説明

発泡性耐火塗料

【課題】厚塗りした場合でも乾燥塗膜のクラックやピンホールの発生が抑制された発泡性耐火塗料を提供する。
【解決手段】有機結合材として、酢酸ビニル重合体及び酢酸ビニル/アクリル共重合体を含有することを特徴とする発泡性耐火塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚塗りした場合でも乾燥塗膜のクラックやピンホールの発生が抑制された発泡性耐火塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡性耐火塗料は、鉄骨造の建築建造物の柱、梁などに用いられる鋼材を火災から保護する目的で用いられる塗料であり、この塗料からなる塗膜は火災時に発泡して耐火断熱層を形成することにより鋼材の過度の温度上昇による強度低下を抑制する作用がある。
【0003】
発泡性耐火塗料としては、例えば、特許文献1〜3等に記載されており、発泡性耐火塗料に含まれる有機結合材(合成樹脂)としては、例えば、メラミン樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂等が知られている(特許文献1の[0007]、特許文献2の[0012]段落、特許文献3の[0017]段落等)。
【0004】
ところで、従来の発泡性耐火塗料を厚塗りする場合には、乾燥塗膜にクラックやピンホール等が生じることが指摘されており、これらは塗膜の外観不良や剥離等の原因となり得る。そのため、厚塗りした場合でもクラックやピンホール等の発生が抑制された発泡性耐火塗料の開発が進められているが、未だ十分な成果は得られていない。
【0005】
従って、厚塗りした場合でも乾燥塗膜のクラックやピンホールの発生が抑制された発泡性耐火塗料の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−40290号公報
【特許文献2】特開2002−309183号公報
【特許文献3】特開2006−342505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、厚塗りした場合でも乾燥塗膜のクラックやピンホールの発生が抑制された発泡性耐火塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の有機結合材を用いる場合には上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記の発泡性耐火塗料に関する。
1.有機結合材として、酢酸ビニル重合体及び酢酸ビニル/アクリル共重合体を含有することを特徴とする発泡性耐火塗料。
2.ウレタン系増粘剤を含有する、上記項1に記載の発泡性耐火塗料。
【0010】
以下、本発明の発泡性耐火塗料について詳細に説明する。
【0011】
本発明の発泡性耐火塗料は、有機結合材として酢酸ビニル重合体及び酢酸ビニル/アクリル共重合体を含有することを特徴とする。当該2種類の合成樹脂を併用することにより、発泡性耐火塗料を厚塗り(塗布1回当たりの乾燥膜厚が0.5mm以上)した場合でも乾燥塗膜のクラックやピンホールの発生を抑制することができる。
【0012】
有機結合材(合成樹脂)
本発明の発泡性耐火塗料では、有機結合材としては、酢酸ビニル重合体及び酢酸ビニル/アクリル共重合体を含有する。これらの合成樹脂は、有機溶媒に溶解させたもの又はエマルションとして水系分散媒に分散させたものが利用できる。水系分散媒としては水が好ましく、本発明では水を分散媒としたエマルションが好適に利用できる。
【0013】
有機結合材としては、実質的に上記2種の合成樹脂から構成されることが好ましく、酢酸ビニル重合体:酢酸ビニル/アクリル共重合体の重量比としては、固形分換算で90:10〜10:90が好ましく、80:20〜50:50がより好ましい。
【0014】
なお、本発明の効果を損なわない範囲で他の合成樹脂を併用することもできる。併用し得る合成樹脂としては、例えば、メラミン樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらの合成樹脂は1種又は2種以上を混合して使用できる。但し、これらの合成樹脂を併用する場合であっても、固形分換算の有機結合材100重量%に含まれる酢酸ビニル重合体及び酢酸ビニル/アクリル共重合体の含有量が固形分換算で50重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましい。
【0015】
その他の成分
発泡性耐火塗料に含まれるその他の成分は特に限定されず、公知の発泡性耐火塗料に用いられている成分の中から適宜選択して使用できる。以下では、本発明で使用できる他の成分の一例について説明する。
(含窒素発泡剤)
含窒素発泡剤としては限定されず、例えば、ジシアンジアミド、アゾジカルボンアミド、メラミン及びその誘導体、尿素、リン酸グアニル尿素、グアニジン、トリメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン等の中から適宜選択できる。
【0016】
含窒素発泡剤の含有量としては、固形分換算の有機結合材100重量部に対して10〜150重量部が好ましい。
(難燃性発泡剤)
難燃性発泡剤としては限定されず、例えば、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等のリン酸塩;メラミン被覆したポリリン酸アンモニウム;シリコーン被覆したポリリン酸アンモニウムなどが利用できる。中でもメラミン被覆したポリリン酸アンモニウム及びシリコーン被覆したポリリン酸アンモニウムは耐水性が高い点で好ましい。
【0017】
難燃性発泡剤の含有量としては、固形分換算の有機結合材100重量部に対して50〜200重量部が好ましい。
(炭化層形成剤)
炭化層形成剤としては限定されず、例えば、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ポリペンタエリスリトール等の多価アルコールの中から適宜選択できる。
【0018】
炭化層形成剤の含有量としては、固形分換算の有機結合材100重量部に対して20〜80重量部が好ましい。
(充填剤)
充填剤としては限定されず、公知の発泡性耐火塗料に含まれるものが使用できる。例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、タルク、マイカ、珪酸カルシウム、アルミナ、シリカ、ガラスフィラー、ガラスバルーン、シラスバルーン、無機繊維、ロックウール等の中から適宜選択できる。
【0019】
充填剤の含有量としては、固形分換算の有機結合材100重量部に対して30〜100重量部が好ましい。
(増粘剤)
増粘剤の添加は粘度や粘性の調整による塗り易さの向上を目的とするが、乾燥塗膜のクラックやピンホールの抑制効果も期待できる。増粘剤としては、ウレタン系増粘剤、アクリル系増粘剤、ポリアマイド系増粘剤、セルロース系増粘剤、ベントナイト等の粘土鉱物等の公知の増粘剤を用いることができるが、特にウレタン系増粘剤を用いる場合には発泡後のクラックや脱落の発生も抑制できるため、耐火性能低下の影響が小さい点で好ましい。
【0020】
増粘剤の含有量としては、固形分換算の有機結合材100重量部に対して1〜50重量部が好ましい。
(造膜助剤)
造膜助剤としては限定されず、公知の発泡性耐火塗料に含有されるものが使用できる。例えば、ポリオキシアルキレンエーテル系、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル系、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート系等が利用できる。
【0021】
造膜助剤の含有量は、他の成分の配合量等を考慮して適宜選択すればよい。
(消泡剤)
消泡剤としては限定されず、公知の発泡性耐火塗料に含有されるものが使用できる。例えば、シリコーン系エマルション等が利用できる。
【0022】
消泡剤の含有量は、他の成分の配合量等を考慮して適宜選択すればよい。
(その他の添加剤)
その他の添加剤として、難燃助剤、分散剤、湿潤剤、沈降防止剤等の公知の発泡性耐火塗料に含まれる添加剤が使用できる。
【0023】
発泡性耐火塗料は、上記各成分を十分に混合撹拌することにより得られる。発泡性耐火塗料は刷毛、スプレー等の通常の塗装方法により塗装することができるほか、コテ、へら、ローラー等による施工も可能である。特に本発明の発泡性耐火塗料は、厚塗り(塗布1回当たりの乾燥膜厚が0.5mm以上)した場合でも乾燥塗膜のクラックやピンホールの発生を抑制することができる。
【0024】
発泡性耐火塗料は、鉄骨だけでなく、適当な表面処理を施した後、アルミニウム、亜鉛鉄板、石綿セメント板などに好適に使用される。また、木材、合板、紙、繊維等の可燃性物質の準不燃化又は難燃化にも有用である。それ以外には電線ケーブルの被覆にも有効である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の発泡性耐火塗料は、有機結合材として酢酸ビニル重合体及び酢酸ビニル/アクリル共重合体を含有することを特徴とする。当該2種類の合成樹脂を併用することにより、発泡性耐火塗料を厚塗り(塗布1回当たりの乾燥膜厚が0.5mm以上)した場合でも乾燥塗膜のクラックやピンホールの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0027】
実施例1〜4及び比較例1〜2
(試料調製)
表1に示す材料を十分に混合撹拌することにより各発泡性耐火塗料を調製した。
【0028】
【表1】

【0029】
表1中の有機結合材(合成樹脂)には以下のものを用いた。また、有機結合材の重量部は固形分換算である。
※酢酸ビニル/アクリル共重合体水性エマルションは、ニチゴー・モビニール(株)製の商品名「モビニール662」(固形分50重量%)を用いた。
※酢酸ビニル重合体水性エマルションは、ニチゴー・モビニール(株)製の商品名「モビニールDC」(固形分56重量%)を用いた。
【0030】
また、アゾジカルボンアミド、メラミン、メラミン被覆ポリリン酸アンモニウム、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及び酸化チタンは粉末状の物を、ウレタン系増粘剤(ADEKA(株)製の商品名「アデカノールUH−450VF」)、アクリル系増粘剤、ポリオキシアルキレンエーテル系造膜助剤及びシリコーン系エマルション消泡剤は液状の物を用い、それらの重量部はその添加状態での添加重量部である。
(試験体作製)
(1)鉄板(縦150×横75×厚さ6mm)の前処理
エタノールにて鉄板表面をアルコール脱脂した。
(2)下塗材の塗装
JISK5621 2種に分類される防錆塗料(商品名:サビロン♯10 カナエ塗料(株)製)を塗料用シンナーで希釈し粘性調整した後、ローラーにて目標乾燥膜厚30μmとして2回塗布した。乾燥後、電磁式膜厚計で試験体の3点を測定しその平均値を下塗の膜厚とした。
(3)発泡性耐火塗料の塗装
鉄板に1回の乾燥膜厚が0.5mmとなるようにへら付けし、3回塗りで乾燥膜厚が1.5mmとなるように塗装した。塗装間隔は5時間以上自然乾燥とし、3回目塗装後2日間以上自然乾燥させて試験体とした。電磁式膜厚計で試験体の3点を測定しその平均値と下塗りの膜厚との差を耐火塗料の膜厚とした。
【0031】
上記工程を経て試験体(各実施例、比較例ごとに2試験体ずつ)を作製した。
(塗膜の外観観察及び評価方法)
耐火塗料を塗装した試験体の外観観察を実施した。耐火塗料の塗膜外観をJISK5600-8-4の規定による等級にて、割れ(クラック)の大きさ、量、深さについて評価した。評価基準は次の通りである。また、10倍ルーペを用いて塗膜の最も大きいクラック幅及びピンホールの最大直径について0.1mmの精度で測定した。ピンホールについては10倍の視野で確認できるものについて、1cm角内の個数を計測した。
≪JISK5600-8-4の割れの大きさの評価≫
等級0:10倍に拡大しても視感できない
等級1:10倍に拡大すれば視感できる
等級2:正常に補正された視力でやっと認識できる
等級3:正常に補正された視力で明らかに認識できる
等級4:一般的に幅1mmに達する大きな割れ
等級5:一般的に幅1mmを超える非常に大きな割れ
≪JISK5600-8-4の割れの量の評価≫
等級0:なし、すなわち判別できるような欠陥がない
等級1:極めてわずか、すなわちやっと判別できる程度の変化
等級2:わずか、すなわち小さいが判別できる量の欠陥
等級3:中低度、すなわち中程度の量の欠陥
等級4:重大、すなわち著しい量の欠陥
等級5:甚大、すなわち濃密なパターンの欠陥
≪JISK5600-8-4の割れの深さの評価≫
等級a:上塗を貫通していない表面の割れ
等級b:上塗を貫通しているが、その下の塗膜は割れなし
等級c:全塗装膜層を貫通している割れ
上記各項目の評価結果を表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
(考 察)
以上の結果から明らかな通り、有機結合材として酢酸ビニル重合体及び酢酸ビニル/アクリル共重合体を含有する実施例1〜4の発泡性耐火塗料から形成される乾燥塗膜はクラック及びピンホールの発生が抑制されていることが分かる。他方、1種の合成樹脂しか含まない比較例1、2では、合成樹脂(有機結合材)以外の配合が同じである実施例1に比べて、クラック及びピンホールの発生量が多くなっている。即ち、乾燥塗膜のクラックやピンホール等の発生を抑制するためには、酢酸ビニル重合体及び酢酸ビニル/アクリル共重合体を含有する有機結合材を用いることが有利であると分かる。
【0034】
また、実施例1〜4、比較例1〜2の乾燥塗膜を電気炉で加熱して発泡耐火層を形成したところ、実施例1〜3及び比較例1〜2は同程度の発泡耐火層が得られたが、ウレタン系以外の増粘剤(アクリル系増粘剤)を用いた実施例4は発泡耐火層の発泡高さがやや低く一部に鉄板からの脱落が見られた。
【0035】
また、実施例2の配合の耐火塗料を鋼管柱(□−300×300×t19mm,L=3500mm)に乾燥膜厚1.0mmで施工し、耐火試験を実施したところ、建築基準法第2条七号の試験・評価における1時間耐火の性能を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機結合材として、酢酸ビニル重合体及び酢酸ビニル/アクリル共重合体を含有することを特徴とする発泡性耐火塗料。
【請求項2】
ウレタン系増粘剤を含有する、請求項1に記載の発泡性耐火塗料。

【公開番号】特開2010−270307(P2010−270307A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68609(P2010−68609)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000149136)日本インシュレーション株式会社 (19)
【Fターム(参考)】