説明

発光装置

【課題】比較的幅広いブロードな発光スペクトルを有し、色ずれの少ないアンバー色の発光装置を提供する。
【解決手段】紫外から青色の発光素子と、その発光素子が発光する光によって励起されてその励起光より長波長域の第1の光を発光する第1の蛍光体と発光素子が発光する光によって励起されて第1の光よりさらに長波長域の第2の光を発光する窒化物蛍光体からなる第2の蛍光体とを含み、第1の光と第2の光の混色による発光色を有する発光装置であって、窒化物蛍光体は、Bを1ppm以上10000ppm以下の割合で含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子と蛍光体とを含む発光装置、特にアンバー色の発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来は、交通信号用のアンバー色には、白熱電球に色ガラスフィルターを取りつけたものや、AlInGaP系の発光ダイオード(LED)が用いられていた。色ガラスフィルターを取りつけたタイプのものは、太陽光により擬似発光し点灯の有無を認識しにくいという問題があるため、最近では、AlInGaP系の発光ダイオード(LED)が多く用いられるようになってきていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−306957号公報
【特許文献2】特開2003−243727号公報
【特許文献3】特開2001−214162号公報
【特許文献4】特表2003−515665号公報
【特許文献5】特開2003−206482号公報
【特許文献6】米国特許出願公開第2003/0006469号明細書
【特許文献7】特開2000−31531号公報
【特許文献8】特開2001−308393号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】小松正和 他,Eu2+イオンを賦活したCa-Al-Si-O-N系ガラスの合成と発光特性,第40回セラミックス基礎科学討論会講演要旨集,日本,2001年 1月22日,pp.430-431
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、AlInGaP系の発光ダイオード(LED)は、効率が良く、比較的安価に製造でき、しかも太陽光による擬似発光がないという利点を有するものの、AlInGaP系の発光ダイオードの発光スペクトルは、ラインスペクトル(幅の狭い鋭いスペクトル)であるために、色覚障害をもつ人には認識しにくいという問題があった。
また、発光素子への投入電流が変化すると色ずれが生じるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、比較的幅広いブロードな発光スペクトルを有し、色ずれの少ないアンバー色の発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の目的を達成するために、本発明に係る発光装置は、紫外から青色の発光素子と、その発光素子が発光する光によって励起されてその励起光より長波長域の第1の光を発光する第1の蛍光体と前記発光素子が発光する光によって励起されて前記第1の光よりさらに長波長域の第2の光を発光する窒化物蛍光体からなる第2の蛍光体とを含み、前記第1の光と前記第2の光の混色による発光色を有する発光装置であって、前記窒化物蛍光体は、Bを1ppm以上10000ppm以下の割合で含み、前記発光素子の発光のうち、直接外部に漏れる青色光の強度を、蛍光体の発光のメインピークにおける強度の10%以下としたことを特徴とする。
ここで、窒化物蛍光体とは、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の第II族元素と、C、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の第IV族元素と、Nとを含み、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Luからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の希土類元素により賦活される蛍光体をいう。
【0008】
以上のように構成された窒化物蛍光体を含む本発明に係る発光装置は、前記窒化物蛍光体の発光色が黄色〜黄赤領域にあることから、発光色を前記第1の光と前記第2の光の混色とすることによりアンバー色の発光が可能な発光装置が実現できる。
また、本発明に係るアンバー色の発光装置は、前記窒化物蛍光体の発光スペクトルが50nm以上の広い半値幅を有しているため、色覚障害を持つ人にとっても認識しやすいものとできる。
【0009】
また、前記窒化物蛍光体は、一般式、L((2/3)X+(4/3)Y):R若しくはL((2/3)X+(4/3)Y−(2/3)Z):R(Lは、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の第II族元素である。Mは、C、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の第IV族元素である。Rは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Luからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の希土類元素である。X、Y、Zは、0.5≦X≦3、1.5≦Y≦8、0<Z≦3である。)で表される窒化物蛍光体であることが好ましい。
【0010】
以上のように構成された本発明に係る発光装置では、ホウ素を含む窒化物蛍光体を用いているので、発光輝度、量子効率等の発光効率の向上を図ることができる。
すなわち、本発明は、前記窒化物蛍光体の原料に対して、添加量を制御自在となるように添加されたBが含まれることを特徴とする窒化物蛍光体を用いている。これにより、発光輝度、量子効率、残光等の発光特性の調節を行うことができる。ホウ素を添加していない場合は、発光輝度、量子効率等の発光特性は一定であるが、ホウ素を添加することにより、発光輝度の向上を図ったり、残光を短くしたりすることができる。発光特性の調節は、照明用、表示用などの用途に応じて、要求される特性が異なるため、同じ色調で発光特性を変えることが求められているからである。
【0011】
また、本発明に係る発光装置において、前記発光素子の発光のうち、直接外部に漏れる光の強度を、蛍光体の発光のメインピークにおける強度の10%以下としているので、前記第1と第2の蛍光体を含む蛍光体による発光のみによって発光色を設定することができる。
【0012】
本発明に係る発光装置において、前記発光素子は青色発光素子であり、前記第1の蛍光体はYAG系蛍光体であってもよい。
また、本発明に係る発光装置において、前記発光素子は紫外発光素子であり、前記第1の蛍光体は酸窒化物蛍光体であってもよい。
【0013】
ここで、前記酸窒化物蛍光体は、一般式L((2/3)X+(4/3)Y−(2/3)Z):R、又は、L((2/3)X+(4/3)Y+T−(2/3)Z):R(ここで、Lは、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である第II族元素である。Mは、C、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である第IV族元素である。Qは、B、Al、Ga、Inからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である第III族元素である。Oは、酸素元素である。Nは、窒素元素である。Rは、希土類元素である。0.5<X<1.5、1.5<Y<2.5、0<T<0.5、1.5<Z<2.5である。)で表される酸窒化物蛍光体であることが好ましい。
【0014】
また、前記窒化物蛍光体は、CaとSiを含む窒化物蛍光体であることが好ましい。
さらに、本発明の発光装置において、前記発光素子の発光ピーク波長が、前記第1の蛍光体の第1の励起スペクトルのピーク波長及び前記第2の蛍光体の第2の励起スペクトルのピーク波長より長波長側にあり、かつ前記発光素子の発光ピーク波長の変動範囲において、前記第1の励起スペクトル及び前記励起スペクトルはそれぞれ負の傾きを有することが好ましい。
【0015】
またさらに、本発明の発光装置において、前記第1の励起スペクトル及び前記励起スペクトルの傾きによって表される第1の蛍光体と第2の蛍光体の励起効率の励起波長に対する変化率が、前記発光素子の発光ピーク波長の変動範囲において実質的に等しいことが好ましい。
また、前記窒化物蛍光体の結晶構造は、単斜晶又は斜方晶であることが好ましい。
【0016】
前記第1の蛍光体はYAG系蛍光体であることが好ましく、前記窒化物蛍光体は、CaとSiを含む窒化物蛍光体であることが好ましい。
さらに、前記窒化物蛍光体の結晶構造は、単斜晶又は斜方晶であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
以上のように本発明によれば、アンバー色の発光装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る実施の形態1の発光装置の構成を示す断面図である。
【図2】本発明に用いることができる発光ダイオードの発光スペクトルを示す図であり、投入電流に対するスペクトルの変移を示している。
【図3】YAG系蛍光体の励起スペクトルを示すグラフである。
【図4】窒化物蛍光体の励起スペクトルを示すグラフである。
【図5】本発明に係る実施の形態6の発光装置の構成を示す断面図である。
【図6】本発明に係る実施例1の発光装置の発光スペクトルを示すグラフである。
【図7】実施例1の発光装置において、投入電流値を変化させたときの発光スペクトルの変化を示すグラフである。
【図8】比較例の発光装置において、投入電流値を変化させたときの発光スペクトルの変化を示すグラフである。
【図9】実施例1の発光装置に使用した発光素子において、投入電流値を変化させたときの発光スペクトルの変化を示すグラフである。
【図10】実施例1の発光装置における投入電流値に対する発光強度を示すグラフである。
【図11】実施例1の発光装置における投入電流値に対する全光束を示すグラフである。
【図12】実施例1の発光装置における全光束の温度依存性を示すグラフである。
【図13】アンバー色の概略の範囲を示す色度図である。
【図14】実施例1の発光装置の発光色を示す色度図である。
【図15】本発明に係る実施例2〜4の発光装置の発光色を示す色度図である。
【図16】本発明に係る実施例2〜4の発光装置の発光スペクトルを示す図である。
【図17】本発明に係る実施の形態1〜3の変形例の発光装置の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る蛍光体及びその製造方法を、実施の形態及び実施例を用いて説明する。だたし、本発明は、この実施の形態及び実施例に限定されない。
【0020】
実施の形態1.
本発明に係る実施の形態1の発光装置は、可視光のうち比較的短波長の青色の光を発光する発光素子(青色発光ダイオード)と、その発光素子の青色光の少なくとも一部を吸収してアンバー色の光を発光する蛍光体とを有する発光装置である。
ここで、特に本実施の形態1の発光装置は、後述する窒化物蛍光体とYAG蛍光体とを用いたことを特徴とし、この2つの蛍光体の発光色の混色により、所望のアンバー色を実現している。
【0021】
具体的には、本実施の形態1では、第1に、YAG蛍光体のみでは実現が困難であったアンバー色を、赤色成分の多い窒化物蛍光体をYAG蛍光体とともに用いることによって、所望のアンバー色を実現している。
また、本実施の形態1では、第2に、可視光である青色光を発光する発光素子を用いているが、その発光素子は窒化物蛍光体とYAG蛍光体を励起するために用いてその青色光が直接外部に出力されることがないようにし、窒化物蛍光体の発光とYAG蛍光体の発光が混合されたアンバー色の光を出力するようにしている。
【0022】
ここで、アンバー色とは、JIS規格Z8110における黄色のうちの長波長領域と黄赤の短波長領域とからなる領域や、安全色彩のJIS規格Z9101による黄色の領域と黄赤の短波長領域に挟まれた領域の色度範囲が該当し、例えば、ドミナント波長で言えば、580nm〜600nmの範囲に位置する領域をいう。
具体的には、車載用アンバー色のJIS規格や黄色の交通信号灯の規格があるが、本明細書では、これらの規格の全てを包含する範囲は全てアンバー色である。
より具体的には、車載用アンバー色の規格として、SAE規格(SAE J588)があり、これによれば、図14及び図15の色度図表内の(A)の領域を示すもので、(x、y)=(0.56、0.44)、(0.54、0.42)、(0.60、0.39)、(0.61、0.39)に囲まれる領域をアンバー色としている。また、同様に車載用アンバー色の規格として、JIS規格(JIS D5500)があり、これによれば、図14及び15の色度図表内の(B)の領域を示すもので、(x、y)=(0.571、0.429)、(0.564、0.429)、(0.595、0.398)、(0.602、0.398)に囲まれる領域をアンバー色としている。さらにまた、黄色の交通信号灯としてCIE規格(CIE DS004 2/E−1996)があり、図14及び15の色度図表内の(C)の領域を示すもので、(x、y)=(0.547、0.452)、(0.536、0.444)、(0.593、0.387)、(0.613、0.387)に囲まれる領域をアンバー色としている。本明細書では、すくなくともこれら(A)〜(C)のいずれかの範囲に入るものはアンバー色であるとする。
尚、明細書における色名と色度座標との関係は、全てJIS規格に基づく(JIS Z8110)。
【0023】
以下、本実施の形態1の発光装置の構成について詳細に説明する。
実施の形態1の発光装置は、図1に示すように、紫外領域の発光素子10と、発光素子10を載置するためのカップを有するカソード側のリードフレーム13aと、リードフレーム13aから離れて設けられたアノード側のリードフレーム13bと、リードフレーム13aのカップ内に設けられた蛍光体11を含むコーティング部材12と、全体を覆う透明のモールド部材15を有してなり、蛍光体11として後述の窒化物蛍光体とYAG蛍光体が用いられている。
尚、発光素子10の正の電極3は、導電性ワイヤ14によってリードフレーム13bに接続され、発光素子10の負の電極4は、導電性ワイヤ14によってリードフレーム13aに接続されており、発光素子10、導電性ワイヤ14、リードフレーム13aのカップ及びリードフレーム13bの先端部分が透明のモールド部材15によって覆われている。
【0024】
以上のように構成される実施の形態1の発光装置は、次のようにして製造される。
まず、発光素子10をダイボンダーによって、リードフレーム13aのカップにフェイスアップでダイボンド(接着)する。
ダイボンド後、リードフレーム13をワイヤーボンダーに移送し、発光素子の負電極3をリードフレーム13aのカップの上端部分に金線(導電性ワイヤ)でワイヤーボンドし、正電極3をもう一方のリードフレーム13bにワイヤーボンドする。
【0025】
次に、モールド装置に移送し、モールド装置のディスペンサーでリードフレーム13aのカップ内に蛍光体11及びコーティング部材12を注入する。蛍光体11とコーティング部材12とは、注入前に予め所望の割合に均一に混合しておく。特に、本実施の形態1の発光装置では、2つの蛍光体の発光色により発光装置の発光色が決定され、青色光が直接外に漏れると発光色が変化するので、発光素子の青色光が外に出力されないように蛍光体の含有量は設定される。
【0026】
そして、蛍光体11及びコーティング部材12を注入後、樹脂を硬化させ、予めモールド部材15が注入されたモールド型枠の中にリードフレーム13を浸漬した後、再度樹脂を硬化させ、最後に型枠をはずすと、図1に示すような砲弾型の発光装置が製造できる。
【0027】
以下、本実施の形態1の各要素についてより詳細に説明する。
【0028】
[蛍光体]
本実施の形態1において使用される蛍光体は、イットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体と、赤色系の光を発光可能な蛍光体、特に窒化物蛍光体とを組み合わせたものを使用する。これらのYAG系蛍光体および窒化物系蛍光体は、蛍光体11として混合されてコーティング部材12中に含有される。尚、YAG系蛍光体を含むコーティング層と窒化物系蛍光体を含むコーティング層の2層構造としてもよい。
【0029】
それぞれの蛍光体について詳細に説明する。
(イットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体)
本実施の形態1に用いられるイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体(YAG系蛍光体)は、YとAlを含むガーネット構造の総称であり、希土類元素から選択された少なくとも一種の元素で付活された蛍光体であり、発光素子10から発光される青色光で励起されて発光する。YAG系蛍光体としては、例えば、(Re1-xSmx3(Al1-yGay512:Ce(0≦x<1、0≦y≦1、但し、Reは、Y、Gd、Laからなる群から選択される少なくとも一種の元素である。)等が挙げられる。
(Re1-xSmx3(Al1-yGay512:Ce蛍光体は、ガーネット構造のため、熱、光及び水分に強く、特に、高輝度で長時間使用する場合に好適である。また、励起スペクトルのピークを470nm付近に設定することができる。発光ピークは530nm付近にあり、720nmまで裾を引くブロードな発光スペクトルが得られる。
【0030】
特に、YAG系蛍光体は、Al、Ga、In、Y、La及びGdやSmの含有量が異なる2種類以上の(Re1-xSmx3(Al1-yGay512:Ce蛍光体を混合させることにより、RGBの波長成分を増やすことができる。また、現在のところ半導体発光素子の発光波長には、バラツキが生ずるものがあるが、2種類以上の蛍光体を混合することにより、所望の白色系の混色光等を得ることができる。つまり、発光素子の発光波長に合わせて色度点の異なる蛍光体を組み合わせることにより、それらの蛍光体間と発光素子とで結ばれる色度図上の任意の点の光を発光させることができる。
またアルミニウム・ガーネット系蛍光体とは、Alを含み、かつY、Lu、Sc、La、Gd、Tb、Eu及びSmから選択された少なくとも一つの元素と、Ga及びInから選択された一つの元素とを含み、希土類元素から選択された少なくとも一つの元素で賦活された蛍光体であり、可視光や紫外線で励起されて発光する蛍光体である。
【0031】
ガーネット構造を有するこの種の蛍光体は、Alの一部をGaで置換することで、発光スペクトルが短波長側にシフトし、また組成のYの一部をGd及び/又はLaで置換することで、発光スペクトルが長波長側へシフトする。このように組成を変化することで発光色を連続的に調節することが可能である。したがって、長波長側の強度がGdの組成比で連続的に変えられるなど、窒化物半導体の青色系発光を利用して白色系発光に変換するための理想条件を備えている。Yの置換が2割未満では、緑色成分が大きく、赤色成分が少なくなり、8割以上では、赤色成分が増えるものの輝度が急激に低下する。
【0032】
また、励起吸収スペクトルについても同様に、ガーネット構造を有するこの種の蛍光体は、Alの一部をGaで置換することで、励起吸収スペクトルが短波長側にシフトし、また組成のYの一部をGd及び/又はLaで置換することで、励起吸収スペクトルが長波長側へシフトする。蛍光体の励起吸収スペクトルのピーク波長は、発光素子の発光スペクトルのピーク波長より短波長側にあることが好ましい。このように構成すると、発光素子に投入する電流を増加した場合、励起吸収スペクトルのピーク波長は、発光素子の発光スペクトルのピーク波長にほぼ一致するため、蛍光体の励起効率を低下させることなく、色度ズレの発生を抑えることができる。
【0033】
具体的には、上述したYAG系蛍光体の他、Tb2.95Ce0.05Al12、Y2.90Ce0.05Tb0.05Al12、Y2.94Ce0.05Pr0.01Al12、Y2.90Ce0.05Pr0.05Al12等、さらに、以下の表3に示すものが挙げられる。なかでも、Yを含み、かつCe又はPrで賦活されたイットリウム・アルミニウム酸化物系蛍光体が好ましい。特に、組成の異なる2種類以上の蛍光体を組み合わせて用いることが好ましい。
例えば、セリウムで賦活されたイットリウム・アルミニウム酸化物系蛍光体は、緑色系又は赤色系に発光可能である。緑色系に発光可能な蛍光体は、ガーネット構造のため、熱、光及び水分に強く、励起吸収スペクトルのピーク波長が420nmから470nm付近であり、発光ピーク波長λpは510nm付近にあり、700nm付近まで裾を引くブロードな発光スペクトルを有する。また、赤色系に発光可能な蛍光体は、ガーネット構造であり、熱、光及び水分に強く、励起吸収スペクトルのピーク波長が420nmから470nm付近であり、発光ピーク波長λpは600nm付近にあり、750nm付近まで裾を引くブロードな発光スペクトルを有する。
【0034】
YAG系蛍光体を使用すると、放射照度として(Ee)=0.1W・cm−2以上1000W・cm−2以下のLEDチップと接する或いは近接して配置された場合においても高効率に十分な耐光性を有する発光装置とすることができる。
本実施の形態1に用いられるセリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム酸化物系蛍光体である緑色系が発光可能なYAG系蛍光体では、ガーネット構造のため、熱、光及び水分に強く、励起吸収スペクトルのピーク波長を420nmから470nmの範囲に設定することができる。また、発光ピーク波長λpも510nm付近にあり700nm付近まで裾を引くブロードな発光スペクトルを持つ。一方、セリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム酸化物系蛍光体である赤色系が発光可能なYAG系蛍光体も、ガーネット構造であり熱、光及び水分に強く、励起吸収スペクトルのピーク波長を420nmから470nmの範囲に設定することができる。また、発光ピーク波長λpが600nm付近にあり750nm付近まで裾を引くブロードな発光スペクトルを持つ。
【0035】
ガーネット構造を持ったYAG系蛍光体において、Alの一部をGaで置換することで発光スペクトルを短波長側にシフトさせることができ、また組成のYの一部をGd及び/又はLaで置換することで、発光スペクトルが長波長側へシフトさせることができる。Yの置換が2割未満では、緑色成分が大きく赤色成分が少なくなる。また、8割以上では、赤み成分が増えるものの輝度が急激に低下する。また、励起吸収スペクトルについても同様に、ガーネット構造を持ったYAG系蛍光体において、Alの一部をGaで置換することで励起吸収スペクトルを短波長側にシフトさせることができ、また組成のYの一部をGd及び/又はLaで置換することで、励起吸収スペクトルが長波長側にシフトさせることができる。
【0036】
(YAG蛍光体の製造方法)
本実施の形態1のYAG蛍光体は、以下のようにして作製できる。
まず、Y、Gd、Ce、La、Al、Lu、Tb、Sc、Pr、Sm及びGaの原料として酸化物、又は高温で容易に酸化物になる化合物を使用し、それらを化学量論比で十分に混合して原料を得る。又は、Y、Gd、Ce、La、Lu、Tb、Sc、Pr、Smの希土類元素を化学量論比で酸に溶解した溶解液を蓚酸で共沈したものを焼成して得られる共沈酸化物と、酸化アルミニウム、酸化ガリウムとを混合して混合原料を得る。
これにフラックスとしてフッ化アンモニウム等のフッ化物、あるいはNHClを適量混合して坩堝に詰め、空気中1350〜1450℃の温度範囲で2〜5時間焼成して焼成品を得、次に焼成品を水中でボールミルして、洗浄、分離、乾燥、最後に篩を通すことで作製できる。
【0037】
尚、蛍光体の原料を混合した混合原料とフラックスからなる混合物は、大気中又は弱還元雰囲気中にて焼成した後(第一焼成工程)、還元雰囲気中で焼成する(第二焼成工程)二段階焼成が好ましい。ここで、弱還元雰囲気とは、混合原料から所望の蛍光体を形成する反応過程において必要な酸素量は少なくとも含むように設定された弱い還元雰囲気のことをいい、この弱還元雰囲気中において所望とする蛍光体の構造形成が完了するまで第一焼成工程を行うことにより、蛍光体の黒変を防止し、かつ光の吸収効率の低下を防止できる。また、第二焼成工程における還元雰囲気とは、弱還元雰囲気より強い還元雰囲気をいう。このように二段階で焼成すると、励起波長の吸収効率の高い蛍光体が得られ、効率の高い発光装置が得られる。
【0038】
また、本実施の形態1では、組成の異なる2種類以上のセリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム酸化物系蛍光体を用いて構成してもよい。この場合、その2種類以上の蛍光体は、混合して用いても良いし、それぞれ別の層として配置しても良い。
【0039】
(窒化物系蛍光体)
本実施の形態1の発光装置における窒化物蛍光体は、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Luからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の希土類元素により賦活される、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の第II族元素と、C、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の第IV族元素と、Nと、を含む蛍光体である。
この窒化物蛍光体の組成中に、Oが含まれていてもよい。
【0040】
上記元素の組み合わせのうち、Euにより賦活される、Ca及びSrの少なくともいずれか1元素と、Siと、Nとからなる窒化物蛍光体であることが特に好ましい。
すなわち、Caを用いた窒化物蛍光体は、温度特性に優れていることから、長時間で使用しても劣化速度を小さく抑えることができる。またSrを用いた窒化物蛍光体は、粒径がCaを用いた窒化物蛍光体などの中で最も小さいことから、発光素子からの光を外部に漏らさないようにするという点で最も好ましい。粒径が小さいことで、蛍光体の濃度が小さくても発光素子からの光を外部に漏らさないようにできるので、蛍光体の濃度が高くなることによる光出力の低下を抑えることもできる。
【0041】
また、この組成をベースとして、Euの一部は、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Luからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の希土類元素により置換可能である。Ca及びSrの少なくともいずれか一方の元素の一部は、Be、Mg、Ba、Znからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の第II族元素により置換可能である。Siの一部は、C、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の第IV族元素により置換可能である。
【0042】
本実施の形態1の窒化物蛍光体は、具体的には、一般式、L((2/3)X+(4/3)Y):R若しくはL((2/3)X+(4/3)Y−(2/3)Z):R(Lは、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の第II族元素である。Mは、C、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の第IV族元素である。Rは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Luからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の希土類元素である。X、Y、Zは、0.5≦X≦3、1.5≦Y≦8、0<Z≦3である。)で表される窒化物蛍光体である。
【0043】
上記一般式に含まれる窒化物蛍光体の好ましい具体例として、(SrCa1−TSi:Eu、CaSi:Eu、SrCa1−TSi10:Eu、SrSi10:Eu、CaSi10:Eu、SrSi:Eu、BaSi:Eu、MgSi:Eu、ZnSi:Eu、SrSi10:Eu、BaSi10:Eu、MgSi10:Eu、ZnSi10:Eu、SrGe:Eu、BaGe:Eu、MgGe:Eu、ZnGe:Eu、SrGe10:Eu、BaGe10:Eu、MgGe10:Eu、ZnGe10:Eu、Sr1.8Ca0.2Si:Eu、Ba1.8Ca0.2Si:Eu、Mg1.8Ca0.2Si:Eu、Zn1.8Ca0.2Si:Eu、Sr0.8Ca0.2Si10:Eu、Ba0.8Ca0.2Si10:Eu、Mg0.8Ca0.2Si10:Eu、Zn0.8Ca0.2Si10:Eu、Sr0.8Ca0.2Ge10:Eu、Ba0.8Ca0.2Ge10:Eu、Mg0.8Ca0.2Ge10:Eu、Zn0.8Ca0.2Ge10:Eu、Sr0.8Ca0.2SiGeN10:Eu、Ba0.8Ca0.2SiGeN10:Eu、Mg0.8Ca0.2SiGeN10:Eu、Zn0.8Ca0.2SiGeN10:Eu、SrSi:Pr、BaSi:Pr、SrSi:Tb、BaGe10:Ce(0<T<1である。)等が挙げられる。
【0044】
Lは、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の第II族元素である。すなわち、第II族元素として、Mg、Ca、Srなどを単独で使用することもできるし、CaとSr、CaとMg、CaとBa、CaとSrとBaなどの2種類の組合せであってもよいし、さらに3以上の種類の元素の組み合わせであってもよい。特に、窒化物蛍光体の組成中、第II族元素として、CaとSrの少なくともいずれか一方を用いることにより、発光輝度、量子効率等にすぐれた蛍光体が得られる。このCaとSrの少なくともいずれか一方の元素を含むようにし、Ca又はSrの一部を、Be、Mg、Ba、Znで置換してもよい。2種以上の混合物を使用する場合、所望により配合比を変えることができる。本窒化物蛍光体では、Srのみ、若しくは、Caのみのときより、SrとCaとを混合した方が、より長波長側にピーク波長がシフトする。SrとCaのモル比が、7:3若しくは3:7のとき、Ca、Srのみを用いた場合と比べて、長波長側にピーク波長がシフトしている。さらに、SrとCaのモル比が、ほぼ5:5のとき、最も長波長側にピーク波長がシフトする。
【0045】
Mは、C、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の第IV族元素である。すなわち、第IV族元素として、C、Si、Geなどを単独で使用することもできるし、CとSi、GeとSi、TiとSi、ZrとSi、GeとTiとSiなど2種の組合せであってもよいし、さらに3以上の種類の元素の組み合わせであってもよい。特に、窒化物蛍光体では、第IV族元素として、Siを用いることにより安価で結晶性の良好な窒化物蛍光体を提供することができる。この場合、Siの一部を、C、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfで置換してもよい。Siを必須として含む場合、所望により配合比を変えることができる。例えば、第IV族元素として、Siを95重量%用いて、Geを5重量%用いることができる。
【0046】
Rは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Luからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の希土類元素である。すなわち、希土類元素として、Eu、Pr、Ceなどを単独で使用することもできるし、CeとEu、PrとEu、LaとEuなどの2種類の組合せであってもよいし、さらに3以上の種類の組合せであってもよい。特に、賦活剤として、希土類元素として、Euを用いることにより、黄色から赤色領域にピーク波長を有する発光特性に優れた窒化物蛍光体を提供することができる。Euの一部を、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Luで置換してもよい。Euの一部を他の元素で置換することにより、他の元素は、共賦活として作用する。共賦活とすることにより色調を変化することができ、発光特性の調整を行うことができる。Euを必須とする混合物を使用する場合、所望により配合比を変えることができる。以下の実施例は、発光中心に希土類元素であるユウロピウムEuを用いる。ユウロピウムは、主に2価と3価のエネルギー準位を持つ。本発明の蛍光体は、母体のアルカリ土類金属系窒化ケイ素に対して、Eu2+を賦活剤として用いる。Eu2+は、酸化されやすく、3価のEuの組成で市販されている。たとえば、ユウロピウム単体、窒化ユウロピウムを用いることが好ましい。
【0047】
本発明で使用する窒化物蛍光体としては、ホウ素が含まれていることが好ましい。
ホウ素を添加した場合、Eu2+の拡散が促進され、発光輝度、エネルギー効率、量子効率等の発光特性の向上を図ることができる。また、粒径を大きくでき、発光特性の向上を図ることができる。
【0048】
前記窒化物蛍光体は、さらに、Li、Na、K、Rb、Csからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の第I族元素を1以上500ppm以下含むこともできる。第I族元素は、製造工程における焼成時に、飛散するため、原料への添加当初より、焼成後の添加量の方が、少ない量となっている。そのため、原料に添加する量を1000ppm以下に調整することが好ましい。これにより、発光輝度等の発光効率の調整を図ることができるからである。第I族元素を添加することにより、上述のように、発光輝度、量子効率の向上を図ることができる。
【0049】
前記窒化物蛍光体は、さらに、Cu、Ag、Auからなる第I族元素、Al、Ga、Inからなる第III族元素、Ti、Zr、Hf、Sn、Pbからなる第IV族元素、P、Sb、Biからなる第V族元素、Sからなる第VI族元素から選ばれる少なくとも1種以上の元素を1以上500ppm以下含むこともできる。これらの元素も、第I族元素と同様に、製造工程における焼成時に、これらの元素が飛散するため、原料への添加当初より、焼成後の添加量の方が、少ない量となっている。そのため、原料に添加する量を1000ppm以下に調整することが好ましい。これらの元素を添加することにより、発光効率の調整を行うことができる。
【0050】
前記窒化物蛍光体は、さらに、Ni、Crのいずれかの元素を1以上500ppm以下含むこともできる。残光を調節するためである。そのため、原料に添加する量を1000ppm以下に調整することが好ましい。
【0051】
上述の窒化物蛍光体に、さらに加える元素は、通常、酸化物、若しくは酸化水酸化物で加えられるが、これに限定されるものではなく、メタル、窒化物、イミド、アミド、若しくはその他の無機塩類でも良く、また、予め他の原料に含まれている状態でも良い。
【0052】
前記窒化物蛍光体の組成中に酸素が含有されていてもよい。酸素は、原料となる各種酸化物から導入されるか、焼成中に酸素が混入してくることが考えられる。この酸素は、Eu拡散、粒成長、結晶性向上の効果を促進すると考えられる。すなわち、原料に使用される一の化合物をメタル、窒化物、酸化物と変えても同様の効果が得られるが、むしろ酸化物を用いた場合の効果が大きい場合もある。窒化物蛍光体の結晶構造は、単斜晶又は斜方晶があるが、非単結晶、六方晶系などもある。
【0053】
(窒化物蛍光体の製造方法)
次に、窒化物蛍光体の製造方法の一例として、((SrCa1−XSi:Eu)の製造方法について説明する。尚、本発明は以下の製造方法に限定されるものではない。また、蛍光体には、Mn、Oが含有されていてもよい。
まず、原料のSr、Caを粉砕する。原料のSr、Caは、単体を使用することが好ましいが、イミド化合物、アミド化合物などの化合物を使用することもできる。また原料Sr、Caには、B、Al、Cu、Mg、Mn、Alなどを含有するものでもよい。粉砕により得られたSr、Caは、平均粒径が約0.1μmから15μmであることが好ましい。Sr、Caの純度は、2N以上であることが好ましい。より混合状態を良くするため、金属Ca、金属Sr、金属Euのうち少なくとも1以上を合金状態としたのち、窒化し、粉砕後、原料として用いることもできる。
【0054】
次に、原料のSiを粉砕する。原料のSiは、単体を使用することが好ましいが、窒化物化合物、イミド化合物、アミド化合物などを使用することもできる。例えば、Si、Si(NH、MgSiなどである。原料のSiの純度は、3N以上のものが好ましいが、Al、Mg、金属ホウ化物(CoB、NiB、CrB)、酸化マンガン、HBO、B、CuO、CuOなどの化合物が含有されていてもよい。Siも、原料のSr、Caと同様に、粉砕を行う。Si化合物の平均粒径は、約0.1μmから15μmであることが好ましい。
【0055】
次に、原料のSr、Caを、窒素雰囲気中で窒化する。この反応式を、以下の式1および式2にそれぞれ示す。
3Sr + N → Sr ・・・(式1)
3Ca + N → Ca ・・・(式2)
Sr、Caを、窒素雰囲気中、600〜900℃、約5時間、窒化する。Sr、Caは、混合して窒化しても良いし、それぞれ個々に窒化しても良い。これにより、Sr、Caの窒化物を得ることができる。Sr、Caの窒化物は、高純度のものが好ましいが、市販のものも使用することができる。
【0056】
原料のSiを、窒素雰囲気中で窒化する。この反応式を、以下の式3に示す。
3Si + 2N → Si ・・・(式3)
ケイ素Siも、窒素雰囲気中、800〜1200℃、約5時間、窒化する。これにより、窒化ケイ素を得る。本発明で使用する窒化ケイ素は、高純度のものが好ましいが、市販のものも使用することができる。
【0057】
Sr、Ca若しくはSr−Caの窒化物を粉砕する。同様に、Siの窒化物を粉砕する。また、同様に、Euの化合物Euを粉砕する。Euの化合物として、酸化ユウロピウムを使用するが、金属ユウロピウム、窒化ユウロピウムなども使用可能である。このほか、原料のZは、イミド化合物、アミド化合物を用いることもできる。酸化ユウロピウムは、高純度のものが好ましいが、市販のものも使用することができる。粉砕後のアルカリ土類金属の窒化物、窒化ケイ素及び酸化ユウロピウムの平均粒径は、約0.1μmから15μmであることが好ましい。
【0058】
上記原料中には、Mg、Sr、Ca、Ba、Zn、B、Al、Cu、Mn、Cr、O及びNiからなる群より選ばれる少なくとも1種以上が含有されていてもよい。また、Mg、Zn、B等の上記元素を以下の混合工程において、配合量を調節して混合することもできる。これらの化合物は、単独で原料中に添加することもできるが、通常、化合物の形態で添加される。この種の化合物には、HBO、Cu、MgCl、MgO・CaO、Al、金属ホウ化物(CrB、Mg、AlB、MnB)、B、CuO、CuOなどがある。
上記粉砕を行った後、Sr、Ca、Sr−Caの窒化物、Siの窒化物、Euの化合物Euを混合し、Mnを添加する。
【0059】
最後に、Sr、Ca、Sr−Caの窒化物、Siの窒化物、Euの化合物Euの混合物をアンモニア雰囲気中で、焼成する。焼成により、Mnが添加された(SrCa1−XSi:Euで表される蛍光体を得ることができる。この焼成によるベース窒化物蛍光体の反応式を、以下の式4に示す。
(式4)(X/3)Sr+((1.97−X)/3)Ca+(5/3)Si+(0.03/2)Eu
→SrCa1.97−XEu0.03Si7.980.045
【0060】
以上のようにして、(SrCa1−XSi:Euで表される窒化物蛍光体を製造できる。
他の組成の窒化物蛍光体は、原料の選択、配合比率を変更することにより製造できる。
焼成温度は、1200から1700℃の範囲で焼成を行うことができるが、1400から1700℃の焼成温度が好ましい。焼成は、徐々に昇温を行い1200から1500℃で数時間焼成を行う一段階焼成を使用することが好ましいが、800から1000℃で一段階目の焼成を行い、徐々に加熱して1200から1500℃で二段階目の焼成を行う二段階焼成(多段階焼成)を使用することもできる。蛍光体の原料は、窒化ホウ素(BN)材質の坩堝、ボートを用いて焼成を行うことが好ましい。窒化ホウ素材質の坩堝の他に、アルミナ(Al)材質の坩堝を使用することもできる。
【0061】
以上の製造方法を使用することにより、目的とする蛍光体を得ることが可能である。
以上、説明した実施の形態1の窒化物蛍光体は、その組成によって励起スペクトル及び発光スペクトルを比較的広い範囲内において調整することができ、YAG蛍光体との組み合わせによって所望のアンバー色の発光装置を構成することが可能となる。
また、2種類の蛍光体を用いて発光装置を構成した場合に生じることがある、発光素子の発光波長の変動による色ずれを抑制するような組成の選択が可能である。
【0062】
また、この窒化物蛍光体には、発光輝度を高くするために、Bが1ppm以上10000ppm以下含まれていることが好ましいが、ホウ素を含有させるためには、例えば、製造する際の各出発原料とともにホウ素化合物を添加するようにすればよい。若しくは、Ca、Siなどの原料組成中に、予め含有させておくこともできる。例えば、湿式混合において、原料とは別に、HBOを添加する場合は、1ppm以上1000ppm以下に設定することが好ましく、より好ましくは、100ppm以上1000ppm以下にする。乾式混合において、ホウ素を添加する場合は、1ppm以上10000ppm以下に設定することが好ましく、より好ましくは、100ppm以上10000ppm以下とする。そのホウ素は、フラックスとして働く。
原料に添加するホウ素は、ボロン、ホウ化物、窒化ホウ素、酸化ホウ素、ホウ酸塩等が使用できる。具体的には、BN、HBO、B、B、BCl、SiB、CaBなどが挙げられる。これらのホウ素化合物は、原料に所定量を秤量して、添加する。原料へのホウ素の添加量と、焼成後のホウ素の含有量とは、必ずしも一致しない。ホウ素は、製造工程における焼成段階で、一部が飛散するため、焼成後のホウ素の含有量は、原料への添加時よりも少なくなる。
【0063】
以上説明したYAG蛍光体は、その組成および組成比の選択により、緑色から黄色の範囲において色度を自由に調整できる他、その励起スペクトルや励起効率等を比較的広い範囲で調整できる。
また、窒化物蛍光体は、その組成および組成比の選択により、黄色の黄赤の範囲において色度を自由に調整できる他、その励起スペクトルや励起効率等を比較的広い範囲で調整できる。
したがって、所定の色度が得られるように組成及び組成比が調整されたYAG蛍光体と、そのYAG蛍光体との組み合わせることによって所望のアンバー色が得られるようにその組成及び組成比が調整された窒化物蛍光体とを適切な範囲で組み合わせることによって、所定のアンバー色が実現できる。
【0064】
(コーティング部材)
コーティング部材12(光透光性材料)は、リードフレーム13のカップ内に設けられるものであり発光素子10の発光を変換する蛍光体11と混合して用いられる。コーティング部材12の具体的材料としては、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、シリコーン樹脂などの温度特性、耐候性に優れた透明樹脂、金属アルコキシドなどからゾルゲル法により生成される透光性無機材料、ガラス、無機バインダーなどが用いられる。また、蛍光体11と共に拡散剤、チタン酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウムなどを含有させても良い。また、光安定化剤や着色剤を含有させても良い。
【0065】
(コーティング部材と蛍光体との比率)
本実施の形態1では、コーティング部材に含まれる蛍光体の量を15wt%以上にすることにより、発光素子の青色光の外部への出力が抑えられ、発光色が実質的に蛍光体のみが発光する光により決定される。
具体的には、蛍光体の量がコーティング部材の15重量パーセントであるとき、発光素子からの光が直接外部に放出される光の量は、全光束で10%となる。このように発光素子からの直接外部に放出される光の量を10%以下とすると、発光色が実質的に蛍光体の発光のみによって決定され、アンバー色の発光が可能な発光装置を得ることができる。
【0066】
<発光素子>
実施の形態1の発光素子は、例えば、サファイアからなる基板1と、その上に形成された半導体層2と、その半導体層2の同一平面側に形成された正負の電極が形成されている。前記半導体層2は発光層(図示しない)を含む複数の層からなり、この発光層から青色光が出力される。
紫外から青色領域の500nm以下の光の発光が可能な半導体発光素子の材料として、BN、SiC、ZnSeやGaN、InGaN、InAlGaN、AlGaN、BAlGaN、BInAlGaNなど種々の半導体を挙げることができる。これらの元素に不純物元素としてSiやZnなどを含有させ発光中心とすることもできる。蛍光体を効率良く励起できる紫外領域から可視光の短波長を効率よく発光可能な発光層の材料として特に適した材料として、窒化物半導体(例えば、AlやGaを含む窒化物半導体、InやGaを含む窒化物半導体としてInAlGa1−X−YN、0<X<1、0<Y<1、X+Y≦1)が挙げられる。
【0067】
また、発光素子の好ましい構造としては、MIS接合、PIN接合やpn接合などを有するホモ構造、ヘテロ構造あるいはダブルへテロ構成のものが挙げられる。半導体発光素子では、半導体層の材料やその混晶比によって発光波長を種々選択することができる。また、活性層を量子効果が生ずる薄膜に形成させた単一量子井戸構造や多重量子井戸構造とすることでより出力を向上させることもできる。
【0068】
窒化物半導体を使用した場合、基板としては、サファイア、スピネル、SiC、Si、ZnO、GaAs、GaN等の材料が好適に用いられる。結晶性の良い窒化物半導体を量産性よく形成するためにはサファイア基板を利用することが好ましい。このサファイア基板上にHVPE法やMOCVD法などを用いて窒化物半導体を成長させることができる。この場合、好ましくはサファイア基板上にGaN、AlN、GaAIN等の低温で成長させ非単結晶となるバッファ層を形成しその上にpn接合を有する窒化物半導体を形成させる。
【0069】
窒化物半導体を使用したpn接合を有する紫外領域の光を効率よく発光可能な発光素子例として、以下のような構造が挙げられる。
その構造例では、まず、バッファ層上に、サファイア基板のオリフラ面と略垂直にSiOをストライプ状に形成する。次に、ストライプ上にHVPE法を用いてGaNをELOG(Epitaxial Lateral Over Grows GaN)成長させる。続いて、MOCVD法により、n型窒化ガリウムで形成した第1のコンタクト層、n型窒化アルミニウム・ガリウムで形成させた第1のクラッド層、窒化インジウム・アルミニウム・ガリウムの井戸層と窒化アルミニウム・ガリウムの障壁層を複数積層させた多重量子井戸構造の活性層、p型窒化アルミニウム・ガリウムで形成した第2のクラッド層、p型窒化ガリウムで形成した第2のコンタクト層を順に積層させることによりダブルへテロ構造を構成する。この構造では、活性層をリッジストライプ形状としガイド層で挟むと共に共振器端面を設け本発明に利用可能な半導体レーザー素子とすることもできる。
【0070】
窒化物半導体は、不純物をドープしない状態でn型導電性を示すが、発光効率を向上させることを目的として、所定のキャリア濃度のn型窒化物半導体を形成することが好ましく、その場合には、n型ドーパントとしてSi、Ge、Se、Te、C等を適宜導入する。一方、p型窒化物半導体を形成する場合は、p型ドーパントであるZn、Mg、Be、Ca、Sr、Ba等をドープする。窒化物半導体は、p型ドーパントをドープしただけではp型化しにくいためp型ドーパントを導入した後に、炉による加熱やプラズマ照射等により低抵抗化させることが好ましい。サファイア基板をそのまま残して、正負の電極を形成する場合には、第1のコンタクト層の表面までp型側から一部をエンチングし、同一面側にp型及びn型の両方のコンタクト層を露出させる。そして、各コンタクト層上にそれぞれ電極を形成した後、ウエハーをチップ状にカットすることにより窒化物半導体発光素子(チップ)が作製される。
【0071】
本実施の形態1では、青色発光素子を用いているが、コーティング部材又はモールド部材として、透光性の樹脂を用いる場合には、窒化物蛍光体の励起波長と透光性の樹脂の劣化の両方を考慮して、発光素子の発光波長は450nm以上470nm以下に設定することが好ましい。
また、本発明に係る発光装置において、後述の実施の形態2のように青色発光素子以外を用いる場合には、窒化物蛍光体の励起波長と透光性の樹脂の劣化の両方を考慮して、発光素子の発光波長は、その主発光波長が360nm以上420nm以下に設定することが好ましい。
【0072】
また、半導体発光素子は、不純物濃度1017〜1020/cmで形成されるn型コンタクト層のシート抵抗Rnと、透光性p電極のシート抵抗Rpとが、Rp≧Rnの関係となるように調節されていることが好ましい。n型コンタクト層は、例えば膜厚3〜10μm、より好ましくは4〜6μmに形成されると好ましく、そのシート抵抗Rnは10〜15Ω/□と見積もられることから、このときのRpは前記シート抵抗値以上のシート抵抗値を有するように薄膜に形成するとよい。具体的には、透光性p電極は、膜厚が150μm以下の薄膜で形成されることが好ましい。また、p電極は金属以外のITO、ZnOも使用することができる。ここで透光性p電極の代わりに、メッシュ状電極などの複数の光取り出しよ用開口部を備えた電極も使用することができる。
【0073】
また、透光性p電極が、金および白金族元素の群から選択された1種と、少なくとも1種の他の元素とから成る多層膜または合金で形成される場合には、含有されている金または白金族元素の含有量により透光性p電極のシート抵抗の調整をすると安定性および再現性が向上される。金または金属元素は、本発明に使用する半導体発光素子の波長領域における吸収係数が高いので、透光性p電極に含まれる金又は白金族元素の量は少ないほど透過性がよくなる。従来の半導体発光素子はシート抵抗の関係がRp≦Rnであったが、本発明ではRp≧Rnであるので、透光性p電極は従来のものと比較して薄膜に形成されることとなるが、このとき金または白金族元素の含有量を減らすことで薄膜化が容易に行える。
【0074】
上述のように、本発明で用いられる半導体発光素子は、n型コンタクト層のシート抵抗RnΩ/□と、透光性p電極のシート抵抗RpΩ/□とが、Rp≧Rnの関係を成していることが好ましい。半導体発光素子として形成した後にRnを測定するのは難しく、RpとRnとの関係を知るのは実質上不可能であるが、発光時の光強度分布の状態からどのようなRpとRnとの関係になっているのかを知ることができる。
【0075】
透光性p電極とn型コンタクト層とがRp≧Rnの関係であるとき、前記透光性p電極上に接して延長伝導部を有するp側台座電極を設けると、さらなる外部量子効率の向上を図ることができる。延長伝導部の形状及び方向に制限はなく、延長伝導部が衛線上である場合、光を遮る面積が減るので好ましいが、メッシュ状でもよい。また形状は、直線状以外に、曲線状、格子状、枝状、鉤状でもよい。このときp側台座電極の総面積に比例して遮光効果が増大するため、遮光効果が発光増強効果を上回らないように延長導電部の線幅及び長さを設計するのがよい。
【0076】
(リードフレーム)
リードフレーム13は、マウントリード13aとインナーリード13bとから構成される。
【0077】
マウントリード13aは、発光素子10を配置させるカップを有するものである。マウントリード13aのカップ内に発光素子10を複数配置してマウントリード13aを複数の発光素子10の共通電極として利用することもできる。この場合、十分な電気伝導性と導電性ワイヤ14との接続性が求められる。発光素子10とマウントリード13aのカップとのダイボンド(接着)は、熱硬化性樹脂などによって行うことができる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、イミド樹脂などが挙げられる。また、フェースダウン構造として、発光素子10とマウントリード13aとをダイボンドすると共に電気的接続を行うには、Agペーストと、カーボンペースト、金属バンプなどを用いることができる。また、無機バインダーを用いることもできる。
【0078】
インナーリード13bは、マウントリード13a上に配置された発光素子10の他方の電極3と導電性ワイヤ14によって電気的接続されるものである。インナーリード13bは、マウントリード13aとの電気的接触によるショートを避けるため、マウントリード13aから離れた位置に配置される。マウントリード13a上に複数の発光素子10を設けた場合は、各導電性ワイヤ同士が接触しないようにワイヤーボンディングしやすいように構成する必要がある。インナーリード13bは、マウントリード13aと同様の材質を用いることが好ましく、鉄、銅、鉄入り銅、金、白金、銀やそれらの合金などを用いることができる。
【0079】
(導電性ワイヤ)
導電性ワイヤ14は、発光素子10の電極3とリードフレーム13とを電気的に接続するものである。導電性ワイヤ14は、電極3とオーミック性、機械的接続性、電気導電性及び熱伝導性が良いものが好ましい。導電性ワイヤ14の具体的材料としては、金、銅、白金、アルミニウムなどの金属及びそれらの合金などが好ましい。
【0080】
(モールド部材)
モールド部材15は、発光素子10、蛍光体11、コーティング部材12、リードフレーム13及び導電性ワイヤ14などを外部から保護するために設けられている。モールド部材15は、外部からの保護目的の他に、視野角を広げたり、発光素子10からの指向性を緩和したり、発光を収束、拡散させたりする目的も併せ持っている。モールド部材は、これらの目的を達成するために適した形状にすることができる。例えば、モールド部材15は、凸レンズ形状、凹レンズ形状の他、複数積層する構造であっても良い。モールド部材15の具体的材料としては、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、シリコーン樹脂、金属アルコキシドなどからゾルゲル法により生成される透光性無機材料、ガラスなどの透光性、耐候性、温度特性に優れた材料を使用することができる。モールド部材15には、拡散剤、着色剤、紫外線吸収剤や蛍光体を含有させることもできる。拡散剤としては、チタン酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム等が好ましい。コーティング部材12との材質の反発性を少なくするため、屈折率を考慮するため、同材質を用いることが好ましい。
【0081】
実施の形態2.
本発明に係る実施の形態2の発光装置は、実施の形態1の発光装置において窒化物蛍光体の励起効率の励起波長依存性と、YAG蛍光体の励起効率の励起波長依存性とを考慮して窒化物蛍光体の組成及び組成比とYAG蛍光体のの組成及び組成比とを設定することにより、発光素子の発光波長の変動による色ずれを防止したものである。
すなわち、実施の形態1のように2種類の蛍光体を用いて発光装置を構成した場合、発光素子の発光波長の変動により、2つの蛍光体における励起効率の波長依存性が異なる場合には、光の混合比が変化し、発光色が変動する。
しかしながら、本実施の形態2の発光装置では、発光素子の発光波長が変化した場合でも、窒化物蛍光体の励起効率とYAG蛍光体の励起効率が同じように変化するようにして、発光素子の発光波長の変動範囲において、光の混合比が常に一定に保たれるように窒化物蛍光体とYAG蛍光体の組成を設定している。
【0082】
具体的には、実施の形態1の発光装置において、蛍光体を励起する発光素子のピーク波長は、発光素子に投入する電流値が小さい場合には長く、発光素子に投入する電流値が大きい場合には短くなる。そこで、本実施の形態2では、発光素子の電流値による発光波長の変化を考慮して、YAG系蛍光体の励起吸収スペクトルのピーク波長は、投入電流値が低い場合の発光素子のピーク波長より短波長側に設定する。そして、好ましくは、発光素子に投入する電流が最大になるときの発光素子のピーク波長と、YAG蛍光体の励起吸収スペクトルのピーク波長とを略一致させる。このようにすると、YAG蛍光体を効率良く励起することができる。
【0083】
そして、窒化物蛍光体の組及び組成比は、窒化物蛍光体の励起吸収スペクトルのピーク波長が、投入電流値が低い場合の発光素子のピーク波長より短波長側に位置するように設定する。この場合、好ましくは、窒化物蛍光体を効率良く励起するために、発光素子に投入する電流が最大になるときの発光素子のピーク波長と、窒化物蛍光体の励起吸収スペクトルのピーク波長とが略一致するように窒化物蛍光体の組及び組成比を設定する。
このように、YAG蛍光体と窒化物蛍光体の組成及び組成比を設定すると、色ずれの少ないアンバー色の発光装置が実現できる。
【0084】
以下、実施の形態2における色ずれ防止の仕組みについて、具体的な組成の蛍光体を例に説明する。
まず、半導体発光素子は、図2に示すように、投入電流を増加することにより、ピーク波長が短波長側にシフトする。これは、投入電流を増加すると、電流密度が大きくなって、バンドギャップが大きくなることなどによる。発光素子への電流密度が小さい場合の発光スペクトルのピーク波長と、投入電流を増加させた時の発光スペクトルのピーク波長との変動は、例えば、20mAから100mAの投入電流の変化に対して、約10nm程度である(図2)。
【0085】
これに対して、例えば、Y(Al0.8Ga0.212:Ceで表されるYAG蛍光体(図3の蛍光体3)の励起スペクトルにおけるピーク波長は約448nmであるが、その励起スペクトルのピーク波長448nmの光で励起したときの発光強度を100とした場合、波長460nmの光で励起したときの発光強度は95となる。また、そのYAG蛍光体において、448nm〜460nmの範囲内の波長の光に対して、発光強度はほぼ線形で変化する。
【0086】
一方、例えば、(Sr0.579Ca0.291Eu0.03Siで表される窒化物蛍光体の励起スペクトルにおけるピーク波長は約450nmであるが、この励起スペクトルのピーク波長450nmの発光強度を100とした場合、460nmでの発光強度は95である(図4において、蛍光体5として示す。)。また、448nm〜460nmの範囲の光に対して、この窒化物蛍光体の発光強度もほぼ線形で変化する。
そこで、発光素子として、電流を投入した直後(例えば、20mA程度の低い電流値のとき)の発光ピーク波長が460nmである素子を選択すると、その発光素子において投入電流を増加して100mAの電流を投入した場合、発光ピーク波長は約450nmとなるが、波長460nmの光で励起した場合と、波長450nmの光で励起した場合とでは、窒化物蛍光体の励起効率とYAG蛍光体の励起効率の比率には変化がない。
【0087】
したがって、その発光素子の電流投入量を20mAから100mAに増加させたときの、発光素子の発光波長の変化に対するYAG蛍光体の発光強度の変化量と窒化物蛍光体の発光強度の変化量は等しくなる。
これにより、発光素子における投入電流量により発光ピーク波長が変化した場合であっても、YAG蛍光体の発光強度と窒化物蛍光体の発光強度の比を一定にでき、色ずれの発生を無くすことができる。
【0088】
尚、発光素子の電流投入量を、例えば、20mAから100mAに増加させた場合、発光素子の発光強度は高くなって、YAG蛍光体の発光強度と窒化物蛍光体の発光強度はそれぞれ高くなるが、YAG蛍光体と窒化物蛍光体の間の発光強度比は一定に保たれる。したがって、発光装置全体としての発光強度は高くなるが、色ずれが生じることはない。
【0089】
以上のように、本実施の形態2の発光装置によれば、調光可能な照明光源として用いた場合でも色ずれのない照明とでき、また、パルス駆動の場合と連続発光の場合とで発光色が変化することはない。
【0090】
実施の形態3.
本発明に係る実施の形態3の発光装置は、実施の形態1の発光装置において窒化物蛍光体の発光強度の温度依存性と、YAG蛍光体の発光強度の温度依存性とを考慮して窒化物蛍光体の組成及び組成比とYAG蛍光体のの組成及び組成比とを設定することにより、色ずれを防止したものである。
【0091】
すなわち、本実施の形態3では、好ましくは各蛍光体の周囲温度の変化にともなう発光強度の変化が互いにほぼ等しくなるように各組成及び組成比を設定する。使用環境温度の変化や発光素子の発熱等により蛍光体の周囲温度の変化による色ずれを防止するためである。すなわち、発光強度の温度依存性が異なると、周囲温度の変化によって蛍光体間の発光強度比が変動して色ずれが生じるからである。
【0092】
また、一般に、蛍光体は周囲温度の上昇と共に励起効率が低下するため、蛍光体から出光する光の出力も低下するが、その低下率はいうまでもなく小さい方が好ましい。
本実施の形態1においては、周囲温度を1℃変化させたときの相対発光出力の低下割合を発光出力低下率と定義し、2以上の蛍光体の発光出力低下率は共に4.0×10−3[a.u./℃]以下、好ましくは3.0×10−3[a.u./℃]以下、より好ましくは2.0×10−3[a.u./℃]以下となるように蛍光体の組成を調整する。これにより、従来と比較して発熱を伴う発光装置全体の光束[lm]の低下を更に抑えることが可能である。したがって、本実施の形態1では、上述の範囲に発光出力低下率を調整し、かつ2以上の蛍光体の温度上昇に対する発光出力低下率がほぼ等しい構成としてある。このようにすることにより発熱によって励起効率が低下する蛍光体の温度特性がほぼ同じとなり、周囲温度が変化しても色ズレの発生を抑えることが可能な発光装置を形成することができる。
【0093】
実施の形態1〜3の変形例.
実施の形態1〜3の発光装置では、コーティング樹脂における蛍光体量を多くすることにより発光素子の発光が外部に放出されないようにし、実質的に蛍光体の発光のみにより発光色が決定されるようにした。しかしながら、本発明では、発光素子が発光する青色光の外部への放出を阻止する色フィルタを用いて構成するようにしてもよい。
例えば、発光素子の青色光と蛍光体の発光とによる電球色の発光色が得られるようにし、その電球色光のうち比較的短波長域の可視光成分を色フィルタによってカットして出力するように構成するとアンバー色が実現できる。
【0094】
すなわち、本変形例では、可視光である青色光を発光する発光素子を用いているが、その青色光は窒化物蛍光体とYAG蛍光体を励起するためだけに用い、青色光が直接外部に出力されることがないようにし色フィルタを備えている。
【0095】
具体的には、本変形例の発光装置は、図1に示すような発光装置において、さらにモールド部材15を覆うように青色領域及びそれより短波長の光をカットする色フィルタ(色フィルタキャップ)16を被せるようにすればよい(図17)。
また、色フィルタキャップ16に代えて、例えば、モールド部材15に発光素子の発光色と同一色を有する無機又は有機顔料を含ませることにより、モールド部材15そのものに短波長成分の通過を阻止するフィルタ機能を持たせるようにしてもよい。
尚、本変形例では、青色光等の短波長成分をカットする色フィルタを用いたが、本発明はこれに限られるものではなく、本発明では、短波長成分に限らず、短波長成分と長波長成分、又は長波長成分のみなど不要な波長成分をカットする色フィルタを設けるようにしてもよい。これにより、所望の発光色の実現が可能になる。
【0096】
実施の形態4.
本発明に係る実施の形態4の発光装置は、実施の形態1の発光装置において、(1)青色発光素子に代えて、紫外の光を発する発光素子を用い、(2)YAG蛍光体に代えて酸窒化物蛍光体を用いた以外は実施の形態1と同様に構成される。
すなわち、本実施の形態4の発光装置は、紫外の光を発する発光素子と、窒化物蛍光体と、酸窒化物蛍光体とを組合せた点に特徴があり、窒化物蛍光体の発光色と酸窒化物蛍光体との発光色の混色によって所望のアンバー色を実現している。
【0097】
なお、この実施の形態4の発光装置においては、上述の実施の形態2と同様にして、紫外の光を発する発光素子の発光波長の変動に対して、窒化物蛍光体の励起効率と酸窒化物蛍光体の励起効率が同じ割合で変化するようにすることが好ましく、これにより色ずれを防止できる。
例えば、(Ca0.985Eu0.015Siで表される窒化物蛍光体は、励起スペクトルのピーク波長が約370nmであり、そのピーク波長より波長が長くなると励起効率は下がる。また、CaSi:Euで表される酸窒化物蛍光体の励起スペクトルにおけるピーク波長は約370nmであり、そのピーク波長より波長が長くなると励起効率は低くなる。
また、この励起効率の低下率は、窒化物蛍光体及び酸窒化物蛍光体の組成を適宜選択することにより、ほぼ同一とできる。
【0098】
したがって、発光素子として、電流を投入した直後(例えば、20mA程度の低い電流値のとき)の発光ピーク波長が380nmである素子を選択すると、発光素子の発光波長の変化に対する窒化物蛍光体の発光強度の変化量と酸窒化物蛍光体の発光強度の変化量を略等しくできる。
尚、本実施の形態において、窒化物蛍光体の励起スペクトルにおけるピーク波長及び酸窒化物蛍光体のの励起スペクトルにおけるピーク波長は、各組成を適宜選択することにより、より短波長側又は長波長側にシフトさせることができ、選択する発光素子の波長に応じて調整できる。
【0099】
また、本発明において、窒化物蛍光体の励起スペクトルにおけるピーク波長と酸窒化物蛍光体の励起スペクトルにおけるピーク波長は一致させることが好ましいが、本発明はこれに限られるものではない。
以上のように、本実施の形態4の発光装置によれば、紫外の光を発する発光素子を用いてアンバー色の発光装置を実現できる。
この実施の形態4のアンバー色の発光装置は、紫外の光を発する発光素子を用いて構成していることから、実施の形態1の場合のように、発光素子の光の外部への出射を必ずしも抑える必要はない。
【0100】
また、窒化物蛍光体の励起効率の励起波長を依存性及び酸窒化物蛍光体の励起効率の励起波長依存性を考慮して、各組成及び組成比を選択することにより、色ずれの少ない発光装置を提供できる。また、組成を最適化することにより窒化物蛍光体と酸窒化物蛍光体の温度特性を実質的に一致させ、色ずれを防ぐことも可能である。
【0101】
以下、酸窒化物蛍光体について詳細に説明する。
本実施の形態4に係る酸窒化物蛍光体は、賦活剤に希土類元素を用いており、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である第II族元素と、C、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である第IV族元素と、を少なくとも含有する酸窒化物蛍光体結晶を含む蛍光体である。
ここで、酸窒化物蛍光体結晶は、例えば、後述の実施例で示す斜方晶に属する結晶からなる酸窒化物蛍光体である。
上記列記されたII族元素と第IV族元素の組合せは任意であるが、以下の組成のものを使用することが好ましい。
【0102】
好ましい実施の形態4の酸窒化物蛍光体は、一般式L((2/3)X+(4/3)Y−(2/3)Z):R、又は、L((2/3)X+(4/3)Y+T−(2/3)Z):Rの一般式で表される。ここで、Lは、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である第II族元素である。Mは、C、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である第IV族元素である。Qは、B、Al、Ga、Inからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である第III族元素である。Oは、酸素元素である。Nは、窒素元素である。Rは、希土類元素である。0.5<X<1.5、1.5<Y<2.5、0<T<0.5、1.5<Z<2.5である。
【0103】
この一般式で表される酸窒化物蛍光体は、少なくとも一部に元素が一定の規則にしたがって配列された結晶を含むようにでき、その結晶から効率よく高輝度の光が発光される。上記一般式において、0.5<X<1.5、1.5<Y<2.5、0<T<0.5、1.5<Z<2.5に設定することにより、発光部である結晶相を比較的容易に形成でき、発光効率の良い輝度の高い蛍光体を提供することができる。
【0104】
また、上記一般式中、X、Y、Zは、X=1、Y=2、Z=2であることが好ましく、この組成のときに、より多くの結晶相が形成されるとともにその結晶性も良好にでき、発光効率及び輝度を高くできる。本実施の形態4の酸窒化物蛍光体に含まれる結晶(結晶相)の割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは80重量%以上である。
尚、発光輝度等の調整を目的として、含有される結晶の割合を所望の値に設定したい場合には、上記一般式中、X、Y、Zの値により調整することもできる。
但し、上記範囲は好ましい範囲であって、本発明は、上記範囲に限定されるものではない。
【0105】
具体的には、本発明の酸窒化物蛍光体には、CaSi:Eu、SrSi:Eu、BaSi:Eu、ZnSi:Eu、CaGe:Eu、SrGe:Eu、BaGe:Eu、ZnGe:Eu、Ca0.5Sr0.5Si:Eu、Ca0.5Ba0.5Si:Eu、Ca0.5Zn0.5Si:Eu、Ca0.5Be0.5Si:Eu、Sr0.5Ba0.5Si:Eu、Ca0.8Mg0.2Si:Eu、Sr0.8Mg0.2Si:Eu、Ca0.5Mg0.5Si:Eu、Sr0.5Mg0.5Si:Eu、CaSi0.1:Eu、SrSi0.1:Eu、BaSi0.1:Eu、ZnSi0.1:Eu、CaGe0.01:Eu、SrGeGa0.01:Eu、BaGeIn0.01:Eu、ZnGeAl0.05:Eu、Ca0.5Sr0.5Si0.3:Eu、CaSi2.51.5:Eu、SrSi2.51.5:Eu、BaSi2.51.5:Eu、Ca0.5Ba0.5Si2.51.5:Eu、Ca0.5Sr0.5Si2.51.5:Eu、Ca1.5Si2.52.52.7:Eu、Sr1.5Si2.52.52.7:Eu、Ba1.5Si2.52.52.7:Eu、Ca1.0Ba0.5Si2.51.5:Eu、Ca1.0Sr0.5Si2.51.5:Eu、Ca0.5Si1.51.51.7:Eu、Sr0.5Si1.51.51.7:Eu、Ba0.5Si1.51.51.7:Eu、Ca0.3Ba0.2Si2.51.5:Eu、Ca0.2Sr0.3Si2.51.5:Eu等で表される酸窒化物蛍光体が含まれる。
【0106】
また、ここで示すように、本実施の形態4の酸窒化物蛍光体は、OとNとの比を変化させることが可能で、その比を変化させることにより、色調や輝度を調節することができる。また、(L+M)/(O+N)で示す陽イオンと陰イオンのモル比を変化させることもでき、それによって微妙に発光スペクトルや強度を調整することも可能である。これは、例えば、真空などの処理を施し、NやOを脱離させること等により可能であるが、本発明は、この方法により限定されるものではない。この酸窒化物蛍光体の組成中には、Li、Na、K、Rb、Cs、Mn、Re、Cu、Ag、Auの少なくとも1種以上含有されていてもよく、これらを添加することにより輝度、量子効率等の発光効率を調整することができる。また、その他の元素も特性を損なわない程度に入っていても良い。
酸窒化物蛍光体に含まれる第II族元素の一部は、賦活剤Rで置換される。第II族元素と前記賦活剤Rとの混合量に対して、前記賦活剤Rの量は、(前記第II族元素と前記賦活剤Rとの混合量):(前記賦活剤Rの量)=1:0.001乃至1:0.8のモル比であることが好ましい。
【0107】
また、Lは、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である第II族元素である。本発明において、Lは、Ca、Sr等の単体であってもよいが、CaとSr、CaとBa、SrとBa、CaとMg等、複数の元素の組合せからなっていてもよい。また、Lが複数の元素の組み合わせである場合、その組成比は変化させることができる。例えば、SrとCaとの混合物は、所望により配合比を変えることができる。
【0108】
特に、Lは、Mg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群から選ばれるCa、Sr、Baのいずれかを必須とする少なくとも1種以上である第II族元素であることが好ましい。
Mは、C、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である第IV族元素である。Mも、Si、Ge等を単体であってもよいし、SiとGe、SiとC等の複数の元素の組合せからなっていてもよい。本発明では、上述の第IV族元素を用いることができるが、特にSi、Geを用いることが好ましい。Si、Geを用いることにより安価で結晶性の良好な蛍光体を提供することができる。
【0109】
特に、Mは、C、Si、Ge、Sn、Ti、Hfからなる群から選ばれるSiを必須とする少なくとも1種以上である第IV族元素であることが好ましい。
Rは、希土類元素である。具体的には、Rは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lrから選ばれる1又は2以上の元素である。本発明では、これら希土類元素のうち、Euを用いることが好ましい。また、Euと、希土類元素から選ばれる少なくとも1以上の元素と、を含んでいてもよい。その場合、Rとして、Euが50重量%以上、より好ましくは70%以上含有されていることが好ましい。すなわち、賦活剤Rは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lrからなる群から選ばれるEuを必須とする少なくとも1種以上である希土類元素であることが好ましい。Eu以外の元素は、共賦活剤として、作用するためである。
【0110】
本実施の形態4では、発光中心に希土類元素であるユウロピウムEuを用いる。ユウロピウムは、主に2価と3価のエネルギー準位を持つ。本実施の形態4の蛍光体は、母体のアルカリ土類金属系窒化ケイ素に対して、Eu2+を付活剤として用いる。Eu2+は、酸化されやすく、一般に3価のEuの組成で市販されている。
尚、本明細書においては、発光中心として、代表例であるEuを用いたものについて説明する場合もあるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0111】
母体材料として、主成分のL、Mも、それぞれの化合物を使用することができる。これら主成分のL、Mは、金属、酸化物、イミド、アミド、窒化物及び各種塩類などを用いることができる。また、あらかじめ主成分のL、Mの元素を混合し、使用してもよい。
Qは、B、Al、Ga、Inからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である第III族元素である。Qも、金属、酸化物、イミド、アミド、窒化物及び各種塩類などを用いることができる。例えば、B、HBO、Al、Al(NO・9HO、AlN、GaCl、InCl等である。
【0112】
Lの窒化物、Mの窒化物、Mの酸化物を母体材料として、混合する。該母体材料中に、Euの酸化物を付活剤として混入する。これらを所望の蛍光体組成になるように秤量し、均一になるまで混合する。特に、該母体材料のLの窒化物、Mの窒化物、Mの酸化物は、0.5<Lの窒化物<1.5、0.25<Mの窒化物<1.75、2.25<Mの酸化物<3.75、のモル比で混合されていることが好ましい。すなわち、これらの母体材料を、L((2/3)X+Y−(2/3)Z−α):R又はL((2/3)X+Y+T−(2/3)Z−α):Rの組成比となるように、所定量を秤量して混合する。
【0113】
(酸窒化物蛍光体の製造方法)
次に、本実施の形態4に係る酸窒化物蛍光体、CaSi:Euの製造方法を説明する。尚、本発明は、以下の製造方法に限定されるものではない。
まず、Caの窒化物、Siの窒化物、Siの酸化物、Euの酸化物を準備する。これら原料は、精製したものを用いる方が良いが、市販のものを用いても良い。
【0114】
1.Caの窒化物の準備
最初に、原料のCaを粉砕する。原料のCaは、単体を使用することが好ましいが、イミド化合物、アミド化合物、CaOなどの化合物を使用することもできる。また原料Caは、B、Gaなどを含有するものでもよい。原料のCaは、アルゴン雰囲気中、グローブボックス内で粉砕を行う。粉砕により得られたCaは、平均粒径が約0.1μmから15μmであることが好ましいが、この範囲に限定されない。Caの純度は、2N以上であることが好ましいが、これに限定されない。
次に、粉砕した原料のCaを、窒素雰囲気中で窒化する。Caの窒化物は、粉砕したCaを窒素雰囲気中、600〜900℃で、約5時間、窒化することにより、得ることができる。この反応式を、式5に示す。
(式5)
3Ca + N → Ca Caの窒化物は、高純度のものが好ましいことはいうまでもない。Caの窒化物として、市販のものも使用することができる。
次に、Caの窒化物を粉砕する。Caの窒化物を、アルゴン雰囲気中、若しくは、窒素雰囲気中、グローブボックス内で粉砕を行う。
【0115】
2.Siの窒化物の準備
最初に、原料のSiを粉砕する。原料のSiは、単体を使用することが好ましいが、窒化物化合物、イミド化合物、アミド化合物などを使用することもできる。例えば、Si、Si(NH、MgSi、CaSi、SiCなどである。原料のSiの純度は、3N以上のものが好ましいが、B、Gaなどが含有されていてもよい。Siも、原料のCaの場合と同様に、アルゴン雰囲気中、若しくは、窒素雰囲気中、グローブボックス内で粉砕を行う。Si化合物の平均粒径は、約0.1μmから15μmであることが好ましい。
原料のSiを、窒素雰囲気中で窒化する。窒化ケイ素は、ケイ素Siを窒素雰囲気中、800〜1200℃で、約5時間、窒化することにより得られる。この反応式を、式6に示す。
(式6)
3Si + 2N → Si
本発明で使用する窒化ケイ素は、高純度のものが好ましいことはいうまでもない。尚、窒化ケイ素として、市販のものを使用してもよい。
【0116】
次に、Siの窒化物を粉砕する。
3.Siの酸化物の準備
Siの酸化物であるSiOは、市販のものを用いる(和光純薬製 Silicon Dioxide 99.9%,190-09072)。
以上のようにして精製又は製造を行った原料(Caの窒化物、Siの窒化物、Siの酸化物、Euの酸化物)を所定のモル量になるように秤量する。
そして、その秤量した原料を、混合する。
次に、Caの窒化物、Siの窒化物、Siの酸化物、Euの酸化物の混合物をアンモニア雰囲気中、約1500℃で、焼成する。その焼成された混合物を坩堝に投入し、焼成する。
混合及び焼成により、CaSi:Euで表される酸窒化物蛍光体を得ることができる。この焼成による基本構成元素の反応式を、式7に示す。
(式7)
(1/3)Ca+(1/3)Si+SiO+aEu
→CaSi:Eu
ただし、この組成は、配合比率より推定される代表組成であり、その比率の近傍では、実用に耐える十分な特性を有する。また、各原料の配合比率を変更することにより、目的とする蛍光体の組成を変更することができる。
【0117】
焼成は、管状炉、小型炉、高周波炉、メタル炉などを使用することができる。焼成温度は、特に限定されないが、1200から1700℃の範囲で焼成を行うことが好ましく、1400から1700℃の焼成温度が、さらに好ましい。蛍光体の原料は、窒化ホウ素(BN)材質の坩堝、ボートを用いて焼成を行うことが好ましい。窒化ホウ素材質の坩堝の他に、アルミナ(Al)材質の坩堝を使用することもできる。
また、還元雰囲気は、窒素雰囲気、窒素−水素雰囲気、アンモニア雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気等である。
【0118】
以上の製造方法を使用することにより、目的とする酸窒化物蛍光体を得ることが可能である。
なお、Bを含むCaSi((2/3)X+Y+T−(2/3)Z−α):Euで表される酸窒化物蛍光体は、以下のようにして製造することができる。
あらかじめ、Euの酸化物に、Bの化合物HBOを乾式混合する。Euの化合物として、酸化ユウロピウムを使用するが、前述の他の構成元素と同様、金属ユウロピウム、窒化ユウロピウムなども使用可能である。このほか、原料のEuは、イミド化合物、アミド化合物を用いることもできる。酸化ユウロピウムは、高純度のものが好ましいが、市販のものも使用することができる。Bの化合物を乾式混合するが、湿式混合することもできる。これらの混合物は、酸化されやすいものもあるため、Ar雰囲気中、又は、窒素雰囲気中、グローブボックス内で、混合を行う。
【0119】
Bの化合物HBOを例にとって、酸窒化物蛍光体の製造方法を説明するが、B以外の成分構成元素には、Li、Na、K等があり、これらの化合物、例えば、LiOH・HO、NaCO、KCO、RbCl、CsCl、Mg(NO、CaCl・6HO、SrCl・6HO、BaCl・2HO、TiOSO・HO、ZrO(NO、HfCl、MnO、ReCl、Cu(CHCOO)・HO、AgNO、HAuCl・4HO、Zn(NO・6HO、GeO、Sn(CHCOO)等を使用することができる。
【0120】
EuとBの混合物を粉砕する。粉砕後のEuとBの混合物の平均粒径は、約0.1μmから15μmであることが好ましい。
上記粉砕を行った後、前述のCaSi:Euの製造工程とほぼ同様に、Caの窒化物、Siの窒化物、Siの酸化物、Bを含有するEuの酸化物、を混合する。該混合後、焼成を行い、目的の酸窒化物蛍光体を得ることができる。
【0121】
以上の実施の形態4の酸窒化物蛍光体は、YAG系蛍光体と同等以上の安定性を有し、さらに以下のような特徴がある。
(1)本実施の形態4の酸窒化物蛍光体は、その組成及び組成比を選ぶことにより、青緑色領域〜黄赤色領域の比較的広い範囲において所望の発光色を設定でき、色調、発光輝度、量子効率等も幅広く調整できる。
例えば、II族元素を2種以上使用して、その比率を変えることにより、色調、発光輝度、量子効率を調整できる。
(2)YAG系蛍光体は、紫外〜短波長の可視領域の光による励起ではほとんど発光しないが、本実施の形態4の酸窒化物蛍光体は、紫外〜短波長の可視領域の光の励起により高い発光効率が得られる。
すなわち、本実施の形態4の酸窒化物蛍光体により紫外〜短波長の可視領域の発光素子との組み合わせに適した蛍光体を提供できる。
(3)結晶質であることから、粉体又は粒体として容易に製造することができ、その取り扱い及び加工が容易である。
尚、実施の形態4の発光装置において、酸窒化物蛍光体以外の構成要素については、実施の形態1と同様であるからその説明は省略する。
【0122】
実施の形態5.
本発明に係る実施の形態5の発光装置は、実施の形態1の発光装置において、青色発光素子に代えて、紫外の光を発する発光素子と青色の蛍光体とを用いて構成した以外は実施の形態1と同様に構成される。
以上のように構成された本実施の形態5の発光装置では、紫外の光を発する発光素子が青色蛍光体を励起して青色光を発生させ、その青色光によって、YAG蛍光体と窒化物蛍光体とを励起している。
すなわち、本実施の形態5の発光装置では、励起光源として、紫外の光を発する発光素子によって励起される青色蛍光体を用いている点で実施の形態1とは異なるが、YAG蛍光体の発光色と窒化物蛍光体の発光色との混色により発光装置としての発光色が決定される点では実施の形態1と同様である。
【0123】
この励起光源としての青色蛍光体は、その発光波長(発光スペクトル)が発光素子の紫外光の波長が変化してもほとんど変化しないという特徴を有している。
したがって、本実施の形態5の発光装置においては、励起光源の波長の変動による色ずれはほとんど生じないので、色ずれの少ないアンバー色の発光装置が実現できる。
したがって、本実施の形態5の発光装置では、YAG蛍光体の発光色と窒化物蛍光体の組成及び組成比の設定において、各蛍光体の波長依存性を考慮する必要がないので、組成及び組成比の選択の自由度が広がる上に、実施の形態2の発光装置と同様、色ずれの少ないアンバー色の発光装置が実現できる。
【0124】
以下、本実施の形態5の青色蛍光体について、説明する。
本実施の形態5の青色蛍光体として、例えば、以下の(1)〜(13)から選択することができる。
(1)(M11−a−bEuL110(POで表される蛍光物質、
ただし、M1はMg、Ca、Ba、Sr、Znから選択される少なくとも1種と、L1はMn、Fe、Cr、Snから選択される少なくとも1種と、Qはハロゲン元素のF、Cl、Br、Iから選択される少なくとも1種とを有する。0.0001≦a≦0.5、0.0001≦b≦0.5である。
(2)(M11−aEu10(POで表される蛍光物質、
ただし、M1はMg、Ca、Ba、Sr、Znから選択される少なくとも1種と、Qはハロゲン元素のF、Cl、Br、Iから選択される少なくとも1種とを有する。0.0001≦a≦0.5である。
(3)(M11−a−bEuMn10(POで表される蛍光物質、
ただし、M1はMg、Ca、Ba、Sr、Znから選択される少なくとも1種と、Qはハロゲン元素のF、Cl、Br、Iから選択される少なくとも1種とを有する。0.0001≦a≦0.5、0.0001≦b≦0.5である。
(4)(M21−a−cEuBa10(POで表される蛍光物質、
ただし、M2はMg、Ca、Sr、Znから選択される少なくとも1種と、Qはハロゲン元素のF、Cl、Br、Iから選択される少なくとも1種とを有する。0.0001≦a≦0.5、0.10≦c≦0.98である。
(5)M11−aEuAlで表される蛍光物質、
ただし、M1はMg、Ca、Ba、Sr、Znから選択される少なくとも1種を有する。0.0001≦a≦0.5である。
(6)M11−a−bEuMnAlで表される蛍光物質、
ただし、M1はMg、Ca、Ba、Sr、Znから選択される少なくとも1種を有する。0.0001≦a≦0.5、0.0001≦b≦0.5である。
(7)M31−a−cEuCaAlで表される蛍光物質、
ただし、M3はMg、Ba、Sr、Znから選択される少なくとも1種を有する。0.0001≦a≦0.5、0.10≦c≦0.98である。
(8)M41−aEuMgAl1017で表される蛍光物質、
ただし、M4はCa、Ba、Sr、Znから選択される少なくとも1種を有する。0.0001≦a≦0.5である。
(9)M41−aEuMg1−bMnAl1017で表される蛍光物質、
ただし、M4はCa、Ba、Sr、Znから選択される少なくとも1種を有する。0.0001≦a≦0.5、0.0001≦b≦0.5である。
(10)(M11−aEuAl1425で表される蛍光物質、
ただし、M1はMg、Ca、Ba、Sr、Znから選択される少なくとも1種を有する。0.0001≦a≦0.5である。
(11)ZnS:Agで表される蛍光物質、
(12)(Zn、Cd)S:Ag、Mnで表される蛍光物質、
(13)(M1−aEuQ(Mは、Mg、Cu、Ba、Sr、Znから選択される少なくとも一種であり、Qは、F、Cl、Br、Iから選択される少なくとも一種である。)で表される蛍光物質。
尚、他の窒化物蛍光体、YAG蛍光体、発光素子等の他の要素は、実施の形態1と同様であるから、その詳細な説明は省略する。
【0125】
実施の形態5の変形例.
実施の形態5の発光装置では、コーティング樹脂に含まれる各蛍光体の量を調整することにより、青色光が外部に放出されないようにし、実質的にYAG系蛍光体の発光と窒化物蛍光体の発光のみの混色により発光色が決定されるようにした。しかしながら、本発明では、発光素子が発光する青色光の外部への放出を阻止する色フィルタを用いて構成するようにしてもよい。
【0126】
すなわち、本変形例では、青色光を発光する青色蛍光体を用いているが、その青色光は窒化物蛍光体とYAG蛍光体を励起するためだけに用い、青色光が直接外部に出力されることがないようにし色フィルタを備えるようにしてもよい。
【0127】
尚、本変形例の発光装置において、図1に示すような発光装置において、さらにモールド部材15を覆うように青色領域及びそれより短波長の光をカットする色フィルタ(色フィルタキャップ16)を被せるようにしてもよいし(図17)、色フィルタキャップ16に代えて、例えば、モールド部材15に発光素子の発光色と同一色を有する無機又は有機顔料を含ませることにより、モールド部材15そのものに短波長成分の通過を阻止するフィルタ機能を持たせるようにしてもよい。
また、本発明では、短波長成分に限らず、短波長成分と長波長成分、又は長波長成分のみなど不要な波長成分をカットする色フィルタを設けるようにしてもよい。
【0128】
実施の形態6.
本発明に係る実施の形態6の発光装置は、紫外又は比較的短波長の可視光の発光素子と窒化物蛍光体とを含み、アンバー色の発光が可能な表面実装型の発光装置である(図5)。
実施の形態5において、発光素子101は、実施の形態1の発光素子10と同様のものを使用することができる。
【0129】
実施の形態6の発光装置のパッケージ105は、コバールからなり、凹部が形成された中央部とその中央部の周りに位置する鍔状のベース部とからなる。ベース部には、凹部を挟むようにコバール製のリード電極102が気密絶縁的に挿入固定されている。尚、パッケージ105及びリード電極102の表面にはNi/Ag層が形成されている。
以上のように構成されたパッケージ105の凹部内に、Ag−Sn合金にて上述のLEDチップ101がダイボンドされる。このように構成することにより、発光装置の構成部材を全て無機物とすることができ、LEDチップ101から放出される発光が紫外領域或いは可視光の短波長領域であったとしても飛躍的に信頼性の高い発光装置が得られる。
【0130】
次に、ダイボンドされたLEDチップ101の各電極と各リード電極102とをそれぞれAgワイヤ104にて電気的に接続する。そして、パッケージの凹部内の水分を十分に排除した後、中央部にガラス窓部107を有するコバール製リッド106を被せてシーム溶接することにより封止する。
ガラス窓部107には、例えば、Bが添加されたCaSi:Eu、(Y0.8Gd0.2Al12:Ce等の窒化物蛍光体とYAG蛍光体を含む色変換層109が形成されている。この色変換層109は、あらかじめニトロセルロース90wt%とγ−アルミナ10wt%からなるスラリーに窒化物蛍光体からなる蛍光体108を含有させ、透光性窓部107の背面(凹部に対向する面)に塗布し、220℃にて30分間加熱硬化させることにより形成される。
【0131】
以上のように構成された実施の形態6の表面実装型の発光装置において、発光素子と蛍光体の組合せは、実施の形態1〜3のうちのいずれかと同様の青色発光素子と窒化物蛍光体及びYAG蛍光体の組合せ、実施の形態4と同様の紫外発光素子と窒化物蛍光体及び酸窒化物蛍光体の組合せ、実施の形態5と同様の紫外発光素子と青色蛍光体からなる励起光源と、窒化物蛍光体及びYAG蛍光体の組み合わせのいずれであってもよく、それぞれ実施の形態1〜5と同様の作用効果を有する。
【0132】
以上の実施の形態では、蛍光体に対する励起光として、発光ダイオードを使用した例について説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、レーザダイオードを用いて構成してもよい。
また、半導体発光素子に限られるものできなく、他の励起光源を使用してもよい。
以上の実施の形態では、窒化物蛍光体と、YAG系蛍光体若しくは酸窒化物蛍光体との組み合わせたものについて説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、例えば、窒化物蛍光体と、YAG系蛍光体または酸窒化物蛍光体以外の蛍光体を組み合わせることもできる。
【実施例】
【0133】
以下、本発明に係る実施例について、比較例を交えながら詳述する。なお、本発明は以下に示す実施例のみに限定されないことは言うまでもない。
【0134】
[実施例1]
実施例1では、発光素子としては青色発光素子を、本発明の第1の蛍光体としてYAG系蛍光体と、第2の蛍光体としてホウ素(B)を添加した窒化物系蛍光体とを用いて、図1に示す構造の発光装置(発光ダイオード)を作製した。また比較例としてAlInGaP系の発光素子との特性について評価した。
具体的には、実施例1では、発光素子として発光ピーク波長が460nmの青色発光素子を用い、YAG系蛍光体として、(Y,Gd)Al12:Ce、窒化物系蛍光体として、ホウ素を添加したCaSi:Euを用いた。
また、実施例1において、樹脂と蛍光体の比率は、樹脂:YAG系蛍光体:窒化物系蛍光体=10:3.5:3.5とした。
このように、樹脂に対する蛍光体量を70%とすると、図1の構造の発光装置では、アンバー色規格(B)を満足するものが提供できる。
【0135】
図6には、以上のように構成した実施例1の発光スペクトルを比較例の発光スペクトルとともに示す。図6に示すように、実施例1と比較例はいずれもアンバー色の発光が得られるが、比較例の半値幅が約15nmであるのに対し、実施例1は120nmあり、半値幅において顕著な差が生じている。この実施例1は、半値幅が広いことから非常に視認性に優れている。
尚、図6〜図11及び図14に示す測定値は、DC駆動、環境温度Ta=25℃の条件で測定したものである。また、図6はIf=20mAの条件における測定値である。
【0136】
図7は、実施例1の発光装置において、発光素子への投入電流を変化させたときの発光スペクトル(発光装置のスペクトル)の変化を示すものであり、図8は、比較例のAlInGaP系の発光素子において、投入電流を変化させたときの発光スペクトルの変化を示すものである。図7と図8から、実施例1の発光装置は、発光素子への投入電流を変化させたときでも発光スペクトルの発光ピークはほとんど変化しないのに対して、比較例のAlInGaP系の発光素子は投入電流を変化させると発光スペクトルのピーク波長が変動(長波長側に発光ピーク波長がシフト)する。
【0137】
また、図14において、実施例1と比較例についてそれぞれ、発光素子に投入する電流の変動に対する色度の変化を色度図上に示している。
図14に示すように、実施例1の発光装置は、発光素子に投入する電流の変動に対して色度がほとんど変化しないのに対して、比較例では発光素子に投入する電流の変動に対する色度が変化している。
また、図9には実施例1で用いた発光素子における投入電流の変化に対する発光スペクトルの変動を示している。
【0138】
図7と図9を比較することにより、実施例1の発光装置では、発光素子に投入する電流を変化させると、発光素子の発光スペクトルのピーク波長は変化する(青色発光素子は電流を上げると発光ピークは短波長側にシフトする)が、発光装置全体としての発光スペクトルのピーク波長はほとんど変化しないことがわかる。
すなわち、青色の光を発する発光素子が発光する光によって励起された第1の蛍光体からの第1の光と、第2の蛍光体からの第2の光との混色による発光ピーク波長は投入電流を増加させてもずれることはない。この結果は、青色発光素子が発光した光は外部にほとんど放出されていないことを示している。
【0139】
また、図10は投入電流を増加させたときの光出力の増加を、実施例と比較例のそれぞれについて示している。図10に示されるように、投入電流に対して、比較例より実施例1の発光装置は高出力が得られることがわかる。また、比較例の発光ダイオードでは、光出力は40mAで飽和し、それ以上投入電流を増加させても光出力はほとんど増加しない。これに対して、実施例1の発光装置では、投入電流が60mA以上まで光出力はほぼ直線的に増加する。
【0140】
また、図11は、実施例1と比較例のそれぞれについて、投入電流に対する全光束を示すグラフである。光出力と同様、発光装置からの光の総出力についても、投入電流を増加していくと、比較例より実施例1の方が高出力が得られる。また、比較例の発光ダイオードでは、全光束についても40mAでほぼ飽和し、それ以上投入電流を増加させても全光束はほとんど増加しない。これに対して、実施例1の発光装置では、投入電流が60mA以上まで全光束はほぼ直線的に増加する。
【0141】
また、実施例1の発光装置の周囲温度に対する全光束を評価した。その結果を、市販のAlInGaP系発光素子(A社製、B社製、C社製)とともに、図12に示す。
尚、図12に示す測定値は、パルス駆動、Ifp=20mA、周波数200Hz、パルス幅=50μ秒、デューティー比1%の条件で測定したものである。
図12に示すように、実施例1の発光装置は、市販のAlInGaP系発光素子(A社製、B社製、C社製)に比べて、発光出力(全光束)の温度依存性は小さく、安定した光出力が得られることがわかる。
【0142】
[実施例2〜4]
実施例2〜4では、実施例1と同じ青色発光素子と蛍光体を用い、コーティング部における樹脂に対する蛍光体の比率を変化させて図5に示す発光装置を作製し評価した。
尚、蛍光体の濃度は、樹脂に対する第1の蛍光体と第2の蛍光体の総量で算出した。
樹脂に対する蛍光体の比率は、実施例2が15%であり、実施例3が20%であり、実施例4が25%である。尚、ここでいう比率は、重量比である。
また、ここでは製造ばらつきを考慮して各実施例についてそれぞれ3つのサンプルを作製した。
【0143】
表1に各サンプルの色度(x,y)を示す。
[表1]

【0144】
また、色度図上では、図15に示すように、実施例2については、アンバーの規格(C)の境界上にあり、実施例3は規格(A)と(C)内にあり、また実施例4は規格(A)〜(C)のすべてに含まれていた。このことから、コーティング部の蛍光体の濃度を、樹脂に対して15%以上とすることで、種々の用途に利用可能なアンバー色の発光装置が得られることがわかる。
尚、図15に示す測定値は、パルス駆動、Ifp=350mA、環境温度Ta=25℃、周波数200Hz、パルス幅=50μ秒、デューティー比1%の条件で測定したものである。
【0145】
また、実施例2〜4の発光スペクトルを図16に示す。この図16に示すように、実施例2〜4の発光装置の発光色はいずれもアンバー色であるが、実施例3,4の発光装置では青色発光素子の発光によるピークが観測されないのに対して、実施例2の発光装置では波長460nmにおいて青色発光素子の発光によるピーク(発光装置のメインピークに対して略10%の強度)が観測される。すなわち、本発明において、少なくとも発光素子の光の外部への漏れを発光装置のメインピークに対して10%以下に抑えることにより、アンバー色の発光装置を実現することができる。
尚、実施例3及び4の発光装置における、発光素子の光の外部への漏れは発光装置のメインピークに対してそれぞれ0.03及び0.01であり、この比を0.01以下にすることによりアンバー色の規格(B)を満足させることができる。
【0146】
また、本発明では、発光装置の発光色は実質的には蛍光体の発光色により決定されるので、発光装置のメインピーク強度は、実質的に蛍光体の発光強度と等しくなる。したがって、発光素子の光の漏れを発光装置のメインピークに対して10%以下に抑えるとは、発光素子の光の漏れの強度を蛍光体の発光強度のメインピークに対して10%以下に抑えることを意味する。
尚、実施例2のピーク波長は605nm、半値幅は108.4nm、出力Poは、36.4mWで、全光束は、11.5lm(ルーメン)あった。
また、実施例3のピーク波長は606nm、半値幅は105.9nm、出力Poは31.3mWで、全光束は、9.4lm(ルーメン)あった。
さらに、実施例4のピーク波長は607nm、半値幅は102.5nm、出力Poは26.8mWで、全光束は、7.7lm(ルーメン)あった。
【0147】
[実施例5]
本実施例5では、発光素子として、発光ピーク波長が460nmの青色発光素子を用い、YAG系蛍光体として、Y(Al,Ga)12:Ce、窒化物系蛍光体として、ホウ素(B)を添加したCaSi:Euを用いた。また、蛍光体の樹脂に対する比率は25パーセントとした。
この結果、色度点はアンバー色の規格(B)からは外れるが、規格(A)及び(C)に入り、また、投入電流の増加による色ずれは見られなかった。
【0148】
[実施例6]
本実施例6では、発光素子として、発光ピーク波長が460nmの青色発光素子を用い、YAG系蛍光体として、Y(Al,Ga)12:Ce、窒化物系蛍光体として、ホウ素(B)を添加したSrSi:Euを用いた。また、蛍光体の樹脂に対する比率は25パーセントとした。
この結果、色度点はアンバー色の規格(B)に入り、また投入電流の増加による色ずれは見られなかった。
【0149】
[実施例7]
本実施例7では、発光素子として、発光ピーク波長が465nmの青色発光素子を用い、YAG系蛍光体として、(Y,Gd)Al12:Ce、窒化物系蛍光体として、ホウ素(B)を添加したCaSi:Euを用いた。また、蛍光体の樹脂に対する比率は25パーセントとした。この結果、色度点はアンバー色の規格(B)に入り、また投入電流の増加による色ずれは見られなかった。
【符号の説明】
【0150】
1 基板
2 半導体層
3 電極
4 バンプ
10 発光素子
11 蛍光体
12 コーティング部材
13 リードフレーム
13a マウントリード
13b インナーリード
14 導電性ワイヤ
15 モールド部材
101 発光素子
102 リード電極
103 絶縁封止材
104 導電性ワイヤ
105 パッケージ
106 リッド
107 窓部
108 蛍光体
109 コーティング部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
青色発光素子と、
その発光素子が発光する光によって励起されてその励起光より長波長域の第1の光を発光する第1の蛍光体と
前記発光素子が発光する光によって励起されて前記第1の光よりさらに長波長域の第2の光を発光する窒化物蛍光体からなる第2の蛍光体とからなり、
前記第1の光と前記第2の光の混色によるアンバーの発光色を有する発光装置であって、
前記第1の蛍光体はYAG系蛍光体であり、
前記窒化物蛍光体は、Bを1ppm以上10000ppm以下の割合で含み、
前記発光素子の発光のうち、直接外部に漏れる青色光の強度を、蛍光体の発光のメインピークにおける強度の10%以下とし、発光装置の発光スペクトルの半値幅が50nm以上であることを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記発光素子の発光ピーク波長が、前記第1の蛍光体の第1の励起スペクトルのピーク波長及び前記第2の蛍光体の第2の励起スペクトルのピーク波長より長波長側にあり、かつ前記発光素子の発光ピーク波長の変動範囲において、前記第1の励起スペクトル及び前記励起スペクトルはそれぞれ負の傾きを有する請求項1記載の発光装置。
【請求項3】
前記第1の励起スペクトル及び前記励起スペクトルの傾きによって表される第1の蛍光体と第2の蛍光体の励起効率の励起波長に対する変化率が、前記発光素子の発光ピーク波長の変動範囲において実質的に等しい請求項2記載の発光装置。
【請求項4】
前記窒化物蛍光体は、一般式、L((2/3)X+(4/3)Y):R(Lは、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の第II族元素である。Mは、C、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の第IV族元素である。Rは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Luからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の希土類元素である。X、Y、Zは、0.5≦X≦3、1.5≦Y≦8、0<Z≦3である。)で表される窒化物蛍光体である請求項1〜3のうちのいずれか1つに記載の発光装置。
【請求項5】
前記窒化物蛍光体は、CaとSiを含む窒化物蛍光体である請求項1〜4のうちのいずれか1つに記載の発光装置。
【請求項6】
前記窒化物蛍光体の結晶構造は、単斜晶又は斜方晶である請求項1〜5のうちのいずれか1つに記載の発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−44738(P2011−44738A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255858(P2010−255858)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【分割の表示】特願2003−328380(P2003−328380)の分割
【原出願日】平成15年9月19日(2003.9.19)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】