説明

発泡性の酒類の製造方法

【課題】 異物添加物を加味することなく、加熱処理せずに醗酵を抑え、適度な量の炭酸ガスを含有し、果汁又は果実を用いて醗酵を行う発泡性の酒類の製造方法を提供すること。
【解決手段】
果実又は果汁と、糖類と、水とを混合する混合工程と、該混合工程で得られた混合物に日本酒乾燥酵母を混合し醗酵させる醗酵工程と、果実の場合には醗酵混合物を固体と液体を分離する分離工程と、醗酵工程で得られる醗酵混合物に水分補給し、前記分離工程で分離した液体の醗酵混合物を加えて調整する成分調整工程と、該成分調整工程で得られたもろみから発生する炭酸ガス抜きを行う炭酸ガス抜き工程と、該炭酸ガス抜き工程で得られた濾液をびん詰めするびん詰め工程と、びん詰めの状態で冷凍殺菌を行う冷凍殺菌工程と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は果実又は果汁と日本酒乾燥酵母を使用し、加熱殺菌することなく冷凍殺菌を行うことで炭酸ガスの発生を抑制して効率的に製造する発泡性の酒類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に日本酒は醸造容器に水と米を蒸した「蒸し米」、および蒸し米に麹菌を混ぜた「麹米」を投入して醗酵させることで醸造される。その製造工程は、蒸し米の醗酵により生じたアルコ−ルと蒸し米の粕である酒粕を含んだ液体「もろみ」が生成され、該「もろみ」をろ過し、もろみから酒粕を除去し、日本酒を製造する。また、「もろみ」から酒粕を全く除去せずにもろみのままの状態とした日本酒は「もろみ酒」と称される。醸造された日本酒においては、蒸し米を醗酵させてアルコ−ルを生成する酵母菌が生きており、酵母菌の作用により醗酵が必要以上に進行してアルコ−ル度数が高くなってしまう。よって、従来は日本酒の製造工程においては、いわゆる「火入れ」処理、すなわち適度なアルコ−ル度数に醸造された日本酒を70℃以上の温度で10分以上加熱し醗酵作用を止めていた。
【0003】
しかし、醸造された日本酒には酵母菌が存在しているので加熱して死滅しているか或いは不活化性しているか、又は炭酸ガスが殆んど含まれていない状態である。この状態で上述のように「火入れ」を行うと、日本酒本来の風味が変化して、日本酒の旨みである加熱処理が施されていない「生」の旨みが無くなってしまう。このため、上記の従来の日本酒の製造方法では、需要者に日本酒本来の旨みである生のおいしさと醗酵性の炭酸ガスの風味を味わってもらうことができなかった。更に近年では、健康を重視し、女性でも愛飲できる炭酸ガスを含ませ、清涼感を持たせた新たな風味と健康感覚を持つ「生」の日本酒を得たいとの要望が多くなってきた。
【0004】
日本酒の醗酵方法に関する従来技術として、例えば、特許文献1では、多酸存在下で糖化、醗酵を行い、低アルコ−ル濃度の範囲で醗酵を止め、上槽して低アルコ−ル酒を製造する方法が提案されている。特許文献2では、発泡性の酒について、もろみをろ過した後、容器に密封して醗酵させ、内部のガス圧が一定の圧力のとき醗酵を停止して製造する方法が提案されている。特許文献3には、アルコ−ルと酵母菌体濃度を後醗酵が開始しやすい濃度に調整した清酒を均質な状態で販売容器に密栓・充填し、密栓後均質な温度下で後醗酵せしめ一定のガスを得たところで加熱殺菌して後醗酵を終了し、該直後に急冷することによって、酒質の劣化を防ぐとともに清酒の品質の安定を図るという発泡性を有する清酒の製造方法が記載されている。
【0005】
しかし、上記した従来の日本酒の製造方法では、炭酸ガスをほとんど含ませることができない。一方僅かに醗酵活性のあるもろみをびん詰めしたとしても、醗酵が進行しすぎて炭酸ガスが多量に発生する可能性があり、その場合には日本酒の味覚における刺激が強くなり過ぎ、更にビンが破裂する危険性がある。そのために冷所に置いて醗酵を抑えたり、栓に小さな穴を開けて炭酸ガス抜きを行う必要があり、製造工程においてガス抜き等のいろいろな工夫が必要になり、設備の増設や人件費等の負担が掛かり、時間的に製造工程が長くなってしまう。このため、現状の製造工程では、もろみにガスを吹き込んだり、炭酸水で割り水を行ったりして、もろみに炭酸ガスを含ませることで日本酒に清涼感を持たせる製造方法が主流となっている。
【0006】
しかしながら、炭酸ガスの吹き込みや炭酸水で割り水を行う製造方法は、もろみに異物添加物を加える製法であるため、泡の保持性は殆んどなく、酸味や甘味を抑えたものは香味等の全体のバランスが崩れやすくなってしまう。また、このような方法で製造した酒類の飲料は、開栓後、時間の経過とともに早く炭酸ガスが抜けてしまい、酸味や甘味が更に強く感じられてしまい、ソフト感や清涼感が失われ、商品イメ−ジの点で需要者に悪い印象を与えてしまう。
【0007】
例えば、特許文献4では、清酒のもろみを目の粗い網で濾して、酵母、米粒片を含む酒をびん詰めにして、打栓して醗酵を持続させ、所定のガス圧に達したときに火入れを行う方法を提供している。しかし、製造過程で適切なガス圧に調整する必要があり、該適切なガス圧以上になると刺激が強くなり、且つびんの破裂など危険性が伴う問題がある。
【0008】
特許文献5では、発泡性の酒について、発泡性であり且つ保持性のある泡を持たせることにより、多くの炭酸ガスを飲料中に保持させ、ソフト感や清涼感を適度な時間持続させて、しかも保持された炭酸ガスの矯味効果によって控えめの酸味や甘味であってもバランスよくまとまった香味や風味のあるアルコ−ル飲料を提供できるとしている。
【0009】
また清酒に果実又は果汁の風味を生かし、泡保持性のある清涼感を有するアルコ−ル飲料の製造について、長時間にわたりソフト感を保ち、泡保持性の清涼感を持続させることを目的とした飲料水の製造方法について、いろいろな製造手法が検討されている。
【0010】
例えば、特許文献6では、酸度の乏しい果実から調整した果汁にワイン酵母、清酒酵母、ビ−ル酵母のうち何れか一つを接種させて醗酵させ、該醸造工程で麹を組み込むことで麹の中に存在する麹の糖作用により酸度と糖度を高め、果実風味を持たせたアルコ−ル飲料の製造法が提案されている。
【0011】
特許文献7では、果実や果汁の香味や風味を含有する香味成分と起泡剤と泡保持剤および炭酸ガスを飲料水に保持させて、炭酸ガスの矯味効果によって控え目の酸味や甘味を実現した低アルコ−ル飲料が記載されている。
【0012】
しかしながら、果実又は果汁の風味を生かし、清涼感を有する発泡性のお酒を製造するには以下の問題点がある。
従来の酒類の製造技術は、加熱殺菌(いわゆる「火入れ」)によるので日本酒本来のさわやかな風味が損なわれる。一方、加熱殺菌を行わないとすると発泡性の炭酸ガス等を含ませる製造では過醗酵による品質安定性の低下が問題になる。
【0013】
また、酒類に果実又は果汁を加味して発泡性の酒類を製造する技術は、異物添加物による麹の糖化作用や起泡剤と泡保持剤を使用して炭酸ガス等を含有させるので、やはり過醗酵による品質安定性の低下が問題になる。特に、さわやか風味の条件を満たすためには、製造工程の短縮化と酸味や甘味と協調してソフト感を保持する必要があり、発泡性に求められる清涼感を保持でき、泡の保持期間を長く保つといった品質向上が問題になってくる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特公平3−11758号公報
【特許文献2】特公平7−79674号公報
【特許文献3】特開平9−140371号公報
【特許文献4】特開平4−40882号公報
【特許文献5】特開平11−299473号公報
【特許文献6】特開2001−29061号公報
【特許文献7】特開2001−103954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上述のかかる事情に鑑みてなされたものであり、酒の多様化に対する業界の要望と市場の需要に応え、異物添加物を加味することなく、加熱処理せずに醗酵を抑え、適度な量の炭酸ガスを含有し、果汁を用いて醗酵を行う発泡性の酒類の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するために、第一の発明に係る発泡性の酒類の製造方法は、以下の工程を備えることを特徴とする。
(a)果実又は果汁と糖類、水を混合する混合工程
(b)該混合工程で得られた混合物に日本酒乾燥酵母を混合して混合物を醗酵させる醗酵工程
(c)果実の場合には、醗酵混合物を固体と液体を分離する分離工程
(d)醗酵工程で得られた醗酵混合物に水分補給する成分調整工程
(e)成分調整工程で得られた醗酵混合物には炭酸ガスが含まれていることから、炭酸ガス抜きを行う炭酸ガス抜き工程
(f)該炭酸ガス抜き工程で得られた炭酸ガスを抜き、炭酸ガスを抜いた「もろみ」の濾液をびん詰めにするびん詰め工程
(g)びん詰めした「もろみ」を−20℃で複数回の冷凍殺菌を一週間で行う冷凍殺菌工程
上記の(a)〜(g)の各工程を実行することによって発泡性の酒類を得る。
【0017】
これにより、種々の果実や果汁の香味や風味をそのまま活かすことができ、酸味や甘味が適度に抑えられ、従来にないユニ−クな低アルコ−ルの発泡性の酒類を従来の日本酒製造設備で生産することができる。
【0018】
また、第二の発明に係る発泡性の酒類の製造方法は、以下の工程を備えることを特徴とする。
(a)水、蒸し米、麹米を混合する第一の混合工程
(b)混合工程で得られた混合物を醗酵させる醗酵工程
(c)醗酵工程での醗酵工程で得られた醗酵混合物に水分を補給し醗酵混合物を水分補給により調整する第一の成分調整工程
(d)果汁又は果実を分解し、果実や果汁の廃棄する固形物に分離し固体と液体を分離する分離工程
(e)分離工程から抽出された果実や果汁の液に糖類と酵母とを混合する第二の混合工程
(f)糖類、酵母、果汁又は果実が混合している果汁液を第一の成分調整工程で得られた醗酵混合物と前記果汁液とを混合する第二の成分調整工程
(g)醗酵混合物炭酸ガス抜きを行う炭酸ガス抜き工程
(h)炭酸ガス抜き工程で得られた濾液をびん詰めにするびん詰め工程
(i)びん詰めの状態でびん詰めした「もろみ」を−20℃で4日の冷凍殺菌と融解、更に3日の冷凍殺菌と融解の合計2回のヒ−トサイクルによる複数回の冷凍殺菌を行う冷凍殺菌工程
上記の(a)〜(i)の各工程を実行することによって発泡性の酒類を生成することができる。
【0019】
なお、果実又は果汁としてアロニアを原料とするとすることによって、ぶどうやりんご、梨、ハスカップ、メロン、スイカ等の原料に比較して、健康を重視したソフトな低アルコ−ルの発泡性の酒類を製造することができる。また、これによって、地場産業の地産地消も期待できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法によれば、異物添加物を加味することなく、また加熱処理をせずに炭酸ガスの発生を抑制して発泡性の酒類を製造するので、加熱処理していない日本酒の生のおいしさを実現することができる。また、適度な量の炭酸ガスを含有し、さらに健康を重視する果汁を用いて醗酵を行うことにより爽快な風味のお酒を提供することができる。
また、本発明によれば、新たに製造工程ラインを新設することなく、従来の日本酒製造工程ラインが流用でき、しかも簡単な設備により、短時間でさわやか風味の酒類を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施の形態による発泡性の酒類の製造方法の説明図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態による発泡性の酒類の製造方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1の実施の形態]
以下に図面を参照して詳細に具体的に説明する。本実施の形態に係わる発泡性の酒類の製造方法の実施の形態について具体的に説明する。
【0023】
(構成)
図1は、本発明の第1の実施の形態による発泡性の酒類の製造方法50の説明図である。図1において、本実施の形態による発泡性の酒類の製造方法50は、果実又は果汁bと糖類cと水aとを混合する混合工程1、混合工程1で得られた混合物に日本酒乾燥酵母dを混合して混合物を醗酵させ、醗酵混合物qを生成する醗酵工程2、果実又は果汁bが、果実の場合には醗酵混合物qを固体と液体に分離する分離工程3、該醗酵工程2で得られた醗酵混合物qに水分fを補給し、分離工程3で果実又は果汁bの廃棄する固形物eを分離した液体の醗酵混合物を調整する成分調整工程4、該成分調整工程4で得られた「もろみ」mの炭酸ガス抜きを行う炭酸ガス抜き工程5、該炭酸ガス抜き工程5で得られた「もろみ」mの濾液をびん詰めするびん詰め工程6、および、該びん詰めした「もろみ」mを−20℃で複数回の冷凍殺菌を行う冷凍殺菌工程7を有している。冷凍殺菌工程7の後、製品pとして出荷する。
【0024】
(作用)
混合工程1では、水aと果実又は果汁bと糖類cとを混合する。なお、本工程での混合の割合は、水42%、果実又は果汁42%、糖類(砂糖)16%程度にするのが好ましい。糖類の混合割合は醗酵速度や所望の糖度等に応じて適宜設定するものとする。なお、本実施形態において「%」とは「質量%」を意味する。
【0025】
糖類を混合することにより醗酵が促進され発泡性の酒類の生産効率が向上する。糖類としては、砂糖、ブドウ糖、果糖等が挙げられるが、特に砂糖が好ましい。従来は、醗酵のためにブドウ糖がよく用いられているが、醗酵によって品質が変わるという欠点がある。砂糖を用いることによって、より品質を安定させることができる。なお、糖類は必要に応じて二種類以上の混合を使用することもできる。
【0026】
醗酵工程2では、上記混合工程1で得られた混合物と日本酒乾燥酵母dとを混合して醗酵させる。ここで日本酒乾燥酵母dは予め人工的に製作された人工酵母であって、適宜用いることができ、使用量については必要に応じて適宜設定することができる。分離工程3では、果実又は果汁bとして果実を用いた場合には、固体と液体に分離して固形物eを除去する。該分離手段3としては公知の分離手段を適宜効率よく使用するものとする。成分調整工程4では、醗酵工程2で得られた醗酵混合物に水分fを補給し、分離工程3で分離した液体の醗酵混合物を調整する。上記醗酵工程2で得られた醗酵物のアルコ−ル濃度は高くても10度前後である。一方醗酵混合物に通常では水分fを補給して醗酵混合物の水分量を調節するのが一般的である。水の補給によってアルコ−ル濃度の確認を行い、目的とする風味がよりまろやかになるように調整する。炭酸ガス抜き工程5では成分調整工程4で得られた「もろみ」mの炭酸ガス抜きを行い、次に、びん詰め工程6により炭酸ガス抜き工程5で得られた「もろみ」mの濾液をびん詰めにする。
【0027】
冷凍殺菌工程7では、びん詰め工程6でびん詰めした「もろみ」mを−20℃で1回乃至n回の複数回の冷凍殺菌を行う。酵母菌が死滅する或いは不活化性の状態にする。冷凍温度は必要に応じて適宜調整することができるが、本発明では−20℃で一週間が適度である。または炭酸ガスが殆んど含まれていない状態にするために、酵母菌が死滅する或いは不活化性の状態するために2回乃至n回のヒートサイクル(−20℃と常温間の温度変化の繰り返し)によってトータル一週間の冷凍殺菌を行うようにしても良い。本実施の形態は、この回数に限定することなく、酵母菌が死滅する或いは不活化性の状態にする設定を行い、該冷凍殺菌終了後、製品pとして出荷する。
【0028】
(効果)
以上、本実施の形態の発泡性の酒類の製造方法によれば、下記の効果を得ることができる。
【0029】
まず、本実施の形態で説明した条件によって冷凍殺菌を行うことにより、酵母菌が適度に不活性状態になるため、「火入れ」や長時間醗酵での熟練技術や厳しい製造管理を要する工程等を削除でき、かつ、さわやか風味を出すことができる。特に、本実施の形態の冷凍殺菌手法を用いることで酒酵母を完全に死滅させる必要はなく、びん詰め後にアルコ−ル度数が無用に高まらない程度に、生きた酵母の死を減少させて過醗酵を防ぎ、品質の安定化を図り、更に従来の冷凍殺菌方法より7日間での短時間で殺菌を完了させることができる。
【0030】
また、本実施の形態は、果実又は果汁の風味を生かして、麹の糖化作用や起泡剤と泡保持剤を使用せずに炭酸ガス等を有するお酒を簡単に製造することができるので、品質の高い・安定した発泡性の酒類の製造が可能となる。さらに、果実又は果汁を用いることで、これまで日本酒等の酒類を健康上「悪」と考えていた消費者に対しても、お酒が健康によく美容にも効果があるということを伝えることができ、さらに本実施の形態の製造方法によるさわやか風味と相俟って販売拡大による経済的効果が期待できる。
【0031】
日本酒乾燥酵母を用いることで、乾燥酵母を復水して醗酵に使用することにより、品質の高い酵母が入手可能となり、安定して復水し、即醗酵可能となる。このことから、従来の工程と比較して大幅に製造工程の短縮化が図れ、安定した生産供給の確保が提供でき、更に品質向上を図ることができる。
【0032】
本実施の形態による製造方法を用いることで、簡単な設備で、且つ従来の設備を流用して製造することが可能となり、製造コストの削減が図られ、品質の高い、安定供給が可能となる。
【0033】
なお、果実や果汁として、アロニアを原料として用いることによって、ソフトな低アルコ−ルの発泡性の酒類を製造することができる。これにより、健康重視の酒類の製造のみならず、地場産業の育成・促進が可能となる。
【0034】
[第2の実施の形態]
(構成・作用)
図2は、本発明を適用した第2の実施の形態に係わる発泡性の酒類の製造方法50の説明図である。
【0035】
図2の第一の混合工程1Aでは、水aと蒸し米gと麹米hとを混合する。この第一の混合工程1Aで得られた混合物を醗酵工程2Aによって日本酒乾燥酵母dを用いて醗酵させて醗酵混合物rを生成する。次に、第一の成分調整工程4Aで、この醗酵混合物rに対して水分fを補給することにより成分調整を行って醗酵混合物sを生成する。
【0036】
なお、醗酵工程2Aで得られる醗酵混合物rのアルコ−ル濃度は高くても10度前後であり、第1の成分調整工程4Aで水分fを補給することによって最適な濃度7度に調整する。醗酵混合物に通常水分fを補給して醗酵混合物の水分量を調節するのは一般的な手法であり、水の補給によってアルコ−ル濃度の確認を行い、目的とする風味がまろやかになる
【0037】
一方、別のラインである分離工程3Aにより、果実又は果汁bとして果実を用いた場合には、固体と液体に分離して固形物eを除去する。次に、第2の混合工程1Bによって、分離工程3Aから抽出された果実又は果汁bの液体と糖類cと酵母jとを混合する。糖類を混合することにより醗酵が促進され発泡性の酒類の生産効率が向上する。糖類としては、砂糖、ブドウ糖、果糖等が挙げられ、特に砂糖が好ましく用いられる。また糖類は必要に応じて二種類以上の混合を使用することもできる。糖類の混合量は醗酵速度や所望の糖度等に応じて適宜設定する。
【0038】
次に、第2の成分調整工程4Bにおいて、第二の混合工程1Bから糖類cと酵母jと果汁又は果実とが混合している果汁液kと、第一の成分調整工程4Aからの醗酵混合物sとを混合し、さらに、水分fを補給して成分調整を行って「もろみ」mを製造する。この「もろみ」mを炭酸ガス抜きを行う炭酸ガス抜き工程5Aで炭酸ガス抜きを行い、該炭酸ガス抜きで得られた「もろみ」mの濾液をびん詰め工程6Aでびん詰めする。次に、冷凍殺菌工程7Aにて冷凍殺菌を行った後、製品pとして発泡性の酒類を出荷する。
【0039】
冷凍殺菌工程7Aでは、びん詰め工程6Aでびん詰めした「もろみ」mを−20℃で1回乃至複数回(n回)の冷凍殺菌を行い、酵母菌が死滅する或いは不活化性の状態にする。なお、冷凍温度は必要に応じて適宜調整することができるが、−20℃で一週間が適度な温度と期間である。又は炭酸ガスが殆んど含まれていない状態にし、酵母菌が死滅する或いは不活化性の状態するためにn回の冷凍殺菌を行う。本実施の形態は、この回数に限定することなく、酵母菌が死滅する或いは不活化性の状態にする設定を行い、−20℃の状態で4日冷凍し、次に融解し、次に3日冷凍し、次に融解を実施する冷凍殺菌、融解のヒ−トサイクルを繰り返す。
【0040】
(効果)
以上、本実施の形態による発泡性の酒類の製造方法によれば、第1の実施の形態と同様の効果を奏する。
【実施例1】
【0041】
本実施例は、最適アルコ−ル度数が7度というように成分調整し、醸造した発泡性の酒類と、アルコ−ル度数が15度の濁り酒と、pH4.9の炭酸水を冷凍し、冷凍された状態の発泡性の酒類を良好な状態で維持されるよう−20℃の温度の冷凍状態を保存し、冷凍を保持した経過期間(日数)6日、15日と生きている酵母の数、即ち殺菌可能性評価デ−タを検証したところ、下記の表1で示す検証結果が得られた。
【0042】
【表1】

【0043】
ここで、表1の数値は菌密度を表し、1cmあたり10個の菌が存在する場合は菌密度100とした数値である。すなわち、発泡性の酒類0日の欄「100」は、1cmあたり10個の酵母菌が存在することを意味し、同6日の欄「0.06」は、1cmあたり6×10個に酵母菌が減少していることを意味している。
【0044】
ここで、酵母菌が死滅する或いは不活化性の状態で酵母菌の菌密度が0.1以下(すなわち1cmあたり10個以下)であれば発泡性の酒類が密閉した容器に詰め込んだとしても、発泡性の酒類の醗酵が無用に進行することもなく、発泡酒の品質を安定することができる。
【0045】
以上の検証結果から、7日の冷凍状態を保持することで生きた酵母菌を十分に減少させることができる。
【0046】
上記の本発明の第1および第2の実施の形態の構成要素の冷凍殺菌工程7、冷凍殺菌工程7Aは上記の検証結果に基づいて冷凍の温度および時間を具体的に特定したものであり、発泡酒の酒類を冷凍して7日以上の期間にわたって冷凍状態を保持することで、生きた酵母菌を十分に減少させることができる。
【0047】
なお、冷凍状態を維持する期間の設定については、冷凍状態を長時間保持すればするほど酵母菌の殺菌効果が高まるので長時間設定するほどよいが、上記の検証から7日間で酵母菌が死滅していることが判明していることから、7日の設定で製品化し、短期間で出荷することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 混合工程
1A 第1の混合工程
2A 第2の混合工程
2,2A 醗酵工程
3,3A 分離工程
4 成分調整工程
4A 第1の成分調整工程
4B 第2の成分調整工程
5,5A 炭酸ガス抜き工程
6,6A びん詰め工程
7,7A 冷凍殺菌工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
果実又は果汁と、糖類と、水とを混合する混合工程と、
該混合工程で得られた混合物に日本酒乾燥酵母を混合し醗酵させる醗酵工程と、
果実の場合には醗酵混合物を固体と液体を分離する分離工程と、
醗酵工程で得られる醗酵混合物に水分補給し、前記分離工程で分離した液体の醗酵混合物を加えて調整する成分調整工程と、
該成分調整工程で得られたもろみから発生する炭酸ガス抜きを行う炭酸ガス抜き工程と、該炭酸ガス抜き工程で得られた濾液をびん詰めするびん詰め工程と、
該濾液をびん詰めの状態で冷凍殺菌を行う冷凍殺菌工程と、
を備えたことを特徴とする発泡性の酒類の製造方法。
【請求項2】
水と、蒸し米と、麹米とを混合する第一の混合工程と、
該混合工程で得られた混合物を醗酵させる醗酵工程と、
該醗酵工程での醗酵工程で得られた醗酵混合物に水分を補給し醗酵混合物を水分補給により調整する第一の成分調整工程と、
果汁又は果実を分解し、固体と液体を分離して果実又は果汁の固形物を除去して液体のみを抽出する分離工程と、
該分離工程で抽出された果実又は果汁の液体に糖類と酵母とを混合して果汁液を生成する第二の混合工程と、
前記第一の成分調整工程で得られた醗酵混合物と前記果汁液とを混合する第二の成分調整工程と、
該第二の成分調整工程で得られた醗酵混合物の炭酸ガス抜きを行う炭酸ガス抜き工程と、該炭酸ガス抜き工程で得られた濾液をびん詰めにするびん詰め工程と、
該濾液をびん詰めの状態で冷凍殺菌を行う冷凍殺菌工程と、
を備えたことを特徴とする発泡性の酒類の製造方法。
【請求項3】
前記冷凍殺菌工程において、酒類を加熱殺菌することなく、びん詰め状態で冷凍し、当該びん詰めの状態で7日間の冷凍殺菌を行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の発泡性の酒類の製造方法。
【請求項4】
前記冷凍殺菌工程において、酒類を加熱殺菌することなく、−20℃の状態で4日冷凍し、次に融解し、次に3日冷凍し、次に融解を実施する冷凍殺菌、融解のヒ−トサイクルを繰り返すことを特徴とする請求項3に記載の発泡性の酒類の製造方法。
【請求項5】
前記成分調整工程において、水分補給の加水をしてアルコ−ル度数を調整することを特徴とする請求項1に記載の発泡性の酒類の製造方法。
【請求項6】
前記第二の成分調整工程において、さらに水補給を行うことを特徴とする請求項2に記載の発泡性の酒類の製造方法。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載の発泡性の酒類の製造方法において、果汁又は果実としてアロニアを使用することを特徴とする発泡性の酒類の製造方法。

【図1】
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【図2】
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