説明

発泡成型品

【課題】耐熱性等に優れるポリ乳酸の発泡成型品を提供する。
【解決手段】ポリイソシアネートによりアミド結合を介して鎖延長されたポリ乳酸を含むステレオコンプレックスポリ乳酸の発泡成型品である。
ステレオコンプレックスポリ乳酸としては、L−乳酸を主成分とするポリL−乳酸(a−1)とD−乳酸を主成分とするポリD−乳酸(a−2)を含有する組成物を、ポリイソシアネートと反応させて得られたアミド結合を有するポリ乳酸樹脂(A)などの発泡成型品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のポリ乳酸樹脂組成物からなる発泡成型品に関する。さらに詳しくは、特定のポリ乳酸を発泡成型することにより得られる、耐熱性、軽量性、耐加水分解性に優れた発泡成型品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源枯渇の懸念や、地球温暖化を引き起こす二酸化炭素の増加の問題から、原料を石油に依存せず、また燃焼させても二酸化炭素を増加させないカーボンニュートラルが成り立つバイオマス資源が大きく注目を集めるようになってきている。ポリマーの分野においても、バイオマス資源から生産されるバイオマスプラスチックが盛んに開発されている。
【0003】
バイオマスプラスチックの代表例がポリ乳酸であり、バイオマスプラスチックの中でも比較的高い耐熱性、機械特性を有するため、発泡成型による食品容器、使い捨てコップ、断熱材、緩衝材にも用途展開が検討され(特許文献1参照)、それら用途や雑貨などへと実用化が進んでおり、更に最近では、工業材料としての可能性も検討されるようになってきた。
【0004】
しかしながら、ポリ乳酸は、本来は生分解性樹脂として開発されたものであるため、土中への廃棄後には分解されて二酸化炭素と水に変わるという利点はあるが、生分解性を有するということが逆に加水分解を受けやすいという欠点となる。これは、ポリ乳酸を工業材料などへ展開しようとした場合、製品として長期の湿熱環境に曝されたときの耐久性、すなわち耐加水分解性が劣るという課題となることになる。
【0005】
一方、ポリ乳酸には光学異性体が存在し、それぞれL−乳酸とD−乳酸の重合体であるポリL−乳酸とポリD−乳酸を混合すると、ステレオコンプレックス結晶を形成し、ポリL−乳酸あるいはポリD−乳酸単独の結晶より高い融点を示す材料となることが知られており(特許文献2、非特許文献1参照)、このステレオコンプレックスポリ乳酸を、その耐熱性を活かして自動車部品や家電部品などの工業用途に利用しようとする試みが行われている(特許文献3参照)。そして、このステレオコンプレックスポリ乳酸は、一般的に利用されているポリL−乳酸よりも耐加水分解性に優れることも知られている(非特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、このステレオコンプレックスポリ乳酸を、工業的に有利な溶融押出プロセスにて作製して、発泡成型などの加工方法により工業材料などの製品を得ようとした場合、ステレオコンプレックス化を十分に進めるのが非常に困難であり、ステレオコンプレックス化が不十分であるとその特徴である良好な耐熱性や耐加水分解性が発揮されないことになる。
【0007】
ポリL−乳酸とポリD−乳酸の混合物を260℃〜300℃の高温条件下で熱処理を行うこと方法も提案されているが、高いエネルギーが必要であることやポリ乳酸の熱分解による分子量や機械特性の低下や着色等の問題が起こりうる(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平04−304244号公報
【特許文献2】特開昭63−241024号公報
【特許文献3】特許第3583097号公報
【特許文献4】特開2007−191553号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Macromolecules, 24, 5651(1991)
【非特許文献2】Polymer, 41, 3621(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の主たる解決課題は、耐熱性、機械特性等に優れるポリ乳酸樹脂の発泡成型品を提供することにある。
本発明者らは、鋭意検討した結果、ポリイソシアネートによりアミド結合を介して鎖延長された特定のポリ乳酸を用いることにより、比較的マイルドな条件での成型が可能になり、発泡成型することにより、耐熱性、機械特性に優れた発泡成型品が得られることを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、
[1]
ポリイソシアネートによりアミド結合を介して鎖延長されたポリ乳酸を含むステレオコンプレックスポリ乳酸からなる発泡成型品。
[2]
L−乳酸を主成分とするポリL−乳酸(a−1)とD−乳酸を主成分とするポリD−乳酸(a−2)を含有する組成物を、ポリイソシアネートと反応させて得られたアミド結合を有するポリ乳酸樹脂(A)からなる発泡成型品。
[3]
L−乳酸を主成分とするポリL−乳酸樹脂(A’−1)およびD−乳酸を主成分とするポリD−乳酸樹脂(A’−2)を含有し、ポリL−乳酸樹脂(A’−1)およびポリD−乳酸樹脂(A’−2)の少なくともいずれか一方が、ポリL−乳酸(a’−1)またはポリD−乳酸(a’−2)とポリイソシアネートを反応させて得られたアミド結合を有するポリ乳酸樹脂であることを特徴とするポリ乳酸樹脂組成物(A’) からなる発泡成型品。
[4]
L−乳酸を主成分とするL−乳酸オリゴマー(a’’−1)と、D−乳酸を主成分として前記L−乳酸オリゴマーよりも大きい分子量を持つポリD−乳酸樹脂(A’’−2)を含む組成物、或いは、D−乳酸を主成分とするD−乳酸オリゴマー(a’’−2)と、L−乳酸を主成分として前記D−乳酸オリゴマーよりも大きい分子量を持つポリL−乳酸樹脂(A’’−1)を含む組成物と、ポリイソシアネートを反応させて得られたポリ乳酸樹脂組成物(A’’) からなる発泡成型品。
[5]
前記ポリ乳酸樹脂(A)、ポリ乳酸樹脂組成物(A’)またはポリ乳酸樹脂組成物(A’’)が、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が70%以上である前記の発泡成型品。
[6]
末端封鎖剤(B)を、ポリ乳酸樹脂(A)、ポリ乳酸樹脂組成物(A’)またはポリ乳酸樹脂組成物(A’’)100重量部あたり、0.01〜5重量部含む前期の発泡成型品。
[7]
前記のポリイソシアネートが脂肪族ジイソシアネートである前期の発泡成型品。
である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の成型品は、高温、長時間といった過酷な条件を必須とせずに比較的マイルドな条件でも高いステレオコンプレックスの形成能を有するポリ乳酸樹脂(組成物)を用いることにより、比較的マイルドな条件で押出成型して得られる。
【0013】
本発明の成型品は、良好な耐熱性、機械特性、および耐加水分解性を有し、加えて成型加工温度を低くできるため、環境負荷が低減されている。
前記の特徴を有する本発明の成型品は、包装容器、緩衝材、各種電子・電気機器、OA機器、車両部品、機械部品、その他農業資材、漁業資材、搬送容器、遊戯具および雑貨などの各種用途に有用であり、その奏する産業上の効果は格別である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のポリ乳酸、及びその他の各成分、それらの配合割合、調製方法等について、順次具体的に説明する。
<ポリイソシアネートによりアミド結合を介して鎖延長されたポリ乳酸を含むステレオコンプレックスポリ乳酸>
本発明のステレオコンプレックスポリ乳酸は、例えば特許文献1や非特許文献1等に記載されているように、ポリL−乳酸あるいはポリD−乳酸単独の結晶より高い融点を示すステレオコンプレックス結晶を形成しうるものであり、且つポリイソシアネートによりアミド結合を介して鎖延長されたポリ乳酸を含むものである。
【0015】
本発明のポリイソシアネートによりアミド結合を介して鎖延長されたポリ乳酸を含むステレオコンプレックスポリ乳酸としては、例えば、
L−乳酸を主成分とするポリL−乳酸(a−1)とD−乳酸を主成分とするポリD−乳酸(a−2)を含有する組成物を、ポリイソシアネートと反応させて得られたアミド結合を有するポリ乳酸樹脂(A)であってもよく、
L−乳酸を主成分とするポリL−乳酸樹脂(A’−1)およびD−乳酸を主成分とするポリD−乳酸樹脂(A’−2)を含有し、ポリL−乳酸樹脂(A’−1)およびポリD−乳酸樹脂(A’−2)の少なくともいずれか一方が、ポリL−乳酸(a’−1)またはポリD−乳酸(a’−2)とポリイソシアネートを反応させて得られたアミド結合を有するポリ乳酸樹脂であることを特徴とするポリ乳酸樹脂組成物(A’)であってもよく、または、
L−乳酸を主成分とするL−乳酸オリゴマー(a’’−1)と、D−乳酸を主成分として前記L−乳酸オリゴマーよりも大きい分子量を持つポリD−乳酸樹脂(A’’−2)を含む組成物、或いは、D−乳酸を主成分とするD−乳酸オリゴマー(a’’−2)と、L−乳酸を主成分として前記D−乳酸オリゴマーよりも大きい分子量を持つポリL−乳酸樹脂(A’’−1)を含む組成物と、ポリイソシアネートを反応させて得られたポリ乳酸樹脂組成物(A’’)であってもよい。
【0016】
ここで「主成分」とはポリマー中に指定される構成単位を60重量%以上、好ましくは80%重量以上、より好ましくは90重量%以上含むことを意味する。
【0017】
<ポリ乳酸樹脂(A)>
本発明のポリ乳酸樹脂(A)は、L−乳酸を主成分とするポリL−乳酸(a−1)とD−乳酸を主成分とするポリD−乳酸(a−2)を含有する組成物を、ポリイソシアネートと反応させて得られたアミド結合を有するポリ乳酸樹脂である。アミド結合を有することは耐熱性及び結晶性向上の観点から好ましい。
ポリ乳酸樹脂(A)の重量平均分子量は、50,000〜1,000,000であることが好ましく、下限は70,000以上であることがより好ましく、80,000以上であることがさらに好ましく、100,000以上であることが特に好ましい。上限は700,000以下であることがより好ましく、500,000以下であることがさらに好ましく、300,000以下であることがさらにより好ましく、250,000以下であることが特に好ましく、200,000以下であることがさらに特に好ましい。具体的には80,000〜500,000であり、より好ましくは100,000〜300,000であり、更に好ましくは100,000〜250,000であり、100,000〜200,000が成型性及び機械強度の点から特に好ましい。重量平均分子量は溶離液にクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量値である。
【0018】
ポリ乳酸樹脂(A)は、L−乳酸を主成分とするポリL−乳酸(a−1)とD−乳酸を主成分とするポリD−乳酸(a−2)を構成成分として含む。
ポリL−乳酸(a−1)は、L−乳酸単位90〜100モル%と、D−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0〜10モル%とにより構成されるポリL−乳酸であることが好ましく、L―乳酸単位90〜99モル%と、D−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位1〜10モル%とにより構成されるポリL−乳酸であることがより好ましい。
ポリD−乳酸(a−2)は、D−乳酸単位90〜100モル%と、L−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0〜10モル%とにより構成されるポリD−乳酸であることが好ましく、D―乳酸単位90〜99モル%と、L−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位1〜10モル%とにより構成されるポリD−乳酸であることがより好ましい。
【0019】
ポリ乳酸樹脂(A)中における、ポリL−乳酸(a−1)及びポリD−乳酸(a−2)の重量比は、10/90〜90/10であるが、より多くのステレオコンプレックスを形成させるためには、25/75〜75/25であることが好ましく、より好ましくは30/70〜70/30であり、さらに好ましくは40/60〜60/40である。一方のポリマーの重量比が10重量%未満であるか、または90重量%を超えると、ホモ結晶化が優先してしまい、ステレオコンプレックスを形成し難くなることがある。
【0020】
ポリ乳酸樹脂(A)中のポリL−乳酸(a−1)及びポリD−乳酸(a−2)における乳酸以外の共重合成分単位としては、後述する製法にある開始剤を含め、2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つ多価カルボン酸、多価アルコール、多価アミン、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等由来の単位およびこれら種々の構成成分からなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリアミド、各種ポリカーボネート等由来の単位を単独、もしくは混合して使用することができ、具体的には、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸、マレイン酸、テトラブロムフタル酸、テトラヒドロフタル酸、またはドデシルコハク酸などの多価カルボン酸類またはそれらの誘導体、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ソルビトール、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリレート)、ビスフェノールにエチレンオキシドを付加反応させた芳香族多価アルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの多価アルコール類またはそれらの誘導体、多価アミンとして、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ペンチレンジアミン、ヘキチレンアミン、ヘプチレンジアミン、ジエチレントリアミン、メラミンなどの多価アミン類またはそれらの誘導体、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸、2−シクロヘキシル−2−ヒドロキシ酢酸、マンデル酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸類、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトンなどのラクトン類などが挙げられる。
【0021】
ポリ乳酸樹脂(A)を構成するポリL−乳酸(a−1)及びポリD−乳酸(a−2)の重量平均分子量は、それぞれ好ましくは5,000〜100,000である。より好ましくは10,000〜80,000であり、さらに好ましくは10,000〜70,000であり、10,000〜50,000が特に好ましい。重量平均分子量は溶離液にクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量値である。
また、ポリ乳酸樹脂(A)を構成するポリL−乳酸(a−1)及びポリD−乳酸(a−2)は末端官能基におけるカルボキシル基の割合が50%を超えることが好ましい。より好ましくは、末端官能基におけるカルボキシル基の割合が85%以上であり、更に好ましくは末端官能基におけるカルボキシル基の割合が90%以上であり、末端官能基におけるカルボキシル基の割合が95%以上であることが特に好ましい。カルボキシル基の割合が高くなることで、後述する製造方法においてアミド結合がより多く形成され耐熱性及び結晶性の観点で好ましい。
【0022】
L−乳酸を主成分とするポリL−乳酸(a−1)とD−乳酸を主成分とするポリD−乳酸(a−2)を含む組成物には、ポリ乳酸以外のイソシアネートと反応するその他の樹脂成分を含んでいてもよい。
その他の樹脂成分については後記する。
【0023】
<ポリL−乳酸(a−1)、ポリD−乳酸(a−2)の製造方法>
ポリ乳酸樹脂(A)を構成するポリL−乳酸(a−1)及びポリD−乳酸(a−2)は、既知の任意のポリ乳酸の重合方法により製造方法することができ、例えばラクチドの開環重合、乳酸の脱水縮合、およびこれらと固相重合を組み合わせた方法などにより製造することができる。
【0024】
(直接重縮合法)
L−乳酸またはD−乳酸を主成分とするポリ乳酸を直接重縮合法により調製する具体例としては、原料のL−乳酸またはD−乳酸を不活性ガス雰囲気中において加熱し、圧力を降下させて重縮合反応させ、最終的に所定の温度および圧力の条件下で重縮合反応を行うことにより、ポリ乳酸樹脂(A)を構成するポリL−乳酸(a−1)及びポリD−乳酸(a−2)を得る方法がある。このとき、原料である乳酸とともにポリカルボン酸または酸無水物等を重合初期、途中または後期のいずれかに添加することにより末端官能基におけるカルボキシル基の割合が50%を超えるL−乳酸を主成分とするポリL−乳酸(a−1)および末端官能基におけるカルボキシル基の割合が50%を超えるD−乳酸を主成分とするポリD−乳酸(a−2)を調製することができる。
【0025】
該ポリカルボン酸成分としてはジカルボン酸が好ましく、該ジカルボン酸成分としては、コハク酸、フタル酸、マレイン酸、テトラブロムフタル酸、テトラヒドロフタル酸、トリメリット酸またはドデシルコハク酸などが挙げられ、コハク酸がコスト面から特に好ましい。該酸無水物としては無水コハク酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、テトラブロム無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸またはドデシル無水コハク酸などが挙げられ、無水コハク酸が特に好ましい。
【0026】
該ポリカルボン酸または酸無水物を重合後期に添加する場合の添加量は、添加前のポリL−乳酸(a−1)またはポリD−乳酸(a−2)100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部であり、さらに好ましくは0.5〜8重量部であり、特に好ましくは0.5〜5重量部である。該ポリカルボン酸または酸無水物を重合途中または後期に添加する場合、ポリL−乳酸(a−1)およびポリD−乳酸(a−2)の目的の分子量にあわせて添加すればよい。具体的には、使用するL−乳酸またはD−乳酸100重量部に対して0.001〜5重量部が好ましく、0.01〜3重量部がより好ましい。また、該ポリカルボン酸または酸無水物を重合途中または初期に添加する場合、ポリL−乳酸(a−1)およびポリD−乳酸(a−2)の目的の分子量にあわせて添加すればよい。具体的には、使用するL−乳酸またはD−乳酸100モルに対して好ましくは0.19〜3.8モル、より好ましくは0.24〜1.9モル、さらに好ましくは0.38〜1.9モルである。
該ポリカルボン酸または酸無水物の添加量が前記範囲にあると、重合に長時間を要すことなく分子量を所望の範囲にすることができる。
【0027】
また、該重縮合反応は重縮合時間を短縮する目的や、上記酸無水物との反応率を高めたり反応時間を短縮する目的で、触媒存在下に行ってもよい。該触媒としては、周期律表第2族、12族、13族、14族もしくは15族の金属、またはその酸化物もしくはその塩等があげられる。具体的には、亜鉛末、錫末、アルミニウムもしくはマグネシウム等の金属、酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムもしくは酸化チタン等の金属酸化物、塩化第一錫、塩化第二錫、臭化第一錫、臭化第二錫、フッ化アンチモン、塩化亜鉛、塩化マグネシウムもしくは塩化アルミニウム等の金属ハロゲン化物、炭酸マグネシウムもしくは炭酸亜鉛等の炭酸塩、酢酸錫、2−エチルヘキサン酸錫、乳酸錫、酢酸亜鉛もしくは酢酸アルミニウム等の有機カルボン酸塩、またはトリフルオロメタンスルホン酸錫、トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛、トリフルオロメタンスルホン酸マグネシウム、メタンスルホン酸錫もしくはp−トルエンスルホン酸錫等の有機スルホン酸塩等があげられる。その他、ジブチルチンオキサイド等の上記金属の有機金属酸化物、チタニウムイソプロポキサイド等の上記金属の金属アルコキサイド、ジエチル亜鉛等の上記金属のアルキル金属、ダウエックスもしくはアンバーライト等のイオン交換樹脂等、または、硫酸、メタンスルホン酸もしくはp−トルエンスルホン酸等のプロトン酸などが挙げられ、重合速度が速く高分子量のポリマーが得られる錫もしくは亜鉛の金属またはその金属化合物が好ましい。さらには、金属錫または酸化錫や塩化錫等の錫化合物が色相、触媒活性の点から特に好ましい。触媒の添加量は、特に限定されるものではないが、使用するL−乳酸またはD−乳酸100重量部に対して0.001〜2重量部が好ましく、とくに0.001〜1重量部がより好ましい。また、使用するL−乳酸またはD−乳酸100モルに対して0.01〜2モルが好ましく、0.1〜1モルがより好ましい。本願において触媒は必須ではないが、触媒量が0.001重量部未満では重合時間の短縮という触媒の効果が十分に現れない場合がある。また、2重量部を越えて触媒を配合した場合、触媒残渣の影響によるポリ乳酸樹脂成型加工時の分子量低下や熱分解等を抑えるために、別途触媒残渣除去行程が必要になる場合がある。
【0028】
(開環重合法)
ポリ乳酸樹脂(A)を構成するポリL−乳酸(a−1)及びポリD−乳酸(a−2)を得るには、上述した乳酸環状二量体であるL−ラクチドおよびD−ラクチドを水酸基またはアミノ基を分子内に2個以上含有する化合物、ヒドロキシカルボン酸、水等の開始剤を用いて開環重合をおこなう。また、ポリ乳酸樹脂(A)を構成するポリL−乳酸(a−1)及びポリD−乳酸(a−2)の末端官能基がカルボキシル基である割合が50%を超えて調製する具体例としては、上述した乳酸環状二量体であるL−ラクチドおよびD−ラクチドを水酸基またはアミノ基を分子内に2個以上含有する化合物、ヒドロキシカルボン酸、水等の開始剤を用いて開環重合した後、酸無水物を添加することにより得る方法が挙げられる。該水酸基またはアミノ基を分子内に2個以上含有する化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ソルビトール、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリレート)などの多価アルコール、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ペンタンジアミン、ヘキサンジアミン、ヘプタンジアミン、ジエチレントリアミン、メラミンなどの多価アミンなどが挙げられる。上記開始剤の添加量は、特に限定されるものではないが、使用するラクチド(L−ラクチドまたはD−ラクチド)100重量部に対して0.001〜5重量部が好ましく、0.01〜3重量部がより好ましい。また、使用するラクチド(L−ラクチドまたはD−ラクチド)100モルに対して0.38〜7.7モルが好ましく、0.48〜3.84モルがより好ましく、0.77〜3.84モルが更に好ましい。
【0029】
重合開始剤量が前記範囲にあると、分子量を所望の範囲にすることができる。
【0030】
酸無水物としては直接重縮合法で用いることができる酸無水物の具体例と同様の化合物が挙げられ、無水コハク酸が好ましい。該酸無水物の添加量は、添加前のポリ乳酸樹脂(A)を構成するポリL−乳酸(a−1)及びポリD−乳酸(a−2)100重量部に対して、0.1〜10重量部であり、好ましくは0.5〜8重量部であり、さらに好ましくは0.5〜5重量部である。
【0031】
また、該開環重合は重合時間を短縮する目的や、上記酸無水物との反応率を高めたり反応時間を短縮する目的で、触媒存在下に行ってもよい。
触媒としては、例えば、錫、亜鉛、鉛、チタン、ビスマス、ジルコニウム、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウムなどの金属及びその誘導体が挙げられる。誘導体としては、金属アルコキシド、カルボン酸塩、炭酸塩、酸化物、ハロゲン化物が好ましい。具体的には、塩化錫、2−エチルヘキサン酸錫、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、酸化鉛、炭酸鉛、塩化チタン、アルコキシチタン、酸化ゲルマニウム、酸化ジルコニウムなどが挙げられる。これらの中でも、錫化合物が好ましく、特に2−エチルヘキサン酸錫がより好ましい。触媒の添加量は、特に限定されるものではないが、使用するL−ラクチドまたはD−ラクチド100重量部に対して0.001〜2重量部が好ましく、とくに0.001〜1重量部がより好ましい。また、使用するL−ラクチドまたはD−ラクチド100モルに対して0.01〜2モルが好ましく、0.1〜1モルがより好ましい。
【0032】
本願において触媒は必須ではないが、触媒量が0.001重量部未満では重合時間の短縮という触媒の効果が十分に現れない場合がある。また、2重量部を越えて触媒を配合した場合、触媒残渣の影響によるポリ乳酸樹脂成型加工時の分子量低下や熱分解等を抑えるために、別途触媒残渣除去行程が必要になる場合がある。
【0033】
(固相重合)
前記直接重合法または開環重合法と固相重合法とを組み合わせた方法としては、例えば特開2000−302852号や、特開2001−122954号等に記載されている方法を用いることができる。
【0034】
<ポリ乳酸樹脂(A)の製造方法>
本発明のポリ乳酸樹脂(A)の製造方法は、前記L−乳酸を主成分とするポリL−乳酸(a−1)とD−乳酸を主成分とするポリD−乳酸(a−2)を含有する組成物と、ポリイソシアネート化合物とを反応させる工程を含む。本反応においては、末端官能基であるカルボキシル基がポリイソシアネートと反応することでアミド結合を形成する。また、上記反応においてアミド化触媒を用いて反応を行うことが好ましい。該工程の具体例として以下の方法が挙げられるが、本発明の目的を損なわない限り、何らこれに限定されない。
【0035】
まず、前記L−乳酸を主成分とするポリL−乳酸(a−1)及びD−乳酸を主成分とするポリD−乳酸(a−2)を含む組成物と溶媒とを混合し、常圧、窒素雰囲気下で、該混合物を所定の温度まで昇温する。次に、該混合物に必要に応じて触媒を加えた後、さらにポリイソシアネート化合物を加え、所定の温度で反応させる。最後に、得られた反応生成物を脱炭酸することによりポリ乳酸樹脂(A)を得ることができる。前記ポリイソシアネート化合物は、ジイソシアネート化合物であることが好ましい。
また本工程において、反応物の分子量の増加とともに粘度が急激に上昇する。そのため、前述のように溶液で攪拌しながら反応させる方法のほかに、押出機、特に二軸混練押出機を用い、無溶媒で混練、反応させて生成物を押し出す方法も、溶媒が不要で生成物の後処理が簡便になり効果的である。
【0036】
<ポリイソシアネート化合物>
当該工程に用いるポリイソシアネート化合物は、イソシアネート基を2個以上有している化合物であり、本発明の目的を阻害しなければ特に限定されない。イソシアネート基を3個以上有するポリイソシアネート化合物としては、1,6,11−ウンデカントリイソシアネートなどのトリイソシアネート類やポリフェニルメタンポリイソシアネート等の多イソシアネート置換化合物類が挙げられる。前記ポリイソシアネート化合物は、ジイソシアネート化合物であることが好ましい。
【0037】
ジイソシアネート化合物としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートとの混合体、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3−(ビスイソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ−[2,2,1]−ヘプタンまたはビス(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタンなどが挙げられ、より好適な例として、1,3−キシリレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3−(ビスイソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ−[2,2,1]−ヘプタンまたはビス(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタンなどが挙げられる。
【0038】
これらの中でも、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3−(ビスイソシアナトメチル)シクロヘキサン、ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ−[2,2,1]−ヘプタンおよびビス(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタンからなる群より選ばれる1種の化合物であることが好ましく、また、脂肪族ジイソシアネート化合物であることが好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネートであることが特に好ましい。上記ポリイソシアネート化合物が、脂肪族ジイソシアネートであると、得られるポリ乳酸樹脂(A)の色調の点で好ましい。
【0039】
(ポリイソシアネートの添加量)
上記ポリイソシアネート化合物の添加量は、上記ポリL−乳酸(a−1)及びポリD−乳酸(a−2)を少なくとも含んだ混合物の全末端官能基数から算出したモル数に基づいて決定する。ポリL−乳酸(a−1)及びポリD−乳酸(a−2)の末端官能基数を求める方法は、NMRおよびカルボン酸価により算出する。NMRおよびカルボン酸価は後述する実施例に記載した方法で測定する。
【0040】
上記ポリイソシアネート化合物の添加量は、上記L−乳酸を主成分とするポリL−乳酸(a−1)及びD−乳酸を主成分とするポリD−乳酸(a−2)を少なくとも含んだ混合物の末端官能基のモル数に対して0.8〜2.0倍モルであることが好ましく、0.8〜1.5倍モルであることがさらに好ましく、0.8〜1.3倍モルであることが特に好ましい。ここで「倍モル」とは、「イソシアネート基数(モル)/末端官能基数(モル)」により算出される値の単位である。
【0041】
上記ポリイソシアネート化合物の添加量が前記下限値未満であると、ポリイソシアネート化合物の添加効果が小さく、高分子量のポリ乳酸樹脂(A)を得ることが困難となる場合がある。一方、前記上限値を超えると、イソシアネートが架橋反応などの副反応を引き起こし、ゲル状のポリ乳酸樹脂(A)が生成することがある。
【0042】
<アミド化触媒>
本発明においてアミド化触媒とは、上記ポリ乳酸樹脂(A)を構成するポリL−乳酸(a−1)及びポリD−乳酸(a−2)の末端カルボキシル基部分を優先的に上記ポリイソシアネート化合物と反応させて、アミド結合を形成させる触媒をいう。
【0043】
前記工程に用いられるアミド化触媒は、周期律表第1族、2族および3族における金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含むことが好ましく、カリウム、マグネシウム、カルシウムおよびイッテルビウムの群より選ばれる少なくとも1種の金属を含むことがより好ましく、マグネシウムまたはカルシウムを含むことが特に好ましい。このような金属を含んでいると触媒効果とポリ乳酸樹脂(A)の色調の点で好ましい。
【0044】
上記周期律表第1族金属を含むアミド化触媒としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムもしくはセシウムの、有機酸塩、金属アルコキシドもしくは金属錯体(アセチルアセトナートなど)等の有機金属化合物;金属酸化物、金属水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩化物もしくはフッ化物などの無機金属化合物が挙げられ、また上記周期律表第2族金属を含むアミド化触媒としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムもしくはバリウムの、有機酸塩、金属アルコキシドもしくは金属錯体(アセチルアセトナートなど)等の有機金属化合物;金属酸化物、金属水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩化物もしくはフッ化物などの無機金属化合物が挙げられる。さらには、上記周期律表第3族金属を含むアミド化触媒としては、スカンジウム、イッテルビウム、イットリウムもしくは他の希土類の、有機酸塩、金属アルコキシドもしくは金属錯体(アセチルアセトナートなど)等の有機金属化合物;金属酸化物、金属水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩化物もしくはフッ化物などの無機金属化合物が挙げられる。これらは単独で使用しても、また併用してもよい。これらの金属化合物触媒の中でも、ビス(アセチルアセトナト)マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、塩化マグネシウム、イッテルビウムトリフラートなどが好ましく、さらにはマグネシウム化合物、特に、ビス(アセチルアセトナト)マグネシウム、ステアリン酸マグネシウムが好ましい。これらの触媒は2種以上併用することもできる。
【0045】
上記アミド化触媒の添加量は、L−乳酸を主成分とするポリL−乳酸(a−1)及びD−乳酸を主成分とするポリD−乳酸(a−2)を少なくとも含んだ混合物100重量部に対して、0.01〜2重量部、好ましくは0.01〜1重量部、より好ましくは0.01〜0.5重量部である。
【0046】
本発明における上記L−乳酸を主成分とするポリL−乳酸(a−1)及びD−乳酸を主成分とするポリD−乳酸(a−2)を少なくとも含んだ混合物はヒドロキシル基を含む場合がある。その場合、該ヒドロキシ部分は上記ポリイソシアネート化合物と反応し、ウレタン結合を形成する。
【0047】
このようなウレタン結合を形成させる触媒としては、ジブチル錫ジラウリレート、ジブチル錫ジクロライド、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ジブロマイド、ジブチル錫ジマレエート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫スルファイド、トリブチル錫スルファイド、トリブチル錫オキサイド、トリブチル錫アセテート、トリエチル錫エトキサイド、トリブチル錫エトキサイド、ジオクチル錫オキサイド、トリブチル錫クロライド、トリブチル錫トリクロロアセテート、2−エチルヘキサン酸錫、ジブチルチタニウムジクロライド、テトラブチルチタネート、ブトキシチタニウムトリクロライドなどのチタン系、オレイン酸鉛、2−エチルヘキサン酸鉛、安息香酸鉛、ナフテン酸鉛などの鉛系、2−エチルヘキサン酸鉄、鉄アセチルアセトネートなどの鉄系、安息香酸コバルト、2−エチルヘキサン酸コバルトなどのコバルト系、ナフテン酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛などの亜鉛系、ナフテン酸ジルコニウム、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N−メチルモルホリン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)などが挙げられる。このウレタン結合を形成させる触媒の添加量は、上記ポリL−乳酸(a−1)及びポリD−乳酸(a−2)を少なくとも含んだ混合物100重量部に対して、好ましくは0.01〜2重量部、より好ましくは0.01〜1重量部、さらにより好ましくは0.01〜0.5重量部である。
【0048】
<共重合成分>
本発明におけるポリ乳酸樹脂(A)は、L−乳酸を主成分とするポリL−乳酸(a−1)及びD−乳酸を主成分とするポリD−乳酸(a−2)以外にも、共重合成分を含んでいてもよく、L−乳酸を主成分とするポリL−乳酸(a−1)とD−乳酸を主成分とするポリD−乳酸(a−2)を含む組成物には、ポリ乳酸以外のイソシアネートと反応するその他の樹脂成分単位を含んでいてもよい。
【0049】
前記共重合成分としては、本発明の目的を損なわないものであれば特に限定されるものではなく、物性改良の目的等に応じて用いることができる。例えばポリ乳酸以外のポリヒドロキシカルボン酸、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート等を用いることができる。
【0050】
前記共重合成分の含有量は、本発明の目的を損なわないものであれば特に限定されるものでは無く、L−乳酸を主成分とするポリL−乳酸(a−1)及びD−乳酸を主成分とするポリD−乳酸(a−2)の混合物100重量部に対し、0〜40重量部、好ましくは5〜20重量部、より好ましくは5〜10重量部を用いることが好ましい。
【0051】
ポリヒドロキシカルボン酸の具体例としてはポリグリコール酸、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(4−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(2−ヒドロキシ−n−酪酸)、ポリ(2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸)、ポリ(2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸)、ポリ(2−メチル乳酸)、ポリ(2−ヒドロキシカプロン酸)、ポリ(2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸)、ポリ(2−シクロヘキシル−2−ヒドロキシ酢酸)、ポリ(マンデル酸)もしくはポリカプロラクトン、またはこれらの共重合体もしくは混合物などが挙げられる。
【0052】
ポリエステルとは、主たる成分がグリコール成分とジカルボン酸成分からなる繰り返しユニットに代表されるポリエステルであるが、3成分以上の共重合体でもよく、グリコール成分やジカルボン酸成分以外の共重合物が含まれても良い。上記グリコール成分としては、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物などが挙げられ、これらは1種または2種以上で用いることができる。
【0053】
ジカルボン酸成分としては、コハク酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸、およびこれらのジメチルエステル体などが挙げられ、これらも1種または2種以上で用いることができる。
【0054】
また、その他共重合成分としてグリコール酸、乳酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸を含んでも良い。
【0055】
代表的なポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンイソフタレート、ポリプロピレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ビスフェノールAテレフタレート、ビスフェノールAイソフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンイソフタレート、ポリエチレンスルホイソフタレート、ポリブチレンスルホイソフタレート、ポリプロピレンスルホイソフタレート、ポリブチレンセバテート、ポリプロピレンセバテート、ポリエチレンセバテート、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリエチレンオキサレート、ポリプロピレンオキサレート、ポリブチレンオキサレート、ポリネオペンチルグリコールオキサレート、ポリエチレンサクシネート、ポリプロピレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリエチレンアジペートなどが挙げられる。
【0056】
ポリアミドとはアミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸を主たる成分とする重合体または共重合体である。
【0057】
アミノ酸としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、p−アミノメチル安息香酸などが挙げられ、ラクタムとしてはε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどが挙げられる。
【0058】
ジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,4−ジメチルオクタメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどが挙げられる。
【0059】
ジカルボン酸としてはコハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ジグリコール酸などが挙げられる。
【0060】
これらの原料から誘導されるホモポリマーまたはコポリマーを用いることができる。
【0061】
ポリアミドの具体例としては、ポリカプロアミド、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリテトラメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリヘキサメチレンドデカミド、ポリウンデカンアミド、ポリドデカンアミド、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー、ポリキシリレンアジパミド、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマーなどが挙げられる。
【0062】
ポリカーボネートとはカーボネート結合を有する樹脂であって、芳香族ヒドロキシ化合物またはこれと少量のポリヒドロキシ化合物をカーボネート前駆体と反応させることによって得られる重合体または共重合体である。
【0063】
芳香族ヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)サルファイド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン、2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール、5−クロル−3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール、5,7−ジクロル−3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール、5−ブロム−3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドールなどが挙げられ、これらは1種または2種以上を併用してもよい。
【0064】
カーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カーボネートエステルまたはハロホルメートなどが使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートなどが挙げられる。
【0065】
上記共重合成分の末端官能基は特に限定はされないが、カルボキシル基に変換されたものであることが好ましい。
【0066】
<ポリ乳酸樹脂組成物(A’)>
本発明のポリ乳酸樹脂組成物(A’)は、L−乳酸を主成分とするポリL−乳酸樹脂(A’−1)及びD−乳酸を主成分とするポリD−乳酸樹脂(A’−2)を含有する樹脂組成物であり、少なくとも一方のポリ乳酸樹脂が、ポリL−乳酸(a’−1)またはポリD−乳酸(a’−2)とポリイソシアネートを反応させて得られたアミド結合を有するポリ乳酸樹脂であることを特徴とする。
【0067】
L−乳酸を主成分とするポリL−乳酸樹脂(A’−1)とD−乳酸を主成分とするポリD−乳酸樹脂(A’−2)の混合重量比は、90:10〜10:90であることが好ましく、70:30〜30:70であることがより好ましく、75:25〜25:75であることが更に好ましく、60:40〜40:60であることが特に好ましい。
【0068】
上記組成物をその融点以上に溶融し、次いで冷却することでステレオコンプレックスポリ乳酸を形成することができる。
【0069】
ポリ乳酸樹脂組成物(A’)は、ポリL−乳酸(a’−1)とポリイソシアネートを反応させて得られたアミド結合を有するポリ乳酸樹脂ではないポリL−乳酸樹脂(A’−1)とポリD−乳酸(a’−2)とポリイソシアネートを反応させて得られたアミド結合を有するポリ乳酸樹脂であるポリD−乳酸樹脂(A’−2)を含有することが、ステレオコンプレックスポリ乳酸の形成能およびコストの点などから好ましい。
【0070】
<ポリL−乳酸樹脂(A’−1)>
本発明のポリL−乳酸樹脂(A’−1)の重量平均分子量は、50,000〜1,000,000であることが好ましく、下限は70,000以上であることがより好ましく、80,000以上であることがさらに好ましく、100,000以上であることが特に好ましい。上限は700,000以下であることがより好ましく、500,000以下であることがさらに好ましく、300,000以下であることがさらにより好ましく、250,000以下であることが特に好ましく、200,000以下であることがさらに特に好ましい。具体的には80,000〜500,000であり、より好ましくは100,000〜300,000であり、更に好ましくは100,000〜250,000であり、100,000〜200,000が成型性及び機械強度の点から特に好ましい。重量平均分子量は溶離液にクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量値である。
【0071】
本発明のポリL−乳酸樹脂(A’−1)は、L−乳酸を主成分とするものであり、「主成分」とは前述の通りである。
【0072】
本発明のポリL−乳酸樹脂(A’−1)は、L−乳酸単位90〜100モル%と、D−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0〜10モル%とにより構成されるポリ乳酸樹脂であることが好ましく、L―乳酸単位90〜99モル%と、D−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位1〜10モル%とにより構成されるポリ乳酸樹脂であることがより好ましい。
【0073】
前記乳酸以外の共重合成分単位としては、前記ポリ乳酸樹脂(A)中のポリL−乳酸(a−1)、及びポリD−乳酸(a−2)における乳酸以外の共重合成分単位として挙げたものと同様の成分単位を挙げることができる。
【0074】
また、本発明のポリL−乳酸樹脂(A’−1)は、後述するポリL−乳酸(a’−1)をポリイソシアネートと反応させて得られたアミド結合を有するポリ乳酸樹脂であってもよい。
【0075】
本発明のポリL−乳酸樹脂(A’−1)は、既知の任意のポリ乳酸樹脂の重合方法、例えばラクチドの開環重合、乳酸の脱水縮合、およびこれらと固相重合を組み合わせた方法により製造することができる。例えば、前記ポリ乳酸樹脂(A)中のポリL−乳酸(a−1)の製造方法と同様の製造方法を挙げることができる。
【0076】
本発明のポリL−乳酸樹脂(A’−1)が、ポリL−乳酸(a’−1)をポリイソシアネートと反応させて得られたアミド結合を有するポリ乳酸樹脂である場合の製造方法は後述する。
【0077】
<ポリD−乳酸樹脂(A’−2)>
本発明のポリD−乳酸樹脂(A’−2)の重量平均分子量は、前記ポリL−乳酸樹脂(A’−1)と同様の範囲が挙げられる。
【0078】
本発明のポリD−乳酸樹脂(A’−2)の組成は、前記ポリL−乳酸樹脂(A’−1)のL−乳酸をD−乳酸に代えた以外は前記ポリL−乳酸樹脂(A’−1)と同様のものが挙げられ、後述するポリD−乳酸(a’−2)をポリイソシアネートと反応させて得られたアミド結合を有するポリ乳酸樹脂であってもよい。
【0079】
また、本発明のポリD−乳酸樹脂(A’−2)の製造方法は、前記ポリL−乳酸樹脂(A’−1)のL−乳酸をD−乳酸に代えた以外は前記ポリL−乳酸樹脂(A’−1)と同様の製造方法が挙げられる。
【0080】
本発明のポリD−乳酸樹脂(A’−2)が、ポリD−乳酸(a’−2)をポリイソシアネートと反応させて得られたアミド結合を有するポリ乳酸樹脂である場合の製造方法は後述する。
【0081】
<ポリL−乳酸(a’−1)またはポリD−乳酸(a’−2)とポリイソシアネートを反応させて得られたアミド結合を有するポリ乳酸樹脂>
本発明のポリL−乳酸(a’−1)は、前記ポリ乳酸樹脂(A)中のポリL−乳酸(a−1)と同様のものを挙げることができ、本発明のポリD−乳酸(a’−2)は、前記ポリ乳酸樹脂(A)中のポリD−乳酸(a−2)と同様のものを挙げることができる。
【0082】
また、本発明のポリL−乳酸(a’−1)またはポリD−乳酸(a’−2)は末端官能基におけるカルボキシル基の割合が50%を超えることが好ましい。より好ましくは、末端官能基におけるカルボキシル基の割合が85%以上であり、更に好ましくは末端官能基におけるカルボキシル基の割合が90%以上であり、末端官能基におけるカルボキシル基の割合が95%以上であることが特に好ましい。カルボキシル基の割合が高くなることで、後述する製造方法においてアミド結合がより多く形成され、耐熱性及び結晶性の観点で好ましい。
【0083】
ポリL−乳酸(a’−1)およびポリD−乳酸(a’−2)は、既知の任意のポリ乳酸樹脂の重合方法により製造することができ、例えばラクチドの開環重合、乳酸の脱水縮合、およびこれらと固相重合を組み合わせた方法などにより製造することができる。具体的には、前記ポリ乳酸樹脂(A)中のポリL−乳酸(a−1)及びポリD−乳酸(a−2)と同様の製造方法で製造することができる。
【0084】
ポリL−乳酸(a’−1)またはポリD−乳酸(a’−2)とポリイソシアネートを反応させて得られたアミド結合を有するポリ乳酸樹脂の製造方法は、前記ポリL−乳酸(a’−1)またはポリD−乳酸(a’−2)とポリイソシアネート化合物とを反応させる工程を含む。本反応においては、末端官能基であるカルボキシル基がポリイソシアネートと反応することでアミド結合を形成する。また、上記反応においてアミド化触媒を用いて反応を行うことが好ましい。該工程の具体例としては、以下の方法が挙げられるが、本発明の目的を損なわない限り、何らこれに限定されない。
【0085】
まず、前記ポリL−乳酸(a’−1)またはポリD−乳酸(a’−2)と溶媒とを混合し、常圧、窒素雰囲気下で、該混合物を所定の温度まで昇温する。次に、該混合物に必要に応じて触媒を加えた後、さらにポリイソシアネート化合物を加え、所定の温度で反応させる。最後に、得られた反応生成物を脱炭酸することによりポリ乳酸樹脂を得ることができる。前記ポリイソシアネート化合物は、ジイソシアネート化合物であることが好ましい。
【0086】
またこの工程において、反応物の分子量の増加とともに反応物の粘度が急激に上昇する。そのため、前述のように溶液で攪拌しながら反応させる方法のほかに、押出機、特に二軸混練押出機を用い、無溶媒で混練、反応させて生成物を押し出す方法も、溶媒が不要で生成物の後処理が簡便になり効果的である。
【0087】
該工程で用いられるポリイソシアネート化合物としては、前記ポリ乳酸樹脂(A)の製造方法で用いられるポリイソシアネート化合物と同様の化合物を挙げることができる。ポリイソシアネート化合物が、脂肪族ジイソシアネートであると、得られるポリ乳酸樹脂組成物(A’)の色調の点で好ましい。
【0088】
上記ポリイソシアネート化合物の添加量は、上記ポリL−乳酸(a’−1)またはポリD−乳酸(a’−2)の末端官能基のモル数に基づいて決定する。ポリL−乳酸(a’−1)またはポリD−乳酸(a’−2)の末端官能基のモル数は、NMRデータおよびカルボン酸価により後述する実施例に記載した方法で算出する。
【0089】
上記ポリイソシアネート化合物の添加量は、上記ポリL−乳酸(a’−1)またはポリD−乳酸(a’−2)の末端官能基のモル数に対して0.8〜2.0倍モルであることが好ましく、0.8〜1.5倍モルであることがより好ましく、0.8〜1.3倍モルであることが更に好ましい。ここで「倍モル」とは、「イソシアネート基(モル)/末端官能基数(モル)」により算出される値の単位である。
【0090】
上記ポリイソシアネート化合物の添加量が前記下限値未満であると、ポリイソシアネート化合物の添加効果が小さく、高分子量のポリ乳酸樹脂を得ることが困難となる場合がある。一方、前記上限値を超えると、イソシアネートが架橋反応などの副反応を引き起こし、ゲル状のポリ乳酸樹脂が生成することがある。
【0091】
前記工程で用いられ得るアミド化触媒とは、上記ポリL−乳酸(a’−1)またはポリD−乳酸(a’−2)等の末端カルボキシル基部分を上記ポリイソシアネート化合物と反応させて、アミド結合を形成させる触媒をいう。
【0092】
アミド化触媒としては、周期律表第1族、2族および3族における金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含むことが好ましく、カリウム、マグネシウム、カルシウムおよびイッテルビウムの群より選ばれる少なくとも1種の金属を含むことがより好ましく、マグネシウムまたはカルシウムを含むことが特に好ましい。このような金属を含んでいると反応性に優れる触媒を得ることができ、色調の良いポリ乳酸樹脂組成物(A’)を得ることができるため好ましい。
【0093】
周期律表第1族、2族および3族における金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含むアミド化触媒としては、前記ポリ乳酸系樹脂(A)の製造方法で用いられるアミド化触媒と同様の触媒などが挙げられる。これらは1種単独で使用しても、また2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ビス(アセチルアセトナト)マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、塩化マグネシウム、イッテルビウムトリフラートなどが好ましく、さらにはマグネシウム化合物、特に、ビス(アセチルアセトナト)マグネシウム、ステアリン酸マグネシウムが好ましい。これらの触媒は2種以上併用することもできる。
【0094】
上記アミド化触媒の添加量は、ポリL−乳酸(a’−1)またはポリD−乳酸(a’−2)100重量部あたり、0.01〜2重量部、好ましくは0.01〜1重量部、より好ましくは0.01〜0.5重量部である。
【0095】
上記ポリL−乳酸(a’−1)またはポリD−乳酸(a’−2)はヒドロキシル基を含む場合がある。その場合、該ヒドロキシ部分は上記ポリイソシアネート化合物と反応し、ウレタン結合を形成する。
【0096】
このようなウレタン結合を形成させる触媒としては、前記ポリ乳酸系樹脂(A)の製造方法で用いられ得る触媒と同様の触媒などが挙げられる。このウレタン結合を形成させる触媒の添加量は、上記ポリL−乳酸(a’−1)またはポリD−乳酸(a’−2)100重量部あたり、0.01〜2重量部、好ましくは0.01〜1重量部、より好ましくは0.01〜0.5重量部である。
【0097】
ポリL−乳酸(a’−1)またはポリD−乳酸(a’−2)とポリイソシアネートを反応させて得られたアミド結合を有するポリ乳酸樹脂には、(a’−1)および(a’−2)以外の共重合成分を本発明の目的を損なわない範囲で含んでいてもよい。
【0098】
共重合成分としては、前記ポリ乳酸樹脂(A)が含んでもよい共重合成分と同様の成分等を挙げることができる。
【0099】
ポリL−乳酸(a’−1)またはポリD−乳酸(a’−2)とポリイソシアネートを反応させて得られたアミド結合を有するポリ乳酸樹脂の重量平均分子量は、50,000〜1,000,000であることが好ましく、下限は70,000以上であることがより好ましく、80,000以上であることがさらに好ましい。上限は700,000以下であることがより好ましく、500,000以下であることが更に好ましく、300,000以下であることが更により好ましく、200,000以下であることが特に好ましい。具体的に好ましくは70,000〜500,000である。より好ましくは80,000〜300,000、さらに好ましくは80,000〜250,000である。80,000〜200,000が製造時のハンドリングやステレオコンプレックス形成能の観点から特に好ましい。重量平均分子量は溶離液にクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量値である。
【0100】
また、ポリL−乳酸(a’−1)またはポリD−乳酸(a’−2)とポリイソシアネートを反応させて得られたアミド結合を有するポリ乳酸樹脂の重量平均分子量は、ポリL−乳酸(a’−1)またはポリD−乳酸(a’−2)の重量平均分子量の3倍以上200倍以下であることが望ましく、4倍以上100倍以下であることがより好ましく、5倍以上50倍以下であることがさらに好ましい。
【0101】
<ポリ乳酸樹脂組成物(A’)の製造方法>
ポリ乳酸樹脂組成物(A’)の製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えばポリL−乳酸(A’−1)およびポリD−乳酸(A’−2)を、混合装置を用いて溶融混練する方法が挙げられる。その際に、混合装置への各化合物の投入順序などは問わない。従って、2成分を同時に混合装置に投入してもよく、ポリL−乳酸(A’−1)とポリD−乳酸(A’−2)とを、予備混合した後に投入および混合してもよい。各成分は、粉末状、顆粒状またはペレット状などのいずれの形状であってもよい。混合装置は、例えばミルロール、ミキサー、単軸および二軸押出機などが挙げられる。混練する際の温度は、160℃以上、250℃以下が好ましく、170℃以上、230℃以下がより好ましい。
【0102】
また、ポリL−乳酸(A’−1)およびポリD−乳酸(A’−2)を溶媒中で混合した後、溶媒を除去してポリ乳酸樹脂組成物(A’)を得る方法がある。該溶媒としては、たとえばクロロホルムなどの全てのポリマーが溶解する溶媒を用いる。混合する際の温度は、全てのポリマーが溶解し、かつ溶媒が揮発しない温度範囲であれば特に限定されるものでない。溶媒を除去する方法としては、特に限定されるものではなく、たとえば室温で溶媒を揮発させる方法、減圧下で溶媒の沸点以上の温度で溶媒を揮発させる方法などを用いることができる。
【0103】
ポリ乳酸樹脂組成物(A’)は、示差走査熱量計(DSC)測定の昇温過程におけるポリ乳酸樹脂に由来する融解ピークにおいて、195℃以上の融解ピークの割合が70%以上であることが好ましく、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。195℃以上の融解ピークの割合が大きいほど、成型品の耐加水分解性が高くなる。
【0104】
ポリ乳酸樹脂組成物(A’)の融点は、190〜250℃の範囲が好ましく、より好ましくは195〜220℃の範囲である。融解エンタルピーは、20J/g以上が好ましく、より好ましくは30J/g以上である。
【0105】
前記ポリL−乳酸(a’−1)またはポリD−乳酸(a’−2)の重量平均分子量が、5,000〜100,000の範囲にあることで、融点がこの範囲内にあるポリ乳酸樹脂組成物(A’)を得ることができる。前記ポリL−乳酸(a’−1)またはポリD−乳酸(a’−2)の重量平均分子量は、より好ましくは10,000〜70,000の範囲であり、10,000〜50,000の範囲が更に好ましい。
【0106】
重量平均分子量は溶離液にクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量値である。
【0107】
<ポリ乳酸樹脂組成物(A’’)>
本発明のポリ乳酸樹脂組成物(A’’)は、L−乳酸を主成分とするL−乳酸オリゴマー(a’’−1)と、D−乳酸を主成分として前記L−乳酸オリゴマーよりも大きい分子量を持つポリD−乳酸樹脂(A’’−2)を含む組成物、或いは、D−乳酸を主成分とするD−乳酸オリゴマー(a’’−2)と、L−乳酸を主成分として前記D−乳酸オリゴマーよりも大きい分子量を持つポリL−乳酸樹脂(A’’−1)を含む組成物と、ポリイソシアネートを反応させて得られたポリ乳酸樹脂組成物である。
【0108】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物(A’’)は、重量平均分子量が70,000〜500,000であることが好ましい。
【0109】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物(A’’)は、(i)ステレオ結晶化比率が51%以上であることが好ましく、保持温度240℃、保持時間1分における示差走査熱量(DSC)測定においては、(ii)第一昇温過程におけるステレオ化度(S)60%以上が好ましく、(iii)第二昇温過程におけるステレオ化度(S)90%以上が好ましく、(iv)第二昇温過程後の重量平均分子量(Mw)保持率77%以上であることが好ましい。
【0110】
また、保持温度240℃、保持時間5分における示差走査熱量(DSC)測定においては、(ii’)第一昇温過程におけるステレオ化度(S)60%以上が好ましく、(iii’)第二昇温過程におけるステレオ化度(S)95%以上が好ましく、第二昇温過程におけるステレオ化度(S)100%であることがより好ましく、(iv’)第二昇温過程後の重量平均分子量(Mw)保持率70%以上であることが好ましく、第二昇温過程後の重量平均分子量(Mw)保持率77%以上であることがより好ましい。
【0111】
第二昇温過程後の重量平均分子量(Mw)保持率は、上記それぞれの条件において80%以上がさらに好ましく、85%以上が更により好ましく、90%以上あることが機械物性の点から特に好ましく、また耐久性といった観点からも特に好ましい。
【0112】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物(A’’)の示差走査熱量(DSC)測定前の重量平均分子量(Mw)は200,000以上であることが好ましく、200,000〜1,000,000であることがより好ましい。
【0113】
なお、ステレオ結晶化比率(Cr%)は、広角X線回折透過法測定におけるステレオコンプレックス相結晶とホモ相結晶との回折プロファイルから以下の式で算出される。
【0114】
Cr[%]={ΣISCi/(ΣISCi+IHM)}×100
ここで、
ΣISCiは、ステレオコンプレックス結晶に由来する各回折ピークの積分強度の総和(ISC1+ISC2+ISC3)であり、ISC1、ISC2、ISC3はそれぞれ2θ=12.0°、20.7°、24.0°付近の各回折ピークの積分強度である。
HMは、ホモ結晶に由来する回折ピークの積分強度である。
【0115】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物(A’’)のステレオ結晶化比率は、好ましくは51%以上、より好ましくは80%以上であることが、耐熱性、熱安定性の点から好ましい。ここで言うステレオ結晶化比率とは、成型品の場合、成型前のポリ乳酸樹脂組成物(A’’)のステレオ結晶化比率である。
【0116】
ステレオ化度(S)は、昇温速度10℃/minで昇温したときの示差走査熱量(DSC)測定における各融解ピークの熱量を用いて以下の式から算出する。
【0117】
ステレオ化度(S)[%]={ΔHms/(ΔHmh+ΔHms)}×100
ここで、
ΔHmsは、ピーク温度190℃以上のステレオコンプレックス相結晶の融解ピークの熱量(J/g)であり、
ΔHmhは、ピーク温度190℃以下のホモ相結晶の融解ピークの熱量(J/g)である。
【0118】
ところで、ここで言う第一昇温過程におけるステレオ化度(S)は、成型品の場合、成型前のポリ乳酸樹脂組成物(A’’)の熱物性の指標となる。
また、ここで言う第二昇温過程におけるステレオ化度(S)は、成型後の成型品の熱物性の指標となる。
ここで言う第一昇温過程におけるステレオ化度(S)と、前述したステレオ結晶化比率(Cr)は対応関係にある。
【0119】
ポリ乳酸樹脂組成物(A’’)における示差走査熱量(DSC)測定の具体的な測定は、10℃/minの昇温速度で、ポリ乳酸樹脂組成物(A’’)の融点(Tm)以上の温度、ここでは240℃まで昇温し(第一昇温過程)、引き続き240度で1分或いは5分保持した後、0℃まで急冷し5分保持する。その後続いて、再び10℃/minの昇温速度で0℃から240℃まで昇温(第二昇温過程)した後、25℃まで急冷しすることにより行う。
【0120】
重量平均分子量(Mw)保持率とは、240℃、保持時間が1分或いは5分での上記示差走査熱量(DSC)測定における第二昇温過程後の重量平均分子量MwDSC測定後を、測定前の重量平均分子量MwDSC未測定で除した値である(以下の式)。
【0121】
Mw保持率(%)=(MwDSC測定後/MwDSC未測定)×100
ここで、
MwDSC未測定は、DSC未測定のステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物(Z)の重量平均分子量であり、
MwDSC測定後は、DSC測定後のステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物(Z)の重量平均分子量である。
【0122】
すなわち、ここで言う重量平均分子量(Mw)保持率は、例えば240℃、1分或いは5分の熱履歴で射出成型などの加熱溶融により製造した成型品が、再度240℃の条件下にさらされた後の重量平均分子量(Mw)の保持率とほぼ等しいことになると考えられる。
【0123】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物(A’’)において、L−乳酸を主成分とするL−乳酸オリゴマー(a’’−1)またはD−乳酸を主成分とするD−乳酸オリゴマー(a’’−2)の重量平均分子量(Mw)と、D−乳酸を主成分として前記L−乳酸オリゴマーよりも大きい分子量を持つポリD−乳酸樹脂(A’’−2)またはL−乳酸を主成分として前記D−乳酸オリゴマーよりも大きい分子量を持つポリL−乳酸樹脂(A’’−1)の重量平均分子量(Mw)との関係は、該L−乳酸オリゴマー(a’’−1)またはD−乳酸オリゴマー(a’’−2)の末端官能基であるカルボキシル基がポリイソシアネート化合物とアミド結合を形成することで、該オリゴマーよりも大きい分子量を持つポリD−乳酸樹脂(A’’−2)またはポリL−乳酸樹脂(A’’−1)と同等の重量平均分子量(Mw)を有するポリ乳酸系樹脂となり、高分子量のステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物を形成することから、製造時における該L−乳酸オリゴマー(a’’−1)またはD−乳酸オリゴマー(a’’−2)の重量平均分子量(Mw)は該ポリD−乳酸樹脂(A’’−2)またはポリL−乳酸樹脂(A’’−1)の重量平均分子量(Mw)以下、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物の形成し易さの点から、好ましくは1/2以下、より好ましくは1/5以下、更に好ましくは1/10以下、更により好ましくは1/20以下である。
【0124】
<L−乳酸オリゴマー(a’’−1)およびD−乳酸オリゴマー(a’’−2)>
本発明のL−乳酸オリゴマー(a’’−1)はL−乳酸を主成分とするものであり、D−乳酸オリゴマー(a’’−2)はD−乳酸を主成分とするものである。
【0125】
L−乳酸オリゴマー(a’’−1)は、L−乳酸単位90〜100モル%と、D−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0〜10モル%とにより構成されるL−乳酸オリゴマーであることが好ましく、L―乳酸単位90〜99モル%と、D−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位1〜10モル%とにより構成されるL−乳酸オリゴマーであることがより好ましい。
【0126】
D−乳酸オリゴマー(a’’−2)は、D−乳酸単位90〜100モル%と、L−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0〜10モル%とにより構成されるD−乳酸オリゴマーであることが好ましく、D―乳酸単位90〜99モル%と、L−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位1〜10モル%とにより構成されるD−乳酸オリゴマーであることがより好ましい。
【0127】
L−乳酸オリゴマー(a’’−1)およびD−乳酸オリゴマー(a’’−2)は、前記ポリ乳酸樹脂(A)中のポリL−乳酸(a−1)およびポリD−乳酸(a−2)と同様の化合物等を挙げることができる。
【0128】
L−乳酸オリゴマー(a’’−1)およびD−乳酸オリゴマー(a’’−2)は、既知の任意のポリ乳酸樹脂の重合方法により製造することができ、例えばラクチドの開環重合、乳酸の脱水縮合、およびこれらと固相重合を組み合わせた方法などにより製造することができる。具体的には、前記ポリ乳酸樹脂(A)中のポリL−乳酸(a−1)およびポリD−乳酸(a−2)の製造方法と同様の製造方法で製造することができる。
【0129】
L−乳酸オリゴマー(a’’−1)およびD−乳酸オリゴマー(a’’−2)中の乳酸以外の共重合成分としては、前期ポリ乳酸樹脂(A)中におけるポリL−乳酸(a−1)およびポリD−乳酸(a−2)中に含まれてもよい乳酸以外の成分単位として挙げた化合物と同様の化合物等が挙げられる。
【0130】
L−乳酸オリゴマー(a’’−1)およびD−乳酸オリゴマー(a’’−2)の重量平均分子量(Mw)は、それぞれ5,000〜100,000であることが好ましく、10,000〜80,000であることがより好ましく、更に好ましくは10,000〜50,000がポリ乳酸樹脂組成物(A’’)の融点向上の点で好ましい。さらには、20,000〜50,000がポリ乳酸樹脂組成物(A’’)の融点向上に加え、生産性、操作性において特に好ましい。重量平均分子量(Mw)は溶離液としてクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量値である。
また、該オリゴマーは末端官能基におけるカルボキシル基の割合が50%を超えるオリゴマーであることが好ましく、より好ましくは、末端官能基におけるカルボキシル基の割合が85%以上であり、末端官能基におけるカルボキシル基の割合が90%以上であることがさらに好ましく、末端官能基におけるカルボキシル基の割合が95%以上であることが特に好ましい。カルボキシル基の割合が高くなることで、後述する製造方法においてアミド結合がより多く形成され耐熱性及び結晶性の観点で好ましい。
【0131】
<ポリL−乳酸樹脂(A’’−1)およびポリD−乳酸樹脂(A’’−2)>
ポリL−乳酸樹脂(A’’−1)は、L−乳酸を主成分とするものであり、前記D−乳酸オリゴマー(a’’−2)よりも大きい分子量を有すればよい。
【0132】
ポリD−乳酸(A’’−2)は、D−乳酸を主成分とするものであり、前記L−乳酸オリゴマー(a’’−1)よりも大きい分子量を有すればよい。
【0133】
このポリL−乳酸樹脂(A’’−1)およびポリD−乳酸樹脂(A’’−2)としては、それぞれ前記ポリ乳酸樹脂(A’)におけるポリL−乳酸樹脂(A’−1)およびポリD−乳酸樹脂(A’−2)と同様の化合物を挙げることができ、同様の方法で製造することができる。
<ポリL−乳酸樹脂(A’’−1)およびポリD−乳酸樹脂(A’’−2)の重量平均分子量(Mw)>
ポリL−乳酸樹脂(A’’−1)およびポリD−乳酸樹脂(A’’−2)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは50,000〜1,000,000であることが好ましく、下限は70,000以上であることがより好ましく、80,000以上であることがさらに好ましい。上限は700,000以下であることがより好ましく、500,000以下であることが更に好ましく、300,000以下であることが更により好ましく、200,000以下であることが特に好ましい。具体的により好ましくは50,000〜700,000、70,000〜500,000が成型性及び機械強度の点から特に好ましい。重量平均分子量(Mw)は溶離液にクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)値である。
【0134】
<ポリ乳酸樹脂組成物(A’’)の製造方法>
本発明のポリ乳酸樹脂組成物(A’’)の製造方法は、L−乳酸オリゴマー(a’’−1)30〜300重量部と、前記オリゴマー(a’’−1)よりも大きい分子量を持つポリD−乳酸樹脂(A’’−2)100重量部との混合物、或いは、D−乳酸オリゴマー(a’’−2)30〜300重量部と、前記オリゴマー(a’’−2)よりも大きい分子量を持つポリL−乳酸樹脂(A’’−1)100重量部との混合物と、ポリイソシアネート化合物を反応させる工程を含む。
【0135】
前記反応工程における反応温度は、ポリ乳酸樹脂組成物(A’’)が溶融する温度であれば問題ないが、溶媒を用いて反応させる場合は用いる溶媒の沸点以下が好ましい。溶媒を用いる場合の溶媒の濃度としては、オリゴマーとオリゴマーよりも大きい分子量を持つポリ乳酸樹脂の相溶性の点から、20重量%以上が好ましく、40重量%以上がより好ましく、50重量%以上が更に好ましい。
【0136】
また、反応時間は、120分以下が好ましく、60分以下がより好ましく、40分以下がさらに好ましい。
【0137】
ポリ乳酸樹脂組成物(A’’)は、末端官能基におけるカルボキシル基の割合が50%を超えるD−乳酸オリゴマー(a’’−2)と、前記オリゴマー(a’’−2)よりも大きい分子量を持つポリL−乳酸樹脂(A’’−1)との混合物と、ポリイソシアネート化合物とを反応させたものであると、高分子量化と同時にステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物を形成でき、高分子量のステレオコンプレックスポリ乳酸の形成能およびコストの点などから好ましい。
【0138】
前記L−乳酸オリゴマー(a’’−1)またはD−乳酸オリゴマー(a’’−2)の末端官能基であるカルボキシル基がポリイソシアネート化合物と反応することでアミド結合が形成され、ポリ乳酸系樹脂を生成するとともにポリD−乳酸樹脂(A’’−2)またはポリL−乳酸樹脂(A’’−1)と高分子量のステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂組成物を形成する。
【0139】
上記反応は、好ましくはアミド化触媒を用いて行われる。
【0140】
ポリ乳酸樹脂組成物(A’’)の製造方法の具体例として以下の方法が挙げられるが、本発明の目的を損なわない限り、何らこれに限定されない。
【0141】
まず、L−乳酸オリゴマー(a’’−1)とポリD−乳酸樹脂(A’’−2)との混合物、またはD−乳酸オリゴマー(a’’−2)とポリL−乳酸樹脂(A’’−1)との混合物に、触媒、溶媒を加え、常圧下で該混合物を所定の温度まで昇温する。次に、所定量のポリイソシアネート化合物を加え、所定の温度で反応させる。最後に、得られた反応生成物から溶媒を除去することでポリ乳酸樹脂組成物(A’’)を得る。溶媒を除去する方法としては、特に限定されるものではなく、たとえば室温で溶媒を揮発させる方法、室温下、不活性ガスを流通させて溶媒を揮発させる方法、減圧下で室温、或いはポリ乳酸のガラス転移温度以下、或いは溶媒の沸点以上の温度で溶媒を揮発させる方法などが挙げられる。
【0142】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物(A’’)の製造において、L−乳酸オリゴマー(a’’−1)またはD−乳酸オリゴマー(a’’−2)とポリD−乳酸樹脂(A’’−2)またはポリL−乳酸樹脂(A’’−1)の混合重量比は、ポリD−乳酸樹脂(A’’−2)またはポリL−乳酸樹脂(A’’−1)100重量部に対して、L−乳酸オリゴマー(a’’−1)またはD−乳酸オリゴマー(a’’−2)が30〜300重量部であり、30〜200重量部であることがより好ましい。これにより、後述する示差走査熱量(DSC)測定における第一昇温過程におけるステレオ化度(S)は60%以上になり、これにより比較的低熱付加でも第二昇温過程におけるステレオ化度(S)は90%以上となる。さらには、ポリD−乳酸樹脂(A’’−2)またはポリL−乳酸樹脂(A’’−1)100重量部に対して、L−乳酸オリゴマー(a’’−1)またはD−乳酸オリゴマー(a’’−2)が60〜140重量部であることがより一層好ましい。これにより、後述する示差走査熱量(DSC)測定における第一昇温過程におけるステレオ化度(S)は90%以上となり、これによりさらに低熱付加でも第二昇温過程におけるステレオ化度(S)は100%となる。
【0143】
本発明のポリ乳酸樹脂(A)、ポリ乳酸樹脂組成物(A’)およびポリ乳酸樹脂組成物(A’’)は、発泡成型機に供給される前に、示差走査熱量計(DSC)測定の昇温過程におけるポリ乳酸に由来する融解ピークにおいて、195℃以上の融解ピークの割合が70%以上となっていることが好ましく、好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上であるのがよい。195℃以上の融解ピークの割合が大きいほど、高いステレオコンプレックスの割合である発泡成型品を製造しやすくなる。
【0144】
<末端封鎖剤(B)>
本発明の発泡成型品を構成する樹脂組成物において、末端封鎖剤(B)を更に配合すると、耐加水分解性が更に高められた成型品を得ることができる。
末端封鎖剤(B)とは、本発明の発泡成型品を構成する樹脂組成物におけるポリ乳酸のカルボキシル基末端の一部または全部と反応して封鎖する働きを示すものであり、例えば、脂肪族アルコールやアミド化合物などの縮合反応型化合物や、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、アジリジン化合物などの付加反応型の化合物などが挙げられる。
【0145】
上記カルボジイミド化合物に含まれるモノカルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボジイミド等を例示することができ、これらの中では、特に工業的に入手が容易であるという面から、ジシクロヘキシルカルボジイミド或いはジイソプロピルカルボジイミドが好適である。
【0146】
また、上記カルボジイミド化合物に含まれるポリカルボジイミド化合物としては、種々の方法で製造したものを使用することができるが、基本的には従来のポリカルボジイミドの製造方法(米国特許第2941956号明細書、特公昭47−33279号公報、J.0rg.Chem.28, 2069−2075(1963)、Chemical Review l981,Vol.81 No.4、p619−621)により製造したものを用いることができる。
【0147】
上記ポリカルボジイミド化合物の製造における合成原料である有機ジイソシアネートとしては、例えば芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートやこれらの混合物を挙げることができ、具体的には、1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートの混合物、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4'−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,6−ジイソプロピルフェニルイソシアネート、1,3,5−トリイソプロピルベンゼン−2,4−ジイソシアネート等を例示することができる。
【0148】
また、上記ポリカルボジイミド化合物の場合は、モノイソシアネート等の、ポリカルボジイミド化合物の末端イソシアネートと反応する化合物を用いて、適当な重合度に制御することもできる。
【0149】
このようなポリカルボジイミド化合物の末端を封止してその重合度を制御するためのモノイソシアネートとしては、例えば、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ジメチルフェニルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等を例示することができる。
【0150】
エポキシ化合物の例としては、例えば、N−グリシジルフタルイミド、N−グリシジル−4−メチルフタルイミド、N−グリシジル−4,5−ジメチルフタルイミド、N−グリシジル−3−メチルフタルイミド、N−グリシジル−3,6−ジメチルフタルイミド、N−グリシジル−4−エトキシフタルイミド、N−グリシジル−4−クロルフタルイミド、N−グリシジル−4,5−ジクロルフタルイミド、N−グリシジル−3,4,5,6−テトラブロムフタルイミド、N−グリシジル−4−n−ブチル−5−ブロムフタルイミド、N−グリシジルサクシンイミド、N−グリシジルヘキサヒドロフタルイミド、N−グリシジル−1,2,3,6−テトラヒドロフタルイミド、N−グリシジルマレインイミド、N−グリシジル−α,β−ジメチルサクシンイミド、N−グリシジル−α−エチルサクシンイミド、N−グリシジル−α−プロピルサクシンイミド、N−グリシジルベンズアミド、N−グリシジル−p−メチルベンズアミド、N−グリシジルナフトアミド、N−グリシジルステラミド、N−メチル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、N−エチル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、N−フェニル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、N−ナフチル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、N−トリル−3−メチル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、オルソフェニルフェニルグリシジルエーテル、2−メチルオクチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、3−(2−キセニルオキシ)−1,2−エポキシプロパン、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、シクロヘキシルグリシジルエーテル、α−クレシルグリシジルエーテル、p−t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、メタクリル酸グリシジルエーテル、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、スチレンオキサイド、オクチレンオキサイド、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA−ジグリシジルエーテルなどが挙げられ、さらには、テレフタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジメチルジグリシジルエステル、フェニレンジグリシジルエーテル、エチレンジグリシジルエーテル、トリメチレンジグリシジルエーテル、テトラメチレンジグリシジルエーテル、ヘキサメチレンジグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらのエポキシ化合物の中から1種または2種以上の化合物を任意に選択してポリ乳酸単位のカルボキシル末端を封鎖すればよいが、反応性の点でエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテル、オルソフェニルフェニルグリシジルエーテル、p−t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、N−グリシジルフタルイミド、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA−ジグリシジルエーテルなどが好ましい。
【0151】
オキサゾリン化合物の例としては、例えば、2−メトキシ−2−オキサゾリン、2−エトキシ−2−オキサゾリン、2−プロポキシ−2−オキサゾリン、2−ブトキシ−2−オキサゾリン、2−ペンチルオキシ−2−オキサゾリン、2−ヘキシルオキシ−2−オキサゾリン、2−ヘプチルオキシ−2−オキサゾリン、2−オクチルオキシ−2−オキサゾリン、2−ノニルオキシ−2−オキサゾリン、2−デシルオキシ−2−オキサゾリン、2−シクロペンチルオキシ−2−オキサゾリン、2−シクロヘキシルオキシ−2−オキサゾリン、2−アリルオキシ−2−オキサゾリン、2−メタアリルオキシ−2−オキサゾリン、2−クロチルオキシ−2−オキサゾリン、2−フェノキシ−2−オキサゾリン、2−クレジル−2−オキサゾリン、2−o−エチルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−o−プロピルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−o−フェニルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−m−エチルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−m−プロピルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−p−フェニルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−メチル−2−オキサゾリン、2−エチル−2−オキサゾリン、2−プロピル−2−オキサゾリン、2−ブチル−2−オキサゾリン、2−ペンチル−2−オキサゾリン、2−ヘキシル−2−オキサゾリン、2−ヘプチル−2−オキサゾリン、2−オクチル−2−オキサゾリン、2−ノニル−2−オキサゾリン、2−デシル−2−オキサゾリン、2−シクロペンチル−2−オキサゾリン、2−シクロヘキシル−2−オキサゾリン、2−アリル−2−オキサゾリン、2−メタアリル−2−オキサゾリン、2−クロチル−2−オキサゾリン、2−フェニル−2−オキサゾリン、2−o−エチルフェニル−2−オキサゾリン、2−o−プロピルフェニル−2−オキサゾリン、2−o−フェニルフェニル−2−オキサゾリン、2−m−エチルフェニル−2−オキサゾリン、2−m−プロピルフェニル−2−オキサゾリン、2−p−フェニルフェニル−2−オキサゾリンなどが挙げられ、さらには、2,2′−ビス(2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−エチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4,4′−ジエチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−プロピル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−ブチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−ヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−シクロヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−ベンジル−2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−o−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレンビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−m−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2′−m−フェニレンビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−エチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−テトラメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−ヘキサメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−オクタメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−デカメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−エチレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2′−テトラメチレンビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−9,9′−ジフェノキシエタンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−シクロヘキシレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−ジフェニレンビス(2−オキサゾリン)などが挙げられる。さらには、上記した化合物をモノマー単位として含むポリオキサゾリン化合物など、例えばスチレン・2−イソプロペニル−2−オキサゾリン共重合体などが挙げられる。これらのオキサゾリン化合物の中から1種または2種以上の化合物を任意に選択してポリ乳酸単位のカルボキシル末端を封鎖すればよい。
【0152】
オキサジン化合物の例としては、例えば、2−メトキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−エトキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−プロポキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−ブトキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−ペンチルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−ヘキシルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−ヘプチルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−オクチルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−ノニルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−デシルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−シクロペンチルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−シクロヘキシルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−アリルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−メタアリルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−クロチルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジンなどが挙げられ、さらには、2,2′−ビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2′−メチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2′−エチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2′−プロピレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2′−ブチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2′−ヘキサメチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2′−p−フェニレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2′−m−フェニレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2′−ナフチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2′−P,P′−ジフェニレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)などが挙げられる。さらには、上記した化合物をモノマー単位として含むポリオキサジン化合物などが挙げられる。これらのオキサジン化合物の中から1種または2種以上の化合物を任意に選択してポリ乳酸単位のカルボキシル末端を封鎖すればよい。
【0153】
更には、既に例示したオキサゾリン化合物および上述のオキサジン化合物などの中から1種または2種以上の化合物を任意に選択し併用してポリ乳酸のカルボキシル末端を封鎖してもよいが、耐熱性および反応性や脂肪族ポリエステルとの親和性の点で2,2′−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)や2,2′−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)が好ましい。
【0154】
本発明に用いることのできる末端封鎖剤のうちアジリジン化合物の例としては、例えば、モノ,ビスあるいはポリイソシアネート化合物とエチレンイミンとの付加反応物などが挙げられる。
【0155】
また、本発明に用いることのできる末端封鎖剤として上述したカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、アジリジン化合物などの化合物うち、2種以上の化合物を末端封鎖剤として併用することもできる。
【0156】
本発明の発泡成型品を構成する樹脂組成物におけるポリ乳酸のカルボキシル基末端を封鎖する方法としては、縮合反応型あるいは付加反応型などの末端封鎖剤を反応させればよく、縮合反応によりカルボキシル基末端を封鎖する方法としては、ポリマー重合時に重合系内に脂肪族アルコールやアミド化合物などの縮合反応型の末端封鎖剤を適量添加して減圧化で脱水縮合反応させるなどしてカルボキシル基末端を封鎖することができるが、ポリマーの高重合度化の観点から、重合反応終了時に縮合反応型の末端封鎖剤を添加することが好ましい。
【0157】
付加反応によりカルボキシル基末端を封鎖する方法としては、ポリ乳酸の溶融状態でカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、アジリジン化合物などの末端封鎖剤を適量反応させることで得ることができ、ポリマーの重合反応終了後に末端封鎖剤を添加・反応させることが可能である。
【0158】
この末端封鎖剤(B)の含有量はポリ乳酸樹脂(A)、ポリ乳酸樹脂組成物(A’)またはポリ乳酸樹脂組成物(A’’)100重量部当り、0.01〜5重量部であることが好ましく、より好ましくは0.05〜4重量部であり、さらに好ましくは0.1〜3重量部である。
【0159】
<その他の成分>
(i)結晶核剤
本発明の発泡成型品を構成するポリ乳酸(A)、ポリ乳酸樹脂組成物(A’)またはポリ乳酸樹脂組成物(A’’)には、結晶核剤を添加することができる。結晶核剤としてはポリ乳酸、並びに芳香族ポリエステルなどの結晶性樹脂に対して結晶核剤として一般に用いられている公知の化合物が主たる対象となる。
結晶核剤としては、例えば、タルク、シリカ、グラファイト、炭素粉、ピロフェライト、石膏、中性粘土等の無機質微粒子や、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、二酸化チタン等の金属酸化物、硫酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、硅酸塩、蓚酸塩、ステアリン酸塩、安息香酸塩、サリチル酸塩、酒石酸塩、スルホン酸塩、モンタンワックス塩、モンタンワックスエステル塩、テレフタル酸塩、安息香酸塩、カルボン酸塩等があげられる。
【0160】
結晶核剤として用いられる化合物の中で特に効果の大きいものは、タルクであり、平均粒径が20μm以下のものが好ましく用いられるが、平均粒径が5μm以下のものを用いると更に好ましい。
【0161】
結晶核剤の配合量は、結晶核剤の種類や形状によってその効果を発現させる量は異なるため一律に規定することはできないが、ポリ乳酸樹脂(A)、ポリ乳酸樹脂組成物(A’)またはポリ乳酸樹脂組成物(A’’)100重量部あたり、0.01〜5重量部であることが好ましく、より好ましくは0.05〜3重量部であり、さらに好ましくは0.1〜2重量部である。結晶核剤の添加量が少なすぎる場合には結晶核剤としての効果が発現されないことがあり、逆に多くし過ぎると結晶核剤としての効果が増大されることがないばかりか、むしろ機械特性その他において悪い結果を与える場合がある。
【0162】
本発明において用いられる結晶核剤の配合方法に特に制約はないが、ポリ乳酸樹脂(A)では、例えばL−乳酸を主成分とするポリL−乳酸(a−1)と、D−乳酸を主成分とするポリD−乳酸(a−2)とを混合した後に、必要により配合される他成分が存在する場合にはそれらと共に混合する際に添加する方法が、ステレオコンプレックス形成に与える悪影響が小さいため好ましい。
【0163】
また、ポリ乳酸樹脂組成物(A’)では、例えばポリL−乳酸樹脂(A’−1)およびポリD−乳酸樹脂(A’−2)を、混合装置を用いて溶融混練した後に、必要により配合される他成分が存在する場合にはそれらと共に混合する際に添加する方法が、ステレオコンプレックス形成に与える悪影響が小さいため好ましい。
【0164】
また、ポリ乳酸樹脂組成物(A’’)では、例えばL−乳酸オリゴマー(a’’−1)とポリD−乳酸樹脂(A’’−2)との混合物、またはD−乳酸オリゴマー(a’’−2)とポリL−乳酸樹脂(A’’−1)との混合物に、ポリイソシアネート化合物を加えて反応させた後に、必要により配合される他成分が存在する場合にはそれらと共に混合する際に添加する方法が、ステレオコンプレックス形成に与える悪影響が小さいため好ましい。
【0165】
(ii)無機充填材
本発明の発泡成型品を構成するポリ乳酸樹脂(A)、ポリ乳酸樹脂組成物(A’)またはポリ乳酸樹脂組成物(A’’)に、無機充填材を更に配合すると、機械特性、寸法特性などに優れた発泡成型品を得ることができるようになる。
無機充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、ガラスフレーク、ワラストナイト、カオリンクレー、マイカ、タルクおよび各種ウイスカー類(チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカーなど)といった一般に知られている各種無機充填材を挙げることができる。無機充填材の形状は繊維状、フレーク状、球状、中空状を自由に選択でき、樹脂組成物の強度や耐衝撃性の向上のためには繊維状、フレーク状のものが好適である。
【0166】
中でも、無機充填材としては、好適には天然鉱物の粉砕物からなる無機充填材であり、より好適には珪酸塩の天然鉱物の粉砕物からなる無機充填材であり、さらにその形状の点からは、マイカ、タルク、およびワラストナイトが好ましい。
【0167】
これら天然鉱物の粉砕物からなる無機充填材は脱石油資源材料であり、炭素繊維のような石油資源材料に比較して環境負荷のより低い原料であることから、結果として環境負荷低減を実現した成型品の提供を可能とする。さらに、前記のより好適な無機充填材は、炭素繊維などに比較して良好な難燃性が発現するとの有利な効果を奏する。
【0168】
本発明で使用できるマイカの平均粒子径は走査型電子顕微鏡により観察し、1μm以上のものを抽出した合計1000個の数平均にて算出される数平均粒子径である。その数平均粒子径は10〜500μmが好ましく、より好ましくは30〜400μm、さらに好ましくは30〜200μm、最も好ましくは35〜80μmである。数平均粒子径が10μm未満となると衝撃強度が低下する場合がある。また500μmを超えると、衝撃強度は向上するが外観が悪化しやすい。
【0169】
マイカの厚みとしては、電子顕微鏡観察により実測した厚みが0.01〜10μmのものを使用できる。好ましくは0.1〜5μmのものを使用できる。アスペクト比としては5〜200、好ましくは10〜100のものを使用できる。また使用するマイカはマスコバイトマイカが好ましく、そのモース硬度は約3である。マスコバイトマイカはフロゴパイトなど他のマイカに比較してより高剛性および高強度を達成でき、より好適な電子機器外装部品が提供される。
【0170】
また、マイカの粉砕法としては、マイカ原石を乾式粉砕機にて粉砕する乾式粉砕法と、マイカ原石を乾式粉砕機にて粗粉砕した後、水などの粉砕助剤を加えてスラリー状態にて湿式粉砕機で本粉砕し、その後脱水、乾燥を行う湿式粉砕法がある。本発明のマイカはいずれの粉砕法において製造されたものも使用できるが、乾式粉砕法の方が低コストで一般的である。一方湿式粉砕法は、マイカをより薄く細かく粉砕するのに有効であるがコストがかかる。マイカは、シランカップリング剤、高級脂肪酸エステル、およびワックスなどの各種表面処理剤で表面処理されていてもよく、さらに各種樹脂、高級脂肪酸エステル、およびワックスなどの集束剤で造粒し顆粒状とされていてもよい。
【0171】
本発明で使用できるタルクとは、層状構造を持った鱗片状の粒子であり、化学組成的には含水珪酸マグネシウムであり、一般的には化学式4SiO2・3MgO・2H2Oで表され、通常SiO2を56〜65重量%、MgOを28〜35重量%、H2O約5重量%程度から構成されている。その他の少量成分としてFe23が0.03〜1.2重量%、Al23が0.05〜1.5重量%、CaOが0.05〜1.2重量%、K2Oが0.2重量%以下、Na2Oが0.2重量%以下などを含有しており、比重は約2.7、モース硬度は1である。
【0172】
本発明のタルクの平均粒子径は0.5〜30μmが好ましい。該平均粒子径はJIS M8016に従って測定したアンドレアゼンピペット法により測定した粒度分布から求めた積重率50%時の粒子径である。タルクの粒子径は2〜30μmがより好ましく、5〜20μmがさらに好ましく、10〜20μmが最も好ましい。0.5〜30μmの範囲のタルクは成型品に剛性および低異方性に加えて、良好な表面外観および難燃性を付与する。
【0173】
またタルクを原石から粉砕する際の製法に関しては特に制限はなく、軸流型ミル法、アニュラー型ミル法、ロールミル法、ボールミル法、ジェットミル法、および容器回転式圧縮剪断型ミル法等を利用することができる。さらに粉砕後のタルクは、各種の分級機によって分級処理され、粒子径の分布が揃ったものが好適である。分級機としては特に制限はなく、インパクタ型慣性力分級機(バリアブルインパクターなど)、コアンダ効果利用型慣性力分級機(エルボージェットなど)、遠心場分級機(多段サイクロン、ミクロプレックス、ディスパージョンセパレーター、アキュカット、ターボクラシファイア、ターボプレックス、ミクロンセパレーター、およびスーパーセパレーターなど)などを挙げることができる。
【0174】
さらにタルクは、その取り扱い性等の点で凝集状態であるものが好ましく、かかる製法としては脱気圧縮による方法、集束剤を使用し圧縮する方法等がある。特に脱気圧縮による方法が簡便かつ不要の集束剤樹脂成分を本発明の電子機器外装部品中に混入させない点で好ましい。
【0175】
また、本発明で使用できるワラストナイトは、実質的に化学式CaSiO3で表され、通常SiO2が約50重量%以上、CaOが約47重量%以上、その他Fe23、Al23等を含んでいる。ワラストナイトは、ワラストナイト原石を粉砕、分級した白色針状粉末で、モース硬度は約4.5である。使用するワラストナイトの平均繊維径は0.5〜20μmが好ましく、0.5〜10μmがより好ましく、1〜5μmが最も好ましい。該平均繊維径は走査型電子顕微鏡により観察し、0.1μm以上のものを抽出した合計1000個の数平均にて算出されるものである。
【0176】
これら無機充填材には、結晶核剤としても働くものもあるが、機械特性などの改良の目的で無機充填材として用いる場合、その配合量は、ポリ乳酸樹脂(A)、ポリ乳酸樹脂組成物(A’)またはポリ乳酸樹脂組成物(A’’)100重量部あたり、0.3〜200重量部が好ましく、1.0〜100重量部がより好ましく、3〜50重量部が最も好ましい。かかる配合量が0.3重量部より小さい場合には、本発明の成型品の機械特性に対する補強効果が十分でないことがあり、また200重量部を超えると、成型加工性や色相が悪化することがある。
【0177】
なお、発泡成型品を構成する樹脂組成物において、繊維状無機充填材やフレーク状無機充填材を用いる場合、それらの折れを抑制するための折れ抑制剤を含むことができる。折れ抑制剤はマトリックス樹脂と無機充填材との間の密着性を阻害し、溶融混練時に無機充填材に作用する応力を低減して無機充填材の折れを抑制する。折れ抑制剤の効果としては(1)剛性向上(無機充填材のアスペクト比が大きくなる)、(2)靭性向上、(3)導電性の向上(導電性無機充填材の場合)などを挙げることができる。折れ抑制剤は具体的には、(i)樹脂と親和性の低い化合物を無機充填材の表面に直接被覆した化合物、および(ii)樹脂と親和性の低い構造を有し、かつ無機充填材の表面と反応可能な官能基を有する化合物である。
【0178】
樹脂と親和性の低い化合物としては各種の滑剤を代表的に挙げることができる。滑剤としては例えば、鉱物油、合成油、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、ポリオルガノシロキサン(シリコーンオイル、シリコーンゴムなど)、オレフィン系ワックス(パラフィンワックス、ポリオレフィンワックスなど)、ポリアルキレングリコール、フッ素化脂肪酸エステル、トリフルオロクロロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレングリコールなどのフッ素オイルなどが挙げられる。
【0179】
樹脂と親和性の低い化合物を無機充填材の表面に直接被覆する方法としては、(1)該化合物を直接、または該化合物の溶液や乳化液を無機充填材に浸漬する方法、(2)該化合物の蒸気中または粉体中に無機充填材を通過させる方法、(3)該化合物の粉体などを無機充填材に高速で照射する方法、(4)無機充填材と該化合物を擦り付けるメカノケミカル的方法などを挙げることができる。
【0180】
樹脂と親和性の低い構造を有し、かつ無機充填材の表面と反応可能な官能基を有する化合物としては、各種の官能基で修飾された前記の滑剤を挙げることができる。かかる官能基としては例えばカルボキシル基、カルボン酸無水物基、エポキシ基、オキサゾリン基、イソシアネート基、エステル基、アミノ基、アルコキシシリル基などを挙げることができる。
【0181】
好適な折れ抑制剤の1つは、炭素数5以上のアルキル基が珪素原子に結合したアルコキシシラン化合物である。かかる珪素原子に結合したアルキル基の炭素数は好ましくは5〜60、より好ましくは5〜20、さらに好ましくは6〜18、特に好ましくは8〜16である。珪素原子に結合するアルキル基は1または2が好適であり、1がより好ましい。またアルコキシ基としてはメトキシ基およびエトキシ基が好適に例示される。かかるアルコキシシラン化合物は、無機充填材表面に対する反応性が高く被覆効率に優れる点で好ましい。したがってより微細な無機充填材において好適である。
【0182】
好適な折れ抑制剤の1つは、カルボキシル基、およびカルボン酸無水物基から選択された少なくとも1種の官能基を有するポリオレフィンワックスである。分子量としては重量平均分子量で500〜20,000が好ましく、より好ましくは1,000〜15,000である。かかるポリオレフィンワックスにおいて、カルボキシル基およびカルボン酸無水物基の量としては、カルボキシル基およびカルボン酸無水物基から選択される少なくとも1種の官能基を有する滑剤1g当り0.05〜10meq/gの範囲が好ましく、より好ましくは0.1〜6meq/gであり、さらに好ましくは0.5〜4meq/gである。折れ抑制剤中の官能基の割合は、カルボキシル基以外の官能基においても前記のカルボキシル基およびカルボン酸無水物基の割合と同程度であることが好ましい。
【0183】
折れ抑制剤としてより好ましいものとしてα−オレフィンと無水マレイン酸との共重合体を挙げることができる。かかる共重合体は、常法に従いラジカル触媒の存在下に、溶融重合あるいはバルク重合法で製造することができる。ここでα−オレフィンとしてはその炭素数が平均値として10〜60のものを好ましく挙げることができる。α−オレフィンとしてより好ましくはその炭素数が平均値として16〜60、さらに好ましくは25〜55のものを挙げることができる。
【0184】
前記折れ抑制剤は本発明のポリ乳酸樹脂(A)、ポリ乳酸樹脂組成物(A’)またはポリ乳酸樹脂組成物(A’’)100重量部当り0.01〜2重量部が好ましく、0.05〜1.5重量部がより好ましく、0.1〜0.8重量部がさらに好ましい。
【0185】
(iii)難燃剤
本発明の発泡成型品を構成する樹脂組成物には、難燃剤を配合することもできる。難燃剤としては、臭素化エポキシ樹脂、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリカーボネート、臭素化ポリアクリレート、および塩素化ポリエチレンなどのハロゲン系難燃剤、モノホスフェート化合物およびホスフェートオリゴマー化合物などのリン酸エステル系難燃剤、ホスホネートオリゴマー化合物、ホスホニトリルオリゴマー化合物、ホスホン酸アミド化合物などのリン酸エステル系難燃剤以外の有機リン系難燃剤、有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩、ホウ酸金属塩系難燃剤、および錫酸金属塩系難燃剤などの有機金属塩系難燃剤、並びにシリコーン系難燃剤等が挙げられる。また別途、難燃助剤(例えば、アンチモン酸ナトリウム、三酸化アンチモン等)や滴下防止剤(フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン等)等を配合し、難燃剤と併用してもよい。
【0186】
上述の難燃剤の中でも、塩素原子および臭素原子を含有しない化合物は、焼却廃棄やサーマルリサイクルを行う際に好ましくないとされる要因が低減されることから、環境負荷の低減をも1つの特徴とする本発明の成型品における難燃剤としてより好適である。
【0187】
さらにリン酸エステル系難燃剤は、良好な色相が得られること、成型加工性を高める効果も発現することから特に好ましい。リン酸エステル系難燃剤の具体例としては、特に下記一般式(ii)で表される1種または2種以上のリン酸エステル化合物を挙げることができる。
【0188】
【化1】

【0189】
(但し上記式中のXは、ハイドロキノン、レゾルシノール、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、ビスフェノールA、ジヒドロキシジフェニル、ジヒドロキシナフタレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)サルファイドから誘導される基が挙げられ、nは0〜5の整数であり、またはn数の異なるリン酸エステルの混合物の場合は0〜5の平均値であり、R11、R12、R13、およびR14はそれぞれ独立して1個以上のハロゲン原子を置換したもしくは置換していないフェノール、クレゾール、キシレノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p−クミルフェノールから誘導される基である。)
さらに好ましいものとしては、上記式中のXが、ハイドロキノン、レゾルシノール、ビスフェノールA、およびジヒドロキシジフェニルから誘導される基が挙げられ、nは1〜3の整数であり、またはn数の異なるリン酸エステルのブレンドの場合はその平均値であり、R11、R12、R13、およびR14はそれぞれ独立して1個以上のハロゲン原子を置換したもしくはより好適には置換していないフェノール、クレゾール、キシレノールから誘導される基である。
【0190】
かかる有機リン酸エステル系難燃剤の中でも、ホスフェート化合物としてはトリフェニルホスフェート、ホスフェートオリゴマーとしてはレゾルシノールビス(ジキシリルホスフェート)およびビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)が耐加水分解性などにも優れるため好ましく使用できる。さらに好ましいのは、耐熱性などの点からレゾルシノールビス(ジキシリルホスフェート)およびビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)である。これらは耐熱性も良好であるためそれらが熱劣化したり揮発するなどの弊害がないためである。
【0191】
本発明の発泡成型品を構成する樹脂組成物において、これら難燃剤を配合する場合には、ポリ乳酸樹脂(A)、ポリ乳酸樹脂組成物(A’)またはポリ乳酸樹脂組成物(A’’)100重量部当たり0.05〜50重量部の範囲が好ましい。0.05重量部未満では十分な難燃性が発現しないことがあり、50重量部を超えると成型品の強度や耐熱性などを損なうことがある。
【0192】
(iv)安定剤
本発明の発泡成型品を構成する樹脂組成物においては、さらに良好な色相かつ安定した流動性を得るため、安定剤を含有することが好ましい。安定剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、チオエーテル系化合物、ビタミン系化合物、トリアゾール系化合物、多価アミン系化合物、ヒドラジン誘導体系化合物、リン系化合物などが挙げられ、これらを併用して用いてもよい。中でもリン系化合物を少なくとも1種含むことが好ましく、ホスフェート系化合物、ホスファイト系化合物であることがさらに好ましい。具体例のさらなる好ましい例としてはADEKA製“アデカスタブ”AX−71(ジオクタデシルホスフェート)、PEP−8(ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト)、PEP−36(サイクリックネオペンタテトライルビス(2,6―t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト)である。りん系安定剤は、前記アミド化触媒の失活剤および/または、前記ポリ乳酸樹脂(A)を構成するポリL−乳酸(a−1)およびポリD−乳酸(a−2)の調製に用いる触媒の失活剤として作用すると考えられ、本発明におけるポリ乳酸系樹脂の製造における触媒除去方法として有効である。
【0193】
ヒンダードフェノール系化合物の具体例としては、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−オクタデシル−3−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−テトラデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、1,4−ブタンジオール−ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、2,2’−メチレンビス−(4−メチル−t−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、3,9−ビス[2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、N,N’−ビス−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルヘキサメチレンジアミン、N,N’−テトラメチレン−ビス−3−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオニルジアミン、N,N’−ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオニル]ヒドラジン、N−サリチロイル−N’−サリチリデンヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、N,N’−ビス[2−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]オキシアミド、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサメチレンビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド等をあげることができる。好ましくは、トリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,6−ヘキサンジオール−ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサメチレンビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイドである。ヒンダードフェノール系化合物の具体的な商品名としては、ADEKA製“アデカスタブ”AO−20,AO−30,AO−40,AO−50,AO−60,AO−70,AO−80,AO−330、(株)チバスペシャリティケミカル製“イルガノックス”245,259,565,1010,1035,1076,1098,1222,1330,1425,1520,3114,5057、(株)住友化学製“スミライザー”BHT−R、MDP−S、BBM−S、WX−R、NW、BP−76、BP−101、GA−80、GM、GS、(株)サイアナミド製“サイアノックス”CY−1790などが挙げられる。
【0194】
チオエーテル系化合物の具体例としては、ジラウリルチオジプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−オクタデシルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ミリスチルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ステアリルチオプロピオネート)などが挙げられる。チオエーテル系化合物の具体的な商品名としては、(株)ADEKA製“アデカスタブ”A0−23、AO−412S、AO−503A、(株)チバスペシャリティケミカル製“イルガノックス”PS802、(株)住友化学製“スミライザー”TPL−R、TPM、TPS、TP−D、(株)エーピーアイコーポレーション製DSTP、DLTP、DLTOIB、DMTP、(株)シプロ化成製“シーノックス”412S、(株)サイアミド製“サイアノックス”1212などが挙げられる。
【0195】
ビタミン系化合物の具体例としては、酢酸d−α−トコフェロール、コハク酸d−α−トコフェロール、d−α−トコフェロール、d−β−トコフェロール、d−γ−トコフェロール、d−δ−トコフェロール、d−α−トコトリエノール、d−β−トコフェトリエノール、d−γ−トコフェトリエノール、d−δ−トコフェトリエノールなどの天然品、dl−α−トコフェロール、酢酸dl−α−トコフェロール、コハク酸dl−α−トコフェロールカルシウム、ニコチン酸dl−α−トコフェロールなどの合成品を挙げることができる。ビタミン系化合物の具体的な商品名としては、(株)エーザイ製“トコフェロール”、(株)チバスペシャリティケミカル製“イルガノックス”E201などが挙げられる。
【0196】
トリアゾール系化合物の具体例としては、ベンゾトリアゾール、3−(N−サリシロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾールなどが挙げられる。
【0197】
多価アミン系化合物の具体例としては、3,9−ビス[2−(3,5−ジアミノ−2,4,6−トリアザフェニル)エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、エチレンジアミン−テトラアセチックアシッド、エチレンジアミン−テトラアセチックアシッドのアルカリ金属塩(Li,Na,K)塩、N,N’−ジサリシリデン−エチレンジアミン、N,N’−ジサリシリデン−1,2−プロピレンジアミン、N,N’’−ジサリシリデン−N’−メチル−ジプロピレントリアミン、3−サリシロイルアミノ−1,2,4−トリアゾールなどが挙げられる。
【0198】
ヒドラジン誘導体系化合物の具体例としては、デカメチレンジカルボキシリックアシッド−ビス(N’−サリシロイルヒドラジド)、イソフタル酸ビス(2−フェノキシプロピオニルヒドラジド)、N−ホルミル−N’−サリシロイルヒドラジン、2,2−オキザミドビス−[エチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ハイドロオキシフェニル)プロピオネート]、オギザリル−ビス−ベンジリデン−ヒドラジド、ニッケル−ビス(1−フェニル−3−メチル−4−デカノイル−5−ピラゾレート)、2−エトキシ−2’−エチルオキサニリド、5−t−ブチル−2−エトキシ−2’−エチルオキサニリド、N,N−ジエチル−N’,N’−ジフェニルオキサミド、N,N’−ジエチル−N,N’−ジフェニルオキサミド、オキサリックアシッド−ビス(ベンジリデンヒドラジド)、チオジプロピオニックアシッド−ビス(ベンジリデンヒドラジド)、ビス(サリシロイルヒドラジン)、N−サリシリデン−N’−サリシロイルヒドラゾン、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、N,N’−ビス[2−〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル]オキサミドなどが挙げられる。
【0199】
リン系化合物としては、例えば、ホスファイト系化合物、ホスフェート系化合物が挙げられる。かかるホスファイト系化合物の具体例としては、テトラキス[2−t−ブチル−4−チオ(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)−5−メチルフェニル]−1,6−ヘキサメチレン−ビス(N−ヒドロキシエチル−N−メチルセミカルバジド)−ジホスファイト、テトラキス[2−t−ブチル−4−チオ(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)−5−メチルフェニル]−1,10−デカメチレン−ジ−カルボキシリックアシッド−ジ−ヒドロキシエチルカルボニルヒドラジド−ジホスファイト、テトラキス[2−t−ブチル−4−チオ(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)−5−メチルフェニル]−1,10−デカメチレン−ジ−カルボキシリックアシッド−ジ−サリシロイルヒドラジド−ジホスファイト、テトラキス[2−t−ブチル−4−チオ(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)−5−メチルフェニル]−ジ(ヒドロキシエチルカルボニル)ヒドラジド−ジホスファイト、テトラキス[2−t−ブチル−4−チオ(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)−5−メチルフェニル]−N,N’−ビス(ヒドロキシエチル)オキサミド−ジホスファイトなどが挙げられるが、少なくとも1つのP−O結合が芳香族基に結合しているものがより好ましく、具体例としては、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)4,4’−ビフェニレンホスフォナイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシル)ホスファイト、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジトリデシルホスファイト−5−t−ブチル−フェニル)ブタン、トリス(ミックスド−モノおよびジ−ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、4,4’−イソプロピリデンビス(フェニル−ジアルキルホスファイト)などが挙げられ、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンホスホナイトなどが好ましく使用できる。ホスファイト系化合物の具体的な商品名としては、(株)ADEKA製“アデカスタブ” C、PEP−4C、PEP−8、PEP−11C、PEP−24G、PEP−36、HP−10、2112、260、522A、329A、1178、1500、C、135A、3010、TPP、(株)チバスペシャリティケミカル製“イルガフォス”168、(株)住友化学製“スミライザー”P−16、(株)クラリアント製“サンドスタブ”PEPQ、GE製“ウエストン”618、619G、624などが挙げられる。
【0200】
ホスフェート系化合物の具体例としては、モノステアリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、メチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェートなどが挙げられ、中でも、モノステアリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェートが好ましい。ホスフェート系化合物の具体的な商品名としては、(株)チバスペシャリティケミカル製“イルガノックス”MD1024、(株)イーストマン・コダック製“インヒビター”OABH、(株)ADEKA製“アデカスタブ”CDA−1、CDA−6、AX−71などを挙げることができる。
【0201】
上記の安定剤は、単独でまたは2種以上を併用して使用することができる。安定剤はポリ乳酸樹脂(A)、ポリ乳酸樹脂組成物(A’)またはポリ乳酸樹脂組成物(A’’)100重量部当たり、好ましくは0.001〜5重量部、より好ましくは0.01〜3重量部、さらに好ましくは0.01〜1重量部配合される。
【0202】
(v)弾性重合体
本発明の発泡成型品を構成する樹脂組成物には、衝撃改良剤として弾性重合体を使用することができ、弾性重合体の例としては、ガラス転移温度が10℃以下のゴム成分に、芳香族ビニル、シアン化ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、およびこれらと共重合可能なビニル化合物から選択されたモノマーの1種または2種以上が共重合されたグラフト共重合体を挙げることができる。より好適な弾性重合体は、ゴム成分のコアに前記モノマーの1種または2種以上のシェルがグラフト共重合されたコア−シェル型のグラフト共重合体である。
【0203】
またかかるゴム成分と上記モノマーのブロック共重合体も挙げられる。かかるブロック共重合体としては具体的にはスチレン・エチレンプロピレン・スチレンエラストマー(水添スチレン・イソプレン・スチレンエラストマー)、および水添スチレン・ブタジエン・スチレンエラストマーなどの熱可塑性エラストマーを挙げることができる。さらに他の熱可塑性エラストマーして知られている各種の弾性重合体、例えばポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリエーテルアミドエラストマー等を使用することも可能である。
【0204】
衝撃改良剤としてより好適なのはコア−シェル型のグラフト共重合体である。コア−シェル型のグラフト共重合体において、そのコアの粒径は重量平均粒子径において0.05〜0.8μmが好ましく、0.1〜0.6μmがより好ましく、0.1〜0.5μmがさらに好ましい。0.05〜0.8μmの範囲であればより良好な耐衝撃性が達成される。弾性重合体は、ゴム成分を40%以上含有するものが好ましく、60%以上含有するものがさらに好ましい。
【0205】
ゴム成分としては、ブタジエンゴム、ブタジエン−アクリル複合ゴム、アクリルゴム、アクリル−シリコーン複合ゴム、イソブチレン−シリコーン複合ゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、ニトリルゴム、エチレン−アクリルゴム、シリコーンゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴムおよびこれらの不飽和結合部分に水素が添加されたものを挙げることができるが、燃焼時の有害物質の発生懸念という点から、ハロゲン原子を含まないゴム成分が環境負荷の面において好ましい。
【0206】
ゴム成分のガラス転移温度は好ましくは−10℃以下、より好ましくは−30℃以下であり、ゴム成分としては特にブタジエンゴム、ブタジエン−アクリル複合ゴム、アクリルゴム、アクリル−シリコーン複合ゴムが好ましい。複合ゴムとは、2種のゴム成分を共重合したゴムまたは分離できないよう相互に絡み合ったIPN構造をとるように重合したゴムをいう。
【0207】
ゴム成分に共重合するビニル化合物における芳香族ビニルとしては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、アルコキシスチレン、ハロゲン化スチレン等を挙げることができ、特にスチレンが好ましい。またアクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸オクチル等を挙げることができ、メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸オクチル等を挙げることができ、メタクリル酸メチルが特に好ましい。これらの中でも特にメタクリル酸メチルなどのメタクリル酸エステルを必須成分として含有することが好ましい。より具体的には、メタクリル酸エステルはグラフト成分100重量%中(コア−シェル型重合体の場合にはシェル100重量%中)、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上含有される。
【0208】
ガラス転移温度が10℃以下のゴム成分を含有する弾性重合体は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合のいずれの重合法で製造したものであってもよく、共重合の方式は一段グラフトであっても多段グラフトであっても差し支えない。また製造の際に副生するグラフト成分のみのコポリマーとの混合物であってもよい。さらに重合法としては一般的な乳化重合法の他、過硫酸カリウム等の開始剤を使用するソープフリー重合法、シード重合法、二段階膨潤重合法等を挙げることができる。また懸濁重合法において、水相とモノマー相とを個別に保持して両者を正確に連続式の分散機に供給し、粒子径を分散機の回転数で制御する方法、および連続式の製造方法において分散能を有する水性液体中にモノマー相を数〜数十μm径の細径オリフィスまたは多孔質フィルターを通すことにより供給し粒径を制御する方法などを行ってもよい。コア−シェル型のグラフト重合体の場合、その反応はコアおよびシェル共に、1段であっても多段であってもよい。
【0209】
かかる弾性重合体は市販されており容易に入手することが可能である。例えばゴム成分として、ブタジエンゴム、アクリルゴムまたはブタジエン−アクリル複合ゴムを主体とするものとしては、鐘淵化学工業(株)のカネエースBシリーズ(例えばB−56など)、三菱レイヨン(株)のメタブレンCシリーズ(例えばC−223Aなど)、Wシリーズ(例えばW−450Aなど)、呉羽化学工業(株)のパラロイドEXLシリーズ(例えばEXL−2602など)、HIAシリーズ(例えばHIA−15など)、BTAシリーズ(例えばBTA−IIIなど)、KCAシリーズ、ローム・アンド・ハース社のパラロイドEXLシリーズ、KMシリーズ(例えばKM−336P、KM−357Pなど)、並びに宇部サイコン(株)のUCLモディファイヤーレジンシリーズ(ユーエムジー・エービーエス(株)のUMG AXSレジンシリーズ)などが挙げられ、ゴム成分としてアクリル−シリコーン複合ゴムを主体とするものとしては三菱レイヨン(株)よりメタブレンS−2001あるいはSRK−200という商品名で市販されているものが挙げられる。
【0210】
衝撃改良剤の組成割合は、ポリ乳酸樹脂(A)、ポリ乳酸樹脂組成物(A’)またはポリ乳酸樹脂組成物(A’’)100重量部あたり0.2〜50重量部が好ましく、1〜30重量部が好ましく、1.5〜20重量部がより好ましい。かかる組成範囲は、剛性の低下を抑制しつつ組成物に良好な耐衝撃性を与えることができる。
【0211】
(vi)その他の添加剤
本発明の発泡成型品を構成する樹脂組成物には、本発明の効果を発揮する範囲で、他の熱可塑性樹脂(例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリアルキレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、ポリメタクリレート樹脂、並びにフェノキシまたはエポキシ樹脂など)、紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール化合物、トリアジン化合物、ベンゾフェノン化合物など)、光安定剤(HALSなど)、離型剤(飽和脂肪酸エステル、不飽和脂肪酸エステル、ポリオレフィン系ワックス、フッ素化合物、パラフィンワックス、蜜蝋など)、流動改質剤(ポリカプロラクトンなど)、着色剤(カーボンブラック、二酸チタン、各種の有機染料、メタリック顔料など)、光拡散剤(アクリル架橋粒子、シリコーン架橋粒子など)、蛍光増白剤、蓄光顔料、蛍光染料、帯電防止剤、無機および有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤(微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛など)、赤外線吸収剤、並びにフォトクロミック剤紫外線吸収剤などを配合してもよい。これら各種の添加剤は、ポリ乳酸等の熱可塑性樹脂に配合する際の周知の配合量で利用することができる。
【0212】
<コンパウンドの製造方法>
本発明の発泡成型品を構成するコンパウンドを製造するには、任意の方法が採用される。例えば各成分、並びに任意に他の成分を予備混合し、その後溶融混練し、ペレット化する方法を挙げることができる。予備混合の手段としては、ナウターミキサー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などを挙げることができる。予備混合においては場合により押出造粒器やブリケッティングマシーンなどにより造粒を行うこともできる。予備混合後、ベント式二軸押出機に代表される溶融混練機で溶融混練、およびペレタイザー等の機器によりペレット化する。溶融混練機としては他にバンバリーミキサー、混練ロール、恒熱撹拌容器などを挙げることができるが、ベント式二軸押出機が好ましい。他に、各成分、並びに任意に他の成分を予備混合することなく、それぞれ独立に二軸押出機に代表される溶融混練機に供給する方法も取ることもできる。
【0213】
<発泡成型品の製造>
本発明の発泡成型品において、気泡を形成させる方法としては従来公知の各種の方法を取ることが出来る。本発明の発泡成型品は、熱分解型発泡剤を樹脂組成物中に含み、かかる発泡剤を熱分解させて気泡を形成させ、発泡成型品を形成する方法で製造することができる。かかる熱分解型発泡剤は予めポリ乳酸と均一に混合される態様が好適である。その他の方法としては発泡成型品製造時にポリ乳酸のペレットと直接に混合したり、マスター剤の形態とされた発泡剤を混合する方法がある。
【0214】
熱分解型発泡剤としては例えば、アゾ化合物、ジアゾ化合物、ニトロソ化合物、アジ化合物、テトラゾール誘導体、トリアジン誘導体、セミカルバジド誘導体、尿素誘導体、グアニジン誘導体、炭酸塩、重炭酸塩、亜硝酸塩などが例示される。
【0215】
また本発明の発泡成型品は、体積膨張可能な化学物質を前記ポリ乳酸に含浸させる工程と、該化学物質を該ポリ乳酸内で体積膨張させることにより気泡を形成し発泡成型品を得る工程とを備える方法により製造されることができる。含浸時のガス圧力は1MPa以上が好ましく、10MPa以上が更に好ましい。
【0216】
前記化学物質としては、常温(23℃)常圧(大気圧)下で気体状態である有機もしく無機質の任意のガスを用いることができる。例えば二酸化炭素(炭酸ガス)、窒素、酸素、アルゴン、水などの無機質ガス、またはフロン、低分子量の炭化水素、塩素化脂肪族炭化水素、臭素化脂肪族炭化水素、アルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの有機ガスなどが例示される。更に低分子量炭化水素としては、ペンタン、ブタン、およびヘキサンが例示され、塩素化脂肪族炭化水素としては塩化メチルが例示され、臭素化脂肪族炭化水素としては臭化メチルが例示され、また各種フッ化脂肪族炭化水素(テトラフルオロエチレンなど)も用いることができる。前記化学物質の中でも二酸化炭素が好適である。更に二酸化炭素は比較的低い温度及び低い圧力において超臨界化することができ、本発明のより好適な態様において使用しやすい。前記化学物質はその他常温で液体であるものも使用可能であり、かかる化学物質としては例えばペンタン、ネオペンタン、ヘキサン、ヘプタン、塩化メチレン、およびトリクロロエチレン、並びにCFC−11、CFC−12、CFC−113、CFC−141bなどのフロンが例示される。
【0217】
前記化学物質をポリ乳酸に含浸させる方法としては、特に限定されないが、例えば密封したオートクレーブ中に化学物質を気体として封入し、圧力を加える方法が挙げられる。溶融押出機で発泡成型体を成型する場合には、ベント式スクリュー押出機を使用し、ベント部分から前記化学物質としての気体を溶融状態の樹脂組成物に対して注入する方法が挙げられる。かかる場合には溶融状態の樹脂組成物に圧力シールを行った状態で化学物質の含浸を行う。
【0218】
更に本発明の発泡成型品を製造する好適な態様は、体積膨張可能な化学物質を射出成型機のシリンダー内で高圧下に含浸させる工程と、該化学物質を含浸させた樹脂組成物を射出成型機の金型キャビティ内に充填する工程と、該キャビティを実質的に拡張することなく組成物内で該化学物質を体積膨張させることにより気泡を形成し発泡成型品を得る工程とを備える方法により発泡成型品を製造する方法である。かかる方法によって高い形状の自由度と、樹脂の低圧下における金型内への充満に起因する低反り性と、肉厚の変化が大きい場合にも少ないヒケと、優れた軽量性および剛性とを有する、構造材料として好適な
発泡成型品が得られる。
【0219】
キャビティを実質的に拡張させることなくとは、樹脂の充填完了時からキャビティ容量を変化させないことをいうが、製品の寸法が保証される範囲内でわずかに拡大してもよい。ここでキャビティの拡張範囲は樹脂充填完了時のキャビティ容量に対して、1.05倍以内が適切であり、1.01倍以内にとどめることが好ましく、1倍であることが特に好ましい。含浸された化学物質は樹脂の冷却固化に伴う体積収縮を補償する形で体積膨張して気泡を形成し、その結果目的とする寸法形状に合致した発泡成型品が、厚肉部のヒケや反りを呈することなく得られる。
【0220】
更に本発明の発泡成型品の製造は、前記化学物質を含浸させるにあたり、常温常圧でガス状の該化学物質を超臨界状態で含浸させる方法がより好ましい。かかる方法は微細かつ均質な発泡セルが得られる点で本発明の効果がより発揮される。
【0221】
本発明の発泡成型品は、示差走査熱量計(DSC)測定の昇温過程におけるポリ乳酸に由来する融解ピークにおいて、195℃以上の融解ピークの割合が70%以上であることが好ましく、好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上であるのがよい。195℃以上の融解ピークの割合が大きいほど、発泡成型品の耐加水分解性が高くなる。
【0222】
融点は、195〜250℃の範囲が好ましく、より好ましくは200〜220℃の範囲である。融解エンタルピーは、10J/g以上が好ましく、より好ましくは20J/g以上、更に好ましくは30J/g以上である。
【0223】
融点がこの範囲内にあるためには、 ポリ乳酸樹脂(A)を構成するポリL−乳酸(a−1)及びポリD−乳酸(a−2)の重量平均分子量が、10,000〜100,000であることが好ましく、10,000〜50,000の範囲がより好ましい。重量平均分子量は溶離液にクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量値である。
【0224】
具体的には、示差走査熱量計(DSC)測定の昇温過程におけるポリ乳酸に由来する融解ピークにおいて、195℃以上の融解ピークの割合が70%以上であり、融点が195〜250℃の範囲にあり、融解エンタルピーが10J/g以上であることが好ましい。
【0225】
本発明の発泡成型品は、構造部材、包装用材料、容器、緩衝材などに使用できるだけでなく、電気電子用途や自動車用途などの工業材料などにも活用することができる。
【0226】
さらに本発明の発泡成型品には、表面改質を施すことによりさらに他の機能を付与するとこが可能である。ここでいう表面改質とは、蒸着(物理蒸着、化学蒸着等)、メッキ(電気メッキ、無電解メッキ、溶融メッキ等)、塗装、コーティング、印刷等の樹脂成型品の表層上に新たな層を形成させるものであり、通常の成型品に加飾する方法が適用できる。
【実施例】
【0227】
以下、実施例により本発明を詳述する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0228】
下記の製造例に示す方法により、ポリ乳酸の製造を行った。また実施例中における各値は下記の方法で求めた。
【0229】
<重量平均分子量(Mw)>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、Waters社製、検出器RI:Waters社製2414、カラム:SHODEX社製LF−G、LF−804)(カラム温度40℃、流速1mL/min、クロロホルム溶媒)により、ポリスチレン標準サンプルを基準として重量平均分子量を算出した。
【0230】
<融点(Tm)>
DSC(SII社製DSC装置RDC220)により求めた。試料を5〜6mg秤量し、窒素シールしたパンに計り込み、窒素シールされた予め30℃に設定されたDSC測定部に装入した後、10℃/minの昇温速度で250℃まで昇温した。
【0231】
<カルボン酸価>
測定対象ポリマー0.5gに対してクロロホルム/メタノール=7/3の混合溶媒を20mL加え、完全にポリマーを溶解させた。その後、指示薬としてブロムチモールブルー/フェノールレッド混合のエタノール溶液を2滴加えると、黄色を呈した。0.1Nエタノール性水酸化カリウム溶液で滴定を行い、色が黄色から薄紫色に変化した点を終点とし、ポリマーのカルボン酸価を求めた。
【0232】
<末端カルボン酸率および末端官能基数>
ポリ乳酸と無水コハク酸とを反応させて得られた試料および乳酸と無水コハク酸とから得られたポリ乳酸試料の1H−NMR(装置:日本電子製ECA500、内部標準テトラメチルシラン:δ=0ppm)を測定した。このスペクトルにおいて、
δ=2.61〜2.72ppm(マルチプレット):
ポリ乳酸末端に反応したコハク酸ユニットおよびポリ乳酸中のコハク酸のメチレン鎖水素由来(4H)
δ=4.36ppm J=6.92(カルテット):
ポリ乳酸鎖末端ヒドロキシル基のα位のメチン水素由来(1H)
以上2種の積分値より、
末端カルボン酸数 [= ポリ乳酸カルボキシル基数(=未反応のポリ乳酸末端ヒドロキシル基数)+コハク酸化された末端カルボキシル基数}と末端ヒドロキシル基数(未反応のポリ乳酸末端ヒドロキシル基数)とから、末端カルボン酸率を計算した。また上述したカルボン酸価の値と末端カルボン酸率とから末端官能基数を算出した。
【0233】
末端カルボン酸率(%)=末端カルボン酸数/(末端カルボン酸数+末端ヒドロキシル
基数)×100
末端官能基数 (mol/g) = カルボン酸価/(末端カルボン酸率/100)
<ポリ乳酸系樹脂のアミド結合の同定>
ポリ乳酸とヘキサメチレンジイソシアネートとを反応させて得られたポリ乳酸系樹脂の13C−NMR(装置:日本電子製ECA500、内部標準クロロホルム−d:δ=77ppm)を測定した。このスペクトルにおいて、
δ=39ppm:
アミド結合に隣接したヘキサメチレンユニットのα位の炭素由来
δ=69ppm:
ポリ乳酸主鎖のメチン炭素由来
以上2種の積分値の比率より、ポリ乳酸系樹脂におけるアミド結合の含有量を決定し、用いた原料ポリ乳酸の数平均分子量とからポリ乳酸系樹脂1分子あたりのアミド結合ユニット数を算出した。
【0234】
<製造例1:ポリL−乳酸(a−1)の製造>
Purac社の90%L−乳酸(L体が99.5モル%の乳酸)500重量部と試薬の塩化スズ(II)二水和物(和光純薬社製)1.18重量部とをディーンスタークトラップが備え付けられた丸底フラスコに装入した。該フラスコ内を窒素置換後、常圧、窒素雰囲気下で、150℃に加熱したオイルバスにより130℃まで昇温した。該フラスコ内を徐々に減圧し、50mmHgで2時間保持した。次に、該フラスコ内を常圧まで放圧した後、該フラスコ内にキシレンを40重量部加えた。次に、ディーンスタークトラップを、キシレンが充満されたディーンスタークトラップに交換した。次にオイルバス温度を180℃まで昇温し、該フラスコ内を500mmHgに減圧し、反応溶液温度150℃で20時間保持し、透明なポリL−乳酸が得られた。該ポリL−乳酸について、上記測定方法により重量平均分子量(Mw)を測定したところ、20000であった。また、上記測定方法によりカルボン酸価を求めたところ、1.818×10-4(mol/g)であった。
【0235】
さらに、前記フラスコ内に無水コハク酸6.55重量部を加え、オイルバス温度150℃にて2時間攪拌し、前記ポリL−乳酸の末端ヒドロキシル基をカルボキシル基に変換したポリL−乳酸を得た。その後、該フラスコ内を常圧に放圧し、キシレン300重量部を加えて希釈後、得られた溶液を抜き出し、窒素気流下でキシレンを風乾した。35%塩酸を1%含有した2−プロパノールにて2回洗浄し、ろ過した後、さらにメタノールで数回洗浄して50℃にて減圧乾燥し、白色のポリL−乳酸(a−1)を340重量部得た。ポリL−乳酸(a−1)について、上記測定方法により重量平均分子量(Mw)を測定したところ、20,000であった。ポリL−乳酸(a−1)について、上記測定方法により末端カルボン酸率を求めたところ95%であった。また、ポリL−乳酸(a−1)について、上記測定方法によりカルボン酸価を求めたところ、3.652×10-4(mol/g)であった。カルボン酸価および末端カルボン酸率から計算した数平均分子量Mnは5200であった。融点(Tm)は161℃であった。
【0236】
<製造例2:ポリD−乳酸(a−2)の製造>
90%L−乳酸を90%D−乳酸(Purac社製D−ラクチドを加水分解したもの、D体が99.5モル%以上の乳酸)に変更した以外、製造例1と同様にポリD−乳酸(a−2)を得た。ポリD−乳酸(a−2)について、上記測定方法により重量平均分子量(Mw)を測定したところ、20000であった。ポリD−乳酸(a−2)について、上記測定方法により末端カルボン酸率を求めたところ95%であった。また、該ポリD−乳酸(a−2)について、上記測定方法によりカルボン酸価を求めたところ、3.668×10-4(mol/g)であった。カルボン酸価および末端カルボン酸率から計算した数平均分子量Mnは5,180であった。融点(Tm)は160℃であった。
【0237】
<製造例3:ポリ乳酸樹脂(A)の製造>
製造例1で合成したポリL−乳酸(a−1)75重量部および製造例2で合成したポリD−乳酸(a−2)75重量部、ステアリン酸マグネシウム0.12重量部とを丸底フラスコに装入した。該フラスコ内を窒素置換後、テトラリン150重量部を挿入し、常圧、窒素雰囲気下で、210℃まで昇温した。次に、該フラスコ内にヘキサメチレンジイソシアネート4.86重量部、末端官能基に対しイソシアネート基が1.05当量)を加え、200℃で1時間反応させた。PEP−36(ADEKA製) 0.750重量部、イルガノックス1010(チバスペシャリティケミカル製) 0.750重量部を加えた後、テトラリン100重量部を加え溶液を冷却し、沈殿物をろ過、乾燥することにより白色粉末のポリ乳酸樹脂(A)が150重量部得られた。該樹脂について、上記測定方法により重量平均分子量を測定したところ、150000であった。上記測定方法により得られたポリ乳酸系樹脂(A)の13C−NMRより、アミド結合の含有を確認した。
【0238】
<製造例4:ポリL−乳酸の製造>
L−ラクチド(Purac社製)48.75重量部とD−ラクチド(Purac社製)1.25重量部を重合槽に加え、系内を窒素置換した後、ステアリルアルコール0.05重量部、触媒としてオクチル酸スズ25×10-3重量部を加え、190℃、2時間、重合を行い、ポリマーを製造した。このポリマーを35%塩酸を1%含有した2−プロパノールで洗浄し、触媒を除去し、ポリL−乳酸を得た。得られたポリL−乳酸の重量平均分子量100,000であった。融点(Tm)は159℃であった。
【0239】
<製造例5:ポリD−乳酸の製造>
L−ラクチド(Purac社製)1.25重量部とD−ラクチド(Purac社製)48.75重量部を重合槽に加え、系内を窒素置換した後、ステアリルアルコール0.05重量部、触媒としてオクチル酸スズ25×10-3重量部を加え、190℃、2時間、重合を行い、ポリマーを製造した。このポリマーを35%塩酸を1%含有した2−プロパノールで洗浄し、触媒を除去し、ポリD−乳酸を得た。得られたポリD−乳酸の重量平均分子量120,000であった。融点(Tm)は156℃であった。
【0240】
<製造例6:ポリ乳酸1の製造>
製造例3で得られたポリ乳酸樹脂(A)100重量部を、径30mmφのベント式二軸押出機[(株)日本製鋼所製TEX30XSST]に供給し、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数150rpm、吐出量10kg/h、およびベント減圧度3kPaで溶融押出してペレット化し、ポリ乳酸1を得た。
【0241】
<製造例7:ポリ乳酸2の製造>
製造例3で得られたポリ乳酸樹脂(A)100重量部及び末端封止剤(B)であるカルボジイミド化合物(カルボジライトHMV−8CA:日清紡(株)製)1重量部を、径30mmφのベント式二軸押出機[(株)日本製鋼所製TEX30XSST]に供給し、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数150rpm、吐出量10kg/h、およびベント減圧度3kPaで溶融押出してペレット化し、ポリ乳酸2を得た。
【0242】
<製造例8:ポリ乳酸3の製造>
製造例4で得られたポリL−乳酸100重量部、および製造例5で得られたポリD−乳酸100重量部を、径30mmφのベント式二軸押出機[(株)日本製鋼所製TEX30XSST]に供給し、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数150rpm、吐出量10kg/h、およびベント減圧度3kPaで溶融押出してペレット化し、ポリ乳酸3を得た。
【0243】
<製造例9:ポリD−乳酸(A’―2)の製造>
製造例2で合成したポリD−乳酸(a−2)150重量部およびステアリン酸マグネシウム0.12重量部を丸底フラスコに装入した。該フラスコ内を窒素置換後、テトラリン150重量部を挿入し、常圧、窒素雰囲気下で、210℃まで昇温した。次に、該フラスコ内にヘキサメチレンジイソシアネート4.86重量部(末端官能基数に対しイソシアネート基が1.05当量)を加え、200℃で1時間反応させた。PEP−36(ADEKA製)0.750重量部およびイルガノックス1010(チバスペシャリティケミカル製)0.750重量部を加えた後、テトラリン100重量部を加え溶液を冷却し、沈殿物をろ過、乾燥することにより白色粉末のポリD−乳酸(A’−2)が150重量部得られた。該樹脂について、重量平均分子量を測定したところ、140,000であった。得られたポリD−乳酸(A’―2)の13C-NMR測定により、アミド結合の含有を確認した。
【0244】
<製造例10:ポリ乳酸4の製造>
ポリL−乳酸(三井化学社製、LACEA、H400、重量平均分子量(Mw)223,000)100重量部および製造例9で得られたポリD−乳酸(A’−2)100重量部を、径30mmφのベント式二軸押出機[(株)日本製鋼所製TEX30XSST]に供給し、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数150rpm、吐出量10kg/h、およびベント減圧度3kPaで溶融押出してペレット化し、ポリ乳酸4を得た。
【0245】
<製造例12:ポリ乳酸5の製造>
ポリL−乳酸(三井化学社製、LACEA、H400、重量平均分子量(Mw)223,000)100重量部および製造例9で得られたポリD−乳酸(A’−2)100重量部及び末端封止剤(B)であるカルボジイミド化合物(カルボジライトHMV−8CA:日清紡(株)製)1重量部を、径30mmφのベント式二軸押出機[(株)日本製鋼所製TEX30XSST]に供給し、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数150rpm、吐出量10kg/h、およびベント減圧度3kPaで溶融押出してペレット化し、ポリ乳酸5を得た。
【0246】
<製造例13:ポリ乳酸樹脂組成物(A’’)の製造>
製造例2で合成したポリD−乳酸(a−2)30重量部、ポリL−乳酸(三井化学社製、LACEA、H400、重量平均分子量(Mw)223,000)100重量部およびステアリン酸マグネシウムをポリD−乳酸(a−2)の重量に対してマグネシウム換算30ppm、を丸底フラスコに装入した。該フラスコ内を窒素置換後、o−ジクロロベンゼンをポリD−乳酸(a−2)とポリL−乳酸との合計重量と同量挿入し、常圧、窒素雰囲気下で、190℃まで昇温し、ポリD−乳酸(a−2)およびポリL−乳酸を溶解させた。次に、該フラスコ内にヘキサメチレンジイソシアネート(以下、HDI)をポリD−乳酸(a−2)の末端官能基数に対して1.1倍モル供給し、190℃で30分反応させた。反応終了後、ポリD−乳酸(a−2)とポリL−乳酸との合計重量の4倍重量のo−ジクロロベンゼンを加え冷却し、さらにキシレンを同様に4倍重量加え晶析した後、吸引ろ過した。得られた粉体を室温で窒素気流下15時間乾燥することにより粉末のポリ乳酸樹脂組成物(A’’)が130重量部得られた。該ポリ乳酸樹脂組成物(A’’)の13C−NMR測定により、アミド結合の含有を確認した。
【0247】
<製造例14:ポリ乳酸6の製造>
製造例13で得られたポリ乳酸樹脂組成物(A’’)100重量部を、径30mmφのベント式二軸押出機[(株)日本製鋼所製TEX30XSST]に供給し、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数150rpm、吐出量10kg/h、およびベント減圧度3kPaで溶融押出してペレット化し、ポリ乳酸6を得た。
【0248】
<製造例15:ポリ乳酸7の製造>
製造例13で得られたポリ乳酸樹脂組成物(A’’)100重量部及び末端封止剤(B)であるカルボジイミド化合物(カルボジライトHMV−8CA:日清紡(株)製)1重量部を、径30mmφのベント式二軸押出機[(株)日本製鋼所製TEX30XSST]に供給し、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数150rpm、吐出量10kg/h、およびベント減圧度3kPaで溶融押出してペレット化し、ポリ乳酸7を得た。
下記の実施例、比較例に示す方法により、成型品の製造を行った。また実施例中における各値は下記の方法で求めた。
(1)195℃以上の融解ピークの割合:DSCを用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分で測定し、195℃以上の融解ピークの割合(%)を、195℃以上(高温)の融解ピーク面積と140〜180℃(低温)融解ピーク面積から以下の式により算出した。
195以上(%)=A195以上/(A195以上+A140180)×100
195以上:195℃以上の融解ピークの割合
195以上:195℃以上の融解ピーク面積
140180:140〜180℃の融解ピーク面積
(2)みかけ密度:JIS−K7222に準拠して測定した。
(3)気泡の状態:発泡成型品の気泡の状態を光学顕微鏡(60倍)にて評価した。
(4)耐加水分解性:発泡成型品を、恒温恒湿槽にて、65℃×95%相対湿度の条件にて100時間処理した後のポリ乳酸の分子量を、処理前の値に対する保持率で評価した。
【0249】
<実施例1〜6、比較例1〜2>
表1に示す組成でポリ乳酸を90℃で5時間乾燥させた後、5mmの口径のノズル金型を装着した単軸スクリュウ押出機(口径:40mm、L/D:30)にて押出発泡した。押出発泡に際し、上記押出機シリンダー途中より発泡剤として液化ブタンガスを溶融物100部に対して2.0部の割合で注入し、次の条件にて気泡の細かい良好なロッド状の発泡成型品を5kg/時間の割合で得た。押出機供給部温度:150〜180℃、押出機圧縮部温度:180〜220℃、押出機溶融部温度:180〜220℃、押出機ヘッド温度:160〜200℃、押出機金型部温度:160〜200℃、スクリュウ回転数:32rpmで、発泡成型品の製造を開始してから20分後に発泡成型品をサンプリングし、発泡成型品のみかけ密度(以下密度と略記)および気泡の状態を測定した。それらの測定結果を表1に示す。
【0250】
【表1】

【0251】
表1の結果から明らかな通り、ポリイソシアネートによりアミド結合を介して鎖延長されたポリ乳酸を含むステレオコンプレックスポリ乳酸から得られた発泡成型品は、一般に実用化されているポリL−乳酸と同等の性能を有し、かつ耐加水分解性に優れていることがわかる。更に、末端封鎖剤を含むことによる耐加水分解性の更なる向上も得られていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイソシアネートによりアミド結合を介して鎖延長されたポリ乳酸を含むステレオコンプレックスポリ乳酸からなる発泡成型品。
【請求項2】
L−乳酸を主成分とするポリL−乳酸(a−1)とD−乳酸を主成分とするポリD−乳酸(a−2)を含有する組成物を、ポリイソシアネートと反応させて得られたアミド結合を有するポリ乳酸樹脂(A)からなる発泡成型品。
【請求項3】
L−乳酸を主成分とするポリL−乳酸樹脂(A’−1)およびD−乳酸を主成分とするポリD−乳酸樹脂(A’−2)を含有し、ポリL−乳酸樹脂(A’−1)およびポリD−乳酸樹脂(A’−2)の少なくともいずれか一方が、ポリL−乳酸(a’−1)またはポリD−乳酸(a’−2)とポリイソシアネートを反応させて得られたアミド結合を有するポリ乳酸樹脂であることを特徴とするポリ乳酸樹脂組成物(A’) からなる発泡成型品。
【請求項4】
L−乳酸を主成分とするL−乳酸オリゴマー(a’’−1)と、D−乳酸を主成分として前記L−乳酸オリゴマーよりも大きい分子量を持つポリD−乳酸樹脂(A’’−2)を含む組成物、或いは、D−乳酸を主成分とするD−乳酸オリゴマー(a’’−2)と、L−乳酸を主成分として前記D−乳酸オリゴマーよりも大きい分子量を持つポリL−乳酸樹脂(A’’−1)を含む組成物と、ポリイソシアネートを反応させて得られたポリ乳酸樹脂組成物(A’’) からなる発泡成型品。
【請求項5】
前記ポリ乳酸樹脂(A)、ポリ乳酸樹脂組成物(A’)またはポリ乳酸樹脂組成物(A’’)が、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が70%以上であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の発泡成型品。
【請求項6】
末端封鎖剤(B)を、ポリ乳酸樹脂(A)、ポリ乳酸樹脂組成物(A’)またはポリ乳酸樹脂組成物(A’’)100重量部あたり、0.01〜5重量部含むことを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の発泡成型品。
【請求項7】
前記のポリイソシアネートが脂肪族ジイソシアネートであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の発泡成型品。

【公開番号】特開2012−41400(P2012−41400A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181817(P2010−181817)
【出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】