説明

発光装置用レンズ

【課題】発光装置の初期発光特性を長期間維持するため、長期間の使用に際して透過率劣化を抑制することができる発光装置用レンズを提供すること。
【解決手段】本発明に係る発光装置用レンズは、LEDチップと、前記LEDチップから放出される光を波長変換する波長変換部材と、前記LEDチップと前記波長変換部材との間に設けられるレンズと、を有する発光装置に用いられ、前記レンズは、質量%表示で、SiO、Al、NaO、CaOを必須成分とし、それらの合量を80%以上含有し、Fe+FeO 0.001〜0.9%を含有するガラスからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発光ダイオードを発光源とした発光装置に用いられるレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオードを発光源とした発光装置は、LEDチップで光を放射させた上、その放射光を蛍光体で波長変換することにより、所望色の発光を得るものである。
例えば、発光装置にて白色光を得るためには、窒化ガリウム(GaN)系のLEDチップで青色光を発生させた上で、その青色光をイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)系の蛍光体を保持する波長変換層に透過させることで、蛍光として得られた赤から緑に渡る光と蛍光体を透過してきた青色が合わさり、白色の発光を得ることができる。
【0003】
このような発光装置において、光出力を向上させることを目的にLEDチップと波長変換部材との間に光取出し増大部(レンズ)を設ける構成が提案されている(特許文献1)。この構成は、LEDチップの光取出し面側に光取出し率を増大させる機能を有する光取出し増大部を備え、この光取出し増大部はLEDチップと一体化されている。これにより波長変換部材は、光取出し増大部とは別部材で凹状開口部の内側にのみ形成されるので、発光装置ごとの色ばらつきや波長変換部材内での色むらが低減され、さらに波長変換部材を固定するのに、前もって透光性樹脂を充填しない構造としたため、LEDチップ上の光取出し増大部の効果を損ねることがない、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−166733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述の先行技術文献に記載された発光装置においては、光出力の向上が見られるものの、長期間の使用により光出力の減衰が大きくなる現象が確認された。この理由として、以下のことが考えられる。
LEDチップから放射される光は、その発光スペクトルに近紫外線を含んでいる。そのため、発光装置を長期間使用すると、LEDチップからの放射光に曝露されたLEDチップ上の光取出し増大部(レンズ)が、紫外線による影響で着色および変形することで、波長変換部材(蛍光体)に到達する放射光が少なくなる。これにより、発光装置の発光特性が劣化するためであると考えられる。また、レンズが着色するとLEDチップから放射される光の中の赤外線成分の透過率が低くなり、レンズ自体が蓄熱されることで、レンズの着色および変形が加速的に進行することとなる。これら紫外線による影響は、レンズに樹脂材を用いている場合において特に顕著に見られる。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するものであり、発光装置に用いられるレンズであって、発光装置の初期発光特性を長期間維持するため、長期間の使用に際して透過率特性の劣化を抑制することができるレンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は発光装置用のレンズであって、LEDチップと、前記LEDチップから放出される光を波長変換する波長変換部材と、前記LEDチップと前記波長変換部材との間に設けられるレンズと、を有する発光装置に用いられ、前記レンズは、質量%表示で、SiO、Al、NaO、CaOを必須成分とし、それらの合量を80%以上含有し、Fe+FeO 0.001〜0.9%を含有するガラスからなることを特徴としている。
また、前記レンズは、質量%表示で、WO、TiO、Nb、Bi、CeOのうちの少なくとも1種以上の成分を合計で0.05〜10%含有することを特徴としている。
また、前記レンズは、0〜300℃における平均熱膨張係数が、2〜10(×10−6/K)であることを特徴としている。
また、前記レンズは、質量%表示で、
SiO 66〜75%、
Al 0.1〜5%、
NaO 5〜15%、
O 5〜15%(ただし、RO:LiO+NaO+KO)
CaO 3〜10%、
MgO 0〜7%
RO 3〜18%(ただし、RO:CaO+MgO+BaO+SrO)
を含有することを特徴としている。
また、前記レンズは、板状ガラスの一方面をエッチングして得られる片面凹曲面状もしくは片面凸曲面状を有することを特徴としている。
また、前記レンズは、前記LEDチップ上に積層されていることを特徴としている。
また、本発明の発光装置は、前記発光装置用レンズを用いることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る発光装置用レンズによれば、発光装置を長期間使用しても、レンズの着色や変形の発生を抑制することができる。従って、発光装置の初期発光特性を長期間維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態によるレンズを用いたLED発光装置の概略断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態によるレンズを用いたLED発光装置の概略断面図である。
【図3】本発明のレンズについての製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の発光装置用レンズの一実施形態を図面を参照して説明する。
図1に記載の本実施形態の発光装置1は、LEDチップ3と、LEDチップ3が実装された実装基板5とLEDチップ3上に重ねて配置されたレンズ2と、レンズ2の光出射面側に設けられた波長変換部材4とを備えている。本実施形態の発光装置1は、例えば照明器具の光源や電子機器の操作表示部等に用いられるものである。
【0011】
実装基板5は、LEDチップ3が搭載される金属板と、金属板に積層されたガラスエポキシ基板からなる絶縁性基材とで構成されており、当該絶縁性基材における金属板側とは反対側の表面にLEDチップ3の図示しない両電極それぞれと電気的に接続される一対のリードパターンが設けられる。ここにおいて、金属板の材料としてはCuを採用しているが、熱伝導率の比較的高い金属材料であればよく、Cuに限らず、Alなどを採用してもよい。その他、ガラスとアルミナフィラーなどのセラミックスフィラーとからなるLTCC(低温同時焼成セラミック基板)を実装基板5として用いてもよい。また、実装基板上にLEDチップ等からの光を反射する銀などの光反射層を設けてもよい。前記光反射層には、長期信頼性を考慮し、銀などからなる導体層をガラスからなるオーバーコート層にて覆う構成であってもよい。
【0012】
LEDチップ3は、青色光を放射するGaN系青色LEDチップであり、結晶成長用基板としてサファイア基板やn形のSiC基板からなる導電性基板等が用いられる。結晶成長用基板の主表面側にGaN系化合物半導体材料により形成されて例えばダブルへテロ構造を有する積層構造部からなる発光部がエピタキシャル成長法(例えば、MOVPE法など)により成長され、結晶成長用基板の裏面に図示しないカソード側の電極であるカソード電極(n電極)が形成され、発光部の表面(導電性基板11の主表面側の最表面)に図示しないアノード側の電極であるアノード電極(p電極)が形成されている。要するに、LEDチップは、一表面側にアノード電極が形成されるとともに他表面側にカソード電極が形成されている。
レンズ2は、LEDチップ3上に重ねて配置されており、光入射面側が平坦で、光出射面側が凹曲面状に形成されている。LEDチップ3から放出された光は、レンズ2を透過することで光軸と平行な光になり、これにより波長変換部材4を通過する際の光の向きが揃うため、発光装置1における光の中心部と端部とで色見に差が生じることを抑制することができる。
【0013】
波長変換部材4は、レンズ2の光出射面側に設けられるものであり、レンズ2上に直接積層して形成されてもよいし、レンズ2と空気層を介し一定距離離間した位置に設けられてもよい。波長変換部材4は、シリコーン樹脂のような透明材料とLEDチップ3から放射された青色光によって励起されてブロードな黄色系の光を放射する粒子状の黄色蛍光体とを混合した混合物の成形品により構成されている。したがって、本実施形態の発光装置1は、LEDチップ3から放射された青色光と黄色蛍光体から放射された光とが波長変換部材4の光出射面から放射されることとなり、白色光を得ることができる。なお、波長変換部材4に用いる透明材料は、シリコーン樹脂に限らず、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などを採用してもよい。また、波長変換部材に用いる蛍光体は、前述の黄色蛍光体に限らず、例えば、赤色蛍光体と緑色蛍光体とを混合しても白色光を得ることができる。
LEDチップ3から放射される青色光の発光スペクトルは、波長450〜500nmに相対発光強度のピークをもち、また相対発光強度は高くないものの波長400nm未満の近紫外線も含まれている。そのため、LEDチップ3の光出射面側に隣接するレンズ2は、この近紫外線を含んだ光を透過することになる。レンズ2が、アクリル等の樹脂材やガラスで形成されている場合、この紫外線によってレンズ2が変色(いわゆる、紫外線ソラリゼーション)してしまう。レンズ2が変色すると、レンズ2を透過する光量が低下し、発光装置1の輝度の低下や発光色のずれといった品質の劣化をもたらすこととなる。また、レンズ2が変色すると赤外線の透過特性が低下し、これによりレンズ2自体が蓄熱し、発光装置1の放熱特性が劣化することとなる。
【0014】
そこで、本発明の発光装置用レンズは、質量%表示で、SiO、Al、NaO、CaOを必須成分とし、それらの合量を80%以上含有し、Fe+FeO 0.001〜0.9%を含有することにより、レンズに耐紫外線ソラリゼーション性を付与し、上記問題を解決したものである。
本発明の発光装置用レンズは、SiO、Al、NaO、CaOを必須成分とし、それらの合量を80%以上含有するガラスからなるため、樹脂材と比較し耐熱性が高く、LEDチップが発光により発熱し、レンズがその熱に長時間さらされたとしても熱に起因する劣化を抑制することが可能である。なお、前記合量は、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。また、ガラス組成として、鉄成分を含有するため、レンズが紫外線ソラリゼーションにより変色することを抑制することができる。鉄成分は、紫外線を強力に吸収する成分であり、ガラスに少量含有することで紫外線カット効果が期待できる本発明の実施形態に必須の成分であるが、質量%で、Fe+FeOが0.001%未満はその効果が期待できず、0.9%を超えるとレンズ自体が着色し光の透過量が低下するおそれがある。好ましくは、0.01%〜0.2%の範囲である。
鉄成分は、ガラス中においてFe2+やFe3+の異なる価数のイオン状態で存在し、紫外線照射によりイオン原子価が転換することでガラスが着色する要因となる。一方、紫外線照射により着色した部分が紫外線をカットする膜の役目を果たし、ガラス内部への紫外線の侵入を遮断することで紫外線ソラリゼーションの進行を防いでいる。そのため、ガラス中の鉄成分含有量が少ないと、ガラス内部に侵入した紫外線の作用で広範囲のガラス構造中の空孔に他イオンから電子が流入し、その空孔が発色中心となるため、結果としてガラスの透過率特性が劣化する。このような紫外線によるガラスの着色メカニズムに基づき、Fe+FeOは、所定範囲を含有することが必要である。
なお、ガラス中の鉄成分は、FeとFeOの状態で存在するため両者の合量(Fe+FeO)で規定した。Feは紫外線吸収能を高める成分であり、FeOは熱線吸収能を高める成分である。ガラスが高い透過率を得るためには、FeOの全酸化鉄に対する割合は40%未満であることが好ましい。FeとFeOのバランスは、ガラス原料に添加する酸化剤、還元剤の量、ガラス溶融炉内雰囲気の酸化還元条件などを調整することにより制御することができる。
また、ガラス中の鉄成分は、ガラス原料として鉄成分を添加する方法の他、硅砂原料に含まれる鉄成分を把握し、硅砂原料によって添加する方法、製造プロセスから混入する鉄成分を把握し、製造プロセスから添加する、つまり原料以外の手段で添加する方法、のいずれを用いてもよい。
【0015】
レンズは、耐紫外線ソラリゼーション性を付与する目的で、ガラスにWO、TiO、Nb、Bi、CeOを少なくとも1種以上含有してもよい。WO、TiO、Nb、Bi、CeOは、耐紫外線ソラリゼーション性、紫外線カット性能を付与する成分であるが、これらの合量が質量%で0.05%未満では期待する効果が得られず、10質量%を超えるとガラスが失透し易くなって均質性の悪化を生じる。これら成分合量での添加量は、好ましくは0.05〜3%の範囲である。
レンズは、0〜300℃における平均熱膨張係数が、2〜10×10−6/Kであることが好ましい。レンズは、LEDチップ上に公知の接着剤を用いて接着される。他方、前述のとおりLEDチップは発光により発熱する。そのため、レンズの平均熱膨張係数をLEDチップの発光体であるGaNの熱膨張係数と類似にすることで、レンズがLEDチップから剥れることを未然に防ぐことができる。なお、GaNは結晶構造であり結晶軸により熱膨張係数が相違するため、それを考慮しレンズの0〜300℃における平均熱膨張係数は、2〜10×10−6/Kとする。この範囲を外れると発光装置の使用時にレンズとLEDチップとの間に熱膨張差が生じ、接着部から剥れるおそれがある。
【0016】
本実施形態の発光装置用レンズを構成する各成分の含有量は、下記のとおりとすることが好ましく、ガラスを構成する各成分の含有量等を上記のように限定した理由を以下に説明する。なお、各成分の含有量は、すべて質量%で示してある。
【0017】
SiOは、ガラスの網目構造を形成する主成分であり、熱的、機械的特性を維持するためにも重要な成分である。その添加量が66%未満ではガラス構造が不安定になることで機械的特性が悪化するとともに、化学的耐久性も悪化する。また、75%を超えるとガラスの溶融性・成形性が悪くなるため、好ましくは66〜75%の範囲、より好ましくは68〜73%の範囲である。
【0018】
Alは、ガラスの失透性および化学的耐久性を改善する作用があるが、0.1%未満では分相や失透が発生しやすくなり、5%を超えると脈理の発生など溶融性が悪くなるため、好ましくは0.1〜5%の範囲であり、より好ましくは1〜4%である。
【0019】
LiO、NaO、KOは、融剤として作用し、ガラスの溶融性を改善するとともに、粘度、熱膨張係数の調整に用いられる。また、電気的特性に対しても大きな影響がある重要な成分である。これら3成分の含有量が合計で5%未満では融剤としての効果が得られず、溶融性が悪化する。15%を超えると、化学的耐久性が悪化し、熱膨張係数も大きくなる。このため、5〜15%の範囲が好ましい。これら3成分の中で、特にNaOを用いることが好ましい。
【0020】
CaO、MgO、BaO、SrOは、ガラスの溶融成形性や失透防止のために有効な成分であるが、これら成分の合計の含有量が3%未満ではその効果が少なく、18%を超えると機械的強度が低下する傾向がある。このため、好ましくは3〜18%の範囲、より好ましくは9〜15%である。
これら4成分の中で、特にCaOがガラスの溶融性を向上させるために有効な成分である。しかし、CaOの含有量が10%より多いとガラスの液相温度が高くなり安定したガラス成形が難しくなるうえに、熱膨張係数が高くなるなどの問題も生じる。また、3%未満では高温粘性が高くなり、均質溶融がしにくくなるほかに、歪点の低下などの問題が生じる。このため、好ましくは3〜10%の範囲であり、より好ましくは5〜9%の範囲である。
また、MgOはCaOと同様の効果が得られるもので、ガラスの溶融性を向上させるために有効な成分である。しかし、MgOの含有量が7%を超えると成形性などの問題が生じる。このため、好ましくは0〜7%の範囲であり、より好ましくは0〜5%の範囲である。
【0021】
その他の任意成分として、B、ZrOなどを溶融成形性向上、透過率の調整、機械的強度の調整、熱的特性の調整を目的として5%未満加えることができる。
【0022】
他の実施形態の発光装置として、図2に記載のものが挙げられる。図1の発光装置とは、レンズ6の形状が凸レンズであることのみで相違する。レンズの詳細な形状は、発光装置の詳細により適宜設定されるが、レンズが凹曲面状もしくは凸曲面状であるかは、レンズの屈折率と光出射面側に接する物質の屈折率により決められる。具体的には、レンズの屈折率が光出射面側に接する物質の屈折率より高い場合、凹曲面状とすべきであり、レンズの屈折率が光出射面側に接する物質の屈折率より低い場合、凸曲面状とすべきである。
【0023】
次に本実施形態の発光装置用レンズ6の製造方法について説明する。
【0024】
本実施形態の発光装置用レンズ6は、次のようにして作成することができる。まず、ガラス原料として酸化物、炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、塩化物などの原料粉末を上記組成範囲となるよう秤量・混合し、原料バッチとする。この原料バッチを白金坩堝に入れ、1350〜1500℃の温度で溶融し、十分に撹拌・清澄し均質なガラスとする。それら溶融ガラスを、枠に流し込み、ブロック状に成型し、徐冷点付近で保持して歪をなくしたのち、室温まで冷却した。そして、ブロック状のガラスをスライスし、所望の大きさ切断した上、光学面を研磨して、板状のガラス基板10を得た。なお、ガラス溶融は白金ルツボを用いたポット溶融、タンク炉による連続溶融などにより溶融することができる。成形は型に鋳込む、ローラーで板状に引き伸ばすなどの方法があるが、主にはフロート法により板成型することが好ましい。
【0025】
次いで、前記ガラス基板10の光学面に凹曲面状のレンズを形成する。ガラス基板10に凹曲面状のレンズ6を形成する方法としては、一例としてガラス基板10の一方面を後述するエッチング加工することで所望の凹曲面を形成したのち、ガラス基板10から凹曲面状部分を切り出すことでレンズ6を得るものである。
【0026】
凹曲面をエッチング加工する方法について、図3を用いて説明する。凹曲面が略球面である場合は、ガラス基板10にフォトレジストを塗布する工程と、フォトリソグラフィー技術を用いて、前記フォトレジストにレジストパターン11を形成する工程(a)と、該フォトレジスト11で被覆されたガラス基板10の等方性エッチングを行う工程(b)を用いる。また、凹曲面が非球面である場合は、前述の凹曲面が略球面である場合の工程に加え、ガラス基板10の等方性エッチングを行う工程を行った後に、ガラス基板10上のフォトレジスト11を除去(c)し、ガラス基板10の全面をエッチングする工程(d)を用いる。次いで、凹曲面を成形した箇所を切り出す(e)ことで、凹曲面状のレンズ6を得る。上記方法においては、略球面の凹曲面を形成する際のレジストパターン11やガラス基板10の全面をエッチングする量を調整することで、所望の略球面や非球面の凹曲面を容易に形成することができる。また、レンズ6の凹曲面がエッチングで加工されることで、レンズ6表面の平滑性が高く、レンズ6の光出射面における光の散乱が少なく、レンズ6を透過する光の減衰を抑制することができる。また、エッチングによる加工は、大判のガラス基板10を用いることで複数個のレンズ6を同時に加工できることから、レンズ6を低コストで製造することが可能である。
【0027】
凸曲面をエッチング加工する方法としては、ガラス基板にフォトレジストを塗布する工程と、フォトリソグラフィー技術を用いて、前記フォトレジストにレジストパターンを形成する工程と、該フォトレジストで被覆されたガラス基板の等方性エッチングを行う工程を用いる。ガラス基板のエッチングにおいては、フォトレジストで被覆された部分がエッチングされずに残ることから、円形の被覆部により周囲をエッチング等、レジストパターンやガラス基板の全面をエッチングする量を調整することで、所望の形状を容易に形成することができる。また、レンズの凸曲面がエッチングで加工されることで、レンズ表面の平滑性が高く、レンズの光出射面における光の散乱が少なく、レンズを透過する光の減衰を抑制することができる。また、エッチングによる加工は、大判の板状ガラスを用いることで複数個のレンズを同時に加工できることから、レンズを低コストで製造することが可能である。
【0028】
その他のレンズの製造方法としては、所定量の溶融ガラスをレンズ成型型に供給しプレス成型するダイレクトプレス法や、溶融ガラスからプリフォームを形成した後、プリフォームを金型でプレスするモールドプレス法などのガラス成形法を用いることもできる。
【実施例】
【0029】
次に、本発明の発光装置用レンズに実施例に基づいて詳細に説明する。表1に本発明の実施例および比較例を示す。例1〜例5は本発明の実施例、例6は比較例である。なお、表中の組成は質量%で示してある。表中記載のガラスは、表に示す各酸化物組成となるよう珪砂、各金属の炭酸塩、水酸化物等の原料粉末を秤量・混合し、芒硝を用いた清澄方法により白金坩堝を用いて1450℃で5時間溶融した。溶融ガラスは、充分に撹拌・清澄した後、矩形枠内に流出させ、徐冷後に以下に示す評価項目に合わせて所望の形状に加工したサンプルを作成した。
【0030】
これらサンプルについて、紫外線照射に対する影響を以下に示す耐紫外線ソラリゼーション試験により評価した。耐紫外線ソラリゼーション性試験による透過率の劣化度は、各ガラスサンプルを一辺30mm角の板状にカットし、厚さが1mmとなるよう両面光学研磨加工した試料を、水銀ランプ(H−400P)から20cmの位置に配置して300時間紫外線照射した後、波長400nmにおける透過率を測定し、紫外線照射前の初期透過率からの劣化度で表示した。なお、劣化度(%)=[(初期透過率−紫外線照射後の透過率)/初期透過率]×100である。上記試験において、劣化度が2%以上である場合、紫外線劣化あり、劣化度が2%未満の場合、紫外線劣化なしとした。
【0031】
【表1】

【0032】
実施例の結果から明らかなように、Fe+FeOを所定範囲含有することで、紫外線照射後の透過率減少を2%未満に抑えられており、高い耐紫外線ソラリゼーション性を有していた。これに対し、比較例では、Fe+FeOを含有していないためでは紫外線照射後の透過率減少が大きかった。そのため、比較例のガラスを発光装置用レンズとして用いると、長期の使用に伴いレンズが着色し、発光装置の輝度の低下や発光色のずれ等が懸念される。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明に係るガラスは、以上に詳述したように紫外線カット特性に優れているため、発光装置用レンズとして用いた場合、発光装置の輝度の低下や発光色のずれ等をもたらすことなく、発光装置の品質を長期にわたり維持することができる。
【符号の説明】
【0034】
1…LED発光装置、2…レンズ(凸曲面状レンズ)、3…LEDチップ、4…波長変換部材、5…実装基板、6…レンズ(凹曲面状レンズ)、10…ガラス基板、11…レジスト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光装置用のレンズであって、LEDチップと、前記LEDチップから放出される光を波長変換する波長変換部材と、前記LEDチップと前記波長変換部材との間に設けられるレンズと、
を有する発光装置に用いられ、
前記レンズは、質量%表示で、SiO、Al、NaO、CaOを必須成分とし、それらの合量を80%以上含有し、Fe+FeO 0.001〜0.9%を含有するガラスからなることを特徴とする発光装置用レンズ。
【請求項2】
前記レンズは、質量%表示で、WO、TiO、Nb、Bi、CeOのうちの少なくとも1種以上の成分を合計で0.05〜10%含有することを特徴とする請求項1記載の発光装置用レンズ。
【請求項3】
前記レンズは、0〜300℃における平均熱膨張係数が、2〜10(×10−6/K)であることを特徴とする請求項1記載の発光装置用レンズ。
【請求項4】
前記レンズは、質量%表示で、
SiO 66〜75%、
Al 0.1〜5%、
NaO 5〜15%、
O 5〜15%(ただし、RO:LiO+NaO+KO)
CaO 3〜10%、
MgO 0〜7%
RO 3〜18%(ただし、RO:CaO+MgO+BaO+SrO)
を含有することを特徴とする請求項1もしくは請求項2記載の発光装置用レンズ。
【請求項5】
前記レンズは、板状ガラスの一方面をエッチングして得られる片面凹曲面状もしくは片面凸曲面状を有することを特徴とする請求項1記載の発光装置用レンズ。
【請求項6】
前記レンズは、前記LEDチップ上に積層されていることを特徴とする請求項1記載の発光装置用レンズ。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6に記載の発光装置用レンズを用いた発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−9616(P2012−9616A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144088(P2010−144088)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】