発振器
【課題】複数の基本周波数から一つの基本周波数を選択して出力できる小型のMEMS振動子を用いた発振器を提供する。
【解決手段】機械的に振動し得るように設けられた出力用振動子と、前記出力用振動子に直流電圧を印加する直流電圧印加部と、前記出力用振動子の振動の腹部の近傍に配置され、該出力用振動子との間で電界を介して相互に作用する励振用電極と、前記励振用電極に電気的に接続され、前記出力用振動子の共振周波数で発振して発振信号を出力する発振回路とを備える。
【解決手段】機械的に振動し得るように設けられた出力用振動子と、前記出力用振動子に直流電圧を印加する直流電圧印加部と、前記出力用振動子の振動の腹部の近傍に配置され、該出力用振動子との間で電界を介して相互に作用する励振用電極と、前記励振用電極に電気的に接続され、前記出力用振動子の共振周波数で発振して発振信号を出力する発振回路とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS技術を用いた発振器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等に代表される無線携帯機器、パーソナルコンピュータ等の電子機器の小型化と高精度化の要求が高まっている中で、この様な電子機器には小型でしかも安定な高周波信号源が必要不可欠である。この要求を満足させる為の代表的な電子部品が水晶振動子である。水晶振動子は、良好な結晶の安定性から、発振素子の品質の指標である共振先鋭度(即ちQ値)が極めて大きく、10000を超える事が知られている。これが、無線携帯機器、パーソナルコンピュータ等の安定な高周波信号源として、広く水晶振動子が利用されている理由である。しかし、この水晶振動子は、近年のより一層の小型化の要求を十分に満足させる事ができない事も明らかになってきている。
【0003】
そこで近年、水晶振動子の代わりに、シリコンを用いたMEMS(Micro-Electro-Mechanical-System)技術により形成された小型のMEMS振動子を用いたMEMS発振器が報告されている(非特許文献1)。MEMS発振器は水晶発振器に比べて小型化が可能であり、また高周波への対応が容易である事から、特に携帯電話などの小型機器への普及が見込まれている。また、MEMS振動子はシリコンを用いて作製できる事から、周辺回路とワンチップ化する事も可能である。
【非特許文献1】T.Mattila et al., “14MHz Micromechanical Oscillator”, The 11th International Conference on Solid-State Sensors and Actuators, Munich, Germany, 2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の従来技術に係るMEMS発振器によれば、一つの基本周波数しか得られないため、基本周波数以外の周波数が必要な場合、用途に応じて基本周波数を分周または逓倍して利用する必要があり、周波数分周器または周波数逓倍器といった外部回路が必要になるという問題があった。
【0005】
本発明は上記事情を考慮してなされたもので、その目的は、複数の基本周波数から一つの基本周波数を選択して出力できる小型のMEMS振動子を用いた発振器を提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る発振器は、機械的に振動し得るように設けられた出力用振動子と、前記出力用振動子に直流電圧を印加する直流電圧印加部と、前記出力用振動子の振動の腹部の近傍に配置され、該出力用振動子との間で電界を介して相互に作用する励振用電極と、前記励振用電極に電気的に接続され、前記出力用振動子の共振周波数で発振して発振信号を出力する発振回路とを備える。
上記の構成によれば、直流電圧印加部が、出力用振動子に直流電圧を印加し、さらに、励振用電極が、出力用振動子との間で電界を介して相互に作用して出力用振動子を励振して固有振動モードを変化させ、発振回路が、出力用振動子の固有振動モードに応じた共振周波数で発振して発振信号を出力できる。
【0007】
また、本発明に係る発振器は、前記励振用電極と前記発振回路との間に接続され、前記発振回路から前記励振用電極への電気的な接続経路を選択する基本周波数選択回路を更に備えた事を特徴とする。
上記の構成によれば、基本周波数選択回路が、発振回路から励振用電極への電気的な接続経路を選択する事で励振用電極への電圧の印加方法が変更できるため、励振用電極が出力用振動子の所望の位置に電界を介して作用して所望の振動モードを選択し、発振回路が、出力用振動子の所望の共振周波数で発振して発振信号を出力できる。
【0008】
また、本発明に係る発振器は、前記出力用振動子が、半導体基板である支持層に対向して配置され、その少なくとも一部は前記支持層上の絶縁層に固定され、前記励振用電極が、前記支持層に対向して配置され、その全体は前記支持層上の前記絶縁層に固定されている事を特徴とする。
上記の構成によれば、出力用振動子と励振用電極とが同一の半導体基板上に形成できるため、小型化できる。
【0009】
また、本発明に係る発振器は、前記励振用電極が、前記出力用振動子の長辺方向に沿って該出力用振動子の片側に配置された事を特徴とする。
上記の構成によれば、発振器が、励振用電極の配置位置に応じて出力用振動子の所望の振動モードの共振周波数で発振して発振信号を出力できる。
【0010】
また、本発明に係る発振器は、前記励振用電極が、前記出力用振動子の長辺方向に沿って該出力用振動子の両側に配置された事を特徴とする。
上記の構成によれば、発振器が、励振用電極の配置位置に応じて出力用振動子の所望の振動モードの共振周波数で発振して発振信号を出力できる。
【0011】
また、本発明に係る発振器は、前記出力用振動子には直流の正電圧が印加され、前記支持層が接地された事を特徴とする。
上記の構成によれば、発振回路が出力用振動子の共振周波数で発振する事ができる。
【0012】
また、本発明に係る発振器は、前記出力用振動子が接地され、前記支持層には直流の負電圧が印加された事を特徴とする。
上記の構成によれば、発振回路が出力用振動子の共振周波数の2分の1の周波数で発振する事ができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、出力用振動子の振動の腹に相当する位置に励振用電極を配置することで、出力用振動子に発生する静電気力の位置を制御し、出力用振動子の固有振動モードを変化させる様にしたので、複数の基本周波数から一つの基本周波数を選択して出力できる小型のMEMS振動子を用いた発振器が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る発振器のブロック図である。同図に示すように、本発振器は、振動子100、直流バイアス電圧印加回路101、基本周波数選択回路102、出力用発振回路103から構成される。
【0015】
振動子100は、直流バイアス電圧印加回路101に接続されると共に、基本周波数選択回路102にも接続される。また、基本周波数選択回路102は出力用発振回路103に接続される。
【0016】
次に、本実施形態に係る発振器の動作を詳細に説明する。
まず、直流バイアス電圧印加回路101は、振動子100に直流バイアス電圧を印加して静電気力による駆動ができる状態にする。次に、基本周波数選択回路102は、振動子100の共振周波数の選択を行い、出力用発振回路103は、振動子100の共振周波数で発振して出力用発振信号を出力する。
上記の様に本発振器は、基本周波数選択回路102において選択された周波数の発振信号を出力するものである。
【0017】
次に、以上に説明した本実施形態に係る発振器の各構成要素の一例について詳述する。
まず、図2を参照して上記振動子100の構成の第1の例を説明する。
同図に示すように、振動子100は、出力用振動子(カンチレバー)201、出力用振動子電極パッド202,203、励振用電極パッド204〜206、励振用電極207〜209、支持層210、絶縁層211〜215、固定部216,217から構成される。
【0018】
出力用振動子(カンチレバー)201は、支持層210の上面に絶縁層211,212を介して固定部216,217が固定されている。
出力用振動子(カンチレバー)201は固定部216,217と同じ高さに設けられており、出力用振動子(カンチレバー)201と支持層210の間には絶縁層が存在せず空隙となっている。これにより、出力用振動子(カンチレバー)201は、機械的に振動し得る。出力用振動子電極パッド202,203は、それぞれ固定部216,217の上に設けられており、出力用振動子(カンチレバー)201に電気的に接続されている。
【0019】
また、励振用電極207〜209は、支持層210の上面に絶縁層213〜215を介して固定されている。励振用電極パッド204〜206は、それぞれ励振用電極207〜209の上に設けられており、それぞれ励振用電極207〜209に電気的に接続されている。
【0020】
振動子100は、SOI(Silicon-On-Insulator)基板を用いてMEMS技術によって形成される。SOI基板は活性層、絶縁層、支持層210を有している。これらの層の内、活性層(シリコン)は出力用振動子(カンチレバー)201と励振用電極207〜209を形成するために用いられる。この出力用振動子(カンチレバー)201と励振用電極207〜209はエッチングによって、支持層210に対向すると共に互いに隣接して形成される。励振用電極207〜209は、振動子出力用振動子(カンチレバー)201の振動の腹に位置する様に配置される。また、この振動子出力用振動子(カンチレバー)201を可動電極として機能させるため、予め不純物ドープなどにより活性層を低抵抗化しておく。
【0021】
また、上記活性層の加工後にエッチングによって上記出力用振動子(カンチレバー)201の固定部216,217以外の下面の絶縁層を除去することで、出力用振動子(カンチレバー)201と支持層210との間にギャップ(空隙)を形成する。エッチングされずに残った固定部216,217の下面の絶縁層211,212が、支持層210と出力用振動子(カンチレバー)201とをそれぞれ電気的に絶縁すると共に固定部216,217を介して固定する。このような構成により、出力用振動子(カンチレバー)201は固定部216,217を支点として振動する事が可能となる。
また、支持層210は半導体(シリコン)基板であり、出力用振動子(カンチレバー)201を機械的に固定すると共に固定電極としても機能する。
【0022】
さらに、アルミニウム(Al)の蒸着などにより出力用振動子電極パッド202,203が出力用振動子(カンチレバー)201の固定部216,217の上面にそれぞれ形成され、励振用電極パッド204〜206が励振用電極207〜209の上面にそれぞれ形成される。そして、図示しないワイヤボンディングなどを用いてそれぞれのパッドが外部回路に電気的に接続される。
【0023】
次に、振動子100の動作原理を説明する。
図3(a)は、振動子を表す動作原理図である。この図に示す様に、MEMS振動子は空隙を有する電極間の静電容量素子を含んでいる。同図において、301はバネ、302は錘、303は基板、304は励振用電極、305は電極、306は交流電源、307は直流電源である。MEMS振動子は電圧を印加して静電気力による駆動を行うが、その際、交流信号に加えて直流バイアス電圧を印加することで水晶振動子と同じ電気的特性(例えばQ値)となるので、水晶発振器と同様の構成で発振器の振動子として用いる事が可能である。
【0024】
このMEMS振動子の電極に印加される電圧Vは、図3(b)に示す様に、直流バイアス電圧v0、交流信号の振幅δを用いて、
V= v0+δejωt
と表すことができる。
【0025】
次に、図4を参照して、振動子100の各電極への電圧の印加状態と振動子へ働く静電気力について説明する。
同図において、400〜402は直流バイアス電圧源である。その他の構成要素は、図2を用いて説明した振動子100の構成要素と共通するため、説明は省略する。
【0026】
直流バイアス電圧源400(電圧値Vbias)は、正極が出力用振動子電極パッド202に接続され、負極は接地される。また、直流バイアス電圧源401(電圧値+Va)は、正極が励振用電極パッド204に接続され、負極は接地される。また、直流バイアス電圧源402(電圧値−Va)は、負極が励振用電極パッド206に接続され、正極は接地される。また、支持層210と励振用電極パッド205は接地される。なお、電圧値Vbias>Vaとする。
【0027】
次に、同図に示した電圧印加状態における振動子に働く静電気力について説明する。
出力用振動子(カンチレバー)201は、電圧値Vbiasの電圧が印加されているため、所定の電圧が印加されている励振用電極207〜209との間に静電気力が働く。つまり、出力用振動子(カンチレバー)201に働く静電気力Fの大きさは、振動子と電極との間の電位差に比例する。
【0028】
ここで、出力用振動子(カンチレバー)201と励振用電極207との間に働く静電気力をFa、励振用電極208との間に働く静電気力をFb、励振用電極209との間に働く静電気力をFcとする。この場合、出力用振動子(カンチレバー)201の電位は+Vbiasであって、Vbias>Vaであるので、上記の各静電気力は、
|Fa|<|Fb|<|Fc|
の関係を満たす。
【0029】
次に、図5を参照して出力用振動子(カンチレバー)201に上述した様な静電気力が働いた場合の固有振動モードの変化について説明する。
図5(a)は、一点が固定された出力用振動子の固有振動モードの説明図である。
同図において、500は、出力用振動子、501は、支点である。また、出力用振動子500の長さはL、高さはb、幅はtである。また、出力用振動子500は、同図に示した振動方向に振動するものとする。
【0030】
図5(b)、(c)、(d)は、出力用振動子500の振動を図5(a)に示した観察方向から観察した場合の模式図である。
図5(b)は、1次モードの振動を表す。同図に示す様に、出力用振動子500は、支点501を固定して振動し、支点501の反対側が振動の腹となる。
図5(c)は、2次モードの振動を表す。同図に示す様に、出力用振動子500は、支点501を固定して振動し、出力用振動子500の長さ0.774Lの位置が振動の節となる。
図5(d)は、3次モードの振動を表す。同図に示す様に、出力用振動子500は、支点501を固定して振動し、出力用振動子500の長さ0.5Lの位置と0.868Lの位置とが振動の節となる。
【0031】
図5(e)は、両端が固定された振動子の固有振動モードの原理図である。
同図において、510は、出力用振動子、511は、支点である。また、出力用振動子510の長さはL、高さはb、幅はtである。出力用振動子510は、同図に示した振動方向に振動するものとする。
【0032】
図5(f)、(g)、(h)は、出力用振動子510の振動を図5(e)に示した観察方向から観察した場合の模式図である。
図5(f)は、1次モードの振動を表す。同図に示す様に、出力用振動子510は、両端の支点511を固定して振動し、出力用振動子510の長さ方向の中間点が最大振幅の腹となる。
図5(g)は、2次モードの振動を表す。同図に示す様に、出力用振動子510は、両端の支点511を固定して振動し、出力用振動子510の長さ0.5Lの位置が振動の節となる。
図5(h)は、3次モードの振動を表す。同図に示す様に、出力用振動子510は、両端の支点511を固定して振動し、出力用振動子510の両端の支点511から長さ0.359Lの位置がそれぞれ振動の節となる。
【0033】
これらの各固有振動モードにおける共振周波数は、振動子のヤング率をE、振動子の密度をρとして、
【0034】
【数1】
【0035】
と表すことができる。
【0036】
次に、図6を参照して振動子100の接続について説明する。
図6(a)は、振動子の接続図である。同図において、600は、直流バイアス電圧源、601は、交流電圧源、602〜604は、スイッチ、605は、端子(1)、606は、端子(2)である。その他の構成要素は、図2を用いて説明した振動子100の構成要素と共通するため、説明は省略する。
【0037】
直流バイアス電圧印加回路101:直流バイアス電圧源600(電圧値Vb)は、正極が出力用振動子電極パッド203に接続され、負極が接地される。交流電圧源601は、両端が端子(1)605と端子(2)606に接続される。
基本周波数選択回路102:スイッチ602〜604は、接続を3状態間で切り替えられるものであり、スイッチ602は、一端が励振用電極パッド204に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)605と端子(2)606に接続され、1端子は開放されている。また、スイッチ603は、一端が励振用電極パッド205に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)605と端子(2)606に接続され、1端子は開放されている。また、スイッチ604は、一端が励振用電極パッド206に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)605と端子(2)606に接続され、1端子は開放されている。また、支持層210は、接地されている。
【0038】
図6(b)は、交流電圧源の波形図である。同図において、610は、交流電圧源601の波形である。同図は、横軸に時間、縦軸に電圧値を示している。また、波形610の最大値は電圧Vacであり、Vb>Vacとする。また、交流電圧の周波数は、出力用振動子(カンチレバー)201の共振周波数と等しくする。
【0039】
なお、同図においては、固有振動モードの変化の原理を説明するために交流電圧を励振用電極パッド204〜206に印加する簡略化した回路構成としているが、通常は交流電圧源601として出力用発振回路103を接続する。それにより、出力用振動子(カンチレバー)201と励振用電極207〜209との間で電界を介して相互に作用して発振信号を得る事ができる。
【0040】
次に、図7を参照して振動子100の動作を説明する。
図7は、振動子の固有振動モードを表す模式図である。同図は、振動子100を上部から見た模式図である。
図7(a)は、無振動状態の模式図である。同図において、700は、出力用振動子(カンチレバー)201の位置を表す。無振動状態においては、出力用振動子(カンチレバー)201の位置700は、直線である。
【0041】
図7(b)は、1次モードの振動状態の模式図である。701は、出力用振動子(カンチレバー)201が振動して最も励振用電極208に近づいた位置、702は、出力用振動子(カンチレバー)201が振動して最も励振用電極208から遠ざかった位置、703は、出力用振動子(カンチレバー)201の振動中心位置である。
【0042】
出力用振動子(カンチレバー)201の振動中心位置703は、出力用振動子(カンチレバー)201に印加される直流バイアス電圧源600(電圧Vb)の影響で、励振用電極208側へ引力が働いて湾曲する。
【0043】
同図に示した1次モードの振動を発生させる場合、図7(c)に示す励振用電極の接続状態とする事が必要である。
図7(c)は、1次モードの振動時の励振用電極の接続状態を示す図である。
同図に示す様に、1次モードの振動時には、図6における励振用電極207〜209のすべてが端子(1)605へ接続される。つまり、スイッチ602〜604のすべてが端子(1)605側へ接続される。これにより、励振用電極207〜209には、交流電圧源601によって同位相の交流電圧が印加され、この励振用電極207〜209によって出力用振動子(カンチレバー)201に及ぼされる静電気力は常に同一の方向となり、交流電圧の位相に応じて静電気力の大きさが一様に変化するので、1次モードの振動が発生する。
【0044】
次に、2次モードの振動状態について説明する。
図7(d)は、2次モードの振動状態の模式図である。704は、出力用振動子(カンチレバー)201が振動して腹が最も励振用電極207に近づいた位置、705は、出力用振動子(カンチレバー)201が振動して腹が最も励振用電極209に近づいた位置である。
同図に示した2次モードの振動を発生させる場合、図7(e)に示す励振用電極の接続状態とする事が必要である。
【0045】
図7(e)は、2次モードの振動時の励振用電極の接続状態を示す図である。
同図に示す様に、2次モードの振動時には、図6における励振用電極207が端子(1)605へ接続され、励振用電極209が端子(2)606へ接続され、励振用電極208が開放される。つまり、スイッチ602が端子(1)605側へ接続され、スイッチ604が端子(2)606側へ接続され、スイッチ603が開放される。これは、図6(a)に示したスイッチの接続状態である。
【0046】
これにより、励振用電極207,209には、互いに逆位相の交流電圧が印加され、励振用電極208には電圧が印加されないので、励振用電極207によって出力用振動子(カンチレバー)201に及ぼされる静電気力と、励振用電極209によって出力用振動子(カンチレバー)201に及ぼされる静電気力とは、ある瞬間においては常に強さが異なるので、2つの腹と1つの節を持つ2次モードの振動が発生する。
この場合、出力用振動子(カンチレバー)201の共振周波数は、1次モードの際の共振周波数の約2.8倍になるため、交流電圧源601の周波数も約2.8倍に設定する必要がある。
【0047】
つまり、出力用振動子(カンチレバー)201の振動の腹に配置された励振用電極207〜209に印加される交流電圧によって所望の固有振動モードの共振周波数を得る事ができる。なお、上記説明においては2次モードまでの例を説明したが、励振用電極の数、配置位置、電圧印加状態を変更する事で3次モード以上の固有振動モードの共振周波数を得ることもできる。
【0048】
次に、振動子100へのその他の電圧印加方法について説明する。
まず、図8を参照して、振動子100の電極への電圧の印加状態と振動子へ働く静電気力について説明する。
同図において、400〜402は直流バイアス電圧源である。その他の構成要素は、図2を用いて説明した振動子100の構成要素と共通するため、説明は省略する。
【0049】
直流バイアス電圧源400(電圧値Vbias)は、正極が出力用振動子電極パッド202に接続され、負極は支持層210に接続される。また、直流バイアス電圧源401(電圧値+Va)は、正極が励振用電極パッド204に接続され、負極は接地される。また、直流バイアス電圧源402(電圧値−Va)は、負極が励振用電極パッド206に接続され、正極は接地される。また、出力用振動子電極パッド202と励振用電極パッド205は接地される。なお、電圧値Vbias>電圧値Vaとする。
【0050】
次に、同図に示した電圧印加状態における振動子に働く静電気力について説明する。
出力用振動子(カンチレバー)201と所定の電圧が印加されている励振用電極207〜209との間に静電気力が働く。つまり、出力用振動子(カンチレバー)201に働く静電気力Fの大きさは、振動子と電極との間の電位差に比例する。
【0051】
ここで、出力用振動子(カンチレバー)201と励振用電極207との間に働く静電気力をFa、励振用電極208との間に働く静電気力をFb、励振用電極209との間に働く静電気力をFcとする。この場合、出力用振動子(カンチレバー)201の電位はGNDであるので、上記の各静電気力は、
Fa=Fc、Fb=0
の関係を満たす。つまり、励振用電極207と励振用電極209とに印加される電圧が逆極性であっても出力用振動子(カンチレバー)201には同じ方向の静電気力が働く。
【0052】
次に、図9を参照して振動子100の接続について説明する。
図9(a)は、振動子の接続図である。同図において、600は、直流バイアス電圧源、901は、交流電圧源、602〜604は、スイッチ、605は、端子(1)、606は、端子(2)である。その他の構成要素は、図2を用いて説明した振動子100の構成要素と共通するため、説明は省略する。
【0053】
直流バイアス電圧源600(電圧値Vb)は、正極が出力用振動子電極パッド203に接続され、負極が支持層210に接続される。交流電圧源901は、両端が端子(1)605と端子(2)606に接続される。スイッチ602〜604は、接続を3状態間で切り替えられるものであり、スイッチ602は、一端が励振用電極パッド204に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)605と端子(2)606に接続され、1端子は開放されている。また、スイッチ603は、一端が励振用電極パッド205に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)605と端子(2)606に接続され、1端子は開放されている。また、スイッチ604は、一端が励振用電極パッド206に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)605と端子(2)606に接続され、1端子は開放されている。また、出力用振動子電極パッド203は、接地されている。
【0054】
図9(b)は、交流電圧源の波形図である。同図において、910は、交流電圧源901の波形である。同図は、横軸に時間、縦軸に電圧値を示している。波形910の最大値は電圧Vacであり、Vb>Vacとする。また、前述の様に励振用電極に印加される電圧の極性が逆方向であっても同じ向きに静電気力が働くので、交流電圧源901の周波数は出力用振動子(カンチレバー)201の共振周波数の2分の1となる。
【0055】
なお、同図においては、固有振動モードの変化の原理を説明するために交流電圧を励振用電極パッド204〜206に印加する簡略化した回路構成としているが、通常は交流電圧源901として出力用発振回路103を接続する。それにより、出力用振動子(カンチレバー)201と励振用電極207〜209との間で電界を介して相互に作用して発振信号を得る事ができる。
【0056】
次に、図10を参照して振動子100の動作を説明する。
図10は、振動子の固有振動モードを表す模式図である。同図は、振動子100を上部から見た模式図である。
図10(a)は、無振動状態の模式図である。同図において、700は、出力用振動子(カンチレバー)201の位置を表す。無振動状態においては、出力用振動子(カンチレバー)201の位置700は、直線である。
【0057】
図10(b)は、1次モードの振動状態の模式図である。1001は、出力用振動子(カンチレバー)201が振動して最も励振用電極208に近づいた位置、1002は、出力用振動子(カンチレバー)201が振動して最も励振用電極208から遠ざかった位置、1003は、出力用振動子(カンチレバー)201の振動中心位置である。
出力用振動子(カンチレバー)201の振動中心位置1003は、振動子の電位がGNDであるため、湾曲しない。
同図に示した1次モードの振動の場合、図10(c)に示す励振用電極の接続状態とする事が必要である。
【0058】
図10(c)は、1次モードの振動時の励振用電極の接続状態を示す図である。
同図に示す様に、1次モードの振動時には、図9における励振用電極207〜209のすべてが端子(1)605へ接続される。つまり、スイッチ602〜604のすべてが端子(1)605側へ接続される。これにより、励振用電極207〜209には、同位相の交流電圧が印加され、この励振用電極207〜209によって出力用振動子(カンチレバー)201に及ぼされる静電気力は常に同一の方向となるので、1次モードの振動が発生する。
【0059】
次に、2次モードの振動状態について説明する。
図10(d)は、2次モードの振動状態の模式図である。1004は、出力用振動子(カンチレバー)201が振動して腹が最も励振用電極207に近づいた位置、1005は、出力用振動子(カンチレバー)201が振動して腹が最も励振用電極209に近づいた位置である。
同図に示した2次モードの振動の場合、図10(e)に示す励振用電極の接続状態とする事が必要である。
【0060】
図10(e)は、2次モードの振動時の励振用電極の接続状態を示す図である。
同図に示す様に、2次モードの振動時には、図9における励振用電極207が端子(1)605へ接続され、励振用電極209が端子(2)606へ接続され、励振用電極208が開放される。つまり、スイッチ602が端子(1)605側へ接続され、スイッチ604が端子(2)606側へ接続され、スイッチ603が開放される。これは、図9(a)に示したスイッチの接続状態である。
【0061】
これにより、励振用電極207、209には、互いに逆位相の交流電圧が印加され、励振用電極208には電圧が印加されないので、励振用電極207によって出力用振動子(カンチレバー)201に及ぼされる静電気力と、励振用電極209によって出力用振動子(カンチレバー)201に及ぼされる静電気力とは常に同じ大きさとなるので、静電気力の及ぼされない励振用電極208の部分を節として2次モードの振動が発生する。
【0062】
この場合、出力用振動子(カンチレバー)201の共振周波数は、1次モードの際の共振周波数の約2.8倍になるため、交流電圧源901の周波数も約2.8倍に設定する必要がある。
上述の様な直流バイアス電圧の印加を行う事で、1次モードの場合、出力用振動子(カンチレバー)201の持つ共振周波数の2分の1の発振周波数を得る事ができ、2次モードの場合、その約2.8倍の発振周波数を得る事ができる。
【0063】
次に、図11を参照して発振回路の一例を説明する。
同図に示した発振回路は、図1を用いて説明した出力用発振回路103の回路例である。なお、本発振回路は、水晶発振器で一般に用いられているコルピッツ発振回路を応用した回路である。
【0064】
同図に示すように、発振回路は、振動子1100、スイッチ1101、直流成分カット用容量1102,1103、負荷容量1104,1105、負荷抵抗1108、インバータ(アンプ)1110,1111、発振信号出力端子1120から構成される。ここで、振動子1100は、図2に示した振動子100を表し、スイッチ1101は、図6に示したスイッチ604〜606を表す。ここでは、振動子1100は2端子、スイッチ1101は2入出力端子の一例を示しているが、端子数はこの例に限定されない。
【0065】
振動子1100の両端には、スイッチ1101の2つの入力端がそれぞれ接続される。また、スイッチ1101の2つの出力端には、直流成分カット用容量1102,1103の一端がそれぞれ接続される。
【0066】
直流成分カット用容量1102の他端は、負荷容量1104の一端が接続されると共に、インバータ(アンプ)1110の入力端と負荷抵抗1108の一端が接続される。また、直流成分カット用容量1103の他端は、負荷容量1105の一端が接続されると共に、インバータ(アンプ)1110の出力端とインバータ(アンプ)1111の入力端と負荷抵抗1108の他端とが接続される。
また、負荷容量1104,1105の他端は、それぞれ接地される。インバータ(アンプ)1111の出力は、発振信号出力端子1120に接続される。
【0067】
次に、発振回路の動作を説明する。
発振回路は、振動子1100の共振周波数で発振して発振信号を発振信号出力端子1120から出力する。ここで、図7を用いて説明した様に、スイッチ1101を切り替える事によって振動子1100の固有振動モードを変更し、共振周波数を変化させて発振器の発振周波数を変更できる。これは、本発明における基本周波数選択回路として機能する。
【0068】
上述してきた構成を用いる事で、本実施形態に係る発振器は、1次モードのみではなく、2次モード以上の固有振動モードを利用して、複数の基本周波数から一つの基本周波数を選択して発振信号を出力する事ができる。
【0069】
次に、振動子の第2の構成例を説明する。
図12は、振動子の第2の構成例を示す斜視図である。
同図に示すように、振動子1200は、出力用振動子(カンチレバー)1201、出力用振動子電極パッド1202,1203、励振用電極パッド1204〜1209、励振用電極1210〜1215、支持層1216、絶縁層1217〜1224、固定部1225,1226から構成される。
【0070】
出力用振動子(カンチレバー)1201は、支持層1216の上面に絶縁層1217,1218を介して固定部1225,1226が固定されている。
出力用振動子(カンチレバー)1201は固定部1225,1226と同じ高さに設けられており、出力用振動子(カンチレバー)1201と支持層1216の間には絶縁層が存在せず空隙となっている。これにより、出力用振動子(カンチレバー)1201は、機械的に振動し得る。出力用振動子電極パッド1202,1203は、それぞれ固定部1225,1226の上に設けられており、出力用振動子(カンチレバー)1201に電気的に接続されている。
【0071】
また、励振用電極1210〜1215は、支持層1216の上面に絶縁層1217〜1224を介して固定されている。励振用電極パッド1204〜1209は、それぞれ励振用電極1210〜1215の上に設けられており、それぞれ励振用電極1210〜1215に電気的に接続されている。
【0072】
振動子1200は、SOI(Silicon-On-Insulator)基板を用いてMEMS技術によって形成される。SOI基板は活性層、絶縁層、支持層1216を有している。これらの層の内、活性層(シリコン)は出力用振動子(カンチレバー)1201と励振用電極1210〜1215を形成するために用いられる。この出力用振動子(カンチレバー)1201と励振用電極1210〜1215はエッチングによって、支持層1216に対向すると共に互いに隣接して形成される。励振用電極1210と励振用電極1213、励振用電極1211と励振用電極1214、励振用電極1212と励振用電極1215は、それぞれ互いに対向し、振動子出力用振動子(カンチレバー)1201の振動の腹に位置する様に配置される。また、この振動子出力用振動子(カンチレバー)1201を可動電極として機能させるため、予め不純物ドープなどにより活性層を低抵抗化しておく。
【0073】
また、上記活性層の加工後にエッチングによって上記出力用振動子(カンチレバー)1201の固定部1225,1226以外の下面の絶縁層を除去することで、出力用振動子(カンチレバー)1201と支持層1216との間にギャップ(空隙)を形成する。エッチングされずに残った固定部1225,1226の下面の絶縁層1217,1218が、支持層1216と出力用振動子(カンチレバー)1201とをそれぞれ電気的に絶縁すると共に固定部1225,1226を介して固定する。このような構成により、出力用振動子(カンチレバー)1201は固定部1225,1226を支点として振動する事が可能となる。
また、支持層1216は半導体(シリコン)基板であり、出力用振動子(カンチレバー)1201を機械的に固定すると共に固定電極としても機能する。
【0074】
さらに、アルミニウム(Al)の蒸着などにより出力用振動子電極パッド1202,1203が出力用振動子(カンチレバー)1201の固定部1225,1226の上面にそれぞれ形成される。また、励振用電極パッド1204〜1209が励振用電極1210〜1215の上面にそれぞれ形成され、図示しないワイヤボンディングなどを用いてそれぞれのパッドが外部回路に電気的に接続される。
【0075】
次に、図13を参照して、振動子1200の各電極への電圧の印加状態と振動子へ働く静電気力について説明する。
同図において、1300〜1302は直流バイアス電圧源である。その他の構成要素は、図12を用いて説明した振動子1200の構成要素と共通するため、説明は省略する。
【0076】
直流バイアス電圧源1300(電圧値Vbias)は、正極が出力用振動子電極パッド1202に接続され、負極は接地される。また、直流バイアス電圧源1301(電圧値Va)は、正極が励振用電極パッド1204に接続され、負極は接地される。また、直流バイアス電圧源1302(電圧値Va)は、負極が励振用電極パッド1206に接続され、正極は接地される。また、支持層1216と励振用電極パッド1205,1207,1208,1209は接地される。なお、電圧値Vbias>電圧値Vaとする。
【0077】
次に、同図に示した電圧印加状態における振動子に働く静電気力について説明する。
出力用振動子(カンチレバー)1201は、電圧値Vbiasが印加されているため、所定の電圧が印加されている励振用電極1210〜1215との間に静電気力が働く。つまり、出力用振動子(カンチレバー)1201に働く静電気力Fの大きさは、振動子と電極との間の電位差に比例する。
【0078】
ここで、出力用振動子(カンチレバー)1201と励振用電極1210,1213との間に働く静電気力をFa、励振用電極1211,1214との間に働く静電気力をFb、励振用電極1212,1215との間に働く静電気力をFcとする。この場合、出力用振動子(カンチレバー)1201の電位は+Vbiasであって、Vbias−Va<Vbias+Vaであるので、上記の各静電気力は、
|Fa|<|Fc|、Fb=0
の関係を満たす。
【0079】
次に、図14を参照して振動子1200の接続について説明する。
図14(a)は、振動子の接続図である。同図において、1400は、直流バイアス電圧源、1401は、交流電圧源、1402〜1407は、スイッチ、1408は、端子(1)、1409は、端子(2)である。その他の構成要素は、図12を用いて説明した振動子1200の構成要素と共通するため、説明は省略する。
【0080】
直流バイアス電圧源1400(電圧値Vb)は、正極が出力用振動子電極パッド1203に接続され、負極が接地される。交流電圧源1401は、両端が端子(1)1408と端子(2)1409に接続される。スイッチ1402〜1407は、接続を3状態間で切り替えられるものであり、スイッチ1402は、一端が励振用電極パッド1204に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)1408と端子(2)1409に接続され、1端子は開放されている。また、スイッチ1403は、一端が励振用電極パッド1205に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)1408と端子(2)1409に接続され、1端子は開放されている。また、スイッチ1404は、一端が励振用電極パッド1206に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)1408と端子(2)1409に接続され、1端子は開放されている。
【0081】
また、スイッチ1405は、一端が励振用電極パッド1207に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)1408と端子(2)1409に接続され、1端子は開放されている。また、スイッチ1406は、一端が励振用電極パッド1208に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)1408と端子(2)1409に接続され、1端子は開放されている。また、スイッチ1407は、一端が励振用電極パッド1209に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)1408と端子(2)1409に接続され、1端子は開放されている。また、支持層1216は、接地されている。
【0082】
図14(b)は、交流電圧源の波形図である。同図において、1410は、交流電圧源1401の波形である。同図は、横軸に時間、縦軸に電圧値を示している。波形1410の最大値は電圧Vacであり、Vb>Vacとする。また、交流電圧の周波数は、出力用振動子(カンチレバー)1201の共振周波数と等しくする。
【0083】
なお、同図においては、固有振動モードの変化の原理を説明するために交流電圧を励振用電極パッド1204〜1209に印加する簡略化した回路構成としているが、通常は交流電圧源1401として出力用発振回路103を接続する。それにより、出力用振動子(カンチレバー)1201と励振用電極1210〜1215との間で電界を介して相互に作用して発振信号を得る事ができる。
【0084】
次に、図15を参照して振動子1200の動作を説明する。
図15は、振動子の固有振動モードを表す模式図である。同図は、振動子1200を上部から見た模式図である。
図15(a)は、無振動状態の模式図である。同図において、1500は、出力用振動子(カンチレバー)1201の位置を表す。無振動状態においては、出力用振動子(カンチレバー)1201の位置1500は、直線である。
【0085】
図15(b)は、1次モードの振動状態の模式図である。1501は、出力用振動子(カンチレバー)1201が振動して最も励振用電極1214に近づいた位置、1502は、出力用振動子(カンチレバー)1201が振動して最も励振用電極1211に近づいた位置、1503は、出力用振動子(カンチレバー)1201の振動中心位置である。
【0086】
同図に示した1次モードの振動を発生させる場合、図15(c)に示す励振用電極の接続状態とする事が必要である。
図15(c)は、1次モードの振動時の励振用電極の接続状態を示す図である。
同図に示す様に、1次モードの振動時には、図14における励振用電極1213〜1215が端子(1)1408へ接続され、励振用電極1210〜1212が端子(2)1409へ接続される。つまり、スイッチ1405〜1407が端子(1)1408側へ接続され、スイッチ1402〜1404が端子(2)1409側へ接続される。これは、図14(a)に示したスイッチの接続状態である。
【0087】
これにより、励振用電極1210〜1212には、同位相の交流電圧が印加され、励振用電極1213〜1215には、励振用電極1210〜1212とは逆位相の交流電圧が印加される。従って、この励振用電極1210〜1212によって出力用振動子(カンチレバー)1201に及ぼされる静電気力は、励振用電極1213〜1215によって出力用振動子(カンチレバー)1201に及ぼされる静電気力とは常に逆方向の力となるので、1次モードの振動が発生する。
【0088】
次に、2次モードの振動状態について説明する。
図15(d)は、2次モードの振動状態の模式図である。1504は、出力用振動子(カンチレバー)1201が振動して腹が最も励振用電極1212,1213に近づいた位置、1505は、出力用振動子(カンチレバー)1201が振動して腹が最も励振用電極1210,1215に近づいた位置である。
同図に示した2次モードの振動を発生させる場合、図15(e)に示す励振用電極の接続状態とする事が必要である。
【0089】
図15(e)は、2次モードの振動時の励振用電極の接続状態を示す図である。
同図に示す様に、2次モードの振動時には、図14における励振用電極1212,1213が端子(1)1408へ接続され、励振用電極1210,1215が端子(2)1409へ接続され、励振用電極1211,1214が開放される。つまり、スイッチ1404,1405が端子(1)1408側へ接続され、スイッチ1402,1407が端子(2)1409側へ接続され、スイッチ1403,1406が開放される。
【0090】
これにより、励振用電極1212,1213には、同位相の交流電圧が印加され、励振用電極1210,1215には、励振用電極1212,1213とは逆位相の交流電圧が印加され、励振用電極1211,1214には電圧が印加されない。
従って、励振用電極1210,1213によって出力用振動子(カンチレバー)1201に及ぼされる静電気力と、励振用電極1212,1215によって出力用振動子(カンチレバー)1201に及ぼされる静電気力とは常に逆方向となるので、2つの腹と1つの節を持つ2次モードの振動が発生する。
【0091】
この場合、出力用振動子(カンチレバー)1201の共振周波数は、1次モードの際の共振周波数の約2.8倍になるため、交流電圧源1401の周波数も約2.8倍に設定する必要がある。
つまり、上述の振動子1200を用いると、1次モードである基本周波数に加えて、2次モードである約2.8倍の基本周波数の発振周波数を得る事ができる。
【0092】
次に、振動子の第3の構成例を説明する。
図16は、振動子の第3の構成例を示す斜視図である。
同図に示すように、振動子1600は、出力用振動子(カンチレバー)1601、出力用振動子電極パッド1602、励振用電極パッド1603〜1605、励振用電極1606〜1608、支持層1609、絶縁層1610〜1613、固定部1614から構成される。
【0093】
出力用振動子(カンチレバー)1601は、支持層1609の上面に絶縁層1610を介して固定部1614が固定されている。
出力用振動子(カンチレバー)1601は固定部1614と同じ高さに設けられており、出力用振動子(カンチレバー)1601と支持層1609の間には絶縁層が存在せず空隙となっている。これにより、出力用振動子(カンチレバー)1601は、機械的に振動し得る。出力用振動子電極パッド1602は、固定部1614の上に設けられており、出力用振動子(カンチレバー)1601に電気的に接続されている。
【0094】
また、励振用電極1606〜1608は、支持層1609の上面に絶縁層1611〜1613を介して固定されている。励振用電極パッド1603〜1605は、それぞれ励振用電極1606〜1608の上に設けられており、それぞれ励振用電極1606〜1608に電気的に接続されている。
【0095】
振動子1600は、SOI(Silicon-On-Insulator)基板を用いてMEMS技術によって形成される。SOI基板は活性層、絶縁層、支持層1609を有している。これらの層の内、活性層(シリコン)は出力用振動子(カンチレバー)1601と励振用電極1606〜1608を形成するために用いられる。この出力用振動子(カンチレバー)1601と励振用電極1606〜1608はエッチングによって、支持層1609に対向すると共に互いに隣接して形成される。励振用電極1606〜1608は、振動子出力用振動子(カンチレバー)1601の振動の腹に位置する様に配置される。また、この振動子出力用振動子(カンチレバー)1601を可動電極として機能させるため、予め不純物ドープなどにより活性層を低抵抗化しておく。
【0096】
また、上記活性層の加工後にエッチングによって上記出力用振動子(カンチレバー)1601の固定部1614以外の下面の絶縁層を除去することで、出力用振動子(カンチレバー)1601と支持層1609との間にギャップ(空隙)を形成する。エッチングされずに残った固定部1614の下面の絶縁層1610が、支持層1609と出力用振動子(カンチレバー)1601とをそれぞれ電気的に絶縁すると共に固定部1614を介して固定する。このような構成により、出力用振動子(カンチレバー)1601は固定部1614を支点として振動する事が可能となる。
また、支持層1609は半導体(シリコン)基板であり、出力用振動子(カンチレバー)1601を機械的に固定すると共に固定電極としても機能する。
【0097】
さらに、アルミニウム(Al)の蒸着などにより出力用振動子電極パッド1602が出力用振動子(カンチレバー)1601の固定部1614の上面に形成される。また、励振用電極パッド1603〜1605が励振用電極1606〜1608の上面にそれぞれ形成され、図示しないワイヤボンディングなどを用いてそれぞれのパッドが外部回路に電気的に接続される。
【0098】
次に、図17を参照して、振動子1600の電極への電圧の印加状態と振動子へ働く静電気力について説明する。
同図において、1700〜1702は直流バイアス電圧源である。その他の構成要素は、図16を用いて説明した振動子1600の構成要素と共通するため、説明は省略する。
【0099】
直流バイアス電圧源1700(電圧値Vbias)は、正極が出力用振動子電極パッド1602に接続され、負極は支持層1609に接続される。また、直流バイアス電圧源1701(電圧値+Va)は、正極が励振用電極パッド1603に接続され、負極は接地される。また、直流バイアス電圧源1702(電圧値−Va)は、負極が励振用電極パッド1605に接続され、正極は接地される。また、出力用振動子電極パッド1602と励振用電極パッド1604は接地される。なお、電圧値Vbias>電圧値Vaとする。
【0100】
次に、同図に示した電圧印加状態における振動子に働く静電気力について説明する。
出力用振動子(カンチレバー)1601と所定の電圧が印加されている励振用電極1603〜1605との間に静電気力が働く。つまり、出力用振動子(カンチレバー)1601に働く静電気力Fの大きさは、振動子と電極との間の電位差に比例する。
【0101】
ここで、出力用振動子(カンチレバー)1601と励振用電極1606との間に働く静電気力をFa、励振用電極1607との間に働く静電気力をFb、励振用電極1608との間に働く静電気力をFcとする。この場合、出力用振動子(カンチレバー)1601の電位はGNDであるので、上記の各静電気力は、
|Fa|<|Fb|<|Fc|
の関係を満たす。
【0102】
次に、図18を参照して振動子1600の接続について説明する。
図18(a)は、振動子の接続図である。同図において、1800は、直流バイアス電圧源、1801は、交流電圧源、1802〜1804は、スイッチ、1805は、端子(1)、1806は、端子(2)である。その他の構成要素は、図16を用いて説明した振動子1600の構成要素と共通するため、説明は省略する。
【0103】
直流バイアス電圧源1800(電圧値Vb)は、正極が出力用振動子電極パッド1602に接続され、負極が支持層1609に接続される。交流電圧源1801は、両端が端子(1)1805と端子(2)1806に接続される。スイッチ1802〜1804は、接続を3状態間で切り替えられるものであり、スイッチ1802は、一端が励振用電極パッド1603に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)1805と端子(2)1806に接続され、1端子は開放されている。また、スイッチ1803は、一端が励振用電極パッド1604に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)1805と端子(2)1806に接続され、1端子は開放されている。また、スイッチ1804は、一端が励振用電極パッド1605に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)1805と端子(2)1806に接続され、1端子は開放されている。また、出力用振動子電極パッド1602は、接地されている。
【0104】
図18(b)は、交流電圧源の波形図である。同図において、1810は、交流電圧源1801の波形である。同図は、横軸に時間、縦軸に電圧値を示している。波形1810の最大値は電圧Vacであり、Vb>Vacとする。また、前述の様に励振用電極に印加される電圧の極性が逆方向であっても同じ向きに静電気力が働くので、交流電圧源1801の周波数は出力用振動子(カンチレバー)1601の共振周波数の2分の1となる。
【0105】
なお、同図においては、固有振動モードの変化の原理を説明するために交流電圧を励振用電極パッド1603〜1605に印加する簡略化した回路構成としているが、通常は交流電圧源1801として出力用発振回路103を接続する。それにより、出力用振動子(カンチレバー)1601と励振用電極1606〜1608との間で電界を介して相互に作用して発振信号を得る事ができる。
【0106】
次に、図19を参照して振動子1600の動作を説明する。
図19は、振動子の固有振動モードを表す模式図である。同図は、振動子1600を上部から見た模式図である。
図19(a)は、無振動状態の模式図である。同図において、1900は、出力用振動子(カンチレバー)1601の位置を表す。無振動状態においては、出力用振動子(カンチレバー)1601の位置1900は、直線である。
【0107】
図19(b)は、1次モードの振動状態の模式図である。1901は、出力用振動子(カンチレバー)1601が振動して最も励振用電極1608に近づいた位置、1902は、出力用振動子(カンチレバー)1601が振動して最も励振用電極1608から遠ざかった位置、1903は、出力用振動子(カンチレバー)1601の振動中心位置である。
出力用振動子(カンチレバー)1601の振動中心位置1903は、出力用振動子(カンチレバー)1601に印加される直流バイアス電圧源1800(電圧Vb)の影響で、励振用電極1608側へ引力が働いて湾曲する。
同図に示した1次モードの振動の場合、図19(c)に示す励振用電極の接続状態とする事が必要である。
【0108】
図19(c)は、1次モードの振動時の励振用電極の接続状態を示す図である。
同図に示す様に、1次モードの振動時には、図18における励振用電極1606〜1608のすべてが端子(1)1805へ接続される。つまり、スイッチ1802〜1804のすべてが端子(1)1805側へ接続される。これにより、励振用電極1606〜1608には、同位相の交流電圧が印加され、この励振用電極1606〜1608によって出力用振動子(カンチレバー)1601に及ぼされる静電気力は常に同一の方向となるので、1次モードの振動が発生する。
【0109】
次に、2次モードの振動状態について説明する。
図19(d)は、2次モードの振動状態の模式図である。1904は、出力用振動子(カンチレバー)1601が振動して自由端が最も励振用電極1608に近づいた位置、1905は、出力用振動子(カンチレバー)1601が振動して自由端が最も励振用電極1608から遠ざかった位置である。
同図に示した2次モードの振動の場合、図19(e)に示す励振用電極の接続状態とする事が必要である。
【0110】
図19(e)は、2次モードの振動時の励振用電極の接続状態を示す図である。
同図に示す様に、2次モードの振動時には、図18における励振用電極1606,1607が端子(1)1805へ接続され、励振用電極1608が開放される。つまり、スイッチ1802,1803が端子(1)1805側へ接続され、スイッチ1804が開放される。これは、図18(a)に示したスイッチの接続状態である。
【0111】
これにより、励振用電極1606,1607には、同位相の交流電圧が印加され、励振用電極1608には、電圧が印加されない。従って、励振用電極1606,1607によって出力用振動子(カンチレバー)1601に及ぼされる静電気力は、方向が同じで周期的に強さの変化する力となり、励振用電極1608によって出力用振動子(カンチレバー)1601に及ぼされる静電気力は常に一定の力となる。その結果、出力用振動子(カンチレバー)1601は、先端が自由振動すると共に励振用電極1607の近傍が腹となり振動する。つまり、この周期的な力により、2つの腹と1つの節を持った2次モードの振動が発生する。
【0112】
この場合、出力用振動子(カンチレバー)1601の共振周波数は、1次モードの際の共振周波数の約6.3倍になるため、交流電圧源1801の周波数も約6.3倍に設定する必要がある。
上述の様な構成の振動子1600に上述の直流バイアス電圧の印加を行う事で、1次モードの場合、出力用振動子(カンチレバー)1601の持つ共振周波数の2分の1の発振周波数を得る事ができ、2次モードの場合、その約6.3倍の発振周波数を得る事ができる。
【0113】
上述してきた構成とする事で、本発振器は同一の基板上にすべての構成要素を一体化して形成する事が可能である。また、例えば本発振回路の発振信号を利用して各種信号処理を行うその他の集積回路を同一基板上に形成する事も可能である。
【0114】
以上、本発明の実施形態を詳述してきたが、具体的な構成は本実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、励振用電極の数は上述した例に限らず、また、発振回路の構成は図11に示した構成に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明の実施形態に係る発振器のブロック図である。
【図2】同上の振動子の第1の構成例を示す斜視図である。
【図3】同上の振動子を表す原理図である。
【図4】同上の振動子の各電極への電圧の印加状態と振動子へ働く静電気力について説明する図である。
【図5】同上の振動子の固有振動モードの説明図である。
【図6】同上の振動子の接続図である。
【図7】同上の振動子の固有振動モードを表す模式図である
【図8】同上の振動子の電極への電圧の印加状態と振動子へ働く静電気力について説明する図である。
【図9】同上の振動子の接続図である。
【図10】同上の振動子の固有振動モードを表す模式図である。
【図11】同上の発振回路の回路図である。
【図12】同上の振動子の第2の構成例を示す斜視図である。
【図13】同上の振動子の電極への電圧の印加状態と振動子へ働く静電気力について説明する図である。
【図14】同上の振動子の接続図である。
【図15】同上の振動子の固有振動モードを表す模式図である。
【図16】同上の振動子の第3の構成例を示す斜視図である。
【図17】同上の振動子の電極への電圧の印加状態と振動子へ働く静電気力について説明する図である。
【図18】同上の振動子の接続図である。
【図19】同上の振動子の固有振動モードを表す模式図である。
【符号の説明】
【0116】
100;出力用振動子、101;直流バイアス電圧印加回路、102;基本周波数選択回路、103;出力用発振回路、201;出力用振動子(カンチレバー)、202,203;出力用振動子電極パッド、204〜206;励振用電極パッド、207〜209;励振用電極、210;支持層、211〜215;絶縁層、216,217;固定部、301;バネ、302;錘、303;基板、304;励振用電極、305;電極、306;交流電源、307;直流電源、400〜402;直流バイアス電圧源、500;出力用振動子、501;支点、600;直流バイアス電圧源、601;交流電圧源、602〜604;スイッチ、605;端子(1)、606;端子(2)、700;出力用振動子(カンチレバー)の位置、701;出力用振動子(カンチレバー)が振動して最も励振用電極208に近づいた位置、702;出力用振動子(カンチレバー)が振動して最も励振用電極208から遠ざかった位置、703;出力用振動子(カンチレバー)の振動中心位置、901;交流電圧源、910;交流電圧源の波形、1001;出力用振動子(カンチレバー)が振動して最も励振用電極208に近づいた位置、1002;出力用振動子(カンチレバー)が振動して最も励振用電極208から遠ざかった位置、1003;出力用振動子(カンチレバー)の振動中心位置、1004;出力用振動子(カンチレバー)が振動して腹が最も励振用電極207に近づいた位置、1005;出力用振動子(カンチレバー)が振動して腹が最も励振用電極209に近づいた位置、1100;振動子、1101;スイッチ、1102,1103;直流成分カット用容量、1104,1105;負荷容量、1108;負荷抵抗、1110,1111;インバータ(アンプ)、1120;発振信号出力端子。
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS技術を用いた発振器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等に代表される無線携帯機器、パーソナルコンピュータ等の電子機器の小型化と高精度化の要求が高まっている中で、この様な電子機器には小型でしかも安定な高周波信号源が必要不可欠である。この要求を満足させる為の代表的な電子部品が水晶振動子である。水晶振動子は、良好な結晶の安定性から、発振素子の品質の指標である共振先鋭度(即ちQ値)が極めて大きく、10000を超える事が知られている。これが、無線携帯機器、パーソナルコンピュータ等の安定な高周波信号源として、広く水晶振動子が利用されている理由である。しかし、この水晶振動子は、近年のより一層の小型化の要求を十分に満足させる事ができない事も明らかになってきている。
【0003】
そこで近年、水晶振動子の代わりに、シリコンを用いたMEMS(Micro-Electro-Mechanical-System)技術により形成された小型のMEMS振動子を用いたMEMS発振器が報告されている(非特許文献1)。MEMS発振器は水晶発振器に比べて小型化が可能であり、また高周波への対応が容易である事から、特に携帯電話などの小型機器への普及が見込まれている。また、MEMS振動子はシリコンを用いて作製できる事から、周辺回路とワンチップ化する事も可能である。
【非特許文献1】T.Mattila et al., “14MHz Micromechanical Oscillator”, The 11th International Conference on Solid-State Sensors and Actuators, Munich, Germany, 2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の従来技術に係るMEMS発振器によれば、一つの基本周波数しか得られないため、基本周波数以外の周波数が必要な場合、用途に応じて基本周波数を分周または逓倍して利用する必要があり、周波数分周器または周波数逓倍器といった外部回路が必要になるという問題があった。
【0005】
本発明は上記事情を考慮してなされたもので、その目的は、複数の基本周波数から一つの基本周波数を選択して出力できる小型のMEMS振動子を用いた発振器を提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る発振器は、機械的に振動し得るように設けられた出力用振動子と、前記出力用振動子に直流電圧を印加する直流電圧印加部と、前記出力用振動子の振動の腹部の近傍に配置され、該出力用振動子との間で電界を介して相互に作用する励振用電極と、前記励振用電極に電気的に接続され、前記出力用振動子の共振周波数で発振して発振信号を出力する発振回路とを備える。
上記の構成によれば、直流電圧印加部が、出力用振動子に直流電圧を印加し、さらに、励振用電極が、出力用振動子との間で電界を介して相互に作用して出力用振動子を励振して固有振動モードを変化させ、発振回路が、出力用振動子の固有振動モードに応じた共振周波数で発振して発振信号を出力できる。
【0007】
また、本発明に係る発振器は、前記励振用電極と前記発振回路との間に接続され、前記発振回路から前記励振用電極への電気的な接続経路を選択する基本周波数選択回路を更に備えた事を特徴とする。
上記の構成によれば、基本周波数選択回路が、発振回路から励振用電極への電気的な接続経路を選択する事で励振用電極への電圧の印加方法が変更できるため、励振用電極が出力用振動子の所望の位置に電界を介して作用して所望の振動モードを選択し、発振回路が、出力用振動子の所望の共振周波数で発振して発振信号を出力できる。
【0008】
また、本発明に係る発振器は、前記出力用振動子が、半導体基板である支持層に対向して配置され、その少なくとも一部は前記支持層上の絶縁層に固定され、前記励振用電極が、前記支持層に対向して配置され、その全体は前記支持層上の前記絶縁層に固定されている事を特徴とする。
上記の構成によれば、出力用振動子と励振用電極とが同一の半導体基板上に形成できるため、小型化できる。
【0009】
また、本発明に係る発振器は、前記励振用電極が、前記出力用振動子の長辺方向に沿って該出力用振動子の片側に配置された事を特徴とする。
上記の構成によれば、発振器が、励振用電極の配置位置に応じて出力用振動子の所望の振動モードの共振周波数で発振して発振信号を出力できる。
【0010】
また、本発明に係る発振器は、前記励振用電極が、前記出力用振動子の長辺方向に沿って該出力用振動子の両側に配置された事を特徴とする。
上記の構成によれば、発振器が、励振用電極の配置位置に応じて出力用振動子の所望の振動モードの共振周波数で発振して発振信号を出力できる。
【0011】
また、本発明に係る発振器は、前記出力用振動子には直流の正電圧が印加され、前記支持層が接地された事を特徴とする。
上記の構成によれば、発振回路が出力用振動子の共振周波数で発振する事ができる。
【0012】
また、本発明に係る発振器は、前記出力用振動子が接地され、前記支持層には直流の負電圧が印加された事を特徴とする。
上記の構成によれば、発振回路が出力用振動子の共振周波数の2分の1の周波数で発振する事ができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、出力用振動子の振動の腹に相当する位置に励振用電極を配置することで、出力用振動子に発生する静電気力の位置を制御し、出力用振動子の固有振動モードを変化させる様にしたので、複数の基本周波数から一つの基本周波数を選択して出力できる小型のMEMS振動子を用いた発振器が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る発振器のブロック図である。同図に示すように、本発振器は、振動子100、直流バイアス電圧印加回路101、基本周波数選択回路102、出力用発振回路103から構成される。
【0015】
振動子100は、直流バイアス電圧印加回路101に接続されると共に、基本周波数選択回路102にも接続される。また、基本周波数選択回路102は出力用発振回路103に接続される。
【0016】
次に、本実施形態に係る発振器の動作を詳細に説明する。
まず、直流バイアス電圧印加回路101は、振動子100に直流バイアス電圧を印加して静電気力による駆動ができる状態にする。次に、基本周波数選択回路102は、振動子100の共振周波数の選択を行い、出力用発振回路103は、振動子100の共振周波数で発振して出力用発振信号を出力する。
上記の様に本発振器は、基本周波数選択回路102において選択された周波数の発振信号を出力するものである。
【0017】
次に、以上に説明した本実施形態に係る発振器の各構成要素の一例について詳述する。
まず、図2を参照して上記振動子100の構成の第1の例を説明する。
同図に示すように、振動子100は、出力用振動子(カンチレバー)201、出力用振動子電極パッド202,203、励振用電極パッド204〜206、励振用電極207〜209、支持層210、絶縁層211〜215、固定部216,217から構成される。
【0018】
出力用振動子(カンチレバー)201は、支持層210の上面に絶縁層211,212を介して固定部216,217が固定されている。
出力用振動子(カンチレバー)201は固定部216,217と同じ高さに設けられており、出力用振動子(カンチレバー)201と支持層210の間には絶縁層が存在せず空隙となっている。これにより、出力用振動子(カンチレバー)201は、機械的に振動し得る。出力用振動子電極パッド202,203は、それぞれ固定部216,217の上に設けられており、出力用振動子(カンチレバー)201に電気的に接続されている。
【0019】
また、励振用電極207〜209は、支持層210の上面に絶縁層213〜215を介して固定されている。励振用電極パッド204〜206は、それぞれ励振用電極207〜209の上に設けられており、それぞれ励振用電極207〜209に電気的に接続されている。
【0020】
振動子100は、SOI(Silicon-On-Insulator)基板を用いてMEMS技術によって形成される。SOI基板は活性層、絶縁層、支持層210を有している。これらの層の内、活性層(シリコン)は出力用振動子(カンチレバー)201と励振用電極207〜209を形成するために用いられる。この出力用振動子(カンチレバー)201と励振用電極207〜209はエッチングによって、支持層210に対向すると共に互いに隣接して形成される。励振用電極207〜209は、振動子出力用振動子(カンチレバー)201の振動の腹に位置する様に配置される。また、この振動子出力用振動子(カンチレバー)201を可動電極として機能させるため、予め不純物ドープなどにより活性層を低抵抗化しておく。
【0021】
また、上記活性層の加工後にエッチングによって上記出力用振動子(カンチレバー)201の固定部216,217以外の下面の絶縁層を除去することで、出力用振動子(カンチレバー)201と支持層210との間にギャップ(空隙)を形成する。エッチングされずに残った固定部216,217の下面の絶縁層211,212が、支持層210と出力用振動子(カンチレバー)201とをそれぞれ電気的に絶縁すると共に固定部216,217を介して固定する。このような構成により、出力用振動子(カンチレバー)201は固定部216,217を支点として振動する事が可能となる。
また、支持層210は半導体(シリコン)基板であり、出力用振動子(カンチレバー)201を機械的に固定すると共に固定電極としても機能する。
【0022】
さらに、アルミニウム(Al)の蒸着などにより出力用振動子電極パッド202,203が出力用振動子(カンチレバー)201の固定部216,217の上面にそれぞれ形成され、励振用電極パッド204〜206が励振用電極207〜209の上面にそれぞれ形成される。そして、図示しないワイヤボンディングなどを用いてそれぞれのパッドが外部回路に電気的に接続される。
【0023】
次に、振動子100の動作原理を説明する。
図3(a)は、振動子を表す動作原理図である。この図に示す様に、MEMS振動子は空隙を有する電極間の静電容量素子を含んでいる。同図において、301はバネ、302は錘、303は基板、304は励振用電極、305は電極、306は交流電源、307は直流電源である。MEMS振動子は電圧を印加して静電気力による駆動を行うが、その際、交流信号に加えて直流バイアス電圧を印加することで水晶振動子と同じ電気的特性(例えばQ値)となるので、水晶発振器と同様の構成で発振器の振動子として用いる事が可能である。
【0024】
このMEMS振動子の電極に印加される電圧Vは、図3(b)に示す様に、直流バイアス電圧v0、交流信号の振幅δを用いて、
V= v0+δejωt
と表すことができる。
【0025】
次に、図4を参照して、振動子100の各電極への電圧の印加状態と振動子へ働く静電気力について説明する。
同図において、400〜402は直流バイアス電圧源である。その他の構成要素は、図2を用いて説明した振動子100の構成要素と共通するため、説明は省略する。
【0026】
直流バイアス電圧源400(電圧値Vbias)は、正極が出力用振動子電極パッド202に接続され、負極は接地される。また、直流バイアス電圧源401(電圧値+Va)は、正極が励振用電極パッド204に接続され、負極は接地される。また、直流バイアス電圧源402(電圧値−Va)は、負極が励振用電極パッド206に接続され、正極は接地される。また、支持層210と励振用電極パッド205は接地される。なお、電圧値Vbias>Vaとする。
【0027】
次に、同図に示した電圧印加状態における振動子に働く静電気力について説明する。
出力用振動子(カンチレバー)201は、電圧値Vbiasの電圧が印加されているため、所定の電圧が印加されている励振用電極207〜209との間に静電気力が働く。つまり、出力用振動子(カンチレバー)201に働く静電気力Fの大きさは、振動子と電極との間の電位差に比例する。
【0028】
ここで、出力用振動子(カンチレバー)201と励振用電極207との間に働く静電気力をFa、励振用電極208との間に働く静電気力をFb、励振用電極209との間に働く静電気力をFcとする。この場合、出力用振動子(カンチレバー)201の電位は+Vbiasであって、Vbias>Vaであるので、上記の各静電気力は、
|Fa|<|Fb|<|Fc|
の関係を満たす。
【0029】
次に、図5を参照して出力用振動子(カンチレバー)201に上述した様な静電気力が働いた場合の固有振動モードの変化について説明する。
図5(a)は、一点が固定された出力用振動子の固有振動モードの説明図である。
同図において、500は、出力用振動子、501は、支点である。また、出力用振動子500の長さはL、高さはb、幅はtである。また、出力用振動子500は、同図に示した振動方向に振動するものとする。
【0030】
図5(b)、(c)、(d)は、出力用振動子500の振動を図5(a)に示した観察方向から観察した場合の模式図である。
図5(b)は、1次モードの振動を表す。同図に示す様に、出力用振動子500は、支点501を固定して振動し、支点501の反対側が振動の腹となる。
図5(c)は、2次モードの振動を表す。同図に示す様に、出力用振動子500は、支点501を固定して振動し、出力用振動子500の長さ0.774Lの位置が振動の節となる。
図5(d)は、3次モードの振動を表す。同図に示す様に、出力用振動子500は、支点501を固定して振動し、出力用振動子500の長さ0.5Lの位置と0.868Lの位置とが振動の節となる。
【0031】
図5(e)は、両端が固定された振動子の固有振動モードの原理図である。
同図において、510は、出力用振動子、511は、支点である。また、出力用振動子510の長さはL、高さはb、幅はtである。出力用振動子510は、同図に示した振動方向に振動するものとする。
【0032】
図5(f)、(g)、(h)は、出力用振動子510の振動を図5(e)に示した観察方向から観察した場合の模式図である。
図5(f)は、1次モードの振動を表す。同図に示す様に、出力用振動子510は、両端の支点511を固定して振動し、出力用振動子510の長さ方向の中間点が最大振幅の腹となる。
図5(g)は、2次モードの振動を表す。同図に示す様に、出力用振動子510は、両端の支点511を固定して振動し、出力用振動子510の長さ0.5Lの位置が振動の節となる。
図5(h)は、3次モードの振動を表す。同図に示す様に、出力用振動子510は、両端の支点511を固定して振動し、出力用振動子510の両端の支点511から長さ0.359Lの位置がそれぞれ振動の節となる。
【0033】
これらの各固有振動モードにおける共振周波数は、振動子のヤング率をE、振動子の密度をρとして、
【0034】
【数1】
【0035】
と表すことができる。
【0036】
次に、図6を参照して振動子100の接続について説明する。
図6(a)は、振動子の接続図である。同図において、600は、直流バイアス電圧源、601は、交流電圧源、602〜604は、スイッチ、605は、端子(1)、606は、端子(2)である。その他の構成要素は、図2を用いて説明した振動子100の構成要素と共通するため、説明は省略する。
【0037】
直流バイアス電圧印加回路101:直流バイアス電圧源600(電圧値Vb)は、正極が出力用振動子電極パッド203に接続され、負極が接地される。交流電圧源601は、両端が端子(1)605と端子(2)606に接続される。
基本周波数選択回路102:スイッチ602〜604は、接続を3状態間で切り替えられるものであり、スイッチ602は、一端が励振用電極パッド204に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)605と端子(2)606に接続され、1端子は開放されている。また、スイッチ603は、一端が励振用電極パッド205に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)605と端子(2)606に接続され、1端子は開放されている。また、スイッチ604は、一端が励振用電極パッド206に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)605と端子(2)606に接続され、1端子は開放されている。また、支持層210は、接地されている。
【0038】
図6(b)は、交流電圧源の波形図である。同図において、610は、交流電圧源601の波形である。同図は、横軸に時間、縦軸に電圧値を示している。また、波形610の最大値は電圧Vacであり、Vb>Vacとする。また、交流電圧の周波数は、出力用振動子(カンチレバー)201の共振周波数と等しくする。
【0039】
なお、同図においては、固有振動モードの変化の原理を説明するために交流電圧を励振用電極パッド204〜206に印加する簡略化した回路構成としているが、通常は交流電圧源601として出力用発振回路103を接続する。それにより、出力用振動子(カンチレバー)201と励振用電極207〜209との間で電界を介して相互に作用して発振信号を得る事ができる。
【0040】
次に、図7を参照して振動子100の動作を説明する。
図7は、振動子の固有振動モードを表す模式図である。同図は、振動子100を上部から見た模式図である。
図7(a)は、無振動状態の模式図である。同図において、700は、出力用振動子(カンチレバー)201の位置を表す。無振動状態においては、出力用振動子(カンチレバー)201の位置700は、直線である。
【0041】
図7(b)は、1次モードの振動状態の模式図である。701は、出力用振動子(カンチレバー)201が振動して最も励振用電極208に近づいた位置、702は、出力用振動子(カンチレバー)201が振動して最も励振用電極208から遠ざかった位置、703は、出力用振動子(カンチレバー)201の振動中心位置である。
【0042】
出力用振動子(カンチレバー)201の振動中心位置703は、出力用振動子(カンチレバー)201に印加される直流バイアス電圧源600(電圧Vb)の影響で、励振用電極208側へ引力が働いて湾曲する。
【0043】
同図に示した1次モードの振動を発生させる場合、図7(c)に示す励振用電極の接続状態とする事が必要である。
図7(c)は、1次モードの振動時の励振用電極の接続状態を示す図である。
同図に示す様に、1次モードの振動時には、図6における励振用電極207〜209のすべてが端子(1)605へ接続される。つまり、スイッチ602〜604のすべてが端子(1)605側へ接続される。これにより、励振用電極207〜209には、交流電圧源601によって同位相の交流電圧が印加され、この励振用電極207〜209によって出力用振動子(カンチレバー)201に及ぼされる静電気力は常に同一の方向となり、交流電圧の位相に応じて静電気力の大きさが一様に変化するので、1次モードの振動が発生する。
【0044】
次に、2次モードの振動状態について説明する。
図7(d)は、2次モードの振動状態の模式図である。704は、出力用振動子(カンチレバー)201が振動して腹が最も励振用電極207に近づいた位置、705は、出力用振動子(カンチレバー)201が振動して腹が最も励振用電極209に近づいた位置である。
同図に示した2次モードの振動を発生させる場合、図7(e)に示す励振用電極の接続状態とする事が必要である。
【0045】
図7(e)は、2次モードの振動時の励振用電極の接続状態を示す図である。
同図に示す様に、2次モードの振動時には、図6における励振用電極207が端子(1)605へ接続され、励振用電極209が端子(2)606へ接続され、励振用電極208が開放される。つまり、スイッチ602が端子(1)605側へ接続され、スイッチ604が端子(2)606側へ接続され、スイッチ603が開放される。これは、図6(a)に示したスイッチの接続状態である。
【0046】
これにより、励振用電極207,209には、互いに逆位相の交流電圧が印加され、励振用電極208には電圧が印加されないので、励振用電極207によって出力用振動子(カンチレバー)201に及ぼされる静電気力と、励振用電極209によって出力用振動子(カンチレバー)201に及ぼされる静電気力とは、ある瞬間においては常に強さが異なるので、2つの腹と1つの節を持つ2次モードの振動が発生する。
この場合、出力用振動子(カンチレバー)201の共振周波数は、1次モードの際の共振周波数の約2.8倍になるため、交流電圧源601の周波数も約2.8倍に設定する必要がある。
【0047】
つまり、出力用振動子(カンチレバー)201の振動の腹に配置された励振用電極207〜209に印加される交流電圧によって所望の固有振動モードの共振周波数を得る事ができる。なお、上記説明においては2次モードまでの例を説明したが、励振用電極の数、配置位置、電圧印加状態を変更する事で3次モード以上の固有振動モードの共振周波数を得ることもできる。
【0048】
次に、振動子100へのその他の電圧印加方法について説明する。
まず、図8を参照して、振動子100の電極への電圧の印加状態と振動子へ働く静電気力について説明する。
同図において、400〜402は直流バイアス電圧源である。その他の構成要素は、図2を用いて説明した振動子100の構成要素と共通するため、説明は省略する。
【0049】
直流バイアス電圧源400(電圧値Vbias)は、正極が出力用振動子電極パッド202に接続され、負極は支持層210に接続される。また、直流バイアス電圧源401(電圧値+Va)は、正極が励振用電極パッド204に接続され、負極は接地される。また、直流バイアス電圧源402(電圧値−Va)は、負極が励振用電極パッド206に接続され、正極は接地される。また、出力用振動子電極パッド202と励振用電極パッド205は接地される。なお、電圧値Vbias>電圧値Vaとする。
【0050】
次に、同図に示した電圧印加状態における振動子に働く静電気力について説明する。
出力用振動子(カンチレバー)201と所定の電圧が印加されている励振用電極207〜209との間に静電気力が働く。つまり、出力用振動子(カンチレバー)201に働く静電気力Fの大きさは、振動子と電極との間の電位差に比例する。
【0051】
ここで、出力用振動子(カンチレバー)201と励振用電極207との間に働く静電気力をFa、励振用電極208との間に働く静電気力をFb、励振用電極209との間に働く静電気力をFcとする。この場合、出力用振動子(カンチレバー)201の電位はGNDであるので、上記の各静電気力は、
Fa=Fc、Fb=0
の関係を満たす。つまり、励振用電極207と励振用電極209とに印加される電圧が逆極性であっても出力用振動子(カンチレバー)201には同じ方向の静電気力が働く。
【0052】
次に、図9を参照して振動子100の接続について説明する。
図9(a)は、振動子の接続図である。同図において、600は、直流バイアス電圧源、901は、交流電圧源、602〜604は、スイッチ、605は、端子(1)、606は、端子(2)である。その他の構成要素は、図2を用いて説明した振動子100の構成要素と共通するため、説明は省略する。
【0053】
直流バイアス電圧源600(電圧値Vb)は、正極が出力用振動子電極パッド203に接続され、負極が支持層210に接続される。交流電圧源901は、両端が端子(1)605と端子(2)606に接続される。スイッチ602〜604は、接続を3状態間で切り替えられるものであり、スイッチ602は、一端が励振用電極パッド204に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)605と端子(2)606に接続され、1端子は開放されている。また、スイッチ603は、一端が励振用電極パッド205に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)605と端子(2)606に接続され、1端子は開放されている。また、スイッチ604は、一端が励振用電極パッド206に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)605と端子(2)606に接続され、1端子は開放されている。また、出力用振動子電極パッド203は、接地されている。
【0054】
図9(b)は、交流電圧源の波形図である。同図において、910は、交流電圧源901の波形である。同図は、横軸に時間、縦軸に電圧値を示している。波形910の最大値は電圧Vacであり、Vb>Vacとする。また、前述の様に励振用電極に印加される電圧の極性が逆方向であっても同じ向きに静電気力が働くので、交流電圧源901の周波数は出力用振動子(カンチレバー)201の共振周波数の2分の1となる。
【0055】
なお、同図においては、固有振動モードの変化の原理を説明するために交流電圧を励振用電極パッド204〜206に印加する簡略化した回路構成としているが、通常は交流電圧源901として出力用発振回路103を接続する。それにより、出力用振動子(カンチレバー)201と励振用電極207〜209との間で電界を介して相互に作用して発振信号を得る事ができる。
【0056】
次に、図10を参照して振動子100の動作を説明する。
図10は、振動子の固有振動モードを表す模式図である。同図は、振動子100を上部から見た模式図である。
図10(a)は、無振動状態の模式図である。同図において、700は、出力用振動子(カンチレバー)201の位置を表す。無振動状態においては、出力用振動子(カンチレバー)201の位置700は、直線である。
【0057】
図10(b)は、1次モードの振動状態の模式図である。1001は、出力用振動子(カンチレバー)201が振動して最も励振用電極208に近づいた位置、1002は、出力用振動子(カンチレバー)201が振動して最も励振用電極208から遠ざかった位置、1003は、出力用振動子(カンチレバー)201の振動中心位置である。
出力用振動子(カンチレバー)201の振動中心位置1003は、振動子の電位がGNDであるため、湾曲しない。
同図に示した1次モードの振動の場合、図10(c)に示す励振用電極の接続状態とする事が必要である。
【0058】
図10(c)は、1次モードの振動時の励振用電極の接続状態を示す図である。
同図に示す様に、1次モードの振動時には、図9における励振用電極207〜209のすべてが端子(1)605へ接続される。つまり、スイッチ602〜604のすべてが端子(1)605側へ接続される。これにより、励振用電極207〜209には、同位相の交流電圧が印加され、この励振用電極207〜209によって出力用振動子(カンチレバー)201に及ぼされる静電気力は常に同一の方向となるので、1次モードの振動が発生する。
【0059】
次に、2次モードの振動状態について説明する。
図10(d)は、2次モードの振動状態の模式図である。1004は、出力用振動子(カンチレバー)201が振動して腹が最も励振用電極207に近づいた位置、1005は、出力用振動子(カンチレバー)201が振動して腹が最も励振用電極209に近づいた位置である。
同図に示した2次モードの振動の場合、図10(e)に示す励振用電極の接続状態とする事が必要である。
【0060】
図10(e)は、2次モードの振動時の励振用電極の接続状態を示す図である。
同図に示す様に、2次モードの振動時には、図9における励振用電極207が端子(1)605へ接続され、励振用電極209が端子(2)606へ接続され、励振用電極208が開放される。つまり、スイッチ602が端子(1)605側へ接続され、スイッチ604が端子(2)606側へ接続され、スイッチ603が開放される。これは、図9(a)に示したスイッチの接続状態である。
【0061】
これにより、励振用電極207、209には、互いに逆位相の交流電圧が印加され、励振用電極208には電圧が印加されないので、励振用電極207によって出力用振動子(カンチレバー)201に及ぼされる静電気力と、励振用電極209によって出力用振動子(カンチレバー)201に及ぼされる静電気力とは常に同じ大きさとなるので、静電気力の及ぼされない励振用電極208の部分を節として2次モードの振動が発生する。
【0062】
この場合、出力用振動子(カンチレバー)201の共振周波数は、1次モードの際の共振周波数の約2.8倍になるため、交流電圧源901の周波数も約2.8倍に設定する必要がある。
上述の様な直流バイアス電圧の印加を行う事で、1次モードの場合、出力用振動子(カンチレバー)201の持つ共振周波数の2分の1の発振周波数を得る事ができ、2次モードの場合、その約2.8倍の発振周波数を得る事ができる。
【0063】
次に、図11を参照して発振回路の一例を説明する。
同図に示した発振回路は、図1を用いて説明した出力用発振回路103の回路例である。なお、本発振回路は、水晶発振器で一般に用いられているコルピッツ発振回路を応用した回路である。
【0064】
同図に示すように、発振回路は、振動子1100、スイッチ1101、直流成分カット用容量1102,1103、負荷容量1104,1105、負荷抵抗1108、インバータ(アンプ)1110,1111、発振信号出力端子1120から構成される。ここで、振動子1100は、図2に示した振動子100を表し、スイッチ1101は、図6に示したスイッチ604〜606を表す。ここでは、振動子1100は2端子、スイッチ1101は2入出力端子の一例を示しているが、端子数はこの例に限定されない。
【0065】
振動子1100の両端には、スイッチ1101の2つの入力端がそれぞれ接続される。また、スイッチ1101の2つの出力端には、直流成分カット用容量1102,1103の一端がそれぞれ接続される。
【0066】
直流成分カット用容量1102の他端は、負荷容量1104の一端が接続されると共に、インバータ(アンプ)1110の入力端と負荷抵抗1108の一端が接続される。また、直流成分カット用容量1103の他端は、負荷容量1105の一端が接続されると共に、インバータ(アンプ)1110の出力端とインバータ(アンプ)1111の入力端と負荷抵抗1108の他端とが接続される。
また、負荷容量1104,1105の他端は、それぞれ接地される。インバータ(アンプ)1111の出力は、発振信号出力端子1120に接続される。
【0067】
次に、発振回路の動作を説明する。
発振回路は、振動子1100の共振周波数で発振して発振信号を発振信号出力端子1120から出力する。ここで、図7を用いて説明した様に、スイッチ1101を切り替える事によって振動子1100の固有振動モードを変更し、共振周波数を変化させて発振器の発振周波数を変更できる。これは、本発明における基本周波数選択回路として機能する。
【0068】
上述してきた構成を用いる事で、本実施形態に係る発振器は、1次モードのみではなく、2次モード以上の固有振動モードを利用して、複数の基本周波数から一つの基本周波数を選択して発振信号を出力する事ができる。
【0069】
次に、振動子の第2の構成例を説明する。
図12は、振動子の第2の構成例を示す斜視図である。
同図に示すように、振動子1200は、出力用振動子(カンチレバー)1201、出力用振動子電極パッド1202,1203、励振用電極パッド1204〜1209、励振用電極1210〜1215、支持層1216、絶縁層1217〜1224、固定部1225,1226から構成される。
【0070】
出力用振動子(カンチレバー)1201は、支持層1216の上面に絶縁層1217,1218を介して固定部1225,1226が固定されている。
出力用振動子(カンチレバー)1201は固定部1225,1226と同じ高さに設けられており、出力用振動子(カンチレバー)1201と支持層1216の間には絶縁層が存在せず空隙となっている。これにより、出力用振動子(カンチレバー)1201は、機械的に振動し得る。出力用振動子電極パッド1202,1203は、それぞれ固定部1225,1226の上に設けられており、出力用振動子(カンチレバー)1201に電気的に接続されている。
【0071】
また、励振用電極1210〜1215は、支持層1216の上面に絶縁層1217〜1224を介して固定されている。励振用電極パッド1204〜1209は、それぞれ励振用電極1210〜1215の上に設けられており、それぞれ励振用電極1210〜1215に電気的に接続されている。
【0072】
振動子1200は、SOI(Silicon-On-Insulator)基板を用いてMEMS技術によって形成される。SOI基板は活性層、絶縁層、支持層1216を有している。これらの層の内、活性層(シリコン)は出力用振動子(カンチレバー)1201と励振用電極1210〜1215を形成するために用いられる。この出力用振動子(カンチレバー)1201と励振用電極1210〜1215はエッチングによって、支持層1216に対向すると共に互いに隣接して形成される。励振用電極1210と励振用電極1213、励振用電極1211と励振用電極1214、励振用電極1212と励振用電極1215は、それぞれ互いに対向し、振動子出力用振動子(カンチレバー)1201の振動の腹に位置する様に配置される。また、この振動子出力用振動子(カンチレバー)1201を可動電極として機能させるため、予め不純物ドープなどにより活性層を低抵抗化しておく。
【0073】
また、上記活性層の加工後にエッチングによって上記出力用振動子(カンチレバー)1201の固定部1225,1226以外の下面の絶縁層を除去することで、出力用振動子(カンチレバー)1201と支持層1216との間にギャップ(空隙)を形成する。エッチングされずに残った固定部1225,1226の下面の絶縁層1217,1218が、支持層1216と出力用振動子(カンチレバー)1201とをそれぞれ電気的に絶縁すると共に固定部1225,1226を介して固定する。このような構成により、出力用振動子(カンチレバー)1201は固定部1225,1226を支点として振動する事が可能となる。
また、支持層1216は半導体(シリコン)基板であり、出力用振動子(カンチレバー)1201を機械的に固定すると共に固定電極としても機能する。
【0074】
さらに、アルミニウム(Al)の蒸着などにより出力用振動子電極パッド1202,1203が出力用振動子(カンチレバー)1201の固定部1225,1226の上面にそれぞれ形成される。また、励振用電極パッド1204〜1209が励振用電極1210〜1215の上面にそれぞれ形成され、図示しないワイヤボンディングなどを用いてそれぞれのパッドが外部回路に電気的に接続される。
【0075】
次に、図13を参照して、振動子1200の各電極への電圧の印加状態と振動子へ働く静電気力について説明する。
同図において、1300〜1302は直流バイアス電圧源である。その他の構成要素は、図12を用いて説明した振動子1200の構成要素と共通するため、説明は省略する。
【0076】
直流バイアス電圧源1300(電圧値Vbias)は、正極が出力用振動子電極パッド1202に接続され、負極は接地される。また、直流バイアス電圧源1301(電圧値Va)は、正極が励振用電極パッド1204に接続され、負極は接地される。また、直流バイアス電圧源1302(電圧値Va)は、負極が励振用電極パッド1206に接続され、正極は接地される。また、支持層1216と励振用電極パッド1205,1207,1208,1209は接地される。なお、電圧値Vbias>電圧値Vaとする。
【0077】
次に、同図に示した電圧印加状態における振動子に働く静電気力について説明する。
出力用振動子(カンチレバー)1201は、電圧値Vbiasが印加されているため、所定の電圧が印加されている励振用電極1210〜1215との間に静電気力が働く。つまり、出力用振動子(カンチレバー)1201に働く静電気力Fの大きさは、振動子と電極との間の電位差に比例する。
【0078】
ここで、出力用振動子(カンチレバー)1201と励振用電極1210,1213との間に働く静電気力をFa、励振用電極1211,1214との間に働く静電気力をFb、励振用電極1212,1215との間に働く静電気力をFcとする。この場合、出力用振動子(カンチレバー)1201の電位は+Vbiasであって、Vbias−Va<Vbias+Vaであるので、上記の各静電気力は、
|Fa|<|Fc|、Fb=0
の関係を満たす。
【0079】
次に、図14を参照して振動子1200の接続について説明する。
図14(a)は、振動子の接続図である。同図において、1400は、直流バイアス電圧源、1401は、交流電圧源、1402〜1407は、スイッチ、1408は、端子(1)、1409は、端子(2)である。その他の構成要素は、図12を用いて説明した振動子1200の構成要素と共通するため、説明は省略する。
【0080】
直流バイアス電圧源1400(電圧値Vb)は、正極が出力用振動子電極パッド1203に接続され、負極が接地される。交流電圧源1401は、両端が端子(1)1408と端子(2)1409に接続される。スイッチ1402〜1407は、接続を3状態間で切り替えられるものであり、スイッチ1402は、一端が励振用電極パッド1204に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)1408と端子(2)1409に接続され、1端子は開放されている。また、スイッチ1403は、一端が励振用電極パッド1205に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)1408と端子(2)1409に接続され、1端子は開放されている。また、スイッチ1404は、一端が励振用電極パッド1206に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)1408と端子(2)1409に接続され、1端子は開放されている。
【0081】
また、スイッチ1405は、一端が励振用電極パッド1207に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)1408と端子(2)1409に接続され、1端子は開放されている。また、スイッチ1406は、一端が励振用電極パッド1208に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)1408と端子(2)1409に接続され、1端子は開放されている。また、スイッチ1407は、一端が励振用電極パッド1209に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)1408と端子(2)1409に接続され、1端子は開放されている。また、支持層1216は、接地されている。
【0082】
図14(b)は、交流電圧源の波形図である。同図において、1410は、交流電圧源1401の波形である。同図は、横軸に時間、縦軸に電圧値を示している。波形1410の最大値は電圧Vacであり、Vb>Vacとする。また、交流電圧の周波数は、出力用振動子(カンチレバー)1201の共振周波数と等しくする。
【0083】
なお、同図においては、固有振動モードの変化の原理を説明するために交流電圧を励振用電極パッド1204〜1209に印加する簡略化した回路構成としているが、通常は交流電圧源1401として出力用発振回路103を接続する。それにより、出力用振動子(カンチレバー)1201と励振用電極1210〜1215との間で電界を介して相互に作用して発振信号を得る事ができる。
【0084】
次に、図15を参照して振動子1200の動作を説明する。
図15は、振動子の固有振動モードを表す模式図である。同図は、振動子1200を上部から見た模式図である。
図15(a)は、無振動状態の模式図である。同図において、1500は、出力用振動子(カンチレバー)1201の位置を表す。無振動状態においては、出力用振動子(カンチレバー)1201の位置1500は、直線である。
【0085】
図15(b)は、1次モードの振動状態の模式図である。1501は、出力用振動子(カンチレバー)1201が振動して最も励振用電極1214に近づいた位置、1502は、出力用振動子(カンチレバー)1201が振動して最も励振用電極1211に近づいた位置、1503は、出力用振動子(カンチレバー)1201の振動中心位置である。
【0086】
同図に示した1次モードの振動を発生させる場合、図15(c)に示す励振用電極の接続状態とする事が必要である。
図15(c)は、1次モードの振動時の励振用電極の接続状態を示す図である。
同図に示す様に、1次モードの振動時には、図14における励振用電極1213〜1215が端子(1)1408へ接続され、励振用電極1210〜1212が端子(2)1409へ接続される。つまり、スイッチ1405〜1407が端子(1)1408側へ接続され、スイッチ1402〜1404が端子(2)1409側へ接続される。これは、図14(a)に示したスイッチの接続状態である。
【0087】
これにより、励振用電極1210〜1212には、同位相の交流電圧が印加され、励振用電極1213〜1215には、励振用電極1210〜1212とは逆位相の交流電圧が印加される。従って、この励振用電極1210〜1212によって出力用振動子(カンチレバー)1201に及ぼされる静電気力は、励振用電極1213〜1215によって出力用振動子(カンチレバー)1201に及ぼされる静電気力とは常に逆方向の力となるので、1次モードの振動が発生する。
【0088】
次に、2次モードの振動状態について説明する。
図15(d)は、2次モードの振動状態の模式図である。1504は、出力用振動子(カンチレバー)1201が振動して腹が最も励振用電極1212,1213に近づいた位置、1505は、出力用振動子(カンチレバー)1201が振動して腹が最も励振用電極1210,1215に近づいた位置である。
同図に示した2次モードの振動を発生させる場合、図15(e)に示す励振用電極の接続状態とする事が必要である。
【0089】
図15(e)は、2次モードの振動時の励振用電極の接続状態を示す図である。
同図に示す様に、2次モードの振動時には、図14における励振用電極1212,1213が端子(1)1408へ接続され、励振用電極1210,1215が端子(2)1409へ接続され、励振用電極1211,1214が開放される。つまり、スイッチ1404,1405が端子(1)1408側へ接続され、スイッチ1402,1407が端子(2)1409側へ接続され、スイッチ1403,1406が開放される。
【0090】
これにより、励振用電極1212,1213には、同位相の交流電圧が印加され、励振用電極1210,1215には、励振用電極1212,1213とは逆位相の交流電圧が印加され、励振用電極1211,1214には電圧が印加されない。
従って、励振用電極1210,1213によって出力用振動子(カンチレバー)1201に及ぼされる静電気力と、励振用電極1212,1215によって出力用振動子(カンチレバー)1201に及ぼされる静電気力とは常に逆方向となるので、2つの腹と1つの節を持つ2次モードの振動が発生する。
【0091】
この場合、出力用振動子(カンチレバー)1201の共振周波数は、1次モードの際の共振周波数の約2.8倍になるため、交流電圧源1401の周波数も約2.8倍に設定する必要がある。
つまり、上述の振動子1200を用いると、1次モードである基本周波数に加えて、2次モードである約2.8倍の基本周波数の発振周波数を得る事ができる。
【0092】
次に、振動子の第3の構成例を説明する。
図16は、振動子の第3の構成例を示す斜視図である。
同図に示すように、振動子1600は、出力用振動子(カンチレバー)1601、出力用振動子電極パッド1602、励振用電極パッド1603〜1605、励振用電極1606〜1608、支持層1609、絶縁層1610〜1613、固定部1614から構成される。
【0093】
出力用振動子(カンチレバー)1601は、支持層1609の上面に絶縁層1610を介して固定部1614が固定されている。
出力用振動子(カンチレバー)1601は固定部1614と同じ高さに設けられており、出力用振動子(カンチレバー)1601と支持層1609の間には絶縁層が存在せず空隙となっている。これにより、出力用振動子(カンチレバー)1601は、機械的に振動し得る。出力用振動子電極パッド1602は、固定部1614の上に設けられており、出力用振動子(カンチレバー)1601に電気的に接続されている。
【0094】
また、励振用電極1606〜1608は、支持層1609の上面に絶縁層1611〜1613を介して固定されている。励振用電極パッド1603〜1605は、それぞれ励振用電極1606〜1608の上に設けられており、それぞれ励振用電極1606〜1608に電気的に接続されている。
【0095】
振動子1600は、SOI(Silicon-On-Insulator)基板を用いてMEMS技術によって形成される。SOI基板は活性層、絶縁層、支持層1609を有している。これらの層の内、活性層(シリコン)は出力用振動子(カンチレバー)1601と励振用電極1606〜1608を形成するために用いられる。この出力用振動子(カンチレバー)1601と励振用電極1606〜1608はエッチングによって、支持層1609に対向すると共に互いに隣接して形成される。励振用電極1606〜1608は、振動子出力用振動子(カンチレバー)1601の振動の腹に位置する様に配置される。また、この振動子出力用振動子(カンチレバー)1601を可動電極として機能させるため、予め不純物ドープなどにより活性層を低抵抗化しておく。
【0096】
また、上記活性層の加工後にエッチングによって上記出力用振動子(カンチレバー)1601の固定部1614以外の下面の絶縁層を除去することで、出力用振動子(カンチレバー)1601と支持層1609との間にギャップ(空隙)を形成する。エッチングされずに残った固定部1614の下面の絶縁層1610が、支持層1609と出力用振動子(カンチレバー)1601とをそれぞれ電気的に絶縁すると共に固定部1614を介して固定する。このような構成により、出力用振動子(カンチレバー)1601は固定部1614を支点として振動する事が可能となる。
また、支持層1609は半導体(シリコン)基板であり、出力用振動子(カンチレバー)1601を機械的に固定すると共に固定電極としても機能する。
【0097】
さらに、アルミニウム(Al)の蒸着などにより出力用振動子電極パッド1602が出力用振動子(カンチレバー)1601の固定部1614の上面に形成される。また、励振用電極パッド1603〜1605が励振用電極1606〜1608の上面にそれぞれ形成され、図示しないワイヤボンディングなどを用いてそれぞれのパッドが外部回路に電気的に接続される。
【0098】
次に、図17を参照して、振動子1600の電極への電圧の印加状態と振動子へ働く静電気力について説明する。
同図において、1700〜1702は直流バイアス電圧源である。その他の構成要素は、図16を用いて説明した振動子1600の構成要素と共通するため、説明は省略する。
【0099】
直流バイアス電圧源1700(電圧値Vbias)は、正極が出力用振動子電極パッド1602に接続され、負極は支持層1609に接続される。また、直流バイアス電圧源1701(電圧値+Va)は、正極が励振用電極パッド1603に接続され、負極は接地される。また、直流バイアス電圧源1702(電圧値−Va)は、負極が励振用電極パッド1605に接続され、正極は接地される。また、出力用振動子電極パッド1602と励振用電極パッド1604は接地される。なお、電圧値Vbias>電圧値Vaとする。
【0100】
次に、同図に示した電圧印加状態における振動子に働く静電気力について説明する。
出力用振動子(カンチレバー)1601と所定の電圧が印加されている励振用電極1603〜1605との間に静電気力が働く。つまり、出力用振動子(カンチレバー)1601に働く静電気力Fの大きさは、振動子と電極との間の電位差に比例する。
【0101】
ここで、出力用振動子(カンチレバー)1601と励振用電極1606との間に働く静電気力をFa、励振用電極1607との間に働く静電気力をFb、励振用電極1608との間に働く静電気力をFcとする。この場合、出力用振動子(カンチレバー)1601の電位はGNDであるので、上記の各静電気力は、
|Fa|<|Fb|<|Fc|
の関係を満たす。
【0102】
次に、図18を参照して振動子1600の接続について説明する。
図18(a)は、振動子の接続図である。同図において、1800は、直流バイアス電圧源、1801は、交流電圧源、1802〜1804は、スイッチ、1805は、端子(1)、1806は、端子(2)である。その他の構成要素は、図16を用いて説明した振動子1600の構成要素と共通するため、説明は省略する。
【0103】
直流バイアス電圧源1800(電圧値Vb)は、正極が出力用振動子電極パッド1602に接続され、負極が支持層1609に接続される。交流電圧源1801は、両端が端子(1)1805と端子(2)1806に接続される。スイッチ1802〜1804は、接続を3状態間で切り替えられるものであり、スイッチ1802は、一端が励振用電極パッド1603に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)1805と端子(2)1806に接続され、1端子は開放されている。また、スイッチ1803は、一端が励振用電極パッド1604に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)1805と端子(2)1806に接続され、1端子は開放されている。また、スイッチ1804は、一端が励振用電極パッド1605に接続され、他端の3端子のうち2端子が、それぞれ端子(1)1805と端子(2)1806に接続され、1端子は開放されている。また、出力用振動子電極パッド1602は、接地されている。
【0104】
図18(b)は、交流電圧源の波形図である。同図において、1810は、交流電圧源1801の波形である。同図は、横軸に時間、縦軸に電圧値を示している。波形1810の最大値は電圧Vacであり、Vb>Vacとする。また、前述の様に励振用電極に印加される電圧の極性が逆方向であっても同じ向きに静電気力が働くので、交流電圧源1801の周波数は出力用振動子(カンチレバー)1601の共振周波数の2分の1となる。
【0105】
なお、同図においては、固有振動モードの変化の原理を説明するために交流電圧を励振用電極パッド1603〜1605に印加する簡略化した回路構成としているが、通常は交流電圧源1801として出力用発振回路103を接続する。それにより、出力用振動子(カンチレバー)1601と励振用電極1606〜1608との間で電界を介して相互に作用して発振信号を得る事ができる。
【0106】
次に、図19を参照して振動子1600の動作を説明する。
図19は、振動子の固有振動モードを表す模式図である。同図は、振動子1600を上部から見た模式図である。
図19(a)は、無振動状態の模式図である。同図において、1900は、出力用振動子(カンチレバー)1601の位置を表す。無振動状態においては、出力用振動子(カンチレバー)1601の位置1900は、直線である。
【0107】
図19(b)は、1次モードの振動状態の模式図である。1901は、出力用振動子(カンチレバー)1601が振動して最も励振用電極1608に近づいた位置、1902は、出力用振動子(カンチレバー)1601が振動して最も励振用電極1608から遠ざかった位置、1903は、出力用振動子(カンチレバー)1601の振動中心位置である。
出力用振動子(カンチレバー)1601の振動中心位置1903は、出力用振動子(カンチレバー)1601に印加される直流バイアス電圧源1800(電圧Vb)の影響で、励振用電極1608側へ引力が働いて湾曲する。
同図に示した1次モードの振動の場合、図19(c)に示す励振用電極の接続状態とする事が必要である。
【0108】
図19(c)は、1次モードの振動時の励振用電極の接続状態を示す図である。
同図に示す様に、1次モードの振動時には、図18における励振用電極1606〜1608のすべてが端子(1)1805へ接続される。つまり、スイッチ1802〜1804のすべてが端子(1)1805側へ接続される。これにより、励振用電極1606〜1608には、同位相の交流電圧が印加され、この励振用電極1606〜1608によって出力用振動子(カンチレバー)1601に及ぼされる静電気力は常に同一の方向となるので、1次モードの振動が発生する。
【0109】
次に、2次モードの振動状態について説明する。
図19(d)は、2次モードの振動状態の模式図である。1904は、出力用振動子(カンチレバー)1601が振動して自由端が最も励振用電極1608に近づいた位置、1905は、出力用振動子(カンチレバー)1601が振動して自由端が最も励振用電極1608から遠ざかった位置である。
同図に示した2次モードの振動の場合、図19(e)に示す励振用電極の接続状態とする事が必要である。
【0110】
図19(e)は、2次モードの振動時の励振用電極の接続状態を示す図である。
同図に示す様に、2次モードの振動時には、図18における励振用電極1606,1607が端子(1)1805へ接続され、励振用電極1608が開放される。つまり、スイッチ1802,1803が端子(1)1805側へ接続され、スイッチ1804が開放される。これは、図18(a)に示したスイッチの接続状態である。
【0111】
これにより、励振用電極1606,1607には、同位相の交流電圧が印加され、励振用電極1608には、電圧が印加されない。従って、励振用電極1606,1607によって出力用振動子(カンチレバー)1601に及ぼされる静電気力は、方向が同じで周期的に強さの変化する力となり、励振用電極1608によって出力用振動子(カンチレバー)1601に及ぼされる静電気力は常に一定の力となる。その結果、出力用振動子(カンチレバー)1601は、先端が自由振動すると共に励振用電極1607の近傍が腹となり振動する。つまり、この周期的な力により、2つの腹と1つの節を持った2次モードの振動が発生する。
【0112】
この場合、出力用振動子(カンチレバー)1601の共振周波数は、1次モードの際の共振周波数の約6.3倍になるため、交流電圧源1801の周波数も約6.3倍に設定する必要がある。
上述の様な構成の振動子1600に上述の直流バイアス電圧の印加を行う事で、1次モードの場合、出力用振動子(カンチレバー)1601の持つ共振周波数の2分の1の発振周波数を得る事ができ、2次モードの場合、その約6.3倍の発振周波数を得る事ができる。
【0113】
上述してきた構成とする事で、本発振器は同一の基板上にすべての構成要素を一体化して形成する事が可能である。また、例えば本発振回路の発振信号を利用して各種信号処理を行うその他の集積回路を同一基板上に形成する事も可能である。
【0114】
以上、本発明の実施形態を詳述してきたが、具体的な構成は本実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、励振用電極の数は上述した例に限らず、また、発振回路の構成は図11に示した構成に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明の実施形態に係る発振器のブロック図である。
【図2】同上の振動子の第1の構成例を示す斜視図である。
【図3】同上の振動子を表す原理図である。
【図4】同上の振動子の各電極への電圧の印加状態と振動子へ働く静電気力について説明する図である。
【図5】同上の振動子の固有振動モードの説明図である。
【図6】同上の振動子の接続図である。
【図7】同上の振動子の固有振動モードを表す模式図である
【図8】同上の振動子の電極への電圧の印加状態と振動子へ働く静電気力について説明する図である。
【図9】同上の振動子の接続図である。
【図10】同上の振動子の固有振動モードを表す模式図である。
【図11】同上の発振回路の回路図である。
【図12】同上の振動子の第2の構成例を示す斜視図である。
【図13】同上の振動子の電極への電圧の印加状態と振動子へ働く静電気力について説明する図である。
【図14】同上の振動子の接続図である。
【図15】同上の振動子の固有振動モードを表す模式図である。
【図16】同上の振動子の第3の構成例を示す斜視図である。
【図17】同上の振動子の電極への電圧の印加状態と振動子へ働く静電気力について説明する図である。
【図18】同上の振動子の接続図である。
【図19】同上の振動子の固有振動モードを表す模式図である。
【符号の説明】
【0116】
100;出力用振動子、101;直流バイアス電圧印加回路、102;基本周波数選択回路、103;出力用発振回路、201;出力用振動子(カンチレバー)、202,203;出力用振動子電極パッド、204〜206;励振用電極パッド、207〜209;励振用電極、210;支持層、211〜215;絶縁層、216,217;固定部、301;バネ、302;錘、303;基板、304;励振用電極、305;電極、306;交流電源、307;直流電源、400〜402;直流バイアス電圧源、500;出力用振動子、501;支点、600;直流バイアス電圧源、601;交流電圧源、602〜604;スイッチ、605;端子(1)、606;端子(2)、700;出力用振動子(カンチレバー)の位置、701;出力用振動子(カンチレバー)が振動して最も励振用電極208に近づいた位置、702;出力用振動子(カンチレバー)が振動して最も励振用電極208から遠ざかった位置、703;出力用振動子(カンチレバー)の振動中心位置、901;交流電圧源、910;交流電圧源の波形、1001;出力用振動子(カンチレバー)が振動して最も励振用電極208に近づいた位置、1002;出力用振動子(カンチレバー)が振動して最も励振用電極208から遠ざかった位置、1003;出力用振動子(カンチレバー)の振動中心位置、1004;出力用振動子(カンチレバー)が振動して腹が最も励振用電極207に近づいた位置、1005;出力用振動子(カンチレバー)が振動して腹が最も励振用電極209に近づいた位置、1100;振動子、1101;スイッチ、1102,1103;直流成分カット用容量、1104,1105;負荷容量、1108;負荷抵抗、1110,1111;インバータ(アンプ)、1120;発振信号出力端子。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械的に振動し得るように設けられた出力用振動子と、
前記出力用振動子に直流電圧を印加する直流電圧印加部と、
前記出力用振動子の振動の腹部の近傍に配置され、該出力用振動子との間で電界を介して相互に作用する励振用電極と、
前記励振用電極に電気的に接続され、前記出力用振動子の共振周波数で発振して発振信号を出力する発振回路と
を備える発振器。
【請求項2】
前記励振用電極と前記発振回路との間に接続され、前記発振回路から前記励振用電極への電気的な接続経路を選択する基本周波数選択回路を更に備えた事を特徴とする請求項1に記載の発振器。
【請求項3】
前記出力用振動子は、半導体基板である支持層に対向して配置され、その少なくとも一部は前記支持層上の絶縁層に固定され、
前記励振用電極は、前記支持層に対向して配置され、その全体は前記支持層上の前記絶縁層に固定されている事を特徴とする請求項1又は2に記載の発振器。
【請求項4】
前記励振用電極は、前記出力用振動子の長辺方向に沿って該出力用振動子の片側に配置された事を特徴とする請求項3に記載の発振器。
【請求項5】
前記励振用電極は、前記出力用振動子の長辺方向に沿って該出力用振動子の両側に配置された事を特徴とする請求項3に記載の発振器。
【請求項6】
前記出力用振動子には直流の正電圧が印加され、前記支持層が接地された事を特徴とする請求項3から請求項5の何れか1項に記載の発振器。
【請求項7】
前記出力用振動子は接地され、前記支持層には直流の負電圧が印加された事を特徴とする請求項3又は請求項4の何れか1項に記載の発振器。
【請求項1】
機械的に振動し得るように設けられた出力用振動子と、
前記出力用振動子に直流電圧を印加する直流電圧印加部と、
前記出力用振動子の振動の腹部の近傍に配置され、該出力用振動子との間で電界を介して相互に作用する励振用電極と、
前記励振用電極に電気的に接続され、前記出力用振動子の共振周波数で発振して発振信号を出力する発振回路と
を備える発振器。
【請求項2】
前記励振用電極と前記発振回路との間に接続され、前記発振回路から前記励振用電極への電気的な接続経路を選択する基本周波数選択回路を更に備えた事を特徴とする請求項1に記載の発振器。
【請求項3】
前記出力用振動子は、半導体基板である支持層に対向して配置され、その少なくとも一部は前記支持層上の絶縁層に固定され、
前記励振用電極は、前記支持層に対向して配置され、その全体は前記支持層上の前記絶縁層に固定されている事を特徴とする請求項1又は2に記載の発振器。
【請求項4】
前記励振用電極は、前記出力用振動子の長辺方向に沿って該出力用振動子の片側に配置された事を特徴とする請求項3に記載の発振器。
【請求項5】
前記励振用電極は、前記出力用振動子の長辺方向に沿って該出力用振動子の両側に配置された事を特徴とする請求項3に記載の発振器。
【請求項6】
前記出力用振動子には直流の正電圧が印加され、前記支持層が接地された事を特徴とする請求項3から請求項5の何れか1項に記載の発振器。
【請求項7】
前記出力用振動子は接地され、前記支持層には直流の負電圧が印加された事を特徴とする請求項3又は請求項4の何れか1項に記載の発振器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
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【図7】
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【図12】
【図13】
【図14】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2008−66800(P2008−66800A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−239446(P2006−239446)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
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