発振装置
【課題】水晶振動子の動作時間の経過に伴う発振周波数の変化を補償して安定した発振周波数が得られる発振装置を提供すること。
【解決手段】基準時から所定の時間が経過した後における第1及び第2の水晶振動子の周波数差と、基準時における第1及び第2の水晶振動子の周波数差と、の差分値ΔF(即ち、第1の水晶振動子における周波数について基準時からの変化分と、第2の水晶振動子における周波数について基準時からの変化分との差分値ΔF)を求める。そして基準時からの時間の経過に対して、第1の水晶振動子の周波数の変化分と第2の水晶振動子の周波数の変化分との比率が同じであるとして取り扱ったときの当該比率を経時変化の補正係数とし、差分値ΔFに対応する値と経時変化の補正係数とに基づいて、発振装置の出力を作り出すための水晶振動子の周波数について補正値を取得する。
【解決手段】基準時から所定の時間が経過した後における第1及び第2の水晶振動子の周波数差と、基準時における第1及び第2の水晶振動子の周波数差と、の差分値ΔF(即ち、第1の水晶振動子における周波数について基準時からの変化分と、第2の水晶振動子における周波数について基準時からの変化分との差分値ΔF)を求める。そして基準時からの時間の経過に対して、第1の水晶振動子の周波数の変化分と第2の水晶振動子の周波数の変化分との比率が同じであるとして取り扱ったときの当該比率を経時変化の補正係数とし、差分値ΔFに対応する値と経時変化の補正係数とに基づいて、発振装置の出力を作り出すための水晶振動子の周波数について補正値を取得する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子を用いた発振装置であって、水晶振動子の周波数の経時変化を補償する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子は、駆動時間の経過に伴って発振周波数がドリフトする性質がある。一方市場では水晶発振器に対して極めて高い周波数安定度が要求されるアプリケーションが増えてきているが、アプリケーションに組み込まれる場合水晶発振器としては、通常OCXOが一般的である。OCXOは、前記ドリフトが少ない利点があるが、装置が大掛かりであり、消費電力が大きい。このため簡素な構成であり、消費電力の少ないTCXOを利用することが検討されているが、TCXOは駆動時間の経過に伴う発振周波数のドリフト量が大きい欠点があり、高い周波数安定度が要求されるアプリケーションに対しては適用しにくいという課題がある。
【0003】
特許文献1共通の水晶片に2対の電極を設けて2つの水晶振動子(水晶共振子)を構成し、温度変化に応じて2つの水晶振動子の間で周波数差が現れることを利用して発振周波数の温度補償を行う技術が記載されているが、周波数の経時変化の補償については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−292030号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は、水晶振動子の動作時間の経過に伴う発振周波数の変化を補償して安定した発振周波数が得られる発振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、水晶振動子を用いた発振装置において、
水晶片に第1の電極を設けて構成した第1の水晶振動子と、
水晶片に第2の電極を設けて構成した第2の水晶振動子と、
これら第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子に夫々接続された第1の発振回路及び第2の発振回路と、
第1の発振回路の発振周波数をf1、基準時における第1の発振回路の発振周波数をf1rz、第2の発振回路の発振周波数をf2、基準時における第2の発振回路の発振周波数をf2rzとすると、f2とf2rzとの差分に対応する値と、f1とf1rzとの差分に対応する値と、の差分値ΔFに対応する値を求める周波数差検出部と、
この周波数差検出部にて検出された前記差分値ΔFに対応する値と経時変化の補正係数とに基づいて、時間が基準時から経過したことに基づくf1の周波数補正値を取得する経時変化補償用の補正値取得部と、を備え、
前記経時変化の補正係数は、基準時からの動作時間の経過に対して、第1の発振回路の周波数の変化分と第2の発振回路の周波数の変化分との比率であり、
発振装置の出力は、前記第1の発振回路の出力を利用して生成され、
前記補正値取得部にて求めた前記周波数補正値に基づいて前記出力周波数の設定値を補正するように構成したことを特徴とする。
【0007】
本発明の具体的構成例を列挙する。
第1の発振回路の発振周波数f1はn次オーバートーンであり、第2の発振回路の発振周波数f2は基本波の周波数であり、
前記差分値ΔFは、
{(f2−f2rz)/f2rz}−{(f1−f1rz)/f1rz}である。
【0008】
また他の具体例は、前記経時変化の補正係数は、基準温度において設定された値であり、
前記第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子が置かれる雰囲気温度を検出する温度検出部と、
基準時において、基準温度からの温度変化分と基準温度における前記差分値ΔFに対する変動量との関係と、前記温度検出部にて求めた雰囲気温度と、に基づいて、前記差分値ΔFに含まれる温度変化に起因する変化量を求める温度補償用算出部と、を備え
前記補正値取得部は、前記差分値ΔFから前記温度補償用算出部にて算出された変化量を差し引いた値を用いてf1の周波数補正値を取得することを特徴とする。
【0009】
更に他の具体例は、前記第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子が置かれる雰囲気温度を検出する温度検出部と、
この温度検出部にて検出された温度に対応する信号と、当該信号と第1の発振回路の発振周波数f1の周波数補正値との関係と、に基づいて、環境温度が基準温度からずれたことに起因するf1の周波数補正値を取得する温度補償用の補正値取得部と、を備え、
前記経時変化用の補正値取得部にて求めた前記周波数補正値と、前記温度補償用の補正値取得部にて求めた前記周波数補正値と、基づいて前記出力周波数の設定値を補正するように構成したことを特徴とする。
【0010】
周波数差検出部は、
前記f1とf2との差分周波数のパルスを作成するパルス作成部と、入力された直流電圧の大きさに応じた周波数で時間と共に信号値が増加、減少を繰り返す周波数信号を出力するDDS回路部と、このDDS回路部から出力された周波数信号を前記パルス作成部にて作成されたパルスによりラッチするラッチ回路と、このラッチ回路にてラッチされた信号値を積分してその積分値を前記前記差分値に対応する値として出力するループフィルタと、このループフィルタの出力とf1rzとf2rzとの差分に対応する値との差分を取り出して、前記DDS回路部に入力値とする加算部と、を備えたことを特徴とする。
第1の水晶振動子の水晶片と第2の水晶振動子の水晶片とは、共通化されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、第1の発振回路の発振周波数をf1、基準時における第1の発振回路の発振周波数をf1rz、第2の発振回路の発振周波数をf2、基準時における第2の発振回路の発振周波数をf2rzとすると、f2とf2rzとの差分に対応する値と、f1とf1rzとの差分に対応する値と、の差分値ΔFに対応する値(即ち、第1の水晶振動子における周波数について基準時からの変化分と、第2の水晶振動子における周波数について基準時からの変化分との差分値ΔF)を求めている。そして基準時からの時間の経過に対して、第1の水晶振動子の周波数の変化分と第2の水晶振動子の周波数の変化分との比率が同じであるとして取り扱ったときの当該比率を経時変化の補正係数とし、差分値ΔFに対応する値と経時変化の補正係数とに基づいて、発振装置の出力を作り出すための水晶振動子の周波数について補正値を取得するようにしている。従って、水晶振動子の動作時間の経過に伴う発振周波数の変化を補償しているので、安定した発振周波数が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態の概要説明に使用する発振周波数の経時変化を示す模式的な説明図である。
【図2】本発明の実施形態の全体構成を示すブロック図である。
【図3】上記実施の形態に用いられる制御回路部の構成を示すブロック図である。
【図4】周波数差検出部を示すブロック図である。
【図5】周波数差検出部の一部の出力の波形図である。
【図6】周波数差検出部におけるDDS回路部を含むループにおいてロックしていない状態を模式的に示す各部の波形図である。
【図7】周波数差検出部におけるDDS回路部を含むループにおいてロックしていない状態を模式的に示す各部の波形図である。
【図8】実際の装置について前記ループにおけるループフィルタの出力波形図である。
【図9】第1〜第3の発振回路の各周波数f1、f2、f3と温度との関係を示す周波数温度特性図である。
【図10】各周波数f1、f2、f3の各々を正規化した値と温度との関係を示す周波数温度特性図である。
【図11】各周波数を正規化した値の差分と温度との関係を示す周波数温度特性図である。
【図12】f1/3−f3に対応する値に含まれる、温度変化に起因する変動分と、温度検出結果に対応する値との関係を示す特性図である。
【図13】図12に示す特性図の横軸の値に基づいて縦軸の値を演算で求めるための演算部を示すブロック図である。
【図14】エージング補正値算出部を示すブロック図である。
【図15】エージング(経時変化)により周波数が変化する様子を示す特性図である。
【図16】f1を正規化した値と温度との関係、及びf1を正規化した値とf2を正規化した値との差分と温度との関係を示す周波数温度特性図である。
【図17】図16の縦軸を正規化した値と、周波数補正値との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[発明の実施形態の概要]
この実施形態にかかる発振装置は、第1の水晶振動子を発振させる第1の発振回路の発振出力を例えば制御回路のクロックとして用いている場合、第1の水晶振動子の経時変化によりクロック周波数が変化すると制御回路の動作が目的とする動作から外れてくる。このためクロック周波数の経時変化分(エージングによる周波数の変化分)を補償しようとする技術である。実施形態を詳細に説明する前に、この補償の様子の概要について極めて模式的に述べておく。この模式的な説明で使用する数値は便宜上のものであり、グラフの傾きなども便宜上のものである。
【0014】
今、第1の水晶振動子の3次オーバートーン(周波数をf1とする)をクロックとして用いているものとし、t0を基準時とすると、3次オーバートーンの1/3の周波数の経時変化は図1(a)の下側のグラフで表され、基準時t0のf1/3は900Hzである。この実施の形態で知りたいことは、例えば発振装置が使用されてから(水晶振動子が駆動されてから)ある日数が経過したときにf1が基準時の周波数からどれくらい変化しているかということである。そこで第1の水晶振動子とは異なる第2の水晶振動子を用い、この水晶振動子の基本波(周波数がf2である)を利用する。基本波の周波数の経時変化はオーバートーンの周波数の経時変化よりも大きく、また両経時変化の比率は一定である。
【0015】
この実施形態ではこの点に着目している。図1(a)の上側のグラフは、基本波の周波数f2の経時変化を示しており、基準時t0のf2は1000Hzである。図1(b)は両周波数の経時変化を基準時t0を合わせて示したものであり、各グラフの横軸からの高さは、周波数の変化分である。つまり3次オーバートーンの周波数変化分については、基準時におけるオーバートーンの周波数をf1reとすると、f1re/3とある時点でのf1/3との差分(f1−f1re)/3である。また基本波の周波数変化分については、基準時における周波数をf2reとすると、f2reとある時点でのf2との差分(f2−f2re)である。
【0016】
測定対象は、f1/3とf2との差分周波数であり、基準時における夫々の周波数f1re/3、f2reは既知(この例では900Hz、1000Hz)であるから、f2−f1/3の測定値が分かれば、(f2−f2re)−(f1−f1re)/3=ΔF(図1(b)参照)の値が分かる。そして各時点において、(f2−f2re)に対する(f1−f1re)/3の比率mを一定として取り扱い、この比率は予め分かっているため、ΔFが分かれば、最終的に求めたいf1の経時変化補償分の1/3の値[(f1−f1re)/3]を求めることができる。図1の例では比率mは4/9であるため、時刻t1における測定結果であるΔFが10Hzであれば、(f1−f1re)/3=ΔF・m/(1−m)=8Hzが得られる。
【0017】
なお、水晶振動子を製造後に始めて通電した初期には、経過時間と前記周波数変化分はとの関係は非直線的であるため、この関係が直線的になった後のタイミング、例えばメーカーからの出荷直前のタイミングを基準時とする。
【0018】
従って第1の水晶振動子におけるクロックである3次オーバートーンの周波数f1は2700Hzから24Hz増えたことになり、前記制御回路の動作について、24Hz増加分を相殺するように制御すること、例えば制御電圧を制御することなどが行われる。ところで以上の説明は、図1に示す周波数特性を求める環境温度と時刻t1における環境温度が等しいとした場合に対応する。もし周波数特性を求める環境温度が基準温度である例えば25℃であり、時刻t1における環境温度が27℃であったとしたら、ΔFには、温度変動に基づく周波数変化分も含まれることになる。その場合には、f1の経時変化に基づく変動分を正確に求めることができなくなる。
【0019】
そこでこの実施の形態では、第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子を後述のように同じ環境温度に置くと共に、この環境温度を測定する温度検出部を用いる。そして基準温度で正規化した正規化温度(基準温度をゼロとしたときの温度)と基準時におけるΔFとの関係と、を予め求めておき、当該関係と温度検出部で検出した温度検出値とに基づいて、ΔFに含まれる温度変化に基づく周波数差変動分(経時変化補正時の温度変動分キャンセルデータ)を求める。具体的には、図1の特性は基準温度における特性であるとし、基準時における27℃のときの第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子の周波数が夫々1003Hz及び901Hzであるとすると、f2の特性及びf1/3の特性は図1に示すグラフに対して夫々3Hz及び1Hzだけ高い位置にある。従ってそもそも基準時においてf2reとf1re/3との差分はゼロではなく、2Hzであり、前記ΔFには経時変化に基づく周波数差の他に温度変化に基づく2Hz分が含まれている。このため、測定したΔFから2Hzを差し引いた後の値を用いて、(1)式を適用する必要がある。
(f1−f1re)/3=ΔF・m/(1−m) ……(1)
こうして得られた(f1−f1re)/3の値がf1/3に含まれる経時変化に基づくいわば真の周波数変動分であり、この値を3倍した値だけ、第1の発振回路の出力周波数を補償することにより、第1の発振回路の出力周波数の経時変化に基づく周波数変動分が補償されることになる。
ところで、水晶振動子が置かれる温度環境が変動する場合、温度検出部により温度を検出し、温度(例えば基準温度に対して正規化した温度)と第1の水晶振動子の周波数(例えば基準温度における周波数に対して正規化した温度)とについて予め求めた関係と、温度検出値と、に基づいて第1の水晶振動子の周波数に含まれる温度変化に基づく周波数変動分を求めておくことが好ましい。この場合には、第1の水晶振動子の周波数から、既述の経時変化に基づく周波数変動分と温度変化に基づく周波数変動分とを差し引くことにより(変動分の値の符号によっては加算することにより)、目的とする出力周波数を安定して得ることができる。
【0020】
このような周波数の補償は、第1の水晶振動子の周波数に対して直接補償をすることに限らず、例えば第1の水晶振動子の周波数をクロックとして用いる制御回路において、周波数変動分をキャンセルするように制御電圧を調整することなども含まれる。
なお、本発明における経時変化に基づく周波数変動分の補償は、OCXOに適用してもよい。
[発明の実施形態の詳細説明]
次に本発明の実施形態の具体的回路構成、周波数特性などについて述べる。図2は本発明の発振装置の実施形態の全体を示すブロック図である。この発振装置は、設定された周波数の周波数信号を出力する周波数シンセサイザとして構成され、水晶振動子を用いた電圧制御発振器100と、この電圧制御発振器100におけるPLLを構成する制御回路部200と、この制御回路部200に入力される基準クロックの温度補償及び経時変化補償を行う信号補償部と、を備えている。信号補償部については符号を付していないが、図1における制御回路部200よりも左側部分に相当する。
【0021】
この制御回路部200は、図3に示すようにDDS(Direct Digital Synthesizer)回路部201から出力するリファレンス(参照用)クロックと、電圧制御発振器100の出力を分周器204で分周したクロックの位相とを位相周波数比較部205にて比較し、その比較結果である位相差が図示しないチャージポンプによりアナログ化される。アナログ化された信号はループフィルタ206に入力され、PLL(Phase locked loop)が安定するように制御される。従って制御回路部200は、PLL部であると言うこともできる。ここでDDS回路部201は、後述の第1の発振回路1から出力される周波数信号を基準クロックとして用い、目的とする周波数の信号を出力するための周波数データ(ディジタル値)が入力されている。
【0022】
しかし前記基準クロックの周波数が経時変化するため、この経時変化分をキャンセルするためにDDS回路部201に入力される前記周波数データに後述の周波数補正値に対応する信号を加算部90にて加算している。DDS回路部201に入力される周波数データを補正することで、基準クロックの経時特性変動分に基づくDDS回路部201の出力周波数の経時変動分がキャンセルされ、結果として温度変動に対して参照用クロックの周波数が安定し、以って電圧制御発振器100からの出力周波数が安定することになる。
【0023】
信号補償部は、経時変化補償部と温度補償部とを備えている。図2において、10及び20は、夫々第1の水晶振動子、第2の水晶振動子である。これら水晶振動子10及び20は、共通の水晶片Xbを用いて構成されている。即ち例えば短冊状の水晶片Xbの領域を長さ方向に2分割し、各分割領域(振動領域)の表裏両面に励振用の電極を設ける。従って第1の分割領域と一対の電極11、12とにより第1の水晶振動子10が構成され、第2の分割領域と一対の電極11、12とにより第2の水晶振動子20が構成される。このためこれら水晶振動子10及び20は互いに熱的に結合されたものということができる。
【0024】
第1の水晶振動子10には第1の発振回路1が接続されている。第1の水晶振動子10は、基本波が28.2MHzのものが用いられ、第1の発振回路1の出力は例えば3次オーバートーン(高調波)である。第2の水晶振動子20には、互に絶縁された第2の発振回路2及び第3の発振回路3が接続されている。第2の水晶振動子20は、基本波が26.5MHzのものが用いられている。これら第2の発振回路2及び第3の発振回路3は、互の絶縁を確保するために入力ラインの分岐点に図示していないがスイッチ部を設けて、一方の接点に切り替えたときには第2の水晶振動子20の励振電極が第2の発振回路2に接続され、他方の接点に切り替えたときには第2の水晶振動子20の励振電極が第3の発振回路3に接続されるように構成される。従って一方の接点と他方の接点との間で交互に切り替えることにより、第2の水晶振動子20の基本波(f2)が第2の発振回路2から、また第2の水晶振動子20の3次オーバートーン(f3)が第3の発振回路3から、夫々時分割データとして取り出され、後段の信号処理を行うことができる。
【0025】
第1の発振回路1及び第3の発振回路3の出力は3次以外のオーバートーンでもよいし、基本波でもよい。オーバートーンの出力を得る場合には、例えば水晶振動子と増幅器とからなる発振ループ内にオーバートーンの同調回路を設けて、発振ループをオーバートーンで発振させてもよい。あるいは発振ループについては基本波で発振させ、発振段の後段、例えばコルピッツ回路の一部である増幅器の後段にC級増幅器を設けてこのC級増幅器により基本波を歪ませると共にC級増幅器の後段にオーバートーンに同調する同調回路を設けて、結果として発振回路1、2からいずれも例えば3次オーバートーンの発振周波数を出力するようにしてもよい。
ここで便宜上、第1の発振回路1から周波数f1の周波数信号が出力され、第2の発振回路2から周波数f2の周波数信号が出力され、第3の発振回路3から周波数f3の周波数信号が出力されるものとすると、周波数f1の周波数信号は、前記制御回路部200に基準クロックとして供給される。本発明において、周波数f1の周波数信号は、発振装置の出力に利用されるものであるが、「利用される」とは、この例では図2に示す制御回路部200のクロックとして用いられることを指す。しかしこのような態様に限られるものではなく、例えば一般的なTCXOである水晶振動子とこの水晶振動子を発振させる発振回路とを組み合わせた発振装置において、第1の水晶振動子及び第1の発振回路が夫々これら水晶振動子及び発振回路に相当する場合も含まれ、この場合には、周波数f1の周波数信号が出力そのものとなる。
【0026】
周波数f1及び周波数f2は、既述した実施形態の概要説明におけるf1、f2に夫々対応する。従って第1の水晶振動子10及び第1の発振回路1と、第2の水晶振動子20及び第2の発振回路2とは、周波数f1の経時変化(第1の水晶振動子10を駆動したことにより基準時の周波数から変化した状態)を測定するためのものである。
【0027】
一方、第1の水晶振動子10及び第1の発振回路1と、第3の水晶振動子30及び第3の発振回路3とは、温度検出部の一部の役割を持っている。この点については後述するが、周波数f1とf3との差分に応じた値と温度との間で所定の関係があるため、この差分を測定することで温度を検出できる。そしてこの温度の検出結果の一つの用途は、実施形態の概要説明の項目にて述べたように、この温度検出値に基づいてf2−f1/3に含まれる温度変動分を検出するために用いられる。また温度の検出結果の他の用途は、第1の発振回路1から出力される周波数信号の周波数f1に含まれる温度変動分を検出するために用いられる。従ってこの例では、第1の発振回路1から出力される周波数信号は、発振装置を駆動するためのクロック出力部としての役割に加えて温度検出の役割も兼用しているということになる。
【0028】
周波数f1の経時変化を補償する部分に説明を戻すと、図2中、4は周波数差検出部である。第1の発振回路1の出力端と周波数差検出部4の入力端との間には、分周比1/3の分周回路13が設けられており、第1の発振回路1からの周波数信号は、その周波数f1が1/3に分周されて周波数差検出部4に入力される。周波数差検出部4は概略的な言い方をすれば、f1/3とf2との差分と、Δfreとの差分である、ΔF=f2−f1/3−Δfreを取り出すための回路部である。Δfreは、基準時において、基準温度例えば25℃におけるf2(f2re)とf1/3(f1re/3)との差分である。
本発明は、周波数差検出部4によりf2とf1/3との差分に対応する値と、基準温度例えば25℃におけるf2とf1/3との差分に対応する値と、の差分であるΔFを計算することにより成り立つ。この実施形態の場合(図4の場合)、より詳しく言えば、周波数差検出部4で得られる値は、{(f2−f1/3)/(f1/3)}−{(f2re−f1re/3)/(f1re/3)}である。ただし、図面では周波数差検出部4の出力の表示は略記している。
【0029】
この値は、図1に示したΔFに対応している。即ち発明の実施形態の概要の項目で模式的に説明したように、ΔFはf1の経時変化を補償するための補償値を求めるための値である。そして{(f2−f1/3)/(f1/3)}−{(f2re−f1re/3)/(f1re/3)}の値をΔFの代わりに使用し、例えば図1(b)のグラフを用いて既述のように、(f1−f1re)/3=ΔF・m/(1−m)の演算を行って補償値を求めてもf1の経時変化を補償することができる。周波数検出部4から得られる値は例えば34ビットの値であり、このディジタル値によりDDS回路部201の周波数データを補正することにより、既述の模式的な説明と同じ補償作用が得られる。
なお、周波数差検出部4がΔF=f2−f1/3−Δfreを算出する回路部であったとしても、本発明の効果が得られることに変わりはない。
【0030】
図4は、周波数差検出部4の具体例を示している。41はフリップフロップ回路(F/F回路)であり、このフリップフロップ回路41の一方の入力端に第1の発振回路1からの周波数f/3の周波数信号が入力され、他方の入力端に第2の発振回路2から周波数f2の周波数信号が入力され、第1の発振回路1からの周波数f1/3の周波数信号により第2の発振回路2からの周波数f2の周波数信号をラッチする。以下において記載の冗長を避けるために、f1、f2は、周波数あるいは周波数信号そのものを表しているとして取り扱う。フリップフロップ回路41は、f1/3とf2との周波数差に対応する値である、(f2−f1/3)/(f1/3)の周波数をもつ信号を出力する。
【0031】
フリップフロップ回路41の後段には、ワンショット回路42が設けられ、ワンショット回路42では、フリップフロップ回路41から得られたパルス信号における立ち上がりにてワンショットのパルスを出力する。図5(a)〜(d)はここまでの一連の信号を示したタイムチャートである。
ワンショット回路42の後段にはPLL(Phase Locked Loop)が設けられ、このPLLは、ラッチ回路43、積分機能を有するループフィルタ44、加算部45及びDDS回路部46により構成されている。ラッチ回路43はDDS回路部46から出力された鋸波をワンショット回路42から出力されるパルスによりラッチするためのものであり、ラッチ回路43の出力は、前記パルスが出力されるタイミングにおける前記鋸波の信号レベルである。ループフィルタ44は、この信号レベルである直流電圧を積分し、加算部45はこの直流電圧とΔfreに対応する直流電圧と加算する。Δfreに対応する直流電圧に対応するデータは図2に示すメモリ30に格納されている。
【0032】
この例では加算部45における符号は、Δfreに対応する直流電圧の入力側が「+」であり、ループフィルタ44の出力電圧の入力側が「−」となっている。DDS回路部46には、加算部45にて演算された直流電圧、即ちΔfreに対応する直流電圧からループフィルタ44の出力電圧を差し引いた電圧が入力され、この電圧値に応じた周波数の鋸波が出力される。PLLの動作の理解を容易にするために図6に極めて模式的に各部の出力の様子を示しておく。装置の立ち上げ時には、Δfreに対応する直流電圧が加算部45を通じてDDS回路部46に入力され、例えばΔfreが5MHzであるとすると、この周波数に応じた周波数の鋸波がDDL36から出力される。
【0033】
前記鋸波がラッチ回路43により(f2−f1/3)に対応する周波数のパルスでラッチされるが、(f2−f1/3)が例えば5.1MHzであるとすると、鋸波よりもラッチ用のパルスの周期が短いことから、鋸波のラッチポイントは図6(a)に示すように徐々に下がっていき、ラッチ回路43の出力及びループフィルタ44の出力は図6(b)、(c)に示すように−側に徐々に下がっていく。加算部45におけるループフィルタ44の出力側の符号が「−」であることから、加算部45からDDS回路部46に入力される直流電圧が上昇する。このためDDS回路部46から出力される鋸波の周波数が高くなり、DDS回路部46に5.1MHzに対応する直流電圧が入力されたときに、鋸波の周波数が5.1MHzとなって図7(a)〜(c)に示すようにPLLがロックされる。このときにループフィルタ44から出力される直流電圧は、Δfre−(f2−f1/3)=−0.1MHzに対応した値となる。つまりループフィルタ44の積分値は、5MHzから5.1MHzへ鋸波が変化するときの0.1MHzの変化分の積分値に相当するということができる。なお、5MHz及び5.1MHzは、説明のための便宜上の数値である。
【0034】
ここで周波数差検出部としては、周波数差検出部4の他にも、温度補償を行うための一部の機能として周波数差検出部5も設けられており、このため周波数差検出部の動作説明を補充するという観点から、Δfreの方が(f2−f1/3)よりも大きい場合の動作について併せて述べておく。この場合、例えばΔfreが5.1MHz、(f2−f1/3)が5MHzであるとする。鋸波よりもラッチ用のパルスの周期が長いためにことから、図6(a)に示すラッチポイントは徐々に高くなり、これに伴い、ラッチ回路43の出力及びループフィルタ44の出力も上昇する。このため加算部45において差し引かれる値が大きくなるので、鋸波の周波数が徐々に下がり、やがて(f2−f1/3)と同じ5MHzとなったときにPLLがロックされる。このときにループフィルタ44から出力される直流電圧は、Δfre−(f2−f1/3)=0.1MHzに対応した値となる。
【0035】
図8は実測データであり、この例では時刻t0にてPLLがロックしている。実際には周波数差検出部4の出力、即ち図4に示す平均化回路47の出力は、{(f2−f1/3)/(f1/3)}−{(f2re−f1re/3)/(f1re/3)}の値を34ビットのディジタル値で表した値である。
【0036】
またフリップフロップ41においてf2をf1/3によりラッチする動作は非同期であることから、メタステーブル(入力データをクロックのエッジでラッチする際、ラッチするエッジの前後一定時間は入力データを保持する必要があるが、クロックと入力データとがほぼ同時に変化することで出力が不安定になる状態)など不定区間が生じる可能性もあり、ループフィルタ44の出力には瞬間誤差が含まれる可能性がある。上記のPLLではループフィルタ44の出力を、温度に対応する値であるΔfreと(f2−f1/3)との差分として取り扱っていることから、ループフィルタ44の出力側に、予め設定した時間における入力値の移動平均を求める平均化回路47を設け、前記瞬間誤差が生じても取り除くようにしている。平均化回路47を設けることにより、最終的に周波数ずれ情報を高精度に取得することができる。PLLのループフィルタ44から平均化回路47を介して取り出された情報は、経時変化補正値演算部6に入力される。
【0037】
次に、第1の発振回路1からの周波数信号の周波数f1と第3の発振回路3からの周波数信号の周波数f3との取り扱いに関して説明する。なお第3の発振回路3からの周波数信号及びその周波数のいずれについてもf3で表わすものとする。図2中、5は周波数差検出部であり、周波数差検出部5は概略的な言い方をすれば、f1とf3との差分と、Δfrtとの差分である、ΔF´=f3−f1−Δfrtを取り出すための回路部である。なお、より正確に述べれば、周波数差検出部4と同様にΔF´は{(f1−f1rt)/f1rt}−{(f3−f3rt)/f3rt}である。
【0038】
Δfrtは、基準温度例えば25℃におけるf3とf1との差分である。周波数差検出部5は、図4に示すように前記周波数差検出部4と同一の構成であり、符号51〜57が示すものは夫々符号41〜47に示す部位に相当する。なお、既述のΔFと、ΔF´とを求めるにあたって、共通の周波数差検出部(4あるいは5)を使用し、信号を切り替えて演算を行うようにしてもよい。
【0039】
周波数差検出部5にて得られた周波数ずれ情報、この例ではΔfrt−(f3−f1)は、温度検出値に対応する。即ち、Δfrt−(f3−f1)は温度に応じて変わり、また周波数差検出部4にて求めたΔfre−(f2−f1/3)についても温度に応じて変わる。従って周波数差検出部4、5にて夫々得られたΔFと、ΔF´とは、一定の関係にある。つまり、ΔFは温度に対して所定の関係で変動するので、ΔF´を温度検出値と見立てて、予め温度を媒体としてΔFと、ΔF´との関係を求め、実施形態の概要にて述べたようにΔF´の値からΔFに含まれる温度変動分を求めようとしている。この演算を行う部分が温度変動分算出部7である。
【0040】
温度変動分算出部7に関して述べる前に、図9から図12を参照してΔF´とΔFに含まれる温度変動分とについて説明する。図9は、f1、f2及びf3を基準温度で正規化し、温度と周波数との関係を示す特性図である。ここでいう正規化とは、例えば25℃を基準温度とし、温度と周波数との関係について基準温度における周波数をゼロとし、基準温度における周波数からの周波数のずれ分と温度との関係を求めることを意味している。25℃における第1〜3の発振回路1〜3の周波数を夫々f1r、f2r及びf3rとすると、つまり25℃におけるf1、f2、f3の値を夫々f1r、f2r、f3rとすると、図9の縦軸の値は(f1−f1r)、(f2−f2r)及び(f3−f3r)ということになる。
【0041】
また図10は、図9に示した各温度の周波数について、基準温度(25℃)における周波数に対する変化率を表わしている。従って図10の縦軸の値は、(f1−f1r)/f1r、(f2−f2r)/f2r及び(f3−f3r)/f3rであり、これらの値を夫々OSC1、OSC2及びOSC3で表わすこととする。なお図10の縦軸の値の単位はppmである。
【0042】
ここで周波数差検出部4の説明に戻ると、既述のようにこの実施形態では周波数差検出部4は、(f2−f2re)−(f1/3−f1re/3)=f2−f1/3−Δfr、そのものの値ではなく、{(f2−f1/3)/(f1/3)}−{(f2re−f1re/3)/(f1re/3)}を演算値としている。そしてこの演算値を34ビットで表したディジタル値と温度との関係を示す特性カーブは、OSC2−OSC1と温度との関係を示す特性カーブと実質同じになる。従って周波数差検出部4は、OSC2−OSC1を求める演算を行っているということができる。つまり、各周波数が基準温度からどのくらいの比率で外れているかを示す比率の値について、f2における比率とf1における比率との差分を求めているということである。ラッチ回路43には(f2−f1/3)に対応する周波数信号が入力されるが、PLLループの中には鋸波が入ってくることから、このような計算を行うように回路を組むことができる。周波数差検出部4の出力が34ビットのディジタル値であるとすると、例えば1ビット当たり0.058(ppb)の値を割り当てており、OSC2−OSC1の値は、0.058(ppb)までの精度が得られていることになる。なお1ビット当たり0.058(ppb)の値に設定できる根拠は、後述の(2)〜(4)式に基づく。
【0043】
図11は、(OSC2−OSC1)と温度との関係、及び(OSC3−OSC1)と温度との関係を示している。(OSC2−OSC1)は、温度に対して直線から外れているが、言い換えれば直線性は悪いが、(OSC3−OSC1)は、温度に対して直線性がよい。この理由は、f3、f1はいずれもオーバートーンであり、出願人はその差分と温度とが良好な比例関係にあることを把握している。このため(OSC3−OSC1)を温度検出値として利用している。図12は、横軸に温度検出値である(OSC3−OSC1)の値をとり、縦軸に(OSC2−OSC1)の値をとっている。なお、より詳しくは温度検出値のビット数を抑えるために、横軸は温度検出値を正規化した値としている。例えば発振装置が実際に使用されるであろう上限温度及び下限温度を定めておき、上限温度のときの(OSC3−OSC1)の値を+1、下限温度のときの(OSC3−OSC1)の値を−1として取り扱っている。
【0044】
この例では、図12のグラフを曲線として捉え、最小二乗法により9次の多項近似式係数を導き出している。そして多項近似式係数を予め温度変動分算出部7に含まれるメモリに記憶しておき、温度変動分算出部7は、これら多項近似式係数を用いて(2)式の演算処理を行う。
【0045】
Y=P1・X9 +P2・X8 +P3・X7 +P4・X6 +P5・X5 +P6・X4 +P7・X3 +P8・X2 +P9・X ………(2)
(1)式においてXは周波数差検出情報、Yは補正データ、P1〜P9は多項近似式係数である。
【0046】
ここで、Xは図1に示す周波数差検出部5により得られた値、即ち図4に示す平均化回路57により得られた値(OSC3−OSC1)である。
【0047】
温度差変動分算出部7にて演算を実行するためのブロック図の一例を図13に示す。図13中、401〜409は(2)式の各項の演算を行う演算部、400は加算部、410は丸め処理を行う回路である。なお、温度変動分算出部7は、例えば1個の掛け算部を用い、この掛け算部にて9乗項の値を求め、次に当該掛け算部にて8乗項の値を求めるといった具合に、当該掛け算部をいわば使いまわして最終的に各乗項の値を加算するようにしてもよい。また補正値の演算式は9次の多項近似式を用いることに限定されるものではなく、要求される精度に応じた次数の近似式を用いてもよい。
【0048】
以上のようにして周波数差検出部4にて得られた周波数差情報と、温度差変動分算出部7にて得られた情報とは、図2に示す経時変化補正値算出部6に入力される。図14は、経時変化補正値算出部6の詳細を示す図であり、61は加算部である。温度差変動分算出部7にて得られた情報は、既述のように周波数差検出部4にて求めた経時変化補正用周波数差情報であるΔF=Δfre−(f2−f1/3)に含まれる温度変動分の値に対応するものであるから、経時変化補正時温度変動分キャンセルデータであるということができる。加算部61は、ΔFから前記キャンセルデータを差し引き、こうして先の図1(b)に示す、水晶振動子を駆動することによる経時変化(エージング特性)に基づく真のΔFが求められることになる。
【0049】
図15は、図1(b)に対応する図であり、発明の実施形態の概要にて(1)式を挙げて述べたようにΔFが分かれば予め求めておいた、(f2−f2re)に対する(f1−f1re)/3の比率mを用いてΔfb=(f1−f1re)/3が求められる。この演算を行う部位が図14に示す掛け算部62である。また掛け算部62の後段にはラッチ回路部63があり、経時変化補正トリガ信号によりΔfbがラッチされて経時変化補正値算出部6から出力される。このトリガ信号は、発振装置を制御する図示しない制御部から送られ、オペレータによりトリガ信号を出力する、しないを選択できるようになっている。
【0050】
以上の説明は、発振装置の制御回路部200に供給されるクロックであるf1について経時変化による周波数変動分を求める手法であるが、OCXOに適用しない場合には、f1の温度変動分も補償することが好ましい。そのためには温度検出部により温度を検出し、温度検出値とf1との関係、詳しくは基準温度に対して正規化した温度と基準温度における周波数に対する周波数変化分との関係に基づいてf1の温度変動分である温度補正データΔfaを求め、Δfaを前記Δfbに加える必要がある。図2の符号9で示す部分は、この演算を行う加算部である。
【0051】
この実施形態では温度検出部として、クロックとして使用する第1の水晶振動子10、第1の発振回路1、第3の水晶振動子30、第3の発振回路3、周波数差検出部5及び温度補正値算出部8からなる部分を用いている。周波数差検出部5の出力である、温度検出値に相当するΔF´=f3−f1−Δfrtを求める作業までは、先の温度補正データΔfaの算出作業と同じであるが、温度補正値算出部8ではΔF´を用いてf1の温度変動分を求める点が異なる。
【0052】
図16は、(OSC3−OSC1)と温度との関係、及びOSC1と温度との関係をし、図17は、図16に基づいて、横軸に温度検出値である(OSC3−OSC1)の値をとり、縦軸に−OSC1の値をとっている。なお、より詳しくは記述のように横軸は温度検出値を正規化した値としている。この例では、図17のグラフに対して最小二乗法により9次の多項近似式係数を導き出している。そして多項近似式係数を予め温度補正値算出部に含まれるメモリに記憶しておき、温度変動分算出部8は、これら多項近似式係数を用いて演算処理を行う。なお、この演算処理は例えば係数を変えた上で(2)式を用いて行われる。
【0053】
こうして得られた温度補正データΔfaと経時変化補正データΔfbとが加算部9(図2参照)にて加算されて補正値が得られる。図2に示すDDS201は、第1の発振回路1〜出力される周波数信号f1を動作クロックとして参照クロック信号を出力しており、周波数信号f1の経時変化及び温度変化により参照クロック信号の周波数が変動する。一方、図2に示す制御部200には、電圧制御発振器100の出力周波数を設定するための設定値に対応するディジタル値からなる周波数データが入力されており、前記加算部9から得られる補正値により前記周波数データを補正する。具体的には、例えば加算部9の後段に設けた加算部90により、当該補正値と周波数データを加算し、この加算値をDDS201に入力する。このように周波数データを補正することにより、DDS201の動作クロックf1の経時変化分及び温度変化分が補償されることとなる。この結果、本実施形態の発振装置1の出力である電圧制御発振器100の出力周波数が水晶振動子における経時変化に基づく周波数変動及び温度変化に基づく周波数変動にかかわらず安定したものとなる。従って高安定、高精度の発振装置を実現することができる。なお、図2の加算部9に入力される外部補正データに関しては、本実施形態の変形例として取り扱うため、後述する。
【0054】
この実施形態では、図2に示すように第1〜3の水晶振動子10〜30は共通の水晶片Xbを用いて構成され、互いに熱的に結合されていることから、発振回路1〜3の周波数差は、環境温度に極めて正確に対応した値であり、従って既述の温度補償、経時変化補償を高精度に行うことができる。なお、第1〜3の水晶振動子10〜30を別々の水晶片により構成し、これらを共通の容器内に配置して、環境温度を揃えるようにしてもよい。
更にこの実施形態では、水晶振動子の基本波における経時変化がオーバートーンよりも大きいことを利用して、基本波とオーバートーンとの差分を用いて第1の発振回路の出力周波数を補正するようにしている。また温度変化に対してオーバートーンの変動量が大きく、オーバートーン同士の特性の差が温度変化により大きいことを利用して、温度補償についてはオーバートーンを用いている。このため、水晶振動子の経時変化、温度変化に対応する周波数補償を高い精度で行うことができる利点がある。
【0055】
また周波数差情報を求めるために、例えばf2とf1/3との差分周波数のパルスを作成し、DDS回路部46から出力された鋸波信号を前記パルスによりラッチ回路43でラッチし、ラッチされた信号値を積分してその積分値を前記周波数差として出力すると共に、この出力とf2rとf1r/3との差分に対応する値との差分を取り出して、前記DDS回路部46に入力してPLLを構成している。周波数差をカウントしてその差分を取得する場合には、カウント時間が検出精度に直接影響するが、上述の構成では、このような問題がないため検出精度が高いという利点がある。周波数差検出部3のDDS回路部46の出力信号は、鋸波に限ることなく、時間と共に信号値が増加、減少を繰り返す周波数信号であればよく、例えば正弦波であってもよい。なお周波数差を求めるためには、周波数カウント回路を用意して、各カウント値の差分を求める手法であってもよい。
【0056】
また第2の水晶振動子20を第2の発振回路2に接続した状態と、第3の発振回路3に接続した状態との一方を選択できるように構成してもよい。このような例としては、第2の発振回路2と第3の発振回路3とを共通化すると共に、共通化された発振回路の一部を、基本波発振用の回路要素と3次オーバートーン用の回路要素との間で切り替えることができるように発振回路を構成する例を挙げることができる。この例では、第2の水晶振動子20を第2の発振回路2に接続した状態は、基本波発振用の回路要素を用いる状態であり、第2の水晶振動子20を第3の発振回路3に接続した状態は、3次オーバートーン用の回路要素を用いる状態である。
【0057】
このような例においては、常時は第2の水晶振動子20を第3の発振回路3に接続した状態を選択し、温度補正値算出部8からの出力により、f1に対する温度補償が行われる。そして定期的に例えば1月に1回、あるいは6ヶ月に1回、短時間だけ第2の水晶振動子20を第2の発振回路2に接続した状態を選択する。第2の水晶振動子20を第2の発振回路2に切り替えているときには、第3の発振回路3から第2の発振回路2に選択を切り替える直前の温度補正データΔfaが温度補正値算出部8から出力される。また第2の水晶振動子20を第3の発振回路3に切り替えているときには、第2の発振回路2から第3の発振回路3に選択を切り替える直前の経時変化補正データΔfbが経時変化補正値算出部6から出力される。従ってこの例では、経時変化補正データΔfbは定期的に更新されることになる。
【0058】
また第2の水晶振動子20と第2の発振回路2と第3の発振回路3との間にスイッチ部を設け、スイッチ部を切り替えることにより、前記2つの状態を選択できるように構成してもよい。
【0059】
繰り返しの説明になるが、この実施形態ではf2とf2reとの差分に対応する値とは、{(f2−f2re)/f2re}(=OSC2)であり、f1/3とf1re/3との差分に対応する値とは{(f1−f1re)/f1re}(=OSC1)であり、これらの値の差分値に対応する値とは、OSC2−OSC1である。しかしながら周波数差検出部3は、f2とf2reとの差分に対応する値と、f1/3とf1re/3との差分に対応する値と、の差分値に対応する値として、f2−f2reと、f1/3−f1re/3と、の差分値そのものを用いてもよいことは、図1の説明から勿論である。
【0060】
上述の実施形態において、図10から図12の説明では、周波数の変化分を「ppm」単位で表示しているが、実際のデジタル回路では全て2進数での扱いとなるため、DDS回路46の周波数設定精度は構成ビット数で計算され、例えば34ビットである。一例を挙げると、図1に示す制御回路部200に含まれるDDS回路部201に10MHzのクロックを供給する場合においてこのクロックの変動周波数が100Hzの場合
〔変動比率計算〕
100Hz/10MHz=0.00001
〔ppm換算〕
0.00001*1e6=10〔ppm〕
〔DDS設定精度換算〕
0.00001*2^34≒171,799〔ratio−34bit(仮称)〕となる。
【0061】
上記の構成の場合、前記周波数設定精度は次の(2)式で表わされる。
1×〔ratio−34bit〕=10M〔Hz〕/2^34≒0.58m〔Hz/bit〕 ……(2)
従って100〔Hz〕/0.58m〔Hz/bit〕≒171,799〔bit(ratio−34bit)〕となる。
また、0.58mHzは10MHzに対して、次の(3)式のように計算できる。
0.58m〔Hz〕/10M〔Hz〕*1e9≒0.058〔ppb〕…(3)
従って(2)、(3)式から、(4)式の関係が成り立つ。
【0062】
1e9/2^34=0.058〔ppb/ratio−34bit〕…(4)
即ちDDS回路46で処理した周波数は消え、ビット数のみの関係となる。
【0063】
更にまた上述の例では第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20とは共通の水晶片Xbを用いているが、水晶片Xbが共通化されていなくてもよい。この場合、例えば共通の筐体の中に第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20を配置する例を挙げることができる。また温度補償用として第2の水晶振動子20からオーバートーンの信号を利用しているが、第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20とは別個に第3の水晶振動子を設けて、第3の水晶振動子から温度補償用の周波数信号f3を得るようにしてもよい。
【0064】
加算部9にて得られた補正値は、上述の実施形態のように用いることに限定されるものではなく、発振装置の出力周波数が経時変化や温度で変動する場合に、補正値を用いて出力周波数の変動分を相殺できるように補償できる構成であれば他の手法で補正してもよい。
【0065】
本発明は、前記第1の発振回路1の出力を利用して発振装置の出力を生成することを前提としており、その態様として上述の実施の形態では、第1の発振回路1から得られる周波数信号f1を図1に示す制御回路部200(詳しくはDDS回路部201)の基準クロックとして用いている。しかし第1の発振回路1の出力を利用して発振装置の出力を生成する態様としては、一般のTCXOのように、第1の発振回路1の出力がそのまま発振装置の出力として利用される態様であってもよい。TCXOの一つとして、基準温度における水晶振動子の周波数に対応する基準電圧を発生させ、この基準電圧に温度検出器で検出した温度値に応じた補償電圧を加算する装置があるが、この場合の補償電圧として、加算部9にて得られた補正値を用いるようにしてもよい。
【0066】
以上において図2の加算部9に入力される「外部補正データ」に関して述べておく。フェムトセル基地局などにおいて用いられるクロックの周波数安定度は±30ppb以下といった極めて高い安定度が要求される。そこでGPS受信機やNTPサーバなどから得られる高精度、高安定なクロック信号と本発明の発振装置から出力される周波数信号とを比較して例えば両者の位相差を取り出すPLLなどの回路部を用い、その差分に対応する補正値を求め、当該補正値を「外部補正データ」として加算器9に入力する。従って、加算器9から出力される補正データは、前記温度補正データΔfaと経時変化補正データΔfbと外部補正データとの加算値ということになる。
【0067】
より具体的に説明すれば、前記回路部は、前記両者の位相差に対応する値を求めた後、この値を、図2の制御回路部200に入力される制御電圧とVCXO100から出力される周波数の変化率との関係において、周波数の変化率の補正量に応じた制御電圧の補正量に置き換える機能を備えている。この制御電圧の補正量が外部補正データとなる。
【0068】
このようにすれば、発振装置から得られる周波数信号がより高精度、高安定なものになる。またこのような使い方をすれば、発振装置としてTCXOなどのいわば安定度の低いものを用いながら、高精度、高安定なクロックを生成することができ、フェムトセル基地局などにてクロックに対して高い要求がされるシステムに適用することができる。そして本発明によれば、外部から例えばNTPサーバなどからの高品質なクロックが途絶えた場合でも、発振装置の上位装置において常時クロックデータを一定期間にサイクリックにメモリ内に記憶しておいて、クロックが途絶える直前のクロックデータをメモリから読み出すことにより、外部補正データに基づく類似した補正を行うことができると共に、温度補償、経時変化補償がされる。従って発振装置の出力についてある程度の精度を維持することができ、システムダウンに陥ることを回避することができる。
【符号の説明】
【0069】
1〜3 第1〜第3の発振回路
10〜30 第1〜第3の水晶振動子
4、5 周波数差検出部
41 フリップフロップ回路
42 ワンショット回路
43 ラッチ回路
44 ループフィルタ
45 加算部
46 DDS回路部
6 経時変化補正値算出部
7 温度変動分算出部
8 温度補正値算出部
100 電圧制御発振器
200 制御回路部
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子を用いた発振装置であって、水晶振動子の周波数の経時変化を補償する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子は、駆動時間の経過に伴って発振周波数がドリフトする性質がある。一方市場では水晶発振器に対して極めて高い周波数安定度が要求されるアプリケーションが増えてきているが、アプリケーションに組み込まれる場合水晶発振器としては、通常OCXOが一般的である。OCXOは、前記ドリフトが少ない利点があるが、装置が大掛かりであり、消費電力が大きい。このため簡素な構成であり、消費電力の少ないTCXOを利用することが検討されているが、TCXOは駆動時間の経過に伴う発振周波数のドリフト量が大きい欠点があり、高い周波数安定度が要求されるアプリケーションに対しては適用しにくいという課題がある。
【0003】
特許文献1共通の水晶片に2対の電極を設けて2つの水晶振動子(水晶共振子)を構成し、温度変化に応じて2つの水晶振動子の間で周波数差が現れることを利用して発振周波数の温度補償を行う技術が記載されているが、周波数の経時変化の補償については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−292030号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は、水晶振動子の動作時間の経過に伴う発振周波数の変化を補償して安定した発振周波数が得られる発振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、水晶振動子を用いた発振装置において、
水晶片に第1の電極を設けて構成した第1の水晶振動子と、
水晶片に第2の電極を設けて構成した第2の水晶振動子と、
これら第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子に夫々接続された第1の発振回路及び第2の発振回路と、
第1の発振回路の発振周波数をf1、基準時における第1の発振回路の発振周波数をf1rz、第2の発振回路の発振周波数をf2、基準時における第2の発振回路の発振周波数をf2rzとすると、f2とf2rzとの差分に対応する値と、f1とf1rzとの差分に対応する値と、の差分値ΔFに対応する値を求める周波数差検出部と、
この周波数差検出部にて検出された前記差分値ΔFに対応する値と経時変化の補正係数とに基づいて、時間が基準時から経過したことに基づくf1の周波数補正値を取得する経時変化補償用の補正値取得部と、を備え、
前記経時変化の補正係数は、基準時からの動作時間の経過に対して、第1の発振回路の周波数の変化分と第2の発振回路の周波数の変化分との比率であり、
発振装置の出力は、前記第1の発振回路の出力を利用して生成され、
前記補正値取得部にて求めた前記周波数補正値に基づいて前記出力周波数の設定値を補正するように構成したことを特徴とする。
【0007】
本発明の具体的構成例を列挙する。
第1の発振回路の発振周波数f1はn次オーバートーンであり、第2の発振回路の発振周波数f2は基本波の周波数であり、
前記差分値ΔFは、
{(f2−f2rz)/f2rz}−{(f1−f1rz)/f1rz}である。
【0008】
また他の具体例は、前記経時変化の補正係数は、基準温度において設定された値であり、
前記第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子が置かれる雰囲気温度を検出する温度検出部と、
基準時において、基準温度からの温度変化分と基準温度における前記差分値ΔFに対する変動量との関係と、前記温度検出部にて求めた雰囲気温度と、に基づいて、前記差分値ΔFに含まれる温度変化に起因する変化量を求める温度補償用算出部と、を備え
前記補正値取得部は、前記差分値ΔFから前記温度補償用算出部にて算出された変化量を差し引いた値を用いてf1の周波数補正値を取得することを特徴とする。
【0009】
更に他の具体例は、前記第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子が置かれる雰囲気温度を検出する温度検出部と、
この温度検出部にて検出された温度に対応する信号と、当該信号と第1の発振回路の発振周波数f1の周波数補正値との関係と、に基づいて、環境温度が基準温度からずれたことに起因するf1の周波数補正値を取得する温度補償用の補正値取得部と、を備え、
前記経時変化用の補正値取得部にて求めた前記周波数補正値と、前記温度補償用の補正値取得部にて求めた前記周波数補正値と、基づいて前記出力周波数の設定値を補正するように構成したことを特徴とする。
【0010】
周波数差検出部は、
前記f1とf2との差分周波数のパルスを作成するパルス作成部と、入力された直流電圧の大きさに応じた周波数で時間と共に信号値が増加、減少を繰り返す周波数信号を出力するDDS回路部と、このDDS回路部から出力された周波数信号を前記パルス作成部にて作成されたパルスによりラッチするラッチ回路と、このラッチ回路にてラッチされた信号値を積分してその積分値を前記前記差分値に対応する値として出力するループフィルタと、このループフィルタの出力とf1rzとf2rzとの差分に対応する値との差分を取り出して、前記DDS回路部に入力値とする加算部と、を備えたことを特徴とする。
第1の水晶振動子の水晶片と第2の水晶振動子の水晶片とは、共通化されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、第1の発振回路の発振周波数をf1、基準時における第1の発振回路の発振周波数をf1rz、第2の発振回路の発振周波数をf2、基準時における第2の発振回路の発振周波数をf2rzとすると、f2とf2rzとの差分に対応する値と、f1とf1rzとの差分に対応する値と、の差分値ΔFに対応する値(即ち、第1の水晶振動子における周波数について基準時からの変化分と、第2の水晶振動子における周波数について基準時からの変化分との差分値ΔF)を求めている。そして基準時からの時間の経過に対して、第1の水晶振動子の周波数の変化分と第2の水晶振動子の周波数の変化分との比率が同じであるとして取り扱ったときの当該比率を経時変化の補正係数とし、差分値ΔFに対応する値と経時変化の補正係数とに基づいて、発振装置の出力を作り出すための水晶振動子の周波数について補正値を取得するようにしている。従って、水晶振動子の動作時間の経過に伴う発振周波数の変化を補償しているので、安定した発振周波数が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態の概要説明に使用する発振周波数の経時変化を示す模式的な説明図である。
【図2】本発明の実施形態の全体構成を示すブロック図である。
【図3】上記実施の形態に用いられる制御回路部の構成を示すブロック図である。
【図4】周波数差検出部を示すブロック図である。
【図5】周波数差検出部の一部の出力の波形図である。
【図6】周波数差検出部におけるDDS回路部を含むループにおいてロックしていない状態を模式的に示す各部の波形図である。
【図7】周波数差検出部におけるDDS回路部を含むループにおいてロックしていない状態を模式的に示す各部の波形図である。
【図8】実際の装置について前記ループにおけるループフィルタの出力波形図である。
【図9】第1〜第3の発振回路の各周波数f1、f2、f3と温度との関係を示す周波数温度特性図である。
【図10】各周波数f1、f2、f3の各々を正規化した値と温度との関係を示す周波数温度特性図である。
【図11】各周波数を正規化した値の差分と温度との関係を示す周波数温度特性図である。
【図12】f1/3−f3に対応する値に含まれる、温度変化に起因する変動分と、温度検出結果に対応する値との関係を示す特性図である。
【図13】図12に示す特性図の横軸の値に基づいて縦軸の値を演算で求めるための演算部を示すブロック図である。
【図14】エージング補正値算出部を示すブロック図である。
【図15】エージング(経時変化)により周波数が変化する様子を示す特性図である。
【図16】f1を正規化した値と温度との関係、及びf1を正規化した値とf2を正規化した値との差分と温度との関係を示す周波数温度特性図である。
【図17】図16の縦軸を正規化した値と、周波数補正値との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[発明の実施形態の概要]
この実施形態にかかる発振装置は、第1の水晶振動子を発振させる第1の発振回路の発振出力を例えば制御回路のクロックとして用いている場合、第1の水晶振動子の経時変化によりクロック周波数が変化すると制御回路の動作が目的とする動作から外れてくる。このためクロック周波数の経時変化分(エージングによる周波数の変化分)を補償しようとする技術である。実施形態を詳細に説明する前に、この補償の様子の概要について極めて模式的に述べておく。この模式的な説明で使用する数値は便宜上のものであり、グラフの傾きなども便宜上のものである。
【0014】
今、第1の水晶振動子の3次オーバートーン(周波数をf1とする)をクロックとして用いているものとし、t0を基準時とすると、3次オーバートーンの1/3の周波数の経時変化は図1(a)の下側のグラフで表され、基準時t0のf1/3は900Hzである。この実施の形態で知りたいことは、例えば発振装置が使用されてから(水晶振動子が駆動されてから)ある日数が経過したときにf1が基準時の周波数からどれくらい変化しているかということである。そこで第1の水晶振動子とは異なる第2の水晶振動子を用い、この水晶振動子の基本波(周波数がf2である)を利用する。基本波の周波数の経時変化はオーバートーンの周波数の経時変化よりも大きく、また両経時変化の比率は一定である。
【0015】
この実施形態ではこの点に着目している。図1(a)の上側のグラフは、基本波の周波数f2の経時変化を示しており、基準時t0のf2は1000Hzである。図1(b)は両周波数の経時変化を基準時t0を合わせて示したものであり、各グラフの横軸からの高さは、周波数の変化分である。つまり3次オーバートーンの周波数変化分については、基準時におけるオーバートーンの周波数をf1reとすると、f1re/3とある時点でのf1/3との差分(f1−f1re)/3である。また基本波の周波数変化分については、基準時における周波数をf2reとすると、f2reとある時点でのf2との差分(f2−f2re)である。
【0016】
測定対象は、f1/3とf2との差分周波数であり、基準時における夫々の周波数f1re/3、f2reは既知(この例では900Hz、1000Hz)であるから、f2−f1/3の測定値が分かれば、(f2−f2re)−(f1−f1re)/3=ΔF(図1(b)参照)の値が分かる。そして各時点において、(f2−f2re)に対する(f1−f1re)/3の比率mを一定として取り扱い、この比率は予め分かっているため、ΔFが分かれば、最終的に求めたいf1の経時変化補償分の1/3の値[(f1−f1re)/3]を求めることができる。図1の例では比率mは4/9であるため、時刻t1における測定結果であるΔFが10Hzであれば、(f1−f1re)/3=ΔF・m/(1−m)=8Hzが得られる。
【0017】
なお、水晶振動子を製造後に始めて通電した初期には、経過時間と前記周波数変化分はとの関係は非直線的であるため、この関係が直線的になった後のタイミング、例えばメーカーからの出荷直前のタイミングを基準時とする。
【0018】
従って第1の水晶振動子におけるクロックである3次オーバートーンの周波数f1は2700Hzから24Hz増えたことになり、前記制御回路の動作について、24Hz増加分を相殺するように制御すること、例えば制御電圧を制御することなどが行われる。ところで以上の説明は、図1に示す周波数特性を求める環境温度と時刻t1における環境温度が等しいとした場合に対応する。もし周波数特性を求める環境温度が基準温度である例えば25℃であり、時刻t1における環境温度が27℃であったとしたら、ΔFには、温度変動に基づく周波数変化分も含まれることになる。その場合には、f1の経時変化に基づく変動分を正確に求めることができなくなる。
【0019】
そこでこの実施の形態では、第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子を後述のように同じ環境温度に置くと共に、この環境温度を測定する温度検出部を用いる。そして基準温度で正規化した正規化温度(基準温度をゼロとしたときの温度)と基準時におけるΔFとの関係と、を予め求めておき、当該関係と温度検出部で検出した温度検出値とに基づいて、ΔFに含まれる温度変化に基づく周波数差変動分(経時変化補正時の温度変動分キャンセルデータ)を求める。具体的には、図1の特性は基準温度における特性であるとし、基準時における27℃のときの第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子の周波数が夫々1003Hz及び901Hzであるとすると、f2の特性及びf1/3の特性は図1に示すグラフに対して夫々3Hz及び1Hzだけ高い位置にある。従ってそもそも基準時においてf2reとf1re/3との差分はゼロではなく、2Hzであり、前記ΔFには経時変化に基づく周波数差の他に温度変化に基づく2Hz分が含まれている。このため、測定したΔFから2Hzを差し引いた後の値を用いて、(1)式を適用する必要がある。
(f1−f1re)/3=ΔF・m/(1−m) ……(1)
こうして得られた(f1−f1re)/3の値がf1/3に含まれる経時変化に基づくいわば真の周波数変動分であり、この値を3倍した値だけ、第1の発振回路の出力周波数を補償することにより、第1の発振回路の出力周波数の経時変化に基づく周波数変動分が補償されることになる。
ところで、水晶振動子が置かれる温度環境が変動する場合、温度検出部により温度を検出し、温度(例えば基準温度に対して正規化した温度)と第1の水晶振動子の周波数(例えば基準温度における周波数に対して正規化した温度)とについて予め求めた関係と、温度検出値と、に基づいて第1の水晶振動子の周波数に含まれる温度変化に基づく周波数変動分を求めておくことが好ましい。この場合には、第1の水晶振動子の周波数から、既述の経時変化に基づく周波数変動分と温度変化に基づく周波数変動分とを差し引くことにより(変動分の値の符号によっては加算することにより)、目的とする出力周波数を安定して得ることができる。
【0020】
このような周波数の補償は、第1の水晶振動子の周波数に対して直接補償をすることに限らず、例えば第1の水晶振動子の周波数をクロックとして用いる制御回路において、周波数変動分をキャンセルするように制御電圧を調整することなども含まれる。
なお、本発明における経時変化に基づく周波数変動分の補償は、OCXOに適用してもよい。
[発明の実施形態の詳細説明]
次に本発明の実施形態の具体的回路構成、周波数特性などについて述べる。図2は本発明の発振装置の実施形態の全体を示すブロック図である。この発振装置は、設定された周波数の周波数信号を出力する周波数シンセサイザとして構成され、水晶振動子を用いた電圧制御発振器100と、この電圧制御発振器100におけるPLLを構成する制御回路部200と、この制御回路部200に入力される基準クロックの温度補償及び経時変化補償を行う信号補償部と、を備えている。信号補償部については符号を付していないが、図1における制御回路部200よりも左側部分に相当する。
【0021】
この制御回路部200は、図3に示すようにDDS(Direct Digital Synthesizer)回路部201から出力するリファレンス(参照用)クロックと、電圧制御発振器100の出力を分周器204で分周したクロックの位相とを位相周波数比較部205にて比較し、その比較結果である位相差が図示しないチャージポンプによりアナログ化される。アナログ化された信号はループフィルタ206に入力され、PLL(Phase locked loop)が安定するように制御される。従って制御回路部200は、PLL部であると言うこともできる。ここでDDS回路部201は、後述の第1の発振回路1から出力される周波数信号を基準クロックとして用い、目的とする周波数の信号を出力するための周波数データ(ディジタル値)が入力されている。
【0022】
しかし前記基準クロックの周波数が経時変化するため、この経時変化分をキャンセルするためにDDS回路部201に入力される前記周波数データに後述の周波数補正値に対応する信号を加算部90にて加算している。DDS回路部201に入力される周波数データを補正することで、基準クロックの経時特性変動分に基づくDDS回路部201の出力周波数の経時変動分がキャンセルされ、結果として温度変動に対して参照用クロックの周波数が安定し、以って電圧制御発振器100からの出力周波数が安定することになる。
【0023】
信号補償部は、経時変化補償部と温度補償部とを備えている。図2において、10及び20は、夫々第1の水晶振動子、第2の水晶振動子である。これら水晶振動子10及び20は、共通の水晶片Xbを用いて構成されている。即ち例えば短冊状の水晶片Xbの領域を長さ方向に2分割し、各分割領域(振動領域)の表裏両面に励振用の電極を設ける。従って第1の分割領域と一対の電極11、12とにより第1の水晶振動子10が構成され、第2の分割領域と一対の電極11、12とにより第2の水晶振動子20が構成される。このためこれら水晶振動子10及び20は互いに熱的に結合されたものということができる。
【0024】
第1の水晶振動子10には第1の発振回路1が接続されている。第1の水晶振動子10は、基本波が28.2MHzのものが用いられ、第1の発振回路1の出力は例えば3次オーバートーン(高調波)である。第2の水晶振動子20には、互に絶縁された第2の発振回路2及び第3の発振回路3が接続されている。第2の水晶振動子20は、基本波が26.5MHzのものが用いられている。これら第2の発振回路2及び第3の発振回路3は、互の絶縁を確保するために入力ラインの分岐点に図示していないがスイッチ部を設けて、一方の接点に切り替えたときには第2の水晶振動子20の励振電極が第2の発振回路2に接続され、他方の接点に切り替えたときには第2の水晶振動子20の励振電極が第3の発振回路3に接続されるように構成される。従って一方の接点と他方の接点との間で交互に切り替えることにより、第2の水晶振動子20の基本波(f2)が第2の発振回路2から、また第2の水晶振動子20の3次オーバートーン(f3)が第3の発振回路3から、夫々時分割データとして取り出され、後段の信号処理を行うことができる。
【0025】
第1の発振回路1及び第3の発振回路3の出力は3次以外のオーバートーンでもよいし、基本波でもよい。オーバートーンの出力を得る場合には、例えば水晶振動子と増幅器とからなる発振ループ内にオーバートーンの同調回路を設けて、発振ループをオーバートーンで発振させてもよい。あるいは発振ループについては基本波で発振させ、発振段の後段、例えばコルピッツ回路の一部である増幅器の後段にC級増幅器を設けてこのC級増幅器により基本波を歪ませると共にC級増幅器の後段にオーバートーンに同調する同調回路を設けて、結果として発振回路1、2からいずれも例えば3次オーバートーンの発振周波数を出力するようにしてもよい。
ここで便宜上、第1の発振回路1から周波数f1の周波数信号が出力され、第2の発振回路2から周波数f2の周波数信号が出力され、第3の発振回路3から周波数f3の周波数信号が出力されるものとすると、周波数f1の周波数信号は、前記制御回路部200に基準クロックとして供給される。本発明において、周波数f1の周波数信号は、発振装置の出力に利用されるものであるが、「利用される」とは、この例では図2に示す制御回路部200のクロックとして用いられることを指す。しかしこのような態様に限られるものではなく、例えば一般的なTCXOである水晶振動子とこの水晶振動子を発振させる発振回路とを組み合わせた発振装置において、第1の水晶振動子及び第1の発振回路が夫々これら水晶振動子及び発振回路に相当する場合も含まれ、この場合には、周波数f1の周波数信号が出力そのものとなる。
【0026】
周波数f1及び周波数f2は、既述した実施形態の概要説明におけるf1、f2に夫々対応する。従って第1の水晶振動子10及び第1の発振回路1と、第2の水晶振動子20及び第2の発振回路2とは、周波数f1の経時変化(第1の水晶振動子10を駆動したことにより基準時の周波数から変化した状態)を測定するためのものである。
【0027】
一方、第1の水晶振動子10及び第1の発振回路1と、第3の水晶振動子30及び第3の発振回路3とは、温度検出部の一部の役割を持っている。この点については後述するが、周波数f1とf3との差分に応じた値と温度との間で所定の関係があるため、この差分を測定することで温度を検出できる。そしてこの温度の検出結果の一つの用途は、実施形態の概要説明の項目にて述べたように、この温度検出値に基づいてf2−f1/3に含まれる温度変動分を検出するために用いられる。また温度の検出結果の他の用途は、第1の発振回路1から出力される周波数信号の周波数f1に含まれる温度変動分を検出するために用いられる。従ってこの例では、第1の発振回路1から出力される周波数信号は、発振装置を駆動するためのクロック出力部としての役割に加えて温度検出の役割も兼用しているということになる。
【0028】
周波数f1の経時変化を補償する部分に説明を戻すと、図2中、4は周波数差検出部である。第1の発振回路1の出力端と周波数差検出部4の入力端との間には、分周比1/3の分周回路13が設けられており、第1の発振回路1からの周波数信号は、その周波数f1が1/3に分周されて周波数差検出部4に入力される。周波数差検出部4は概略的な言い方をすれば、f1/3とf2との差分と、Δfreとの差分である、ΔF=f2−f1/3−Δfreを取り出すための回路部である。Δfreは、基準時において、基準温度例えば25℃におけるf2(f2re)とf1/3(f1re/3)との差分である。
本発明は、周波数差検出部4によりf2とf1/3との差分に対応する値と、基準温度例えば25℃におけるf2とf1/3との差分に対応する値と、の差分であるΔFを計算することにより成り立つ。この実施形態の場合(図4の場合)、より詳しく言えば、周波数差検出部4で得られる値は、{(f2−f1/3)/(f1/3)}−{(f2re−f1re/3)/(f1re/3)}である。ただし、図面では周波数差検出部4の出力の表示は略記している。
【0029】
この値は、図1に示したΔFに対応している。即ち発明の実施形態の概要の項目で模式的に説明したように、ΔFはf1の経時変化を補償するための補償値を求めるための値である。そして{(f2−f1/3)/(f1/3)}−{(f2re−f1re/3)/(f1re/3)}の値をΔFの代わりに使用し、例えば図1(b)のグラフを用いて既述のように、(f1−f1re)/3=ΔF・m/(1−m)の演算を行って補償値を求めてもf1の経時変化を補償することができる。周波数検出部4から得られる値は例えば34ビットの値であり、このディジタル値によりDDS回路部201の周波数データを補正することにより、既述の模式的な説明と同じ補償作用が得られる。
なお、周波数差検出部4がΔF=f2−f1/3−Δfreを算出する回路部であったとしても、本発明の効果が得られることに変わりはない。
【0030】
図4は、周波数差検出部4の具体例を示している。41はフリップフロップ回路(F/F回路)であり、このフリップフロップ回路41の一方の入力端に第1の発振回路1からの周波数f/3の周波数信号が入力され、他方の入力端に第2の発振回路2から周波数f2の周波数信号が入力され、第1の発振回路1からの周波数f1/3の周波数信号により第2の発振回路2からの周波数f2の周波数信号をラッチする。以下において記載の冗長を避けるために、f1、f2は、周波数あるいは周波数信号そのものを表しているとして取り扱う。フリップフロップ回路41は、f1/3とf2との周波数差に対応する値である、(f2−f1/3)/(f1/3)の周波数をもつ信号を出力する。
【0031】
フリップフロップ回路41の後段には、ワンショット回路42が設けられ、ワンショット回路42では、フリップフロップ回路41から得られたパルス信号における立ち上がりにてワンショットのパルスを出力する。図5(a)〜(d)はここまでの一連の信号を示したタイムチャートである。
ワンショット回路42の後段にはPLL(Phase Locked Loop)が設けられ、このPLLは、ラッチ回路43、積分機能を有するループフィルタ44、加算部45及びDDS回路部46により構成されている。ラッチ回路43はDDS回路部46から出力された鋸波をワンショット回路42から出力されるパルスによりラッチするためのものであり、ラッチ回路43の出力は、前記パルスが出力されるタイミングにおける前記鋸波の信号レベルである。ループフィルタ44は、この信号レベルである直流電圧を積分し、加算部45はこの直流電圧とΔfreに対応する直流電圧と加算する。Δfreに対応する直流電圧に対応するデータは図2に示すメモリ30に格納されている。
【0032】
この例では加算部45における符号は、Δfreに対応する直流電圧の入力側が「+」であり、ループフィルタ44の出力電圧の入力側が「−」となっている。DDS回路部46には、加算部45にて演算された直流電圧、即ちΔfreに対応する直流電圧からループフィルタ44の出力電圧を差し引いた電圧が入力され、この電圧値に応じた周波数の鋸波が出力される。PLLの動作の理解を容易にするために図6に極めて模式的に各部の出力の様子を示しておく。装置の立ち上げ時には、Δfreに対応する直流電圧が加算部45を通じてDDS回路部46に入力され、例えばΔfreが5MHzであるとすると、この周波数に応じた周波数の鋸波がDDL36から出力される。
【0033】
前記鋸波がラッチ回路43により(f2−f1/3)に対応する周波数のパルスでラッチされるが、(f2−f1/3)が例えば5.1MHzであるとすると、鋸波よりもラッチ用のパルスの周期が短いことから、鋸波のラッチポイントは図6(a)に示すように徐々に下がっていき、ラッチ回路43の出力及びループフィルタ44の出力は図6(b)、(c)に示すように−側に徐々に下がっていく。加算部45におけるループフィルタ44の出力側の符号が「−」であることから、加算部45からDDS回路部46に入力される直流電圧が上昇する。このためDDS回路部46から出力される鋸波の周波数が高くなり、DDS回路部46に5.1MHzに対応する直流電圧が入力されたときに、鋸波の周波数が5.1MHzとなって図7(a)〜(c)に示すようにPLLがロックされる。このときにループフィルタ44から出力される直流電圧は、Δfre−(f2−f1/3)=−0.1MHzに対応した値となる。つまりループフィルタ44の積分値は、5MHzから5.1MHzへ鋸波が変化するときの0.1MHzの変化分の積分値に相当するということができる。なお、5MHz及び5.1MHzは、説明のための便宜上の数値である。
【0034】
ここで周波数差検出部としては、周波数差検出部4の他にも、温度補償を行うための一部の機能として周波数差検出部5も設けられており、このため周波数差検出部の動作説明を補充するという観点から、Δfreの方が(f2−f1/3)よりも大きい場合の動作について併せて述べておく。この場合、例えばΔfreが5.1MHz、(f2−f1/3)が5MHzであるとする。鋸波よりもラッチ用のパルスの周期が長いためにことから、図6(a)に示すラッチポイントは徐々に高くなり、これに伴い、ラッチ回路43の出力及びループフィルタ44の出力も上昇する。このため加算部45において差し引かれる値が大きくなるので、鋸波の周波数が徐々に下がり、やがて(f2−f1/3)と同じ5MHzとなったときにPLLがロックされる。このときにループフィルタ44から出力される直流電圧は、Δfre−(f2−f1/3)=0.1MHzに対応した値となる。
【0035】
図8は実測データであり、この例では時刻t0にてPLLがロックしている。実際には周波数差検出部4の出力、即ち図4に示す平均化回路47の出力は、{(f2−f1/3)/(f1/3)}−{(f2re−f1re/3)/(f1re/3)}の値を34ビットのディジタル値で表した値である。
【0036】
またフリップフロップ41においてf2をf1/3によりラッチする動作は非同期であることから、メタステーブル(入力データをクロックのエッジでラッチする際、ラッチするエッジの前後一定時間は入力データを保持する必要があるが、クロックと入力データとがほぼ同時に変化することで出力が不安定になる状態)など不定区間が生じる可能性もあり、ループフィルタ44の出力には瞬間誤差が含まれる可能性がある。上記のPLLではループフィルタ44の出力を、温度に対応する値であるΔfreと(f2−f1/3)との差分として取り扱っていることから、ループフィルタ44の出力側に、予め設定した時間における入力値の移動平均を求める平均化回路47を設け、前記瞬間誤差が生じても取り除くようにしている。平均化回路47を設けることにより、最終的に周波数ずれ情報を高精度に取得することができる。PLLのループフィルタ44から平均化回路47を介して取り出された情報は、経時変化補正値演算部6に入力される。
【0037】
次に、第1の発振回路1からの周波数信号の周波数f1と第3の発振回路3からの周波数信号の周波数f3との取り扱いに関して説明する。なお第3の発振回路3からの周波数信号及びその周波数のいずれについてもf3で表わすものとする。図2中、5は周波数差検出部であり、周波数差検出部5は概略的な言い方をすれば、f1とf3との差分と、Δfrtとの差分である、ΔF´=f3−f1−Δfrtを取り出すための回路部である。なお、より正確に述べれば、周波数差検出部4と同様にΔF´は{(f1−f1rt)/f1rt}−{(f3−f3rt)/f3rt}である。
【0038】
Δfrtは、基準温度例えば25℃におけるf3とf1との差分である。周波数差検出部5は、図4に示すように前記周波数差検出部4と同一の構成であり、符号51〜57が示すものは夫々符号41〜47に示す部位に相当する。なお、既述のΔFと、ΔF´とを求めるにあたって、共通の周波数差検出部(4あるいは5)を使用し、信号を切り替えて演算を行うようにしてもよい。
【0039】
周波数差検出部5にて得られた周波数ずれ情報、この例ではΔfrt−(f3−f1)は、温度検出値に対応する。即ち、Δfrt−(f3−f1)は温度に応じて変わり、また周波数差検出部4にて求めたΔfre−(f2−f1/3)についても温度に応じて変わる。従って周波数差検出部4、5にて夫々得られたΔFと、ΔF´とは、一定の関係にある。つまり、ΔFは温度に対して所定の関係で変動するので、ΔF´を温度検出値と見立てて、予め温度を媒体としてΔFと、ΔF´との関係を求め、実施形態の概要にて述べたようにΔF´の値からΔFに含まれる温度変動分を求めようとしている。この演算を行う部分が温度変動分算出部7である。
【0040】
温度変動分算出部7に関して述べる前に、図9から図12を参照してΔF´とΔFに含まれる温度変動分とについて説明する。図9は、f1、f2及びf3を基準温度で正規化し、温度と周波数との関係を示す特性図である。ここでいう正規化とは、例えば25℃を基準温度とし、温度と周波数との関係について基準温度における周波数をゼロとし、基準温度における周波数からの周波数のずれ分と温度との関係を求めることを意味している。25℃における第1〜3の発振回路1〜3の周波数を夫々f1r、f2r及びf3rとすると、つまり25℃におけるf1、f2、f3の値を夫々f1r、f2r、f3rとすると、図9の縦軸の値は(f1−f1r)、(f2−f2r)及び(f3−f3r)ということになる。
【0041】
また図10は、図9に示した各温度の周波数について、基準温度(25℃)における周波数に対する変化率を表わしている。従って図10の縦軸の値は、(f1−f1r)/f1r、(f2−f2r)/f2r及び(f3−f3r)/f3rであり、これらの値を夫々OSC1、OSC2及びOSC3で表わすこととする。なお図10の縦軸の値の単位はppmである。
【0042】
ここで周波数差検出部4の説明に戻ると、既述のようにこの実施形態では周波数差検出部4は、(f2−f2re)−(f1/3−f1re/3)=f2−f1/3−Δfr、そのものの値ではなく、{(f2−f1/3)/(f1/3)}−{(f2re−f1re/3)/(f1re/3)}を演算値としている。そしてこの演算値を34ビットで表したディジタル値と温度との関係を示す特性カーブは、OSC2−OSC1と温度との関係を示す特性カーブと実質同じになる。従って周波数差検出部4は、OSC2−OSC1を求める演算を行っているということができる。つまり、各周波数が基準温度からどのくらいの比率で外れているかを示す比率の値について、f2における比率とf1における比率との差分を求めているということである。ラッチ回路43には(f2−f1/3)に対応する周波数信号が入力されるが、PLLループの中には鋸波が入ってくることから、このような計算を行うように回路を組むことができる。周波数差検出部4の出力が34ビットのディジタル値であるとすると、例えば1ビット当たり0.058(ppb)の値を割り当てており、OSC2−OSC1の値は、0.058(ppb)までの精度が得られていることになる。なお1ビット当たり0.058(ppb)の値に設定できる根拠は、後述の(2)〜(4)式に基づく。
【0043】
図11は、(OSC2−OSC1)と温度との関係、及び(OSC3−OSC1)と温度との関係を示している。(OSC2−OSC1)は、温度に対して直線から外れているが、言い換えれば直線性は悪いが、(OSC3−OSC1)は、温度に対して直線性がよい。この理由は、f3、f1はいずれもオーバートーンであり、出願人はその差分と温度とが良好な比例関係にあることを把握している。このため(OSC3−OSC1)を温度検出値として利用している。図12は、横軸に温度検出値である(OSC3−OSC1)の値をとり、縦軸に(OSC2−OSC1)の値をとっている。なお、より詳しくは温度検出値のビット数を抑えるために、横軸は温度検出値を正規化した値としている。例えば発振装置が実際に使用されるであろう上限温度及び下限温度を定めておき、上限温度のときの(OSC3−OSC1)の値を+1、下限温度のときの(OSC3−OSC1)の値を−1として取り扱っている。
【0044】
この例では、図12のグラフを曲線として捉え、最小二乗法により9次の多項近似式係数を導き出している。そして多項近似式係数を予め温度変動分算出部7に含まれるメモリに記憶しておき、温度変動分算出部7は、これら多項近似式係数を用いて(2)式の演算処理を行う。
【0045】
Y=P1・X9 +P2・X8 +P3・X7 +P4・X6 +P5・X5 +P6・X4 +P7・X3 +P8・X2 +P9・X ………(2)
(1)式においてXは周波数差検出情報、Yは補正データ、P1〜P9は多項近似式係数である。
【0046】
ここで、Xは図1に示す周波数差検出部5により得られた値、即ち図4に示す平均化回路57により得られた値(OSC3−OSC1)である。
【0047】
温度差変動分算出部7にて演算を実行するためのブロック図の一例を図13に示す。図13中、401〜409は(2)式の各項の演算を行う演算部、400は加算部、410は丸め処理を行う回路である。なお、温度変動分算出部7は、例えば1個の掛け算部を用い、この掛け算部にて9乗項の値を求め、次に当該掛け算部にて8乗項の値を求めるといった具合に、当該掛け算部をいわば使いまわして最終的に各乗項の値を加算するようにしてもよい。また補正値の演算式は9次の多項近似式を用いることに限定されるものではなく、要求される精度に応じた次数の近似式を用いてもよい。
【0048】
以上のようにして周波数差検出部4にて得られた周波数差情報と、温度差変動分算出部7にて得られた情報とは、図2に示す経時変化補正値算出部6に入力される。図14は、経時変化補正値算出部6の詳細を示す図であり、61は加算部である。温度差変動分算出部7にて得られた情報は、既述のように周波数差検出部4にて求めた経時変化補正用周波数差情報であるΔF=Δfre−(f2−f1/3)に含まれる温度変動分の値に対応するものであるから、経時変化補正時温度変動分キャンセルデータであるということができる。加算部61は、ΔFから前記キャンセルデータを差し引き、こうして先の図1(b)に示す、水晶振動子を駆動することによる経時変化(エージング特性)に基づく真のΔFが求められることになる。
【0049】
図15は、図1(b)に対応する図であり、発明の実施形態の概要にて(1)式を挙げて述べたようにΔFが分かれば予め求めておいた、(f2−f2re)に対する(f1−f1re)/3の比率mを用いてΔfb=(f1−f1re)/3が求められる。この演算を行う部位が図14に示す掛け算部62である。また掛け算部62の後段にはラッチ回路部63があり、経時変化補正トリガ信号によりΔfbがラッチされて経時変化補正値算出部6から出力される。このトリガ信号は、発振装置を制御する図示しない制御部から送られ、オペレータによりトリガ信号を出力する、しないを選択できるようになっている。
【0050】
以上の説明は、発振装置の制御回路部200に供給されるクロックであるf1について経時変化による周波数変動分を求める手法であるが、OCXOに適用しない場合には、f1の温度変動分も補償することが好ましい。そのためには温度検出部により温度を検出し、温度検出値とf1との関係、詳しくは基準温度に対して正規化した温度と基準温度における周波数に対する周波数変化分との関係に基づいてf1の温度変動分である温度補正データΔfaを求め、Δfaを前記Δfbに加える必要がある。図2の符号9で示す部分は、この演算を行う加算部である。
【0051】
この実施形態では温度検出部として、クロックとして使用する第1の水晶振動子10、第1の発振回路1、第3の水晶振動子30、第3の発振回路3、周波数差検出部5及び温度補正値算出部8からなる部分を用いている。周波数差検出部5の出力である、温度検出値に相当するΔF´=f3−f1−Δfrtを求める作業までは、先の温度補正データΔfaの算出作業と同じであるが、温度補正値算出部8ではΔF´を用いてf1の温度変動分を求める点が異なる。
【0052】
図16は、(OSC3−OSC1)と温度との関係、及びOSC1と温度との関係をし、図17は、図16に基づいて、横軸に温度検出値である(OSC3−OSC1)の値をとり、縦軸に−OSC1の値をとっている。なお、より詳しくは記述のように横軸は温度検出値を正規化した値としている。この例では、図17のグラフに対して最小二乗法により9次の多項近似式係数を導き出している。そして多項近似式係数を予め温度補正値算出部に含まれるメモリに記憶しておき、温度変動分算出部8は、これら多項近似式係数を用いて演算処理を行う。なお、この演算処理は例えば係数を変えた上で(2)式を用いて行われる。
【0053】
こうして得られた温度補正データΔfaと経時変化補正データΔfbとが加算部9(図2参照)にて加算されて補正値が得られる。図2に示すDDS201は、第1の発振回路1〜出力される周波数信号f1を動作クロックとして参照クロック信号を出力しており、周波数信号f1の経時変化及び温度変化により参照クロック信号の周波数が変動する。一方、図2に示す制御部200には、電圧制御発振器100の出力周波数を設定するための設定値に対応するディジタル値からなる周波数データが入力されており、前記加算部9から得られる補正値により前記周波数データを補正する。具体的には、例えば加算部9の後段に設けた加算部90により、当該補正値と周波数データを加算し、この加算値をDDS201に入力する。このように周波数データを補正することにより、DDS201の動作クロックf1の経時変化分及び温度変化分が補償されることとなる。この結果、本実施形態の発振装置1の出力である電圧制御発振器100の出力周波数が水晶振動子における経時変化に基づく周波数変動及び温度変化に基づく周波数変動にかかわらず安定したものとなる。従って高安定、高精度の発振装置を実現することができる。なお、図2の加算部9に入力される外部補正データに関しては、本実施形態の変形例として取り扱うため、後述する。
【0054】
この実施形態では、図2に示すように第1〜3の水晶振動子10〜30は共通の水晶片Xbを用いて構成され、互いに熱的に結合されていることから、発振回路1〜3の周波数差は、環境温度に極めて正確に対応した値であり、従って既述の温度補償、経時変化補償を高精度に行うことができる。なお、第1〜3の水晶振動子10〜30を別々の水晶片により構成し、これらを共通の容器内に配置して、環境温度を揃えるようにしてもよい。
更にこの実施形態では、水晶振動子の基本波における経時変化がオーバートーンよりも大きいことを利用して、基本波とオーバートーンとの差分を用いて第1の発振回路の出力周波数を補正するようにしている。また温度変化に対してオーバートーンの変動量が大きく、オーバートーン同士の特性の差が温度変化により大きいことを利用して、温度補償についてはオーバートーンを用いている。このため、水晶振動子の経時変化、温度変化に対応する周波数補償を高い精度で行うことができる利点がある。
【0055】
また周波数差情報を求めるために、例えばf2とf1/3との差分周波数のパルスを作成し、DDS回路部46から出力された鋸波信号を前記パルスによりラッチ回路43でラッチし、ラッチされた信号値を積分してその積分値を前記周波数差として出力すると共に、この出力とf2rとf1r/3との差分に対応する値との差分を取り出して、前記DDS回路部46に入力してPLLを構成している。周波数差をカウントしてその差分を取得する場合には、カウント時間が検出精度に直接影響するが、上述の構成では、このような問題がないため検出精度が高いという利点がある。周波数差検出部3のDDS回路部46の出力信号は、鋸波に限ることなく、時間と共に信号値が増加、減少を繰り返す周波数信号であればよく、例えば正弦波であってもよい。なお周波数差を求めるためには、周波数カウント回路を用意して、各カウント値の差分を求める手法であってもよい。
【0056】
また第2の水晶振動子20を第2の発振回路2に接続した状態と、第3の発振回路3に接続した状態との一方を選択できるように構成してもよい。このような例としては、第2の発振回路2と第3の発振回路3とを共通化すると共に、共通化された発振回路の一部を、基本波発振用の回路要素と3次オーバートーン用の回路要素との間で切り替えることができるように発振回路を構成する例を挙げることができる。この例では、第2の水晶振動子20を第2の発振回路2に接続した状態は、基本波発振用の回路要素を用いる状態であり、第2の水晶振動子20を第3の発振回路3に接続した状態は、3次オーバートーン用の回路要素を用いる状態である。
【0057】
このような例においては、常時は第2の水晶振動子20を第3の発振回路3に接続した状態を選択し、温度補正値算出部8からの出力により、f1に対する温度補償が行われる。そして定期的に例えば1月に1回、あるいは6ヶ月に1回、短時間だけ第2の水晶振動子20を第2の発振回路2に接続した状態を選択する。第2の水晶振動子20を第2の発振回路2に切り替えているときには、第3の発振回路3から第2の発振回路2に選択を切り替える直前の温度補正データΔfaが温度補正値算出部8から出力される。また第2の水晶振動子20を第3の発振回路3に切り替えているときには、第2の発振回路2から第3の発振回路3に選択を切り替える直前の経時変化補正データΔfbが経時変化補正値算出部6から出力される。従ってこの例では、経時変化補正データΔfbは定期的に更新されることになる。
【0058】
また第2の水晶振動子20と第2の発振回路2と第3の発振回路3との間にスイッチ部を設け、スイッチ部を切り替えることにより、前記2つの状態を選択できるように構成してもよい。
【0059】
繰り返しの説明になるが、この実施形態ではf2とf2reとの差分に対応する値とは、{(f2−f2re)/f2re}(=OSC2)であり、f1/3とf1re/3との差分に対応する値とは{(f1−f1re)/f1re}(=OSC1)であり、これらの値の差分値に対応する値とは、OSC2−OSC1である。しかしながら周波数差検出部3は、f2とf2reとの差分に対応する値と、f1/3とf1re/3との差分に対応する値と、の差分値に対応する値として、f2−f2reと、f1/3−f1re/3と、の差分値そのものを用いてもよいことは、図1の説明から勿論である。
【0060】
上述の実施形態において、図10から図12の説明では、周波数の変化分を「ppm」単位で表示しているが、実際のデジタル回路では全て2進数での扱いとなるため、DDS回路46の周波数設定精度は構成ビット数で計算され、例えば34ビットである。一例を挙げると、図1に示す制御回路部200に含まれるDDS回路部201に10MHzのクロックを供給する場合においてこのクロックの変動周波数が100Hzの場合
〔変動比率計算〕
100Hz/10MHz=0.00001
〔ppm換算〕
0.00001*1e6=10〔ppm〕
〔DDS設定精度換算〕
0.00001*2^34≒171,799〔ratio−34bit(仮称)〕となる。
【0061】
上記の構成の場合、前記周波数設定精度は次の(2)式で表わされる。
1×〔ratio−34bit〕=10M〔Hz〕/2^34≒0.58m〔Hz/bit〕 ……(2)
従って100〔Hz〕/0.58m〔Hz/bit〕≒171,799〔bit(ratio−34bit)〕となる。
また、0.58mHzは10MHzに対して、次の(3)式のように計算できる。
0.58m〔Hz〕/10M〔Hz〕*1e9≒0.058〔ppb〕…(3)
従って(2)、(3)式から、(4)式の関係が成り立つ。
【0062】
1e9/2^34=0.058〔ppb/ratio−34bit〕…(4)
即ちDDS回路46で処理した周波数は消え、ビット数のみの関係となる。
【0063】
更にまた上述の例では第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20とは共通の水晶片Xbを用いているが、水晶片Xbが共通化されていなくてもよい。この場合、例えば共通の筐体の中に第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20を配置する例を挙げることができる。また温度補償用として第2の水晶振動子20からオーバートーンの信号を利用しているが、第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20とは別個に第3の水晶振動子を設けて、第3の水晶振動子から温度補償用の周波数信号f3を得るようにしてもよい。
【0064】
加算部9にて得られた補正値は、上述の実施形態のように用いることに限定されるものではなく、発振装置の出力周波数が経時変化や温度で変動する場合に、補正値を用いて出力周波数の変動分を相殺できるように補償できる構成であれば他の手法で補正してもよい。
【0065】
本発明は、前記第1の発振回路1の出力を利用して発振装置の出力を生成することを前提としており、その態様として上述の実施の形態では、第1の発振回路1から得られる周波数信号f1を図1に示す制御回路部200(詳しくはDDS回路部201)の基準クロックとして用いている。しかし第1の発振回路1の出力を利用して発振装置の出力を生成する態様としては、一般のTCXOのように、第1の発振回路1の出力がそのまま発振装置の出力として利用される態様であってもよい。TCXOの一つとして、基準温度における水晶振動子の周波数に対応する基準電圧を発生させ、この基準電圧に温度検出器で検出した温度値に応じた補償電圧を加算する装置があるが、この場合の補償電圧として、加算部9にて得られた補正値を用いるようにしてもよい。
【0066】
以上において図2の加算部9に入力される「外部補正データ」に関して述べておく。フェムトセル基地局などにおいて用いられるクロックの周波数安定度は±30ppb以下といった極めて高い安定度が要求される。そこでGPS受信機やNTPサーバなどから得られる高精度、高安定なクロック信号と本発明の発振装置から出力される周波数信号とを比較して例えば両者の位相差を取り出すPLLなどの回路部を用い、その差分に対応する補正値を求め、当該補正値を「外部補正データ」として加算器9に入力する。従って、加算器9から出力される補正データは、前記温度補正データΔfaと経時変化補正データΔfbと外部補正データとの加算値ということになる。
【0067】
より具体的に説明すれば、前記回路部は、前記両者の位相差に対応する値を求めた後、この値を、図2の制御回路部200に入力される制御電圧とVCXO100から出力される周波数の変化率との関係において、周波数の変化率の補正量に応じた制御電圧の補正量に置き換える機能を備えている。この制御電圧の補正量が外部補正データとなる。
【0068】
このようにすれば、発振装置から得られる周波数信号がより高精度、高安定なものになる。またこのような使い方をすれば、発振装置としてTCXOなどのいわば安定度の低いものを用いながら、高精度、高安定なクロックを生成することができ、フェムトセル基地局などにてクロックに対して高い要求がされるシステムに適用することができる。そして本発明によれば、外部から例えばNTPサーバなどからの高品質なクロックが途絶えた場合でも、発振装置の上位装置において常時クロックデータを一定期間にサイクリックにメモリ内に記憶しておいて、クロックが途絶える直前のクロックデータをメモリから読み出すことにより、外部補正データに基づく類似した補正を行うことができると共に、温度補償、経時変化補償がされる。従って発振装置の出力についてある程度の精度を維持することができ、システムダウンに陥ることを回避することができる。
【符号の説明】
【0069】
1〜3 第1〜第3の発振回路
10〜30 第1〜第3の水晶振動子
4、5 周波数差検出部
41 フリップフロップ回路
42 ワンショット回路
43 ラッチ回路
44 ループフィルタ
45 加算部
46 DDS回路部
6 経時変化補正値算出部
7 温度変動分算出部
8 温度補正値算出部
100 電圧制御発振器
200 制御回路部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶振動子を用いた発振装置において、
水晶片に第1の電極を設けて構成した第1の水晶振動子と、
水晶片に第2の電極を設けて構成した第2の水晶振動子と、
これら第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子に夫々接続された第1の発振回路及び第2の発振回路と、
第1の発振回路の発振周波数をf1、基準時における第1の発振回路の発振周波数をf1rz、第2の発振回路の発振周波数をf2、基準時における第2の発振回路の発振周波数をf2rzとすると、f2とf2rzとの差分に対応する値と、f1とf1rzとの差分に対応する値と、の差分値ΔFに対応する値を求める周波数差検出部と、
この周波数差検出部にて検出された前記差分値ΔFに対応する値と経時変化の補正係数とに基づいて、時間が基準時から経過したことに基づくf1の周波数補正値を取得する経時変化補償用の補正値取得部と、を備え、
前記経時変化の補正係数は、基準時からの動作時間の経過に対して、第1の発振回路の周波数の変化分と第2の発振回路の周波数の変化分との比率であり、
発振装置の出力は、前記第1の発振回路の出力を利用して生成され、
前記補正値取得部にて求めた前記周波数補正値に基づいて前記出力周波数の設定値を補正するように構成したことを特徴とする発振装置。
【請求項2】
第1の発振回路の発振周波数f1はn次オーバートーンであり、第2の発振回路の発振周波数f2は基本波の周波数であり、
前記差分値ΔFは、
{(f2−f2rz)/f2rz}−{(f1−f1rz)/f1rz}であることを特徴とする請求項1に記載の発振装置。
【請求項3】
前記経時変化の補正係数は、基準温度において設定された値であり、
前記第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子が置かれる雰囲気温度を検出する温度検出部と、
基準時において、基準温度からの温度変化分と基準温度における前記差分値ΔFに対する変動量との関係と、前記温度検出部にて求めた雰囲気温度と、に基づいて、前記差分値ΔFに含まれる温度変化に起因する変化量を求める温度補償用算出部と、を備え、
前記補正値取得部は、前記差分値ΔFから前記温度補償用算出部にて算出された変化量を差し引いた値を用いてf1の周波数補正値を取得することを特徴とする請求項1または2に記載の発振装置。
【請求項4】
前記第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子が置かれる雰囲気温度を検出する温度検出部と、
この温度検出部にて検出された温度に対応する信号と、当該信号と第1の発振回路の発振周波数f1の周波数補正値との関係と、に基づいて、環境温度が基準温度からずれたことに起因するf1の周波数補正値を取得する温度補償用の補正値取得部と、を備え、
前記経時変化用の補正値取得部にて求めた前記周波数補正値と、前記温度補償用の補正値取得部にて求めた前記周波数補正値と、に基づいて前記出力周波数の設定値を補正するように構成したことを特徴とする発振装置。
【請求項5】
周波数差検出部は、
前記f1とf2との差分周波数のパルスを作成するパルス作成部と、入力された直流電圧の大きさに応じた周波数で時間と共に信号値が増加、減少を繰り返す周波数信号を出力するDDS回路部と、このDDS回路部から出力された周波数信号を前記パルス作成部にて作成されたパルスによりラッチするラッチ回路と、このラッチ回路にてラッチされた信号値を積分してその積分値を前記前記差分値に対応する値として出力するループフィルタと、このループフィルタの出力とf1rzとf2rzとの差分に対応する値との差分を取り出して、前記DDS回路部に入力値とする加算部と、を備えたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の発振装置。
【請求項6】
第1の水晶振動子の水晶片と第2の水晶振動子の水晶片とは、共通化されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一つに記載の発振装置。
【請求項1】
水晶振動子を用いた発振装置において、
水晶片に第1の電極を設けて構成した第1の水晶振動子と、
水晶片に第2の電極を設けて構成した第2の水晶振動子と、
これら第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子に夫々接続された第1の発振回路及び第2の発振回路と、
第1の発振回路の発振周波数をf1、基準時における第1の発振回路の発振周波数をf1rz、第2の発振回路の発振周波数をf2、基準時における第2の発振回路の発振周波数をf2rzとすると、f2とf2rzとの差分に対応する値と、f1とf1rzとの差分に対応する値と、の差分値ΔFに対応する値を求める周波数差検出部と、
この周波数差検出部にて検出された前記差分値ΔFに対応する値と経時変化の補正係数とに基づいて、時間が基準時から経過したことに基づくf1の周波数補正値を取得する経時変化補償用の補正値取得部と、を備え、
前記経時変化の補正係数は、基準時からの動作時間の経過に対して、第1の発振回路の周波数の変化分と第2の発振回路の周波数の変化分との比率であり、
発振装置の出力は、前記第1の発振回路の出力を利用して生成され、
前記補正値取得部にて求めた前記周波数補正値に基づいて前記出力周波数の設定値を補正するように構成したことを特徴とする発振装置。
【請求項2】
第1の発振回路の発振周波数f1はn次オーバートーンであり、第2の発振回路の発振周波数f2は基本波の周波数であり、
前記差分値ΔFは、
{(f2−f2rz)/f2rz}−{(f1−f1rz)/f1rz}であることを特徴とする請求項1に記載の発振装置。
【請求項3】
前記経時変化の補正係数は、基準温度において設定された値であり、
前記第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子が置かれる雰囲気温度を検出する温度検出部と、
基準時において、基準温度からの温度変化分と基準温度における前記差分値ΔFに対する変動量との関係と、前記温度検出部にて求めた雰囲気温度と、に基づいて、前記差分値ΔFに含まれる温度変化に起因する変化量を求める温度補償用算出部と、を備え、
前記補正値取得部は、前記差分値ΔFから前記温度補償用算出部にて算出された変化量を差し引いた値を用いてf1の周波数補正値を取得することを特徴とする請求項1または2に記載の発振装置。
【請求項4】
前記第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子が置かれる雰囲気温度を検出する温度検出部と、
この温度検出部にて検出された温度に対応する信号と、当該信号と第1の発振回路の発振周波数f1の周波数補正値との関係と、に基づいて、環境温度が基準温度からずれたことに起因するf1の周波数補正値を取得する温度補償用の補正値取得部と、を備え、
前記経時変化用の補正値取得部にて求めた前記周波数補正値と、前記温度補償用の補正値取得部にて求めた前記周波数補正値と、に基づいて前記出力周波数の設定値を補正するように構成したことを特徴とする発振装置。
【請求項5】
周波数差検出部は、
前記f1とf2との差分周波数のパルスを作成するパルス作成部と、入力された直流電圧の大きさに応じた周波数で時間と共に信号値が増加、減少を繰り返す周波数信号を出力するDDS回路部と、このDDS回路部から出力された周波数信号を前記パルス作成部にて作成されたパルスによりラッチするラッチ回路と、このラッチ回路にてラッチされた信号値を積分してその積分値を前記前記差分値に対応する値として出力するループフィルタと、このループフィルタの出力とf1rzとf2rzとの差分に対応する値との差分を取り出して、前記DDS回路部に入力値とする加算部と、を備えたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の発振装置。
【請求項6】
第1の水晶振動子の水晶片と第2の水晶振動子の水晶片とは、共通化されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一つに記載の発振装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−195932(P2012−195932A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−37853(P2012−37853)
【出願日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
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