説明

発泡性ポリスチレン系樹脂粒子とその製造方法、ポリスチレン系樹脂予備発泡粒子及びポリスチレン系樹脂発泡成形体

【課題】シード重合法において、外観や機械強度に優れた発泡成形体を製造可能な発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法の提供。
【解決手段】ポリスチレン系樹脂種粒子が懸濁された水性媒体中に、種粒子100質量部に対し21質量部以上30質量部未満の範囲のスチレン系単量体を添加・吸収させる第1工程と、次いで、重合開始剤と単量体とを水性媒体中に添加し、単量体の重合反応を開始させる第2工程と、重合反応における単量体の重合転化率が75〜95%となった時点で、残りの単量体を連続的又は断続的に供給し、重合させる第3工程とを含み、前記第1工程及び第2工程で添加する単量体は、式(M1+M2)÷(QP+M1+M2)×100(式中、M1は第1工程での単量体添加量、M2は第2工程での単量体添加量、QPは種粒子の質量)で算出される百分率が26%以上35%未満の範囲となるように添加する発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝材、搬送容器、建材用断熱材などに使用されるポリスチレン系樹脂発泡成形体を製造するために用いる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法に関し、更に詳しくは、水性媒体中でポリスチレン系樹脂種粒子とスチレン系単量体とを重合開始剤の存在下で接触させ、前記種粒子より大きなポリスチレン系樹脂粒子を形成するとともに、該ポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させて発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得る、シード重合法において短時間で製造でき、製造時に微粉末の生成を抑制でき、また外観や機械強度に優れた発泡成形体を製造可能な発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法の一つとして、スチレン系単量体を水性媒体中で重合開始剤の存在下で懸濁重合させてポリスチレン系樹脂粒子を得ると共に、該ポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させて発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得る、いわゆる懸濁重合法が知られている。しかし、この懸濁重合法で得られるポリスチレン系樹脂粒子は、粒度分布幅が広いため、用途に応じて篩分級し使い分けていた。
さらに、目的とする粒度のポリスチレン系樹脂粒子を高収率で得る重合方法として、懸濁重合によって得られたポリスチレン系樹脂粒子を予め篩い分けによって所望する粒子径の粒子のみを取り出し、これを種粒子(シード粒子)とし、この種粒子を水性媒体中に懸濁させ、スチレン系単量体を連続的もしくは断続的に添加し、重合開始剤存在下で重合させてポリスチレン系樹脂粒子を得ると共に、該ポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させて発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得る、いわゆるシード重合法が知られている。この方法によれば、懸濁せしめた粒子の均一度に応じ、所望する狭い粒度分布を有する重合体粒子を製造できる。
【0003】
しかしながら、前述したシード重合法は、重合時に粒子が相互に合着したり、微粉末が大量に発生したりするため、製造効率が低下するという問題があった。更に、脱水時や乾燥後に、合着粒子や微粉末を分離するための篩工程を必要としたり、合着粒子や微粉末が製品に混入して予備発泡・成形時に不具合を起こしたり、品質に影響を及ぼしたりと、多々問題を抱えていた。この予備発泡・成形時の不具合としては、発生した微粉末が正常な粒子に混入し、樹脂粒子を輸送する際に管内壁に付着し輸送管を詰まらせるという問題を生じたり、粒子に発泡剤を含浸させて得られる発泡性重合体粒子の場合、発泡成形金型の蒸気孔を詰まらせたりする原因となる。更に型内発泡成形して得られる発泡成形体の外観を損ねる等の弊害をもたらす事が挙げられる。
【0004】
かかる問題を解消するための技術として、特許文献1(特開平7−188449号公報)が提案された。特許文献1には、ポリスチレン系樹脂種粒子を水性媒体中に懸濁させ、この水性懸濁液にスチレン系単量体を添加し、重合開始剤の存在下で懸濁重合を行うと共に、発泡剤を含浸させて発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を製造する方法において、ポリスチレン系樹脂種粒子に対して3〜20質量%のスチレン系単量体を水性懸濁液として添加し種粒子に吸収させ、次いで後で加えるスチレン系単量体を含めた該単量体の重合に要する重合開始剤の実質的全量を添加し種粒子に吸収させると共に、前記スチレン系重合体と加えたスチレン系単量体総量の合計に対して加えたスチレン系単量体の割合が25〜35質量%の範囲となるようにして反応を開始させ、引き続いて残余のスチレン系単量体を連続的又は断続的に供給し、重合させる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法が開示されている。
この特許文献1に開示された方法によれば、重合体粒子の合着が防止されると共に、微粉末重合体の発生が実用上全く支障ない程に抑制され、粒度がよく揃った発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を高収率で得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−188449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された方法は、製造に時間がかかるため、製造コストの低減や生産効率の向上を図る上から、製造時間の短縮化が求められていた。
また、前記方法で得られた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、該樹脂粒子を予備発泡し、さらに得られた予備発泡粒子を型内発泡成形してポリスチレン系樹脂発泡成形体を製造した際、得られた発泡成形体表面の発泡粒子には、気泡の粗密が見られ、また発泡粒子同士の界面に凹凸が生じて発泡成形体表面の外観が悪くなる問題があった。
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、シード重合法において短時間で製造でき、製造時に微粉末の生成を抑制でき、また外観や機械強度に優れた発泡成形体を製造可能な発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明は、水性媒体中でポリスチレン系樹脂種粒子とスチレン系単量体とを重合開始剤の存在下で接触させ、前記種粒子より大きなポリスチレン系樹脂粒子を形成するとともに、該ポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させて発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得る製造方法において、
ポリスチレン系樹脂種粒子が懸濁された水性媒体中に、前記種粒子100質量部に対し21質量部以上30質量部未満の範囲のスチレン系単量体を添加・吸収させる第1工程と、
次いで、重合開始剤とスチレン系単量体とを前記水性媒体中に添加し、スチレン系単量体の重合反応を開始させる第2工程と、
前記重合反応におけるスチレン系単量体の重合転化率が75〜95%となった時点で、残りのスチレン系単量体を連続的又は断続的に供給し、重合させる第3工程とを含み、
前記第1工程及び第2工程で添加するスチレン系単量体は、式(1):
(M1+M2)÷(QP+M1+M2)×100 ・・・(1)
(式中、M1は第1工程でのスチレン系単量体添加量、M2は第2工程でのスチレン系単量体添加量、QPはポリスチレン系樹脂種粒子の質量をそれぞれ表す)
で算出される百分率が26%以上35%未満の範囲となるように添加することを特徴とする発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法を提供する。
【0009】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法において、前記第1工程で添加するスチレン系単量体と前記第2工程で添加するスチレン系単量体の一方又は両方は、水性懸濁液の状態で添加することが好ましい。
【0010】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法において、前記第3工程で形成された前記ポリスチレン系樹脂粒子の質量(TP)に対する前記ポリスチレン系樹脂種粒子の質量(QP)の比率(QP/TP)が10〜65%の範囲であることが好ましい。
【0011】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法において、前記第3工程は、前記水性媒体を昇温させながらスチレン系単量体の重合反応を行うことが好ましい。
【0012】
また本発明は、前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法により得られた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を提供する。
【0013】
また本発明は、前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を加熱し発泡させて得られたポリスチレン系樹脂予備発泡粒子を提供する。
【0014】
また本発明は、前記ポリスチレン系樹脂予備発泡粒子を成形型のキャビティ内に充填して型内発泡成形して得られたポリスチレン系樹脂発泡成形体を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法は、ポリスチレン系樹脂種粒子が懸濁された水性媒体中に、前記種粒子100質量部に対し21質量部以上30質量部未満の範囲のスチレン系単量体を添加・吸収させる第1工程と、次いで、重合開始剤とスチレン系単量体とを前記水性媒体中に添加し、スチレン系単量体の重合反応を開始させる第2工程と、前記重合反応におけるスチレン系単量体の重合転化率が75〜95%となった時点で、残りのスチレン系単量体を連続的又は断続的に供給し、重合させる第3工程とを含み、前記第1工程及び第2工程で添加するスチレン系単量体を、式(1):
(M1+M2)÷(QP+M1+M2)×100 ・・・(1)
(式中、M1は第1工程でのスチレン系単量体添加量、M2は第2工程でのスチレン系単量体添加量、QPはポリスチレン系樹脂種粒子の質量をそれぞれ表す)で算出される百分率が26%以上35%未満の範囲となるように添加する構成としたことで、従来技術と比較して短時間で高品質の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を製造できる。
また、本発明によれば、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子製造時に微粉末の生成を抑制できる。
また、本発明によれば、ポリスチレン系樹脂発泡成形体を製造した際、得られた発泡成形体表面の発泡粒子は、気泡の粗密が少なくなり、また発泡粒子同士の界面に凹凸が少なくなり、発泡成形体表面の平滑性が向上し外観が向上する。さらに、得られるポリスチレン系樹脂発泡成形体は、発泡粒子の気泡が均一となって、曲げ強度や圧縮強度などの機械強度に優れたポリスチレン系樹脂発泡成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法は、水性媒体中でポリスチレン系樹脂種粒子とスチレン系単量体とを重合開始剤の存在下で接触させ、前記種粒子より大きなポリスチレン系樹脂粒子を形成するとともに、該ポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させて発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得る、シード重合法による発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法において、
(a)ポリスチレン系樹脂種粒子が懸濁された水性媒体中に、前記種粒子100質量部に対し21質量部以上30質量部未満の範囲のスチレン系単量体を添加・吸収させる第1工程と、
(b)次いで、重合開始剤とスチレン系単量体とを前記水性媒体中に添加し、スチレン系単量体の重合反応を開始させる第2工程と、
(c)前記重合反応におけるスチレン系単量体の重合転化率が75〜95%となった時点で、残りのスチレン系単量体を連続的又は断続的に供給し、重合させる第3工程とを備えており、且つ前記第1工程及び第2工程で添加するスチレン系単量体は、式(1):
(M1+M2)÷(QP+M1+M2)×100 ・・・(1)
(式中、M1は第1工程でのスチレン系単量体添加量、M2は第2工程でのスチレン系単量体添加量、QPはポリスチレン系樹脂種粒子の質量をそれぞれ表す)
で算出される百分率が26%以上35%未満の範囲となるように添加することを特徴とする。
【0017】
(第1工程)
本発明において用いるポリスチレン系樹脂種粒子(以下、種粒子と記す。)としては、スチレンの単独重合体、50質量%以上、好ましくは80質量%以上のスチレン成分と他の重合可能な単量体との共重合体等が用いられる。前記共重合可能な単量体としては、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、アクリルまたはメタクリル酸と1〜8個の炭素数を有するアルコールとのエステル、無水マレイン酸、N−ビニルカルバゾール等が挙げられる。
【0018】
シード重合法において、種粒子として用いるポリスチレン系樹脂粒子の粒子径が、ある狭い範囲内にあれば、得られる発泡性スチレン系重合体粒子径も良く揃ったものとなる。すなわち、予め粒径の揃った種粒子を用いてシード重合を行うことにより、用途に応じた所望とする粒径の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を、例えば0.3〜0.5mm、0.5〜0.7mm、0.7〜1.2mm、1.2〜1.5mm、1.5〜2.5mmのように狭い範囲に区分して、しかも各区分毎にほぼ100%の収率で得ることができる。そこで、前記の種粒子となるポリスチレン系樹脂粒子としては、懸濁重合法によって得られたポリスチレン系樹脂粒子を一旦ふるい分級し、粒径が平均粒径の±20%の範囲になるように調整した樹脂粒子が使用される。塊状重合法により得る場合には、所望の粒径にペレタイズしたものを使用する。さらに、使用済みのポリスチレン系樹脂発泡成形体を再生処理して得られたリサイクル原料を溶融押出法、すなわち、押出機内にリサイクル原料を投入し溶融混練し、押出機先端に取り付けた多数の小孔が穿設されたダイから水中に押し出し、その直後にカットする方法によって得られた樹脂粒子を使用することもできる。このリサイクル原料としては、使用済みのポリスチレン系樹脂発泡成形体、例えば、魚箱、家電緩衝材、食品包装用トレーなどを回収し、リモネン溶解方式や加熱減容方式によって再生したリサイクル原料などが挙げられる。
【0019】
前記種粒子の使用量(QP)は、重合終了時のポリスチレン系樹脂粒子全量(TP)に対して、10〜65質量%、好ましくは15〜60質量%、さらに好ましくは20〜50質量%である。種粒子の使用量が10質量%未満では、スチレン系単量体を供給する際に、形成されるポリスチレン系樹脂粒子の重合転化率を適正範囲に制御することが困難となり、得られるポリスチレン系樹脂粒子が高分子量化したり、微粉末重合体を多量に発生させて製造効率を低下させる等工業的に不利となる。逆に65質量%を越えると、優れた発泡成形性が得難くなる。また種粒子の質量平均分子量は通常200000〜350000、好ましくは220000〜300000の範囲である。
【0020】
本発明において用いるスチレン系単量体としては、スチレンをはじめとして、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン等のスチレン誘導体を単独もしくは混合して用いることができる。またジビニルベンゼン、アルキレングリコールジメタクリレート等の2官能性単量体を併用してもよい。更にアクリルまたはメタクリル酸と1〜8個の炭素数を有するアルコールとのエステル、アクリロニトリル、ジメチルフマレート等のスチレンと共重合可能な各種単量体を併用することもできる。本発明において特に好ましいスチレン系単量体は、スチレンである。
【0021】
本発明方法の第1工程において、種粒子及び添加するスチレン系単量体の小滴を分散させるために、水性媒体に懸濁剤を添加しておくことが好ましい。この懸濁剤としては、例えばポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子や、第三リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム等の難水溶性無機化合物等が挙げられる。なお、難水溶性無機化合物を用いる場合にはアニオン界面活性剤を併用するのが好ましい。
前記アニオン界面活性剤としては、例えば脂肪酸石鹸、N−アシルアミノ酸またはその塩、アルキルエーテルカルボン酸塩等のカルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、アルキルスルホ酢酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩等のスルホン酸塩;高級アルコール硫酸エステル塩、第二級高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩等の硫酸エステル塩;アルキルエーテルリン酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩等のリン酸エステル塩などが挙げられる。
【0022】
本発明方法では、オートクレーブ装置などの適当な反応容器内に水性媒体と種粒子を入れ、該種粒子を懸濁させた状態で、該水性媒体中にスチレン系単量体を供給する。本発明方法の第1工程では、種粒子100質量部に対し21質量部以上30質量部未満の範囲のスチレン系単量体を添加し、種粒子に吸収させる。この第1工程におけるスチレン系単量体添加量(M1)が種粒子100質量部に対し21質量部未満であると、この第1工程以後に添加するべきスチレン系単量体の量が多くなって、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の完成までの時間が長くなってしまう。また得られた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を用いて製造した発泡成形体は、外観や機械強度が悪くなる恐れがある。一方、添加量が30質量部以上であると、微粉末重合体の生成量が増加し、また予備発泡して得られる予備発泡粒子の気泡径のバラツキが増加するおそれがある。
【0023】
この第1工程において、水性媒体の温度は特に限定されないが、この第1工程に引き続いて第2工程を行ってスチレン系単量体の重合反応をスムーズに開始させるために、水性媒体の温度は50〜100℃の範囲、好ましくは60〜90℃の範囲に調整しておくことが好ましい。なお、前記水性媒体の温度は、第1工程を通して一定としてもよいし、第2工程の開始時点で前記温度に達するように徐々に昇温させてもよい。
【0024】
この第1工程において、スチレン系単量体を水性媒体中に直接添加すると、種粒子の表面が溶解されて種粒子同士が結合しやすくなることから、最初に加えるスチレン系単量体は、水に比較的少量のピロリン酸マグネシウム等の難溶性無機化合物粉末(無機系懸濁安定剤)とドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ等のアニオン界面活性剤とを加えた水性媒体中に懸濁状態に分散させて水性懸濁液として添加することが好ましい。スチレン系単量体を水性懸濁液として添加することにより、スチレン系重合体粒子は、表面がスチレン系単量体の微粒子油滴で濡れ、スチレン系単量体が種粒子中に均等に吸収されて行くと共に、懸濁安定剤が種粒子表面に吸着して懸濁状態が安定化する。
【0025】
(第2工程)
前記第1工程に引き続いて、重合開始剤とスチレン系単量体とを前記水性媒体中に添加し、スチレン系単量体の重合反応を開始させる第2工程を行う。
本発明において用いる重合開始剤としては、スチレンの懸濁重合において一般に使用されるラジカル発生型重合開始剤を用いることができ、例えばベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、2、2−t−ブチルパーオキシブタン、t−ブチルパーオキシ3、3、5トリメチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサハイドロテレフタレート等の有機過酸化物やアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物が挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で又は2種以上併用して用いることができるが、通常は分子量を調整し、残存単量体を減少させるために、10時間の半減期を得るための分解温度が50〜80℃の範囲にある重合開始剤と、分解温度が80〜120℃の範囲にある異なる重合開始剤とが併用される。前記の重合開始剤は、スチレン系単量体を吸収した種粒子及び該重合反応がある程度進行したポリスチレン系樹脂粒子粒子(以下、これらを重合体粒子と記す。)に均一に吸収させることが必要であることから、液状物として添加することが好ましい。重合開始剤を直接水性懸濁液中に添加すると、重合体粒子に均一に吸収されにくくなるので、重合開始剤は水性媒体に懸濁又は乳化させた状態で添加するか、或いはスチレン系単量体に溶解し、無機系懸濁安定剤とアニオン界面活性剤とを加え水性懸濁液として添加することが望ましい。
【0026】
本発明のシード重合では、重合体粒子の径が大きくなると重合開始剤の吸収効率及び内部拡散が小さくなり、分子量が高くなる傾向を示し、また重合終了後のポリスチレン系樹脂粒子に対して種粒子の使用量が少ないと、スチレン系単量体供給時の重合率の制御が難しくなり反応時間も延長し、分子量調節が困難となる。得られるポリスチレン系樹脂粒子の質量平均分子量を、普通の発泡成形に適合する範囲に調整するには、重合開始剤を効率よく働かせることが重要であり、無駄な分解を防ぎ重合工程全域でラジカル発生するような重合開始剤の分配、重合温度プログラム、単量体供給速度、重合時の重合転化率の調整等の制御が必要である。
【0027】
重合開始剤の添加方法と重合温度プログラム、単量体供給速度は相互に関係しており、これらのバランスがとれなければ重合転化率が低下し過ぎて反応に要する時間が延長したり、微粉末重合体が多量に発生したり、重合開始剤の効率を低下させたりする。スチレン系単量体の重合に要する重合開始剤の全量を、この第2工程で添加する場合には、重合開始剤の効率を高めるために、スチレン系単量体を比較的低い温度から供給し始め、重合開始剤のラジカルが適度に発生するように温度勾配をつけて加熱しながら連続的又は断続的に供給することが望ましい。スチレン系単量体の供給が終了した時点では、比較的温度が高くなっており、残存する重合開始剤は適度に消費されており、重合体粒子表層の分子量を適度に調節することもできる。
【0028】
シード重合法において、重合開始剤をいかに効率よく重合体粒子に吸収させるかということが微粉末重合体粒子発生の抑制に関係している。仮に重合開始剤が全量、重合体粒子に吸収されておれば、供給されるスチレン系単量体が水性媒体中で重合することなくそのまま重合体粒子に吸収され、その結果微粉末重合体が発生しない。すなわちスチレン系単量体を、水性懸濁液中で油滴状に分散した状態で重合が進行しないようして、重合体粒子中に効果的に吸収させることによって、微粉末重合体の生成が防止されることとなる。重合開始剤を重合体粒子中に、できるだけ速やかに、効率的に、しかも均一に吸収させるためには、重合開始剤を予めスチレン系単量体に溶解し、しかも水性懸濁液として添加することが有効である。
【0029】
重合開始剤を重合体粒子の表層に限らず、できるだけ内部にも拡散させることが、反応上或いは品質上重要である。重合開始剤を重合体粒子の内部にまで拡散して含有させることにより、粒子表層部と粒子内部とでほぼ均等な反応が行われ、重合体粒子の質量平均分子量とその分子量分布の均一性が得られる。重合開始剤を重合体粒子の内部まで拡散させるためには、第1工程において適量のスチレン系単量体を種粒子に吸収させ、重合体粒子を適度に軟化させておくことが有効である。重合体粒子を適度に軟化させることにより、第2工程において重合開始剤を含有するスチレン系単量体の吸収が促進され、重合開始剤の吸収が促進される。その結果、微粉末重合体の生成が抑制される。
【0030】
本発明において、第1工程及び第2工程で添加するスチレン系単量体は、式(1):
(M1+M2)÷(QP+M1+M2)×100 ・・・(1)
(式中、M1は第1工程でのスチレン系単量体添加量、M2は第2工程でのスチレン系単量体添加量、QPはポリスチレン系樹脂種粒子の質量をそれぞれ表す)
で算出される百分率が26%以上35%未満の範囲となるように添加する。
前記百分率が26%未満であると、予備発泡して得られた予備発泡粒子の気泡径のバラツキが大きくなって、それを型内発泡成形して得られた発泡成形体の外観が悪くなり、機械強度が悪くなるおそれがある。前記百分率が35%以上であると、微粉末重合体の精製量が増加してしまうおそれがある。
【0031】
この第2工程において、水性媒体の温度は、50〜100℃の範囲、好ましくは60〜90℃の範囲に調整しておくことが好ましい。この温度が50℃未満であると、単量体の重合反応が進みにくくなり、重合完了までに長時間がかかり製造時間が長くなってしまう。この温度が100℃を超えると重合体粒子に単量体が吸収される前に重合し、微粉末重合体が増加するおそれがある。また、発生したラジカルが十分に重合に利用されなくなるおそれがある。
【0032】
(第3工程)
前記第2工程で開始した重合反応を継続させ、その重合反応におけるスチレン系単量体の重合転化率が75〜95%となった時点で、残りのスチレン系単量体を連続的又は断続的に供給し、重合させ、所望粒径のポリスチレン系樹脂粒子を得る第3工程を引き続き行う。
【0033】
この第3工程では、スチレン系単量体の重合転化率が75〜95%となった時点で残りのスチレン系単量体を連続的又は断続的に水性媒体中に供給し、水性媒体の温度を上げ、スチレン系単量体の重合反応を進め、完了させる。
重合開始剤として、通常分解温度が80〜120℃の高温分解型の重合開始剤を併用した場合には、この開始剤が分解する温度以上に水性媒体を更に加熱し、重合を完結させる。
【0034】
スチレン系単量体の重合転化率が75%未満の状態で第3工程を開始すると、残りのスチレン系単量体が重合体粒子に吸収されにくくなり、微粉末重合体が増加する。スチレン系単量体の重合転化率が95%を超えた時点で第3工程を開始すると、予備発泡粒子とした時の気泡が大きくなり、機械強度に優れた発泡成形体を得ることができない。
【0035】
(発泡性ポリスチレン系樹脂粒子)
水性媒体中で形成されたポリスチレン系樹脂粒子には、発泡剤を含浸させて、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子とし、その後、水性媒体から発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を分離、採取する。発泡剤の水性媒体への添加は、重合前、重合中、重合後の何れの時点でもよいが、通常は重合後期あるいは重合後に添加してポリスチレン系樹脂粒子に含浸させる。
【0036】
本発明において用いる易揮発性発泡剤としては、沸点が重合体の軟化点以下である易揮発性を有する、例えばプロパン、ブタン、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、HCFC−141b、HCFC−142b、HCFC−124、HFC−134a、HFC−152a等が挙げられ、これらの発泡剤は、単独もしくは2種以上を併用して用いることができる。これらの中でもn−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン等が好ましい。易揮発性発泡剤の使用量は、得られるポリスチレン系樹脂粒子100質量部に対して、1〜15質量部、好ましくは2〜10質量部である。
【0037】
本発明におけるシード重合法において、溶剤、可塑剤、発泡セル造核剤、充填剤、難燃剤、難燃助剤、滑剤、着色剤等、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を製造する際に用いられる添加剤を、必要に応じて適宜使用してもよい。また、ジンクステアレート等の粉末状金属石鹸類を前記発泡性スチレン樹脂粒子の表面に塗布しておけば、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の予備発泡工程においてポリスチレン系樹脂予備発泡粒子同士の結合を減少させることができて好ましい。
【0038】
(予備発泡粒子)
前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、ポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造分野において周知の装置及び手法を用い、水蒸気加熱等により加熱して予備発泡し、ポリスチレン系樹脂予備発泡粒子(以下、予備発泡粒子と記す)とする。この予備発泡粒子は、製造するべきポリスチレン系樹脂発泡成形体の密度と同等の嵩密度となるように予備発泡される。本発明において、その嵩密度は限定されないが、通常は0.01〜0.2g/cmの範囲(嵩発泡倍数として5〜100倍)とし、0.013〜0.10g/cmの範囲(嵩発泡倍数として10〜80倍)が好ましく、0.013〜0.05g/cmの範囲(嵩発泡倍数として20〜80倍)がより好ましい。
また、予備発泡粒子の平均気泡径は110〜145μmの範囲が好ましく、115〜140μmの範囲がより好ましい。145μmを超えると強度に優れた発泡成形体が得られないおそれがあり、110μm未満だと発泡成形体の成形時に気泡破れが生じる。
【0039】
(発泡成形体)
前記予備発泡粒子は、ポリスチレン系樹脂などの熱可塑性樹脂発泡成形体の製造分野において周知の装置及び手法を用い、該予備発泡粒子を成形型のキャビティ内に充填し、水蒸気加熱等により加熱して型内発泡成形し、熱可塑性樹脂発泡成形体(以下、発泡成形体と記す)を製造する。
本発明の発泡成形体の密度は特に限定されないが、ポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造において通常は0.01〜0.2g/cmの範囲(発泡倍数として5〜100倍)とし、0.013〜0.10g/cmの範囲(発泡倍数として10〜80倍)が好ましく、0.013〜0.05g/cmの範囲(嵩発泡倍数として20〜80倍)がより好ましい。
【0040】
なお、本発明において、予備発泡粒子の嵩密度・嵩発泡倍数、及び発泡成形体の密度・発泡倍数は、次の通り測定された値を指す。
【0041】
<予備発泡粒子の嵩密度・嵩発泡倍数>
約5gの予備発泡粒子の質量(a)を小数以下2位で秤量する。次に、最小目盛り単位が5cmである500cmメスシリンダーに秤量した予備発泡粒子を入れ、これにメスシリンダーの口径よりやや小さい円形の樹脂板であって、その中心に幅約1.5cm、長さ約30cmの棒状の樹脂板が直立して固定された押圧具をあてて、予備発泡粒子の体積(b)を読み取り、次式により予備発泡粒子の嵩密度と嵩発泡倍数を求めた。
嵩密度(g/cm)=(a)/(b)
嵩発泡倍数=1/嵩密度(g/cm
【0042】
<発泡成形体の密度・発泡倍数>
50cm以上(半硬質および軟質材料の場合は100cm以上)の試験片を材料の元のセル構造を変えない様に切断し、その質量を測定し、次式により算出した。
密度(g/cm)=試験片質量(g)/試験片体積(cm
試験片状態調節、測定用試験片は、成形後72時間以上経過した試料から切り取り、23℃±2℃×50%±5%または27℃±2℃×65%±5%の雰囲気条件に16時間以上放置したものである。
また、発泡成形体の発泡倍数は次式により算出される数値である。
発泡倍数(倍)=1/密度(g/cm
【実施例】
【0043】
以下、具体例に基づいて本発明の効果を実証するが、以下の実施例は単なる例示であり、本発明は以下の実施例の記載のみに限定されない。
【0044】
[実施例1]
(種粒子の作製)
内容積100リットルの攪拌機付オートクレーブ(以下、反応器ともいう)にリン酸三カルシウム(大平化学社製)120g、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ4g、過酸化ベンゾイル(純度75%)140g、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート30g、イオン交換水40kg及びスチレン単量体40kgを投入した後、100rpmの撹拌下で溶解及び分散させて懸濁液を調製した。
引き続き、攪拌羽を100rpmで撹拌しながらオートクレーブ内の温度を90℃まで昇温した後、90℃で6時間保持した。
その後、さらにオートクレーブ内の温度を120℃まで昇温し、120℃で2時間保持した後、オートクレーブ内の温度を25℃まで冷却し、オートクレーブから内容物を取り出し、脱水・乾燥・分級して粒子径が0.5〜0.7mmで質量平均分子量が30万のポリスチレン系樹脂からなる種粒子を得た。
【0045】
(発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の作製)
次いで、内容積50リットルの攪拌機付オートクレーブに前記の種粒子5.4kg、蒸留水16.0kg、ピロリン酸マグネシウム161g、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム7.2gを入れ、撹拌し懸濁させた。
次いで予め用意した蒸留水2000g、ピロリン酸マグネシウム36g、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3.6g及び種粒子100質量部に対して22質量部に相当するスチレン1200gをホモミキサーで攪拌して懸濁液を調製し、この懸濁液を72℃に保持した反応器に添加し、15分間ポリスチレン粒子にスチレンを吸収させた。
続いて、重合開始剤として純度75%のベンゾイルパーオキサイド61g及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート7.5gをスチレン800gに溶解し、蒸留水2000gと共にホモミキサーで攪拌して調製した懸濁液を72℃に保持した反応器に加えた。なお、この時点で、上記過程で加えたスチレンの総量はポリスチレン上記スチレンの総量との合計に対して27質量%であった。
重合開始剤を含む懸濁液を反応器に加え始めた時点から60分間、反応器内温度を72℃に保持し、スチレン樹脂種粒子にスチレンと重合開始剤を吸収させた後、スチレン15.4kgを反応器内に連続的に3時間で供給するとともに、スチレン供給終了時に109℃となるように反応器内温度を連続的に昇温した。
引き続き120℃まで昇温して30分保持した後、蒸留水700gにピロリン酸マグネシウム22g、ドデシルベゼンスルホン酸ナトリウム2gに発泡助剤としてシクロヘキサン320g、ジイソブチルアジペート(DIBA)77g、スチレン45gを加えてホモミキサーで攪拌して懸濁液を調製し、この懸濁液を反応器内に圧入した。その後、100℃まで冷却して、発泡剤であるノルマルブタン(小池化学社製、商品名ノルマルブタン)3400gを圧入して100℃で2時間保持した後、20℃まで冷却して取り出し、洗浄、脱水、乾燥した。発泡性ポリスチレン粒子の洗浄時に、JIS1000μm篩を通過しない合着粒子、及びJIS500μm篩を通過する微粉末重合体を除き、その質量を各々測定した。さらに発泡後の気泡径が完全に安定するまで15℃で3日間熟成させて、メジアン径0.85mmの発泡性スチレン系重合体粒子を得た。
【0046】
(発泡性スチレン系樹脂粒子の被覆)
この発泡性スチレン系重合体粒子5kgを松坂貿易社製レーディゲミキサーM20型(内容量20リットル)に投入した。次いでステアリン酸亜鉛4.5g、12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセライド3g、ステアリン酸モノグリセライド2.5gを順次投入し、230rpmで3分間攪拌した。次いで質量平均分子量300であるポリエチレングリコール1.5g、100csであるジメチルポリシロキサン1.0gを投入し230rpmで5分間攪拌し、樹脂粒子表面を被覆した。
【0047】
(発泡成形体の作製)
この被覆された発泡性スチレン系重合体粒子を内容量約40リットルの小型バッチ式予備発泡機を用いて、常圧下でゲージ圧力0.05MPaの水蒸気で加熱し嵩倍数55倍に予備発泡した。
この予備発泡粒子を20℃で24時間放置し、乾燥、熟成させた後、面圧計が取付けられ、箱形の成形体(300×400×50mm)が得られる金型を成形機に取付け、スチームによる熱成形を行った。成形は積水工機製作所製ACE−3SPを用い、QS成形モードで成形スチーム圧0.08MPa(ゲージ圧力)、金型加熱3秒、一方加熱10秒、逆一方加熱3秒、両面加熱10秒、水冷5秒、設定取出面圧0.02MPaの条件とした。
【0048】
<重合転化率の測定方法>
重合中の重合体粒子の重合転化率は、下記の要領で測定された値をいう。
即ち、重合中の重合体粒子を反応液中から取り出し、重合体粒子の表面に付着した水分をガーゼによりふき取ることで除去する。
水分が除去されたスチレン系重合体粒子0.08gを精秤し、トルエン25ml中に溶解させてトルエン溶液を作成する。次に、このトルエン溶液中に、ウィス試薬10ml、5質量%のヨウ化カリウム水溶液30ml及び1質量%のデンプン水溶液30mlを供給して試料とし、この試料をN/40チオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定することにより、試料の滴定数(mL)を求める。なお、ウィス試薬は、氷酢酸2リットルにヨウ素を8.7g及び三塩化ヨウ素を7.9g溶解したものである。
一方、スチレン系重合粒子体を溶解させることなく、上記と同様に滴定を行うことで、ブランクの滴定数(mL)を求める。
重合転化率は下記の式によって算出する。
重合転化率(質量%)=100−0.1322×[ブランクの滴定数(mL)−試料の滴定数(mL)]÷試料の質量[g]
【0049】
<微粉末重合体の生成量の評価>
重合を完了し、オートクレーブの内容物を取り出す際に、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子と微粉末重合体とを篩い分けし、JIS500μmふるいを通過するものを微粉末重合体、通過しないものを発泡性ポリスチレン系樹脂粒子とし、それぞれ脱水、乾燥した後の質量を測定した。発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の質量を(X)とし、微粉末重合体の質量を(Y)とし、次式により微粉末重合体の生成量(%)を求めた。
微粉末重合体の生成量(%)=[Y/(X+Y)]×100
微粉末重合体の生成量の評価基準は、1%未満の場合を良好(○)、1%を超える場合を不良(×)として評価した。
【0050】
<気泡径の評価>
予備発泡粒子の気泡径は、ASTM D2842−69の試験方法に準拠して測定されたものをいう。具体的には、予備発泡粒子を略二等分となるように切断し、切断面を走査型電子顕微鏡(JOEL社製、商品名「JSM−6360LV」)を用いて15倍に拡大して撮影する。
次に、撮影した画像をA4用紙上に印刷し、任意の箇所に長さ60mmの直線を一本、描く、この直線上に存在する気泡数から気泡の平均弦長(t)を下記式により算出する。
平均弦長t=60/(気泡数×写真の倍率)
なお、直線を描くにあたっては、できるだけ直線が気泡に点接触することなく貫通した状態となるようにする。又、一部の気泡が直線に点接触してしまう場合には、この気泡も気泡数に含め、更に、直線の両端部が気泡を貫通することなく、気泡内に位置した状態となる場合には、直線の両端部が位置している気泡も気泡数に含める。
そして、算出された平均弦長tに基づいて次式により気泡径を算出することができる。
気泡径(mm)D=t/0.616
撮影した画像の任意の5箇所において上述と同様の要領で平均気泡径を算出し、これらの気泡径の相加平均値を予備発泡粒子の1粒気泡径とする。
任意に採取した予備発泡粒子20粒について、前記の通り1粒気泡径を測定し、その平均値及び標準偏差を定法により算出し、20粒平均気泡径(以下、平均気泡径と記す)及び気泡径のバラツキ(標準偏差)とした。
平均気泡径の評価基準は、平均気泡径110〜145μmの範囲を良好(○)、110μm未満または145μmを超える場合を不良(×)とした。
標準偏差の評価基準は、標準偏差が12未満である場合を良好(○)、12以上である場合を不良(×)として評価した。
【0051】
<融着率の評価>
得られた箱形の発泡成形体を衝撃によって破断させ、その破断面の発泡粒子に100〜150個を含む任意の範囲について、全粒子数(A)と粒子内で破断している粒子数(B)を計数し、以下の式により融着率(%)を算出した。
融着率(%)=(B)×100/(A)
融着率の評価は70%以上を良好(○)とし、70%未満を不良(×)とした。
【0052】
<発泡成形体の外観評価>
発泡成形体の外観を目視にて評価した。成形体表面の発泡粒子が接合した境界部分が平滑であり、見た目が均一である場合を良好(○)、境界部分に凹凸があり平滑性が劣り、見た目がまだらの場合を不良(×)とした。
【0053】
<曲げ強度>
成形圧0.08MPaの水蒸気圧力で成形したポリスチレン系樹脂発泡成形体から、縦300mm×横75mm×厚さ50mmの試験片を切り出し、この試験片の曲げ試験をJIS−A9511に準拠して行い、曲げ強度を算出した。
曲げ強度の評価基準は、曲げ強度3.8kgf/cm以上の場合を良好(○)とし、3.8kgf/cm未満の場合を不良(×)とした。
【0054】
<圧縮強度>
成形圧0.08MPaの水蒸気圧力で成形したポリスチレン系樹脂発泡成形体から、縦50mm×横50mm×厚さ50mmの試験片を切り出し、この試験片の圧縮試験をJIS−A9511に準拠して行い、圧縮強度とした。
圧縮強度の評価基準は、圧縮強度1.3kgf/cm以上を良好(○)とし、1.3kgf/cm未満を不良(×)とした。
【0055】
[実施例2]
実施例1において、最初に添加するスチレンの懸濁液のスチレン量を1.47kgとして、スチレン系重合体種粒子対して加えたスチレンの割合を27質量部とし、次いで加えるスチレンの懸濁液のスチレン量を1.20kgとして、スチレン系重合体種粒子と上記スチレンの総量との合計に対して33質量%とし、連続して供給するスチレンを14.7kgとする以外は実施例1と同様の方法で実施した。
【0056】
[比較例1]
実施例1において、最初に添加するスチレンの懸濁液のスチレン量を1.77kgとして、スチレン系重合体種粒子対して加えたスチレンの割合を33質量部とし、次いで加えるスチレンの懸濁液のスチレン量を0.90kgとして、スチレン系重合体種粒子と上記スチレンの総量との合計に対して33質量%とし、連続して供給するスチレンを14.7kgする以外は実施例1と同様の方法で実施した。
【0057】
[比較例2]
実施例1において、最初に添加するスチレンの懸濁液のスチレン量を1.47kgとして、スチレン系重合体種粒子対して加えたスチレンの割合を27質量部とし、次いで加えるスチレンの懸濁液のスチレン量を1.90kgとして、スチレン系重合体種粒子と上記スチレンの総量との合計に対して38質量%とし、連続して供給するスチレンを14.0kgする以外は実施例1と同様の方法で実施した。
【0058】
[比較例3]
実施例1において、最初に添加するスチレンの懸濁液のスチレン量を1.77kgとして、スチレン系重合体種粒子対して加えたスチレンの割合を33質量部とし、次いで加えるスチレンの懸濁液のスチレン量を1.60kgとして、スチレン系重合体種粒子と上記スチレンの総量との合計に対して38質量%とし、連続して供給するスチレンを14.0kgする以外は実施例1と同様の方法で実施した。
【0059】
[比較例4]
実施例1において、最初に添加するスチレンの懸濁液のスチレン量を0.90kgとして、スチレン系重合体種粒子対して加えたスチレンの割合を17質量部とし、次いで加えるスチレンの懸濁液のスチレン量を1.70kgとして、スチレン系重合体種粒子と上記スチレンの総量との合計に対して33質量%とし、連続して供給するスチレンを14.9kgする以外は実施例1と同様の方法で実施した。
【0060】
[比較例5]
実施例1において、最初に添加するスチレンの懸濁液のスチレン量を0.90kgとして、スチレン系重合体種粒子対して加えたスチレンの割合を17質量部とし、次いで加えるスチレンの懸濁液のスチレン量を0.60kgとして、スチレン系重合体種粒子と上記スチレンの総量との合計に対して22質量%とし、連続して供給するスチレンを16.0kgする以外は実施例1と同様の方法で実施した。
【0061】
[比較例6]
実施例1において、スチレン系重合体粒子4.9kgとし、最初に添加するスチレンの懸濁液のスチレン量を0.49kgとして、スチレン系重合体種粒子対して加えたスチレンの割合を10質量部とし、次いでスチレン単独を1.03kg加えて15分吸収させ、後に加えるスチレンの懸濁液のスチレン量を0.63kgとして、スチレン系重合体種粒子と上記スチレンの総量との合計に対して30質量%とし、連続して供給するスチレンを13.2kgする以外は実施例1と同様の方法で実施した。
【0062】
[比較例7]
(発泡性スチレン系樹脂粒子の作製)
内容積50リットルの攪拌機付オートクレーブに上記のスチレン系重合体種粒子13kg、蒸留水16kg、ピロリン酸マグネシウム161g、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム7.2gを入れ、撹拌し懸濁させた。
次いで予め用意した蒸留水4kg、ピロリン酸マグネシウム36g、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3.6g、トルエン0.32kg及びスチレン系重合体種粒子に対して33質量部に相当するスチレン4.3kgをホモミキサーで攪拌して懸濁液を調製し、この懸濁液を78℃に保持した反応器に添加し、15分間ポリスチレン粒子にスチレンを吸収させた。
続いて、重合開始剤として純度75%のベンゾイルパーオキサイド61g及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート7.5gをスチレン1kgに溶解し、蒸留水1kgと共にホモミキサーで攪拌して調製した懸濁液を78℃に保持した反応器に加えた。なお、この時点で、上記過程で加えたスチレンの総量はポリスチレン上記スチレンの総量との合計に対して29質量%であった。
重合開始剤を含む懸濁液を反応器に加え始めた時点から60分間、反応器内温度を78℃に保持し、スチレン系重合体種粒子にスチレンと重合開始剤を吸収させた後、スチレン3.7kgを連続的に0.5時間で供給しながら重合を行った。これ以降は実施例1と同じ操作を行い、同じ評価を行った。
【0063】
[比較例8]
(発泡性スチレン系樹脂粒子の作製)
内容積50リットルの攪拌機付オートクレーブに上記のスチレン系重合体種粒子13kg、蒸留水16kg、ピロリン酸マグネシウム161g、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム7.2gを入れ、撹拌し懸濁させた。
次いで予め用意した蒸留水4kg、ピロリン酸マグネシウム36g、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3.6g、トルエン0.32kg及びスチレン系重合体種粒子に対して25質量部に相当するスチレン3.3kgをホモミキサーで攪拌して懸濁液を調製し、この懸濁液を78℃に保持した反応器に添加し、15分間ポリスチレン粒子にスチレンを吸収させた。
続いて、重合開始剤として純度75%のベンゾイルパーオキサイド61g及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート7.5gをスチレン1kgに溶解し、蒸留水1kgと共にホモミキサーで攪拌して調製した懸濁液を78℃に保持した反応器に加えた。なお、この時点で、上記過程で加えたスチレンの総量はポリスチレン上記スチレンの総量との合計に対して25質量%であった。
重合開始剤を含む懸濁液を反応器に加え始めた時点から60分間、反応器内温度を78℃に保持し、スチレン系重合体種粒子にスチレンと重合開始剤を吸収させた後、スチレン4.8kgを反応器内に連続的に0.50時間で供給するとともに、スチレン供給終了時に109℃となるように反応器内温度を連続的に昇温した。重合を行った。これ以降は実施例1と同じ操作を行い、同じ評価を行った。
【0064】
前記実施例1,2、比較例1〜8について実施した前記各測定・評価方法の結果を表1にまとめて記す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1の結果から、本発明に係る実施例1,2は、重合時に微粒子重合体の生成量が少なくなり、また予備発泡して得られた予備発泡粒子の気泡径のバラツキが少なくなり、これを発泡成形して得られた発泡成形体の外観が良好となり、融着率、曲げ強度、圧縮強度にも優れていた。
一方、比較例1は、第1工程でのスチレン添加量を多くしたことで、微粉末重合体の生成量が増加した。
比較例2は、第2工程でのスチレン添加量を多くし、重合転化率75%未満で第3工程を開始したことで、微粉末重合体の生成量が増加した。
比較例3は、第1工程でのスチレン添加量と第2工程でのスチレン添加量を多くしたことで、微粉末重合体の生成量が増加し、予備発泡粒子の気泡径バラツキが大きくなり、また発泡成形体の外観及び曲げ強度が悪くなった。
比較例4は、第1工程でのスチレン添加量を少なくしたことで、予備発泡粒子の平均気泡径が大きくなって、発泡成形体の曲げ強度及び圧縮強度が悪くなった。
比較例5は、第1工程でのスチレン添加量及び第2工程でのスチレン添加量を少なくしたことで、予備発泡粒子の平均気泡径が大きくなって、発泡成形体の曲げ強度及び圧縮強度が悪くなった。
比較例6は、特許文献1の実施例1に記載された製造条件に従って、第1工程と第2工程の間に、スチレンを添加する別の工程を備えており、これによって第1工程から第2工程までの時間が長くかかり、製造効率が悪くなった。
比較例7は、第1工程でのスチレン添加量を多くしたことで、予備発泡粒子の気泡径のバラツキが大きくなり、発泡成形体の外観も悪くなった。
比較例8は、第1工程でのスチレン添加量及び第2工程でのスチレン添加量を少なくしたことで、予備発泡粒子の平均気泡径が大きくなり、予備発泡粒子の気泡径のバラツキが大きくなり、発泡成形体の曲げ強度及び圧縮強度が悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、緩衝材、搬送容器、建材用断熱材などに使用されるポリスチレン系樹脂発泡成形体を製造するために用いる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法に関し、更に詳しくは、水性媒体中でポリスチレン系樹脂種粒子とスチレン系単量体とを重合開始剤の存在下で接触させ、前記種粒子より大きなポリスチレン系樹脂粒子を形成するとともに、該ポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させて発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得る、シード重合法において短時間で製造でき、製造時に微粉末の生成を抑制でき、また外観や機械強度に優れた発泡成形体を製造可能な発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中でポリスチレン系樹脂種粒子とスチレン系単量体とを重合開始剤の存在下で接触させ、前記種粒子より大きなポリスチレン系樹脂粒子を形成するとともに、該ポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させて発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得る製造方法において、
ポリスチレン系樹脂種粒子が懸濁された水性媒体中に、前記種粒子100質量部に対し21質量部以上30質量部未満の範囲のスチレン系単量体を添加・吸収させる第1工程と、
次いで、重合開始剤とスチレン系単量体とを前記水性媒体中に添加し、スチレン系単量体の重合反応を開始させる第2工程と、
前記重合反応におけるスチレン系単量体の重合転化率が75〜95%となった時点で、残りのスチレン系単量体を連続的又は断続的に供給し、重合させる第3工程とを含み、
前記第1工程及び第2工程で添加するスチレン系単量体は、式(1):
(M1+M2)÷(QP+M1+M2)×100 ・・・(1)
(式中、M1は第1工程でのスチレン系単量体添加量、M2は第2工程でのスチレン系単量体添加量、QPはポリスチレン系樹脂種粒子の質量をそれぞれ表す)
で算出される百分率が26%以上35%未満の範囲となるように添加することを特徴とする発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法。
【請求項2】
前記第1工程で添加するスチレン系単量体と前記第2工程で添加するスチレン系単量体の一方又は両方は、水性懸濁液の状態で添加することを特徴とする請求項1に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第3工程で形成された前記ポリスチレン系樹脂粒子の質量(TP)に対する前記ポリスチレン系樹脂種粒子の質量(QP)の比率(QP/TP)が10〜65%の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法。
【請求項4】
前記第3工程は、前記水性媒体を昇温させながらスチレン系単量体の重合反応を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法により得られた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項6】
請求項5に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を加熱し発泡させて得られたポリスチレン系樹脂予備発泡粒子。
【請求項7】
請求項6に記載のポリスチレン系樹脂予備発泡粒子を成形型のキャビティ内に充填して型内発泡成形して得られたポリスチレン系樹脂発泡成形体。

【公開番号】特開2011−195769(P2011−195769A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66606(P2010−66606)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】