説明

発泡成形体の製造方法及び発泡成形体

【課題】 金型内に原料樹脂を充填する際の厚みを薄くして、原料樹脂の充填量を減らした場合であっても、高い発泡倍率で成形することができ、優れた外観、剛性等を有する発泡成形体を得ることが可能な発泡成形体の製造方法及び該発泡成形体の製造方法を用いて得られる発泡成形体を用いて得られる発泡成形体を提供することを目的とする。
【解決手段】 厚み2.8mm以上、目付2.0kg/cm以下であり、独立気泡を均一に有する発泡成形体を製造する方法であって、発泡開始温度が異なる2種類の熱膨張性マイクロカプセルとマトリックス樹脂とを、前記熱膨張性マイクロカプセルの発泡開始温度以上の温度に加熱し、溶融混合物を作製する溶融混練工程、前記溶融混合物を金型内に厚み1.0〜1.7mmで充填する充填工程、及び、前記金型を拡径することにより、前記熱膨張性マイクロカプセルを発泡させ、発泡後の厚み2.8mm以上とする発泡工程を有する発泡成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型内に原料樹脂を充填する際の厚みを薄くして、原料樹脂の充填量を減らした場合であっても、高い発泡倍率で成形することができ、優れた外観、剛性等を有する発泡成形体を得ることが可能な発泡成形体の製造方法及び該発泡成形体の製造方法を用いて得られる発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂発泡体は、素材や形成された気泡の状態等を変化させることにより、遮熱性、断熱性、遮音性、吸音性、防振性、軽量化等の諸性能を発現させることができることから、様々な用途で用いられている。このような樹脂発泡体としては、例えば、化学発泡剤を発泡させることにより得られる発泡ポリウレタン、発泡ポリプロピレン、発泡ポリエチレン、発泡ポリ塩化ビニル等の発泡樹脂の表面に、ポリ塩化ビニルやオレフィン系熱可塑性エラストマー等からなる樹脂シートや、このような樹脂シートにファブリック等を表皮材として貼り合わせた複合成形体からなるクッション材等が用いられている。また、近年では、表皮材を貼り合わせたものではなく、化学発泡剤を含有する熱可塑性エラストマーと表皮用樹脂とをキャビティームーブ法によって射出成形することにより得られる表皮付き発泡体についても提案されている。
【0003】
しかしながら、化学発泡剤を含有する成形用樹脂組成物は、加熱しても発泡しないことがあり、射出成形に用いた場合、成形機内で発泡剤が急激に分解する恐れがある等取扱いが困難であった。また、使用する樹脂の種類によっては充分な発泡倍率を得ることができず成形体として所望の硬度を得ることができない場合があった。
【0004】
一方、特許文献1には、アゾ化合物、ニトロソ化合物、ヒドラジン誘導体、重炭酸塩等の化学発泡剤を含有するエチレン−α−オレフィン共重合体のマスターバッチペレットを用いることにより、樹脂の種類を問わず硬度や発泡率が高く均一な気泡が形成された射出発泡成形体が得られる旨が開示されている。
しかしながら、加熱分解した化学発泡剤は分解ガスと同時に発泡残さを生じ、成形体に残った残さが成形体の接着性能に影響を与えることがあった。また、成形時の樹脂粘度の低下によって、化学発泡剤の分解ガスの発泡力が樹脂の溶融張力を超えてしまい、樹脂のセル壁が破れるため、全てが独立気泡とはならず、連続気泡となることにより、気密性が著しく低下したり、得られる発泡体の外観が損なわれたりするといった問題点があった。
【0005】
これに対して、近年、このような化学発泡剤に代えて熱膨張性マイクロカプセルを使用して発泡成形体を製造する試みがなされており、例えば、特許文献2には、ラジカル架橋性エラストマーと熱可塑性樹脂とからなる架橋された熱可塑性エラストマー組成物を、熱膨張性マイクロカプセルで発泡させてなる熱可塑性エラストマー発泡体が記載されている。
また、ニトリル系モノマー80重量%以上、非ニトリル系モノマー20重量%以下及び架橋剤0.1〜1重量%を含有する重合成分から得られるポリマーを用いて、揮発性膨張剤をマイクロカプセル化した熱膨張性マイクロカプセルにおいて、非ニトリル系モノマーがメタクリル酸エステル類またはアクリル酸エステル類である熱膨張性マイクロカプセルが特許文献3に開示されている。
更に、ニトリル系モノマーを85重量%以上含有するエチレン性不飽和モノマーの単独重合体もしくは共重合体からなるシェルポリマーとイソオクタンを50重量%以上含有する発泡剤とからなる熱膨張性マイクロカプセルが特許文献4に開示されている。
【0006】
一方で、発泡成形体には更なる軽量化が求められていることから、発泡成形工程において、原料樹脂を金型内に充填する際の厚み自体を薄くして、原料樹脂の充填量を減らすことにより、最終的に得られる発泡成形体の軽量化を実現する試みが行われている。
しかしながら、このような方法では、高い発泡倍率が要求されることから、従来の化学発泡剤や熱膨張性マイクロカプセルを使用すると、発泡後の厚みが不充分で剛性等の機械的性質が低いものや、外観等が劣るものしか製造できず、満足のいく発泡成形体を得ることができなかった。
【特許文献1】特開2000−178372号公報
【特許文献2】特開平11−343362号公報
【特許文献3】特許第2894990号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第1149628号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、金型内に原料樹脂を充填する際の厚みを薄くして、原料樹脂の充填量を減らした場合であっても、高い発泡倍率で成形することができ、優れた外観、剛性等を有する発泡成形体を得ることが可能な発泡成形体の製造方法及び該発泡成形体の製造方法を用いて得られる発泡成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、厚み2.8mm以上、目付2.0kg/cm以下であり、独立気泡を均一に有する発泡成形体を製造する方法であって、発泡開始温度が異なる2種類の熱膨張性マイクロカプセルとマトリックス樹脂とを、前記熱膨張性マイクロカプセルの発泡開始温度以上の温度に加熱し、溶融混合物を作製する溶融混練工程、前記溶融混合物を金型内に厚み1.0〜1.7mmで充填する充填工程、及び、前記金型を拡径することにより、前記熱膨張性マイクロカプセルを発泡させ、発泡後の厚み2.8mm以上とする発泡工程を有する発泡成形体の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、発泡成形に用いる発泡材料として、発泡開始温度が異なる2種類の熱膨張性マイクロカプセルを用いることにより、発泡に適した温度範囲が大幅に広がり、発泡倍率を飛躍的に向上させることが可能となることから、金型内に原料樹脂を充填する際の厚みを薄くして、原料樹脂の充填量を減らした場合であっても、肉厚の発泡成形体も容易に成形することができるとともに、優れた外観、剛性等を有する発泡成形体が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明の発泡成形体の製造方法は、発泡開始温度が異なる2種類の熱膨張性マイクロカプセルとマトリックス樹脂とを、前記熱膨張性マイクロカプセルの発泡開始温度以上の温度に加熱し、溶融混合物を作製する溶融混練工程を有する。
【0011】
上記熱膨張性マイクロカプセルを発泡開始温度以上の温度に加熱することで、金型開放後、加圧状態が解かれることにより、熱膨張性マイクロカプセルを発泡させることが可能となり、発泡成形体を得ることができる。なお、本発明の発泡成形体の製造方法では、熱膨張性マイクロカプセルは、加圧された状態となっていることから、金型開放までは、発泡しない。
【0012】
本発明の発泡成形体の製造方法では、発泡材料として、発泡開始温度が異なる2種類の熱膨張性マイクロカプセルを用いる。このような熱膨張性マイクロカプセルを併用することで、所定の発泡開始温度を有する熱膨張性マイクロカプセルを単独で用いる場合と比較して、発泡に適した温度範囲が大幅に広がり、その結果、未発泡の熱膨張性マイクロカプセルの数が減少して、発泡倍率を向上させることが可能となる。なお、発泡材料として化学発泡剤を用いた場合は、所定の発泡倍率は得られるものの、得られる発泡成形体が連続気泡となることにより、曲げ弾性率が著しく低いものとなる。また、気密性が著しく低下したり、得られる発泡体の外観が損なわれたりする。
【0013】
上記発泡開始温度(Ts)が異なる2種類の熱膨張性マイクロカプセルの組み合わせとしては、発泡開始温度が130〜160℃の熱膨張性マイクロカプセルと、発泡開始温度が161〜200℃の熱膨張性マイクロカプセルとの組み合わせが特に好ましい。このような組み合わせとすることで、溶融混練工程における幅広い温度範囲に対応可能となり、発泡倍率を高めることが可能となる。一方で、発泡開始温度が200℃を超える熱膨張性マイクロカプセルを用いると、金型内で充分に発泡しないことがある。
【0014】
上記熱膨張性マイクロカプセルは、最大発泡温度(Tmax)の好ましい下限が190℃である。Tmaxを190℃以上とすることで、熱膨張性マイクロカプセルを成形機のシリンダー内に投入した際の熱膨張性マイクロカプセルのへたりを低減することが可能となる。190℃未満であると、成形機のシリンダー内で熱膨張性マイクロカプセルのへたりが生じてしまうことから、発泡倍率の低下が生じることがある。
なお、本明細書において、最大発泡温度は、熱膨張性マイクロカプセルを常温から加熱しながらその径を測定したときに、熱膨張性マイクロカプセルの径が最大となったとき(最大変位量)における温度を意味する。
【0015】
更に、上記熱膨張性マイクロカプセルは、Tmax、Ts、及び、変位量が最大変位量の50%となる際の温度(TD50)が下記式(1)の関係を満たすことが好ましい。
(Tmax−TD50)/(Tmax−Ts)≧0.5 (1)
このような式を満たす熱膨張性マイクロカプセルを用いることにより、更に発泡倍率を向上させることができる。上記範囲外であると、熱膨張性マイクロカプセルが金型内で充分に発泡しない。
【0016】
上記熱膨張性マイクロカプセルは、ニトリル系モノマーに由来するセグメントと、カルボキシル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーに由来するセグメントとを有する共重合体、及び、1〜3価の金属カチオンを含有するシェルにコア剤として揮発性膨張剤が内包されているものであることが好ましい。
【0017】
上記ニトリル系モノマーを重合されてなる重合体は、極めてガスバリア性に優れることから、ニトリル系モノマーに由来するセグメントを有する共重合体からなるシェルもガスバリア性に優れる。従って、このようなシェルを有する上記熱膨張性マイクロカプセルは、膨張時に揮発させた揮発性膨張剤がシェルを透過しにくく、高温でへたりが生じることを防止することができる。
上記ニトリル系モノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エトキシアクリロニトリル、フマロニトリル又はこれらの任意の混合物等が挙げられる。これらのなかでは、アクリロニトリル又はメタクリロニトリルが好適に用いられる。また、アクリロニトリルとメタクリロニトリルとの混合物が好適である。
【0018】
上記共重合体における上記ニトリル系モノマーに由来するセグメントの含有量の好ましい上限は70重量%である。70重量%を超えると、金属カチオンとの相互作用により架橋度が必要以上に高くなり、耐熱性は向上するが、発泡倍率が急激に低下することがある。
【0019】
上記カルボキシル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーは、金属カチオンとイオン架橋させるための遊離カルボキシル基を分子当たり1個以上持つものであり、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸、クロロマレイン酸等の不飽和ジカルボン酸やその無水物又はマレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノブチル等の不飽和ジカルボン酸のモノエステルやその誘導体等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸が好ましく、なかでも、メタクリル酸は、ガラス転移温度が高く、嵩が低いことから、ニトリル系モノマーに由来するセグメントのガスバリア性を損なうことがないため、より好ましい。
【0020】
上記共重合体における上記ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマーに由来するセグメントの含有量の好ましい下限は10重量%、好ましい上限は50重量%である。10重量%未満であると、最大発泡温度が低くなることがあり、50重量%を超えると、最大発泡温度は上がるが、発泡倍率が落ちるので好ましくない。
【0021】
上記共重合体は、必要に応じて、上記ニトリル系モノマーに由来するセグメント及び上記カルボキシル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーに由来するセグメント以外のセグメントを有していてもよい。このようなセグメントとしては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、ジシクロペンテニルアクリレート等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、イソボルニルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類;酢酸ビニル、スチレン等のビニルモノマー等に由来するセグメント等が挙げられる。これらのモノマーは、熱膨張性マイクロカプセルに必要な特性に応じて適宜選択されて使用され得るが、なかでも、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸メチル等が好適に用いられる。
ただし、このようなセグメントの含有量は12重量%未満であることが好ましい。12重量%以上であると、シェルのガスバリア性が低下してしまうことがある。
【0022】
上記熱膨張性マイクロカプセルは、上記シェルに1〜3価の金属カチオンを含有することが好ましい。
上記シェルが1〜3価の金属カチオンを含有することにより、上記金属カチオンがシェルを構成する共重合体のカルボキシル基と反応して共重合体がイオン架橋していると考えられることから、耐熱性が向上し、高温領域において長時間破裂、収縮の起こらない熱膨張性マイクロカプセルとすることが可能となる。また、高温領域においてもシェルの弾性率が低下しにくいことから、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等の成形加工を行う場合であっても、熱膨張性マイクロカプセルの破裂、収縮が起こることがない。
なお、上述したイオン架橋は、上記共重合体の側鎖として存在する遊離カルボキシル基間に架橋が形成されていることを意味する。なお、金属カチオン1価あたりのカルボキシル基の配列する数は、金属種によって異なる。
【0023】
上記金属カチオンとしては、上記共重合体の有するカルボキシル基と反応して共重合体をイオン架橋させる金属カチオンであれば、特に限定されず、例えば、Li、Na、K、Zn、Mg、Ca、Ba、Sr、Mn、Al、Ti、Ru、Fe、Ni、Cu、Cs、Sn、Cr、Pb等のイオンが挙げられる。これらは単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、Ca、Zn、Alのイオンが好ましく、特にZnのイオンが好適である。
なお、上記金属カチオンを2種以上用いる場合の組み合わせとしては特に限定されないが、アルカリ金属のイオンと上記アルカリ金属以外の金属カチオンとを組み合わせて用いることが好ましい。上記アルカリ金属のイオンを有することにより、カルボキシル基等の官能基が活性化され、上記アルカリ金属以外の金属カチオンと上記共重合体が有するカルボキシル基との反応を促進させることができる。
上記アルカリ金属としては、例えば、Na、K、Li等が挙げられる。
【0024】
上記シェルにおける上記1〜3価の金属カチオンの含有量の好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は10重量%である。0.1重量%未満であると、充分に共重合体をイオン架橋できず、耐熱性を向上させる効果が得られないことがあり、10重量%を超えて配合しても、それ以上の効果が得られない。より好ましい下限は0.5重量%である。
なお、上記金属カチオンの含有量は、例えば、原子吸光分光光度計(AA−680、島津製作所社製)を用いて測定することができる。
【0025】
上記シェルは、架橋剤を含有していてもよい。上記架橋剤を含有することにより、シェルの強度を強化することができ、熱膨張時にセル壁が破泡し難くなる。
上記架橋剤としては特に限定はされず、一般的にはラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーが好適に用いられる。具体例には例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、分子量が200〜600のポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリアリルホルマールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのなかでは、200℃を超える高温領域でも熱膨張したマイクロカプセルが収縮しにくく、膨張した状態を維持しやすいので、ポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート等の2官能性架橋剤が好しく、トリメチロールプロパンのトリ(メタ)アクリレート等の3官能性架橋剤がより好ましい。
【0026】
上記シェルにおける上記架橋剤の含有量の好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は3重量%である。より好ましい下限は0.1重量%、より好ましい上限は1重量%である。
【0027】
上記シェルは、更に必要に応じて、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、シランカップリング剤、色剤等を含有していてもよい。
【0028】
上記熱膨張性マイクロカプセルは、上記シェルにコア剤として揮発性膨張剤が内包されている。
上記揮発性膨張剤は、シェルを構成するポリマーの軟化点以下の温度でガス状になる物質であり、低沸点有機溶剤が好適である。
上記揮発性膨張剤としては、例えば、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、n−ブタン、イソブタン、ブテン、イソブテン、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、n−へキサン、ヘプタン、石油エーテル等の低分子量炭化水素;CClF、CCl、CClF、CClF−CClF等のクロロフルオロカーボン;テトラメチルシラン、トリメチルエチルシラン、トリメチルイソプロピルシラン、トリメチル−n−プロピルシラン等のテトラアルキルシラン等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、イソブタン、n−ブタン、n−ペンタン、イソペンタン、n−ヘキサン、石油エーテル等が好ましい。なお、上記揮発性膨張剤として、炭素数5以下の低沸点炭化水素を用いた場合、更に熱膨張性マイクロカプセルの発泡倍率を高くすることができる。また、揮発性膨張剤として、加熱により熱分解してガス状になる熱分解型化合物を用いることとしてもよい。
【0029】
また、上記揮発性膨張剤として、2種以上のものを用いる場合は、沸点が最も低い揮発性膨張剤と、沸点が最も高い揮発性膨張剤との沸点の差が60℃以上であるものを用いることが好ましい。これにより、シリンダー内での熱膨張性マイクロカプセルのへたり防止と、金型内での発泡性とを両立させることが可能となる。これらの組み合わせとしては、例えば、n−ペンタンとイソオクタンとの組み合わせ等が挙げられる。
【0030】
上記熱膨張性マイクロカプセルの体積平均粒子径の好ましい下限は1μm、好ましい上限は500μmである。1μm未満であると、得られる成形体の気泡が小さすぎるため、成形体の軽量化が不充分となることがあり、500μmを超えると、得られる成形体の気泡が大きくなりすぎるため、強度等の面で問題となることがある。より好ましい下限は2μm、より好ましい上限は350μm、更に好ましい下限は5μm、更に好ましい上限は50μmである。
【0031】
上記熱膨張性マイクロカプセルの添加量の好ましい下限はマトリックス樹脂100重量部に対して0.5重量部、好ましい上限は20重量部である。0.5重量部未満であると、得られる成形体の気泡が少なくなって、軽量化等の諸性能を発揮することができず、20重量部を超えると、得られる成形体の強度等の面で問題となることがある。
【0032】
上記熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法としては特に限定されないが、例えば、水性媒体を調製する工程、ニトリル系モノマー、カルボキシル基含有ラジカル重合性不飽和モノマー及び揮発性膨張剤を含有する油性混合液を水性媒体中に分散させる工程、1〜3価の金属カチオンを生じる化合物を添加して、上記カルボキシル基と金属カチオンとを反応させる工程、並びに、分散液を加熱することによりモノマーを重合させる工程を行うことにより製造することができる。
【0033】
本発明では、発泡開始温度が異なる2種類の熱膨張性マイクロカプセルを用いるが、上記発泡開始温度が異なる2種類の熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法としては、例えば、揮発性膨張剤として、沸点が異なる2種類の揮発性膨張剤を用いる方法、金属カチオンの含有量を増減することにより、イオン架橋の程度を調整する方法等が挙げられる。
【0034】
上記熱膨張性マイクロカプセルを製造する場合、最初に水性媒体を調製する工程を行う。具体例には例えば、重合反応容器に、水と分散安定剤、必要に応じて補助安定剤を加えることにより、分散安定剤を含有する水性分散媒体を調製する。また、必要に応じて、亜硝酸アルカリ金属塩、塩化第一スズ、塩化第二スズ、重クロム酸カリウム等を添加してもよい。
【0035】
上記分散安定剤としては、例えば、シリカ、リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化第二鉄、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、シュウ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
【0036】
上記分散安定剤の添加量は特に限定されず、分散安定剤の種類、マイクロカプセルの粒子径等により適宜決定されるが、モノマー100重量部に対して、好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が20重量部である。
【0037】
上記補助安定剤としては、例えば、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合生成物、尿素とホルムアルデヒドとの縮合生成物、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、ゼラチン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ジオクチルスルホサクシネート、ソルビタンエステル、各種乳化剤等が挙げられる。
【0038】
また、上記分散安定剤と補助安定剤との組み合わせとしては特に限定されず、例えば、コロイダルシリカと縮合生成物との組み合わせ、コロイダルシリカと水溶性窒素含有化合物との組み合わせ、水酸化マグネシウム又はリン酸カルシウムと乳化剤との組み合わせ等が挙げられる。これらの中では、コロイダルシリカと縮合生成物との組み合わせが好ましい。
更に、上記縮合生成物としては、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合生成物が好ましく、特にジエタノールアミンとアジピン酸との縮合物やジエタノールアミンとイタコン酸との縮合生成物が好ましい。
【0039】
上記水溶性窒素含有化合物としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリジメチルアミノエチルメタクリレートやポリジメチルアミノエチルアクリレートに代表されるポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ポリジメチルアミノプロピルアクリルアミドやポリジメチルアミノプロピルメタクリルアミドに代表されるポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ポリアクリルアミド、ポリカチオン性アクリルアミド、ポリアミンサルフォン、ポリアリルアミン等が挙げられる。これらのなかでは、ポリビニルピロリドンが好適に用いられる。
【0040】
上記コロイダルシリカの添加量は、熱膨張性マイクロカプセルの粒子径により適宜決定されるが、ビニル系モノマー100重量部に対して、好ましい下限が1重量部、好ましい上限が20重量部である。更に好ましい下限は2重量部、更に好ましい上限は10重量部である。また、上記縮合生成物又は水溶性窒素含有化合物の量についても熱膨張性マイクロカプセルの粒子径により適宜決定されるが、モノマー100重量部に対して、好ましい下限が0.05重量部、好ましい上限が2重量部である。
【0041】
上記分散安定剤及び補助安定剤に加えて、更に塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩を添加してもよい。無機塩を添加することで、より均一な粒子形状を有する熱膨張性マイクロカプセルが得ることができる。上記無機塩の添加量は、通常、モノマー100重量部に対して0〜100重量部が好ましい。
【0042】
上記分散安定剤を含有する水性分散媒体は、分散安定剤や補助安定剤を脱イオン水に配合して調製され、この際の水相のpHは、使用する分散安定剤や補助安定剤の種類によって適宜決められる。例えば、分散安定剤としてコロイダルシリカ等のシリカを使用する場合は、酸性媒体で重合がおこなわれ、水性媒体を酸性にするには、必要に応じて塩酸等の酸を加えて系のpHが3〜4に調製される。一方、水酸化マグネシウム又はリン酸カルシウムを使用する場合は、アルカリ性媒体の中で重合させる。
【0043】
次いで、熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法では、例えば、ニトリル系モノマー、カルボキシル基含有ラジカル重合性不飽和モノマー及び揮発性膨張剤を含有する油性混合液を水性媒体中に分散させる工程を行う。この工程では、モノマー及び揮発性膨張剤を別々に水性分散媒体に添加して、水性分散媒体中で油性混合液を調製してもよいが、通常は、予め両者を混合し油性混合液としてから、水性分散媒体に添加する。この際、油性混合液と水性分散媒体とを予め別々の容器で調製しておき、別の容器で攪拌しながら混合することにより油性混合液を水性分散媒体に分散させた後、重合反応容器に添加しても良い。
なお、上記モノマーを重合するために、重合開始剤が使用されるが、上記重合開始剤は、予め上記油性混合液に添加してもよく、水性分散媒体と油性混合液とを重合反応容器内で攪拌混合した後に添加してもよい。
【0044】
上記重合開始剤としては特に限定されず、例えば、上記モノマーに可溶な過酸化ジアルキル、過酸化ジアシル、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、アゾ化合物等が好適に用いられる。具体例には、例えば、メチルエチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の過酸化ジアルキル;イソブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等の過酸化ジアシル;t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、(α、α−ビス-ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン等のパーオキシエステル;ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピル-オキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルエチルパーオキシ)ジカーボネート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート等のパーオキシジカーボネート;2、2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0045】
上記油性混合液を水性分散媒体中に所定の粒子径で乳化分散させる方法としては、ホモミキサー(例えば、特殊機化工業社製)等により攪拌する方法や、ラインミキサーやエレメント式静止型分散器等の静止型分散装置を通過させる方法等が挙げられる。
なお、上記静止型分散装置には水系分散媒体と重合性混合物を別々に供給してもよいし、予め混合、攪拌した分散液を供給してもよい。
【0046】
次いで、熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法では、上記1〜3価の金属カチオンを生じる化合物(以下、金属カチオン供給体ともいう)を添加して、上記カルボキシル基と金属カチオンとを反応させる工程を行う。この工程を行うことにより、上記金属カチオンとカルボキシル基とが反応してイオン架橋することから、耐熱性が向上し、高温領域において長時間破裂、収縮の起こらない熱膨張性マイクロカプセルを製造することが可能となる。また、上記シェルの弾性率が向上することから、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等の成形加工を行う場合であっても、熱膨張性マイクロカプセルの破裂、収縮が起こることがない。
【0047】
上記金属カチオン供給体は、上記モノマーを重合させる前の分散液中に添加してもよく、上記モノマーを重合した後に添加してもよい。また、上記金属カチオン供給体は、それ自体を直接添加してもよく、水溶液等の溶液の形態で添加してもよい。
【0048】
上記金属カチオン供給体としては、特に限定されず、例えば、上述した金属カチオンの酸化物、水酸化物、リン酸塩、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、亜硝酸塩、亜硫酸塩やオクチル酸、ステアリン酸等の各有機酸の塩等が挙げられる。これらのなかでは、水酸化物、塩化物、カルボン酸塩が好ましい。具体的には、Zn(OH)、ZnO、Mg(OH)等が好ましく、高温領域における弾性率の低下が少ないことから、Zn(OH)がより好ましい。
【0049】
また、上記金属カチオン供給体を添加する場合は、予めアルカリ金属の水酸化物を添加した後、上記アルカリ金属の水酸化物以外の金属カチオン供給体を添加することが好ましい。上記アルカリ金属の水酸化物を予め添加することにより、カルボキシル基等の官能基が活性化され、上記金属カチオンとの反応を促進させることができる。
また、Zn(OH)は水溶性が低く、添加によって所望のイオン架橋を得ることができないことがあるが、このような方法を用いることで、例えば、NaOHを添加した後、水溶液の高いZnClを添加することにより、Zn(OH)を添加した場合と同様の効果を得ることができる。
【0050】
上記アルカリ金属の水酸化物としては特に限定されないが、Na、K、Liの水酸化物が好ましく、なかでも塩基性の強いNa、Kの水酸化物を用いることが好ましい。
【0051】
上記熱膨張性マイクロカプセルは、上述した工程を経て得られた分散液を加熱することでモノマーを重合させる工程を行うことにより、製造することができる。このような方法により製造された熱膨張性マイクロカプセルは、最大発泡温度が高く、耐熱性に優れ、高温領域や成形加工時においても破裂、収縮することがない。
【0052】
本発明の溶融混練工程において用いられるマトリックス樹脂としては、特に限定されないが、いわゆる「へたり」と呼ばれる現象を効果的に防止できるという観点から、ポリプロピレン、ABS樹脂、TPU樹脂、メトン樹脂又はエポキシ樹脂が好ましい。
【0053】
上記マトリックス樹脂の種類により、得られる発泡成形体が軟質発泡体となるか、硬質発泡体となるかが決定される。即ち、上記マトリックス樹脂として軟質樹脂を用いた場合は、得られる発泡成形体は軟質発泡体となり、上記マトリックス樹脂として硬質樹脂を用いた場合は、得られる発泡成形体は硬質発泡体となる。
【0054】
本発明では、上記マトリックス樹脂及び熱膨張性マイクロカプセルを含有する発泡成形体用樹脂組成物をマスターバッチペレットとして用いることができる。
上記マスターバッチペレットを製造する方法としては、特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂等のマトリックス樹脂、各種添加剤等の原材料を、同方向2軸押出機等を用いて予め混練する。次いで、所定温度まで加熱し、熱膨張マイクロカプセル等の発泡剤を添加した後、更に混練することにより得られる混練物を、ペレタイザーにて所望の大きさに切断することによりペレット形状にしてマスターバッチペレットとする方法等が挙げられる。また、熱可塑性樹脂等のマトリックス樹脂や熱膨張性マイクロカプセル等の原材料をバッチ式の混練機で混練した後、造粒機で造粒することによりペレット形状のマスターバッチペレットを製造してもよい。
上記混練機としては、熱膨張性マイクロカプセルを破壊することなく混練できるものであれば特に限定されず、例えば、加圧ニーダー、バンバリーミキサー等が挙げられる。
【0055】
本発明の発泡成形体の製造方法は、上記溶融混合物を厚み1.0〜1.7mmで金型内に充填する充填工程を有する。
【0056】
本発明における充填工程及び発泡工程の一例を図1に示す。まず、上記溶融混練工程において作製した熱膨張性マイクロカプセルとマトリックス樹脂との溶融混合物を金型の固定側であるキャビティ側に形成されたスプルー1より充填する(図1(a))。
次に、溶融混合物の充填を完了した(図1(b))後、コア2を引く(コアバック)ことより、金型内を開放する(図1(c))。
次いで、溶融混合物の内部を含まれる熱膨張性マイクロカプセルを発泡させた(図1(d))後、マトリックス樹脂を固化させる(図1(e))ことにより、発泡成形体を作製する。
【0057】
本発明では、厚み1.0〜1.7mmという薄肉で溶融混合物を金型内に充填した場合であっても、高い発泡倍率で成形することができ、優れた外観、剛性等を有する発泡成形体を得ることができる。1.0mm未満であると、原料樹脂の充填量が少なすぎて、最終的に得られる発泡成形体の厚みが薄くなり、1.7mmを超えると、所望の軽量化を実現することができない。なお、上記充填工程における厚みとは、溶融混合物の充填完了時における厚み(図1(b)のD)のことをいう。
【0058】
本発明の発泡成形体の製造方法は、金型を拡径することにより、前記熱膨張性マイクロカプセルを発泡させ、発泡後の厚み2.8mm以上とする発泡工程を有する。
本発明では、発泡開始温度が異なる2種類の熱膨張性マイクロカプセルを用いることで、上述のように充填時の厚みを極めて薄くした場合であっても、高い発泡倍率で発泡させることができ、金型を発泡後の厚み2.8mm以上となるように開放した場合であっても充分に対応可能となる。また、このような工程を行うことにより、発泡状態を均一で細かな独立気泡とすることができ、優れた外観を有する発泡成形体を製造することが可能となる。
発泡後の厚みを2.8mm未満とした場合、発泡倍率が低い発泡成形体しか得られず、発泡成形体として必要とされる軽量化が図れない。なお、「金型を拡径する」とは、発泡工程における金型の間隔(図1(e)のD)から充填完了時における厚み(図1(b)のD)を引いたもの(D−D)へ金型内部(キャビティ)体積を拡げることをいう。
【0059】
上記発泡工程では、上記溶融混合物の充填完了(図1(b))から、金型開放(図1(c))までの時間(以下、型開遅延時間ともいう)の好ましい上限が1秒である。本発明の発泡成形体の製造方法では、発泡時に熱発泡性マイクロカプセルが風船のような役割を果たし、直ちにガスが発生しないことから、化学発泡剤を用いて成形を行う場合と異なり、樹脂の溶融粘度が低くてもよく、また、スキン層を厚くする必要がないため、樹脂の充填完了後、即座に金型を開放することが可能となる。これにより、本発明では、型開遅延時間を1秒以下とすることができ、必要以上に厚いスキン層が形成されることなく、熱膨張性マイクロカプセルの発泡が均一に行われることにより、発泡倍率が高く、優れた外観を有する発泡成形体が得られる。
上記型開遅延時間が1秒を超えると、必要以上に厚いスキン層が形成され、熱膨張性マイクロカプセルが未発泡状態となることがある。なお、上記型開遅延時間の下限については特に限定されないが、機械的な制約から現実的には0.01秒程度である。
具体的には例えば、溶融混合物の充填が完了したことを検知する検知手段、検知手段からの情報に従って金型の開放を制御する制御手段、及び、上記制御手段からの信号により金型を開放する金型開放手段を有する装置を用いることにより、上記型開遅延時間を調整することができる。
【0060】
上記発泡工程において、金型を開放する際の速度(型開速度)の好ましい下限は100mm/秒である。100mm/秒未満であると、必要以上に厚いスキン層が形成され、熱膨張性マイクロカプセルが未発泡状態となることがある。また、生産効率が低下することがある。
【0061】
上記発泡工程における金型の温度の好ましい下限は40℃である。40℃未満であると、溶融混合物の冷却速度が速くなりすぎ、熱膨張性マイクロカプセルが未発泡状態となって残存してしまうことがある。
【0062】
本発明の発泡成形体の製造方法を用いることにより、厚み2.8mm以上、目付2.0kg/cm以下となるような発泡倍率が高く、高い剛性を有し、独立気泡を均一に有する発泡成形体を得ることができる。このように、本発明の発泡成形体の製造方法を用いて得られる発泡成形体であって、厚み2.8mm以上、目付2.0kg/cm以下であり、独立気泡を均一に有する発泡成形体もまた、本発明の1つである。
【0063】
本発明の発泡成形体は、厚みが2.8mm以上である。2.8mm未満であると、発泡成形体として必要とされる剛性を確保することができない。
【0064】
本発明の発泡成形体は、目付(単位面積当たりの重さ)が2.0kg/cm以下である。2.0kg/cmを超えると、発泡が不充分となり、発泡成形体の軽量化を図ることができない。好ましくは1.7kg/cm以下である。
【0065】
本発明の発泡成形体は、曲げ弾性率の好ましい下限が400MPa、好ましい上限が1000MPaである。400MPa未満であると、柔軟性が高すぎて、圧縮方向の弾性率も不足し、1000MPaを超えると、柔軟性が低すぎることから、何れも発泡成形体として実用的でない。
なお、上記曲げ弾性率は、JIS K7203に準拠した方法で測定することができ、例えば、厚さ9mmのサンプルを支点間距離192mmで支持し、その中点に上部より5mm/minの速度で下降しさせたときの変位−応力曲線より求めることができる。
【0066】
本発明の発泡成形体は、表面に表皮材を積層することにより、複合成形体とすることができ、2次製品、3次製品に加工することができる。
上記表皮材としては、レザー、樹脂フィルム、織布、不織布等が挙げられる。また、上記表皮材として、本革や、石や木等から転写した凹凸を付したシリコーンスタンパ等を用いて、表面に皮目や木目模様等の意匠が施された複合成形体としてもよく、更にその表面に骨材となる硬質発泡層を形成して3層構造の複合形成体としてもよい。
また、上記表皮材として金属を用い、この金属に対して、マトリックス樹脂と熱膨張性マイクロカプセルとを含有する組成物を射出成形することで、金属一体成形型金属/樹脂ハイブリッド成形体とすることができる。なお、本発明においては、リサイクル等の観点から、発泡成形体からなる発泡層と表皮材からなる表皮層とは同系統の熱可塑性エラストマーで構成されるのが好ましい。
【0067】
本発明の発泡成形体の好ましい態様としては、例えば、環境負荷が小さくリサイクルしやすく住宅用建材等に汎用されているポリオレフィン成形体が挙げられる。
【発明の効果】
【0068】
本発明によれば、金型内に原料樹脂を充填する際の厚みを薄くして、原料樹脂の充填量を減らした場合であっても、高い発泡倍率で成形することができ、優れた外観、剛性等を有する発泡成形体を得ることが可能な発泡成形体の製造方法及び該発泡成形体の製造方法を用いて得られる発泡成形体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0069】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0070】
(実施例1〜3)
(熱膨張性マイクロカプセル1、熱膨張性マイクロカプセル2の作製)
重合反応容器に、水8Lと、分散安定剤としてコロイダルシリカ(旭電化社製)10重量部、ポリビニルピロリドン(BASF社製)0.3重量部及び塩化ナトリウム10重量部を投入し、水性分散媒体を調製した。次いで、表1に示した配合量のモノマー、架橋剤、揮発性膨張剤及び重合開始剤からなる油性混合液を水溶性分散媒体に添加し、更に表1に示した配合量の金属カチオン供給体を添加することにより、分散液を調製した。得られた分散液をホモジナイザーで攪拌混合し、窒素置換した加圧重合器(20L)内へ仕込み、加圧(0.2MPa)し、60℃で20時間反応させることにより、反応生成物を調製した。得られた反応生成物について、ろ過と水洗を繰り返した後、乾燥して2種類の熱膨張性マイクロカプセル(熱膨張性マイクロカプセル1、2)を得た。
【0071】
(マスターバッチペレットの作製)
粉体状及びペレット状の低密度ポリエチレン100重量部と、滑剤としてエチレンビスステアリン酸アマイド0.2重量部とをバンバリーミキサーで混練し、約140℃になったところで得られた熱膨張性マイクロカプセル50重量部を表2に示した配合で添加し、更に30秒間混練して押し出すと同時にペレット化し、マスターバッチペレットを得た。
【0072】
(発泡成形体の作製)
得られたマスターバッチ5重量部と、ポリプロピレン樹脂100重量部とを混合し、得られた混合ペレットをアキュムレーターを備えたスクリュー式の射出成形機(日本製鋼所、J180AD)のホッパーから供給して溶融混練し、射出成形を行い、板状の成形体を得た。成形条件は、シリンダー温度:200℃、射出速度:60mm/secとし、他の成形条件については、表2に示すものとした。
【0073】
(比較例5、6)
マスターバッチに代えて無機化学発泡剤(永和化成工業社製、ポリスレン)を使用し、化学発泡剤5重量部とポリプロピレン樹脂100重量部とを混合し、得られた混合ペレットを用いた以外は、実施例1〜4と同様にして成形体を作製した。なお、成形条件については表2に示すものとした。
【0074】
(評価)
実施例1〜3及び比較例1〜4で得られた熱膨張性マイクロカプセル、及び、実施例1〜3及び比較例1〜6で得られた成形体について、以下の評価を行った。結果を表2に示した。
【0075】
(1)熱膨張性マイクロカプセルの評価
(1−1)体積平均粒子径
粒度分布径測定器(LA−910、HORIBA社製)を用い、体積平均粒子径を測定した。
【0076】
(1−2)発泡開始温度、最大発泡温度
熱機械分析装置(TMA)(TMA2940、TA instruments社製)を用い、発泡開始温度(Ts)、最大変位量(Dmax)及び最大発泡温度(Tmax)を測定した。具体的には、試料25μgを直径7mm、深さ1mmのアルミ製容器に入れ、上から0.1Nの力を加えた状態で、5℃/minの昇温速度で80℃から220℃まで加熱し、測定端子の垂直方向における変位を測定し、変位が上がり始める温度を発泡開始温度、その変位の最大値を最大変位量とし、最大変位量における温度を最大発泡温度とした。
【0077】
【表1】

【0078】
(2)成形体の評価
(2−1)曲げ弾性率
JIS K 7203に準拠した方法で発泡成形体の曲げ弾性率を測定した。
【0079】
(2−2)目付量(単位面積当たりの重さ)
得られた発泡成形体を10cm×10cmの正方形に切り取り、その重量を測定することにより、発泡成形体の目付量を測定した。
【0080】
(2−3)気泡状態
SEM装置を用い、倍率で成形体断面の気泡状態を観察した。
【0081】
【表2】

【0082】
表2に示すように、実施例1〜3の場合は、発泡開始温度が異なる2種類の熱膨張性マイクロカプセルを用いることで、金型内に原料樹脂を充填する際の厚みを薄くしても、2.8mm以上の厚みを有する発泡成形体が得られ、高発泡倍率を実現できるとともに、発泡成形体には、均一な独立気泡が形成されており、剛性にも優れるものであった。
一方、比較例1〜4の場合は、低発泡倍率となり、肉厚の発泡成形体を製造することができず、比較例5、6の場合は、化学発泡剤を使用したため、何れにおいても2.8mm以上の厚みを有する発泡成形体を得ようとするとボイドが発生し、断面セル状態も連続気泡であった。断面セル状態が均一なものを得るためには厚み2.3mmが限界であった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、金型内に原料樹脂を充填する際の厚みを薄くして、原料樹脂の充填量を減らした場合であっても、高い発泡倍率で成形することができ、優れた外観、剛性等を有する発泡成形体を得ることが可能な発泡成形体の製造方法及び該発泡成形体の製造方法を用いて得られる発泡成形体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の充填工程及び発泡工程の一例を説明する模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み2.8mm以上、目付2.0kg/cm以下であり、独立気泡を均一に有する発泡成形体を製造する方法であって、
発泡開始温度が異なる2種類の熱膨張性マイクロカプセルとマトリックス樹脂とを、前記熱膨張性マイクロカプセルの発泡開始温度以上の温度に加熱し、溶融混合物を作製する溶融混練工程、
前記溶融混合物を金型内に厚み1.0〜1.7mmで充填する充填工程、及び、
前記金型を拡径することにより、前記熱膨張性マイクロカプセルを発泡させ、発泡後の厚み2.8mm以上とする発泡工程を有する
ことを特徴とする発泡成形体の製造方法。
【請求項2】
発泡開始温度が異なる2種類の熱膨張性マイクロカプセルは、発泡開始温度が130〜160℃の熱膨張性マイクロカプセルと、発泡開始温度が161〜200℃の熱膨張性マイクロカプセルとからなることを特徴とする請求項1記載の発泡成形体の製造方法。
【請求項3】
発泡開始温度が異なる2種類の熱膨張性マイクロカプセルは、最大発泡温度Tmaxが190℃以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の発泡成形体の製造方法。
【請求項4】
発泡開始温度が異なる2種類の熱膨張性マイクロカプセルは、最大発泡温度Tmax、発泡開始温度Ts、及び、変位量が最大変位量の50%となる際の温度(TD50)が下記式(1)の関係を満たすことを特徴とする請求項1、2又は3記載の発泡成形体の製造方法。
(Tmax−TD50)/(Tmax−Ts)≧0.5 (1)
【請求項5】
マトリックス樹脂は、ポリプロピレン、ABS樹脂、TPU樹脂、メトン樹脂又はエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の発泡成形体の製造方法。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載の発泡成形体の製造方法を用いてなる発泡成形体であって、厚み2.8mm以上、目付2.0kg/cm以下であり、独立気泡を均一に有することを特徴とする発泡成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2007−302768(P2007−302768A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−131619(P2006−131619)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】