説明

発泡膜用組成物および発泡膜の製造方法。

【課題】 発泡の制御が難しい発泡剤や、局在化により均一な発泡膜を生成しにくい中空粒子を配合しなくても、容易に発泡膜を形成しうる発泡膜用組成物を提供する。
【解決手段】 エチレン性不飽和カルボン酸及びこれと共重合可能なその他の単量体を重合して得られるアルカリ可溶性重合体をアンモニアで中和して得られるアルカリ可溶性重合体中和物10〜200重量部の存在下、単量体混合物100重量部を乳化重合して得られる水性重合体分散液からなる発泡膜用組成物、および該組成物を乾燥して得られる乾燥膜を高温で加熱して発泡させることを特徴とする発泡膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡膜用組成物および該組成物を用いた発泡膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
断熱特性や吸音特性の向上を目的として、金属あるいは建築材料表面に樹脂発泡体やゴム発泡体、ロックウール、ガラスウールなどを被覆する技術は熱効率改善や騒音防止の手法として一般的に広く用いられている。しかしながら、このような従来の被覆技術においては、表面形状の複雑な部分に対しては極めて施工しにくいという問題があり、したがって、このような問題を解決するため、以下のような技術が提案されている。
【0003】
特許文献1には、セラミック製の中空粒子と接着性樹脂のエマルジョンからなる断熱性塗料を用いることが提案されている。
また、特許文献2には、ポリオール化合物、イソシアネート化合物および水を含有する発泡性塗料を用い、ポリオール化合物およびイソシアネート化合物の反応によってポリウレタン樹脂を生成すると共に、イソシアネート化合物と水との反応で生成する二酸化炭素により、塗料膜中に空隙を形成することが提案されている。
さらに、特許文献3には、特定の変性ポリオール、ブロックイソシアネートおよびアミド系発泡剤を含有する発泡性塗料組成物が提案されている。
【0004】
しかしながら、セラミック製の中空粒子を配合すると、比重差のために、発泡膜中での中空粒子の分散状態が不均一となり、均一な発泡膜が得られにくい問題が生じる。
また、イソシアネート化合物と水との反応で生成する二酸化炭素による空隙形成を利用する技術においては、その生成条件を制御することが困難であり、均一な発泡膜を得られにくい問題がある。
さらに、アミド系発泡剤を配合した発泡性塗料組成物では、アミド系発泡剤が熱分解して生成する気体状分解生成物により、膜中に空隙を形成する技術であるが、均一な発泡膜を形成するには、精密な温度制御が要求されるため、簡便に用いることが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−290594号公報
【特許文献2】特開2003−292889号公報
【特許文献3】特開2005−206736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の従来技術に鑑み、発泡の制御が難しい発泡剤や、局在化により均一な発泡膜を生成しにくい中空粒子を配合しなくても、容易に発泡膜を形成しうる発泡膜用組成物および該組成物を用いた発泡膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、エチレン性不飽和カルボン酸及びこれと共重合可能なその他の単量体を重合して得られるアルカリ可溶性重合体をアンモニアで中和して得られるアルカリ可溶性重合体中和物10〜200重量部の存在下、単量体混合物100重量部を乳化重合して得られる水性重合体分散液からなる発泡膜用組成物を用い、該組成物を乾燥して得られる乾燥膜を高温で加熱することにより、均一な発泡膜が形成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして、本発明によれば、エチレン性不飽和カルボン酸及びこれと共重合可能なその他の単量体を重合して得られるアルカリ可溶性重合体をアンモニアで中和して得られるアルカリ可溶性重合体中和物10〜200重量部の存在下、単量体混合物100重量部を乳化重合して得られる水性重合体分散液からなる発泡膜用組成物が提供される。
また、上記発泡膜用組成物を乾燥して得られる乾燥膜を180℃以上で加熱して発泡させることを特徴とする発泡膜の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発泡の制御が難しい発泡剤や、局在化により均一な発泡膜を生成しにくい中空粒子を配合しなくても、容易に発泡膜を形成しうる発泡膜用組成物および該組成物を用いた発泡膜の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の発泡膜用組成物は、エチレン性不飽和カルボン酸及びこれと共重合可能なその他の単量体を重合して得られるアルカリ可溶性重合体をアンモニアで中和して得られるアルカリ可溶性重合体中和物10〜200重量部の存在下、単量体混合物100重量部を乳化重合して得られる水性重合体分散液からなるものである。
【0011】
本発明で用いるアルカリ可溶性重合体は、エチレン性不飽和カルボン酸及びこれと共重合可能なその他の単量体を重合して得られるものである。
【0012】
エチレン性不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などのエチレン性不飽和モノカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、ブテントリカルボン酸などのエチレン性不飽和多価カルボン酸;マレイン酸モノエチル、イタコン酸モノメチルなどのエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル化物等を挙げることができる。これらエチレン性不飽和カルボン酸のうち(メタ)アクリル酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸が好適である。
【0013】
エチレン性不飽和カルボン酸の量は、アルカリ可溶性重合体の酸価が、通常、50〜300、好ましくは80〜250の範囲になるものである。通常、アルカリ可溶性重合体を得るために用いる全単量体の5〜50重量%である。
エチレン性不飽和カルボン酸の使用量が少なすぎると、アルカリ可溶性重合体の酸価が小さくなり、このアルカリ可溶性重合体を中和しても水に溶解しにくくなるので水性重合体分散液の乳化重合時における重合安定性が低下して、水性重合体分散液を安定的に得ることが困難になる場合がある。逆にエチレン性不飽和カルボン酸の使用量が多すぎても、水性重合体分散液の乳化重合時における重合安定性が低下して、水性重合体分散液を安定的に得ることが困難になる場合がある。
【0014】
エチレン性不飽和カルボン酸と共重合可能なその他の単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等のエチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン等の芳香族ビニル単量体;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル等の水酸基含有エチレン性不飽和単量体;(メタ)アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル等のグリシジル基含有エチレン性不飽和単量体;(メタ)アクリロニトリル等のシアノ基含有エチレン性不飽和単量体;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有エチレン性不飽和単量体;1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン等の共役ジエン単量体;塩化ビニル等のハロゲン化ビニル;酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステルなどが挙げられる。これらの単量体は単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの単量体のうち、水性重合体分散液の乳化重合時における重合安定性により優れる点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどのエチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体が好適である。
【0015】
本発明に用いるアルカリ可溶性重合体は、その重量平均分子量が、通常、1,000〜20,000、好ましくは2,000〜15,000、さらに好ましくは5,000〜10,000である。重量平均分子量が低すぎる場合、水性重合体分散液の重合安定性が低下し、水性重合体分散液を安定的に得ることが困難になる場合がある。逆に高すぎる場合、水性重合体分散液の粘度が高くなり、取り扱いにくくなる場合がある。
【0016】
本発明に用いるアルカリ可溶性重合体は、そのガラス転移温度が、通常、0〜+200℃、好ましくは0〜+150℃である。
【0017】
アルカリ可溶性重合体は、通常、溶液重合や乳化重合で得られるもの、好ましくは、重合性の界面活性剤の存在下に乳化重合して得られるものである。
【0018】
重合性界面活性剤は、分子中に1個以上の重合可能な炭素−炭素不飽和結合を有する界面活性剤である。その具体例としては、プロペニル−2−エチルヘキシルベンゼンスルホコハク酸エステルナトリウム、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンの硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルエーテル硫酸アンモニウム塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンエステルの燐酸エステルなどのアニオン性の重合性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルベンゼンエーテル(メタ)アクリル酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(メタ)アクリル酸エステル等のノニオン性の重合性界面活性剤等が挙げられる。重合性界面活性剤の量は、アルカリ可溶性重合体の合成に使用する全単量体100重量部に対して、通常、0.01〜1.0重量部、好ましくは0.05〜0.8重量部である。この使用量が少なすぎると、単量体の乳化がし難くなり、アルカリ可溶性重合体の乳化重合の重合安定性が低下する傾向にある。逆に多すぎると水性重合体分散液を用いて得られる発泡膜の耐水性が低下する傾向にある。
【0019】
上記の重合に際しては、乳化重合において通常使用される、重合開始剤、pH調整剤、分散剤などを適宜選択して用いることができる。
また、アルカリ可溶性重合体の重量平均分子量を調節するために、乳化重合において通常使用される分子量調整剤を適宜選択して用いることができる。
【0020】
アルカリ可溶性重合体中和物は、前記のようにして得られたアルカリ可溶性重合体を、アンモニアで中和して得られるものである。アンモニア以外の塩基性物質で中和した場合には、発泡膜が得られない。
中和度は、アルカリ可溶性重合体中の全カルボキシル基に対して、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上である。中和度が低すぎると、アルカリ可溶性重合体中和物が水に溶解しにくくなるので、水性重合体分散液の乳化重合時における重合安定性が低下して、水性重合体分散液を安定的に得ることが困難になる場合がある。
【0021】
本発明における水性重合体分散液は、前記のアルカリ可溶性重合体中和物10〜200重量部の存在下、単量体混合物100重量部を乳化重合して得られる。
単量体混合物としては、通常、後記の単量体から適宜選択したものを用いることができる。
発泡膜の被着体への密着性に優れる点から、グリシジル基、アミド基又はアミノ基を含有するエチレン性不飽和単量体と、これと共重合可能な単量体とを組み合わせたものを用いることが好ましい。
【0022】
単量体混合物に用いるグリシジル基、アミド基又はアミノ基を含有するエチレン性不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル等のグリシジル基含有エチレン性不飽和単量体;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有エチレン性不飽和単量体;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル等のアミノ基含有エチレン性不飽和単量体が挙げられる。
これらの単量体の量は、単量体混合物の、通常、0.5〜15重量%、好ましくは1〜10重量%である。
【0023】
グリシジル基、アミド基又はアミノ基を含有するエチレン性不飽和単量体と共重合可能な単量体としては、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸β−シアノエチル等のシアノ基含有エチレン性不飽和単量体;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル等の水酸基含有エチレン性不飽和単量体;2−ビニルピリジン等のピリジル基含有エチレン性不飽和単量体;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン等の芳香族ビニル単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等のエチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン等の共役ジエン単量体;塩化ビニル等のハロゲン化ビニル単量体;酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステルなどが挙げられる。
なかでも、エチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、スチレンおよび1,3−ブタジエンが好ましく、1,3−ブタジエンを使用する場合には、単量体混合物の20〜60重量%の範囲で用いることが好ましい。
【0024】
また、単量体混合物は、その単量体混合物を重合して得られる共重合体のガラス転移温度が、通常、−60〜+150℃、好ましくは−40〜+100℃、さらに好ましくは−20〜+60℃となるように調整する。このガラス転移温度が低すぎると、得られる発泡膜の形状保持性が低下する傾向にある。逆に高すぎると、加熱して発泡させる前の乾燥膜として均質なものが得られ難い傾向にある。
【0025】
アルカリ可溶性重合体中和物と単量体混合物との比率は、単量体混合物100重量部に対して、アルカリ可溶性重合体の中和物が10〜200重量部、好ましくは20〜150重量部である。アルカリ可溶性重合体中和物が少なすぎると、乳化重合における重合安定性が低下したり、発泡膜における発泡倍率が低下する恐れがある。逆に該中和物が多すぎると、加熱して発泡させる前の乾燥膜として均質なものが得られ難い傾向にある。
【0026】
アルカリ可溶性重合体中和物の存在下に、単量体混合物を乳化重合する方法としては、単量体混合物を該中和物を含む水性媒体中に添加して重合するか、該中和物と単量体混合物とを混合しエマルジョンにした後、水性媒体中または該中和物を含有する水性媒体中に添加して重合する。
重合温度は、通常、0〜100℃、好ましくは30〜90℃である。
【0027】
アルカリ可溶性重合体中和物の存在下に、単量体混合物を乳化重合するにあたって、重合安定性をさらに高めるために、界面活性剤を併用することができる。その使用量は、得られる発泡膜の耐水性を損なわないように、単量体混合物に対して、好ましくは0.05重量%以下、より好ましくは0.02重量%以下である。
【0028】
上記の乳化重合に際しては、乳化重合において通常使用される、重合開始剤、分子量調整剤、pH調整剤、分散剤などの重合副資材を適宜選択して用いることができる。
また、乳化重合後の水性重合体分散液に、pH調整剤、防腐剤、抗菌剤、分散剤などの副資材を適宜選択して、添加することもできる。さらに、乳化重合直後や副資材を添加した後に、未反応の単量体を除去する工程を施してもよい。
【0029】
本発明の発泡膜用組成物は、上記のようにして得られた水性重合体分散液からなる。上記の水性重合体分散液のみで使用することもできるが、本発明の効果を本質的に阻害しない限り、必要に応じて、充填剤、着色剤、無機・有機の中空粒子、無機・有機の発泡剤、粘度調整剤、レベリング剤、紫外吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、酸化安定剤、可塑剤などを適量配合することもできる。
【0030】
本発明の発泡膜の製造方法は、前記の発泡膜用組成物を乾燥して得られる乾燥膜を180℃以上で加熱して発泡させることを特徴とする。
前記の発泡膜用組成物を、被着体上に塗布したり、吹き付けたりした後、乾燥することにより、被着体上に発泡膜用組成物からなる乾燥膜が形成される。ポリテトラフルオロエチレンフィルムやガラス板の表面に、発泡膜用組成物を流延し、乾燥した後、乾燥膜を該表面から剥離して、乾燥膜のみにすることもできる。
乾燥条件としては、急激な乾燥による不均一な発泡が発生することを避けるため、通常、10〜80℃、好ましくは20〜60℃で、数時間〜数日間かけて行うことが好ましい。通常、上記の乾燥を経て、均質な乾燥膜が形成される。
【0031】
乾燥膜の厚みは、特に限定されないが、通常、0.1〜10mm程度である。薄い乾燥膜上に、さらに発泡膜用組成物を、塗布や吹き付けを行った後、乾燥して、より厚い乾燥膜を形成することもできる。
【0032】
得られた乾燥膜を、180℃以上に加熱することにより、乾燥膜内部で空隙が発生(発泡)して、均質な発泡膜が得られる。この発泡現象の理由は定かではないが、加熱により、乾燥膜内に存在する、前記のアルカリ可溶性重合体中和物中に形成している、カルボン酸のアンモニウム塩構造が開裂し、気体状のアンモニアが生成し、それにより、空隙が発生するものと推測される。
加熱温度が低いと、発泡膜が得られない。加熱温度の上限は、特に限定されないが、発泡膜自身の熱劣化を避ける観点から、好ましくは300℃、より好ましくは250℃である。
加熱時間は、通常、数十秒〜30分間であるが、この発泡現象は比較的速やかに進行する。
発泡膜が形成された後、常温にもどすことにより、発泡状態は固定されたままとなる。
なお、この加熱工程は、乾燥膜が形成された被着体全体を加熱してよいし、乾燥膜のみを加熱してもよい。
【0033】
このようにして製造された発泡膜は、断熱材、防音材、軽量部材などとして種々の分野で適用できる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
なお、以下の説明において、「部」及び「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0035】
評価方法について、以下に示す。
1) 粒子径(nm)
光散乱粒子径測定器(コールターLS230:コールター社製)を用いて測定し、体積平均粒子径の値で示す。
2) ガラス転移温度(℃)
水性重合体分散液を、枠付きガラス板に流延し、温度23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室に48時間放置して乾燥フィルムを作成した。
このフィルムについて、示差走査熱量計(EXSTAR6000DSC:セイコーインスツルメンツ(株)製)を用いて、昇温速度10℃/分で、−100〜150℃の測定温度範囲で測定した。
3) テトラヒドロフラン不溶解分(%)
水性重合体分散液を、枠付きガラス板に流延し、温度23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室に48時間放置して乾燥フィルムを作成した。
このフィルム0.3gを80メッシュの金網のかごに入れて、それを20℃のテトラヒドロフラン(THF)100mlに48時間浸漬した後、金網のかごに残るフィルムを100℃で減圧乾燥し、残存率を計算してTHF不溶解分の量を求めた
【0036】
4) 発泡倍率
乾燥膜の加熱処理前の膜厚(mm)と、乾燥膜を加熱処理した後の膜厚(mm)を測定し、加熱処理前の膜厚に対する、加熱処理後の膜厚の比率で示す。
5)熱伝導率(W/m・K)
加熱処理前の乾燥膜および加熱処理後の膜において、迅速熱伝導率計(QTM−500、プローブ PD−11;京都電子(株)社製)を使用して測定した。熱伝率が低いほど、断熱特性に優れている。

なお、REFERENCE PLATEとして、京都電子(株)社製の下記のものをを用いた。
R3−2(発泡ポリエチレン)熱伝導率 0.0362(W/mK)at30℃
R5−2(シリコンスポンジ)熱伝導率 0.116(W/mK) at31℃
R2−2(シリコンゴム) 熱伝導率 0.234(W/mK) at33℃
R1−2(石英ガラス) 熱伝導率 1.419(W/mK) at29℃
【0037】
(アルカリ可溶性重合体中和物(A1)の製造)
メチルメタクリレート51部、エチルアクリレート26部、メタクリル酸23部、チオグリコール酸オクチル8部、重合性界面活性剤(アクアロンHS10、第一工業製薬(株)製)0.3部及び軟水39部を混合分散し単量体エマルジョンを得た。
一方、攪拌機付き反応器の内部を窒素置換した後、軟水204.2部を仕込み85℃に加熱し、5%過硫酸カリウム水溶液19部を反応器に添加後、85℃に維持したまま前記単量体エマルジョンを2時間かけて連続添加して反応させた。単量体エマルジョン添加終了後、更に1時間85℃に保持してアルカリ可溶性重合体を得た。これに28%のアンモニア水16.1部を加えて30分間攪拌を続けたのち室温まで冷却して、固形分濃度28%のアルカリ可溶性重合体中和物水溶液(A1)を得た。
【0038】
(アルカリ可溶性重合体中和物(A2)の製造)
塩基として、アンモニア水に代えて、20%の水酸化ナトリウム22.6部を用いた以外は、前記(A1)と同様にして、固形分濃度28%のアルカリ可溶性重合体中和物水溶液(A2)を得た。
【0039】
(実施例1)
窒素置換した攪拌機付オートクレーブに、軟水100部、アルカリ可溶性重合体中和物(A1)を固形分換算で30部、スチレン46部、2-エチルヘキシルアクリレート50部、グリシジルメタクリレート4部を添加して単量体混合物を得た。
別の窒素置換した攪拌機付オートクレーブに軟水70部を仕込み、過硫酸アンモニウム水溶液(軟水11部と過硫酸アンモニウム0.5部の混合物)を仕込み、70℃に保持して、前記単量体混合物を3時間かけて滴下した。その後、更に過硫酸アンモニウム水溶液(軟水3部と過硫酸アンモニウム0.1部の混合物)を添加し、内温を85℃に保持して4時間反応させた。重合終了時の転化率は99%であった。
反応後、未反応の単量体を除去し、固形分濃度とpHを表1に示すように調整して水性重合体分散液Aを得た。得られた水性重合体分散液Aの性状を表1に示す。
水性重合体分散液Aを、枠付きガラス板に乾燥膜厚が約1mmになるように流延し、23℃、相対湿度(以下、「RH」と表記する場合がある。)50%の恒温恒湿室で72時間以上乾燥させて、乾燥膜を作製した。この膜の熱伝導率を測定し、その結果を表1に示す。
次いで、この乾燥膜を送風定温恒温器(DKN612;ヤマト科学(株)社製)を使用して220℃で5分間加熱して発泡膜を得た。得られた発泡膜の熱伝導率を測定し、その結果を表1に示す。
【0040】
(実施例2)
水性重合体分散液Aを、枠付きガラス板に乾燥膜厚が約2.5mmになるように流延し、23℃、RH50%の恒温恒湿室で72時間以上乾燥させて、乾燥膜を作製した。この膜の熱伝導率を測定し、その結果を表1に示す。
次いで、この乾燥膜を送風定温恒温器(DKN612;ヤマト科学(株)社製)を使用して220℃で5分間加熱して発泡膜を得た。得られた発泡膜の熱伝導率を測定し、その結果を表1に示す。
【0041】
(実施例3)
加熱処理温度を、220℃から200℃に変更する以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
(実施例4)
アルカリ可溶性重合体中和物(A1)の使用量を固形分換算で、30部から10部に変更する以外は、実施例1と同様に反応して、水性重合体分散液Bを得た。
水性重合体分散液Bを、枠付きガラス板に乾燥膜厚が約1mmになるように流延し、23℃、RH50%の恒温恒湿室で72時間以上乾燥させて、乾燥膜を作製した。この膜の熱伝導率を測定し、その結果を表1に示す。
次いで、この乾燥膜を送風定温恒温器(DKN612;ヤマト科学(株)社製)を使用して220℃で5分間加熱して発泡膜を得た。得られた発泡膜の熱伝導率を測定し、その結果を表1に示す。
【0042】
(実施例5)
窒素置換した攪拌機付オートクレーブに、軟水100部、アルカリ可溶性重合体中和物(A1)を固形分換算で30部、エチルアクリレート70部、ブチルアクリレート10部、メチルメタクリレート14部、グリシジルメタクリレート4部、N−メチロールアクリルアミド2部を添加して単量体混合物を得た。
別の窒素置換した攪拌機付オートクレーブに軟水70部を仕込み、過硫酸アンモニウム水溶液(軟水11部と過硫酸アンモニウム0.5部の混合物)を仕込み、70℃に保持して、前記単量体混合物を3時間かけて滴下した。その後、更に過硫酸アンモニウム水溶液(軟水3部と過硫酸アンモニウム0.1部の混合物)を添加し、内温を85℃に保持して4時間反応させた。重合終了時の転化率は99%であった。
反応後、未反応の単量体を除去し、固形分濃度とpHを表1に示すように調整して水性重合体分散液Cを得た。得られた水性重合体分散液Cの性状を表1に示す。
水性重合体分散液Cを、枠付きガラス板に乾燥膜厚が約1mmになるように流延し、23℃、RH50%の恒温恒湿室で72時間以上乾燥させて、乾燥膜を作製した。この膜の熱伝導率を測定し、その結果を表1に示す。
次いで、この乾燥膜を送風定温恒温器(DKN612;ヤマト科学(株)社製)を使用して220℃で5分間加熱して発泡膜を得た。得られた発泡膜の熱伝導率を測定し、その結果を表1に示す。
【0043】
(実施例6)
窒素置換した攪拌機付オートクレーブに、軟水100部、アルカリ可溶性重合体中和物(A1)を固形分換算で20部、スチレン55部、1,3−ブタジエン40部、グリシジルメタクリレート2.5部、N−メチロールアクリルアミド2.5部、t−ドデシルメルカプタン0.2部を添加して単量体混合物を得た。
別の窒素置換した攪拌機付オートクレーブに軟水85部を仕込み、過硫酸カリウム水溶液(軟水7部と過硫酸カリウム0.3部の混合物)を仕込み、70℃に保持して、前記単量体混合物を3時間かけて滴下した。その後、更に過硫酸カリウム水溶液(軟水7部と過硫酸カリウム0.3部の混合物)を添加し、内温を85℃に保持して4時間反応させた。重合終了時の転化率は99%であった。
反応後、未反応の単量体を除去し、固形分濃度とpHを表1に示すように調整して水性重合体分散液Dを得た。得られた水性重合体分散液Dの性状を表1に示す。
水性重合体分散液Dを、枠付きガラス板に乾燥膜厚が約1mmになるように流延し、23℃、RH50%の恒温恒湿室で72時間以上乾燥させて、乾燥膜を作製した。この膜の熱伝導率を測定し、その結果を表1に示す。
次いで、この乾燥膜を送風定温恒温器(DKN612;ヤマト科学(株)社製)を使用して220℃で5分間加熱して発泡膜を得た。得られた発泡膜の熱伝導率を測定し、その結果を表1に示す。
【0044】
(比較例1)
窒素置換した攪拌機付オートクレーブに、軟水100部、ラウリル硫酸ナトリウム2部、スチレン46部、2-エチルヘキシルアクリレート50部、グリシジルメタクリレート4部を添加して単量体混合物を得た。
別の窒素置換した攪拌機付オートクレーブに軟水70部を仕込み、過硫酸アンモニウム水溶液(軟水11部と過硫酸アンモニウム0.5部の混合物)を仕込み、70℃に保持して、前記単量体混合物を3時間かけて滴下した。その後、更に過硫酸アンモニウム水溶液(軟水3部と過硫酸アンモニウム0.1部の混合物)を添加し、内温を85℃に保持して4時間反応させた。重合終了時の転化率は99%であった。
反応後、未反応の単量体を除去し、固形分濃度とpHを表1に示すように調整して水性重合体分散液Eを得た。得られた水性重合体分散液Eの性状を表1に示す。
水性重合体分散液Eを、枠付きガラス板に乾燥膜厚が約1mmになるように流延し、23℃、RH50%の恒温恒湿室で72時間以上乾燥させて、乾燥膜を作製した。この膜の熱伝導率を測定し、その結果を表1に示す。
次いで、この乾燥膜を送風定温恒温器(DKN612;ヤマト科学(株)社製)を使用して220℃で5分間加熱したが、発泡しなかった。加熱処理後の膜の熱伝導率を測定し、その結果を表1に示す。
【0045】
(比較例2)
アルカリ可溶性重合体中和物(A1)に代えて、アルカリ可溶性重合体中和物(A2)を用いる以外は、実施例1と同様にして、水性重合体分散液Fを得た。得られた水性重合体分散液Fの性状を表1に示す。
水性重合体分散液Fを、枠付きガラス板に乾燥膜厚が約1mmになるように流延し、23℃、RH50%の恒温恒湿室で72時間以上乾燥させて、乾燥膜を作製した。この膜の熱伝導率を測定し、その結果を表1に示す。
次いで、この乾燥膜を送風定温恒温器(DKN612;ヤマト科学(株)社製)を使用して220℃で5分間加熱したが、発泡しなかった。加熱処理後の膜の熱伝導率を測定し、その結果を表1に示す。
【0046】
(比較例3)
加熱処理温度を、220℃から150℃に変更する以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。但し、加熱処理しても、乾燥膜は発泡しなった。
【0047】
【表1】

【0048】
表1から、次のようなことがわかる。
乳化重合において通常使用される界面活性剤を用いて得られた水性重合体分散液E(比較例1)、および、水酸化ナトリウムで中和して得られたアルカリ可溶性重合体中和物を用いて得られた水性重合体分散液F(比較例2)の乾燥膜を加熱処理しても、発泡膜は得られなかった。
また、水性重合体分散液Aの乾燥膜を用いたものの、加熱処理温度が低い場合には、発泡膜は得られなかった(比較例3)。
これらの比較例に対して、実施例1〜6の水性重合体分散液A〜Dを用いて得られた乾燥膜を、特定温度以上で加熱処理するだけで、発泡膜が得られ、発泡後の熱伝導率が低下し、断熱性能が向上していることがわかる。なお、実施例1〜6で得られた発泡膜の発泡状態は均質であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和カルボン酸及びこれと共重合可能なその他の単量体を重合して得られるアルカリ可溶性重合体をアンモニアで中和して得られるアルカリ可溶性重合体中和物10〜200重量部の存在下、単量体混合物100重量部を乳化重合して得られる水性重合体分散液からなる発泡膜用組成物。
【請求項2】
請求項1記載の発泡膜用組成物を乾燥して得られる乾燥膜を180℃以上で加熱して発泡させることを特徴とする発泡膜の製造方法。

【公開番号】特開2012−188522(P2012−188522A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52447(P2011−52447)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】