説明

発光装置

【課題】演色性が高く、太陽光源と同じように見え、くすみがなく色鮮やかに発光する白色発光装置を提供する。
【解決手段】350〜430nmの光を発生する第1の発光体1と、当該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発生する第2の発光体4を有する発光装置において、第2の発光体が、下記式[1]の化学組成を有する蛍光体と下記式[2]の化学組成を有する蛍光体を含有する。SrBaEu(POCl[1](上記式[1]において、a及びbは、a+b=5−xかつ0.1≦b/(a+b)≦0.6の条件を満足する数であり、c、d及びxは、それぞれ、2.7≦c≦3.3、0.9≦d≦1.1及び0.3≦x≦1.2を満足する数である。)M(SiOCl:Eu[2]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子からの光の照射により可視光を発生する特定の化学組成をもつハロリン酸塩蛍光体とハロシリケート蛍光体を有する発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、近紫外LEDに蛍光体を組み合わせて、白色発光装置をつくる試みにおいては、使用中の温度上昇による色ずれの問題、LEDへの蛍光体充填時の付均一性や目詰まりの問題、寿命低下の確率が高い問題、蛍光体が他の色の蛍光体の発する光を吸ってしまい、カスケード励起がおこって、全体の発光効率が低下してしまう問題等が、充填する蛍光体の種類を減らすことにより顕著に軽減できることから、LEDに充填する蛍光体の種類が少ない白色発光装置を創出することが望まれていた。
【0003】
実際に、特開2011−577645号公報(特許文献1)には、黄色蛍光体(Ca,Sr)(SiOCl:Euと青色蛍光体Ca(PO(Cl,Br):Euと近紫外LEDとの組み合わせが、特開2009−38348号公報(特許文献2)には、黄色蛍光体SiO・0.9(Ca,Sr)O・0.17SrCl:Euと青色蛍光体(Ca,Mg)(POCl:Euと近紫外LEDとの組み合わせが、特開2008−274240号公報(特許文献3)には、黄色蛍光体SiO・0.9(Ca,Sr)O・0.17SrCl:Euと青色蛍光体Sr(POCl:Eu(以下、「SCA蛍光体」と略称することがある。)と近紫外LEDとの組み合わせが、特開2011−32340号公報(特許文献4)には、黄色蛍光体(Ca,Sr)(SiOCl:Euと青色蛍光体(Ca,Mg)(POCl:Euと近紫外LEDとの組み合わせが提案されている。このように、特許文献1〜4には、2種類の蛍光体による近紫外LEDの白色発光装置が開示されている。
【0004】
この近紫外LEDと青色蛍光体と黄色蛍光体との組み合わせに必要な近紫外LED用の青色蛍光体の背景について、以下に述べる。
先ず、2価のEu2+で付活されたハロリン酸塩蛍光体は一般に、254nmの水銀蒸気共鳴線励起の蛍光灯用の蛍光体として有用であり、特に数種類の蛍光体を混合して用いる蛍光灯において青〜青緑色発光成分として広範囲にわたって使用されていた。
【0005】
一方で、発光ダイオード(LED)や半導体レーザーダイオード(LD)の発光色を蛍光体で色変換させた発光装置が数多く提案されており、例えば特開2004−253747号公報(特許文献5)においては、LEDからの350〜415nm領域の光の照射を受けて青色光を発光する蛍光体としてSr(POCl:Eu2+が挙げられており、特に、付活剤であるEuの含有割合が高いと400nm付近の光の励起によって大きな発光強度、即ち、高い発光ピーク強度が得られることが開示されている。
【0006】
また、上述のような、LEDの発光色を蛍光体で色変換させた白色の発光装置を、液晶表示装置等におけるバックライトの光源として用いることについても数多くの検討がなされている。例えば国際公開第2009/141982号パンフレット(特許文献6)においては、LEDからの330〜410nm領域の光の照射を受けて青色光を発光する青色蛍光体として、前記ハロリン酸塩蛍光体である(Sr1−x−y−zBaCaEu(POClが挙げられており、そのx及びyの値を所定の範囲内で小さくすることで、青色蛍光体粉末からの光のスペクトル幅を狭くし、バックライト用途に適するようにすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−57764号公報
【特許文献2】特開2009−38348号公報
【特許文献3】特開2008−274240号公報
【特許文献4】特開2011−32340号公報
【特許文献5】特開2004−253747号公報
【特許文献6】国際公開第2009/141982号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまで提案されてきた上記の近紫外LEDと、黄色蛍光体(Ca,Sr)(SiOCl:Euと青色のSCA蛍光体又はCa系アパタイト蛍光体との白色発光装置では、充分な演色性や鮮やかさが得られず、白色照明として、全く不十分なものであった。
【0009】
本発明者らが、LED用の青色蛍光体であるハロリン酸塩蛍光体(SCA蛍光体)の発光スペクトルについて検討を行なったところ、その発光ピークの半値幅の値が小さく、かつ、490nm付近の波長領域に充分な発光強度を有しておらず、しかも、それが一つの原因となって、発光輝度が低いことがわかった。
【0010】
そのため、近紫外LED等の第1の発光体に対し、第2の発光体としてSCA蛍光体やCa系アパタイト蛍光体を含有するものを組み合わせて発光装置とした場合に、その発光装置の発光スペクトルにおいて490nm付近の波長領域に大きな谷部ができてしまい、その谷部の発光強度が不充分であることから、演色性が劣り、かつ発光輝度の低い発光装置となってしまうという問題があった。これは、SCA蛍光体だけではなく、Ca系アパタイト蛍光体にも共通する問題であった。
【0011】
さらに、SCA蛍光体の発光輝度の温度特性について検討を行なったところ、LED作動中に到達する温度領域である100℃において、輝度が非常に低いことがわかった。
そのため、近紫外LED等の第1の発光体に対し、第2の発光体としてSCA蛍光体を含有するものを組み合わせて発光装置とした場合に、長時間使用によって装置の温度が上昇した場合において、発光輝度が低く、演色性の低い発光装置となってしまうといった問題があった。
【0012】
本発明は、上記従来技術の問題を解決すべく行われたものであり、演色性が高く、太陽光源と同じように見え、くすみがなく色鮮やかに発光する白色発光装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記SCA蛍光体の発光特性に係る問題を解決すべく鋭意検討した結果、350〜430nmの光を発生する第1の発光体と、当該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発生する第2の発光体とを有する発光装置の前記第2の発光体に含有されて用いる蛍光体であって、下記式[A]:
(Sr,Ca)BaEu(PO [A]
(上記式[A]において、XはClであり、c、d及びxは、2.7≦c≦3.3、0.9≦d≦1.1、0.3≦x≦1.2を満足する数であり、a及びbは、a+b=5−xかつ0.05≦b/(a+b)≦0.6の条件を満足する数である。)
の化学組成を有し、かつ、発光ピーク波長における強度に対する波長490nmにおける強度の比が一定の値を有するものとすることで、490nm付近の波長領域に充分な発光強度を有し、かつ、LED作動中に到達する温度領域において発光輝度が高い蛍光体を得ることができることを見出し、先に提案した(特願2011−40465号明細書、特願2011−40466号明細書参照)。
【0014】
さらに本発明者らは、第2の発光体として上記式[A]の化学組成を有する蛍光体とある種のハロシリケート蛍光体とを有する発光装置は、演色性が高く、くすみがなく色鮮やかに発光することを見出し、本発明に到達した。
【0015】
すなわち、本発明は、次の〔1〕〜〔7〕をその要旨とする。
〔1〕350〜430nmの光を発生する第1の発光体と、当該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発生する第2の発光体を有する発光装置において、第2の発光体が、下記式[1]の化学組成を有する蛍光体と下記式[2]の化学組成を有する蛍光体を含有することを特徴とする発光装置。
SrBaEu(POCl [1]
(上記式[1]において、a及びbは、a+b=5−xかつ0.1≦b/(a+b)≦0.6の条件を満足する数であり、c、d及びxは、それぞれ、2.7≦c≦3.3、0.9≦d≦1.1及び0.3≦x≦1.2を満足する数である。)
(SiOCl:Eu [2]
(上記式[2]において、Mは、Ca,Sr,Mg及びBaよりなる元素群から選ばれる少なくとも一種の元素からなり、eは6≦e≦8を満足する数であり、fは1.8≦f≦2.2を満足する数である。)
〔2〕式[1]におけるb及びaが、0.16≦b/(a+b)≦0.6の条件を満足する数であることを特徴とする〔1〕に記載の発光装置。
〔3〕式[1]におけるxが0.45以上であることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の発光装置。
〔4〕式[2]におけるMのモル数に対するCaとSrの合計モル数の割合が90モル%以上であることを特徴とする〔1〕乃至〔3〕の何れかに記載の発光装置。
〔5〕式[1]の化学組成を有する蛍光体が、350〜430nmの光によって励起した時に、63nm以上の発光ピークの半値幅を有することを特徴とする〔1〕乃至〔4〕の何れかに記載の発光装置。
〔6〕式[2]におけるMがCaとSrからなることを特徴とする〔1〕乃至〔5〕のいずれかに記載の発光装置。
〔7〕〔1〕乃至〔6〕のいずれかに記載の発光装置を光源として具備することを特徴とする画像表示装置又は照明装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、平均演色評価数が高く、くすみがなく色鮮やかな発光の再現性に優れた発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の発光装置の一例の模式図である。
【図2】合成例2のハロシリケート蛍光体の発光スペクトルである。
【図3】実施例1で作製した白色LEDの発光スペクトルである。
【図4】特開2011−57764号公報(特許文献1)の図6の発光スペクトルである。
【図5】実施例2で作製した白色LEDの発光スペクトルである。
【図6】特開2009−38348号公報(特許文献2)の図21の発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について実施形態や例示物を示して説明するが、本発明は以下の実施形態や例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
また、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0019】
また、本明細書中の蛍光体の組成式において、各組成式の区切りは読点(、)で区切って表わす。また、カンマ(,)で区切って複数の元素を列記する場合には、列記された元素のうち一種又は二種以上を任意の組み合わせ及び組成で含有していてもよいことを示している。例えば、「(Ba,Sr,Ca)Al:Eu」という組成式は、「BaAl:Eu」と、「SrAl:Eu」と、「CaAl:Eu」と、「Ba1−xSrAl:Eu」と、「Ba1−xCaAl:Eu」と、「Sr1−xCaAl:Eu」と、「Ba1−x−ySrCaAl:Eu」とを全て包括的に示しているものとする(但し、上記式中、0<x<1、0<y<1、0<x+y<1である)。
【0020】
また、本明細書における蛍光体とは、その一部に少なくとも結晶構造を有するものを言う。
また、本明細書中で蛍光体の発光ピークの半値幅に言及するとき、その半値幅とは、発光スペクトルにおける発光ピークの半値全幅(full width at half maximum)を意味する。
【0021】
本発明の発光装置は、350〜430nmの光を発生する第1の発光体と、当該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発生する第2の発光体を有する発光装置において、第2の発光体が、下記式[1]:
SrBaEu(POCl [1]
(上記式[1]において、a及びbは、a+b=5−xかつ0.1≦b/(a+b)≦0.6の条件を満足する数であり、c、d及びxは、それぞれ、2.7≦c≦3.3、0.9≦d≦1.1及び0.3≦x≦1.2を満足する数である。)
の化学組成を有する蛍光体と下記式[2]:
(SiOCl:Eu [2]
(上記式[2]において、Mは、Ca,Sr,Mg及びBaよりなる元素群から選ばれる少なくとも一種の元素からなり、eは6≦e≦8を満足する数であり、fは1.8≦f≦2.2を満足する数である。)
の化学組成を有する蛍光体を含有することに特徴をもつものである。
以下、先ず、第2の発光体とそれが含有する蛍光体について説明し、次に、第1の発光体、発光装置の構成と発光特性、発光装置の用途等について説明する。
【0022】
〔1.第2の発光体〕
本発明において、第2の発光体は、上記式[1]の化学組成を有する蛍光体(以下これを、「SBCA蛍光体」と称することがある。)と式[2]の化学組成を有する蛍光体(以下これを、「ハロシリケート蛍光体」と称することがある。)を含有するものである。ここで、第2の発光体は、上記のとおり、第1の発光体からの波長350〜430nmの光の照射によって可視光を発生する「波長変換用部材」である。
【0023】
〔1−1.SBCA蛍光体〕
〔1−1−1.SBCA蛍光体の化学組成〕
本発明において、第2の発光体が含有するSBCA蛍光体は、下記式[1]:
SrBaEu(POCl [1]
(上記式[1]において、a及びbは、a+b=5−xかつ0.1≦b/(a+b)≦0.6の条件を満足する数であり、c、d及びxは、それぞれ、2.7≦c≦3.3、0.9≦d≦1.1及び0.3≦x≦1.2を満足する数である。)
の化学組成を有するものである。
なお、該蛍光体は、本発明の効果を損なわない程度に、上述以外の元素を含有していてもよい。また、該蛍光体には、性能を損なわない範囲で他の成分、例えば、光散乱物質等を含んでいてもよい。
【0024】
式[1]において、発光特性、温度特性等の面から、Sr元素とBa元素を特定量含有するものとなっている。具体的には、Sr元素のモル比aとBa元素のモル比bは、a+b=5−xかつ0.1≦b/(a+b)≦0.6の条件を満足する数である。
b/(a+b)の値は、0.12以上とすることが好ましく、0.16以上とすることが更に好ましく、0.2以上とすることが特に好ましく、0.28以上とすることがそれにも増して好ましく、0.34以上とすることが最も好ましい。特に、0.16以上であると、発光スペクトルにおける発光ピークの半値幅が急に大きくなり、有利である。また、b/(a+b)の値は、0.55以下とすることが好ましく、0.5以下とすることが更に好ましく、0.45以下とすることが最も好ましい。
【0025】
b/(a+b)の値が小さすぎる場合には輝度の値が低くなり、大きすぎる場合には、該蛍光体と黄色蛍光体とを組み合わせて白色発光装置としたときに、該蛍光体と黄色蛍光体の発光スペクトルが重なりすぎて、高い発光効率が得られ難くなる傾向がある。
【0026】
式[1]において、Sr元素の一部は、Eu元素、Ba元素以外の金属元素で置換されていてもよい。該金属元素としては、Mg元素、Ca元素、Zn元素およびMn元素などが挙げられ、中でもMg元素であることが輝度の点から最も好ましい。置換量としては、Sr元素に対して少量含まれていても、同等の発光特性をもつので、好ましい。置換量の上限は、Sr元素に対して好ましくは20モル%以下、更に好ましくは15モル%以下、最も好ましくは10モル%以下である。置換量が大きすぎる場合にはLED作動中の温度における輝度が充分高くない場合がある。
【0027】
前記金属元素として上記以外の金属元素を含有させる場合、その金属元素に特に制約はないが、Sr元素と同じ価数、即ち2価の金属元素を含有させると、結晶成長助長となる場合があるため、望ましい。また、使用しうる元素のイオン半径幅が広がり、結晶がつくりやすくなる可能性があるという点で、1価、3価、4価、5価、又は6価等の金属元素を少量導入しても良い。一つの例を挙げると、蛍光体中のSr2+の一部を等モルのNaとLa3+で電荷補償効果を保持しながら置換することができる。増感剤となりうる金属元素を少量置換してもよい。
【0028】
前記式[1]中のCl元素の一部は、本発明の効果を損なわない範囲において、Cl元素以外のアニオン基で置換されていてもよい。Cl元素の一部がアニオン基で置換されている場合、Cl元素以外のアニオン基の量は50モル%以下であることが好ましく、30モル%以下であることが更に好ましく、10モル%以下であることが特に好ましく、5モル%以下であることが最も好ましい。
【0029】
前記式[1]中のEuのモル比xについては、LED作動中に到達する温度における輝度等の面から、通常x≧0.3、好ましくはx≧0.35、より好ましくはx≧0.4、更に好ましくはx≧0.45、特に、x≧0.5とするのが最も好ましい。発光中心Euのモル比xが小さすぎると、発光強度が小さくなる傾向があるが、あまりにxの値が大きいと、濃度消光と呼ばれる現象により、発光輝度が減少する傾向があるので、通常はx≦1.2、好ましくはx≦1.0、より好ましくはx≦0.9、特に好ましくはx≦0.8、更に好ましくはx≦0.7、また更に好ましくはx≦0.65、最も好ましくはx≦0.55である。
【0030】
付活剤であるEuは、少なくともその一部が2価のカチオンとして存在することになる。この際、付活剤Euは2価及び3価の価数を取りうるが、2価のカチオンの存在割合が高い方が好ましい。具体的には、全Eu量に対するEu2+の割合は、通常80モル%以上、好ましくは85モル%以上、より好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上、最も好ましくは100モル%である。
【0031】
また、付活剤であるEuは、他の付活剤としてCe、Tb、Sb、Pr、Er及びMnからなる群より選ばれる少なくとも1種類の金属元素で置換されていてもよい。上記の金属元素のうち、1種類のみを用いて置換してもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で併用して置換してもよい。
【0032】
前記式[1]において、c及びdは、それぞれ、2.7≦c≦3.3及び0.9≦d≦1.1を満足するが、cについては、好ましくは2.8≦c≦3.2、さらに好ましくは2.9≦c≦3.1であり、dについては、好ましくは0.93≦d≦1.07、さらに好ましくは0.95≦d≦1.05である。
【0033】
〔1−1−2.SBCA蛍光体の物性〕
(粒径)
本発明におけるSBCA蛍光体は、通常、微粒子の形態を有している。具体的には、体積メジアン径D50が、通常2μm以上、好ましくは5μm以上、通常50μm以下、好ましくは30μm以下の範囲の微粒子である。
体積メジアン径D50が大きすぎると、例えば後述する封止材料として用いる樹脂中への分散性が悪くなる傾向があり、小さすぎると低輝度となる傾向がある。
体積メジアン径D50は、例えば、レーザー回折・散乱法により粒度分布を測定して得られる、体積基準粒度分布曲線から求められる値である。メジアン径D50は、この体積基準粒度分布曲線において、積算値が50%のときの粒径値を意味する。
【0034】
(発光色)
本発明におけるSBCA蛍光体は、通常は青色〜青緑色に発光する。即ち、通常は青色〜青緑色蛍光体となる。
SBCA蛍光体の蛍光の色度座標は、通常、(x,y)=(0.10,0.06)、(0.10,0.36)、(0.20,0.06)及び(0.20,0.36)で囲まれる領域内の座標となり、好ましくは、(x,y)=(0.13,0.09)、(0.13,0.30)、(0.18,0.09)及び(0.18,0.30)で囲まれる領域内の座標となり、より好ましくは、(x,y)=(0.13,0.09)、(0.13,0.26)、(0.18,0.09)及び(0.18,0.26)で囲まれる領域内となる。よって、SBCA蛍光体の蛍光の色度座標においては、色度座標xは、通常0.10以上、好ましくは0.13以上であり、通常0.20以下、好ましくは0.18以下である。一方、色度座標yは、通常0.06以上、好ましくは0.09以上、より好ましくは0.15以上、最も好ましくは0.20以上、また、通常0.36以下、好ましくは0.33以下、より好ましくは0.30以下である。
【0035】
なお、蛍光の色度座標は、後述する発光スペクトルから算出することができる。さらに、上記の色度座標x,yの値は、波長410nmの光で励起したときの発光色のCIE標準座標系における色度座標の値を表わす。
【0036】
(発光特性)
本発明におけるSBCA蛍光体が発する蛍光のスペクトル(発光スペクトル)は、青色〜青緑色蛍光体としての用途に鑑みれば、波長410nmの光で励起した場合のその発光スペクトルの発光ピーク波長が、通常440nm以上、好ましくは450nm以上、さらに好ましくは445nm以上、より好ましくは460nm以上であり、また、通常490nm未満、好ましくは485nm以下の範囲にあるものである。
【0037】
また、SBCA蛍光体は、波長410nmの光で励起した場合の発光ピークの半値幅が、通常35nm以上、好ましくは40nm以上、より好ましくは60nm以上、特に好ましくは75nm以上である。このように半値幅が広いことにより、LED等の第1の発光体に対し、第2の発光体として該蛍光体を含有するものを組み合わせて発光装置とした場合に、発光装置の輝度、演色性、そして色鮮やかさを良好にすることができる。なお、発光ピークの半値幅の上限に制限は無いが、通常95nm以下である。
【0038】
一方、SBCA蛍光体は、波長410nmの光で励起した場合の発光スペクトルにおいて、通常、490nm付近の波長領域に充分な発光強度を有する。具体的には、発光ピーク波長における強度をI(ピーク)、波長490nmにおける強度をI(490nm)とすると、I(490nm)/I(ピーク)の値が下記式を満たす。ここで、発光ピーク波長における強度とは、発光ピークのピークトップが存在する波長における発光強度を意味する。
0.2≦I(490nm)/I(ピーク)
【0039】
上記式の左辺の値は0.2であるが、好ましくは0.3であり、より好ましくは0.45、特に好ましくは0.55、最も好ましくは0.85である。即ち、I(490nm)/I(ピーク)の値が、0.2以上が好ましく、0.3以上が更に好ましく、0.45以上がより好ましく、0.55以上が特に好ましく、0.85以上が最も好ましい。
【0040】
I(490nm)/I(ピーク)の値は、発光スペクトルの形状を特徴付ける値であり、該値が大きいほど490nmにおける発光強度の値が大きいことを表す。したがって、I(490nm)/I(ピーク)の値が上記範囲を下回ると、490nm付近の波長領域における発光強度の値が小さいことにより、LED等の第1の発光体に対し、第2の発光体として該蛍光体を含有するものを組み合わせて発光装置とした場合に、その発光装置の発光スペクトルにおいて、490nm付近の波長領域に大きな谷部ができてしまう場合があり、その谷部の発光が欠損することにより、輝度、演色性、そして色鮮やかさが劣る発光装置となってしまう可能性がある。
【0041】
発光スペクトルの測定は、室温、例えば25℃において、励起光源として150Wキセノンランプを、スペクトル測定装置としてマルチチャンネルCCD検出器C7041(浜松フォトニクス社製)を備える蛍光測定装置(日本分光社製)を用いて行なうことができる。
【0042】
より具体的には、励起光源からの光を焦点距離が10cmである回折格子分光器に通し、波長410nmの励起光のみを光ファイバーを通じて蛍光体に照射する。励起光の照射により蛍光体から発生した光を焦点距離が25cmである回折格子分光器により分光し、300nm以上800nm以下の波長範囲においてスペクトル測定装置により各波長の発光強度を測定し、パーソナルコンピュータによる感度補正等の信号処理を経て発光スペクトルを得る。なお、測定時には、受光側分光器のスリット幅を1nmに設定して測定を行なう。
【0043】
(輝度)
本発明におけるSBCA蛍光体は、通常、室温における発光輝度が高いものとなっている。なお、本明細書における輝度とは、各波長における視感度×発光強度の値を、全波長領域で積分したものを指す。
SBCA蛍光体は、同様の方法で製造した、SCA蛍光体[Eu0.5Sr4.5(POCl]の輝度に対する相対輝度の割合が、通常130%以上、好ましくは160%以上、さらに好ましくは210%以上、より好ましくは300%以上、更に好ましくは400%以上である。式[1]におけるb/(a+b)の値を0.16以上としたものは、発光スペクトルのピーク形状の非対称性が大きくなり、ピーク波長の短波長側に比べて長波長側が顕著にブロード化するので、輝度が極めて高くなる。
【0044】
(励起特性)
本発明におけるSBCA蛍光体を励起する光の波長(励起波長)はSBCA蛍光体の組成などに応じて様々であるが、励起波長は、通常350nm以上、好ましくは380nm以上、より好ましくは405nm以上、また、通常430nm以下、好ましくは420nm以下、より好ましくは415nm以下である。
【0045】
(発光ピーク波長における強度の温度特性)
本発明におけるSBCA蛍光体は、同様の方法で製造したSCA蛍光体[Eu0.5Sr4.5(POCl]と比較して、通常は温度特性にも優れる。具体的には、該蛍光体を室温(約20℃)において波長410nmの光で励起して得られる発光スペクトルにおいて、発光ピーク波長における強度をI(室温)、温度80℃において波長410nmの光で励起して得られる発光スペクトルにおいて、発光ピーク波長における強度をI(80℃)とすると、I(80℃)/I(室温)の値が、下記式を満たすことが好ましい。
0.75≦I(80℃)/I(室温)
上記式の左辺の値は通常0.75であるが、好ましくは0.80であり、より好ましくは0.85、特に好ましくは0.87、また、1に近くなるほど好ましい。即ち、I(80℃)/I(室温)の値が、0.75以上が好ましく、0.80以上が更に好ましく、0.85以上がより好ましく、0.87以上が特に好ましく、1に近いほど好ましい。また、I(80℃)/I(室温)の上限値は、通常1である。
【0046】
また、温度100℃において波長410nmの光で励起して得られる発光スペクトルにおいて、発光ピーク波長における強度をI(100℃)とすると、I(100℃)/I(室温)の値が、下記式を満たすことが好ましい。
0.68≦I(100℃)/I(室温)
上記式の左辺の値は0.68であるが、好ましくは0.70であり、より好ましくは0.72であり、特に好ましくは0.80であり、最も好ましくは0.84であり、また、1に近いほど好ましい。即ち、I(100℃)/I(室温)の値が、0.68以上が好ましく、0.70以上が更に好ましく、0.72以上がより好ましく、0.80が特に好ましく、0.84が最も好ましく、1に近いほど好ましい。また、(100℃)/I(室温)の上限値は、通常1である。
【0047】
特に、SBCA蛍光体の構成元素中の金属元素が実質的にSr、Eu及びBaのみであり、かつ、式[1]におけるb/(a+b)の値が0.16以上であるものは、上記式「0.75≦I(80℃)/I(室温)」及び式「0.68≦I(100℃)/I(室温)」を満たすものとなり得る。なお、「構成元素中の金属元素が実質的にSr、Eu及びBaのみである」とは、当該蛍光体がSr、Eu及びBa以外の金属元素を一切含まないことを意味するものではなく、製造工程等において混入が避けられない金属元素の含有は許容される。例えば、蛍光体の原材料に不可避不純物として含まれる金属元素や、焼成工程で用いる容器(坩堝)に含まれ、焼成中に該容器から蛍光体に侵入する金属元素である。
【0048】
さらに、高出力LEDの作動中の典型的な温度である130℃において波長410nmの光で励起して得られる発光スペクトルにおいて、発光ピーク波長における強度をI(130℃)とすると、I(130℃)/I(室温)の値が、下記式を満たすことが好ましい。
0.60≦I(130℃)/I(室温)
上記式の左辺の値は0.60であるが、好ましくは0.67であり、より好ましくは0.70であり、また、1に近いほど好ましい。即ち、I(130℃)/I(室温)の値が、0.60以上が好ましく、0.65以上が更に好ましく、0.70以上がより好ましく、1に近いほど好ましい。また、I(130℃)/I(室温)の上限値は、通常1である。
【0049】
なお、上記温度特性を測定する場合は、例えば、輝度測定装置として色彩輝度計BM5A、ペルチェ素子による冷却機構とヒーターによる加熱機構、及び、光源として150Wキセノンランプを備える装置とを備えたMCPD7000マルチチャンネルスペクトル測定装置(大塚電子社製)を用いて、以下のように測定することができる。ステージに蛍光体サンプルを入れたセルを載せ、温度を20℃、25℃、50℃、75℃、100℃、125℃、150℃、175℃と段階的に変化させ、蛍光体の表面温度を確認し、次いで、光源から回折格子で分光して取り出した波長410nmの光で蛍光体を励起して、輝度値及び発光スペクトルを測定する。測定された発光スペクトルから発光ピーク強度を求める。ここで、蛍光体の励起光照射側の表面温度の測定値は、放射温度計と熱電対による温度測定値を利用して補正した値を用いる。
【0050】
このような良好な温度特性と発光特性を有するSBCA蛍光体、すなわちハロリン酸塩青色蛍光体に、青色光を吸わず、幅広い発光スペクトルをもつ黄色蛍光体M(SiOCl:Eu(ハロシリケート蛍光体)を組み合わせて、後述する白色発光装置を製造することにより、演色性が高く、太陽光源と同じように見え、くすみがなく、色鮮やかに発光する白色発光装置を提供することが可能となる。
【0051】
SBCA蛍光体において、上記式[1]におけるb/(a+b)の値が0.1未満であるもの、及び、xの値が1.2を超えるもの、また、Ca元素を実質的に含有するものは、温度特性が低下する傾向がある。なお、80℃乃至100℃という温度は、白色発光装置の動作時に想定される青色蛍光体の温度である。一般照明用途の白色発光装置では、チップサイズ1mm角の励起用LEDに500mA以上の大電流が印加される場合があり、このとき蛍光体の温度は100℃に達することが有り得る。
【0052】
(発光輝度の温度特性)
本発明におけるSBCA蛍光体は、LED作動中に到達する温度である80℃において、通常、SBCA蛍光体と同様の方法で製造した、SCA蛍光体[Eu0.5Sr4.5(POCl]の輝度に対する相対輝度の割合が、通常150%以上、好ましくは180%以上、さらに好ましくは250%以上、より好ましくは300%以上であり、特に好ましくは400%以上である。
【0053】
さらに、本発明におけるSBCA蛍光体は、LED作動中に到達する温度である100℃において、通常、SBCA蛍光体と同様の方法で製造した、SCA蛍光体であるEu0.5Sr4.5(POCl蛍光体の輝度に対する相対輝度の割合が、通常150%以上、好ましくは173%以上、さらに好ましくは250%以上、より好ましくは300%以上であり、特に好ましくは400%以上である。特に、構成元素中の金属元素が実質的にSr、Eu及びBaのみであり、かつ、式[1]におけるb/(a+b)の値が0.16以上であるものは、SCA蛍光体の室温における輝度に対する相対輝度の割合が、80℃において300%以上、100℃において250%以上となり得る。
【0054】
また、SBCA蛍光体は、LEDパワーチップの作動中の典型的な温度である130℃において、通常、SBCA蛍光体と同様の方法で製造した、SCA蛍光体[Eu0.5Sr4.5(POCl]の輝度に対する相対輝度の割合が、通常150%以上、好ましくは155%以上、さらに好ましくは250%以上、より好ましくは300%以上であり、特に好ましくは400%以上である。
【0055】
〔1−1−3.SBCA蛍光体の製造方法〕
本発明におけるSBCA蛍光体の製造方法に特段の制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意の方法で製造することが出来る。ただし、以下に説明する製造方法によって式[1]で表わされる化学組成を有する蛍光体(ハロリン酸蛍光体)を製造すれば、当該蛍光体は通常は上述した特性を備えることができる。
【0056】
SBCA蛍光体は、上記式[1]で示される組成となるように調製した蛍光体原料の混合物を焼成することにより製造できる。蛍光体原料としては通常は金属化合物を用いる。すなわち、原料となる金属化合物を所定の組成となるように秤量し、混合した後に焼成すればよい。例えば、上記式[1]の化学組成を有する蛍光体を製造する場合、Srの原料(以下適宜「Sr源」ということがある。)、Baの原料(以下適宜「Ba源」ということがある)、Euの原料(以下適宜「Eu源」ということがある。)、POの原料(以下適宜「PO源」ということがある。)、及び、Clの原料(以下適宜「Cl源」ということがある。)から必要な組み合わせを混合し(混合工程)、得られた混合物を焼成する(焼成工程)ことにより製造することができる。
【0057】
(蛍光体原料)
SBCA蛍光体の製造に使用される蛍光体原料(即ち、Sr源、Ba源、Eu源、PO源、及び、Cl源)としては、例えば、Sr、Ba、Eu、PO、及び、Clの各元素の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、蓚酸塩、カルボン酸塩、ハロゲン化物及びそれらの水和物等が挙げられる。これらの化合物の中から、複合酸窒化物への反応性や、焼成時におけるNO、SO等の発生量の低さ等を考慮して、適宜選択すればよい。
【0058】
上記Sr源の具体例としては、SrO等の酸化物、Sr(OH)・8HO等の水酸化物、SrCO等の炭酸塩、Sr(NO・4HO等の硝酸塩、SrSO等の硫酸塩、Sr(OCO)・HO、Sr(C)・HO等の蓚酸塩、Sr(OCOCH・0.5HO等のカルボン酸塩、SrCl、SrCl・6HO等のハロゲン化物、Sr、SrNH等の窒化物等が挙げられる。中でも、SrCOが好ましい。空気中の安定性が良く、また、加熱により容易に分解し、目的外の元素が残留しにくく、さらに、高純度の原料を入手しやすいからである。炭酸塩を原料とする場合は、予め炭酸塩を仮焼成して原料として使用してもよい。
【0059】
上記Ba源の具体例としては、BaO等の酸化物、Ba(OH)・8HO等の水酸化物、BaCO等の炭酸塩、Ba(NO等の硝酸塩、BaSO等の硫酸塩、Ba(OCO)・HO、Ba(OCOCH等のカルボン酸塩、BaCl、BaCl・6HO等のハロゲン化物、Ba、BaNH等の窒化物等が挙げられる。このうち好ましくは、炭酸塩、酸化物等が使用できる。ただし、酸化物は空気中の水分と反応しやすいため、取扱の点から炭酸塩がより好ましい。中でも、BaCOが好ましい。空気中の安定性が良く、また、加熱により容易に分解するため、目的外の元素が残留しにくく、さらに、高純度の原料を入手しやすいからである。炭酸塩を原料とする場合は、予め炭酸塩を仮焼成して原料として使用してもよい。
【0060】
Srの一部を置換してもよいMg、Ca、Zn及びMn(Mg源、Ca源、Zn源およびMn源)の具体例を、それぞれ分けて列挙すると、以下のとおりである。
Mg源の具体例としては、MgO等の酸化物、Mg(OH)等の水酸化物、塩基性炭酸マグネシウム(mMgCO・Mg(OH)・nHO)等の炭酸塩、Mg(NO・6HO等の硝酸塩、MgSO等の硫酸塩、Mg(OCO)・HO、Mg(OCOCH・4HO等のカルボン酸塩、MgCl等のハロゲン化物、Mg等の窒化物、MgNH等の窒化物等が挙げられる。中でも、MgOや塩基性炭酸マグネシウムが好ましい。炭酸塩を原料とする場合は、予め炭酸塩を仮焼成して原料として使用してもよい。
【0061】
Ca源の具体例としては、CaO等の酸化物、Ca(OH)等の水酸化物、CaCO等の炭酸塩、Ca(NO・4HO等の硝酸塩、CaSO・2HO等の硫酸塩、Ca(OCO)・HO、Ca(OCOCH・HO等のカルボン酸塩、CaCl等のハロゲン化物、Ca等の窒化物、CaNH等が挙げられる。中でも、CaCO、CaCl等が好ましい。炭酸塩を原料とする場合は、予め炭酸塩を仮焼成して原料として使用してもよい。
【0062】
Zn源の具体例としては、ZnO等の酸化物、ZnF、ZnCl等のハロゲン化物、Zn(OH)等の水酸化物、Zn、ZnNH等の窒化物、ZnCO等の炭酸塩、Zn(NO・6HO等の硝酸塩、Zn(OCO)、Zn(OCOCH等のカルボン酸塩、ZnSO等の硫酸塩等の亜鉛化合物(但し、水和物であってもよい)が挙げられる。中でも、粒子成長を促進させる効果が高いという観点からZnF・4HO(但し、無水物であってもよい)等が好ましい。炭酸塩を原料とする場合は、予め炭酸塩を仮焼成して原料として使用してもよい。
【0063】
Mn源の具体例としては、MnO、Mn、Mn、MnO等の酸化物、Mn(OH)等の水酸化物、MnOOH等の過酸化物、MnCO等の炭酸塩、Mn(NO等の硝酸塩、Mn(OCOCH・2HO、Mn(OCOCH・nHO等のカルボン酸塩、MnCl・4HO等のハロゲン化物等がそれぞれ挙げられる。このうち好ましくは、炭酸塩、酸化物等が使用できる。ただし、酸化物は空気中の水分と反応しやすいため、取扱の点から炭酸塩がより好ましい。中でも、MnCOが好ましい。空気中の安定性が良く、また、加熱により容易に分解するため、目的外の元素が残留しにくく、さらに、高純度の原料を入手しやすいからである。炭酸塩を原料とする場合は、予め炭酸塩を仮焼成して原料として使用してもよい。
【0064】
上記PO源の具体例としては、Sr、Ba、NH等のリン酸水素塩、リン酸塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、P等の酸化物、PCl、PX、SrPOCl、BaPOCl、リン酸、メタリン酸、ピロリン酸等が挙げられる。
【0065】
上記Cl源の具体例としては、SrCl、BaCl、NHCl、HCl、SrPOCl、BaPOCl等が挙げられ、これらの中から、化学組成、反応性、及び、焼成時におけるNOx、SOx等の非発生性等を考慮して選択される。
【0066】
上記Eu源の具体例としては、Eu等の酸化物、Eu(SO等の硫酸塩、Eu(C・10HO等の蓚酸塩、EuCl、EuCl、EuCl・6HO等のハロゲン化物、Eu(OCOCH・4HO等のカルボン酸、Eu(OCO)・6HO、Eu(NO・6HO等の硝酸塩、EuN、EuNH等の窒化物等が挙げられる。中でもEu、EuCl等が好ましく、特に好ましくはEuである。
【0067】
なお、上述したSr源、Ba源、Mg源、Ca源、Zn源、Mn源、PO源、Cl源、及び、Eu源は、それぞれ、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0068】
(混合工程)
式[1]の化学組成を有する蛍光体が得られるように、各蛍光体原料を所定の比率で秤量し、ボールミル等を用いて十分混合して原料混合物を得る。
上記混合手法としては、特に限定はされないが、具体的には、下記(A)及び(B)の手法が挙げられる。
【0069】
(A)例えばハンマーミル、ロールミル、ボールミル、ジェットミル等の乾式粉砕機、又は、乳鉢と乳棒等を用いる粉砕と、例えばリボンブレンダー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー等の混合機、又は、乳鉢と乳棒を用いる混合とを組み合わせ、前述の蛍光体原料を粉砕混合する乾式混合法。
(B)前述の蛍光体原料に水等の溶媒又は分散媒を加え、例えば粉砕機、乳鉢と乳棒、又は蒸発皿と撹拌棒等を用いて混合し、溶液又はスラリーの状態とした上で、噴霧乾燥、加熱乾燥、又は自然乾燥等により乾燥させる湿式混合法。
蛍光体原料の混合は、上記湿式混合法又は乾式混合法のいずれでも良いが、水又はエタノールを用いた湿式混合法がより好ましい。
【0070】
(焼成工程)
調製した原料混合物を、加熱処理して焼成することにより、SBCA蛍光体を製造することができる。
焼成の際の具体的な操作手順に制限は無いが、通常は混合工程で得られた原料の混合物を、アルミナ製焼成容器に充填し、当該焼成容器内で焼成を行う。なお、焼成容器としては、アルミナ製坩堝に限定されず、各蛍光体原料と反応性の低い材料からなる坩堝又はトレイ等の耐熱容器等を用いることができる。焼成容器の素材の具体例としては、アルミナの他に、石英、窒化ホウ素、窒化珪素、炭化珪素、マグネシウム、ムライト等のセラミックス、カーボン(グラファイト)等が挙げられる。ここで、石英製の耐熱容器は、比較的低温、すなわち、1200℃以下での熱処理に使用することができ、好ましい使用温度範囲は1000℃以下である。
【0071】
焼成雰囲気としては、発光中心イオンの元素が発光に寄与するイオン状態(価数)を得るために必要な雰囲気が選択され、本発明におけるSBCA蛍光体が得られる限り任意であるが、通常は還元雰囲気である。蛍光体中に含まれる付活元素の価数としては、発光強度の点から、2価のものが多い方が好ましい。還元雰囲気下において焼成すると、蛍光体原料中ではEu3+であったEuが、Eu2+に還元されるので好ましい。
【0072】
還元雰囲気とするために用いるガス(以下、「還元ガス」と称す)の具体例としては、水素、一酸化炭素等が使用できる。これらのガスを単独で用いることもできるが、通常、不活性ガスと混合して使用する。不活性ガスとしては窒素、アルゴンなどが使用できるが、実用上の見地から水素含有窒素ガスが好ましい。
【0073】
不活性ガスと還元性ガスとの混在環境下とする場合、ガスの全量に対する還元性ガスの割合(モル比)が、通常0.5%以上、好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%以上である。この範囲を下回ると、焼成によって焼成物が充分に還元されない可能性がある。
また、還元性ガス及び不活性ガスは1種類のみを用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
なお、大気、酸素等の酸化雰囲気下も条件さえ選べば可能である。
【0074】
焼成温度(最高到達温度)は、通常700℃以上、好ましくは900℃以上であり、また、通常1500℃以下、好ましくは1350℃以下である。焼成温度がこの範囲を下回ると、蛍光体原料として用いる炭酸塩などが酸化分解されない場合がある。また、焼成温度がこの範囲を上回ると、蛍光体粒子同士が融着し、粗大粒子となる場合がある。
【0075】
また、昇温速度は、通常1℃/分以上、また、通常40℃/分以下である。昇温速度がこの範囲を下回ると、焼成時間が長くなる可能性がある。また、昇温速度がこの範囲を上回ると、焼成装置、容器等が破損する場合がある。降温速度は、通常1℃/分以上、また、通常100℃/分以下である。降温速度がこの範囲を下回ると、工業的に効率が悪い。また、降温速度がこの範囲を上回ると、炉への悪影響が発生する。
【0076】
焼成時間は、焼成時の温度や圧力等によっても異なるが、通常1時間以上、また、通常24時間以下である。
焼成時の圧力は、焼成温度等によっても異なるため特に限定されないが、通常0.04MPa以上、また、通常0.1MPa以下である。このうち、工業的には大気圧程度がコスト及び手間の点で簡便であり好ましい。
【0077】
上述の焼成工程を経た焼成物は、後述の後処理等を行なうことで、本発明におけるSBCA蛍光体を得ることができる。
【0078】
なお、特開2009−30042号公報の段落[0133]〜[0149]の記載のように、2回以上の焼成工程(1次焼成、2次焼成など)を行なう、多段階焼成を経て製造してもよい。例えば、1次焼成を酸化雰囲気中で行い、2次焼成を還元雰囲気中で行うといった、焼成工程を複数回繰り返すことで、焼成物が成長し、粒子径が大きく、発光効率が高い蛍光体を得ることができる。
【0079】
また、上述の焼成工程において、通常、反応系にフラックスを共存させることで、良好な単粒子を成長させることができる。なお、2回以上の焼成工程を行なう、多段階焼成を経て製造する場合は、フラックスの添加効果は2段目以降で良好に得られる。
【0080】
(後処理)
本発明におけるSBCA蛍光体の製造方法においては、上述した工程以外にも、必要に応じてその他の工程を行ってもよい。例えば、上述の焼成工程後、必要に応じて粉砕工程、洗浄工程、分級工程、表面処理工程、乾燥工程などを行なってもよい。
【0081】
〔1−2.ハロシリケート蛍光体〕
〔1−2−1.ハロシリケート蛍光体の化学組成〕
本発明において、第2の発光体が含有するハロシリケート蛍光体は、下記式[2]:
(SiOCl:Eu [2]
(上記式[2]中、Mは、Ca,Sr,Mg及びBaよりなる元素群から選ばれる少なくとも一種の元素からなり、eは6≦e≦8を満足する数であり、fは1.8≦f≦2.2を満足する数である。)
の化学組成を有するものである。
【0082】
ここで、式[2]は、M(SiOCl:Euで表されるが、これは、(SiO)・[(e−f/2)/6](MO)・(f/12)(MCl):Euと書き換えることができる。即ち、式[2]の化学組成を有する蛍光体は、下記[3]:
(SiO)・p(MO)・q(MCl):Eu [3]
(上記式[3]中、Mは、Ca,Sr,Mg及びBaよりなる元素群から選ばれる少なくとも一種の元素からなり、pは、0.82≦p≦1.18を満たす数であり、qは、0.15≦q≦0.18を満たす数である。)
の化学組成を有する蛍光体と同義である。
【0083】
上記式[2]及び[3]におけるMは、Ca,Sr,Mg及びBaよりなる元素群から選ばれる少なくとも一種の元素からなるが、その他の元素としてZn又はMnが少量含まれていてもよい。輝度の点から、Mのモル数に対するCaとSrの合計モル数の割合が90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましく、100モル%が更に好ましい。輝度の点から、CaとSrの合計に対するCaのモル割合が0.2〜0.7の範囲が好ましく、0.3〜0.55の範囲がより好ましい。
【0084】
上記式[2]及び[3]に含まれるSiは4価の元素であるが、他の4価の元素Geを微量置換することは、発光特性に悪影響がほとんどないので、可能である。輝度の点から、Siに対するGeの置換率が3モル%以下であることが好ましく、1モル%以下であることがより好ましく、0%が更に好ましい。
【0085】
上記式[2]及び[3]に含まれるClは−1価の元素であるが、他の−1価の元素Br又はFを少量置換することは、発光特性に悪影響がほとんどないので、可能である。輝度やコストの点から、Clに対するF又はBrの置換率が30モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることが更に好ましく、0モル%が最も好ましい。
【0086】
付活剤であるEuは、少なくともその一部が2価のカチオンとして存在することになる。この際、付活剤Euは2価及び3価の価数を取りうるが、2価のカチオンの存在割合が高い方が好ましい。具体的には、全Eu量に対するEu2+の割合は、通常80モル%以上、好ましくは85モル%以上、より好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上、最も好ましくは100モル%である。
【0087】
また、付活剤であるEuは、他の付活剤としてCe、Tb、Sb、Pr、Er及びMnからなる群より選ばれる少なくとも1種類の金属元素で置換されていてもよい。上記の金属元素のうち、1種類のみを用いて置換してもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で併用して置換してもよい。
【0088】
式[2]及び[3]の化学組成を有する蛍光体の上記以外の特徴については、特開2008−274240号公報(特許文献3)、特開2009−38348号公報(特許文献2)、特開2011−57764号公報(特許文献1)、特開2011−32340号公報(特許文献4)の記載を参考とすることができる。
【0089】
〔1−2−2.ハロシリケート蛍光体の物性〕
上記式[2]及び[3]の化学組成を有する蛍光体(ハロシリケート蛍光体)は、近紫外線から可視光の短波長側領域に励起帯があり、黄色の波長を中心とした、560〜590nmの波長範囲に発光スペクトルのピークを有する光を効率よく発光する。従って、本ハロシリケート蛍光体−近紫外LEDに、近紫外光励起青色蛍光体を組み合わせた場合、本ハロシリケート蛍光体は青色蛍光体の光を吸わずに黄色発光するので、高発光効率で、蛍光体層の厚みに依存され難い発光装置を形成することができる。本ハロシリケート蛍光体の発光波長は、好ましくは、580nm以下、そして、565nm以上である。本ハロシリケート蛍光体の発光ピークの半値幅は、115nm以上もある幅広いものであり、演色性のよい白色発光装置とするのに好適である。その半値幅は、好ましくは120nm以上、より好ましくは125nm以上である。
【0090】
〔1−2−3.ハロシリケート蛍光体の製造方法〕
【0091】
上記式[2]及び[3]の化学組成を有する蛍光体の製法について述べる。仕込み原料については、基本的には、式[2]の構成元素を含む複数の化合物をその組成比に従い(但し、アルカリ土類金属元素とハロゲンは式[2]の組成比よりも過剰量とする)、混合したものを用いればよいが、より好ましくは、次の仕込み原料となる。
原料(1):SiO
原料(2):Ca、Sr、Mg、又はBaの酸化物、又は、加熱によって該酸化物になりうる化合物。
原料(3):Ca、Sr、Mg、又はBaのハロゲン化物。
原料(4):Euの化合物。
【0092】
原料(2)におけるSr源の具体例としては、SrO等の酸化物、Sr(OH)・8HO等の水酸化物、SrCO等の炭酸塩、Sr(NO・4HO等の硝酸塩、SrSO等の硫酸塩、Sr(OCO)・HO、Sr(C)・HO等の蓚酸塩、Sr(OCOCH・0.5HO等のカルボン酸塩等が挙げられる。中でも、SrO、Sr(OH)、SrCOが好ましい。炭酸塩を原料とする場合は、予め炭酸塩を仮焼成して原料として使用してもよい。
【0093】
原料(2)におけるCa源の具体例としては、CaO等の酸化物、Ca(OH)等の水酸化物、CaCO等の炭酸塩、Ca(NO・4HO等の硝酸塩、CaSO・2HO等の硫酸塩、Ca(OCO)・HO、Ca(OCOCH・HO等のカルボン酸塩等が挙げられる。中でも、CaO、Ca(OH)、CaCOが好ましい。炭酸塩を原料とする場合は、予め炭酸塩を仮焼成して原料として使用してもよい。
【0094】
原料(2)におけるBa源の具体例としては、BaO等の酸化物、Ba(OH)・8HO等の水酸化物、BaCO等の炭酸塩、Ba(NO等の硝酸塩、BaSO等の硫酸塩、Ba(OCO)・HO、Ba(OCOCH等のカルボン酸塩等が挙げられる。BaO、Ba(OH)2・8HO、Ba(OH)、BaCOが好ましい。炭酸塩を原料とする場合は、予め炭酸塩を仮焼成して原料として使用してもよい。
【0095】
原料(2)におけるMg源の具体例としては、MgO等の酸化物、Mg(OH)等の水酸化物、塩基性炭酸マグネシウム(mMgCO・Mg(OH)・nHO)等の炭酸塩、Mg(NO・6HO等の硝酸塩、MgSO等の硫酸塩、Mg(OCO)・HO、Mg(OCOCH・4HO等のカルボン酸塩等が挙げられる。MgOや塩基性炭酸マグネシウムが好ましい。炭酸塩を原料とする場合は、予め炭酸塩を仮焼成して原料として使用してもよい。
【0096】
原料(3)の具体例としては、SrCl、SrCl・6HO、MgCl、MgCl・6HO、CaCl、CaCl・2HO、BaCl、BaCl・2HO、ZnCl、MgF、CaF、SrF、BaF、MgBr、CaBr、SrBr、BaBr等が挙げられる。
【0097】
原料(4)の具体例としては、例えば、Eu、Eu(CO、Eu(OH)、EuCl等が挙げられる。
【0098】
原料(1)〜(4)の原料のモル比を、原料(1):原料(2)=1:0.25〜1.0、原料(2):原料(3)=1:0.3〜4.0、原料(2):原料(4)=1:0.05〜3.0の割合で秤量し、秤量した各原料を、例えば、アルミナ乳鉢に入れ、粉砕混合し、原料混合物を得る。この原料混合物を、例えば、アルミナ坩堝に入れ、電気炉に入れ、例えば、4%等の水素含有窒素ガスやカーボンを備えた窒素ガス等の還元雰囲気ガス下で、700℃〜1200℃の温度で1〜40時間焼成し、焼成物を得る。この焼成物を水又は温水で充分洗浄し、余剰の塩化物を洗い流すことにより上記式[2]及び[3]の化学組成を有する蛍光体を得ることができる。
【0099】
なお、原料(3)は上記の如く、化学量論比以上の過剰量を秤量することが好ましい。焼成中にハロゲン元素の一部が気化蒸発してしまうためであるし、また、固相反応の融剤として働くためである。過剰添加された原料は、製造された蛍光体の中で不純物として存在する。これらの不純物を水又は温水で洗い流すことによって、純度及び発光強度が高い蛍光体を得ることができる。
【0100】
本実施の形態において発光効率の高い蛍光体を得るには、不純物となる金属元素を極力少なくすることが好ましい。特にFe、Co、Ni等の遷移金属元素は発光の阻害剤として作用するため、これらの元素の合計が100ppm以下、より好ましくは50ppm以下になるように、純度の高い原料の使用、及び合成工程での不純物の混入を防ぐことが好ましい。
【0101】
〔1−3.他の蛍光体〕
第2の発光体は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述したSBCA蛍光体及びハロシリケート蛍光体以外の他の蛍光体を必要に応じて含んでいていてもよい。本発明においては、SBCA蛍光体とハロシリケート蛍光体の組み合わせだけで高い演色性や色鮮やかさが実現できるが、他の発光色の蛍光体の追加により、更に高い演色性や色鮮やかさが可能である。
【0102】
具体的には、後述の半導体発光素子(第1の発光体)の発する光に直接的または間接的に励起され、異なる波長の光を発する物質であれば特に制限はなく、無機系蛍光体であっても有機系蛍光体であっても用いることができる。例えば、以下に例示するような緑色蛍光体又は赤色蛍光体を、所望の色度座標や色温度の白色光が得られるよう、蛍光体の種類や含有量を適宜調整して用いることが好ましい。
【0103】
緑色蛍光体としては、発光ピーク波長が、通常500nm以上、中でも510nm以上、更には515nm以上であり、また、通常550nm以下、中でも542nm以下、更には535nm以下の範囲にあるものが好ましい。
【0104】
具体的には、Y(Al,Ga)12:Ce、CaSc:Ce、Ca(Sc,Mg)Si12:Ce、(Sr,Ba)SiO:Eu、β型サイアロン、(Ba,Sr)Si12:N:Eu、SrGa:Eu、BaMgAl1017:Eu,Mnが好ましい。
【0105】
赤色蛍光体としては、発光ピーク波長が、通常600nm以上、中でも610nm以上、更には620nm以上であり、また、通常700nm以下、中でも680nm以下、更には660nm以下の範囲にあるものが好ましい。
【0106】
具体的には、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O):Eu、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Ca,Sr)S:Eu、(La,Y)S:Eu、Eu(ジベンゾイルメタン)・1,10−フェナントロリン錯体等のβ−ジケトン系Eu錯体、カルボン酸系Eu錯体、KSiF:Mnが好ましく、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Sr,Ca)AlSi(N,O):Eu、(La,Y)S:Eu、KSiF:Mnがより好ましい。
【0107】
〔1−4.蛍光体の使用形態、含有割合〕
上述したSBCA蛍光体及びハロシリケート蛍光体を第2の発光体(波長変換用部材)として、発光装置に使用する場合には、通常、必要に応じてさらに他の蛍光体を含有させた蛍光体の混合物を、透光性材料中に、必要に応じてその他の成分と共に分散させた形態、即ち蛍光体含有組成物の形態で、第1の発光体(半導体発光素子)からの光の照射が可能なように発光装置のパッケージのカップ内に充填後、硬化すればよい。
【0108】
蛍光体含有組成物に使用可能な透光性材料としては、蛍光体混合物を好適に分散させると共に、好ましくない反応等を生じないものであれば、任意のものを目的等に応じて選択することができる。透光性材料の例としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。
【0109】
これらの透光性材料は1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。なお、上記の透光性材料に有機溶媒を含有させることもできる。
【0110】
その他の成分としては、例えば、アエロジル等のシリカ系微粉、アルミナ等の無機微粒子が挙げられる。なお、これらその他の成分は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0111】
好適な組成のSBCA蛍光体とハロシリケート蛍光体を近紫外LEDに組み合わせて、白色発光装置を得る場合、第2の発光体におけるSBCA蛍光体とハロシリケート蛍光体の含有割合は、1:0.8〜2の範囲が好ましく、1:1〜1.7の範囲がより好ましく、1:1.2〜1.6の範囲が最も好ましい。但し、蛍光体中のEu濃度やアルカリ土類金属元素種の組成によっては、その好適範囲が多少シフトする。この範囲内で、ハロシリケート蛍光体/SBCA蛍光体の重量割合が高いと、青色の発光に対する黄色の発光の割合が高くなり、色温度の低い白色光が得られ、ハロシリケート蛍光体/SBCA蛍光体の重量割合が低いと、黄色の発光に対する青色の発光の割合が高くなり、色温度の高い白色光が得られる。他の発光色の蛍光体も追加する場合、例えば、赤色蛍光体を追加する場合、通常は、その重量比は、SBCA蛍光体に対して、0.01〜0.5の重量比が適切であり、赤味成分が増した、電球色や温白色の白色光が得られる。いずれの場合にも、上記配合量において、演色性が高く、色鮮やかな発光が得られる。
【0112】
〔2.発光装置〕
本発明の発光装置は、350〜430nmの光を発生する第1の発光体と、当該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発生する第2の発光体を有する発光装置において、第2の発光体が、上述したSBCA蛍光体とハロシリケート蛍光体を含有することに特徴をもつものである。
【0113】
〔2−1.第1の発光体〕
第1の発光体は、波長350〜430nmの光を発生する。好ましくは400nm以上、より好ましくは405nm以上、さらに好ましくは407nm以上、また、好ましくは425nm以下、より好ましくは415nm以下、さらに好ましくは413nm以下の範囲に、ピーク波長を有する光を発生する。特に、発光効率が高いことから、407nm以上の範囲にピーク波長を有するGaN系LEDを用いることが好ましい。
【0114】
この第1の発光体としては、一般的には半導体発光素子が用いられ、具体的には発光ダイオード(LED)や半導体レーザーダイオード(LD)等が使用できる。
中でも、第1の発光体としては、GaN系化合物半導体を使用したGaN系LEDやLDが好ましい。GaN系LEDにおいては、それらの中でInGaN発光層を有するものが、発光強度が非常に強いので特に好ましい。なお、特開平6−260681に記載されているように、InGaN発光層を有するLEDにおいて、Xの値を大きくすることでLEDの発光ピーク波長を長波長側に波長シフトすることができる。GaN系LDにおいては、InGaN層とGaN層の多重量子井戸構造のものが、発光強度が非常に強いので特に好ましい。
【0115】
なお、上記においてX+Yの値は通常0.8〜1.2の範囲の値である。GaN系LEDにおいて、これら発光層にZnやSiをドープしたものやドーパント無しのものが発光特性を調節する上で好ましい。
【0116】
GaN系LEDはこれら発光層、p層、n層、電極、および基板を基本構成要素としたものであり、発光層をn型とp型のAlGaN層、GaN層、またはInGaN層などでサンドイッチにしたヘテロ構造を有しているものが、発光効率が高く、好ましく、さらにヘテロ構造を量子井戸構造にしたものが、発光効率がさらに高く、より好ましい。
これらLEDやLDは、公知のものが利用できる。また、LEDやLDは1個のみを用いてもよく、2個以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0117】
また、本発明におけるSBCA蛍光体は、上記(発光ピーク強度の温度特性)の項や(発光輝度の温度特性)の項で述べたように、通常、温度特性にも優れるので、第1の発光体として高出力動作が可能で、作動時に130℃付近まで温度が上昇する高出力LED、例えばラージチップなどを用いて発光装置とした場合でも、通電時の発熱によっても色ずれや発光強度の低下などといった問題が起こりにくい。
【0118】
また、ラージチップとしては、例えば、外周形状が正方形の場合、一辺の長さが通常500μm以上、好ましくは700μm以上、より好ましくは900μm以上であり、また、通常5mm以下、好ましくは3mm以下、より好ましくは2mm以下のものが挙げられる。
【0119】
〔2−2.発光装置の構成〕
本発明の発光装置は、例えば図1に示す様に、第1の発光体(半導体発光素子)1、樹脂成形体2、ボンディングワイヤ3、第2の発光体(波長変換部)4、リードフレーム5等から構成される。なお、本明細書においてリードフレーム5等の導電性材料と絶縁性の樹脂成形体からなるものを、パッケージと称することがある。
【0120】
第1の発光体(半導体発光素子)1は、波長350〜430nm(近紫外領域の波長)の光を発生する近紫外半導体発光素子である。図1においては半導体発光素子が1つのみ搭載されているが、複数個の半導体発光素子を線状に、あるいは平面状に配置することも可能である。第1の発光体(半導体発光素子)1を平面状に配置することで、面照明とすることができ、このような実施形態はより出力を強くしたい場合に好適である。
【0121】
パッケージを構成する樹脂成形体2は、リードフレーム5と共に成形されていてもよい。パッケージの形状は特段限定されず平面型でもカップ型でもよい。
【0122】
リードフレーム5は導電性の金属からなり、発光装置外から電源を供給し、第1の発光体(半導体発光素子)1に通電する役割を果たす。
【0123】
ボンディングワイヤ3は、第1の発光体(半導体発光素子)1をパッケージに固定する役割を有する。また、第1の発光体(半導体発光素子)1が電極となるリードフレームと接触していない場合には、導電性のボンディングワイヤ3が第1の発光体(半導体発光素子)1への電源供給の役割を担う。ボンディングワイヤ3は、リードフレーム5に圧着し、熱及び超音波の振動を与えることで接着させる。
【0124】
パッケージを構成する樹脂成形体2は、第1の発光体(半導体発光素子)1が搭載され、蛍光体を混合した第2の発光体(波長変換部材)4により封止されている。
【0125】
第2の発光体4に含まれる、蛍光体を分散させる成分としては、上述のとおり、通常封止材に用いられることが知られている透光性の樹脂を適宜選択すればよく、具体的にはエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂などが挙げられ、シリコーン樹脂を用いることが好ましい。
【0126】
第2の発光体中の蛍光体は、第1の発光体(半導体発光素子)1からの励起光(350〜430nmの光)を変換し、励起光と波長の異なる可視光を発する。
【0127】
〔2−3.発光特性〕
本発明の発光装置は、平均演色評価数が高く、くすみがなく色鮮やかな光を発生することができ、かつ発光の再現性に優れたものである。
【0128】
ここで、演色評価数とは、平均演色評価色(8種類)と特殊演色評価色(7種類)の合計15の試験色について、JISが定める基準光とサンプル光源光とのずれの大きさを数字にしたものである(JIS Z 8726「光源の演色性評価方法」)。基準光で見たときを「100」として、サンプル光源光で見たときの色ずれが大きくなるに従って数値が小さくなる。つまり、演色性が「よい」光源(発光装置)は演色評価数が大きく、逆に演色性が「わるい」光源(発光装置)は演色評価数が小さくなる。
【0129】
演色評価数には、平均演色評価数(Ra)と特殊演色評価数(R9〜R15)があり、一般的には、平均演色評価数(Ra)が演色性の評価指標として用いられている。平均演色評価数は、No1〜No9までの平均演色評価色における「基準光」と「サンプル光源光」のずれの平均値である。
【0130】
本発明の発光装置における平均演色評価数は、通常83以上、好ましくは87以上、より好ましくは90以上である。平均演色評価数は、100に近いほど好ましいが、現実的な上限は97程度以下である。
【0131】
上記のとおり、演色評価数はJISが定める基準光(太陽光に近い光)で見た色とのずれにより評価される指標であるので、物体の色の見え方についての万全の評価指標ではない。
【0132】
アメリカ合衆国の国立標準技術研究所が提唱した、物体の色の見え方に関する新しい基準CQS(color quality scale)が従来の平均演色評価数よりも良い基準と考えられ、世界でとり入れられつつある。このCQSの詳細は、Davis and Y. Ohno, Optical Engineering, 49 (2010) 033602に記載されている。
【0133】
CQSは、次式(a)〜(c)のように、分光反射率の異なる15種類の色表(i=1,2,・・(略)・・,15)に対する太陽光源とサンプル光源の物体色(1976年国際照明委員会(CIE)で規格されたL,a,b表色系の物体色)L,a,bの関数で表される。
【0134】
CQS=10MccTln(exp(9−0.31(15個のΔEの平均値))) 式(a)
サンプル光源の彩度≦太陽光源の彩度の場合:
ΔE=√((ΔL+(Δa+(Δb) 式(b)
サンプル光源の彩度>太陽光源の彩度の場合:
ΔE*=√((ΔL+(Δa+(Δb−(ΔC) 式(c)
【0135】
ここで、式(a)〜(c)中、MccTは温度係数であり、ΔL、Δa、Δb、ΔCは、それぞれ、i番目の色表を使ったときの太陽光源とサンプル光源によるLの差、aの差、bの差、Cの差である。Cは√((a+(b)であり、彩度である。
【0136】
サンプル光源の彩度が太陽光の彩度より小さくなる場合は、色の見え方のずれを「√((ΔL+(Δa+(Δb)」で表すとして、式(a)と式(b)からわかるように、CQSは、そのずれが大きいほど、小さくなるように定義されている。サンプル光源と太陽光源とで明度L、a、bのどれかに差が生じた場合には、その分だけCQS値が下がるように定義づけされており、この場合は、従来の平均演色評価数と大きくは変わらない。
【0137】
一方、サンプル光源の彩度が太陽光の彩度を上回る場合は、式(a)と式(c)からわかるように、明度Lの差、aの差、bの差の全てを数式上であわせた分から、彩度の差の分を差し引いた分だけCQSが低下するような定義となっている。
【0138】
即ち、CQSの定義では、サンプル光源の彩度が太陽光源の彩度を上回った場合は、その食い違いに対して物の見え方が悪くなったとはとらえず、よくも悪くもなっていないととらえるのがCQSであり、この点が平均演色評価数と異なる。換言すれば、平均演色評価数は、とにもかくにも、太陽光源の場合とどれだけ同じように見えるかの尺度である。一方、CQSは、「太陽光源の場合とどれだけ同じに見えるか」と「太陽光源の場合よりあざやかさが増したか」の両方を考慮した尺度となっている。太陽光源の場合と似たようにみえても、くすみが激しいと、人間には快適にはみえない場合が多いので、それを解消したのがCQSの尺度である。
【0139】
本発明の発光装置におけるCQSは、通常84以上、好ましくは87以上、より好ましくは90以上である。上限は特に限定されないが、通常97以下である。
【0140】
〔2−4.発光装置の用途〕
本発明の発光装置の用途は特に制限されず、通常の発光装置が用いられる各種の分野に使用可能である。本発明の発光装置は、上記のとおり、平均演色評価数が高く、くすみがなく色鮮やかな光を発生し、かつ発光の再現性に優れたものであることから、照明装置や画像表示装置の光源として、とりわけ好適に用いられる。照明装置や画像表示装置は、光源として本発明の発光装置を用いること以外は、それ自体既知の部材や方法により製造することができる。
【実施例】
【0141】
以下、実験例を示して本発明について更に具体的に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。なお、下記の実施例における各種の条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は、前記上限または下限の値と下記実施例の値または実施例同士の値との組合せで規定される範囲であってもよい。
また、実験例の蛍光体の発光特性等の測定は、次の方法で行った。
【0142】
[化学分析]
化学分析は、全量をアルカリ等に溶解させたものを用いて、蛍光X線法により測定を行なった。
【0143】
[発光スペクトル]
発光スペクトルは、励起光源として150Wキセノンランプを、スペクトル測定装置としてマルチチャンネルCCD検出器C7041(浜松フォトニクス社製)を備える蛍光測定装置(日本分光社製)を用いて測定した。励起光源からの光を焦点距離が10cmである回折格子分光器に通し、波長410nmの励起光のみを光ファイバーを通じて蛍光体に照射した。励起光の照射により蛍光体から発生した光を焦点距離が25cmである回折格子分光器により分光し、300nm以上800nm以下の波長範囲においてスペクトル測定装置により各波長の発光強度を測定し、パーソナルコンピュータによる感度補正等の信号処理を経て発光スペクトルを得た。なお、測定時には、受光側分光器のスリット幅を1nmに設定して測定を行なった。
【0144】
[色度座標]
x、y表色系(CIE 1931表色系)の色度座標は、上述の方法で得られた発光スペクトルの380nm〜780nmの波長領域のデータから、JIS Z8724に準じた方法で、JIS Z8701で規定されるXYZ表色系における色度座標xとyとして算出した。
【0145】
[温度特性]
温度特性の測定は、発光スペクトル測定装置としてMCPD7000マルチチャンネルスペクトル測定装置(大塚電子社製)、輝度測定装置として色彩輝度計、ペルチェ素子による冷却機構とヒーターによる加熱機構を備えたステージ及び光源として150Wキセノンランプを備える装置を用いて、下記手順で行なった。
【0146】
ステージに蛍光体のサンプルを入れたセルを載せ、設定温度を約20℃、25℃、50℃、75℃、100℃、125℃、150℃、175℃と段階的に変化させ、蛍光体の表面温度を確認し、次いで、光源から回折格子で分光して取り出した波長410nmの光で蛍光体を励起して、輝度値及び発光スペクトルを測定した。測定された発光スペクトルから、発光ピーク強度を求めた。ここで、蛍光体の励起光照射側の表面温度の測定値としては、放射温度計と熱電対による温度測定値を利用して補正した値を用いた。
【0147】
[CQS(color quality scale)]
上記論文(Davis and Y. Ohno, Optical Engineering, 49 (2010) 033602)に基づいてプログラムされた計算ソフトに、発光スペクトルの数値データを入力して、求めた。具体的には、380nm〜780nmの範囲にある発光スペクトルについて、5nmおきの各強度の数値を入力して求めた。
【0148】
合成例1[SBCA蛍光体の製造(1)]
SrHPO(白辰社製)、SrCO(レアメタリック社製99.99+%)、BaCO(レアメタリック社製、99.99+%)、SrCl・6HO(和光純薬社製、99.9%)、BaCl・6HO(和光純薬社製、特級)、およびEu(レアメタリック社製、99.99%)を、そのモル比が3:0.55:0.45:1:0:0.25となるように、エタノールと共に、めのう乳鉢中で粉砕、混合し、乾燥後、得られた粉砕混合物の4.0gをアルミナ製坩堝中で、4%の水素を含む窒素ガス流下1200℃で3時間加熱することにより焼成し、引き続いて、水洗浄、乾燥を行うことにより蛍光体Eu0.50Sr4.05Ba0.45(POClを製造した。なお、仕込みのうち、「SrCl+BaCl」0.5モル分はフラックスとして過剰仕込みとなっている。なお、化学分析により補正した組成式はEu0.50Sr4.05Ba0.45(POCl〔b/(a+b)=0.10、Sr元素に対するCa元素の置換量=0モル%、X=0.50〕であった。
【0149】
また、本合成例においては、原料化合物を混合するために、溶媒としてエタノールを用いた湿式混合法によって混合を行ったが、原料化合物の混合が充分に行えるのであればこの方法に限られるものではなく、溶媒として水を用いた湿式混合法によっても、乾式混合法によっても、同等の性能の蛍光体を得ることができる。
【0150】
表1にGaN系発光ダイオードの主波長である410nmでこの蛍光体を励起したときの発光特性(相対輝度、発光ピークの半値幅等)を示す。
【0151】
比較合成例1[SCA蛍光体の製造]
合成例1において、SrHPO、SrCO、BaCO、SrCl・6HO、BaCl・6HO、Euの仕込みモル比を3:1:0:1:0:0.25と変えた他は、合成例1と同様に実験を行い、Baを含まない蛍光体(SCA蛍光体)を得た。なお、化学分析により補正した組成式はEu0.50Sr4.50(POCl〔b/(a+b)=0、Sr元素に対するCa元素の置換量=0モル%、X=0.50〕であった。その発光特性を表1に示す。
【0152】
【表1】

【0153】
表1から、合成例1の蛍光体(SBCA蛍光体)は、比較合成例1の蛍光体(SCA蛍光体)と比べて、相対輝度が100に対し187、発光ピークの半値幅が31に対し36と高くなっていることがわかる。これは、Ba元素を含有させることで、発光ピークが長波長側にブロード化したためである。また、b/(a+b)の値が0.10である合成例1のSBCA蛍光体は、Ba元素を含有させることで発光ピークが長波長側にブロード化したために、Ba元素を含有しない比較合成例1のSCA蛍光体と比較すると、発光ピーク波長は殆ど変わらないが、I(490nm)/I(ピーク)の値は2倍以上となった。
【0154】
合成例1の蛍光体は、比較合成例1のものと比べて輝度が87%も高いものとなっているため、SCA蛍光体に代えて合成例1の蛍光体を用いて、LED等の発光体と組み合わせて発光装置とした場合に、輝度が高く、演色性に優れた発光装置となると考えられる。
【0155】
合成例2[ハロシリケート蛍光体の製造]
蛍光体の原料として、SiO、Ca(OH)、SrCl・6HO、およびEuを、6:2.454:5.454:0.709のモル比で、純水と共に、アルミナ製乳鉢及びアルミナ製乳棒により充分に粉砕・混合し、乾燥させた。得られた原料混合物をアルミナ坩堝に充填し、その近辺にカーボンビーズを備えたアルミナ坩堝をマッフル炉に導入し、1080℃で5時間加熱することにより焼成した。続いて、粉砕、水洗浄、乾燥を行うことにより蛍光体Ca2.69Sr3.71Eu0.6(SiOCl:Eu0.7を製造した。このハロシリケート蛍光体の400nm励起時の発光スペクトルを図2に示す。発光ピーク波長は577nm、発光ピークの半値幅は127nmであった。本蛍光体を「蛍光体1」とする。
【0156】
合成例3[SBCA蛍光体の製造(2)]
SrHPO4、SrCO3、BaCO3、SrCl2・6H2O、BaCl2、およびEu23を、3:0.5:0.5:0.5:0.5:0.5のモル比で、アルミナ乳鉢中で粉砕、混合し、乾燥させた。得られた原料混合物をアルミナ製坩堝中で、水素を含む窒素ガス流下で焼成した。続いて、粉砕、篩、水洗、乾燥を行うことにより蛍光体Eu0.5Sr3.78Ba0.72(POClを製造した。なお、仕込みのうち、「SrCl2+BaCl2」0.5モル分はフラックスとして過剰仕込みとなっている。本蛍光体を「蛍光体2」とする。本蛍光体の発光特性は、先に提案した特願2011−40465号明細書の実験例3の表2の発光特性と同等であった。
【0157】
実施例1[白色LEDの製造と評価(1)]
封止材シリコーン樹脂(信越化学工業社製SCR−1016)中に、上記の蛍光体1及び2を、100:73の重量割合で混合した。得られた混合液を近紫外LEDチップに充填し、加熱して硬化させることにより、表面実装型白色発光装置を得た。
【0158】
作製した白色LEDに20mAの電流を印加したときの発光スペクトルを図3に示す。得られた発光装置の色度座標x値0.343、色度座標y値0.363、色温度5112K、平均演色評価数87、CQS87であった。なお、各演色評価数R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14は、それぞれ、85、96、93、83、87、97、87、71、24、90、80、96、88、96であった。
【0159】
比較例1
特開2011−57764号公報(特許文献1)の実施例9(段落[0064]〜[0065])には、黄色発光のハロシリケート蛍光体(Ca,Sr,Eu)(SiOClに、青色発光蛍光体Ca(PO(Cl,Br):EuとLED素子(ピーク波長405nm)とを組合せた発光装置が記載されている。この実施例9は、上記実施例1において、蛍光体2(SBCA蛍光体)をCa(PO(Cl,Br):Euに代えたものに相当する。
【0160】
この発光装置に20mAの電流を印加して得られた発光スペクトルが特許文献1の図6に示されている(この発光スペクトルの図を図4とし提出する)。表4(段落[0065])には、色度座標x値0.340、色度座標y値0.327、色温度(Tcp)5179K、平均演色評価数(Ra)83.4と記載されている。
【0161】
上記実施例9の発光スペクトル(本願の図4)について、市販の画像デジタル化ソフト(デジタイザー)で処理により数値化して、発光スペクトルの数値解析を行った。その結果、色度座標x値、色度座標y値、色温度、平均演色評価数が、それぞれ、0.340、0.327、5179K、83とぴたりと再現されたとともに、各演色評価数R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14が、それぞれ、83、91、92、77、82、85、84、69、19、75、69、75、84、96と求まり、CQSが75と求まった。
【0162】
実施例2[白色LEDの製造と評価(2)]
封止材シリコーン樹脂(信越化学工業社製SCR−1016)中に、上記の蛍光体1及び2を、100:67の重量割合で、近紫外LEDチップに充填し、加熱して硬化させることにより、表面実装型白色発光装置を得た。
【0163】
作製した白色LEDに20mAの電流を印加したときの発光スペクトルを図5に示す。得られた発光装置の色度座標x値0.362、色度座標y値0.373、色温度4522K、平均演色評価数86、CQS87であった。なお、各演色評価数R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14は、それぞれ、82、91、97、84、85、91、90、70、18、80、80、78、83、98であった。
【0164】
比較例2
特開2009−38348号公報(特許文献2)の実施例2d(段落[0106]、[0109]〜[0110]、[表5])には、黄色蛍光体SiO・0.9(Ca0.6,Sr0.4)O・0.17SrCl:Eu0.1〔(Ca,Sr,Eu)(SiOCl〕に、青色蛍光体(Ca4.67Mg0.5)(POCl:Eu0.08と近紫外光LEDチップ(ピーク波長405nm)とを組合せた発光装置が記載されている。特許文献4の[表5]から平均演色係数(Ra)は、この発光装置で最も高いことが分かる。また、この実施例2dは、上記実施例2において、蛍光体2(SBCA蛍光体)を(Ca4.67Mg0.5)(POCl:Eu0.08に代えたものに相当する。
【0165】
この発光装置に10mAの電流を印加して得られた発光スペクトルが特許文献2の図21に示されている(この発光スペクトルの図を図6とし提出する)。表5には、色度座標x値0.35、色度座標y値0.33、色温度4522K、平均演色係数(Ra)83.9と記載されている。
【0166】
上記実施例2dの発光スペクトル(本願の図6)について、市販の画像デジタル化ソフト(デジタイザー)で処理により数値化して、発光スペクトルの数値解析を行った。その結果、色度座標x値、色度座標y値、色温度、平均演色評価数が、それぞれ、0.35、0.33、4511K、83と再現されたとともに、各演色評価数R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14が、それぞれ、83、94、93、74、82、86、83、68、25、81、66、73、86、97と求まり、CQSが76と求まった。
【0167】
以上、実施例1、2、比較例1、2の発光スペクトルの数値解析の結果を表2に示す。表2から明らかなとおり、白色光の色温度を一致させて比較した実施例1と比較例1、実施例2と比較例2の結果から、本願の黄色ハロシリケート蛍光体/青色(Sr,Ba)(POCl:Eu蛍光体の組み合わせが、公知文献の黄色ハロシリケート蛍光体/青色Ca(PO(Cl,Br):Eu又は(Ca,Mg)(POCl:Eu蛍光体の組み合わせよりも、演色性が高く、CQSが顕著に高くなることがわかる。
【0168】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明の発光装置の用途は特に制限されず、各種の分野に使用可能である。本発明におけるSBCA蛍光体は、発光ピークの半値幅が大きく、温度特性に優れるここから、近紫外LED等の光源で励起される一般照明用発光体を実現する目的に適している。また、上述のような特性を有するSBCA蛍光体を用いた本発明の発光装置は、通常の発光装置が用いられる各種の分野に使用可能であるが、中でも画像表示装置や照明装置の光源としてとりわけ好適に用いられる。
【符号の説明】
【0170】
1 第1の発光体(半導体発光素子)
2 樹脂成形体
3 ボンディングワイヤ
4 第2の発光体(波長変換部材)
5 リードフレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
350〜430nmの光を発生する第1の発光体と、当該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発生する第2の発光体を有する発光装置において、第2の発光体が、下記式[1]の化学組成を有する蛍光体と下記式[2]の化学組成を有する蛍光体を含有することを特徴とする発光装置。
SrBaEu(POCl [1]
(上記式[1]において、a及びbは、a+b=5−xかつ0.1≦b/(a+b)≦0.6の条件を満足する数であり、c、d及びxは、それぞれ、2.7≦c≦3.3、0.9≦d≦1.1及び0.3≦x≦1.2を満足する数である。)
(SiOCl:Eu [2]
(上記式[2]において、Mは、Ca,Sr,Mg及びBaよりなる元素群から選ばれる少なくとも一種の元素からなり、eは6≦e≦8を満足する数であり、fは1.8≦f≦2.2を満足する数である。)
【請求項2】
式[1]におけるb及びaが、0.16≦b/(a+b)≦0.6の条件を満足する数であることを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
式[1]におけるxが0.45以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項4】
式[2]におけるMのモル数に対するCaとSrの合計モル数の割合が90モル%以上であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の発光装置。
【請求項5】
式[1]の化学組成を有する蛍光体が、350〜430nmの光によって励起した時に、63nm以上の発光ピークの半値幅を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の発光装置。
【請求項6】
式[2]におけるMがCaとSrからなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の発光装置を光源として具備することを特徴とする画像表示装置又は照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−45896(P2013−45896A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182763(P2011−182763)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】