説明

発光装置

【課題】高効率、高信頼性の発光素子を提供する。
【解決手段】陽極と、陰極と、陽極と陰極との間に設けられた発光層と、発光層の陰極側
に接して設けられたホールブロック層と、を有する発光素子であって、ホールブロック層
は、発光層のイオン化ポテンシャルより大きいイオン化ポテンシャルを有するホールブロ
ック材料と、ホールブロック材料とは異なる一種類、または複数種類の材料と、から構成
されている。ホールブロック材料とは異なる材料として、最高被占分子軌道準位と最低空
分子軌道準位とのエネルギーギャップの値が、発光層の最高被占分子軌道準位と最低空分
子軌道準位とのエネルギーギャップの値よりも大きい材料を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界を加えると発光が得られる有機化合物を有する有機エレクトロルミネッ
センス素子(以下、「有機発光素子」と記す)に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、自発光による視認性のよさ、面発光薄型化、軽量性、低電圧駆動、及
び多色・フルカラー表示が可能である、といった特徴を有しており、次世代の表示素子と
して注目を浴び、フラットパネルディスプレイへの応用が期待されている。
【0003】
現在の有機発光素子における基本構造は、1987年にコダック社のTangらによっ
て報告されている(非特許文献1参照)。
【0004】
非特許文献1では、有機薄膜の厚みを100nm程度の均一な超薄膜とし、また、有機
薄膜に対するキャリヤ注入障壁を小さくするような電極材料を選択し、さらにはヘテロ構
造(二層構造)を導入することによって、5.5Vで100cd/mの十分な輝度が
達成された。
【0005】
また、非特許文献1における有機発光素子は、いわば正孔の輸送は正孔輸送層が行い、
電子の輸送及び発光は電子輸送性発光層が行うという、層の機能分離という発想の原点で
ある。この機能分離の概念はさらに、正孔輸送層と電子輸送層の間に発光層を挟むという
ダブルへテロ構造(三層構造)の構想へと発展した(非特許文献2参照)。
【0006】
層の機能分離の利点は、一種類の有機材料に様々な機能(発光性、キャリヤ輸送性、電
極からのキャリヤ注入性など)を同時に持たせる必要がなくなり、そのため素子に使用す
る材料の分子設計等に、幅広い自由度を持たせることができることである(例えば、無理
にバイポーラー材料を探索する必要がなくなる)。そして、発光特性のよい材料、キャリ
ヤ輸送性が優れる材料、キャリヤ注入性の優れる材料、などを各々組み合わせることで、
材料の利点を有効に利用し、容易に発光効率の向上が可能となる。こうして、現在の有機
発光素子は多層型の構造をとるものが多い。
【0007】
この層の機能分離を利用した多層型有機発光素子の中でも、イオン化ポテンシャルが大
きいためにホールが注入されづらい電子輸送性材料、すなわちホールブロック性を有する
電子輸送材料(以下、「ホールブロック材料」と記す)をホールブロック層として用いる
構造をとるものがある。
【0008】
上記のように、ホールブロック層のイオン化ポテンシャルは大きく、ホールブロック層
にホールを注入することは非常に困難である。そのため、発光層に注入されたホールキャ
リヤは、隣接するホールブロック層に入り込むことができずに、発光層内に閉じ込められ
る。こうして発光層内では、ホール・電子キャリヤの密度が高くなり、キャリヤの再結合
が効率よく行なわれ、この効率よいキャリヤの再結合によって有機発光素子の高効率化が
図れる。
【0009】
また、このホールブロック機能によって、キャリヤの再結合領域を制御することができ
るため、有機発光素子の発光色の制御も行うことができる。
【0010】
例えば、ホールブロック層をホール輸送層と電子輸送層との間に挿入することにより、
ホール輸送層を発光させることに成功した報告がある(非特許文献3参照)。
【0011】
ここでは、ホールブロック層導入によって、ホールをホール輸送層内に閉じこめ、ホー
ル輸送層内でキャリヤの再結合が行なわれる機構となっている。
【0012】
他に、ホールブロック層の適用例としては、三重項発光素子に適用した例がある(非特
許文献4参照)。
【0013】
三重項発光素子は有機発光素子の高効率化に有効な技術であるが、ホールブロック層を
用いないと効率よく発光できないため、ホールブロック材料が重要な鍵となる。
【0014】
このように、ホールブロック材料は非常に有効利用できる材料ではあるのだが、電子輸
送性が高く、なおかつホールブロック性も良好である材料となると、かなり限定されてし
まうのが現状である。その少数例として、例えば非特許文献3、非特許文献4でも用いら
れている2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(以下、
「BCP」と記す)、他に1,3−ビス[(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,
4−オキサジアゾール]フェニレン(以下、「OXD−7」と記す)、3−フェニル−4
−(1’−ナフチル)−5−フェニル−1,2,4−トリアゾール(以下、「TAZ」と
記す)などが挙げられるが、どの材料も蒸着薄膜の結晶化が激しく、実際のデバイスに適
用する場合には信頼性に大きな悪影響を及ぼす。例えば、BCPを用いた三重項発光素子
の素子寿命(輝度の半減期)は、初期輝度500cd/m時で170時間であり、と
ても実用化のレベルとは言い難い(非特許文献5参照)。
【0015】
一方、この点を克服するため、結晶化しづらい材料であるビス(2−メチル−8−キノ
リノラト)−(4−ヒドロキシ−ビフェニリル)−アルミニウム(以下、「BAlq」と
記す)をホールブロック層に適用して三重項発光素子を作製した例がある(非特許文献6
参照)。
【0016】
非特許文献6では、ホールブロック層としてBCPを使用した場合、輝度の半減期(初
期輝度600−1200cd/m)が700時間以下であったのに対し、BAlqを
使用した場合、輝度の半減期(初期輝度570cd/m)が約4000時間まで飛躍的
に伸びることが報告されている。
【0017】
しかしながら、BCPを使用した素子に比べてBAlqを使用した素子では、逆に効率
がかなり低下してしまう。これは、BAlqはBCPに比べて、結晶化はしにくい(膜質
が安定)もののホールブロック性には劣るということを意味している。
【0018】
また、三重項発光素子において、様々なホールブロッキング性の材料を使用し、それぞ
れの素子における輝度の半減期を比較したデータが報告されている(非特許文献7参照)

【0019】
非特許文献7では、ホールブロック性が非常に高いTPBIを使用し、素子の発光効率
が非常に高い素子の輝度半減期は、BAlqを使用した素子の輝度半減期に比べ、桁違い
に低いことが示された。
【0020】
これらの報告のように、ホールブロック性の高い材料をホールブロック層に適用した素
子において、輝度半減期が長く、高信頼性が得られた、という報告は今までにない。この
原因としては、BCPの例でも挙げたように、ホールブロック層に使用される材料の結晶
化が激しいという点にある。つまり、薄膜状態の膜質の安定さに欠け、そのため高い信頼
性を得ることができない。
【0021】
以上のことから、ホールブロック性の高さと、かつ膜質の安定さを同時に併せ持つホー
ルブロック層が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】C.W.Tang and S.A.Vanslyke, ”Organic electroluminescent diodes”, Applied Physics Letters,Vol.51, No.12,913−915 (1987)
【非特許文献2】Chihaya ADACHI, Shozuo TOKITO, Tetsuo TSUTSUI and Shogo SAITO, ”Electroluminescence in Organic Films with Three−Layered Structure”, Japanese Journal of Applied Physics, Vol.27, No.2, L269−L271(1988)
【非特許文献3】Yasunori KIJIMA, Nobutoshi ASAI and Shin−ichiro TAMURA, ”A Blue organic Light Emitting Diode”, Japanese Journal of Applied Physics, Vol.38, 5274−5277 (1999)
【非特許文献4】M.A.Baldo, S.Lamansky, P.E.Burrows, M.E.Thompson and S.R.Forrest, ”Very high−efficiency green organic light−emitting devices based on electrophosphorescence”, Applied Physics Letters, Vol.75, No.1, 4−6 (1999)
【非特許文献5】Tetsuo TSUTSUI, Moon−Jae YANG, Masayuki YAHIRO, Kenji NAKAMURA, Teruichi WATANABE, Taishi TSUJI, Yoshinori FUKUDA, Takeo WAKIMOTO and Satoshi MIYAGUCHI, ”High Quantum Efficiency inorganic Light−Emitting Devices with Iridium−Complex as a Triplet Emissive Center”, Japanese Journal of Applied Physics, Vol.38, No.12B, L1502−L1504 (1999)
【非特許文献6】Teruichi WATANABE, Kenji NAKAMURA, Shin KAWAMI, Yoshinori FUKUDA, Taishi TUJI, Takeo WAKIMOTO and Satoshi MIYAHUCHI, ”Optimization of driving lifetime durability in organic LED devices using Ir complex ”, Proceeding SPIE, Vol.4105, 175 (2000)
【非特許文献7】Raymond C.KWONG, Matthew R.NUGENT, Lech MICHALSKI, Tan NGO, Kamala RAJAN, Yeh−Jiun TUNG, Michael S.WEAVER, Theodore X.ZHOU, Michael HACK, Mark E.THOMPSON, Stephen R.FORREST and Julie J.BROWN, ”High operational stability of electrophosphorescent devices”, Applied Physics Letters, Vol.81, No.1, 162−164 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
したがって本発明では、優れたホールブロック性を有する上に、膜質も良好であるホー
ルブロック層を提供することを課題とする。また、それを用いることにより、高効率で駆
動安定性の高い有機発光素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、従来の結晶化しやすいホールブロック材料を用いたホールブロック層であっ
ても、前記ホールブロック材料とは異なる材料を添加することによって、ホールブロック
性能を落とすことなく、ホールブロック層を適用した素子の信頼性を向上させるものであ
る。
【0025】
従って本発明では、少なくとも陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設けられ
た発光層と、前記発光層の陰極側に接して設けられたホールブロック層と、を有する有機
発光素子において、前記ホールブロック層は、前記発光層のイオン化ポテンシャルよりも
大きいイオン化ポテンシャルを有するホールブロック材料と、前記ホールブロック材料と
は異なる一種類、または複数種類の材料と、からなることを特徴とする。
【0026】
なお、本明細書でいう「有機発光素子」とは、電界を加えると発光が得られる有機化合
物を有する有機エレクトロルミネッセンス素子のことをいう。例えば、複数の有機化合物
のみからなるものでもよいし、少なくとも一種類以上の有機化合物と無機化合物とが混合
されたものでもよい。
【0027】
この場合、ホールブロック材料に添加する材料は、発光層に電子キャリヤを効率よく輸
送することを妨げてはならない。そのため、添加する材料は電子キャリヤを輸送できるn
型無機半導体やn型有機半導体であることが好ましい。
【0028】
したがって本発明では、少なくとも陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設け
られた発光層と、前記発光層の陰極側に接して設けられたホールブロック層と、を有する
有機発光素子において、前記ホールブロック層は、前記発光層のイオン化ポテンシャルよ
りも大きいイオン化ポテンシャルを有するホールブロック材料と、前記ホールブロック材
料とは異なるn型有機半導体と、からなることを特徴とする。
【0029】
または、少なくとも陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設けられた発光層と
、前記発光層の陰極側に接して設けられたホールブロック層と、を有する有機発光素子に
おいて、前記ホールブロック層は、前記発光層のイオン化ポテンシャルよりも大きいイオ
ン化ポテンシャルを有するホールブロック材料と、n型無機半導体と、からなることを特
徴とする。
【0030】
ここで、ホールブロック材料にn型有機半導体やn型無機半導体を添加した際に、ホー
ルブロック層のホールブロック性能を低下させ、素子の発光効率が低下することを防ぐた
めにも、ホールブロック材料に添加する材料を選択することも、重要な手段となる。
【0031】
そのため、n型有機半導体を添加する場合、添加するn型有機半導体が、前記発光層の
イオン化ポテンシャルよりも大きいイオン化ポテンシャルを有するか、または発光層のエ
ネルギーギャップ値よりも大きいエネルギーギャップ値を有することが好ましい。
【0032】
なお、本明細書において、エネルギーギャップ値とは、薄膜における吸収スペクトルの
吸収端のエネルギー値をさす。
【0033】
また、n型無機半導体を添加する場合は、前記n型無機半導体の価電子帯の上端が、前
記発光層のイオン化ポテンシャルよりも大きい値を示すか、または、前記n型無機半導体
のエネルギーギャップ値が、前記発光層のエネルギーギャップ値よりも大きいことが好ま
しい。
【0034】
従って本発明では、少なくとも陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設けられ
た発光層と、前記発光層の陰極側に接して設けられたホールブロック層と、を有する有機
発光素子において、前記ホールブロック層は、前記発光層よりも大きいイオン化ポテンシ
ャルを有するホールブロック材料と、前記発光層よりも大きいイオン化ポテンシャルを有
するn型有機半導体と、からなることを特徴とする。
【0035】
また、他の手段として、少なくとも陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設け
られた発光層と、前記発光層の陰極側に接して設けられたホールブロック層と、を有する
有機発光素子において、前記ホールブロック層は、前記発光層よりも大きいイオン化ポテ
ンシャルを有するホールブロック材料と、前記発光層のエネルギーギャップ値よりも大き
いエネルギーギャップ値を有するn型有機半導体と、からなることを特徴とする。
【0036】
また本発明では、少なくとも陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設けられた
発光層と、前記発光層の陰極側に接して設けられたホールブロック層と、を有する有機発
光素子において、前記ホールブロック層は、前記発光層よりも大きいイオン化ポテンシャ
ルを有するホールブロック材料と、価電子帯の上端が前記発光層のイオン化ポテンシャル
より大きい値を有するn型無機半導体と、からなることを特徴とする。
【0037】
また、他の手段として、少なくとも陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設け
られた発光層と、前記発光層の陰極側に接して設けられたホールブロック層と、を有する
有機発光素子において、前記ホールブロック層は、前記発光層よりも大きいイオン化ポテ
ンシャルを有するホールブロック材料と、前記発光層のエネルギーギャップ値よりも大き
いエネルギーバンドギャップの値を有するn型無機半導体と、からなることを特徴とする

【0038】
さらに他の手段として、少なくとも陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設け
られた発光層と、前記発光層の陰極側に接して設けられたホールブロック層と、を有する
有機発光素子において、前記ホールブロック層は、前記発光層よりも大きいイオン化ポテ
ンシャルを有するホールブロック材料と、前記ホールブロック材料とは異なるn型有機半
導体と、からなり、前記ホールブロック層のイオン化ポテンシャルの値が前記発光層のイ
オン化ポテンシャルの値よりも0.4eV以上大きいことを特徴とする。
【0039】
また、少なくとも陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設けられた発光層と、
前記発光層の陰極側に接して設けられたホールブロック層と、を有する有機発光素子にお
いて、前記ホールブロック層は、前記発光層よりも大きいイオン化ポテンシャルを有する
ホールブロック材料と、前記ホールブロック材料とは異なるn型有機半導体と、からなり
、前記ホールブロック層のイオン化ポテンシャルの値が5.8eV以上であることを特徴
とする。
【0040】
また本発明では、少なくとも陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設けられた
発光層と、前記発光層の陰極側に接して設けられたホールブロック層と、を有する有機発
光素子において、前記ホールブロック層は、前記発光層よりも大きいイオン化ポテンシャ
ルを有するホールブロック材料と、n型無機半導体と、からなり、前記ホールブロック層
のイオン化ポテンシャルの値が前記発光層のイオン化ポテンシャルの値よりも0.4eV
以上大きいことを特徴とする。
【0041】
また、他の手段として、少なくとも陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設け
られた発光層と、前記発光層の陰極側に接して設けられたホールブロック層と、を有する
有機発光素子において、前記ホールブロック層は、前記発光層よりも大きいイオン化ポテ
ンシャルを有するホールブロック材料と、n型無機半導体と、からなり、前記ホールブロ
ック層のイオン化ポテンシャルの値が5.8eV以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0042】
本発明を実施することで、優れたホールブロック性を有する上に、成膜性も良好である
ホールブロック層を提供することができるため、高効率で駆動安定性の高い有機発光素子
を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の基本的構成の一例を示す図である。
【図2】ホールブロック層に使用する材料のエネルギーポテンシャルの一例を示す図である。
【図3】ホールブロック層に使用する材料のエネルギーダイヤグラムの一例を示す図である。
【図4】実施例1の初期特性を示す図である。
【図5】比較例1の初期特性を示す図である。
【図6】実施例2、比較例2の信頼性特性を示す図である。
【図7】発光装置を説明する図の一例である。
【図8】電気器具の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下では、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、有機発光素子は、発光を
取り出すために少なくとも陽極、または陰極の一方が透明であればよいが、本実施例の形
態では、基板上に透明な陽極を形成し、陽極側から光を取り出す素子構造を記述する。実
際は陰極を基板上に形成して陰極側から光を取り出す構造や、基板とは逆側から光を取り
出す構造、電極の両側から光を取り出す構造にも適用可能である。
【0045】
本発明では、ホールブロック層を適用した素子において、素子のホールブロック層がホ
ールブロック材料と、それ以外の材料からなることを特徴としている。
【0046】
信頼性の高い有機発光素子を構想する上で、必要不可欠なものとなるものは、素子に使
用する材料の安定なアモルファス薄膜形態である。有機発光素子における有機層はアモル
ファス薄膜から成り、その薄膜の厚みはわずかに数十nm、各層の合計でも100nm程
度である。駆動時には、これに10V近い電圧が印加されるため、高電界に耐えて安定し
た素子特性を発現させるためには、ピンホールのない均一で緻密なアモルファス薄膜形態
が要求される。
【0047】
この均一で緻密なアモルファス薄膜を保たせることが有機発光素子の信頼性向上につな
がり、これは如何にアモルファス薄膜の凝集・結晶化を抑えることができるかという課題
となる。
【0048】
アモルファス薄膜の凝集・結晶化の激しい材料として、ガラス転移が低くかつ分子間の
相互作用が強い材料が挙げられる。これらの材料を薄膜にした場合、無秩序に並んだアモ
ルファス状態から、秩序のある結晶状態へと分子の並び替えが起こりやすく、そのため膜
中に部分的に結晶が形成されてしまう。そしてこの結晶部分へ集中的に電流が流れ込み、
素子の破壊へとつながる。
【0049】
薄膜の凝集・結晶化を抑えるためには、結晶化しづらい材料を使用する、ということが
一番の解決方法ではあるが、それでは材料の優れた特性を生かすことができない場合もあ
る。例えば、電子輸送性には大変優れているものの、薄膜の結晶化が激しい材料、という
ものは多く存在し、これらの材料は現在、有機発光素子に適用しづらい材料として素子へ
の適用は避けられている。
【0050】
ここでドーピング技術による信頼性の向上、という点に着目する。従来有機発光素子に
おいて、発光層への色素ドープ技術による素子の信頼性向上が報告されている。適用する
ドーパント分子によって信頼性向上の要因は様々であるが、共通要因としては薄膜形状の
均一化・非晶質化が挙げられる。Alq薄膜のモルフォロジーがルブレンをドープする
ことにより、よりスムーズな膜になることが観測されており、膜質の向上によってその上
に積層される陰極とのコンタクトが改善、それが素子の信頼性向上につながる、と報告さ
れている。
【0051】
このように、単一分子で構成された薄膜に異なった材料をドーピングすることで、薄膜
の膜質向上が図れる。この技術は、発光層だけでなく他の層に適用することも可能であり
、今まで有機発光素子に適用されなかった結晶化の激しい材料であっても、素子に使用す
ることが可能になると考えられる。
【0052】
そこで、本発明の素子構造では、このドーピング技術による膜質形状の均一化・非晶質
化をホールブロッキング層に応用することで、キャリヤ輸送性、ホールブロック性、とい
った優れた物性を持つにもかかわらず結晶化の激しいホールブロック材料を使用した際で
も、素子の信頼性の向上を図ることができる。
【0053】
このとき、ホールブロック材料に添加するドーピング材料を選択する必要がある。
【0054】
まず、ホールブロック層は、隣接する発光層に効率よく電子キャリヤを輸送する必要が
ある。すなわち、ホールブロック層は電子輸送性を有してなくてはならない。このため、
本発明の素子のように、ホールブロック材料に他の材料を添加したホールブロック層であ
っても、電子輸送性を必要とする。元来、ホールブロック材料単体のホールブロック層に
おいては、ホールブロック材料自身、電子輸送性を有する材料であるため電子キャリヤを
輸送できる。これに他の材料を添加する事で、この本来の電子輸送性を低下させてはなら
ない。
【0055】
このため、ホールブロック層に添加する材料は、電子キャリヤを輸送する能力を有した
、n型有機半導体、もしくはn型無機半導体であることが好ましい。
【0056】
ところで、ホールブロック層本来の機能は、ホールを発光層内に閉じ込める効果を狙う
ものである。この効果の大きさは、発光層のイオン化ポテンシャルとホールブロック層の
イオン化ポテンシャルとの差の大小によって決定される。
【0057】
そこで、本発明で適用されるホールブロック層においても、ホールを十分にブロックし
、発光層内にホールキャリヤを閉じ込めることができる程大きいイオン化ポテンシャルを
有することが望まれる。
【0058】
そのためには、ホールブロック材料に添加する材料自身のホールブロック性能を考慮す
る必要がある。このため、ホールブロック材料に添加する材料は、例えば、添加する材料
がn型有機半導体であれば、ホールブロック材料同様、発光層よりも大きいイオン化ポテ
ンシャルを有する材料が好ましく、また、添加する材料がn型無機半導体であれば、その
n型無機半導体の価電子帯の上端の値が、発光層のイオン化ポテンシャルの値より大きい
ことが好ましい。
【0059】
第2図は、本発明の素子に使用する、材料のポテンシャルエネルギーの位置状態を記し
た図である。(a)はn型有機半導体を添加した場合、(b)はn型無機半導体を添加し
た場合の図である。この図のようなエネルギーの位置関係になるように、添加する材料を
選択すればよい。つまり、n型有機半導体を添加した(a)の場合、Ip<Ip<I
、またはIp<Ip<Ipとなるように、そしてn型無機半導体を添加した(
b)の場合は、Ip<Ip<Ev、またはIp<Ev<Ipとなるように添
加する材料を選択すればよい。なお、上記のIpは発光層のイオン化ポテンシャル、I
はホールブロック材料のイオン化ポテンシャル、Ipは添加するn型有機半導体の
イオン化ポテンシャル、Evは添加するn型無機半導体のイオン化ポテンシャル(すな
わち、ここでは価電子帯の上端の値と真空準位とのエネルギー差に相当する。)を表して
いる。
【0060】
このような条件で選択したn型有機半導体やn型無機半導体が添加されたホールブロッ
ク層のイオン化ポテンシャルは、ホールをブロックするのに十分な大きさを持つことが可
能となる。なお、ホールを十分にブロックするために、発光層のイオン化ポテンシャルと
、このホールブロック層のイオン化ポテンシャルとの差は0.4eV以上であることが好
ましい。
【0061】
ところで、ホールブロック層のイオン化ポテンシャルが大きければ、確かにホールをブ
ロックし、発光層でのキャリヤの再結合を行わせることは可能となるが、このキャリヤの
再結合による励起子が発光層からホールブロック層へ移動してしまうことを避けなければ
ならない。つまり、ホールブロック層は励起子を発光層内に閉じ込める効果も有していな
くてはならない。
【0062】
このためには、ホールブロック層の、エネルギーギャップの値が、発光層のエネルギー
ギャップの値よりも大きいことが好ましい。
【0063】
そこで、本発明の素子において、ホールブロック材料に添加する材料は、例えば、添加
する材料がn型有機半導体であれば、発光層のエネルギーギャップ値よりも大きいエネル
ギーギャップ値を有する材料が好ましく、また、添加する材料がn型無機半導体であれば
、そのn型無機半導体のエネルギーギャップの値が発光層のエネルギーギャップ値より大
きいことが望まれる。
【0064】
第3図は、本発明の素子に使用する材料の、エネルギーダイヤグラムを記した図である
。(a)はn型有機半導体を添加した場合、(b)はn型無機半導体を添加した場合を示
している。この図のエネルギーダイヤグラムになるように添加する材料を選択すればよい
。すなわち、発光層、ホールブロック材料、添加するn型有機半導体の、各々の最高被占
分子軌道準位(HOMO準位)と最低空分子軌道準位(LUMO準位)とのエネルギーギ
ャップの値を、それぞれA、B、Cと表すとすると、エネルギーギャップ値A、B、C
の大小関係が、A<B<C、またはA<C<Bとなるように添加する材料を選択す
ればよい。また、添加するn型無機半導体の価電子帯の上端の値と伝導帯の底の値とのエ
ネルギーギャップ(バンドギャップともいう。)の値をCiと表すとすると、エネルギー
ギャップ値A、B、Ciの大小関係が、A<B<Ci、またはA<Ci<Bとなるように
添加する材料を選択すればよい。なお、上述した各エネルギーギャップ値は、吸収スペク
トルの吸収端のエネルギーの値に相当する。
【0065】
このような条件で選択したn型有機半導体やn型無機半導体が添加されたホールブロッ
ク層は、発光層に励起子を閉じ込める効果を十分に発揮する。また、励起子を発光層に閉
じ込めるためには、このホールブロック層のエネルギーギャップ値は5.8eV以上であ
ることが好ましい。
【0066】
次に、本発明の素子構造、素子の作製方法、及び用いる材料について、より具体的に例
示する。
【0067】
第1図は、本発明の基本的な素子構造の一例を示したものであり、基板101の上に陽
極102、その上に正孔注入材料からなる正孔注入層103、正孔輸送材料からなる正孔
輸送層104、発光層105、ホールブロック材料とそれとは異なる材料からなるホール
ブロック層106、電子輸送材料からなる電子輸送層107、電子注入材料からなる電子
注入層108、そして陰極109を積層させた素子構造である。ここで、発光層105は
、一種類の発光材料のみから形成されることもあるが、2種類以上の材料から形成されて
もよい。また、本発明の素子の構造は、この構造に限定されるものではない。
【0068】
このように、素子構造としては、一般的に利用されているホールブロック層を適用した
有機発光素子において利用できる。また、第1図で示した各機能層を積層した積層構造の
他、高分子化合物を用いた素子、文献4で述べられているような発光層に三重項励起状態
から発光する三重項発光材料を利用した高効率素子など、バリエーションは多岐にわたる
。ホールブロック層によってキャリヤの再結合領域を制御し、発光領域を二つの領域にわ
けることによって得られる白色発光素子などにも応用可能である。
【0069】
第1図に示す本発明の素子作製方法は、まず、陽極102(ITO)を有する基板10
1に正孔注入材料、正孔輸送材料、発光材料を順に蒸着し、次にホールブロック材料とそ
れとは異なった一種類、または複数種類の材料を共蒸着する。次に電子輸送材料、電子注
入材料を蒸着し、最後に陰極109を蒸着で形成する。ホールブロック材料と添加する材
料を共蒸着する際の濃度比は、形成されたホールブロック層106が上記で記した条件を
満たしていれば、ホールブロック材料と添加する材料の濃度比が反転しても構わない。最
後に封止を行い、本発明の有機発光素子を得る。
【0070】
次に、正孔注入材料、正孔輸送材料、電子輸送材料、電子注入材料、発光材料、ホール
ブロック材料、ホールブロック材料に添加する材料、陰極の材料に公的な材料を以下に列
挙する。
【0071】
正孔注入材料としては、有機化合物でればポルフィリン系の化合物や、フタロシアニン
(以下「HPc」と記す)、銅フタロシアニン(以下「CuPc」と記す)などが有効
である。また、使用する正孔輸送材料よりもイオン化ポテンシャルの値が小さく、かつ、
正孔輸送機能をもつ材料であれば、これも正孔注入材料として使用できる。導電性高分子
化合物に化学ドーピングを施した材料もあり、ポリスチレンスルホン酸(以下「PSS」
と記す)をドープしたポリエチレンジオキシチオフェン(以下「PEDOT」と記す)や
、ポリアニリンなどが挙げられる。また、絶縁体の高分子化合物も陽極の平坦化の点で有
効であり、ポリイミド(以下「PI」と記す)がよく用いられる。さらに、無機化合物も
用いられ、金や白金などの金属薄膜の他、酸化アルミニウム(以下「アルミナ」と記す)
の超薄膜などがある。
【0072】
正孔輸送材料として最も広く用いられているのは、芳香族アミン系(すなわち、ベンゼ
ン環−窒素の結合を有するもの)の化合物である。広く用いられている材料として、4,
4’−ビス(ジフェニルアミノ)−ビフェニル(以下、「TAD」と記す)や、その誘導
体である4,4’−ビス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニル−アミノ]−ビフ
ェニル(以下、「TPD」と記す)、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェ
ニル−アミノ]−ビフェニル(以下、「α−NPD」と記す)がある。4,4’,4”−
トリス(N,N−ジフェニル−アミノ)−トリフェニルアミン(以下、「TDATA」と
記す)、4,4’,4”−トリス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニル−アミノ
]−トリフェニルアミン(以下、「MTDATA」と記す)などのスターバースト型芳香
族アミン化合物が挙げられる。
【0073】
電子輸送材料としては、金属錯体がよく用いられ、先に述べたAlq、BAlq、トリ
ス(4−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(以下、「Almq」と記す)、ビス
(10−ヒドロキシベンゾ[h]−キノリナト)ベリリウム(以下、「BeBq」と記す
)などのキノリン骨格またはベンゾキノリン骨格を有する金属錯体などがある。また、ビ
ス[2−(2−ヒドロキシフェニル)−ベンゾオキサゾラト]亜鉛(以下、「Zn(BO
X)」と記す)、ビス[2−(2−ヒドロキシフェニル)−ベンゾチアゾラト]亜鉛(
以下、「Zn(BTZ)」と記す)などのオキサゾール系、チアゾール系配位子を有す
る金属錯体もある。さらに、金属錯体以外にも、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−
tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(以下、「PBD」と記す
)、OXD−7などのオキサジアゾール誘導体、TAZ、3−(4−tert−ブチルフ
ェニル)−4−(4−エチルフェニル)−5−(4−ビフェニリル)−1,2,4−トリ
アゾール(以下、「p−EtTAZ」と記す)などのトリアゾール誘導体、バソフェナン
トロリン(以下、「BPhen」と記す)、BCPなどのフェナントロリン誘導体が電子
輸送性を有する。
【0074】
電子注入材料としては、上で述べた電子輸送材料を用いることができる。その他に、フ
ッ化カルシウム、フッ化リチウム、フッ化セシウムなどの金属ハロゲン化物や、酸化リチ
ウムなどのアルカリ金属酸化物のような絶縁体の、超薄膜がよく用いられる。また、リチ
ウムアセチルアセトネート(以下、「Li(acac)」と記す)や8−キノリノラト−
リチウム(以下、「Liq」と記す)などのアルカリ金属錯体も有効である。
【0075】
発光材料としては、先に述べたAlq、Almq、BeBq、BAlq、Zn(BOX
、Zn(BTZ)などの金属錯体の他、各種蛍光色素が有効である。蛍光色素とし
ては、青色の4,4’−ビス(2,2−ジフェニル−ビニル)−ビフェニルや、赤橙色の
4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−
ピランなどがある。また、三重項発光材料も可能であり、白金ないしはイリジウムを中心
金属とする錯体が主体である。三重項発光材料として、トリス(2−フェニルピリジン)
イリジウム、ビス(2−(4’−トリル)ピリジナト−N,C2’)アセチルアセトナト
イリジウム(以下「acacIr(tpy)」と記す)、 2,3,7,8,12,1
3,17,18−オクタエチル−21H,23Hポルフィリン−白金などが知られている

【0076】
ホールブロック材料としては、上で述べたBAlq、OXD−7、TAZ、p−EtT
AZ、BPhen、BCPなどが、イオン化ポテンシャルが大きいため有効である。
【0077】
ホールブロック材料に添加する材料は、n型有機半導体としては、上で述べた電子輸送
材料が当てはまる。n型無機半導体としては、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化錫、酸化インジ
ウムなどが挙げられる。
【0078】
以上で述べたような各機能を有する材料を、各々組み合わせ、本発明の有機発光素子に
適用することにより、ホールブロック層を適用した素子においても、高信頼性の有機発光
素子を作製することができる。
【実施例1】
【0079】
本実施例では、第1図に示す本発明の有機発光素子を具体的に例示する。
【0080】
まず、陽極102であるITOが100nm程度成膜されたガラス基板101に、正孔
注入材料であるCuPcを20nm蒸着し正孔注入層103とする。その後、正孔輸送材
料であるα−NPDを30nm蒸着し、正孔輸送層104とする。
【0081】
正孔輸送層が作製された後、三重項発光材料であるIr(tpy)acacとホスト
材料である4,4’−N,N’−ジカルバゾール−ビフェニル(以下「CBP」と記す)
をおよそ2:23の比率(重量比)になるように共蒸着を行う。つまりCBPに約8wt
%の濃度でIr(tpy)acacが分散されていることになる。この共蒸着膜を30
nm成膜する。これが発光層105である。
【0082】
発光層を形成した後、ホールブロック材料であるBCPとn型有機半導体であるPBD
を93:7の比率(重量比)になるように共蒸着を行う。つまり、BCPに約7.0wt
%の濃度でPBDが分散されていることになる。この共蒸着膜を20nm成膜する。これ
がホールブロック層106である。
【0083】
次に、電子輸送材料Alqを電子輸送層107として20nm成膜し、電子注入層10
8として、フッ化カルシウム(略称:CaF)を2nm蒸着、最後に陰極109としてA
lを150nm成膜する。これにより、本発明の有機発光素子が得られる。
【0084】
第4図はこの素子における初期特性のグラフを示す。
【0085】
(比較例1)
本比較例は実施例1の比較例である。従来のホールブロック層を適用した有機発光素子
を作製し、その際の特性を本発明の素子と比較した。
【0086】
まず、陽極102であるITOが100nm程度成膜されたガラス基板101に、正孔
注入材料であるCuPcを20nm蒸着し正孔注入層103とする。その後、正孔輸送材
料であるα−NPDを30nm蒸着し、正孔輸送層104とする。
【0087】
正孔輸送層が作製された後、三重項発光材料であるIr(tpy)acacとホスト
材料であるCBPをおよそ2:23の比率(重量比)になるように共蒸着を行う。つまり
CBPに約8wt%の濃度でIr(tpy)acacが分散されていることになる。こ
の共蒸着膜を30nm成膜する。これが発光層105である。
【0088】
その後、ホールブロック材料であるBCPのみを20nm成膜する。これがホールブロ
ック層106である。
【0089】
次に、電子輸送材料Alqを電子輸送層107として20nm成膜し、電子注入層10
8として、フッ化カルシウム(略称:CaF)を2nm蒸着、最後に陰極109としてA
lを150nm成膜する。
【0090】
第5図はこの素子における初期特性のグラフを示す。
【0091】
第4図と第5図を比較してみると、実施例1、比較例1の素子は、共に1000cd/
時の駆動電圧は約8V、電流効率は約25cd/Aであり、ほぼ同様の初期特性を示
した。したがって、実施例1の本発明の素子は、従来のホールブロック層BCPに、n型
有機半導体であるPBDを添加しているにもかかわらず、ホールブロック性などの特性は
全く悪化していないことがわかる。
【実施例2】
【0092】
次に、実施例1とは異なった材料、素子構造の本発明の有機発光素子を作製した。
【0093】
まず、陽極102であるITOが100nm程度成膜されたガラス基板101に、正孔
注入材料であるCuPcを20nm蒸着し正孔注入層103とする。その後、正孔輸送材
料であるα−NPDを30nm蒸着し、正孔輸送層104とする。次に、電子輸送性発光
材料であるトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(略称:Alq)を50nm蒸着し
、発光層105とする。
【0094】
その後、ホールブロック材料であるBCPとn型有機半導体であるPBDを49:1の
比率(重量比)になるように共蒸着を行う。つまり、BCPに約2wt %の濃度でPB
Dが分散されていることになる。この共蒸着膜を20nm成膜する。これがホールブロッ
ク層106である。この場合、このホールブロック層106は電子輸送機能ももちあわせ
ているため、電子輸送層107も兼ねている。
【0095】
次に電子注入層108として、フッ化カルシウム(略称:CaF)を2nm蒸着し、最
後に陰極109としてAlを150nm成膜する。これにより、本発明の有機発光素子が
得られる。
【0096】
(比較例2)
本比較例は実施例2の比較例である。従来のホールブロック層を適用した有機発光素子
を作製し、その際の特性を実施例2の有機発光素子の特性と比較した。
【0097】
まず、陽極102であるITOが100nm程度成膜されたガラス基板101に、正孔
注入材料であるCuPcを20nm蒸着し正孔注入層103とする。その後、正孔輸送材
料であるα−NPDを30nm蒸着し、正孔輸送層104とする。次に、電子輸送性発光
材料であるAlqを50nm蒸着し、発光層105とする。
【0098】
その後、ホールブロック材料であるBCPのみを20nm成膜する。これがホールブロ
ック層106兼電子輸送層107である。
【0099】
次に電子注入層108として、フッ化カルシウム(略称:CaF)を2nm蒸着し、最
後に陰極109としてAlを150 nm成膜する。
【0100】
実施例2、比較例2の素子は、共に1000cd/m時の駆動電圧は約10V、電流
効率は約4.4cd/Aであり、ほぼ同様の初期特性を示した。したがって、実施例2の
本発明の素子は、従来のホールブロック層BCPに、n型有機半導体であるPBDを添加
しているにもかかわらず、ホールブロック性などの特性は全く悪化していない。
【0101】
次に、実施例2の素子の信頼性試験結果を第6図の (a) に、比較例2の素子の試
験結果を第6図の(b)に示す。いずれの素子も初期輝度は約1000cd/mに設定
し、直流定電流を流し続け、駆動電圧の上昇及び輝度の低下をモニターした。
【0102】
第6図に示す通り、比較例2の素子は駆動直後から駆動電圧が大きく上昇していくと同
時に輝度も劣化していき、約12時間で初期輝度の70%まで低下した。また、約15時
間経過後に急激に駆動電圧が上昇し、素子は突然破壊を迎えた。一方、実施例2の素子は
比較例2の素子に比べると駆動電圧の上昇・輝度の低下共にゆるやかであり、初期輝度の
70%まで低下したのは約50時間後であった。これは、比較例2の素子の4倍以上であ
る。また、100時間経過しても素子が突然破壊されるような現象は見られなかった。
【実施例3】
【0103】
本実施例では、画素部に本発明の有機発光素子を有する発光装置について、第7図を用
いて説明する。なお、第7図(A)は、発光装置を示す上面図、第7図(B)は第7図(
A)をA−A’で切断した断面図である。点線で示された701は駆動回路部(ソース側
駆動回路)、702は画素部、703は駆動回路部(ゲート側駆動回路)である。また、
704は封止基板、705はシール剤であり、シール剤705で囲まれた内側707は、
空間になっている。
【0104】
なお、708はソース側駆動回路701及びゲート側駆動回路703に入力される信号
を伝送するための配線であり、外部入力端子となるFPC(フレキシブルプリントサーキ
ット)709からビデオ信号、クロック信号、スタート信号、リセット信号等を受け取る
。なお、ここではFPCしか図示されていないが、このFPCにはプリント配線基盤(P
WB)が取り付けられていても良い。本明細書における発光装置には、発光装置本体だけ
でなく、FPCもしくはPWBが取り付けられた状態をも含むものとする。
【0105】
次に、断面構造について第7図(B)を用いて説明する。基板410上には駆動回路部
及び画素部が形成されているが、ここでは、駆動回路部であるソース側駆動回路701と
、画素部702が示されている。
【0106】
なお、ソース側駆動回路701はnチャネル型TFT723とpチャネル型TFT72
4とを組み合わせたCMOS回路が形成される。また、駆動回路を形成するTFTは、公
知のCMOS回路、PMOS回路もしくはNMOS回路で形成しても良い。また、本実施
の形態では、基板上に駆動回路を形成したドライバー一体型を示すが、必ずしもその必要
はなく、基板上ではなく外部に形成することもできる。
【0107】
また、画素部702はスイッチング用TFT711と、電流制御用TFT712とその
ドレインに電気的に接続された第1の電極713とを含む複数の画素により形成される。
なお、第1の電極713の端部を覆って絶縁物714が形成されている。ここでは、ポジ
型の感光性アクリル樹脂膜を用いることにより形成する。
【0108】
また、カバレッジを良好なものとするため、絶縁物714の上端部または下端部に曲率
を有する曲面が形成されるようにする。例えば、絶縁物714の材料としてポジ型の感光
性アクリルを用いた場合、絶縁物714の上端部のみに曲率半径(0.2μm〜3μm)
を有する曲面を持たせることが好ましい。また、絶縁物714として、感光性の光によっ
てエッチャントに不溶解性となるネガ型、或いは光によってエッチャントに溶解性となる
ポジ型のいずれも使用することができる。
【0109】
第1の電極713上には、電界発光膜716、及び第2の電極717がそれぞれ形成さ
れている。ここで、陽極として機能する第1の電極713に用いる材料としては、仕事関
数の大きい材料を用いることが望ましい。例えば、ITO(インジウムスズ酸化物)膜、
インジウム亜鉛酸化物(IZO)膜、窒化チタン膜、クロム膜、タングステン膜、Zn膜
、Pt膜などの単層膜の他、窒化チタンとアルミニウムを主成分とする膜との積層、窒化
チタン膜とアルミニウムを主成分とする膜と窒化チタン膜との3層構造等を用いることが
できる。なお、積層構造とすると、配線としての抵抗も低く、良好なオーミックコンタク
トがとれ、さらに陽極として機能させることができる。
【0110】
また、電界発光膜716は、蒸着マスクを用いた蒸着法、またはインクジェット法によ
って形成される。電界発光膜716には、燐光性化合物をその一部に用いることとし、そ
の他、組み合わせて用いることのできる材料として、低分子系材料であってもよいし、高
分子系材料であってもよい。また、電界発光膜に用いる材料としては、通常、有機化合物
を単層もしくは積層で用いる場合が多いが、本発明においては、有機化合物からなる膜の
一部に無機化合物を用いる構成も含めることとする。
【0111】
さらに、電界発光膜716上に形成される第2の電極(陰極)717に用いる材料とし
ては、仕事関数の小さい材料(Al、Ag、Li、Ca、またはこれらの合金MgAg、
MgIn、AlLi、CaF、またはCaN)を用いればよい。なお、電界発光膜71
6で生じた光が第2の電極717を透過させる場合には、第2の電極(陰極)717とし
て、膜厚を薄くした金属薄膜と、透明導電膜(ITO(酸化インジウム酸化スズ合金)、
酸化インジウム酸化亜鉛合金(In−ZnO)、酸化亜鉛(ZnO)等)との積層
を用いるのが良い。
【0112】
さらにシール剤705で封止基板704を素子基板710と貼り合わせることにより、
素子基板701、封止基板704、及びシール剤705で囲まれた空間707に有機発光
素子718が備えられた構造になっている。なお、空間707には、不活性気体(窒素や
アルゴン等)が充填される場合の他、シール剤705で充填される構成も含むものとする

【0113】
なお、シール剤705にはエポキシ系樹脂を用いるのが好ましい。また、これらの材料
はできるだけ水分や酸素を透過しない材料であることが望ましい。また、封止基板704
に用いる材料としてガラス基板や石英基板の他、FRP(Fiberglass−Rei
nforced Plastics)、PVF(ポリビニルフロライド)、マイラー、ポ
リエステルまたはアクリル等からなるプラスチック基板を用いることができる。
【0114】
以上のようにして、本発明の有機発光素子を有する発光装置を得ることができる。
【実施例4】
【0115】
本実施例では、本発明の有機発光素子を有する発光装置を用いて完成させた様々な電気
器具について説明する。
【0116】
本発明の有機発光素子を有する発光装置を用いて作製された電気器具として、ビデオカ
メラ、デジタルカメラ、ゴーグル型ディスプレイ(ヘッドマウントディスプレイ)、ナビ
ゲーションシステム、音響再生装置(カーオーディオ、オーディオコンポ等)、ノート型
パーソナルコンピュータ、ゲーム機器、携帯情報端末(モバイルコンピュータ、携帯電話
、携帯型ゲーム機または電子書籍等)、記録媒体を備えた画像再生装置(具体的にはデジ
タルビデオディスク(DVD)等の記録媒体を再生し、その画像を表示しうる表示装置を
備えた装置)などが挙げられる。これらの電気器具の具体例を第8図に示す。
【0117】
第8図(A)は表示装置であり、筐体8101、支持台8102、表示部8103、ス
ピーカー部8104、ビデオ入力端子8105等を含む。本発明の有機発光素子を有する
発光装置をその表示部8103に用いることにより作製される。なお、表示装置は、パソ
コン用、TV放送受信用、広告表示用などの全ての情報表示用装置が含まれる。
【0118】
第8図(B)はノート型パーソナルコンピュータであり、本体8201、筐体8202
、表示部8203、キーボード8204、外部接続ポート8205、ポインティングマウ
ス8206等を含む。本発明の有機発光素子を有する発光装置をその表示部8203に用
いることにより作製される。
【0119】
第8図(C)はモバイルコンピュータであり、本体8301、表示部8302、スイッ
チ8303、操作キー8304、赤外線ポート8305等を含む。本発明の有機発光素子
を有する発光装置をその表示部8302に用いることにより作製される。
【0120】
第8図(D)は記録媒体を備えた携帯型の画像再生装置(具体的にはDVD再生装置)
であり、本体8401、筐体8402、表示部A8403、表示部B8404、記録媒体
(DVD等)読み込み部8405、操作キー8406、スピーカー部8407等を含む。
表示部A8403は主として画像情報を表示し、表示部B8404は主として文字情報を
表示するが、本発明の有機発光素子を有する発光装置をこれら表示部A8403、表示部
B8404に用いることにより作製される。なお、記録媒体を備えた画像再生装置には家
庭用ゲーム機器なども含まれる。
【0121】
第8図(E)はゴーグル型ディスプレイ(ヘッドマウントディスプレイ)であり、本体
8501、表示部8502、アーム部8503を含む。本発明の有機発光素子を有する発
光装置をその表示部8502に用いることにより作製される。
【0122】
第8図(F)はビデオカメラであり、本体8601、表示部8602、筐体8603、
外部接続ポート8604、リモコン受信部8605、受像部8606、バッテリー860
7、音声入力部8608、操作キー8609、接眼部8610等を含む。本発明の有機発
光素子を有する発光装置をその表示部8602に用いることにより作製される。
【0123】
ここで、第8図(G)は携帯電話であり、本体8701、筐体8702、表示部870
3、音声入力部8704、音声出力部8705、操作キー8706、外部接続ポート87
07、アンテナ8708等を含む。本発明の有機発光素子を有する発光装置をその表示部
8703に用いることにより作製される。なお、表示部8703は黒色の背景に白色の文
字を表示することで携帯電話の消費電力を抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
以上のように、本発明の有機発光素子を有する発光装置の適用範囲は極めて広く、この
発光装置をあらゆる分野の電気器具に適用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に設けられた発光層と、前記発光層の陰極側に接して設けられたホールブロック層と、を有し、
前記ホールブロック層は、前記発光層を構成する材料のうち最もイオン化ポテンシャルが大きい材料のイオン化ポテンシャルより大きいイオン化ポテンシャルを有するホールブロック材料と、前記ホールブロック材料とは異なる材料と、を含み、
前記ホールブロック材料とは異なる前記材料の最高被占分子軌道準位と最低空分子軌道準位とのエネルギーギャップの値が、前記発光層を構成する材料のうち最も最高被占分子軌道準位と最低空分子軌道準位とのエネルギーギャップの値が大きい材料のエネルギーギャップの値よりも大きいことを特徴とする発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−55351(P2013−55351A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−249167(P2012−249167)
【出願日】平成24年11月13日(2012.11.13)
【分割の表示】特願2010−99451(P2010−99451)の分割
【原出願日】平成15年12月15日(2003.12.15)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】