説明

発光装置

【課題】開口率、発光効率及び寿命を向上させた発光装置を提供する。
【解決手段】基板10と、基板10上にある複数の多面構造体11と、基板10上にある複数の画素20と、から構成され、画素20が、互いに発光色が異なる複数の発光素子部(21r、21g、21b)を有し、前記発光素子部が、第一電極と、第二電極と、前記第一電極と前記第二電極との間に配置される発光層と、を有し、前記発光素子部が、多面構造体11の傾斜面上にあり、画素20が、デルタ配列で配列されていることを特徴とする、発光装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と称する。)は、実用化に向けての研究が活発に行われている。有機EL素子は、例えば、ガラス基板等の基板上に電極材料や有機材料を蒸着させるという方法で製造される。ここでシャドウマスクを用いると、複数種類の色(例えば、3色)の有機EL素子を所定の位置に選択的に形成することができるので、いわゆるパターニングが可能となる。しかしシャドウマスクの精度及び熱膨張の観点から、通常のシャドウマスクを用いたパターン化成膜技術は大型の表示装置を製造する際に適用するのが困難である。
【0003】
そこでシャドウマスクを用いないで有機EL素子を製造する方法が検討されている。例えば、特許文献1には、厚く形成した素子分離膜をシャドウマスクとして利用してパターン化された有機EL素子を製造する方法及びこの方法によって製造された発光装置が提案されている。また、非特許文献1には、シャドウマスクを用いないで有機EL素子を製造する方法として、三角錐や四角錐の立体構造物の各傾斜面(角錐面)上に発光色が異なる有機EL素子を形成する方法が提案されている。また非特許文献1には、3色の異なる塗布型プロセスにて作製したポリマー有機EL素子を張り合わせた三角錐形状の発光装置及びこの装置の発光状態も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−155538号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.,Vol.77,No.7,p936−938(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1にて提案されている発光装置は、厚く形成した素子分離膜によって開口率が小さいという問題が生じていた。また非特許文献1には、画素単位における発光装置のコンセプトは開示されているが、実際に発光装置を作製する上で重要となる画素配列等といったディスプレイを作製する上での実質的な課題については何ら言及されていない。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされるものであり、その目的は、開口率、発光効率及び寿命を向上させた発光装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発光装置は、基板と、
前記基板上にある複数の多面構造体と、
前記基板上にある複数の画素と、から構成され、
前記画素が、互いに発光色が異なる複数の発光素子部を有し、
前記発光素子部が、第一電極と、第二電極と、前記第一電極と前記第二電極との間に配置される発光層と、を有し、
前記発光素子部が、前記多面構造体の傾斜面上にあり、
前記画素が、デルタ配列で配列されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、開口率、発光効率及び寿命を向上させた発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の発光装置における実施形態の例を示す概略図であり、(a)は発光装置の平面図であり、(b)は、(a)の発光装置を構成する画素の斜視図である。
【図2】図1の発光装置の構成部材である基板を作製するプロセスを示す断面模式図である。
【図3】図2に示されるプロセスで作製した基板から発光装置を作製するプロセスを示す断面模式図である。
【図4】(a)は、実験例1で作製した多面構造体付基板を示す平面模式図であり、(b)は、基板上に設置される立体構造を示す模式図である。
【図5】実験例1における真空蒸着の具体的方法を示す模式図である。
【図6】(a)は、実験例2で作製した多面構造体付基板を示す模式図であり、(b)は、基板上に設置される立体構造を示す模式図である。
【図7】実験例2における真空蒸着の具体的方法を示す模式図である。
【図8】実験例3で作製された発光装置を構成する発光素子部を示す断面概略図である。
【図9】実験例3で作製した発光装置の概略図である
【図10】実験例3で作製した発光装置から出力された、単色発光スペクトル及び全色発光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の発光装置は、基板と、前記基板上にある複数の多面構造体と、前記基板上にある複数の画素と、から構成される。ここで発光装置を構成する画素は、互いに発光色が異なる複数の発光素子部を有している。そして画素に含まれる発光素子部は、第一電極と、第二電極と、前記第一電極と前記第二電極との間に配置される発光層と、を有している。尚、第一電極と発光層との間及び発光層と第二電極との間のいずれかにおいて、介在層を適宜設けてもよい。具体的には、ホール注入層、ホール輸送層、電子輸送層、電子注入層等を介在層として設けてもよい。
【0012】
本発明においては、発光素子部が、基板上に設けられる多面構造体の傾斜面上に設けられている。本発明において、多面構造体とは、例えば、下記(i)乃至(iii)の立体形状をいうものである。
(i)三角錐、四角錐等の角錐
(ii)コーナーキューブ
(iii)円錐
【0013】
(i)の場合、発光素子部は、角錐の傾斜面、即ち、角錐面上に設けられる。尚、(i)では画素が、例えば、R発光素子部、G発光素子部及びB発光素子部の3種類の発光素子(例えば有機EL素子)で構成されている場合では、好ましくは、3角錐、6角錐、9角錐、12角錐等のような3の倍数の傾斜面(角錐面)を有する多角錐である。3の倍数の傾斜面を有する多角錐からなる多面構造体は、傾斜面が3の倍数からなることから、3つの傾斜面にそれぞれ異なる色や種類の材料を成膜することが可能である。ところで、多面構造体のうちの3つの傾斜面にそれぞれ異なる材料をパターン化して成膜するには、ある1つの傾斜面に対してのみ成膜され、残りの2つの傾斜面には成膜されないように成膜源を構築する。好ましくは、成膜方向を傾斜面の傾きに対して垂直になるように成膜源をあらかじめ傾けて構築する。尚、本発明の発光装置の製造方法の詳細については、後述する。
【0014】
(ii)の場合、発光素子部は、コーナーキューブを構成する傾斜面上に設けられる。尚、(ii)では、コーナーキューブを構成する3つの傾斜面にそれぞれ異なる材料をパターン化して成膜する際に、(i)にて述べた方法を採用することができる。即ち、ある1つの傾斜面に対してのみ成膜され、残りの2つの傾斜面には成膜されないように、好ましくは、成膜方向を傾斜面の傾きに対して垂直になるように成膜源をあらかじめ傾けて構築する。
【0015】
(iii)の場合、発光素子部は、円錐の面上(円錐面上)の少なくとも一部に設けられる。つまり(iii)の場合において、画素に複数色の発光素子を含ませたい場合は、各色の発光素子を円錐面上の所定の領域に選択的に形成する。
【0016】
上記(i)乃至(iii)のいずれかに含まれる多面構造体は、傾斜面を有することが重要である。このことから、多角錐や円錐の上部が、頭頂点が無い平面であってもよいし、曲面でもあっても構わない。
【0017】
また本発明において、発光装置を構成する画素は、デルタ配列で配列されている。尚、画素の配列の詳細については、後述する。
【0018】
本発明の発光装置において、基板の材質は特に問わない。有機材料からなる基板であってもよいし、無機材料からなる基板であってもよい。ここで有機材料からなる基板を採用する場合、例えば、厚さが薄いプラスチックフィルムを基板として本発明の発光装置をフレキシブルな発光装置とすることができる。また無機材料からなる基板を採用する場合、例えば、ガラス基板を採用することができる。
【0019】
本発明の発光装置においては、基板が発光素子部から出力された光を透過させる部材か否かは特に問われない。例えば、光を透過させる部材を基板として採用して、基板側から光を取り出す形式にしてもよい。あるいはガラス等の光透過部材に単位素子を駆動するためのTFT等のスイッチング素子や他の部材を設けた結果として、それ自体が実質的に光を透過しない部材となっている基板も採用することができる。
【0020】
本発明の発光装置は、多面構造体を形成する傾斜面上に設けられる発光素子部を個別に駆動させるための発光素子部の数に対応する数のスイッチング素子が備えられている。ここでスイッチング素子として、例えば、TFTを採用することができる。尚、本発明の発光装置は、駆動形式がアクティブマトリクス形式であることが好ましいが、単純マトリクス駆動形式であってもよい。
【0021】
本発明の発光装置を構成する発光素子部に含まれる有機化合物層は、発光層のみの単層構成であってもよいし、発光層に他の機能層を組み合わせてなる積層構成であってもよい。また各発光素子部において、有機化合物層の層構成がそれぞれ異なっていてもよいし、共通する層においてその層の組成を各発光素子部ごとに異なるものにしてもよい。
【0022】
また、本発明は、主に、発光素子部が有機EL素子である発光装置について説明しているが、発光材料としては有機材料でもよいし、無機材料でもよい。従って、発光材料として、一般的なLED材料や、無機EL材料、あるいはクアンタムドット材料等でもよい。
【0023】
本発明の発光装置において、画素を構成する発光素子部の発光色の組み合わせは、赤色(R)、緑色(G)及び青色(B)からなる光の3原色であってもよいし、その他の組み合わせであってもよい。また、異なる種類の材料でも良い。また、成膜方法としては、限定されるものではないが、指向性がある成膜方法が好ましく、蒸着、スパッタ、CVD等が望ましい。
【0024】
本発明の発光装置は、具体的には、パソコン等のディスプレイやテレビジョンや電車内の広告用表示装置や自動車内に取り付けられるカーナビゲーション装置等の部材として使用される。ここで本発明の発光装置を画像表示装置として利用する場合は、例えば、自動車の運転席の表示部や携帯電話の表示部に用いられる。またこの画像表示装置をレーザープリンタや複写機等の電子写真方式の画像形成装置の操作パネル部分として利用してもよい。あるいはスチルカメラやビデオカメラ等の撮像装置の表示部として利用してもよい。
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の発光装置の実施形態について説明する。
【0026】
[実施形態1]三角錐型
図1は、本発明の発光装置における実施形態の例を示す概略図であり、(a)は発光装置の平面図であり、(b)は、(a)の発光装置を構成する画素の斜視図である。
【0027】
図1の発光装置1は、基板10と、基板10上にある多面構造体11と、基板10上にある画素20と、からなる。ここで多面構造体11は、図1(b)に示されるように、三角錐型の構造体である。一方、画素20は、3種類の発光素子部(21R,21G,21B)を有している。ここで各発光素子部(21R,21G,21B)は、画素20の土台となる多面構造体11の傾斜面(三角錐の角錐面)の面上に設けられている。
【0028】
図1の発光装置1において、発光装置1を構成する画素20は、デルタ状に配列されている。
【0029】
ディスプレイを作製する上で、画素の配列方法としては、表1のように、画素をストライプ状に配列させたストライプ配列、画素をデルタ状に配列させたデルタ配列、画素を細密充填状に配列させた細密充填配列等がある。
【0030】
【表1】

【0031】
ここで、画素の土台となる三角錐形状の多面構造体をストライプ配列で配列するのは物理的には可能ではある。しかしストライプ配列で配列した当該多面構造体の傾斜面上に蒸着膜を形成しようとすると、互いに隣り合う多面構造体が遮蔽体(蒸着材料の蒸気を遮蔽するもの)として機能してしまい、当該構造物の所望の傾斜面上に選択的に成膜ができない。あるいは、1つの傾斜面上に2以上の蒸着膜が重複することにより混色が発生する。これを避けるためには、隣り合う画素の画素間ピッチを大きくする必要があるが、画素間ピッチの拡大により、ディスプレイの開口率が小さくなる。このことから、発光効率・寿命が低下する問題がある。
【0032】
また、三角錐形状の多面構造体を細密充填配列させた場合も同様に、当該多面構造体の所望の傾斜面上に選択的に成膜ができなかったり、混色が発生したりするという問題が生じる。このため、細密充填配列では所望の発光ができないといった問題がある。
【0033】
一方、画素の土台となる三角錐形状の多面構造体をデルタ状に配列させると、蒸着により薄膜を成膜するときに当該多面構造体が遮蔽体として機能することがない。また当該多面構造体の配列によって生じる混色も発生することもない。従って、発光装置の開口率を向上させることができる。よって、画素の土台となる三角錐形状の多面構造体をデルタ状に配列させると、発光装置の発光効率・寿命を向上させることができる。以上より、三角錐形状の画素をデルタ配列にするために画素の土台となる三角錐形状の多面構造体をデルタ配列にするのが望ましい。
【0034】
次に、図1の発光装置1の製造方法の具体例について述べる。
【0035】
[多面構造体を有する基板の作製]
図2は、図1の発光装置の構成部材である基板を作製するプロセスを示す断面模式図である。
【0036】
図1の発光装置1の製造する際には、まず始めに、表面に電極12が形成された基板10を用意する、もしくは基板10上の所定の位置に電極12を形成する(図2(a))。そしてこの基板10上の所定の領域に、三角錘状の多面構造体11を作製する。ここで多面構造体11を作製する方法は特に限定されるものではない。例えば、モールドプロセスや、フォトリソグラフィ、ナノインプリント等のいずれの方法を採用することができる。
【0037】
以下、モールドプロセスを用いた方法を具体例として説明する。まず、所望の立体形状(三角錐形状)にするためのマスター基板をダイアモンドツール等で作製する。作製されるマスター基板は、CuやNi等の金属製であることが望ましい。ここで形成される多面構造体11の配列がデルタ配列になるように、マスター基板には所定のパターニングが施されているのが望ましい。次に、基板10上に層間絶縁膜13を塗布した(図2(b))後、先程作製したマスター基板を、層間絶縁膜13が塗布された基板10に対してプレスすることで、層間絶縁膜13の成形を行う。次に、UV露光等により層間絶縁膜13を硬化させた後、マスター基板と基板10とを剥離することにより、基板10上の所望の位置に三角錘形状の多面構造体11が形成される(図2(c))。
【0038】
以上述べたプロセスにおいて、層間絶縁膜13の構成材料としてUV硬化樹脂が挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではない。ただし発光素子部から出力される光の進行方向が基板側(ボトムエミッション型)の発光装置を作製する場合には、層間絶縁膜13の構成材料として透明樹脂を使用することが望ましい。もちろん層間絶縁膜13の構成材料は、樹脂等の有機材料である必然性は無く、塗布型プロセスで膜を形成することが可能であるならば、例えば、SiO等の無機材料を使用してもよい。また、フォトリソグラフィ法により多面構造体12を作製する場合は、層間絶縁膜13を塗布型プロセスで成膜する必要が無いため、ドライプロセスによって成膜される材料を使用しても構わない。層間絶縁膜13をドライプロセスで成膜する場合、層間絶縁膜13の構成材料としては、CVD法やスパッタ法等で成膜したSiO,SiN,SiNO等のSi化合物であることが望ましい。
【0039】
次に、作製した多面構造体11上に、発光素子部(21R,21G,21B)の構成部材である第1電極22を作製する。第1電極22の構成材料は、発光素子部の発光が基板10側から出力されるボトムエミッション型の発光装置と、発光素子部の発光が基板10とは反対側から出力されるトップエミッション型の発光装置と、においてそれぞれ異なる。
【0040】
例えば、ボトムエミッション型の発光装置の場合は、第1電極22の構成材料は、透明導電材料又は半透明導電材料であることが望ましい。透明導電材料として、具体的には、インジウム化合物であるITO,IZO等が挙げられる。一方、半透明導電材料として、具体的には、Agや、Agとその他の金属からなる合金、Al等のその他の金属を、光透過性を有する程度の膜厚で成膜した薄膜が望ましい。もちろん第1電極22は、インジウム化合物からなる透明導電膜と金属等からなる金属薄膜とからなる積層型電極にしてもよい。
【0041】
実際に第1電極22を形成する際には、まず第1電極22となる電極薄膜を形成し(図2(d))、次いでフォトリソグラフィによるパターン形成プロセスを行う(図2(e))。これにより、所望の形状の第1電極22が多面構造体11の傾斜面(角錐面)上に形成される。
【0042】
次に、第1電極22の端部を覆い絶縁するための層間絶縁膜14を形成する(図2(f)、(g))。本発明において、層間絶縁膜14もまた、その構成材料は特に限定されるものではないが、樹脂等の有機材料でもよいし、無機材料でもよい。無機材料を使用する場合は、例えば、塗布型プロセスで形成可能な無機材料、例えば、SiO等が使用される。また、フォトリソグラフィ法により層間絶縁膜14を作製・加工する場合は、塗布型プロセスで層間絶縁膜14を成膜する必要が無いため、ドライプロセスによって成膜される材料を使用しても構わない。層間絶縁膜14をドライプロセスで成膜する場合、層間絶縁膜14の構成材料としては、CVD法やスパッタ法等で成膜したSiO,SiN,SiNO等のSi化合物であることが望ましい。層間絶縁膜14も、層間絶縁膜13と同様に、フォトリソグラフィ等により所望の形状にパターン形成される。本実施形態では、図2(f)及び(g)に示されるように層間絶縁膜14を形成しているが、発光素子間で生じ得るショート等の問題が生じなければ、層間絶縁膜14を形成するプロセスを省略しても構わない。以上のプロセスにより、三角錐形状の多面構造体11が設けられている基板10を作製することができる。
【0043】
[発光装置の作製]
次に、上記プロセスにより作製した三角錐形状の多面構造体11が設けられている基板10から発光装置を作製するプロセスについて図面を参照しながら説明する。図3は、図2に示されるプロセスで作製した基板から発光装置を作製するプロセスを示す断面模式図である。
【0044】
まず作製した三角錐形状の多面構造体11が設けられている基板10(図3(a))の画素面(多面構造体11の角錐面)に対して、真空蒸着により、発光材料等からなる膜を成膜する。まず、第1の機能層23である正孔注入層を成膜する(図3(b))。ここで正孔注入層を、赤色、緑色、青色の各画素に共通する層として成膜する場合は、基板面が蒸着源と平行になるように設置した上で上記真空蒸着を行う。
【0045】
次に、緑色発光層24gを成膜する(図3(c))。緑色発光層24gは、各画素の所定の位置でパターン形成する。このことから、緑色発光層24gを成膜する際には、その成膜面に対して蒸着源が平行になるように配置する必要がある。例えば、多面構造体11の傾斜面と基板の面とでなす角(画素角)が45°の場合、蒸着面から垂直に伸ばした垂線を軸として、この軸上の立体角ωに蒸着される質量をm0とし、この軸から角度θだけ傾いた方向の立体角ωに蒸着される質量をmφとする。ここで蒸着分子の有効蒸着角度を画素角に対して45°、水平方向に対して5°とした場合、蒸着角をα=0°,30°,45°,60°,70°と設定した場合の蒸着角度分布は下記式で示される。
【0046】
【数1】

【0047】
上記式を利用して蒸着角度分布を計算すると、蒸着角(α)が65°の時に蒸着される材料の収率が最大となることがわかる。従って、画素面に対して蒸着源を65°傾斜させて蒸着することが望ましい。ただし画素面に対して蒸着源が相対的に65°傾斜していればよいので、画素面に対して蒸着源を傾けてもよいし、蒸着源に対して基板を傾けてもよい。ただし、大型の基板で成膜する際には、基板を傾けるのは困難であるし、蒸着装置も大きくする必要性がある。係る場合では、好ましくは、蒸着源の方を傾ける。尚、正孔輸送層等の発光層以外の機能層についても各画素ごとにパターン形成する必要がある場合には、緑色発光層24gと同様の方法で基板あるいは蒸着源を傾斜させて蒸着を行ってもよい。
【0048】
次に、赤色発光層24r、青色発光層(不図示)も緑色発光層24gと同様に成膜する(図3(d))。赤色発光層32r、青色発光層(不図示)も緑色発光層24gと同様にそれぞれの画素面に対して蒸着源を65°傾斜させて蒸着することが望ましい。
【0049】
次に、第2の機能層25である電子輸送層を成膜する(図3(e))。ここで電子輸送層を、赤色、緑色、青色の各画素に共通する層として成膜する場合は、基板面が蒸着源と平行になるように設置した上で上記真空蒸着を行う。また電子輸送層を各画素ごとにパターン形成する必要がある場合には、緑色発光層24gと同様の方法で基板あるいは蒸着源を傾斜させて蒸着を行ってもよい。
【0050】
次に、電子注入層(不図示)、第2電極26を順次形成する(図3(f))。電子注入層(不図示)や第2電極26を成膜する際には、上述した方法を利用して薄膜を成膜することができる。
【0051】
本発明の発光装置は、最後に、不活性ガス雰囲気中のグローブボックスにて、乾燥剤を入れた封止ガラス(不図示)とガラス基板の成膜面とをエポキシ樹脂接着剤を用いて封止する。もちろん、封止材料としては、ドライプロセスによって成膜される無機材料でもかまわない。例えば、ドライプロセスで形成される材料としては、CVDやスパッタ等で成膜したSiO,SiN,SiNO等のSi化合物であることが望ましい。このようにして、第1の実施形態の発光装置、即ち、三角錐形状の多面構造体上に発光素子部が設けられている発光装置を作製することができる。
【0052】
(実験例1)
本実験例は、ガラス基板上に設けられる多面構造体が三角錐である基板の蒸着実験に関する実験例である。
【0053】
(1)多面構造体付基板の作製
三角錐形状の立体構造を作製し、この立体構造をガラス製のマザー基板(縦85mm×横100mm×厚さ0.7mm)上に設置して、多面構造体付基板を作製した。図4(a)は、本実験例で作製した多面構造体付基板を示す模式図であり、(b)は、基板上に設置される立体構造を示す模式図である。尚、図4(a)に示される多面構造体付基板は、基板30上に、6個の三角錐形状の立体構造31がデルタ配列で配列されている。
【0054】
本実験例で作製される三角錐形状の立体構造は、まずガラス基板(縦20mm×横20mm×厚さ0.7mm)を、一辺が20mmの正三角形になるように切断した。次に、切断したガラス基板(基板32)3枚を、図4(b)に示されるように辺で合わせた後、基板32同士が合わさっている辺にエポキシ樹脂接着剤を塗布・硬化させることで、三角錐形状の立体構造31を6個作製した。次に、この立体構造を、図4(a)に示されるように、マザー基板(基板30)に対してデルタ配列になるようにピッチを調整した。次に、立体構造31の底辺部(基板32が合わさっていない辺の部分)にエポキシ樹脂接着剤を塗布して樹脂を硬化させた。このようにして、多面構造体(立体構造31)が三角錐である基板(多面構造体付基板)を作製した。
【0055】
(2)発光材料の蒸着
得られた多面構造体付基板を用いて、3面の傾斜面(角錐面)に対して、3種の異なる色の発光材料をそれぞれ蒸着した。図5は、本実験例における真空蒸着の具体的方法を示す模式図である。
【0056】
本実験例においては、まず多面構造体付基板を真空蒸着機(VPC1100)に設置した。その際、図5に示されるように、蒸着したい面31aが蒸着源40に対して平行になるように、多面構造体付基板を蒸着源の法線上、かつ当該基板の傾斜角を約60°に設置した。次に、3種の発光材料、即ち、赤色発光材料(RD−3)、緑色発光材料(L8)、青色発光材料(BF01)を順次蒸着した。まず、赤色発光材料からなる薄膜を成膜した。このとき当該薄膜の膜厚を30nmとし、成膜速度を1.0Å/sとした。次に、多面構造体のもう一方の面が蒸着源に対して平行になるように多面構造体付基板を移動させると共に、この多面構造体付基板を蒸着源の法線上、かつ三角錐画素基板の傾斜角を約60°となるように設置した。次に、多面構造体付基板の所定の面に緑色発光材料を蒸着した。尚、緑色発光材料を蒸着する際の条件(膜厚、成膜速度)は、赤色発光材料のときと同じである。次に、多面構造体の傾斜面のうち未だに薄膜が形成されていない面が蒸着源に対して平行になるように多面構造体付基板を移動させると共に、この多面構造体付基板を蒸着源の法線上、かつ三角錐画素基板の傾斜角を約60°として設置した。多面構造体付基板の所定の面に青色発光材料を蒸着した。尚、青色発光材料を蒸着する際の条件(膜厚、成膜速度)は、赤色発光材料のときと同じである。このようにして、多面構造体付基板が有する3面の傾斜面に対して、3種の異なる色の発光材料をそれぞれ蒸着した。
【0057】
(3)蒸着膜の評価
3面の傾斜面に対して、3種の異なる色の発光材料がそれぞれ蒸着されている多面構造体付基板の蒸着膜の状態、例えば、蒸着膜のつきまわり、混色の有無を評価するため、目視による確認とUV照射による目視評価をした。ここで目視による蒸着膜の評価を行ったところ、各傾斜面に蒸着されている蒸着膜について蒸着膜のつきまわり及び混色がないことを確認した。またUV照射下による目視評価を行ったところ、UV照射を行わないで目視したときの評価と同様に、蒸着膜のつきまわり及び混色がないことを確認した。
【0058】
[実施形態2]コーナーキューブ型
多面構造体11がコーナーキューブ型の立体形状である場合、画素をストライプ配列で配列(多面構造体11をストライプ配列で配列)すると、多面構造体11が三角錐のときと同様に、互いに隣り合う多面構造体が遮蔽体として機能してしまう。その結果、当該構造物の所望の傾斜面上に選択的に成膜ができない、あるいは、1つの面上に2以上の蒸着膜が重複することによる混色が発生する。これを避けるためには、隣り合う画素の画素間ピッチを大きくする必要があるが、画素間ピッチの拡大により、ディスプレイの開口率が小さくなる。このことから、発光効率・寿命が低下する問題がある。
【0059】
これに対して画素をデルタ配列で配列(多面構造体11をデルタ配列で配列)した場合には、蒸着により成膜した蒸着膜が、互いに隣り合う画素を遮蔽することも無く、混色することも無い。このことから、開口率を最大にすることができる。従って、発光装置の発光効率・寿命を向上することができる。つまり、コーナーキューブ型の画素の配列方法としてはデルタ配列が望ましい。
【0060】
基板10上に設けられる多面構造体11がコーナーキューブである発光装置の製造方法については、多面構造体11の形状が三角錐からコーナーキューブに変更されるだけであって製造方法そのものは実施形態1で説明した方法と同様の方法が採用可能である。
【0061】
(実験例2)
本実験例は、ガラス基板上に設けられる多面構造体がコーナーキューブである基板の蒸着実験に関する実験例である。
【0062】
(1)多面構造体付基板の作製
コーナーキューブ形状の立体構造を作製し、この立体構造をガラス製のマザー基板であるガラス基板(縦85mm×横100mm×厚さ0.7mm)上に設置して、多面構造体付基板を作製した。図6(a)は、本実験例で作製した多面構造体付基板を示す模式図であり、(b)は、基板上に設置される立体構造を示す模式図である。尚、図6(a)に示される多面構造体付基板は、基板30上に、6個のコーナーキューブ形状の立体構造31がデルタ配列で配列されている。
【0063】
本実験例で作製されるコーナーキューブ形状の立体構造は、まずガラス基板(基板32、縦20mm×横20mm×厚さ0.7mm)を3枚用意した。次に、用意したガラス基板(基板32)を、図6(b)に示されるように3枚を辺で合わせた後、基板32同士が合わさっている辺にエポキシ樹脂接着剤を塗布・硬化させることで、コーナーキューブ形状の立体構造を6個作製した。次に、この立体構造を、図6(a)に示されるように、マザー基板に対してデルタ配列になるようにピッチを調整した。次に、この立体構造の基板との接地点にエポキシ樹脂接着剤を塗布して樹脂を硬化させた。このようにして、多面構造体がコーナーキューブである基板(多面構造体付基板)を作製した。
【0064】
(2)発光材料の蒸着
得られた多面構造体付基板を用いて、3面の傾斜面に対して、3種の異なる色の発光材料をそれぞれ蒸着した。図7は、本実験例における真空蒸着の具体的方法を示す模式図である。
【0065】
本実験例においては、まず多面構造体付基板を真空蒸着機(VPC1100)に設置した。その際、図7に示されるように、蒸着したい面31aが蒸着源40に対して平行になるように、多面構造体付基板を蒸着源の法線上、かつ当該基板の傾斜角を約60°に設置した。次に、3種の発光材料、即ち、赤色発光材料(RD−3)、緑色発光材料(L8)、青色発光材料(BF01)を順次蒸着した。まず、赤色発光材料からなる薄膜を成膜した。このとき当該薄膜の膜厚を30nmとし、成膜速度を1.0Å/sとした。次に、多面構造体のもう一方の面が蒸着源に対して平行になるように多面構造体付基板を移動させると共に、この多面構造体付基板を蒸着源の法線上、かつ多面構造体付基板の傾斜角を約60°となるように設置した。次に、多面構造体付基板の所定の面に緑色発光材料を蒸着した。尚、緑色発光材料を蒸着する際の条件(膜厚、成膜速度)は、赤色発光材料のときと同じである。次に、多面構造体の傾斜面のうち未だに薄膜が形成されていない面が蒸着源に対して平行になるように多面構造体付基板を移動させると共に、この多面構造体付基板を蒸着源の法線上、かつ三角錐画素基板の傾斜角を約60°として設置した。多面構造体付基板の所定の面に青色発光材料を蒸着した。尚、青色発光材料を蒸着する際の条件(膜厚、成膜速度)は、赤色発光材料のときと同じである。このようにして、多面構造体付基板が有する3面の傾斜面に対して、3種の異なる色の発光材料をそれぞれ蒸着した。
【0066】
(3)蒸着膜の評価
3面の傾斜面に対して、3種の異なる色の発光材料がそれぞれ蒸着されている多面構造体付基板の蒸着膜の状態、例えば、蒸着膜のつきまわり、混色の有無を評価するため、目視による確認とUV照射による目視評価をした。ここで目視による蒸着膜の評価を行ったところ、各傾斜面に蒸着されている蒸着膜について蒸着膜のつきまわり及び混色がないことを確認した。またUV照射下による目視評価を行ったところ、UV照射を行わないで目視したときの評価と同様に、蒸着膜のつきまわり及び混色がないことを確認した。
【0067】
[実験例3]
本実験例は、基板上に設けられる多面構造体がコーナーキューブであって、このコーナーキューブが有する3つの傾斜面に、赤色、緑色、青色の発光素子部がそれぞれ設けられている発光装置の実験例である。以下に、本実験例で使用した材料の一部を示す。
【0068】
【化1】







【0069】
(1)発光素子部の作製
図8は、本実験例で作製された発光装置を構成する発光素子部を示す断面概略図である。図8の発光素子部50は、基板51上に、第1電極52、有機化合物層53、第2電極54が順次設けられている。
【0070】
(1−1)第1電極の作製
まずスパッタリング法により、ガラス基板(基板51)上に、InZnOを成膜し、第1電極52を形成した。このとき第1電極52の膜厚を40nmとした。
【0071】
(1−2)有機化合物層の作製
次に、真空蒸着法により、第1電極52上に青色発光素子部を構成する有機化合物層53を形成した。まず化合物2を成膜して第1正孔輸送層を形成した。このとき第1正孔輸送層の膜厚を90nmとした。次に、化合物3を成膜して第2正孔輸送層を形成した。このとき第2正孔輸送層の膜厚を10nmとした。次に、化合物4と化合物5とを共蒸着して発光層を形成した。このとき発光層の膜厚を35nmとし、成膜速度をそれぞれ0.98Å/s(化合物4)、0.02Å/s(化合物5)と設定した。次に、化合物1を成膜して電子輸送層を形成した。このとき電子輸送層の膜厚を60nmとした。次に、LiFを成膜して電子注入層を形成した。このとき電子注入層の膜厚を0.5nmとした。
【0072】
次に、別の第1電極付基板を使用して、真空蒸着法により、第1電極52上に緑色発光素子部を構成する有機化合物層53を形成した。本実験例において、緑色発光素子部を構成する有機化合物層53を形成する際には、基本的には、上述した青色発光素子部を構成する有機化合物層53の形成方法を採用した。ただし、この際に、第2正孔輸送層の成膜を省略し、発光層を形成する際に化合物6と化合物7とを使用し成膜速度0.98Å/s(化合物6)、0.02Å/s(化合物7)で共蒸着した。
【0073】
次に、別の第1電極付基板を使用して、真空蒸着法により、第1電極52上に赤色発光素子部を構成する有機化合物層53を形成した。本実験例において、赤色発光素子部を構成する有機化合物層53を形成する際には、基本的には、上述した青色発光素子部を構成する有機化合物層53の形成方法を採用した。ただし、この際に、第2正孔輸送層の成膜を省略し、発光層を形成する際に化合物8、化合物9及び化合物10を使用し、成膜速度をそれぞれ0.68Å/s(化合物8)、0.02Å/s(化合物9)、0.30Å/s(化合物10)として共蒸着した。
【0074】
(1−3)第2電極の作製
次に、真空蒸着法により、電子注入層上に、Alを成膜して第2電極54を形成した。このとき第2電極54の膜厚を200nmとし、成膜速度を1.0Å/sとした。最後に、窒素雰囲気中のグローブボックス内にて、乾燥剤を入れた封止ガラス(不図示)とガラス基板の成膜面とをエポキシ樹脂接着剤を用いて接着して各色の発光素子部をそれぞれ封止した。
【0075】
(2)発光装置の作製
得られた各色(赤色、緑色、青色)の発光素子部について、それぞれの辺を合わせた後、合わせた辺についてエポキシ樹脂接着剤を塗布・硬化させ、コーナーキューブ型の立体構造を作製した。図9は、本実験例で作製した発光装置の概略図である。図9の発光装置60は、赤色発光素子部50r、緑色発光素子部50g及び青色発光素子部50bを有している。次に、発光面の屈折率をガラスと同等程度とするため、屈折率が1.5であるPDMS(Polydimethylsiloxane)をコーナーキューブ構造の内部に充填した。このようにして、コーナーキューブ状に赤色、緑色、青色のそれぞれの発光素子を配したコーナーキューブ画素素子を作製した。
【0076】
(3)発光装置の評価
得られた発光装置を評価するため、各色(赤色、緑色、青色)の発光面からそれぞれ出力される単色発光スペクトルと、全発光素子部を駆動させたときの全色発光スペクトルとを測定した。
【0077】
図10は、本実験例で作製した発光装置から出力された、単色発光スペクトル及び全色発光スペクトルを示す図である。各発光素子部を個別に駆動して単色発光させることにより、各色(赤色、緑色、青色)の発光スペクトルを確認した。また、全発光素子部を駆動させたときにおいても、各色の発光スペクトルを確認した。さらに、全発光素子部を駆動させたときに出力される光の色度はCIExy色度座標で(0.31,0.27)であり、白色を呈することを確認した。
【符号の説明】
【0078】
1:発光装置、10(30、32、51):基板、11:多面構造体、20:画素、21r:赤色発光素子部、21g:緑色発光素子部、21b:青色発光素子部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上にある複数の多面構造体と、
前記基板上にある複数の画素と、から構成され、
前記画素が、互いに発光色が異なる複数の発光素子部を有し、
前記発光素子部が、第一電極と、第二電極と、前記第一電極と前記第二電極との間に配置される発光層と、を有し、
前記発光素子部が、前記多面構造体の傾斜面上にあり、
前記画素が、デルタ配列で配列されていることを特徴とする、発光装置。
【請求項2】
前記多面構造体が三角錐であり、前記発光素子部が前記三角錐の傾斜面上に設けられることを特徴とする、請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記多面構造体がコーナーキューブであり、前記発光素子部が前記コーナーキューブを形成する傾斜面上に設けられることを特徴とする、請求項1に記載の発光装置。
【請求項4】
前記多面構造体が円錐であり、前記発光素子部が前記円錐の傾斜面上に設けられることを特徴とする、請求項1に記載の発光装置。
【請求項5】
前記多面構造体が傾斜面の数が3の倍数である多角錐であり、前記発光素子部が前記多角錐の傾斜面上に設けられることを特徴とする、請求項1に記載の発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−123286(P2012−123286A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275366(P2010−275366)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】