説明

発光装置

【課題】 アクティブマトリクス方式に代表される、トランジスタ4を駆動素子として用いる電流駆動方式の発光装置において、簡素な構成によって従来よりも発光効率を向上させる。
【解決手段】 発光素子2と、発光素子2を駆動する駆動回路3とを備える発光装置であって、駆動回路3中にトランジスタ4が介装されるとともに、トランジスタ4の電流経路に、発光素子2から発する光により電気抵抗が低下する物質を含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置に関する。具体的には、発光素子とこれを駆動する駆動回路とを備え、この駆動回路中にトランジスタが介装された構成を有する発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発光装置の分野においては、単位消費電力あたりにおいて装置外部に取り出される光の量、すなわちフォトンの数(これを「発光効率」と呼ぶ。)をどれだけ大きくできるかが課題となっている。
【0003】
従来、発光装置の発光効率上昇という目的のために、(i)発光素子自身の発光効率を上昇させる(例えば、特許文献1,特許文献2等)、(ii)フィルター、封止剤、反射板等の光通過部の材料を改善する(例えば、特許文献3等)などの手段が取られてきた。
【0004】
一方、アクティブマトリクス方式に代表されるように、発光ダイオード(以下適宜「LED」という。)や電界発光素子(以下適宜「EL素子」という。)等の発光素子を電流により駆動する技術が実用化されている(例えば、特許文献4等)。また、アクティブマトリックス方式による駆動方式自体は、液晶ディスプレイ等において最も良く用いられている。ここで「駆動」とは、電圧印加などの入力に対応した出力、特に増幅電流を用いて素子を発光させることを指す。駆動回路を制御するための素子(駆動素子)としては、トランジスタ、特に電界効果トランジスタが用いられている。
【0005】
図1は、従来のアクティブマトリクス方式による発光装置の一例である、4端子方式のTFTデバイスの基本単位(以下、これを適宜「発光単位」と称する。)の要部構成を模式的に示す図である。図1に示す発光単位1は、電流により発光するLEDやEL素子等の発光素子2と、発光素子2を駆動するための駆動回路3とをそなえ、駆動回路3内には駆動用トランジスタ4が介装される。発光単位1には更に、スイッチング用トランジスタ5と記憶コンデンサ6が設けられている。駆動用トランジスタ4及びスイッチング用トランジスタ5としては、通常は電界効果トランジスタ(field-effect transistor:以下、「FET」と略記することがある。)が用いられる。この発光単位1は、例えばTFTデバイスの1画素等に相当し、通常はこの発光単位1が多数組み合わされ、更に図示しない光学フィルターや電源装置,筐体,演算回路などと適宜組み合わされることにより、TFTデバイス等の発光装置が構成されることになる。
【0006】
TFTデバイスにおいては、X軸方向とY軸方向の2方向に複数の導線(それぞれ「ソースライン」,「ゲートライン」と呼ばれる。図1ではそれぞれ「SL」,「GL」と示す。)が張り巡らされるとともに、各ソースラインと各ゲートラインとの交点に発光単位1が配置される。そして、X軸方向とY軸方向の2方向から電圧をかけることで、その交点に存在する発光素子2のアドレスを指定し、これを励起することができる。ここで、4端子方式を用いることにより、発光素子2励起のアドレシング信号を分離することができる。個々の発光素子2はスイッチング用トランジスタ4を介して選択され、発光素子2に対する励起電力は駆動用トランジスタ5により制御される。記憶コンデンサ6は、アドレスされた発光素子2に対する励起電力を蓄積する機能を有する。この記憶コンデンサ6によって、アドレシング継続時間に関わらず、デューティー・サイクルをほぼ100%にすることができる。
【0007】
【特許文献1】特開2004−14335号公報
【特許文献2】特開2004−26995号公報
【特許文献3】特開2004−47748号公報
【特許文献4】特開平11−8065号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、アクティブマトリクス方式に代表される、トランジスタを駆動素子として用いたディスプレイや照明等の発光装置においても、発光効率の向上が望まれているが、特許文献1〜3等の従来技術の手段だけでは、発光効率の改善には限界があった。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、その目的は、アクティブマトリクス方式に代表される、トランジスタを駆動素子として用いる電流駆動方式の発光装置であって、簡素な構成によって従来よりも発光効率を向上させた、優れた発光装置を提供することに存する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、発光素子の駆動回路に介装されるトランジスタの電流経路に、発光素子から発する光により電気抵抗が低下する物質(感光性電気抵抗低下物質)を含有させて、発光素子から発せられる、従来はエネルギー損失に寄与してしまっていたフォトンを、トランジスタの電流経路の電気抵抗低下に寄与させることにより、発光効率を大幅に向上させることが可能となり、上記課題を効果的に解決できることを見出して、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明の趣旨は、発光素子と、該発光素子を駆動する駆動回路とを備える発光装置であって、該駆動回路中にトランジスタが介装されるとともに、該トランジスタの電流経路が、該発光素子から発する光により電気抵抗が低下する物質(以下「感光性電気抵抗低下物質」という。)を含有することを特徴とする、発光装置に存する(請求項1)。
ここで、トランジスタが電界効果トランジスタである場合には、該電界効果トランジスタを構成するチャネルが、前記感光性電気抵抗低下物質を含有することが好ましい(請求項2)。
また、トランジスタがバイポーラ型トランジスタである場合には、該バイポーラ型トランジスタを構成するベース及び/又はコレクタが、前記感光性電気抵抗低下物質を含有することが好ましい(請求項3)。
また、前記感光性電気抵抗低下物質は、該発光素子から発する光により電気抵抗が1/10以下に低下する物質であることが好ましい(請求項4)。
また、前記感光性電気抵抗低下物質は、半導体であることが好ましい(請求項5)。
また、前記感光性電気抵抗低下物質は、光誘起金属−絶縁体転移物質であることが好ましい(請求項6)。
この場合、前記光誘起金属−絶縁体転移物質は,テトラチアフルバレン−テトラクロロベンゾキノン錯体,Pr(1-x)CaXMnO3,La(1-x)SrXAlO4,La(1-x)CaXMnO3,La(1-x)SrXMnO3,La(1-x)BaXMnO3,Nd(1-x)SrXMnO3、及びSr2MoFeO6からなる群(但し、Xはそれぞれ独立に、0以上、1以下の数を表わす。)より選択される、少なくとも一種の物質であることが好ましい(請求項7)。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アクティブマトリクス方式に代表される、トランジスタを駆動素子として用いる電流駆動方式の発光装置において、簡素な構成によって発光効率を従来よりも向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に制限されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0014】
本発明の一実施の形態として、本発明を4端子方式のTFTデバイスの発光装置の基本単位に適用した場合について説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る発光装置の基本単位(以下、これを適宜「本実施形態の発光単位」と称する。)10の要部の構成を模式的に示す図である。なお、図1は従来の技術を説明する際に用いた図であるが、本発明を適用した場合においても発光単位の要部構成は変わらないので、図1を用いて同様に説明することにする。図1に示す発光単位10は、電流により発光する発光素子20と、発光素子20を駆動するための駆動回路30とをそなえ、駆動回路30内には駆動用トランジスタ40が介装される。発光単位10には更に、スイッチング用トランジスタ50と、記憶コンデンサ60とが設けられる。この発光単位10も、従来の発光単位1と同様、例えばTFTデバイスの1画素等に相当し、通常はこの発光単位10が多数組み合わされ、更に図示しない光学フィルターや電源装置,筐体,演算回路などと適宜組み合わされることにより、TFTデバイス等の本実施形態の発光装置が構成されることになる。
【0015】
発光素子20は、電流により発光する素子である。具体的には、素子に流入するキャリア(電子又は正孔)の運動エネルギーの一部を電磁波、特に可視光の輻射エネルギーに変換する素子のことをいう。その種類は特に制限されないが、例としては無機EL素子(無機電場発光型EL素子)、無機LED(無機電荷注入型EL素子)、有機LED(有機EL素子)等が挙げられる。発光素子のより具体的な構成及び製造法については、例えば特開平01−245087号,特開平08−293624号,特開平09−148071号の各公報等の記載を参照することができる。
【0016】
駆動用トランジスタ40及びスイッチング用トランジスタ50としては、任意のトランジスタが用いられる。例としてはFET、バイポーラトランジスタ等が挙げられるが、中でも、電流を流さず電圧を印加するだけで良いという理由からは、FETが好ましい。また、駆動用トランジスタ40とスイッチング用トランジスタ50とは同一の種類のトランジスタ(FET,バイポーラトランジスタ)であってもよく、異なる種類のトランジスタであっても良い。トランジスタのより具体的な構成及びその製造法については、例えば特開2004−103638号,特開2004−95578号の各公報等の記載を参照することができる。
【0017】
発光素子20、駆動用トランジスタ40、スイッチング用トランジスタ50を構成する材料は、何れも有機物であることが好ましい。例えば、発光素子20として有機LEDを用いるとともに、駆動用トランジスタ40及びスイッチング用トランジスタ50として有機トランジスタを組み合わせて用いることが好ましい。これらの構成要素を有機物材料で形成することにより、発光装置をフレキシブルな形状とすることができるとともに、容易且つ低コストに発光装置を製造することが可能となる。
【0018】
本実施形態の発光単位は、発光素子20の駆動回路30に介装される駆動用トランジスタ40の電流経路が、発光素子20から発する光の照射により電気抵抗が低下する物質(以下適宜「感光性電気抵抗低下物質」という。)を含有することを特徴とする。
【0019】
ここで、トランジスタの「電流経路」とは、駆動用トランジスタ40の構造中で、発光素子20を駆動する電流(駆動電流)が流れる部分のことをいう。駆動用トランジスタ40がFETの場合にはチャネル、バイポーラトランジスタの場合にはベース及び/又はコレクタとなる。
【0020】
また、感光性電気抵抗低下物質とは、具体的には、下記式(I)で定義される電気抵抗率変化率Rが、1以下の値となる物質のことを言う。
R≡(光照射時の電気抵抗率)/(光非照射時の電気抵抗率) (I)
【0021】
式(I)において、光照射時及び光非照射時の各電気抵抗率は、以下の手順によって測定した値を用いることが好ましい。
測定環境に関しては、測定に支障がない限りにおいて、外光の影響がなるべく少なくなるようにする。例えば暗室や、光が遮蔽される構造の箱内などで測定を行なうと良い。試料の温度は、測定に支障がない限りにおいて、なるべく一定となるようにする。
【0022】
この環境下で、測定対象となる試料に対し、4端子法にて電気抵抗率の測定を行なう。ここで、試料は単結晶,多結晶,非晶質の何れの状態であっても良い。照射する光としては、本実施形態の発光装置に用いられる発光素子又はこれと同種の発光素子が発する光を用いる。発光素子は、試料に対して一定の距離をおいて固定される。この距離に制限はないが、測定に支障がない限りにおいて隣接させるようにする。また、隣接させない場合でも、該距離を5cm以内に配置する。5cmより遠いと、実際にはR≦1となるべき物質であっても、その現象が観測にかからない場合があるためである。照射する光の強度は、測定に支障がない限りにおいて、十分に大きく取る。上述の測定条件の許容範囲内の条件のうち、少なくとも1つの条件においてR≦1になるという要件を満たす物質を、感光性電気抵抗低下物質と定義するものとする。
【0023】
本実施形態の発光単位10において、駆動用トランジスタ40の電流経路が含有する感光性電気抵抗低下物質は、R≦1であれば特に制限されないが、Rの値は小さいほど好ましい。具体的には、R≦1/10であることが好ましく、R≦1/1000であることがより好ましく、R≦1/10-6であることが更に好ましい。Rの下限に関して特に制限はないが、通常はR≧1/10-24である。
【0024】
本実施形態において用いられる感光性電気抵抗低下物質は、通常は半導体であることが好ましい。ここで、感光性電気抵抗低下物質が「半導体である」とは、光非照射条件下において半導体の性質を示すことを指す。電流経路に半導体を用いた方が、トランジスタを動作させた時に、十分な量の出力電流が流れるからである。
【0025】
また、本実施形態において用いられる感光性電気抵抗低下物質は、光誘起金属−絶縁体転移を起こす物質であることが好ましい。ここで、「光誘起金属−絶縁体転移を起こす物質」とは、もともとバンドギャップが存在し、すなわち半導体又は絶縁体であったものが、光によってキャリアが誘起された際に、元の電子状態が変化して、バンドギャップが減少し、好ましくは消失する物質のことを指す。光の非照射時においてこのような現象が起こっているかどうかは、光電子分光法や電気抵抗率の温度係数測定、光学スペクトルの測定などによってバンドギャップの変化を観測することで確認できる。
【0026】
感光性電気抵抗低下物質は、光誘起金属−絶縁体転移を起こす物質であり、且つ、光非照射時に半導体であることが更に好ましく、有機物であることが最も好ましい。光誘起金属−絶縁体転移を起こし、且つ、半導体である物質の好ましい例としては、tetra-thiafulvalen(TTF)−tetrachloro-benzoquinone(CA)錯体,Pr(1-x)CaXMnO3,La(1-x)SrXAlO4,La(1-x)CaXMnO3,La(1-x)SrXMnO3,La(1-x)BaXMnO3,Nd(1-x)SrXMnO3,Sr2MoFeO6等が挙げられる(但し、Xはそれぞれ独立に、0以上、1以下の数を表わす。)。これらは何れか一種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせで用いても良い。なお、これらの例示化合物は、その光誘起金属−絶縁体転移に影響しない範囲であれば、別の元素を含有していても構わない。
【0027】
なお、光照射による金属−絶縁体転移現象を示す物質、及びその作用については、Physical Review Letters, 78, 22, 4257(1997),Journal of the Physical Society of Japan, 66, 11, 3570(1997) 等に記載されている。
【0028】
また、本実施形態の発光単位10は、感光性電気抵抗低下物質のRを小さくする等の目的で、必要に応じて温度を制御する手段を設け、外環境の温度よりも高温又は低温に保つようにしても良い。温度を制御する手段としては、ヒーターやクライオスタット等の温調装置を設けるのが一般的である。
【0029】
本実施形態の発光単位10では、発光素子20から生じたフォトンが、駆動用トランジスタ40の電流経路に吸収されるように、これらの構成要素が配置される。特に、発光素子20と駆動用トランジスタ40が接していることが好ましく、発光素子20と駆動用トランジスタ40とが多層膜構造で一体化していることがより好ましい。フォトンが駆動用トランジスタ40の電流経路に吸収されることにより、駆動用トランジスタ40の電流経路のキャリア散乱が低下し、即ちその電気抵抗率が低下する。これによって、発光装置の同一消費電力当たりの駆動用トランジスタ40部分における消費電力の比率が減り、その分は発光素子20での消費電力となり、即ちフォトンの放出に寄与することになる。
【0030】
従来のTFTデバイス等の発光装置では、発光素子から放出されたフォトンの一部として、トランジスタなど周囲に配置されたトランジスタ等のコンポーネントによって吸収され、有効なフォトンとして発光装置の外部に取り出されることのないフォトンが存在していた。このようなフォトンのエネルギーは、ジュール熱として散逸していた。これに対して、本実施形態の発光単位10では、駆動用トランジスタ40の電流経路が感光性電気抵抗低下物質を含有しており、発光素子から放出されたフォトンを吸収してその電気抵抗率を低下させるので、ジュール熱として散逸していたフォトンのエネルギーがトランジスタ内の電子散乱の低下に寄与し、ひいては発光素子20からのフォトンの増大に繋がる。これによって、発光装置の同一消費電力当たりで見た場合、発光装置の外部に取り出されるフォトン量が増大し、つまりは発光効率が上昇することになる。
【0031】
本実施形態の発光単位10を製造する方法は特に制限されないが、通常はその主な構成要素を層状にして積層することにより、積層体として形成することが好ましい。
【0032】
図2は、本実施形態の発光単位10を積層体として構成する場合の積層構造の例を模式的に示す断面図である。図2においては、本実施形態の発光単位10が有する主な構成要素、すなわち発光素子20及び駆動用トランジスタ40と、これらが積層される基板90のみを示し、その他の構成要素(スイッチング用トランジスタ50、記憶コンデンサ60等)は省略している。
【0033】
図2に示す積層構造では、基板90上に、駆動用トランジスタ40及び発光素子20がこの順に積層されて形成されている。駆動用トランジスタ40としては、FETを用いる場合を例として示しており、具体的には、ゲート電極41,ゲート絶縁層42,ソース電極43,ドレイン電極44,感光性電気抵抗低下層45より構成されている。ここで、感光性電気抵抗低下層45は、主に上述の感光性電気抵抗低下物質を用いて形成される部位であり、FETのチャネルとして(即ち、トランジスタの電流経路として)機能することになる。また、発光素子20は、電子輸送層21,発光層22,正孔輸送層23,対向電極24より構成されている。発光層22から生じた光の一部が、感光性電気抵抗低下層45に吸収されることにより、感光性電気抵抗低下部45のキャリア散乱を低下させる。
【0034】
図2に示す積層構造を有する発光単位10は、基板90の上に発光素子20及び駆動用トランジスタ40の各構成要素を順次積層することにより、製造することができる。
【0035】
基板90の材料は特に制限されない。ある程度の形状安定性を備え、発光素子20や駆動用トランジスタ40等の発光単位10の構成要素に影響を与えない物質であれば、発光単位10の用途や他の構成要素の種類等に応じて適宜選択することができる。例としてはプラスチック、SiO2、Si等が挙げられるが、中でも価格や取り扱い性等の観点からプラスチックが好ましい。また、その形状にも特に制限は無く、板状、シート状、フィルム状等、発光単位の用途に応じて適宜選択することができる。中でも、プラスチックフィルムを使用した場合、軽量で柔軟性に優れた壊れにくい発光装置を作成することができる。なお、基板は単一の層からなるものでも良く、複数の層からなるものでも良い。複数の層からなる場合、各層は互いに異なる材料から形成されていても良い。
【0036】
なお、基板90に所定の表面処理を行なうことで、得られる発光単位10の特性を向上できる場合がある。例えば、基板90表面の親水性・疎水性の度合いを調整することで、その上に成膜される膜の膜質を改良し得る。特に、有機半導体材料は、分子の配向など膜の状態によって特性を大きく変えるが、基板90に表面処理を施すことによって、基板90と半導体膜との界面部分における分子配向が制御され、特性が改善される。このような基板処理としては,例えば,ヘキサメチルジシラザン,シクロヘキセン,オクタデシルトリクロロシラン等による疎水化処理,塩酸や硫酸,酢酸等による酸処理,水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化カルシウム,アンモニア等によるアルカリ処理,オゾン処理,フッ素化処理,酸素やアルゴン等のプラズマ処理,Langmuir−Blodgett膜の形成処理,その他の絶縁体や半導体の薄膜の形成処理,機械的処理,コロナ放電などの電気的処理などが挙げられる。
【0037】
基板90上に発光単位10の各部を形成するためには、種々の方法が用いられる。例えば、PVD(Physical Vapor Deposition)法,CVD(Chemical Vapor Deposition)法,真空蒸着法などの真空プロセス;キャスティング,スピンコーティング,ディッピング,ブレードコーティング,ワイヤバーコーティング,スプレーコーティング等の塗布法;水面上に形成した単分子膜を基板に移し積層するLangmuir−Blodgett法,液晶や融液状態を2枚の基板で挟んだり毛管現象で基板間に導入したりする塗布類似方法;インクジェット印刷,スクリーン印刷,オフセット印刷,凸版印刷等の印刷法;マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法;ゾルゲル法等が挙げられる。これらの手法を複数組み合わせても良い。
【0038】
真空プロセスについて説明を加える。例えば、真空蒸着法の場合、積層させる材料をルツボや金属のボートに入れて真空中で加熱し、これを蒸発させて、積層対象となる基板等に付着させる。この際、気体圧力としては、通常1×10-3Torr(1.3×10-1Pa)以下,好ましくは1×10-6Torr(1.3×10-4Pa)以下の範囲とする。また、基板温度によって半導体膜、ひいてはデバイスの特性が変化するので、最適な基板温度を選択する。具体的には、通常0℃以上、200℃以下の範囲が好ましい。また、蒸着速度は通常0.001nm/s以上、好ましくは0.01nm/s以上、また、通常10nm/s以下、好ましくは1nm/s以下の範囲である。
【0039】
PVD法の場合は、積層させる材料を固体にしたもの(ターゲット)を、積層対象となる基板等とともにプラズマ中に配置し、プラズマにより加速したアルゴン等のイオンをターゲットに衝突させて材料原子を叩き出す。その結果、基板等の上に形成するべき材料が堆積する。放電が起こる際の気体圧力は、ターゲットの材料によっても異なるが、通常0.1Pa以上、1Pa以下の範囲である。
【0040】
CVD法は、積層させる材料の原料となる物質同士を真空空間内で反応させ、PVD法と同様、積層対象となる基板等の上に形成すべき物質を堆積させる。
【0041】
真空プロセスには、高価な設備が必要であるものの、成膜が良く均一な膜が得られやすいという利点がある。これに対し、塗布法,印刷法は、安価な設備及び,一度に大面積の層を形成できるという利点を持ち、特に材料が有機物である場合に,この方法を用いることが好ましい。
【0042】
このように作製された各層、特に感光性電気抵抗低下層45等の有機半導体からなる層に対しては、後処理を行なうことにより、さらに特性を改良することも可能である。例えば、加熱処理により、成膜時に生じた膜中の歪みを緩和することができ、特性の向上を図ることができる。更に、酸素や水素等の酸化性又は還元性の気体や液体に曝すことにより、酸化又は還元による特性変化を誘起することもできる。これは、例えば膜中のキャリア密度の増加、あるいは減少の目的に利用される.
【0043】
また、発光単位10の各層には、特性を改善したり他の特性を付与したりするために、必要に応じて複数の材料を混合して用いたり、各層、例えば感光性電気抵抗低下層や発光層等を、複数の層に分けて形成しても良い。また、各種添加剤を添加しても良い。
【0044】
各層の膜厚は特に制限されず、目的とする発光単位10の用途や形状、使用する成膜の手法等に応じて、適宜選択することが可能であるが、必要な機能を果たせる範囲においてできるだけ薄くすることが好ましい。
【0045】
積層構造を有する発光単位10には、上述の各層に加えて、適宜保護層を設けることもできる。保護層を形成すると、湿度などの外気の影響を最小限にでき、電気的特性を安定化させたり、経時劣化を防いだりすることができるという利点がある。保護層は、発光素子20及び駆動用トランジスタ40のそれぞれに設けても良いし、それらを組み合わせた発光単位10や、それらが多数組み合わされて構成される発光装置全体を覆うような形態で設けても良い。保護層の材料は特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、ポリオレフィン等の各種樹脂からなる膜や、酸化珪素、酸化アルミニウム、窒化珪素等、無機酸化膜や窒化膜等の誘電体からなる膜が好ましい。保護層を成膜するにあたって公知の各種方法を用いうるが、保護層が樹脂からなる場合は、例えば、樹脂溶液を塗布後、乾燥させて樹脂膜とする方法や、樹脂モノマーを塗布又は蒸着した後に重合する方法などが挙げられる。また、成膜後に架橋処理を行ってもよい。保護層が無機物からなる場合は、例えばスパッタリング法,蒸着法等の真空プロセスでの形成方法や、ゾルゲル法に代表される溶液プロセスでの形成方法などを用いることができる。特に、酸素や水分の透過率や吸水率の小さな樹脂(ポリマー)を材料として用いることが好ましい。
【0046】
なお、以上説明した発光単位10の積層構造は一例であり、発光単位10の機能を損なわない限りにおいて、必要に応じて適宜変更を加えて実施することができる。この様な変更の例としては、積層の順序を変更したり、任意の二層間に別の層を設けたり、複数の層の機能を一層に兼ね備えさせることによって層数を減らしたりすることが挙げられる。
【0047】
以上説明した本実施形態の発光単位10は、上述したように、通常は複数を組み合わせることにより、また、必要に応じて、光学フィルター,電源装置,筐体,演算回路などの他の構成要素と組み合わせることにより、発光装置として使用される。発光装置をディスプレイとして用いる場合、例えば青、緑、赤の三色の光のいずれかを発光しうる発光単位10を、適宜組み合わせて構成することが好ましい。そのためには、各発光単位10の発光素子20として、青,緑,赤のいずれかの光を発する発光素子を用いればよい。
【0048】
以上、本発明を4端子方式のTFTデバイスの発光単位に適用した場合を例として、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の実施の形態は上述のものに限られるわけではなく、適宜変更を加えて実施することが可能である。
【0049】
例えば、駆動用トランジスタ40だけでなく、スイッチング用トランジスタ50の電流経路に、感光性電気抵抗低下物質を含有させても良い。この様な構成によれば、発光素子20から生じたフォトンがスイッチング用トランジスタ50の電流経路によっても吸収されるため、エネルギーの散逸をより抑えることが可能となる。
【0050】
また、図1に示す発光単位10では、1つの発光素子20に対して2つのトランジスタ(駆動用トランジスタ40、スイッチング用トランジスタ50)を有しているが、1つの発光素子に対して1つ又は3つ以上のトランジスタを有する発光装置に対して、本発明を適用することも可能である。何れかのトランジスタが発光素子を駆動する駆動回路中に介装されている形態であれば、駆動回路に介装されたトランジスタの電流経路に感光性電気抵抗低下物質を含有させることにより、上述した発光効率の向上効果を得ることが可能となる。
【0051】
更には、トランジスタの種類も特に制限されない。上の実施形態では電界効果トランジスタ(FET)を用いた場合を例にして説明したが、バイポーラ型のトランジスタに対しても本発明は同様に適用可能である。バイポーラ型トランジスタは通常、エミッタ、ベース、コレクタから構成され、ベース電圧のオン・オフによってコレクタ電流が制御されるという構成をとる。また、バイポーラ型トランジスタが発光素子の駆動回路に介装される場合、コレクタ端子を介して発光素子に接続される。この様な構成のバイポーラ型トランジスタにおいては、その電流経路、具体的にはベース及び/又はコレクタに対して、上述の感光性電気抵抗低下物質を含有させることが好ましい。これによって、上述したFETの場合と同様に、発光素子における発光効率の向上効果を得ることが可能となる。
【0052】
本発明を適用可能な発光装置は、上述したものに制限されるわけではない。発光素子と、発光素子を駆動する駆動回路とを備え、駆動回路中にトランジスタが介装された形態の発光装置であれば、各種の形態の発光装置に適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の発光装置は、アクティブマトリクス方式に代表されるトランジスタを駆動素子として用いる電流駆動方式の発光装置において、簡素な構成によって従来よりも発光効率を向上させることができるという効果がある。よって、この様な方式の発光装置が用いられる各種の分野、例えば、無機LEDディスプレイ、有機LED(有機EL)ディスプレイ、無機ELディスプレイ、液晶ディスプレイなどの分野において、好適に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施の形態に係る発光装置の基本単位(発光単位)の要部の構成、並びに、従来のアクティブマトリクス方式による発光装置の一例である、4端子方式のTFTデバイスの基本単位(発光単位)の要部の構成を模式的に示す図である。
【図2】本実施形態の発光単位を積層体として構成する場合の積層構造の例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1,10 発光装置の基本単位(発光単位)
2,20 発光素子
3,30 駆動回路
4,40 駆動用トランジスタ
5,50 スイッチング用トランジスタ
6,60 記憶コンデンサ
21 電子輸送層
22 発光層
23 正孔輸送層
24 対向電極
41 ゲート電極
42 ゲート絶縁膜
43 ソース電極
44 ドレイン電極
45 感光性電気抵抗低下層
90 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子と、該発光素子を駆動する駆動回路とを備える発光装置であって、
該駆動回路中にトランジスタが介装されるとともに、該トランジスタの電流経路が、該発光素子から発する光により電気抵抗が低下する物質(以下「感光性電気抵抗低下物質」という。)を含有する
ことを特徴とする、発光装置。
【請求項2】
該トランジスタが、電界効果トランジスタであって、
該電界効果トランジスタを構成するチャネルが、前記感光性電気抵抗低下物質を含有する
ことを特徴とする、請求項1記載の発光装置。
【請求項3】
該トランジスタが、バイポーラ型トランジスタであって、
該バイポーラ型トランジスタを構成するベース及び/又はコレクタが、前記感光性電気抵抗低下物質を含有する
ことを特徴とする、請求項1記載の発光装置。
【請求項4】
前記感光性電気抵抗低下物質が、該発光素子から発する光により電気抵抗が1/10以下に低下する物質である
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の発光装置。
【請求項5】
前記感光性電気抵抗低下物質が、半導体である
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の発光装置。
【請求項6】
前記感光性電気抵抗低下物質が、光誘起金属−絶縁体転移物質である
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載の発光装置。
【請求項7】
前記光誘起金属−絶縁体転移物質が,テトラチアフルバレン−テトラクロロベンゾキノン錯体,Pr(1-x)CaXMnO3,La(1-x)SrXAlO4,La(1-x)CaXMnO3,La(1-x)SrXMnO3,La(1-x)BaXMnO3,Nd(1-x)SrXMnO3、及びSr2MoFeO6からなる群(但し、Xはそれぞれ独立に、0以上、1以下の数を表わす。)より選択される、少なくとも一種の物質である
ことを特徴とする、請求項6記載の発光装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−3552(P2006−3552A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178629(P2004−178629)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】