説明

発泡樹脂成形体構造

【課題】軽量で、かつ、曲げ剛性に優れた発泡樹脂成形体を得るのに好適な発泡樹脂成形体構造を提供する。
【解決手段】発泡樹脂成形体PBは、その板厚が厚い部分PB1と薄い部分PB2とが交互に連続した凹凸形状になっており、板厚が厚い部分PB1における発泡層1は、多数の気泡セルSが割れずに独立して存在する通常発泡層として、一対のスキン層2A、2Bを連結する機能を有し、板厚が薄い部分PB2における発泡層1は、軽量化層として、多数の気泡セルが割れて繋がった形態の中空層3を有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドアトリム、ラゲッジサイドトリム、リアパーセル、コンソールボックス等の自動車用内装部品や自動車以外の他の用途にも利用できる発泡樹脂成形体の構造に関し、特に、軽量で、かつ、曲げ剛性に優れた発泡樹脂成形体を得られるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用内装部品としては、ドアトリム、ラゲッジサイドトリム、リアパーセル、コンソールボックス等が知られている。これらの自動車用内装部品はいずれも軽量化のため発泡樹脂成形体で製作されている。
【0003】
ところで、近年の自動車の低燃費化に伴い、発泡樹脂成形体で製作した自動車用内装部品についても、更なる軽量化が要求されている。図4に示したように、この種の自動車用内装部品を構成する発泡樹脂成形体PBは、溶融樹脂の発泡によって形成される多数の気泡セルSを含む発泡層1と、溶融樹脂の未発泡により前記発泡層1の表裏面に形成される一対のスキン層2A、2Bと、を備えた構造になっている。この種の発泡層1とスキン層2A、2Bを備えた構造の発泡樹脂成形体については、例えば特許文献1でも開示されている。
【0004】
前記構造の発泡樹脂成形体を製造する場合は、例えば、図5に示したように、キャビ型11のキャビティ14とコア型12のコア15とで形成される成形空間G1に発泡剤含有の溶融樹脂を投入・充填する。その後、コア15に対してキャビティ14を後退させる操作(キャビバック)を行うことにより、キャビティ14とコア15との間に発泡空間を形成する。これにより、その発泡空間で未発泡の溶融樹脂が発泡することにより、前記構造の発泡樹脂成形体が得られる。なお、前記「キャビ型」とは、凹形状のキャビティ(キャビとも略称される)を形成してある型のことを意味し、前記「コア型」とは、凸形状のコアを形成してある型のことを意味する。以下の説明でも同様とする。
【0005】
前記製造方法で得られる発泡樹脂成形体を同じ板厚で更に軽量化する方法としては、例えば成形空間G1への溶融樹脂の投入・充填量を減らす方法が考えられる。しかしながら、この方法によると、発泡樹脂成形体の原料となる樹脂と発泡材の不足により、十分な発泡圧が得られず、最終製品として得られる発泡樹脂成形体の発泡層全体に亘って、発泡によって形成される多数の気泡セルが割れて繋がった形態の中空層ができる等、発泡が粗くなって、発泡樹脂成形体の曲げ剛性が著しく低下するという問題点がある。
【0006】
前記のように溶融樹脂の投入・充填量を減らす方法において、十分な発泡圧が得られるようにするためには、キャビバックのストローク量を減らせばよいが、そうすると、最終製品として得られる発泡樹脂成形体全体の板厚が薄くなり、発泡樹脂成形体の曲げ剛性が低下するという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−36494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、軽量で、かつ、曲げ剛性に優れた発泡樹脂成形体を得るのに好適な発泡樹脂成形体構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は、溶融樹脂の発泡によって形成される多数の気泡セルを含む発泡層と、溶融樹脂の未発泡により前記発泡層の表裏面に形成される一対のスキン層と、を備えてなる発泡樹脂成形体の構造であって、前記発泡樹脂成形体は、その板厚が厚い部分と薄い部分とが交互に連続した凹凸形状になっており、前記発泡樹脂成形体の板厚が厚い部分における前記発泡層は、多数の気泡セルが割れずに独立して存在する通常発泡層として、前記一対のスキン層を連結する機能を有し、前記発泡樹脂成形体の板厚が薄い部分における前記発泡層は、軽量化層として、多数の気泡セルが割れて繋がった形態の中空層を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明にあっては、発泡樹脂成形体構造の具体的な構成として、前記構成を採用した。これにより、かかる構成を適用して最終製品として得られる発泡樹脂成形体は、板厚が薄い部分を有していること、及び、板厚が薄い部分における発泡層の内部に中空層が存在することにより、大幅な軽量化を図ることができる。また、かかる発泡樹脂成形体は、その板厚が厚い部分における発泡層が通常発泡層として一対のスキン層を連結していることにより、発泡断面内でリブ的な補強効果が生じ、曲げ剛性にも優れる。これに加えて更に、中空層の存在により、断熱性も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明に係る発泡樹脂成形体構造を適用した発泡樹脂成形体の概念図。
【図2】図2(a)は、図1の発泡樹脂成形体を成形するための成形金型の概略図(型開きの状態)、図2(b)は、その成形金型の型締め状態の概略図。
【図3】図3(a)は、図2の成形金型の型締め後に行われる溶融樹脂の充填状態の説明図、図3(b)は、図2の成形金型におけるスキン層の形成と溶融樹脂の充填後に行われるキャビバックの説明図、図3(c)は、図2の成形金型において溶融樹脂の発泡が完了した状態の説明図。
【図4】図4は、従来の発泡樹脂成形体の概念図。
【図5】図5は、従来の発泡樹脂成形体を成形するための成形金型の概念図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明に係る発泡樹脂成形体構造を適用した発泡樹脂成形体の概念図である。同図の発泡樹脂成形体PBは、溶融樹脂の発泡によって形成される多数の気泡セルSを含む発泡層1と、溶融樹脂の未発泡により前記発泡層1の表裏面に形成される一対のスキン層2A、2Bと、を備えている。
【0014】
また、同図の発泡樹脂成形体PBは、その板厚が厚い部分PB1と薄い部分PB2とが交互に連続した凹凸形状になっており、発泡樹脂成形体PBの板厚が厚い部分PB1における発泡層1は、多数の気泡セルSが割れずに独立して存在する通常発泡層として、前記一対のスキン層2A、2Bを連結する機能を有している。発泡樹脂成形体PBの板厚が薄い部分PB2における発泡層1は、軽量化層として、多数の気泡セルが割れて繋がった形態の中空層3を有している。
【0015】
図1の発泡樹脂成形体PBは、その板厚が薄い部分PB2を有していること、及び、その板厚が薄い部分PB2における発泡層1の内部に中空層3が存在することにより、大幅な軽量化が図られている。
【0016】
ところで、前記のような発泡層1内部の中空層3は発泡樹脂成形体PB全体の曲げ剛性を低下させる要因になる。しかしながら、図1の発泡樹脂成形体PBでは、その板厚が厚い部分PB1における発泡層1が通常発泡層として一対のスキン層2A、2Bを連結していることにより、発泡断面内でリブ的な補強効果が生じ、中空層3による曲げ剛性の低下は改善され、比較的高い曲げ剛性も得られるようになっている。
【0017】
図示は省略するが、発泡樹脂成形体PBの板厚が厚い部分PB1については、これを平面視したときに、ストライプ状や格子状の形態となるようにしてもよいし、それ以外の形態も採用し得る。要求される製品の強度を得るために、板厚が厚い部分PB1と板厚が薄い部分PB2の比率を変更することも可能である。例えば、板厚が厚い部分PB1の幅を太くしたり細くしたりする等、そのピッチを変えてもよい。
【0018】
図2(a)は、図1の発泡樹脂成形体PBを成形するための成形金型の概略図(型開きの状態)、図2(b)は、その成形金型の型締め状態の概略図である。また、図3(a)は、図2の成形金型の型締め後に行われる溶融樹脂の充填状態の説明図、図3(b)は、図2の成形金型におけるスキン層の形成と溶融樹脂の充填後に行われるキャビバックの説明図、図3(c)は、図2の成形金型において溶融樹脂の発泡が完了した状態の説明図である。
【0019】
図2(a)の成形金型10は、所定ストローク長で上下動可能なキャビ型11と、このキャビ型11と対をなす固定のコア型12と、コア型12に接続される射出機13とを有している。
【0020】
キャビ型11の型面(コア型12と対向している面)には、凹形状のキャビティ14が形成されている。図2の成形金型10ではキャビティ14の凹面で最終製品としての発泡樹脂成形体PBの意匠面Fを成形するので、前記キャビティ14の凹形状はその発泡樹脂成形体PBの意匠面Fの形状に合致するように形成してある。
【0021】
コア型12の型面(キャビ型11と対向している面)には、前記凹形状のキャビティ14に対応する凸形状のコア15が設けられている。図2(a)の成形金型10ではコア15の凸面で最終製品としての発泡樹脂成形体PBの裏面R(意匠面Fと反対の面)を成形するので、コア15の凸形状はその発泡樹脂成形体PBの裏面Rの形状に合致するように形成してある。また、コア15の凸面には、先に説明した発泡樹脂成形体PBの板厚が厚い部分PBを形成するために、凹部15Aを形成してある。
【0022】
次に、図2(a)の成形金型10を用いて図1の発泡樹脂成形体PBを成形する工程について、図2(a)(b)と図3(a)(b)(c)を基に説明する。
【0023】
《工程1(型締め)》
工程1では、図2(a)に示す油圧シリンダ16により同図(b)のようにキャビ型11をコア型12に向って所定量下降させ、キャビ型11とコア型12の型締めを行う。これにより、キャビティ14とコア15との間に発泡樹脂成形体PBを成形するために必要な成形空間G1が形成される。
【0024】
《工程2(溶融樹脂の充填とスキン層の形成)》
工程2では、図2(b)に示す成形空間G1内に図3(a)のように溶融樹脂Mを充填する。充填した溶融樹脂Mはその上下面がキャビ型11、コア15との接触で急冷されて発泡前に固化する。これにより、図3(b)のような一対のスキン層2A、2Bが形成される。すなわち、これら一対のスキン層2A、2Bは、未発泡の溶融樹脂Mが冷却によって発泡前に固化したものである。
【0025】
前記成形空間G1への溶融樹脂Mの充填は図2(a)(b)に示す射出機13により行われる。射出機13は図2(a)(b)のようにコア型12に設けたマニホールド19とゲート20を介して、前記成形空間G1内に溶融樹脂Mを充填するものである。充填する溶融樹脂Mは樹脂と発泡剤を含んで熱により溶融しているものである。
【0026】
《工程3(キャビバックと発泡)》
工程3では、前記成形空間G1への溶融樹脂Mの充填完了後に、図3(b)のようにキャビ型11を上昇させることで、コア15に対してキャビティ14を所定量後退させる操作(キャビバック)を行う。これにより、キャビティ14とコア15との間に発泡空間G2が形成される。そして、キャビバックに連動して、又は、キャビバックの完了後に、一対のスキン層2A、2B間に位置する溶融樹脂Mが発泡することで、図3(c)に示すような発泡層1が形成される。
【0027】
図3(b)の例では、コア15の凹部15A付近における溶融樹脂Mの発泡倍率が約3倍となるようにキャビバックのストロークを設定している。ここで、約3倍の発泡倍率とは、コア15の凹部15A付近における溶融樹脂Mの厚みtが図3(c)のように約3倍となることを意味する。
【0028】
図3(b)を参照すると、コア15の凹部15A付近においては、それ以外の部分に比べ、溶融樹脂Mの充填量が凹部15Aの容積分だけ増量されていることにより、約3倍の発泡倍率でも、十分な発泡圧が得られ、多数の気泡セルSが割れずに独立して存在する通常発泡層(図3(c)参照)が得られる。
【0029】
この一方、コア15の凹部15A付近以外の部分においては、凹部15A付近に比べ、溶融樹脂Mの充填量が凹部15Aの容積分だけ減量されていることにより、発泡倍率が例えば約2倍以上となった時点から、十分な発泡圧が得られず、多数の気泡セルが割れて繋がった形態の中空層3(図3(c)参照)が形成される。
【0030】
図2、図3では、図1の発泡樹脂成形体PBを製造するための成形金型10の一例として、キャビ型11とコア型12が上下に配置される例を示したが、この例に限定されることはない。図示は省略するが、そのようなキャビ型11とコア型12が横に並んで配置される構成の成形金型により図1の発泡樹脂成形体PBを製造してもよい。
【0031】
図2、図3では、発泡空間G2を形成する操作の一例として、コア15に対してキャビティ14を所定量後退させる操作(キャビバック)の例を示したが、この例に限定されることはない。図示は省略するが、キャビティ14に対してコア15を所定量後退させる操作(コアバック)、または、キャビティ14とコア15の双方を所定量後退させる操作により前記発泡空間G2を形成してもよい。また、これらの操作は上述のキャビ型11とコア型12が横に並んで配置される構成の成形金型にも適用される。
【0032】
以上説明した実施形態の発泡樹脂成形体PBは、ドアトリム、ラゲッジサイドトリム、リアパーセル、コンソールボックスなど、自動車の各種内装部品として使用することができることは勿論のこと、自動車以外の用途に使用することもできる。
【0033】
また、本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により多くの変形が可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 発泡層
2A、2B スキン層
3 中空層
10 成形金型
11 キャビ型
12 コア型
13 射出機
14 キャビティ
15 コア
15A 凹部
16 油圧シリンダ
19 マニホールド
20 ゲート
F 発泡樹脂成形体の意匠面
R 発泡樹脂成形体の裏面
G1 成形空間
G2 発泡空間
M 溶融樹脂
PB 発泡樹脂成形体
PB1 発泡樹脂成形体の板厚が厚い部分
PB2 発泡樹脂成形体の板厚が薄い部分
S 気泡セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融樹脂の発泡によって形成される多数の気泡セルを含む発泡層と、溶融樹脂の未発泡により前記発泡層の表裏面に形成される一対のスキン層と、を備えてなる発泡樹脂成形体の構造であって、
前記発泡樹脂成形体は、その板厚が厚い部分と薄い部分とが交互に連続した凹凸形状になっており、
前記発泡樹脂成形体の板厚が厚い部分における前記発泡層は、多数の気泡セルが割れずに独立して存在する通常発泡層として、前記一対のスキン層を連結する機能を有し、
前記発泡樹脂成形体の板厚が薄い部分における前記発泡層は、軽量化層として、多数の気泡セルが割れて繋がった形態の中空層を有すること
を特徴とする発泡樹脂成形体構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−95077(P2013−95077A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240887(P2011−240887)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000124454)河西工業株式会社 (593)
【Fターム(参考)】