説明

発泡性アルコール飲料の製造容器及びそれを用いた製造方法並びに発泡性アルコール飲料の提供用車両及びその提供方法

【課題】多種類の醸造を同時並行的に行うことのできる醸造容器とそれを用いた発泡性アルコール飲料の製造方法、及びその容器を用いた発泡性アルコール飲料の提供方法、提供用車両を提供する。
【解決手段】10〜30Lの容量の円筒形の金属製容器であって、上部に少なくとも圧力を0.13MPaに調整できる圧力調整弁4と、抽出口に連通して前記金属製容器内部に挿入され、底から1cm〜10cmの位置に開口した先端を有する管と、を有する発泡性アルコール飲料醸造用及び提供用容器1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性アルコール飲料の製造容器及びそれを用いた製造方法並びに発泡性アルコール飲料の提供用車両及びその提供方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ビール、発泡酒等の発泡性アルコール飲料の小規模醸造においては、数百リットル〜数十キロリットルの容器を用いて、煮沸、糖化、醸造、貯酒の段階を経てビールを製造していた。
しかしながら、この方法では少なくとも3種類のタンクが必要となり、それらを設置する場所が必要となるため、多種類の醸造を同時に行うには限界があった。近年、小規模醸造装置としていくつかの出願(特許文献1、特許文献2)がなされているが、容器の形状が複雑で温度制御装置が必要となるなど業務用に多種類のビールを製造し販売する目的には必ずしも適していなかった。そこで、より低コストかつ小スペースで醸造が可能な容器、製造方法が求められていた。
【0003】
また、発泡性アルコール飲料をジョッキ等に注ぐ際には炭酸ガス(二酸化炭素)を注入して圧力を高めて押し出すことが一般的に行われているが、その使用量の削減および炭酸ガスボンベの専有面積を減少させることが可能な容器、方法の開発が望まれていた。
【0004】
また、炭酸ガスは温暖化の原因となることから世界的に排出量の削減が求められている。
さらに、イベント会場等、ブルワリー以外の場所でも発泡性アルコール飲料を提供するための飲料提供車両や提供方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−173046号公報
【特許文献2】実用新案登録第3099828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、小スペースでも多種類の醸造を同時並行的に行うことのできる醸造容器とそれを用いた発泡性アルコール飲料の製造方法、及びその容器を用いた発泡性アルコール飲料の提供方法、提供用車両を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書によれば次の発明が提供される。
(1) 10〜30Lの容量の円筒形の金属製容器であって、上部に少なくとも圧力を0.13Mパスカル(Pa)に調整できる圧力調整弁と、抽出口に連通して前記金属製容器内部に挿入され、底から1cm〜10cmの位置に開口した先端を有する管とを有する発泡性アルコール飲料醸造用及び提供用容器。圧力を0.13MPaに調整できるのであれば、それ以外の圧力にも調整できる圧力調整弁であってもよい。また、抽出口に連通して前記金属製容器内部に挿入され、底から1cm〜10cmの位置に開口した先端を有する管とは、通常金属製又はテフロン(登録商標)製等の管で、発泡性アルコール飲料を注ぐ際に液体が出て行く管である。先を底から1cm以上の高さにしたのは、発酵終了後の酵母が沈殿して凝集した位置より上側に管の先端を置くことにより、酵母の巻き込みを防ぎ、清澄な飲料を提供するためである。管の先端の高さは容器の底から1cm以上上側が好ましいが、より好ましくは2cm以上、さらに好ましくは3cm以上、最も好ましくは3.5cm以上である。
【0008】
(2) (1)に記載の醸造用及び提供用容器に、発泡性アルコール飲料の原料と酵母を投入し、18℃〜26℃の温度で4日間〜14日間発酵させ、その後、4℃〜10℃で14日間〜90日間貯酒熟成することを特徴とする発泡性アルコール飲料の製造方法。ここで、発泡性アルコール飲料の原料とは典型的には麦芽で糖化した麦、コーンスターチ、米等を言うが、これらに限られず、果物等でもよく、要は発泡性アルコール飲料を製造可能な原料であればよい。
【0009】
(3) (1)に記載の醸造用及び提供用容器中で発酵、貯酒を行った後、そのまま前記抽出口に連結したコックにより発泡性アルコール飲料を注ぎ、顧客に提供する方法。本発明のこの方法により、製造と販売が同じ容器を使用して可能になる。この場合、「抽出口に連結したコック」とは抽出口に直接コックを取りつけてもよいし、抽出口にチューブをつなぎ、それをコックに連結してもよく、これら両者を含む概念である。この際、別途設けた炭酸ガス注入口から炭酸ガスを注入して押し出すことも可能である。
【0010】
(4) 冷蔵コンテナ付車両に(1)の醸造用及び提供用容器を積載し、前記容器の抽出口に連結した管と連結された発泡性アルコール飲料のコックを冷蔵コンテナの外部側面及び/又は後面に有する発泡性アルコール飲料提供車両。この発明によれば、発泡性アルコール飲料の提供用車両が得られる。この場合、発泡性アルコール飲料を提供するコックを冷蔵コンテナの側面及び/又は後面に設け、コックと前記醸造用及び提供用容器の抽出口とをチューブで直接つなぐことにより車両の側面及び又は後面から発泡性アルコール飲料を提供することができる。必要に応じて車両の両方の側面及び/又は後面にコックを取り付けることでより多種類の飲料を提供することが可能になる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の醸造用及び提供用容器を使用することにより、多品種の発泡性アルコール飲料を効率よく製造し、提供することができる。また、この容器を積載した車両により場所を選ばずに発泡性アルコール飲料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は醸造用及び提供用容器の側面を示した説明図である。(実施例1、6)
【図2】図2は醸造用及び提供用容器の上面を示した説明図である。(実施例1、6)
【図3】図3は発泡性アルコール飲料の提供用車両を示した説明図である。(実施例7)
【図4】図4は発泡性アルコール飲料の提供用車両に設置する液体受けを示した説明図である。(実施例7)
【発明を実施するための形態】
【0013】
圧力調整に用いる圧力調整弁は、バネ式弁、電磁弁等を用いることができるがこれらに限られない。バネ式弁の場合はバネにより、排気口に栓が押し付けられており、圧力が所定の圧力を超えるとバネが縮み排気できるようになっている。圧力調整弁は容器の上部に設置するが、より好ましくは上蓋等可能な限り高い位置に設置する。
【0014】
圧力調整弁が開放される圧力は0.1〜0.15MPaの範囲で調整されるが、最も好ましくは0.13MPaである。通常の発酵条件である0.12MPaよりも0.01MPa高く設定することにより、容器内を高圧に保っているため、別途炭酸ガスを注入しなくてもコックを開けるだけで内部の飲料をジョッキ等に注ぐことができる。このことは、醸造工程で外部に放出される炭酸ガスの量を少なくできるとともに、発泡性アルコール飲料を注ぐ際に注入する炭酸ガスの使用量を減らすことにつながり、地球温暖化を防止することに役立つ。従って環境に優しい発泡性アルコール飲料の製造を可能にする。
【0015】
また本発明の容器によれば、発酵から貯酒、顧客への提供までを1つの容器で行えるため、発酵以降の全工程が同一容器内で連続的に進むという効果が得られる。また、移し替えの工程が不要となり、雑菌の混入の問題を最小化でき、品質的にも安定する。これにより設備投資を大幅に軽減できる。また、業務フローを単純化できるため熟練の必要がなく、労働生産性も大幅に向上できる。
【0016】
酵母としては、上面発酵酵母で、発酵終了後凝集しやすい菌株を使用することが好ましい。発酵終了後に酵母が底に凝集することで、発泡性アルコール飲料を注ぐ際に酵母がジョッキ等に混入しにくくなるからである。凝集しやすい酵母としては、例えば、乾燥酵母Safale S-04 (Fermentis社製。Saccharomyces cerevisiaeの一種)等が好適に用いられるがこれに限られない。要するに発酵後凝集して、飲料を注ぐ際に酵母の混入が少ない菌株であれば使用できる。
【0017】
発泡性アルコール飲料の醸造方法は当業者に周知のビール、発泡酒、雑酒等の製造方法で製造することができる。すなわち、でんぷんをアルファ化させるために原料を煮沸した後適温(例えば60〜70℃)まで冷却させ、破砕した麦芽を添加して糖化する。これにより糖化した原料をろ過した後発酵させ、発酵後貯酒することで熟成した発泡性アルコール飲料が製造できる。あるいは、糖化済み麦汁を用いることにより、発酵工程から製造を開始することも可能である。
【0018】
貯酒が完了した発泡性アルコール飲料を瓶詰めまたは缶詰めして出荷するのが通常のビールや発泡酒、第三のビールの製造工程である。
本発明の容器や製造方法によれば、瓶詰め、缶詰めによる出荷も可能ではあるが、貯酒した後そのままコックにつないでジョッキ等に注ぎ、客に提供できる点に特徴がある。
【0019】
また、本発明に係る発泡性アルコール飲料提供車両では、冷蔵コンテナ付の車両に本発明の容器を積載して、冷蔵コンテナの側面あるいは後面に設けたコックから発泡性アルコール飲料を提供することができる。
【実施例1】
【0020】
容器の作成方法
容器については、市販の周囲が二重層になっている金属製の円筒形容器で、直径:長さの比が、1:2〜1:3程度のものを改造して用いた(図1)。この容器の蓋の部分の圧力調整弁4として、圧力が0.13MPaになったときに開放されるようにした圧力調整弁を取りつけ、液体を出す管(サイホンチューブ7)の先端部分を酵母が発酵後凝集した澱よりも上側になるように切断して作成した。先端部が酵母の澱よりも上側になり、抽出時に酵母を巻き込まないように、管(サイホンチューブ7)の先端部分を底から3.5cm程度上になるように切断した。この切断位置は、容器の大きさ、酵母の種類や量に応じて適宜変更できる。発泡性アルコール飲料を提供する際に、酵母の混入を抑制できる高さにすればよい。
【実施例2】
【0021】
圧力調整弁の製造
バネについては市販のバネのうち、計算上、0.13MPaでガスを開放できるバネを見出しそれを用いて圧力調整弁4を作成した。
【実施例3】
【0022】
麦芽から麦汁の製造
鍋に麦芽量の2〜3倍容量の水を65℃〜68℃に加熱し、火を止めてから麦芽を入れ、均等になるようにかき混ぜる。65℃〜68℃に1時間保温し、時々かき混ぜることにより糖化させる。ヨード澱粉反応で澱粉が完全に糖化されたことを確認する。澱粉が残っている場合は、完全に分解されるまで糖化時間を延長する。糖化が完了したら78℃まで加熱し、火を止めて10分間置く。
麦芽を糖化した液体は、ストレーナーまたは粗めの布でこして、残りの残渣にも湯をかけて糖化液を回収し、最終的に麦芽1kgにつき、麦汁7.0〜8.0Lになるようにする。
【実施例4】
【0023】
発酵原料の調製
麦汁としては、実施例3で製造した糖化麦汁か、市販のモルトエキストラクトを用いた。モルトエキストラクトは製造元の説明書に従って調製した。
酵母は、乾燥酵母Safale S-04 (Fermentis社製)を用いた。酵母はグルコース溶液中で1〜2時間30℃で培養してから発酵に用いた。
ホップは必要に応じて、ビタリング用とアロマ用を添加する。通常、ビタリング用は発酵前、アロマ用は発酵後に添加することが多いがアロマ用ホップを発酵当初から添加してもよい。
【実施例5】
【0024】
発酵・貯酒条件
発酵は18℃〜26℃で、4日間〜14日間行った。発酵終了後、4℃〜10℃で14日間〜90日間貯酒することにより熟成させた。
【実施例6】
【0025】
熟成後、容器の注出口(コーンボディOUT、図1の6)を(チューブを介して)コックに連結し、内容物である発泡性アルコール飲料をジョッキ等に注いで顧客に提供した。この際、必要により炭酸ガスを圧入してその圧力で発泡性アルコール飲料を押し出すことができる。しかし、本発明によれば、通常よりも高圧で発酵、熟成を行うため、内部が通常よりも高圧になっており、その内圧のみにより、炭酸ガスを圧入しなくても発泡性アルコール飲料をジョッキ等に注ぐことができた。驚くべきことに、炭酸ガスを全く圧入せずに容器中の発泡性アルコール飲料全量について注出することも可能であった。
【実施例7】
【0026】
提供車両
通常の冷蔵コンテナ車を改造して、ビール等発泡性アルコール飲料を車両のコンテナの側面に設けたコック用孔12に挿入したコック(タップ)9から直接注ぐことができるようにした。コンテナ車の冷蔵コンテナにコック(タップ)9を挿入できるよう、コック9の直径に適合するコック用孔12を開けた。走行中等飲料を注がないときはこのコック用孔12は適当な蓋(ゴム製のふた等)により塞いでおく。飲料を提供する場所に到着したら、蓋を外し、コック9の元の部分を挿入した後、冷蔵庫内でチューブの一方をコック9の元に連結し、他方を醸造用容器の注出口(コーンボディOUT6)に連結する。必要に応じて、炭酸ガス注入口(コーンボディIN2)から炭酸ガスを送り込んで加圧して飲料を押し出すことも可能である。
【0027】
この際、飲料の液体が道路、地面等に直接落ちないように、受け皿11をコックの下側に付けることができる。すなわち、受け皿を含む長方形の枠10を作製しておき、コック9を挿入することにより、枠10をコンテナの側面に固定することができる。これにより、発泡性アルコール飲料を注ぐ際に泡や液体があふれても地面等に飲料が直接落ちるのを防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
新規醸造用及び提供用容器を用いることで、高品質な発泡性アルコール飲料が製造でき、提供できる。また、この容器を積載した冷蔵コンテナの側面及び/又は後面から発泡性アルコール飲料を提供することができる車両により、より広範な地域での飲料の提供が可能となる。
【符号の説明】
【0029】
1 容器本体
2 コーンボディIN
3 カバーハンドル
4 圧力調整弁
5 カバー
6 コーンボディOUT
7 サイホンチューブ
8 冷蔵コンテナ
9 コック(タップ)
10 枠
11 受け皿
12 コック用孔
13 側壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10〜30Lの容量の円筒形の金属製容器であって、上部に少なくとも圧力を0.13MPaに調整できる圧力調整弁と、抽出口に連通して前記金属製容器内部に挿入され、底から1cm〜10cmの位置に開口した先端を有する管と、を有する発泡性アルコール飲料醸造用及び提供用容器。
【請求項2】
請求項1に記載の醸造用及び提供用容器に、発泡性アルコール飲料の原料と酵母を投入し、18℃〜26℃の温度で4日間〜14日間発酵させ、その後、4℃〜10℃で14日間〜90日間貯酒熟成することを特徴とする発泡性アルコール飲料の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の醸造用及び提供用容器中で発酵、貯酒を行った後、そのまま前記抽出口に連結したコックにより発泡性アルコール飲料を注ぎ、顧客に提供する方法。
【請求項4】
冷蔵コンテナ付車両に請求項1の醸造用及び提供用容器を積載し、その抽出口に連結した管と連結された発泡性アルコール飲料のコックを冷蔵コンテナの外部側面及び/又は後面に有する発泡性アルコール飲料提供車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−59300(P2013−59300A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201236(P2011−201236)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(511224885)シービーシー株式会社 (1)