説明

発泡補強部材が配設された中空構造物及びその製造方法

【課題】中空本体の内部に配設される補強部材として発泡補強部材を用いることで中空構造物の軽量化を図りつつ、この発泡補強部材により中空本体の特に稜線部を効果的に補強することを課題とする。
【解決手段】全周に亘って略一定の厚みを有する発泡補強部材30の周壁部36を、該周壁部36における中空本体17の稜線部11d,11e,12d,12eの内壁面に対する接着部分が残りの部分に比べて発泡倍率が低くなるように発泡成形し、該発泡倍率が低い部分Lを、中空本体17の内壁面に接着剤15を介して接着結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡補強部材が中空本体の内部に配設された中空構造物及びその製造方法に関し、特に、中空本体の内壁面に前記発泡補強部材の板枠状の周壁部が接着結合された中空構造物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両における車体の一部を構成するサイドシルやピラーなどの車体構成部材は一般に、金属製の板状素材を中空状に形成した中空構造物として構成されている。また、車体構成部材として、その中空本体の内部に金属製または樹脂製の補強部材を発泡接着剤によって取り付けたものも知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、ピラーなどの金属製の中空本体の内部に樹脂製の補強部材を配設し、該補強部材に予め取り付けた発泡接着剤を焼付け塗装時の熱により発泡させて膨張させることによって、該発泡接着剤を介して補強部材を中空本体に結合させるようにした構成が開示されている。このように、補強部材を樹脂製とすれば、金属製の補強部材を用いる場合に比べて重量の増加を抑制することができる。
【0004】
しかしながら、近年ますます高まる燃費向上の要請に応える観点から、補強部材により中空構造物を補強する場合、該補強部材の重量を一層低減して、車体全体の重量低減を図ることが求められる。
【0005】
そこで、少なくとも一部が発泡成形された樹脂からなる発泡補強部材を用いることで、補強効果を良好に維持しつつ、重量の低減を図ることが考えられる。
【0006】
図8は、所謂コアバック法(例えば特許文献2参照)により、発泡補強部材の板枠状の周壁部を発泡成形する成形型の一例として考えられる成形型120を示している。
【0007】
図8に示す成形型120は、発泡補強部材110の周壁部116を外側から成形する複数の可動コア121〜124と、各可動コア121〜124を挟むようにして設けられた複数の固定コア125〜128と、前記周壁部116を内側から成形する内側コア169とを有する。成形の際は、先ず、この成形型120のキャビティS1に発泡性樹脂材料P1を射出して充填した後に、前記可動コア121〜124をそれぞれキャビティS1の容積を拡大するように成形型120の外側に向かって移動(コアバック)させる。これにより、キャビティS1内の樹脂は、コアバックにより発泡が促進されながら成形される。
【0008】
図9に示すように、上記の成形型120により発泡成形された発泡補強部材110は、発泡接着剤105を介して例えばサイドシル等の中空構造物100の中空本体107に接着結合される。具体的には、先ず、発泡補強部材110の外周面に発泡接着剤105を二色成形または塗布等により層状に設けた後、この発泡補強部材110を中空本体107の内部に配設する。この時点において、中空構造物100の内周面と発泡接着剤105との間には隙間が生じた状態となるが、その後に行う塗装乾燥時の熱により、発泡接着剤105が発泡しながら膨張し、これにより、中空本体107の内周面と発泡補強部材110の外周面との間に発泡接着剤105が充填されて、この発泡接着剤105を介して、補強部材110が中空本体107に接着結合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−191949号公報
【特許文献2】特開2009−241537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、例えば図8に示す成形型120を用いて全体的に発泡成形した周壁部116は、同じ厚みを有する非発泡の周壁部に比べて、強度的に不利になる。
【0011】
また、図8に示す成形型120を用いる場合、図10に示すように、各可動コア121〜124のコアバックに対して該可動コア121〜124の成形面の縁部に対向する樹脂部分が追従し難く形状ダレFが生じやすいという理由に加えて、そもそも成形型120の構造上の制約により発泡補強部材100の稜線部141〜144の外側に固定コア125〜128を設けざるを得ないという理由により、発泡補強部材110の稜線部141〜144については、板厚を拡大するように発泡成形できず、板厚の拡大による強度向上を図れない。そのため、この場合、補強に関して特に重要な中空本体107の稜線部151〜154を発泡補強部材110により効果的に補強することができない。なお、図示された二点鎖線L2は、キャビティS1に充填された後であって発泡成形される前の状態における周壁部116の外周面を示す。
【0012】
さらに、この場合、図11(a)に示すように、発泡補強部材110の前記稜線部141〜144と中空本体107の稜線部151〜154との隙間が他の隙間部分に比べて著しく大きくなってしまう。よって、発泡補強部材110の外周面に一定の厚みで形成された各接着剤部分105a,105b,105cを発泡させたとき、図11(b)に示すように、発泡補強部材110の稜線部141〜144以外の部分を覆う接着剤部分105a’,105c’は均一な厚みを維持しながら適切な倍率で発泡するのに対して、稜線部141〜144を覆う接着剤部分105b’は他の部分に比べて厚みを拡大しながら過剰に高い倍率で発泡してしまう。そのため、中空本体107の稜線部151〜154に対する発泡補強部材110の接着強度が弱くなり、中空本体107の稜線部151〜154を効果的に補強することができないという問題もある。
【0013】
そこで、本発明は、中空本体の内部に配設される補強部材として発泡補強部材を用いることで中空構造物の軽量化を図りつつ、この発泡補強部材により中空本体の特に稜線部を効果的に補強することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するため、本発明に係る発泡補強部材が配設された中空構造物及びその製造方法は、次のように構成したことを特徴とする。
【0015】
まず、本願の請求項1に記載の発明に係る発泡補強部材が配設された中空構造物は、
中空本体の内部に発泡補強部材が配設された中空構造物であって、
前記発泡補強部材は、全周に亘って略一定の厚みを有し且つ少なくとも一部が発泡成形された板枠状の周壁部を備え、
該周壁部は、前記中空本体の内壁面に接着剤を介して接着結合され、
前記周壁部における前記中空本体の稜線部への接着部分は、前記周壁部における残りの部分に比べて発泡倍率が低い樹脂部分からなることを特徴とする。
【0016】
なお、本明細書において、上記の「前記周壁部における残りの部分に比べて発泡倍率が低い」状態には、全く発泡していない状態も含まれるものとする。
【0017】
次に、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、
前記周壁部は、発泡接着剤を介して前記中空本体の内壁面に接着結合され、
前記周壁部と前記中空本体の内壁面との間隔は全周に亘って略一定であることを特徴とする。
【0018】
さらに、請求項3に記載の発明は、前記請求項1または請求項2に記載の発明において、
前記中空構造物は、車体の一部を構成する車体構成部材であることを特徴とする。
【0019】
また、請求項4に記載の発明に係る発泡補強部材が配設された中空構造物の製造方法は、
中空本体の内部に発泡補強部材が配設された中空構造物の製造方法であって、
全周に亘って略一定の厚みを有する周壁部を備え、且つ、発泡性樹脂材料が成形型のキャビティ内に充填された後に該成形型の少なくとも一部がキャビティの容積を拡大する方向にコアバックされることで前記周壁部における前記中空本体の稜線部の内壁面に対する接着部分が残りの部分に比べて発泡倍率が低くなるように発泡成形された発泡補強部材を準備する準備工程と、
該準備工程の後、前記発泡補強部材の前記周壁部において前記発泡倍率が低い部分を、前記中空本体の内壁面に接着剤を介して接着結合する接着工程と、を有することを特徴とする。
【0020】
さらに、請求項5に記載の発明は、前記請求項4に記載の発明において、
前記準備工程の前に、前記発泡補強部材を成形する成形工程を有し、
該成形工程では、前記稜線部の内壁面に対する前記発泡補強部材の前記周壁部の接着部分を成形する複数の固定型と、隣り合う該固定型間に挟まれて配設されるとともに前記周壁部の残りの部分を成形する複数の可動型とを備えた成形型を用いて、該成形型のキャビティに発泡性樹脂材料を充填した後、前記キャビティの容積を拡大する方向に前記可動型をコアバックすることで前記残りの部分を発泡させながら、前記発泡補強部材を成形することを特徴とする。
【0021】
さらにまた、請求項6に記載の発明は、前記請求項4または請求項5に記載の発明において、
前記接着工程では、前記発泡補強部材の周壁部を、前記中空本体の内壁面に対して全周に亘って略一定の間隔を空けて対向配置し、前記周壁部と前記中空本体の内壁面との間に発泡接着剤を配設した後、該発泡接着剤を発泡させ、該発泡接着剤を介して前記周壁部を前記中空本体に接着結合することを特徴とする。
【0022】
加えて、請求項7に記載の発明は、前記請求項4から請求項6のいずれか1項に記載の発明において、
前記中空構造物は、車体の一部を構成する車体構成部材であり、
前記接着工程では、車体の塗装乾燥時の熱によって前記発泡接着剤を発泡させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に記載の発明に係る発泡補強部材が配設された中空構造物では、発泡補強部材の周壁部における中空本体の稜線部への接着部分が、前記周壁部における残りの部分に比べて発泡倍率が低い樹脂部分からなるため、この発泡倍率の低さにより高強度が維持された部分を中空本体の稜線部に接着結合することにより、この稜線部を効果的に補強することができるとともに、前記周壁部における残りの部分を比較的高い発泡倍率で発泡成形することで、発泡補強部材の重量を低減することができ、中空構造物全体の軽量化に貢献することができる。
【0024】
また、請求項2に記載の発明によれば、発泡補強部材の周壁部と中空本体の内壁面との間隔が全周に亘って略一定であるため、この隙間に一定の厚みで層状に設けた発泡接着剤を発泡、膨張させる際、この発泡接着剤の発泡倍率を全周に亘って均一にすることができる。そのため、中空本体の稜線部の内壁面に対する発泡補強部材の接着部分において、適切な倍率で発泡した発泡接着剤により高い接着強度が得られるため、この稜線部を一層効果的に補強することができる。
【0025】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、中空構造物は、車体の一部を構成する車体構成部材であることにより、車体の重量を抑制しつつ車体の剛性を向上させることができ、前記効果を具体的に実現することができる。
【0026】
また、請求項4に記載の発明に係る発泡補強部材が配設された中空構造物の製造方法によれば、前記発泡補強部材の周壁部における中空本体の稜線部への接着部分が、前記周壁部における残りの部分に比べて発泡倍率が低い樹脂部分からなるため、前記周壁部において発泡倍率が比較的低く高強度が維持された部分を中空本体の稜線部に接着結合することにより、この稜線部を効果的に補強することができるとともに、前記周壁部における残りの部分が比較的高い発泡倍率で発泡成形されていることで、発泡補強部材の重量を低減することができ、中空構造物全体の軽量化に貢献することができる。
【0027】
また、請求項5に記載の発明によれば、発泡補強部材を成形する際、該発泡補強部材の周壁部における中空本体の稜線部の内壁面への接着部分以外の部分について、可動型のコアバックにより発泡成形することで発泡補強部材を軽量化することができる。また、前記周壁部における中空本体の稜線部の内壁面に対する接着部分については、固定型により確実に所望の形状および板厚となるように成形されるため、当該接着部分の支持強度を高めて、中空本体の稜線部を一層効果的に補強することができる。
【0028】
さらに、請求項6に記載の発明によれば、発泡補強部材の周壁部を、全周に亘って略一定の厚みとなるように中空本体の内壁面に対向配置するため、この隙間に一定の厚みで層状に設けた発泡接着剤を発泡、膨張させる際、この発泡接着剤の発泡倍率を全周に亘って均一にすることができる。そのため、中空本体の稜線部の内壁面に対する発泡補強部材の接着部分において、適切な倍率で発泡した発泡接着剤により高い接着強度が得られるため、この稜線部を一層効果的に補強することができる。
【0029】
さらにまた、請求項7に記載の発明によれば、前記中空構造物は、車体の一部を構成する車体構成部材であり、発泡接着剤の発泡を、車体の塗装乾燥時の熱によって行うことによって、発泡接着剤を発泡させるための工程を別途設ける必要がなく、車体の製造時に一般に施される塗装乾燥時に発泡接着剤を発泡させることができるので、既存の製造工程を利用することができ、前記効果をより有効に奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係る発泡補強部材が配設された中空構造物を適用したサイドシルを示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る発泡補強部材を示す斜視図である。
【図3】図1におけるY3a−Y3a線に沿ったサイドシルの断面図である。
【図4】図1におけるY3b−Y3b線に沿ったサイドシルの断面図である。
【図5】発泡補強部材の外周面に設けられた発泡接着剤が発泡する前の状態におけるサイドシルのY3a−Y3a線断面図である。
【図6】図2に示す発泡補強部材を成形する成形型のコアバック前の状態を示す断面図である。
【図7】図6に示す成形型のコアバック後の状態を示す断面図である。
【図8】発泡補強部材の板枠状の周壁部を発泡成形する成形型の従来例を示す断面図である。
【図9】図8に示す成形型で成形された発泡補強部材が発泡接着剤を介して中空本体の内壁面に接着結合された中空構造物を示す断面図である。
【図10】図8のA部に関するコアバック後の状態を示す拡大図である。
【図11】図9のB部に関する発泡接着剤の発泡前後の状態を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、「上」、「下」、「右」、「左」及びそれらの用語を含む別の用語など特定の方向を意味する用語を使用するが、それらの使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が限定されるものではない。
【0032】
図1は、本発明の実施形態に係る発泡補強部材が配設された中空構造物を適用したサイドシルを示す斜視図であり、図1では、センタピラーとの結合部を含むサイドシルを示している。なお、図1では、サイドシルの内部に配設された補強部材を明瞭に図示するために、サイドシルを構成するサイドシルインナ及びサイドシルアウタと、センタピラーを構成するセンタピラーインナ及びセンタピラーアウタとを二点鎖線で示し、これを透過状態で示している。
【0033】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る発泡補強部材が配設された中空構造物を適用したサイドシル10は、車体の一部を構成する車体構成部材であり、車体下部において車体前後方向に延びるように配設された中空本体17を備え、該中空本体17に車体上下方向に延びるセンタピラー20が結合されている。また、中空本体17の内部には、センタピラー20との結合部25の近傍において該結合部25の車体前方側及び車体後方側にそれぞれサイドシル10を補強するための補強部材30及び40が配設されている。
【0034】
中空本体17は、車体の内面の一部を構成して車体前後方向に延びるサイドシルインナ11と、車体の外面の一部を構成して車体前後方向に延びるサイドシルアウタ12とによって中空状に形成されている。
【0035】
具体的には、サイドシルインナ11は、略水平方向に延びる上面部11aと、上面部11aに対向して上面部11aの下方に位置し、略水平方向に延びる下面部11bと、下面部11bから上面部11aまで略垂直方向に延びる側面部11cとを備え、車幅方向内方側(図1では左側である車内側)に側面部11cが膨出するようにして配設されている。
【0036】
サイドシルインナ11にはまた、上面部11aの車幅方向外方端部に上面部11aから上方へ延びる上フランジ部が形成されるとともに、下面部11bの車幅方向外方端部に下面部11bから下方へ延びる下フランジ部が形成され、サイドシルインナ11は、断面略ハット状に形成されている。
【0037】
一方、サイドシルアウタ12は、略水平方向に延びる上面部12aと、上面部12aに対向して上面部12aの下方に位置し、略水平方向に延びる下面部12bと、下面部12bから上面部12aまで略垂直方向に延びる側面部12cとを備え、車幅方向外方側(図1では右側である車外側)に側面部12cが膨出するようにして配設されている。
【0038】
サイドシルアウタ12もまた、上面部12aの車幅方向内方端部に上面部12aから上方へ延びる上フランジ部が形成されるとともに、下面部12bの車幅方向内方端部に下方へ延びる下フランジ部が形成され、サイドシルアウタ12は、断面ハット状に形成されている。
【0039】
そして、サイドシルインナ11とサイドシルアウタ12とは、上フランジ部及び下フランジ部同士が接合され、これによって中空状の中空本体17が形成されている。なお、サイドシルインナ11とサイドシルアウタ12とはそれぞれ、鋼板などの金属製の板状素材をプレス加工して形成され、サイドシルインナ11とサイドシルアウタ12とは、例えばスポット溶接などを用いて接合される。
【0040】
このようにして形成されるサイドシル10には、サイドシルインナ11の上面部11a及び側面部11cによってそれらの間に稜線部11dが形成され、サイドシルインナ11の下面部11b及び側面部11cによってそれらの間に稜線部11eが形成され、サイドシルアウタ12の上面部12a及び側面部12cによってそれらの間に稜線部12dが形成され、サイドシルアウタ12の下面部12b及び側面部12cによってそれらの間に稜線部12eが形成され、中空本体17は略矩形閉断面状に形成されている。
【0041】
なお、以下では、適宜、サイドシルインナ11の側面部11cを中空本体17の車幅方向内方側の側面部である内側面部11cとして表し、サイドシルアウタ12の側面部12cを中空本体17の車幅方向外方側の側面部である外側面部12cとして表し、サイドシルインナ11の上面部11a、サイドシルアウタ12の上面部12aを中空本体17の上面部11a,12aとして表し、サイドシルインナ11の下面部11b、サイドシルアウタ12下面部12bを中空本体17の下面部11b,12bとして表す。
【0042】
また、サイドシル10に結合されるセンタピラー20は、車体の内面の一部を構成して車体上下方向に延びるセンタピラーインナ21と、車体の外面の一部を構成して車体上下方向に延びるセンタピラーアウタ22とによって中空状に形成され、サイドシル10との結合部25において、センタピラーインナ21がサイドシルインナ11と一体的に形成されるとともにセンタピラーアウタ22がサイドシルアウタ12と一体的に形成されている。
【0043】
図2は、本発明の実施形態に係る発泡補強部材を示す斜視図、図3は、図1におけるY3a−Y3a線に沿ったサイドシルの断面図、図4は、Y3b−Y3b線に沿ったサイドシルの断面図である。なお、図2では、発泡補強部材の周壁部の発泡前の状態を二点鎖線L12で示している。
【0044】
サイドシル10において、センタピラー20との結合部25よりも車体前方側に配設される発泡補強部材30と、前記結合部25よりも車体後方側に配設される発泡補強部材40とは同様に構成されているため、以下では、車体前方側の補強部材30についてのみ説明する。
【0045】
図2及び図3に示すように、中空本体17の内部に配設される発泡補強部材30は、中空本体17を横切る方向に延び、中空本体17の内部を車体前後方向に区切る板状の隔壁部35と、該隔壁部35に結合され該隔壁部35の周縁を覆う枠板状の周壁部36とを備えている。
【0046】
図3に示すように、隔壁部35は、中空本体17の内面形状に対応した外形を有し、中空本体17の長手方向に直角な面に沿って形成されている。ただし、本発明において、発泡補強部材30には必ずしも隔壁部35を設ける必要はない。
【0047】
周壁部36もまた、中空本体17の内面形状に対応した外形を有し、中空本体17の上面部11a,12a、下面部11b,12b、内側面部11c及び外側面部12cにそれぞれ発泡接着剤15を介して接着結合される接着面部である上面部31、下面部32、内側面部33及び外側面部34を備え、これら相互に隣接する接着面部間にそれぞれ稜線部41〜44が形成されている。また、周壁部36は、全周に亘って略一定の厚みを有するように形成されている。
【0048】
また、発泡補強部材30は、周壁部36において互いに対向する内壁面同士に跨る複数のリブ37を有する。これらのリブ37は、隔壁部35を中空本体17の長手方向に貫通して設けられている。
【0049】
発泡補強部材30は、図6及び図7に示す成形型60を用いて射出成形されるが、その具体的な成形方法については後述する。
【0050】
図3及び図4に示すように、発泡補強部材30の周壁部36は、中空本体17の内壁面に対して略平行に配置された状態、具体的には、周壁部36を構成する上面部31、下面部32及び両側の側面部33,34がそれぞれ中空本体17の上面部11a,12a、下面部11b,12b及び両側の側面部11c,12cに対して所定の間隔を空けて略平行に配置された状態で、中空本体17に接着結合されている。すなわち、この結合状態において、発泡補強部材30の周壁部36の各稜線部41〜44は、中空本体17の各稜線部11d,11e,12d,12eの内壁面に対して所定の間隔を空けて対向配置されている。
【0051】
続いて、上記のように構成される発泡補強部材30が配設されたサイドシル10を製造する方法について説明する。
【0052】
先ず、別々に所定形状に成形した発泡補強部材30と中空本体17とを準備する。前述したように、中空本体17は、サイドシルインナ11とサイドシルアウタ12とがそれぞれ、鋼板などの金属製の板状素材をプレス加工して所定形状に成形され、発泡補強部材30は、成形型のキャビティに発泡性樹脂材料を射出して充填した後、該成形型の少なくとも一部をキャビティの容積を拡大する方向に該成形型の外側に向かってコアバックさせることで成形される。発泡補強部材30を成形する方法については後に詳細に説明する。
【0053】
次に、発泡補強部材30の周壁部36を中空本体17の内壁面に接着剤を介して接着結合する。具体的には、先ず、発泡補強部材30の周壁部36の外周面に発泡接着剤15を層状に設ける。本実施形態では、図5に示すように、周壁部36の全周に亘って一定の厚みで発泡接着剤15を設けるようにするが、発泡接着剤15は、周壁部36における中空本体17の稜線部11d,11e,12d,12eへの接着部分、すなわち周壁部36の稜線部41〜44を挟んだ両側近傍部間に亘る連続部分の外周面に連続的に設けるようにすれば、必ずしも全周に亘って設けなくてもよい。
【0054】
発泡接着剤15は、発泡補強部材30と同様に射出成形によってシート状に成形することができる。例えば、発泡補強部材30を成形した後に、別の成形装置の成形型に発泡補強部材30をインサートし、発泡補強部材30の外周にシート状の発泡接着剤15を射出成形によって成形することができる。また、発泡補強部材30を成形するための成形型において発泡補強部材30を成形した後に該成形型を所定厚み分だけ開き、これにより生じる隙間に発泡接着剤15を射出充填して成形する、所謂二重成形(二色成形)によって発泡接着剤15をシート状に設けることも可能である。
【0055】
なお、発泡接着剤としては、エポキシ樹脂やウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることができ、該樹脂にフィラーとして無機系のガラス繊維、炭酸カルシウム、タルク、クレーなど、有機系フィラーのパルプ繊維や木粉などを含有させるようにしてもよい。例えば、発泡接着剤として、商品名:L−5520(エルアンドエル・プロダクツ社製)を用いることができる。また、発泡接着剤に用いる発泡剤としては、超臨界状態にした二酸化炭素又は窒素等の不活性ガスを用いることができ、その他の物理発泡剤、炭酸水素ナトリウム等の化学発泡剤、或いは、気化等により膨張可能な膨張剤と該膨張剤を内包する球殻状のシェルとからなる熱膨張性マイクロカプセルを使用することも可能である。
【0056】
続いて、この発泡補強部材30を中空本体17の内部の所定位置に配設する。このとき、発泡補強部材30の周壁部36が中空本体17の内壁面に対して全周に亘って略一定の間隔を空けて対向配置されるように、発泡補強部材30を配設する。なお、このとき、このような発泡補強部材30の配置状態を維持するために、図示しないクリップ等を用いて、発泡補強部材30を中空本体17に対して仮止めしておく。このようにして発泡補強部材30を中空本体17の内部に配設した状態において、発泡補強部材30の周壁部36と中空本体17の内壁面との間に発泡接着剤15が配設されることとなる。
【0057】
その後、サイドシル10を備えた車体に防錆処理として電着塗装が施され、サイドシル10では、この車体の電着塗装の乾燥時の熱によって発泡接着剤15が発泡して、この発泡接着剤15が発泡補強部材30の周壁部36と中空本体17の内壁面との隙間を埋めるように膨張し、これにより、発泡補強部材30と中空本体17とが発泡接着剤15を介して接着結合されて、発泡補強部材30が配設されたサイドシル10が得られる。なお、電着塗装の乾燥は、例えば150〜170度の温度に保持することにより行われる。
【0058】
以下、発泡補強部材30を成形する方法について具体的に説明する。
【0059】
図6に示すように、発泡補強部材30の成形に用いる成形型60は、発泡補強部材30の周壁部36における稜線部41〜44を挟んだ両側近傍部間に亘る連続部分を外側から成形する4つの固定コア61〜64と、隣り合う固定コア61〜64間に挟まれて配設されるとともに周壁部36における前記連続部分を除いた残りの部分、すなわち上面部31、下面部32、内側面部33及び外側面部34の各中央部55〜58を外側から成形する4つの可動コア65〜68とを有する。また、成形型60は、周壁部36全体を内側から成形するとともに複数のリブ37を成形する複数の内側コア69を更に有する。発泡補強部材30の周壁部36を成形する内側コア69の成形面と、該成形面に対向する各固定コア61〜64の成形面とは、周壁部36の板厚を規定する間隔を空けて配置されている。一方、各可動コア65〜68は、これに対向する内側コア69の成形面に対して、近接または離間する方向に移動可能に設けられているが、成形型60を型締めした状態においては、周壁部36の板厚よりも小さな間隔を空けて配置されている。
【0060】
成形の際は、先ず、成形型60を型締めした状態で、図示しない射出装置により発泡性樹脂材料Pを成形型60のキャビティSに射出して充填する。型締めした状態の成形型60において、可動コア65〜68の成形面とこれに対向する内側コア69の成形面との間隔は、固定コア61〜64の成形面とこれに対向する内側コア69の成形面との間隔に等しくなっており、これにより、発泡性樹脂材料Pの射出充填完了時において、周壁部36を構成する発泡性樹脂材料Pの板厚は全周に亘って略等しくなるようになっている。
【0061】
なお、発泡性樹脂材料Pに用いる樹脂としては、PP樹脂、PA6樹脂、PA66樹脂、MXD樹脂などの樹脂を用いることができ、該樹脂に、フィラーとしてガラス繊維、炭素繊維、樽区などを含有させるようにしてもよい。より具体的には、例えば、30重量%ガラス繊維を含有させたポリアミド6樹脂である商品名:T−402(東洋紡績株式会社製)を用いることができる。また、発泡性樹脂材料Pに用いる発泡剤としては、超臨界状態にした二酸化炭素又は窒素等の不活性ガスを用いることができ、その他の物理発泡剤、炭酸水素ナトリウム等の化学発泡剤、或いは、気化等により膨張可能な膨張剤と該膨張剤を内包する球殻状のシェルとからなる熱膨張性マイクロカプセルを使用することも可能である。
【0062】
次に、図7に示すように、可動コア65〜68を、キャビティSの容積を拡大するように成形型60の外側に向かってコアバックさせる。これにより、キャビティS内の樹脂材料Pは、発泡補強部材30の周壁部36における前記中央部55〜58を構成する部分において、発泡が促進されながら可動コア65〜68のコアバックに追従して膨張する。このようにして、発泡補強部材30の周壁部36の前記中央部55〜58は、稜線部41〜44を挟んだ両側近傍部間に亘る連続部分と略同じ厚みになるまで板厚を径方向外側へ拡大しながら発泡成形される。
【0063】
このようにして成形された発泡補強部材30において、周壁部36の前記中央部55〜58は、稜線部41〜44を挟んだ両側近傍部間に亘る連続部分に比べて発泡倍率が高い高発泡部Hとなるのに対して、稜線部41〜44を挟んだ両側近傍部間に亘る連続部分は、前記中央部55〜58に比べて発泡倍率が低い低発泡部Lとなる。この低発泡部Lでは、樹脂材料Pに含まれる発泡剤により僅かながら発泡するが、その発泡倍率は高発泡部Hに比べて著しく低いため、低発泡部Lにおいては、非発泡で成形する場合と同様の高い支持強度を得ることができる。そして、発泡補強部材30は、高い支持強度を有する低発泡部Lにおいて中空本体17の稜線部11d,11e,12d,12eに接着されるため、補強面において特に重要なこの稜線部11d,11e,12d,12eを効果的に補強することができる。
【0064】
また、発泡補強部材30の周壁部36は、高発泡部Hが設けられることで軽量化が図られているため、サイドシル10、ひいては車体全体の軽量化に貢献することができる。
【0065】
さらに、周壁部36の稜線部41〜44は、固定コア61〜64により成形された低発泡部Lであるため、この稜線部41〜44において、所謂コアバック法により発泡成形される場合に生じるような形状ダレを防止して、所望の板厚を確実に確保することができる。したがって、図5に示すように、中空本体17の内部に発泡補強部材30を配設したとき、発泡補強部材30の周壁部36と中空本体17の内壁面との隙間が所望の間隔よりも大きく拡がることを防止でき、これにより、この隙間に一定の厚みで層状に設けた発泡接着剤15を発泡、膨張させる際、この発泡接着剤15の発泡倍率が過剰に高くなることを防止できる。そのため、中空本体17の稜線部11d,11e,12d,12eの内壁面に対する発泡補強部材30の接着部分において、適切な倍率で発泡した発泡接着剤15により高い接着強度が得られるため、この稜線部11d,11e,12d,12eを一層効果的に補強することができる。
【0066】
なお、発泡補強部材30の成形に関して、上記のように周壁部36がコアバック法により発泡成形されているが、隔壁部35についても同様にコアバック法を用いて発泡成形することで、該隔壁部35の板厚を厚くすることが可能である。この場合、重量の増加を抑制しつつ発泡補強部材の強度及び剛性を向上させることができ、補強部材の補強効果をさらに効果的に高めることができる。
【0067】
以上、上述の実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0068】
例えば、上述の実施形態では、中空構造物としてのサイドシル10に本発明を適用する場合について説明したが、例えばセンタピラーなど、サイドシル以外の車体構成部材、又は、中空本体の内部に発泡補強部材が配設された車体構成部材以外の中空構造物にも等しく適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上のように、本発明によれば、中空本体の内部に配設される補強部材として発泡補強部材を用いることで中空構造物の軽量化を図りつつ、この発泡補強部材により中空本体の特に稜線部を効果的に補強することができるため、例えばサイドシルなどの車体構成部材の製造技術分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0070】
10,100:サイドシル、11d,11e,12d,12e:中空本体の稜線部、15,105:発泡接着剤、17:中空本体、30,40,110:発泡補強部材、36,116:発泡補強部材の周壁部、41〜44:発泡補強部材の稜線部、60,120:成形型、61〜64:固定コア、65〜68:可動コア、H:周壁部の高発泡部、L:周壁部の低発泡部、P,P1:発泡性樹脂材料、S,S1:キャビティ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空本体の内部に発泡補強部材が配設された中空構造物であって、
前記発泡補強部材は、全周に亘って略一定の厚みを有し且つ少なくとも一部が発泡成形された板枠状の周壁部を備え、
該周壁部は、前記中空本体の内壁面に接着剤を介して接着結合され、
前記周壁部における前記中空本体の稜線部への接着部分は、前記周壁部における残りの部分に比べて発泡倍率が低い樹脂部分からなることを特徴とする発泡補強部材が配設された中空構造物。
【請求項2】
前記周壁部は、発泡接着剤を介して前記中空本体の内壁面に接着結合され、
前記周壁部と前記中空本体の内壁面との間隔は全周に亘って略一定であることを特徴とする請求項1に記載の発泡補強部材が配設された中空構造物。
【請求項3】
前記中空構造物は、車体の一部を構成する車体構成部材であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の発泡補強部材が配設された中空構造物。
【請求項4】
中空本体の内部に発泡補強部材が配設された中空構造物の製造方法であって、
全周に亘って略一定の厚みを有する周壁部を備え、且つ、発泡性樹脂材料が成形型のキャビティ内に充填された後に該成形型の少なくとも一部がキャビティの容積を拡大する方向にコアバックされることで前記周壁部における前記中空本体の稜線部の内壁面に対する接着部分が残りの部分に比べて発泡倍率が低くなるように発泡成形された発泡補強部材を準備する準備工程と、
該準備工程の後、前記発泡補強部材の前記周壁部において前記発泡倍率が低い部分を、前記中空本体の内壁面に接着剤を介して接着結合する接着工程と、を有することを特徴とする発泡補強部材が配設された中空構造物の製造方法。
【請求項5】
前記準備工程の前に、前記発泡補強部材を成形する成形工程を有し、
該成形工程では、前記稜線部の内壁面に対する前記発泡補強部材の前記周壁部の接着部分を成形する複数の固定型と、隣り合う該固定型間に挟まれて配設されるとともに前記周壁部の残りの部分を成形する複数の可動型とを備えた成形型を用いて、該成形型のキャビティに発泡性樹脂材料を充填した後、前記キャビティの容積を拡大する方向に前記可動型をコアバックすることで前記残りの部分を発泡させながら、前記発泡補強部材を成形することを特徴とする請求項4に記載の発泡補強部材が配設された中空構造物の製造方法。
【請求項6】
前記接着工程では、前記発泡補強部材の周壁部を、前記中空本体の内壁面に対して全周に亘って略一定の間隔を空けて対向配置し、前記周壁部と前記中空本体の内壁面との間に発泡接着剤を配設した後、該発泡接着剤を発泡させ、該発泡接着剤を介して前記周壁部を前記中空本体に接着結合することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の発泡補強部材が配設された中空構造物の製造方法。
【請求項7】
前記中空構造物は、車体の一部を構成する車体構成部材であり、
前記接着工程では、車体の塗装乾燥時の熱によって前記発泡接着剤を発泡させることを特徴とする請求項4から請求項6のいずれか1項に記載の発泡補強部材が配設された中空構造物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−136175(P2012−136175A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290664(P2010−290664)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】