説明

発泡体の製造方法

【課題】エチレン単位を有する未架橋重合体、架橋剤及び発泡剤を含有する発泡性樹脂組成物を用いて、加圧一段発泡法に供し、厚さのばらつきが抑制された発泡体の効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、少なくとも一方に凹部を有し且つ型締めによりキャビティ空間を形成する、上型及び下型を備える発泡成形用金型のキャビティ空間に、発泡性樹脂組成物を収容して、加熱及び加圧を行った後、除圧することにより、架橋重合体を含む発泡体を製造する方法であって、上記凹部の底面には溝が形成されており、溝の深さを0.08〜2.1mmとするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未架橋のオレフィン系重合体、発泡剤、架橋剤等を含む発泡性樹脂組成物を用いて、架橋重合体を含む厚物発泡体を効率よく製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オレフィン系架橋重合体を含む厚物発泡体を製造する方法として、互いに内表面が平滑な凹部を有し、型締めによりキャビティ空間を形成する、上型及び下型を備える成形用金型を用いた加圧一段発泡法が知られている。この加圧一段発泡法は、未架橋のオレフィン系重合体、発泡剤、架橋剤等を含む混和物からなる発泡性樹脂組成物を、成形用金型のキャビティ空間に収容し、次いで、加熱及び加圧することにより、発泡剤や架橋剤を分解させ、その後、成形用金型内を除圧して一気に膨張させて、成形用金型から、架橋重合体を含む発泡体を飛び出させる方法である。
【0003】
厚物発泡体を製造する方法として、例えば、特許文献1には、回りから熱の供給を受けることが可能な構造を有する成形用金型を用いて、厚さ60mm以上の厚物ポリオレフィン系樹脂発泡体を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−1700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
加圧一段発泡法により製造された厚物発泡体は、キャビティ空間の形状に比例した大きさとなる傾向があるものの、成形用金型の凹部の内表面が平滑であると、図10に示すように、得られる発泡体の中央部における断面の厚さが大きくなったり、表面全体に複数の曲面部が形成されたりする等、全体に渡って厚さが不均一となる場合があった。そして、このような発泡体から、切削加工等のトリミングにより、例えば、厚さの均一な板状物等を得ようとすると、発泡体の表面における凸部等に由来する切削屑が大量に発生することとなり、即ち、歩留まりが低下し、経済的ではない。
本発明の課題は、エチレン単位を有する未架橋重合体、架橋剤及び発泡剤を含有する発泡性樹脂組成物を用いて、加圧一段発泡法に供し、厚さのばらつきが抑制された厚物発泡体を効率的に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、図10に示すような断面形状を有する発泡体が得られる原因について、検討した。その結果、図示していないが、成形用金型内を除圧した直後に、上型及び下型における各凹部の底面と、膨張した発泡体の表面との間に減圧空間が発生し、底面の中央部に、離型直前の発泡体が吸着する傾向にあり、最後に離型した発泡体中央部が局部的に膨らむものと推測した。そこで、成形用金型における凹部の底面を改良することにより、厚さのばらつきが抑制された発泡体が得られる知見を得た。本発明者らは、この効果について、以下のように推測している。即ち、除圧直後、急激に型表面から発泡体が離脱することにより、型内凹部に減圧空間が生じるが、その際、膨張過程の発泡体面が、上型及び下型における各型合わせ部に当接して、柔軟な発泡体面が変形してシールされるため、型内凹部への空気流入が阻止されて、型内に除圧空間が残存することによるものである。
【0007】
本発明は、以下に示される。
1.少なくとも一方に凹部を有し且つ型締めによりキャビティ空間を形成する、上型及び下型を備える発泡成形用金型のキャビティ空間に、エチレン単位を有する未架橋重合体、架橋剤及び発泡剤を含有する組成物を収容して、加熱及び加圧を行った後、除圧することにより、架橋重合体を含む発泡体を製造する方法において、凹部の底面には溝が形成されており、溝の深さが0.08〜2.1mmであることを特徴とする発泡体の製造方法。
2.凹部の深さが10〜30mmである上記1に記載の発泡体の製造方法。
3.未架橋重合体には、エチレン・α−オレフィン共重合体が含まれる上記1又は2に記載の発泡体の製造方法。
4.架橋剤が有機過酸化物である上記1乃至3のいずれか一項に記載の発泡体の製造方法。
5.発泡剤がアゾ化合物である上記1乃至4のいずれか一項に記載の発泡体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、厚さのばらつきが抑制された厚物発泡体を効率よく製造することができる。
未架橋重合体が、エチレン・α−オレフィン共重合体を含む場合には、上記効果が特に顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】発泡成形用金型の上型又は下型の概略斜視図である。
【図2】発泡成形用金型の上型及び/又は下型の凹部の底面に配された溝のパターンの例を示す図である。
【図3】発泡成形用金型の上型及び/又は下型の凹部の底面に配された溝の断面形状の例を示す図である。
【図4】発泡成形用金型の上型及び下型が型開きしていることを示す断面図である。
【図5】発泡成形用金型の上型及び/又は下型の凹部の底面に配された溝の好ましい形成位置を示す平面図である。
【図6】発泡成形用金型の上型及び/又は下型の凹部を形成する側面の、底面に対する傾斜角度θを示す図である。
【図7】発泡成形用金型のキャビティ空間に発泡性樹脂組成物が収容されていることを示す断面図である。
【図8】本発明に係る発泡成形用金型を用いて得られた発泡体の中央部を含む断面形状を示す概略図である。
【図9】実施例及び比較例で得られた発泡体の厚さを測定した位置を示す平面図である。
【図10】従来の発泡成形用金型を用いて得られた発泡体の中央部を含む断面形状を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の発泡体の製造方法は、少なくとも一方に凹部を有し且つ型締めによりキャビティ空間を形成する、上型及び下型を備える発泡成形用金型のキャビティ空間に、エチレン単位を有する未架橋重合体、架橋剤及び発泡剤を含有する組成物(以下、「発泡性樹脂組成物」という。)を収容して、加熱及び加圧を行った後、除圧することにより、架橋重合体を含む発泡体を製造する方法において、上記凹部の底面には溝が形成されており、溝の深さが0.08〜2.1mmであることを特徴とする。
【0011】
発泡成形用金型を構成する上型及び下型は、少なくとも一方に凹部を有する分割型金型であり、図4に示すように、いずれも凹部を有する上型31及び下型32を備え、これらを型締め(型合わせ)することによりキャビティ空間を形成する成形用金型とすることができ、また、下型が、凹部を有し、その凹部の底面に溝が配されており、上型が、板状である成形用金型とすることができる。後者の場合、板状の上型の内表面には、凹部の底面におけると同様の溝を備えることができる。
【0012】
以下、図4に示す、いずれも凹部を有する上型31及び下型32を備える発泡成形用金型を用いて説明する。
上型31及び下型32における各凹部は、通常、平らな底面38と、通常、平ら又は曲面の側面34とから形成されている。そして、上型31及び下型32における側面34(各4箇所)は、いずれも、型合わせ部(面)36に向けてキャビティが拡開するように、水平面に対する傾斜角度θが、好ましくは30度〜80度、より好ましくは45度〜70度となる傾斜面である(図6参照)。傾斜角度θが、上記範囲にあることにより、発泡成形用金型を除圧したときに、膨張した発泡体が側面34を滑って飛び出しやすくなる。尚、上型31及び下型32は、通常、同一形状を有するので、図1に、その概略斜視図を示した。図1における型の凹部の底面には、溝40が形成されている。
【0013】
上型31及び下型32における凹部の深さは、好ましくは10〜40mm、より好ましくは15〜30mmである。凹部の深さが上記範囲にあると、厚さのばらつきが抑制された発泡体を効率よく製造することができる。上型31における凹部の深さ、及び、下型32における凹部の深さは、互いに同一であってよいし、異なってもよい。
【0014】
溝のパターンは、特に限定されず、図2に例示される。
図2において、(A)は、複数の直線によるパターンを示す。(B)は、複数の波線によるパターンを示す。(C)は、格子模様を示す。(D)は、複数の直線が交わらない格子模様を示す。(E)は、複数の円が隣接したパターンを示す。(F)は、複数の円が、交差しながら連なるパターンを示す。(G)は、市松模様を示す。(H)は、ドットパターンを示す。本発明においては、(A)〜(G)が特に好ましい。
また、溝の断面形状も、特に限定されず、図3に例示される。
【0015】
上記の上型31及び下型32の凹部における底面の溝の深さは、0.08〜2.1mmであり、好ましくは0.3〜1.8mm、より好ましくは0.5〜1.5mmである。溝の深さが上記範囲にあると、厚さのばらつきが抑制された発泡体を効率よく製造することができる。一方、溝が深すぎると、得られる発泡体の表面に、溝の形状が反映された凸部が形成され、側面34と、型合わせ部(面)36とから形成される稜線に引っかかって、発泡体に傷が入る場合がある。尚、溝の深さは、凹部における底面(表面)から、溝の最深部までの長さを意味する。
【0016】
また、上記の上型31及び下型32の凹部における底面の溝の幅は、全体に渡って同一であってよいし、部分的に異なってもよい。好ましい幅は0.1〜3.0mmであり、より好ましくは0.3〜2.0mmである。
【0017】
溝の形成位置は、以下の通りである。本発明においては、発泡成形用金型を除圧した直後に、上型及び下型における各凹部の底面と、膨張した発泡体の表面との間に減圧空間を発生しにくくするために、底面38における溝は、少なくとも図5における斜線部37にあることが好ましく、底面38の表面全体にあることが特に好ましい。この態様であれば、膨張時、型合わせ部36に当接する位置における発泡体表面に凹部又は凸部があることで、型合わせ部36と発泡体との間に隙間が生じて、型内の減圧空間に空気が流入して、外気圧と同圧になって、発泡体中央部の膨れを防止することができる。
図5における斜線部37の領域は、底面38の周縁である。そして、この領域の寸法を示す、図5における横方向の一端側の長さwは、底面38の横方向の長さwに対して、好ましくは0.03〜0.5倍、より好ましくは0.1〜0.4倍である。また、図5における縦方向の一端側の長さvは、底面38の縦方向の長さvに対して、好ましくは0.03〜0.5倍、より好ましくは0.1〜0.4倍である。
【0018】
また、上記の上型及び下型における凹部の側面34に、溝が形成されていてもよい。この溝についても、そのパターン、断面形状及び深さは、底面38における溝と同様とすることができる。
【0019】
次に、発泡性樹脂組成物について、説明する。
エチレン単位を有する未架橋重合体としては、特に限定されず、ポリエチレン;エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・1−ペンテン共重合体、エチレン・1−ヘキセン共重合体、エチレン・3,3−ジメチル−1−ブテン共重合体、エチレン・4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体等のエチレン・α−オレフィン共重合体;エチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・プロピオン酸ビニル共重合体等のエチレン・ビニルカルボン酸エステル共重合体;エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・アクリル酸プロピル共重合体、エチレン・アクリル酸ブチル共重合体等のエチレン・アクリル酸アルキルエステル共重合体;エチレン・酢酸ビニル共重合体・アクリル酸アルキルエステル;塩素化ポリエチレン等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明においては、引張衝撃強さに優れた発泡体が得られることから、エチレン・α−オレフィン共重合体が好ましく、エチレン・1−ヘキセン共重合体が特に好ましい。
【0020】
本発明に係る発泡性樹脂組成物は、エチレン単位を有する未架橋重合体以外に、他の重合体又は樹脂(未架橋重合体を含む)を含有してもよい。
他の重合体又は樹脂としては、アクリル系重合体、芳香族ビニル系重合体、ノルボルネン等の環状オレフィンに由来する単位を有する重合体、ポリ乳酸系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド系樹脂等が挙げられる。
【0021】
発泡性樹脂組成物が、他の重合体又は樹脂を含有する場合、その含有量は、エチレン単位を有する未架橋重合体を含む全ての重合体100質量部に対して、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。
【0022】
架橋剤は、加熱により分解され、遊離ラジカルを発生して、その分子間もしくは分子内に架橋結合を生じせしめるラジカル発生剤であるところの有機過酸化物が好ましく用いられる。この有機過酸化物としては、ジクミルパーオキサイド、1,1−ジ−tert−ブチルパーオキサイド、1,1−ジ−tert−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−tert−ブチルパーオキシヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−tert−ブチルパーオキシヘキシン、α,α−ジ−tert−ブチルパーオキシイソプロピルベンゼン、tert−ブチルパーオキシケトン、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルパーオキシド、ラウロイルパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
発泡性樹脂組成物における架橋剤の含有量は、エチレン単位を有する未架橋重合体を含む全ての架橋性重合体100質量部に対して、好ましくは0.1〜10.0質量部、より好ましくは0.15〜5.0質量部、更に好ましくは0.3〜2.0質量部である。架橋剤の含有量が上記範囲にあると、加熱時における発泡性樹脂組成物の粘度が発泡に好適なものとなり、発泡ガスが良好に保持された発泡体を効率よく製造することができる。
【0024】
発泡剤は、好ましくは、エチレン単位を有する未架橋重合体の溶融温度以上の温度で分解され、炭酸ガス等の気体を発生する化合物である。その例としては、アゾ化合物、ニトロソ化合物、スルホニルヒドラジド化合物、スルホニルセミカルバジド化合物、アジド化合物等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
アゾ化合物としては、アゾジカルボンアミド、バリウムアゾジカルボキシレート、ジアゾアミノベンゼン、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
ニトロソ化合物としては、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、N,N’−ジメチル−N,N’−ジニトロソ−テレフタルアミド等が挙げられる。
スルホニルヒドラジド化合物としては、p,p’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド、トルエンスルホニルヒドラジド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、ベンゼン−1,3−ジスルホヒドラジド、ジフェニルスルホン−3,3−ジスルホヒドラジド、ジフェニルオキシド−4,4−ジスルホヒドラジド等が挙げられる。
スルホニルセミカルバジド化合物としては、p,p’−オキシビスベンゼンスルホニルセミカルバジド、トルエンスルホニルセミカルバジド等が挙げられる。
また、アジド化合物としては、テレフタルアジド,p−tert−ブチルベンズアジド等が挙げられる。
【0025】
発泡性樹脂組成物における発泡剤の含有量は、エチレン単位を有する未架橋重合体を含む全ての架橋性重合体100質量部に対して、好ましくは1.5〜25質量部、より好ましくは2.0〜20質量部、更に好ましくは2.5〜15質量部である。
【0026】
発泡性樹脂組成物における架橋剤及び/又は発泡剤の含有量を、上記好ましい範囲において変化させることにより、発泡倍率を変化させることができる。
【0027】
本発明に係る発泡性樹脂組成物は、必要に応じて、発泡助剤、充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、熱安定剤、滑剤、着色剤等を含有してもよい。
【0028】
発泡助剤としては、尿素;酸化亜鉛、酸化鉛等の金属酸化物;低級又は高級脂肪酸あるいはそれらの金属塩等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
発泡性樹脂組成物が、発泡助剤を含有する場合、その含有量は、エチレン単位を有する未架橋重合体を含む全ての架橋性重合体100質量部に対して、好ましくは0.005〜10質量部、より好ましくは0.07〜7質量部、更に好ましくは0.01〜5質量部である。
【0030】
本発明に係る発泡性樹脂組成物は、好ましくは、上記の各成分を、予め、架橋剤及び発泡剤が分解等、変質しない条件で混練することにより得られた混和物である。その製造に用いる装置は、従来、公知の、混練機を用いることができ、一軸又は二軸押出機、バンバリー型ミキサー、加圧ニーダー、二軸ロール等が挙げられる。発泡体の製造に際しては、各成分を混練した後、適当な大きさに加工・調整されてなる小片成形物等を用いることができる。
【0031】
以下、図4に示す、いずれも凹部を有する上型31及び下型32を備える発泡成形用金型と、発泡性樹脂組成物とを用いた発泡体の製造方法について、説明する。
はじめに、発泡性樹脂組成物24が、目的の発泡倍率に応じた量で、発泡成形用金型のキャビティ空間に収容される(図7参照)。そして、上型31及び下型32が閉じられて、加熱及び加圧が行われる。加熱温度は、好ましくは130℃〜165℃、より好ましくは135℃〜160℃、更に好ましくは138℃〜158℃である。また、加圧時における上型31及び下型32の圧着圧力は、通常、収容された発泡性樹脂組成物24における発泡剤の含有量や目的の気泡径によって選択される。即ち、キャビティ空間に収容した発泡性樹脂組成物の発泡圧により発泡成形用金型が開放しない程度又は若干漏れる程度となるように、例えば、片側の金型に連設された油圧シリンダー(ラム径φ760mm)を有するプレス機において、圧力は、通常、3MPa以上であり、好ましくは3〜30MPa、より好ましくは5〜25MPa、更に好ましくは8〜20MPaである。圧力が小さいと、発泡ガスが金型の型合わせ部(面)から漏れる場合があり、加圧が大きすぎると、得られる発泡体の気泡径が小さくなる傾向になる。
尚、上型31及び下型32は、発泡性樹脂組成物が、発泡成形用金型のキャビティ空間に収容される前に、予め、加熱されていてもよい。
【0032】
発泡成形用金型における加熱及び加圧の時間は、通常、10〜60分であり、この間において、発泡性樹脂組成物に含まれた発泡剤が分解し、また、架橋反応が進行して、キャビティ空間に、発泡ガスを含む膨張前発泡体が満たされる。
【0033】
その後、発泡成形用金型を開放することにより、キャビティ空間の形状に準じて膨張したブロック状の厚物発泡体20が飛び出る(図8参照)。上型31及び下型32は、いずれも、各凹部において傾斜した側面34を有するので、発泡体は、側面34を滑るように飛び出る。そして、発泡成形用金型から飛び出す際に、側面34と、型合わせ部(面)36とから形成される稜線に引っかかることがなく、変形、更には、厚さのばらつきが抑制された厚物発泡体20を得ることができる。得られる厚物発泡体20の大きさは、辺の長さが、いずれも500mm以上、厚さが20mm以上である。
【0034】
本発明により製造された厚物発泡体は、切削加工等のトリミングに供されて、例えば、厚さの均一な板状物等とされる。上記のように、厚さのばらつきが抑制されることから、発泡性樹脂組成物のロス率を低減することができる。
【0035】
厚物発泡体の製造方法としては、発泡性樹脂組成物を1次金型のキャビティ空間に充填し、加熱及び加圧して、発泡剤の一部を分解させて1次発泡させた後、得られた発泡体を、常圧で加熱し、残余の発泡剤を分解させて2次発泡させ、所望の密度を有する発泡体を製造する、加圧二段発泡法が知られている。加圧一段発泡法である本発明の製造方法は、加熱を一度のみとすることができ、厚物発泡体の製造効率を向上させることができる。
【0036】
本発明は、形成される発泡体の表面又は内部と、同一又は他の材料からなる部材とを有する複合体の製造方法に利用することができる。例えば、発泡成形用金型の内部の所定の位置に、上記部材を配置して、発泡性樹脂組成物を用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。尚、下記において、部及び%は、特に断らない限り、質量基準である。
【0038】
1.原料成分
下記の実施例及び比較例において用いる材料を示す。
1−1.未架橋重合体
エチレン・1−ヘキセン共重合体(住友化学社製「エクセレンGMH CB5001」)
1−2.架橋剤
ジクミルパーオキサイド
1−3.発泡剤
アゾジカルボンアミド
1−4.発泡助剤
(1)酸化亜鉛
(2)ステアリン酸亜鉛
(3)尿素
【0039】
2.発泡成形用金型
以下の実施例及び比較例において用いた発泡成形用金型は、図4に示すように、互いに同一形状及び大きさの凹部を有する上型31及び下型32を備え、これらを型締め(型合わせ)することによりキャビティ空間を形成する分割型金型であり、各凹部の底面38に、所定の深さで形成した溝40を有するものと、溝を有さないものとを用いた。尚、溝は、図3の(d)で示す断面形状を有するものである。
上型31及び下型32における凹部の側面34(各4箇所)は、型合わせ部(面)36に向けてキャビティが拡開するように、水平面に対する傾斜角度θが60度となる傾斜面である(図6参照)。また、キャビティ空間の寸法は、凹部の底面38では、500mm×1000mm、型合わせ部(面)36の内周では、520mm×1040mm、上型31及び下型32の凹部の深さは、いずれも28mmである。
発泡成形用金型は、プレス機と連設されており、このプレス機は、ラム径φ760mmの油圧シリンダーを備える。
【0040】
3.発泡体の製造及び評価
以下の実施例及び比較例において用いた発泡性樹脂組成物は、上記のエチレン・1−ヘキセン共重合体、ジクミルパーオキサイド、アゾジカルボンアミド、酸化亜鉛、ステアリン酸亜鉛及び尿素を、それぞれ、100部、5.5部、2.0部、0.3部、0.1部及び0.8部秤量し、これらを混練機に投入して、110℃で混練した後、押出機により、板状(大きさ:400mm×800mm×80mm)に調整された組成物である。
【0041】
実施例1
本例では、上型及び下型における凹部の底面全体に、図2の(C)で示すパターン(格子1つの大きさ及び形状:30mm×30mmの正方形)であって、深さ0.10mm及び幅0.10mm(断面積0.01mm)の溝を有する発泡成形用金型を用いた。
発泡成形用金型を145℃に調整した後、発泡性樹脂組成物を、図7に示すように、キャビティ空間に高密度充填し、プレス圧を14MPaとして上型31及び下型32を型締めし、40分間保持した。その後、型開きにより、膨張した発泡体を飛び出させ、図8及び図9に示す厚物発泡体20を得た(発泡倍率:約15倍)。図9に示す発泡体の寸法は、下記の通りである。
h1≒2400mm,h2≒2300mm,r1≒1200mm,r2≒1300mm,厚さ≒90mm
得られた発泡体について、図9に示す「1」〜「15」の領域の中央における厚さを測定し、最大厚さ(t)及び最小厚さ(t)並びにこれらの差(t−t)を表1に示した。
【0042】
また、得られた発泡体を切削加工し、複数の板状体(75mm×1050mm×2100mm)を作製し、得られた発泡体の質量と、得られた板状体の総質量との差から、破材の質量を算出し、下記式により、材料ロス率を算出した(表1参照)。
材料ロス率(%)={(破材の質量)/(発泡性樹脂組成物の質量)}×100
【0043】
更に、発泡体の表面状態を、目視観察し、下記基準で判定した(表1参照)。
○:欠けや割れ等の不良部がほとんどなく、材料ロス率に影響がない。
×:欠けや割れの不良部が顕著であり、材料ロス率が増大する。
【0044】
実施例2
本例では、上型及び下型における凹部の底面全体に、図2の(C)で示すパターン(格子1つの大きさ及び形状:50mm×50mmの正方形)であって、深さ0.50mm及び幅0.50mm(断面積0.25mm)の溝を有する発泡成形用金型を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして発泡体を製造し、評価を行った。その結果を表1に示す。
【0045】
実施例3
本例では、上型及び下型における凹部の底面全体に、図2の(C)で示すパターン(格子1つの大きさ及び形状:50mm×50mmの正方形)であって、深さ1.00mm及び幅1.00mm(断面積1.00mm)の溝を有する発泡成形用金型を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして発泡体を製造し、評価を行った。その結果を表1に示す。
【0046】
実施例4
本例では、上型及び下型における凹部の底面全体に、図2の(C)で示すパターン(格子1つの大きさ及び形状:30mm×30mmの正方形)であって、深さ1.50mm及び幅1.00mm(断面積1.50mm)の溝を有する発泡成形用金型を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして発泡体を製造し、評価を行った。その結果を表1に示す。
【0047】
実施例5
本例では、上型及び下型における凹部の底面全体に、図2の(C)で示すパターン(格子1つの大きさ及び形状:40mm×40mmの正方形)であって、深さ2.00mm及び幅1.00mm(断面積2.00mm)の溝を有する発泡成形用金型を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして発泡体を製造し、評価を行った。その結果を表1に示す。
【0048】
比較例1
本例では、上型及び下型における凹部の底面全体に、図2の(C)で示すパターン(格子1つの大きさ及び形状:40mm×40mmの正方形)であって、深さ0.07mm及び幅0.10mm(断面積0.007mm)の溝を有する発泡成形用金型を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして発泡体を製造し、評価を行った。その結果を表1に示す。
【0049】
比較例2
本例では、上型及び下型における凹部の底面全体に、図2の(C)で示すパターン(格子1つの大きさ及び形状:50mm×50mmの正方形)であって、深さ2.20mm及び幅1.00mm(断面積2.20mm)の溝を有する発泡成形用金型を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして発泡体を製造し、評価を行った。その結果を表1に示す。
【0050】
比較例3
上型及び下型における凹部の底面に溝を有さない発泡成形用金型を用いた以外は、実施例1と同様にして発泡体を製造し、評価を行った。その結果を表1に示す。尚、得られた発泡体を、その中心が含まれるように、長手方向において縦に裁断したところ、図10に示すような断面形状であった。
【0051】
【表1】

【0052】
表1から明らかなように、発泡成形用金型における溝の深さが所定の範囲にあると、厚さのばらつきが抑制され、材料ロス率も低下することが分かる。この効果は、特に、溝の深さが0.50〜2.00mmの場合に顕著である。
【0053】
上記実施例において、互いに同一構造の上型及び下型を用いたが、これらに限定されず、互いに、凹部の深さ及び形状、溝の形状及び大きさ並びに形成位置、等が異なるものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の製造方法により得られる発泡体は、切削加工等に供されて、大型のシート、リング状、三次元形状等の形態とした後、パッキン、ガスケット、スポーツ用具等としてのパッド、床材、壁材等の建材、目地材等の封止性、断熱性、緩衝性等を必要とする用途に好適である。
【符号の説明】
【0055】
20 発泡体
31 発泡成形用金型(上型)
32 発泡成形用金型(下型)
34 凹部の側面
36 型合わせ部(面)
38 凹部の底面
40 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方に凹部を有し且つ型締めによりキャビティ空間を形成する、上型及び下型を備える発泡成形用金型の該キャビティ空間に、エチレン単位を有する未架橋重合体、架橋剤及び発泡剤を含有する組成物を収容して、加熱及び加圧を行った後、除圧することにより、架橋重合体を含む発泡体を製造する方法において、
上記凹部の底面には溝が形成されており、該溝の深さが0.08〜2.1mmであることを特徴とする発泡体の製造方法。
【請求項2】
上記凹部の深さが10〜30mmである請求項1に記載の発泡体の製造方法。
【請求項3】
上記未架橋重合体には、エチレン・α−オレフィン共重合体が含まれる請求項1又は2に記載の発泡体の製造方法。
【請求項4】
上記架橋剤が、有機過酸化物である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の発泡体の製造方法。
【請求項5】
上記発泡剤が、アゾ化合物である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の発泡体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−158698(P2012−158698A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20130(P2011−20130)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】