説明

発泡樹脂塗膜積層金属板およびその製造方法

【課題】優れた制振性を有する樹脂塗膜積層金属板を提供する。
【解決手段】上下2層の発泡樹脂塗膜を有する発泡樹脂塗膜積層金属板であって、熱膨張粒子が、下層の発泡樹脂塗膜中には15質量%以上、上層には0〜10質量%含まれ、かつ、総塗膜厚が680μm以上であるところに特徴を有する。また、本発明には、下層形成用樹脂組成物を金属板に塗布する工程、熱膨張前の熱膨張性粒子の発泡開始温度未満の温度で下層を乾燥する工程、上層形成用樹脂組成物を塗布する工程、熱膨張性粒子の発泡開始温度以上で上下層の塗膜を焼き付ける工程、をこの順序で含むことを特徴とする発泡樹脂塗膜積層金属板の製造方法も包含される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家電製品や事務機器用途において、駆動部材等から発する振動や騒音を抑制するための制振性・吸音性に優れた発泡樹脂塗膜積層金属板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家電製品、事務機器、自動車等の移動体等には、様々な部位に振動を吸収するための制振材が用いられており、制振材の需要は大きい。制振材は製品の静音性向上等の製品価値を高める面で重要であるが、多数の振動部位に制振材を使う必要があり、コスト高の原因となっている。このため、筐体として使用される鋼板自体に制振性を付与することで、製品全体の振動を抑制し、付加価値の向上や振動対策部材の省略による低コスト化を図る試みがなされている。
【0003】
本願出願人も、熱膨張性カプセル(熱膨張性粒子)を用いた溶接可能な発泡樹脂塗膜積層金属板を見出し、既に出願している(特許文献1)。この文献に記載の発明は、熱膨張カプセルで塗膜を厚膜化することで、制振性を有しかつ溶接性をも具備させたところにポイントがあるが、金属粒子が塗膜中に含まれているため、通常の樹脂塗膜よりも熱伝導性が高まっており、熱膨張性粒子の発泡(熱膨張)速度のコントロールが難しい。すなわち、発泡が始まる速度が速すぎると、塗膜が硬化しないうちに発泡するため、発泡圧力に耐えられずに塗膜が金属板との界面から剥離してしまう。一方、低温で焼き付けると、発泡が始まる前に塗膜が硬化してしまうため、熱膨張性粒子の膨張が抑制されて、発泡性が低下し、充分な制振性を得ることはできない。
【0004】
他方、下層をプライマーとし、上層に熱分解性発泡剤を用いて発泡させた樹脂塗膜を設けた建材用プレコート金属板も知られている(特許文献2)。しかしながら、熱分解性発泡剤は、熱膨張性粒子と異なり外殻がないため、焼き付け時に上層塗膜表面からガス抜けする等して充分な発泡性が得られず、厚膜化も困難である。また、例えば、発泡塗膜の硬さを補完するための添加剤(雲母等)、溶接性を付与するための金属粒子、色調を付与するための顔料等が塗膜中に含まれていると、これらを起点としてガスが塗膜中から抜けやすくなり、充分な発泡性を得ることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−234069号公報
【特許文献2】特開2005−219354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高性能な制振材を得るためにはできるだけ厚い発泡樹脂塗膜の形成が重要となる。しかしながら、1層塗りでは多量に熱膨張性粒子を添加しても、充分な厚膜が得られないまま、塗膜と原板の密着性も低下してしまうことがあった。
【0007】
そこで、本発明では、2層コートを行って制振性に優れた発泡樹脂塗膜積層金属板を得ることとしたが、2層コートの場合は、下層が発泡して上層を均一に形成することができなかったり、上層の発泡圧力が高まると、塗膜剥離を起こしやすくなるという問題があった。
【0008】
そこで本発明では、優れた制振性を有する2層コートの発泡樹脂塗膜積層金属板およびその製造方法の提供を課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上下2層の発泡樹脂塗膜を有する発泡樹脂塗膜積層金属板であって、熱膨張粒子が、下層の発泡樹脂塗膜中には15質量%以上、上層には0〜10質量%含まれ、かつ、総塗膜厚が680μm以上であるところに特徴を有する。
【0010】
また、本発明には、下層形成用樹脂組成物を金属板に塗布する工程、熱膨張前の熱膨張性粒子の発泡開始温度未満の温度で下層を乾燥する工程、上層形成用樹脂組成物を塗布する工程、熱膨張性粒子の発泡開始温度以上で上下層の塗膜を焼き付ける工程、をこの順序で含むことを特徴とする発泡樹脂塗膜積層金属板の製造方法も包含される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の発泡樹脂塗膜積層金属板は、厚みの厚い発泡樹脂塗膜が金属板上に積層されているので、優れた制振性を示す。本発明の発泡樹脂塗膜積層金属板の製造方法の採用により、2層コートでも上下層および金属板との密着性に優れた発泡樹脂塗膜積層金属板を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の発泡樹脂塗膜積層金属板では、上下層の発泡樹脂塗膜中の熱膨張粒子の割合が異なるところに特徴を有する。なお、熱膨張粒子とは、熱膨張した後の粒子を意味し、熱膨張性粒子とは、熱膨張可能な未膨張の粒子を意味する。
【0013】
下層の発泡樹脂塗膜には、熱膨張粒子が15質量%以上含まれている。下層の発泡割合を高めて制振性を向上させるためである。熱膨張粒子は20質量%以上がより好ましいが、入れ過ぎると下層の強度が低下するため、30〜40質量%程度が上限である。
【0014】
上層の発泡樹脂塗膜には、熱膨張粒子が0〜10質量%含まれている。上層に、熱膨張性粒子を10質量%を超えて含有させると、焼き付け時の下層の熱膨張性粒子の発泡圧力に上層の発泡圧力が加わって、発泡樹脂塗膜全体が金属板から剥離するため、好ましくない。上層における熱膨張粒子は、1〜7質量%含まれていることがより好ましい。
【0015】
発泡樹脂塗膜の膜厚は、優れた制振性を確保するためには、680μm以上が必要である。この膜厚は発泡後の上下層の合計膜厚であり、電磁誘導式の膜厚計(例えば、デュアルタイプ膜厚計LZ−200J;ケツト科学社製)で測定することができる。膜厚は厚い方が好ましく、1500μm以上がより好ましいが、製造上、2000μm程度が上限である。制振性の目安としては、損失係数が0.006以上であることが好ましい。なお、後述する実施例で測定した電気亜鉛めっき鋼板ままの損失係数は0.002であった。
【0016】
本発明で発泡樹脂塗膜に用いる樹脂としては特に限定されないが、汎用のポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂が利用可能である。上層と下層の樹脂の種類は異なっていてもよいが、上下層の密着性の観点からは同種の樹脂を用いることが好ましい。上記の樹脂の中でも、ポリエステル系樹脂が好ましい。なお、塗膜強度を確保するために、ポリエステル系樹脂をメラミン樹脂等で架橋してもよい。メラミン樹脂としては、住友化学社製の「スミマール(登録商標)」シリーズや、三井サイテック社製の「サイメル(登録商標)」シリーズがある。架橋剤は、樹脂と架橋剤の合計を100質量%としたときに、0.5〜30質量%(より好ましくは5〜25質量%)となるように、塗膜形成用樹脂組成物中に配合することが好ましい。
【0017】
熱膨張性粒子としては、日本フィライト社から入手可能な「エクスパンセル」シリーズ、積水化学工業社製の「アドバンセル(登録商標)」シリーズ、松本油脂製薬社製の「マツモトマイクロスフェアー(登録商標)」シリーズ、呉羽化学工業(現クレハ)の「クレハマイクロスフェアー(登録商標)」シリーズがあり、後述する要件を満足するものが好適に使用できる。
【0018】
これらの熱膨張性粒子は、ガス化する液体を熱可塑性樹脂の外殻(カプセル)の中に内包しており、これらがガス化することで膨張するが、カプセル壁が変形能に優れているため破裂しにくく、発泡樹脂塗膜の中に膨張状態で残存している。この熱膨張粒子は、FT−IRや公知の定量分析法で、発泡樹脂塗膜中での定量が可能である。
【0019】
なお、下層に含有させる熱膨張性粒子は、後述するように、発泡開始温度が下層の乾燥温度より高いものを選択する必要があるが、上層に含有させる熱膨張性粒子は、発泡開始温度が最終焼付け工程の温度よりも低ければよく、下層の乾燥温度との関係は問題とはならない。
【0020】
本発明で用いることのできる金属板としては特に限定されず、鋼板または非鉄金属の金属板、これらに単一金属または各種合金のめっきを施しためっき金属板等が含まれる。具体的には、例えば、熱延鋼板、冷延鋼板、ステンレス鋼板等の鋼板;溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、電気Zn−Ni合金めっき鋼板等のめっき鋼板;アルミニウム、チタン、亜鉛等の非鉄金属板またはこれらにめっきが施されためっき非鉄金属板等が挙げられる。これらに、表面処理として、例えば、リン酸塩処理、クロメート処理、酸洗処理、アルカリ処理、電解還元処理、シランカップリング処理、無機シリケート処理等が施されていてもよい。
【0021】
本発明の発泡樹脂塗膜積層金属板を製造する方法は、下層形成用樹脂組成物を金属板に塗布する工程、熱膨張前の熱膨張性粒子の発泡開始温度未満の温度で下層を乾燥する工程、下層の上に上層形成用樹脂組成物を塗布する工程、熱膨張性粒子の発泡開始温度以上で上下層の塗膜を焼き付ける工程、をこの順序で含むことを特徴とする。
【0022】
上記製法のポイントは、下層形成用樹脂組成物を金属板に塗布したのち、熱膨張性粒子の発泡開始温度未満の温度で下層を乾燥するところにある。熱膨張性粒子の発泡開始温度(熱膨張開始温度)未満の温度で下層を乾燥するのは、下層に含まれる熱膨張性粒子を上層を塗布する前に膨張させないようにして、上層の塗布を均一に行うためである。下層の熱膨張性粒子が膨張してしまうと下層表面に凹凸ができ、表面平滑性が保持できないため、上層形成用樹脂組成物の塗布を均一に行うことが出来なくなる。なお、熱膨張性粒子の発泡開始温度は、各粒子のカタログに記載されている値を採用することができ、熱分析でも測定可能である。
【0023】
下層形成用樹脂組成物や上層形成用樹脂組成物は、前記した樹脂(ベース樹脂)、熱膨張性粒子、必要により架橋剤やレベリング剤等の添加剤とを混合し、有機溶剤等で希釈して塗工に適した粘度にすることで調製できる。塗膜中の熱膨張粒子を前記した範囲にするには、樹脂と熱膨張性粒子と架橋剤とその他の添加剤の固形分の合計100質量%中の熱膨張性粒子の量を前記範囲に調節すればよい。また、樹脂組成物中には、本発明の目的を阻害しない範囲で、艶消し剤、体質顔料、防錆剤、沈降防止剤、ワックス等、樹脂塗膜積層金属板分野で用いられる各種公知の添加剤を添加してもよい。
【0024】
希釈に用いる有機溶剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類;シクロヘキサン等の脂環族炭化水素類;ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素類等;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類等が挙げられ、特に限定されない。また、極性の強い溶剤(ケトン類やジメチルホルムアミド等)を使用することも可能であるが、これらの極性溶剤によって熱膨張性粒子が経時で膨潤するため、使用直前に樹脂組成物を調合する等の注意が必要である。これらは1種単独で、または2種以上を混合して、用いることができる。
【0025】
下層形成用樹脂組成物を金属板に塗布したのちの乾燥においては、上記有機溶剤の沸点近傍で乾燥を行うことが好ましい。沸点よりも高温では、樹脂の硬化が進行して焼き付け時の発泡性が低下しやすく、熱膨張性粒子の選択幅も狭くなる。沸点より低温では、下層の乾燥に時間がかかったり、塗布量過多と相俟って塗膜中に溶剤が残存してワキ(フクレ)が発生することがある。なお、このワキの発生を抑制するには、レベリング剤を樹脂組成物に少量(1質量%前後)添加することが好ましい。前記したように、この下層の乾燥温度は熱膨張性粒子の発泡開始温度よりも低温でなければならない。すなわち、熱膨張性粒子としては、下層の所定の乾燥温度よりも高温の発泡開始温度を有するものを選択しなければならない。前記した熱膨張性粒子のカタログには発泡開始温度が記載されているので、下層の乾燥温度を決定したら、それよりも高温の発泡開始温度を有するものを選択すればよい。下層の乾燥の際の発泡を抑制するには、乾燥温度よりも5℃以上、発泡開始温度が高い熱膨張性粒子を選択することが好ましい。下層の乾燥温度は130〜160℃程度が、乾燥時間は60〜120秒程度が好ましい。また、下層の付着量は10g/m2以上が好ましい。熱膨張粒子を多く含む下層の膜厚が薄いと、優れた制振性を確保できないおそれがある。下層の付着量は他に不都合が無ければ多ければ多いほどよい。
【0026】
下層の乾燥工程が済んだら、上層形成用樹脂組成物を下層の上に塗布する工程を行う。上層の付着量も10g/m2以上が好ましい。上層と下層の合計付着量は、発泡後の両層の総膜厚が680μm以上になるように適宜調整すればよい。
【0027】
上層形成用樹脂組成物を塗布したのちは、熱膨張性粒子の発泡開始温度以上で上下層の塗膜を焼き付ける工程を行う。この工程は上下層の熱膨張性粒子を発泡させると共に、架橋剤添加系であれば樹脂を硬化させるために行う。焼付けは熱膨張性粒子の発泡開始温度以上で行う必要があるが、下層の乾燥時に樹脂が硬化してしまうと、焼き付け時の発泡性が低下するため、下層の乾燥温度よりも50℃以上高い温度で行うことが好ましい。特に、熱膨張粒子の体積を最大にするためには、最大発泡温度(体積が最大になるときの温度)近傍で焼付けを行うことが好ましい。なお、下層の乾燥温度および上下層の焼付け温度は、いずれも金属板の到達温度である。
【0028】
上記下層形成用樹脂組成物や上層形成用樹脂組成物を金属板に塗布する方法は特に限定されず、バーコーター法、ロールコーター法、スプレー法、カーテンフローコーター法等が採用可能である。
【0029】
本発明の方法を用いて、3層以上の発泡樹脂塗膜が積層された金属板を製造することもできる。最上層以外の層を熱膨張性粒子の発泡開始温度未満の温度で乾燥した後、その上に樹脂組成物を塗布し、熱膨張性粒子の発泡開始温度未満の温度で乾燥し、これを繰り返した後、最上層の塗布が終わってから、焼付けを行えばよい。熱膨張性粒子は、最下層への添加量を最も多くして、次第に減らしていくことが望ましい。
【実施例】
【0030】
以下実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更実施は本発明に含まれる。なお以下特にことわりのない場合、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ示すものとする。
【0031】
〔金属板〕
原板には、A4サイズの板厚0.8mmの電気亜鉛めっき鋼板を用いた。めっきは金属板の両面に行い、付着量は片面20g/m2ずつとした。また、めっき鋼板には、日本パーカライジング社製の「CTE−203」を用いた下地処理を付着量100mg/m2となるように行った。
【0032】
〔ベース樹脂〕
東洋紡績社製「バイロン(登録商標)600」をベース樹脂として用いた。
【0033】
〔架橋剤〕
メラミン樹脂(「スミマール(登録商標)M−40S」:住友化学社製:キシレン溶液;固形分80%)を、乾燥塗膜での質量比で、ベース樹脂:架橋剤=100:20となるように混合した。
【0034】
〔溶剤(シンナー)〕
キシレン50%とシクロヘキサノン50%の混合溶媒(薄板用統合A希釈シンナー;大伸化学社製)を用いた。
【0035】
〔熱膨張性粒子〕
次のA〜Dの4種類を用いた。発泡開始温度および最大発泡温度(体積が最大になるときの温度)はいずれもカタログ値である。
A:EXPANCEL920−40;中心粒子径10〜14μm;発泡開始温度123℃;最大発泡温度170−180℃
B:EXPANCEL930−120;中心粒子径28〜38μm;発泡開始温度122℃;最大発泡温度191−204℃
C:EXPANCEL950−120;中心粒子径28〜38μm;発泡開始温度138℃;最大発泡温度195−210℃
D:EXPANCEL980−120;中心粒子径25〜40μm;発泡開始温度158℃;最大発泡温度215−235℃
【0036】
〔下層形成用樹脂組成物の調製〕
熱膨張性粒子の種類および添加量を表1に示したように変え、レベリング剤(「BYKETOL (登録商標)-SPECIAL」;ビッグケミジャパン社製)1%と一定にして、残部はポリエステル樹脂量で調整して、これらの混合物をディスパー撹拌機を用いて2000rpmで5分間撹拌し、下層形成用樹脂組成物を調製した。このとき、前記シンナーで樹脂組成物(塗料)の固形分が34〜45%になるように調節した。
【0037】
〔下層のみの発泡樹脂塗膜積層金属板の作製〕
下層形成用樹脂組成物を金属板の表面にバーコーターで塗布し、熱風乾燥炉内で150℃(到達板温)で80秒間乾燥し、表面の凹凸(発泡が起こったことによる凹凸)の有無を目視評価した。評価箇所は、バーコーターでの塗布時に塗料がたまりやすいエッジ部(A4サイズの金属板の長辺両端部)とした。塗膜付着量は、塗布前後の質量測定で算出した。評価結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
発泡開始温度が乾燥温度(150℃)より低い熱膨張性粒子A,B,Cでは、添加量を多くすると、表面の平滑性が失われることが確認できた。これらの熱膨張性粒子を使用する場合は、より低温で揮発するシンナーを用いて下層形成用樹脂組成物を調製し、下層の乾燥温度を低くする必要がある。一方、発泡開始温度が158℃である熱膨張性粒子Dは、添加量が5〜30%のいずれにおいても表面に凹凸がなく、平滑な表面の下層が得られた。
【0040】
各熱膨張性粒子を含む下層が形成された金属板のうち、表面が平滑でかつ厚膜であるNo.2,8,15,33,36,42を選択し、上層の形成を行った。
【0041】
〔上層形成用樹脂組成物の調製〕
表2に示したように熱膨張性粒子の量と種類を変えた以外は下層形成用樹脂組成物の場合と同様にして、上層形成用樹脂組成物を調製した。なお、上層形成用樹脂組成物に配合される熱膨張性粒子の発泡開始温度は特に限定されないので、A〜Dのいずれも使用可能である。
【0042】
〔発泡樹脂塗膜積層金属板の作製〕
下層を形成した場合と同様にして、下層表面の上に上層形成用樹脂組成物を塗布し、220℃で80秒焼き付けた。上層の塗膜付着量は質量測定で算出し、下層の付着量を差し引いた値である。
【0043】
得られた発泡樹脂塗膜積層金属板について、塗膜剥離が起こっているか否かを目視でチェックした。起こっていない場合が○、起こった場合が×である。また、塗膜剥離が起こらなかった試料について、総膜厚を電磁誘導式の膜厚計(デュアルタイプ膜厚計LZ−200J;ケツト科学社製)を用いて測定した。さらに、一部の試料については、下記方法にて損失係数を測定し、表2に併記した。
【0044】
〔制振性:損失係数の測定〕
上記で得られた発泡樹脂塗膜積層金属板を、幅30mm、長さ250mmに切断し、一端から長さ方向に10mm、幅方向に15mmのところに糸でつり下げるための穴(5mmφ)を打ち抜いた。JIS G 0602(1993)に記載のつり下げ打撃加振法(図5)を用いて減衰比を測定した。具体的には、糸つり穴中心から144mmの位置の金属板側にセンサーを取り付け、センサーの真裏の樹脂塗膜面をインパルスハンマーで5〜15Nで垂直に打撃する。雰囲気温度は室温とした。上記JIS G 0602(1993)の図5にあるように、加振力Fはハンマーから増幅器を経て解析装置に送られ、応答加速度Aもセンサーから解析装置に送られる。今回の分析条件は、分析周波数(上限の周波数)10kHz、サンプリング周波数(データの取り込み速度)25.6kHzとし、バンドパスフィルターでのカットオフ周波数を、ハイパスは560Hz、ローパスは620Hzとした。求めた減衰比を2倍して、損失係数とした。
【0045】
【表2】

【0046】
表2から、総膜厚が680μmを超えるものは、損失係数が0.006以上となっており、優れた制振性を示すことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の発泡樹脂塗膜積層金属板は、制振性に優れているため、家電製品、事務機器、オーディオ製品、自動車等の移動体等の制振性や吸音性が必要とされる各種部材に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下2層の発泡樹脂塗膜を有する発泡樹脂塗膜積層金属板であって、熱膨張粒子が、下層の発泡樹脂塗膜中には15質量%以上、上層には0〜10質量%含まれ、かつ、総塗膜厚が680μm以上であることを特徴とする発泡樹脂塗膜積層金属板。
【請求項2】
請求項1に記載の発泡樹脂塗膜積層金属板を製造する方法であって、下層形成用樹脂組成物を金属板に塗布する工程、熱膨張前の熱膨張性粒子の発泡開始温度未満の温度で下層を乾燥する工程、下層の上に上層形成用樹脂組成物を塗布する工程、熱膨張性粒子の発泡開始温度以上で上下層の塗膜を焼き付ける工程、をこの順序で含むことを特徴とする発泡樹脂塗膜積層金属板の製造方法。

【公開番号】特開2011−201268(P2011−201268A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73296(P2010−73296)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】