説明

発光装置

【課題】カスケード変換方式を採用しながらも、出力光の色の空間的均一性が良好な発光装置を提供する。
【解決手段】発光装置10において、LED素子11はソース光L0を放出し、第1波長変換部12aはソース光を第1可視光L1に変換する第1蛍光体を含み、第2波長変換部12bは第1可視光を第2可視光に変換する第2蛍光体を含む。第2蛍光体はソース光では実質的に励起されない性質を有する。LED素子、第1波長変換部および第2波長変換部は、ソース光が第2波長変換部を通して第1波長変換部に入射するように配置され、また、ソース光を拡散させてから第1波長変換部に入射させるためのソース光拡散部13が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED(発光ダイオード)素子と、波長変換体である蛍光体とを組み合わせて構成した、多色発光する半導体発光装置に関するものであり、とりわけ、少なくとも2種類の蛍光体を用いることによって、少なくとも2色の成分光を含む多色光を発生させることができる発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
三原色光を含む白色光を発生させることが可能な白色LEDが、照明装置用や大型液晶ディスプレイ用の光源として採用されつつある。このような白色LEDは、大きく分けて、青色LED素子を緑色蛍光体および赤色蛍光体と組み合わせたものと、主発光ピーク波長を380nm〜420nmの範囲に有する近紫外LED素子を青色蛍光体、緑色蛍光体および赤色蛍光体と組み合わせたものとがある(特許文献1)。なお、本明細書では便宜上、波長380nm〜420nmの領域を近紫外領域と呼ぶ。
【0003】
三原色光を含む白色光を発生させる白色LEDの設計上の制約のひとつとして、青色光や近紫外光で励起可能な高効率の赤色蛍光体の種類が比較的限られていることが挙げられる。
かかる状況の下、白色LED用途に適した高効率赤色蛍光体として期待されるのが、Mn4+付活フルオロ錯体塩系蛍光体である。この蛍光体は比較的古くから知られているものであるが(特許文献2)、青色波長領域(430nm〜480nm)に励起スペクトルのピークを有することから(例えば、特許文献2のFig.1参照)、青色LED素子をソース光源とする白色LEDに好適な赤色蛍光体として再び注目を集めている(特許文献3)。
【特許文献1】特開2003−249694号公報
【特許文献2】米国特許第3576756号公報
【特許文献3】米国特許公開第2006/0169998号公報
【特許文献4】特開2009−46658号公報
【特許文献5】特表2008−502131号公報
【特許文献6】特開2006−173433号公報
【特許文献7】特開2008−130674号公報
【特許文献8】特開2005−33211号公報
【特許文献9】再表2005/086239号公報
【特許文献10】特開2008−105864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、近紫外LED素子をソース光源とする白色LEDにおいて、赤色蛍光体としてMn4+付活フルオロ錯体塩系蛍光体を使おうとした場合、この蛍光体は近紫外領域の光によっては実質的に励起されないことから(例えば、特許文献2のFig.1参照)、カスケード変換方式を採用する必要がある。つまり、青色蛍光体を第一段目の波長変換体に用いて、近紫外LED素子が放出するソース光を青色光に変換したうえ、上述のMn4+付活フルオロ錯体蛍光体を第二段目の波長変換体に用いて、青色光を赤色光に変換するという、多段変換方式である。
【0005】
しかし、本発明者らは、実験検討を通して、カスケード変換方式を採用した従来の白色LEDには、出力光の色が空間的に不均一となり易い(色ムラが生じ易い)という問題があることに気付いた。その原因について本発明者らが行った考察の結果を、図6を用いて
説明する。
図6(a)に示す従来の白色LED30は、ソース光源である近紫外LED素子31と、これを覆う波長変換層32を有している。近紫外LED素子31は、パッケージ34に設けられたキャビティの底面上、略中央部に固定されている。波長変換層32は、透明樹脂中に赤色、緑色、青色の各蛍光体をほぼ均一に分散させてなる組成物を用いて形成されている。青色蛍光体および緑色蛍光体は、近紫外LED素子が放出する近紫外光により励起され、青色光および緑色光をそれぞれ放出する。赤色蛍光体は、近紫外光では実質的に励起されず、青色蛍光体が放出する青色光により励起されて、赤色光を放出する。
【0006】
この従来の白色LED30は、近紫外LED素子31が放出するソース光の多くの部分が、波長変換層32内を当該層に平行な方向に伝播するように構成されている。このソース光は伝播中に出会う青色蛍光体により吸収されるために、近紫外LED素子31から離れるにつれて弱まっていく。その結果、波長変換層32内に分散した青色蛍光体粒子が受けるソース光の強さは、粒子の位置によって異なることになる。つまり、図6(b)に模式的に示すように、近紫外LED素子に近い場所に位置する粒子ほど、より強い近紫外光を受け、それゆえに、より強く発光する。その反対に、近紫外LED素子31から離れた場所に位置する青色蛍光体粒子は、受けるソース光が弱いことから、発光も弱く白色LED30の出力光への寄与が小さい。従って、近紫外LED素子31の近傍に位置する青色蛍光体粒子からの発光が、白色LED30の出力光の色の空間的分布に支配的な影響を与えることになる。
【0007】
次に、青色蛍光体のある粒子が放出する青色光が赤色光に変換される確率について考えると、短い経路を通って波長変換層32の外に出る場合は、赤色蛍光体と出会う確率が低く、ゆえに赤色光に変換される確率が低い。反対に、波長変換層32の内部を長く伝播する場合は、赤色蛍光体と出会う確率が高く、ゆえに赤色光に変換される確率が高い。これを模式的に示したのが図6(c)である。図6(c)は、最も強く発光する青色蛍光体粒子、即ち、キャビティの略中央に位置する青色蛍光体粒子が放出する青色光のうち、真上の方向に進む光は青色光のまま波長変換層32から出ていく確率が高いのに対し、波長変換層に平行な方向に進む光は当該層内で赤色蛍光体により赤色光に変換される確率が高いことを表している。
【0008】
上記2つの要素が重なる結果、白色LED30においては、その光放出面(波長変換層32の上面)の中央領域(近紫外LED素子31の直上に位置する領域)から放出される光は青みが強くなるのに対し、その周囲の領域から放出される光は赤みが強くなる。つまり、出力光の色が空間的に不均一となる。以上が、本発明者等による考察の結果である。
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、カスケード変換方式を採用しながらも、出力光の色の空間的均一性が良好な発光装置を提供することを主たる目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、従来技術の問題点に関する上記の考察を更に進め、カスケード変換系に含まれる最初の波長変換部(点光源的な性質を強く有する半導体発光素子からの放射が波長変換される部位)の内部で、当該発光装置の光放出面に平行な方向にソース光が伝播するのを抑えることができれば、出力光の色の空間的均一性が良好な発光装置が得られることに想到し、本発明を完成するに至った。
本発明の好ましい実施形態にかかる発光装置は、例えば、次の構成を有するものである。
(1)LED素子と、第1波長変換部と、第2波長変換部とを備え、前記LED素子はソース光を放出し、前記第1波長変換部は前記ソース光を第1可視光に変換する第1蛍光体を含み、前記第2波長変換部は前記第1可視光を第2可視光に変換する第2蛍光体を含み、前記第2蛍光体は前記ソース光では実質的に励起されない性質を有し、前記LED素子、第1波長変換部および第2波長変換部は、前記ソース光が前記第2波長変換部を通して前記第1波長変換部に入射するように配置され、前記ソース光を拡散させてから前記第1波長変換部に入射させるためのソース光拡散部が設けられている、ことを特徴とする発光装置。
(2)透明材料中に光拡散剤を分散させてなる光拡散組成物を用いて前記ソース光拡散部を形成した、前記(1)に記載の発光装置。
(3)前記透明材料の屈折率が前記光拡散剤の屈折率よりも高い、前記(2)に記載の発光装置。
(4)前記第2波長変換部が前記ソース光拡散部を兼用している、前記(3)に記載の発光装置。
(5)前記第2蛍光体が光拡散剤として作用する、前記(4)に記載の発光装置。
(6)前記ソース光が近紫外光であり、前記第1可視光が青色光であり、前記第2蛍光体がMn4+付活フルオロ錯体塩系蛍光体である、前記(5)に記載の発光装置。
(7)前記第1波長変換部と前記第2波長変換部の間に前記ソース光拡散部が設けられた、前記(3)に記載の発光装置。
(8)前記第1可視光を前記第2可視光よりも強く吸収する金属部材を備え、前記第2蛍光体による波長変換によって該金属部材に入射する前記第1可視光の強度を低下させるために、前記金属部材と前記第1波長変換部とを前記第2波長変換部により隔離した、前記(1)に記載の発光装置。
(9)前記金属部材が、前記LED素子に接続された配線用金属部材である、前記(8)に記載の発光装置。
(10)前記配線用金属部材がボンディングワイヤである、前記(9)に記載の発光装置。
(11)前記第1可視光が青色光であり、前記第2可視光が赤色光である。前記(8)〜(10)のいずれかに記載の発光装置。
(12)前記金属部材がAuまたはCuからなる、前記(11)に記載の発光装置。
(13)前記第2蛍光体がMn4+付活フルオロ錯体塩系蛍光体を含む、前記(11)または(12)に記載の発光装置。
(14)透明材料中に光拡散剤を分散させてなる光組成物を用いて前記ソース光拡散部を形成した、前記(8)〜(13)のいずれかに記載の発光装置。
(15)前記透明材料の屈折率が前記光拡散剤の屈折率よりも高い、前記(14)に記載の発光装置。
(16)前記第2波長変換部が前記ソース光拡散部を兼用している、前記(8)〜(15)のいずれかに記載の発光装置。
(17)前記第1波長変換部と前記第2波長変換部との間に前記ソース光拡散部が設けられた、前記(8)〜(15)のいずれかに記載の発光装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カスケード変換方式を採用しながらも、出力光の色の空間的均一性が改善された発光装置が提供される。本発明は、三原色光を含む白色光を発生可能な白色LEDに、好ましく適用することができる。本発明を適用した発光装置は、照明装置用や液晶ディスプレイ装置用の光源として好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る発光装置の一例の断面図を図1に示す。この図に示す発光装置10は、LED素子11と、2つの波長変換部、すなわち、第1波長変換部12aおよび第2波長変換部12bと、ソース光拡散部13とを有している。LED素子11は、パッケージ14に設けられたキャビティ14−1の底面上、略中央に固定されている(LED素子への配
線手段などの図示は省略している)。2つの波長変換部は、LED素子11が放出するソース光L0が、第2波長変換部12bを通して、第1波長変換部12aに入射するよう、配置されている。ソース光拡散部13は、ソース光L0を拡散させることによって、第1波長変換部の下面12a−1における入射ソース光強度の面内均一性を向上させるために設けられている。
【0013】
LED素子11が放出するソース光L0は、第2波長変換部12bとソース光拡散部13を透過して第1波長変換部12aに入射する。ソース光L0は、該第1波長変換部12aに含まれる第1蛍光体によって、第1可視光L1に変換される。第1可視光L1の一部は、第1波長変換部の上面12a−1から、出力光として発光装置10の外部に放出される(L11)。第1可視光L1の他の一部は、第1波長変換部の下面12a−2から、第2波長変換部12bに向けて放出される(L12)。この光L12はソース光拡散部13で拡散されたうえで第2波長変換部12bに入射し、第2波長変換部に含まれる第2蛍光体によって、第2可視光L2に変換される。第2可視光L2は、ソース光拡散部13と第1波長変換部12aを透過して、発光装置10の外部に出力光として放出される。発光装置10は、第1蛍光体により波長変換されなかったソース光L0の少なくとも一部を、出力光に含むことができる。
【0014】
第1波長変換部12aおよび第2波長変換部12bは、蛍光体(第1蛍光体、第2蛍光体)を如何なる形態で含むものであってもよい。
典型的には、樹脂、ガラスなどの成形性を有する透明材料中に粒子状の蛍光体を分散させてなる蛍光体組成物を用いて、第1波長変換部および第2波長変換部を形成することができる。この透明材料は、発光素子や蛍光体の封止材として公知の材料であってよい。
また、第1波長変換部および第2波長変換部は、蛍光体相を含有する発光セラミックからなる板状構造体(例えば、特許文献5、特許文献6を参照)であってもよいし、透明な基体上に電気泳動法、エアロゾル・デボジション法などにより蛍光体粒子を堆積させて形成した蛍光体粒子層(例えば、特許文献7、特許文献9を参照)であってもよいし、単結晶蛍光体(例えば、特許文献8を参照)であってもよい。単結晶蛍光体は、自立した板状体であってもよいし、あるいは透明板上に成長した薄膜であってもよい。
【0015】
ソース光拡散部13は、ソース光L0、第1可視光L12および第2可視光L2が透過可能で、かつ、これらの光を拡散させる作用を有していればよく、その構造に特に限定はないが、具体的な態様を例示すれば次の通りである:
(ア)樹脂、ガラスなどの成形性を有する透明材料をマトリックス材料として、その中に光拡散剤を分散させてなる光拡散組成物を用いて、ソース光拡散部を形成する。この透明材料は、発光素子や蛍光体の封止材として公知の材料であってよい。
(イ)透光性のセラミック板を拡散板タイプのソース光拡散部として用いる。微結晶の集合体であるセラミックでは、多量に含まれる結晶粒界が、光拡散作用を発生させる。
【0016】
上記(ア)の態様について更に詳しく説明する。
ソース光拡散部を構成する光拡散組成物のマトリックス材料には、メタアクリル樹脂(ポリメタアクリル酸メチルなど)、スチレン樹脂(ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体など)、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアルコール、セルロース系樹脂(エチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレートなど)、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂などの樹脂材料を好ましく用い得る他、リン酸系、ホウリン酸系、バナジウムホウ酸系、アルカリ珪酸系、ビスマス系などの、公知の低融点ガラスを好ましく用いることができる。
光拡散剤には、この目的に使用可能な公知の粒子を用いることができる。有機ポリマー(アクリル樹脂、ポリエチレンなど)、金属酸化物(酸化チタン、酸化アルミニウム、二
酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化マグネシウムなど)、炭酸カルシウム、チタン酸バリウム、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどが、光拡散剤の材料として知られている。その他、第1蛍光体および第2蛍光体
のいずれとも異なる第3の蛍光体を、光拡散剤として用いることも可能である。
光拡散剤の粒径は、好ましくは1μm〜20μm、より好ましくは2μm〜10μmである。
上記第3の蛍光体を光拡散剤とする場合、この蛍光体は、LED素子が放出するソース光および第1蛍光体が放出する第1可視光の、いずれか一方または両方により励起されるものであることが望ましい。
【0017】
上記(ア)の態様に係るソース光拡散部の内部では、マトリックス材料が三次元的な連続相をなし、光拡散剤が孤立相を形成する。それゆえ、マトリックス材料の屈折率を光拡散剤の屈折率よりも高くして、マトリックス材料相が光の通路(導波路におけるコアに相当する部分)となるようにすると、ソース光拡散部の光透過性が良好となり、好ましい。
その反対に、光拡散剤の屈折率の方がマトリックス材料のそれよりも高い場合には、光が光拡散剤の内部にトラップされるため、光拡散剤による光吸収に基づく損失が増幅されることになる。また、光拡散剤にトラップされた光が再放出されるとき、光の進行方向が強くランダム化されるので、ソース光拡散部が強い光反射作用を示すことになる。
発光装置10において、ソース光拡散部13の光反射作用が強過ぎると、ソース光L0が第1波長変換部12aに届き難くなるとともに、第1波長変換部で発生する第1可視光L12が第2波長変換部12bに届き難くなるので、発光効率が著しく低下する。
【0018】
発光装置10において出力光の色の空間的均一性が改善される理由は、次のように説明することができる。
第一に、LED素子11と第1波長変換部12aとを離すことによって、従来技術の問題点として先に説明した、〔層状の波長変換部内を励起光が当該層に平行な方向に伝播するときに生じる、蛍光体の不均一発光の問題〕が、軽減されることが挙げられる。
第二に、ソース光拡散部13でソース光L0を拡散させることにより、第1波長変換部の下面12−aにおける入射ソース光強度の面内分布が平坦化されることが挙げられる。
第三に、第1波長変換部12aにおける第1可視光L12の放出部位が比較的広い“面”であることから、第2波長変換部12bにおいても〔層状の波長変換部内を励起光が当該層に平行な方向に伝播するときに生じる、蛍光体の不均一発光の問題〕が軽減されることが挙げられる。
上記に加え、ソース光拡散部13によって、第1波長変換部12aから第2波長変換部12bに向かって放出される第1可視光L12と、第2波長変換部12bからキャビティ14−1の開口部に向かって放出される第2可視光L2が拡散されることも、発光装置10の出力光の色の空間的均一性の改善に寄与する。
【0019】
LED素子11と第1波長変換部12aとを離すことにより上記の効果が十分に発生するためには、LED素子と第1波長変換部との距離をLED素子の最大幅よりも大きくすることが望ましい。ここにいう最大幅とは、幅が最大となる方向について測定される幅のことをいう。例えば、500μm角の板状のLED素子の最大幅は、正方形状の板面の対角線の長さ(707μm)となる。
【0020】
カスケード変換系を構成するLED素子、第1蛍光体および第2蛍光体の代表的な組合せとして、下記の組合せ例1〜3が挙げられる。
(組合せ例1)
LED素子:主発光ピーク波長380nm〜420nmのGaN系LED素子
第1蛍光体:下記表1に示す青色蛍光体
第2蛍光体:Mn4+付活フルオロ錯体蛍光体(赤色蛍光体)
(組合せ例2)
LED素子:主発光ピーク波長380nm〜420nmのGaN系LED素子
第1蛍光体:下記表1に示す青色蛍光体
第2蛍光体:Ce付活イットリウム・アルミニウム・ガーネット(黄色蛍光体)
(組合せ例3)
LED素子:主発光ピーク波長380nm〜420nmのGaNLED素子
第1蛍光体:下記表1に示す青色蛍光体
第2蛍光体:LaSi11構造を有するCe付活窒化物蛍光体(黄色蛍光体)
【0021】
【表1】

【0022】
表1に示した青色蛍光体の中でも、好ましいものは(Ca,Sr,Ba)MgAl1017:Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO(Cl,F):Eu、(Ba,Ca,Mg,Sr)SiO:Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO(Cl,F):Eu、(Ba,Ca,Sr)MgSi:Euであり、より好ましいものは(Ba,Sr)MgAl1017:Eu、(Ca,Sr,Ba)10
PO(Cl,F):Eu、BaMgSi:Euであり、特に好ましいものはSr10(POCl:Eu、BaMgAl1017:Euである。
【0023】
上記組合せ例1の第2蛍光体であるMn4+付活フルオロ錯体蛍光体は、好ましくは、化学式MXF:Mnで表されるヘキサフルオロ錯体塩型のものであるが、これに限定されるものではなく、配位中心となる金属元素に対し5個ないし7個のフッ素イオンが配位した錯イオンを含むものであってもよい。
特に好ましいMn4+付活フルオロ錯体蛍光体は、ヘキサフルオロケイ酸カリウムを母体とするKSiF:Mnである。KSiF:MnにおけるSiの一部(10モル%以下)をAlで置換し、かつ、Kの一部(10モル%以下)をNaで置換したものも、好適に用いることができる。
【0024】
本発明に係る発光装置は、本発明の効果を阻害しない範囲で複数のカスケード変換系を含んでいてもよい。また、本発明に係る発光装置は、カスケード変換系に関与しないLED素子および/または蛍光体を含んでいてもよい。
よって、本発明の一例に係る発光装置は、LED素子、青色蛍光体、赤色蛍光体および黄色蛍光体を備え、LED素子、青色蛍光体および赤色蛍光体について見ると上記組合せ例1に該当し、LED素子、青色蛍光体および黄色蛍光体について見ると上記組合せ例2に該当するものであり得る。
また、本発明の一例に係る発光装置は、組合せ例1に該当するLED素子、青色蛍光体および赤色蛍光体に加え、これらにより構成されるカスケード変換系に関与しない緑色蛍光体を備えるものであり得る。
【0025】
発光装置10において、第2波長変換層12bとLED素子11との間の空間は、ボイドであってもよいが、好ましくは、LED素子11の光取出し効率を高くするために、樹脂、ガラスなどの透明材料で充填する。この透明材料は、発光素子や蛍光体の封止材として公知の材料であってよい。この透明材料中に光拡散剤を分散させることによって、この空間を第2のソース光拡散部として機能させることが可能である。
【0026】
次に、図1に示す発光装置10の変形例について説明する。
【0027】
図2(a)に示す例は、ソース光拡散部13を、第1波長変換部12aと第2波長変換部12bの間に設ける代わりに、LED素子11と第2波長変換部12bの間に設けたものである。
【0028】
図2(b)に示す例は、第2波長変換部12bにソース光拡散部を兼用させたものである。第2波長変換部12bに光拡散作用を付与する方法として、次のようなものがある。(カ)透明材料をマトリックス材料としてその中に粒子状の蛍光体を分散させた蛍光体組成物を用いて、第2波長変換部を形成する場合には、この蛍光体組成物に更に光拡散剤を添加すればよい。また、光拡散剤を添加する代わりに、第2蛍光体自体を光拡散剤として作用させることも可能である。第2蛍光体を光拡散剤として作用させるには、第2蛍光体の粒径をソース光の波長と同程度以上(好ましくは、1μm以上、より好ましくは2μm以上)とし、かつ、第2蛍光体の屈折率とマトリックス材料である透明材料の屈折率とを相違させる。
(キ)蛍光体相を含有する発光セラミックからなる板状体を、第2次波長変換部として用いる。
(ク)電気泳動法、エアロゾル・デボジション法などにより透明基体上に蛍光体粒子を堆積させて形成した蛍光体粒子層を、第2波長変換部として用いる。この蛍光体粒子層は、蛍光体粒子以外の粒子をスペーサとして含んでもよい。堆積した粒子間の界面や、粒子間の隙間に形成される空孔が、光拡散作用を発生させる。
【0029】
上記(カ)の方法を採用する場合、第2波長変換層の光透過性を高くするために、マトリックス材料の屈折率を光拡散剤の屈折率よりも高くすることが望ましい。このことは、蛍光体を光拡散剤として利用する場合も同様である。
一方、第2波長変換部に、第2蛍光体に加えて、光拡散剤を添加する場合には、第2蛍光体の屈折率を光拡散剤の屈折率よりも高くすることが望ましい。そうしないと、蛍光体粒子の内部に入る光が減少し、第2蛍光体の励起効率が著しく低下する。
【0030】
蛍光体の屈折率は母体結晶の屈折率で近似することができるので、Mn4+付活フルオロ錯体蛍光体であれば、母体結晶がヘキサフルオロケイ酸カリウム(KSiF)であるときは屈折率1.34、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム[(NHSiF]であるときは屈折率1.37となる。これらの値は、公知の発光素子用封止材の中でも最も低い屈折率を有する、低屈折率型シリコーン樹脂の屈折率1.41よりも低い。
従って、これらの蛍光体を一般的な発光素子用の封止材中に分散させて得られる蛍光体組成物は、〔蛍光体(拡散剤)の屈折率〕<〔マトリックス材料の屈折率〕の関係を満足するものとなる。
【0031】
一方、ヘキサフルオロチタン酸塩を母体とするMn4+付活フルオロ錯体蛍光体は、ヘキサフルオロケイ酸塩型よりも高い屈折率を有し、例えば、母体結晶がヘキサフルオロチタン酸カリウムであるときには屈折率1.48となる。このような屈折率を有する蛍光体を用いた蛍光体組成物は、フェニル基を導入することで屈折率を高めたジフェニルジメチル系やフェニルメチル系のシリコーン樹脂(屈折率1.51)、エポキシ樹脂(屈折率1.53〜1.57)、低融点ガラスなどをマトリックス材料としたとき、〔蛍光体(拡散剤)の屈折率〕<〔マトリックス材料の屈折率〕の関係を満足するものとなる。
【0032】
その他、公知の事実であるが(例えば特許文献4の背景技術の欄を参照)、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等は、酸化カルシウム、酸化セリウム、酸化ハフニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム等からなる高屈折率無機ナノ粒子を添加することによって、屈折率を1.8程度まで高くすることができる。この技術を応用して、蛍光体組成物のマトリックス材料とする樹脂の屈折率を高くすることが可能である。
【0033】
第2蛍光体としてCe付活イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG:Ce)を用いる場合、この蛍光体は1.90という高い屈折率を有するので、蛍光体組成物のマトリックス材料に樹脂を用いた場合には、〔蛍光体(拡散剤)の屈折率〕<〔マトリックス材料の屈折率〕の関係を満足させることは難しい。
このような高屈折率の蛍光体を用いて上記の関係を満足する蛍光体組成物を得るためには、2.0以上の屈折率を有する低融点ガラス(例えば、特許文献10を参照)をマトリックス材料として用いればよい。
【0034】
図2(c)に示す例は、LED素子11の表面を第2波長変換部12bが直接覆うように構成したものである。このような構成を得るには、パッケージ14上に固定したLED素子11の表面を蛍光体組成物でコーティングすればよい。あるいは、電気泳動法、エアロゾル・デポジション法などにより、パッケージ14上に固定したLED素子11の表面に蛍光体粒子を堆積させて、蛍光体粒子層タイプの第2波長変換部を形成すればよい。
【0035】
図2(a)に示す例におけるLED素子11とソース光拡散部13の間の空間、図2(b)に示す例におけるLED素子11と第2波長変換部12bの間の空間、図2(c)に示す例における第1波長変換部12aと第2波長変換部12bの間の空間は、ボイドであってもよいが、好ましくは、界面反射を抑制するために、樹脂、ガラスなどの透明材料で充填する。この透明材料は、発光素子や蛍光体の封止材として公知の材料であってよい。この透明材料中に光拡散剤を分散させて、この空間をソース光拡散部として機能させることが可能である。あるいは、この透明材料中に、第1蛍光体および第2蛍光体のいずれとも異なる第3の蛍光体を添加することもできる。この第3の蛍光体は、LED素子が放出するソース光および第1蛍光体が放出する第1可視光の、いずれか一方または両方により励起されるものであることが望ましい。
【0036】
図3(a)および(b)に示す例は、パッケージ14がキャビティを有しておらず、その代わりに、LED素子11が設置される閉空間が、ドーム状に成形された第1波長変換部12aとパッケージの平坦な表面とによって形成されているものである。第2波長変換部12bは、図3(a)の例では、第1波長変換部の内面に接するように形成されており、図3(b)の例では、LED素子11の表面を直接覆うように形成されている。
【0037】
以下では、本発明の更に具体的な実施形態例について述べる。
【0038】
図4に本発明の一実施形態に係る半導体発光装置の模式断面図を示す。この図に示す発光装置20は、SMD(表面実装)型LEDであり、パッケージ24に設けられたキャビティ(カップ状部分)の底面上にGaN系発光素子21が接着剤(図示せず)を用いて固定されている。
【0039】
パッケージ24は、セラミック(アルミナ、AlNなど)、白色樹脂などで形成されたパッケージ基板24aと、二つのパッケージ電極24bと、リフレクタ24cとから構成されている。この図ではパッケージ基板24aとリフレクタ24cとを別個の部材のように示しているが、これらは一体的に形成されていてもよい。
【0040】
パッケージ基板24a上に固定されたGaN系発光素子21は400nm付近に主発光波長を有するものである。このGaN系発光素子は、サファイア、SiC、GaNなどからなる素子基板21aと、その上に形成された、ダブルヘテロPN接合型のLED構造を備えたGaN系半導体膜21bとを有しており、そのGaN系半導体膜21b上に、正負の電極が形成されている。正電極は、透明導電性酸化物(TCO:Transparent Conductive Oxide)からなる透明電極21c−1と、その一部上に形成された金属製のボンディングパッド21c−2とから構成されている。負電極も、TCOからなる透明電極21d−1と、その一部上に形成された金属製のボンディングパッド21d−2とから構成されている。素子基板21aの下面には金属製の反射膜21eが形成されている。
GaN系発光素子21の正電極および負電極のそれぞれは、AuまたはCuからなるボンディングワイヤ25により、2つのパッケージ電極24bのそれぞれに接続されている。
【0041】
GaN系発光素子21は透光性の被覆部材22により埋め込まれている。被覆部材22は外層部22aと内層部22bとを有しており、2本のボンディングワイヤ25は内層部22bに埋め込まれている。
被覆部材22のベース材料は樹脂であってもよいしガラスであってもよい。樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂などが挙げられ、より具体的には、メタアクリル樹脂(ポリメタアクリル酸メチルなど)、スチレン樹脂(ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体など)、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアルコール、セルロース系樹脂(エチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレートなど)、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂などが例示される。
特に、照明など大出力が必要とされる用途向けの場合には、耐熱性や耐光性等を目的としてケイ素含有化合物をベース材料に使用することが好ましい。
【0042】
ケイ素含有化合物とは、分子中にケイ素原子を有する化合物をいい、例えば、ポリオルガノシロキサン等の有機材料(シリコーン系材料)、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素等の無機材料、及びホウケイ酸塩、ホスホケイ酸塩、アルカリケイ酸塩等のガラス材料を挙げることができる。中でも、透明性、接着性、ハンドリングの容易さ、機械的・熱的応力の緩和特性に優れる等の点から、シリコーン系材料が好ましい。シリコーン系材料とは、通常、シロキサン結合を主鎖とする有機重合体をいい、例えば、縮合型、付加型、ゾルゲル型、光硬化型、などのシリコーン系材料を用いることができる。
【0043】
被覆部材22の成形方法に限定はなく、例えば、モールドやポッティングなどであってもよい。
【0044】
蛍光体(図示せず)は被覆部材22中に固定化されている。外層部22aには青色蛍光体BaMgAl1017:Euおよび緑色蛍光体BaMgAl1017:Eu,Mnが固定化されており、内層部22bには赤色蛍光体MXF:Mnが固定化されている。ここで、MはK(カリウム)またはNa(ナトリウム)から選ばれる1種以上であり、XはSi(ケイ素)である。好ましいのは、M全量に占めるKの比率が90モル%以上、特に97モル%以上、更には99モル%以上のものである。付活元素はMn(マンガン)が100%であることが望ましいが、限定されるものではなく、付活元素の全量に対し10モル%未満の範囲でTi、Zr、Ge、Sn、Al、Ga、B、In、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Mo、Ru、Ag、Zn、Mgなどを含んでいてもよい。XがSiの場合、SiとMnとの合計におけるMnの割合は、0.5モル%〜10モル%の範囲内であることが望ましい。
この赤色蛍光体は、その屈折率が被覆部材22のベース材料の屈折率よりも低いので、光拡散剤として作用する。
【0045】
被覆部材の外層部22aには、青色蛍光体と緑色蛍光体を混合した状態で分散させてもよいし、あるいは、青色蛍光体を分散させた層状領域と緑色蛍光体を分散させた層状領域とをそれぞれ外層部22a内に設けてもよい。
被覆部材の内層部22bに赤色蛍光体を固定化するにあたっては、内層部の全体にわたって赤色蛍光体を分散させてもよいし、あるいは、内層部の中でも外層部に隣接する部分に、赤色蛍光体を分散させた領域を層状に形成してもよい。
【0046】
発光装置20において、GaN系発光素子21から放出される波長400nm付近の光は、赤色蛍光体によっては実質的に吸収されることなく、被覆部材の内層部22bを通過する。通過の際、赤色蛍光体による光拡散が生じる。上記光は外層部22aに達すると、そこで青色蛍光体および緑色蛍光体を励起させる。青色蛍光体から生じる青色光は方向性を有さないので、その一部は内層部22b側に向かって進み、赤色蛍光体を励起させることになる。赤色蛍光体から生じる赤色光は直接、あるいはパッケージ基板24a、パッケージ電極24b、リフレクタ24cまたはボンディングワイヤ25の表面で反射されて、外層部22a側に向かって進み、これを透過して発光装置20の外部に放射される。
【0047】
発光装置20の特徴的な構成のひとつとして、出力される白色光の演色性と
ホワイトバランスの安定性が良好となるように、半導体発光素子の発光波長と赤色、緑色および青色の蛍光体の組合せを選択していることが挙げられる。
より詳しく説明すると、まず第一に、半導体発光素子として、視感度が低い400nm付近の波長域に発光波長を有する半導体発光素子を、蛍光体の励起光源として選択している。
第二に、青色波長域(430nm〜480nm)の光によって強く励起される一方、波長400nm付近(380nm〜420nm)の光によっては実質的に励起されないMn
4+付活フルオロ錯体塩系蛍光体を、赤色蛍光体として選択している。換言すれば、半導体発光素子が放出する光による影響を直接には受けず、青色蛍光体が放出する青色光の強度に依存して発光強度が変化する赤色蛍光体を選択している。それによって、青色光と赤色光のバランスを安定化させている。
第三に、波長400nm付近における青色蛍光体と緑色蛍光体の励起特性が揃うように、青色および緑色の蛍光体として母体の基本構造が同一であるBaMgAl1017:EuとBaMgAl1017:Eu,Mnを選択している。換言すれば、半導体発光素子が放出する光の波長や強度の変化に対して、同じように影響を受ける青色蛍光体と緑色蛍光体を選択している。それによって、青色光と緑色光のバランスを安定化させている。
上記第一、第二および第三の要素の組み合わせに基づいて、発光装置20においては、成分光である赤色光と青色光と緑色光との間のバランスが安定した、演色性にもホワイトバランスの安定性にも優れた良質な白色光の生成が可能となっている。
【0048】
なお、このような効果を特に必要としないとき、緑色蛍光体は波長400nm付近の光により励起されるものであればよく、前述のBaMgAl1017:Eu,Mnの他に、(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO:Eu、(Mg,Ca,Sr,Ba)Si:Eu、(Ba,Sr)Si12:Eu、Eu付活β−サイアロン、(Sr,
Ca,Ba)(Al,Ga,In):Eu、(Y,Tb)(Al,Ga)12:C
e、Ca(Sc,Mg,Na,Li)Si12:Ce、(Ca,Sr)Sc:Ce、(Ba,Sr)MgAl1017:Eu,Mnなどを好ましく用いることができる。
【0049】
発光装置20のもうひとつの特徴的な構成として、ボンディングワイヤ25の近傍では青色光を発生させないで、赤色光を発生させるようにするために、赤色蛍光体を固定した内層部22bでボンディングワイヤを埋め込み、その上に青色蛍光体を固定した外層部22aを設けていることが挙げられる。その理由は、ボンディングワイヤ25の材料であるAuまたはCuは青色光を強く吸収するのに対し、赤色光に対しては強い吸収を示さないからである。発光装置20においては、外層部22aに固定化した青色蛍光体から生じる青色光のうち、内層部22bに入射するのはその一部であり、更に内層部に入射すると青色光は赤色蛍光体によって赤色光に変換されるので、ボンディングワイヤ25の表面で吸収される青色光の割合が低くなっている。
【0050】
発光装置20の構成は、ボンディングワイヤ25だけではなく、GaN系発光素子のボンディングパッド21c−2、21d−2や、パッケージ電極24bに、AuまたはCuを用いる場合にも、該AuまたはCuによる青色光の吸収を低減するうえで有効である。
また、LED素子をAuまたはCuからなるバンプ、ハンダなどを用いてフリップチップボンディングする場合に、同様の方法を用いて、該バンプ、ハンダなどによる青色光の吸収を低減することが可能である。つまり、バンプやハンダの表面に入射する青色光の強度を低くするために、青色光を吸収する赤色蛍光体を含む層を、バンプやハンダの表面と青色蛍光体を固定化した層との間に介在させればよい。
【0051】
最後に、KSiF:Mnの好ましい合成方法を説明する。
工程1
KF粉体またはKHF粉体をフッ化水素酸(47.3重量%)に溶解させてから、KMnO粉体をこの溶液に溶解させる。溶液を攪拌しながら過酸化水素水を滴下していくと、KMnOとHとのモル比が1.5になった時に黄色い沈澱物が得られる。その沈澱物をアセトンで洗浄した後130℃で1時間乾燥させることによりKMnFが得られる。
工程2
蛍光体の各原料の仕込み組成がKSi0.9Mn0.1となるように、KSi
(1.7783g)とKMnF(0.2217g)を大気圧下、室温の下で、フッ化水素酸(47.3重量%)70mlに添加して溶解させる。各原料化合物が完全に溶解した後、溶液を攪拌しながらアセトン70mlを240ml/hrの速度で添加して蛍光体を析出させる。析出物をエタノールで洗浄し、130℃で1時間乾燥させることにより1.7gの蛍光体KSiF:Mnが得られる。
得られる蛍光体におけるSiとMnのモル比は、EDX(エネルギー分散X線分析)法による組成分析から知ることができる。このモル比は仕込み組成を変更することにより調整することができる。
【0052】
上記工程1および工程2を実際に行うことにより得たKSiF:Mnの励起スペクトルおよび発光スペクトルを図5に示す。励起スペクトルは波長350nm付近と波長450nm〜460nmの範囲にそれぞれピークを有しており、青色光により効率よく励起可能であること、また、波長400nm付近では励起効率が低いことが分かる。また、発光スペクトルは波長630nmに半値幅6nmの鋭いピークを有している。
【0053】
以上、各種の実施形態例を参照しながら本発明を説明したが、本発明は本明細書に明示的に記載された実施形態に限定されるものではない。
なお、本明細書には、半導体発光装置に関する次の発明も開示されているので、ここに付記しておく。
(a1)LED素子と、第1波長変換部と、第2波長変換部とを備え、前記LED素子はソース光を放出し、前記第1波長変換部は前記ソース光を第1可視光に変換する第1蛍光体を含み、前記第2波長変換部は前記第1可視光を第2可視光に変換する第2蛍光体を含む半導体発光装置において、前記LED素子に接続された配線用金属部材として前記第1可視光を前記第2可視光よりも強く吸収する金属部材を有し、前記第2蛍光体による波長変換によって該金属部材に入射する前記第1可視光の強度を低下させるために、前記金属部材と前記第1波長変換部とを前記第2波長変換部により隔離したことを特徴とする、半導体発光装置。
(a2)前記配線用金属部材がボンディングワイヤである、前記(a1)に記載の発光装置。(a3)前記第1可視光が青色光であり、前記第2可視光が赤色光である、前記(a1)または(a2)に記載の半導体発光装置。
(a4)前記金属部材がAuまたはCuからなる、前記(a3)に記載の発光装置。
上記(a1)〜(a4)に記載の発明によれば、LED素子に接続された配線用金属部材による光吸収に起因した、半導体発光装置の発光効率の低下という問題を、解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る発光装置の断面図である。
【図2】本発明に係る発光装置の断面図である。
【図3】本発明に係る発光装置の断面図である。
【図4】本発明に係る発光装置の断面図である。
【図5】KSiF:Mnの励起スペクトルおよび発光スペクトルを示す図である。
【図6】従来の白色LEDに関する説明図である。
【符号の説明】
【0055】
10 発光装置
11 LED素子
12 波長変換部
12a 第1波長変換部
12b 第2波長変換部
13 ソース光拡散部
14 パッケージ
L0 ソース光
L1 第1可視光
L2 第2可視光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LED素子と、第1波長変換部と、第2波長変換部とを備え、
前記LED素子はソース光を放出し、
前記第1波長変換部は前記ソース光を第1可視光に変換する第1蛍光体を含み、
前記第2波長変換部は前記第1可視光を第2可視光に変換する第2蛍光体を含み、
前記第2蛍光体は前記ソース光では実質的に励起されない性質を有し、
前記LED素子、第1波長変換部および第2波長変換部は、前記ソース光が前記第2波長変換部を通して前記第1波長変換部に入射するように配置され、
前記ソース光を拡散させてから前記第1波長変換部に入射させるためのソース光拡散部が設けられている、
ことを特徴とする発光装置。
【請求項2】
透明材料中に光拡散剤を分散させてなる光拡散組成物を用いて前記ソース光拡散部を形成した、請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記透明材料の屈折率が前記光拡散剤の屈折率よりも高い、請求項2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記第2波長変換部が前記ソース光拡散部を兼用している、請求項3に記載の発光装置。
【請求項5】
前記第2蛍光体が光拡散剤として作用する、請求項4に記載の発光装置。
【請求項6】
前記ソース光が近紫外光であり、前記第1可視光が青色光であり、前記第2蛍光体がMn4+付活フルオロ錯体塩系蛍光体である、請求項5に記載の発光装置。
【請求項7】
前記第1波長変換部と前記第2波長変換部の間に前記ソース光拡散部が設けられた、請求項3に記載の発光装置。
【請求項8】
前記第1可視光を前記第2可視光よりも強く吸収する金属部材を備え、前記第2蛍光体による波長変換によって該金属部材に入射する前記第1可視光の強度を低下させるために、前記金属部材と前記第1波長変換部とを前記第2波長変換部により隔離した、請求項1に記載の発光装置。
【請求項9】
前記金属部材が、前記LED素子に接続された配線用金属部材である、請求項8に記載の発光装置。
【請求項10】
前記配線用金属部材がボンディングワイヤである、請求項9に記載の発光装置。
【請求項11】
前記第1可視光が青色光であり、記第2可視光が赤色光である請求項8〜10のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項12】
前記金属部材がAuまたはCuからなる、請求項11に記載の発光装置。
【請求項13】
前記第2蛍光体がMn4+付活フルオロ錯体塩系蛍光体を含む、請求項11または12に記載の発光装置。
【請求項14】
透明材料中に光拡散剤を分散させてなる光組成物を用いて前記ソース光拡散部を形成した、請求項8〜13のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項15】
前記透明材料の屈折率が前記光拡散剤の屈折率よりも高い、請求項14に記載の発光装置。
【請求項16】
前記第2波長変換部が前記ソース光拡散部を兼用している、請求項8〜15のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項17】
前記第1波長変換部と前記第2波長変換部の間に前記ソース光拡散部が設けられた、請求項8〜15のいずれか1項に記載の発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−287680(P2010−287680A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139471(P2009−139471)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】