説明

発根した脂肪種子を主成分とする飲食品、化粧料、医薬品、サプリメント

【課題】本発明が解決しようとする課題は、複雑な脂肪燃焼(脂肪の分解、あるいは異化)に関わる無数の成分の中の1,2の成分だけを服用するのではなく、脂肪異化に関わる全成分の利用を図ることにより、生理学的に自然な脂肪分解(異化)反応を進行させ、体脂肪減少を目指すことにある。
【解決手段】発根した脂肪種子を主成分とした飲食品、化粧料、医薬品又はサプリメントを使用することが、体脂肪減少等に資することを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥満等を解消するために、発根した脂肪種子を主成分とする飲食品等を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、肥満が性別、年齢別を問わず一般化し、健康障害や生活習慣病を惹き起こす素地を形作っており、この肥満を解消あるいは回避する工夫は数多いが、その効果、安全性やその内容については、厳しい現状である。
【0003】
また、肥満を皮下脂肪増加だけでなく、内臓脂肪増加も加わったタイプから糖尿病、高脂血症、高血圧、動脈硬化、メタボリックシンドロームなどが高率に発症することから、脂肪細胞の科学−アディポサイエンス(adiposcience)の必要性が叫ばれている。
【0004】
近年の遺伝子研究では、肥満系のマウスの脂肪細胞が分泌するホルモンで、これが視床下部に作用し、食欲抑制を起こすものが発見され、レプチン(leptin)と名づけられ、医療上で、このレプチンをヒトに与えて食欲抑制、ひいては体重減少を図る試みがあるが、一般化していない。
【0005】
肥満の防止・改善を目的とし、香りで脂肪燃焼を図るとして、ジュニパー油を有効成分とする脂肪燃焼香料(特許文献1:特開2005-1051881号公報)、非重合体カテキン類による蓄積体脂肪の燃焼を図るもの(特許文献2:特開2002−326932号公報)、近年話題となっている脂肪燃焼促進物質のコエンザイムQ10やL-カルニチンを含む組成物(特許文献3:特開2005-2035号公報)、コエンザイムQ10、ヒドロキシクエン酸類やアミノ酸を含む食品組成物(特許文献4:特開2004-81010号公報)、その他、サンザシ果実成分による運動時の脂肪燃焼を図る飲食物(特許文献5:特開平10-215811号公報)、脂肪細胞に最初に脂肪分解の刺激を与えるホルモンの一つがアドレナリンであるところから、細胞のアドレナリン受容体を刺激する成分としてのウヤクを有効成分とする組成物(特許文献6:特開2004-262928号公報)などの組成物開発が行われている。
【0006】
しかし、人体内では、脂肪の分解(異化)には、無数とも言える生体成分(例えば、L-カルニチンの前段階で必要なアシルCoA、それに関連するアシルCoA合成酵素やアシルCoAデヒドロゲナーゼ、あるいはL-カルニチンアシル基転移酵素等々)が一定の均衡をとりながら関わっている。上記のいずれの発明も、複雑な脂肪分解過程のごく一部に関わる成分を補充するものであり、脂肪分解に関わる全成分を増加させるわけではない。
【0007】
【特許文献1】特開2005-1051881号公報
【特許文献2】特開2002−326932号公報
【特許文献3】特開2005-2035号公報
【特許文献4】特開2004-81010号公報
【特許文献5】特開平10-215811号公報
【特許文献6】特開2004-262928号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、複雑な脂肪燃焼(脂肪の分解、あるいは異化)に関わる無数の成分の中の1,2の成分だけを服用するのではなく、脂肪異化に関わる全成分の利用を図ることにより、生理学的に自然な脂肪分解(異化)反応を進行させ、体脂肪減少を目指すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願人は、上記課題を解決するため、鋭意努力した結果、発根した脂肪種子を主成分とした飲食品、化粧料、医薬品又はサプリメントを適用することが、体脂肪減少に資することを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)発根した脂肪種子を主成分とする飲食品、
(2)発根した脂肪種子を主成分とするセルライト予防用及び/又は改善用化粧料、
(3)発根した脂肪種子を主成分とする肥満、糖尿病、高脂血症又はメタボリックシンドローム予防用及び/又は改善用医薬品、
(4)発根した脂肪種子を主成分とする肥満、糖尿病、高脂血症又はメタボリックシンドローム予防用及び/又は改善用特定保健用食品、
(5)発根した脂肪種子を主成分とする体脂肪の減少用あるいは筋肉の発達用及び/又は増強用サプリメント又は健康補助食品、
(6)脂肪種子が大豆、ゴマ、エゴマ又はとうもろこしの内いずれか1種以上の種子であることを特徴とする(1)〜(5)に記載の飲食品、化粧料、医薬品、特定保健用食品、サプリメント又は健康補助食品
に関する。
【0011】
人間が生命を維持するための最も自然な栄養成分は、人間以外の動物や植物の細胞成分である。換言すれば、人間は、他の生物の化学反応系を人間の細胞の反応系に取り入れることにより、その生命を維持している。
【0012】
本発明は、肥満体に蓄積している脂肪の分解(異化)を促進するため、脂肪種子(または油糧種子)(oil seeds)が発根に際し、その貯蔵脂肪を分解しつくして成長エネルギーに換える分子系全体を、食品あるいはサプリメントとして利用しようとするものである。
【0013】
肥満は、一般には、エネルギー消費を上回った栄養摂取による体脂肪過剰蓄積が原因である。摂取された栄養を、糖質、たんぱく、脂質の3要素に分けた上で、生化学的見地から、それらのエネルギー消費の生化学的反応を考えてみる。
【0014】
まず、糖質は、これを脂肪に転換して蓄積できるが、脂肪になったものを糖質に戻してエネルギーとして消費することは、クエン酸回路の構成から見て不可能である。栄養摂取量を減らすダイエットにより体重を減らそうとすると、体は、糖質(グルコース)をエネルギー源とする脳組織を守るべく、グリコーゲンを分解してグルコースを作り、血糖値を維持しようとする。しかし、脳はグリコーゲンを貯蔵できないので、それを貯蔵している筋肉や肝臓に頼らざるを得ない。しかし筋肉も肝臓も、血糖値を自在に調節できるほどのグリコーゲン量を貯蔵できない構造となっている。(グリコーゲンが細胞内に異常蓄積して死を招く遺伝性疾患、糖原蓄積症(glycogen storage disease)というものがある。)血糖値が低下すると、大脳活動は低下し、無気力となり、筋力低下が起こり、生活活動も鈍る。
【0015】
次に、蛋白では、アミノ酸に分解してピルビン酸に転換し、糖を新生し、それをエネルギー源にしようとする。その結果、蛋白量減少が筋肉の消耗や萎縮を生み、生活活動が鈍る。
【0016】
脂肪は、単独ではその分解活動を開始することはできない。脂肪をエネルギー源として利用するのは、主に筋肉である。筋肉が働く時、そのエネルギーを生み出すクエン酸回路が回転し、そこに必要なアセチルCoAを供給するために脂肪の分解(異化)が始まる。この筋肉―脂肪の連携を利用したエネルギー消費をすることが、最も妥当な体脂肪減少法である。
【0017】
脂肪は、脂質(lipid)に含まれる。その脂質とは、脂肪酸に関連する物質と定義され、単純脂質と複合脂質に分けられ、単純脂質は、脂肪(fat)(グリセロールと脂肪酸3分子とのエステル)と蝋(wax)(脂肪酸と1価高級アルコールのエステル)に分けられる。複合脂質は、燐酸を含む燐脂質、糖質を含む糖脂質などを含む。
【0018】
肥満体に蓄積するものは、単純脂質のうちの脂肪で、これは、トリアシルグリセロール(triacylglycerol)(旧名トリグリセライドtriglyceride)あるいは中性脂肪とも称される。
【0019】
トリアシルグリセロールを構成する脂肪酸が飽和脂肪酸の場合は、各炭素間結合が自由に回転できるので、脂肪酸同士が伸びきった形で固く配列できるため、脂肪は固形となりうる。しかし、脂肪酸に不飽和脂肪酸が含まれる場合は、炭素間の二重結合部にねじれが生ずるため、脂肪酸同士が固く配列できないため、脂肪は液状となりやすく、これを油(oil)という。
【0020】
動物性脂肪は固体になりやすいが、植物性脂肪は、オレイン酸やリノール酸などの不飽和脂肪酸の割合が高いため、常温では油である。液状の脂肪(油)でも、その二重結合が還元されて飽和型になると固体状となる。脂肪は、ヒトおよび動物では、脂肪細胞の中にこれを埋め尽くすように蓄えられ(図1)、この脂肪細胞が皮下、腹腔内や乳房に集合して脂肪組織をなしている。
【0021】
本発明では、多量の脂肪を貯蔵している脂肪種子とその脂肪分解(異化)に注目した。脂肪種子では、脂肪は種子全体の細胞内に微細な脂肪滴として蓄えられ(図2)、発根に際してのエネルギー源として利用される。
【0022】
植物種子のうち、大豆、トウモロコシ、ゴマ、えごま(荏胡麻:シソ科)(荏油をとる)、ひまわり、ベニバナ、ワタ、ナタネ、落花生、カシュナッツ、アーモンド、オリーブ、ツバキ、綿、ココナッツ(椰子の実)などの種子は、脂肪の含有量が特に多く、脂肪種子(oil seads)と呼ばれるが、工業的に植物性脂肪(油)を採取するのに利用されるので、油糧種子と呼ばれることもある。
【0023】
脂肪の構成成分の脂肪酸の炭素原子は、グリコーゲンや澱粉などの糖類の炭素原子よりも還元された状態にあるため、脂肪の酸化は、糖類の酸化に比べ、グラム当り2倍のエネルギーを発生する。また脂肪は、疎水性であるから、細胞内に貯蔵する際に必要とする水分が少なくて済む。このことは、容積が小さな種子が、発芽に備え、この高エネルギー燃料をコンパクトに蓄えるのに好都合である。
【0024】
ヒト、動物、植物共通で、脂肪分解は、複雑な異化経路をたどり、その過程で生じる電子エネルギーが電子供与体から電子受容体へと渡されていく。最後の電子供与体は、NADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)であり、これが供与する2個の電子とプロトンは酸素原子と結合して水(H2O)を生成するが、ここで生じた電子エネルギーが“低エネルギー性”のADP(adenosine diphosphateアデノシンニ燐酸)を“高エネルギー性”のATP(adenosine triphosphateアデノシン三燐酸)に変換することで保存され、このATPエネルギーが、生体内の無数の化学反応に渡されていく。したがって、エネルギーの最終担い手であるATPは、生物系で“普遍的に通用するエネルギーの通貨”ともいわれ、ミトコンドリアの内膜や葉緑体(クロロプラスト)のチラコイド膜に存在する。
【0025】
脂肪分解の化学変化は、脂肪(トリアシルグリセロール)が、まずリパーゼによりグリセロールと脂肪酸(アシル基)に分解される。脂肪酸は、ミトコンドリア外膜にあるアシルCoA合成酵素(acyl CoA synthetase)の触媒作用により脂肪酸アシルCoAが生成する。脂肪酸が酸化されてエネルギーを産生する場所はミトコンドリア内であるので、脂肪酸アシルCoAは、さらにミトコンドリア内膜を通過しなければならないが、この内膜は、外膜と違い、物質選択性が高いため通過できず、特定の輸送機構が必要である。ここで、脂肪酸アシルCoAは、ミトコンドリア内膜の外側にあるL-カルニチンアシルトランスフェラーゼI(carnitine acyl-transferase I)が触媒して脂肪酸アシルL-カルニチンとなり、内膜内にあるアシルL-カルニチン/L-カルニチン輸送体(acyl-carnitine/carnitine tranporter)の作用で内膜を通過したあと、内膜の内側にあるL-カルニチンアシルトランスフェラーゼII(carnitine acyl-transferase II)が触媒して脂肪酸アシルCoAとL-カルニチンに分解されることにより、脂肪酸アシルCoAはミトコンドリアマトリックス(ミトコンドリア基質)へと移動することができる。
【0026】
次いで脂肪酸アシルCoAは、β酸化といわれる過程を経るが、その際に生じる電子エネルギーがFAD(flavin adenine dinucleotide、oxidized form)- FADH2(flavin adenine dinucleotide, reduced form)系、ユビキノン(ubiquinone、Coenzyme Q)−ユビキノール(ubiquinol、Coenzyme QH2)系を経てエネルギー最終担い手ATPに渡されるのである。
【0027】
本発明では、脂肪を蓄えた種子が、発根して地上に双葉を出すまでの間に貯蔵脂肪を分解し尽くして成長のためのエネルギーを得る、という事実に着目した。そこで、脂肪の多い脂肪種子を発根させ、脂肪分解に関わる成分の一部をその細胞内に検索し、同時にその発芽体全体を食することで体脂肪率を下げ、筋肉率を上げることができるかどうか検討した。
【0028】
ここで“発芽”と称しているのは、種子を培養して観察すると、種子から最初に伸びだしてくるものは根であり、本発明では、これを新根と称することにする。この観点からみると、発芽は、“発根”というほうが実態に即しているので、本発明では発根という用語を用いることにする。しかし、この“発根”は、一般に使用されている“発芽”と差別するものではない。
【0029】
本発明において「発根」とは、脂肪を蓄えた種子が発根して地上に子葉全体が現れるまでの間を言う。
【発明の効果】
【0030】
本発明では、脂肪を蓄えた種子が、発根して地上に双葉を出すまでの間に貯蔵脂肪を分解し尽くして成長のためのエネルギーを得るので、脂肪種子を発根させ、脂肪分解に関わる複雑な分子系を含む発根種子を摂取することにより、体脂肪率を下げることが出来る。さらに筋肉運動をすることにより、筋肉率を上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明では、脂肪種子を発根させ、脂肪分解に関わる生体分子を証明した。その上で、発根大豆を食することにより体脂肪が減少すること、さらに筋肉運動を加えることにより筋肉量も増加することを証明し、本発明の完成に至った。
【0032】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
本発明を実施するための発根種子は、脂肪を含むものの中から選択すればよいが、脂肪含有量が多いため脂肪種子と呼ばれるもの(油製造に用いられるものは、油糧種子とも呼ばれる)が最良である。
【0034】
今回の実施に当たっては、脂肪種子の中から、大豆、トウモロコシ、ゴマおよびエゴマ(荏胡麻)を選び、これらを培養して発根させた(図3a、b、c、d)。
【0035】
種子の発根のあとの成長は種子により異なる。例えば大豆などの双子葉類では、新根が種子本体から顔を出し、いったんは上方に少し伸び、すぐにUターンして地中にもぐる一方で、新根基部にある胚軸は上に伸び、子葉をぶら下げる形で地上に現れる。その後、胚軸は伸び続けて“もやし”となり、子葉を高く持ち上げ、やがて子葉が開く(図4)。
【0036】
本発明の中心的課題である「脂肪種子が発根のエネルギーを得るため貯蔵脂肪を分解する」時期は、新根出現から子葉全体が地上に現れて光合成に切り替わるまでの期間である。しかし、脂肪種子の発根の進展は、種子の種類により異なるので、本発明が利用する「脂肪異化系成分を得る時期」は、脂肪種子の種類ごとに決めれば良い。
【0037】
本発明は、脂肪種子が、発根に際し、その貯蔵脂肪を分解して成長エネルギーを得る脂肪異化系成分を証明した上で、その成分をヒトが食し、体脂肪率を低くすることにある。今回の実施例は、大豆、トウモロコシ、ゴマおよびエゴマについて説明するが、これらは、脂肪種子のごく一部であるところから、本発明は、これら実施例の種子のみに限定されるものではない。
【0038】
植物分類上、大豆、ゴマとエゴマは、2枚の子葉を持つ双子葉類(dicotyldons)であるが、トウモロコシは、子葉が1枚の単子葉類(monocotyldons)である。
【0039】
大豆、ゴマとエゴマでは、種子の主体をなすものが幼若な子葉(cotyldon)であり、この細胞内に多量の脂肪(脂肪球、オイルボディーとも呼ばれる)が蓄えられている(図2、図5)。ゴマの脂肪含有率は、白ゴマが最も多く、黒ゴマが最も低く、茶ゴマはその中間という。
【0040】
トウモロコシ種子では、その主体は内乳(endosperm)が衰退したあとに生じた周乳(perisperm)の細胞内に脂肪が蓄えられている。
【0041】
発根脂肪種子の培養条件:
発根脂肪種子を得る技術として、吸水、水補給、養分補給、植物ホルモン利用(例えばジベレリン)、換気、室温や水温、光量、光線の種類(赤色光)や明暗の切り替えなど、種子の種類、品質、銘柄、量などにより異なるので、発根脂肪種子の育つ様子を観察して、経済的適正条件を決めればよい。
【0042】
発根させる種子の新旧も勘案すべきで、例えば、ゴマは収穫後1年以上経っても良く発根するが、大豆は、収穫後1年を過ぎるころより発根率が低下し始める。
【0043】
種子は、吸水により休眠から覚めると、自己が貯蔵している脂肪その他の栄養成分をエネルギーに変えて成長するので、最初の吸水は水があれば良いが、吸水が十分に行われるとミトコンドリアが活性化されるので、その呼吸基質として糖やオリゴ糖類を養分として与えると良い、という意見もある。水の補給法は、浸水のほか、ミストでも良いが、浸水の場合は、水中に代謝老廃物が含まれてくるので、適当な流水装置や換水が必要である。大豆を発根させる場合は、もやし製造の技術が役立つ。
【0044】
発根率や新根の伸びる速度は、種子によりまちまちであるため、発根脂肪種子の収穫時期を決定するに当たっては、培養にかかる費用、新根の平均的長さ、貯蔵脂肪の分解状況などにより決めればよいが、少なくとも、食用もやしのように数cmから10cmほどの長さになるまでに培養する必要はなく、新根の長さが1〜3cm、貯蔵脂肪の減少率が20〜80%の間で決めれば良い。
【0045】
発根率を向上させる技術として、吸水に先立ち、種子を約10℃の低温に置く、prechillingと呼ばれる操作がある。また、光(特に赤色系の光)は、発根を促進するため必要とされる。
【0046】
種子の培養温度は、寒冷地に育つ大豆では、20〜25℃と低めであるが、温暖地に育つゴマ、トウモロコシやエゴマでは、28〜30℃と高めが良い。
【0047】
各種子の発根において、新根が始めて観察されるまでに要する日数は、実施条件によって異なるが、通常、ゴマで最も短く、ほぼ24時間、次いで大豆で3〜4日、トウモロコシとエゴマでは長く、5〜8日である。
【0048】
発根脂肪種子を収穫する時期を決めることは、本発明の脂肪分解(異化)成分の収量に関わるため重要である。収穫時期は、脂肪分解酵素リパーゼの活性が最大値になる時期(多くは吸水後、4〜6日とされる)や子葉が緑色を帯びて葉緑素による光合成を始める以前、などの時期を参考にすれば良い。
【0049】
収穫した発根脂肪種子を処理し、脂肪異化に関わる諸成分を得る方法は、例えば冷凍乾燥後粉末化など、成分を安定的になるべく多く得る方法を講ずれば良い。冷凍乾燥技術としては、成分保持のためには超臨界冷凍乾燥法が理想的であるが、経費等を勘案して決めれば良い。
【0050】
発根脂肪種子利用の食品やサプリメントを体脂肪減少の目的で摂取する場合は、1日1〜数回、毎日適用することが好ましく、有効量としては、乾燥重量で1〜100g/日の範囲で適用することが好ましい。
【0051】
本発明に利用する脂肪種子は、本来食品として摂取しても問題のない種子のみから構成することが可能であり、過剰適用による副作用等の問題は特に考慮する必要はないが、製品に、アレルゲンが含まれないよう、あるいは特定の種子についてアレルギーをもつ個人に対しては使用上の注意を明記する、などの配慮が必要な場合がある。
【0052】
また、脂肪種子の種類は、含有する脂肪、蛋白などの栄養成分に特徴があるので、食品やサプリメントの目的に応じ、品種を選択したり、2種類以上の脂肪種子を組み合わせたりして用いることができる。例えば、大豆の含有する蛋白は、メチオニンやシステインなどの含硫アミノ酸の含有量が少ないので、それらを豊富に含むトウモロコシの発根体を組み合わせたり、筋肉活動に要求されるビタミンB1が豊富な落花生の発根体を組み合わせたりすること、などである。
【0053】
また、脂肪種子では量が不十分な成分を適宜に補充して用いることもできる。たとえば、動物や酵母に比べると植物には少ないカルニチンやコエンザイムQ10は、酵母由来のものを補充して用いること、などである。
【0054】
また、本発明の発根脂肪種子から得た成分が、脂肪酸(アシル基)をエネルギーに転換するのは筋肉においてであるから、本発明による食品やサプリメントがその目的を果たすためには、筋肉運動を併用することが望ましい。その際の筋肉運動の程度は、個人の肥満の程度や筋肉量を勘案しながら決めれば良いが、過度にならないよう注意する、指導員が適切な指導をする、筋肉運動を支援する成分(例えば糖分)を補充する、など、適用形態や添加剤を考慮することが望ましい。
【0055】
L-カルニチンやコエンザイムQ10などの脂肪酸分解(異化)に関わる成分は、人体では筋肉細胞に局在してエネルギー生産を行うのであるから、本発明の発根脂肪種子から得た脂肪燃焼成分は、筋肉のエネルギー生産を支援し、筋肉増強、運動能力増強などの目的に利用できる。
【0056】
人体では、脂肪組織と筋肉とは、筋膜により隔てられているので、脂肪組織から遊離した脂肪酸は、血中のアルブミンに結合して筋肉に運ばれ利用される。従って、脂肪分解(異化)が功を奏するためには、血中アルブミン値が十分にあることが望ましい。体脂肪の減少や筋肉増強を目的にする食品やサプリメントには、アルブミンあるいはこれを含むものを適宜に添加することも推奨できる。
【0057】
皮下脂肪の過剰蓄積に伴って発生するセルライトは、皮膚に凸凹を作り美容上望ましくない。このセルライトの本体は、脂肪組織が、本来、血管の分担の面から結合組織性の膜により分割されて分葉構造をとるのが特徴であることに起因する。(脂肪組織の分葉構造は、脂肪腫や脂肪肉腫を病理診断する際の根拠のひとつである。)従って、本発明の発根脂肪種子成分は、皮下脂肪組織を減らしてセルライトを改善する目的で、化粧料に常用される処方の一部として、乳液やマッサージ用ジェルなどの形で利用することもできる。
【0058】
一般には、「脂肪は糖分を使って燃やされる」と表現されているように、脂肪を、最終的には筋肉においてエネルギーに転換する際、筋肉活動は糖分を利用する。従って、糖尿病患者では、本発明の発根脂肪種子の脂肪分解成分を与えつつ適宜な筋肉運動を行えば、血糖値低下が期待でき、糖尿病治療の補助的な医薬品あるいは特定保健用食品として利用できる。また潜在的な糖尿病の予防の目的で、サプリメントあるいは健康補助食品として利用できる。
【0059】
さらに、本発明の発根脂肪種子を利用する脂肪分解は、血中の中性脂肪の分解にも役立つので、高脂血症の改善、広くは、アテローム性動脈硬化やメタボリックシンドロームの改善・予防に役立つ医薬品あるいは特定保健用食品としても利用できる。
【0060】
また、本発明の発根脂肪種子から得た成分を保有する食品やサプリメントには、当分野において通常用いられるビタミン、ホルモン、酸化防止剤、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、界面活性剤、保存剤、香料、着色料等を含有させることが出来る。
【0061】
以下、発根脂肪種子が含む脂肪、リパーゼ、アセチルCoAシンテターゼ、L-カルニチンおよびユビキノン(コエンザイムQ)などについての実施例を説明する。
【実施例1】
【0062】
水培養した大豆、トウモロコシ、ゴマおよびエゴマが発根した状態を図3a、b、c、dに示す。また培養土を用いて鉢植えし、双葉と茎を伸ばさせた大豆を図6に示す。双葉が地上に現れると緑色になり、光合成が起こっていることがわかる。
【0063】
これらの脂肪種子の培養4〜8日の発根体をそれぞれ燐酸緩衝10%ホルマリン固定液に入れて固定し、常法により、自動脱水・パラフィン包埋装置によりパラフィン包埋組織とし、ミクロトームにより5ミクロン厚のパラフィン組織切片を作製し、脱パラフィンしてヘマトキシリン・エオジン二重染色およびPAS染色を施し、顕微鏡標本を作製した。ただし、脂肪染色の場合は、エタノールによる脱水をすると脂肪が除かれてしまうので、ホルマリン固定した発芽脂肪種子を液体窒素で冷凍し、−20℃のクリオスタットにより8ミクロン切片を作り、オイルレッド0による脂肪染色を施した。
【0064】
PAS染色標本で観察すると、子葉の細胞内に赤く染まる多数のプロテインボディーが認められる。オイルレッドOによる脂肪染色標本では、人体の脂肪細胞では、赤く染まる脂肪は大きく脂肪細胞全体を占めるが、脂肪種子では、多数の微細な脂肪滴(脂肪球、オイルボディー)として細胞質内を占めている。
【実施例2】
【0065】
免疫組織化学的研究
実施例1で作製した発根脂肪種子のパラフィン組織切片を脱パラフィンし、通常の免疫組織化学的方法に従い、抗ヒトリパーゼ抗体、抗アセチルコエンザイムAシンテターゼ抗体、抗L-カルニチン抗体をそれぞれ用い、抗原抗体反応を利用した免疫染色を施した。
【0066】
その結果、ヒトリパーゼについての免疫染色では陽性反応を示した細胞は見つからなかったが、アセチルコエンザイムAシンテターゼおよびL-カルニチン(図7)についての各染色では、脂肪含有細胞内に微細顆粒状に陽性所見が得られた。
【実施例3】
【0067】
電子顕微鏡的研究
新鮮な発根大豆をカミソリで厚さ約1mmにそぎ、さらに1辺1〜1.5mmの方形に切り分け、通常の電子顕微鏡用標本作成法により、燐酸緩衝グルタールアルデヒド固定、燐酸緩衝オスミウム酸固定の後、自動脱水包埋装置を経てエポキシ樹脂包埋を行い、ウルトラトームにより厚さ約70nmの超薄切片を作製、ウラン鉛二重電子染色を施し、電子顕微鏡により観察および写真撮影を行った。
【0068】
発根大豆の子葉細胞では、大型のプロテインボディーの間に多数のミクロン単位(直径2〜0.5μ)の脂肪球(オイルボディー)が密集しており、その間に直径ほぼ0.5μのミトコンドリアが散在している(図2)。脂肪粒の直径減少(微細化)は、葉脈周囲の細胞から始まっている。
【実施例4】
【0069】
コエンザイムQ10の生化学的分析
新鮮な発根大豆を冷凍し、3〜5gを秤量し、メスフラスコに移しエタノール/アセトン溶液(1/1)を加え、超音波処理30分を行い、溶液を室温に戻し、エタノール/アセトン溶液でメスアップして混和し、溶液を1ml分取し、フィルターろ過を行って、ろ液を測定試料とした。測定は、島津・高速液体クロマトグラフィーで、カラムは、TSK-GEL ODS-1002を用い、検出はUV(275nm)を用いた。測定結果は、コエンザイムQ10量として、可食部100gあたり0.8mgであった。
【実施例5】
【0070】
発根大豆食による人体試験
喫煙も飲酒もせず、規則正しい食生活を行っている、健康な男性1名をモニターに選び、毎日、冷凍発根大豆約20gを解凍して1日1回、および発根大豆で作った豆乳を1日1回約200ml飲用することを2ヶ月続けさせた。後半の1ヶ月は、スポーツジムでマシンを使った軽い筋肉トレーニングを行わせた。体計測は、起床時、電子メモリー装置付の体重体組織計により、体重、体脂肪率、内臓脂肪レベル、筋肉率、基礎代謝、BMI、体年齢を記録させた。
【0071】
その結果、2ヶ月間で、体重は55.5kgから54.8kgに、体脂肪率は17.7%から12.7%に、内臓脂肪レベルは5から4に、BMIは19.4から19.2に、それぞれ減少し、筋肉率は31.3%から33.4%に、基礎代謝は1,375(kcal)から1,383(kcal)とそれぞれ増加した。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】ヒト及び動物の細胞内における脂肪の状態を示す図。
【図2】発根脂肪種子の細胞内における脂肪の状態を示す図。
【図3a】大豆、とうもろこし、ゴマ及びエゴマが発根した状態を示す図。
【図3b】大豆、とうもろこし、ゴマ及びエゴマが発根した状態を示す図。
【図3c】大豆、とうもろこし、ゴマ及びエゴマが発根した状態を示す図。
【図3d】大豆、とうもろこし、ゴマ及びエゴマが発根した状態を示す図。
【図4】脂肪種子の発根後の状態を示す図。
【図5】発根大豆の子葉細胞中の脂肪の状態を示す図。
【図6】双葉と鉢植えし、茎を伸ばさせた大豆を示す図。
【図7】発根大豆の子葉細胞中のL−カルニチンを示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発根した脂肪種子を主成分とする飲食品。
【請求項2】
発根した脂肪種子を主成分とするセルライト予防用及び/又は改善用化粧料。
【請求項3】
発根した脂肪種子を主成分とする肥満、糖尿病、高脂血症又はメタボリックシンドローム予防用及び/又は改善用医薬品。
【請求項4】
発根した脂肪種子を主成分とする肥満、糖尿病、高脂血症又はメタボリックシンドローム予防用及び/又は改善用特定保健用食品。
【請求項5】
発根した脂肪種子を主成分とする体脂肪の減少用あるいは筋肉の発達用及び/又は増強用サプリメント又は健康補助食品。
【請求項6】
脂肪種子が大豆、ゴマ、エゴマ又はとうもろこしの内いずれか1種以上の種子
であることを特徴とする請求項1〜5に記載の飲食品、化粧料、医薬品、特定保健用食品、サプリメント又は健康補助食品。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−97541(P2007−97541A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−295260(P2005−295260)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(596175120)
【Fターム(参考)】