説明

発光計測装置及び微生物計数装置

【課題】発光計測において、高感度かつ高精度で、測定試料に由来する発光量とその他の外来光量を識別し、高い精度で試料の発光を計測する装置及びシステムを提供する。
【解決手段】試料を収める容器5の下部から発光を検出する光検出器10と、光学フィルタ15〜18と、光検出器10と容器5の間に光学フィルタ15〜18を挿入可能な光学フィルタホルダ13と、光学フィルタホルダ13を移動させる光学フィルタホルダ位置制御部14を有する発光計測装置1を用意し、試料を収める容器5から発せられる光の全波長領域の光測定と、特定の波長のみに限定する分光測定を、同一装置で、同一試料を用いて連続的に実施し、全波長領域の光強度と分光強度の比から、測定対象の量と物質種の同定を実施する。さらに、光測定又は分光測定時にpH変化剤を添加し、pHに依存した強度変化比を解析することで、汚染物質の同定を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に含まれる物質の化学発光や生物発光を高い感度と高い精度で検出するための発光計測装置に関する。また本発明は、生きている菌体のATPを発光検出することに基づく微生物計数装置に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子工学、組織工学及び基礎医学の発達に伴い、生体組織や培養した細胞を利用した臓器の再生や再構築を可能とする細胞医療・再生医療が発展しつつある。それに伴い、最終製品に細胞を含む生物製剤の研究開発が進み、医薬品分野での無菌性保障の重要性が著しく高まっている。食品分野においても、Hazard Analysis Critical Control Point(HACCP)システムの施行や、近年の相次ぐ事故報道を受けて消費者の安心・安全意識が高まり、調理場や製造ラインの無菌化を重要視する食品工場が増加している。
【0003】
バイオクリーンルームでは、室内環境の微生物汚染状況の把握、すなわち、空気中に浮遊している微生物(浮遊微生物)数と施設内設備の表面に堆積した微生物(付着微生物)数のモニタが重要である。
【0004】
浮遊微生物モニタにおいては、エアーサンプラーを用い、寒天培地の固体表面に空気を衝突させて微生物を捕集する(衝突法)。捕集した微生物を数日間培養し、寒天培地上に形成されたコロニーをカウントする培養法で汚染度を評価する。付着微生物数も、浮遊微生物の評価と同様の培養法を用いコロニーカウントにより評価するが、採取法が異なり、綿棒やガーゼで調査箇所を拭き取って集めて懸濁液とした後、寒天培地に接種する方法、又は、寒天培地を調査箇所である固体表面に直接密着させて汚染箇所を写し取る方法、などを用いる。ここで、評価対象となる浮遊・付着微生物とは、大腸菌、ブドウ球菌、枯草菌などの細菌、カビや酵母などの真菌(以下、細菌、真菌をまとめて菌と略す)である。
【0005】
医薬品製造施設では薬局方で定められたバイオクリーンルーム室内環境の清浄度管理基準があり、空気1m3あたり、安全キャビネット内で1菌(CFU:Colony-Forming Unit)未満、その周辺区域で10 CFU未満に保つことが要求される。ここで、CFUとは生きている菌(生菌)の数を表す単位である。付着菌の清浄度管理については、回収率、再現性など検査技術に問題点が多いため、自主規制によるところが多く、公的な規範等は未整備である。また、医薬品製造施設内の無菌水(製薬用水)にも薬局方で定められた清浄度管理基準があり、注射用水準水では10 CFU/100 mL未満で運営する必要があり、検査には培養法が用いられる。
【0006】
先に述べたように、培養法が微生物計数法の主流であり、薬局方記載の方法である。しかし、培養法では、寒天培地を恒温機中にて2〜3日間、菌体の種類によっては10日間以上培養して発生コロニー数を目視で数えるため、結果を得るのに時間がかかる。
【0007】
このような背景から、汚染モニタの迅速測定法の開発が望まれており、生菌が増殖する際の代謝活性を検出する方法、菌体内のタンパク質を利用し光として検出する方法、等がある。
【0008】
代謝活性を検出する技術には、インピーダンス(Impedance)法、呈色法、酸素電極法などがあり、菌増殖過程における培地成分の変化や菌の呼吸酸素量を測定する。そのため、短時間ではあるが培養が必要であり、結果を得るには半日から1日程度を要する。また、検出感度は10 CFU程度であり、薬局方で定められた清浄度管理レベルでの適用には、感度が十分ではない。
【0009】
一方、菌体内のタンパク質を利用して光検出する蛍光染色、蛍光散乱を利用した方法(蛍光法)やAdenosine triphosphate(ATP)生物発光法(ATP法)は、培養工程が不要なため、試料調製にかかる時間を含めても、1時間以内で結果が得られる。微生物汚染状況が1時間以内に把握できるようになれば、製造の作業シフト間にも、ラインや製品(中間体も含む)のチェックと対策が図れ、安全管理体制と出荷体制が著しく向上すると期待される。
【0010】
蛍光染色法では、蛍光物質を有する染色剤で細胞膜や核などを染め、蛍光顕微鏡を用いてその輝点を数える(特許文献1参照)。菌1個1個を可視化でき、生菌と死菌の判別も可能である。原理的には、環境中で生きているが培養できない状態(Viable but Nonculturable:VBNC)の菌体も検出できるため、培養法よりも個数に関しての確度が高い技術とも言える。また、近年、浮遊微粒子数のカウント機能だけでなく、微粒子に紫外線領域のレーザ光を照射した際に発せられる蛍光散乱も検出できる高機能のパーティクルカウンタが開発された(特許文献2参照)。細胞代謝に使われるタンパク質の存在を検出し、浮遊微粒子を非生物と菌類に識別でき、また、菌を1個1個、リアルタイムにカウントできる。しかし、蛍光法全般において、プラスチック破片、アルミ、土壌粒子などのダスト由来による偽発光や蛍光散乱を菌体と間違えてカウントする、また、染色において蛍光物質が菌体以外の夾雑物と非特異的に吸着してしまったものをカウントする、といった精度及び再現性に課題がある。
【0011】
次に、ATP法はホタルの発光反応を利用して、細胞内のATPの数を光の量に変換して測定する。その原理は、ルシフェラーゼ酵素に基質ルシフェリンとATP分子を取り込ませ、ATPの消費とともに酸化されたルシフェリン(オキシルシフェリン)が励起状態から基底状態に遷移するときの発光量を計測する。
【0012】
【化1】

【0013】
このとき、ATP 1分子の消費が1フォトン(光子)生成に対応するため、光子発生数がATPの個数に比例する。生菌中にはエネルギー源としてアトモル(amol=10-18 mol)オーダーのATP分子が存在するため、測定試料に含まれていた生菌の総数を推定することができる。さらに、生物発光及び化学発光のうちで最も優れた量子効率(ΦBL:≒0.5)であることから、細胞1個を数10万個相当のフォトンとして検出できることになり、発光反応で細胞1個相当の光を検出することは原理的に可能であり、蛍光法と比較して生体物質意外のゴミを光として検出することはなく、精度が高い有効な方法である。
【0014】
以下に、標準的な生菌内ATP発光測定の測定手順を簡単に説明する:
(1) ATP分解酵素による外来ATP分子の除去
(2) 界面活性剤による生菌内ATP分子の抽出
(3) 生菌から抽出されたATP分子と発光試薬との生物発光反応、
の3ステップからなる。
【0015】
(1)の外来ATP分子の除去方法には、菌体が通過せず、ATP分子は通過する孔径のろ過膜を用いる物理的な処理を行っても良いが、ろ過膜の繊維に吸着したりし、完全に除去することが難しい。一方、上記の酵素分解法は、溶液操作のみで処理が済むため、特別な器具が不要である。ここでの分解酵素は、測定試料中に存在する生菌には反応せず、細胞膜の弱まった死菌、人の皮膚から剥離した有機物、体液由来物等に含まれるATPに作用するものである(特許文献3参照)。ATP法を用いた微量生菌検出における課題は、作業者や室内環境から侵入する外来ATPによる測定感度、再現性の劣化である。従って、通常のATP法で得られる測定値とは、生菌由来のATP(生菌内ATP)と外来ATPの総和であり、生菌内ATPの量が少なくなるにつれ、外来ATP由来の発光が測定結果に影響を及ぼすようになる。
【0016】
次に、ステップ(2)で、ATP分解酵素を失活させ、それと同時に測定試料中に存在する生菌からATPを溶出する。最後に、ステップ(3)で、ルシフェリン−ルシフェラーゼ系発光試薬とATP溶出液を反応させ、生物発光反応の光量を光検出器で計測する。
【0017】
これまで、ATP法の検出下限は一般的に102amol(amol=10-18 mol)程度であり、つまり、これは100生菌以上に相当する。清浄度管理レベルに見合った感度を満たさないため、浮遊菌検出にATP法を利用した例では、6時間程度の培養を行なうことで、数〜10生菌が存在していた環境の測定を可能にしたという報告例もある(非特許文献1)。このように、数生菌レベルを検出する目的においては、ATP法を用いても結果を得るまでに半日〜1日程度の時間が必要と言われてきたが、近年、外部汚染を防ぐ洗浄機能を具備した分注システムと高感度検出器を同一装置内の遮光かつ外部からの汚染物質の抑制された空間に配置した生物発光検出システムを用いて、1 amol相当のATP分子量の計測が可能になっている(特許文献4、5及び6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2007−60945号公報
【特許文献2】特表2010−513847号公報
【特許文献3】特開2001−136999号公報
【特許文献4】特開2008−268019号公報
【特許文献5】WO09/157510号公報
【特許文献6】特開2008−249628号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】第13回空気清浄とコンタミネーションコントロール研究大会予稿集, 第331〜334頁, 1995年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
ATP法は、高感度化により、1 amolのATP量を計測できるようになったため、数個の菌が存在すれば原理的には菌を検出することができる。しかしながら、医薬品製造施設や再生医療施設の清浄度管理における微生物計測では、生菌の数がゼロか1かを限りなく保障する装置性能が必須とされるため、感度向上の次の課題は、誤った検出結果を出さない光検出装置の信頼性向上である。なぜなら、誤検出により“汚染”と判断されれば、作製した製品の破棄と生産ラインの停止が要求され、生産性を低下させることに繋がるからである。ここで、誤検出とは、汚染評価のために採取した試料に含まれた生菌由来のATPによる生物発光ではなく、採取試料以外の外部要因由来の可視光領域の光(外来光)を指し、それらは大きく4つに大別できる。
【0021】
外来光の1つ目は理想的には完全暗室仕様となっている装置の遮光不良によるものである。2つ目は、装置に光が一次的に侵入し、検出器の検出材料面や他装置内部の部材に蓄積された光(蓄光)、いわゆる迷光である。3つ目は、装置内に汚染源が発生し、その汚染源からの汚染物質が採取試料内の菌やATPに混入して生じる偽陽性発光である。4つ目は測定に使用するキット、いわゆる試薬や容器等の消耗品の汚染による偽陽性発光である。何れもATP法微弱発光計測においては、400〜750 nmの可視光領域のATP光と区別されずに光検出器で検出されてしまい、採取試料内生菌のATP量プラス外来光となり、清浄度評価としては誤検出となる。
【0022】
本発明の課題は、発光計測時に、外部要因に起因する光の検出を回避し、目的の発光のみを高精度に検出することができる装置及びシステムを提供することである。より具体的には、培養不要なATP法による菌の計測方法において、1菌からの検出を可能とし、生菌由来のATP量のみを確実に識別し、高い精度で測定し、汚染度を計測する装置及びシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定の波長又は特定のpHにおいて発光強度が変化する発光の性質を利用して、測定容器内の全波長領域の光測定と、特定の波長又はpHにおける光測定とを行い、これらの発光強度の比から外部要因に起因する発光の有無を確認し、試料由来の発光を高感度かつ高精度に測定できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下のとおりである。
【0024】
[1]試料中の発光量を計測する発光計測装置であって、
試料を収める容器と、
前記容器からの発光を検出する光検出器と、
前記光検出器と前記容器との間に挿入される少なくとも1枚の光学フィルタ、及び/又は前記容器に添加されるpH変化剤と
を備え、前記光検出器は、前記容器から発せられる光の全波長領域の測定と、特定の波長範囲に限定する分光測定及び/又はpH変化剤により強度変化した光の測定とを行うことを特徴とする発光計測装置。
[2]少なくとも1枚の光学フィルタ及びpH変化剤を備えることを特徴とする[1]に記載の発光計測装置。
【0025】
[3]前記容器を保持する容器ホルダと、
前記光学フィルタを支持し、前記光検出器と前記容器との間に該光学フィルタを挿入する光学フィルタホルダと、
前記光学フィルタホルダを移動させる光学フィルタ位置制御部と、
前記光検出器を前記容器に対して相対的に移動させる光検出器位置制御部と
からなる群より選択される少なくとも1つの要素をさらに備えることを特徴とする[1]又は[2]に記載の発光計測装置。
[4]前記光学フィルタは、干渉フィルタ、ダイクロイックフィルタ又はそれらの組合せであることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の発光計測装置。
[5]前記光学フィルタは、ある波長又はある波長帯の光を透過させ、その短波長側及び長波長側の光を反射させる光学フィルタであることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の発光計測装置。
【0026】
[6]前記光学フィルタは少なくとも1枚で構成され、500から700nmの範囲に中心波長を有することを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の発光計測装置。
[7]前記光学フィルタは少なくとも1枚で構成され、反射光領域の短波長側が500nm以下、かつ反射光領域の長波長側が600nm以上であるダイクロイックフィルタであることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の発光計測装置。
[8]前記光学フィルタは少なくとも1枚で構成され、中心波長が550nmから570nmで、半値幅10nmから60nmの干渉フィルタであることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の発光計測装置。
【0027】
[9]前記光学フィルタは2枚で構成され、中心波長が550nmから570nmで半値幅10nmから60nmの第1の干渉フィルタと、中心波長が600nmから630nmで半値幅10nmから60nmの第2の干渉フィルタとであることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の発光計測装置。
[10]前記光学フィルタは3枚で構成され、中心波長が550nmから570nmで半値幅10nmから60nmの第1の干渉フィルタと、中心波長が600nmから630nmで半値幅10nmから60nmの第2の干渉フィルタと、中心波長が650nmから680nmで半値幅10nmから60nmの第3の干渉フィルタで構成されることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の発光計測装置。
[11]前記光学フィルタは4枚で構成され、中心波長が430nmから480nmで半値幅10nmから60nmの第1の干渉フィルタと、中心波長が550nmから570nmで半値幅10nmから60nmの第2の干渉フィルタと、中心波長が600nmから630nmで半値幅10nmから60nmの第3の干渉フィルタと、中心波長が650nmから680nmで半値幅10nmから60nmの第4の干渉フィルタで構成されることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか項に記載の発光計測装置。
【0028】
[12]前記pH変化剤は、前記試料の溶液pHをpH7.0からpH7.2へ変化させるものであることを特徴とする[1]〜[11]のいずれかに発光計測装置。
[13]前記pH変化剤は、前記試料の溶液pHをpH7.0からpH6.4へ変化させるものであることを特徴とする[1]〜[12]のいずれかに発光計測装置。
[14]前記pH変化剤は、前記試料の溶液pHをpH7.0又はpH7.2からpH8.5へ変化させるものであることを特徴とする[1]〜[13]のいずれかに発光計測装置。
[15]発光が化学発光又は生物発光であることを特徴とする[1]〜[14]のいずれかに記載の発光計測装置。
【0029】
[16]試料中の微生物を計数する微生物計数装置であって、
試料を収める容器と、
前記容器からの発光を検出する光検出器と、
前記光検出器と前記容器との間に挿入される少なくとも1枚の光学フィルタ、及び/又は前記容器に添加されるpH変化剤と
を備え、前記容器にはATP化学発光を処理する溶液が導入され、前記光検出器は、前記容器から発せられる光の全波長領域の測定と、特定の波長範囲に限定する分光測定及び/又はpH変化剤により強度変化した光の測定とを行うものであり、前記測定の結果から前記試料由来のATPの発光強度を計測し、前記試料中の微生物を計数することを特徴とする微生物計数装置。
【発明の効果】
【0030】
本発明により、迅速にかつ信頼性をもって試料中の発光を計測することができる発光計測装置が提供される。本発光計測装置は、微弱発光計測における微生物計測の生菌数計測の清浄度管理モニタの誤検出を防ぐ効果があり、具体的には、試薬類、容器など消耗品の汚染検出、装置異常の検知、測定試料内の分子同定、という計測機能を備え、高い信頼性で汚染度を測定でき、消耗品交換の自動化や、装置メンテナンスの必要性の早期発見に繋がり、無人稼動で対処できる清浄度管理モニタのシステムを構築できる。
【0031】
上記した以外の、課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1A】第1の実施形態による発光計測装置の概観構成の一例を示す図である。
【図1B】第1の実施形態による発光計測装置の概観構成の一例を示す図である。
【図1C】第1の実施形態による発光計測装置の概観構成の一例を示す図である。
【図2A】第2の実施形態による分取・分注機を備えた発光計測装置の概観構成の一例を示す図である。
【図2B】第2の実施形態による分取・分注機を備えた発光計測装置の概観構成の一例を示す図である。
【図3】第2の実施形態による発光計測装置の生菌計測フローチャートを示す図である。
【図4−1】第2の実施形態によるダークカウント測定時(A)、背景光測定及びATP発光測定時(B及びC)、の光検出器と測定容器の位置関係を示す図である。
【図4−2】第2の実施形態による光学フィルタを挿入したときの光検出器と測定容器の位置関係(D及びE)を示す図である。
【図5】第2の実施形態による生菌計測フローで得られたPMT光検出器の出力データを示す図である。
【図6】第2の実施形態による生菌数の算出方法を模式的に示す図である。
【図7A】第3の実施形態による発光計測装置の生菌計測フローチャートを示す図である。
【図7B】第3の実施形態による発光計測装置の生菌計測フローチャートの続きを示す図である。
【図8A】第3の実施形態による生菌計測フローで得られたPMT光検出器の出力データを示す図である。
【図8B】第3の実施形態による生菌計測フローで得られたPMT光検出器の出力データを示す図である。
【図9A】野生型ホタルルシフェリン−ルシフェラーゼ発光の分光スペクトルを示す図である。
【図9B】遺伝子改変ホタルルシフェリン−ルシフェラーゼ発光の分光スペクトルを示す図である。
【図10A】第4の実施形態による発光計測装置の生菌計測フローチャートの一例を示す図である。
【図10B】第4の実施形態による発光計測装置の生菌計測フローチャートの一例を示す図である。
【図10C】第4の実施形態による発光計測装置の生菌計測フローチャートの全体を示す図である。
【図11】第5の実施形態による発光計測装置の生菌計測フローチャートを示す図である。
【図12A】第5の実施形態による生菌計測フローで得られたPMT光検出器の出力データを示す図である。
【図12B】第5の実施形態による生菌計測フローで得られたPMT光検出器の出力データを示す図である。
【図13A】第4の実施形態による解析パラメータを含むフローチャートを示す図である。
【図13B】第4の実施形態による解析パラメータを含むフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、試料中の発光を計測するための装置(発光計測装置)に関し、光検出器と測定容器との間に挿入される少なくとも1枚の光学フィルタ、及び/又は測定容器に添加されるpH変化剤を備えることを特徴としている。
【0034】
生物発光及び化学発光には、異なる波長範囲においてその発光強度が特定の割合で変化するものがある。そのため、測定容器内の発光の全波長領域の測定と、光学フィルタを用いた特定の波長範囲に限定する分光測定とを行い、それらの発光強度の比率から、容器内の発光が試料に由来するものであるか、あるいは外部要因(遮光不良、蓄光、偽陽性発光)による光が含まれるかどうかを判断し、結果として、試料由来の発光を正確にかつ信頼性をもって計測することができる。
【0035】
また、生物発光及び化学発光には、試料溶液のpH変化によってその発光強度が特定の割合で変化するものがある。そのため、測定容器の発光の全波長領域の測定と、pH変化剤により強度変化した光の測定とを行い、それらの発光強度の比率から、容器内の発光が試料に由来するものであるか、あるいは外部要因(遮光不良、蓄光、偽陽性発光)による光が含まれるかどうかを判断し、結果として、試料由来の発光を正確にかつ信頼性をもって計測することができる。
【0036】
本発明において、計測の対象となる発光は、生物発光又は化学発光であって、上述のように異なる波長範囲においてその発光強度が特定の割合で変化するもの、及び/又はpH変化によってその発光強度が特定の割合で変化するものである。例えば異なる波長範囲において発光強度が特定の割合で変化する発光としては、野生型ホタルルシフェリン−ルシフェラーゼ系(図9A)、遺伝子改変型ホタルルシフェリン−ルシフェラーゼ系(図9B)、ルミノール−過酸化水素系、ルシゲニン−過酸化水素系、が挙げられる。またpH変化によって発光強度が特定の割合で変化する発光としては、野生型ホタルルシフェリン−ルシフェラーゼ系(図9A)、ルミノール−過酸化水素系、ルシゲニン−過酸化水素系、ルミノール−DMSO(ジメチルスルホキシド)系、が挙げられる。上記の発光を計測するための具体的な工程及び具体的な装置は当技術分野で周知であり、例えば特許文献4及び6に記載されている。
【0037】
従って、本発明に係る発光計測装置は、少なくとも、
試料を収める容器と、
前記容器からの発光を検出する光検出器と、
前記光検出器と前記容器との間に挿入される少なくとも1枚の光学フィルタと
を備えるものである。
【0038】
あるいは、本発明に係る発光計測装置は、少なくとも、
試料を収める容器と、
前記容器からの発光を検出する光検出器と、
前記容器に添加されるpH変化剤と
を備えるものである。
【0039】
またあるいは、本発明に係る発光計測装置は、少なくとも、
試料を収める容器と、
前記容器からの発光を検出する光検出器と、
前記光検出器と前記容器との間に挿入される少なくとも1枚の光学フィルタと
前記容器に添加されるpH変化剤と
を備えるものである。
【0040】
本発明に係る発光計測装置は、さらに、容器を保持する容器ホルダと、光検出器と容器との間隔を変更可能な光検出器位置制御部と、光検出器と容器との間に光学フィルタを挿入可能な光学フィルタホルダと、光学フィルタホルダを移動させる光学フィルタホルダ位置制御部とからなる群より選択される少なくとも1つの要素を備えてもよい。
【0041】
好ましくは、本発明に係る発光計測装置は、試料を収める容器と、容器を保持する容器ホルダと、容器からの発光を検出する光検出器と、光検出器と容器との間隔を変更可能な光検出器位置制御部と、光検出器と容器ホルダとの間に光学フィルタを挿入可能な少なくとも1つの光学フィルタを備えた光学フィルタホルダと、光学フィルタホルダを移動させる光学フィルタホルダ位置制御部を有する装置であり、試料を収める容器から発せられる光の全波長領域の測定と、特定の波長のみに限定する分光測定が、同一装置で、同一試料を用いて連続的に実施される。上記発光計測装置は、前記容器に添加されるpH変化剤をさらに備えることが好ましい。
【0042】
ここで、発光を計測する対象となる試料は、発光、すなわち生物発光又は化学発光を検出又は測定することが望まれる試料であれば限定されるものではない。
【0043】
試料を収める容器(測定容器)は、試料からの発光を透過する材料で作製されたものであれば特に限定されるものではなく、例えばガラス製、石英製、樹脂製の容器とすることができる。好ましくは、容器は、容器ホルダに保持されており、容器及びそれに含まれる試料に対する影響を回避する。
【0044】
光検出器は、発光を検出することができるものであれば特に限定されるものではないが、一般的には光電子増倍管(PhotoMultiplier Tube:PMT)を使用するのが感度の点で好適である。光検出器は、試料を収める容器と対向して設けられ、また、光学フィルタも光検出器と対向して設けられている。光検出器は、光検出器と容器との間隔を変更可能な光検出器位置制御部によって移動する形態にあることが好ましい。それにより、測定容器を容器ホルダから取り出す操作を回避し、計測結果に対する影響を回避することができる。
【0045】
光学フィルタは、少なくとも1枚使用し、ある波長又は波長帯の光を透過させ、その短波長側及び長波長側の光を反射させるものである。具体的には、計測対象の発光の種類及び計測の目的(試料中の発光計測、微生物計数など)に応じて、透過及び反射させる光の波長又は波長帯、並びに使用する枚数が選択される。光学フィルタとしては、例えば干渉フィルタ、ダイクロイックフィルタ又はそれらの組合せを用いることができる。
【0046】
例えば光学フィルタが少なくとも1枚で構成されている場合、光学フィルタは、目的の発光の測定に適した波長範囲の光学フィルタ、例えばルシフェリン−ルシフェラーゼ系による発光の測定に適した波長範囲の光学フィルタを用いることができ、具体例として500から700nmの範囲に中心波長を有する光学フィルタが挙げられる。また、反射光領域の短波長側が500nm以下、かつ反射光領域の長波長側が600nm以上であるダイクロイックフィルタが挙げられる。あるいは、ルシフェリン−ルシフェラーゼ系の発光ピークにおける発光の測定に適した波長範囲の光学フィルタを用いることができ、具体例として、中心波長が550nmから570nmで半値幅10nmから60nmの干渉フィルタ、中心波長が600nmから630nmで半値幅10nmから60nmの干渉フィルタ、及び中心波長が650nmから680nmで半値幅10nmから60nmの干渉フィルタが挙げられる(図9A及び9B)。あるいは、目的の発光の波長範囲以外の波長範囲の光学フィルタ、例えばルシフェリン−ルシフェラーゼ系による発光の波長範囲以外の波長範囲の光学フィルタや、蛍光灯などの室内照明による光の波長範囲の光学フィルタを用いることができ、具体例として、中心波長が430nmから480nmで半値幅10nmから60nmの干渉フィルタが挙げられる。
【0047】
例えば光学フィルタが2枚で構成されている場合には、上で例示した光学フィルタを適宜組み合わせることができる。好ましくは、ルシフェリン−ルシフェラーゼ系による発光ピークの測定に適した波長範囲の光学フィルタの組み合わせ、例えば中心波長が550nmから570nmで半値幅10nmから60nmの干渉フィルタと、中心波長が600nmから630nmで半値幅10nmから60nmの干渉フィルタとを組み合わせて使用することができる。また例えば光学フィルタが3枚で構成されている場合には、例えば、中心波長が550nmから570nmで半値幅10nmから60nmの干渉フィルタと、中心波長が600nmから630nmで半値幅10nmから60nmの干渉フィルタと、中心波長が650nmから680nmで半値幅10nmから60nmの干渉フィルタとの組み合わせを用いることができる。光学フィルタが4枚で構成されている場合には、中心波長が430nmから480nmで半値幅10nmから60nmの干渉フィルタと、中心波長が550nmから570nmで半値幅10nmから60nmの干渉フィルタと、中心波長が600nmから630nmで半値幅10nmから60nmの干渉フィルタと、中心波長が650nmから680nmで半値幅10nmから60nmの干渉フィルタとの組み合わせを用いることができる。
【0048】
光学フィルタは、好ましくは光学フィルタホルダに設けられた少なくとも1つの貫通孔に、少なくとも1枚が挿入されており、光学フィルタホルダ位置制御部により光学フィルタを光検出器と容器との間に挿入したり、回避したりする。回避時には、光検出器位置制御部は対向する容器に接することはないが、できるかぎり近い位置に配置されるように移動し、立体角を大きくとることで光の回収効率を上げ、高感度に光を検出する。一方、光学フィルタ挿入時は、光検出器は容器から遠ざかるが、間に挿入された光学フィルタに近い位置に配置される。なお、光学フィルタホルダと光学フィルタホルダ位置制御部は一体型であってもよい。
【0049】
pH変化剤は、試料の溶液のpHを変化させることができる任意の試薬を用いることができる。試料溶液のpHの変化は、その変化によって発光強度が特定の割合で変化する発光の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、野生型ホタルルシフェリン−ルシフェラーゼ系による発光は、560nm付近のピーク発光強度が、pH6.4、pH7.0、pH7.2及びpH8.5において変化する(図9A)。そのため、pH変化剤は、例えば試料の溶液pHをpH7.0からpH7.2へ変化させるもの、pH7.0からpH6.4へ変化させるもの、pH7.0又はpH7.2からpH8.5へ変化させるものとすることができる。pH変化剤は、溶液のpHを変化させることができる任意の試薬であってよく、例えばトリス(Tris)緩衝液、リン酸緩衝液、MES緩衝液、HEPES緩衝液、Bis-tris Propane-HCl緩衝液、Tricine-NaOH緩衝液を用いることができる。pH変化剤は、好ましくは溶液容器に収容されて、後述する溶液分取・分注機により測定容器内に添加される。
【0050】
また、本発明に係る発光計測装置は、溶液分取・分注機を備えていることが好ましく、例えば、少なくとも1本のノズルと、少なくとも2つの試薬溶液溜めと、少なくとも1つの試料容器と、少なくとも1本の配管チューブと、配管チューブと繋げられた少なくとも1つの送液ポンプと、容器内にノズルを移動させるノズル位置制御部と、を有する。ノズル位置制御部は、試薬溜め、バッファー溜め、試料容器の容器開口位置の上部、さらに、それら容器内へ挿入されるように移動可能なものである。
【0051】
本発明に係る発光計測装置は、好ましくは試料中の微生物量を計数する機能を備えている。つまり、この微生物計数装置では、ノズル位置制御部は、ノズルを前記容器内に挿入するように制御する。そして、各ノズルの先端からATP化学発光を処理する溶液を順次、分取して、採取試料容器内へ導入し、生菌中からATPを抽出した後、採取試料容器内の溶液をルシフェリン−ルシフェラーゼ系発光試薬と混合し、その発光強度からATP量を、さらにATP量をもとに菌数を算出する。ATP化学発光を処理する溶液には、不要なATP分子を除去するためのATP消去液(ATP分解酵素など)、生菌内ATP分子を抽出するためのATP抽出液(界面活性剤など)、ATP分子を利用して発光反応を行う発光試薬(ルシフェリン−ルシフェラーゼ系など)が含まれ、計測する発光の種類、発光の計測目的などに応じて、当業者であれば適宜選択することができる。
【0052】
微生物計数の対象となる試料は、微生物を含むことが疑われるものであれば限定されるものではない。例えば、飲食品、医薬品、化粧品などの工業製品及びその原料;海水、河川水、工業用水、下水、土壌、空気などの環境試料が挙げられる。これらの試料を調製する方法は当技術分野で公知である。
【0053】
上記の発光計測では、まず数秒から数10秒間、測定容器から発せられた光を分光することなく、使用する光検出器の感度領域に沿った全波長領域を測定し、その強度をデータ化する。次に、光学フィルタを測定容器と光検出器の間に挿入し、光学フィルタを通過して分光された光を光検出器で測定し、その強度をデータ化する。測定容器から発せられる全波長領域の測定と特定の波長範囲に限定する分光測定を連続的に行うことで、測定容器内の光量計測と前記光量の中の特定の物質に起因した発光量とその他の誤因子との区別を行う。すなわち、容器内の全波長領域の光強度からは容器内の発光の量的情報が得られ、容器内の全波長領域の光強度と分光測定した光強度との比からは発光の質的情報、例えば外的要因に起因する発光の存在についての情報が得られる。また、全波長領域の光測定又は分光測定の際に、pH変化剤(pHを変化させるバッファー等)を分注し、pHに対する強度変化をデータ化することで、汚染物質が存在するか否かの判定を行い、さらに目的の発光量のみを導出し、結果の信頼度を向上させる。また、試薬消耗品関係の検査を、上記の光学フィルタ及び/又はpH変化剤を用いて、別途行うことも可能である。
【0054】
上述の通り、本発明に係る発光計測装置及び微生物計数装置では、外的要因に起因する発光、例えば遮光不良、蓄光、装置内又は試薬類に含まれる汚染源由来の発光の有無を判断し、偽陽性結果を回避することができる。結果として、本装置では、目的の発光を信頼性をもって計測することができ、試料中のわずかな微生物でも高感度かつ高精度に計数することができる。
【実施例】
【0055】
以下、図面を参照して本発明の実施形態の具体例について説明する。ただし、これらの実施例は本発明を実現するための一例に過ぎず、本発明を限定するものではないことに注意すべきである。また、各図において共通の構成については同一の参照番号が付されている。
【0056】
[実施例1]
図1A、1B及び1Cは、第1の実施形態による発光計測装置の概略構成を示す図である。図1Aはその概観図の一般例であり、発光計測装置1とそれを制御する制御装置2から構成される装置外観図である。発光計測装置1は、試料容器や試薬容器等の少なくとも1つの測定消耗品キット3をセットする際に開閉する開閉ステージ4を備えている。開閉ステージ4が閉められた状態では、発光計測装置1の内部は外来光の侵入を防ぐ完全遮光された暗室となる。測定消耗品キット3は、試薬・試料容器ホルダ22と測定容器5の2セットを示しているが、試料の供給形態、例えば容器形状が異なる場合には、もう1セット用意し、装置内に設置することもできる。
【0057】
なお、微弱発光をとらえる高感度検出器には、従来から、光電子増倍管が用いられる。さらなる高感度仕様の場合には、光電子増倍管の信号をデジタル処理する単一光子計数法(フォトンカウンティング法)が採用される。
【0058】
装置内部の構成は、図1B及び1Cに示すとおりである。なお、説明を容易にするため、分解図の形態で図示した。測定容器5は、測定容器ホルダ6にセットされる。測定容器ホルダ6は、遮光BOX 7の天板8上の天板の貫通孔9部に設置される。また、測定容器ホルダ6は、それを天板8に載せるだけで位置決めできるようになっていると好適である。例えば、定位置に設置できるような枠が天板8に取付けられるようにしてもよく、又は、測定容器ホルダ6の底部が収まるような四角溝が天板8に彫ってあり、そこに測定容器ホルダ6が嵌るようになっていてもよい。遮光BOX 7の役割は、発光計測装置1の開閉ステージ4の開閉作業の際に侵入する外来光から光検出器10の光電面11を保護するためのものである。
【0059】
測定容器ホルダ6は、測定容器5内の発光を効率よく光電面11に受光させる構造を有するもので、光電面11の面内に侵入する方向と異なる方向へ発散した光を光検出器10の方向へ反射させて光電面11へ誘導する。その方法には鏡面反射の利用が好適で、測定容器ホルダ6に金属材料を用いて加工するか、又は、測定容器ホルダ6の内面に金属膜を形成した部材を使用する。金属膜材料には、80%以上の反射効率が安定に得られる銀やアルミニウムを用いるのが良い。測定容器ホルダ6の内部形状は、テーパ形状や半球形状が良い。
【0060】
測定容器5は、上部の径の小さい円柱の開口部から挿入し、その固定は、測定容器5上部のつば12を利用し、測定容器ホルダ6にぶら下がった状態でマウントする。つば12を持たない測定容器5を使用する場合では、測定容器5に取付けられる専用のストッパ等(図示せず)を用意すればよい。また、測定容器5の底部を透明板で支持する形態であっても良く、可視光領域の透過性が100%に近い光透過率の高い基板で、0.5mm以下の石英ガラスや樹脂製の薄板を測定容器ホルダ6の下部に備えても良い。
【0061】
図1Bでは、遮光BOXの天板8は、内部にスライドテーブル型の板状光学フィルタ設置ホルダ13が挿入できる構造になっており、挿入された板状光学フィルタ設置ホルダ13は、第1のアクチュエータ14を使用して、天板内をy軸方向に移動できる。板状光学フィルタ設置ホルダ13は、光学フィルタを設置する貫通孔が数〜10個程度存在しており、特定の波長を通す分光可能な光学フィルタを該貫通孔に少なくとも1枚ずつ設置できる。板状光学フィルタ設置ホルダ13の移動により、天板の貫通孔9の位置、すなわち、測定容器5と光検出器10の光電面11の間に、任意の光学フィルタ(第1の光学フィルタ15、第2の光学フィルタ16、第3の光学フィルタ17、第4の光学フィルタ18)を介入させることができる。また、板状光学フィルタ設置ホルダ13の光学フィルタが存在しない領域は、開閉ステージ4のオープン時にシャッターとして機能し、光電面11と装置外部からの光の侵入を避け、光電面11の蓄光防止の役割を果たす。発光計測装置1の開閉ステージ4オープン時には、光検出器10を遮光BOX 7の中に装置外部からの光を遮断するように収め、さらに、遮光BOXの天板8内を光学フィルタを設置するための板状光学フィルタ設置ホルダ13の貫通孔が空いていない部分を用いてシャッターとし扱うことで外光の侵入を遮断する。詳細は動作説明の実施例にて後述する。図1B及び1Cでは、簡単のため、光学フィルタの数量を4枚として説明したが、数量はこれに限定するものではない。
【0062】
光検出器10は、第2のアクチュエータ19により、z軸方向に移動可能である。これは、光検出器10の光電面11と測定容器5の距離を近づけたり、遠ざけたりする機能であり、計測のときに立体角を大きくとるように光電面11は測定容器ホルダ6に近接させるため、遮光BOXの天板8の貫通孔9の中に挿入したり、それを通り越して移動する。
【0063】
図1Cは、板状光学フィルタ設置ホルダ13がターンテーブル型で、板状光学フィルタ設置ホルダ13を回転軸棒20の回転により、天板の貫通孔9へ任意の光学フィルタを位置させることができる。つまり、測定容器5と光検出器10の光電面11の間に、任意の光学フィルタ(第1の光学フィルタ15、第2の光学フィルタ16、第3の光学フィルタ17、第4の光学フィルタ18)を回転移動により介在させることができる。
【0064】
図1Cに示す状態は、天板の貫通孔9の位置に、板状光学フィルタ設置ホルダ13で光学フィルタを設置する貫通孔9以外の場所が存在し、板状光学フィルタ設置ホルダ13が遮光BOX 7のシャッターとして機能しているところである。21は、光検出器10が通過可能な光検出器の通過貫通孔21であり、この貫通孔21を通して、光検出器10は測定容器5の底面と近接することが可能である。
【0065】
もちろん、測定容器5、測定容器ホルダ6、天板の貫通孔9の中心、光検出器10の光電面11の中心、測定容器5と光検出器10の間に介在した際の光学フィルタの中心位置は、z軸方向の同一軸上にあるようにアライメントされる。なお、このアライメントは装置組立時に実行されるのが良い。また、第1のアクチュエータ14及び第2のアクチュエータ19は、例えば、電力供給又は空気供給で制御するものを使用することができる。また、図1Aの測定消耗品キット3は、図1B及び1Cの例では、測定容器5に相当するものである。
【0066】
[実施例2]
図2A及び2Bは、第2の実施形態による発光計測装置の概略構成を示す図である。本実施形態の発光計測装置は、第1の実施形態の構成に加えて、溶液分取・分注機を備えるものである。
【0067】
図2Aは、図1Bに示したスライドテーブル型の板状光学フィルタ設置ホルダ13を用いた第1の実施形態の装置構成に、溶液分取・分注機システムと、試薬、測定試料を設置する試薬・試料容器ホルダ22を追加したものである。一方、図2Bは、図1Cに示したターンテーブル型の板状光学フィルタ設置ホルダ13を用いた第1の実施形態の装置構成に、溶液分取・分注機システムと、試薬、測定試料を設置する試薬・試料容器ホルダ22を追加したものである。なお、図1Aで示した測定消耗品キット3は試薬・試料容器ホルダ22と該ホルダにセットされた容器類、測定容器5に該当する。詳細な構成については、図2Aをもとに説明する。
【0068】
図2A及び2Bにおいて、測定容器5は、測定容器ホルダ6にセットされる。測定容器ホルダ6は、遮光BOX 7の天板8上の天板の貫通孔9(図示なし)の上部に設置される。測定容器ホルダ6の位置合わせについては、第1の実施形態と同様であり、定位置に設置できるような枠が遮光BOXの天板8に取付けられるようにしてもよく、又は、測定容器ホルダ6の底部が収まるような四角溝が天板8に彫ってあり、そこに測定容器ホルダ6が嵌るようになっていてもよい。
【0069】
遮光BOXの天板8は、内部に板状光学フィルタ設置ホルダ13が挿入できる構造になっており、第1のアクチュエータ14によって天板内をy軸方向に移動可能になっている。
【0070】
遮光BOX 7内には、光検出器10が格納されている。光検出器10は、第2のアクチュエータ19により、z軸方向に移動可能である。
【0071】
溶液分取・分注機は、第1の分注ノズル33、第2の分注ノズル34、第1の送液ポンプ35、第2の送液ポンプ36、第1の分注ノズル33、第2の分注ノズル34と第1の送液ポンプ35と第2の送液ポンプ36を各々結ぶ第1の液体搬送管37、第2の液体搬送管38で構成され、各々の送液ポンプ35、36を駆動させて液体を吸引又は吐出する。図2A及び2Bは2つの溶液分取・分注機を装備している例であるが、用途に合わせて、1ユニットでも良く、また反対に数10ユニットを有していてもよい。これら溶液分取・分注機の液体操作を行なう第1、第2の分注ノズル33、34は、第5のアクチュエータ31、第6のアクチュエータ32に、第1の分注ノズル固定治具39、第2の分注ノズル固定治具40で各々固定されており、さらに、第3のアクチュエータ29、第4のアクチュエータ30の移動機構により、試薬・試料容器ホルダ22に設置された試料又は試薬をストックした複数の溶液容器位置に任意に、第1、第2の分注ノズル33、34を移動可能で、それらのノズル先端から、溶液を分取し、また分取した試薬や試料を他溶液容器内や、測定容器5内へ分注することが可能である。なお、図2A及び2Bでは試薬・試料容器ホルダ22に6本の溶液容器(第1の溶液容器23、第2の溶液容器24、第3の溶液容器25、第4の溶液容器26、第5の溶液容器27、第6の溶液容器28)が設置されているが、試薬・試料容器ホルダ22、溶液容器の設置数量はこれに限定するものではない。具体的には、反応試薬関係と測定試料関係を別々の試薬・試料容器ホルダ22に分割して設置し、図2A及び2Bには図示していないが、試薬・試料容器ホルダ22を2つ以上設置する形態も好適であり、複数の測定試料をバッチ処理することが可能となる。
【0072】
第1の送液ポンプ35、第2の送液ポンプ36は、如何なる形態のポンプでも適用可能であり、具体的には、シリンジポンプ、ペリスタポンプが好適である。また、41はバッファー溶液タンクであり、第2の送液ポンプ36と第3の液体搬送管88を介して繋がっている。三方電磁弁を有する、別途電磁弁を用意し、その組み合わせを有するポンプを使用すれば、ポンプ内にバッファー溶液を自動供給することが可能となり、液体搬送管と分注ノズルの洗浄、さらに、分取精度、分注精度を向上させるための配管充填水の自動供給系として利用できる。ポンプ内のバッファー交換の作業を簡便化する構成の一例である。
【0073】
上述の第1のアクチュエータ14、第2のアクチュエータ19、第3のアクチュエータ29、第4のアクチュエータ30、第5のアクチュエータ31、第6のアクチュエータ32、第1の送液ポンプ35、第2の送液ポンプ36は、制御装置2で組まれた動作シーケンスをもとに駆動する。さらには、光検出器10からの信号も本制御装置2に取り込まれる。
【0074】
次に、ATP法を用いて生菌計測を行なう際の通常の運転シーケンスについて説明する。図3は、発光測定及び生菌計数の手順(典型例)を説明するためのフローチャートである。まず、発光計測装置1の開閉ステージ4を開き(S301)、測定対象物である菌体試料、ATP消去液、ATP抽出液、その他複数のノズル洗浄液をストックした第1〜第6の溶液容器(23、24、25、26、27、28)を試薬・試料容器ホルダ22に設置し、ルシフェリン−ルシフェラーゼ系発光試薬をストックした測定容器5を発光計測装置1の所定の位置、すなわち測定容器ホルダ6に設置する(S302)。ここでは、簡単のため、第1の溶液容器23にATP消去液、第2の溶液容器24にATP抽出液、第3の溶液容器25に菌体試料、第4の溶液容器26、第5の溶液容器27、第6の溶液容器28にはノズル洗浄液をストックしていることとする。もちろん、試薬・試料容器ホルダ22のどの位置に各々の試薬、試料、ノズル洗浄液を設置してもよい。菌体試料の採取について、河川、工場排水、下水処理場等の水質検査や飲料水の品質検査では注射器やポリカップ等の専用採水容器を用いて100μLから数mLほど採水すれば良く、検査時には、そのまま装置内に設置し、図3の手順に従い処理すれば良い。一方で、食品工場、病院や、さらに製薬工場、再生医療施設などのバイオクリーンルームのような微生物の量が少ない場所の検査に関して言えば、ろ過工程を用いた濃縮技術の採用が好ましい。空中浮遊菌であれば、メンブレンフィルター法、又は、衝突法とメンブレンフィルターろ過の組合せ法を、製薬用水の水中浮遊菌であれば、メンブレンフィルターろ過を用いて、空気や液体を回収、濃縮し、フィルタ上に捕捉された菌体を菌体試料として用いる。第3の溶液容器25の底はフィルタになっており、フィルタ上に捕捉されている菌体を菌体試料として扱ってもよい。ここで、第3の溶液容器の形態の一例は、WO09/157510号公報(特許文献5)に記載されている。
【0075】
ノズル洗浄液は注射用水準のATPフリーの蒸留滅菌水、ATPフリーのHEPES緩衝液、ATPフリーのPBS緩衝液、ATPフリーのトリス緩衝液、などが好適である。また、ATPを消費するためルシフェリン−ルシフェラーゼ系発光試薬をノズル洗浄液としても良い。測定容器5は測定容器ホルダ6内に設置する。その後、開閉ステージ4を閉める(S303)。次に、光検出器10であるPMTにHV(High Voltage:高電圧)を印加する(S304)。ここで、ダークカウント値が通常通りの値であることを確認することができ、遮光不良や蓄光のあるなしを検出する。次に、板状光学フィルタ設置ホルダ13上の第1から第4の光学フィルタ(15、16、17、18)が設置されていない図1C及び2Bで説明した光検出器10の通過貫通孔21を第1のアクチュエータ14を駆動させて、光検出器10の光電面11の上部に位置させ(S305)、次に第2のアクチュエータ19を駆動させ、光検出器10を上方へ移動させる(S306)。光電面11は光検出器10の通過貫通孔21を通過又は内部に納め、測定容器5に近接させ(図4−1B〜図4−2E)、測定容器5の自家蛍光と測定容器5内の発光試薬の自家蛍光を含む背景光測定を行なう(S307)。
【0076】
図4−1Aはダークカウント測定時の光検出器10の位置であり、図4−1B〜図4−2Eは、背景光測定時、さらに、試料中の生菌由来のATP発光を測定するATP発光測定時の光検出器10の位置である。光検出器10と測定容器5との近接で高効率に光を集め、高感度計測が可能となる。図4−1Bでは、厚さ0.5mm以下の石英ガラス薄板42が測定容器5と光検出器10の光電面11との間に介在している例を示しており、石英ガラス薄板42に近接させて測定容器5との距離を可能なかぎり短くしている。一方、石英ガラス薄板42を使用しない場合で測定容器5のつば12で測定容器ホルダ6にぶら下げた形態は、最も光の回収効率が上がる形態であり、これも測定感度の観点から好適である(図4−1C)。このように、石英ガラス薄板42が必ずしも必要なわけではないが、予期せぬ液体漏れなどが測定容器5周辺で起こった際に、液体と光電面との接触を防ぐことによる光検出器の故障を防ぐことが可能なことから、実用面で好適である。この薄板42は石英ガラスに限らず、他パイレックスガラス、また、可視光領域で透過率がガラスと同等であれば、樹脂製の薄板を使用しても良い。
【0077】
さらに、十分なATP量により、測定系の感度が十分であれば、光検出器の移動は不要で、ダークカウント測定時の位置固定で、背景光測定、ATP発光測定を実施しても良い。S307では、背景光値が通常通りの値であることを確認し、いわゆる試薬や容器等の消耗品汚染による偽陽性発光がないことを確認する。
【0078】
次に、ATP消去液を第1の溶液容器23から分取し、第3の溶液容器25内に分注し、採取済み菌体試料と混合反応する(S308)。10分から30分程度反応させ、これにより生菌以外の死菌や遊離ATPが消去される。次にATP抽出液を第2の溶液容器24から分取し、第3の溶液容器25内に分注し、生菌内からATPを抽出する反応が起こる(S309)。なお、ATP抽出液はATP消去液の酵素反応を失括させる機能を有しているため、生菌から抽出されたATPは前プロセスで加えたATP消去液により消去されることはない。また、抽出に要する時間は数分である。なお、ATP消去液はアピラーゼ、デアミナーゼ等の酵素を主成分としたATP分解酵素であり、ATP抽出液は塩化ベンザルコニウム等の界面活性剤を主成分とした細胞膜の溶解試薬であり、これらは、複数の試薬メーカにてキット化されており、市販品として容易に入手可能である。
【0079】
次に、生菌からATPが抽出された第3の溶液容器25内の菌体試料を分取し(S310)、分取した試料を測定容器5内へ分注する(S311)。光検出器10であるPMTはS304で既にON状態となっており、光量の計測を続けており、ダークカウント、背景光、それに続けてATP発光と連続したスペクトルとしてデータを得る(図5)(S312)。図5に示すようなATP発光を数分間計測した後、PMTのHVをOFFとする(S313)。測定終了後、PMT光検出器10を第2のアクチュエータ19により下降移動させ、光検出器10の通過貫通孔21の中から抜き出し、動作シーケンススタート時の状態に戻る。この状態で終了となり、測定に使用した第1の溶液容器23、第2の溶液容器24、第3の溶液容器25、第4の溶液容器26、第5の溶液容器27、第6の溶液容器28、さらに、測定容器5を開閉ステージ4を開けて回収し、次の試料の測定へと移る。なお、PMT光検出器10の蛍光灯などの強い光の侵入による蓄光防止のため、開閉ステージ4の開時は、板状光学フィルタ設置ホルダ13で、光検出器の通過貫通孔21と光学フィルタを設置する貫通孔9以外の場所で、遮光BOX 7への光の侵入を遮断する。
【0080】
図3のフローは自動化されており、ユーザが制御装置2上のスタートボタンを押すのみで、工程が順次に進むことが望ましい。各工程間の待ち時間は、ここでは表示していないが、制御装置2で設定できるパラメータとして任意に変更と設定が可能である。なお、ノズル洗浄工程については簡単のため、図3の動作フロー中には記載しなかったが、一般に、試薬分取前と試薬分注後に外壁を洗浄液に浸し、さらに、配管内のバッファー水を適量吐出することでノズル内壁を洗浄する。洗浄液は一回のみの使用が好適であり、本フローでは、ATP消去液の分取前に第4の溶液容器26内で洗浄し、ATP消去液の分注後、又はATP抽出液の分取前に第5の溶液容器27内で洗浄し、調整済み試料の分取の前に、第6の溶液容器28内で洗浄する工程を入れるのが良いが、他のフローを使用しても良い。
【0081】
図5は、図3で説明した動作フローに沿って生菌計測したPMT光検出器10の第1の出力データ43である。横軸は時間、縦軸は光子計数値(Count Per Second)で表される。44はダークカウント信号、45は背景光信号、46はATP発光信号である。ここでは、ダークカウント信号44を50秒間、背景光信号45を1800秒間、ATP発光信号46を100秒間取得した結果を示す。発光試薬を含む測定容器5から発せられる背景光信号45は、ダークカウント信号44よりも発光試薬がもつ自家蛍光と測定容器がもつ自家蛍光により、光信号としては大きく現れる傾向にある。47はATP発光信号46のピークであり、該ピーク強度と背景光信号45の数秒から数100秒の平均値との強度差から生菌由来のATP発光量48を求める(図5)。既知濃度のATPとその時の発光強度(CPS値)との関係をもとに、得られたATP量から、生菌数を算出する。図6はその方法を模式的に表したものである。49は既知濃度のATPを調製して横軸をATP分子数、縦軸を発光強度(CPS)でプロットしたATP検量線であり、50は、モデル菌種A、B及びCを濃度調整して個数(CFU)を横軸に、縦軸に発光強度(CPS)をプロットした生菌3種の検量線である。51は、ATP検量線49と生菌3種の検量線50をもとに、菌種A、B及びCの生菌数(CFU)とATP量の関係を示すグラフである。図6のように予め代表的な菌体(指標菌)に関する生菌数とATP量の関係をデータベース化しておくことで、測定された発光量から生菌数を算出することが可能となる。図6に示すように、菌種によって生菌1個あたりに含まれるATP量が異なるため、実際には厳密な個数データは算出できない。図6の例では、菌あたりのATP量が最も少ない菌種Cを指標とし、生菌数換算による汚染状況モニタリングを行なえば、厳格な微生物の汚染管理ができることになる。
【0082】
[実施例3]
本実施例では、ATP法を用いて生菌計測を行なう際に光学フィルタを介した分光測定を付加した動作フローについて説明する。
【0083】
図7A及び7Bは、発光測定及び生菌計数の手順(典型例)を説明するためのフローチャートである。まず、開閉ステージ4を開き(S701)、測定対象物である採取済み菌体試料、ATP消去液、ATP抽出液、その他複数のノズル洗浄液をストックした第1〜第6の溶液容器(23、24、25、26、27、28)を試薬・試料容器ホルダ22に設置し、ルシフェリン−ルシフェラーゼ系発光試薬をストックした測定容器5を発光計測装置1の所定の位置、すなわち測定容器ホルダ6に設置する(S702)。ここでは、第1の溶液容器23にATP消去液、第2の溶液容器24にATP抽出液、第3の溶液容器25に菌体試料、第4の溶液容器26、第5の溶液容器27、第6の溶液容器28にはノズル洗浄液をストックしていることとする。もちろん、試薬・試料容器ホルダ22のどの位置に各々の試薬、試料、ノズル洗浄液を設置してもよい。ノズル洗浄液は注射用水準のATPフリーの蒸留滅菌水、ATPフリーのHEPES緩衝液、ATPフリーのPBS緩衝液、ATPフリーのトリス緩衝液、などが好適である。また、ATPを消費するためルシフェリン−ルシフェラーゼ系発光試薬をノズル洗浄液としても良い。測定容器5は測定容器ホルダ6内に設置する。その後、開閉ステージ4を閉める(S703)。次に、光検出器10であるPMTにHV(高電圧)を印加する(S704)。ここで、ダークカウント値が通常通りの値であることを確認することができ、遮光不良や蓄光のあるなしを検出する。ここでは、図4Aで示すとおり、遮光BOX 7と板状光学フィルタ設置ホルダ13の蓋により、光検出器10(PMT)は遮光BOX 7内で遮光されている。次に、板状光学フィルタ設置ホルダ13上の第1から第4の光学フィルタ(15、16、17、18)が設置されていない図1C及び2Bで説明した光検出器の通過貫通孔21を第1のアクチュエータ14を駆動させて、光検出器10の光電面11の上部に位置させ(S705)、次に第2のアクチュエータ19を駆動させ、光検出器10を上方へ移動させる(S706)。光電面11は光検出器の通過貫通孔21を通過又は内部に位置し、測定容器5へ近接させ(図4−1B、図4−1C)、測定容器5の自家蛍光と測定容器5内の発光試薬の自家蛍光を含む背景光測定(1)を開始する(S707)。一定時間測定した後、続けて、PMT光検出器10を下降させ(S708)、背景光測定(2)を開始する(S709)。光検出器10を下降させた後、板状光学フィルタ設置ホルダ13を駆動させ、第1の光学フィルタ15を、光電面11と測定容器5の間に(図4−2E)、又は測定容器5が石英ガラス薄板42に保持されている形態であれば、その間に挿入する(図4−2D)。一定時間測定した後、さらに、板状光学フィルタ設置ホルダ13を駆動させ、順に、第2の光学フィルタ16、第3の光学フィルタ17、第4の光学フィルタ18を、光電面11と測定容器5の間に、又は測定容器5が石英ガラス薄板42に保持されている形態であれば、その間に挿入していき、各々一定時間の測定を実施する(S709〜S713)。4枚の光学フィルタを介した分光測定が終了した後、再び、板状光学フィルタ設置ホルダ13とPMT光検出器10をPMT背景光測定(1)の状態に戻し、背景光測定(3)を開始する(S714〜S716)。
【0084】
背景光測定中に、菌体試料内の遊離ATPと死菌由来ATPの消去反応、生菌内からのATP抽出反応を実施する。ATP消去液を第1の溶液容器23から分取し、第3の溶液容器25内に分注し、菌体試料と混合反応する(S717)。10分から30分程度反応させ、これにより生菌以外の死菌や遊離ATPを消去する。次にATP抽出液を第2の溶液容器24から分取し、第3の溶液容器25内に分注し、生菌内からATPを抽出する反応を行なう(S718)。次に、生菌からATPが抽出された第3の溶液容器25内の菌体試料を分取し(S719)、分取した試料を測定容器5内へ分注する(S720)。分注と同時にATP抽出反応後の試料中ATPが発光試薬と反応し、その生物化学発光がATP量に依存した光信号量としてあらわれる(S721)。次に、ATP発光の計測を続けながら、PMT光検出器10を第2のアクチュエータ19を駆動させ下降させて(S722)、第1の光学フィルタ15を、光電面11と測定容器5の間に、又は測定容器5が石英ガラス薄板42に保持されている形態であれば、その間に挿入する。一定時間測定した後、さらに、板状光学フィルタ設置ホルダ13を駆動させ、順に、第2の光学フィルタ16、第3の光学フィルタ17、第4の光学フィルタ18を、光電面11と測定容器5の間に、又は測定容器5が石英ガラス薄板42に保持されている形態であれば、その間に挿入していき、各々一定時間の測定を実施する(S723〜S726)。4枚の光学フィルタを介した分光測定が終了した後、再び、光検出器の通過貫通孔21の位置に戻して、計測し(S727)、最後にPMTのHVをOFFとする(S728〜S729)。光測定値からATP量を計算し、生菌数を算出する(S730)。測定終了後、PMT光検出器10を第2のアクチュエータ19により下降移動させ、光検出器の通過貫通孔21の中から抜き出し、動作シーケンススタート時の状態に戻る。この状態で終了となり、測定に使用した第1の溶液容器23、第2の溶液容器24、第3の溶液容器25、第4の溶液容器26、第5の溶液容器27、第6の溶液容器28、さらに、測定容器5を開閉ステージ4を開けて回収し、次の試料の測定へと移る。
【0085】
図7A及び7Bのフローは自動化されており、ユーザが制御装置2上のスタートボタンを押すのみで、工程が順次に進むことが望ましい。各工程間の待ち時間は、ここでは表示していないが、制御装置2で設定できるパラメータとして任意に変更と設定が可能である。なお、ノズル洗浄工程については簡単のため、図7A及び7Bの動作フロー中には記載しなかったが、一般に、試薬分取前と試薬分注後に外壁を洗浄液に浸し、さらに、配管内のバッファー水を適量吐出することでノズル内壁を洗浄する。洗浄液は一回のみの使用が好適であり、本フローでは、ATP消去液の分取前に第4の溶液容器26内で洗浄し、ATP消去液の分注後、又はATP抽出液の分取前に第5の溶液容器27内で洗浄し、調整済み試料の分取の前に、第6の溶液容器28内で洗浄する工程を入れるのが良いが、他のフローを使用しても良い。
【0086】
図8A及び8Bは、図7A及び7Bで説明した動作フローに沿って生菌計測したPMT光検出器10の第2の出力データ52、第3の出力データ60である。横軸は時間、縦軸は1秒間の光子計数値(Count Per Second)で表されている。53は、図7Aの工程(S704)から得られる50秒間のダークカウント信号53を、54は、図7Aの工程(S707)で光検出器の通過貫通孔21の位置で得られる50秒間の第1の背景光信号54を、55は、図7Aの工程(S710)から得られる第1の光学フィルタ15を介した50秒間の第2の背景光信号55を、56は、図7Aの工程(S711)から得られる第2の光学フィルタ16を介した50秒間の第3の背景光信号56を、57は、図7Aの工程(S712)から得られる第3の光学フィルタ17を介した50秒間の第4の背景光信号57を、58は、図7Aの工程(S713)から得られる第4の光学フィルタ18を介した50秒間の第5の背景光信号58を、59は、(S716)の工程で光検出器の通過貫通孔21の位置で得られる50秒間の第6の背景光信号59を各々示している。
【0087】
図8Bは、図8Aから引き続き得られる第3の出力データ60であり、背景光測定がスタートし、ATP消去反応、抽出反応等が終了し、背景光測定から1800秒後にATP発光測定(S721)が今まさに始まるところからのデータを示したものである。59は、図7B(S716)から(S719)の工程で光検出器の通過貫通孔21の位置で得られる第6の背景光信号59のATP測定(S721)の工程に入る直前の最後の50秒のデータ(第6の背景信号)であり、61は、図7Bの工程(S721)で光検出器の通過貫通孔21の位置で得られる第1のATP発光信号61を、62は、図7B(S723)の工程から得られる第1の光学フィルタ15を介した50秒間の第2のATP発光信号62を、63は、図7Bの工程(S724)から得られる第2の光学フィルタ16を介した50秒間の第3のATP発光信号63を、64は、図7Bの工程(S725)から得られる第3の光学フィルタ17を介した50秒間の第4のATP発光信号64を、65は、図7Bの工程(S726)から得られる第4の光学フィルタ18を介した50秒間の第5のATP発光信号65を各々示している。66は、図7A及び7Bの動作フローにおいて、(S728)から(S729)間で同様に光検出器の通過貫通孔21の位置に戻して、50秒間の第6のATP発光信号66を測定した結果である。67は、通過貫通孔位置でのATP発光信号経時曲線を示す。
【0088】
本実験で使用した第1の光学フィルタ15、第2の光学フィルタ16、第3の光学フィルタ17、第4の光学フィルタ18は各々、中心波長562nm(図9Aの69)、半値全幅40nmのバンドパスフィルタ(第1の光学フィルタ)、中心波長624nm(図9Aの70)、半値全幅40nmのバンドパスフィルタ(第2の光学フィルタ)、中心波長655nm(図9Aの71)、半値全幅40nmのバンドパスフィルタ(第3の光学フィルタ)、中心波長472nm(図9Aの72)、半値全幅30nmのバンドパスフィルタ(第4の光学フィルタ)である。図8A及び8Bの結果から、第1の光学フィルタ15、第2の光学フィルタ16、第3の光学フィルタ17、第4の光学フィルタ18を順に光電面11と測定容器5の間に挿入することで、光子計数値が順に低下していくのがわかる。これは、図9Aで示すホタルルシフェリン−ルシフェラーゼのATP発光分光スペクトル68を反映したものであり、発光計測装置1と同じ光検出器10を用いて別途、専用の分光計測装置により測定した結果である。
【0089】
ホタルルシフェリン−ルシフェラーゼのATP発光分光スペクトル68の特徴は、560nm、620nm、670nmの3つの中心波長、ガウシアン曲線でフィッティング可能なピークA、B、Cの和で構成され、さらに、溶液のpHにより、3つの中心波長の強度が変化する(表1、図9A)。溶液のpHの上昇に伴い、pH6.4において支配的な620nmのピークBや微小ピークの670nmのピークCの強度変化に変化は見られないが、560nmのピークAは著しく増大する。図9Aにおいて、73はpH7.0における発光分光スペクトルを、74はpH8.5における発光分光スペクトルを示す。ただし、pH値8.5以上のアルカリ性溶液では、発光強度が著しく低下するため、ここでは表示していない。
【0090】
【表1】

【0091】
なお、第4の光学フィルタ18は、ホタルルシフェリン−ルシフェラーゼのATP発光分光スペクトルに存在しない領域の光検出となるため、ダークカウント信号53と等しい光子計数値まで強度が低下する。つまり、図8Bの第3の出力データ60は、表1のデータベース(最終測定溶液のpHが7.0)における3つのピークA、B、Cの強度差を反映しているため、発光由来はATPのルシフェリン−ルシフェラーゼ発光を正確に高精度に検出したことを示すものとなる。
【0092】
第4の光学フィルタ18を介した光子計数値82は、ATPのルシフェリン−ルシフェラーゼ発光には関係のない波長であるため、ダークカウント信号44と同じ光子計数値となる。ここで、ダークカウント信号44よりも大きな光子計数値が観測された場合は、明らかに不純物が存在している、又は迷光や蓄光、さらには遮光が不十分になっていることが明確に示されたことになる。例えば、蛍光灯などに代表される室内照明は430から450nmを中心波長とする光を発するため、第4の光学フィルタ18は装置の異常を検出する有効なフィルタである。また、ダークカウント信号44と第4の光学フィルタ18の光子計数値は同じであるが、表1のpHに対するピーク比を反映していない場合、ホタルルシフェリン−ルシフェラーゼのATP発光だけでなく、別要因の光が混ざった発光も検出していることになり、所得データは正確な生菌数測定を行なっていないことになる。この場合、使用した試薬類の蛍光を発するコンタミネーションや、500から700nmのブロードな室内照明光を反映した光侵入の可能性があり、装置の遮光性や装置内部に侵入した迷光、光検出器10の光電面11の蓄光を疑い、再検査を実施するなどの判断を下すことが可能となる。
【0093】
正確に測定されていることが確認された際には、生菌数自体の量は、第1のATP発光信号61の白色光の光子計数値(1)90をATP量に換算し、生菌数を導出する。ここで、白色光の光子計数値(1)90は第6の背景光信号59の光子計数値の差分を取った値とする。なぜなら、フィルタを用いていない分、信号強度が高いため、高いSN比のデータをもとに、ATP量の分析と生菌数換算が可能となるからであり、データの信頼性が上がるからである。図7A及び7Bで示したフローチャートに沿ってプロセスを実行した結果からは、以下の情報、すなわち生菌数の量的情報と質的情報が得られる。
生菌数の量的情報:
1. (白色光の光子計数値(1)90)
測定結果の質的情報:
2. (白色光の光子計数値(2)92):(第1の光学フィルタを介した光子計数値(1)75)
3. (第1の光学フィルタを介した光子計数値(2)93):(第2の光学フィルタを介した光子計数値(1)76)
4. (第2の光学フィルタを介した光子計数値(2)89):(第3の光学フィルタを介した光子計数値77)
5. (第4の光学フィルタを介した光子計数値82):(ダークカウントの光子計数値94)
の1.〜5.の5つの情報から、高感度かつ高精度に生菌数計測が可能となる。
【0094】
測定結果の質的情報で、(白色光の光子計数値(2)92)をA、(第1の光学フィルタを介した光子計数値(1)75)をB、(第1の光学フィルタを介した光子計数値(2)93)をC、(第2の光学フィルタを介した光子計数値(1)76)をD、(第2の光学フィルタを介した光子計数値(2)89)をE、(第3の光学フィルタを介した光子計数値77)をF、(第4の光学フィルタを介した光子計数値82)をG、(ダークカウントの光子計数値94)をHとすると、
A/B=K1 (式1)
C/D=K2 (式2)
E/F=K3 (式3)
G/H=K4 (式4)
さらに、式1〜4をまとめて、
K1/K2/K3=一定 (式5)
K2/K3=一定 (式6)
K4=1 (式7)
となる。ここで、K1〜K4はpHに応じて変化する定数である。ただし、試薬のロット差が各K値に影響するため、若干のピーク強度比には差が生じる。そのために、試薬ロット毎に分光スペクトル計測を行い、データベース化しておき、制御装置2に記憶させておくことが重要である。さらに、K値には若干の誤差が含まれるため、各K値にプラスマイナス5〜10%の尤度を持たせるのが良い。
【0095】
もちろん、本実施例で使用した光学フィルタ種やフィルタの数に限定する必要はなく、使用する発光系試薬の波長の特性に合わせて選択することが重要である。
【0096】
一方、図8Aに示される第2の出力データ52から、測定容器5の汚染、ホタルルシフェリン−ルシフェラーゼ発光試薬そのものの状態を確認することができる。もちろん、装置の遮光性や装置内部に侵入した迷光、光検出器10の光電面11の蓄光に関する情報も得ることができる。発光試薬自体自家発光を有しているものが一般的であり、第1の背景光信号54、第6の背景光信号59は、発光試薬由来の自家発光の全体光量の強度である。ここで、第1の背景光信号54の光子計数値が通常時より高い場合に、その原因を究明することが重要である。測定容器5の不純物混入等による自家蛍光なのか、発光試薬にATP他、光を誘発する不純物が混入したかのいずれか、あるいは複合であるのか、である。図8Aは、発光試薬の自家発光のみを示している結果であり、本発光試薬の背景光がATP非存在下におけるホタルルシフェリン−ルシフェラーゼの微弱な自家発光を検出している。なお、第4の光学フィルタ18を介した背景光の光子計数値83が、ダークカウント信号44と同じ光子計数値を示さず、ダークカウント信号44よりも大きな光子計数値が観測された場合は、明らかに不純物が存在している、又は迷光や蓄光、さらには遮光が不十分になっていることが明確に示されたことになる。つまり、
自家発光の量的情報:
1. (白色光の背景光強度の光子計数値96)
自家発光の質的情報:
2. (白色光の背景光信号の光子計数値96):(第1の光学フィルタを介した背景光の光子計数値78)
3. (第1の光学フィルタを介した背景光の光子計数値78):(第2の光学フィルタを介した背景光の光子計数値79)
4. (第2の光学フィルタを介した背景光の光子計数値79):(第3の光学フィルタを介した背景光の光子計数値80)
5. (第4の光学フィルタを介した背景光の光子計数値83):(ダークカウントの光子計数値94)
の1.〜5.の5つの情報から、試薬の状態や装置の状態が正常かを確認することができる。
【0097】
測定結果の質的情報で、(白色光の背景光信号の光子計数値96)をa、(第1の光学フィルタを介した背景光の光子計数値78)をb、((第2の光学フィルタを介した背景光の光子計数値79)をc、(第3の光学フィルタを介した背景光の光子計数値80)をd、(第4の光学フィルタを介した背景光の光子計数値83)をe、(ダークカウントの光子計数値94)をfとすると、
a/b=k1 (式8)
b/c=k2 (式9)
c/d=k3 (式10)
e/f=k4 (式11)
さらに、式8〜11をまとめて、
k1/k2/k3=一定 (式12)
k2/k3=一定 (式13)
k4=1 (式14)
となる。ただし、試薬のロット差が各k値に影響するため、若干のピーク強度比には差が生じる。そのために、試薬ロット毎に分光スペクトル計測を行い、データベース化しておき、制御装置2に記憶させておくことが重要である。さらに、k値には若干の誤差が含まれるため、各k値にプラスマイナス5〜10%の尤度を持たせるのが良い。
【0098】
なお、図9Bは、遺伝子改変ルシフェラーゼ系のATP発光分光スペクトルの一例を示しているが、該試薬はpHに依存しないため、この場合は、最終測定溶液のpH値を意識する必要なく、量的情報と質的情報を取得することができる。さらに、本実施例では、測定の時間間隔を50秒としているが、それに限定するものではない。
【0099】
なお、図4−2D及び図4−2Eは光学フィルタを挿入した測定時の石英ガラス薄板42で測定容器5を保持するケース(図4−2D)と石英ガラス薄板42を使用せず、測定容器5のつば12を利用して測定容器5を保持するケースの光検出器10と測定容器5の位置関係の2つの形態を示している。図4−2D及び図4−2Eは、第1の光学フィルタ15挿入時の状態を示しており、光検出器の通過貫通孔21位置での光検出器10の位置と比べて(図4−1A、図4−1B)、測定容器5との距離が遠くなる。そのため、光の回収効率は低下する。できるかぎり光学フィルタ挿入による分光分の光量低下の信号値に限りなく近づけるため、石英ガラス薄板42を取り除いた形態(図4−2E)が好適である。
【0100】
[実施例4]
本実施例では、微生物汚染モニタの運転フローに関する代表例を説明する。簡単のために、測定容器5の中に予め発光試薬が充填されている発光系消耗品キットを用意する。また、ATP消去液、ATP抽出液、洗浄液等も一体化した試薬キットを用意する。
【0101】
図10A及び10Bは、第2の出力データ52から発光系消耗品キットの品質チェックを行なうフローを模式的に表したものである。図7A及び図7Bのフローに従って、装置を稼動させるが、ここでは、簡略化し、計測項目のみをフロー図に記載した。基本的には、データ解析(S1010)が図7A及び7Bの(S716)と(S717)の間に挿入され、その結果をもとに、その後の運転分岐が新たに追加されたものである。
【0102】
測定試料・消耗品(発光系消耗品キットと試薬キット)を設置し(S1001)、計測を開始し(S1002)、ダークカウント測定(S1003)、第1から第6の背景光測定(S1004〜S1009)が順次実行され、データ解析を実施する(S1010)。データ解析結果から、自家発光の量的情報と発光分光スペクトルに基づく自家蛍光の質的情報がデータベースと一致する場合には、続けて、第1のATP発光測定(S1011)へと移る。しかし、データベースと一致せず、第5の背景光測定結果がダークカウント値と同様である場合には、発光系消耗品キットの交換(S1012)に移り、計測をやり直す(図10A)。また、第1から第5までの背景光信号が大きく、また第5の背景光測定がダークカウントよりも大きく計測された場合には、装置のメンテナンス(S1013)に移行する(図10B)。
【0103】
図10Cは第3の出力データ60から試薬キットの品質チェックとそのフローを模式的に表したものである。(S1011)でOKとなり、即ち、発光系消耗品の汚染がなく、装置異常もないと判断され、第1のATP発光測定(S1011)に進み、続けて、第2〜第6のATP発光測定を実施し(S1014〜S1018)、データ解析を実施する(S1019)。データ解析結果から、ATP発光量の量的情報と質的情報がデータベースと一致する場合には、続けて、生菌数換算(S1020)を実施し、結果を表示して、終了(END)となる。一方、データベースと一致せず、第5の背景光測定結果がダークカウント値と同様である場合には、測定試料と試薬キットの交換(S1021)、さらに、発光系消耗品キットの交換を実施し(S1012)、計測をやり直す(計測失敗)。
【0104】
発光系消耗品キット、試薬キット及び/又は測定試料を連続的に自動で、発光計測装置1内に導入するローディング機構を備えれば、装置メンテに移行するケースを除いては全自動運転が可能となる。
【0105】
図13A及び13Bは、図10A〜10Cで得られる出力データから解析し、生菌数換算で正常な測定を終了するか、装置のメンテナンスに移行するか、消耗品キットの交換に移るかを示す解析パラメータを含むフローチャートの一例である。
【0106】
図13Bは、ATP測定の結果から得られたK1〜K4のパラメータをもとに処理される。予め、分光高度計等で、分光スペクトルを取得しておき(S1308)、データ解析からK1(ref.)〜K4(ref.)値を導出し、制御装置2内に記憶させておく(S1309)。
【0107】
図10Cのとおり、第6のATP発光測定(S1018)が終了し、出力データからK1(data)〜K4(data)を導出し(S1302、S1303)、出力計算値データと分光スペクトルのデータを比較する(S1304)。比較1(K1/K2/K3)において、出力計算値データと分光スペクトルデータが一致した場合(S1304)、続いて、比較2(K4値)を実行し、K4(data)=K4(ref.)が成立すれば、正確な試料の測定を行なっていることが証明され、続いて、得られたATP発光量から、生菌数換算を実施し(S1306)、終了する(S1307)。
【0108】
一方、比較1でNGと判断された場合は、比較3(K2/K3)を実施し(S1310)、出力計算値データと分光スペクトルデータが一致した場合、続けて、比較2(K4値)を実施し(S1311)、K4(data)=K4(ref.)が成立した場合は、消耗品キットの交換を実施せよという警告メッセージが表示される(S1313)。出力計算値データと分光スペクトルデータが一致しない場合には、装置のメンテナンス(S1314)を実施せよという警告メッセージが発信される(S1314)。また、比較3(S1310)でNGとなった場合には、ここでも比較2を実施する(S1312)。比較2の結果でOKの場合は、消耗品キットの交換という警告メッセージがここでも発信される(S1313)。一方、(S1312)にてNGという結果が出た場合には、装置メンテの警告が発せられる(S1314)。また、比較1(S1304)でOKであるが、次の比較2(S1305)でNGとなった場合には、ここでも装置メンテの警告が発せされる(S1314)。(S1313)に辿りついた場合に、消耗品の交換システムが整備されていれば、自動交換機能が働き、引き続き連続して装置を稼動させることが可能であるが、(S1314)に辿りついた場合には、装置を停止し、人が介在して、装置のメンテナンスを行なうことになる。
【0109】
図13Aは、ATP発光計測に移る前の試薬類の消耗品チェック、装置状態チェックの判断フローである。図13Bとほぼ同様であり、ここでは、(S1305)でOKとなった際に、実際の試料の測定を開始することになる(S1315)。
【0110】
[実施例5]
測定溶液のATP発光信号のpH依存性を調べることで、信号がATP発光か否かを判定することができる。例えば、背景信号、ATP発光信号ともに、極微弱である際に、例えば図9Aに示すようなピークAの強度に相当する第1の光学フィルタを介した光子計数値(1)75は検出できるが、ピークBの強度に相当する第2の光学フィルタを介した光子計数値(1)76、ピークCの強度に相当する第3の光学フィルタを介した光子計数値77が信号として検出できない場合があり、そのような場合に測定溶液のATP発光信号のpH依存性を調べることが好ましい。
【0111】
図11はpH変化測定のフローの一例である。測定試料・消耗品(発光系消耗品キットと試薬キット)を設置し(S1101)、計測を開始し(S1102)、ダークカウント測定(S1103)、第1から第6の背景光測定(S1104〜S1109)が順次実行され、データ解析を実施する(S1110)。データ解析結果が、発光分光スペクトルに基づくデータベースと異なる場合(ここでは、図12Aのとおり、光学フィルタ挿入時の背景光信号55、56、57、58は検出限界以下である)、又は、微弱発光であることから、光学フィルタを挿入することにより、検出されないはずの微弱信号が検出された場合、具体的には、第5の背景光測定(S1108)において、信号が検出された場合には、発光系消耗品キットの交換(S1117)に進む。また、明らかに、第1の背景光測定(S1104)の信号が強く、第5の背景光測定(S1108)の信号強度もダークカウント値よりも高い場合には、装置メンテに進み、計測を停止する(S1118)。一方、図12Aの背景光信号の出力データ84が得られた場合には、第1のATP発光測定(S1111)へと進む。続けて、第1の光学フィルタ(ここでは、中心波長562nmのバンドパスフィルタ)を挿入し、第2のATP発光測定を実施し(S1112)、さらに、pH変化剤を添加する。pH添加剤は様々であるが、ここでは、pH7.0の測定溶液中にpH11.0のトリス緩衝液を分注ノズルより適量添加し、測定溶液pH値を7.0から8.5と変化させた。(S1111)から(S1113)で得られた結果のデータ解析を実施し(S1114)、ATP発光量の量的情報とpH変化による質的情報のデータベースが一致した場合には、続けて、生菌数換算(S1115)を実施し、結果を表示して、終了となる。一方、データベースと一致せず、第5の背景光測定(S1108)の結果がダークカウント値と同様である場合には、測定試料と試薬キットの交換(S1120)、さらに、発光系消耗品キットの交換を実施し(S1119)、計測をやり直す(計測失敗)。
【0112】
図12Bは、データ解析に用いるATP発光信号の出力データ85をグラフ化したものであるが、pH7.0からpH8.5の変化により同じ波長で、ピークAの強度の第2のATP信号62がpH8.5変化区間87で増加する。pH8.5に変化後の信号値86/pH7.0の信号値97の増加比から、測定の正確さを確認でき、生菌数計測の質的情報の確かさを確認する。
【0113】
本実施例では、光学フィルタとpH変化剤の両方を組み合わせて使用しているが、光学フィルタを使用せずにpH変化剤を単独で使用することも可能である。その場合には、pH変化剤を添加しないで測定した全波長領域の光強度と、pH変化剤を添加して測定した全波長領域の光強度との比を求めて、発光計測の質的情報を得る。
【0114】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明をわかりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、あるい実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除又は置換を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0115】
1…発光計測装置
2…制御装置
3…測定消耗品キット
4…開閉ステージ
5…測定容器
6…測定容器ホルダ
7…遮光BOX
8…遮光BOXの天板
9…天板の貫通孔
10…光検出器
11…光電面
12…つば
13…板状光学フィルタ設置ホルダ
14…第1のアクチュエータ
15…第1の光学フィルタ
16…第2の光学フィルタ
17…第3の光学フィルタ
18…第4の光学フィルタ
19…第2のアクチュエータ
20…回転軸棒
21…光検出器の通過貫通孔
22…試薬・試料容器ホルダ
23…第1の溶液容器
24…第2の溶液容器
25…第3の溶液容器
26…第4の溶液容器
27…第5の溶液容器
28…第6の溶液容器
29…第3のアクチュエータ
30…第4のアクチュエータ
31…第5のアクチュエータ
32…第6のアクチュエータ
33…第1の分注ノズル
34…第2の分注ノズル
35…第1の送液ポンプ
36…第2の送液ポンプ
37…第1の液体搬送管
38…第2の液体搬送管
39…第1の分注ノズル固定治具
40…第2の分注ノズル固定治具
41…バッファー溶液タンク
42…石英ガラス薄板
43…第1の出力データ
44…ダークカウント信号
45…背景光信号
46…ATP発光信号
47…ATP発光信号のピーク
48…生菌由来のATP発光量
49…ATP検量線
50…生菌3種の検量線
51…菌種A、B、Cの生菌数とATP量の関係を示すグラフ
52…第2の出力データ
53…ダークカウント信号
54…第1の背景光信号
55…第2の背景光信号
56…第3の背景光信号
57…第4の背景光信号
58…第5の背景光信号
59…第6の背景光信号
60…第3の出力データ
61…第1のATP発光信号
62…第2のATP発光信号
63…第3のATP発光信号
64…第4のATP発光信号
65…第5のATP発光信号
66…第6のATP発光信号
67…通過貫通孔位置でのATP発光信号経時曲線
68…ホタルルシフェリン−ルシフェラーゼのATP発光分光スペクトル(分光なし)
69…第1の光学フィルタであるバンドパスフィルタの中心波長562(nm)
70…第2の光学フィルタであるバンドパスフィルタの中心波長624(nm)
71…第3の光学フィルタであるバンドパスフィルタの中心波長655(nm)
72…第4の光学フィルタであるバンドパスフィルタの中心波長472(nm)
73…pH7.0における発光分光スペクトル
74…pH8.5における発光分光スペクトル
75…第1の光学フィルタを介した光子計数値(1)
76…第2の光学フィルタを介した光子計数値(1)
77…第3の光学フィルタを介した光子計数値
78…第1の光学フィルタを介した背景光の光子計数値
79…第2の光学フィルタを介した背景光の光子計数値
80…第3の光学フィルタを介した背景光の光子計数値
81…遺伝子改変ルシフェラーゼ系を用いたATP発光分光スペクトル
82…第4の光学フィルタを介した光子計数値
83…第4の光学フィルタを介した背景光の光子計数値
84…背景光信号の出力データ
85…ATP発光信号の出力データ
86…pH8.5に変化後の信号値
87…pH8.5変化区間
88…第3の液体搬送管
89…第2の光学フィルタを介した光子計数値(2)
90…白色光の光子計数値(1)
92…白色光の光子計数値(2)
93…第1の光学フィルタを介した光子計数値(2)
94…ダークカウントの光子計数値
96…白色光の背景光信号の光子計数値
97…pH7.0の信号値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の発光量を計測する発光計測装置であって、
試料を収める容器と、
前記容器からの発光を検出する光検出器と、
前記光検出器と前記容器との間に挿入される少なくとも1枚の光学フィルタ、及び/又は前記容器に添加されるpH変化剤と
を備え、前記光検出器は、前記容器から発せられる光の全波長領域の測定と、特定の波長範囲に限定する分光測定及び/又はpH変化剤により強度変化した光の測定とを行うことを特徴とする発光計測装置。
【請求項2】
少なくとも1枚の光学フィルタ及びpH変化剤を備えることを特徴とする請求項1に記載の発光計測装置。
【請求項3】
前記容器を保持する容器ホルダと、
前記光学フィルタを支持し、前記光検出器と前記容器との間に該光学フィルタを挿入する光学フィルタホルダと、
前記光学フィルタホルダを移動させる光学フィルタ位置制御部と、
前記光検出器を前記容器に対して相対的に移動させる光検出器位置制御部と
からなる群より選択される少なくとも1つの要素をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の発光計測装置。
【請求項4】
前記光学フィルタは、干渉フィルタ、ダイクロイックフィルタ又はそれらの組合せであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発光計測装置。
【請求項5】
前記光学フィルタは、ある波長又はある波長帯の光を透過させ、その短波長側及び長波長側の光を反射させる光学フィルタであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の発光計測装置。
【請求項6】
前記光学フィルタは少なくとも1枚で構成され、500から700nmの範囲に中心波長を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の発光計測装置。
【請求項7】
前記光学フィルタは少なくとも1枚で構成され、反射光領域の短波長側が500nm以下、かつ反射光領域の長波長側が600nm以上であるダイクロイックフィルタであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発光計測装置。
【請求項8】
前記光学フィルタは少なくとも1枚で構成され、中心波長が550nmから570nmで、半値幅10nmから60nmの干渉フィルタであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発光計測装置。
【請求項9】
前記光学フィルタは2枚で構成され、中心波長が550nmから570nmで半値幅10nmから60nmの第1の干渉フィルタと、中心波長が600nmから630nmで半値幅10nmから60nmの第2の干渉フィルタとであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発光計測装置。
【請求項10】
前記光学フィルタは3枚で構成され、中心波長が550nmから570nmで半値幅10nmから60nmの第1の干渉フィルタと、中心波長が600nmから630nmで半値幅10nmから60nmの第2の干渉フィルタと、中心波長が650nmから680nmで半値幅10nmから60nmの第3の干渉フィルタで構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発光計測装置。
【請求項11】
前記光学フィルタは4枚で構成され、中心波長が430nmから480nmで半値幅10nmから60nmの第1の干渉フィルタと、中心波長が550nmから570nmで半値幅10nmから60nmの第2の干渉フィルタと、中心波長が600nmから630nmで半値幅10nmから60nmの第3の干渉フィルタと、中心波長が650nmから680nmで半値幅10nmから60nmの第4の干渉フィルタで構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発光計測装置。
【請求項12】
前記pH変化剤は、前記試料の溶液pHをpH7.0からpH7.2へ変化させるものであることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に発光計測装置。
【請求項13】
前記pH変化剤は、前記試料の溶液pHをpH7.0からpH6.4へ変化させるものであることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に発光計測装置。
【請求項14】
前記pH変化剤は、前記試料の溶液pHをpH7.0又はpH7.2からpH8.5へ変化させるものであることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に発光計測装置。
【請求項15】
発光が化学発光又は生物発光であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の発光計測装置。
【請求項16】
試料中の微生物を計数する微生物計数装置であって、
試料を収める容器と、
前記容器からの発光を検出する光検出器と、
前記光検出器と前記容器との間に挿入される少なくとも1枚の光学フィルタ、及び/又は前記容器に添加されるpH変化剤と
を備え、前記容器にはATP化学発光を処理する溶液が導入され、前記光検出器は、前記容器から発せられる光の全波長領域の測定と、特定の波長範囲に限定する分光測定及び/又はpH変化剤により強度変化した光の測定とを行うものであり、前記測定の結果から前記試料由来のATPの発光強度を計測し、前記試料中の微生物を計数することを特徴とする微生物計数装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13A】
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【図13B】
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【公開番号】特開2012−211785(P2012−211785A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76637(P2011−76637)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】