の長波長側から青色の範囲、すなわち約380nm〜480nmの範囲内の波長を有するものが用いられる。また、このような1次光を2次光に変換する用途に適した様々な種類の蛍光体を用いた波長変換部も提案されている。
【0004】
そのような波長変換機能を有する発光装置の一例が、特許文献1の特開2004−71357号公報に開示されている。この特許文献1では、蛍光体としてInN系ナノ結晶を用いることが記載されているが、その詳細な発光特性については言及されていない。また、特許文献2の特開2004−179644号公報では、樹脂中に光拡散剤を添加した複数種の蛍光体層における各層毎の拡散効率に着目した発光装置が開示されているが、この場合においても蛍光体層に関する詳細な発光特性については言及されていない。
【0005】
他方、白色発光装置の用途としては、LCD(液晶ディスプレイ)用バックライト(特に液晶テレビ(TV)用バックライト)やカメラ用フラッシュライトなどの白色照明装置としての用途が最も重要である。そして、これらの白色照明装置に要求される特性は、発光効率が高いことと同時に色再現性がよいことである。特に、白色照明装置では、色がつかない黒体輻射に類似の白色が得られることが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−71357号公報
【特許文献2】特開2004−179644号公報
【特許文献3】特許第2927279号公報
【特許文献4】特開2004−327492号公報
【特許文献5】特開2002−171000号公報
【特許文献6】特開2003−121838号公報
【特許文献7】特開2004−287323号公報
【特許文献8】国際公開第02/059982号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および2では、発光装置に含まれる複数種の蛍光体に関する詳細な発光特性について言及されておらず、複数種の蛍光体の相対的配置順序の効果に関しては技術的に検討されていない。
【0008】
しかし、発光装置の動作期間中において蛍光体を含む樹脂層が紫外光によって劣化することを避ける観点から、青色の波長範囲である400nmから500nmの範囲に発光ピ−ク波長を有する発光素子を用いる場合、その1次光の波長に適した波長変換部すなわちそれに含まれる複数種の蛍光体における可視光領域での励起特性が重要となる。
【0009】
換言すれば、発光装置において、複数種の蛍光体を含む波長変換部の特性を最大限に発揮させるには、各種蛍光体の励起特性を考察して、最適な蛍光体積層状態を構成することが重要である。
【0010】
他方、白色発光装置の色再現性を高くするためには、赤、緑、および青の三原色の光源にスペクトル純度の高いものを用いることが望まれ、各色の光源としてたとえばLED(発光ダイオード)や半導体レーザなどを用いることが考えられる。しかし、緑色の発光効率の高い半導体光源が得られない。また、これらの半導体光源はそれぞれ独立に輝度を制御してやる必要があるので、駆動回路が大掛かりになってしまうという問題もある。
【0011】
1種の半導体光源を用いて白色光源を実現する方法として、青色のLEDとその青色光で励起されて黄色光を放出する蛍光体とを組合せて用いる方法が特許文献3の特許第2927279号公報に開示されている。しかし、この方法では、赤色成分が少ない上に緑色のスペクトルの純度が悪いので、色再現性がよくないという問題がある。
【0012】
同様に、比較的長波長の紫外線から青色の範囲内、すなわち380nmから480nmの波長範囲内で発光するLEDと、そのLEDから放出される1次光で青色、緑色、または赤色の光を放出する蛍光体とを組合せて用いる種々の方法が提案されている。たとえば、緑色の発光効率を高めるために緑色のみに関して蛍光体を用いる方法が、特許文献4の特開2004−327492号公報に開示されている。しかし、特許文献4の方法では、やはり複数の半導体発光素子を用いるので駆動回路が大掛かりとなる。
【0013】
また、紫外光を放出するLEDとそのLEDから放出される1次光で青色、緑色、および赤色の光を放出する複数種の蛍光体とを組合せる方法が、特許文献5の特開2002−171000号公報に開示されている。しかし、特許文献5においては、LEDと複数種の蛍光体とのどのような組合せが最もよいか、特に黒体輻射とみなせる光源にすると同時に高い発光効率と広い色再現性が得られる組合せについての示唆はない。特に、赤色の蛍光体については、特許文献5に記載の蛍光体では発光効率が十分ではない。
【0014】
現在の白色の発光装置においては、青色発光の発光素子とその青色光により励起されて黄色発光を示す3価のセリウムで付活された(Y,Gd)3(Al,Ga)512蛍光体または2価のユーロピウムで付活された(Sr,Ba,Ca)2SiO4蛍光体との組合せが主として用いられている。
【0015】
ただし、これらの白色発光装置では、色再現性(NTSC比)が50%弱であり、大型LCD用(特にLCD−TV用)バックライトの用途には適さない。すなわち、半導体発光素子と蛍光体を組合せた白色発光装置は、現在において主として用いられている冷陰極蛍光ランプに比べて、水銀を含まず、かつ低消費電力、小型、および高輝度であるという利点を有する反面で、特にその色再現性(NTSC比)の改善が急務となっている。
【0016】
なお、NTSC比とは、NTSC(National Television System Committee)が定めた赤、緑、および青の各色のXYZ表色系色度図における色度座標(x,y)がそれぞれ赤(0.670, 0.330)、緑(0.210, 0.710)、および青(0.140, 0.080)であり、それらの赤、緑、および青の色度座標を結んで得られる三角形の面積に対する比率を表している。
【0017】
LCDにおける色再現性(NTSC比)に着目した先行技術としては、特許文献6の特開2003−121838号公報がある。その特許文献6において、バックライト光源が505nmから535nmの範囲内にスペクトルピークを有すること、およびその光源に使用する緑蛍光体の付活剤としてユウロピウム、タングステン、スズ、アンチモン、およびマンガンのいずれかを含むこと、さらに実施例には緑蛍光体としてMgGa24:MnとZn2SiO4:Mnを用いることが記載されている。しかしながら、発光素子のピーク波長が380nmから450nmの範囲内の場合には、ユウロピウム、タングステン、スズ、アンチモン、およびマンガンのいずれかを含む蛍光体の全てが好ましく適用され得るものではない。すなわち、特許文献6の実施例に記載されているMgGa24:MnとZn2SiO4:Mnは380nmから450nmの範囲内の励起光ではその発光効率が著しく低く、したがってこれらの蛍光体は本願発明の用途に適合するものではない。
【0018】
また、特許文献7の特開2004−287323号公報では、バックライトとして、赤発光LEDチップと緑発光LEDチップと青発光LEDチップが1パッケージに含まれたRGB(赤緑青)−LEDの他に、3波長型蛍光管、紫外光LED+RGB蛍光体、有機EL光源などが使用され得ると記載されている。しかしながら、特許文献7では、紫外光LED+RGB蛍光体において、RGB蛍光体に関する具体的な記述はない。
【0019】
上述のような先行技術状態に鑑み、本発明は、半導体発光素子から発せられる380nmから450nmの範囲内の波長を有する光にて高効率で発光する複数種の蛍光体を波長変換部に利用する発光装置であって、発光色の設定が容易でありかつ輝度の高い発光装置を提供することを目的とし、さらには、色再現性(NTSC比)の優れた白色発光装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の一つの態様による発光装置は、1次光を発する発光素子と、1次光の一部を吸収してその1次光の波長以上の波長を有する2次光を発する波長変換部とを含み、その波長変換部は互いに異なる光吸収帯域を有する複数種の蛍光体を含み、これら複数種の蛍光体の少なくとも1種は他の少なくとも1種で発せられた2次光を吸収し得る吸収帯域を有することを特徴としている。このような発光装置においては、発光色の設定が容易であり、かつ高い輝度を得ることができる。
【0021】
なお、複数種の蛍光体は、相対的に長い波長の2次光を発する蛍光体種の順序で発光素子に近い側から配置されていることが好ましい。この構成によれば、各種蛍光体から発光した2次光のうちで発光装置の外部に向かって放射される光は、外側に配置されて他色を発光する蛍光体に再度吸収されることがなくて効率的に装置外部に取り出され得る。また、内部に向かって放射される光は内側に配置されて長波長光を発光する蛍光体の励起に寄与するので、発光装置全体として発光のロスを極力抑えることができる。
【0022】
本発明に用いられる発光素子は、窒化ガリウム系半導体を利用して作製され得る。
本発明に用いられる青色系発光蛍光体は、(M1,Eu)10(PO46・Cl2で表される2価のユーロピウム付活ハロ燐酸塩蛍光体、a(M2,Eu)O・bAl23で表される2価のユ−ロピウム付活アルミン酸塩蛍光体、およびa(M2,Euc,Mnd)O・bAl23で表される2価のユーロピウムおよびマンガン共付活アルミン酸塩蛍光体から選ばれる少なくとも1種を含むことができ、ここで、M1はMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、M2はMg、Ca、Sr、BaおよびZnから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、a、b、cおよびdはa>0、b>0、0.1≦a/b≦1.0、0.001≦d/c≦0.2を満足する数を表す。
【0023】
本発明に用いられる緑色系発光蛍光体は、a(M2,Eue,Mnf)O・bAl23で表される2価のユーロピウムおよびマンガン共付活アルミン酸塩蛍光体、2(M11-g,Eug)O・SiO2で表される2価のユーロピウム付活珪酸塩蛍光体、およびMI3(MII1-h,Ceh2(SiO43で表される3価のセリウム付活珪酸塩蛍光体から選ばれる少なくとも1種を含むことができ、ここで、M2はMg、Ca、Sr、BaおよびZnから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、a、b、eおよびfはa>0、b>0、0.1≦a/b≦1.0、0.3≦f/e≦5.0を満足する数を表し、M1はMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、gは0.005≦g≦0.10を満足する数を表し、MIはMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、MIIはAl、Ga、In、Sc、Y、La、GdおよびLuから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、hは0.01≦h≦0.4を満足する数を表す。
【0024】
本発明に用いられる赤色系発光蛍光体は、(MIII1-j,Euj)MIVSiN3で表される2価のユ−ロピウム付活窒化物蛍光体を含むことができ、ここで、MIIIはMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、MIVはAl、Ga、In、Sc、Y、La、GdおよびLuから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、jは0.001≦j≦0.05を満足する数を表す。
【0025】
本発明のもう一つの態様による発光装置は、1次光を発する発光素子と、1次光の少なくとも一部を吸収してその1次光の波長以上の波長を有する2次光を発する波長変換部とを含み、波長変換部は少なくとも緑色系発光蛍光体と赤色系発光蛍光体とを含み、緑色系発光蛍光体は、a(M2,Eue,Mnf)O・bAl23で表される2価のユーロピウムおよびマンガン共付活アルミン酸塩蛍光体を含み、ここで、M2はMg、Ca、Sr、BaおよびZnから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、a、b、eおよびfはa>0、b>0、0.1≦a/b≦1.0、および0.3≦f/e≦5.0を満足する数を表すことを特徴としている。
【0026】
このような発光装置では、緑色の蛍光体の発光スペクトルが狭いので、1つの半導体発光素子を用いて高い色再現性が得られる。すなわち、付活材であるEuは1次光を十分吸収するがそれ自身は殆ど発光せず、その吸収エネルギーをMnに移動させてMnの発光で緑色光が生じ、このMnの発光スペクトルが狭いので高効率でスペクトル幅の狭い緑色発光が得られる。
【0027】
さらに、蛍光体母材結晶にSrを付加することによって、励起光としての1次光の波長が比較的長くてもよくなるので、蛍光体を含むモールド樹脂が短波長光の照射によって劣化することを回避でき、発光装置の長寿命化が図れる。
【0028】
赤色系発光蛍光体は、(M31-gEug)M4SiN3で表される3価のユーロピウム付活窒化物蛍光体を含むことが好ましく、ここで、M3はMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、M4はAl、Ga、In、Sc、Y、La、GdおよびLuから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、gは0.001≦g≦0.05を満足する数を表す。このような赤色系発光蛍光体では、高効率でスペクトル幅の狭い赤色発光が得られる。
【0029】
波長変換部は青色系発光蛍光体をさらに含むことができ、その青色系発光蛍光体は、(M1,Eu)10(PO46・Cl2で表される2価のユーロピウム付活ハロ燐酸塩蛍光体、a(M2,Eu)O・bAl23で表される2価のユーロピウム付活アルミン酸塩蛍光体、およびa(M2,Euc,Mnd)O・bAl23で表される2価のユーロピウムおよびマンガン共付活アルミン酸塩蛍光体から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、ここで、M1はMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、M2はMg、Ca、Sr、BaおよびZnから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、a、b、cおよびdはa>0、b>0、0.1≦a/b≦1.0、および0.001≦d/c≦0.2を満足する数を表す。このような青色系発光蛍光体では、高効率でスペクトル幅の狭い青色発光が得られる。
【0030】
発光素子は窒化ガリウム系半導体で形成されており、1次光のピーク波長が380nmから450nmの範囲にあることが好ましい。この1次光のピ−ク波長は、390nmから420nmの範囲にあることがさらに好ましい。このような半導体発光素子を用いることによって、青色系、緑色系、および赤色系の3種の蛍光体を効率よく励起することができる。
【0031】
発光装置から発する光が所定の色温度の黒体輻射と見なされる色度に設定されるように、発光素子からの1次光の波長成分と赤色系、緑色系、および青色系の蛍光体の各々から発する2次光の波長成分とが調整され得る。このような調整によって、発光装置から放出される光に色がつかないので、その発光装置を良質の照明用の光源として使用することができる。
【0032】
発光素子は複数の樹脂層で覆われており、樹脂層の各々は赤色系、緑色系、および青色系の蛍光体のいずれかを含み、発光素子に近い樹脂層に含まれる蛍光体は遠い樹脂層に含まれる蛍光体に比べてピーク波長が長い2次光を発することが好ましい。これによって、発光素子に近い樹脂層中の蛍光体から放出された光が遠い樹脂層中の蛍光体で吸収されることがないので、高効率の白色発光装置が得られる。また、一種の蛍光体のみを含む各樹脂層を用いて測定した層厚に対する発光効率の結果に基づいて白色発光装置を設計することができる。
【0033】
発光素子は、各層が所定の厚さとなるように積層された複数の樹脂層によってモールドされていることが好ましい。これによって、白色発光装置が容易に作製され得る。
【0034】
本発明による発光装置は、パッケージの内壁の反射面に囲まれた底面上に発光素子を搭載する工程と、パッケージ内に搭載された発光素子を覆うように第1の蛍光体種が混練された第1の液状樹脂を注入して硬化させる工程と、その硬化した第1液状樹脂および反射面の上に第1蛍光体種に比べて短い2次光波長を有する第2の蛍光体種が混練された第2の液状樹脂を注入して硬化させる工程とを含むことによって製造することができる。
【0035】
また、本発明による発光装置は、パッケージの内壁の反射面に囲まれた底面上に発光素子を搭載する工程と、パッケージ内に搭載された発光素子の周囲を覆うように粒径のメディアン値が異なる複数種の蛍光体が混練された液状樹脂を注入する工程と、注入された液状樹脂を所定時間静置させて粒径のメディアン値が大きい蛍光体種ほど発光素子近くで濃度が高くなるように沈降させる工程とを含むことによっても好ましく作製することができる。
【発明の効果】
【0036】
以上のような本発明によれば、発光装置において、発光素子からの発光を波長変換部が効率よく吸収して、その波長変換部が高効率で発光することができ、さらには、色再現性(NTSC比)が著しく良好な白色光を放射することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施例による発光装置の構造を示す模式的縦断面図である。
【図2】赤色系発光蛍光体の励起と発光のスペクトル分布を示すグラフである。
【図3】緑色系発光蛍光体の励起と発光のスペクトル分布を示すグラフである。
【図4】青色系発光蛍光体の励起と発光のスペクトル分布を示すグラフである。
【図5】本発明の一実施例による発光装置における発光スペクトル分布を示すグラフである。
【図6】発光装置の特性を評価するためのカラーフィルタの分光特性を示すグラフである。
【図7】本発明による他の形態の発光装置の作製過程を図解する模式的断面図である。
【図8】黒体輻射温度と色度図座標との関係を示すxy色度図である。
【図9】本発明のさらに他の実施例による発光装置の構造を示す模式的縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
(実施例1)
図1は、本発明の実施例1による発光装置を模式的縦断面図で示している。この発光装置10は、1次光を発する発光素子11と、1次光の少なくとも一部を吸収してその1次光の波長以上の波長を有する2次光を発する波長変換部12とを備えている。発光素子11はカソード端子18上に載置され、金ワイヤ19によってアノード端子17およびカソード端子18ヘ電気的に接続されている。
【0039】
発光素子11としては、たとえば410nmに発光ピ−ク波長を有する窒化ガリウム(GaN)系発光ダイオ−ドを用いることができる。
【0040】
波長変換部12は、(Ca0.98Eu0.02)AlSiN3の組成で表される赤色系発光蛍光体を含む層13と、(Ba0.85Eu0.15)(Mg0.80Mn0.20)Al1017の組成で表される緑色系発光蛍光体を含む層14と、(Ba0.80Eu0.20)MgAl1017の組成で表される青色系発光蛍光体を含む層15とを含んでいる。
【0041】
図2は本実施例1にて使用した赤色系発光蛍光体の励起と発光のスペクトル分布を示し、図3は緑色系発光蛍光体の励起と発光のスペクトル分布を示し、そして図4は青色系発光蛍光体の励起と発光のスペクトル分布を示している。すなわち、これらの図に示されたグラフにおいて、横軸は光の波長(nm)を表し、縦軸は光の相対強度を表している。また、グラフ中の曲線31、33、および35は蛍光体の励起スペクトル分布を表し、曲線32、34、および36は蛍光体からの発光スペクトル分布を表している。
【0042】
図2、図3および図4から明らかなように、本実施例1における各蛍光体はピーク波長410nmの1次光によって非常に効率よく赤色、緑色、または青色を発光することがわかる。
【0043】
さらに、赤色系発光蛍光体は、緑色系発光蛍光体および青色系発光蛍光体から発せられた緑色光(波長520nm付近)および青色光(波長450nm付近)をも吸収して、赤色を発光し得ることがわかる。
【0044】
しかしながら、1次光によって励起された蛍光体から2次光として発せられた緑色光(波長520nm付近)および青色光(波長450nm付近)によって赤色系発光蛍光体を励起するのは、全体としての波長変換効率の低下につながるので得策ではない。
【0045】
すなわち、輝度の高い発光装置を得るためには、本実施例1におけるように赤色系発光蛍光体層13、緑色系発光蛍光体層14、および青色系発光蛍光体層15の順に積層することが重要となる。ただし、緑色系発光蛍光体は青色光によって励起されて発光することがないので、緑色系発光蛍光体と青色系発光蛍光体とを混合して1層の発光層としてもよい。
【0046】
本実施例1では、赤色系発光蛍光体、緑色系発光蛍光体、および青色系発光蛍光体の各々をバインダ樹脂(シリコーン系またはエポキシ系)中に混練し、図1に示すデバイスパッケージのカップ16内に赤色発光層13、緑色発光層14、青色発光層15の順に注入して硬化させて蛍光体層構造12を形成した。
【0047】
なお、蛍光体混練樹脂の注入時にその混練樹脂が表面張力によりカップ16の内壁面を這い上がるのを防止して各発光層の厚さが一定となるように、カップ内壁面には段差(テラス)16aが設けられている。また、カップ内壁は段差16aを境界として上段において下段よりも傾斜が急峻となるように形成されていることが好ましい。このことによって、下段の蛍光体層からの光に関して、段差16aによる影が上段の蛍光体層において少なくされ得る。
【0048】
他方、比較例1として、実施例1と全く同種の蛍光体を用いて、青色系発光蛍光体:緑色系発光蛍光体:赤色系発光蛍光体=2.0:1.5:1.0の重量比率で混合した単層の発光層が波長変換部として形成された。
【0049】
表1において、本実施例1と比較例1の発光装置における白色発光の評価結果が示されている。
【0050】
【表1】

【0051】
表1から明らかなように、本実施例1の発光装置は比較例1に比べて同じ発光色を有しているが、その明るさが飛躍的に向上していることがわかる。
【0052】
ここで、Tcは発光装置の発光色の相関色温度を表し、duvは発光色度点の黒体輻射軌跡からの偏差(U*V*W*色度図(CIE1964均等色空間)上における発光色の色度点から黒体輻射軌跡に降ろした垂線の長さ)を表す。duvが0.01以下であれば通常のタングステンフィラメント電球などと同様に、着色のない色と感じられるとされている。また、7000Kの黒体輻射温度では、太陽の色温度に近いことから自然な白色が得られる。
【0053】
本実施例1および比較例1において、発光素子からの1次光のピーク波長は410nmであって蛍光体の励起のためには効果の高い波長域であるが、視感効率が低いので外部に漏れ出ても発光装置としての明るさには寄与しない。したがって、その1次光のみを反射する特性を有する光学膜(たとえば、多層干渉膜)をコートしたシート12aを蛍光体層構造12の最外面上に貼付することが好ましい。このシート12aによって反射された1次光が再度蛍光体層の励起に寄与し、発光装置全体としてより明るく発光させることができる。
【0054】
(実施例2)
本発明の実施例2においては、発光素子として、460nmにピ−ク波長を有する窒化ガリウム(GaN)系発光ダイオ−ドが用いられた。
【0055】
波長変換部には、(Sr0.75Ba0.24Eu0.012SiO4なる組成で表される緑色系発光蛍光体と(Ca0.985Eu0.015)AlSiN3なる組成で表される赤色系発光蛍光体が用いられた。図2から、赤色系発光蛍光体は緑色系発光蛍光体から発せられた緑色光(波長550nm付近)を吸収し、赤色を発光し得ることがわかる。
【0056】
これらの発光ダイオードと蛍光体を利用して、実施例1と同様な方法にて、本実施例2の発光装置が作成された。また、比較例2として、本実施例2と全く同種の蛍光体を混合した単層の発光層からなる波長変換部を有する発光装置が形成された。
【0057】
本実施例2と比較例2による発光装置の特性が評価され、その結果が表2に示されている。
【0058】
【表2】

【0059】
表2から明らかなように、本実施例2の発光装置は比較例2に比べて同じ発光色を有しているが、その明るさが飛躍的に向上していることがわかる。
【0060】
(実施例3〜8および比較例3〜8)
用いられる発光素子の発光ピーク波長と蛍光体の種類が変更されたことを除いて、実施例1および比較例1と同様な方法にて、実施例3〜8および比較例3〜8の発光装置がそれぞれ作成され、それらの特性を評価した結果が表3に示されている。
【0061】
【表3】

【0062】
表3から明らかなように、本発明の実施例3〜8による発光装置は、それぞれ比較例3〜8に比べて、その明るさが飛躍的に向上していることがわかる。
【0063】
(実施例9)
図1は、本発明の実施例9による白色発光装置に関しても参照することができる。本実施例9の白色発光装置10は、1次光を発する発光素子11と、1次光の少なくとも一部を吸収してその1次光の波長よりも長い波長を有する2次光を発する波長変換部12とを備えている。発光素子11としては、410nmにピ−ク波長を有する窒化ガリウム(GaN)系発光ダイオ−ドが使用された。
【0064】
波長変換部12においては、(Ca0.98Eu0.02)AlSiN3の組成で表される赤色系発光蛍光体を含む赤色発光樹脂層13と、(Ba0.85Eu0.15)(Mg0.80Mn0.20)Al1017の組成で表される緑色系発光蛍光体を含む緑色発光樹脂層14と、(Ba0.80Eu0.20)MgAl1017の組成で表される青色系発光蛍光体を含む青色発光樹脂層15とが順次積層されており、それらの3種類の蛍光体は1:1:1になるように含められた。
【0065】
図5は、本実施例9の白色発光装置の発光スペクトル分布を示すグラフである。すなわち、このグラフの横軸は発光波長(nm)を表し、縦軸は光の放射強度(a.u.:任意単位)を表している。このグラフにおいて、2次光として緑色光(ピーク波長520nm付近)を発する蛍光体からの光は、Mnからの発光を反映してそのスペクトル幅が狭くなっていることがわかる。
【0066】
本実施例9の白色発光装置について、明るさおよび色再現性(NTSC比)が評価された。この色再現性の測定に使用した青色、緑色、および赤色のカラーフィルタの分光特性が、図6のグラフに示されている。このグラフにおいて、横軸は光の波長(nm)を表し、縦軸は透過光量(任意単位)を表している。また、グラフ中の曲線37は青色フィルタの特性を表し、曲線38は緑色フィルタの曲線を表し、そして曲線39は赤色フィルタの特性を表している。
【0067】
他方、本実施例9との比較のために、比較例9としての発光装置も作製された。この比較例9においては、(Ba0.80Eu0.20)MgAl1017の組成で表される青色系発光蛍光体と(Sr0.92Ba0.05Ca0.01Eu0.022SiO4の組成で表される黄色系発光蛍光体とが1.5:1.0の重量比率で混合された単層の樹脂層を波長変換部に用いたことのみにおいて実施例9と異なっていた。
【0068】
表4では、本実施例9と比較例9とによる発光装置における白色発光の評価結果が示されている。
【0069】
【表4】

【0070】
表4から明らかなように、本実施例9の発光装置は、比較例9の発光装置に比べて、明るさだけでなくて色再現性(NTSC比)も飛躍的に向上していることがわかる。
【0071】
なお、表4中で黒体輻射温度が6600Kであって太陽の温度に近いことは、自然な白色が得られることを意味する。
【0072】
参考のために、図8のxy色度図において、黒体輻射温度とxy色度図座標との関係を示す。この色度図において、複数の丸印はスペクトルの軌跡を表し、複数の三角印は黒体輻射の軌跡を表している。
【0073】
図1を参照し得る本実施例9の発光装置は、より詳細には以下のように作製されている。すなわち、GaN系発光素子11は、一対のリードフレーム(金属薄板)17、18のうちの片方18上に搭載され、一対のワイヤ19によってそれらのリードフレーム17、18へ電気的に接続されている。
【0074】
発光素子11の周囲には、可視光に対して反射率の高い白色の樹脂によってすり鉢状のカップ16を形成している。すり鉢状の壁面の内側には段差16a、16bを設け、蛍光体を含む樹脂の液面が止まるようにしている。その結果、蛍光体を含む樹脂層13、14、15の各々が、ほぼ所定の厚さになる。
【0075】
発光素子11は、2次光が赤色の蛍光体を充填した樹脂層13、2次光が緑色の蛍光体を充填した樹脂層14、および2次光が青色の蛍光体を充填した樹脂層15で順次モールドされている。一種の蛍光体を充填した樹脂層でモールドした後に、それを仮硬化してから次の樹脂層を充填することによって、隣接する樹脂層が混ざることを防ぎながら生産効率の低下を防止することができる。
【0076】
なお、カップ16の内壁面は白色樹脂材料のままでもよいが、発光装置の発光効率をさらに高めるために、銀、アルミニウムなどの可視光に対して反射率の高い金属をメッキしておくことがより好ましい。
【0077】
図7の模式的な断面図においては、本実施例9による他の形態の発光装置の製造過程が示されている。
【0078】
図7(A)において、GaN系発光素子11は硬質の配線基板21上に搭載され、ワイヤ22によってその配線基板21へ電気的に接続される。そして、図7(B)に示されているように、発光素子11は、2次光が赤色の蛍光体を充填した樹脂層、2次光が緑色の蛍光体を充填した樹脂層、および2次光が青色の蛍光体を充填した樹脂層で順次モールドされて、それらの樹脂層を含む樹脂ドーム23によって覆われる。
【0079】
なお、樹脂ドーム23は、チクソ性の高い樹脂を用いることによって、金型などを用いなくても形成することができる。しかし、樹脂ドーム23に含まれる複数の樹脂層のそれぞれの厚さを正確に設定したい場合は、図7(C)に示されているような金型を用いてもよい。
【0080】
図7(C)においては、赤色発光の蛍光体を含む赤色発光樹脂層23aで発光素子11を覆い、その樹脂層23aは仮硬化してからプレス金型25によって押圧される。こうすることによって、図7(D)に示されているように、発光素子11の頂面からの厚さtを所定の値に設定することができる。同様にして、緑色発光の蛍光体を含む緑色発光樹脂層23bおよび青色発光の蛍光体を含む青色発光樹脂層23cをプレス金型25を用いながら形成することによって、図7(E)に示されているように、厚さ制御された3層の樹脂層23a、23b、23cで覆われた発光素子11を含む白色発光装置が得られる。この場合でも、一種の樹脂層で発光素子11覆って、その樹脂層を仮硬化してから次の樹脂層で覆うことによって、隣接する樹脂層が混ざることを防ぎながら生産効率の低下を防止することができる。
【0081】
(実施例10)
本発明の実施例10においては、発光素子として、390nmのピ−ク波長を有する窒化ガリウム(GaN)系発光ダイオ−ドが用いられた。そして、波長変換部には、(Ca0.985Eu0.015)AlSiN3の組成で表される赤色系発光蛍光体を含む樹脂層と、(Ba0.70Sr0.10Eu0.20)(Mg0.75Mn0.25)Al1017の組成で表される緑色系発光蛍光体を含む樹脂層と、(Ba0.80Eu0.20)MgAl1017の組成で表される青色系発光蛍光体を含む樹脂層とが用いられた。
【0082】
他方、本実施例10との比較のための比較例10においては、(Ba0.80Eu0.20)MgAl1017の組成で表される青色系発光蛍光体と(Y0.52Gd0.35Ce0.133Al512の組成で表される黄色系発光蛍光体との混合物を含む単層の樹脂層が用いられたことのみにおいて実施例10と異なっていた。
【0083】
本実施例10および比較例10においても、実施例9の場合と同様に、図1に示されているような形態の発光装置が作製され、それらの発光素子の特性が評価された。それらの評価結果が表5に示されている。
【0084】
【表5】

【0085】
表5から明らかなように、本実施例10の発光装置も、比較例10の発光装置に比べて、明るさだけでなくて色再現性(NTSC比)も飛躍的に向上していることがわかる。
【0086】
(実施例11〜15)
実施例9および比較例9に類似して、本発明の実施例11〜15およびそれらと比較される比較例11〜15による発光装置を作製し、それらの発光装置の特性を評価した結果が表6に示されている。ただし、実施例11〜15および比較例11〜15においては、図1に示されているような形態の発光装置が作製されたが、表6に示されているように、用いられた発光素子の発光ピーク波長と蛍光体の組成とが種々に変更された。
【0087】
【表6】

【0088】
表6から明らかなように、本発明による蛍光体を含む実施例11〜15の発光装置は、青色発光の発光素子とその青色により励起されて黄色発光を示す2価のユ−ロピウムで付活された(Sr,Ba,Ca)2SiO4蛍光体またはそれと3価のセリウムで付活された(Y,Gd)3(Al,Ga)512蛍光体との組合せを含む比較例11〜15の発光装置に比べて、明るさだけでなくで色再現性(NTSC比)も飛躍的に向上していることがわかる。
【0089】
本発明では、発光素子から発する1次光のピ−ク波長が380nmから450nmの範囲にあればよく、390nmから420nmの範囲内のピ−ク波長を有する発光素子が本発明の発光装置により適している。
【0090】
なお、色再現性(NTSC比)を飛躍的に向上させるためには、緑色系発光蛍光体(またはそれに含まれる緑色系発光成分)の発光スペクトルの半値幅を狭くすることが望まれる。これを達成するためには、本発明におけるように、2価のマンガン(Mn)による発光が適しており、また緑色系発光蛍光体の母体としてはアルミン酸塩(Aluminate)が適している。
【0091】
上述の実施例では、発光素子に近い方から、2次光の波長の長い蛍光体を含む樹脂層の順に積層することを特徴としている。しかし、本発明における三色の蛍光体を混合して含む単層の樹脂層を用いた場合には、明るさが著しく低下するものの、色再現性(NTSC比)には影響がない。したがって、色再現性(NTSC比)の向上のみを追求する場合には、三色の蛍光体を混合して含む単層の樹脂層を使用してもよい。
【0092】
また、上述の実施例では、緑色系発光蛍光体を含む樹脂層上に青色系発光蛍光体を含む樹脂層を積層している。しかし、本発明における緑色系発光蛍光体においては、波長450nm前後の1次青色光の励起による2次発光強度が弱い。したがって、緑色系発光蛍光体と青色系発光蛍光体とを混合して単層の樹脂層に含めても、白色発光としての明るさの低下は少なく、本発明における作用および効果は変わらない。
【0093】
(実施例16)
図9において、本発明の実施例16による発光装置の要部が模式的な縦断面図で図解されている。図9の発光装置では、白色樹脂からなりかつ段差を含まない反射面(内周面)を有するすり鉢状のカップ46の底面上に発光素子11が搭載され、その発光素子11は所定の様式で分布させられた蛍光体粒子43、44、45を含む透光性樹脂42で封止されていることにおいて、図1の発光装置と異なっている。
【0094】
透光性樹脂42としてはエポキシ樹脂、シリコーン樹脂などが用いられ得る。透光性樹脂42には赤色系発光蛍光体粒子43、緑色系発光蛍光体粒子44、および青色系発光蛍光体粒子45から選ばれた少なくとも2種以上が含まれ、それらの蛍光体粒子は種類に依存して概略層状に分離して分布させられている。ここで、より短い2次光波長を有する蛍光体粒子が発光素子11から遠い位置に分布させられている。
【0095】
すなわち、透光性樹脂42は大粒径蛍光粒子43、中粒径蛍光粒子44、および小粒径蛍光粒子45を含み、それらの蛍光粒子が層状に分離している。このような場合、大粒径蛍光粒子から発せられた光は、小粒径蛍光粒子で散乱されて、均一な放射光にされ得る。
【0096】
図9に示されているような発光装置は、以下のようにして作製され得る。すなわち、透光性樹脂42に含まれる蛍光体は上述のように赤色系発光蛍光体粒子43、緑色系発光蛍光体粒子44、および青色系発光蛍光体粒子45から選ばれた少なくとも2種以上であり、各種類の蛍光体粒子は硬化前の液状の透光性樹脂中で、互いに沈降速度が異なるように粒子径が調整される。
【0097】
液状樹脂中の蛍光粒子の沈降速度は、蛍光粒子に働く重力と粒子表面に接する液状樹脂による摩擦力の大きさとで決まり、その重力は粒径の三乗に比例し、摩擦力は粒径の自乗に比例するので、粒径の大小が沈降速度に大きく影響する。液状樹脂との摩擦力は、樹脂の種類にあまり依存せず、主に蛍光体粒子の表面状態に依存し、蛍光体の材質や表面処理に依存して異なる。
【0098】
一般に、特殊な表面処理を施していない蛍光体粒子においては、粒径の細かい蛍光体の方が単位質量当たりの表面積が大きくなるので、その沈降速度は粒径の粗い場合に比べて遅くなる(特許文献8の国際公開第02/059982号パンフレット参照)。なお、一次蛍光体粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には、一次粒子の粒径ではなく二次粒子の径に依存して沈降速度が決まる。実際の蛍光体粒子は理想的な球形ではないので単純に比較することはできないが、概略的には上述の議論が成立すると考えられる。
【0099】
上述のように沈降速度差を利用して、液状樹脂中に分散された粒子を粒径に依存させて分離するには、実用的には無機材料の蛍光体粒子で数μmの寸法であることが望まれる。たとえば、特許文献1に開示されているように粒径がボーア半径程度まで小さくされている場合には、分離に要する時間が非常に長くなってしまって実用的ではない。
【0100】
本実施例16では、赤色系、緑色系、および青色系の蛍光体粒子として、たとえばメディアン径がそれぞれ13μm、9.5μm、および6.5μmのものを使用し得る。ここで、メディアン径とは、粒径の分布の中央値を意味する。粒子の大きさを表すパラメータとしては平均粒子直径d50もしばしば用いられるが、どちらで表現しても本発明の作用効果には大きな影響を及ぼすことはない。なお、蛍光体種の明瞭な分離のためには、各蛍光体種における粒径の分布が狭いほど好ましいことは言うまでもない。
【0101】
より具体的には、再度図9を参照して、沈降速度が異なる複数種の蛍光体粒子43、44、45を一緒に液状の透光性樹脂42中に混練して、発光素子11が搭載されたカップ46内に注入する。この後、蛍光体粒子43、44、45を含む透光性樹脂42を所定時間静置する。そうすれば、沈降速度の大きい蛍光体種43は、カップ46底面側で濃度がより高く、カップ底面から離れるにしたがって濃度が低くなるように分布する。逆に、沈降速度の小さい蛍光体種45はカップ底面で濃度が小さくなり、カップ底面から離れるにしたがって濃度が高くなるように分布する。このようにして、沈降速度の大きさに依存して、蛍光体種の濃度分布が形成され得る。
【0102】
なお、以上の実施例において示された蛍光体を表す化学式および組成比は例示であって、本発明の作用効果を得るためには、前述の「課題を解決するための手段」において示された蛍光体の組成および組成比を満たせばよことに留意されたい。
【産業上の利用可能性】
【0103】
以上のように、本発明によれば、発光素子からの紫外光または青色光にて高効率に発光する複数種の蛍光体を波長変換部に利用する発光装置であって、発光色の設定が容易でありかつ輝度の高い発光装置を提供することができ、さらには、色再現性(NTSC比)が著しく良好な白色光を放射し得る発光装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0104】
10 発光装置、11 発光素子、12 波長変換部、12a 光学膜、13 赤色系発光蛍光体を含む樹脂層、14 緑色系発光蛍光体を含む樹脂層、15 青色系発光蛍光体を含む樹脂層、16 カップ、16a 段差(テラス)、17 アノード端子、18 カソード端子、19 金ワイヤ、21 配線基板、22 ワイヤ、23 蛍光体を含む樹脂ドーム、23a 赤色系発光蛍光体を含む樹脂層、23b 緑色系発光蛍光体を含む樹脂層、23c 青色系発光蛍光体を含む樹脂層、25 プレス金型、31、33、35 励起スペクトル、32、34、36 発光スペクトル、37 青色フィルタ、38 緑色フィルタ、39 赤色フィルタ、41 カップ、42 蛍光体を含む樹脂層、43 赤色系発光蛍光体粒子、44 緑色系発光蛍光体粒子、45 青色系発光蛍光体粒子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次光を発する発光素子と、
前記1次光の一部を吸収してその1次光の波長以上の波長を有する2次光を発する波長変換部とを含み、
前記波長変換部は互いに異なる光吸収帯域を有する複数種の蛍光体を含み、
前記複数種の蛍光体の少なくとも1種は他の少なくとも1種で発せられた2次光を吸収し得る吸収帯域を有することを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記複数種の蛍光体は、相対的に長い波長の2次光を発する蛍光体種の順序で前記発光素子に近い側から配置されていることを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記発光素子が発する1次光のピ−ク波長は400nmから500nmの範囲内にあることを特徴とする請求項1または2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記波長変換部は青色系発光蛍光体、緑色系発光蛍光体、および赤色系発光蛍光体の組合せ、または緑色系発光蛍光体と赤色系発光蛍光体との組合せを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の発光装置。
【請求項5】
前記青色系発光蛍光体は、
(M1,Eu)10(PO46・Cl2で表される2価のユーロピウム付活ハロ燐酸塩蛍光体、
a(M2,Eu)O・bAl23で表される2価のユ−ロピウム付活アルミン酸塩蛍光体、および
a(M2,Euc,Mnd)O・bAl23で表される2価のユーロピウムおよびマンガン共付活アルミン酸塩蛍光体から選ばれる少なくとも1種を含み、
ここで、M1はMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、M2はMg、Ca、Sr、BaおよびZnから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、a、b、cおよびdはa>0、b>0、0.1≦a/b≦1.0、0.001≦d/c≦0.2を満足する数を表すことを特徴とする請求項4に記載の発光装置。
【請求項6】
前記緑色系発光蛍光体は、
a(M2,Eue,Mnf)O・bAl23で表される2価のユーロピウムおよびマンガン共付活アルミン酸塩蛍光体、
2(M11-g,Eug)O・SiO2で表される2価のユーロピウム付活珪酸塩蛍光体、および
MI3(MII1-h,Ceh2(SiO43で表される3価のセリウム付活珪酸塩蛍光体から選ばれる少なくとも1種を含み、
ここで、M2はMg、Ca、Sr、BaおよびZnから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、a、b、eおよびfはa>0、b>0、0.1≦a/b≦1.0、0.3≦f/e≦5.0を満足する数を表し、M1はMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、gは0.005≦g≦0.10を満足する数を表し、MIはMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、MIIはAl、Ga、In、Sc、Y、La、GdおよびLuから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、hは0.01≦h≦0.4を満足する数を表すことを特徴とする請求項4または5に記載の発光装置。
【請求項7】
前記赤色系発光蛍光体は、(MIII1-j,Euj)MIVSiN3で表される2価のユーロピウム付活窒化物蛍光体を含み、ここで、MIIIはMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、MIVはAl、Ga、In、Sc、Y、La、GdおよびLuから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、jは0.001≦j≦0.05を満足する数を表すことを特徴とする請求項4から6のいずれかに記載の発光装置。
【請求項8】
1次光を発する発光素子と、
前記1次光の少なくとも一部を吸収してその1次光の波長以上の波長を有する2次光を発する波長変換部とを含み、
前記波長変換部は少なくとも緑色系発光蛍光体と赤色系発光蛍光体とを含み、
前記緑色系発光蛍光体は、a(M2,Eue,Mnf)O・bAl23で表される2価のユーロピウムおよびマンガン共付活アルミン酸塩蛍光体を含み、ここで、M2はMg、Ca、Sr、BaおよびZnから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、a、b、eおよびfはa>0、b>0、0.1≦a/b≦1.0、および0.3≦f/e≦5.0を満足する数を表すことを特徴とする発光装置。
【請求項9】
前記赤色系発光蛍光体は、(M31-gEug)M4SiN3で表される3価のユーロピウム付活窒化物蛍光体を含み、ここで、M3はMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、M4はAl、Ga、In、Sc、Y、La、GdおよびLuから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、gは0.001≦g≦0.05を満足する数を表すことを特徴とする請求項8に記載の発光装置。
【請求項10】
前記波長変換部は青色系発光蛍光体をさらに含み、前記青色系発光蛍光体は、
(M1,Eu)10(PO46・Cl2で表される2価のユーロピウム付活ハロ燐酸塩蛍光体、
a(M2,Eu)O・bAl23で表される2価のユーロピウム付活アルミン酸塩蛍光体、および
a(M2,Euc,Mnd)O・bAl23で表される2価のユーロピウムおよびマンガン共付活アルミン酸塩蛍光体から選ばれる少なくとも1種を含み、
ここで、M1はMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、M2はMg、Ca、Sr、BaおよびZnから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、a、b、cおよびdはa>0、b>0、0.1≦a/b≦1.0、および0.001≦d/c≦0.2を満足する数を表すことを特徴とする請求項9に記載の発光装置。
【請求項11】
前記発光素子は窒化ガリウム系半導体で形成されており、前記1次光のピーク波長が380nmから450nmの範囲内にあることを特徴とする請求項8から10のいずれかに記載の発光装置。
【請求項12】
前記1次光のピ−ク波長が390nmから420nmの範囲内にあることを特徴とする請求項11に記載の発光装置。
【請求項13】
前記発光装置から発する光が所定の色温度の黒体輻射と見なされる色度に設定されるように、前記発光素子からの前記1次光の波長成分と前記赤色系、前記緑色系、および前記青色系の蛍光体の各々から発する前記2次光の波長成分とが調整されていることを特徴とする請求項10記載の発光装置。
【請求項14】
前記発光素子は複数の樹脂層で覆われており、前記樹脂層の各々は前記赤色系、前記緑色系、および前記青色系の蛍光体のいずれかを含み、前記発光素子に近い樹脂層に含まれる蛍光体は遠い樹脂層に含まれる蛍光体に比べてピーク波長が長い前記2次光を発することを特徴とする請求項4または10に記載の発光装置。
【請求項15】
前記発光素子はパッケージのカップ内に配置され、前記複数種の蛍光体を含むそれぞれの蛍光体層の厚さが一定になるように前記カップの内壁に段差が設けられていることを特徴とする請求項14に記載の発光装置。
【請求項16】
前記カップ内壁は前記段差を境界として上段において下段よりも傾斜が急峻となるように形成されており、このことによって、上段の前記蛍光体層において下段の前記蛍光体層からの発光の影が少なくされ得ることを特徴とする請求項15に記載の発光装置。
【請求項17】
前記複数種の蛍光体は互いに異なるメディアン径を有することを特徴とする請求項1から16のいずれかに記載の発光装置。
【請求項18】
前記波長変換部の最外面と外部空間との間に、前記2次光を透過しかつ前記1次光のみを波長選択的に反射する光学膜が設けられていることを特徴とする請求項1から17のいずれかに記載の発光装置。
【請求項19】
パッケージの内壁の反射面に囲まれた底面上に発光素子を搭載する工程と、
前記パッケージ内に搭載された前記発光素子を覆うように、第1の蛍光体種が混錬された第1の液状樹脂を注入して硬化させる工程と、
硬化した前記第1液状樹脂および前記反射面の上に、前記第1蛍光体種に比べて短い2次光波長を有する第2の蛍光体種が混錬された第2の液状樹脂を注入して硬化させる工程とを含むことを特徴とする発光装置の製造方法。
【請求項20】
パッケージの内壁の反射面に囲まれた底面上に発光素子を搭載する工程と、
前記パッケージ内に搭載された前記発光素子を覆うように、粒径のメディアン値が異なる複数種の蛍光体が混練された液状樹脂を注入する工程と、
前記注入された液状樹脂を所定時間静置させて、粒径のメディアン値が大きい蛍光体種ほど前記発光素子近くで濃度が高くなるように沈降させる工程とを含むことを特徴とする発光装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−151419(P2011−151419A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95929(P2011−95929)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【分割の表示】特願2006−59689(P2006−59689)の分割
【原出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】