説明

発泡性ポリスチレン系樹脂粒子とその製造方法、予備発泡粒子、発泡成形体

【課題】低発泡(高密度)の成形体を製造する場合、粒子間の結合が強く、強度、成形品外観に優れた発泡成形体を得るための発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を提供する。
【解決手段】アクリル酸エステルとスチレン系単量体との共重合体を含有する発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって、ATR法赤外分光分析により該樹脂粒子の表面を分析し得られた赤外スペクトルのうち、1730cm−1での吸光度D1730と1600cm−1での吸光度D1600とを求め、D1730/D1600から算出される吸光度比(A)と、該樹脂粒子の中心部を分析し吸光度D1730と吸光度D1600とを求め、D1730/D1600から算出される吸光度比(B)とが、(B)<(A)であり、且つ(A)が0.20〜0.60の範囲内である関係を満たす発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造部材として有用な低発泡(高密度)のポリスチレン系樹脂発泡成形体、及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、低発泡(高密度)の成形体を製造する場合、粒子間の結合が強く、強度、成形品外観に優れた発泡成形体を得るための発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から代表的な低発泡樹脂組成物としては、PVC(ポリ塩化ビニル)樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエンゴム−スチレン共重合体)樹脂及びPVC/ABSブレンド樹脂等に熱分解型発泡剤を添加したものが知られている。その中でも発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を使用する場合、所望の形状に成形できることから加工の手間が省け、生産性が優れるものであった。
【0003】
しかし、一般に使用されている発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、発泡倍数が30〜60倍での使用が主であり、この発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を20倍以下の比較的低い発泡倍数で使用した場合、冷却に時間がかかることで生産性が低下したり、成形品内部での粒子の結合が不十分となりやすいことから強度低下が起こるという問題があった。また、発泡剤、及び発泡助剤を極力少なくし、低発泡用途向けに調整された発泡性ポリスチレン系樹脂粒子があるが、この種の発泡成形体は、内部の粒子接着強度は十分ではなく強度面で問題点があった。
【0004】
一方、低発泡のポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造方法として、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡させることなく、直接成形する方法がある(以下、原粒成形と称する)。この原粒成形法は、一般に行われる発泡成形法、すなわち、いったん発泡性粒子を予備的に発泡した予備発泡粒子を使用して、発泡ポリスチレン系樹脂成形品を得る方法(以下、予備発泡法と称する)に対し、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡することなくそのまま成形型内に充填することで、低発泡倍率の発泡成形品を提供できることが最大の特徴である。こうして得られた成形品は、表面の発泡粒子同士の間隙が極めて少ないため、意匠面を忠実に再現でき、光沢にも優れるという特徴を持っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭33−795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、低発泡での成形や原粒成形に於ける最大の問題点は、発泡成形時に加熱のための蒸気を均一に行き渡らせることが困難であるため、得られる発泡成形品が、表層部のみ融着し、内部、特に中心部において全く融着していないものとなり易いことである。このため一般の発泡ポリスチレン系樹脂成形品と比べてより高圧の水蒸気による加熱や加熱時間の延長、加えて長時間の冷却が必要となり生産上好ましくない。
【0007】
前記のような原粒成形においては、例えば特許文献1(特公昭33−795号公報)が知られているが、これもまた前記課題を解決できず、十分な品質の成形品を得ることはできないものである。
【0008】
本発明は、低発泡(高密度)の成形体を製造する場合、粒子間の結合が強く、強度、成形品外観に優れた発泡成形体を得るための発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、及びその製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を達成するため、本発明は、アクリル酸エステルとスチレン系単量体との共重合体を含有する発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって、ATR法赤外分光分析により前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表面を分析し得られた赤外スペクトルのうち、1730cm−1での吸光度D1730と1600cm−1での吸光度D1600とを求め、D1730/D1600から算出される吸光度比(A)とATR法赤外分光分析により前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の中心部を分析し得られた赤外スペクトルのうち、1730cm−1での吸光度D1730と1600cm−1での吸光度D1600とを求め、D1730/D1600から算出される吸光度比(B)とが、(B)<(A)であり、且つ(A)が0.20〜0.60の範囲内である関係を満たす発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を提供する。
【0010】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子において、前記吸光度比(B)が0.15〜0.50の範囲内であることが好ましい。
【0011】
また本発明は、前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡して得られたポリスチレン系樹脂予備発泡粒子を提供する。
【0012】
また本発明は、前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を嵩密度が0.05〜0.50g/cmの範囲となるように予備発泡して得られたポリスチレン系樹脂予備発泡粒子を提供する。
【0013】
また本発明は、前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を成形型のキャビティ内に充填して加熱、発泡させて得られたポリスチレン系樹脂発泡成形体を提供する。
【0014】
また本発明は、前記ポリスチレン系樹脂予備発泡粒子を成形型のキャビティ内に充填して加熱、発泡させて得られたポリスチレン系樹脂発泡成形体を提供する。
【0015】
また本発明は、
(1)ポリスチレン系樹脂種粒子を水中に分散させてなる分散液中に、ポリスチレン系樹脂種粒子100質量部に対し、スチレン系単量体7.0〜80.0質量部とアクリル酸エステル単量体2.0〜12.0質量部とを供給し、これらの単量体を種粒子に吸収、重合させてポリスチレン系樹脂粒子を成長させる第1重合工程と、
(2)次いで、ポリスチレン系種粒子の重合転化率が96質量%以上となった時点で該分散液中にスチレン系単量体のみを供給し、これを種粒子に吸収、重合させてポリスチレン系樹脂粒子を成長させる第2重合工程と、
(3)第2重合工程を行ってポリスチレン系樹脂粒子を製造した後、又はポリスチレン系樹脂粒子の成長途上で発泡剤を含浸させて請求項1又は2記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得る工程とを有する発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を使用した低発泡(高密度)の成形体を得る方法において、発泡成形体の中心部の融着率を大幅に向上でき、強度面で優れるばかりか、短い成形サイクルで成形品を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ATR法赤外分光分析による発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の吸光度比の測定において、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表面の吸光度測定位置を示す概略図である。
【図2】ATR法赤外分光分析による発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の吸光度比の測定において、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の中心部の吸光度測定位置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法としては、ポリスチレン系樹脂種粒子を水中に分散させてなる分散液中に、ポリスチレン系樹脂種粒子100質量部に対し、スチレン系単量体7.0〜80.0質量部とアクリル酸エステル系単量体2.0〜12.0質量部とを供給し、これらの単量体を種粒子に吸収、重合させてポリスチレン系樹脂粒子を成長させる第1重合工程と、次いで、該分散液中にスチレン系単量体のみを供給し、これを種粒子に吸収、重合させてポリスチレン系樹脂粒子を成長させる第2重合工程と、第2重合工程を行ってポリスチレン系樹脂粒子を製造した後、又はポリスチレン系樹脂粒子の成長途上で発泡剤を含浸させる工程とを行って発泡性ポリスチレン樹脂粒子を得ることを特徴としている。
【0019】
本発明の製造方法において、ポリスチレン系樹脂種粒子(以下、種粒子と略記する)の材料であるポリスチレン系樹脂としては、スチレン又はスチレン誘導体の単独または共重合体が挙げられる。ここで、スチレン誘導体としては、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、エチルスチレン、i−プロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン等が挙げられる。更に、前記ポリスチレン系樹脂としては、前記スチレン系モノマー成分を主成分とすれば、前記スチレン系モノマーと共重合可能なビニルモノマーを併用した共重合体であってもよく、このようなビニルモノマーとしては、例えば、o−ジビニルベンゼン、m−ジビニルベンゼン、p−ジビニルベンゼン等のジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能性モノマー;α−メチルスチレン、(メタ)アクリロニトリル、メチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、多官能性モノマーが好ましく、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、nが4〜16のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンがより好ましく、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートが特に好ましい。なお、前記スチレンと共重合可能なモノマーは単独で用いられても併用されてもよい。
【0020】
また、種粒子は一部、または全部にポリスチレン系樹脂回収品を用いることができる。更に種粒子の粒径は、作成する発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の平均粒子径等に応じて適宜調整でき、例えば平均粒子径が1.0mmの発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を作成する場合には平均粒子径が0.4〜0.7mm程度の種粒子を用いることが好ましい。更に種粒子の重量平均分子量は特に限定されないが15万〜70万が好ましく、更に好ましくは20万〜50万である。
【0021】
本発明の製造方法に使用するスチレン系単量体としては、スチレン、またはスチレン誘導体が挙げられる。ここで、スチレン誘導体としては、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、エチルスチレン、i−プロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン等が挙げられるが、これらの中でもスチレンが好ましい。
【0022】
本発明の製造方法に使用するアクリル酸エステル系単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸エチルヘキシル、アクリル酸ヘキシル等が挙げられ、これらの中でもアクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチルヘキシルが好ましい。
【0023】
第1重合工程に用いられるスチレン系単量体の量は、種粒子100質量部に対して、7.0〜80.0質量部の範囲とする。7.0質量部未満の場合は成形時の耐熱性が低下し、80.0質量部を超えると発泡性が低下する。
【0024】
また、第1重合工程で使用するアクリル酸エステル系単量体の量は、種粒子100質量部に対して2.0〜12.0質量部とする。2.0質量部未満では発泡性に劣り、12.0質量部を超えると成形品の強度が低下する。
【0025】
本発明の第2重合工程において使用するスチレン系単量体としては、第1重合工程で使用可能なスチレン系単量体を使用できる。
【0026】
また、本発明の第2重合工程においては、スチレン系単量体の添加時期を第1重合工程で生成する種粒子の重合転化率で制御する。詳しくは第1重合工程で生成した種粒子の重合転化率が96質量%以上となった時点で、第2重合工程で使用するスチレン系単量体を反応系に添加、種粒子に吸収、重合させることを特徴としている。重合転化率が96質量%未満では、発泡成形時に中心部の融着率が低下し、好ましくない。
【0027】
本発明において発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中に含有させる発泡剤は、従来からポリスチレン系樹脂の発泡に用いられているものであれば、特に限定されず、例えばイソブタン、n−ブタン、イソペンタン、ネオペンタン等の炭素数5以下の脂肪族炭化水素等の揮発性発泡剤(物理型発泡剤)が挙げられ、ブタン系発泡剤が好ましい。
【0028】
更に、前記発泡剤の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中における含有量は、少ないと、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子から低密度のポリスチレン系樹脂発泡成形体を得ることができないと共に型内発泡成形時の二次発泡力を高める効果が得られないために、ポリスチレン系樹脂発泡成形体の外観性が低下し、又、多いと、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を用いたポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造工程における冷却工程に要する時間が長くなって生産性が低下するので、2.5〜5.0質量%の範囲とされ、2.7〜4.8質量%の範囲が好ましい。
【0029】
なお、前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中における発泡剤の含有量は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を150℃の熱分解炉に入れ、この熱分解炉で発生した炭化水素量をガスクロマトグラフにて測定することができる。
【0030】
また、前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子には、発泡剤と共に発泡助剤を含有させることができる。この発泡助剤としては、従来から発泡性ポリスチレン系樹脂粒子に用いられている発泡助剤であれば、特に限定されずに使用でき、例えば、スチレン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族有機化合物、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の環式脂肪族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等の一気圧下における沸点が200℃以下の溶剤が挙げられる。
【0031】
そして、前記低密度発泡成形用発泡助剤の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中における含有量は、少ないと、ポリスチレン系樹脂の可塑化効果が発現せず、又、多いと、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を発泡させて得られるポリスチレン系樹脂発泡成形体に収縮や溶けが発生して外観性が低下したり或いは発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を用いたポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造工程における冷却工程に要する時間が長くなるので、1.0〜2.5質量%に限定され、1.2〜2.2質量%が好ましい。
【0032】
なお、前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中における発泡助剤の含有量は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子をジメチルホルムアミドに溶解させると共に内部標準液としてシクロペンタノールを加えてガスクロマトグラフにて測定することができる。
【0033】
更に、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子には、加熱発泡時に用いられる水蒸気の圧力が低くても良好な発泡成形性を維持させるために、一気圧下における沸点が200℃を超える可塑剤、例えば、フタル酸エステル、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリントリステアレート、グリセリンジアセトモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル、ジイソブチルアジペート等のアジピン酸エステル、ヤシ油等の可塑剤が2.0質量%未満含有されていてもよい。
【0034】
なお、前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子には、物性を損なわない範囲内において、結合防止剤、気泡調整剤、架橋剤、充填剤、難燃剤、難燃助剤、滑剤、着色剤等の添加剤を添加してもよく、又、ジンクステアレート等の粉末状金属石鹸類を前記発泡性スチレン樹脂粒子の表面に塗布しておけば、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の予備発泡工程においてポリスチレン系樹脂予備発泡粒子同士の結合を減少させることができて好ましい。
前記の難燃剤としては、ポリスチレン系樹脂粒子中に含浸させる条件下において他の媒体に溶解させない状態で存在した場合に粉末状であれば、特に限定されず、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモシクロオクタン、テトラブロモブタン、ヘキサブロモシクロヘキサンなどの臭素化脂肪族炭化水素系化合物、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールF、2,4,6−トリブロモフェノールなどの臭素化フェノール類、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ジグリシジルエーテルなどの臭素化フェノール誘導体などが挙げられ、臭素化脂肪族炭化水素系化合物が好ましく、テトラブロモシクロオクタン(以下、TBCOと記す。)がより好ましい。
【0035】
本発明の製造方法で使用する重合開始剤としては、従来からスチレン系単量体の重合に用いられているものであれば、特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ラウリルパーオキサイド、t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−t−ブチルパーオキシブタン、t−ブチルパーオキシ−3、3、5−トリメチルヘキサノエート、ジーt−ブチルパーオキシヘキサハイドロテレフタレート等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられ、得られるポリスチレン系樹脂のZ平均分子量Mzや質量平均分子量Mwを調整して残存モノマーを低減させるために、10時間の半減期を得るための分解温度が80〜120℃にある異なった二種以上の重合開始剤を併用することが好ましい。なお、前記重合開始剤は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0036】
更に、本発明の製造方法において、スチレン系単量体の小滴及び種粒子を水性媒体中に分散させる為に用いられる懸濁安定剤としては、従来からスチレン系単量体の懸濁重合に用いられているものであれば、特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子、第三リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム等の難溶性無機化合物等が挙げられる。そして、前記懸濁安定剤として難溶性無機化合物を用いる場合には、アニオン界面活性剤を併用するのが好ましく、このようなアニオン界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石鹸、N−アシルアミノ酸またはその塩、アルキルエーテルカルボン酸塩などのカルボン酸塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルナフタレンスルフォン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、アルキルスルホ酢酸塩、α−オレフィンスルフォン酸塩等のスルフォン酸塩;高級アルコール硫酸エステル塩、第二級高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩等の硫酸エステル塩;アルキルエーテルリン酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩等のリン酸エステル塩等が挙げられる。
【0037】
前記ポリスチレン系樹脂粒子は球状であるのが好ましく、該樹脂粒子の粒径は、成形型内への充填性等を考慮すると、0.3〜2.0mmが好ましく、0.3〜1.4mmがより好ましい。
【0038】
なお、前記ポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤及び発泡助剤を含浸させる際の温度は、低いと、ポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤及び発泡助剤を含浸させるのに要する時間が長くなって生産効率が低下することがあり、又、高いと、ポリスチレン系樹脂粒子同士が融着して結合粒が発生することがあるので、60〜120℃が好ましく、70〜100℃がより好ましい。
【0039】
次に、前記製造方法で得られた本発明に係る発泡性ポリスチレン系樹脂粒子について説明する。
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、スチレン系単量体とアクリル酸エステル単量体との共重合体を含有し、ATR法赤外分光分析により前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表面を分析し得られた赤外スペクトルのうち、1730cm−1での吸光度D1730と1600cm−1での吸光度D1600とを求め、D1730/D1600から算出される吸光度比(A)とATR法赤外分光分析により前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の中心部を分析し得られた赤外スペクトルのうち、1730cm−1での吸光度D1730と1600cm−1での吸光度D1600とを求め、D1730/D1600から算出される吸光度比(B)とが、(B)<(A)であり、且つ(A)が0.20〜0.60の範囲内である関係を満たすことを特徴としている。
【0040】
ATR法赤外分光分析とは、全反射吸収を利用する1回反射型ATR法により赤外吸収スペクトルを測定する分析方法である。
この分析方法は、高い屈折率を持つATRプリズムを試料に密着させ、ATRプリズムを通して赤外線を試料に照射し、ATRプリズムからの出射光を分光分析する方法である。ATR法赤外分光分析は、試料とATRプリズムを密着させるだけでスペクトルを測定できるという簡便さ、深さ数μmまでの表面分析が可能である等の理由で高分子材料等の有機物をはじめ、種々の物質の表面分析に広く利用されている。
【0041】
本発明では、ATR法赤外分光分析により、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表面と中心部とを分析し、得られた赤外吸収スペクトルのうち、1730cm−1での吸光度D1730と1600cm−1での吸光度D1600とを求める。そして前記各吸光度の値から樹脂粒子の表面の吸光度比(A)と粒子の中心部の吸光度比(B)とを算出する。
なお、赤外吸収スペクトルから得られる1600cm−1での吸光度D1600は、ポリスチレン系樹脂に含まれるベンゼン環の面内振動に由来する1600cm−1付近に現れるピーク高さをいう。
また、赤外吸収スペクトルから得られる1730cm−1での吸光度D1730は、アクリル酸エステル系樹脂に含まれるエステル基C=0間の伸縮振動に由来する1730cm−1付近に現れるピーク高さをいう。
【0042】
また表面の吸光度比は、図1に示すように発泡性ポリスチレン系樹脂粒子1の表面AについてATR法赤外分光分析により測定して求めた値であり、また中心部の吸光度比は、図2に示すように発泡性ポリスチレン系樹脂粒子1をその中心を通って切断した断面の中心部BについてATR法赤外分光分析により測定して求めた値である。
【0043】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、前述したように算出された樹脂粒子の表面の吸光度比(A)と樹脂粒子の中心部の吸光度比(B)とが、
(B)<(A)であり、且つ(A)が0.20〜0.60の範囲内である、との関係を満たすことを特徴としている。
即ち、本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、粒子の直径方向において、含有されているスチレン−アクリル酸エステル共重合体成分の割合が、中心部で低濃度であり、表層側で高濃度となる。
【0044】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、前述したようにスチレン−アクリル酸エステル共重合体成分の分布構造を有していることから、型内発泡成形して得られた発泡成形体における発泡粒子同士の融着率が向上し、特に、低発泡(高密度)の成形体を製造する場合であっても発泡粒子間の結合が強く、強度、成形品外観に優れた発泡成形体を得ることができる。樹脂粒子の表面の吸光度比(A)と樹脂粒子の中心部の吸光度比(B)との関係((B)<(A))を満たさない場合は、発泡粒子同士の融着性が劣り、良好な低発泡(高密度)の成形体が得にくくなる。
【0045】
前記表面の吸光度比(A)は、0.20〜0.60の範囲内であり、0.30〜0.50の範囲内がより好ましい。表面の吸光度比(A)が0.20未満であると、成形時に粒子間の接着性が低下するので好ましくない。表面の吸光度比(A)が0.60を超えると、成形時に成形体表面に溶けが発生しやすく、外観を損なうので好ましくない。
【0046】
前記中心部の吸光度比(B)は0.15〜0.50の範囲内が好ましく、0.20〜0.40の範囲内がより好ましい。中心部の吸光度比(B)が0.15未満であると発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の発泡性能が劣り、揮発成分を多く使用する必要がある。また中心部の吸光度比(B)が0.50を超えると成形時に収縮が大きくなりやすく、発泡成形体の強度が低下する。
【0047】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、前述した本発明に係る製造方法により効率良く製造することができるが、製造方法はそれに限定されない。
【0048】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、発泡成形体の使用用途などに応じて、次の(1)の予備発泡法によってポリスチレン系樹脂予備発泡粒子とするか、又は(2)の原粒成形法によって直接低発泡(高密度)の発泡成形体を製造するために用いることができる。
【0049】
(1)予備発泡法
従来の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の場合と同じく、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を加熱して、製造する発泡成形体の密度と等しい嵩密度となるように予備発泡してポリスチレン系樹脂予備発泡粒子とする。
(1−1)魚箱などの食品包装容器や家電製品の緩衝材などの一般用途の発泡成形体を製造する場合には、通常、嵩密度が0.010〜0.033g/cmの範囲の予備発泡粒子を製造することが好ましい。
(1−2)機械強度が高く、表面平滑性にも優れた低発泡(高密度)の成形体を製造する場合には、嵩密度が0.05〜0.50g/cmの範囲の予備発泡粒子を製造することが好ましい。
【0050】
なお、本発明においてポリスチレン系樹脂予備発泡粒子の嵩密度とは、JIS K6911:1995年「熱硬化性プラスチック一般試験方法」に準拠して測定されたものをいう。
<予備発泡粒子の嵩密度>
先ず、ポリスチレン系樹脂予備発泡粒子を測定試料としてWg採取し、この測定試料をメスシリンダー内に自然落下させ、メスシリンダー内に落下させた測定試料の体積VcmをJIS K6911に準拠した見掛け密度測定器を用いて測定し、下記式に基づいてポリスチレン系樹脂予備発泡粒子の嵩密度を測定する。
嵩密度(g/cm)=測定試料の質量(W)/測定試料の体積(V)
<嵩発泡倍数>
また、予備発泡粒子の「嵩発泡倍数」は、次式により算出される数値である。
嵩発泡倍数=1/嵩密度(g/cm
【0051】
(2)原粒発泡法
構造部材として有用な高強度発泡成形体を得る場合には、前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡することなく、成形型のキャビティ内に直接発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を充填し、水蒸気等の熱媒体で加熱して原粒成形を行い、低発泡・高密度の成形体とする。
この原粒成形法の場合、得られる発泡成形体の密度は0.59〜0.67g/cmの範囲となる。
【0052】
本発明のポリスチレン系樹脂発泡成形体は、前記(1)の予備発泡粒子、或いは前記(2)の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡することなく、成形型のキャビティ内に直接発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を充填し、水蒸気等の熱媒体で加熱して型内発泡成形を行って得られたものである。
本発明のポリスチレン系樹脂発泡成形体は、前記(1)の予備発泡粒子を用いた型内発泡成形法、或いは(2)の原粒成形法のいずれの方法でも機械強度と外観に優れた種々の密度の発泡成形体を製造することができるので、その密度は特に限定されない。
【0053】
なお、本発明においてポリスチレン系樹脂発泡成形体の密度とは、JIS K7122:1999「発泡プラスチック及びゴム−見掛け密度の測定」記載の方法で測定した密度のことである。
<発泡成形体の密度>
50cm以上(半硬質および軟質材料の場合は100cm以上)の試験片を材料の元のセル構造を変えない様に切断し、その質量を測定し、次式により算出した。
密度(g/cm)=試験片質量(g)/試験片体積(cm
試験片状態調節、測定用試験片は、成形後72時間以上経過した試料から切り取り、23℃±2℃×50%±5%または27℃±2℃×65%±5%の雰囲気条件に16時間以上放置したものである。
<発泡倍数>
また、発泡成形体の「発泡倍数」は次式により算出される数値である。
発泡倍数=1/密度(g/cm
【0054】
本発明のポリスチレン系樹脂発泡成形体は、前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を用いたことによって、低発泡(高密度)の成形体を製造する場合であっても、粒子間の結合が強く、強度、成形品外観に優れた発泡成形体を得ることができる。この点から本発明のポリスチレン系樹脂発泡成形体は、密度0.05〜0.50g/cmの範囲とすることが好ましい。このような密度範囲のポリスチレン系樹脂発泡成形体としては、例えば、強度が必要な構造部材やパッキン材などの用途に好適である。
【実施例】
【0055】
以下、実施例によって本発明の具体例を示すが、以下の実施例は本発明の例示にすぎず、本発明は以下の実施例のみに限定されない。また、以下の実施例、比較例において、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の吸光度比の結果は、発泡剤含浸前のポリスチレン系樹脂粒子の吸光度比の結果と同様であった。
【0056】
以下の実施例、比較例において、ポリスチレン系樹脂粒子の吸光度比、発泡成形体の外観、発泡成形体中心の融着率及び総合評価は、次の測定方法及び評価基準により測定・評価した。
【0057】
<種粒子の重合転化率測定方法>
ポリスチレン系樹脂種粒子の重合転化率は下記の方法により求められる。
即ち、ポリスチレン系樹脂種粒子を分散液中から取り出し、該種粒子の表面に付着した水分をガーゼを用いて拭き取り除去する。
そして、該種粒子を0.08g採取し、トルエン24ミリリットル中に溶解させてトルエン溶液を作製する。次に、このトルエン溶液中に、ウイス試薬10ミリリットル、5質量%のヨウ化カリウム水溶液30ミリリットル及び1質量%のでんぷん水溶液30ミリリットルを供給し、N/40チオ硫酸ナトリウム溶液で滴定して試料の滴定数(ミリリットル)とする。なお、ウイス試薬は、氷酢酸2リットルにヨウ素8.7g及び三塩化ヨウ素7.9gを溶解してなるものである。
一方、ポリスチレン系樹脂種粒子を溶解させることなく、トルエン24ミリリットル中に、ウイス試薬10ミリリットル、5質量%のヨウ化カリウム水溶液30ミリリットル及び1質量%のでんぷん水溶液30ミリリットルを供給し、N/40チオ硫酸ナトリウム溶液で滴定してブランクの滴定数(ミリリットル)とする。
そして、ポリスチレン系樹脂種粒子中におけるスチレン系モノマー量を下記式に基づいて算出することができる。
ポリスチレン系樹脂種粒子中におけるスチレン系モノマー量A(質量%)=0.1322×(ブランクの滴定数−試料の滴定数)/試料の滴定数
重合転化率=100−A(%)
【0058】
<吸光度比の測定>
吸光度比(D1730/D1600)は下記の要領で測定される。
即ち、無作為に選択した10個の各樹脂粒子の表面(図1中の符号A)、及び粒子を中心を通って切断した断面の中心部(図2中の符号B)について、ATR法赤外分光分析により粒子表面分析を行って赤外線吸収スペクトルを得る。
各赤外線吸収スペクトルから吸光度比(D1730/D1600)をそれぞれ算出し、表面Aに付いて算出した吸光度比の相加平均を吸光度比(A)とし、中心部Bについて算出した吸光度比の相加平均を吸光度比(B)とする。
吸光度D1730及び、D1600は、たとえばNicolet社から商品名「フーリエ変換赤外分光分析計 MAGMA560」で販売されている測定装置を用いて測定する。
尚、赤外吸収スペクトルから得られる1600cm−1での吸光度D1600は、ポリスチレン系樹脂に含まれるベンゼン環の面内振動に由来する1600cm−1付近に現れるピークの高さをいう。
また、赤外吸収スペクトルから得られる1730cm−1での吸光度D1730は、アクリル酸エステルに含まれるエステル基のC=0間の伸縮振動に由来する1730cm−1付近に現れるピークの高さをいう。
【0059】
<発泡成形体の外観>
発泡成形体の外観は、発泡成形体表面から任意の10cm角の正方形面にある発泡粒子間を調べ、1mm角以上の粒子間空隙を計算する。評価基準は1mm角以上の空隙が5個未満を良好(○)、5個以上を不良(×)とした。
【0060】
<発泡成形体中心の融着率>
型内発泡成形体を折り曲げて厚み方向に破断させた後、破断面に存在する全ての予備発泡粒子の個数Aと、そのうち粒子自体が材料破壊した予備発泡粒子の個数Bとを計数した。 そして次式より粒子同士の融着性の基準となる融着率(%)を求めた。
融着率(%)=B/A×100
本発明において、発泡成形体中心の融着率が70%以上である場合を良好(○)とし、70%未満の場合を不良(×)として評価した。
【0061】
<総合評価>
前記<発泡成形体の外観>及び<発泡成形体中心の融着率>の各試験・評価項目において、全ての評価が○(良好)であった場合を◎(良好)とし、一つでも×(不良)があった場合を×(不良)として総合評価した。
【0062】
[実施例1]
(種粒子の製造)
内容量100リットルの攪拌機付き重合容器に、水40000質量部、懸濁安定剤として第三リン酸カルシウム100質量部及びアニオン界面活性剤としてドデシルベンゼンスルフォン酸カルシウム2.0質量部を供給し攪拌しながらスチレンモノマー40000質量部並びに重合開始剤としてベンゾイルパーオキサイド96.0質量部及びt−ブチルパーオキシベンゾエート28.0質量部を添加した上で90℃に昇温して重合した。そして、この温度で6時間保持し、更に、125℃に昇温してから2時間後に冷却してポリスチレン系樹脂粒子(a)を得た。
前記ポリスチレン系樹脂粒子(a)を篩分けし、種粒子として粒子径0.5〜0.71mmのポリスチレン系樹脂粒子(b)を得た。
次に、内容量5リットルの攪拌機付き重合容器内に、水2000質量部、前記ポリスチレン系樹脂粒子(b)500質量部、懸濁安定剤としてピロリン酸マグネシウム6.0質量部及びアニオン界面活性剤としてドデシルベンゼンスルフォン酸カルシウム0.3質量部を供給して攪拌しながら72℃に昇温した。
【0063】
(第1重合工程)
次に、重合開始剤としてベンゾイルパーオキサイド4.5質量部及びt−ブチルパーオキシベンゾエート1.1質量部をスチレンモノマー180質量部、アクリル酸ブチル30質量部の混合液に溶解させたものを前記5リットルの重合容器に供給してから、種粒子内に吸収させ、72℃で90分保持した。
この重合工程において、前記<種粒子の重合転化率測定方法>によって樹脂粒子の重合転化率を測定しながら重合反応を進めた。
【0064】
(第2重合工程)
90分経過後(種粒子の重合転化率97%)に反応液を110℃まで150分で昇温しつつ、且つスチレンモノマー1290gを150分で重合容器内にポンプで一定量づつ供給した上で、120℃に昇温して2時間経過後に冷却し、ポリスチレン系樹脂粒子(c)を得た。
得られたポリスチレン系樹脂粒子(c)について、前記<吸光度比の測定>によって樹脂粒子の表面の吸光度比(A)と中心部の吸光度比(B)とを測定した。
その結果を表1に示す。また得られた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子についても、前記<吸光度比の測定>により吸光度比を測定することができる。
【0065】
(発泡剤含浸)
続いて、別の内容量5リットルの攪拌機付き重合容器に、水2200質量部、ポリスチレン系樹脂粒子(c)1800質量部、懸濁安定剤としてピロリン酸マグネシウム6.0質量部及びドデシルベンゼンスルフォン酸カルシウム0.4質量部を供給して攪拌しながら70℃に昇温した。次に、発泡助剤としてシクロヘキサン9.0質量部を重合容器内に入れて密閉し100℃に昇温した。 次に、発泡剤としてn−ブタン126質量部をポリスチレン系樹脂粒子(c)が入った重合容器内に圧入して3時間保持した後、30℃以下まで冷却した上で重合容器内から取り出し乾燥させた上で13℃の恒温室内に5日間放置して発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得た。
【0066】
(予備発泡)
続いて、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表面に表面処理剤としてジンクステアレート及びヒドロキシステアリン酸トリグリセリドを被覆処理した。
次いで予備発泡装置にて嵩密度0.10g/cmに予備発泡した後に20℃で24時間熟成してポリスチレン系樹脂予備発泡粒子を得た。
【0067】
(発泡成形体の製造)
そして、内寸300mm×400mm×30mmの直方体形状のキャビティを有する成形型を備えた発泡ビーズ自動成形機(積水工機製作所社製 商品名「エース3型」)のキャビティ内に前記ポリスチレン系樹脂予備発泡粒子を充填し、ゲージ圧0.13Mpaの水蒸気で15秒間加熱成形を行った。次に、前記金型のキャビティ内の発泡体を5秒間水冷した後、減圧下にて放冷(冷却工程)して、密度0.10g/cmのポリスチレン系樹脂発泡成形体を得た。
得られた発泡成形体について、前記<発泡成形体の外観>、<発泡成形体中心の融着率>及び<総合評価>を測定・評価した。その結果を表2に示す。
本実施例で得られた発泡成形体は、粒子間の空隙も少なく外観の良好なものであり、発泡成形体内部の融着率は90%であった。
【0068】
[実施例2]
第1重合工程において使用するスチレンモノマーを40.0質量部、アクリル酸ブチル50.0質量部の混合液とし、更に第2重合工程で使用するスチレンモノマーを1410質量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてポリスチレン系樹脂発泡成形体を得た。
得られた発泡成形体は、粒子間の空隙も少なく外観の良好なものであり、発泡成形体内部の融着率は95%であった。
【0069】
[実施例3]
第1重合工程において使用するスチレンモノマーを375質量部、アクリル酸ブチル12.5質量部の混合液とし、更に第2重合工程で使用するスチレンモノマーを1115質量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてポリスチレン系樹脂発泡成形体を得た。
得られた発泡成形体は、粒子間の空隙も少なく外観の良好なものであり、発泡成形体内部の融着率は90%であった。
【0070】
[実施例4]
第2重合工程にスチレンモノマーを添加する際の種粒子の重合転化率を96%としたこと以外は、実施例1と同様にしてポリスチレン系樹脂発泡成形体を得た。
得られた発泡成形体は、粒子間の空隙も少なく外観の良好なものであり、発泡成形体内部の融着率は90%であった。
【0071】
[実施例5]
第2重合工程にスチレンモノマーを添加する際の種粒子の重合転化率を98%としたこと以外は、実施例1と同様にしてポリスチレン系樹脂発泡成形体を得た。
得られた発泡成形体は、粒子間の空隙も少なく外観の良好なものであり、発泡成形体内部の融着率は95%であった。
【0072】
[実施例6]
第1重合工程において使用するアクリル酸エステルをアクリル酸2エチルヘキシルとしたこと以外は、実施例1と同様にしてポリスチレン系樹脂発泡成形体を得た。
得られた発泡成形体は、粒子間の空隙も少なく外観の良好なものであり、発泡成形体内部の融着率は90%であった。
【0073】
[実施例7]
実施例1において、予備発泡工程を経ることなしに、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を直方体形状のキャビティを有する成形型を備えた発泡ビーズ自動成形機(積水工機製作所社製 商品名「エース3型」)のキャビティ内に前記ポリスチレン系樹脂予備発泡粒子を充填し、ゲージ圧0.13Mpaの水蒸気で15秒間加熱成形を行った。次に、前記成形型のキャビティ内の発泡体を5秒間水冷した後、減圧下にて放冷(冷却工程)してポリスチレン系樹脂発泡成形体を得た。
得られた発泡成形体は、密度が0.61g/cmであり、粒子間の空隙も少なく外観の良好なものであった。この発泡成形体内部の融着率は95%であった。
【0074】
[比較例1]
第1重合工程でアクリル酸ブチルを使用せず、スチレンモノマーを210質量部のみ使用したこと以外は、実施例1と同様にして発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得た。
しかし、発泡成形体の外観、及び内部融着は劣るものであった。
【0075】
[比較例2]
第1重合工程において使用するスチレンモノマーを25.0質量部、アクリル酸ブチル70.0質量部の混合液とし、第2重合工程で使用するスチレンモノマー1405質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得た。
得られた発泡成形体の内部融着は90%と良好であったが、発泡成形体の外観は溶けが発生し、劣るものであった。
【0076】
[比較例3]
第1重合工程において使用するスチレンモノマーを425質量部、アクリル酸ブチル7.5質量部の混合液とし、加えて第2重合工程で使用するスチレンモノマーを1070質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得た。
しかし、得られた発泡成形体の外観、及び内部融着は劣るものであった。
【0077】
[比較例4]
実施例3において、第2重合工程にスチレン系単量体を添加する際の種粒子の重合転化率を94%としたこと以外は、実施例3と同様にしてポリスチレン系樹脂発泡成形体を得た。しかし、得られた発泡成形体の外観、及び内部融着は劣るものであった。
【0078】
前記実施例1〜7、比較例1〜4の製造条件の概要と、各試験・評価結果を表1,2にまとめて記す。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
表1,2の結果より、本発明に係る実施例1〜7の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、吸光度比(A)と(B)とが、(B)<(A)、且つ(A)が0.020〜0.60の範囲内である関係を満たしたものなので、密度0.10g/cmの低発泡(高密度)の発泡成形体を製造した場合(実施例1〜6)、及び原粒成形した場合(実施例7)であっても、外観に優れ、内部の発泡粒同士の融着性に優れた発泡成形体を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を使用した低発泡(高密度)の成形体を得る方法において、発泡成形体の中心部の融着率を大幅に向上でき、強度面で優れるばかりか、短い成形サイクルで成形品を容易に得ることができる。
【符号の説明】
【0083】
1…発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、A…表面、B…中心部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸エステルとスチレン系単量体との共重合体を含有する発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって、ATR法赤外分光分析により前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表面を分析し得られた赤外スペクトルのうち、1730cm−1での吸光度D1730と1600cm−1での吸光度D1600とを求め、D1730/D1600から算出される吸光度比(A)とATR法赤外分光分析により前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の中心部を分析し得られた赤外スペクトルのうち、1730cm−1での吸光度D1730と1600cm−1での吸光度D1600とを求め、D1730/D1600から算出される吸光度比(B)とが、(B)<(A)であり、且つ(A)が0.20〜0.60の範囲内である関係を満たす発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項2】
前記吸光度比(B)が0.15〜0.50の範囲内である請求項1に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項3】
請求項1又は2記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡して得られたポリスチレン系樹脂予備発泡粒子。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を嵩密度が0.05〜0.50g/cmの範囲となるように予備発泡して得られたポリスチレン系樹脂予備発泡粒子。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を成形型のキャビティ内に充填して加熱、発泡させて得られたポリスチレン系樹脂発泡成形体。
【請求項6】
請求項3又は4に記載のポリスチレン系樹脂予備発泡粒子を成形型のキャビティ内に充填して加熱、発泡させて得られたポリスチレン系樹脂発泡成形体。
【請求項7】
(1)ポリスチレン系樹脂種粒子を水中に分散させてなる分散液中に、ポリスチレン系樹脂種粒子100質量部に対し、スチレン系単量体7.0〜80.0質量部とアクリル酸エステル単量体2.0〜12.0質量部とを供給し、これらの単量体を種粒子に吸収、重合させてポリスチレン系樹脂粒子を成長させる第1重合工程と、
(2)次いで、ポリスチレン系種粒子の重合転化率が96質量%以上となった時点で該分散液中にスチレン系単量体のみを供給し、これを種粒子に吸収、重合させてポリスチレン系樹脂粒子を成長させる第2重合工程と、
(3)第2重合工程を行ってポリスチレン系樹脂粒子を製造した後、又はポリスチレン系樹脂粒子の成長途上で発泡剤を含浸させて請求項1又は2記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得る工程とを有する発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−26509(P2011−26509A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175600(P2009−175600)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】