説明

発泡潤滑剤およびその製造方法

【課題】固形潤滑剤の使用が困難であった圧縮・屈曲などの外部応力の働く場所においても使用可能な発泡潤滑剤およびその製造方法を提供する。
【解決手段】潤滑成分と、分子内に水酸基を有する液状ゴムと、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させてなる発泡潤滑剤であって、上記混合物は、混合物全体に対して、上記潤滑成分が 1 重量%〜80 重量%、上記液状ゴムが 5 重量%〜80 重量%であり、上記硬化剤がイソシアネート化合物であり、上記発泡剤が水であり、上記混合物は、摺動部材の周囲に混合物を封入して、該混合物を発泡・硬化させてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発泡潤滑剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や産業用機械では潤滑油またはグリースを回転部や摺動部などの潤滑箇所に供給する必要があるが、潤滑油やグリースを用いる温度などの使用条件によっては潤滑剤が潤滑箇所から飛散し、または垂れ落ちるといった問題点がある。そこで潤滑油やグリースの使用が困難な環境では軸受などに固形潤滑剤を用いることが多い。このような潤滑剤を軸受に封入して固化させ、使用することで軸受寿命の向上に成功した事例がこれまでに報告されている(特許文献1〜特許文献3参照)。
しかしながら、例えば等速ジョイントの駆動部のように圧縮、屈曲などの外部の応力が高い頻度で繰り返し加わるような部位に対してこのような潤滑剤組成物を使用した場合、変形が困難であるため非常に大きな駆動力を必要とするか、非常に大きな応力が固形潤滑剤に加わった結果、破損や破壊に至ることがあるため使用は困難である。このような場所においても使用可能な固形潤滑剤の開発が求められている。
【0003】
固形潤滑剤に高い柔軟性を付与する手法の1つとして固形成分の発泡化が挙げられる。固形成分を発泡化させることで外部応力に対する見かけの弾性力が改善され、変形を許容する材料となる。これまでにもこのような潤滑剤含有発泡体を軸受や等速ジョイントなどの内外輪結合体に用いた例が報告されている(特許文献4参照)。
特許文献4に開示されている潤滑剤はジョイントの屈曲により変形するブーツに追従して固形潤滑剤が圧縮される。そこで固形潤滑剤より滲み出た液状潤滑剤が必要部位に供給され、良好な潤滑を可能にするものである。ここで報告されている潤滑剤の含有方法はあらかじめ発泡させた樹脂に潤滑油を含浸させるという後含浸型のものである。後含浸型の場合には潤滑油が固形成分に含まれていないため、潤滑油保持力が小さく、高速条件下で使用した場合には潤滑油が一度に抜け出てしまうという問題がある。このような発泡潤滑剤においては短時間での潤滑や密閉空間においては使用可能であるものの、長時間での潤滑や開放空間で使用すると潤滑油の供給不足となり、使用することはできない。
また、油保持性が高くないため、潤滑油の放出と発泡体への吸収を繰り返しながら潤滑剤は絶えず空間内を流動する。このような場合、潤滑剤やそれに含まれる添加剤の化学的性質によってはブーツ材を攻撃、劣化させる可能性があり、潤滑剤またはブーツ材のどちらか一方の材料選択が制限されるという問題がある。また、後含浸に伴う製造工程の工数増加や、製造時間の増加、それらに伴うコストアップは避けられないという問題がある。
【特許文献1】特開平6−41569号公報
【特許文献2】特開平6−172770号公報
【特許文献3】特開2000−319681号公報
【特許文献4】特開平9−42297号公報
【0004】
そこで上記のような理由から潤滑剤の保持性が高く、かつ大きな変形を許容する固形潤滑剤が求められている。気泡内に潤滑剤が保持されるだけでは不十分であり、固形樹脂成分内にも潤滑油等を含有させ、潤滑剤保持力を高める必要がある。
この固形潤滑剤は工業的に汎用されているようなグリース潤滑と比較しても、必要量を必要箇所に供給することが可能であるため、従来のグリース使用量の低減によるコストダウン、ブーツ材への負荷低減、等速ジョイントの軽量化とコンパクト化を可能にする技術であるという利点があり、工業的に有利な経済的側面だけでなく環境に対する負荷低減、設計の自由度という複数の観点からも社会的重要度の高い技術であるといえる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題に対処するためになされたものであり、従来では固形潤滑剤の使用が困難であった圧縮・屈曲などの外部応力の働く場所においても使用可能な発泡潤滑剤およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発泡潤滑剤は、潤滑成分と、分子内に水酸基を有する液状ゴムと、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させてなる発泡潤滑剤であって、上記混合物は、混合物全体に対して、上記潤滑成分が 1 重量%〜80 重量%、上記液状ゴムが 5 重量%〜80 重量%であることを特徴とする。
上記硬化剤がイソシアネート化合物であり、上記発泡剤が水であることを特徴とする。
上記混合物は、摺動部材の周囲、または成形用型内に混合物を充填して、発泡・硬化させてなることを特徴とする。
【0007】
本発明の発泡潤滑剤の製造方法は、潤滑成分と、分子内に水酸基を有する液状ゴムと、硬化剤と、発泡剤とを含む成分を混合して混合物を得る混合工程と、上記混合物の発泡・硬化が完了する前に、上記混合物を摺動部材の周囲、または成形用型内に充填する充填工程と、上記充填された上記混合物を発泡・硬化させる発泡・硬化工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の発泡潤滑剤は、潤滑成分と、分子内に水酸基を有する液状ゴムと、硬化剤と、発泡剤とを含む、発泡潤滑剤を生成するための混合物を発泡・硬化させてなるので、潤滑成分が発泡・硬化した固形成分内に保持される。この固形成分を発泡させることで、外部応力に対する自在な変形を可能にし、特に柔軟性を向上させることができる。この潤滑成分は主として固形成分に存在し、例えば圧縮、屈曲、ねじり、膨張などの外的な因子によって潤滑成分を必要部位に徐放することができる。
また、本発明の発泡潤滑剤は摺動部材の周囲、または成形用型内に混合物を充填して、発泡・硬化させてなるので、切削等の後加工が不要であり、潤滑成分保持力に優れる。
【0009】
また、発泡潤滑剤の製造方法は、上記混合工程と、充填工程と、発泡・硬化工程とを備えるので、潤滑剤を保持した発泡・硬化物である発泡潤滑剤を直接製造することができ、切削や後含浸などの後加工の必要がない。その結果、生産効率が向上し、安価に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の発泡潤滑剤に用いられる固形成分には耐熱性、柔軟性、コスト性といった観点からウレタン樹脂を用いるのがよく、その原料としては2個以上のイソシアネート基を含有する化合物と2個以上の水酸基を含む液状ゴムを用いるのがよい。
分子内に水酸基を有する液状ゴムは、水酸基末端液状ポリブタジエン、水酸基末端液状ポリイソプレン、水酸基末端ポリオレフィン系ポリオールが挙げられる。このとき、好ましくは水酸基価が 45〜120 mg KOH/g である。水酸基価が 45 mg KOH/g 未満では、発泡・硬化が十分でなく、水酸基価が 120 mg KOH/g をこえると、発泡潤滑剤の弾力性が失われる場合がある。また、これら液状ゴムの末端水酸基をイソシアネート基やエポキシ基などで一部変性した液状ゴムも水酸基が末端に含まれれば使用することができる。製造された発泡体の物性を制御するなどの目的でこれら化合物を2種類以上混合して用いてもよい。
【0011】
上記液状ゴムは、後述するパラフィン系やナフテン系の鉱物油からなる潤滑成分と分子構造が類似するので、潤滑成分を構成する分子との化学的親和性に優れ、液状ゴム分子と潤滑成分分子とが比較的弱い相互作用によって絡み合っていると考えられる。そのため多くの潤滑成分をその液状ゴム分子内に含浸させることが可能であり、高い潤滑成分保持性を発揮することができる。これに熱や遠心力などの強い力を加えることで、液状ゴムと潤滑成分の相互作用が壊され、潤滑成分を徐放させることができる。
【0012】
本発明に使用できる硬化剤としては液状ゴムの末端官能基である水酸基と反応し、分子鎖を延長させ、または架橋させるものであれば、特に制限なく使用できる。好ましい硬化剤としては、ポリイソシアネート類を挙げることができる。ポリイソシアネート類は後述する水と反応して気体を発生させることができるので特に好ましい。
ポリイソシアネート類としては、芳香族、脂肪族、または脂環族ポリイソシアネート類を挙げることができる。
芳香族ポリイソシアネート類としては、トリレンジイソシアネート(以下、TDIと記す)、TDIの3量体、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと記す)、MDIの多量体、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、フェニレンジイソシアネート、ジフェニレンジイソシアネート等が挙げられる。
脂肪族ポリイソシアネート類としては、オクタデカメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、へキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
脂環族ポリイソシアネート類としては、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
また、上記ポリイソシアネート類とトリメチロールプロパンなどのポリオールとの付加物も使用できる。
また、熱硬化性ウレタンに用いられるような、末端イソシアネート変性ウレタンプレポリマー硬化剤として用いた場合には、より弾力性に富んだウレタンを得ることができる。
液状ゴムの末端官能基である水酸基との反応を高温度で行なう場合は、フェノール類、ラクタム類、アルコール類、オキシム類などのブロック剤でイソシアネート基をブロックしたブロックイソシアネート等を使用することができる。
【0013】
末端水酸基を有する液状ゴムとイソシアネート基を有する硬化剤との配合割合は、水酸基(−OH)とイソシアネート基(−NCO)との当量比で(OH/NCO)=1/(0.9〜1.7)の範囲が好ましく、特に発泡性および弾力性を考慮すると、(OH/NCO)=1/(1.0〜1.5)の範囲が好ましい。
【0014】
本発明に使用できる潤滑成分は、発泡体を形成する固形成分を溶解しないものであれば種類を選ばずに使用することができる。潤滑成分としては、例えば潤滑油、グリース、ワックスなどを単独もしくは混合して使用できる。
潤滑油としては、パラフィン系やナフテン系の鉱物油、エステル系合成油、エーテル系合成油、炭化水素系合成油、GTL基油、フッ素油、シリコーン油等が挙げられる。これらは単独でも混合油としても使用できる。
潤滑油の中で、液状ゴムとの相溶性に優れるパラフィン系やナフテン系の鉱物油、炭化水素系合成油、GTL基油が好ましい。
【0015】
グリースは、基油に増ちょう剤を加えたものであり、基油としては上述の潤滑油を挙げることができる。増ちょう剤としては、リチウム石けん、リチウムコンプレックス石けん、カルシウム石けん、カルシウムコンプレックス石けん、アルミニウム石けん、アルミニウムコンプレックス石けん等の石けん類、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。ジウレア化合物はジイソシアネートとモノアミンの反応で、ポリウレア化合物はジイソシアネートとポリアミンの反応で、それぞれ得られる。
【0016】
ワックスとしては、炭化水素系合成ワックス、ポリエチレンワックス、脂肪酸エステル系ワックス、脂肪酸アミド系ワックス、ケトン・アミン類、水素硬化油などを挙げることができる。これらのワックスに油を混合してもよく使用する油成分としては上述の潤滑油と同様のものを用いることができる。
【0017】
本発明に使用できる発泡剤は、液状ゴムを発泡・硬化させることができるものであれば使用できる。発泡剤としては、(a)イソシアネート化合物と反応して二酸化炭素ガスを発生させる水などの化学的発泡剤、(b)加熱処理や光照射によって化学分解させ、窒素ガスなどを発生させるアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾジカルボンイミド(ADCA)等の分解型発泡剤、(c)アセトン、ヘキサン等の比較的沸点の低い有機溶媒を加熱し、気化させる物理的発泡剤、(d)窒素などの不活性ガスや空気を外部から吹き込む機械的発泡剤が挙げられる。
本発明においては、硬化剤としてイソシアネート化合物を用いることから、イソシアネート化合物と反応して二酸化炭素ガスを発生させる水が好ましい。
【0018】
本発明の発泡潤滑剤は、上記潤滑成分と、液状ゴムと、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させて得られる。
上記潤滑成分の配合割合は、混合物全体に対して、 1 重量%〜80 重量%、好ましくは 30 重量%〜80 重量%である。潤滑成分が 1 重量%未満であると、潤滑油などの供給量が少なく発泡潤滑剤としての機能を発揮できず、80 重量%より多いときには固化しなくなる。
上記液状ゴムの配合割合は、混合物全体に対して、 5 重量%〜80 重量%、好ましくは 15 重量%〜80 重量%である。5 重量%より少ないときは固化しないため発泡潤滑剤としての機能を持たず、80 重量%より多いときには潤滑剤の供給が少なく、発泡潤滑剤としての機能を持たない。
【0019】
上記硬化剤の配合割合は、液状ゴムの配合量と発泡倍率により、上記発泡剤の配合割合は、後述する発泡倍率との関係でそれぞれ定まる。すなわち、硬化剤量(割合)は液状ゴムの水酸基当量と水の当量との関係で定まる。
【0020】
本発明において発泡潤滑剤の発泡倍率は 1.1 倍〜100 倍であることが好ましく、より好ましくは 1.1 倍〜10 倍である。発泡倍率 1.1 倍未満の場合は気泡体積が小さく、外部応力が加わったときに変形を許容できない。また、100 倍をこえる場合は外部応力に耐える強度を得ることが困難となる。
【0021】
また、発泡潤滑剤の硬化速度を促進させるために、3級アミン系触媒や有機金属触媒などを用いることができる。使用する3級アミン系触媒としてはモノアミン類、ジアミン類、トリアミン類、環状アミン類、アルコールアミン類、エーテルアミン類などが挙げられる。また、有機金属触媒としてはスタナオクタエート、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンメルカプチド、ジブチルチンチオカルボキシレート、ジブチルチンマレエート、ジオクチルチンジメルカプチド、ジオクチルチンチオカルボキシレートなどが挙げられる。また、反応のバランスを整えるなどの目的でこれら複数種類を混合して用いてもよい。
【0022】
本発明において発泡潤滑剤には必要に応じて顔料や帯電防止剤、難燃剤、防黴剤やフィラーなどの各種添加剤等を添加することができる。
さらに二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤、有機モリブデン等の摩擦調整剤、アミン、脂肪酸、油脂類等の油性剤、アミン系、フェノール系などの酸化防止剤、石油スルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、ソルビタンエステルなどの錆止め剤、イオウ系、イオウ−リン系などの極圧剤、有機亜鉛、リン系などの摩耗防止剤、ベンゾトリアゾール、亜硝酸ソーダなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレンなどの粘度指数向上剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0023】
本発明において潤滑油などの潤滑成分存在下で発泡反応と硬化反応とを同時に行なう反応型含浸法を用いることが、潤滑成分の高充填化と材料物性の高強度化を同時に両立させるためには望ましい。これは発泡体形成段階において発泡体に形成された気泡に潤滑剤が均一に含浸されるとともに、潤滑成分が発泡・硬化した固形成分内に吸蔵されることにより潤滑剤の高充填化と材料物性の高強度化が両立するものと考えられる。
これに対してあらかじめ発泡体を製造しておき、これに潤滑剤を含浸させる後含浸法では潤滑剤保持力が十分でなく、短時間で潤滑剤が放出され長期的に使用すると潤滑剤が供給不足となる。
【0024】
本発明の発泡潤滑剤の製造方法は、潤滑成分と、分子内に水酸基を有する液状ゴムと、硬化剤と、発泡剤とを含む成分を混合して混合物を得る混合工程と、上記混合物の発泡・硬化が完了する前に、上記混合物を摺動部材の周囲、または成形用型内に充填する充填工程と、上記充填された上記混合物を発泡・硬化させる発泡・硬化工程とを備える。
上記混合工程において、液状ゴムと、硬化剤と、潤滑成分と、発泡剤とを混合する方法は、特に限定されることなく、例えばヘンシェルミキサー、リボンミキサー、ジューサーミキサー等、一般に用いられる撹拌機を使用して混合することができる。
混合物は硬化剤により速やかに硬化するため、硬化剤を除く他の成分を撹拌機へ投入し、最後に硬化剤を投入することが望ましい。
【0025】
上記充填工程において、液状ゴムと、硬化剤と、潤滑成分と、発泡剤とを含む混合物を混合物の発泡・硬化が完了する前に摺動部材の周囲または、成形用型内に充填する。摺動部材の周囲、または成形用型内に充填された混合物中のイソシアネートと水との化学反応により生成する二酸化炭素を発泡剤とする液状ゴムの発泡と、また混合物中の液状ゴムと、硬化剤とによる硬化反応とが同時に進行し、充填空間の形状を有する発泡・硬化物である発泡体が摺動部材の周囲、または成形用金型内で形成される。この潤滑成分が含浸された発泡体が本発明の発泡潤滑剤である。
【0026】
上記製造方法において、市販のシリコーン系整泡剤などの界面活性剤を使用し、各原料分子を均一に分散させておくことが望ましい。また、この整泡剤の種類によって表面張力を制御し、生じる気泡の種類を連続気泡または独立気泡に制御することが可能となる。このような界面活性剤としては陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などが挙げられる。
【0027】
また、上記製造方法において摺動部材を有する機材としては軸受や自在継手、ボールねじやリニアガイド、球面ブッシュ等があり、これらの機材の摺動部材の周囲に、潤滑成分と、液状ゴムと、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を充填後に発泡・硬化させて、発泡潤滑剤が封入された機材を直接製造することができる。
【0028】
また、上記製造方法において成形用金型や摺動部材を有する機材(以下、成形用金型等と記す)を用いずに成形することもできる。この場合は発泡・硬化物を裁断や研削等で目的の形状に後加工する必要がある。また、成形用金型等を用いない場合は潤滑成分が発泡・硬化物中に保持されにくいので、潤滑剤量が不足する場合は目的の形状に後加工した後、潤滑剤を後含浸する必要がある。また、硬化した発泡体に潤滑剤を後含浸しても、潤滑剤保持性が成形用金型等を用いる方法に比べて低下することや、発泡体のハンドリング時に潤滑剤が漏出しやすい等の不具合が生じやすい。
以上のことから本発明においては、品質面、作業面、コスト面で混合物を成形用金型等に充填する方法を採用することが好ましい。
【0029】
本発明において、発泡潤滑剤中に含浸された状態で含まれる潤滑成分は、外力による発泡体の変形によっても急激に染み出すことがなく、潤滑成分を効率よく染み出させて用いることができる。その結果、潤滑成分量は必要最小限でよく、しかも長期間にわたって潤滑性能を保つことができる。
【実施例】
【0030】
実施例1〜実施例4および比較例1〜比較例2
イソシアネートを除く配合材料を表1に示す配合割合でよく混合し、最後にイソシアネートを加えて素早く混合した混合物 20.6 g を、ポリテトラフルオロエチレン樹脂製容器(直径 100 mm×高さ 150 mm )に充填した。数秒後に発泡反応が始まり、常温で数時間放置し硬化させて試験片を得た。この試験片のうち約 1 g 程度を正確に量り取り、遠心分離器による油徐放試験(ロータ半径 9.9 mm、回転速度 850 rpm )に呈した。ここで潤滑剤重量変化率を以下の式により算出して評価した。
潤滑剤重量変化率(%)=100×(試験前潤滑剤重量−試験後潤滑剤重量)/試験前潤滑剤重量
算出した重量変化率(%)が小さいほど油放出量が少なく、潤滑剤保持力が大きいといえる。本発明においては重量変化率が 0.5%以上 10%以下のものを潤滑剤保持力に優れると評価した。
【0031】
【表1】

【0032】
表1に示すように比較例1〜比較例2では潤滑油の放出性が過多で遠心力に対して一度に抜けてしまうためその長寿命化は期待できない。これに対して実施例1〜実施例4では遠心力によって潤滑剤が徐々に放出されることから必要最低限の油量で潤滑を賄うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の発泡潤滑剤は、外力による発泡体の変形によっても急激に染み出すことがなく、潤滑成分を効率よく染み出させて用いることができる。その結果、潤滑成分量は必要最小限でよく、しかも長寿命である。このため摺動部材を有する撚線機、電動機器、印刷機、自動車部品、電装補機、建設機械等の各種産業用機械の軸受や自在継手の固形潤滑剤として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑成分と、分子内に水酸基を有する液状ゴムと、硬化剤と、発泡剤とを含む混合物を発泡・硬化させてなる発泡潤滑剤であって、
前記混合物は、混合物全体に対して、前記潤滑成分が 1 重量%〜80 重量%、前記液状ゴムが 5 重量%〜80 重量%であることを特徴とする発泡潤滑剤。
【請求項2】
前記硬化剤がイソシアネート化合物であり、前記発泡剤が水であることを特徴とする請求項1記載の発泡潤滑剤。
【請求項3】
前記混合物は、摺動部材の周囲、または成形用型内に混合物を充填して、発泡・硬化させてなることを特徴とする請求項1または請求項2記載の発泡潤滑剤。
【請求項4】
請求項1、請求項2または請求項3記載の発泡潤滑剤の製造方法であって
潤滑成分と、分子内に水酸基を有する液状ゴムと、硬化剤と、発泡剤とを含む成分を混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物の発泡・硬化が完了する前に、前記混合物を摺動部材の周囲、または成形用型内に充填する充填工程と、
前記充填された前記混合物を発泡・硬化させる発泡・硬化工程とを備えることを特徴とする発泡潤滑剤の製造方法。

【公開番号】特開2007−321135(P2007−321135A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−156534(P2006−156534)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】