説明

発泡性の成形用シート及びそれを用いた嵩高成形体並びにその製造方法

【課題】本発明の課題は、断熱性、保温性、クッション性などの特性をもつ嵩高い深絞り成形体を製造することを可能とする熱成形可能な発泡性の成形用シートを提供することである。
【解決手段】本発明は、木材パルプ、ポリオレフィン系合成パルプ、熱可塑性合成繊維及び発泡性マイクロカプセル粒子を主体として組成される熱成形可能な発泡性の成形用シートであって、表層、中層及び裏層で構成される多層抄きシートである。成形用シート全体での木材パルプの含有率が20質量%以下であり、中層が、中層を構成する繊維100質量%に対して発泡性マイクロカプセル粒子を10〜50質量%含有し、表層及び裏層が、発泡性マイクロカプセル粒子を含有しないか又は中層よりも少なく、かつ、最大10質量%含有し、抄紙機の乾燥工程で発泡性マイクロカプセル粒子を未発泡の状態のままで乾燥したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材パルプ、ポリオレフィン系合成パルプ、熱可塑性合成繊維及び熱によって発泡する性質をもつマイクロカプセル粒子を主体として組成される加工性に優れた熱成形可能な深絞り成形用の発泡性の成形用シートに関する。この成形用シートは、発泡後に嵩高成形体となる。さらに詳しくは、深絞り成形後に、断熱材、自動車の内装材などの用途で使用され、断熱性、保温性、クッション性などの特性をもつ嵩高成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、密度が低く、断熱材や自動車の内装材などの用途で使用されているシートは、発泡スチロールや発泡ポリエチレンなどの高分子ポリマーが、断熱性、保温性に優れ、成形性、加工性、クッション性もよく、安価であるために大量に使用されている。一方、昨今の環境汚染防止への要望から、自然に分解したり、燃焼したりしても汚染物質の出ない紙などへの転換が進められている。しかし、板紙では、成形時に大きな伸びを要求される深絞り成形を行うときに板紙が破断したり、板紙に皺が出たりして深絞り成形を行うことができない。
【0003】
針葉樹晒しクラフトパルプ、熱可塑性合成繊維及び填料を主体として組成されており、そして表層、中層、裏層で構成される坪量250g/m以上の多層抄きによって、加工性に優れた熱成型可能な成型紙についての技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。特許文献1の技術の目的は、深絞り適性及び成形体の成型保持性があり、熱プレス成型時の作業性に優れ、不透明性、耐油性、耐水性があり、フランジ部の平坦性が良く、トップシール適性に優れ、耐熱用途ではフィルム貼りを行っても木材パルプの含有率を51重量%以上としたことによって容器包装リサイクル法で紙として扱われ、高い生産効率で成型品を提供することである。
【0004】
天然パルプ100重量部に対して発泡性粒子を3〜20重量部添加し、混抄させ、加熱乾燥時に発泡することによって、密度0.1〜0.3g/cmの混抄紙を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照。)。特許文献2の技術の目的は、低密度体で、断熱性、保温性、耐衝撃性、クッション性等に優れた発泡体粒子混抄紙を提供することである。
【0005】
特許文献2と同様に、低密度体で、断熱性、保温性、耐衝撃性、クッション性等に優れた発泡体粒子混抄紙の提供を目的とし、天然パルプ50重量%以上で、他に合成パルプを配合した繊維層に対して、発泡性粒子を3〜20重量部添加し、混抄させ、密度0.1〜0.3g/cmの混抄紙を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006‐022439号公報
【特許文献2】特開平10‐88495号公報
【特許文献3】特開2000‐34695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の技術は、深絞り成形後のその密度は0.5g/cm程度で、密度の高いものであり、断熱性、保温性、クッション性などの特性をもつものではない。
【0008】
また、特許文献2の技術の場合、その成形性は十分ではなく、成形時に大きな伸びを要求される深絞りの成形を行う時に混抄紙が破断したり、混抄紙に皺がでたりして、深絞り成形を行うことができない。
【0009】
さらに特許文献3の技術の混抄紙の場合にも、大きな伸びを要求される深絞りの成形を行う場合には混抄紙が破断したり、混抄紙に皺がでたりして、深絞り成形を行うことができない。
【0010】
本発明の課題は、断熱性、保温性、クッション性などの特性をもつ嵩高い深絞り成形体を製造することを可能とする熱成形可能な発泡性の成形用シートを提供することであり、また、この発泡性の成形用シートを通常の抄紙機を用いて製造することであり、さらに成形用シートを発泡させると同時に深絞り成形を行って深絞り嵩高成形体を得るとき又は成形用シートを発泡させて嵩高成形体とし、その後の工程で深絞り嵩高成形体を得るときに、破断の発生のない該深絞り成形用シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、成形性、発泡性の点から検討を重ね、前記課題を解決しようとするものである。すなわち、本発明に係る発泡性の成形用シートは、木材パルプ、ポリオレフィン系合成パルプ、熱可塑性合成繊維及び発泡性マイクロカプセル粒子を主体として組成される熱成形可能な発泡性の成形用シートであって、該成形用シートが表層、少なくとも1層の中層及び裏層で構成される多層抄きシートであり、成形用シート全体での木材パルプの含有率が20質量%以下であり、前記中層が、中層を構成する繊維100質量%に対して前記発泡性マイクロカプセル粒子を10〜50質量%含有し、前記表層及び前記裏層が、前記発泡性マイクロカプセル粒子を含有しないか又は中層よりも少なく、かつ、最大10質量%含有し、抄紙機の乾燥工程で前記発泡性マイクロカプセル粒子を未発泡の状態のままで乾燥したことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る発泡性の成形用シートは、前記木材パルプが針葉樹晒しクラフトパルプであるか又は針葉樹晒しクラフトパルプを主体とするパルプであることが好ましい。針葉樹晒クラフトパルプを使用することで、成形体に強度が出るという利点がある。
【0013】
本発明に係る発泡性の成形用シートは、前記発泡性マイクロカプセル粒子が加熱によってその直径が4〜5倍及び体積が60倍以上に膨張するものであることが好ましい。嵩高の成形体が得られやすい。
【0014】
本発明に係る発泡性の成形用シートは、前記表層及び前記裏層が、前記表層及び前記裏層を構成する繊維100質量%に対して前記発泡性マイクロカプセル粒子を1〜10質量%含有し、かつ、成形用シートが、成形用シート全体を構成する繊維100質量%に対して前記発泡性マイクロカプセル粒子を5〜40質量%含有することが好ましい。
【0015】
本発明に係る発泡性の成形用シートは、前記ポリオレフィン系合成パルプが融点100〜180℃である多分岐状ポリエチレン系合成パルプであることが好ましい。湿式抄造性に優れ、木材パルプとの接着性にも優れる。
【0016】
本発明に係る発泡性の成形用シートは、前記熱可塑性合成繊維が融点80℃以上である熱融着ポリエステル繊維であり、前記表層、前記中層及び前記裏層のいずれにも含有されることが好ましい。熱融着ポリエステル繊維を含有することにより、高温成形時の伸びが増大し、深絞り成形体に破れが発生しない。
【0017】
本発明に係る嵩高成形体は、本発明に係る発泡性の成形用シートが加熱され発泡されて0.1g/cm以下の密度を有することを特徴とする。
【0018】
本発明に係る嵩高成形体は、深絞り成形されている形態が含まれる。
【0019】
本発明に係る嵩高成形体の製造方法は、本発明に係る発泡性の成形用シートを、100〜220℃の熱プレスによって加熱し、発泡させて、成形体を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の成形用シートは、木材パルプ、ポリオレフィン系合成パルプ、熱可塑性合成繊維及び発泡性マイクロカプセル粒子を組み合わせる構成によって、深絞りの成形を行うときに、破断の発生なく深絞り成形可能であり、例えば厚さ1mm以下であるのでリールでの巻き取りで皺や折れが発生せず、発泡ムラも発生しない。発泡後又は深絞り成形後では、断熱性、保温性、クッション性などの特性を有した機能性の高い嵩高成形体となる。そして従来ではできなかった熱成形可能な0.1g/cm以下の低密度の成形体も得られる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0022】
本実施形態に係る発泡性の成形用シートは、木材パルプ、ポリオレフィン系合成パルプ、熱可塑性合成繊維及び発泡性マイクロカプセル粒子を主体として混抄した熱成形可能な多層抄き成形用シートである。多層抄きシートとして、表層、少なくとも1層の中層及び裏層で構成される。
【0023】
ポリオレフィン系合成パルプとしては、汎用の抄紙機による湿式抄造プロセスに適した、多分岐状の繊維性状を有するポリエチレン又はポリプロピレンからなるポリオレフィン系合成パルプが好ましい。また、成形時の加熱によって木材パルプとの熱溶融による接着性に優れるものが好ましく、融点が100〜180℃のポリオレフィン系の合成パルプが安価であり、好適に用いられる。例えば、三井化学株式会社からSWPの商品名で市販されているものを使用できるが、本発明はこのSWPに限定されるものではない。
【0024】
これらのポリオレフィン系合成パルプの形態は、抄紙機で抄紙できる範囲であれば短繊維でも長繊維でもよいが、その平均繊維長として0.1〜10mmの範囲内であることが好ましい。0.1mm未満では、繊維間の絡み合いが少なく実質的にシート状にすることが難しく、10mmを超えると抄紙で、均一なシートにすることが難しい場合がある。またカナディアンスタンダードフリーネス(CSF)300〜400mlのものが好ましい。
【0025】
本発明で使用する木材パルプとしては、主にN−BKP(針葉樹晒クラフトパルプ)に代表される木材漂白化学パルプが使用される。必要に応じてL−BKP(広葉樹晒クラフトパルプ)、GP(砕木パルプ)、TMP(サーモメカニカルパルプ)、BCTMP(晒ケミサーモメカニカルパルプ)などの機械パルプ、古紙パルプを適宜配合することもできる。針葉樹晒クラフトパルプを使用することで、成形体に強度が出るという利点がある。
【0026】
熱可塑性合成繊維としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリロニトリルなどの合成繊維、又はこれらの混合物が使用可能である。
【0027】
これらの熱可塑性合成繊維としては、得られた成形紙をホットプレスで成形加工する場合に、融点が高すぎて一般的な金型温度で充分な熱可塑性を発現しないとか、融点が低すぎて金型成形後の形状保持が難しく、急速な冷却が必要となって成形加工性が低下することがない範囲であることが好ましく、融点が80〜200℃であることが好ましい。より好ましくは100〜140℃である。
【0028】
ポリオレフィン系合成パルプ、熱可塑性合成繊維、木材パルプとの含有率は、表層、裏層と中層では異なっていてもよい。適正な含有率は、熱成形時の深絞り適性、成形体の形状安定性、作業性などを加味しながら決定する。
【0029】
ポリオレフィン系合成パルプの含有率は、表層、裏層においては、60〜90質量%、好ましくは、80〜90質量%とする。60質量%未満では、熱成形加工時の深絞り成形性が劣る場合がある。90質量%を超えると抄紙性が劣る場合がある。また、中層においては50〜70質量%、好ましくは50〜60質量%とする。50質量%未満では、熱成形加工時の深絞り成形性が劣る場合がある。70質量%を超えると抄紙性が劣る場合がある。
【0030】
熱可塑性合成繊維の含有率は、表層、裏層において5〜20質量%、好ましくは、10〜15質量%とする。20質量%を超えると成形加工時に金型に熱融着しやすくなる。5質量%未満では熱成形加工時の深絞り成形性が劣る場合がある。中層においては10〜40質量%、好ましくは20〜30質量%とする。40質量%を超えると抄紙性が劣る場合がある。10質量%未満では熱成形加工時の深絞り成形性が劣る場合がある。熱可塑性合成繊維は、表層、中層及び裏層のいずれも配合することが好ましく、成形体に強度が出る。
【0031】
成形用シート全体での木材パルプの含有率が20質量%以下、好ましくは、5〜20質量%とする。20質量%を超えると熱成形加工時の深絞り成形性が劣る場合がある。また、木材パルプの含有率は、表層、裏層において20質量%以下、好ましくは、15質量%以下とする。20質量%を超えると熱成形加工時の深絞り成形性が劣る場合がある。中層において30質量%以下、好ましくは、20質量%以下とする。30質量%を超えると熱成形加工時の深絞り成形性が劣る場合がある。
【0032】
発泡性マイクロカプセル粒子は、マイクロカプセル粒子内に低沸点溶剤を封入した熱膨張性マイクロカプセルであり、好ましくは80〜220℃の温度で、短時間の加熱によってその直径が4〜5倍及び体積が60倍以上に膨張する平均径が5〜40μmの粒子である。体積膨張の上限はおおよそ60倍以上である。嵩高の成形体が得られやすい。低沸点溶剤としては、イソブタン、ペンタン、石油エーテル、ヘキサン、低沸点ハロゲン化炭化水素、メチルシランなどの揮発性有機溶剤を塩化ビニリデン、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどの共重合体から成る熱可塑性樹脂で包み込んだものである。これらの発泡性マイクロカプセル粒子として、例えばエクスパンセルDU、エクスパンセルWUF(スウェーデン製、販売元:日本フィライト株式会社)が使用できるが、本発明はこれらのエクスパンセルDU、エクスパンセルWUFに限定されるものではない。
【0033】
発泡性マイクロカプセル粒子の含有量は、成形用シートの中層を構成する繊維100質量%に対して、10〜50質量%、好ましくは10〜40質量%であり、より好ましくは10〜35質量%である。10質量%未満では、密度が高くなり、断熱性、保温性及びクッション性が低下する。50質量%を超えると、経済性の面から、あまり適当とはいえない。また、表層及び裏層に配合する場合は、表層及び裏層を構成する繊維100質量部%に対して、1〜10質量%配合し、その量は中層の発泡性マイクロカプセル粒子の含有量よりも少なくする。表層及び裏層の該粒子含有量が10質量%を超えると、深絞り成形時に成形体に皺が発生する恐れがある。成形用シート全体を構成する繊維100質量%に対して発泡性マイクロカプセル粒子5〜40質量%の配合とすることが好ましい。成形用シートの繊維全体に対する発泡性マイクロカプセルの含有量が5質量%未満であると、発泡量が少な過ぎて十分な断熱性、保温性及びクッション性を達成できない場合がある。40質量%を超える場合には、十分な強度のシートを得ることができない場合がある。
【0034】
ここで、表層及び裏層が、表層及び裏層を構成する繊維100質量%に対して発泡性マイクロカプセル粒子を1〜10質量%含有し、かつ、成形用シートが、成形用シート全体を構成する繊維100質量%に対して発泡性マイクロカプセル粒子を5〜40質量%含有するとき、パルプ量が不足して熱成形加工時の深絞り成形性が劣るということがない点で好ましい。
【0035】
成形用シートの中には、前記パルプ、発泡性マイクロカプセル粒子の他に、本発明の目的効果を損なわない範囲で、一般的に使用されている各種の歩留り向上剤、紙力向上剤、内添サイズ剤、ピッチコントロール剤、消泡剤などの薬品類を適宜使用できる。
【0036】
本実施形態に係る成形用シートは、長網抄紙機、円網抄紙機、長網と円網とのコンビネーションマシンなどの一般的な多層抄き抄紙機によって製造する。
【0037】
また、本実施形態の成形用シートにサイズプレス、ゲートロールなどの塗工方法にて、シートの表面に澱粉、ポリビニルアルコール、表面サイズ剤、蛍光増白剤などを塗布することも可能である。
【0038】
本実施形態の成形用シートの坪量は、特に限定するものではないが通常200〜600g/m程度の範囲である。
【0039】
発泡処理前の乾燥方法としては、特に限定されるものではなく、通常のシリンダードライヤーなどにおいて、発泡性マイクロカプセル粒子が発泡しない70℃以下での乾燥が必要である。
【0040】
本実施形態の成形用シートのカレンダー処理は、シート厚の均一化と共に抄紙機で巻き取れる厚さに処理する目的で行われる。その厚さは、1mm以下が望ましい。カレンダー処理は、オンマシンで配置されているマシンカレンダー、その他にスーパーカレンダー、グロスカレンダー、ブラッシカレンダー、マットカレンダー、ソフトカレンダーなどを用いることができ、カレンダーの種類は、特に限定されるものではない。このように抄紙機の乾燥工程で発泡性マイクロカプセル粒子を未発泡の状態のままで乾燥し、巻き取ることで巻き取り製品とすることができる。
【0041】
本発明の成形用シートの発泡方法の一つとして、平熱板発泡後成形法がある。加熱した平熱板内にて成形用シートをセットし発泡させる。発泡後、成形型に移動し成形する方法である。熱プレスの温度は100〜220℃とすることが好ましい。
【0042】
発泡方法のもう一つの方法として、成形型内発泡成形法がある。加熱した成形型に成形用シートをセットし、熱圧縮成形する方法である。熱プレスの温度は100〜220℃とすることが好ましい。
【0043】
深絞り成形を施す場合には、深絞り成形性紙をそのまま深絞り成形機に入れ、加熱して嵩高成形体とすると同時に深絞り成形体とする。或いは、深絞り成形性紙を加熱して嵩高成形体としてから、後工程で深絞り成形体としてもよい。
【実施例】
【0044】
本発明を実施例によって、更に詳細に説明するが、本発明は、勿論これに限定されるものではない。なお、特に断らない限り、例中の部、添加%は固形分換算での質量部、質量%である。
【0045】
(実施例1)
<成形用シートの製造>
表層及び裏層として、N−BKP(CSF;700ml)/SWP(三井化学社製、E620、融点135℃の多分岐状ポリエチレン系合成パルプ)/ポリエステル繊維(ユニチカ社製:メルティー4080)=10/80/10%配合のパルプを混合し、内添サイズ剤としてロジン系エマルジョン(星光PMC社製、AL−120)を繊維100質量%に対して0.3%、硫酸バンドを繊維100質量%に対して1%、カチオン化澱粉(日本食品化工社製、ネオタック40T)を繊維100質量%に対して1%添加し、原料スラリーとした。この原料スラリーを円網抄紙機にて、表層及び裏層の目標坪量を80g/mとして抄紙した。中層として、N−BKP(CSF;700ml)/SWP(三井化学社製、E620)/ポリエステル繊維(ユニチカ社製:メルティー4080、融点110℃)=10/60/30%配合し、この中層を構成する繊維100質量%に対して、発泡性マイクロカプセル粒子としてエクスパンセル009DU80(スウェーデン製、販売元:日本フィライト株式会社)20質量%を添加し、内添サイズ剤としてロジン系エマルジョン(星光PMC社製、AL−120)を繊維100質量%に対して0.3%、硫酸バンドを繊維100質量%に対して1%、カチオン化澱粉(日本食品化工社製、ネオタック40T)を繊維100質量%に対して1%添加し、原料スラリーとした。この原料スラリーを円網抄紙機にて、三つの中層の目標坪量をそれぞれ80(中層合計240)g/mとして抄紙し、前記表層及び裏層との5層抄き合わせによって目標坪量400g/mにてシートを抄紙し、ドライヤーにて70℃で乾燥し、厚さ1mmにてリールで巻き取り、発泡性マイクロカプセル粒子を発泡させていない成形用シートを製造した。
【0046】
<発泡させた嵩高成形体の調整>
前記の発泡前の成形用シートを縦20cm×横20cmの大きさに断裁し、平熱板温度160℃、平熱板クリアランス7mm、平熱板加熱時間3分にて、成形用シートを加熱発泡させて、嵩高成形体を得た。
【0047】
本発明の実施例における坪量、厚さ及び密度は、次のJISに従い、発泡ムラの有無、金型成形性については、目視で評価した。
a.坪量:JIS P 8124:1998
b.厚さ、密度:JIS P 8118:1998
c.発泡ムラ:目視にて評価した。評価基準は次のとおりである。
○:発泡ムラなし、実用レベルにある。
△:発泡ムラ幾分あり、実用に耐えない。
×:発泡ムラあり、実用に耐えない。
d.深絞り成形性:平熱板温度160℃、平熱板クリアランス7mm、平熱板加熱時間3分にて、原反を加熱発泡させた後、直ちに150℃の成形型(クリアランス5mm)に移しフリー成形(20秒)し、材料破壊、皺発生の有無などの深絞り適性及び嵩高成形体の形状安定性を総合して評価した。評価基準は次のとおりである。
○:良好で、実用レベルにある。
△:やや劣り、実用に耐えない。
×:劣り、実用に耐えない。
【0048】
(実施例2)
実施例1の中層として、N−BKP(CSF;700ml)/SWP(三井化学社製、E620、融点135℃の多分岐状ポリエチレン系合成パルプ)/ポリエステル繊維(ユニチカ社製:メルティー4080)=20/60/20%配合した以外は、実施例1と同様にして、5層抄き合わせによって坪量400g/mにてシートを抄紙し、ドライヤーにて70℃で乾燥し、リールで巻き取り、発泡性マイクロカプセル粒子を発泡させていない成形用シートを得た。さらに、実施例1と同様に熱プレスにて、発泡性マイクロカプセル粒子を発泡させた嵩高成形体を得た。
【0049】
(実施例3)
実施例1の中層として、N−BKP(CSF;700ml)/SWP(三井化学社製、E620、融点135℃の多分岐状ポリエチレン系合成パルプ)/ポリエステル繊維(ユニチカ社製:メルティー4080)=30/60/10%配合した以外は、実施例1と同様にして、5層抄き合わせによって坪量400g/mにてシートを抄紙し、ドライヤーにて70℃で乾燥し、リールで巻き取り、発泡性マイクロカプセル粒子を発泡させていない成形用シートを得た。さらに、実施例1と同様に熱プレスにて、発泡性マイクロカプセル粒子を発泡させた嵩高成形体を得た。
【0050】
(実施例4)
実施例1の表層及び裏層として、N−BKP(CSF;700ml)/SWP(三井化学社製、E620、融点135℃の多分岐状ポリエチレン系合成パルプ)/ポリエステル繊維(ユニチカ社製:メルティー4080)=15/80/5%配合した以外は、実施例1と同様にして、5層抄き合わせによって坪量400g/mにてシートを抄紙し、ドライヤーにて70℃で乾燥し、リールで巻き取り、発泡性マイクロカプセル粒子を発泡させていない成形用シートを得た。さらに、実施例1と同様に熱プレスにて、発泡性マイクロカプセル粒子を発泡させた嵩高成形体を得た。
【0051】
(実施例5)
実施例1の表層及び裏層として、N−BKP(CSF;700ml)/SWP(三井化学社製、E620、融点135℃の多分岐状ポリエチレン系合成パルプ)/ポリエステル繊維(ユニチカ社製:メルティー4080)=0/80/20%配合した以外は、実施例1と同様にして、5層抄き合わせによって坪量400g/mにてシートを抄紙し、ドライヤーにて70℃で乾燥し、リールで巻き取り、発泡性マイクロカプセル粒子を発泡させていない成形用シートを得た。さらに、実施例1と同様に熱プレスにて、発泡性マイクロカプセル粒子を発泡させた嵩高成形体を得た。
【0052】
(実施例6)
実施例1の表層及び裏層として、N−BKP(CSF;700ml)/SWP(三井化学社製、E620、融点135℃の多分岐状ポリエチレン系合成パルプ)/ポリエステル繊維(ユニチカ社製:メルティー4080)=20/70/10%配合した以外は、実施例1と同様にして、5層抄き合わせによって坪量400g/mにてシートを抄紙し、ドライヤーにて70℃で乾燥し、リールで巻き取り、発泡性マイクロカプセル粒子を発泡させていない成形用シートを得た。さらに、実施例1と同様に熱プレスにて、発泡性マイクロカプセル粒子を発泡させた嵩高成形体を得た。
【0053】
(実施例7)
実施例1の表層及び裏層として、N−BKP(CSF;700ml)/SWP(三井化学社製、E620、融点135℃の多分岐状ポリエチレン系合成パルプ)/ポリエステル繊維(ユニチカ社製:メルティー4080)=0/90/10%配合した以外は、実施例1と同様にして、5層抄き合わせによって坪量400g/mにてシートを抄紙し、ドライヤーにて70℃で乾燥し、リールで巻き取り、発泡性マイクロカプセル粒子を発泡させていない成形用シートを得た。さらに、実施例1と同様に熱プレスにて、発泡性マイクロさせた嵩高成形体を得た。
【0054】
(実施例8)
実施例1の表層及び裏層を構成する繊維100質量%に対して発泡性マイクロカプセル粒子としてエクスパンセル009DU80(スウェーデン製、販売元:日本フィライト株式会社)8質量%を添加し、中層に中層を構成する繊維100質量%に対して発泡性マイクロカプセル粒子としてエクスパンセル009DU80(スウェーデン製、販売元:日本フィライト株式会社)20質量%を添加した以外は、実施例1と同様にして、5層抄き合わせによって坪量400g/mにてシートを抄紙し、ドライヤーにて70℃で乾燥し、リールで巻き取り、発泡性マイクロカプセル粒子を発泡させていない成形用シートを得た。さらに、実施例1と同様に熱プレスにて、発泡性マイクロカプセル粒子を発泡させた嵩高成形体を得た。
【0055】
(実施例9)
表層及び裏層の目標坪量を30g/mとし、中層の目標坪量を340g/m(三つの中層の目標坪量をそれぞれ113.3g/m)とし、中層を構成する繊維100質量%に対するマイクロカプセル50%とした以外は実施例1と同様にして嵩高成形体を得た。
【0056】
(実施例10)
表層及び裏層の目標坪量を80g/mとし、中層の目標坪量を240g/m(三つの中層の目標坪量をそれぞれ80g/m)とし、中層を構成する繊維100質量%に対するマイクロカプセル10%の実施例とした以外は実施例1と同様にして嵩高成形体を得た。
【0057】
(実施例11)
表層、裏層及び中層で使用する木材パルプについて、全量(100%)をN−BKP(CSF;700ml)としていたところ、N−BKP(CSF;700ml)/L−BKP(CSF;700ml)=70%/30%の割合の木材パルプに置き換え、中層を構成する繊維100質量%に対するマイクロカプセル27%とした以外は実施例1と同様にして嵩高成形体を得た。
【0058】
[比較例1]
実施例1の表層及び裏層として、N−BKP(CSF;700ml)/SWP(三井化学社製、E620融点135℃の多分岐状ポリエチレン系合成パルプ)=80/20%配合し、中層として、N−BKP(CSF;700ml)/SWP(三井化学社製、E620、融点135℃の多分岐状ポリエチレン系合成パルプ)=50/50%配合し、熱可塑性合成繊維をいずれも0%配合した以外は、実施例1と同様にして、5層抄き合わせによって坪量400g/mにてシートを抄紙し、ドライヤーにて70℃で乾燥し、リールで巻き取り、発泡性マイクロカプセル粒子を発泡させていない成形用シートを得た。さらに、実施例1と同様に熱プレスにて、発泡性マイクロカプセル粒子を発泡させた嵩高成形体を得た。
【0059】
[比較例2]
実施例1の表層及び裏層として、N−BKP(CSF;700ml)/SWP(三井化学社製、E620、融点135℃の多分岐状ポリエチレン系合成パルプ)=20/80%配合し、中層として、N−BKP(CSF;700ml)/SWP(三井化学社製、E620、融点135℃の多分岐状ポリエチレン系合成パルプ)=50/50%配合し、熱可塑性合成繊維をいずれも0%配合した以外は、実施例1と同様にして、5層抄き合わせによって坪量400g/mにてシートを抄紙し、ドライヤーにて70℃で乾燥し、リールで巻き取り、発泡性マイクロカプセル粒子を発泡させていない成形用シートを得た。さらに、実施例1と同様に熱プレスにて、発泡性マイクロカプセル粒子を発泡させた嵩高成形体を得た。
【0060】
[比較例3]
比較例1の中層として、N−BKP(CSF;700ml)/SWP(三井化学社製、E620、融点135℃の多分岐状ポリエチレン系合成パルプ)=40/60%配合し、熱可塑性合成繊維をいずれも0%配合した以外は、比較例1と同様にして、5層抄き合わせによって坪量400g/mにてシートを抄紙し、ドライヤーにて70℃で乾燥し、リールで巻き取り、発泡性マイクロカプセル粒子を発泡させていない成形用シートを得た。さらに、実施例1と同様に熱プレスにて、発泡性マイクロカプセル粒子を発泡させた嵩高成形体を得た。
【0061】
[比較例4]
比較例2の表層及び裏層として、N−BKP(CSF;700ml)/SWP(三井化学社製、E620融点135℃の多分岐状ポリエチレン系合成パルプ)/ポリエステル繊維(ユニチカ社製:メルティー4080)=10/80/10%配合した以外は、比較例2と同様にして、5層抄き合わせによって坪量400g/mにてシートを抄紙し、ドライヤーにて70℃で乾燥し、リールで巻き取り、発泡性マイクロカプセル粒子を発泡させていない成形用シートを得た。さらに、実施例1と同様に熱プレスにて、発泡性マイクロカプセル粒子を発泡させた嵩高成形体を得た。
【0062】
[比較例5]
比較例1の中層として、N−BKP(CSF;700ml)/SWP(三井化学社製、E620、融点135℃の多分岐状ポリエチレン系合成パルプ)/ポリエステル繊維(ユニチカ社製:メルティー4080)=50/40/10%配合した以外は、比較例1と同様にして、5層抄き合わせによって坪量400g/mにてシートを抄紙し、ドライヤーにて70℃で乾燥し、リールで巻き取り、発泡性マイクロカプセル粒子を発泡させていない成形用シートを得た。さらに、実施例1と同様に熱プレスにて、発泡性マイクロカプセル粒子を発泡させた嵩高成形体を得た。
【0063】
[比較例6]
比較例2の中層として、N−BKP(CSF;700ml)/SWP(三井化学社製、E620、融点135℃の多分岐状ポリエチレン系合成パルプ)=40/60%配合し、熱可塑性合成繊維をいずれも0%配合した以外は、比較例2と同様にして、5層抄き合わせによって坪量400g/mにてシートを抄紙し、ドライヤーにて70℃で乾燥し、リールで巻き取り、発泡性マイクロカプセル粒子を発泡させていない成形用シートを得た。さらに、実施例1と同様に熱プレスにて、発泡性マイクロカプセル粒子を発泡させた嵩高成形体を得た。
【0064】
[比較例7]
中層を構成する繊維100質量%に対する発泡性マイクロカプセル粒子含有質量%を55%とした以外は比較例1と同様にして嵩高成形体を得た。
【0065】
[比較例8]
中層を構成する繊維100質量%に対する発泡性マイクロカプセル粒子含有質量%を5%とした以外は比較例1と同様にして嵩高成形体を得た。
【0066】
[比較例9]
表裏層を構成する繊維100質量%に対する発泡性マイクロカプセル粒子含有質量%を11%とした以外は比較例1と同様にして嵩高成形体を得た。
【0067】
これらの結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表1の結果から明らかなように、本実施例の成形用シートは、木材パルプ、ポリオレフィン系合成パルプ、熱可塑性合成繊維、及び発泡性マイクロカプセル粒子を組み合わせる構成によって、深絞りの成形を行うときに破断の発生なく深絞り成形可能であり、厚さ1mm以下であるためにリールでの巻き取りで皺や折れが発生せず、発泡ムラも発生せず、発泡後又は深絞り成形後に断熱性、保温性、クッション性などの特性をもたせた機能性の高い、従来ではできなかった熱成形可能な0.1g/cm以下の低密度の嵩高成形体を提供することが可能となった。
【0070】
詳細には、比較例1の表層及び裏層、中層のポリエステル繊維の含有率が0%においては、発泡後の深絞り成形性が不十分である。また比較例2では、比較例1の表層及び裏層のSWP含有率を20%から80%に上げても発泡後の深絞り成形性が不十分である。さらに比較例3では、比較例2の中層のSWP含有率を50%から60%に上げても発泡後の深絞り成形性が不十分である。比較例4では、比較例2の表層及び裏層にNBKPの代わりにポリエステル繊維を10%配合しても発泡後の深絞り成形性が不十分である。比較例5では、比較例1の中層にSWPの代わりにポリエステル繊維を10%配合しても発泡後の深絞り成形性が不十分である。比較例6では、比較例2の中層のSWP含有率を50%から60%に上げても発泡後の深絞り成形性が不十分である。比較例7では、比較例1の中層の発泡剤含有率を20%から55%に上げても発泡後の深絞り成形性が不十分である。比較例8では、比較例1の中層の発泡剤含有率を20%から5%に下げても発泡後の深絞り成形性が不十分である。比較例9では、比較例1の表裏層に発泡剤含有率を0%から11%に上げても発泡後の深絞り成形性が不十分である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材パルプ、ポリオレフィン系合成パルプ、熱可塑性合成繊維及び発泡性マイクロカプセル粒子を主体として組成される熱成形可能な発泡性の成形用シートであって、
該成形用シートが表層、少なくとも1層の中層及び裏層で構成される多層抄きシートであり、
成形用シート全体での木材パルプの含有率が20質量%以下であり、
前記中層が、中層を構成する繊維100質量%に対して前記発泡性マイクロカプセル粒子を10〜50質量%含有し、
前記表層及び前記裏層が、前記発泡性マイクロカプセル粒子を含有しないか又は中層よりも少なく、かつ、最大10質量%含有し、
抄紙機の乾燥工程で前記発泡性マイクロカプセル粒子を未発泡の状態のままで乾燥したことを特徴とする発泡性の成形用シート。
【請求項2】
前記木材パルプが針葉樹晒しクラフトパルプであるか又は針葉樹晒しクラフトパルプを主体とするパルプであることを特徴とする請求項1に記載の発泡性の成形用シート。
【請求項3】
前記発泡性マイクロカプセル粒子が加熱によってその直径が4〜5倍及び体積が60倍以上に膨張するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の発泡性の成形用シート。
【請求項4】
前記表層及び前記裏層が、前記表層及び前記裏層を構成する繊維100質量%に対して前記発泡性マイクロカプセル粒子を1〜10質量%含有し、かつ、成形用シートが、成形用シート全体を構成する繊維100質量%に対して前記発泡性マイクロカプセル粒子を5〜40質量%含有することを特徴とする請求項1、2又は3に記載の発泡性の成形用シート。
【請求項5】
前記ポリオレフィン系合成パルプが融点100〜180℃である多分岐状ポリエチレン系合成パルプであることを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載の発泡性の成形用シート。
【請求項6】
前記熱可塑性合成繊維が融点80℃以上である熱融着ポリエステル繊維であり、前記表層、前記中層及び前記裏層のいずれにも含有されることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の発泡性の成形用シート。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の発泡性の成形用シートが加熱され発泡されて0.1g/cm以下の密度を有することを特徴とする嵩高成形体。
【請求項8】
深絞り成形されていることを特徴とする請求項7に記載の嵩高成形体。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の発泡性の成形用シートを、100〜220℃の熱プレスによって加熱し、発泡させて、成形体を得ることを特徴とする嵩高成形体の製造方法。


【公開番号】特開2013−100637(P2013−100637A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−12325(P2013−12325)
【出願日】平成25年1月25日(2013.1.25)
【分割の表示】特願2009−220724(P2009−220724)の分割
【原出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000241810)北越紀州製紙株式会社 (196)
【Fターム(参考)】