説明

発光装置及び発光装置の製造方法

【課題】発光特性に優れた発光装置及び発光装置の製造方法を実現する。
【解決手段】アルカリ性の現像液を使用してバンク13を形成した後に、酸性溶液を塗布して成膜してなる発光保護層8fを設けることで、発光阻害要因である残留現像液(TMAH)を封じ込め、正孔注入層8bに発光阻害要因(TMAH)を作用させないようにして、その正孔注入層8bを変質させることなくEL素子8を形成し、発光特性に優れたELパネル1を製造することを可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置及び発光装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機などの電子機器の表示デバイスとして、自発光素子である複数のEL(Electro Luminescence)発光素子をマトリクス状に配列したEL発光パネルを適用したものが知られている。
EL発光素子は、例えば、ポリイミドからなる絶縁層に形成された開口部に露出する第一電極上に発光層が成膜されて、その発光層上に第二電極が積層されてなるものが知られており(例えば、特許文献1参照)、そのパネルにおいて各開口部がそれぞれ画素に相当する発光部分となり、複数のEL発光素子によって発光領域が構成される。
【特許文献1】特開2002−91343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術のEL発光パネルにおいて、そのEL発光パネルの発光領域を構成する複数のEL発光素子のうち、EL発光素子が部分的に発光しない領域が生じてしまうことがあることがわかった。
【0004】
そこで、本発明の課題は、発光特性に優れた発光装置及び発光装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するため、本発明の一の態様は、
第一電極、前記第一電極上の少なくとも一層以上のキャリア輸送層、前記キャリア輸送層上の第二電極を有する発光装置であって、
基板の上面側に形成された前記第一電極に連通する開口部を有する隔壁と、
少なくとも前記隔壁を被覆する発光保護層と、
を備え、
前記発光保護層は、前記隔壁と前記キャリア輸送層との間に介在することを特徴としている。
好ましくは、前記発光保護層は、前記隔壁に起因する発光阻害要因を中和もしくは酸性にすることで、その発光阻害要因によるキャリア輸送層の輸送性劣化を改善させる。
また、好ましくは、前記発光保護層は、酸性材料によって形成されている。
また、好ましくは、前記隔壁は、ポジ型の感光性ポリイミド系樹脂材料を硬化してなる。
また、好ましくは、前記隔壁は、アルカリ性溶液によって現像されている。
【0006】
本発明の他の態様によれば、
第一電極、前記第一電極上の少なくとも一層以上のキャリア輸送層、前記キャリア輸送層上の第二電極を有する発光装置の製造方法であって、
基板の上面側に形成された前記第一電極に連通する開口部を有する隔壁を形成する隔壁形成工程と、
少なくとも前記隔壁を被覆し、前記隔壁に起因する発光阻害要因を封じ込める発光保護層を形成する発光保護層形成工程と、
前記第一電極及び前記発光保護層を覆う前記キャリア輸送層を形成するキャリア輸送層形成工程と、
を備えることを特徴としている。
【0007】
好ましくは、前記発光保護層形成工程は、前記発光保護層となる材料を成膜する際に、その隔壁に起因する発光阻害要因を中和もしくは酸性にする工程を含む。
また、好ましくは、前記隔壁形成工程は、前記隔壁となる材料を、アルカリ性溶液で現像する工程を含み、前記発光保護層形成工程は、前記前記隔壁及び前記第一電極の表面に残留する前記アルカリ性溶液を中和もしくは酸性にする工程を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた発光特性を有する発光装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明を実施するための好ましい形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
なお、本実施形態においては、発光装置を表示装置であるELパネルに適用し、本発明について説明する。
【0010】
図1は、ELパネル1における複数の画素Pの配置構成を示す平面図であり、図2は、ELパネル1の概略構成を示す平面図である。
【0011】
図1、図2に示すように、ELパネル1には、例えば、R(赤),G(緑),B(青)をそれぞれ発光する複数の画素Pが所定のパターンでマトリクス状に配置されている。
このELパネル1には、複数の走査線2が行方向に沿って互いに略平行となるよう配列され、複数の信号線3が平面視して走査線2と略直交する列方向に沿って互いに略平行となるよう配列されている。また、隣り合う走査線2の間において電圧供給線4が走査線2に沿って設けられている。そして、これら各走査線2と隣接する二本の信号線3と各電圧供給線4とによって囲われる範囲が、画素Pに相当する。
また、ELパネル1には、走査線2、信号線3、電圧供給線4の上方に覆うように、格子状の隔壁であるバンク13が設けられている。このバンク13によって囲われてなる略長方形状の複数の開口部13aが画素Pごとに形成されており、この開口部13a内に、後述する画素電極8a、発光保護層8f、正孔注入層8b、インターレイヤー8c、発光層8d、対向電極8eが積層されて設けられている。
【0012】
図3は、アクティブマトリクス駆動方式で動作するELパネル1の一画素に相当する回路を示した回路図である。
【0013】
図3に示すように、ELパネル1には、走査線2と、走査線2と交差する信号線3と、走査線2に沿う電圧供給線4とが設けられており、このELパネル1の一画素Pにつき、薄膜トランジスタであるスイッチトランジスタ5と、薄膜トランジスタである駆動トランジスタ6と、キャパシタ7と、EL素子8とが設けられている。
【0014】
各画素Pにおいては、スイッチトランジスタ5のゲートが走査線2に接続され、スイッチトランジスタ5のドレインとソースのうちの一方が信号線3に接続され、スイッチトランジスタ5のドレインとソースのうちの他方がキャパシタ7の一方の電極及び駆動トランジスタ6のゲートに接続されている。駆動トランジスタ6のソースとドレインのうちの一方が電圧供給線4に接続され、駆動トランジスタ6のソースとドレインのうち他方がキャパシタ7の他方の電極及びEL素子8のアノードに接続されている。なお、全ての画素PのEL素子8のカソードは、一定電圧Vcomに保たれている(例えば、接地されている)。スイッチトランジスタ5及び駆動トランジスタ6は、ともにnチャネル型でもよく、ともにpチャネル型でもよく、一方がnチャネル型で他方がpチャネル型であってもよい。
【0015】
また、このELパネル1の周囲において各走査線2が走査ドライバに接続され、各電圧供給線4が一定電圧源又は適宜電圧信号を出力するドライバに接続され、各信号線3がデータドライバに接続され、これらドライバによってELパネル1がアクティブマトリクス駆動方式で駆動される。電圧供給線4には、一定電圧源又はドライバによって所定の電力が供給される。
【0016】
次に、ELパネル1と、その画素Pの回路構造について、図4〜図6を用いて説明する。ここで、図4は、ELパネル1の一画素Pに相当する平面図であり、図5は、図4のV−V線に沿った面の矢視断面図、図6は、図4のVI−VI線に沿った面の矢視断面図である。なお、図4においては、電極及び配線を主に示す。
【0017】
図4に示すように、スイッチトランジスタ5及び駆動トランジスタ6は、信号線3に沿うように配列され、スイッチトランジスタ5の近傍にキャパシタ7が配置され、駆動トランジスタ6の近傍にEL素子8が配置されている。また、当該画素に対応する走査線2及び電圧供給線4の間に、スイッチトランジスタ5、駆動トランジスタ6、キャパシタ7及びEL素子8が配置されている。
【0018】
図4〜図6に示すように、基板10上の一面にゲート絶縁膜11が成膜されており、スイッチトランジスタ5、駆動トランジスタ6及びそれら周囲のゲート絶縁膜11の上に層間絶縁膜12が成膜されている。信号線3はゲート絶縁膜11と基板10との間に形成され、走査線2及び電圧供給線4はゲート絶縁膜11と層間絶縁膜12との間に形成されている。
【0019】
また、図4、図6に示すように、スイッチトランジスタ5は、逆スタガ構造の薄膜トランジスタである。このスイッチトランジスタ5は、ゲート電極5a、ゲート絶縁膜11、半導体膜5b、チャネル保護膜5d、不純物半導体膜5f,5g、ドレイン電極5h、ソース電極5i等を有するものである。
【0020】
ゲート電極5aは、基板10とゲート絶縁膜11の間に形成されている。このゲート電極5aは、例えば、Cr膜、Al膜、Cr/Al積層膜、AlTi合金膜、AlTiNd合金膜又はMoNb合金膜からなる。また、ゲート電極5aの上に絶縁性のゲート絶縁膜11が成膜されており、そのゲート絶縁膜11によってゲート電極5aが被覆されている。
ゲート絶縁膜11は、例えば、シリコン窒化物又はシリコン酸化物からなる。このゲート絶縁膜11上であってゲート電極5aに対応する位置に真性な半導体膜5bが形成されており、半導体膜5bがゲート絶縁膜11を挟んでゲート電極5aと相対している。
半導体膜5bは、例えば、アモルファスシリコン又は多結晶シリコンからなり、この半導体膜5bにチャネルが形成される。また、半導体膜5bの中央部上には、絶縁性のチャネル保護膜5dが形成されている。このチャネル保護膜5dは、例えば、シリコン窒化物又はシリコン酸化物からなる。
また、半導体膜5bの一端部の上には、不純物半導体膜5fが一部チャネル保護膜5dに重なるようにして形成されており、半導体膜5bの他端部の上には、不純物半導体膜5gが一部チャネル保護膜5dに重なるようにして形成されている。そして、不純物半導体膜5f,5gはそれぞれ半導体膜5bの両端側に互いに離間して形成されている。なお、不純物半導体膜5f,5gはn型半導体であるが、これに限らず、p型半導体であってもよい。
不純物半導体膜5fの上には、ドレイン電極5hが形成されている。不純物半導体膜5gの上には、ソース電極5iが形成されている。ドレイン電極5h,ソース電極5iは、例えば、Cr膜、Al膜、Cr/Al積層膜、AlTi合金膜、AlTiNd合金膜又はMoNb合金膜からなる。
チャネル保護膜5d、ドレイン電極5h及びソース電極5iの上には、保護膜となる絶縁性の層間絶縁膜12が成膜され、チャネル保護膜5d、ドレイン電極5h及びソース電極5iが層間絶縁膜12によって被覆されている。そして、スイッチトランジスタ5は、層間絶縁膜12によって覆われるようになっている。層間絶縁膜12は、例えば、厚さが100nm〜200nmの窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。
【0021】
また、図4、図5に示すように、駆動トランジスタ6は、逆スタガ構造の薄膜トランジスタである。この駆動トランジスタ6は、ゲート電極6a、ゲート絶縁膜11、半導体膜6b、チャネル保護膜6d、不純物半導体膜6f,6g、ドレイン電極6h、ソース電極6i等を有するものである。
【0022】
ゲート電極6aは、例えば、Cr膜、Al膜、Cr/Al積層膜、AlTi合金膜、AlTiNd合金膜又はMoNb合金膜からなり、ゲート電極5aと同様に基板10とゲート絶縁膜11の間に形成されている。そして、ゲート電極6aは、例えば、シリコン窒化物又はシリコン酸化物からなるゲート絶縁膜11によって被覆されている。
このゲート絶縁膜11の上であって、ゲート電極6aに対応する位置に、チャネルが形成される半導体膜6bが、例えば、アモルファスシリコン又は多結晶シリコンにより形成されている。この半導体膜6bはゲート絶縁膜11を挟んでゲート電極6aと相対している。
半導体膜6bの中央部上には、絶縁性のチャネル保護膜6dが形成されている。このチャネル保護膜6dは、例えば、シリコン窒化物又はシリコン酸化物からなる。
また、半導体膜6bの一端部の上には、不純物半導体膜6fが一部チャネル保護膜6dに重なるようにして形成されており、半導体膜6bの他端部の上には、不純物半導体膜6gが一部チャネル保護膜6dに重なるようにして形成されている。そして、不純物半導体膜6f,6gはそれぞれ半導体膜6bの両端側に互いに離間して形成されている。なお、不純物半導体膜6f,6gはn型半導体であるが、これに限らず、p型半導体であってもよい。
不純物半導体膜6fの上には、ドレイン電極6hが形成されている。不純物半導体膜6gの上には、ソース電極6iが形成されている。ドレイン電極6h,ソース電極6iは、例えば、Cr膜、Al膜、Cr/Al積層膜、AlTi合金膜、AlTiNd合金膜又はMoNb合金膜からなる。
チャネル保護膜6d、ドレイン電極6h及びソース電極6iの上には、保護膜となる絶縁性の層間絶縁膜12が成膜され、チャネル保護膜6d、ドレイン電極6h及びソース電極6iが層間絶縁膜12によって被覆されている。そして、駆動トランジスタ6は、層間絶縁膜12によって覆われるようになっている。
【0023】
キャパシタ7は、図4、図6に示すように、対向する一対の電極7a、7b及びそれらの間に介在する誘導体としてのゲート絶縁膜11を有している。そして、一方の電極7aは、基板10とゲート絶縁膜11との間に形成され、他方の電極7bは、ゲート絶縁膜11と層間絶縁膜12との間に形成されている。
なお、キャパシタ7の電極7aは、駆動トランジスタ6のゲート電極6aに一体に連なり接続されており、キャパシタ7の電極7bは、駆動トランジスタ6のソース電極6iに一体に連なり接続されている。また、駆動トランジスタ6のドレイン電極6hが電圧供給線4に一体に連なっている。
【0024】
なお、信号線3、キャパシタ7の電極7a、スイッチトランジスタ5のゲート電極5a及び駆動トランジスタ6のゲート電極6aは、基板10に一面に成膜された導電膜であるゲートメタル層をフォトリソグラフィー法及びエッチング法等によって形状加工することで一括して形成されたものである。
また、走査線2、電圧供給線4、キャパシタ7の電極7b、スイッチトランジスタ5のドレイン電極5h,ソース電極5i及び駆動トランジスタ6のドレイン電極6h,ソース電極6iは、ゲート絶縁膜11等に一面に成膜された導電膜であるソース、ドレインメタル層をフォトリソグラフィー法及びエッチング法等によって形状加工することで形成されたものである。
【0025】
また、ゲート絶縁膜11には、ゲート電極5aと走査線2とが重なる領域にコンタクトホール11aが形成され、ドレイン電極5hと信号線3とが重なる領域にコンタクトホール11bが形成され、ゲート電極6aとソース電極5iとが重なる領域に導電性のコンタクトホール11cが形成されており、コンタクトホール11a〜11c内にコンタクトプラグ20a〜20cがそれぞれ埋め込まれている。コンタクトプラグ20aによってスイッチトランジスタ5のゲート5aと走査線2が電気的に導通し、コンタクトプラグ20bによってスイッチトランジスタ5のドレイン電極5hと信号線3が電気的に導通し、コンタクトプラグ20cによってスイッチトランジスタ5のソース電極5iとキャパシタ7の電極7aが電気的に導通するとともにスイッチトランジスタ5のソース電極5iと駆動トランジスタ6のゲート電極6aが電気的に導通する。このコンタクトプラグ20a〜20cを介することなく、走査線2が直接ゲート電極5aと接触し、ドレイン電極5hが信号線3と接触し、ソース電極5iがゲート電極6aと接触してもよい。
【0026】
画素電極8aは、ゲート絶縁膜11を介して基板10上に設けられており、画素Pごとに独立して形成されている。ELパネル1が、EL素子8の光を基板10から出射するボトムエミッション型の場合、この画素電極8aは透明電極であって、例えば、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム、酸化インジウム(In23)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)又はカドミウム−錫酸化物(CTO)の少なくともいずれかを含む。ELパネル1が、EL素子8の光を後述する対向電極8eを透過して出射するトップエミッション型の場合、画素電極8aは、上述した透明電極となる層及びその層の下にAl膜やAl合金膜等の光反射層の積層構造でもよい。このとき、光反射層は、ソース、ドレインメタル層によって形成されてもよい。なお、画素電極8aは一部、駆動トランジスタ6のソース電極6iに重なり、画素電極8aとソース電極6iが接続している。
【0027】
そして、図4〜図6に示すように、層間絶縁膜12が、走査線2、信号線3、電圧供給線4、スイッチトランジスタ5、駆動トランジスタ6、画素電極8aの周縁部、キャパシタ7の電極7b及びゲート絶縁膜11を覆うように形成されている。
この層間絶縁膜12には、各画素電極8aの中央部が露出するように開口部12aが形成されている。そのため、層間絶縁膜12は平面視して格子状に形成されている。
【0028】
EL素子8は、図4、図5に示すように、アノードとなる第一電極としての画素電極8aと、画素電極8aの上及び後述するバンク13の表面上にわたって形成された発光保護層8fと、発光保護層8fの上に形成されたキャリア輸送層としての正孔注入層8bと、正孔注入層8bの上に形成されたキャリア輸送層の一部として機能するインターレイヤー8cと、インターレイヤー8cの上に形成された発光層8dと、発光層8dの上に形成された第二電極としての対向電極8eとを備えている。対向電極8eは全画素Pに共通のカソードであり、全画素Pに連続する単一電極として形成されている。
【0029】
発光保護層8fは、例えば、導電性高分子であるPEDOT(poly(ethylenedioxy)thiophene;ポリエチレンジオキシチオフェン)及びドーパントであるPSS(polystyrene sulfonate;ポリスチレンスルホン酸)からなる層である。
このPEDOT/PSSからなる発光保護層8fは、全画素P(画素電極8a)に連続するように成膜されており、画素電極8a及びバンク13の全面を被覆している。
特に、発光保護層8fは、正孔注入層8bが直接画素電極8aとバンク13の上に形成されないように、正孔注入層8bと画素電極8aの間および正孔注入層8bとバンク13の間に介在する層である。
この発光保護層8fは低抵抗の導電性高分子であるため、厚さ方向に順バイアス電圧が印加されると、画素電極8aから正孔注入層8bに正孔を輸送する機能を有し、さらにバンク13の成分が正孔注入層8bに移動しないように遮蔽する機能を有している。
【0030】
正孔注入層8bは、例えば、遷移金属酸化物からなる層であって、画素電極8aから発光層8dに向けて正孔を注入するキャリア注入層である。この正孔注入層8bには、遷移金属酸化物である酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化チタン等を用いることができ、特に酸化モリブデンであることが好ましい。
この正孔注入層8bは、バンク13及びバンク13の開口部13a内の全面に相当する発光保護層8fの上面全域に成膜されている。
【0031】
インターレイヤー8cは、例えば、ポリフルオレン系材料からなる電子輸送抑制層であって、電子が発光層8dから正孔注入層8b側へ移動することを抑制する機能を有する。
【0032】
発光層8dは、画素P毎にR(赤),G(緑),B(青)のいずれかを発光する有機材料を含み、例えば、ポリフルオレン系発光材料やポリフェニレンビニレン系発光材料等の共役二重結合ポリマーからなり、対向電極8eから供給される電子と、正孔注入層8bから注入される正孔との再結合に伴い発光する層である。このため、R(赤)を発光する画素P、G(緑)を発光する画素P、B(青)を発光する画素Pは、それぞれ発光層8dの発光材料が異なる。画素PのR(赤),G(緑),B(青)のパターンは、デルタ配列であってもよく、また縦方向に同色画素が配列されるストライプパターンであってもよい。
【0033】
対向電極8eは、ELパネル1がボトムエミッション型の場合、例えば、Mg、Ca、Ba、Li等の仕事関数が4.0eV以下、好ましくは3.0eV以下であり、30nm以下の厚さの低仕事関数層と、シート抵抗を下げるために低仕事関数層上に設けられた厚さが100nm以上のAl膜やAl合金膜等の光反射層との積層構造でもよい。
また、ELパネル1がトップエミッション型の場合、対向電極8eは、上記低仕事関数層と、その低仕事関数層上に設けられた、例えば、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム、酸化インジウム(In23)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)又はカドミウム−錫酸化物(CTO)等からなる透明導電層との積層構造でもよい。
この対向電極8eは全ての画素Pに共通した電極であり、発光層8dなどとともにバンク13を覆っている。
【0034】
バンク13は、層間絶縁膜12上に形成された隔壁であって、例えば、感光性のポリイミド系樹脂材料など、絶縁性の樹脂材料からなる。バンク13は、インターレイヤー8cや発光層8dを湿式法により形成するに際して、インターレイヤー8cや発光層8dとなる材料が溶媒に溶解または分散された液状体が隣接する画素Pに流出しないようにする隔壁として機能するものである。
【0035】
そして、バンク13および層間絶縁膜12によって発光部位となる発光層8dが画素Pごとに仕切られている。画素PのR(赤),G(緑),B(青)のパターンがストライプパターンの場合、図14に示すように、バンク13が同色画素に沿って縦方向にストライプ状に配列され、層間絶縁膜12は、図4と同様に、画素電極8aを囲むようにして画素電極8aの露出する開口部12aが設けられていればよい。
このバンク13の開口部13a内において、発光保護層8f、正孔注入層8b、インターレイヤー8c、発光層8dが、画素電極8a上に順次積層されている。
例えば、図5に示すように、バンク13の開口部13a内における画素電極8a上には発光保護層8fが積層され、発光保護層8f上には正孔注入層8bが積層されている。
そして、各開口部13aにおける正孔注入層8b上に、インターレイヤー8cとなる材料が含有される液状体を塗布し、基板10ごと加熱してその液状体を乾燥させ成膜させた化合物膜が形成され、インターレイヤー8cとして積層されている。
さらに、各開口部13aにおけるインターレイヤー8c上に、発光層8dとなる材料が含有される液状体を塗布し、基板10ごと加熱してその液状体を乾燥させ成膜させた化合物膜が形成され、発光層8dとして積層されている。
なお、この発光層8dとバンク13を被覆するように対向電極8eが設けられている(図5参照)。EL素子8は、インターレイヤー8cを設けずに正孔注入層8b上に直接発光層8dを積層した構造であってもよく、発光層8dの他に電子注入層があってもよい。
【0036】
このELパネル1は、次のように駆動されて発光する。
全ての電圧供給線4に所定レベルの電圧が印加された状態で、走査ドライバによって走査線2に順次オン電圧が印加されることで、これら走査線2に接続されたスイッチトランジスタ5が順次選択される。
各走査線2がそれぞれ選択されている時に、データドライバによって階調に応じたレベルの電圧が全ての信号線3に印加されると、その選択されている走査線2に対応するスイッチトランジスタ5がオンになっていることから、その階調に応じたレベルの電圧が駆動トランジスタ6のゲート電極6aに印加される。
この駆動トランジスタ6のゲート電極6aに印加された電圧に応じて、駆動トランジスタ6のゲート電極6aとソース電極6iとの間の電位差が定まって、駆動トランジスタ6におけるドレイン−ソース電流の大きさが定まり、EL素子8がそのドレイン−ソース電流に応じた明るさで発光する。
その後、その走査線2の選択が解除されると、スイッチトランジスタ5がオフとなるので、駆動トランジスタ6のゲート電極6aに印加された電圧にしたがった電荷がキャパシタ7に蓄えられ、駆動トランジスタ6のゲート電極6aとソース電極6i間の電位差は保持される。
このため、駆動トランジスタ6は選択時と同じ電流値のドレイン−ソース電流を流し続け、EL素子8の発光輝度を維持するようになっている。
【0037】
次に、ELパネル1の製造方法について説明する。
【0038】
基板10上にゲートメタル層をスパッタリングで堆積させ、フォトリソグラフィーによりパターニングして信号線3、キャパシタ7の電極7a、スイッチトランジスタ5のゲート電極5a及び駆動トランジスタ6のゲート電極6aを形成する。
次いで、プラズマCVDによって窒化シリコン等のゲート絶縁膜11を堆積する。
次いで、半導体膜5b、6bとなるアモルファスシリコン等の半導体層、チャネル保護膜5d、6dとなる窒化シリコン等の絶縁層を連続して堆積後、フォトリソグラフィーによってチャネル保護膜5d、6dをパターン形成し、不純物半導体膜5f,5g、6f,6gとなる不純物層を堆積後、フォトリソグラフィーによって不純物層及び半導体層を連続してパターニングして不純物半導体膜5f,5g、6f,6g、半導体膜5b、6bを形成する。
そして、フォトリソグラフィーによって、ゲート絶縁膜11に、ELパネル1の一辺に位置する走査ドライバに接続するための各走査線2の外部接続端子を開口するコンタクトホール(図示せず)及びコンタクトホール11a〜11cを形成する。次いで、コンタクトホール11a〜11c内にコンタクトプラグ20a〜20cを形成する。このコンタクトプラグの形成工程は省略されてもよい。
次いで、ELパネル1がボトムエミッション型の場合、ITO等の透明導電膜を堆積してからパターニングして画素電極8aを形成する。このとき、画素電極8aは、一側辺周縁が不純物半導体膜6gの一側辺周縁上に重なるように形成されている。その後、スイッチトランジスタ5のドレイン電極5h,ソース電極5i及び駆動トランジスタ6のドレイン電極6h,ソース電極6iとなるソース、ドレインメタル層を堆積して適宜パターニングして、走査線2、電圧供給線4、キャパシタ7の電極7b、スイッチトランジスタ5のドレイン電極5h,ソース電極5i及び駆動トランジスタ6のドレイン電極6h,ソース電極6iを形成する。このとき、画素電極8aの上記一側辺周縁上にソース電極6iの一側辺周縁が重なって相互に接続されている。
ELパネル1がトップエミッション型の場合、不純物半導体膜5f,5g、6f,6g、半導体膜5b、6bを形成して、引き続きソース、ドレインメタル層を堆積後、パターニングして、走査線2、電圧供給線4、キャパシタ7の電極7b、スイッチトランジスタ5のドレイン電極5h,ソース電極5i及び駆動トランジスタ6のドレイン電極6h,ソース電極6iに加えて、画素電極8aが形成される領域に光反射膜を形成してもよい。光反射膜は、ソース電極6iと連続して形成されていることになる。その後、ITO等の透明導電膜を堆積してからパターニングして画素電極8aを光反射膜上に形成する。ここで、ソース電極6iの一側辺周縁上に画素電極8aの一側辺周縁が重なって相互に接続されている。
また、ELパネル1がトップエミッション型の場合、ソース、ドレインメタル層以外の他の光反射膜(銀又はAl等)を用いてもよい。この場合、不純物半導体膜5f,5g、6f,6g、半導体膜5b、6bを形成後、上記他の光反射膜及びITO等の透明導電膜を連続して堆積してから、フォトリソグラフィーによって一括してともに画素電極8aの形状にパターニングし、次いで、ソース、ドレインメタル層を堆積後、パターニングして、走査線2、電圧供給線4、キャパシタ7の電極7b、スイッチトランジスタ5のドレイン電極5h,ソース電極5i及び駆動トランジスタ6のドレイン電極6h,ソース電極6iを形成してもよい。ここで電極8aの一側辺周縁上にソース電極6iの一側辺周縁画素が重なって相互に接続されている。また、上記他の光反射膜を堆積後にパターニングしてからITO等の透明導電膜を堆積してからパターニングしてもよい。このとき、透明導電膜をウェットエッチングする際のエッチャントで上記他の光反射膜が浸食される恐れがある場合、上記他の光反射膜の上面のみならず側面にも透明導電膜が残るように上記他の光反射膜より一回り大きく透明導電膜をパターニングすればよい。また、光反射膜を透明導電膜とともに画素電極8aの一部として構成する必要がなければ、画素電極形成領域において、上記他の光反射膜、透明絶縁膜、透明導電膜の三層構造になるようにしてもよい。
【0039】
次いで、図7に示すように、スイッチトランジスタ5や駆動トランジスタ6等を覆うように、気相成長法により窒化シリコン等の絶縁膜を成膜し、その絶縁膜をフォトリソグラフィーでパターニングすることで画素電極8aの中央部が露出する開口部12aを有する層間絶縁膜12を形成する。この開口部12aとともに、図示しない走査線2の外部接続端子、ELパネル1の一辺に位置するデータドライバに接続するための各信号線3の外部接続端子及び電圧供給線4の外部接続端子をそれぞれ開口する複数のコンタクトホールを形成する。
【0040】
次いで、図8に示すように、ポリイミド系の感光性樹脂材料(13)を基板10の上面側に成膜して、プリベークを行う。
例えば、本実施形態の場合、ポジ型の感光性ポリイミド系樹脂材料である、東レ株式会社製「フォトニースDW−1000」をスピンコートにて成膜した後、プリベークを行った。
【0041】
次いで、図9に示すように、成膜した感光性樹脂材料(13)にフォトマスクを用いて露光を行った後に現像処理して、画素電極8aが露出する開口部13aを有する格子状のバンク13を形成する。
例えば、本実施形態の場合、成膜された感光性樹脂材料(13)を所定のマスクパターンで露光処理後、水酸化テトラメチルアミン(TMAH)水溶液で現像処理することにより、開口部13aに相当する部分の樹脂材料を溶出させて開口部13aを形成し、バンク13を形成した。なお、現像液としてのTMAH水溶液は、アルカリ性の水溶液である。
そして、バンク13の表面や画素電極8aの表面に付着しているTMAH水溶液を洗い流すように水洗した後、バンク13が形成された基板10を乾燥して、180℃〜250℃でポストベークを行うことで、バンク13を焼成する。
【0042】
次いで、図10に示すように、バンク13と、そのバンク13の開口部13a内に露出する画素電極8aを被覆する発光保護層8fを形成する。
ここで、本実施形態において現像液に使用したTMAHは、バンク13の表面等に吸着されやすく残留しやすい。特に、アルカリ性を呈するTMAHが、バンク13や画素電極8aの表面に残留してしまっている状態で、そのバンク13や画素電極8a上に酸化モリブデン層などの正孔注入層8bを成膜した場合、その正孔注入層8bがTMAHの作用により変質してしまうことがある。つまり、正孔注入層8bを変質させてしまうTMAHは発光阻害要因となり、変質した正孔注入層8bの正孔注入性が悪化してしまうことで、EL素子8の発光に不具合が生じてしまうことがある。そのため、そのバンク13や画素電極8aの表面を発光保護層8fで被覆して、バンク13及び画素電極8aの表面に残留しているTMAHを、正孔注入層8bに作用させないようにする必要がある。
そして、例えば、バンク13と画素電極8aの表面に、強酸性のPSSをドーパントとして含む導電性高分子のPEDOTを成膜して発光保護層8fを形成する。例えば、本実施形態の場合、株式会社シュタルク社製「CH8000」を1/10に純水で希釈した溶液をスピンコート法で塗布し、180℃〜200℃で乾燥して4〜5nmの厚みを有する発光保護層8fを形成した。発光保護層8fを形成する前に、バンク12及び画素電極8aの表面に親液処理を施してもよい。
【0043】
特に、この発光保護層8fを成膜する際に塗布する材料溶液は、PSSを含有する酸性溶液であるので、バンク13や画素電極8aの表面にアルカリ性のTMAHが残留している場合、そのTMAHを中和もしくは酸性にすることが可能であり、発光阻害要因となるTMAHを低減あるいは消滅させることができ、TMAHを減滅することができる。
つまり、この発光保護層8fを形成することによって、発光保護層8fでTMAHを封じ込めるようにして、TMAHが残留している恐れのあるバンク13と画素電極8aに、直接正孔注入層8bを形成させないようにすることができる。更に、発光保護層8fを成膜する過程において、残留TMAHを中和処理することができるので、より一層TMAHが正孔注入層8bに作用しないようにすることが可能になる。
【0044】
次いで、図11に示すように、スパッタリング法、真空蒸着法などにより、酸化モリブデンなどからなる遷移金属酸化物層を成膜して、画素電極8a上の発光保護層8f上からバンク13表面上の発光保護層8f上にわたって連続した正孔注入層8bを形成する。
例えば、本実施形態の場合、酸化モリブデンを蒸着法で30nmの厚みに成膜して、バンク13及びバンク13の開口部13a内の全面に相当する発光保護層8fを覆う正孔注入層8bを形成した。
【0045】
次いで、図12に示すように、バンク13の開口部13a内における正孔注入層8b上に、インターレイヤー8cを構成する有機材料が水、或いは、テトラリン、テトラメチルベンゼン、メシチレン等の有機溶媒に溶解または分散された液状体を、分離した複数の液滴として吐出するインクジェット方式又は連続した液流を流し出すノズルプリント方式により塗布し乾燥させることで、正孔注入層8b上にインターレイヤー8cを積層して形成する。
更に、図12に示すように、バンク13の開口部13a内におけるインターレイヤー8c上に、発光層8dを構成するポリパラフェニレンビニレン系あるいはポリフルオレン系の有機発光材料が水或いはテトラリン、テトラメチルベンゼン、メシチレン等の有機溶媒に溶解または分散された液状体をインクジェット方式又はノズルプリント方式により塗布し乾燥させることで、インターレイヤー8c上に発光層8dを積層して形成する。なお、本実施形態の場合、発光試験用として緑色のポリフルオレン系発光材料をキシレンに溶かした溶液を開口部13a内のインターレイヤー8c上に塗布して発光層8dを形成した。また、インターレイヤー8cを設けずに正孔注入層8b上に直接発光層8dを積層した構造であってもよく、発光層8dの他に電子注入層があってもよい。
【0046】
次いで、図5に示すように、バンク13上における正孔注入層8bの上面と、バンク13の開口部13a内の発光層8dの上面に、対向電極8eを一面に成膜し、発光層8dを覆う対向電極8eを形成する。
例えば、本実施形態の場合、Caを蒸着法で30nmの厚みに成膜した後、さらに、低抵抗であり安定した性状を有するAlを蒸着法で500nmの厚みに成膜して、対向電極8eを形成した。
そして、この対向電極8eが成膜されたことで、EL素子8が形成されて、ELパネル1が製造される。
【0047】
このように、酸化モリブデン層を成膜して正孔注入層8bを形成することに先立って、バンク13と、そのバンク13の開口部13aに露出する画素電極8aの表面に酸性材料を含む発光保護層8fを成膜することによって、バンク13や画素電極8a上に残留するアルカリ性のTMAHを中和もしくは酸性にして除去することができる。更に、形成された発光保護層8fは、正孔注入層8bと画素電極8aの間および正孔注入層8bとバンク13の間に介在することとなって、TMAHが残留している恐れのあるバンク13と画素電極8aに、正孔注入層8bを接触させないようにすることができる。
【0048】
以上のように、この発光保護層8fを形成することによれば、正孔注入層8bに、その正孔注入層8bを変質させてしまう発光阻害要因となるTMAHを作用させないようにすることが可能となるので、良好な状態の正孔注入層8bを有するEL素子8を備えるELパネル1を製造することができる。
【0049】
(実施例1)
パターニングされた複数のITOが形成されたガラス基板上に、窒化シリコンからなる層間絶縁膜をパターン形成し、全面にポジ型の感光性ポリイミド系樹脂材料(フォトニースDW−1000 東レ株式会社製)を、スピンコートにて1〜5μmの厚さに堆積した後、ホットプレートによって感光性ポリイミド系樹脂材料を堆積したガラス基板に120℃で2分間プリベークを行った。その後、露光工程においてgh混合線を50〜100mJ/cm、5〜10秒の条件で隔壁非形成領域の感光性ポリイミド系樹脂材料に照射し、2.3〜2.5%TMAH溶液でガラス基板を現像後、純水で洗浄し、スピン乾燥を行った。次いでガラス基板をクリーンオーブンで180〜320℃で2時間ポストベークを行って開口部13aを有するバンク13を形成した。バンク13表面及びITO上にわたってPEDOT:PSS酸性溶液(CH8000 株式会社シュタルク社製)の1/10希釈水溶液を塗布し、180〜200℃で乾燥後、4〜5nmの発光保護層を被膜した。発光保護層の表面に、酸化モリブデンを蒸着法によって30nmの厚さに成膜した。次いでインターレイヤー、ポリフルオレン系の発光層(65nm厚)を順次成膜後、カソードとしてCaを30nm、Alを500nm連続して蒸着成膜した。
そして、正孔注入層8bの下層側に介在させたELパネル1の発光試験を行ったところ、図13(b)に示すように、ELパネル1の各画素Pを構成するEL素子8が好適に発光することを確認することができた。
これに対し、発光保護層8fを成膜せずに、他の条件を実施例1と同じにして正孔注入層8bを形成したELパネルの発光試験を行ったところ、図13(a)に示すように、そのELパネルのランダムな箇所においてEL素子8が部分的に発光しない領域、いわゆるダークスポットが生じてしまうことが確認された。これは、アルカリ性を呈するTMAH等の発光阻害要因が、酸化モリブデンなどからなる正孔注入層8bを変質させてしまい、その変質した正孔注入層8bの正孔注入性が悪化してしまうことで、発光しないEL素子8が生じてしまうためである。
【0050】
以上の結果から、アルカリ性のTMAHを現像液として使用してバンク13を形成した後に、酸化モリブデンなどからなる正孔注入層8bを形成するに際し、その正孔注入層8bの形成前に、発光保護層8fを成膜するELパネルの製造方法は、発光特性に優れたELパネル(発光装置)を製造することを可能にする技術であるといえる。
また、その製造方法に基づいて発光保護層8fを成膜した後に正孔注入層8bを形成したELパネル1は、発光特性に優れた発光装置であるといえる。
【0051】
(実施例2)
パターニングされた複数のITOが形成されたガラス基板上に、窒化シリコンからなる層間絶縁膜をパターン形成し、全面にポジ型の感光性ポリイミド系樹脂材料(フォトニースDW−1000 東レ株式会社製)を、スピンコートにて1〜5μmの厚さに堆積した後、ホットプレートによって感光性ポリイミド系樹脂材料を堆積したガラス基板に120℃で2分間プリベークを行った。その後、露光工程においてgh混合線を50〜100mJ/cm、5〜10秒の条件で隔壁非形成領域の感光性ポリイミド系樹脂材料に照射し、2.3〜2.5%TMAH溶液でガラス基板を現像後、純水で洗浄し、スピン乾燥を行った。次いでガラス基板をクリーンオーブンで180〜320℃で2時間ポストベークを行って開口部を有するバンクを形成した。バンク表面及びITO上にわたって発光保護層として酸化ゲルマニウム(GeO)をスパッタ2nmの厚さで成膜後、実施例1と同様に、発光保護層の表面に、酸化モリブデンを蒸着法によって30nmの厚さに成膜し、次いでインターレイヤー、発光層(65nm厚)を順次成膜後、カソードとしてBaを3nm、Alを500nm連続して蒸着成膜した。酸化ゲルマニウムによってバンクの成分が酸化モリブデンに移動することを遮蔽することによって、ダークスポットが成長しないことが確認できた。
【0052】
このように、酸化ゲルマニウム(GeO)からなる発光保護層8fであっても、正孔注入層8bと画素電極8aの間および正孔注入層8bとバンク13の間に介在することによって、発光保護層8fでTMAHを封じ込めるようにして、TMAHが残留している恐れのあるバンク13と画素電極8aに、正孔注入層8bを接触させないようにすることができる。
そして、GeOからなる発光保護層8fは正孔注入性を有しているので、正孔注入層8bに積層された際には、発光保護層8fは正孔注入層の一部として機能し、さらに、正孔注入層8bに発光阻害要因であるTMAHを作用させないようにすることが可能となり、良好な状態の正孔注入層8bを有するEL素子8を備えるELパネル1を製造することができる。
【0053】
なお、本発明は上記実施形態に限られるものではない。
例えば、発光保護層8fは、PEDOT/PSSが成膜された層であることに限らず、例えば、ホール注入性を妨げない酸化シリコン(SiO)などの金属酸化物(IV族元素の酸化物)が数nm成膜された層であってもよい。酸化シリコンを発光保護層8fとしたELパネル1の製造方法は、酸化ゲルマニウムのELパネル1の製法と同様であるので、説明は省略する。
【0054】
なお、以上の実施の形態において、発光装置を表示装置であるELパネルに適用した場合を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、露光装置、光アドレッシング装置、照明装置などに本発明を適用してもよい。
【0055】
また、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】ELパネルの画素の配置構成を示す平面図である。
【図2】ELパネルの概略構成を示す平面図である。
【図3】ELパネルの一画素に相当する回路を示した回路図である。
【図4】ELパネルの一画素を示した平面図である。
【図5】図4のV−V線に沿った面の矢視断面図である。
【図6】図4のVI−VI線に沿った面の矢視断面図である。
【図7】基板の上面側に形成された薄膜トランジスタと層間絶縁膜を示す断面図である。
【図8】基板の上面側に成膜されたバンクとなる材料層を示す断面図である。
【図9】基板の上面側に形成されたバンクを示す断面図である。
【図10】バンク及び開口部内に形成された発光保護層を示す断面図である。
【図11】バンク及び開口部内に形成された正孔注入層を示す断面図である。
【図12】開口部内に形成された正孔注入層及びインターレイヤー及び発光層を示す断面図である。
【図13】ELパネルの発光画像を示す説明図であり、発光保護層を備えないELパネルの比較例(a)と、発光保護層を成膜したELパネルの実施例(b)である。
【図14】ELパネルの画素の配置構成の他の例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 ELパネル(発光装置)
8 EL素子
8a 画素電極(第一電極)
8b 正孔注入層(キャリア輸送層)
8c インターレイヤー
8d 発光層
8e 対向電極(第二電極)
8f 発光保護層
10 基板
11 ゲート絶縁膜
12 層間絶縁膜
13 バンク(隔壁)
13a 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一電極、前記第一電極上の少なくとも一層以上のキャリア輸送層、前記キャリア輸送層上の第二電極を有する発光装置であって、
基板の上面側に形成された前記第一電極に連通する開口部を有する隔壁と、
少なくとも前記隔壁を被覆する発光保護層と、
を備え、
前記発光保護層は、前記隔壁と前記キャリア輸送層との間に介在することを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記発光保護層は、前記隔壁に起因する発光阻害要因を中和もしくは酸性にしていることを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記発光保護層は、酸性材料によって形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記隔壁は、ポジ型の感光性ポリイミド系樹脂材料を硬化してなることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の発光装置。
【請求項5】
前記隔壁は、アルカリ性溶液によって現像されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の発光装置。
【請求項6】
第一電極、前記第一電極上の少なくとも一層以上のキャリア輸送層、前記キャリア輸送層上の第二電極を有する発光装置の製造方法であって、
基板の上面側に形成された前記第一電極に連通する開口部を有する隔壁を形成する隔壁形成工程と、
少なくとも前記隔壁を被覆し、前記隔壁に起因する発光阻害要因を封じ込める発光保護層を形成する発光保護層形成工程と、
前記第一電極及び前記発光保護層を覆う前記キャリア輸送層を形成するキャリア輸送層形成工程と、
を備えることを特徴とする発光装置の製造方法。
【請求項7】
前記発光保護層形成工程は、前記発光保護層となる材料を成膜する際に、その隔壁に起因する発光阻害要因を中和もしくは酸性にする工程を含むことを特徴とする請求項6に記載の発光装置の製造方法。
【請求項8】
前記隔壁形成工程は、前記隔壁となる材料を、アルカリ性溶液で現像する工程を含み、
前記発光保護層形成工程は、前記前記隔壁及び前記第一電極の表面に残留する前記アルカリ性溶液を中和もしくは酸性にする工程を含む、
ことを特徴とする請求項6に記載の発光装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−67349(P2010−67349A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−229626(P2008−229626)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】